(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】有機性廃棄物処理装置、有機性廃棄物処理方法及び有機性廃棄物利用設備
(51)【国際特許分類】
B09B 3/65 20220101AFI20240122BHJP
B09B 101/70 20220101ALN20240122BHJP
【FI】
B09B3/65
B09B101:70
(21)【出願番号】P 2020016886
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2022-12-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和1年7月31日 http://jie-ronbun.com/login.php https://www.jstage.jst.go.jp/article/jietaikaiyoushi/28/0/28_118/_article/-char/ja にて公開 令和1年12月5日、6日、7日 エコプロ2019(主催:一般社団法人産業環境管理協会、日本経済新聞社)における環境省「COOL CHOICE」展示ブースにて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、環境省、CO2排出削減対策強化誘導型技術開発・実証事業委託業務、産業技術力強化法第17条第1項の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奈良 知幸
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐二
(72)【発明者】
【氏名】川▲尻▼ 聡
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利崇
(72)【発明者】
【氏名】岩本 宏
(72)【発明者】
【氏名】川島 哲文
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-279411(JP,A)
【文献】特開2018-008204(JP,A)
【文献】特開2017-209663(JP,A)
【文献】特開2008-253870(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0231877(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/65
B09B 3/60
C02F 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物に付設した有機性廃棄物処理装置であって、
前記建築物から発生し油分を含む第1有機性廃棄物、前記建築物から発生し前記第1有機性廃棄物よりも油分濃度が低い第2有機性廃棄物、及び、前記建築物の外部から供給される副資材を原料にしてメタン発酵を行うメタン発酵槽と、
前記メタン発酵槽内の原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比
の値を0.4以下に調整する調整部と、を備
え、
前記第1有機性廃棄物が厨房排水に由来する有機性廃棄物を含み、
前記第2有機性廃棄物が厨芥又は厨芥に由来する有機性廃棄物を含む、
有機性廃棄物処理装置。
【請求項2】
建築物に付設した有機性廃棄物処理装置であって、
前記建築物から発生し油分を含む第1有機性廃棄物、前記建築物から発生し前記第1有機性廃棄物よりも油分濃度が低い第2有機性廃棄物、及び、
前記第2有機性廃棄物よりも油分濃度が低い有機性廃棄物であって前記建築物の外部から供給される副資材を原料にしてメタン発酵を行うメタン発酵槽と、
前記メタン発酵槽内の原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比を調整する調整部と、を備
え、
前記第1有機性廃棄物が厨房排水に由来する有機性廃棄物を含み、
前記第2有機性廃棄物が厨芥又は厨芥に由来する有機性廃棄物を含む、
有機性廃棄物処理装置。
【請求項3】
前記第1有機性廃棄物と前記第2有機性廃棄物とを混合する混合槽をさらに備えた、請求項1
又は請求項2に記載の有機性廃棄物処理装置。
【請求項4】
前記調整部は、前記メタン発酵槽への前記副資材の供給量を調整することによって、前記メタン発酵槽内の原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比を調整する調整部である、請求項1
