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特許7423381電気化学モジュール、電気化学装置及びエネルギーシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】電気化学モジュール、電気化学装置及びエネルギーシステム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/248 20160101AFI20240122BHJP
   H01M 8/2432 20160101ALI20240122BHJP
   H01M 8/2465 20160101ALI20240122BHJP
   H01M 8/2475 20160101ALI20240122BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20240122BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240122BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240122BHJP
   C25B 9/70 20210101ALI20240122BHJP
   C25B 9/00 20210101ALN20240122BHJP
【FI】
H01M8/248
H01M8/2432
H01M8/2465
H01M8/2475
H01M8/1226
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/04 Z
C25B9/70
C25B9/00 A
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020058628
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158010
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】神家 規寿
(72)【発明者】
【氏名】越後 満秋
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2003/0235723(US,A1)
【文献】国際公開第2019/189909(WO,A1)
【文献】特表2020-519767(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第03066201(FR,A1)
【文献】特開2002-246062(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/24
H01M 8/12
H01M 8/04
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層の両側にそれぞれ配置されている第1電極及び第2電極とが、基板に沿って形成されている複数の電気化学素子が所定の積層方向に積層されている積層体と、
前記積層方向における前記積層体の第1平面、及び前記第1平面とは反対の第2平面の少なくとも一方を含む積層体平面を押圧可能に配置されている加圧体と、
前記積層方向において、前記第1平面に沿って配置されている平板状の第1挟持体、及び前記第2平面に沿って配置されている平板状の第2挟持体を含み、前記加圧体を介して前記積層体を挟持する挟持体と、を備え、
前記加圧体は
前記積層体平面に沿った第1加圧面部と前記第1加圧面部とは反対の第2加圧面部と、前記第1加圧面部と前記第2加圧面部とを前記積層方向に沿って支持する支持部とを有し
前記第1加圧面部、前記第2加圧面部及び前記支持部に取り囲まれることにより内部空間が形成されており
熱により前記内部空間の封入物が膨張することで前記第1加圧面部及び前記第2加圧面部の少なくとも一方が前記積層方向に膨張可能であり、
複数の前記加圧体が前記積層体平面のうちの前記第1平面又は前記第2平面を押圧可能に配置されている、電気化学モジュール。
【請求項2】
前記加圧体は、前記電気化学素子が発電している時と、前記電気化学素子が発電していない時とにおける、前記積層体及び前記挟持体間の熱膨張差を、前記内部空間の封入物の膨張による前記第1加圧面部及び前記第2加圧面部の少なくとも一方による前記積層方向の膨張により受け止める、請求項1に記載の電気化学モジュール。
【請求項3】
前記第1加圧面部及び前記第2加圧面部の少なくとも一方の前記積層方向の厚みは、前記支持部の前記積層方向に直交する交差方向の厚みよりも薄い、請求項1又は2に記載の電気化学モジュール。
【請求項4】
前記積層体と前記加圧体との間に配置されている板状部材を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気化学モジュール。
【請求項5】
前記支持部は、前記第1加圧面部から前記積層方向に沿って延びる第1支持部と前記第2加圧面部から前記積層方向に沿って前記第1支持部に対向するように延びる第2支持部とを含み、前記第1支持部と前記第2支持部とが対向部分において接合されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の電気化学モジュール。
【請求項6】
前記第1加圧面部及び前記第2加圧面部のうち膨張する面部と前記支持部とは、積層方向に沿った断面視において所定の曲率半径を有する湾曲部を介して接続されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の電気化学モジュール。
【請求項7】
前記加圧体は、前記第1平面を押圧可能に配置されている第1加圧体と、前記第2平面を押圧可能に配置されている第2加圧体とを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の電気化学モジュール。
【請求項8】
加熱により前記内部空間の封入物が膨張することで前記第1加圧面部及び前記第2加圧面部の両方が膨張可能である、請求項1~7のいずれか1項に記載の電気化学モジュール。
【請求項9】
前記加圧体の熱膨張率は、前記挟持体を構成する部材の熱膨張率よりも大きい、請求項1~8のいずれか1項に記載の電気化学モジュール。
【請求項10】
前記挟持体は、フェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、又はこれらとセラミックスとの複合体から形成されている、請求項9に記載の電気化学モジュール。
【請求項11】
前記加圧体は、オーステナイト系ステンレスから形成されている、請求項9又は10に記載の電気化学モジュール。
【請求項12】
前記第1挟持体及び前記第2挟持体の少なくとも一方は、前記積層体を取り囲む筐体の一部である、請求項1~11のいずれか1項に記載の電気化学モジュール。
【請求項13】
前記挟持体は、
前記積層方向において、前記第1平面に沿って配置されている平板状の第1プレート、及び前記第2平面に沿って配置されている平板状の第2プレートを含み、前記加圧体を介して前記積層体を挟持するプレートと、
前記積層体、前記加圧体及び前記プレートを収容する筐体とを有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の電気化学モジュール。
【請求項14】
前記電気化学素子は固体酸化物形燃料電池である、請求項1~13のいずれか1項に記載の電気化学モジュール。
【請求項15】
前記電気化学素子は固体酸化物形電解セルである、請求項1~13のいずれか1項に記載の電気化学モジュール。
【請求項16】
前記電気化学素子が金属支持体を有する請求項14又は15に記載の電気化学モジュール。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の電気化学モジュールと、前記電気化学モジュールに還元性成分を含有するガスを流通する燃料変換器、あるいは前記電気化学モジュールで生成する還元性成分を含有するガスを変換する燃料変換器と、を少なくとも有する電気化学装置。
【請求項18】
請求項1~16のいずれか1項に記載の電気化学モジュールと、前記電気化学モジュールから電力を取り出すあるいは前記電気化学モジュールに電力を流通する電力変換器とを少なくとも有する電気化学装置。
【請求項19】
請求項17または18に記載の電気化学装置と、前記電気化学装置もしくは燃料変換器から排出される熱を再利用する排熱利用部とを有するエネルギーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学モジュール、電気化学装置及びエネルギーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の電池セルを積層した電池モジュールが開発されている。複数の電池セルに供給される燃料ガス及び酸化剤ガス等のガス漏れの抑制及び電池セル間の電気抵抗の抑制等のため、弾性体によってある程度の加圧力が複数の電池セルに加えられている。電池セルは高温で発電を行うが、温度変化によって膨張及び収縮を繰り返す。このような電池セルの膨張及び収縮が生じる場合であっても、弾性体による電池セルへの加圧力の変動が少ないことが好ましい。つまり、電池セルに用いられる弾性体は、電池セルからの膨張及び収縮による反力に比例せず、変位がある程度増加すると、バネ定数が低下するような非線形特性を有することが好ましい。特許文献1、2には、電池セルに安定した加圧力を加圧可能な弾性体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-153679号公報
【文献】特開2016-62852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2のような弾性体は、高温における強度やクリープ許容応力が大きい金属材料を用いて形成される。しかし、数年に及ぶ長期間の使用を考慮すると、金属材料で形成される弾性体におけるクリープ変形が避けられない。つまり、被加圧体に所望の加圧力を加えるために弾性体に所望の加圧力が加わっている場合、弾性体の内部には、断面二次モーメント等により表される、所望の加圧力に釣り合う応力(以下、内部発生応力という)が生じている。内部発生応力が大きくなった場合に使用温度および使用時間から制限されるクリープ許容応力を超える場合があり、特に500℃を超える高温領域ではクリープ変形に対する耐久性に問題がある。クリープ変形が生じた場合には、弾性体からの加圧力が低下し、電池セルの膨張及び収縮に応じて必要となる加圧力が不足してしまう。
【0005】
そこで、本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、クリープ変形の影響を抑制して必要な加圧力を与えることが可能な加圧体を備える電気化学モジュール、電気化学装置及びエネルギーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの特徴構成は、
電解質層と、前記電解質層の両側にそれぞれ配置されている第1電極及び第2電極とが、基板に沿って形成されている複数の電気化学素子が所定の積層方向に積層されている積層体と、
前記積層方向における前記積層体の第1平面、及び前記第1平面とは反対の第2平面の少なくとも一方を含む積層体平面を押圧可能に配置されている加圧体と、
前記積層方向において、前記第1平面に沿って配置されている平板状の第1挟持体、及び前記第2平面に沿って配置されている平板状の第2挟持体を含み、前記加圧体を介して前記積層体を挟持する挟持体と、を備え、
前記加圧体は
前記積層体平面に沿った第1加圧面部と前記第1加圧面部とは反対の第2加圧面部と、前記第1加圧面部と前記第2加圧面部とを前記積層方向に沿って支持する支持部とを有し
前記第1加圧面部、前記第2加圧面部及び前記支持部に取り囲まれることにより内部空間が形成されており
熱により前記内部空間の封入物が膨張することで前記第1加圧面部及び前記第2加圧面部の少なくとも一方が前記積層方向に膨張可能であり、
複数の前記加圧体が前記積層体平面のうちの前記第1平面又は前記第2平面を押圧可能に配置されている点にある。
【0007】
上記特徴構成によれば、加圧体は、積層体平面に沿った第1加圧面部と第2加圧面部と支持部とに取り囲まれた内部空間を有するように形成されている。熱により内部空間の封入物が膨張すると、第1加圧面部及び第2加圧面部の少なくとも一方が積層方向に膨張可能に構成されている。
【0008】
ここで、電気化学モジュールは高温で発電を行い、温度変化によって積層体及び挟持体の少なくともいずれかが熱により膨張する。この場合、積層体と挟持体との間隔は、積層体等の膨張前後で変動し、積層体等に適切な荷重を負荷できない可能性がある。本特徴構成によれば、加圧体の内部空間の封入物が熱により膨張し、その膨張による内圧により第1加圧面部及び第2加圧面部の少なくとも一方が積層方向において内部空間と離間する側に膨張する。よって、第1加圧面部及び第2加圧面部の少なくとも一方は、膨張により一対の挟持体の間において積層体等を積層方向に押圧して挟持することができる。第1加圧面部及び第2加圧面部の少なくとも一方は内圧により膨張しているため、加圧体のクリープ変形による加圧力の低下が抑制され、長期間にわたって積層体等に適切な荷重を与えることができる。よって、電気化学モジュールにおいて、内部抵抗の増大を抑制し、反応ガスのシール性の低下を抑制できる。
【0009】
また、内部空間の封入物は例えば空気等であり、温度によって体積及び圧力が変化するものの、経時的に物理的な変化はほとんどない。よって、内部空間の封入物による膨張は経時的に変化しにくい内圧を生じさせ、この内圧により加圧体が膨張する。これにより、加圧体が積層体等に例えば概ね一定の所定の圧力を長期間に亘って与えることができ、電気化学モジュールの長期間の使用に適している。
また、積層体の第1平面及び第2平面の少なくとも一方と、挟持体の平面との間に、積層体平面に沿った第1加圧面部及び第2加圧面部を有する加圧体を配置するという簡単な構成で、積層体等の膨張を考慮した小型、軽量かつ低コストな電気化学モジュールを構成できる。
【0010】
なお、電解質層の両側に第1電極及び第2電極がそれぞれ配置されている構成には、第1電極が電解質層に接触して配置されている場合と、第1電極が介在層を介して電解質層に面して配置されている場合のいずれかの構成を含む。第2電極と電解質層との関係も同様である。介在層としては、例えば反応防止層及び中間層等が含まれる。
【0011】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、
前記加圧体は、前記電気化学素子が発電している時と、前記電気化学素子が発電していない時とにおける、前記積層体及び前記挟持体間の熱膨張差を、前記内部空間の封入物の膨張による前記第1加圧面部及び前記第2加圧面部の少なくとも一方による前記積層方向の膨張により受け止める点にある。
【0012】
電気化学素子が発電していない低温時(例えば室温で約20℃等の時)から、電気化学素子が発電している高温時(例えば約650℃~約950℃等の時)に変化すると、積層体及び挟持体等が膨張し、積層体と挟持体との間の間隔が変動し、積層体等に適切な荷重を負荷できない可能性がある。
本特徴構成によれば、加圧体の内部空間の封入物が熱により膨張し第1加圧面部及び第2加圧面部の少なくとも一方が積層方向に膨張するため、その膨張により一対の挟持体の間において積層体を積層方向に押圧して挟持することができる。よって、内部抵抗の増大を抑制し、反応ガスのシール性の低下を抑制できる。
【0013】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、
前記第1加圧面部及び前記第2加圧面部の少なくとも一方の前記積層方向の厚みは、前記支持部の前記積層方向に直交する交差方向の厚みよりも薄い点にある。
【0014】
