(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】液体検査装置および液体検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3577 20140101AFI20240122BHJP
G01N 21/359 20140101ALI20240122BHJP
【FI】
G01N21/3577
G01N21/359
(21)【出願番号】P 2020028635
(22)【出願日】2020-02-21
【審査請求日】2022-10-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、経済産業省、次世代燃料供給体制確立に向けた技術開発・実証補助事業「近赤外線分光技術による油種判別(コンタミ防止)技術確立」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】307011510
【氏名又は名称】株式会社熊平製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000151346
【氏名又は名称】株式会社タツノ
(74)【代理人】
【識別番号】100163186
【氏名又は名称】松永 裕吉
(72)【発明者】
【氏名】太田 剛
(72)【発明者】
【氏名】鶴崎 晋也
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6595652(JP,B2)
【文献】特開2010-091328(JP,A)
【文献】特開2016-130705(JP,A)
【文献】米国特許第05693944(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
G01N 21/84 - G01N 21/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体検査装置であって、
近赤外光を含む光を発光する発光部と、
前記光が照射された検査対象液体物からの透過光および/または反射光を受光する受光部と、
前記発光部の発光面および前記受光部の受光面の少なくとも一方を覆う,近赤外領域の光を透過させる合成樹脂製の窓材と、
前記受光部により受光された光が入射され、当該入射された光の近赤外領域におけるスペクトルを計測する分光器と、
前記分光器により計測されたスペクトルに含まれる,近赤外領域における前記窓材のスペクトルの歪みを考慮して、前記分光器により計測されたスペクトルに基づいて前記検査対象液体物中の特定成分の含有の有無を判別する成分分析部と
、
前記特定成分ごとの,近赤外領域における前記窓材のスペクトルの歪みが含まれないスペクトルである基準スペクトルと、近赤外領域における前記窓材のスペクトルである窓材スペクトルとを記憶するスペクトルデータ記憶部と、
前記液体検査装置による液体検査が行われていないときに、前記分光器により計測されたスペクトルに基づいて近赤外領域における前記窓材のスペクトルを取得し、前記スペクトルデータ記憶部に記憶された,前記窓材の経年劣化により変化する前記窓材スペクトルを前記取得したスペクトルに更新する窓材スペクトル更新部とを備え、
前記成分分析部は、前記分光器により計測されたスペクトルから前記スペクトルデータ記憶部に記憶された前記窓材スペクトルを差し引いたものと、前記スペクトルデータ記憶部に記憶された前記基準スペクトルとを比較して、または、前記スペクトルデータ記憶部に記憶された前記基準スペクトルと前記窓材スペクトルとを足し合わせたものと、前記分光器により計測されたスペクトルとを比較して、前記検査対象液体物中の特定成分の含有の有無を判別する、液体検査装置。
【請求項2】
前記成分分析部は、前記スペクトルデータ記憶部に記憶された前記窓材スペクトルに、当該窓材スペクトルの波長ごとに異なる値の係数を乗じて他のスペクトルとの演算を行う、請求項
1に記載の液体検査装置。
【請求項3】
コンピュータが検査対象液体物の検査を行う方法であって、
