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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】眼科装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/12 20060101AFI20240122BHJP
   A61F 9/007 20060101ALI20240122BHJP
   A61B 90/30 20160101ALI20240122BHJP
【FI】
A61B3/12
A61F9/007 200C
A61B90/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020057235
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021153861
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】大森 和宏
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-187293(JP,A)
【文献】特開2020-006002(JP,A)
【文献】特開2019-118720(JP,A)
【文献】特開平03-200914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00- 3/18
34/00-90/98
A61F 9/00-11/30
G02B 19/00-21/00
21/06-21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズと、
前記対物レンズを介して、光源からの照明光を患者眼の眼底に向けて出射する照明光学系と、
前記対物レンズと前記光源との間の前記照明光の光路上に設けられ、前記照明光からパターン光を生成するパターン生成素子と、
前記眼底に向けて出射される前記パターン光を、前記対物レンズの光軸に対して垂直方向に走査する光走査部と、
前記対物レンズを介して入射した前記眼底からの前記パターン光の戻り光を、撮像素子導く観察光学系と、
前記撮像素子を有するカメラであって、且つ前記光走査部による前記パターン光の走査が行われている間、前記撮像素子による前記戻り光の撮像と、前記戻り光に基づく前記眼底の一部の観察像の出力と、を繰り返し行うカメラと、
前記光走査部による前記パターン光の走査が行われている間、前記カメラから出力される前記観察像をモニタに繰り返し出力する表示制御部と、
前記光走査部による前記パターン光の走査速度及び前記撮像素子のフレームレートを制御して、前記眼底の中で前記パターン光により走査される走査領域の全体像を前記モニタの画面に構成する制御部と、
を備える眼科装置。
【請求項2】
前記照明光学系の光軸が前記対物レンズの光軸に対して偏心しており、
前記照明光学系が、前記対物レンズを介して前記パターン光を前記眼底に対して斜め方向に入射させる請求項1に記載の眼科装置。
【請求項3】
前記パターン生成素子が、前記照明光から前記パターン光としてスリット光を生成する請求項1又は2に記載の眼科装置。
【請求項4】
前記光走査部が、前記パターン生成素子を前記垂直方向に変位させることで前記パターン光を前記垂直方向に走査する請求項1からのいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項5】
前記パターン生成素子が、前記照明光学系内に設けられている請求項1からのいずれか1項に記載の眼科装置。
【請求項6】
前記観察光学系の光軸が、前記対物レンズの光軸に対して垂直であり、
前記対物レンズの光軸と前記観察光学系の光軸との交点に設けられた偏向光学素子であって、且つ前記対物レンズから入射した前記戻り光を前記観察光学系に向けて偏向する偏向光学素子を備える請求項1からのいずれか1項に記載の眼科装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者眼の眼底の観察を行う眼科装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば白内障手術などの患者眼の手術に用いられる手術用顕微鏡が知られている。この手術用顕微鏡は、例えば特許文献1及び2に記載されているように、照明光学系を用いて患者眼の角膜又は眼底を照明光で照明し、且つ角膜又は眼底からの照明光の戻り光を観察光学系を介してカメラ(撮像素子)又は接眼レンズに導く。これにより、術者はカメラで撮影された角膜又は眼底の観察像をモニタを通して観察したり、或いは接眼レンズを介して角膜又は眼底を観察することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-152454号公報
【文献】特開2013-27536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、手術用顕微鏡を用いて眼底の観察を行う場合には、角膜等での照明光の反射によるゴースト及びフレアが発生するため、術者が眼底の観察像を観察し難いという問題がある。このため、従来では患者眼に複数の光ファイバーケーブルの先端部を穿刺して眼底の照明を行っているが、術者の手間及び患者の負担が増加するという問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、術者の手間及び患者の負担を低減しつつ良好な眼底の観察像が得られる眼科装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的を達成するための眼科装置は、対物レンズと、対物レンズを介して、光源からの照明光を患者眼の眼底に向けて出射する照明光学系と、対物レンズと光源との間の照明光の光路上に設けられ、照明光からパターン光を生成するパターン生成素子と、眼底に向けて出射されるパターン光を、対物レンズの光軸に対して垂直方向に走査する光走査部と、対物レンズを介して入射した眼底からのパターン光の戻り光を、撮像素子及び接眼レンズの少なくともいずれか一方に導く観察光学系と、を備える。