上記特徴構成によれば、第1加圧面部及び前記第2加圧面部の少なくとも一方は、支持部の厚みよりも薄いため、内部空間の封入物の膨張によって積層方向に膨張し易い。よって、第1加圧面部及び前記第2加圧面部の少なくとも一方は、内部空間の封入物の膨張による内圧により積層体等を押圧する。一方、支持部の厚みが第1加圧面部及び第2加圧面部の少なくとも一方よりも厚いため、積層体を押圧することによりかかる荷重によって支持部が座屈など変形するのを抑制できる。
【0015】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、
前記積層体と前記加圧体との間に配置されている板状部材を備える点にある。
【0016】
上記特徴構成によれば、積層体と加圧体との間に板状部材が備えられているため、加圧体は板状部材を介して積層体を押圧する。よって、積層体の平面に沿って概ね均一に荷重を負荷できる。
【0017】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、
前記支持部は、前記第1加圧面部から前記積層方向に沿って延びる第1支持部と前記第2加圧面部から前記積層方向に沿って前記第1支持部に対向するように延びる第2支持部とを含み、前記第1支持部と前記第2支持部とが対向部分において接合されている点にある。
【0018】
上記特徴構成によれば、第1支持部は第1加圧面部から積層方向に延びており、第2支持部は第1支持部に対向するように第2加圧面部から積層方向に延びている。この第1支持部と第2支持部とを対向部分で接合することで、第1加圧面部、第2加圧面部、第1支持部及び第2支持部により内部空間を形成できる。
【0019】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、
前記第1加圧面部及び前記第2加圧面部のうち膨張する面部と前記支持部とは、積層方向に沿った断面視において所定の曲率半径を有する湾曲部を介して接続されている点にある。
【0020】
上記特徴構成によれば、膨張する側の面部と支持部とが、所定の曲率半径を有する湾曲部を介して接続されている。例えば、第1加圧面部と支持部とが湾曲部を介して接続されているとする。内部空間の封入物が膨張して第1加圧面部が膨張することで、第1加圧面部と支持部との接続部分に応力がかかる。この場合、第1加圧面部自身の熱膨張力や第1加圧面部と支持部との熱膨脹差により発生する応力が、第1加圧面部の平面方向にかかる場合がある。この第1加圧面部の平面方向にかかる応力は、積層体の積層方向の押圧には不要な応力であり、かつ、第1加圧面部と支持部との接続部分に過度の負荷を与える場合がある。湾曲部は、この接続部分に係る不要な応力を吸収する。つまり、所定の曲率半径を有する湾曲部が変形することによって積層体の押圧に不要な平面方向の応力が吸収されるため、第1加圧面部と支持部との接続部分の破壊を低減できる。
【0021】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、
前記加圧体は、前記第1平面を押圧可能に配置されている第1加圧体と、前記第2平面を押圧可能に配置されている第2加圧体とを含む点にある。
【0022】
上記特徴構成によれば、積層体の積層体平面の両面をそれぞれ押圧可能な第1加圧体及び第2加圧体が備えられている。これにより、積層体等の積層方向の両面を第1加圧体及び第2加圧体により押圧し、積層体等に適切な荷重を負荷できる。
【0023】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、
加熱により前記内部空間の封入物が膨張することで前記第1加圧面部及び前記第2加圧面部の両方が膨張可能である点にある。
【0024】
上記特徴構成によれば、加圧体は第1加圧面部及び第2加圧面部の両面により積層体等を押圧することができる。
【0025】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、前記加圧体の熱膨張率は、前記挟持体を構成する部材の熱膨張率よりも大きい点にある。
【0026】
例えば、加圧体の熱膨張量が挟持体の熱膨張量よりも小さい場合には、熱膨張により積層体と挟持体との間の間隔が大きくなると、加圧体は、その膨張を用いても積層体等に適切な荷重を付与できない場合がある。
【0027】
本特徴構成によれば、加圧体の熱膨張率は挟持体よりも大きい。そのため、内部空間の封入物の熱膨張により加圧体が熱膨脹することで、挟持体の熱膨張により拡大した積層体と挟持体の間隔を補完することができる。つまり、熱膨張により積層体と挟持体との間の間隔が大きく広がる方向に変動した場合でも、より大きく熱膨張する加圧体によって、適切な荷重を積層体等に負荷できる。
【0028】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、前記挟持体は、フェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、又はこれらとセラミックスとの複合体から形成されている点にある。
【0029】
本特徴構成によれば、挟持体に用いられる上記の材料は、比較的に熱膨張率が小さい。よって、上記の材料により挟持体を形成することで、例えば発電時に高温になった場合に、挟持体の熱膨張量を小さく抑えることができる。これにより、熱膨張による積層体と挟持体との間の間隔の広がりを小さく抑えることができる。よって、加圧体の熱膨張率が比較的に大きくない場合であっても、前述の間隔が変動した後に適切な荷重を加圧体により積層体に負荷できる。
また、挟持体の熱膨張量が小さいため、挟持体の膨張による荷重による電気化学素子の基板等の位置ずれ及び破損等を抑制できる。
【0030】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、前記加圧体は、オーステナイト系ステンレスから形成されている点にある。
【0031】
本特徴構成によれば、加圧体に用いられる上記の材料は、比較的に熱膨張率が大きい。よって、熱膨張により積層体と挟持体との間の間隔が変動した場合でも、内部空間の封入物の熱膨張によって大きく熱膨張する加圧体によって、前述の間隔の変動を補完し、適切な荷重を積層体等に負荷できる。
【0032】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、前記第1挟持体及び前記第2挟持体の少なくとも一方は、前記積層体を取り囲む筐体の一部である点にある。
【0033】
本特徴構成によれば、第1及び第2挟持体の少なくとも一方が筐体の一部であるため、積層体の少なくとも一方を取り囲んで一体の電気化学モジュールとして容易に構成できる。
【0034】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、
前記挟持体は、
前記積層方向において、前記第1平面に沿って配置されている平板状の第1プレート、及び前記第2平面に沿って配置されている平板状の第2プレートを含み、前記加圧体を介して前記積層体を挟持するプレートと、
前記積層体、前記加圧体及び前記プレートを収容する筐体とを有する点にある。
【0035】
本特徴構成によれば、積層体が、第1平面側では加圧体を介して第1プレートに挟持され、第2平面側では加圧体を介して第2プレートに挟持された状態で、筐体内に収容されている。よって、電気化学モジュールを筐体内に収容した状態で、筐体で挟み込んだプレート及び加圧体を介して積層体等に適切な荷重を負荷できる。
【0036】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、前記電気化学素子は固体酸化物形燃料電池である点にある。
【0037】
本特徴構成によれば、電気化学素子は固体酸化物形燃料電池であり、発電時には例えば約650℃~約950℃等の高温となる。よって、積層体及び挟持体等は、高温にさらされることで膨張する。このとき、積層体の熱膨張と挟持体の熱膨張との間に熱膨張差が生じると、積層体と挟持体との間の間隔が発電時と発電していない時とで異なる。
加圧体は、内部空間の封入物の熱膨張によって積層体と挟持体との間隔が変動した場合でも、挟持体との間で積層体に適切な荷重を付与する。これにより、電気化学モジュールにおいて、内部抵抗の増大を抑制し、反応ガスのシール性の低下を抑制できる。
【0038】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、前記電気化学素子は固体酸化物形電解セルである点にある。
【0039】
上記の特徴構成によれば、耐久性・信頼性および性能に優れた電気化学素子が固体酸化物形電解セルとして電解反応によるガスの生成を行うことができるので、高耐久・高性能な固体酸化物形電解セルを得る事ができる。
【0040】
[構成]
本発明に係る電気化学モジュールの更なる特徴構成は、電気化学素子が金属支持体を有する点にある。
【0041】
上記特徴構成によれば、電気化学素子が金属支持体を有するため、強度が高く、信頼性・耐久性に優れた電気化学素子を実現することができる。
【0042】
[構成]
本発明に係る電気化学装置の特徴構成は、上記の電気化学モジュールと、前記電気化学モジュールに還元性成分を含有するガスを流通する燃料変換器、あるいは前記電気化学モジュールで生成する還元性成分を含有するガスを変換する燃料変換器と、を少なくとも有する点にある。
【0043】
上記の特徴構成によれば、電気化学モジュールと電気化学モジュールに還元性成分を含有するガスを流通する燃料変換器を有する。よって、電気化学モジュールを燃料電池として動作させる場合、改質器などの燃料変換器によって、都市ガス等の既存の原燃料供給インフラを用いて供給される天然ガス等から水素を生成し、燃料電池に流通させる構成とすると、耐久性・信頼性および性能に優れた電気化学モジュールを備えた電気化学装置を実現することができる。また、電気化学モジュールから排出される未利用の燃料ガスをリサイクルするシステムを構築し易くなるため、高効率な電気化学装置を実現することができる。
【0044】
更に、上記の特徴構成によれば、電気化学モジュールと電気化学モジュールで生成する還元性成分を含有するガスを変換する燃料変換器を有する。よって、電気化学モジュールを電解セルとして動作させる場合は、例えば、水の電解反応によって生成する水素を燃料変換器で一酸化炭素や二酸化炭素と反応させてメタンなどに変換する電気化学装置とすることが出来るが、このような構成にすると、耐久性・信頼性および性能に優れた電気化学モジュールを備えた電気化学装置を実現することができる。
【0045】
[構成]
本発明に係る電気化学装置の特徴構成は、上記の電気化学モジュールと、前記電気化学モジュールから電力を取り出すあるいは前記電気化学モジュールに電力を流通する電力変換器とを少なくとも有する点にある。
【0046】
上記の特徴構成によれば、電力変換器は、電気化学モジュールが発電した電力を取り出し、あるいは、電気化学モジュールに電力を流通する。これにより、上記のように電気化学モジュールは、燃料電池として作用し、あるいは、電解セルとして作用する。よって、上記構成によれば、燃料等の化学的エネルギーを電気エネルギーに変換する、あるいは電気エネルギーを燃料等の化学的エネルギーに変換する効率を向上できる電気化学モジュール等を提供することができる。
なお、例えば、電力変換器としてインバータを用いる場合、耐久性・信頼性および性能に優れた電気化学モジュールから得られる電気出力を、インバータによって昇圧したり、直流を交流に変換したりすることができるため、電気化学モジュールで得られる電気出力を利用しやすくなるので好ましい。
【0047】
[構成]
本発明に係るエネルギーシステムの特徴構成は、上記の電気化学装置と、前記電気化学装置もしくは燃料変換器から排出される熱を再利用する排熱利用部とを有する点にある。
【0048】
上記の特徴構成によれば、電気化学装置と、電気化学装置もしくは燃料変換器から排出される熱を再利用する排熱利用部を有するので、耐久性・信頼性および性能に優れ、かつエネルギー効率にも優れたエネルギーシステムを実現することができる。なお、電気化学装置もしくは燃料変換器から排出される未利用の燃料ガスの燃焼熱を利用して発電する発電システムと組み合わせてエネルギー効率に優れたハイブリットシステムを実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】電気化学モジュールの断面図である。
図2】電気化学モジュールの上面図である。
図3】電気化学モジュールの側面図である。
図4】加圧体の配置の様子を示す上面図である。
図5】第1の加圧体の構成図である。
図6】第1の加圧体の膨張の様子を示す説明図である。
図7】第2の加圧体の構成図である。
図8】第3の加圧体の構成図である。
図9】電気化学モジュールの概略図である。
図10】別の形態1に係る電気化学モジュールの断面図である。
図11】別の形態2に係る電気化学モジュールの断面図である。
図12図11の電気化学モジュールの上面図である。
図13図11の電気化学モジュールの側面図である。
図14】電気化学素子の概略図である。
図15図14におけるXV-XV断面図である。
図16図14におけるXVI-XVI面図である。
図17図14におけるXVII-XVII断面図である。
図18図14におけるXVIII-XVIII断面図である。
図19図14におけるXIX-XIX断面図である。
図20図14におけるXX-XX断面図である。
図21図14におけるXXI-XXI断面図である。
図22図14におけるXXII-XXII断面図である。
図23】電気化学反応部の要部拡大図である。
図24】エネルギーシステムの概略図である。
図25】別の形態に係る電気化学モジュールの説明図である。
図26】別のエネルギーシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
〔実施形態〕
以下に、本発明の実施形態に係る電気化学モジュールM、電気化学装置及びエネルギーシステムについて説明する。なお、層の位置関係などを表す際、例えば電極層から見て電解質層の側を「上」「上側」、第一板状体の側を「下」「下側」などと呼ぶ。また、本発明は電気化学モジュールMを垂直あるいは水平方向に設置しても同じ効果が得られるため、「上」「下」をそれぞれ「左」「右」と読み替えても構わない。
【0051】
(1)電気化学モジュールMの全体構成
以下に、電気化学モジュールMの全体構成を説明する。図1に示すように、電気化学モジュールMは、電気化学素子積層体(積層体)Sと、電気化学素子積層体Sを内装する概ね直方体状の容器(筐体、第1挟持体、第2挟持体)200とを備えている。電気化学素子A(図9)は発電を行う素子であり、図1の断面視において紙面手前から紙面奥方向に沿って延びる板状に形成されている。そして、電気化学素子積層体Sは、複数の平板状の電気化学素子Aが図1の断面視において上下の積層方向に積層されて構成されている。本実施形態では、電気化学素子AとしてSOFC(Solid Oxide Fuel Cell)を例に挙げて説明する。
【0052】
また、電気化学モジュールMは、容器200の外部から、第一ガスを電気化学素子積層体Sに供給する第一ガス供給部61と、電気化学素子積層体Sにおいて反応後の第一ガスを排出する第一ガス排出部62とを備えている。
【0053】
容器200には、図1図3に示すように、第二ガス供給部71が設けられており、容器200の外部から電気化学素子積層体Sに第二ガスを供給する。電気化学素子積層体Sにおいて反応後の第二ガスは、容器200に設けられた第二ガス排出部72から外部に排出される。
ここでは、第一ガスは例えば燃料ガス等の還元性成分ガスであり、第二ガスは空気等の酸化性成分ガスである。
【0054】
また、電気化学モジュールMは、図1の断面視において、電気化学素子積層体Sの両側面に開口付板部材240を備えている。開口付板部材240は、電気化学素子積層体Sの両側面に対応して、電気化学素子Aの積層方向に沿って延びる板状部材であり、電気化学モジュールMにおける電気的短絡(ショート)を防止するため、マイカやセラミックスなどの絶縁材料が好ましい。開口付板部材240には、電気化学素子積層体Sの平面方向に沿って貫通する複数の開口240aが形成されている。