~請求項3のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理装置。
【請求項5】
前記調整部は、前記メタン発酵槽内の原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比の値を0.2~0.4の範囲に調整する調整部である、請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理装置。
【請求項6】
建築物から発生する有機性廃棄物を処理する方法であって、
前記建築物から発生し油分を含む第1有機性廃棄物、前記建築物から発生し前記第1有機性廃棄物よりも油分濃度が低い第2有機性廃棄物、及び、前記建築物の外部から供給される副資材を原料にしてメタン発酵を行うメタン発酵工程と、
前記メタン発酵工程の原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比
の値を0.4以下に調整する調整工程と、を含
み、
前記第1有機性廃棄物が厨房排水に由来する有機性廃棄物を含み、
前記第2有機性廃棄物が厨芥又は厨芥に由来する有機性廃棄物を含む、
有機性廃棄物処理方法。
【請求項7】
建築物から発生する有機性廃棄物を処理する方法であって、
前記建築物から発生し油分を含む第1有機性廃棄物、前記建築物から発生し前記第1有機性廃棄物よりも油分濃度が低い第2有機性廃棄物、及び、
前記第2有機性廃棄物よりも油分濃度が低い有機性廃棄物であって前記建築物の外部から供給される副資材を原料にしてメタン発酵を行うメタン発酵工程と、
前記メタン発酵工程の原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比を調整する調整工程と、を含
み、
前記第1有機性廃棄物が厨房排水に由来する有機性廃棄物を含み、
前記第2有機性廃棄物が厨芥又は厨芥に由来する有機性廃棄物を含む、
有機性廃棄物処理方法。
【請求項8】
建築物に付設した有機性廃棄物利用設備であって、
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理装置と、
前記有機性廃棄物処理装置のメタン発酵槽で発生するバイオガスを利用するバイオガス利用装置と、
を備えた、有機性廃棄物利用設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機性廃棄物処理装置、有機性廃棄物処理方法及び有機性廃棄物利用設備に関する。
【背景技術】
【0002】
有機性廃棄物の処理方法として、微生物又は酵素によって有機物を消化又は発酵させる処理方法がある。
例えば、特許文献1には、流動性のある有機性廃棄物及び/又は油脂を含有した有機性廃水を温度90~110℃で加熱処理して油脂などを加水分解したのち、温度30~60℃で嫌気性消化処理する処理方法が開示されている。
例えば、特許文献2には、有機性廃棄物スラリーを油脂の分散剤及び嫌気性微生物の栄養剤として活用して分散状油脂混合スラリーを作り、分散状油脂混合スラリー中に分散した油脂をメタン発酵槽内で嫌気性微生物により分解する処理方法が開示されている。
例えば、特許文献3には、油脂を油脂分解酵素と作用させて分解する前処理を行い、前処理した排水又は廃棄物を嫌気性処理する浄化方法が開示されている。
例えば、特許文献4には、有機性廃棄物をメタン生成菌で処理する生物処理槽と、生物処理槽内の収容水を調整する調整部とを有し、生物処理槽内の収容水の物質濃度を調整する廃棄物処理装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開1998-235315号公報
【文献】特開2003-019491号公報
【文献】特許第4009069号公報
【文献】特許第6240800号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
都市部の建築物に付設する有機性廃棄物処理装置としては、発生するバイオガスを発電装置又はボイラーの燃料に利用できる観点から、メタン発酵による処理装置の有用性が高い。ただし、有機性廃棄物中の油分が過剰であるとメタン発酵が阻害されてしまうので、メタン発酵の阻害を回避するために、メタン発酵槽の上流で有機性廃棄物中の油分を一部沈殿させ、含油汚泥として建築物の外部に廃棄するか、又は、メタン発酵槽の上流で有機性廃棄物中の油分を一部分解する前処理(加熱処理又は酵素処理)を行う手段が採られている。