近赤外光を含む光を発光する発光部と、前記光が照射された前記検査対象液体物からの透過光および/または反射光を受光する受光部と、前記発光部の発光面および前記受光部の受光面の少なくとも一方を覆う,近赤外領域の光を透過させる合成樹脂製の窓材と、前記受光部により受光された光が入射され、当該入射された光の近赤外領域におけるスペクトルを計測する分光器とを備えた光学デバイスから、前記分光器により計測されたスペクトルを受信するステップと、
前記受信したスペクトルに含まれる,近赤外領域における前記窓材のスペクトルの歪みを考慮して、前記受信したスペクトルに基づいて前記検査対象液体物中の特定成分の含有の有無を判別するステップと
、
前記特定成分ごとの,近赤外領域における前記窓材のスペクトルの歪みが含まれないスペクトルである基準スペクトルと、近赤外領域における前記窓材のスペクトルである窓材スペクトルとを記憶するスペクトルデータ記憶部に記憶された前記窓材スペクトルを前記分光器により計測されたスペクトルから差し引いたものと、前記スペクトルデータ記憶部に記憶された前記基準スペクトルとを比較して、または、前記スペクトルデータ記憶部に記憶された前記基準スペクトルと前記窓材スペクトルとを足し合わせたものと、前記分光器により計測されたスペクトルとを比較して、前記検査対象液体物中の特定成分の含有の有無を判別するステップと、
前記コンピュータによる液体検査が行われていないときに、前記分光器により計測されたスペクトルに基づいて近赤外領域における前記窓材のスペクトルを取得し、前記スペクトルデータ記憶部に記憶された,前記窓材の経年劣化により変化する前記窓材スペクトルを前記取得したスペクトルに更新するステップとを備えた液体検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体検査装置および液体検査方法に関し、特に分光分析により液体を検査する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、飛行機、船舶、鉄道などの公共交通機関や空港、駅、コンサート会場などの公共施設への危険物持ち込みが強く警戒されるところであるが、液体物はその外見から危険性を判断することが難しい。そこで液体物の危険性を簡単に検査することができる液体検査装置が開発されている。
【0003】
液体物に光を当てると液体物の含有成分に応じて特定波長の光が吸収されて特有の吸光スペクトルが観察される。液体検査装置はこの原理を応用して液体物の検査をする。すなわち、液体検査装置は分光分析装置を備えており、液体物に光を照射し、当該液体物からの透過光および/または反射光の近赤外領域のスペクトルを分析することで、当該液体物が爆発の危険性がある危険物であるか否か、あるいは当該液体物に不正薬物が含まれているか否かといった検査をする。例えば、下記特許文献1,2には、液体物の吸光スペクトルから当該液体物が危険物であるか否かを検査する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5207462号公報
【文献】特開2016-80403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の液体検査装置では、光源となるランプの光に含まれる近赤外領域の光を効率よく透過させ、併せてランプを保護する目的で窓材が設けられる。通常、この窓材には近赤外領域における吸光スペクトルの歪みが少ないサファイアやシリコンなど鉱物材料(以下、ガラスと総称する)が用いられる。
【0006】
ところが、ガラス製の窓材の場合、尖った物が当たるとヒビが入ったり、割れたりするおそれがある。また、コストが比較的高いといった問題もある。これら問題を考慮すると、ガラス製以外の例えばアクリルなどの安価で耐衝撃性に優れた合成樹脂製の窓材を使用することも考えられる。しかし、合成樹脂には近赤外領域において吸光スペクトルの歪みが大きいという問題がある。
【0007】
図8は、ガラス製の窓材を使用したときのある特定成分のスペクトル例および合成樹脂製の窓材を使用したときの当該特定成分のスペクトル例を表すグラフである。縦軸は吸光度、横軸は近赤外領域の波長を表す。このグラフからわかるように、合成樹脂製の窓材を使用したときのスペクトル例はガラス製の窓材を使用したときのスペクトル例に比べて全体的に吸光度が高めに計測される。また、合成樹脂製の窓材を使用したときのスペクトル例にはガラス製の窓材を使用したときのスペクトル例にはない歪みが所々に生じている。
