(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 53/02 20060101AFI20240122BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
B29C53/02
B60R13/02 A
(21)【出願番号】P 2020075711
(22)【出願日】2020-04-21
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391013106
【氏名又は名称】株式会社パーカーコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】石山 文華
(72)【発明者】
【氏名】井上 義雄
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-231535(JP,A)
【文献】特表2015-504804(JP,A)
【文献】特開2007-015656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 53/02
B60R 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強繊維と熱可塑性樹脂とを含む成形体の製造方法であって、
前記成形体の端部の裏面において先端から内側に所定間隔をもって離れた位置に加熱部材を接触させて前記端部を加熱する加熱工程と、
加熱により軟化された前記端部を表面から押圧して折り曲げる折曲工程と、を含
み、
前記折曲工程で折り曲げられる前記端部は、前記加熱部材が接触しない先端部と、該先端部と連なり且つ前記加熱部材が接触した基部と、を有することを特徴とする成形体の製造方法。
【請求項2】
折曲後の前記端部の先端部は、先端に向かうに連れて板厚が小さくなる板厚徐変部を有する請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
加熱前の前記端部の先端の板厚(t1)と折曲後の前記端部の先端の板厚(t2)とは同じである請求項1
又は2に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記所定間隔は1mm~20mmである請求項1
乃至3のいずれか一項に記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記成形体は、車両用天井材である請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
折り曲げられた前記端部を差込部品に差し込む差込工程を備える請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法に関し、さらに詳しくは、補強繊維と熱可塑性樹脂とを含む成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両では天窓(例えば、ムーンルーフ、パノラマルーフ、ツインルーフ等)を備える仕様があり、このような車両用天井材では中央に天窓を設けるための開口部が形成されている。この開口部の縁部の下方側は車室内に露出するため、意匠性の観点から折り曲げ加工などの処理を施すことが好ましい。この端部の折り曲げ加工方法としては、例えば、
図11(a)に示されるように、端部101の裏面において先端を含む位置に加熱部材122を接触させて端部101を加熱し、その後、
図11(b)(c)に示されるように、加熱により軟化された端部101を表面から折曲部材123で押圧して折り曲げる方法が提案されている(例えば、特許文献1及び2等を参照)。
なお、端部101の折り曲げ形態としては、端部101を該端部に連なる基部に対して交差して折り曲げる一次曲げ(
図11(b)参照)、端部101を該端部に連なる基部に対して重ねて折り曲げる二次曲げ(
図11(c)参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-052400号公報
【文献】特開2010-052401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の端部の折り曲げ加工方法では、端部101の裏面において先端を含む位置に加熱部材122を接触させて端部101を加熱しているので、一次曲げ、二次曲げのどちらであっても、例えば、