【0007】
この眼科装置によれば、眼底の観察時における角膜等での光の反射が大幅に抑えられる。
【0008】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、照明光学系の光軸が対物レンズの光軸に対して偏心しており、照明光学系が、対物レンズを介してパターン光を眼底に対して斜め方向に入射させる。これにより、角膜等からの反射に基づくゴースト及びフレアの影響を回避しつつ眼底を観察することができる。
【0009】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、観察光学系が、戻り光を撮像素子に導き、撮像素子を有するカメラであって、且つ光走査部によるパターン光の走査が行われている間、撮像素子による戻り光の撮像と、戻り光に基づく眼底の一部の観察像の出力と、を繰り返し行うカメラと、を備える。これにより、ゴースト及びフレアの発生が抑えられた良好な観察像が得られる。
【0010】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、カメラからパターン光の1走査分の観察像が出力されるごとに、1走査分の観察像に基づき眼底の合成観察像を生成する合成観察像生成部と、合成観察像生成部が合成観察像を生成するごとに、合成観察像をモニタに出力する表示制御部と、を備える。これにより、ゴースト及びフレアの発生が抑えられた良好な合成観察像が得られる。
【0011】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、光走査部によるパターン光の走査が行われている間、カメラから出力される観察像をモニタに繰り返し出力する表示制御部を備える。これにより、眼底の中でパターン光により走査される走査領域の像をモニタに構成することができる。
【0012】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、パターン生成素子が、照明光からパターン光としてスリット光を生成する。これにより、患者眼に対する光の照射範囲が狭められるので、角膜等での光の反射が抑えられる。
【0013】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、光走査部が、パターン生成素子を垂直方向に変位させることでパターン光を垂直方向に走査する。
【0014】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、パターン生成素子が、照明光学系内に設けられている。
【0015】
本発明の他の態様に係る眼科装置において、観察光学系の光軸が、対物レンズの光軸に対して垂直であり、対物レンズの光軸と観察光学系の光軸との交点に設けられた偏向光学素子であって、且つ対物レンズから入射した戻り光を観察光学系に向けて偏向する偏向光学素子を備える。これにより、術者の正面に観察光学系が配置されることなくなる。また、術者の正面に配置される筐体により術者に圧迫感を与えることがなくなり、術者の負担を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、術者の手間及び患者の負担を低減しつつ良好な眼底の観察像が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の手術用顕微鏡の上面図である。
図2】第1実施形態の手術用顕微鏡の側面図である。
図3】パターン生成素子及び光走査部の説明図である。
図4】傾斜照明モード時にカメラの撮像素子により撮像及び出力される観察像の説明図である。
図5】制御装置の機能ブロック図である。
図6】合成観察像生成部による合成観察像の生成を説明するための説明図である。
図7】第1実施形態の手術用顕微鏡の作用、特に傾斜照明モード時における患者眼の眼底の観察処理の流れを示すフローチャートである。
図8】第2実施形態の手術用顕微鏡の作用、特に傾斜照明モード時における患者眼Eの眼底Efの観察処理の流れを示すフローチャートである。
図9】第3実施形態の手術用顕微鏡の上面図である。
図10】第4実施形態の手術用顕微鏡の顕微鏡本体の一部の側面拡大図である。
図11】パターン生成素子の変形例の説明図である。
図12】パターン生成素子の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態の手術用顕微鏡の全体構成]
図1は、第1実施形態の手術用顕微鏡10(手術顕微鏡システム)の上面図である。図2は、第1実施形態の手術用顕微鏡10の側面図である。なお、図中のX方向は患者(被検者、被手術者ともいう)を基準とした左右方向(患者眼Eの眼幅方向)であり、Z方向は後述の対物レンズ20の光軸OAに平行な作動距離方向(本実施形態では例えば上下方向)であり、Y方向はXZ方向に垂直な方向である。
【0019】
図1及び図2に示すように、手術用顕微鏡10は、本発明の眼科装置に相当するものであり、仰臥位の患者の患者眼Eに対する各種手術に用いられる。この手術用顕微鏡10は、患者眼Eを観察する観察モードとして、患者眼Eの眼底Efの拡大像の観察を行う眼底観察モードを有している。この眼底観察モードは、眼底Efの観察を「0度照明」で行う0度照明モードと、眼底Efの観察を「傾斜照明」で行う傾斜照明モードと、を含む。なお、手術用顕微鏡10は、観察モードとして、患者眼Eの角膜Ecの拡大像の観察を行う角膜観察モードも有しているが、ここでは具体的な説明は省略する。
【0020】
手術用顕微鏡10は、顕微鏡本体10aと操作部12とモニタ14と制御装置16とを備える。
【0021】
顕微鏡本体10aは、0度照明モード時には眼底Efをステレオ同軸照明しながら眼底Efの拡大像を動画撮影して観察像D(画像データ)を出力する。また、顕微鏡本体10aは、傾斜照明モード時には眼底Efに対する後述のスリット光LPの傾斜照明と走査とを行いながらこの眼底Efの拡大像を動画撮影して観察像Dを出力する。
