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特許7423498モータ制御装置、モータ駆動システム、油圧発生装置、モータ制御方法、及びモータ制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】モータ制御装置、モータ駆動システム、油圧発生装置、モータ制御方法、及びモータ制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/20 20160101AFI20240122BHJP
   H02P 6/28 20160101ALI20240122BHJP
【FI】
H02P6/20
H02P6/28
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020201088
(22)【出願日】2020-12-03
(65)【公開番号】P2022088943
(43)【公開日】2022-06-15
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】深代 晃汰
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 未也
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-280120(JP,A)
【文献】特開2020-18151(JP,A)
【文献】特開平6-276774(JP,A)
【文献】特開平2-311188(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/20
H02P 6/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを停止状態から回転させるための電流制御を行う電流制御部と、
前記モータの実回転数を算出する回転数算出部と、
前記モータの回転数に係る目標値である目標回転数を取得する取得部と、
前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記取得部により取得された前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う速度制御部と、
前記電流制御部による電流制御状態から前記速度制御部による速度制御への遷移の際に、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数と、前記取得部により取得された前記目標回転数との関係に基づいて、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正する補正部と、
を備え、
前記速度制御部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が前記補正部により補正された場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記補正部により補正された前記目標回転数になるように前記速度制御を行う、モータ制御装置。
【請求項2】
前記補正部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数よりも小さい場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数に近づく方向に、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正する、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数よりも小さい場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数と略同一となるように、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正する、請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記補正部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数よりも大きい場合に、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正しない、請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記目標回転数は、上位の制御装置から供給される指令値であって前記モータの回転数に係る指令値である第1目標回転数と、第2目標回転数とを含み、
前記取得部は、前記第1目標回転数の今回値と前記第2目標回転数の前回値との差に基づいて、前記第2目標回転数の今回値を取得し、
前記速度制御部は、前記遷移の後は、前記モータの実回転数が、前記取得部により取得された前記第2目標回転数になるように前記速度制御を行い、
前記補正部は、前記遷移の際に、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数と、前記取得部により取得された前記第1目標回転数との関係に基づいて、前記第2目標回転数を補正し、
前記速度制御部は、前記遷移の際に前記取得部により取得された前記第2目標回転数が前記補正部により補正された場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記補正部により補正された前記第2目標回転数になるように前記速度制御を行い、