【0055】
よって、電気化学素子積層体Sは、第一ガス供給部61から燃料ガスの供給を受け、第二ガス供給部71から開口付板部材240の開口240aを介して空気の供給を受け、燃料ガス及び空気中の酸素を電気化学反応させて発電する。電気化学反応後の燃料ガスは第一ガス排出部62から外部に排出される。また、電気化学反応後の空気は、開口付板部材240の開口240aを介して第二ガス排出部72に導かれ、第二ガス排出部72から外部に排出される。
【0056】
なお、ここでは、電気化学素子積層体Sの両側面に隣接して開口付板部材240が設けられているが、必須ではなく、いずれか一方が設けられていてもよいし、両方が省略されてもよい。
【0057】
また、電気化学モジュールMは、電気化学素子積層体Sの上部に、電気化学素子積層体S側から外側に向かって順に、上部絶縁体(板状部材)210T、上部加圧体400T、上部プレート(第1挟持体)230Tを備えている。同様に、電気化学モジュールMは、電気化学素子積層体Sの下部に、電気化学素子積層体S側から外側に向かって順に、下部絶縁体(板状部材)210B、下部加圧体400B、下部プレート(第2挟持体)230Bを備えている。
電気化学素子積層体Sについては、後で詳述する。
なお、以下において、電気化学素子積層体Sに対して上部に配置されている部材には符号番号にTを付しており、電気化学素子積層体Sに対して下部に配置されている部材には符号番号にBを付している。また、上部及び下部の部材を総称して指す場合には符号番号のみを付している。例えば、図1等では、上部の部材及び下部の部材をそれぞれ区別して符号番号にT及びBを付しているが、図5図8等では上部の部材及び下部の部材を総称して示すためにT及びBは付していない。
【0058】
(2)絶縁体、加圧体、プレート及び容器
以下に、絶縁体(上部及び下部絶縁体210T及び210B)210、加圧体(上部及び下部加圧体400T及び400B)400、プレート(上部及び下部プレート230T及び230B)230、容器200についてさらに説明する。
【0059】
上部絶縁体210Tは、板状部材であり、電気化学素子積層体Sの上部平面(第1平面)を覆うように配置されている。上部絶縁体210Tは、例えば硬質マイカやセラミックスから形成されており、電気化学素子積層体Sを外部から電気的に絶縁している。
【0060】
上部加圧体400Tは、上部絶縁体210Tの上部に配置されている。上部加圧体400Tは、図1図5図8に示すように、第1加圧面部401Ta(図1の401Ta、図5図8の401a)と、第2加圧面部401Tb(図1の401Tb、図5図8の401b)と、支持部403T(図1の403T、図5図8の403)とを有する。支持部403Tは両端が開口した円筒形状に形成されている。円筒形状の支持部403Tの一端には、第1加圧面部401Taが水平方向に沿うように連結されている。一方、円筒形状の支持部403Tの他端には、第2加圧面部401Tbが水平方向に沿うように連結されている。そして、上部加圧体400Tは、第1加圧面部401Ta、第2加圧面部401Tb及び支持部403Tにより囲まれる密閉された内部空間405Tを有する。
【0061】
上部加圧体400Tは、第1加圧面部401Taが上部絶縁体210Tの平面に面するように、第2加圧面部401Tbが上部プレート230Tの平面に面するように配置されている。本実施形態では、例えば図1及び図4に示すように複数個の上部加圧体400Tが上部絶縁体210Tの上部に配置されている。図4の例では、12個の上部加圧体400Tが上部絶縁体210Tの平面内において概ね均等に敷き詰められるように配置されている。加圧体(上部及び下部加圧体400T及び400B)400については後述する。
【0062】
上部プレート230Tは、板状部材であり、上部加圧体400Tの上部に配置されており、高温における曲げ強度の高いセラミックス系材料、例えば99アルミナから形成されている。上部プレート230Tは、上部加圧体400Tの少なくとも一部と接触する。
【0063】
上部プレート230Tは、下部プレート230Bとともに、容器200から所定の荷重を受けて締め付けられており、電気化学素子積層体Sと、一対の上部及び下部絶縁体210T及び210Bと、上部及び下部加圧体400T及び400Bとを挟みこんでいる。ここで、荷重とは、例えば1mm当たり等の単位面積当たりの圧力である。
【0064】
下部絶縁体210Bは、電気化学素子積層体Sの下部平面(第2平面)を覆うように配置されている。下部加圧体400Bは下部絶縁体210Bの下部に、下部プレート230Bは下部加圧体400Bの下部に配置されている。下部絶縁体210B、下部加圧体400B及び下部プレート230Bは、それぞれ上部絶縁体210T、上部加圧体400T及び上部プレート230Tと同様である。なお、下部加圧体400Bは、第1加圧面部401Baと、第2加圧面部401Bbと、支持部403Bとを有する。両端が開口した円筒形状の支持部403Bの一端に第1加圧面部401Baが水平方向に沿うように連結されており、支持部403Bの他端に第2加圧面部401Bbが水平方向に沿うように連結されている。そして、下部加圧体400Bは、第1加圧面部401Ba、第2加圧面部401Bb及び支持部403Bにより囲まれる密閉された内部空間405Bを有する。下部加圧体400Bは、第1加圧面部401Baが下部絶縁体210Bの平面に面するように、第2加圧面部401Bbが下部プレート230Bの平面に面するように配置されている。
【0065】
電気化学素子積層体Sを内装する容器200は、図1図3に示すように、概ね直方体状の容器である。容器200は、下方が開口した箱状の上蓋(第1挟持体)201と、上方が開口した下蓋(第2挟持体)203とを含む。上蓋201の下蓋203と対向する端面には連結部202が設けられており、下蓋203の上蓋201と対向する端面には連結部205が設けられている。連結部202と連結部205とが、例えば溶接されることで、上蓋201と下蓋203とが連結され、内部に直方体状の空間が形成される。
【0066】
本実施形態では、図1に示すように、下蓋203の上下方向(電気化学素子Aの積層方向)の深さは、上蓋201の深さよりも深い。ただし、上蓋201及び下蓋203は、一体として内部に空間を形成できればよく、深さの関係はこれに限定されない。例えば、上蓋201の深さが下蓋203のよりも深くてもよい。
【0067】
図1図3に示すように、容器200の上下方向の中央部において、下蓋203の対向する一対の側壁それぞれに第二ガス供給部71及び第二ガス排出部72が形成されている。
【0068】
なお、ここでは、下蓋203に第二ガス供給部71及び第二ガス排出部72が形成されている。しかし、第二ガス供給部71及び第二ガス排出部72の形成位置はこれに限定されず、容器200のいずれの位置に形成されてもよい。第二ガス供給部71及び第二ガス排出部72は、例えば上蓋201に形成されてもよい。
【0069】
上蓋201は、図1図2に示すように、上蓋201の外縁よりも一回り小さい開口201cを有している。そして、図1の断面視において、開口201cに隣接して、電気化学素子積層体Sに面する内方側の端部が第1端部201a及び第2端部201bに分岐している。そして、第1端部201aは容器200の内方に向かって平面方向に所定長さで延びており、第2端部201bは、第1端部201aから分岐して容器200の下方に所定長さで延びている。第1端部201aと第2端部201bとは、断面視において概ね90°を成しており、L字状の角部を構成している。このL字の角部は、図2に示す上蓋201の上面視の外縁の内方側に、外縁に沿って形成されている。これにより、第1端部201aの終端により、図1図2に示すように前述の通り上蓋201の外縁よりも一回り小さい開口201cが上蓋201の上面に形成されている。
【0070】
下蓋203は、上蓋201と同様に、図1に示す断面視において、概ね90°を成すL字状の角部を構成する第1端部203a及び第2端部203bを有している。そして、第1端部203aの終端により、図1に示すように、下蓋203の外縁よりも一回り小さい開口203cが形成されている。
【0071】
図1に示すように、上蓋201の第1端部201a及び第2端部201bが形成するL字の角部には、一対の開口付板部材240の上端と、上部絶縁体210Tと、上部プレート230Tとが嵌め込まれている。具体的には、電気化学素子積層体Sの平面方向に沿う上部プレート230Tは、その外周端部の上面が第1端部201aの下面(L字の角部の内面の一部)に接触して支持されている。また、電気化学素子積層体Sの側面沿った開口付板部材240は、その上端の外面が、第2端部201bの内方側面(L字の角部の内面の一部)に接触して支持されている。上部絶縁体210Tは、上部プレート230T及び開口付板部材240を介して、第1端部201a及び第2端部203bからなるL字の角部に支持されている。また、上部加圧体400Tは、上部絶縁体210Tと、上部プレート230Tとの間に位置するように配置されている。
【0072】
同様に、下蓋203の平面方向に対向する一対のL字の角部には、一対の開口付板部材240の下端と、下部絶縁体210Bと下部プレート230Bとが嵌め込まれている。下部加圧体400Bは、下部絶縁体210Bと、下部プレート230Bとの間に位置するように配置されている。
そして、電気化学素子積層体Sは、その上面が、上部プレート230T、上部加圧体400T及び上部絶縁体210Tを介して上蓋201により支持されている。また、電気化学素子積層体Sは、その下面が、下部プレート230B、下部加圧体400B及び下部絶縁体210Bを介して下蓋203により支持されている。
【0073】
この容器200の熱膨張率は、加圧体400の熱膨張率よりも小さいと好ましい。容器200は、プレート230を介して加圧体400に隣接して配置されている。そして、容器200の下蓋203と上蓋201とは、それらが結合されることで、加圧体400を介して電気化学素子積層体Sに荷重を負荷して締め付ける。このような容器200の材料としては、例えば、フェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、又はこれらとセラミックスとの複合体等が挙げられる。これらの材料はオーステナイト系ステンレスよりも熱膨張率が小さく、フェライト系ステンレスの熱膨張率はSUS430が約11×10-6/℃である。また、マルテンサイト系ステンレスの熱膨張率はSUS403及びSUS420J1が約10.4×10-6/℃であり、SUS410及びSUS440Cが約10.1×10-6/℃である。ただし、容器200はこれに限定されず、熱膨張率が加圧体400よりも小さく、かつ耐腐食性に優れる材料が選択されると好ましい。
【0074】
なお、電気化学素子積層体Sの材料は、容器200と同様の材料であるのが好ましい。言い換えれば、電気化学素子積層体S及び容器200の材料は、容器200と同程度の熱膨張率であるのが好ましい。この場合、電気化学素子積層体Sの基板、容器200が、例えば電気化学素子Aが高温となる発電時において同程度に熱膨張する。よって、例えば、電気化学素子Aの基板と容器200との熱膨張差を小さく抑え、基板が破損等するのを抑制できる。
【0075】
このような構成で、上蓋201及び下蓋203は、電気化学素子積層体S、上部及び下部絶縁体210T及び210B、上部及び下部加圧体400T及び400B、上部及び下部プレート230T及び230B等を上部及び下部から挟み込んだ状態で、連結部202と連結部205とが、例えば溶接されて連結される。この連結の際に、上蓋201及び下蓋203は、電気化学素子積層体S等に所定の荷重を負荷して連結される。つまり、上蓋201及び下蓋203が連結された状態において、電気化学素子積層体S、上部及び下部絶縁体210T及び210B、上部及び下部加圧体400T及び400B、上部及び下部プレート230T及び230Bには、所定の荷重が負荷されて締め付けられている。
【0076】
なお、図3に示すように下蓋203の側面には、開口203eが形成されている。よって、開口203eからは、電気化学素子積層体Sの側面の一部が露出している。そして、前述の開口201c、203cと、開口203eとが容器200に形成されることで、容器200を軽量化し、容器200に必要な材料を削減できる。なお、電気化学素子積層体Sの側面と、上蓋201あるいは下蓋203または両方が接触することで電気的に短絡(ショート)する可能性がある場合は、マイカなどの材料で構成された側面絶縁体(図示せず)が、電気化学素子積層体Sと上蓋201あるいは下蓋203の側面の間に設置される。
【0077】
(3)加圧体の構成及び作用
次に、加圧体(上部及び下部加圧体400T及び400B)400の構成及び作用についてさらに説明する。以下に、一例として3種類の第1の加圧体400、第2の加圧体400、第3の加圧体400の構成を説明する。ただし、加圧体400の構成は、加圧体400の内部空間405の封入物、例えば空気が熱により膨張することによって第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bが積層方向に膨張すればよく、これらの構成に限定されない。
【0078】
(3-1)第1の加圧体
(i)構成
第1の加圧体400の構成について図5を用いて説明する。第1の加圧体400は、第1加圧面部401aと、第2加圧面部401bと、支持部403と、湾曲部407(407a、407b)とを有している。両端が開口した円筒形状の支持部403の一端に、湾曲部407aを介して第1加圧面部401aが溶接等により連結されている。円筒形状の支持部403の他端に、湾曲部407bを介して第2加圧面部401bが溶接等により連結されている。このような構成により第1の加圧体400は円筒形状に構成されており、その内部には、これら第1加圧面部401aと、第2加圧面部401bと、支持部403と、湾曲部407とにより囲まれる密閉された内部空間405が形成されている。各部についてさらに以下に説明する。
【0079】
第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bは、平面状の板状部材であり、支持部403を介して積層方向に互いに対向している。第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bは、内部空間405の封入物が熱により膨張することによって積層方向に膨張可能なように、材料及び積層方向の幅が設計されている。
【0080】
支持部403は、加圧体400の外周を成す円筒形状の部材であり、積層方向に高さを有する。支持部403は、湾曲部407を介して第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bを支持している。具体的には、第1加圧面部401aは、その円周方向の端部が、湾曲部407aを介して支持部403の積層方向の一端に例えば溶接等により連結されている。また、第2加圧面部401bは、その円周方向の端部が、湾曲部407bを介して支持部403の積層方向の他端に例えば溶接等により連結されている。
【0081】
湾曲部407は、所定の曲率半径を有するように構成されることで所定の弾性を有する。本実施形態では、湾曲部407a(又は湾曲部407b)は、支持部403の積層方向に対して、つまり高さ方向に対して凹みを有するように湾曲している。より具体的には、湾曲部407a(又は湾曲部407b)は、支持部403と連結される端部から第1加圧面部401a(又は第2加圧面部401b)側に向かって、支持部403の積層方向の高さに対して小さくなる側に湾曲して凹んでいる。この凹みの曲率半径はR2である。さらに、湾曲部407a(又は湾曲部407b)は、曲率半径R2の凹みに引き続いて第1加圧面部401a(又は第2加圧面部401b)側に向かって、支持部403の積層方向の高さに対して大きくなる側に湾曲している。この湾曲の曲率半径はR1である。この曲率半径R1の湾曲及び曲率半径R2の湾曲を有する湾曲部407a及び湾曲部407bそれぞれを介して、支持部403と第1加圧面部401aとが連結されており、支持部403と第2加圧面部401bとが連結されている。