【0022】
操作部12は、制御装置16に有線又は無線接続されている。この操作部12は、顕微鏡本体10aの位置及び姿勢の調整操作(手動アライメント操作)と、患者眼Eの観察モードの切替操作と、顕微鏡本体10aのズーム倍率の変更操作と、を含む手術用顕微鏡10の各種操作の入力を受け付ける。操作部12には、顕微鏡本体10aに設けられたハードウェアキー(スイッチ、ボタン)、操作レバー、マウス、キーボード、及び操作パネル(モニタ14の表示面を含む)等の各種操作デバイスが含まれる。
【0023】
モニタ14は、例えばLCD(Liquid Crystal Display)のようなフラットパネルディスプレイなどの表示デバイスが用いられる。モニタ14は、制御装置16に有線又は無線で接続されており、制御装置16の制御の下、顕微鏡本体10aにより動画撮影された眼底Efの観察像Dを表示する。
【0024】
制御装置16は、手術用顕微鏡10の筐体内に設けられたコンピュータ等の演算装置である。この制御装置16は、操作部12に対する入力操作に応じて顕微鏡本体10aの各部の動作と、モニタ14による観察像D等の表示とを統括的に制御する。なお、制御装置16が、手術用顕微鏡10の筐体外に設けられていてもよい。
【0025】
[顕微鏡本体]
顕微鏡本体10aは、対物レンズ20と、眼底観察用レンズ21(前置レンズともいう)と、反射ミラーRMと、ダイクロイックミラーDMと、第1照明光学系31L,31Rと、第2照明光学系32と、観察光学系40L,40Rと、カメラ60L,60Rと、を備える。
【0026】
対物レンズ20は、Z方向に平行な光軸OAを有しており、患者眼Eに対向する位置に設けられている。反射ミラーRMは、対物レンズ20のZ方向上方向側の位置で且つ光軸OAと、光軸OAに対し垂直な方向(ここではY方向)に延びた後述の観察光学系40L,40Rの光軸OBとの交点に設けられている。そして、反射ミラーRMから光軸OB(Y方向)に沿ってダイクロイックミラーDM、観察光学系40L,40R、及びカメラ60L,60Rが配置されている。第1照明光学系31L,31Rは、ダイクロイックミラーDMのZ方向上方向側の位置に設けられている。第2照明光学系32は、対物レンズ20のZ方向上方向側で且つ反射ミラーRMに対してY方向側にシフトした位置に設けられている。
【0027】
<対物レンズ>
対物レンズ20は、0度照明モード時には、後述の第1照明光学系31L,31Rから出射された照明光L1を、眼底観察用レンズ21を介して眼底Efに照射すると共に、眼底Efからの照明光L1の戻り光LAを透過して反射ミラーRMに向けて出射する。また、対物レンズ20は、傾斜照明モード時には、第2照明光学系32から出射されたスリット光LPを、眼底観察用レンズ21を介して眼底Efに照射すると共に、眼底Efからのスリット光LPの戻り光LBを透過して反射ミラーRMに向けて出射する。
【0028】
眼底観察用レンズ21は、第1照明光学系31L,31R及び第2照明光学系32で共用される。この眼底観察用レンズ21は、対物レンズ20と患者眼Eとの間において、照明光L1の光路とスリット光LPの光路とに挿脱自在に設けられている。眼底観察用レンズ21は、対物レンズ20から入射した光を眼底Efに集光させる。眼底観察用レンズ21は、0度照明モード時及び傾斜照明モード時において、照明光L1及びスリット光LPの各光路に挿入される。眼底観察用レンズ21の各光路への挿脱は、不図示のレンズ挿脱機構により実施される。なお、対物レンズ20の焦点が眼底Efに合せられている場合には、眼底観察用レンズ21は省略される。
【0029】
<反射ミラー>
反射ミラーRMは、本発明の偏向光学素子に相当するものであり、第1照明光学系31L,31R及び観察光学系40L,40Rで共用される。この反射ミラーRMは、対物レンズ20及びダイクロイックミラーDMの一方から入射した光を他方に反射し且つ他方から入射した光を一方に反射する。
【0030】
<ダイクロイックミラー>
ダイクロイックミラーDMは、第1照明光学系31L,31R及び観察光学系40L,40Rで共用されるものであり、第1照明光学系31L,31Rから出射される照明光L1の光路と、観察光学系40L,40Rの光路とを結合する。ダイクロイックミラーDMは、第1照明光学系31L,31Rから出射された照明光L1を反射ミラーRMに向けて反射し、逆に反射ミラーRMから入射した戻り光LA又は戻り光LBを透過して観察光学系40L,40Rに向けて出射する。
【0031】
<第1照明光学系及び第2照明光学系>
第1照明光学系31L,31R及び第2照明光学系32は、対物レンズ20等を介して患者眼Eを照明するための光学系である。
【0032】
(第1照明光学系)
第1照明光学系31L,31Rは、0度照明モード時に眼底Efに対して照明光L1によるステレオ同軸照明を行う。第1照明光学系31L,31Rの光軸OL,ORは、ダイクロイックミラーDM及び反射ミラーRMを介して対物レンズ20の光軸OAと結合する。すなわち、光軸OL、ORと光軸OAとは略一致している。これにより、第1照明光学系31L,31Rは、照明光L1による所謂「0度照明」で眼底Efを照明する。これにより、照明光L1が眼底Ef上で拡散反射されることで、眼底Efの徹照像(レッドレフレックス)をステレオ撮影(観察)することができる。
【0033】
第1照明光学系31L,31Rは、光源31aと、コンデンサーレンズ31bとを含む。光源31aは、例えば半導体光源が用いられ、可視領域の波長を有する照明光L1を出力する。この照明光L1は、コンデンサーレンズ31bを通過し、ダイクロイックミラーDM及び反射ミラーRMにて反射された後、対物レンズ20及び眼底観察用レンズ21を通過して眼底Efに照射される。これにより、眼底Efにて拡散反射された照明光L1の戻り光LAが、対物レンズ20等を透過し、反射ミラーRMにて反射された後、ダイクロイックミラーDMを透過して観察光学系40L,40Rに入射する。
【0034】
(第2照明光学系)