【0008】
さらに、合成樹脂は、温度差などの影響で膨張・収縮したり、表面の結露・蒸発により表面が荒れたりするため、長期間使用していると屈折率が変化して吸光スペクトルの歪みがより一層大きくなるといった経年劣化の問題がある。このため、合成樹脂は窓材には不向きであり、合成樹脂製の窓材は、通常、液体検査装置には用いられない。
【0009】
上記問題に鑑み、本発明は、合成樹脂製の窓材を使用しても良好な検査精度を保つことができる液体検査装置および液体検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面に従った液体検査装置は、近赤外光を含む光を発光する発光部と、前記光が照射された検査対象液体物からの透過光および/または反射光を受光する受光部と、前記発光部の発光面および前記受光部の受光面の少なくとも一方を覆う,近赤外領域の光を透過させる合成樹脂製の窓材と、前記受光部により受光された光が入射され、当該入射された光の近赤外領域におけるスペクトルを計測する分光器と、前記分光器により計測されたスペクトルに含まれる,近赤外領域における前記窓材のスペクトルの歪みを考慮して、前記分光器により計測されたスペクトルに基づいて前記検査対象液体物中の特定成分の含有の有無を判別する成分分析部とを備えたものである。
【0011】
本発明の一局面に従った液体検査方法は、コンピュータが検査対象液体物の検査を行う方法であって、近赤外光を含む光を発光する発光部と、前記光が照射された前記検査対象液体物からの透過光および/または反射光を受光する受光部と、前記発光部の発光面および前記受光部の受光面の少なくとも一方を覆う,近赤外領域の光を透過させる合成樹脂製の窓材と、前記受光部により受光された光が入射され、当該入射された光の近赤外領域におけるスペクトルを計測する分光器とを備えた光学デバイスから、前記分光器により計測されたスペクトルを受信するステップと、前記受信したスペクトルに含まれる,近赤外領域における前記窓材のスペクトルの歪みを考慮して、前記受信したスペクトルに基づいて前記検査対象液体物中の特定成分の含有の有無を判別するステップとを備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、合成樹脂製の窓材の吸光スペクトルの歪みが分光器により計測されたスペクトルに及ぼす影響をなくして良好な検査精度を保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る液体検査装置の斜視図
【
図2】
図1の液体検査装置を用いた検査の様子を示す図
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る液体検査装置のブロック図
【
図4】合成樹脂製の窓材の影響を受けたある特定成分のスペクトル例、窓材の影響がない当該特定成分のスペクトル例、および合成樹脂製の窓材のスペクトル例を表すグラフ
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る液体検査装置(給油所貯油設備)の概略図
【
図6】
図5の給油所貯油設備で用いられる注油口の斜視図
【
図7】本発明の第2の実施形態に係る液体検査装置(給油所貯油設備)のブロック図
【
図8】ガラス製の窓材を使用したときのある特定成分のスペクトル例および合成樹脂製の窓材を使用したときの当該特定成分のスペクトル例を表すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、発明者は、当業者が本発明を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、図面に描かれた各部材の寸法、厚み、細部の詳細形状などは実際のものとは異なることがある。
【0015】
なお、図面中に「上」「下」「右」「左」「前」「後」の注記がある場合には、明細書中の説明における「上」「下」「右」「左」「前」「後」とは、その注記された方向を指す。また、前後方向を「縦」、左右方向を「横」、上下方向を「高さ」ということがある。
【0016】
≪第1の実施形態≫