【0082】
加圧体400は、本実施形態では、熱により膨張する熱膨張部材から形成されている。加圧体400の熱膨張率は、電気化学素子積層体S及び容器200等を構成する部材の熱膨張率よりも大きいと好ましい。このような加圧体400の材料としては、金属材料を挙げることができ、好ましくはステンレスなどの耐熱材料が挙げられる。一例であるが、加圧体400の材料としては、例えば、オーステナイト系ステンレスが挙げられる。
【0083】
オーステナイト系ステンレスの熱膨張率は、比較的に大きい。例えば、アルミニウムの熱膨張率が約23.8×10-6/℃であるのに対して、オーステナイト系ステンレスの熱膨張率は、アルミニウムの熱膨張率等と同程度に大きい。オーステナイト系ステンレスの熱膨張率は、SUS303及びSUS304が約17.3×10-6/℃であり、SUS316が約16×10-6/℃である。ただし、加圧体400の材料はこれに限定されず、熱膨張率が容器200等よりも大きく、かつ耐腐食性に優れる部材が選択されると好ましい。
【0084】
内部空間405には、本実施形態では空気が封入されている。第1の加圧体400を組み立てる際に、例えば常温常圧の空気が内部空間405に存在した状態で第1の加圧体400が組み立てられて内部空間405に空気が封入される。なお、内部空間405の封入物を膨張させることにより第1の加圧体400を積層方向に膨張できればよく、封入物としては熱により膨張可能な物質であれば空気に限られない。よって、内部空間405には、例えばヘリウム等の空気以外の気体、水等の液体等も封入可能である。
【0085】
そして、上蓋201及び下蓋203が連結された状態において、電気化学素子積層体S及び上部及び下部絶縁体210T及び210Bは、上部及び下部加圧体400T及び400Bを介して、所定の荷重を負荷されて上部及び下部プレート230T及び230Bに挟持されている。
【0086】
図5に示す第1の加圧体400の寸法は、一例であるが、L1=φ40mm、L2=12mm、L3=0.3mm、L4=2mm、L5=φ36mm、L6=φ24mm、L7=1mm、L8=2mm、L9=10mm、R1=1mm、R2=1.5mmである。このように、本実施形態では、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bの積層方向の幅がL3=0.3mmと薄く設計されており、内部空間405は、内部空間405内の封入物の熱による膨張に応じて積層方向に膨張可能に構成されている。一方、支持部403の積層方向に直交する交差方向の幅がL4=2mmと大きく設計されており、積層方向にかかる荷重を十分に支持可能である。
【0087】
上記の寸法で設計された第1の加圧体400(L1=φ40mm、L2=12mm、L3=0.3mm等)により被加圧体(電気化学素子積層体S等)に与えることが可能な荷重について検討する。第1の加圧体400によって被加圧体に与えることが必要な荷重が、加圧体400の変位1mmにおいて1800N以上であるとする。
第1の加圧体400を室温25℃から700℃に加熱すると、第1の加圧体400の内部空間405内の空気は、ボイルシャルルの法則により以下のように膨張した圧力Pを発生させる。
【0088】
具体的には、ボイルシャルルの法則によると、(P1・V1)/T1=(P2・V2)/T2である。第1の加圧体400の内部空間405の大きさがほとんど変わらないと仮定すると、V1=V2である。よって、P1/T1=P2/T2である。
ここで、T1=273+25=298Kであり、T2=273+700=973Kである。大気圧においてP1=0.1013N/mmである。
よって、上記式からP2が下記の通り求まる。
P2=0.331N/mm
【0089】
次に、内部最大応力=(3/4)・(R・P2/L3
ここで、R=L1/2=φ40/2=20mm、L3=0.3mmであり、内部最大応力=1.11×10N/mmと算出される。
【0090】
内部空間405内の空気が700℃で膨張した時の圧力Pは、この700℃での内部最大応力に対して降伏変形の目安となる0.2%耐力値(常温にて約2.1N/mm)以上となる。よって、700℃では、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bは、図5の状態から図6に示すように積層方向において外方に向かって膨張する。
ここで、このときの第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bそれぞれの最大撓みWは、次式で計算される。
最大撓みW=(R・P)/(64・D)
D=(E・L3)/{12(1-ν)}
ここで、オーステナイト系ステンレスで形成された第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bについて、縦弾性係数E=193000N/mm、L3=0.3mm、ポアソン比ν=0.3である。
上記式より、700℃における第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bそれぞれの最大撓みWは、以下の通りとなる。
W=1.745mm
【0091】
したがって、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401b両方の積層方向における合計の膨張可能距離δは、以下の通りとなる。
δ=2×W=1.745mm×2=3.49mm
よって、δは加圧体400の変位が設定値の1mm以上となり、被加圧物に荷重を与える。ここで、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bが積層方向に膨張した場合、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bは縁部よりも中央部が膨張する。よって、図6に示すように、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bと被加圧物とが接触する面積S2は、L1=φ40mmの場合の面積S1よりも小さくなる。例えば、被加圧物との接触部分の円の直径L10をφ=25mmとすると、S2=4.9cmとなる。この場合、1つの加圧体400が膨張することにより発生可能な荷重Fは、以下の通りとなる。
1つの加圧体400が発生する荷重F=0.33×100×4.9=161.7N
よって、加圧体400を12個使用すると、161.7×12=1958Nの荷重を発生させることができるため、必要として設定した1800Nの荷重の発生を確保できる。
【0092】
上記では、第1の加圧体400は、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bの積層方向の幅であるL3=0.3mmとしているが、L3は0.05mm以上が好ましく、より好ましくは0.1mm~1.0mmである。
【0093】
(ii)第1の加圧体の作用
ここで、例えば、電気化学素子積層体S及び容器200等の少なくともいずれかは、電気化学素子Aが発電していない低温(例えば室温で約20℃等)の状態から、電気化学素子Aが発電時に高温(例えば約650℃~約950℃等)の状態となると膨張する。このとき、電気化学素子積層体S及び容器200間で熱膨張差が生じると、電気化学素子積層体Sと容器200との間の間隔が発電時(高温時)と発電していない時(低温時)とで異なる。このため、電気化学素子積層体S等に適切な荷重を負荷できない可能性がある。
【0094】
本実施形態の第1の加圧体400は、その内部空間405の封入物が熱により膨張し第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bが積層方向において内部空間405と離間する側に膨張する。この膨張により第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bは、一対の上部プレート(第1挟持体)230T及び下部プレート(第2挟持体)230Bの間において電気化学素子積層体Sを積層方向に押圧して挟持することができる。第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bは内圧により膨張しているため、第1の加圧体400のクリープ変形の影響(クリープ変形による加圧力の低下)が抑制され、長期間にわたって電気化学素子積層体S等に適切な荷重を与えることができる。よって、電気化学モジュールMにおいて、内部抵抗の増大を抑制し、反応ガスのシール性の低下を抑制できる。
【0095】
また、内部空間405の封入物は例えば空気等であり、温度によって体積及び圧力が変化するものの、経時的に物理的な変化はほとんどない。よって、内部空間405の封入物による膨張は経時的に変化しにくい内圧を生じさせ、この内圧により第1の加圧体400が膨張する。これにより、第1の加圧体400が電気化学素子積層体S等に例えば概ね一定の所定の圧力を長期間に亘って与えることができ、電気化学モジュールMの長期間の使用に適している。
【0096】
また、電気化学素子積層体Sの上部平面及び下部平面と、一対のプレート230の平面との間に、積層体平面に沿った第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bを有する第1の加圧体400を配置するという簡単な構成で、電気化学素子積層体S等の膨張を考慮した小型、軽量かつ低コストな電気化学モジュールMを構成できる。
【0097】
また、本実施形態の一例として、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bの積層方向の幅がL3=0.3mmと薄く設計されており、支持部403の積層方向に直交する交差方向の幅がL4=2mmよりも薄い。よって、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bが、内部空間405の封入物の膨張によって積層方向に膨張し易い。一方、支持部403の交差方向の幅が第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bの積層方向の幅よりも厚いため、電気化学素子積層体Sを押圧することによりかかる荷重によって支持部403が座屈など変形するのを抑制できる。
【0098】
また、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bと支持部403とが、所定の曲率半径を有する湾曲部407を介して接続されている。例えば、第1加圧面部401aが熱膨張することで、第1加圧面部401aと支持部403との接続部分に応力がかかる。この場合、第1加圧面部401a自身の熱膨張力や第1加圧面部401aと支持部403との熱膨脹差により発生する応力が、第1加圧面部401aの平面方向にかかる場合がある。この第1加圧面部401aの平面方向にかかる応力は、電気化学素子積層体Sの積層方向の押圧には不要な応力であり、かつ、第1加圧面部401aと支持部403との接続部分に過度の負荷を与える場合がある。湾曲部407は、この接続部分に係る不要な応力を吸収する。つまり、所定の曲率半径を有する湾曲部407が変形することによって電気化学素子積層体Sの押圧に不要な平面方向の応力が吸収されるため、第1加圧面部401aと支持部403との接続部分の破壊を低減できる。
【0099】
また、電気化学素子積層体Sと加圧体400との間に絶縁体(板状部材)210が備えられているため、加圧体400は絶縁体210を介して電気化学素子積層体Sを押圧する。よって、電気化学素子積層体Sの平面に沿って概ね均一に荷重を負荷できる。なお、絶縁体210と加圧体400との間に、別途のセラミックス材料等の硬質の板状部材を配置してもよい。これにより、加圧体400からの荷重を硬質の板状部材によってさらに均一に分散させて、電気化学素子積層体Sの平面に沿って概ね均一に荷重を負荷できる。
【0100】
特に、上記実施形態では、加圧体400の熱膨張率は、容器200を構成する部材の熱膨張率よりも大きい。この関係を達成するため、加圧体400の材料として例えばオーステナイト系ステンレスが採用されており、容器200の材料としてフェライト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、又はこれらとセラミックスとの複合体等が採用されている。また、電気化学素子積層体Sの材料としては、容器200の材料と同一のものが採用されている。
【0101】
ここで、前述の通り、電気化学素子積層体Sにおいて発電していない低温の状態から、発電時の高温の状態になると、電気化学素子積層体S及び容器200の少なくともいずれかが熱膨張し、電気化学素子積層体Sの熱膨張量と容器200の熱膨張量との差が生じる。そうすると、高温時の電気化学素子積層体Sと容器200との間隔が、低温時よりも拡大する。例えば、容器200の熱膨張量が比較的に大きい場合、電気化学素子積層体Sと容器200との間隔はより拡大する。
【0102】
本実施形態では、前述の通り、加圧体400の熱膨張率は容器200を構成する部材の熱膨張率よりも大きい。よって、特に容器200の膨張により拡大した電気化学素子積層体Sと容器200との間隔を、加圧体400の熱膨張により補完することができる。つまり、熱膨張により電気化学素子積層体Sと容器200との間の間隔が大きく広がる方向に変動した場合でも、さらに大きく熱膨張する加圧体400によって、前述の間隔を補完できる。
【0103】
なお、容器200の熱膨張率が比較的に小さい場合には、例えば発電時に高温になった場合に、容器200の熱膨張量を小さく抑えることができる。これにより、熱膨張による電気化学素子積層体Sと容器200との間の間隔の広がりを小さく抑えることができる。よって、加圧体400の熱膨張率が比較的に小さい場合であっても、前述の間隔が変動した後に電気化学素子積層体Sの平面に沿って適切な荷重を概ね均一に負荷できる。
また、容器200の熱膨張量が小さい場合、容器200の膨張により電気化学素子Aの基板等の位置ずれ及び破損等を抑制できる。
【0104】
(3-2)第2の加圧体
(i)構成
第2の加圧体400の構成について図7を用いて説明する。第2の加圧体400は、第1の加圧体400とは、湾曲部407が無い点において異なる。その他の点は同様であるので、説明を簡略化する。
第2の加圧体400は、第1加圧面部401aと、第2加圧面部401bと、支持部403とを有している。両端が開口した円筒形状の支持部403の一端に第1加圧面部401aが溶接等により連結され、他端に第2加圧面部401bが溶接等により連結されている。このような構成により第2の加圧体400は円筒形状に構成されており、その内部には、これら第1加圧面部401aと、第2加圧面部401bと、支持部403とにより囲まれる密閉された内部空間405が形成されている。第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bは、内部空間405の封入物が熱により膨張することによって、積層方向に膨張可能に形成されている。
【0105】
図7に示す第2の加圧体400の寸法は、一例であるが、L1=φ40mm、L2=12mm、L3=0.3mm、L4=2mmである。
【0106】
(ii)第2の加圧体の作用
第2の加圧体400では、第1の加圧体400と同様に、内部空間405の空気等の封入物が熱により膨張し第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bが積層方向において内部空間405と離間する側に膨張する。第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bは内圧により膨張しているため、第2の加圧体400のクリープ変形が抑制され、長期間にわたって電気化学素子積層体S等に適切な荷重を与えることができる。よって、電気化学モジュールMにおいて、内部抵抗の増大を抑制し、反応ガスのシール性の低下を抑制できる。