図12に示されるように、加熱後に加熱部材122が後退する際に材料の一部を引きはがすことでケバ49(
図13参照)が発生してしまう。このケバ49を有する端部101では、天井材を車両に組み付けたときに周辺部品と干渉してしまう恐れがあるため、ケバ49を除去する必要がある。
【0005】
ここで、天井材は、例えば、
図14に示されるように、補強繊維105(例えば、ガラス繊維等)と熱可塑性樹脂106(例えば、ポリプロピレン樹脂等)とを含んで構成されることがある。この天井材の端部101では、加熱膨張により先端切り口が開いて、その先端切り口から溶けた熱可塑性樹脂106と補強繊維105とが流れ出て加熱部材122に付着し、加熱後の加熱部材122の後退時に材料の一部を引きはがして糸引き状態になり、折曲げ加工後にそのまま固着することでケバ49が発生するものと考えられる。
【0006】
さらに、上述の一次曲げされた端部101では、
図13(a)に示されるように、フランジトリムと呼称される差込部品133に差し込んで貼り付けることがある。しかし、従来の端部の折り曲げ加工方法では、天井材のプレス成形時に端部101を押し潰して薄肉化していても、加熱膨張により端部101の先端側の板厚が膨張してしまう。そのため、差込部品133の差し込みのクリアランスに対して端部101の先端側が厚いこと、及び上述のケバ49が引っかかることによって、差込部品133に対して端部101を差し込み難い、又は完全に差し込むことができない。したがって、差込部品133への人手による差し込み補助が必要となっており、また両側から負荷をかけて端部101を押し潰しながら差し込む必要がある。なお、車両上の公差関係から、差込部品133の差し込みのクリアランスを広げることはできない。
【0007】
上述の問題は、天井材の端部に限らず、加熱により軟化して折り曲げられる成形体の端部においては同様に生じる。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、成形体の端部の先端側でのケバの発生とともに板厚の膨張を抑制しながら端部を加熱して折り曲げることができる成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、補強繊維と熱可塑性樹脂とを含む成形体の製造方法であって、成形体の端部の裏面において先端から内側に所定間隔をもって離れた位置に加熱部材を接触させて前記端部を加熱する加熱工程と、加熱により軟化された前記端部を表面から押圧して折り曲げる折曲工程と、を含むことを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、加熱前の前記端部の先端の板厚(t1)と折曲後の前記端部の先端の板厚(t2)とは同じであることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記所定間隔は1mm~20mmであることを要旨とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発明において、前記成形体は、車両用天井材であることを要旨とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発明において、折り曲げられた前記端部を差込部品に差し込む差込工程を備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の成形体の製造方法によると、成形体の端部の裏面において先端から内側に所定間隔をもって離れた位置に加熱部材を接触させて端部を加熱する加熱工程と、加熱により軟化された端部を表面から押圧して折り曲げる折曲工程と、を含む。これにより、加熱部材が成形体の端部の先端側に接触しないため、成形体の端部の先端側でのケバの発生とともに板厚の膨張を抑制しながら端部を加熱して折り曲げることができる。
また、加熱前の前記端部の先端の板厚(t1)と折曲後の前記端部の先端の板厚(t2)とが同じである場合は、ケバの発生を防止できるとともに、折曲後の端部の先端の板厚が加熱前の板厚を保持できる。
また、前記所定間隔が1mm~20mmである場合は、ケバの発生とともに板厚の膨張を更に効果的に抑制できる。
さらに、前記成形体が、車両用天井材である場合、天井材の端部の先端側でのケバの発生とともに板厚の膨張を抑制しながら端部を加熱して折り曲げることができる。