第2照明光学系32は本発明の照明光学系に相当する。第2照明光学系32は、所謂ケーラー照明系であり、光源ムラの無い状態で患者眼Eを照明することができる。この第2照明光学系32は、傾斜照明モード時に眼底Efに対してスリット光LPを照射(投影)すると共に、このスリット光LPを光軸OAに対して垂直方向に走査する。ここで第2照明光学系32の光軸OSは、対物レンズ20の光軸OAに対して垂直な方向(ここではY方向)に偏心している。このため、第2照明光学系32は、反射ミラーRMを介さずに所謂斜め照明で眼底Efを照明可能であり、傾斜照明モード時には眼底Efに対して斜め方向からスリット光LPを照射する。これにより、角膜Ec等からの反射に基づくゴースト及びフレアの影響を回避しつつ眼底Efをステレオ撮影(観察)することができる。
【0035】
第2照明光学系32は、光源32aと、コンデンサーレンズ32bと、パターン生成素子35と、光走査部36と、を含む。
【0036】
光源32aは、例えば半導体光源が用いられ、可視領域の波長を有する照明光L2を出力する。光源32aから出力された照明光L2は、後述のパターン生成素子35によりスリット光LPに変換された後、コンデンサーレンズ32bに入射する。そして、コンデンサーレンズ32bを透過したスリット光LPは、反射ミラーRMを経由することなく対物レンズ20及び眼底観察用レンズ21を通過して眼底Efに対して斜め方向から照射される。また、この眼底Efに照射されたスリット光LPは後述の光走査部36により走査される。これにより、眼底Efからのスリット光LPの戻り光LBが、対物レンズ20を透過し、反射ミラーRMにて反射された後、ダイクロイックミラーDMを透過して観察光学系40L,40Rに入射する。
【0037】
<観察光学系>
観察光学系40Lは、ダイクロイックミラーDMから入射した戻り光LA又は戻り光LBをカメラ60Lに導く光学系である。また、観察光学系40Rは、ダイクロイックミラーDMから入射した戻り光LA又は戻り光LBをカメラ60Rに導く光学系である。
【0038】
観察光学系40L,40R及びその光軸OBは、本実施形態では光軸OAに対して垂直(例えば±20°の範囲内での略垂直を含む)なY方向に延びている。なお、光軸OAに対して垂直な方向であればY方向に限定されるものではなく、観察光学系40L,40R及びその光軸OBが例えばX方向に延びていてもよい。これにより、光路長が長い観察光学系40L,40RがXY平面と略平行な方向に配置される。従って、術者の正面に観察光学系40L,40Rが配置されることなく、術者は無理なく正面のモニタ14の画面(或いは、正面の状況)を見ることができる。また、術者の正面に配置される筐体により術者に圧迫感を与えることがなくなり、術者の負担を小さくすることができる。
【0039】
観察光学系40Lはズームエキスパンダ50Lを備える。ズームエキスパンダ50Lは、不図示の変倍機構により光軸OB方向に移動可能な複数のズームレンズ51,52,53を含む。これにより、観察像Dのズーム倍率を変更することができる。
【0040】
観察光学系40Rは、観察光学系40Lと同じ構成であり、複数のズームレンズ51,52,53を含むズームエキスパンダ50Rを備え、且つ不図示の変倍機構により複数のズームレンズ51,52,53を移動させることで観察像Dのズーム倍率を変更する。ここで、観察光学系40Lと観察光学系40Rとは、観察像Dのズーム倍率を互いに異ならせることができる。
【0041】
<カメラ>
カメラ60L,60Rは、観察光学系40L,40Rから入射する戻り光LA又は戻り光LBを撮像して観察像Dを出力する。
【0042】
カメラ60Lは、光軸OBに沿って配置された結像レンズ61と撮像素子62とを含む。結像レンズ61は、観察光学系40Lから入射した戻り光LA又は戻り光LBを撮像素子62の撮像面に結像させる。撮像素子62は、結像レンズ61により結像された戻り光LA又は戻り光LBを撮像して、制御装置16へ観察像Dを出力する。これにより、0度照明モード時は戻り光LAに基づく眼底Efの通常の観察像D(徹照像)が得られ、傾斜照明モード時には戻り光LBに基づく眼底Efの一部(スリット光LPの照射領域)の観察像Dが得られる。
【0043】
カメラ60Rは、カメラ60Lと同じ構成であり、結像レンズ61と撮像素子62とを含む。これにより、観察光学系40Rから入射した戻り光LA又は戻り光LBが結像レンズ61により撮像素子62の撮像面に結像され、且つ撮像素子62により戻り光LA又は戻り光LBが撮像されて制御装置16に観察像Dが出力される。その結果、眼底観察モードの種類に応じて上述の観察像Dが得られる。なお、カメラ60L,60Rは、結像レンズ61及び撮像素子62の光学配置を互いに独立して変更、すなわち左右でピントを変更可能である。
【0044】
<パターン生成素子及び光走査部>
図3は、パターン生成素子35及び光走査部36の説明図である。図3の符号3Aに示すように、パターン生成素子35は、光軸OAに対して垂直方向に延びたスリット状の光透過パターン35a(スリット穴でも可)が形成されたレチクル、遮光板、遮光フィルタ、絞り、焦点板、或いはマスク等である。これにより、パターン生成素子35は、光源32aから出射された照明光L2からスリット光LPを生成する。換言すると、パターン生成素子35は照明光L2をスリット光LPに変換する。
【0045】
スリット光LPは、光軸OAに対して垂直方向に延びた光学パターンであり、本発明のパターン光に相当する。なお、本実施形態では、スリット光LPがX軸方向に平行であるが、光軸OAに対して垂直方向であれば特に限定はされず、例えばY軸方向に平行であってもよい。
【0046】
パターン生成素子35が照明光L2からスリット光LPを生成することで、図3の符号3Bに示すように、第2照明光学系32から、対物レンズ20及び眼底観察用レンズ21を介して眼底Efの一部にスリット光LPが斜め方向から照射(投影)される。その結果、対物レンズ20及び観察光学系40L,40R等を介して、カメラ60L,60Rによりスリット光LPが照射されている眼底Efの一部の観察像Dを取得することができる。
【0047】