【0107】
(3-3)第3の加圧体
(i)構成
第3の加圧体400の構成について図8を用いて説明する。第3の加圧体400は、有底の円筒形状の部材にフランジが付いたカップ状の部材を内部空間405を有するように組み合わせて構成されている。
【0108】
第3の加圧体400は、第1加圧面部401aと、第2加圧面部401bと、第1加圧面部401aの外周部分から積層方向に延びている第1支持部403aと、第2加圧面部401bの外周部分から積層方向に延びている第2支持部403bと、第1支持部403aに対して半径方向に拡大するように交差方向に延びる第1縁部403cと、第2支持部403bに対して半径方向に拡大するように交差方向に延びる第2縁部403dとを有している。第3の加圧体400は、第1縁部403cと第2縁部403dとがカシメられて溶接されることで形成されている。第1加圧面部401aと第1支持部403aとの連続部分は所定の曲率半径を有するように構成されている。同様に、第2加圧面部401bと第2支持部403bとの連続部分は所定の曲率半径を有するように構成されている。また、第1支持部403aと第1縁部403cとの連続部分、第2支持部403bと第2縁部403dとの連続部分は所定の曲率半径を有するように構成されている。
【0109】
第3の加圧体400の内部には、これら第1加圧面部401aと、第2加圧面部401bと、第1支持部403aと、第2支持部403bとにより囲まれる密閉された内部空間405が形成されている。第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bは、内部空間405の封入物が熱により膨張することによって、積層方向に膨張可能に形成されている。
【0110】
図7に示す第2の加圧体400の寸法は、一例であるが、L11=φ30mm、L12=6mm、L13=0.3mm、L14=φ27.4mm、L15=φ40mm、R3=1mm、R4=1mmである。
【0111】
(ii)第3の加圧体の作用
第3の加圧体400は、第1の加圧体400と同様に、内部空間405の空気等の封入物が熱により膨張し第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bが積層方向において内部空間405と離間する側に膨張する。第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bは内圧により膨張しているため、第3の加圧体400のクリープ変形の影響が抑制され、長期間にわたって電気化学素子積層体S等に適切な荷重を与えることができる。よって、電気化学モジュールMにおいて、内部抵抗の増大を抑制し、反応ガスのシール性の低下を抑制できる。
【0112】
第1加圧面部401aと第1支持部403aとの連続部分、第2加圧面部401bと第2支持部403bとの連続部分、第1支持部403aと第1縁部403cとの連続部分、第2支持部403bと第2縁部403dとの連続部分は湾曲している。第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bが膨張することで、これらの連続部分に応力がかかるが、これらの連続部分の湾曲により応力が吸収される。
【0113】
(4)電気化学モジュールMの具体的構成
次に、図1及び図9を用いて、電気化学モジュールMの具体的構成について説明する。図1の電気化学素子積層体Sの詳細が図1に示されている。
【0114】
図1及び図9に示すように、電気化学モジュールMは、電気化学素子積層体Sを内装する容器200(上蓋201及び下蓋203)と、容器200の外部から供給路4を介して内部流路A1に第一ガスを供給する第一ガス供給部61と、反応後の第一ガスを排出する第一ガス排出部62と、容器200の外部から通流部A2に第二ガスを供給する第二ガス供給部71と、反応後の第二ガスを排出する第二ガス排出部72と、電気化学反応部3における電気化学反応に伴う出力を得る出力部8とを備え、容器200内に、第二ガス供給部71から供給される第二ガスを通流部A2に分配供給する分配室9を備えている。
【0115】
分配室9は、電気化学素子積層体Sに対して当該電気化学素子積層体Sへ第二ガスを供給する側に位置する空間であり、通流部A2は、空間側に開口形成されて当該空間と連通している。
【0116】
電気化学素子積層体Sは、容器200に対して、一対の集電体81、82に挟持された状態で内装されており、この集電体81、82に出力部8が延設され、容器200外部の電力供給先に電力供給自在に接続されるとともに、集電体81,82は容器200に対して少なくとも一方が電気的に絶縁され、かつ、第一ガスが容器200に対して気密になるように収容されている。
【0117】
これにより電気化学モジュールMは、第一ガス供給部61から燃料ガスを供給するとともに、第二ガス供給部71から空気を供給することで、図1図9破線矢印に示すように燃料ガスが進入し実線矢印に示すように空気が進入する。
【0118】
第一ガス供給部61から供給された燃料ガスは、電気化学素子積層体Sの最上部の電気化学素子Aの第一貫通部41より供給路4に誘導され、第一環状シール部42により区画される供給路4より、すべての電気化学素子Aの内部流路A1に通流する。また第二ガス供給部71から供給された空気は、分配室9に一時流入したのち、各電気化学素子A間に形成される通流部A2に通流する。
【0119】
ちなみに、第二板状体2(板状支持体10(金属支持体の一例)の一部)を基準にすると、波板状の第二板状体2部分が第一板状体1(板状支持体10(金属支持体の一例)の一部)から膨出する部分で第一板状体1と第二板状体2との間に内部流路A1が形成されるとともに、隣接する電気化学素子Aの電気化学反応部3に接触して電気接続可能にする。一方、波板状の第二板状体2が第一板状体1と接触する部分が第一板状体1と電気接続し、第二板状体2と隣接する電気化学素子Aの電気化学反応部3との間に通流部A2を形成する。
【0120】
図23の一部に内部流路A1を含む断面の現れる電気化学素子Aと、通流部A2を含む断面の現れる電気化学素子Aとを便宜的に並べて示す部分があるが、第一ガス供給部61から供給された燃料ガスは、分配部A12に達し(図14図17図20参照)、分配部A12を介して一端部側の幅方向に沿って広がって流れ、内部流路A1のうち各副流路A11に達する(図14図16図20参照)。この場合、分配部A12から複数の副流路A11に均等に第一ガスを分配でき、各電気化学素子において均等に電気化学出力を生成させることができる。
【0121】
すると、内部流路A1に進入した燃料ガスは気体通流許容部1Aを介して電極層31、電解質層32に進入できる。また、燃料ガスは、電気化学反応済みの燃料ガスとともに、さらに内部流路A1を進み、合流部A13、第二貫通部51を介して、第二環状シール部52によって形成される排出路5に進み、他の電気化学素子Aからの電気化学反応済みの燃料ガスとともに第一ガス排出部62より容器200外に排出される。
【0122】
一方、第二ガス供給部71から供給された空気は、分配室9を介して通流部A2に進入し、対極電極層33、電解質層32に進入できる。また、空気は、電気化学反応済みの空気とともに、さらに電気化学反応部3に沿って通流部A2を進み第二ガス排出部72より容器200外に排出される。
【0123】
この燃料ガス及び空気の流れに従って電気化学反応部3で生じた電力は、隣接する電気化学素子Aの電気化学反応部3と第二板状体2との接触により集電体81,82どうしの間で直列に接続され、合成出力が出力部8より取り出される形態となる。電気化学素子積層体Sの構成については、後で詳述する。
【0124】
(5)加圧体の変形例
(a)上記では、上部及び下部加圧体400T、400Bが設けられているが、いずれか一方の加圧体400のみが設けられていてもよい。ただし、上部及び下部加圧体400T、400Bが設けられている場合には、電気化学素子積層体Sに対して上部及び下部から加圧体400により荷重を負荷できるので、電気化学素子積層体Sの平面に対してより均一に荷重を負荷できるので好ましい。
【0125】
(b)上記では、熱により内部空間405の封入物が膨張すると、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bの両方が積層方向に膨張可能である。しかし、第1加圧面部401a及び第2加圧面部401bのいずれか一方が積層方向に膨張可能であればよい。この場合、膨張する側の加圧面部のみを膨張可能な材料及び寸法に設計すればよい。
【0126】
(c)上記では、電気化学モジュールMは複数の加圧体400を備えている。複数の加圧体400は、プレート230と絶縁体210との間において概ね均等に分散するように配置されている。しかし、電気化学素子積層体Sに概ね均等に荷重を負荷できるのであればその配置はこれに限定されない。
また、上記では、加圧体400は電気化学素子積層体Sの一方側においては12個配置されている。しかし、加圧体400によって、電気化学素子積層体S等に適切に荷重を負荷できればよく、加圧体400の個数はこれに限定されず、12個以外の例えば、1~11個でもよく、13個以上であってもよい。
例えば、1個の加圧体400が用いられる場合、プレート230と絶縁体210との間において、電気化学素子積層体Sの平面方向に沿って全面にわたる大きさに形成されていてもよい。ただし、加圧体400の大きさ等はこれに限定されず、1個の加圧体400によって、電気化学素子積層体Sに概ね均等に荷重を負荷できるのであれば、加圧体400の大きさ及び配置は任意にできる。
【0127】
(d)上記では、加圧体400は積層方向視において円形状に形成されている。しかし、電気化学素子積層体Sに概ね均等に荷重を負荷できるのであれば、加圧体400の形状はこれに限定されず、積層方向視において矩形状、三角形状、楕円形状等であってもよい。
【0128】
(e)上記では、加圧体400の熱膨張率は、容器200を構成する部材の熱膨張率よりも大きい。しかし、熱膨張により生じた電気化学素子積層体Sと容器200との間の間隔を、加圧体400の膨張により補完できればよく、このような熱膨張率の関係に限定されない。
例えば、加圧体400の熱膨張率は、容器200を構成する部材の熱膨張率と同程度であってもよく、あるいは、小さくてもよい。
【0129】
(f)上記では、電気化学モジュールMは、絶縁性を有する絶縁体210などの機能層が設けられている。電気化学モジュールMは、上記に示す機能層に加えて、あるいは、代えて別途の機能層を設けてもよい。
【0130】
(g)上記では、下蓋203と上蓋201とは溶接により結合している。しかし、下蓋203と上蓋201との結合は溶接に限られず、例えば、ボルト等により結合されてもよい。
【0131】
(6)別の形態の電気化学モジュールM
以下に、上記実施形態の電気化学モジュールMとは異なる形態の電気化学モジュールMについて別の形態1及び別の形態2を例に挙げて説明する。
【0132】
(6-1)別の形態1
別の形態1に係る電気化学モジュールM1について、図10を用いて説明する。別の形態1に係る電気化学モジュールM1は、図1の電気化学モジュールMとは、加圧体400に加えて、平板状部材320が設けられている点が異なる。
【0133】
図10に示すように、電気化学モジュールM1は、電気化学素子積層体Sの上部に、電気化学素子積層体S側から外側に向かって順に、上部絶縁体210T、上部平板状部材320T、上部加圧体400T、上部プレート230Tを備えている。同様に、電気化学モジュールM1は、電気化学素子積層体Sの下部に、電気化学素子積層体S側から外側に向かって順に、下部絶縁体210B、下部平板状部材320B、下部加圧体400B、下部プレート230Bを備えている。
【0134】
図10では、平板状部材320(上部及び下部平板状部材320T及び320B)は、例えばメタルハニカム形状の平板状部材である。平板状部材320は熱膨張部材であり、電気化学素子Aが発電時に高温になることにより熱膨張する。よって、熱膨張により電気化学素子積層体Sと容器200との間の間隔が変動した場合でも、平板状部材320は、プレート230を押圧面として、電気化学素子積層体Sに適切な荷重を負荷する。
【0135】
つまり、熱膨張による電気化学素子積層体Sと容器200との間の間隔の変動を、平板状部材320の熱膨張による変動により補完することができる。よって、前述の間隔が変動した後であっても、適切な荷重を電気化学素子積層体Sに負荷する。例えば、熱膨張により大きくなった電気化学素子積層体Sと容器200との間の間隔を、平板状部材320が熱膨張することにより埋め合わせて、電気化学素子積層体Sに適切な荷重を負荷する。
【0136】
そして、平板状部材320は、電気化学素子積層体Sの平面及びプレート230の平面に沿って配置されているため、前述の間隔が変動した後であっても、適切な荷重を電気化学素子積層体Sの平面に沿って概ね均一に付与する。よって、電気化学モジュールM1において、電気化学素子Aどうしの接触面積の低下を抑制し、内部抵抗を低下できる。また、電気化学素子A間を適度に接触させて密閉性が保つことができるため、燃料ガス等が電気化学素子Aの外部に漏出するのを抑制でき、反応ガスのシール性の低下を抑制できる。
【0137】
加圧体400を備えることの作用効果は、図1の電気化学モジュールMと同様である。また、電気化学モジュールM1のその他の構成は、図1の電気化学モジュールMと同様であるので説明を省略する。
【0138】
(6-2)別の形態2
別の形態2に係る電気化学モジュールM2について、図11を用いて説明する。別の形態2に係る電気化学モジュールM2は、図10の電気化学モジュールMとは、容器200に上面部201d及び下面部203dが設けられている点、上部及び下部プレート230T及び230Bが省略されている点が主に異なる。
【0139】
さらに、電気化学モジュールM2では、図12及び図13に示すように、下蓋203と上蓋201とがボルトにより結合されている点が図10の電気化学モジュールMとは異なる。具体的には、下蓋203の縁部と上蓋201の縁部とが対向しており、縁部の複数箇所に複数の締結部材250が締結されている。締結部材250は、頭部及び軸部を有するボルト251とナット253とから構成されている。ボルト251の軸部が下蓋203の縁部及び上蓋201の縁部の貫通孔に挿通され、ナット253がボルト251に締結される。これにより、下蓋203の縁部と上蓋201とが結合されている。
ただし、下蓋203と上蓋201とは図10と同様に溶接により結合されていてもよい。
【0140】
図11についてさらに説明すると、上蓋201は、電気化学素子積層体Sの平面方向に沿った上面部201dを有している。また、上蓋201は、図10の上蓋201と同様に、第1端部201a及び第2端部201bを有している。そして、第1端部201aの内方側の終端から連続的に上面部201dが延びている。第1端部201aと上面部201dとの間の所定箇所には、図11図13に示すように第一ガス供給部61及び第一ガス排出部62をそれぞれ構成する筒状部201eが設けられている。図11の上蓋201のその他の構成は、図10の上蓋201と同様である。
【0141】
一方、下蓋203は、電気化学素子積層体Sの平面方向に沿った下面部203dを有している。図13の下蓋203のその他の構成は、図12の下蓋203と同様である。
【0142】
また、電気化学モジュールM2は、電気化学素子積層体Sの上部に、電気化学素子積層体S側から外側に向かって順に、上部絶縁体210T、メタルハニカム形状の上部平板状部材320T、上部加圧体400Tを備えている。
また、電気化学モジュールM2は、電気化学素子積層体Sの下部に、電気化学素子積層体S側から外側に向かって順に、下部絶縁体210B、メタルハニカム形状の下部平板状部材320B、下部加圧体400Bを備えている。
【0143】