さらに、折り曲げられた前記端部を差込部品に差し込む差込工程を備える場合は、端部を差込部品に容易に差し込むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】実施例に係る天井材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は初期状態を示し、(b)は端部の加熱状態を示し、(c)は端部に支持板が当接した状態を示す。
【
図2】上記天井材の製造方法(一次曲げ工程)を説明するための説明図である。
【
図3】上記天井材の製造方法(二次曲げ工程)を説明するための説明図であり、(a)は端部の一次曲げ状態を示し、(b)は端部の二次曲げ状態を示す。
【
図4】実施例に係る天井材の製造装置の平面図である。
【
図5】上記天井材が搭載された天窓を有する車両の斜視図である。
【
図6】上記天井材の車両上部からみた平面図である。
【
図8】
図6のVIII-VIII線断面拡大図である。
【
図9】実験例及び比較例に係る天井材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は実験例で得られた天井材の縦断面を示す画像処理図であり、(b)は比較例で得られた天井材の縦断面を示す画像処理図である。
【
図10】実験例で得られた天井材の耐熱試験を説明するための説明図である。
【
図11】従来の折り曲げ加工方法を説明するための説明図であり、(a)は端部の加熱状態を示し、(b)は端部の一次曲げ状態を示し、(c)は端部の二次曲げ状態を示す。
【
図12】従来の折り曲げ加工方法を説明するための説明図であり、(a)(b)は加熱部材の後退により端部の先端切り口が開かれた状態を示す。
【
図13】従来の折り曲げ加工方法を説明するための説明図であり、(a)は一次曲げされた端部の先端側にケバが発生した状態を示し、(b)は二次曲げされた端部の先端側にケバが発生した状態を示す。
【
図14】上記ケバの発生原因を説明するための説明図であり、(a)は加熱後の端部の断面を示し、(b)は一次曲げされた端部の断面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0013】
本実施形態に係る成形体の製造方法は、例えば、
図1~
図3等に示すように、補強繊維(5)と熱可塑性樹脂(6)とを含む成形体(1)の製造方法であって、成形体の端部(1a~1d)の裏面において先端から内側に所定間隔(S)をもって離れた位置に加熱部材(22)を接触させて端部を加熱する加熱工程と、加熱により軟化された端部(1a~1d)を表面から押圧して折り曲げる折曲工程と、を含む。
なお、成形体の端部(1a~1d)は、例えば、成形体の外周縁部及び/又は成形体に形成された開口部(2)の周縁部により構成されることができる。
【0014】
加熱工程は、加熱部材(22)の直接接触により端部(1a~1d)を加熱して軟化させる限り、その加熱温度、時間等は特に問わない。この加熱部材としては、例えば、ヒータを備える加熱ブロック、加熱プレート等が挙げられる。このヒータの設定温度は、成形体を構成する熱可塑性樹脂を溶融させ得る温度であればよく、特に限定されないが、150℃~300℃が挙げられる。特に、成形体の裏面側にポリエステル樹脂等により形成される保護材(9)を備える場合は、270℃~290℃、更に280℃~290℃とすることが好ましい。また、加熱部材による加熱時間としては、例えば、40秒程度が挙げられる。さらに、加熱部材(22)の加熱面の高さ(H;
図1(a)参照)としては、例えば、10mm~15mmが挙げられる。
【0015】
加熱工程は、例えば、
図1(b)に示すように、成形体の端部(1a~1d)の裏面において折曲ライン(L1)を含む位置に加熱部材(22)を接触させて該端部を加熱することができる。
加熱工程における所定間隔(S)は、端部(1a~1d)の折曲長さ(折曲代)、厚さ、材質等に応じて適宜選択されるが、例えば、1mm~20mm(好ましくは2mm~10mm、特に3mm~7mm)であることができる。
【0016】
折曲工程は、加熱により軟化された端部(1a~1d)を折り曲げる限り、その折曲方法、角度等は特に問わない。この折曲工程としては、例えば、端部(1a)を該端部に連なる基部に対して交差して折り曲げる一次曲げ(
図2参照)、端部(1b、1c、1d)を該端部に連なる基部に対して重ねて折り曲げる二次曲げ(
図3参照)等が挙げられる。これら一次曲げと二次曲げは、端部の意匠性や強度等を考慮して適宜選択される。
折曲工程は、例えば、
図2及び