本発明の第1の実施形態に係る液体検査装置は、ボトル、ビン、缶などの容器に入った液体物を容器に入ったままで検査する装置である。より詳しくは、本発明の第1の実施形態に係る液体検査装置は、容器内の液体物に関して、エタノールやガソリンなどの可燃性液体、爆発物原料、不正薬物などの含有状況を検査する装置である。なお、検査対象の液体物は透明なものに限られず有色あるいは不透明なものであってもよい。また、検査対象の液体物は水状のものに限られず粘度の高いものであってもよい。
【0017】
-外観構成-
図1は、本発明の第1の実施形態に係る液体検査装置の斜視図である。
図1に示したように、液体検査装置10は、略直方体形状の装置本体11と、装置本体11の上面後側の左右コーナー部に設けられた略四角柱形状の2つのポール12,12とを備えている。
【0018】
装置本体11は板金でできた箱状部材であり、その最大部分の大きさは縦250[mm]×横260[mm]×高さ92[mm]である。装置本体11において上面前寄りの位置に縦90[mm]×横150[mm]の矩形のタッチパネルモニター13が、前面左寄りの位置に電源スイッチ14が、前面中央付近にスピーカー15が、左側面に図略の電源プラグ挿入口とUSBポートが、それぞれ配設されている。さらに、装置本体11の内部に分光器、コンピュータ、ハードディスクドライブやメモリやUSBインターフェイスなどの周辺機器、A/D変換ボードなどの電子回路基板などが収容されている。
【0019】
2つのポール12,12はいずれも板金でできた筒状部材であり、その最大部分の大きさは縦62[mm]×横62[mm]×高さ178[mm]である。左のポール12の右側面と右のポール12の左側面との離隔は126[mm]である。
【0020】
左のポール12の内部には図略のハロゲンランプと、受光部16と、受光部16により受光された光を分光器へ導光する図略の光ファイバーとが収容されている。左のポール12の右側面の上端寄りにハロゲンランプの発光を外部へ出すための発光孔17が、その下側に受光部16を取り付けるための受光孔18が、それぞれ配設されている。受光部16は左のポール12の右側面から5[mm]ほど突出して受光孔18に取り付けられている。発光孔17は、左のポール12の内面に配設された窓材17aでその全体が覆われている。窓材17aは、光透過性の合成樹脂でできており、ハロゲンランプの発光面を覆って近赤外領域の光を透過させるものである。窓材17aに好適な合成樹脂としてメタクリル樹脂(アクリル樹脂)、ポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)、アクリルニトリルスチレン樹脂(AS樹脂)、スチロール樹脂、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0021】
右のポール12の内部には図略のハロゲンランプが収容されている。右のポール12の左側面において左のポール12の受光部16と対向する位置にハロゲンランプの発光を外部へ出すための発光孔17が配設されている。なお、
図1の視点からは発光孔17は右のポール12に隠れて見えないため、便宜的に破線で発光孔17を描いている。発光孔17は、右のポール12の内面に配設された窓材17aでその全体が覆われている。窓材17aは、光透過性の合成樹脂でできており、ハロゲンランプの発光面を覆って近赤外領域の光を透過させるものである。窓材17aに好適な合成樹脂については上述したとおりである。
【0022】
2つのポール12,12の上端部に表示ランプ19,19が配設されている。各表示ランプ19は、各ポール12の上端部全体を覆うランプカバー19Aと、青、緑、赤、紫の各色で発光可能な図略のLEDとを備えている。ランプカバー19Aは、半透明の樹脂材料を原料として形成されており、LEDの光を拡散してカバー全面が発光するようになっている。
【0023】
さらに、右のポール12の前面の下端寄りに超音波センサー20が、その上側に温度センサー21が、それぞれ配設されている。装置本体11の上面右側に、前後方向に動くスライダー23が配設されている。スライダー23は、樹脂材料を原料として形成されており、缶などを超音波センサー20に押し付ける際に用いられる。
【0024】