パターン生成素子35は、不図示の挿脱機構により、光源32aから出射される照明光L2の光路に対して挿脱自在である。これにより、眼底Efに対してスリット光LPを照射する場合には照明光L2の光路にパターン生成素子35が挿入される。また、照明光L2の光路からパターン生成素子35を退避させることで、患者眼E(角膜Ec、眼底Ef)に対して照明光L2を斜め方向から照射することができる。
【0048】
光走査部36は、傾斜照明モード時に、パターン生成素子35を走査方向A1,A2に沿って連続的又は間欠的に往復動(変位)させるアクチュエータである。走査方向A1,A2は、光軸OAに対して垂直方向で且つスリット光LP(光透過パターン35a)の短手方向に平行な方向である。例えば、走査方向A1,A2は、スリット光LPがX軸方向に平行である場合にはY軸方向の一方向側と他方向側であり、スリット光LPがY軸方向に平行である場合にはX軸方向の一方向側と他方向側である。これにより、眼底Efをスリット光LPにより走査方向A1,A2に沿って走査することができる。
【0049】
図4は、傾斜照明モード時にカメラ60L,60Rの撮像素子62により撮像及び出力される観察像Dの説明図である。なお、図4では、観察像D内の眼底Efの像の中でスリット光LPが照射されている領域を白表示で簡略的に示し、且つスリット光LPが照射されていない領域をドット表示で簡略的に示している(後述の図6も同様)。
【0050】
図4に示すように、カメラ60L,60Rは、傾斜照明モード時において、眼底Ef上を走査方向A1,A2に沿って走査されるスリット光LPの走査位置ごとに戻り光LBの撮像と観察像Dの出力とを繰り返し実行する。これにより、傾斜照明モード時には、眼底Efを走査方向A1,A2に沿って複数分割した分割領域ごとに撮影した観察像Dが得られる。すなわち傾斜照明モード時には眼底Efの分割撮影が行われる。各観察像Dには、上述の分割領域(スリット光LPが照射されている領域)に相当する分割領域像80が含まれる。
【0051】
<制御装置>
図5は、制御装置16の機能ブロック図である。図5に示すように、制御装置16は、各種のプロセッサ(Processor)及びメモリ等から構成された演算回路を備える。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス[例えばSPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays)]等が含まれる。なお、制御装置16の各種機能は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、同種または異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0052】
制御装置16には、既述の操作部12、モニタ14、第1照明光学系31L,31R、第2照明光学系32、観察光学系40L,40R、カメラ60L,60Rの他に、記憶部18が接続されている。なお、記憶部18には、図示は省略するが、手術用顕微鏡10の制御プログラム等が記憶される。
【0053】
制御装置16は、記憶部18内の制御プログラムを読み出して実行することにより、顕微鏡本体制御部100、画像取得部102、合成観察像生成部104、及び表示制御部106として機能する。以下、制御装置16の「~部」として説明するものは「~回路」、「~装置」、又は「~機器」であってもよい。すなわち、「~部」として説明するものは、ファームウェア、ソフトウェア、及びハードウェアまたはこれらの組み合わせのいずれで構成されていてもよい。
【0054】
顕微鏡本体制御部100は、第1照明光学系31L,31R、第2照明光学系32、観察光学系40L,40R、及びカメラ60L、60Rの作動を制御すると共に、眼底観察用レンズ21の挿脱及びパターン生成素子35の挿脱を制御する。
【0055】
顕微鏡本体制御部100は、操作部12にて0度照明モードへの切替操作がなされた場合に、光源31aを点灯させると共に、照明光L1及びスリット光LPの光路中に眼底観察用レンズ21を挿入させる。また、顕微鏡本体制御部100は、カメラ60L,60Rの撮像素子62による戻り光LAの撮像及び観察像Dの出力を実行させる。これにより、0度照明モード時には眼底Efの広範囲な観察像D(徹照像)が撮像素子62から連続的に出力される。
【0056】
顕微鏡本体制御部100は、操作部12にて傾斜照明モードへの切替操作がなされた場合に、光源32aを点灯させると共に、照明光L2の光路中にパターン生成素子35を挿入させ且つ照明光L1及びスリット光LPの光路中に眼底観察用レンズ21を挿入させる。また、顕微鏡本体制御部100は、光走査部36を駆動してパターン生成素子35を走査方向A1,A2に沿って連続的に往復動させる。さらに、顕微鏡本体制御部100は、パターン生成素子35の位置が変位されるごと、すなわち既述の図4に示したようなスリット光LPの走査位置が変化するごとに、カメラ60L,60Rの撮像素子62による戻り光LBの撮像及び観察像Dの出力を実行させる。これにより、傾斜照明モード時には、既述の図4に示したようにスリット光LPの走査位置ごとに観察像Dが撮像素子62から連続的に出力される。
【0057】
画像取得部102は、0度照明モード時及び傾斜照明モード時に不図示のインタフェースを介してカメラ60L,60Rの撮像素子62から観察像Dを取得する。そして、画像取得部102は、0度照明モード時には取得した観察像Dを表示制御部106へ逐次出力する。また、画像取得部102は、傾斜照明モード時には取得した観察像Dを合成観察像生成部104に逐次出力する。
【0058】
図6は、合成観察像生成部104による合成観察像SDの生成を説明するための説明図である。図6及び既述の図5に示すように、合成観察像生成部104は、傾斜照明モード時に作動する。合成観察像生成部104は、画像取得部102からスリット光LPの走査方向A1における1走査分の観察像Dを取得するごと、又はスリット光LPの走査方向A2における1走査分の観察像Dを取得するごとに、1走査分の観察像Dに基づき眼底Efの合成観察像SDを生成する。