図3等に示すように、支持板(29)の先端が端部(1a~1d)の裏面の折曲ライン(L1)に当接した状態で端部を折り曲げることができる。
端部(1a~1d)の折曲長さ(L2;
図2参照)としては、例えば、10mm~20mmが挙げられる。
【0017】
ここで、一次曲げされた端部(1a)を差込部品(33)に差し込んで貼り付けることがある。この場合、差込部品と端部との設計上の狙いの隙間関係の観点から、加熱前の端部(1a~1d)の先端の板厚(t1)と折曲後の端部(1a~1d)の先端の板厚(t2)とは同じであることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係る成形体の製造方法としては、例えば、
図7等に示すように、折り曲げられた端部(1a)を差込部品(33)に差し込む差込工程を備える形態が挙げられる。この差込部品(33)は、端部(1a)の目隠しの機能とともに強度を高める機能を有する。
【0019】
上記成形体の形状、大きさ、用途等は特に問わない。この成形体としては、例えば、自動車、鉄道車両、船舶、飛行機等の内装材や外装材が挙げられる。このうち自動車の内装材や外装材として、例えば、天井材、シートバックボード、パッケージトレイ、ドア基材、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クォーターパネル、サイドパネル、アームレスト、自動車用ドアトリム、シート構造材、コンソールボックス、自動車用ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー、カウリング等が挙げられる。さらに、上述したものの他、例えば、建築物、家具等の内装材及び外装材等が挙げられる。すなわち、ドア表装材、ドア構造材、机、椅子、棚、箪笥などの各種家具の表装材等が挙げられる。その他、包装体、トレイなどの収容体、保護用部材、パーティション部材等が挙げられる。
【0020】
成形体は、
図1(a)等に示すように、補強繊維(5)と熱可塑性樹脂(6)とを含む基材(7)を備える。この基材は、熱可塑性樹脂を含む母相の中に補強繊維が分散して含まれる構造、又は、補強繊維の全てが熱可塑性樹脂に被覆されることなく補強繊維どうしが熱可塑性樹脂により部分的に接合している構造を有することができる。
【0021】
補強繊維としては、例えば、無機繊維(ガラス繊維等)や有機繊維(植物繊維、動物繊維等の天然繊維)を利用できる。これらは1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。また、植物性繊維には、葉脈系植物繊維(例えば、アバカ、サイザル、アガベ等)、靭皮系植物繊維(例えば、フラックス、ジュート、ヘンプ、ケナフ、ラミー等)、木質系植物繊維(例えば、広葉樹及び針葉樹等から採取された植物繊維等)、その他の植物繊維(ココヤシ殻繊維、オイルパーム空果房繊維、稲わら繊維、麦わら繊維、タケ繊維、綿等)が含まれる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。さらに、補強繊維は、融点が好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上の繊維であり、成形体が車両用天井材である場合、その構造安定性の観点から、無機繊維(特にガラス繊維)であることが好ましい。
【0022】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスチレン、アクリル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール及びABS等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。さらに、熱可塑性樹脂は、融点が好ましくは180℃以下の熱可塑性樹脂であり、成形体が車両用天井材である場合、その構造安定性の観点から、ポリオレフィン(特にポリプロピレン)であることが好ましい。
【0023】
成形体は、例えば、
図1(a)等に示すように、基材(7)の表面側に配置される表皮材(8)を備えることができる。この表皮材は、好ましくは、織布、不織布又は編み布に由来するものであり、意匠を備えるものであってもよい。
成形体は、例えば、基材(7)の裏面側に配置される保護材(9)を備えることができる。この保護材は、好ましくは、融点が200℃以上の熱可塑性樹脂を含むものである。この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、フッ素樹脂、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド等が挙げられる。