前記速度制御部は、前記遷移の際に前記取得部により取得された前記第2目標回転数が前記補正部により補正されない場合に、前記モータの実回転数が、前記取得部により取得された前記第1目標回転数になるように前記速度制御を行う、請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記電流制御部による前記電流制御は、可変範囲内での最大の電流を前記モータに印加することを含む、請求項1から請求項5のうちのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記モータは、油圧ポンプ用である、請求項1から請求項6のうちのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
油圧ポンプと、
前記油圧ポンプを駆動するモータと、
前記モータを制御するモータ制御装置と、
を備え、
前記モータ制御装置は、
前記モータを停止状態から回転させるための電流制御を行う電流制御部と、
前記モータの実回転数を算出する回転数算出部と、
前記モータの回転数に係る目標値である目標回転数を取得する取得部と、
前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記取得部により取得された前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う速度制御部と、
前記電流制御部による電流制御状態から前記速度制御部による速度制御への遷移の際に、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数と、前記取得部により取得された前記目標回転数との関係に基づいて、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正する補正部と、
を備え、
前記速度制御部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が前記補正部により補正された場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記補正部により補正された前記目標回転数になるように前記速度制御を行う、油圧発生装置。
【請求項9】
モータを停止状態から回転させるための電流制御を行う電流制御ステップと、
前記モータの実回転数を算出する回転数算出ステップと、
前記モータの回転数に係る目標値である目標回転数を取得する取得ステップと、
前記回転数算出ステップにより算出される前記モータの実回転数が、前記取得ステップにより取得された前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う速度制御ステップと、
前記電流制御ステップによる電流制御状態から前記速度制御ステップによる速度制御への遷移の際に、前記回転数算出ステップにより算出される前記モータの実回転数と、前記取得ステップにより取得された前記目標回転数との関係に基づいて、前記取得ステップにより取得された前記目標回転数を補正する補正ステップと、
を備え、
前記速度制御ステップは、前記取得ステップにより取得された前記目標回転数が前記補正ステップにより補正された場合に、前記回転数算出ステップにより算出される前記モータの実回転数が、前記補正ステップにより補正された前記目標回転数になるように前記速度制御を行う、モータ制御方法。
【請求項10】
モータを停止状態から回転させるための電流制御を行う電流制御処理と、
前記モータの実回転数を算出する回転数算出処理と、
前記モータの回転数に係る目標値である目標回転数を取得する取得処理と、
前記回転数算出処理により算出される前記モータの実回転数が、前記取得処理により取得された前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う速度制御処理と、
前記電流制御処理による電流制御状態から前記速度制御処理による速度制御への遷移の際に、前記回転数算出処理により算出される前記モータの実回転数と、前記取得処理により取得された前記目標回転数との関係に基づいて、前記取得処理により取得された前記目標回転数を補正する補正処理と、
を、コンピュータに実行させ、
前記速度制御処理は、前記取得処理により取得された前記目標回転数が前記補正処理により補正された場合に、前記回転数算出処理により算出される前記モータの実回転数が、前記補正処理により補正された前記目標回転数になるように前記速度制御を行う、モータ制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、モータ駆動システム、油圧発生装置、モータ制御方法、及びモータ制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機の軸が実際に、予め設定された設定回転数を越えて、多く回転し過ぎることを防止するための技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-251967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータを停止状態から回転させるための電流制御(例えば最大電流値による電流制御)を行う場合、その際のモータの負荷に依存して、モータの回転数の立ち上がり方が異なる場合がある。この場合に、一律に、電流制御状態から、モータの回転数を目標回転数に一致させるための回転数制御へと、制御状態を即座に遷移させると、モータの回転数が急減する場合があり、この場合、負荷に負けてモータの所望の回転状態が実現されなくなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的は、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に生じうるモータの回転数の急減を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題を解決するために、本発明の一態様は、
