(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】被処理水の水質測定方法、被処理水の水質制御方法、被処理水の水質測定装置、及び被処理水の水質制御システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20240122BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20240122BHJP
G01N 27/06 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
C02F1/00 V
C02F1/00 T
C02F1/00 K
G01N33/18 C
G01N27/06
(21)【出願番号】P 2020102719
(22)【出願日】2020-06-12
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大場 将純
(72)【発明者】
【氏名】高橋 惇太
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0118594(US,A1)
【文献】特開2010-069417(JP,A)
【文献】特開平10-332679(JP,A)
【文献】特開平06-343979(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/00-78、3/00-34、5/00-14
G01N27/00-24、33/00-46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水のpH値が4.8以下となる酸注入率を設定し、
設定した前記酸注入率に相当する前記被処理水の電気伝導率EC
H
(mS/m)を決定し、
前記被処理水に前記酸注入率で酸を注入し、
酸注入前の前記被処理水の電気伝導率EC
0
(mS/m)及び酸注入後の前記被処理水の電気伝導率EC
1
(mS/m)を測定し、
前記電気伝導率EC
0、前記電気伝導率EC
1の測定結果及び前記電気伝導率EC
Hの値に基づいて、前記被処理水のアルカリ度
Alk
0
(mg/L as CaCO
3
)を
以下の式(1):
Alk
0
=(EC
H
+EC
0
-EC
1
)×1.27 ・・・(1)
を用いて算出することを特徴とする被処理水の水質測定方法。
【請求項2】
前記被処理水の流通配管から分岐した測定用配管に前記被処理水の一部を分岐させ、前記測定用配管内を流通する前記被処理水に前記酸注入率で酸を注入し、酸注入前後の電気伝導率EC
0及び電気伝導率EC
1を連続的に測定することにより、前記アルカリ度を連続的に算出することを特徴とする請求項
1に記載の被処理水の水質測定方法。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の被処理水の水質測定方法を用いた前記被処理水のアルカリ度の算出結果と前記被処理水のpH値とに基づいて、前記被処理水のpHが、4.8~8.3の間で任意に設定された設定pH値となるように、前記被処理水へ注入する酸又はアルカリの注入率を制御するpH制御工程を有することを特徴とする被処理水の水質制御方法。
【請求項4】
前記被処理水のアルカリ度の算出結果に基づいて、前記設定pH値における前記被処理水のアルカリ度が、任意に設定された設定アルカリ度値となるように、前記被処理水へ注入する酸又はアルカリの注入率を制御するアルカリ度制御工程を更に有することを特徴とする請求項
3に記載の被処理水の水質制御方法。
【請求項5】
測定用配管と、
被処理水のpH値が4.8以下となる酸注入率で、前記測定用配管内の前記被処理水に酸を注入する測定用酸注入部と、
前記測定用酸注入部よりも上流側の前記測定用配管内の被処理水の電気伝導率EC
0
(mS/m)及び前記測定用酸注入部よりも下流側の前記測定用配管内の被処理水の電気伝導率EC
1
(mS/m)を測定可能な電気伝導率計と、
前記電気伝導率EC
0及び前記電気伝導率EC
1の測定結果と、前記酸注入率に相当する前記被処理水の電気伝導率EC
H
(mS/m)の値とに基づいて、前記被処理水のアルカリ度
Alk
0
(mg/L as CaCO
3
)を以下の式(1):