しかし、有機性廃棄物の利用率を上げる観点及び環境負荷を低減する観点からは、含油汚泥を建築物の外部に廃棄しないで済むことが望ましく、有機性廃棄物処理の費用を低く抑える観点からは、有機性廃棄物中の油分を一部分解する前処理はしないで済むことが望ましい。
【0005】
本開示は、上記状況のもとになされた。
本開示は、メタン発酵による有機性廃棄物処理装置及び有機性廃棄物処理方法であって、一建築物の有機性廃棄物に由来する含油汚泥を外部に廃棄することを要さず、また、一建築物の有機性廃棄物に含まれる油分の一部を分解する前処理を要しない有機性廃棄物処理装置及び有機性廃棄物処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
【0007】
[A1]建築物に付設した有機性廃棄物処理装置であって、
前記建築物から発生し油分を含む第1有機性廃棄物、前記建築物から発生し前記第1有機性廃棄物よりも油分濃度が低い第2有機性廃棄物、及び、前記建築物の外部から供給される副資材を原料にしてメタン発酵を行うメタン発酵槽と、
前記メタン発酵槽内の原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比を調整する調整部と、
を備えた、有機性廃棄物処理装置。
[A2]前記メタン発酵槽の上流に、前記第1有機性廃棄物と前記第2有機性廃棄物とを混合する混合槽をさらに備えた、[A1]に記載の有機性廃棄物処理装置。
[A3]前記調整部は、前記メタン発酵槽への前記副資材の供給量を調整することによって、前記メタン発酵槽内の原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比を調整する調整部である、[A1]又は[A2]に記載の有機性廃棄物処理装置。
[A4]前記調整部は、前記メタン発酵槽内の原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比の値を0.2~0.4の範囲に調整する調整部である、[A1]~[A3]のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理装置。
[A5]前記第1有機性廃棄物が厨房排水に由来する有機性廃棄物であり、前記第2有機性廃棄物が厨芥又は厨芥に由来する有機性廃棄物である、[A1]~[A4]のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理装置。
【0008】
[B1]建築物から発生する有機性廃棄物を処理する方法であって、
前記建築物から発生し油分を含む第1有機性廃棄物、前記建築物から発生し前記第1有機性廃棄物よりも油分濃度が低い第2有機性廃棄物、及び、前記建築物の外部から供給される副資材を原料にしてメタン発酵を行うメタン発酵工程と、
前記メタン発酵工程の原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比を調整する調整工程と、
を含む、有機性廃棄物処理方法。
[B2]前記メタン発酵工程の前に、前記第1有機性廃棄物と前記第2有機性廃棄物とを混合する混合工程をさらに含む、[B1]に記載の有機性廃棄物処理方法。
[B3]前記調整工程は、前記メタン発酵工程への前記副資材の供給量を調整することによって、前記メタン発酵工程における原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比を調整する調整工程である、[B1]又は[B2]に記載の有機性廃棄物処理方法。
[B4]前記調整工程は、前記メタン発酵工程への前記副資材の供給量を調整することによって、前記メタン発酵工程における原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比を調整する調整工程である、[B1]~[B3]のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理方法。
[B5]前記第1有機性廃棄物が厨房排水に由来する有機性廃棄物であり、前記第2有機性廃棄物が厨芥又は厨芥に由来する有機性廃棄物である、[B1]~[B4]のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理方法。
【0009】
[C1]建築物に付設した有機性廃棄物利用設備であって、
[A1]~[A5]のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理装置と、