モータを停止状態から回転させるための電流制御を行う電流制御部と、
前記モータの実回転数を算出する回転数算出部と、
前記モータの回転数に係る目標値である目標回転数を取得する取得部と、
前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記取得部により取得された前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う速度制御部と、
前記電流制御部による電流制御状態から前記速度制御部による速度制御への遷移の際に、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数と、前記取得部により取得された前記目標回転数との関係に基づいて、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正する補正部と、
を備え、
前記速度制御部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が前記補正部により補正された場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記補正部により補正された前記目標回転数になるように前記速度制御を行う、モータ制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に生じうるモータの回転数の急減を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】油圧発生装置の一実施形態を概略的に示す図である。
図2】モータ制御装置の一実施形態を概略的に示す機能ブロック図である。
図3】電流制御部により実現される電流制御を説明する概略的なブロック図である。
図4】目標値取得部により目標回転数の取得態様を説明する概略的なブロック図である。
図5】速度制御部により実現される速度制御を説明する概略的なブロック図である。
図6】本実施形態のモータ制御装置により実行される処理フローの一例を示す図である。
図7】比較例による各種波形を示す図である。
図8】目標回転数が実回転数よりも低い際の、本実施形態のモータ制御装置の動作例による各種波形を示す図である。
図9】目標回転数が実回転数よりも高い際の、本実施形態のモータ制御装置の動作例による各種波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、油圧発生装置1の一実施形態を概略的に示す図である。
【0011】
油圧発生装置1は、油圧を発生する装置であり、車両に搭載されるのが好適である。油圧発生装置1は、図1に示すように、モータ駆動システム2と、油圧ポンプ3とを備えている。
【0012】
モータ駆動システム2は、モータ制御装置10と、モータ12とを備えている。
【0013】
モータ制御装置10は、モータ12を制御することで、油圧ポンプ3を制御する。モータ制御装置10は、例えばマイクロコンピュータ等を含んでなる処理装置である。モータ制御装置10のハードウェア構成は任意であり、車載ECU(Electronic Control Unit)と同様であることができる。
【0014】
モータ12は、出力軸12aが油圧ポンプ3の駆動軸として機能する。モータ12は、3相のブラシレスモータであるが、相数はこれに限定されず、また、詳細な構成は任意である。なお、モータ12は、油圧ポンプ3に直結されてもよいし、他の機構(図示せず)等を介して接続されてもよい。
【0015】
油圧ポンプ3は、電動式ポンプであり、駆動時に、タンク31内の油を吸引して供給路32に吐出する。
【0016】
このようにして、本実施形態の油圧発生装置1は、モータ駆動システム2を介して油圧ポンプ3を駆動することで、油圧を発生する。なお、油圧ポンプ3により発生される油圧(すなわち油圧ポンプ3から吐出される油)は、アクチュエータの駆動や、各種車載電子機器の発熱部品の冷却、可動部の潤滑等に利用できる。
【0017】
図2は、モータ制御装置10の一実施形態を概略的に示す機能ブロック図である。なお、図2には、関連する構成として、モータ12や回転センサ13、電流センサ14とともに、上位ECU4が併せて示されている。
【0018】
上位ECU4は、モータ制御装置10よりも上位の制御装置の一例であり、モータ制御装置10に対して各種指令を与える。回転センサ13は、モータ12の回転数に応じた電気信号をセンサ情報としてモータ制御装置10に供給する。電流センサ14は、モータ12の各相を流れる相電流を検出する。
【0019】
モータ制御装置10は、図2に示すように、モータ駆動部110と、電流制御部112と、回転数算出部114と、目標値取得部116(取得部の一例)と、速度制御部118と、補正部120とを備えている。
【0020】
モータ駆動部110は、例えばIC(Integrated Circuit)やインバータを含んでなり、電流制御部112や速度制御部118から指示される駆動デューティに基づいてインバータ(図示せず)を制御し、駆動デューティに応じた駆動電流(例えば3相の駆動電流)をモータ12に与える。