Alk
0
=(EC
H
+EC
0
-EC
1
)×1.27 ・・・(1)
を用いて算出する演算装置と
を備えることを特徴とする被処理水の水質測定装置。
【請求項6】
被処理水を流通させる流通配管と、
前記流通配管から分岐し、前記被処理水の一部を流通させる測定用配管と、
前記被処理水のpH値が4.8以下となる酸注入率で、前記測定用配管内の前記被処理水に酸を注入する測定用酸注入部と、
前記測定用酸注入部よりも上流側の前記測定用配管内の被処理水の電気伝導率EC
0
(mS/m)及び前記測定用酸注入部よりも下流側の前記測定用配管内の被処理水の電気伝導率EC
1
(mS/m)を測定可能な電気伝導率計と、
前記電気伝導率EC
0及び前記電気伝導率EC
1の測定結果と、前記酸注入率に相当する前記被処理水の電気伝導率EC
H
(mS/m)の値とに基づいて、前記被処理水のアルカリ度
Alk
0
(mg/L as CaCO
3
)を以下の式(1):
Alk
0
=(EC
H
+EC
0
-EC
1
)×1.27 ・・・(1)
を用いて算出する演算装置と、
前記被処理水のアルカリ度の算出結果と、前記被処理水のpH値とに基づいて、前記被処理水のpHが、4.8~8.3の間で任意に設定された設定pH値となるように、前記流通配管を流れる前記被処理水へ酸又はアルカリを注入する制御用酸・アルカリ注入部と
を備えることを特徴とする被処理水の水質制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水の水質測定方法、被処理水の水質制御方法、被処理水の水質測定装置、及び被処理水の水質制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被処理水の種々の水質測定方法が知られている。中でもpH値及びアルカリ度は水処理において重要な水質項目である。pH値及びアルカリ度が各種水処理性能に与える影響の例を以下に示す。
【0003】
(pH値制御)
pH値制御は、酸やアルカリを添加しながら被処理水を目的のpH値に近づける、いわゆるフィードバック制御が一般的であるが、アルカリ度が高い水はpH緩衝能が高いため、設定pH値に達するまでに時間を要する傾向がある。一方、アルカリ度が低い被処理水はpH緩衝能が低いためpH調整剤の過剰添加になりやすく、これによりpH値が変動し、制御に時間を要する傾向がある。
【0004】
(凝集沈殿処理)
凝集反応では、アルカリ度の消費を伴うため、アルカリ度の不足は凝集不良の原因となり得る。
【0005】
(活性汚泥処理)
硝化反応によるアルカリ度の消費及び生成する水素イオンによりpH値の低下を伴う。そのため、アルカリ度の不足は、硝化反応阻害の要因と成り得る。
【0006】
(アナモックス処理)
アンモニア酸化反応によるアルカリ度の消費及びアナモックス反応による水素イオンの消費に伴うアルカリ度の不足及びpH値の上昇は、各々の反応において阻害の要因と成り得る。
【0007】
(メタン発酵処理)
前処理の酸発酵反応における最適pH域は弱酸性であり、メタン発酵反応における最適pH域は中性であるため、各々の反応において、pH値制御の良否は、処理性能に強く影響する。また、アルカリ度の変動は、メタン発酵反応の処理安定性にも影響する。
【0008】
アルカリ度は通常、酸滴定により求められるが、手分析で常時アルカリ度を測定することは、運転管理者の作業負担を増大させ、現実的ではない。そのため、例えば、特開2001-133451号公報(特許文献1)に記載されるような、自動滴定装置を用いてアルカリ度を測定する方法が作業負担軽減の面で好ましい。
【0009】
しかしながら、自動滴定装置を使用する方法は、装置が高価であること、1回の測定に数十分の時間を要すること、また、設置スペースや定期的なメンテナンスが必要なことから、アルカリ度の常時連続モニタリングとしては費用対効果の点でメリットが得られ難い。
【0010】
pH値はpH計により簡単にモニタリングが可能である。但し、被処理水のpH値を制御する場合の酸又はアルカリの注入率は、被処理水のpH値が同じであっても異なる。前述のように、酸又はアルカリの注入率は、緩衝能を有するアルカリ度の濃度に依存するため、pH値の迅速な制御を困難にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、被処理水のpH値やアルカリ度を常時連続モニタリングし、迅速かつ確実にアルカリ度を測定又は制御することは、様々な水処理を安定させるための有効な手段と成り得る。