上蓋201の上面部201dは、電気化学素子積層体Sの上部平面に対向しており、下蓋203の下面部203dは、電気化学素子積層体Sの下部平面に対向している。そして、上蓋201と下蓋203とが結合されることで、電気化学素子積層体Sは、その平面に沿って概ね均一に、加圧体400、平板状部材320を介して上面部201d及び下面部203dから荷重を受ける。
なお、上部及び下部平板状部材320と、上部及び下部加圧体400との少なくともいずれかが設けられている構成であってもよい。
【0144】
(7)電気化学素子積層体Sの具体的構成
次に、電気化学素子積層体Sの具体的構成を説明する。電気化学素子積層体Sは、複数の電気化学素子Aが積層されて形成されている。図14図23を用いて電気化学素子Aについて説明する。
【0145】
(電気化学素子)
図14図22に示すように、電気化学素子Aは、導電性の第一板状体1と導電性の第二板状体2との対向面間に形成された内部流路A1を有する板状支持体10を備え、板状支持体10は、当該板状支持体10を構成する第一板状体1及び第二板状体2の少なくとも一部において、当該板状支持体10の内側である内部流路A1と外側とに亘って気体を透過できる気体通流許容部1Aと、気体通流許容部1Aの全部又は一部を被覆する状態で、膜状の電極層31と膜状の電解質層32と膜状の対極電極層33とを記載順に有する電気化学反応部3とを備える(図18図22参照)。また、板状支持体10には、表面貫通方向外方から内部流路A1にたとえば燃料ガス等の還元性成分ガス及びたとえば空気等の酸化性成分ガスのうちの一方である第一ガスを供給する供給路4を形成する第一貫通部41を一端部側に備え、内部流路A1を通流した第一ガスを板状支持体の表面貫通方向外方へ排出する排出路5を形成する第二貫通部51を他端部側に備える(図14図16図21図22参照、尚、供給路4等と排出路5等とは対称形にて同様の構造であることも理解される)。
【0146】
(板状支持体)
第一板状体1は、電極層31と電解質層32と対極電極層33とを有する電気化学反応部3を支持して電気化学素子Aの強度を保つ役割を担う。第一板状体1の材料としては、電子伝導性、耐熱性、耐酸化性および耐腐食性に優れた材料が用いられる。例えば、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、ニッケル基合金などが用いられる。特に、クロムを含む合金が好適に用いられる。本実施形態では、第一板状体1は、Crを18質量%以上25質量%以下含有するFe-Cr系合金を用いているが、Mnを0.05質量%以上含有するFe-Cr系合金、Tiを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、Zrを0.15質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金、TiおよびZrを含有しTiとZrとの合計の含有量が0.15質量%以上1.0質量%以下であるFe-Cr系合金、Cuを0.10質量%以上1.0質量%以下含有するFe-Cr系合金であると特に好適である。
【0147】
第二板状体2は、第一板状体1と重ね合わされた状態で、周縁部1aを溶接一体化されて板状支持体10を構成する(図15図22参照)。第二板状体2は、第一板状体1に対して複数に分割されていてもよく、逆に第一板状体1が第二板状体2に対して複数に分割された状態であってもよい。また、一体化するに際して、溶接に替え、接着、嵌合等他の手段を採用することができ、内部流路を外部特開区画して形成できるのであれば、周縁部1a以外の部分で一体化してもよい。
【0148】
第一板状体1は、表側の面と裏側の面とを貫通して設けられる複数の貫通孔11を多数設けてなる気体通流許容部1Aを有する(図18図22参照)。なお、例えば、貫通孔11は、レーザー加工などにより、第一板状体1に設けることができる。貫通孔11は、第一板状体1の裏側の面から表側の面へ気体を透過させる機能を有する。気体通流許容部1Aは、第一板状体1における電極層31が設けられる領域より小さい領域に設けられることが好ましい。
【0149】
第一板状体1にはその表面に、拡散抑制層としての金属酸化物層12(後述、図23参照)が設けられる。すなわち、第一板状体1と後述する電極層31との間に、拡散抑制層が形成されている。金属酸化物層12は、第一板状体1の外部に露出した面だけでなく、電極層31との接触面(界面)にも設けられる。また、貫通孔11の内側の面に設けることもできる。この金属酸化物層12により、第一板状体1と電極層31との間の元素相互拡散を抑制することができる。例えば、第一板状体1としてクロムを含有するフェライト系ステンレスを用いた場合は、金属酸化物層12が主にクロム酸化物となる。そして、第一板状体1のクロム原子等が電極層31や電解質層32へ拡散することを、クロム酸化物を主成分とする金属酸化物層12が抑制する。金属酸化物層12の厚さは、拡散防止性能の高さと電気抵抗の低さを両立させることのできる厚みであれば良い。
金属酸化物層12は種々の手法により形成されうるが、第一板状体1の表面を酸化させて金属酸化物とする手法が好適に利用される。また、第一板状体1の表面に、金属酸化物層12をスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、スパッタリング法やPLD法等のPVD法、CVD法などにより形成しても良いし、メッキと酸化処理によって形成しても良い。更に、金属酸化物層12は導電性の高いスピネル相などを含んでも良い。
【0150】
第一板状体1としてフェライト系ステンレス材を用いた場合、電極層31や電解質層32の材料であるYSZ(イットリア安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウムドープセリア、CGOとも呼ぶ)等と熱膨張係数が近い。従って、低温と高温の温度サイクルが繰り返された場合も電気化学素子Aがダメージを受けにくい。よって、長期耐久性に優れた電気化学素子Aを実現できるので好ましい。なお、第一板状体1は、表側の面と裏側の面とを貫通して設けられる複数の貫通孔11を有する。なお、例えば、貫通孔11は、機械的、化学的あるいは光学的穿孔加工などにより、第一板状体1に設けることができる。貫通孔11は、第一板状体1の裏側の面から表側の面へ気体を透過させる機能を有する。第一板状体1に気体透過性を持たせるために、多孔質金属を用いることも可能である。例えば、第一板状体1は、焼結金属や発泡金属等を用いることもできる。
【0151】
第二板状体2は、第一板状体1の気体通流許容部1Aに対向する領域において、一端部側から他端部側に向かう複数の副流路A11、A11………を備えた内部流路A1を形成する波板状に形成される(図14図18参照)。また、第二板状体2は、表裏両面とも波板状に形成されており、内部流路A1を区画形成する面の反対面は、隣接する電気化学素子Aの電気化学反応部3に電気的に接続し、波型形状の第二板状体2が第一板状体1と接触する部分の近傍に形成される通路が、通流部A2として機能する。この副流路A11は長方形状に形成される板状支持体10の長辺に沿って複数平行に設けられており、一端部に設けられる供給路4から他端部に設けられる排出路5に至る内部流路A1を構成する。
また、第一貫通部41と内部流路A1との接続箇所は、第一板状体1との接触部分から下方に膨出させてなり、第一貫通部41ら供給される第一ガスを副流路A11の夫々に分配する分配部A12を備え(図14参照)、第二貫通部51と内部流路A1の接続箇所は、第一板状体1との接触部分から下方に膨出させてなり、副流路A11のそれぞれを通流した第一ガスを集約して第二貫通部51に導く合流部A13を備える(図14図16図17図19図22参照、尚、供給路4等と排出路5等とは対称形にて同様の構造であることも理解される)。また、第二板状体2の材料については、耐熱性の金属であることが好ましく、第一板状体1との熱膨張差の低減や、溶接などの接合性の信頼性確保の観点から、第一板状体1と同じ材料でれば、より好ましい。
【0152】
以上のような第一板状体1及び第二板状体2からなる板状支持体10(金属支持体の一例)は、電極層31、電解質層32及び対極電極層33等がその上面に形成される。つまり、電極層31、電解質層32および対極電極層33等が板状支持体10に支持されることになり、強度が高く、信頼性・耐久性に優れた電気化学素子Aを実現することができる。また、金属性の板状支持体10は加工性に優れており好ましい。さらに、安価な金属を板状支持体10に用いても強度の高い板状支持体10ができるので、高価な電極層31や電解質層32等を薄層とすることが可能となり、材料コストや加工コストを抑制した低コストな電気化学素子Aを実現でき好ましい。
【0153】
(電気化学反応部)((電極層))
電極層31は、図18図23に示すように、第一板状体1の表側の面であって貫通孔11が設けられた領域より大きな領域に、薄層の状態で設けることができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。貫通孔11が設けられた領域の全体が、電極層31に覆われている。つまり、貫通孔11は第一板状体1における電極層31が形成された領域の内側に形成されている。換言すれば、全ての貫通孔11が電極層31に面して設けられている。
【0154】
電極層31は、気体透過性を持たせるため、その内部および表面に複数の細孔を有する。
すなわち電極層31は、多孔質な層として形成される。電極層31は、例えば、その緻密度が30%以上80%未満となるように形成される。細孔のサイズは、電気化学反応を行う際に円滑な反応が進行するのに適したサイズを適宜選ぶことができる。なお緻密度とは、層を構成する材料の空間に占める割合であって、(1-空孔率)と表すことができ、また、相対密度と同等である。
【0155】
電極層31の材料としては、例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO、Cu-CeOなどの複合材を用いることができる。これらの例では、GDC、YSZ、CeOを複合材の骨材と呼ぶことができる。なお、電極層31は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法やパルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能なプロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに、良好な電極層31が得られる。そのため、第一板状体1を傷めることなく、また、第一板状体1と電極層31との元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子Aを実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0156】
(中間層)
中間層34は、電極層31を覆った状態で、電極層31の上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは4μm~25μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な中間層34の材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。中間層34の材料としては、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)等を用いることができる。特にセリア系のセラミックスが好適に用いられる。
【0157】
中間層34は、低温焼成法(例えば1100℃より高い高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃より高い高温域での焼成を用いずに中間層34が得られる。そのため、第一板状体1を傷めることなく、第一板状体1と電極層31との元素相互拡散を抑制することができ、耐久性に優れた電気化学素子Aを実現できる。また、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0158】
中間層34としては、酸素イオン(酸化物イオン)伝導性を有することが好ましい。また、酸素イオン(酸化物イオン)と電子との混合伝導性を有すると更に好ましい。これらの性質を有する中間層34は、電気化学素子Aへ
の適用に適している。
【0159】
((電解質層))
図18図23に示すように、電解質層32は、電極層31および中間層34を覆った状態で、前記中間層34の上に薄層の状態で形成される。また、厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成することもできる。詳しくは、電解質層32は、中間層34の上と第一板状体1の上とにわたって(跨って)設けられる。このように構成し、電解質層32を第一板状体1に接合することで、電気化学素子全体として堅牢性に優れたものとすることができる。
【0160】
また電解質層32は、図18に示すように、第一板状体1の表側の面であって貫通孔11が設けられた領域より大きな領域に設けられる。つまり、貫通孔11は第一板状体1における電解質層32が形成された領域の内側に形成されている。
【0161】
また電解質層32の周囲においては、電極層31および前記中間層(図示せず)からのガスのリークを抑制することができる。説明すると、電気化学素子AをSOFCの構成要素として用いる場合、SOFCの作動時には、第一板状体1の裏側から貫通孔11を通じて電極層31へガスが供給される。電解質層32が第一板状体1に接している部位においては、ガスケット等の別部材を設けることなく、ガスのリークを抑制することができる。なお、本実施形態では電解質層32によって電極層31の周囲をすべて覆っているが、電極層31および前記中間層34の上部に電解質層32を設け、周囲にガスケット等を設ける構成としてもよい。
【0162】
電解質層32の材料としては、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、SSZ(スカンジウム安定化ジルコニア)やGDC(ガドリウム・ドープ・セリア)、YDC(イットリウム・ドープ・セリア)、SDC(サマリウム・ドープ・セリア)、LSGM(ストロンチウム・マグネシウム添加ランタンガレート)等の酸素イオンを伝導する電解質材料や、ペロブスカイト型酸化物等の水素イオンを伝導する電解質材料を用いることができる。特にジルコニア系のセラミックスが好適に用いられる。電解質層32をジルコニア系セラミックスとすると、電気化学素子Aを用いたSOFCの稼働温度をセリア系セラミックスや種々の水素イオン伝導性材料に比べて高くすることができる。例えば電気化学素子AをSOFCに用いる場合、電解質層32の材料としてYSZのような650℃程度以上の高温域でも高い電解質性能を発揮できる材料を用い、システムの原燃料に都市ガスやLPG等の炭化水素系の原燃料を用い、原燃料を水蒸気改質等によってSOFCのアノードガスとするシステム構成とすると、SOFCのセルスタックで生じる熱を原燃料ガスの改質に用いる高効率なSOFCシステムを構築することができる。
【0163】
電解質層32は、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)やスプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD(化学気相成長)法などにより形成することが好ましい。これらの、低温域で使用可能な成膜プロセスにより、例えば1100℃を越える高温域での焼成を用いずに、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層32が得られる。そのため、第一板状体1の損傷を抑制し、また、第一板状体1と電極層31との元素相互拡散を抑制することができ、性能・耐久性に優れた電気化学素子Aを実現できる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、スプレーコーティング法を用いると、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層が低温域で容易に得られやすいので更に好ましい。