【0059】
具体的には合成観察像生成部104は、スリット光LPの走査方向A1における1走査分の観察像Dを取得した場合、その1走査分の観察像Dの各々から分割領域像80を検出する。例えば合成観察像生成部104は、個々の観察像D内の各画素の輝度値を比較して、輝度値が予め定めた閾値以上となる領域を分割領域像80として検出する。そして、合成観察像生成部104は、各観察像D内の分割領域像80の検出結果に基づき、各観察像D内の分割領域像80を走査方向A1に沿って結合することで合成観察像SDを生成する。合成観察像SDは、眼底Efの中でスリット光LPにより走査された走査領域(走査範囲)の撮影画像に相当する。
【0060】
また、合成観察像生成部104は、スリット光LPの走査方向A2における1走査分の観察像Dを取得した場合も同様に合成観察像SDを生成する。そして、合成観察像生成部104は、合成観察像SDを生成するごとに、この合成観察像SDを表示制御部106に出力する。なお、合成観察像生成部104は、上述の1走査分の観察像Dとして、走査方向A1,A2の1往復走査分の観察像Dに基づき合成観察像SDを生成してもよい。
【0061】
図5に戻って、表示制御部106は、モニタ14の表示制御を行う。この表示制御部106は、0度照明モード時には画像取得部102から逐次入力される観察像Dをモニタ14に逐次表示させ、傾斜照明モード時には合成観察像生成部104から逐次入力される合成観察像SDをモニタ14に逐次表示させる。これにより、術者は、モニタ14を通して眼底Efを観察することができる。
【0062】
[第1実施形態の作用]
図7は、上記構成の第1実施形態の手術用顕微鏡10の作用、特に傾斜照明モード時における患者眼Eの眼底Efの観察処理の流れを示すフローチャートである。
【0063】
図7に示すように、患者眼Eに対する顕微鏡本体10aの手動アライメントが実行された後、術者は操作部12に対して傾斜照明モードへの切替操作を入力する(ステップS1)。この切替操作を受けて顕微鏡本体制御部100が光源32aを点灯させることで、光源32aから照明光L2が出射される(ステップS2)。また同時に、顕微鏡本体制御部100は、照明光L2の光路中にパターン生成素子35を挿入させ、照明光L1及びスリット光LPの光路に眼底観察用レンズ21を挿入させ、カメラ60L,60Rの撮像素子62を作動させる。
【0064】
パターン生成素子35が光源32aから出射された照明光L2からスリット光LPを生成した後、このスリット光LPがコンデンサーレンズ32b、対物レンズ20、及び眼底観察用レンズ21を経て眼底Efに対して斜め方向に照射される(ステップS3)。このように患者眼Eに対してスリット光LPを照射することで患者眼Eに対する光の照射範囲が狭められるので、角膜Ec等での光の反射が抑えられる。また、眼底Efに対して傾斜照明を行うことによっても角膜Ec等での光の反射が抑えられる。その結果、眼底Efに対してスリット光LPの傾斜照明を行うことで、角膜Ec等での光の反射が大幅に抑えられる。
【0065】
そして、眼底Efからのスリット光LPの戻り光LBが、対物レンズ20、反射ミラーRM、ダイクロイックミラーDM、及び観察光学系40L,40Rを経てカメラ60L,60Rの撮像素子62の撮像面に入射する。
【0066】
次いで、顕微鏡本体制御部100は、光走査部36を駆動してパターン生成素子35の走査方向A1,A2の往復移動を開始させることで、眼底Efに対するスリット光LPの走査方向A1,A2の走査を開始させる(ステップS4)。
【0067】
そして、カメラ60L,60Rの撮像素子62が、戻り光LBを撮像して分割領域像80を含む観察像Dを画像取得部102へ出力する(ステップS5)。既述の通り、角膜Ec等での光の反射が大幅に抑えられているので、分割領域像80内のゴースト及びフレアの発生が抑えられる。画像取得部102は、撮像素子62から観察像Dを取得して合成観察像生成部104へ出力する(ステップS6)。
【0068】
眼底Ef上でスリット光LPの走査位置が走査方向A1又は走査方向A2に移動するのに応じて、スリット光LPの走査位置ごとに、撮像素子62による戻り光LBの撮像と、画像取得部102による観察像Dの取得及び合成観察像生成部104への出力とが繰り返し実行される(ステップS7でNO、ステップS8、ステップS5,S6)。これにより、眼底Efが分割撮影される。
【0069】
合成観察像生成部104が、スリット光LPの走査方向A1又は走査方向A2における1走査分の観察像Dを取得すると、合成観察像生成部104が作動する(ステップS7でYES)。合成観察像生成部104は、既述の図6に示したように、1走査分の観察像Dからそれぞれ分割領域像80を検出し、各観察像D内の分割領域像80を走査方向A1又は走査方向A2に沿って結合することで合成観察像SDを生成する(ステップS9)。既述の通り、各分割領域像80内のゴースト及びフレアの発生は抑えられているので、合成観察像SD内におけるゴースト及びフレアの発生も抑えられる。そして、合成観察像生成部104は、合成観察像SDを表示制御部106へ出力する。
【0070】
合成観察像生成部104から合成観察像SDを取得した表示制御部106は、この合成観察像SDをモニタ14に表示させる(ステップS10)。
【0071】
以下同様に、傾斜照明モードが終了するまで、すなわちスリット光LPの走査方向A1,A2の走査が継続している間、既述のステップS5からステップS10までの処理が繰り返し実行される(ステップS11)。これにより、術者は、モニタ14を通して眼底Efの観察を行うことができる。
【0072】
なお、スリット光LPの走査速度及び撮像素子62のフレームレートは十分に高速であり且つ近年のCPU等の演算処理能力の向上により合成観察像SDの生成も高速化可能である。このため、モニタ14に表示される眼底Efの像(合成観察像SD)の表示遅延も、術者が違和感を覚えない程度に低減させることができる。
【0073】
[第1実施形態の効果]