【0013】
上記課題を鑑み、本発明は、被処理水中のアルカリ度をより簡単なシステムで迅速かつ確実に測定でき、連続的なモニタリングが可能な被処理水の水質測定方法、被処理水の水質制御方法、被処理水の水質測定装置、及び被処理水の水質制御システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、被処理水の電気伝導率を利用して水質を測定及び制御する手法が有効であるとの知見を得た。
【0015】
以上の知見を基礎として完成した本発明の実施の形態は一側面において、被処理水のpH値が4.8以下となる酸注入率を設定し、設定した酸注入率に相当する被処理水の電気伝導率ECHを決定し、被処理水に上記酸注入率で酸を注入し、酸注入前の被処理水の電気伝導率EC0及び酸注入後の被処理水の電気伝導率EC1を測定し、電気伝導率EC0、電気伝導率EC1の測定結果及び電気伝導率ECHの値に基づいて、被処理水のアルカリ度を算出する工程を有する被処理水の水質測定方法である。
【0016】
本発明の実施の形態に係る被処理水の水質測定方法は一実施態様において、被処理水のアルカリ度を算出する工程が、以下の式(1):
Alk0=(ECH+EC0-EC1)×1.27 ・・・(1)
(ここで、Alk0:アルカリ度(mg/L as CaCO3)
ECH:酸注入率に相当する被処理水の電気伝導率(mS/m)
EC0:酸注入前の被処理水の電気伝導率(mS/m)
EC1:酸注入後の被処理水の電気伝導率(mS/m)を示す。)
を用いて算出する。
【0017】
本発明の実施の形態に係る被処理水の水質測定方法は別の一実施態様において、被処理水の流通配管から分岐した測定用配管に被処理水の一部を分岐させ、測定用配管内を流通する被処理水に上記酸注入率で酸を注入し、酸注入前後の電気伝導率EC0及び電気伝導率EC1を連続的に測定することにより、アルカリ度を連続的に算出する。
【0018】
本発明の実施の形態は別の一側面において、上記アルカリ度の算出結果と被処理水のpH値とに基づいて、被処理水のpHが、4.8~8.3の間で任意に設定された設定pH値となるように、被処理水へ注入する酸又はアルカリの注入率を制御するpH制御工程を有する被処理水の水質制御方法である。
【0019】
本発明の実施の形態に係る被処理水の水質制御方法は一実施態様において、被処理水へ注入する酸又はアルカリの注入率を以下の式(2):
【数1】
(ここで、C
0:酸又はアルカリの注入率(mmol/
L)
Alk
0:アルカリ度(mg/L as CaCO
3)
pH
0:被処理水のpHの測定値(-)
pH
1:設定pH値(-)を示す。)
を用いて決定する。
【0020】
本発明の実施の形態に係る被処理水の水質制御方法は別の一実施態様において、上記被処理水のアルカリ度の算出結果に基づいて、設定pH値における被処理水のアルカリ度が、任意に設定された設定アルカリ度値となるように、被処理水へ注入する酸又はアルカリの注入率を制御するアルカリ度制御工程を更に有する。
【0021】
本発明の実施の形態に係る被処理水の水質制御方法は更に別の一実施態様において、アルカリ度制御工程において、被処理水へ注入する酸又はアルカリの注入率を以下の式(3):
注入率:C0=(Alk0-Alk1)/50 ・・・(3)
(ここで、C0:酸又はアルカリの注入率(mmol/L)
Alk0:アルカリ度(mg/L as CaCO3)
Alk1:設定アルカリ度(-)
pH1:設定pH値(-)を示す。)
を用いて算出する工程を有する。
【0022】
本発明の実施の形態は更に別の一側面において、測定用配管と、被処理水のpH値が4.8以下となる酸注入率で、測定用配管内の被処理水に酸を注入する測定用酸注入部と、測定用酸注入部よりも上流側の測定用配管内の被処理水の電気伝導率EC0及び測定用酸注入部よりも下流側の測定用配管内の被処理水の電気伝導率EC1を測定可能な電気伝導率計と、電気伝導率EC0及び電気伝導率EC1の測定結果と、酸注入率に相当する被処理水の電気伝導率ECHの値とに基づいて、被処理水のアルカリ度を算出する演算装置とを備える被処理水の水質測定装置である。