【0024】
なお、上記実施形態で記載した各構成の括弧内の符号は、後述する実施例に記載の具体的構成との対応関係を示すものである。
【実施例】
【0025】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本実施例では、本発明に係る「成形体」として、
図5及び
図6に示すように、天窓15を有する車両16に搭載される車両用天井材(以下、単に「天井材」とも称する。)1を例示する。さらに、本発明に係る「端部」として、天井材1に形成された天窓用の開口部2の周縁部により構成される端部1a~1dを例示する。
【0026】
天井材1は、
図1(a)に示すように、ガラス繊維等の補強繊維5とポリプロピレン樹脂(融点;168℃)等の熱可塑性樹脂6とを含む基材7と、基材7の表面側に配置される織布等の表皮材8と、基材7の裏面側に配置される保護材9と、を備えている。この保護材9は、基材7を構成する熱可塑性樹脂よりも融点の高いポリエチレンテレフタレート樹脂(融点;255℃)等の熱可塑性樹脂を含んでいる。また、天井材1は、プレス成形により所定の形状に賦形されたものである。さらに、天井材の端部1a~1dは、天井材1の主要部を形成する面状部10から立ち上がる湾曲状の立ち上げ片11の先端側に設けられている。
【0027】
天井材1の端部1a~1dは、
図6に示すように、車両幅方向Aに延びる前後の端部1a、1bと、車両前後方向Bに延びる左右の端部1c、1dと、を備えている。この車両前方の端部1aは、後述の一次曲げで折り曲げられており、後述の差込部品(「フランジトリム」とも称される。)33に差し込まれる(
図7参照)。さらに、車両後方の端部1b及び左右の端部1c、1dは、後述の二次曲げで折り曲げられている(
図8参照)。
【0028】
(1)天井材の製造装置の構成
本実施例に係る天井材の製造装置21は、
図1~
図3に示すように、天井材の端部1a~1dの裏面(非意匠面)に接触して端部1a~1dを加熱する加熱部材22と、加熱部材22の加熱により軟化された端部1a~1dを表面(意匠面)から押圧して折り曲げる折曲部材23a、23bと、を備えている。さらに、製造装置21は、表面を下向きとして端部1a~1dが上方に立ち上がるように天井材1が載置される載置台26と、載置台26上に載置された天井材1を下方に押圧する押え部材27と、を備えている。さらに、製造装置21は、端部1a~1dの裏面の折曲ラインL1に当接する支持板29を備えている。
【0029】
加熱部材22は、金属製のブロック内にヒータ22aを内蔵して構成されている。このヒータ22aは、所定の加熱温度(例えば、280℃~290℃)に設定されている。また、加熱部材22は、天井材1の開口部2の全周に沿う複数の加熱部位毎に分割されており(
図4参照)、各々の部位毎に個別に温度制御可能とされている。また、加熱部材22は、水平方向及び垂直方向に移動することで、端部1a~1dよりも上方の待機位置(
図1(a)参照)と端部1a~1dの裏面に直接接触する加熱位置(
図1(b)参照)との間で変位される。なお、加熱部材22の加熱面には、材料の付着防止のためフッ素樹脂テープ(図示省略)が貼着さている。また、加熱部材22の加熱面の高さHは、約12mmとされている。
【0030】
支持板29は、天井材1の開口部2の全周に沿う複数の折曲部位毎に分割されている(
図4参照)。この支持板29は、水平方向に移動することで、端部1a~1dの裏面に対して対向する待機位置(
図1(a)(b)参照)と端部1a~1dの裏面の折曲ラインL1に当接する当接位置(
図1(c)参照)との間で変位される。
【0031】
折曲部材23a、23bは、金属製のブロックにより構成されている。この折曲部材23a、23bには、天井材の端部1a~1dの表面を支持する支持部24が設けられている。また、折曲部材23a、23bは、天井材1の開口部2の全周に沿う複数の折曲部位毎に分割されている(
図4参照)。一次曲げ用の折曲部材23aは、水平方向及び垂直方向に移動することで、支持部24が端部1a~1dの表面を支持する支持位置(
図1(c)参照)と端部1a~1dを略90度に折り曲げる一次曲げ位置(
図2参照)との間で変位される。さらに、二次曲げ用の折曲部材23bは、水平方向及び垂直方向に移動することで、上述の支持位置(