以上のように第1実施形態では、眼底Efに対してスリット光LPを斜め方向に照射しながらスリット光LPを走査方向A1,A2に沿って走査することにより、眼底Efの観察時における角膜Ec等での光の反射が大幅に抑えられる。このため、スリット光LPの走査位置ごとにカメラ60L,60Rにより撮影された観察像Dと、各観察像Dに基づき生成された合成観察像SDと、におけるゴースト及びフレアの発生を大幅に低減することができる。これにより、従来のように患者眼Eに眼底照明用の光ファイバーケルを穿刺する必要が無くなる或いは穿刺数を減らすことができる。その結果、術者の手間及び患者の負担を低減しつつ良好な眼底Efの合成観察像SDが得られる。
【0074】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の手術用顕微鏡10について説明を行う。上記第1実施形態では、カメラ60L,60Rによりスリット光LPの走査位置ごとに撮影された観察像Dに基づき合成観察像SDを生成し、この合成観察像SDをモニタ14に表示している。これに対して、第2実施形態の手術用顕微鏡10ではスリット光LPの走査位置ごとに撮影された観察像Dをモニタ14に表示する。
【0075】
なお、第2実施形態の手術用顕微鏡10は、制御装置16が合成観察像生成部104として機能せず且つ画像取得部102及び表示制御部106の機能が一部異なる点を除けば上記第1実施形態の手術用顕微鏡10と基本的に同じ構成である。このため、上記第1実施形態と機能又は構成上同一のものについては、同一符号を付してその説明は省略する。
【0076】
図8は、第2実施形態の手術用顕微鏡10の作用、特に傾斜照明モード時における患者眼Eの眼底Efの観察処理の流れを示すフローチャートである。なお、ステップS1からステップS5までは既述の図7に示した第1実施形態と基本的に同じであるので、説明を省略する。
【0077】
図8に示すように、第2実施形態の画像取得部102は、傾斜照明モード時に撮像素子62から取得した観察像Dを表示制御部106へ逐次出力する(ステップS6A)。そして、第2実施形態の表示制御部106は、傾斜照明モード時に画像取得部102から逐次入力される合成観察像SDをモニタ14に逐次表示させる(ステップS7A)。これにより、傾斜照明モードが終了するまでの間、すなわちスリット光LPの走査方向A1,A2の走査が継続している間、既述の図4等に示したスリット光LPの走査位置ごとの観察像Dが順番に且つ繰り返し表示される(ステップS8A,S9A)。
【0078】
ここで、各観察像Dの分割領域像80以外の領域、すなわち眼底Efの中でスリット光LPが照射されていない領域の像は暗画像(黒又はグレー画像)となり、逆に各観察像D内の分割領域像80は明画像となる。また、既述の通りスリット光LPの走査速度及び撮像素子62のフレームレートは高速化可能である。このため、スリット光LPの走査位置ごとの観察像D(分割領域像80)を高フレームレートでモニタ14に表示させることで、公知のノンインターレース方式及びプログレッシブ方式等の同様の表示方式でモニタ14の画面内に分割領域像80が表示(走査)される。その結果、眼底Efの中でスリット光LPにより走査される走査領域の像(すなわち合成観察像SD)をモニタ14の画面に構成することができる。この場合には、観察像Dのフレームレートが高いほど合成観察像SDに近い像をモニタ14に表示させることができる。
【0079】
以上のように第2実施形態では、スリット光LPの走査位置ごとの観察像Dを順番に且つ繰り返しモニタ14に表示させることで、合成観察像SDの生成を省略することができる。このため、制御装置16の演算処理量を低減させることができる。また、第2実施形態では、合成観察像SDの生成及び表示を省略している点以外は上記第1実施形態と同じであるので、第1実施形態と同様の効果が得られる。
【0080】
[第3実施形態]
図9は、第3実施形態の手術用顕微鏡10の上面図である。上記各実施形態では観察光学系40L,40Rが戻り光LB(戻り光LAも同様)をカメラ60L,60Rの撮像素子62に導いているが、第3実施形態では観察光学系40L,40Rが戻り光LBを接眼レンズ系63L,63Rの接眼レンズ65に対しても導く。
【0081】
図9に示すように、第3実施形態の手術用顕微鏡10は、顕微鏡本体10aに接眼レンズ系63L,63Rが設けられており、且つ観察光学系40LがビームスプリッタBSLを含むと共に観察光学系40RがビームスプリッタBSRを含む点を除けば上記各実施形態の手術用顕微鏡10と基本的に同じ構成である。このため、上記各実施形態と機能又は構成上同一のものについては同一符号を付してその説明は省略する。
【0082】
ビームスプリッタBSLは、ズームエキスパンダ50Lとカメラ60Lとの間に配置されている。このビームスプリッタBSLは、ズームエキスパンダ50Lから入射した戻り光LA,LBの一部を透過してカメラ60Lへ出射し且つ戻り光LBの残りを接眼レンズ系63Lに向けて反射する。
【0083】
ビームスプリッタBSRは、ズームエキスパンダ50Rとカメラ60Rとの間に配置されている。このビームスプリッタBSRは、ズームエキスパンダ50Rから入射した戻り光LA,LBの一部を透過してカメラ60Rへ出射し且つ戻り光LBの残りを接眼レンズ系63Rに向けて反射する。
【0084】
接眼レンズ系63L,63Rは、結像レンズ64と接眼レンズ65とを含む。接眼レンズ系63Lの結像レンズ64はビームスプリッタBSLから入射した戻り光LBを接眼レンズ65に導く。また、接眼レンズ系63Rの結像レンズ64はビームスプリッタBSRから入射した戻り光LBを接眼レンズ65に導く。これにより、術者は、接眼レンズ65を通して上記第2実施形態と同様に眼底Efを観察することができる。
【0085】
なお、第3実施形態の手術用顕微鏡10は、カメラ60L,60R(撮像素子62)及び接眼レンズ系63L,63Rの双方を備えているが、カメラ60L,60Rを省略して接眼レンズ系63L,63Rのみを備えていてもよい。
【0086】
[第4実施形態]