【0023】
本発明の実施の形態は更に別の一側面において、被処理水を流通させる流通配管と、流通配管から分岐し、被処理水の一部を流通させる測定用配管と、被処理水のpH値が4.8以下となる酸注入率で、測定用配管内の被処理水に酸を注入する測定用酸注入部と、測定用酸注入部よりも上流側の測定用配管内の被処理水の電気伝導率EC0及び測定用酸注入部よりも下流側の測定用配管内の被処理水の電気伝導率EC1を測定可能な電気伝導率計と、電気伝導率EC0及び電気伝導率EC1の測定結果と、酸注入率に相当する被処理水の電気伝導率ECHの値とに基づいて、被処理水のアルカリ度を算出する演算装置と、被処理水のアルカリ度の算出結果と、被処理水のpH値とに基づいて、被処理水のpHが、4.8~8.3の間で任意に設定された設定pH値となるように、流通配管を流れる被処理水へ酸又はアルカリを注入する制御用酸・アルカリ注入部とを備える被処理水の水質制御システムである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、被処理水中のアルカリ度をより簡単なシステムで迅速かつ確実に測定でき、連続的なモニタリングが可能な被処理水の水質測定方法、被処理水の水質制御方法、被処理水の水質測定装置、及び被処理水の水質制御システムが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施の形態に係る水質測定方法及び水質制御方法を適用可能な水質測定装置及び水質制御システムを表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0027】
本発明の実施の形態に係る被処理水の水質測定方法及び水質制御方法に利用可能な被処理水の水質測定装置及び水質制御システム100の例を
図1に示す。水質制御システム100は、
図1に示すように、被処理水を流通させる流通配管1と、流通配管1から分岐し、被処理水の一部を流通させる測定用配管2と、測定用配管2内の被処理水に酸を注入する測定用酸注入部3と、被処理水の電気伝導率EC
0及び電気伝導率EC
1を測定可能な電気伝導率計(第1の電気伝導率計4a、第2の電気伝導率計4b)と、被処理水のアルカリ度を算出する演算装置5と、流通配管1を流れる被処理水へ酸又はアルカリを注入する制御用酸・アルカリ注入部6とを備える。
【0028】
被処理水としては、用水系、排水系を問わず種々の被処理水を利用することができる。例えば、逆浸透(RO)膜の透過水であるRO透過水、工業用水、井戸水等の他に、下水、し尿排水、工業廃水、海水等殆どの水処理に用いられる水が被処理水として利用可能である。中でもRO透過水、工業用水、井戸水等のような用水系の被処理水は本実施形態に係る水質測定及び水質制御に特に好適に利用できる。
【0029】
流通配管1には、流通配管1を流れる被処理水の流量を測定するための第1流量計8aと、被処理水のpHを測定するためのpH測定計7とが設けられている。流通配管1から分岐する測定用配管2には、測定用配管2内を流れる被処理水の流量を測定するための第2流量計8b、測定用酸注入部3、第1の電気伝導率計4a及び第2の電気伝導率計4bが設けられている。第1流量計8a、pH測定計7、第1の電気伝導率計4a及び第2の電気伝導率計4bの測定結果は、演算装置5に入力される。
【0030】
測定用配管2が接続された位置から更に下流側の流通配管1には、流通配管1を流れる被処理水に酸又はアルカリを注入するための制御用酸・アルカリ注入部6が設けられている。制御用酸・アルカリ注入部6から、供給ライン61を介して流通配管1内に酸が供給され、供給ライン62を介してアルカリが供給される。
【0031】
測定用酸注入部3は、被処理水のpH値が確実に総アルカリ度の中和点である4.8以下となるような、より好ましくは4.5以下、典型的には4.0程度となるような酸注入率で、被処理水に酸を注入する。なお、「アルカリ度」は、総アルカリ度、Mアルカリ度、Pアルカリ度の3種類がある(工業用水試験方法(JIS K0101 13.1、JIS K0102 15.1)及びボイラの給水及びボイラ水-試験方法(JIS B8224 9.2)参照)。本実施形態のアルカリ度は、被処理水のpH値が8.3以下の水を対象とするため、総アルカリ度とMアルカリ度は同一値となる。