図2は、液体検査装置10を用いた検査の様子を示す図である。液体検査装置10が待機状態にあるとき、例えば、タッチパネルモニター13に“READY”の文字が表示されるとともに表示ランプ19,19が青色で点灯する。この待機状態において、液体物31が入った容器30を左右のポール12,12の間にかざすと、受光部16により受光される光量が減少することで、液体検査装置10は検査対象の存在を認識して自動的に検査を開始する。なお、容器30または容器内の液体物31が光を透過しにくいものである場合には、容器30を受光部16に密着させて、左のポール12のハロゲンランプからの光を容器30または液体物31で反射させて受光部16に受光させるようにする。
【0025】
検査の結果、液体物31の安全性が確認できた場合には、例えば、タッチパネルモニター13に“PASS”の文字が表示されるとともに表示ランプ19,19が緑色で点灯する。一方、危険物を検知した場合には、例えば、タッチパネルモニター13に“ALARM”の文字が表示されるとともに表示ランプ19,19が赤色で点灯し、スピーカー15からアラーム音が発せられる。液体物31が安全か危険かが判断できない場合には、例えば、タッチパネルモニター13に“NOT DETECTED”の文字が表示されるとともに表示ランプ19,19が紫色で点灯し、スピーカー15からアラーム音が発せられる。
【0026】
なお、超音波センサー20および温度センサー21を用いた検査は本願発明と直接的な関係がないため、説明を省略する。
【0027】
-機能構成-
次に、液体検査装置10の機能構成について説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る液体検査装置10のブロック図である。
【0028】
発光部101は、上記の左右のポール12,12に収容されているハロゲンランプに相当する。発光部101の発光面は窓材17aで覆われており、発光部101は、窓材17aを通して近赤外光を含む光102を発光する。受光部16は、光102が照射された容器30内の液体物31からの透過光および/または反射光103を受光する。より詳細には、受光部16には図略のミラーが内蔵されており、当該ミラーで反射した光が光ファイバー104を通じて分光器105に入射される。
【0029】
分光器105は、受光部16より入射された光の近赤外領域におけるスペクトルを計測する。より詳細には、分光器105は、図略のスリット、コリメーティングミラー、分光素子(具体的にはプリズムまたはグレーティング)、アレイ検出器(具体的にはCMOSセンサーまたはリニアCCDアレイ)、電子回路などを備える。このうち、アレイ検出器は、分光素子により分光された光を電気信号に変換する。当該電気信号によりスペクトルが表される。
【0030】
制御ユニット110は、制御部111、成分分析部112、スペクトルデータ記憶部113、窓材スペクトル更新部114を備えている。具体的には、制御ユニット110は、図略のCPU、ハードディスクドライブ、メモリ、A/D変換ボードなどを備えており、これら構成要素から制御部111、成分分析部112、スペクトルデータ記憶部113、窓材スペクトル更新部114が構成される。例えば、制御部111、成分分析部112、窓材スペクトル更新部114はコンピュータプログラムとしてメモリに記憶されており、CPUがメモリから当該コンピュータプログラムを読み出して実行することで制御部111、成分分析部112、窓材スペクトル更新部114が実現される。あるいは、制御部111、成分分析部112、窓材スペクトル更新部114は専用のハード回路またはハード回路とソフトウェアの組み合わせであってもよい。また、ハードディスクドライブまたはメモリの記憶領域の一部がスペクトルデータ記憶部113として割り当てられる。
【0031】
制御部111は、液体検査装置10の全体の制御を司る。例えば、制御部111は、タッチパネルモニター13の画面表示、表示ランプ19の点灯、スピーカー15からの音出力などを制御する。
【0032】
成分分析部112は、分光器105からスペクトルを取得して分析し、容器30内の液体物31に関して、エタノールやガソリンなどの可燃性液体、爆発物原料、不正薬物などの含有状況を検査する。すなわち、成分分析部112は、検査対象の液体物31の吸光スペクトルを分析することにより液体物31中の特定成分の含有の有無を判別する。
