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特許7423507分析装置、分析装置用の掃拭材、及び、分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】分析装置、分析装置用の掃拭材、及び、分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20240122BHJP
   G01N 1/04 20060101ALI20240122BHJP
   H01J 49/04 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
G01N27/62 F
G01N1/04 V
H01J49/04
H01J49/04 900
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020215412
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2022101054
(43)【公開日】2022-07-06
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 安章
(72)【発明者】
【氏名】熊野 峻
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 昌和
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特許第3800422(JP,B2)
【文献】特開2007-170985(JP,A)
【文献】特開平07-133493(JP,A)
【文献】特開2015-197302(JP,A)
【文献】特開昭62-058142(JP,A)
【文献】特開2008-064618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 1/00 - G01N 1/44
H01J 49/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を拭き取ることで前記検査対象物に付着する化学物質を採取する掃拭材を加熱し、前記化学物質を気化させる加熱部と、
気化された前記化学物質をイオン化するイオン源部と、
前記加熱部と前記イオン源部とを接続する配管と、
前記イオン源部で発生したイオンを分析する分析部と、
なくとも前記加熱部による加熱前の段階で、前記化学物質が他の物質に付着し又は吸着されることを防止する防止剤を前記掃拭材に含浸させる含浸部と、
前記防止剤が含浸された前記掃拭材を、前記加熱部へ搬送する搬送部と、
を有することを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記防止剤は、液体である
ことを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記含浸部は、
前記防止剤が貯留されている貯留部と
前記貯留部に貯留されている前記防止剤を前記掃拭材に向けて噴射又は滴下するノズル部と、
を有することを特徴とする請求項に記載の分析装置。
【請求項4】
前記防止剤は、
前記加熱部による加熱で溶解又は破壊される微小球体に封入されており、
前記微小球体は、
前記掃拭材に保持されている
ことを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項5】
前記防止剤は、アンモニア発生剤である
ことを特徴とする請求項1記載の分析装置。
【請求項6】
前記アンモニア発生剤は、アンモニウム塩である
ことを特徴とする請求項に記載の分析装置。
【請求項7】
検査対象物を拭き取ることで前記検査対象物に付着する化学物質を採取する掃拭材を加熱し、前記化学物質を気化させる加熱部と、
気化された前記化学物質をイオン化するイオン源部と、
前記加熱部と前記イオン源部とを接続する配管と、
前記イオン源部で発生したイオンを分析する分析部と、
を有する分析装置に用いられる掃拭材であって、
前記掃拭材は
少なくとも前記加熱部による加熱前の段階で、前記化学物質が他の物質に付着し又は吸着されることを防止する防止剤を含んでおり、
前記防止剤は、
前記加熱部による加熱で破壊される微小球体に封入されており、
前記微小球体は、
前記掃拭材に保持されている
ことを特徴とする分析装置用の掃拭材
【請求項8】
検査対象物を拭き取ることで前記検査対象物に付着する化学物質を採取する掃拭材を加熱し、前記化学物質を気化させる加熱部と、
気化された前記化学物質をイオン化するイオン源部と、
前記加熱部と前記イオン源部とを接続する配管と、
前記イオン源部で発生したイオンを分析する分析部と、
を有する分析装置に用いられる掃拭材であって、
前記掃拭材は
少なくとも前記加熱部による加熱前の段階で、前記化学物質が他の物質に付着し又は吸着されることを防止する防止剤を含んでおり、
前記防止剤は、アンモニア発生剤である
ことを特徴とする分析装置用の掃拭材
【請求項9】
前記防止剤は、液体である
ことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の分析装置用の掃拭材。
【請求項10】
前記アンモニア発生剤は、アンモニウム塩である
ことを特徴とする請求項に記載の分析装置用の掃拭材。
【請求項11】
検査対象物を拭き取ることで前記検査対象物に付着する化学物質を採取する掃拭材を加熱し、前記化学物質を気化させる加熱部と、
気化された前記化学物質をイオン化するイオン源部と、
前記加熱部と前記イオン源部とを接続する配管と、
前記イオン源部で発生したイオンを分析する分析部と、
前記化学物質が他の物質に付着し又は吸着されることを防止する防止剤を前記掃拭材に含浸させる含浸部と、
前記防止剤が含浸された前記掃拭材を、前記加熱部へ搬送する搬送部と、