【0032】
なお、被処理水のpH値が確実に4.8以下となる酸注入率及びその酸注入率に相当する電気伝導率ECHの値は、予めビーカー試験等により求めることができる。ここで「酸注入率」とは、被処理水を所定のpH値とするために被処理水に酸を注入した場合における酸注入後の被処理水中の酸濃度(希釈されたときの濃度)を意味する。具体的には、注入する酸原液濃度を被処理水流量FI0と酸原液注入流量の比率で希釈した濃度が「酸注入率」となる。
【0033】
測定用酸注入部3が注入する酸の種類としては特に限定されないが、水処理で一般的に使用する塩酸、硫酸等の強酸が用いられる。第1の電気伝導率計4aは、測定用酸注入部3よりも上流側の測定用配管2内の被処理水の電気伝導率EC0を測定する。第2の電気伝導率計4bは、測定用酸注入部3よりも下流側の測定用配管2内の被処理水の電気伝導率EC1を測定する。
【0034】
第1の電気伝導率計4aの設置位置は、測定用酸注入部3より上流側の測定用配管2内であれば特に限定されない。第2の電気伝導率計4bの設置位置は、測定用酸注入部3より下流側の測定用配管2内であれば特に限定されない。なお、第1の電気伝導率計4aを省略することも可能である。その場合、まずは測定用酸注入部3から被処理水に酸注入しない状態で、第2の電気伝導率計4bを用いて酸注入前の被処理水の電気伝導率EC0を測定し、その後に測定用酸注入部3から酸注入した状態で、第2の電気伝導率計4bを用いて酸注入後の被処理水の電気伝導率EC1を測定する。流通配管1の第1流量計8aは、流通配管1を流れる被処理水の流量に変動がなければ設置しなくてもよい。測定用配管2を流れる被処理水は、前段の水槽等へ返送してもよいし、排水してもよい。
【0035】
演算装置5は、第1流量計8a、pH測定計7、第1の電気伝導率計4a、第2の電気伝導率計4bからの測定結果の入力及び操作者からの電気伝導率ECHの入力を受け、電気伝導率EC0及び前記電気伝導率EC1の測定結果と、予め設定された酸注入率に相当する被処理水の電気伝導率ECHの値とに基づいて、被処理水のアルカリ度(総アルカリ度)Alk0を算出可能な演算部を備える。演算部はまた、制御用酸・アルカリ注入部6が、被処理水へ酸又はアルカリを注入する際の酸注入率Cacid及びアルカリ注入率Cbaseを算出することができる。被処理水のアルカリ度Alk0の算出方法としては、以下の手順に従って算出することができる。
【0036】
(被処理水のアルカリ度Alk0の算出方法)
まず、被処理水のpH値が確実に4.8以下、好ましくは4.0程度となる酸注入率をビーカー試験等により予め求め、その酸注入率に相当する電気伝導率ECHを決定する。電気伝導率ECHは、実測により測定する方法と、計算により求める方法がある。
【0037】
-実測する方法-
被処理水のpH値が確実に4.8以下となる酸注入率をビーカー試験等により求めた後、純水中に同じ酸注入率となるように酸を添加して、その電気伝導率ECHを測定する方法である。この方法は注入する酸の濃度が未知の場合でも求めることができる。
【0038】
-計算による方法-
イオンの極限モル伝導率から計算する方法である。塩酸の場合は、水素イオンと塩化物イオンの極限モル伝導率である349.82S・cm2・mol-1と76.35S・cm2・mol-1(化学便覧 改訂4版より)から、塩酸注入率1mmol/L当たりの電気伝導率ECHは42.6mS/mとなる。硫酸の場合は、水素イオンと硫酸イオンの極限モル伝導率である349.82S・cm2・mol-1と160S・cm2・mol-1(化学便覧 改訂4版より)から、硫酸1mmol/L当りの電気伝導率ECHは86.0mS/mとなる。
【0039】
予め求めた電気伝導率ECH、酸注入前の被処理水の電気伝導率EC0及び酸注入後の被処理水の電気伝導率EC1は、演算装置5に入力される。演算装置5の演算部は、以下の式(1)に基づいて、被処理水のアルカリ度Alk0を算出する。
Alk0=(ECH+EC0-EC1)×1.27 ・・・(1)
(ここで、Alk0:アルカリ度(mg/L as CaCO3)
ECH:酸注入率に相当する被処理水の電気伝導率(mS/m)
EC0:酸注入前の被処理水の電気伝導率(mS/m)
EC1:酸注入後の被処理水の電気伝導率(mS/m)を示す。)
【0040】