図1(c)参照)と一次曲げ位置(
図3(a)参照)と端部1a~1dを略180度に折り曲げる二次曲げ位置(
図3(b)参照)との間で変位される。
【0032】
(2)天井材の製造方法
次に、上記構成の天井材の製造装置21を用いた天井材の製造方法について説明する。
本実施例に係る天井材の製造方法は、
図1~
図3に示すように、天井材の端部1a~1dの裏面に加熱部材22を接触させて端部1a~1dを加熱する加熱工程と、加熱部材22の加熱により軟化された端部1a~1dを表面から押圧して折り曲げる折曲工程と、を備えている。本成形体の製造方法は、後述する差込工程を備えている。
【0033】
加熱工程は、
図1(b)に示すように、端部1a~1dの裏面において先端から内側に所定間隔S(例えば、5mm)をもって離れた位置に加熱部材22を接触させて端部1a~1dを加熱する。この加熱部材22は、端部1a~1dの裏面の折曲ラインL1を含む位置に接触される。また、加熱工程は、端部1a~1dの表面を支持部24で支持した状態で端部1a~1dを加熱する。さらに、加熱工程は、天井材1のプレス成形時に予め押し潰されて薄肉化(板厚;1mm)された端部1a~1dを加熱する。
【0034】
具体的に、加熱部材22は、端部1a~1dの表面が支持部24で支持された状態(
図1(a)参照)で、待機位置より下降して端部1a~1dの裏面に対向してから前進して該裏面に接触して端部1a~1dを加熱する(
図1(b)参照)。その後、所定の加熱時間(例えば、約40秒)の経過後に、加熱部材22は、加熱位置から後退してから上昇して待機位置に戻る(
図1(c)参照)。このとき、支持板29は、待機位置から前進して端部1a~1dの裏面の折曲ラインL1に当接して折曲工程に備える。
【0035】
折曲工程は、一次曲げ工程と二次曲げ工程とを含んでいる。一次曲げ工程は、折曲部材23aを用いて、端部1aを該端部に連なる基部に対して交差して折り曲げる工程である。また、二次曲げ工程は、折曲部材23bを用いて、端部1b、1c、1dを該端部に連なる基部に対して重ねて折り曲げる工程である。なお、端部1a~1dの折曲長さL2は、約15mmとされている。
【0036】
具体的に、一次曲げ工程では、端部1aの裏面の折曲ラインL1に支持板29の先端が当接した状態(
図1(c)参照)より、折曲部材23aは、上昇してから前進して端部1aの表面を横方に押圧して該端部1aを略90度に折り曲げる(
図2参照)。その後、冷却ブローにより端部1aを冷却して形状を保持させる。一方、二次曲げ工程では、端部1b~1dの裏面の折曲ラインL1に支持板29の先端が当接した状態(
図1(c)参照)より、折曲部材23bは、上昇してから前進して端部1b~1dの表面を横方に押圧して該端部を略90度に折り曲げ(
図3(a)参照)、その後、下降して端部1b~1dの表面を下方に押圧して該端部を略180度に折り曲げる(
図3(b)参照)。その後、冷却ブローにより端部1b~1dを冷却して形状を保持させる。
【0037】
差込工程は、一次曲げされた端部1aを差込部品33に差し込んで貼り付ける工程である(
図7参照)。この差込部品33は、合成樹脂により形成されており、端部1aの目隠しの機能とともに強度を高める機能を有する。
【0038】
ここで、加熱部材22が端部1a~1dの先端側に接触しないことから、折曲後の端部1a~1dの先端の板厚t2は、加熱前の端部1a~1dの先端の板厚t1と略同じ値(例えば、約1mm)に保持される。さらに、加熱時の端部1a~1dの先端側では先端に向かって熱可塑性樹脂6の溶融量が減るため、折曲後の端部1a~1dの先端側は、先端に向かうに連れて板厚が小さくなる板厚徐変部31を有している(
図7及び
図8参照)。
【0039】
(3)実施例の効果
本実施例の天井材の製造方法によると、天井材1の端部1a~1dの裏面において先端から内側に所定間隔Sをもって離れた位置に加熱部材22を接触させて端部1a~1dを加熱する加熱工程と、加熱により軟化された端部1a~1dを表面から押圧して折り曲げる折曲工程と、を含む。これにより、加熱部材22が天井材の端部1a~1dの先端側に接触しないため、天井材の端部1a~1dの先端側でのケバの発生とともに板厚の膨張を抑制しながら端部1a~1dを加熱して折り曲げることができる。
【0040】