前記有機性廃棄物処理装置のメタン発酵槽で発生するバイオガスを利用するバイオガス利用装置と、
を備えた、有機性廃棄物利用設備。
[C2]前記バイオガス利用装置が、前記バイオガスを燃料にする発電装置及び前記バイオガスを燃料にするボイラーの少なくともいずれかである、[C1]に記載の有機性廃棄物利用設備。
【0010】
[D1]建築物から発生する有機性廃棄物からバイオガスを生産し、前記建築物のエネルギー源として利用する方法であって、
[B1]~[B5]のいずれか1項に記載の有機性廃棄物処理方法と、
前記有機性廃棄物処理方法のメタン発酵工程で発生するバイオガスを利用するバイオガス利用方法と、
を含む、有機性廃棄物利用方法。
[D2]前記バイオガス利用方法が、前記バイオガスを燃料にして発電すること、及び、前記バイオガスを燃料にして水を加熱し湯又は水蒸気にすることの少なくともいずれかである、[D1]に記載の有機性廃棄物利用方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、メタン発酵による有機性廃棄物処理装置及び有機性廃棄物処理方法であって、一建築物の有機性廃棄物に由来する含油汚泥を外部に廃棄することを要さず、また、一建築物の有機性廃棄物に含まれる油分の一部を分解する前処理を要しない有機性廃棄物処理装置及び有機性廃棄物処理方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】建築物に付設する従来型の有機性廃棄物処理装置の一例の概略図である。
【
図2】本開示の有機性廃棄物処理装置の一実施形態の概略図である。
【
図3】メタン発酵の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値と、メタン発酵の消化液のVFA濃度との関係を示す散布図である。
【
図4】メタン発酵槽に投入したVS量当たりのメタン発生量を示す散布図である。
【
図5】副資材をメタン発酵槽に供給せず、メタン発酵槽へのGTスカムの投入量を調整してn-Hex濃度/強熱減量の値を制御する例A(従来型の有機性廃棄物処理装置の一例)の処理量及びメタン発生量である。
【
図6】GTスカム全量をメタン発酵槽に投入し、メタン発酵槽への副資材の供給によってn-Hex濃度/強熱減量の値を制御する例B(本開示の有機性廃棄物処理装置の一実施形態)の処理量及びメタン発生量である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、発明の実施形態を説明する。これらの説明及び実施例は実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
【0014】
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0015】
本開示において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0016】
本開示において「一建築物」とは、一まとまりの建築物を意味し、1個の構造物からなる建築物も、複数個の構造物からなる建築物も含む。一建築物としては、例えば、商業施設、飲食施設、観覧施設、娯楽施設、遊戯施設、宿泊施設、業務施設、医療施設、介護施設、これらの2以上を複合した複合施設などが挙げられる。
本開示において「建築物」というとき、一建築物、即ち、一まとまりの建築物を意味する。
【0017】
本開示において、ノルマルヘキサン抽出物質を「n-Hex」といい、ノルマルヘキサン抽出物質濃度を「n-Hex濃度」といい、ノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比を「n-Hex濃度/強熱減量」という。
【0018】
<有機性廃棄物処理装置、有機性廃棄物処理方法>
本開示の有機性廃棄物処理装置は、建築物に付設した有機性廃棄物処理装置であり、当該建築物から発生する有機性廃棄物をメタン発酵させる装置である。
【0019】
本開示の有機性廃棄物処理装置は、メタン発酵槽と、メタン発酵槽内の原料のn-Hex濃度と強熱減量との比を調整する調整部と、を少なくとも備える。
本開示において、n-Hex濃度及び強熱減量の単位は「mg/kg」であり、n-Hex濃度と強熱減量との比は、強熱減量を単位量としたn-Hex濃度の大きさを表し、n-Hex濃度/強熱減量である。
【0020】