【0021】
電流制御部112は、モータ12を停止状態から回転させるための電流制御を行う。すなわち、電流制御部112は、モータ12を始動させる電流制御を行う。電流制御部112による電流制御は、例えば図3に示す態様で実現できる。図3は、電流制御部112により実現される電流制御を説明する概略的なブロック図である。図3に示す例では、電流制御部112には、上位ECU4から供給される指令電流と、電流センサ14からの相電流(検出値)との偏差に基づいて、電流PI制御部1121により指令電圧が算出される。そして、デューティ算出処理部1122において、指令電圧に基づいて、モータ駆動部110に供給される駆動デューティ(図3等では“Duty”と表記)が算出される。なお、他の例では、駆動デューティは、常に最大(例えば100%)の固定値であってもよい。なお、この場合、可変範囲内での最大の駆動電流がモータ12に印加される。
【0022】
回転数算出部114は、回転センサ13からのセンサ情報に基づいて、モータ12の回転数(実回転数)を算出する。なお、他の例では、回転数算出部114は、駆動電流のようなパラメータに基づいて、モータ12の実回転数を算出(推定)してもよい。
【0023】
目標値取得部116は、モータ12の回転数に係る目標値である目標回転数を取得する。目標値取得部116は、上位ECU4からの指令回転数(指令値の一例)に基づいて、目標回転数を取得(算出)する。例えば、目標値取得部116は、上位ECU4からの指令回転数を目標回転数としてそのまま利用してもよい。あるいは、目標値取得部116による目標回転数の取得は、例えば図4に示す態様で実現できる。図4は、目標値取得部116により目標回転数の取得態様を説明する概略的なブロック図である。図4に示す例では、目標値取得部116では、上位ECU4からの指令回転数と、フィルタ処理後の指令回転数との差分が算出され、当該差分にフィルタゲインが乗じられる(図4の矢印500参照)。そして、フィルタゲインが乗じられた差分と、フィルタ処理後の指令回転数とが、足し合わされることで、フィルタ処理後の指令回転数が、目標回転数として取得される。すなわち、指令回転数をフィルタリングすることで、フィルタ処理後の指令回転数が目標回転数として取得される。
本実施形態では、一例として、目標値取得部116は、2種類の目標回転数を取得するものとする。すなわち、目標値取得部116は、上位ECU4からの指令回転数を第1目標回転数として取得し、フィルタ処理後の指令回転数を第2目標回転数として取得する。以下では、第1目標回転数と第2目標回転数とを特に区別する場合を除き、これらを区別せず「目標回転数」と称する場合がある。
【0024】
速度制御部118は、回転数算出部114により算出されるモータ12の実回転数が、目標値取得部116により取得された目標回転数になるようにモータ12の速度制御を行う。速度制御部118による速度制御は、例えば図5に示す態様で実現できる。図5は、速度制御部118により実現される速度制御を説明する概略的なブロック図である。図5に示す例では、速度制御部118において、目標値取得部116により取得された目標回転数と、回転数算出部114により算出された実回転数との偏差に基づいて、速度PI制御部1181により指令電流が算出される。そして、指令電流と、電流センサ14からの相電流(検出値)との偏差に基づいて、電流PI制御部1182により指令電圧が算出される。そして、指令電圧に基づいてデューティ算出処理が実行されることで、モータ駆動部110に供給される駆動デューティが算出される。
【0025】
モータ12の始動時において、速度制御部118による速度制御は、上述した電流制御部112による電流制御に後続して実行される。本実施形態では、モータ制御装置10の制御状態は、速度制御部118による速度制御状態と、電流制御部112による電流制御状態とを選択的に含み、モータ12の始動時において電流制御から速度制御状態への遷移は、所定遷移条件が満たされた場合に実現される。所定遷移条件は、例えば、回転数算出部114により算出された実回転数が閾値を超えた場合に満たされる。あるいは、所定遷移条件は、電流制御部112による電流制御状態が所定時間以上継続した場合に満たされてもよい。あるいは、所定遷移条件は、モータ12の回転量が閾値(例えば1回転)を超えた場合にも満たされてもよい。
【0026】
本実施形態では、一例として、速度制御部118は、電流制御から速度制御状態への遷移が完了した後は、第2目標回転数に基づいてモータ12の速度制御を行う。そして、本実施形態では、電流制御から速度制御状態への遷移の際、速度制御部118は、補正部120により第2目標回転数が補正された場合には、補正後の第2目標回転数に基づいて、モータ12の速度制御を行う。すなわち、速度制御部118は、回転数算出部114により算出されるモータ12の実回転数が、補正部120による補正後の第2目標回転数になるようにモータ12の速度制御を行う。他方、電流制御から速度制御状態への遷移の際、速度制御部118は、補正部120により第2目標回転数が補正されない場合には、第1目標回転数に基づいて、モータ12の速度制御を行う。
【0027】