を有する分析装置が行う分析方法であって、
前記含浸部が、前記掃拭材に前記防止剤を含浸させる含浸ステップと、
前記加熱部が、前記搬送部によって搬送された前記掃拭材を加熱する加熱ステップと、
前記加熱ステップによって、前記掃拭材から放出される前記化学物質の蒸気と共に前記防止剤の蒸気が配管を介して前記イオン源部に導入される導入ステップと、
前記イオン源部でイオン化された前記化学物質の蒸気を前記分析部が分析する分析ステップと、
を実行することを特徴とする分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質の分析を行う分析装置、分析装置用の掃拭材、及び、分析方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
違法薬物の持ち込みを防止する方法の一つとして、トレース検査が行われている。例えば、カバンの外側に覚せい剤や麻薬類等の違法薬物が付着していれば、カバンの内部に前記した違法薬物が隠蔽されている可能性がある。そこで、ユーザが、カバンの外側を拭き取り、カバンの表面から拭き取った付着物を化学分析手段で同定する検査が行われる。このような検査における分析には、イオンモビリティ法や質量分析法がよく用いられている。
【0003】
特許文献1には、「検査対象から採取した試料が付着した検査片を加熱するステップと、加熱された前記検査片から発生する気体を試料ガスとして吸引するステップと、該吸引された試料ガスをイオン化するステップと、イオン化された試料ガスのイオンの質量を分析して質量スペクトルを取得する第1の分析ステップと、第1の固有のm/z値のイオンが存在するか判定する第1の判定ステップと、前記第1の判定ステップの判定結果に応じてタンデム質量分析を行う第2の分析ステップと、前記タンデム質量分析で得られた質量スペクトルで第2の固有のm/z値のイオンが存在するか判定する第2の判定ステップとを備え、前記検査片を加熱するステップは、間隔を離して対向配置された2枚の加熱板の間に前記検査片を挿入して加熱することを特徴とする」特定薬物の探知方法及び探知装置が開示されている(請求項1参照)。
【0004】
特許文献2には、「無機元素が揮発し表面から直接脱離されるように表面をキレート試薬で処理する工程と、前記表面の上のボリュームまたは前記表面を拭き取る綿棒を大気圧で準安定原子および分子の流れに曝して、揮発性化合物をイオン化する工程と、前記イオン化した揮発性化合物を質量分析計等に移す工程とを含むことを特徴とする」質量分析による無機分析方法が開示されている(要約参照)。
【0005】
特許文献3には、「有機酸又は有機酸塩を用いて有機酸ガス発生器3から有機酸ガスを発生させ、試料ガスと混合させてイオン源4に導入し、イオン化を行い、質量分析部5で質量スペクトルを得る。データ処理部6は、得られた質量スペクトルに基づいて、探知対象の目的化学物質から生成される固有のm/zをもつ分子に有機酸から生成される分子が付加された固有の有機酸付加イオンのm/zの検出の有無を判定する。有機酸付加イオンのm/zのイオンピークがあった場合、探知対象の目的化学物質が存在すると判断して警報を鳴らす」化学物質探知装置及び化学物質探知方法が開示されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3800422号明細書
【文献】特開2010-271311号公報
【文献】特開2009-103711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した違法薬物の蒸気は質量分析計へ配管を介して導入される。前記した違法薬物は、これらの配管等への吸着が強く起きる。
図7は、違法薬物の配管吸着の様子を示す試験の結果を示す図である。
図7における試験では、イオン源に繋がる配管の長さを30cmとし、配管温度を180℃とした。そして、配管の末端から覚せい剤(メタンフェタミン)の溶液が直接注入された。すると、信号L2が得られた(破線の曲線)。次に、信号L2が検出された後に、実験者が配管の末端にアンモニア水を近づけると、信号L1に示すように、新たに覚せい剤を注入していないにもかかわらず信号L2よりも強い信号が得られた(実線の曲線)。これは、以下のような理由が考えられる。つまり、アンモニアの蒸気が配管に入ったことにより、覚せい剤とアンモニアとの間に交換吸着が起こった。つまり、アンモニア分子が配管の内壁に吸着することで、既に吸着している覚せい剤の分子が脱離した。これによって、信号L1に示すような、強い覚せい剤の信号が検出された。この場合、グラフと横軸とで囲まれる面積で比較すると、信号L1は信号L2の10倍程度の信号が得られている。つまり、アンモニアの注入前において、覚せい剤の90%程度は配管に残留していると考えられる。このような配管への吸着を防止する手法として、例えば、配管の温度を高く設定する手法が考えられる。しかし、あまり高い温度だと使用者の火傷防止のための断熱について、改良が必要となってくる。
【0008】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、分析装置の感度を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本発明は、検査対象物を拭き取ることで前記検査対象物に付着する化学物質を採取する掃拭材を加熱し、前記化学物質を気化させる加熱部と、気化された前記化学物質をイオン化するイオン源部と、前記加熱部と前記イオン源部とを接続する配管と、前記イオン源部で発生したイオンを分析する分析部と、少なくとも前記加熱部による加熱前の段階で、前記化学物質が他の物質に付着し又は吸着されることを防止する防止剤を前記掃拭材に含浸させる含浸部と、前記防止剤が含浸された前記掃拭材を、前記加熱部へ搬送する搬送部と、を有することを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中において適宜記載する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、分析装置の感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る危険物探知装置の構成を示す図である。