具体的に、本実施例では、天井材の端部1a~1dの加熱部材22が接触する部分は膨張しても、加熱部材22が接触しない端部1a~1dの先端側は加熱前の板厚を保持できる。すなわち、加熱前の端部1a~1dの先端の板厚t1と折曲後の端部1a~1dの先端の板厚t2とが同じである。これにより、差込部品33と端部1aとの設計上の狙いの隙間関係を実現でき、一次曲げされた端部1aを差込部品33に容易に差し込むことができる。したがって、従来のように、差込部品33への人手による差し込み補助や天井材の端部1aを押し潰しながら差し込む必要がなくなる。
【0041】
さらに、本実施例では、天井材の端部1a~1dの先端切り口が開かないため、先端切り口から材料が飛び出すことがなくなる。これにより、ケバが発生しないため、天井材1を車両に組み付けたときに、端部1a~1dが周辺部品と干渉してしまうことがない(
図7及び
図8参照)。したがって、ケバの除去作業を廃止でき、端部1a~1dの寸法精度、外観品質も向上する。
【0042】
(4)実験例及び比較例について
次に、実験例及び比較例の天井材の製造方法で得られた一次曲げされた天井材の端部の外観を評価した結果について説明する。なお、実験例の天井材の製造方法として、上述の実施例の天井材の製造方法(
図1及び
図2等)を採用した。一方、比較例の天井材の製造方法として、従来の天井材の製造方法(
図11(a)(b)参照)を採用した。また、実験例及び比較例の天井材の製造方法において、加熱前の端部は、天井材のプレス成型時に予め押し潰されて薄肉化(板厚;約1mm)されたものを採用した。
【0043】
実験例の天井材の製造方法で得られた天井材の端部では、
図9(a)に示すように、その先端側で先端切り口が開いておらずケバの発生がなく、またその先端の板厚が約1mmであり加熱前後で板厚が保持されていた。これに対して、比較例の天井材の製造方法で得られた天井材の端部では、
図9(b)に示すように、その先端側で先端切り口が開いておりケバの発生があり、またその先端の板厚が約2.5mmであり加熱後に板厚が膨張していた。
【0044】
次に、実験例の天井材の製造方法で得られた天井材の端部の耐熱試験後の外観を評価した結果について説明する。なお、本耐熱試験では、
図10に示すように、一次曲げされた天井材の端部1aのサンプルA、Bを差込部品33に差し込んだ状態で寸法測定機35に固定し、環境温度を100℃として24時間後の外観を確認するとともに、天井材の端部1aの長手方向に沿う9カ所において面位置Pのずれを確認した。その結果、天井材の端部1aのサンプルA、Bのいずれでも先端切り口が開いていなかった。また、天井材の端部1aのサンプルAの面位置Pのずれは、7カ所でゼロであり2カ所で許容範囲(0.5mm以内)であった。さらに、天井材の端部1aのサンプルBの面位置Pのずれは、5カ所でゼロであり、4カ所で許容範囲(0.5mm以内)であった。なお、寸法測定機35に固定しての測定は耐熱試験の前後で行った。また、耐熱試験中はフリー状態であった。
【0045】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。すなわち、上記実施例では、天井材1の開口部2の周縁部により構成される端部1a~1dを例示したが、これに限定されず、例えば、天井材1の外周縁部(例えば、フロントガラスやリアガラスに連なる部位等)により構成される端部としてもよい。
【0046】
また、上記実施例では、天窓用の開口部2を例示したが、これに限定されず、例えば、照明機器、音響機器、分割天井材等を配置するための開口部としてもよい。
【0047】
また、上記実施例では、一次曲げされた端部1aと二次曲げされた端部1b~1dとを備える開口部2の周縁部を例示したが、これに限定されず、例えば、全周が一次曲げ又は二次曲げされた端部からなる開口部2の周縁部としてもよい。
【0048】
さらに、上記実施例では、端部1a~1dの裏面において折曲ラインL1を含む位置に加熱部材22を接触させるようにしたが、これに限定されず、例えば、端部1a~1dの裏面において折曲ラインL1よりも僅かに外側の位置に加熱部材22を接触させるようにしてもよい。
【0049】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0050】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、成形体の端部を加熱により折り曲げる技術として広く利用される。
【符号の説明】
【0052】
1;天井材、1a~1d;天井材の端部、5;補強繊維、6;熱可塑性樹脂、7;基材、22;加熱部材、23a,23b;折曲部材、S;所定間隔。