補正部120は、電流制御部112による電流制御状態から速度制御部118による速度制御への遷移の際に、回転数算出部114により算出されたモータ12の実回転数と、目標値取得部116により取得された目標回転数(本実施形態では、一例として、第1目標回転数)との関係に基づいて、目標値取得部116により取得された第2目標回転数を補正する。以下、電流制御部112による電流制御状態から速度制御部118による速度制御への遷移の際に、補正部120により実行される第2目標回転数に対する補正処理を、単に「補正処理」とも称する。なお、別の例では、等価的に、目標値取得部116により取得された第2目標回転数を補正することに代えて、上位ECU4から供給される指令回転数を補正してもよい。
【0028】
補正部120による補正処理は、例えば以下のように実現されるのが好適である。補正部120は、目標値取得部116により取得された第1目標回転数が、回転数算出部114により算出されたモータ12の実回転数よりも小さい場合に、実回転数に近づく方向に、目標値取得部116により取得された第2目標回転数を補正する。すなわち、第2目標回転数を実回転数に近づける。
【0029】
本実施形態では、補正部120による補正処理は、実回転数と略同一になるように第2目標回転数を補正する処理である。なお、略同一とは、例えば実回転数の10%程度の誤差を許容する概念である。
【0030】
図6は、本実施形態のモータ制御装置10により実行される処理フローの一例を示す。図6では、モータ制御装置10は、3つの状態を表すStatusを有し、Status=0は、電流制御状態を表し、Status=1は、速度制御状態を表し、Status=2は、電流制御部112による電流制御状態から速度制御部118による速度制御への遷移状態を表す。
【0031】
モータ制御装置10は、今回周期の各種のセンサ情報(回転センサ13や電流センサ14からのセンサ情報)を取得するとともに、上位ECU4から各種の指令を取得する(ステップS600)。
次いで、モータ制御装置10は、センサ情報に基づいてモータ制御装置10の実回転数を算出するとともに、目標回転数(第1及び第2目標回転数)を取得する(ステップS602)。そして、モータ制御装置10は、モータ12が停止状態であるか否かを判定する(ステップS604)。モータ12が停止状態であるかは、例えば、回転数算出部114により算出されたモータ12の実回転数が0であるか否かを判定することで判定できる。モータ12が停止状態である場合(ステップS604の“YES”)、モータ制御装置10は、Status=0をセットする(ステップS606)。なお、Statusの初期値は0であってよい。
【0032】
モータ制御装置10は、上位ECU4からの指令電流が0より大きいか否かを判定する(ステップS608)。すなわち、上位ECU4からモータ12の駆動指令が生成されているか否かを判定する。指令電流が0より大きい場合(ステップS608の“YES”)、上述した電流制御を実行(開始)する(ステップS610)。なお、指令電流が0である場合(ステップS608の“NO”)、今回周期の処理は終了する。
【0033】
他方、モータ12が停止状態でない場合は(ステップS604の“NO”)、モータ制御装置10は、Status=0であるか否かを判定し(ステップS612)、Status=0であるとき(ステップS612の“YES”)、上述した所定遷移条件が満たされたと判定して、Status=2をセットしてから(ステップS614)、ステップS618に進む。これに対して、Status=0でないとき(ステップS612の“NO”)、モータ制御装置10は、Status=2であるか否かを判定し(ステップS616)、Status=2であるとき(ステップS616の“YES”)、ステップS624を介してステップS626に進み、Status=2でないとき(ステップS616の“NO”)、すなわちStatus=1であるとき、ステップS626に進み、上述した速度制御を実行する(ステップS626)。この場合、目標値取得部116により取得された第2目標回転数に基づき速度制御が実行される。
【0034】
モータ制御装置10は、ステップS618において、第1目標回転数が実回転数よりも小さいか否かを判定する。なお、このとき、モータ制御装置10は、第1目標回転数が実回転数よりも所定値以上小さいか否かを判定してもよい。第1目標回転数が実回転数よりも小さい場合(ステップS618の“YES”)、第2目標回転数を実回転数に一致させる補正処理を行う(ステップS620)。そして、モータ制御装置10は、補正後の第2目標回転数(=実回転数)に基づいて、上述した速度制御を実行する(ステップS622)。他方、第1目標回転数が実回転数よりも小さくない場合(ステップS618の“NO”)、Status=1をセットし(ステップS624)、上述した速度制御を実行する(ステップS626)。この場合、目標値取得部116により取得された第2目標回転数は補正部120により補正されることはなく、この場合、目標値取得部116により取得された第1目標回転数に基づき速度制御が実行される。
【0035】
このようにして、図6に示す処理によれば、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に、ステップS620の補正処理によって、モータ12の回転数が急減しないようにすることができる。また、図6に示す処理が所定周期ごとに実行されることで、所定周期ごとに動的に変化しうる各種のパラメータ(例えば、目標値取得部116により取得された目標回転数や、回転数算出部114により算出された実回転数)との関係に基づいて、Status=1又は2にセットできる。これにより、補正部120により補正処理を適切な期間にわたって実現できる。
【0036】
次に、図7から図9を参照して、本実施形態によるモータ制御装置10の動作例と効果を、比較例と対比しつつ説明する。