本開示の有機性廃棄物処理装置は、メタン発酵槽において、下記の3物質の混合物を原料にしてメタン発酵を行う。
建築物から発生する、油分を含む第1有機性廃棄物。
建築物から発生する、第1有機性廃棄物よりも油分濃度が低い第2有機性廃棄物。
建築物の外部から供給される副資材。
【0021】
第1有機性廃棄物と第2有機性廃棄物とは、これらを処理する有機性廃棄物処理装置が付設した建築物から発生する物質である。
副資材は、第1有機性廃棄物及び第2有機性廃棄物が発生する建築物から発生する物質ではなく、当該建築物の外部から供給される物質である。副資材は、本開示の有機性廃棄物処理装置が備えるメタン発酵槽内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を適切化する目的で、当該有機性廃棄物処理装置に供給される物質である。
【0022】
副資材は、第1有機性廃棄物よりも油分濃度が低い有機性廃棄物である。副資材は、第2有機性廃棄物よりも油分濃度が低い有機性廃棄物であることが好ましい。副資材の油分濃度は、副資材の供給量を低減する観点から、低いほど好ましい。
副資材の具体例としては、厨芥乾燥物(エコフィード)、廃糖液(例えば缶詰工場から発生する有機性廃液)、パン粉くず、古紙(例えば段ボール)、廃スターチ、古米の米粉、廃砂糖、豆腐粕(オカラ)、海藻(例えばアオサ)、廃糖蜜、廃グリセリンなどが挙げられる。
【0023】
本開示において、一の有機性廃棄物が他の有機性廃棄物よりも油分濃度が低いということは、一の有機性廃棄物のn-Hex濃度/強熱減量の値が他の有機性廃棄物のn-Hex濃度/強熱減量の値よりも低いことと同義である。
一の有機性廃棄物が他の有機性廃棄物よりも油分濃度が低いという要件は、一の有機性廃棄物と他の有機性廃棄物とが混合される際に満たされていればよい。一の有機性廃棄物と他の有機性廃棄物とがメタン発酵槽において混合される場合は、メタン発酵槽に供給される際に前記要件が満たされていればよく、一の有機性廃棄物と他の有機性廃棄物とがメタン発酵槽とは別の槽において混合される場合は、当該槽に供給される際に前記要件が満たされていればよい。
【0024】
以下、複合商業施設の飲食店の厨房で発生する厨房排水と厨芥とを処理する場合を例にして、図面を参照しつつ、従来型の有機性廃棄物処理装置の一例と対比しながら、本開示の有機性廃棄物処理装置を説明する。
【0025】
図1は、複合商業施設に付設した従来型の有機性廃棄物処理装置の一例の概略図である。当該有機性廃棄物処理装置は、
厨房排水10を処理する油水分離槽12(いわゆるグリーストラップ)及び加圧浮上装置14と、
厨房排水10の含油固形分40と厨芥20とを混合する混合槽26(原料槽ともいう)と、
含油固形分40及び厨芥20を原料にしてメタン発酵を行い、バイオガス60を発生させるメタン発酵槽28と、
加圧浮上装置14から出る液分42及びメタン発酵槽28で発生する消化液44を好気性菌で処理し処理水46にする好気処理槽18と、
を備え、各部どうしは配管によって繋がっている。
上記の各部は本技術分野における公知の装置である。
【0026】
図1に示す有機性廃棄物処理装置においては、厨房排水10が油水分離槽12で処理されることにより沈殿物48が発生し、沈殿物48が含油汚泥50(いわゆるGTスカム)となる。
含油汚泥50は油分濃度が高く、含油汚泥50をメタン発酵槽28に投入するとメタン発酵が阻害される。メタン発酵の阻害を回避するために、含油汚泥50は、当該有機性廃棄物処理装置が付設されている複合商業施設の外部に搬出され、外部で処理される。
【0027】
従来型の有機性廃棄物処理装置は、
図1に示すように厨房排水に由来する含油汚泥を建築物の外部に廃棄するか、又は、厨房排水中の油分を一部分解する前処理槽(加熱処理槽又は酵素処理槽)(図示せず)を設けて建築物から発生する有機性廃棄物を処理する。換言すれば、従来型の有機性廃棄物処理装置は、厨房排水の油分の一部を含油汚泥として除去するか、又は、厨房排水の油分の一部をメタン発酵槽の上流で分解して、メタン発酵槽内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を適切化している。
【0028】
図2は、本開示の有機性廃棄物処理装置の一実施形態の概略図である。当該有機性廃棄物処理装置は、
厨房排水10を脱水して含油固形分40を得る固形分回収装置16と、
含油固形分40と厨芥20とを混合する混合槽26(原料槽ともいう)と、
含油固形分40、厨芥20及び副資材30を原料にしてメタン発酵を行い、バイオガス60を発生させるメタン発酵槽28と、