【0033】
図4は、合成樹脂製の窓材17aの影響を受けたある特定成分のスペクトル例、窓材17aの影響がない当該特定成分のスペクトル例、および合成樹脂製の窓材17aのスペクトル例を表すグラフである。縦軸は吸光度、横軸は近赤外領域の波長を表す。以下、合成樹脂製の窓材17aの影響を受けたある特定成分のスペクトル例を「計測スペクトル」、窓材17aの影響がない当該特定成分のスペクトル例を「基準スペクトル」、合成樹脂製の窓材17aのスペクトル例を「窓材スペクトル」と呼ぶ。
【0034】
近赤外領域における吸光スペクトルは成分に応じて異なる。成分分析部112はこの性質を利用して計測スペクトルから特定成分の含有の有無を判別することができる。具体的には、スペクトルデータ記憶部113に特定成分ごとに基準スペクトルが記憶されている。成分分析部112は、分光器105により計測されたスペクトルとスペクトルデータ記憶部113に記憶された各特定成分の基準スペクトルとを比較することで特定成分の含有の有無を判別する。
【0035】
図4のグラフからわかるように、合成樹脂製の窓材17aの近赤外領域における吸光スペクトルは大きく歪んでおり、その歪みが計測スペクトルに重畳されている。このため、計測スペクトルと基準スペクトルとを単純に比較しても特定成分含有の判別が正しく行えないおそれがある。そこで、成分分析部112は、分光器105により計測されたスペクトルに含まれる,近赤外領域における窓材17aのスペクトルの歪みを考慮して、分光器105により計測されたスペクトルに基づいて液体物31中の特定成分の含有の有無を判別する。
【0036】
図3に戻り、具体的には、スペクトルデータ記憶部113に窓材スペクトル、すなわち、近赤外領域における窓材17aのスペクトルを記憶しておく。窓材スペクトルとして、各液体検査装置10に共通の工場出荷データを記憶してもよいし、各液体検査装置10において検査対象物がない状態で計測したスペクトル(当該スペクトルは窓材17aそのものの吸光スペクトルを表す)を記憶してもよい。成分分析部112は、次の2つのいずれかの方法で、計測スペクトルから窓材スペクトルの影響を取り除いて検査対象液体物中の特定成分の含有の有無を判別することができる。
【0037】
(窓材スペクトルの影響排除方法1)
成分分析部112は、スペクトルデータ記憶部113から窓材スペクトルのデータを読み出し、分光器105により計測されたスペクトルから当該読み出した窓材スペクトルを差し引く。そして、成分分析部112は、スペクトルデータ記憶部113から基準スペクトルのデータを読み出し、分光器105により計測されたスペクトルから窓材スペクトルを差し引いたものと当該読み出した基準スペクトルとを比較して検査対象液体物中の特定成分の含有の有無を判別する。
【0038】
(窓材スペクトルの影響排除方法2)
成分分析部112は、スペクトルデータ記憶部113から基準スペクトルと窓材スペクトルのデータを読み出し、これらを足し合わせる。そして、成分分析部112は、基準スペクトルと窓材スペクトルとを足し合わせたものと、分光器105により計測されたスペクトルとを比較して検査対象液体物中の特定成分の含有の有無を判別する。
【0039】
なお、窓材スペクトルとその他のスペクトルとでは全体的な光の強度が異なる(窓材スペクトルは窓材17a自体の屈折率の影響で全体的に強度が弱めになっている)ため、上記のいずれの方法においても窓材スペクトルをそのまま減算または加算したのでは歪みを十分に除去できない可能性がある。そこで、成分分析部112は、窓材スペクトルに係数を乗じて他のスペクトルとの演算を行うようにすることが好ましい。
【0040】
さらに、窓材17aの屈折率に起因する窓材スペクトルの強度低下は波長に応じてその程度が異なり得る。そこで、成分分析部112は、波長に応じて係数を変えるようにすることが好ましい。例えば、各波長に対応する係数をルックアップテーブルにしてスペクトルデータ記憶部113に記憶しておくことで、成分分析部112は、そのルックアップテーブルを参照して波長に応じて異なる係数を窓材スペクトルに乗じることができる。
【0041】
(窓材の経年劣化による窓材スペクトル変動対策)