【0164】
電解質層32は、アノードガスやカソードガスのガスリークを遮蔽し、かつ、高いイオン伝導性を発現するために、緻密に構成される。電解質層32の緻密度は90%以上が好ましく、95%以上であるとより好ましく、98%以上であると更に好ましい。電解質層32は、均一な層である場合は、その緻密度が95%以上であると好ましく、98%以上であるとより好ましい。また、電解質層32が、複数の層状に構成されているような場合は、そのうちの少なくとも一部が、緻密度が98%以上である層(緻密電解質層)を含んでいると好ましく、99%以上である層(緻密電解質層)を含んでいるとより好ましい。このような緻密電解質層が電解質層の一部に含まれていると、電解質層が複数の層状に構成されている場合であっても、緻密で気密性およびガスバリア性の高い電解質層を形成しやすくできるからである。
【0165】
(反応防止層)
反応防止層35は、電解質層32の上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは2μm~50μm程度、より好ましくは3μm~15μm程度とすることができる。このような厚さにすると、高価な反応防止層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な性能を確保することが可能となる。前記反応防止層の材料としては、電解質層32の成分と対極電極層33の成分との間の反応を防止できる材料であれば良いが、例えばセリア系材料等が用いられる。また反応防止層35の材料として、Sm、GdおよびYからなる群から選ばれる元素のうち少なくとも1つを含有する材料が好適に用いられる。なお、Sm、GdおよびYからなる群から選ばれる元素のうち少なくとも1つを含有し、これら元素の含有率の合計が1.0質量%以上10質量%以下であるとよい。反応防止層35を電解質層32と対極電極層33との間に導入することにより、対極電極層33の構成材料と電解質層32の構成材料との反応が効果的に抑制され、電気化学素子Aの性能の長期安定性を向上できる。反応防止層35の形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、第一板状体1の損傷を抑制し、また、第一板状体1と電極層31との元素相互拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた電気化学素子Aを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0166】
((対極電極層))
図18図23に示すように、対極電極層33を、電解質層32もしくは反応防止層35の上に薄層の状態で形成することができる。薄層とする場合は、その厚さを、例えば、1μm~100μm程度、好ましくは、5μm~50μmとすることができる。このような厚さにすると、高価な対極電極層材料の使用量を低減してコストダウンを図りつつ、十分な電極性能を確保することが可能となる。対極電極層33の材料としては、例えば、LSCF、LSM等の複合酸化物、セリア系酸化物およびこれらの混合物を用いることができる。特に対極電極層33が、La、Sr、Sm、Mn、CoおよびFeからなる群から選ばれる2種類以上の元素を含有するペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましい。以上の材料を用いて構成される対極電極層33は、カソードとして機能する。
【0167】
なお、対極電極層33の形成は、1100℃以下の処理温度で形成できる方法を適宜用いて行うと、第一板状体1の損傷を抑制し、また、第一板状体1と電極層31との元素相互拡散を抑制でき、性能・耐久性に優れた電気化学素子Aを実現できるので好ましい。例えば、低温焼成法(例えば1100℃を越える高温域での焼成処理をしない低温域での焼成処理を用いる湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PDV法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などを適宜用いて行うことができる。特に、低温焼成法やスプレーコーティング法などを用いると低コストな素子が実現できるので好ましい。更に、低温焼成法を用いると、原材料のハンドリングが容易になるので更に好ましい。
【0168】
このような電気化学反応部3を構成することで、電気化学反応部3を燃料電池(電気化学発電セル)として機能させる場合には、電気化学素子Aを固体酸化物形燃料電池の発電セルとして用いることができる。例えば、第一板状体1の裏側の面から貫通孔11を通じて第一ガスとしての水素を含む燃料ガスを電極層31へ供給し、電極層31の対極となる対極電極層33へ第二ガスとしての空気を供給し、例えば700℃程度の作動温度に維持する。そうすると、対極電極層33において空気に含まれる酸素Oが電子eと反応して酸素イオンO2-が生成される。その酸素イオンO2-が電解質層32を通って電極層31へ移動する。電極層31においては、供給された燃料ガスに含まれる水素Hが酸素イオンO2-と反応し、水HOと電子eが生成される。
電解質層32に水素イオンを伝導する電解質材料を用いた場合には、電極層31において流通された燃料ガスに含まれる水素Hが電子eを放出して水素イオンH+が生成される。その水素イオンHが電解質層32を通って対極電極層33へ移動する。対極電極層33において空気に含まれる酸素Oと水素イオンH、電子eが反応し水HOが生成される。
以上の反応により、電極層31と対極電極層33との間に電気化学出力として起電力が発生する。この場合、電極層31は燃料電池の燃料極(アノード)として機能し、対極電極層33は空気極(カソード)として機能する。
【0169】
また、図18図22にて省略したが、図23に示すように、本実施の形態では、電気化学反応部3は電極層31と電解質層32との間に中間層34を備える。さらに、電解質層32と対極電極層33との間には反応防止層35が設けられる。
【0170】
(電気化学反応部の製造方法)
次に、電気化学反応部3の製造方法について説明する。尚、図18図22においては、下記中間層34及び反応防止層35を省略した記述としているので、ここでは、主に図23を用いて説明する。
【0171】
(電極層形成ステップ)
電極層形成ステップでは、第一板状体1の表側の面の貫通孔11が設けられた領域より広い領域に電極層31が薄膜の状態で形成される。第一板状体1の貫通孔11はレーザー加工等によって設けることができる。電極層31の形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、第一板状体1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0172】
電極層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には以下の例のように行う。まず電極層31の材料粉末と溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作成し、第一板状体1の表側の面に塗布し、800℃~1100℃で焼成する。
【0173】
(拡散抑制層形成ステップ)
上述した電極層形成ステップにおける焼成工程時に、第一板状体1の表面に金属酸化物層12(拡散抑制層)が形成される。なお、上記焼成工程に、焼成雰囲気を酸素分圧が低い雰囲気条件とする焼成工程が含まれていると元素の相互拡散抑制効果が高く、抵抗値の低い良質な金属酸化物層12(拡散抑制層)が形成されるので好ましい。電極層形成ステップを、焼成を行わないコーティング方法とする場合を含め、別途の拡散抑制層形成ステップを含めても良い。いずれにおいても、第一板状体1の損傷を抑制可能な1100℃以下の処理温度で実施することが望ましい。
【0174】
(中間層形成ステップ)
中間層形成ステップでは、電極層31を覆う形態で、電極層31の上に中間層34が薄層の状態で形成される。中間層34の形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、第一板状体1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0175】
中間層形成ステップを低温焼成法で行う場合には、具体的には以下の例のように行う。
まず、中間層34の材料粉末と溶媒(分散媒)とを混合して材料ペーストを作成し、第一板状体1の表側の面に塗布する。そして中間層34を圧縮成形し(中間層平滑化工程)、1100℃以下で焼成する(中間層焼成工程)。中間層34の圧延は、例えば、CIP(Cold IsostaticPressing 、冷間静水圧加圧)成形、ロール加圧成形、RIP(Rubber Isostatic Pressing)成形などにより行うことができる。また、中間層34の焼成は、800℃以上1100℃以下の温度で行うと好適である。このような温度であると、第一板状体1の損傷・劣化を抑制しつつ、強度の高い中間層34を形成できるためである。また、中間層34の焼成を1050℃以下で行うとより好ましく、1000℃以下で行うと更に好ましい。これは、中間層34の焼成温度を低下させる程に、第一板状体1の損傷・劣化をより抑制しつつ、電気化学素子Aを形成できるからである。また、中間層平滑化工程と中間層焼成工程の順序を入れ替えることもできる。
なお、中間層平滑化工程は、ラップ成形やレベリング処理、表面の切削・研磨処理などを施すことによって行うことでもできる。
【0176】
(電解質層形成ステップ)
電解質層形成ステップでは、電極層31および中間層34を覆った状態で、電解質層32が中間層34の上に薄層の状態で形成される。また、厚さが10μm以下の薄膜の状態で形成されても良い。電解質層32の形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、第一板状体1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0177】
緻密で気密性およびガスバリア性能の高い、良質な電解質層32を1100℃以下の温度域で形成するためには、電解質層形成ステップをスプレーコーティング法で行うことが望ましい。その場合、電解質層32の材料を第一板状体1上の中間層34に向けて噴射し、電解質層32を形成する。
【0178】
(反応防止層形成ステップ)
反応防止層形成ステップでは、反応防止層35が電解質層32の上に薄層の状態で形成される。反応防止層35の形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、第一板状体1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。なお反応防止層35の上側の面を平坦にするために、例えば反応防止層35の形成後にレベリング処理や表面を切削・研磨処理を施したり、湿式形成後焼成前に、プレス加工を施してもよい。
【0179】
(対極電極層形成ステップ)
対極電極層形成ステップでは、対極電極層33が反応防止層35の上に薄層の状態で形成される。対極電極層33の形成は、上述したように、低温焼成法(1100℃以下の低温域での焼成処理を行う湿式法)、スプレーコーティング法(溶射法やエアロゾルデポジション法、エアロゾルガスデポジッション法、パウダージェットデポジッション法、パーティクルジェットデポジション法、コールドスプレー法などの方法)、PVD法(スパッタリング法、パルスレーザーデポジション法など)、CVD法などの方法を用いることができる。いずれの方法を用いる場合であっても、第一板状体1の劣化を抑制するため、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0180】
以上の様にして、電気化学反応部3を製造することができる。
【0181】
なお電気化学反応部3において、中間層34と反応防止層35とは、何れか一方、あるいは両方を備えない形態とすることも可能である。すなわち、電極層31と電解質層32とが接触して形成される形態、あるいは電解質層32と対極電極層33とが接触して形成される形態も可能である。この場合に上述の製造方法では、中間層形成ステップ、反応防止層形成ステップが省略される。なお、他の層を形成するステップを追加したり、同種の層を複数積層したりすることも可能であるが、いずれの場合であっても、1100℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0182】
(電気化学素子積層体)
図9に示すように、電気化学素子積層体Sは、電気化学素子Aを複数有し、隣接する電気化学素子Aに関して、一つの電気化学素子Aを構成する板状支持体10と、他の一つの電気化学素子Aを構成する板状支持体10とが対向する形態で、且つ、一つの電気化学素子Aを構成する板状支持体10における電気化学反応部3が配置される第一板状体1とは別の第二板状体2の外面と、他の一つの電気化学素子Aを構成する板状支持体10における第一板状体1の外面とが電気的に接続される形態で、且つ、これら両外面どうしの隣接間に、当該両外面に沿って第二ガスが通流する通流部A2が形成される形態で、複数の電気化学素子Aが積層配置されている。電気的に接続させるためには、電気伝導性表面部同士を単純に接触させる他、接触面に面圧を印可したり、高電気伝導性の材料を介在させて接触抵抗を下げる方法などが採用可能である。具体的には、長方形状の各電気化学素子が一端部の第一貫通部41と他端部の第二貫通部51とを揃えた状態で、それぞれの電気化学素子の電気化学反応部が上向きになる状態で整列して、各第一貫通部41、第二貫通部51同士の間に第一環状シール部、第二環状シール部を介在して、積層されることにより、上記構成となる。
【0183】
板状支持体10には、表面貫通方向外方から内部流路A1に還元性成分ガス及び酸化性成分ガスのうちの一方である第一ガスを供給する供給路4を形成する第一貫通部41を長方形状の板状支持体10の長手方向一端部側に備え、通流部A2内において、板状支持体10の両外面に夫々形成される第一貫通部41を通流部A2と区画する環状シール部としての第一環状シール部42を備え、第一貫通部41及び第一環状シール部42により、第一ガスを内部流路A1に供給する供給路4が形成される。尚、第一板状体1における第一環状シール部42の接当する部位の周囲には第一板状体1における前記内部流路A1とは反対側面に環状の膨出部aを設けて第一環状シール部42の第一板状体1の面に沿う方向での位置決めを容易にしてある。
【0184】
また、板状支持体10は、内部流路A1を通流した第一ガスを板状支持体10の表面貫通方向外方へ排出する排出路5を形成する第二貫通部51を他端部側に備え、第二貫通部51は、第二ガスと区画された状態で第一ガスを通流させる構成であり、通流部A2内において、板状支持体10の両外面に夫々形成される第二貫通部51を通流部A2と区画する環状シール部としての第二環状シール部52を備え、第二貫通部51及び第二環状シール部52により、内部流路A1を通流した第一ガスを排出する排出路5が形成される。
【0185】
第一、第二環状シール部42,52は、アルミナなどのセラミクス材料や、マイカもしくはこれらを被覆した金属等の絶縁性材料からなり、隣接する電気化学素子どうしを電気的に絶縁する絶縁シール部として機能する。
【0186】
(8)エネルギーシステム、電気化学装置
次に、エネルギーシステム、電気化学装置について図24を用いて説明する。
エネルギーシステムZは、電気化学装置100と、電気化学装置100から排出される熱を再利用する排熱利用部としての熱交換器190とを有する。
電気化学装置100は、電気化学モジュールMと、燃料供給モジュールと、電気化学モジュールMから電力を取り出す出力部8としてのインバータ(電力変換器の一例)104とを有する。燃料供給モジュールは、脱硫器101、気化器106及び改質器102からなり、電気化学モジュールMに対して還元性成分を含有する燃料ガスを供給する燃料供給部103とを有する。なお、この場合、改質器102が燃料変換器となる。