【0037】
図7は、比較例による制御の説明図であり、図8及び図9は、本実施形態による動作例の説明図である。図8は、補正処理が実行される場合を示し、図9は、補正処理が実行されない場合を示す。図7から図9は、横軸を時間、縦軸をモータ12の回転数としたときの、各種波形が示されている。なお、以下の図7の説明については、第1目標回転数と第2目標回転数とは実質的に同じ値であるとして、区別せずに、「目標回転数」と称する。
【0038】
比較例は、本実施形態による補正処理が常に実行されない点で、本実施形態とは異なる。従って、比較例では、図7に示すように、時点t0で停止状態のモータ12が電流制御によって始動し、時点t1で実回転数が、目標回転数よりも有意に高くなっても、目標回転数を補正することなく目標回転数に基づき速度制御が実行される。このような比較例では、図7に示すように、速度制御が開始されると、実回転数が急減する(図7における時点t1から時点t2までの変化参照)。
【0039】
ところで、モータ12は前述のとおり油圧ポンプ3を駆動しているので、モータ12の実回転数が比較的高くなると、その分だけ、油圧ポンプ3の油圧が増加する。油圧が比較的高い状態において、モータ12の実回転数が急減すると、比較的高い油圧による負荷に負けてモータ12の所望の回転状態が実現されなくなるおそれがある。その結果、図7では生じていないが、モータ12が停止してしまう事態も生じうる。
【0040】
これに対して、本実施形態では、時点t0で停止状態のモータ12が電流制御によって始動し、時点t1で実回転数が、第1目標回転数よりも有意に高くなると、図8に示すように、補正処理により実回転数に第2目標回転数が補正される。この結果、比較例とは異なり、実回転数が急減することがなく、比較例で生じる問題点を解消できる。
【0041】
なお、本実施形態では、図9に示すように、電流制御によって始動した時点t1での実回転数が第1目標回転数よりも低い場合は、補正処理が実行されることなく、目標値取得部116により取得された第1目標回転数に基づき速度制御が実行される。
【0042】
このようにして、本実施形態によれば、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に、目標値取得部116により取得された第1目標回転数が実回転数よりも有意に低い場合だけ補正処理が実行される。すなわち、モータ12の回転数が急減しうる状況下でのみ補正処理が実行される。これにより、補正処理が常に実行される場合に生じうる問題点を解消できる。例えば、比較的低い実回転数に一致するように第2目標回転数を補正すると、上位ECU4からの指令回転数の実現タイミングが遅れる等の問題点が生じうるが、本実施形態によれば、かかる問題点を解消できる。
【0043】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0044】
なお、以上の本発明の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0045】
[付記1]
モータを停止状態から回転させるための電流制御を行う電流制御部(112)と、
前記モータの実回転数を算出する回転数算出部(114)と、
前記モータの回転数に係る目標値である目標回転数を取得する取得部(目標値取得部116)と、
前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記取得部により取得された前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う速度制御部(118)と、
前記電流制御部による電流制御状態から前記速度制御部による速度制御への遷移の際に、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数と、前記取得部により取得された前記目標回転数との関係に基づいて、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正する補正部(120)と、
を備え、
前記速度制御部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が前記補正部により補正された場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記補正部により補正された前記目標回転数になるように前記速度制御を行う、モータ制御装置(10)。
【0046】
付記1によれば、補正部を備えることで、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に生じうるモータの回転数の急減を抑制することができるモータ制御装置を提供することができる。
【0047】
[付記2]
前記補正部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数よりも小さい場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数に近づく方向に、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正する、付記1に記載のモータ制御装置。
【0048】
付記2に記載の構成によれば、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に、目標回転数(補正前の目標回転数)がモータの実回転数よりも小さい場合であっても、目標回転数が補正されることで、モータの回転数が急減することを抑制できる。