合成樹脂製の窓材17aは長期間使用していると経年劣化により屈折率が徐々に変化し、その結果、吸光スペクトルも変動してしまう。したがって、経年劣化による窓材スペクトルの変動対策が必要となる。そして、その対策のために窓材スペクトル更新部114を設けている。
【0042】
具体的には、窓材スペクトル更新部114は、液体検査装置10による液体検査が行われていないとき、例えば、液体検査装置10の起動直後や液体物らしきスペクトルが計測されていない期間などに、分光器105により計測されたスペクトルに基づいて近赤外領域における窓材17aのスペクトルを取得する。そして、窓材スペクトル更新部114は、スペクトルデータ記憶部113に記憶された窓材スペクトルを取得したスペクトルに更新する。これにより、スペクトルデータ記憶部113に記憶されている窓材スペクトルを常に窓材17aの現状を反映したものにすることができる。
【0043】
≪第2の実施形態≫
本発明の第2の実施形態に係る液体検査装置は、給油所の貯油設備における燃料油の油種判別に液体検査の技術を応用したものである。より詳しくは、本発明の第2の実施形態に係る液体検査装置は、タンクローリーなどから給油所の貯油設備に燃料油が荷卸しされる際にその油種を自動判別するものである。
【0044】
-概略構成-
図5は、本発明の第2の実施形態に係る液体検査装置(給油所貯油設備)の概略図である。給油所の敷地の地下に貯油タンク201が埋設されており、貯油タンク201は送油菅202を通じて、地上に設置された注油口203に繋がっている。注油口203に図略のタンクローリーからのホースを繋いで、タンクローリーに積載された燃料油が送油管202を通じて貯油タンク201へと移送される。通常、注油口203は外箱で覆われているが
図5では外箱の図示は省略している。
【0045】
地上の支持物204に制御盤205が設置されている。制御盤205から2本の光ファイバー104が延びて注油口203に設けられた発光部101および受光部16に繋がっている。
【0046】
図6は、
図5の給油所貯油設備で用いられる注油口203の斜視図である。注油口203の側面の適当な位置に対向し合う2つの孔が空いており、その孔を塞ぐように窓材17aが取り付けられている。さらにその窓材17aの外側において注油口203の外側面に発光部101および受光部16が取り付けられている。これら窓材17aは、いずれも光透過性の合成樹脂でできており、発光部101の発光面および受光部16の受光面を覆って近赤外領域の光を透過させるものである。窓材17aに好適な合成樹脂については上述したとおりである。
【0047】
上記の制御盤205、光ファイバー104、注油口203を含む部分が本発明の第2の実施形態に係る液体検査装置10Aである。
【0048】
-機能構成-
次に、液体検査装置10Aの機能構成について説明する。
図7は、本発明の第2の実施形態に係る液体検査装置(給油所貯油設備)10Aのブロック図である。液体検査装置10Aの機能構成は、第1の実施形態に係る液体検査装置10の機能構成とほぼ同じであるため、同じ説明は省略し、液体検査装置10と異なる点についてのみ説明する。
【0049】
液体検査装置10Aでは、分光器105、制御ユニット110、および液体検査装置10におけるタッチパネルモニター13、スピーカー15、表示ランプ19に類するインターフェイス類は制御盤205に設けられる。
【0050】
発光部101は、注油口203に開いた2つ孔の一方に取り付けられている。なお、
図7では注油口203の側断面を示している。制御ユニット110内に図略のハロゲンランプがあり、そのランプの光が光ファイバー104を通じて発光部101に届けられる。発光部101の発光面は注油口203の側面の穴を塞ぐ窓材17aで覆われており、発光部101は、窓材17aを通して近赤外光を含む光102を注油口203の内部に発光する。
【0051】
受光部16は、注油口203に開いた2つ孔の他方に取り付けられている。液体検査装置10Aでは受光部16側にも合成樹脂製の窓材17aが設けられている。すなわち、受光部16の受光面は注油口203の側面の孔を塞ぐ窓材17aで覆われており、受光部16は、光102が照射された注油口203内の液体物31(液体物31は具体的には図略のタンクローリーから荷卸しされる燃料油である)からの透過光103を、窓材17aを通じて受光する。より詳細には、受光部16には図略のミラーが内蔵されており、当該ミラーで反射した光が光ファイバー104を通じて分光器105に入射される。