図10は、第4実施形態の手術用顕微鏡10の顕微鏡本体10aの一部の側面拡大図である。なお、第4実施形態の手術用顕微鏡10は、第2照明光学系32の配置が異なり且つ反射ミラーRMの代わりにダイクロイックミラーDM1が設けられている点を除けば上記各実施形態の手術用顕微鏡10と基本的に同じ構成である。このため、上記各実施形態と機能又は構成上同一のものについては同一符号を付してその説明は省略する。
【0087】
上記各実施形態では、第2照明光学系32の光軸OSが対物レンズ20の光軸OAに対して垂直な方向に偏心しているが、図10に示すように、第2照明光学系32の光軸OSが対物レンズ20の光軸OAと一致、すなわち同軸であってもよい。
【0088】
ダイクロイックミラーDM1(本発明の偏向光学素子に相当)は、第2照明光学系32から出射されたスリット光LPを透過して対物レンズ20に向けて出射し、且つ対物レンズ20から入射した戻り光LBを観察光学系40L,40Rに向けて反射する。これにより、ダイクロイックミラーDM1を介して、第2照明光学系32から眼底Efに対して「0度照明」でスリット光LPを照射することができる。この場合においても、患者眼Eに対してスリット光LPを照射することで患者眼Eに対する光の照射範囲が狭められるので、角膜Ec等での光の反射が抑えられる。このため、上記各実施形態と同様の効果が得られる。
【0089】
なお、ダイクロイックミラーDM1のZ方向上方側に第2照明光学系32を設ける代わりに、上記各実施形態のダイクロイックミラーDMのZ方向上方側の位置に第2照明光学系32を設けてもよい。
【0090】
[パターン生成素子の変形例]
図11及び図12は、パターン生成素子35の変形例の説明図である。上記各実施形態では、パターン生成素子35にスリット状の光透過パターン35aを形成しているが、パターン生成素子35に形成する光透過パターン35aの形状は特に限定されるものではなく適宜変更してもよい。
【0091】
例えば、図11に示すようにパターン生成素子35に矩形状の光透過パターン35bを形成したり或いは図12に示すようにパターン生成素子35に円形状の光透過パターン35cを形成したりしてもよい。これにより、パターン生成素子35により照明光L2から矩形状又は円形状等の各種形状のパターン光を生成し、このパターン光で眼底Ef上を走査することができる。なお、パターン光(スリット光LPを含む)の走査方向は光軸OAに対して垂直方向であれば特に限定はされず、例えばXY軸方向に走査してもよい。
【0092】
[その他]
上記各実施形態では、パターン生成素子35が第2照明光学系32内に設けられているが、光源32aと対物レンズ20との間の照明光L2の光路上であれば特に限定はされず、第2照明光学系32の外部に設けられていてもよい。
【0093】
上記各実施形態では、パターン生成素子35としてレチクル等を例に挙げて説明したが、照明光L2からスリット光LPを生成可能であればパターン生成素子35の種類は特に限定されるものなく、例えば液晶パネル等の透過型表示デバイス或いはデジタルマクロミラーデバイス等の光変調素子を用いてもよい。なお、パターン生成素子35として透過型表示デバイス及び光変調素子を用いる場合には、パターン生成素子35を変位させることなく、透過型表示デバイス及び光変調素子を制御することでスリット光LPの走査を行うことができる。この場合には、パターン生成素子35が本発明の光走査部としても機能する。
【0094】
上記各実施形態では、レチクル等のパターン生成素子35を光軸OAに対して垂直方向に変位させることでスリット光LPを光軸OAに対して垂直方向に走査させているが、スリット光OAをこの垂直方向に走査可能であれば、パターン生成素子35の形状及びその変位法(回転、揺動等を含む)については特に限定はされない。例えば、パターン生成素子35が垂直方向に延びた柱状に形成されており、このパターン生成素子35をその中心軸を中心として回転又は揺動させることで、スリット光LPを垂直方向に走査させてもよい。
【0095】
上記各実施形態では、手術用顕微鏡10がモニタ14を備えているが、モニタ14を備えてはおらず外部モニタを利用する手術用顕微鏡10にも本発明を適用可能である。
【0096】
上記各実施形態では、観察光学系40L,40R及びその光軸OBが光軸OAに対して垂直方向に延びているが、例えば光軸OAに対して平行(略平行を含む)であってもよく、観察光学系40L,40R及びその光軸OBの向きは特に限定はされない。
【0097】
上記各実施形態では、手術用顕微鏡10が双眼式の第1照明光学系31L,31R、観察光学系40L,40R、及びカメラ60L,60Rを備えているが、単眼式であってもよい。
【0098】
上記各実施形態では、患者眼Eの手術に用いられる手術用顕微鏡10を例に挙げて説明したが、患者眼Eの眼底Efを観察する各種眼科装置にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 手術用顕微鏡
10a 顕微鏡本体
12 操作部
14 モニタ
16 制御装置
18 記憶部
20 対物レンズ
21 眼底観察用レンズ
31L,31R 第1照明光学系
31a 光源
31b コンデンサーレンズ
32 第2照明光学系
32a 光源
32b コンデンサーレンズ
35 パターン生成素子
35a,35b,35c 光透過パターン
36 光走査部
40L,40R 観察光学系
50L,50R ズームエキスパンダ
51,52,53 ズームレンズ
60L,60R カメラ
61 結像レンズ
62 撮像素子
63L,63R 接眼レンズ系
64 結像レンズ
65 接眼レンズ
80 分割領域像
100 顕微鏡本体制御部
102 画像取得部
104 合成観察像生成部
106 表示制御部
A1,A2 走査方向
BSL,BSR ビームスプリッタ
D 観察像
DM,DM1 ダイクロイックミラー
E 患者眼
Ec 角膜
Ef 眼底
L1,L2 照明光
LA,LB 戻り光
LP スリット光
OA,OB,OL,OR,OS 光軸
RM 反射ミラー
SD 合成観察像
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12