【0049】
[付記3]
前記補正部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数よりも小さい場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数と略同一となるように、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正する、付記2に記載のモータ制御装置。
【0050】
付記3に記載の構成によれば、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に、目標回転数がモータの実回転数よりも小さい場合であっても、目標回転数を適切に補正することができ、その結果、モータの回転数が急減することを防止できる。
【0051】
[付記4]
前記補正部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数よりも大きい場合に、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正しない、付記1から付記3のうちのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【0052】
付記4に記載の構成によれば、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に、適宜、モータの回転数が急減しないように補正を行いつつ、補正を行わずに当該移行を速やかに実現することも可能となる。
【0053】
[付記5]
前記目標回転数は、上位の制御装置から供給される指令値であって前記モータの回転数に係る指令値である第1目標回転数と、第2目標回転数とを含み、
前記取得部は、前記第1目標回転数の今回値と前記第2目標回転数の前回値との差に基づいて、前記第2目標回転数の今回値を取得し、
前記速度制御部は、前記遷移の後は、前記モータの実回転数が、前記取得部により取得された前記第2目標回転数になるように前記速度制御を行い、
前記補正部は、前記遷移の際に、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数と、前記取得部により取得された前記第1目標回転数との関係に基づいて、前記第2目標回転数を補正し、
前記速度制御部は、前記遷移の際に前記取得部により取得された前記第2目標回転数が前記補正部により補正された場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記補正部により補正された前記第2目標回転数になるように前記速度制御を行い、
前記速度制御部は、前記遷移の際に前記取得部により取得された前記第2目標回転数が前記補正部により補正されない場合に、前記モータの実回転数が、前記取得部により取得された前記第1目標回転数になるように前記速度制御を行う、付記1から付記4のうちのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【0054】
付記5に記載の構成によれば、遷移の後において、フィルタリングして得られる第2目標回転数を利用することで、外乱応答性向上のために速度制御のゲインを高めに設定した場合でも、オーバーシュートが発生する可能性を抑制できる。
【0055】
[付記6]
前記電流制御部による前記電流制御は、可変範囲内での最大の電流を前記モータに印加することを含む、付記1から付記5のうちのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【0056】
付記6に記載の構成によれば、モータの始動時における回転数の立ち上がり(良好な始動性)を促進できる。
【0057】
[付記7]
前記モータは、油圧ポンプ(3)用である、付記1から付記6のうちのいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【0058】
付記7に記載の構成によれば、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に、モータの負荷が比較的大きくなりやすい油圧ポンプ用の場合であっても、当該比較的大きい負荷に起因してモータが停止状態となってしまう可能性を、低減できる。
【0059】
[付記8]
モータ(12)と、
前記モータを制御するモータ制御装置(10)と、
を備え、
前記モータ制御装置は、
前記モータを停止状態から回転させるための電流制御を行う電流制御部(112)と、
前記モータの実回転数を算出する回転数算出部(114)と、
前記モータの回転数に係る目標値である目標回転数を取得する取得部(目標値取得部116)と、
前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記取得部により取得された前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う速度制御部(118)と、
前記電流制御部による電流制御状態から前記速度制御部による速度制御への遷移の際に、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数と、前記取得部により取得された前記目標回転数との関係に基づいて、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正する補正部(120)と、
を備え、