固形分回収装置16から出る液分42及びメタン発酵槽28で発生する消化液44を好気性菌で処理し処理水46にする好気処理槽18と、
メタン発酵槽28内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を調整する調整部32と、
を備え、各部どうしは配管によって繋がっている。
【0029】
図2に示す有機性廃棄物処理装置においては、調整部32がメタン発酵槽28への副資材30の供給量を調整することによって、メタン発酵槽28内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を適切化する。これによって、厨房排水10を脱水して得た含油固形分40を全量処理することが可能になる。
したがって、
図2に示す有機性廃棄物処理装置は、厨房排水10に由来する含油汚泥を外部に廃棄するための装置、又は、厨房排水10の前処理槽(加熱処理槽又は酵素処理槽)を設けることを要しない。
【0030】
以下、
図2に示す有機性廃棄物処理装置の各部を説明する。
【0031】
固形分回収装置16は、厨房排水10を脱水して含油固形分40を得る装置である。固形分回収装置16としては、例えば、油水分離槽(いわゆるグリーストラップ)、加圧浮上装置及び沈殿物捕集装置を組み合わせ、浮上した油分及び沈殿した油分を回収する装置が挙げられる。
厨房排水10は、厨房から固形分回収装置16に移送され、脱水される。厨房排水10の含油固形分40は、混合槽26に移送され、厨房排水10の液分42は、好気処理槽18に移送される。含油固形分40の一部又は全部はメタン発酵槽28に直接移送されてもよい。厨房排水10の含油固形分40が、第1有機性廃棄物である。
厨房排水10の含油固形分40は、例えば、浮上した油分と沈殿した油分とに分けて別々に回収されてもよく、回収されたのち別々に混合槽26又はメタン発酵槽28に移送されてもよい(
図6を参照。加圧浮上スカムが浮上した油分に相当し、GTスカムが沈殿した油分に相当する。)。この場合、浮上した油分及び沈殿した油分が、第1有機性廃棄物である。
【0032】
混合槽26は、厨房排水10の含油固形分40(すなわち第1有機性廃棄物)と厨芥20(すなわち第2有機性廃棄物)とを混合する。混合槽26において、さらに副資材30の一部又は全部を混合してもよい。
混合槽26は、必須ではないが、メタン発酵の原料中に油分を均等に分散させる観点から、設けたほうが望ましい。
混合槽26は、原料を攪拌し油分を均等に分散させる観点から、攪拌手段を備えることが望ましい。
混合槽26の容量は、建築物から発生する有機性廃棄物の量に日変動があるので、2日~5日程度の有機性廃棄物を貯留できる容量とすることが望ましい。
混合槽26内の温度は、例えば、30℃~40℃である。
【0033】
メタン発酵槽28は、本技術分野における公知の構成であってよい。
メタン発酵槽28が採用するメタン発酵法は、特に制限されず、発酵温度が37℃付近の中温発酵法でもよく55℃付近の高温発酵法でもよく、水分が比較的多い湿式法でもよく比較的少ない乾式法でもよい。
【0034】
好気処理槽18は、必須ではないが、メタン発酵の消化液44を適切に浄化する観点から、設けたほうが望ましい。好気処理槽18は、本技術分野における公知の構成であってよい。
【0035】
調整部32は、建築物から発生する有機性廃棄物の量に応じて、メタン発酵槽28への副資材30の供給量を調整する装置である。
副資材30のメタン発酵槽28への供給は、メタン発酵槽28への直接供給でもよく、混合槽26を介しての間接供給でもよいところ、「メタン発酵槽28への副資材30の供給量」とは、直接供給の量と間接供給の量とを合わせた量である。
調整部32は、直接供給及び間接供給の各量を調整し、メタン発酵槽28内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を適切化する。
【0036】
原料のn-Hex濃度/強熱減量の値は、原料の油分濃度の指標であり、油分濃度が高いほど値が高くなる。他方、原料の油分濃度が高いほどメタン発酵は難しくなるので、原料のn-Hex濃度/強熱減量の値が高いほどメタン発酵が難しくなる傾向がある。
メタン発酵槽及び有機性廃棄物処理装置の安定的な連続運転の観点からは、メタン発酵槽内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値は0.4以下であることが好ましい。これは、本発明者が行った下記の[n-Hex濃度/強熱減量の上限値の検討]の結果に基づく。