本発明の実施の形態によれば、演算装置5が、第1の電気伝導率計4a及び第2の電気伝導率計4bから入力される酸注入前の被処理水の電気伝導率EC0及び酸注入後の被処理水の電気伝導率EC1の入力を受けて、測定用配管2を流れる被処理水のアルカリ度Alk0をリアルタイムに自動演算することができる。測定用配管2を流れる被処理水のアルカリ度Alk0の算出処理は、操作者の要望に応じて、一定期間(数秒~数時間)おきに行うことができる。したがって、本発明の実施の形態によれば、従来のような高価な自動滴定装置を使用しなくとも、被処理水中のアルカリ度をより簡単なシステムで迅速かつ確実に測定でき、連続的な総アルカリ度の水質測定が可能となる。
【0041】
(水質制御方法)
演算装置5による被処理水のアルカリ度Alk0の測定結果を用いて、流通配管1を流れる被処理水のpH値を好適な範囲に調整することができる。即ち、本発明の実施の形態に係る被処理水の水質制御方法は、演算装置5による被処理水のアルカリ度Alk0の算出結果と被処理水のpH値(pH0)とに基づいて、被処理水のpHが、水処理に好適で、且つ本実施形態に係るアルカリ度及びpHの関係式を簡潔且つ精度良く測定可能な4.8~8.3の間で任意に設定された設定pH値(pH1)となるように、被処理水へ注入する酸又はアルカリの注入率を制御するpH制御工程を含む。
【0042】
-pH制御-
演算装置5は、流通配管1を流れる被処理水へ注入する酸又はアルカリの注入率C0を以下の式(2)に基づいて演算することができる。
【0043】
【数2】
(ここで、C
0:酸又はアルカリの注入率(mmol/
L)
Alk
0:アルカリ度(mg/L as CaCO
3)
pH
0:被処理水のpHの測定値(-)
pH
1:設定pH値(-)を示す。)
【0044】
演算装置5で算出された注入率C0から、酸を注入する場合の酸注入率Cacidまたはアルカリを注入する場合のアルカリ注入率Cbaseが設定される。演算装置5が、設定された酸注入率Cacidまたはアルカリ注入率Cbaseを、制御用酸・アルカリ注入部6のポンプ吐出量に相当する信号に変換して制御用酸・アルカリ注入部6が備える各ポンプに出力し、供給ライン61、62を介して酸又はアルカリを流通配管1に供給することにより、設定pH値(pH1)に調整された処理水が得られる。
【0045】
-アルカリ制御-
演算装置5は、上記の設定pH値(pH1)における被処理水のアルカリ度が、任意に設定された設定アルカリ度値(Alk1)となるように、被処理水へ注入する酸又はアルカリの注入率を制御するアルカリ度制御工程を更に有することができる。即ち、演算装置5は、(1)式を用いて算出された被処理水のアルカリ度Alk0と、任意に設定された設定アルカリ度値Alk1から、流通配管1を流れる被処理水へ注入する酸又はアルカリの注入率C0を以下の式(3)に基づいて演算することができる。
注入率:C0=(Alk0-Alk1)/50 ・・・(3)
(ここで、C0:酸又はアルカリの注入率(mmol/L)
Alk0:アルカリ度(mg/L as CaCO3)
Alk1:設定アルカリ度(-)
pH1:設定pH値(-)を示す。)
【0046】
(3)式を用いて算出された注入率C0から、酸注入率Cacidまたはアルカリ注入率Cbaseが設定される。演算装置5が、設定された酸注入率Cacidまたはアルカリ注入率Cbaseを、制御用酸・アルカリ注入部6のポンプ吐出量に相当する信号に変換して制御用酸・アルカリ注入部6の各ポンプに出力し、供給ライン61、62を介して酸又はアルカリを流通配管1に供給することにより、設定アルカリ度(Alk1)に調整された処理水が得られる。被処理水のアルカリ度Alk0の値は、リアルタイムに演算装置5で求められるため、pH値の制御と同様、吐出量に相当する信号もほぼ同時に出力される。その結果アルカリ度の迅速な制御が可能となる。
【0047】
本発明の実施の形態に係る被処理水の水質制御方法によれば、演算装置5による被処理水のアルカリ度Alk0の測定結果を用いて、流通配管1を流れる被処理水のpH値及びアルカリ度を好適な範囲に調整することができる。これにより、各種水処理に供される被処理水の性状をより簡単なシステムを用いて常時好適な状態に調整することができるため、各種水処理の処理効率を向上させることができる。
【実施例】