【0052】
分光器105により計測されたスペクトルは制御ユニット110における制御部111、成分分析部112、スペクトルデータ記憶部113、窓材スペクトル更新部114によって処理され、液体物31の油種が判別される。なお、制御ユニット110が備える要素の詳細については上述した通りであり、繰り返しの説明は省略する。
【0053】
≪効果≫
以上のように、本発明の実施形態によると、合成樹脂製の窓材17aの吸光スペクトルの歪みが分光器105により計測されたスペクトルに及ぼす影響をなくして良好な検査精度を保つことができる。さらに、経年劣化により窓材17aの吸光スペクトルが変動しても、常に窓材17aの現状の吸光スペクトルを保持して窓材17aの経年劣化にも対応することができる。
【0054】
また、窓材17aを合成樹脂製にしても過去のデータ資産、すなわち、ガラス製の窓材のときに使用していた各特定成分の基準スペクトルがそのまま流用できるため、改めて合成樹脂製の窓材17a用の基準スペクトルを取得する必要がない。危険物のスペクトルデータは専門の研究機関に依頼して入手する必要があるため多額の費用がかかるが、改めて合成樹脂製の窓材17a用の基準スペクトルを取得する必要がないため費用面で非常に有利である。
【0055】
また、窓材17aの材料に安価で耐衝撃性に優れた合成樹脂を採用したことで、メンテナンスコストが下がるといった波及効果もある。
【0056】
≪変形例≫
窓材17aは発光部101および受光部16のいずれか一方に設ければよく、例えば、窓材17aを受光部16側にだけ設けるようにしてもよい。また、発光部101の光源は近赤外光を含む光を発光するものであればハロゲンランプ以外にLEDランプやフィラメントランプなどを用いることができる。
【0057】
第1の実施形態に係る液体検査装置10および第2の実施形態に係る液体検査装置(給油所貯油設備)10Aにおいて、スペクトルデータ記憶部113に、特定成分ごとの,近赤外領域における窓材17aのスペクトルの歪みが含まれる基準スペクトルを記憶するようにしてもよい。この場合、成分分析部112は、分光器105により計測されたスペクトルとスペクトルデータ記憶部113に記憶された当該基準スペクトルとを比較することで液体物31中の特定成分の含有の有無を判別することができる。
【0058】
第2の実施形態に係る液体検査装置(給油所貯油設備)10Aにおいて、発光部101および受光部16を注油口203ではなく送油菅202に取り付けるようにしてもよい。
【0059】
あるいは、第2の実施形態に係る液体検査装置10Aを給油所貯油設備ではなくタンクローリー側に実装してもよい。すなわち、タンクローリーの油排出口に発光部101、受光部16、および窓材17aを取り付けるとともにタンクローリーに制御ユニット110を実装し、タンクローリーから荷卸しされる燃料油の油種をタンクローリー側で自動判別するようにしてもよい。
【0060】
発光部101、受光部16、窓材17a、および分光器105からなる光学デバイスを現場に、成分分析部112、スペクトルデータ記憶部113、および窓材スペクトル更新部114からなるコンピュータ処理部をクラウド環境にそれぞれ配置してもよい。この場合、分光器105により計測されたスペクトルが光学デバイスからクラウド環境のコンピュータ処理部に送信され、コンピュータ処理部において受信したスペクトルに基づいて検査対象液体物の検査が行われる。
【0061】
以上、本発明における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。また、上述の実施の形態は、本発明における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【符号の説明】
【0062】
10…液体検査装置、10A…液体検査装置(給油所貯油設備)、101…発光部、16…受光部、17a…窓材、105…分光器、112…成分分析部、113…スペクトルデータ記憶部、114…窓材スペクトル更新部