【0037】
[n-Hex濃度/強熱減量の上限値の検討]
既存建築物に付設した従来型の有機性廃棄物処理装置(
図1に示す型の有機性廃棄物処理装置)の原料槽から採取した試料と、同じ有機性廃棄物処理装置の油水分離槽から採取したGTスカムと、上水とを混合し、本試験の原料とした。3材料の混合比を変更することで、VS容積負荷は一定とし、n-Hex濃度/強熱減量の値のみを変動要素とする試験条件を設定した。メタン発酵槽内の試験条件を表1に示す。この試験条件で、400Lのメタン発酵槽を用いて、130日間の連続発酵試験を実施した。
【0038】
【0039】
図3に、原料中のn-Hex濃度/強熱減量の値と、消化液中のVFA(Volatile Fatty Acid,揮発性脂肪酸)濃度との関係を示す。
n-Hex濃度/強熱減量の値が0.20~0.40の範囲であると、VFAの蓄積は見られなかった。一方、n-Hex濃度/強熱減量の値が0.40~0.50の範囲であると、VFAの蓄積が発生した。
VFAの蓄積が進むとメタン発酵の継続は困難となるので、安定的な連続運転を可能にするには、原料中のn-Hex濃度/強熱減量の値は0.4以下が好ましい。
【0040】
以上の試験結果が示すとおり、メタン発酵槽及び有機性廃棄物処理装置の安定的な連続運転の観点からは、メタン発酵槽内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値は低いことが好ましく、0.4以下が好ましい。ただし、本開示の有機性廃棄物処理装置は、メタン発酵槽内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を副資材の供給によって調整するので、原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を低くするには副資材の量が必要となり、コスト増に繋がる。副資材の量を抑制する観点からは、メタン発酵槽内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値は0.2以上であることが好ましい。
したがって、本開示の有機性廃棄物処理装置において調整部は、メタン発酵槽内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を0.2~0.4の範囲に調整することが好ましく、0.25~0.38の範囲に調整することがより好ましく、0.28~0.35の範囲に調整することが更に好ましい。
【0041】
調整部32は、例えば、建築物から発生する有機性廃棄物の量並びにメタン発酵槽28に供給する各材料のn-Hex濃度及び強熱減量に基づき、メタン発酵槽28内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を予測する計算部と、計算部の予測結果に基づき、混合槽26及びメタン発酵槽28の少なくとも一方への副資材30の供給量を制御する制御部と、を備え、メタン発酵槽28内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を予め設定した範囲(例えば0.2~0.4)に維持する。
【0042】
図2には図示しないが、有機性廃棄物処理装置は、厨芥を処理する装置としてディスポーザー及び固液分離器を有していてもよい(
図6を参照)。この場合、厨芥は、ディスポーザーに投入され、破砕される。破砕された厨芥は、搬送水(例えば上水)によって配管を移送され、固液分離器に到達し、固形分と液分とに分けられる。固形分(厨芥に由来する有機性廃棄物、すなわち第2有機性廃棄物)は、混合槽26に移送され、液分は、固形分回収装置16又は好気処理槽18に移送される。
【0043】
本開示の有機性廃棄物処理装置によって、建築物から発生し油分を含む第1有機性廃棄物、建築物から発生し第1有機性廃棄物よりも油分濃度が低い第2有機性廃棄物、及び、建築物の外部から供給される副資材を原料にしてメタン発酵を行うメタン発酵工程と、
メタン発酵工程の原料のノルマルヘキサン抽出物質濃度と強熱減量との比を調整する調整工程と、を含む、有機性廃棄物処理方法(本開示の有機性廃棄物処理方法)が実施される。
【0044】
<有機性廃棄物利用設備、有機性廃棄物利用方法>
本開示の有機性廃棄物利用設備は、本開示の有機性廃棄物処理装置と、当該有機性廃棄物処理装置のメタン発酵槽で発生するバイオガスを利用するバイオガス利用装置と、を備える。