【0048】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0049】
(実施例1)
アルカリ度が数~数百(mg/L as CaCO3)の範囲の5つの表1の各被処理水に対し、室温下(25℃)において各被処理水のpH値が確実に4.8以下となる酸注入率及び電気伝導率ECHをビーカー試験により測定した。100mLビーカーに被処理水100mLを入れた後、電気伝導率計を設置してマグネチックスターラーで撹拌しながら酸注入前の電気伝導率EC0を測定し、塩酸を添加した後、酸注入後の電気伝導率EC1を測定した。なお、アルカリ度については工業用水試験方法(JIS K0101 13.1、JIS K0102 15.1)及びボイラの給水及びボイラ水-試験方法(JIS B8224 9.2)に準じた公定法の測定も合わせて行った。
【0050】
結果を表1に示す。被処理水のうちRO透過水、工業用水及び井戸水では、本発明の測定結果は公定法の結果と非常に良く一致した。また、工場排水では10%程度の誤差があるものの、実用的に使用可能な相関が得られた。このことから、本発明の実施の形態に係る被処理水の水質測定方法によれば、公定法とほぼ同様の精度で用水系、排水系の水問わず迅速かつ簡便にアルカリ度を測定することが可能であることがわかる。
【0051】
【0052】
(実施例2)
表2の各被処理水に対して(1)式を用いてアルカリ度Alk0を求め、各被処理水のpH値pH0及び(2)式を用いて、各被処理水を設定pH値pH1に調整するための酸又はアルカリの注入率C0(Cacid、Cbase)を算出し、算出した注入率で酸又はアルカリを注入した後の被処理水のpH値(注入後測定pH値)を測定した。
【0053】
結果を表2に示す。各被処理水のpH値を設定pH値pH1に調整するための注入率(Cacid、Cbase)で被処理水に対して酸又はアルカリを注入した後の注入後測定pH値は、設定pH値とほぼ一致した。特に上水をはじめ用水系処理において被処理水となる水道水ではpH値の誤差は±0.1と非常に良く一致した。このことから、フィードフォワード制御による正確かつ迅速な制御ができることがわかる。
【0054】
【0055】
(実施例3)
表3の各被処理水に対して(1)式を用いてアルカリ度Alk0を求め、各被処理水のpH値pH0及び(3)式を用いて、各被処理水を設定アルカリ度Alk1に調整するための酸又はアルカリの注入率C0(Cacid、Cbase)を算出し、算出した注入率で酸又はアルカリを注入した後の被処理水のアルカリ度(注入後測定アルカリ度)を測定した。
【0056】
結果を表3に示す。各被処理水を所定の設定アルカリ度Alk1に調整するための酸又はアルカリの注入率(Cacid、Cbase)で酸又はアルカリを注入した後の注入後測定アルカリ度は設定値と非常に良く一致した。このことから、フィードフォワード制御による正確かつ迅速な制御ができることがわかる。
【0057】
【0058】
本開示によれば、アルカリ度の正確、かつ迅速な連続モニタリングを可能とし、かつ設定pH値及び設定アルカリ度への正確、かつ迅速な自動制御ができる。このことは、水処理トラブルの少ない安定した水処理運転に大きく寄与するだけでなく、酸及びアルカリの過注入やトラブル時に発生する人件費等の維持管理コストの低減にも大きく寄与するものである。
【0059】
また、本開示によれば、例えば用水系処理において、特に被処理水が、1日(日中と夜間等)単位で或いは季節変動又は急激な気候変動等によって、そのpH値、アルカリ度に変動が生じた場合でも、被処理水の正確かつ迅速な連続モニタリングが可能であるため、常時より安定した水処理が可能となる。
【0060】
更に、本開示によれば、例えば用水系処理において、被処理水が1種類でなく、2種類以上(水道水、井水、工業用水等)となる場合に、その混合比により被処理水のpH及びアルカリ度が変動する場合でも、被処理水の正確かつ迅速な連続モニタリングが可能であるため、常時より安定した水処理が可能となる。
【符号の説明】
【0061】
1…流通配管
2…測定用配管
3…測定用酸注入部
4a…第1の電気伝導率計
4b…第2の電気伝導率計
5…演算装置
6…アルカリ注入部
7…pH測定計
8a…第1流量計
8b…第2流量計
61、62…供給ライン
100…水質制御システム