前記速度制御部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が前記補正部により補正された場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記補正部により補正された前記目標回転数になるように前記速度制御を行う、モータ駆動システム(2)。
【0060】
付記8によれば、補正部を備えることで、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に生じうるモータの回転数の急減を抑制することができるモータ駆動システムを提供することができる。
【0061】
[付記9]
油圧ポンプ(3)と、
前記油圧ポンプを駆動するモータ(12)と、
前記モータを制御するモータ制御装置(10)と、
を備え、
前記モータ制御装置は、
前記モータを停止状態から回転させるための電流制御を行う電流制御部(112)と、
前記モータの実回転数を算出する回転数算出部(114)と、
前記モータの回転数に係る目標値である目標回転数を取得する取得部(目標値取得部116)と、
前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記取得部により取得された前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う速度制御部(118)と、
前記電流制御部による電流制御状態から前記速度制御部による速度制御への遷移の際に、前記回転数算出部により算出された前記モータの実回転数と、前記取得部により取得された前記目標回転数との関係に基づいて、前記取得部により取得された前記目標回転数を補正する補正部(120)と、
を備え、
前記速度制御部は、前記取得部により取得された前記目標回転数が前記補正部により補正された場合に、前記回転数算出部により算出される前記モータの実回転数が、前記補正部により補正された前記目標回転数になるように前記速度制御を行う、油圧発生装置(1)。
【0062】
付記9によれば、補正部を備えることで、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に生じうるモータの回転数の急減を抑制することができる油圧発生装置を提供することができる。
【0063】
[付記10]
モータを停止状態から回転させるための電流制御を行う電流制御ステップと、
前記モータの実回転数を算出する回転数算出ステップと、
前記モータの回転数に係る目標値である目標回転数を取得する取得ステップと、
前記回転数算出ステップにより算出される前記モータの実回転数が、前記取得ステップにより取得された前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う速度制御ステップと、
前記電流制御ステップによる電流制御状態から前記速度制御ステップによる速度制御への遷移の際に、前記回転数算出ステップにより算出される前記モータの実回転数と、前記取得ステップにより取得された前記目標回転数との関係に基づいて、前記取得ステップにより取得された前記目標回転数を補正する補正ステップと、
を備え、
前記速度制御ステップは、前記取得ステップにより取得された前記目標回転数が前記補正ステップにより補正された場合に、前記回転数算出ステップにより算出される前記モータの実回転数が、前記補正ステップにより補正された前記目標回転数になるように前記速度制御を行う、モータ制御方法。
【0064】
付記10によれば、補正ステップを備えることで、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に生じうるモータの回転数の急減を抑制することができるモータ制御方法を提供することができる。
【0065】
[付記11]
モータを停止状態から回転させるための電流制御を行う電流制御処理と、
前記モータの実回転数を算出する回転数算出処理と、
前記モータの回転数に係る目標値である目標回転数を取得する取得処理と、
前記回転数算出処理により算出される前記モータの実回転数が、前記取得処理により取得された前記目標回転数になるように前記モータの速度制御を行う速度制御処理と、
前記電流制御処理による電流制御状態から前記速度制御処理による速度制御への遷移の際に、前記回転数算出処理により算出される前記モータの実回転数と、前記取得処理により取得された前記目標回転数との関係に基づいて、前記取得処理により取得された前記目標回転数を補正する補正処理と、
を、コンピュータに実行させ、
前記速度制御処理は、前記取得処理により取得された前記目標回転数が前記補正処理により補正された場合に、前記回転数算出処理により算出される前記モータの実回転数が、前記補正処理により補正された前記目標回転数になるように前記速度制御を行う、モータ制御プログラム。
【0066】
付記11によれば、補正ステップを備えることで、電流制御状態から速度制御状態に移行する際に生じうるモータの回転数の急減を抑制することができるモータ制御プログラムを提供することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 油圧発生装置
2 モータ駆動システム
3 油圧ポンプ
10 モータ制御装置
12 モータ
12a 出力軸
13 回転センサ
14 電流センサ
31 タンク
32 供給路
110 モータ駆動部
112 電流制御部
114 回転数算出部
116 目標値取得部
118 速度制御部
120 補正部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9