本開示の有機性廃棄物利用設備は、建築物に付設しており、当該建築物から発生する有機性廃棄物からバイオガスを生産し、当該建築物のエネルギー源として利用するための設備である。
【0045】
バイオガス利用装置は、特に制限されず、公知のあらゆるバイオガス利用装置を含む。バイオガス利用装置としては、例えば、バイオガスを燃料にする発電装置、バイオガスを燃料にするボイラーが挙げられる。
バイオガス利用装置は、バイオガス貯留塔、バイオガスから硫化水素を取り除く脱硫装置などを備えていてもよい。
【0046】
本開示の有機性廃棄物利用設備によって、本開示の有機性廃棄物処理方法と、当該有機性廃棄物処理方法のメタン発酵工程で発生するバイオガスを利用するバイオガス利用方法と、を含む、有機性廃棄物利用方法(本開示の有機性廃棄物利用方法)が実施される。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて、本開示の有機性廃棄物処理装置をより具体的に説明する。
【0048】
(1)実証運転
既存建築物に付設されている厨房排水処理装置から採取した加圧浮上スカム及び含油汚泥(GTスカム)と、同じ建築物の生ごみディスポーザー破砕物とを混合した混合物(n-Hex濃度/強熱減量の値=0.42)を用意した。
この混合物に副資材を加えることによりメタン発酵槽内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の上限値を0.3に維持して、400Lのメタン発酵槽及び100Lの原料槽を用いて30日間の連続運転を実施した。メタン発酵槽の運転条件を表2に示す。
【0049】
【0050】
図4に、メタン発酵槽に投入したVS量当たりのメタン発生量を示す。
表2に示す条件で30日間安定して運転できており、副資材の供給によって高油分廃棄物のメタン発酵が可能であることが実証された。
【0051】
(2)従来型との比較
図5及び
図6に示す下記の2例の有機性廃棄物処理装置のいずれかを複合商業施設に付設する。
【0052】
例A(
図5):厨芥を処理するディスポーザー22及び固液分離器24と、厨房排水を処理する油水分離槽12及び加圧浮上装置14と、メタン発酵槽28とを備える有機性廃棄物処理装置。従来型の有機性廃棄物処理装置の一例であり、副資材をメタン発酵槽28に供給せず、メタン発酵槽28へのGTスカムの投入量を調整することによってメタン発酵槽28内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を制御する。
【0053】
例B(
図6):厨芥を処理するディスポーザー22及び固液分離器24と、厨房排水を処理する油水分離槽12及び加圧浮上装置14と、メタン発酵槽28と、メタン発酵槽28への副資材の供給量を調整する調整部32とを備える有機性廃棄物処理装置。本開示の有機性廃棄物処理装置の一実施形態であり、GTスカム全量をメタン発酵槽28に投入し、メタン発酵槽28へ副資材を供給することによってメタン発酵槽28内の原料のn-Hex濃度/強熱減量の値を制御する。
【0054】
上記2例の有機性廃棄物処理装置をそれぞれ、表3に記載の条件にて運転する。
図5及び
図6に各部の処理量及びメタン発生量を示す。
【0055】
【0056】
例A(従来型の有機性廃棄物処理装置の一例)においては、原料中のn-Hex濃度/強熱減量の上限値を0.35に維持するには、油水分離槽12で分離されるGTスカム0.24m3/日のうちメタン発酵槽28に投入可能な量は0.08m3/日であり、0.16m3/日が使用されずに残る。つまり例Aは、GTスカムの33%しか処理できず、GTスカムの67%を建築物の外部に廃棄することを要する。
【0057】
例B(本開示の有機性廃棄物処理装置の一実施形態)においては、原料中のn-Hex濃度/強熱減量の上限値を0.35に維持しつつGTスカム全量を処理するために、55kg/日の副資材が必要である。例Bは、GTスカムを建築物の外部に廃棄することを要さず、また、厨房排水に含まれる油分を前処理(加熱処理又は酵素処理)することを要しない。例Bは、例Aに対してメタン発生量が45%増加する。
【符号の説明】
【0058】
10 厨房排水
12 油水分離槽
14 加圧浮上装置
16 固形分回収装置
18 好気処理槽
20 厨芥
22 ディスポーザー
24 固液分離器
26 混合槽
28 メタン発酵槽
30 副資材
32 調整部
40 含油固形分
42 液分
44 消化液
46 処理水
48 沈殿物
50 含油汚泥
60 バイオガス