【0187】
詳しくは電気化学装置100は、脱硫器101、改質水タンク105、気化器106、改質器102、ブロア107、燃焼部108、インバータ104、制御部110、および電気化学モジュールMを有する。
【0188】
脱硫器101は、都市ガス等の炭化水素系の原燃料に含まれる硫黄化合物成分を除去(脱硫)する。原燃料中に硫黄化合物が含有される場合、脱硫器101を備えることにより、硫黄化合物による改質器102あるいは電気化学素子Aに対する悪影響を抑制することができる。気化器106は、改質水タンク105から供給される改質水から水蒸気を生成する。改質器102は、気化器106にて生成された水蒸気を用いて脱硫器101にて脱硫された原燃料を水蒸気改質して、水素を含む改質ガスを生成する。
【0189】
電気化学モジュールMは、改質器102から供給された改質ガスと、ブロア107から供給された空気とを用いて、電気化学反応させて発電する。燃焼部108は、電気化学モジュールMから排出される反応排ガスと空気とを混合させて、反応排ガス中の可燃成分を燃焼させる。
【0190】
インバータ104は、電気化学モジュールMの出力電力を調整して、商用系統(図示省略)から受電する電力と同じ電圧および同じ周波数にする。制御部110は電気化学装置100およびエネルギーシステムZの運転を制御する。
【0191】
改質器102は、燃焼部108での反応排ガスの燃焼により発生する燃焼熱を用いて原燃料の改質処理を行う。
【0192】
原燃料は、昇圧ポンプ111の作動により原燃料供給路112を通して脱硫器101に供給される。改質水タンク105の改質水は、改質水ポンプ113の作動により改質水供給路114を通して気化器106に供給される。そして、原燃料供給路112は脱硫器101よりも下流側の部位で、改質水供給路114に合流されており、容器200外にて合流された改質水と原燃料とが気化器106に供給される。
【0193】
改質水は気化器106にて気化され水蒸気となる。気化器106にて生成された水蒸気を含む原燃料は、水蒸気含有原燃料供給路115を通して改質器102に供給される。改質器102にて原燃料が水蒸気改質され、水素ガスを主成分とする改質ガス(還元性成分を有する第一ガス)が生成される。改質器102にて生成された改質ガスは、燃料供給部103を通して電気化学モジュールMに供給される。
【0194】
反応排ガスは燃焼部108で燃焼され、燃焼排ガスとなって燃焼排ガス排出路116から熱交換器190に送られる。燃焼排ガス排出路116には燃焼触媒部117(例えば、白金系触媒)が配置され、燃焼排ガスに含有される一酸化炭素や水素等の還元性成分を燃焼除去される。
【0195】
熱交換器190は、燃焼部108における燃焼で生じた燃焼排ガスと、供給される冷水とを熱交換させ、温水を生成する。すなわち熱交換器190は、電気化学装置100から排出される熱を再利用する排熱利用部として動作する。
【0196】
なお、排熱利用部の代わりに、電気化学モジュールMから(燃焼されずに)排出される反応排ガスを利用する反応排ガス利用部を設けてもよい。また、第一ガス排出部62より容器200外に流通される反応排ガスの少なくとも一部を図24中の100,101,103,106,112,113,115の何れかの部位に合流させリサイクルしても良い。反応排ガスには、電気化学素子Aにて反応に用いられなかった残余の水素ガスが含まれる。反応排ガス利用部では、残余の水素ガスを利用して、燃焼による熱利用や、燃料電池等による発電が行われ、エネルギーの有効利用がなされる。
【0197】
〔他の実施形態〕
なお上述の実施形態(他の実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【0198】
(1)上記実施形態では、電気化学素子AがSOFCである電気化学モジュールMに加圧体400を適用した。しかし、上記の加圧体400は、SOEC(Solid Oxide Electrolyzer Cell)及び二次電池等にも適用可能である。
【0199】
(2)上記の実施形態では、電気化学素子Aを電気化学装置100としての固体酸化物形燃料電池に用いたが、電気化学素子Aは、固体酸化物形電解セルや、固体酸化物を利用した酸素センサ等に利用することもできる。また、電気化学素子Aは、電気化学素子積層体Sや電気化学モジュールMとして複数組み合わせて用いるのに限らず、単独で用いることも可能である。
すなわち、上記の実施形態では、燃料等の化学的エネルギーを電気エネルギーに変換する効率を向上できる構成について説明した。つまり、上記の実施形態では、電気化学素子A及び電気化学モジュールMを燃料電池として動作させ、電極層31に水素ガスが流通され、対極電極層33に酸素ガスが流通される。そうすると、対極電極層33において酸素分子Oが電子eと反応して酸素イオンO2-が生成される。その酸素イオンO2-が電解質層32を通って電極層31へ移動する。電極層31においては、水素分子Hが酸素イオンO2-と反応し、水HOと電子eが生成される。以上の反応により、電極層31と対極電極層33との間に起電力が発生し、発電が行われる。
一方、電気化学素子A及び電気化学モジュールMを電解セルとして動作させる場合は、電極層31に水蒸気や二酸化炭素を含有するガスが流通され、電極層31と対極電極層33との間に電圧が印加される。そうすると、電極層31において電子eと水分子HO、二酸化炭素分子COが反応し水素分子Hや一酸化炭素COと酸素イオンO2-となる。酸素イオンO2-は電解質層32を通って対極電極層33へ移動する。対極電極層33において酸素イオンO2-が電子を放出して酸素分子Oとなる。以上の反応により、水分子HOが水素Hと酸素Oとに、二酸化炭素分子COを含有するガスが流通される場合は一酸化炭素COと酸素Oとに電気分解される。
水蒸気と二酸化炭素分子COを含有するガスが流通される場合は上記電気分解により電気化学素子A及び電気化学モジュールMで生成した水素及び一酸化炭素等から炭化水素などの種々の化合物などを合成する燃料変換器25(図26)を設けることができる。燃料供給部(図示せず)により、この燃料変換器25が生成した炭化水素等を本システム・装置外に取り出して別途燃料として利用することができる。また、燃料変換器25で水素や一酸化炭素を化学原料に変換して利用することもできる。
【0200】
図26には、電気化学反応部3を電解セルとして動作させる場合のエネルギーシステムZおよび電気化学装置100の一例が示されている。本システムでは供給された水と二酸化炭素が電気化学反応部3において電気分解され、水素及び一酸化炭素等を生成する。更に燃料変換器25において炭化水素などが合成される。図26の熱交換器24を、燃料変換器25で起きる反応によって生ずる反応熱と水とを熱交換させ気化させる排熱利用部として動作させるとともに、図26中の熱交換器23を、電気化学素子Aによって生ずる排熱と水蒸気および二酸化炭素とを熱交換させ予熱する排熱利用部として動作させる構成とすることにより、エネルギー効率を高めることが出来る。また、電力変換器93は、電気化学素子Aに電力を流通する。これにより、上記のように電気化学素子Aは電解セルとして作用する。よって、上記構成によれば、電気エネルギーを燃料等の化学的エネルギーに変換する効率を向上できる電気化学装置100及びエネルギーシステムZ等を提供することができる。
【0201】
(3)上記の実施形態では、電極層31の材料として例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO2、Cu-CeO2などの複合材を用い、対極電極層33の材料として例えばLSCF、LSM等の複合酸化物を用いた。このように構成された電気化学素子Aは、電極層31に水素ガスを供給して燃料極(アノード)とし、対極電極層33に空気を供給して空気極(カソード)とし、固体酸化物形燃料電池セルとして用いることが可能である。この構成を変更して、電極層31を空気極とし、対極電極層33を燃料極とすることが可能なように、電気化学素子Aを構成することも可能である。すなわち、電極層31の材料として例えばLSCF、LSM等の複合酸化物を用い、対極電極層33の材料として例えばNiO-GDC、Ni-GDC、NiO-YSZ、Ni-YSZ、CuO-CeO2、Cu-CeO2などの複合材を用いる。このように構成した電気化学素子Aであれば、電極層31に空気を供給して空気極とし、対極電極層33に水素ガスを供給して燃料極とし、電気化学素子Aを固体酸化物形燃料電池セルとして用いることができる。
【0202】
(4)上述の実施形態では、第一板状体1と電解質層32との間に電極層31を配置し、電解質層32からみて第一板状体1と反対側に対極電極層33を配置した。電極層31と対極電極層33とを逆に配置する構成も可能である。つまり、第一板状体1と電解質層32との間に対極電極層33を配置し、電解質層32からみて第一板状体1と反対側に電極層31を配置する構成も可能である。この場合、電気化学素子Aへの気体の供給についても変更する必要がある。
すなわち、電極層31と対極電極層33の順や第一ガス、第二ガスのいずれが還元性成分ガス及び酸化性成分ガスの一方または他方であるかについては、電極層31と対極電極層33に対して第一ガス、第二ガスが適正に反応する形態で供給されるよう配置されていれば、種々形態を採用しうる。
【0203】
(5)また、上述の実施形態では、気体通流許容部1Aを覆って電気化学反応部3を、第一板状体1の第二板状体2とは反対側に設けたが、第一板状体1の第二板状体2側に設けてもよい。すなわち、電気化学反応部3は内部流路A1に配置される構成であっても本発明は成り立つ。
【0204】
(6)上記実施の形態では、第一貫通部41、第二貫通部51を長方形状の板状支持体の両端部に一対設ける形態としたが、両端部に設ける形態に限らず、また、2対以上設ける形態であってもよい。また、第一貫通部41、第二貫通部51は、対で設けられている必要はない。よって、第一貫通部41、第二貫通部51それぞれが、1個以上設けられることができる。さらに、板状支持体は長方形状に限らず、正方形状、円形状等種々形態を採用することができる。
【0205】
(7)第一、第二環状シール部42,52は、第一、第二貫通部41、51どうしを連通させてガスの漏洩を防止できる構成であれば形状は問わない。つまり、第一、第二環状シール部42,52は、内部に貫通部に連通する開口部を有する無端状の構成で、隣接する電気化学素子Aどうしの間をシールする構成あればよい。第一、第二環状シール部42,52は例えば環状である。環状には、円形、楕円形、方形、多角形状等いかなる形状でもよい。
【0206】
(8)上記では、板状支持体10は、第一板状体1及び第二板状体2により構成されている。ここで、第一板状体1と第二板状体2とは、別体の板状体から構成されていてもよいし、図25に示すように一の板状体から構成されていてもよい。図25の場合、一の板状体が折り曲げられることで、第一板状体1と第二板状体2とが重ね合される。そして、周縁部1aが溶接等されることで第一板状体1と第二板状体2とが一体化される。なお、第一板状体1と第二板状体2とは一連の継ぎ目のない板状体から構成されていてもよく、一連の板状体が折り曲げられることで図25のように成型されてもよい。
また、後述しているが、第二板状体2が一の部材から構成されていてもよいし、2以上の部材から構成されていてもよい。同様に、第一板状体1が一の部材から構成されていてもよいし、2以上の部材から構成されていてもよい。
【0207】
(9)上記の第二板状体2は、第一板状体1とともに内部流路A1を形成する。内部流路A1は、分配部A12、複数の副流路A11、合流部A13を有している。分配部A12に供給された第一ガスは、図14に示すように、複数の副流路A11それぞれに分配して供給され、複数の副流路A11の出口で合流部A13において合流する。よって、第一ガスは、分配部A12から合流部A13に向かうガス流れ方向に沿って流れる。複数の副流路A11は、第二板状体2のうち分配部A12から合流部A13以外の部分を波板状に形成することで構成されている。そして、図18に示すように、複数の副流路A11は、第一ガスのガス流れ方向に交差する流れ交差方向での断面視において波板状に構成されている。このような複数の副流路A11は、図14に示すガス流れ方向に沿って波板が延びて形成されている。複数の副流路A11は、分配部A12と合流部A13との間で一連の波状の板状体から形成されていてもよいし、2以上の波状の板状体から構成されていてもよい。複数の副流路A11は、例えば、ガス流れ方向に沿う方向に沿って分離した2以上の波状の板状体から構成されていてもよいし、流れ交差方向に沿う方向に沿って分離した2以上の波状の板状体から構成されていてもよい。
【0208】
また、複数の副流路A11は、図18に示すように同一形状の山及び谷が繰り返し形成されることで波形に構成されている。しかし、第二板状体2は、複数の副流路A11が形成される領域において板状部分を有していてもよい。例えば、複数の副流路A11は、板状部分と突状部分とが交互に形成されることで構成されていてもよい。そして、突状部分を第一ガス等の流体が通流する部分とすることができる。
【0209】
(10)上記の第二板状体2において複数の副流路A11に相当する部分は、全面が波板状に形成されている必要はなく、少なくとも一部が波板状に形成されていればよい。第二板状体2は、例えば、分配部A12と合流部A13との間において、ガス流れ方向の一部が平板状であり、残りが波板状であってもよい。また、第二板状体2は、流れ交差方向の一部が平板状であり、残りが波板状であってもよい。
【0210】
(11)上記実施形態において、電気化学装置は、複数の電気化学素子Aを備える電気化学モジュールMを備えている。しかし、上記実施形態の電気化学装置は1つの電気化学素子を備える構成にも適用可能である。
【0211】
(12)上記実施形態の図1において、電気化学素子積層体Sは、積層方向上側においては、上部絶縁体(板状部材)210Tを介して、上部加圧体400T、上部プレート230Tに挟まれている。また、電気化学素子積層体Sは、積層方向下側においては、下部絶縁体(板状部材)210Bを介して、下部加圧体400B、下部プレート230Bに挟まれている。そして、このように配置された電気化学素子積層体S、上部及び下部絶縁体210、上部及び下部加圧体400、上部及び下部プレート230は、容器200に収容されている。特許請求の範囲における挟持体は、上部及び下部プレート230及び容器200に相当する。
また、上記の図10において、電気化学素子積層体S、上部及び下部絶縁体210、上部及び下部平板状部材320、上部及び下部加圧体400、上部及び下部プレート230は、容器200に収容されている。特許請求の範囲における挟持体は、上部及び下部プレート230及び容器200に相当する。
また、上記の図11において、電気化学素子積層体S、上部及び下部絶縁体210、上部及び下部平板状部材320、上部及び下部加圧体400は、容器200に収容されている。なお、上記図1及び図10とは異なり、上部及び下部プレート230は設けられていない。特許請求の範囲における挟持体は、容器200に相当する。
【符号の説明】
【0212】
25 :燃料変換器
31 :電極層
32 :電解質層
33 :対極電極層
35 :反応防止層
41 :第一貫通部
93 :電力変換器
100 :電気化学装置
103 :燃料供給部
104 :インバータ
200 :容器
230B :下部プレート
230T :上部プレート
400 :加圧体
401a :第1加圧面部
401b :第2加圧面部
403 :支持部
405 :内部空間
407 :湾曲部
A :電気化学素子
M :電気化学モジュール
S :電気化学素子積層体
Z :エネルギーシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
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図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26