図2】加熱器の構造を示す断面図である。
図3】第2実施形態に係るワイプ材を示す図である。
図4】第3実施形態に係る危険物探知システムの構成を示す図である。
図5】制御装置のハードウェア構成を示す機能ブロック図である。
図6】第3実施形態に係る危険物探知システムによる危険物探知処理の手順を示すフローチャートである。
図7】違法薬物の配管吸着の様子を示す試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
[第1実施形態]
(危険物探知装置1)
図1は、第1実施形態に係る危険物探知装置1の構成を示す図である。
危険物探知装置(分析装置)1は、加熱器(加熱部)100、吸引ポンプ203、イオン源(イオン源部)204、真空ポンプ206、質量分析計(分析部)207、データ処理装置209を有する。加熱器100及びイオン源204は配管201によって接続されている。また、イオン源204及び吸引ポンプ203は吸気管202によって接続している。質量分析計207及び真空ポンプ206は真空配管205を介して接続している。なお、イオン源204及び質量分析計207は一体の装置となっている。そして、質量分析計207及びデータ処理装置209は信号ライン208を介して電気的に接続している。
【0014】
ユーザは検査対象物の表面をふき取った布を加熱器100にセットする。本実施形態では、加熱器100で加熱される布がワイプ材(掃拭材)W(図2参照)である場合について記載するが、加熱されるものはワイプ材Wに限らない。加熱器100の構造は後記する。加熱器100ではワイプ材Wが加熱され、ワイプ材Wに付着している化学物質が気化する。気化した化学物質は、180℃~200℃に加熱された配管201を介してイオン源204に導入され、イオン化される。イオン源204は、吸気管202を介して吸引ポンプ203によって吸気されており、気化した化学物質は、この吸気によってイオン源204に導入される。
【0015】
イオン源204でイオン化された化学物質は質量分析計207に導入される。質量分析計207は、真空配管205を介して真空ポンプ206によって真空排気されている。イオン化された化学物質は、真空排気されている質量分析計207に導入される。そして、質量分析計207は、導入された化学物質を質量分析する。質量分析計207で得られた信号は、信号ライン208を介してデータ処理装置209に送られ、データ処理装置209によって処理される。データ処理装置209には化学物質のデータベース(不図示)が登録されており、信号がデータベースと一致した場合、データ処理装置209は発報を行う。
【0016】
(加熱器100)
図2は加熱器100の構造を示す断面図である。
加熱器100は、可動側加熱部110及び固定側加熱部120によって構成されている。可動側加熱部110は、駆動部111によって上下方向に駆動可能である(上下白抜矢印)。
ユーザがワイプ材Wを可動側加熱部110と固定側加熱部120との隙間に挿入する。すると、モータ(不図示)に接続された駆動部111が駆動し、可動側加熱部110を上方(紙面上方向:図2のZ方向)に押し上げる。ちなみに、上方向とは重力が働く方向とは逆の方向である。これにより、ワイプ材Wは可動側加熱部110と固定側加熱部120との間に挟まれ、加熱される。可動側加熱部110と固定側加熱部120の温度は、200℃以上に保たれることが望ましい。可動側加熱部110と固定側加熱部120が密着すると空気の取入れが困難になるため、可動側加熱部110と固定側加熱部120の少なくとも一方には、空気を取り入れるための空気口112が設けられるのが望ましい。ワイプ材Wに付着している化学物質は、可動側加熱部110及び固定側加熱部120による熱により気化し、加熱されている配管201を介してイオン源204へと導入される(白抜矢印)。ワイプ材Wの加熱が完了すると、モータ(不図示)に接続された駆動部111が駆動し、可動側加熱部110を下方(紙面下方向:図2の-Z方向)に下げる。
【0017】
なお、第1実施形態では、気化した化学物質が他の物質、即ち、加熱器100や配管201の内壁面等に吸着されないように、吸着防止剤(防止剤)Dが用いられる。つまり、化学物質が他の物質に付着し又は吸着されることを防止する吸着防止剤Dが用いられる。第1実施形態において、吸着防止剤Dは液体である。ユーザは、例えば、霧吹きで吸着防止剤Dをワイプ材Wに吹き付ける。あるいは、吸着防止剤Dが貯留されている容器(不図示)にワイプ材Wをひたす。これらの方法によって、ユーザは、吸着防止剤Dをワイプ材Wに含浸させる。
【0018】
なお、気化された化学物質が加熱器100や、配管201の内壁面に吸着することを防止するためには、例えば、加熱器100の周囲を図示しない密閉部で覆い、その内部をアンモニアガス等で満たすことが考えられる。これにより、アンモニアガスを空気口112から取り込むことが可能である。取り込まれたアンモニアと、前記したように化学物質とで交換吸着が生じる。これにより、化学物質が可動側加熱部110や、固定側加熱部120や、配管201の内壁面に吸着することを防止できる。しかし、加熱器100が覆われてしまうと、ワイプ材Wを加熱器100にセットすることが難しくなる。また、アンモニアガスは規制されているので、アンモニアガスのボンベを危険物探知装置1に実装することも困難である。
【0019】
そこで、本実施形態では、前記のように吸着防止剤Dがワイプ材Wに含浸されている。吸着防止剤Dについては後記する。吸着防止剤Dが含浸されたワイプ材Wは、前記した手順によって加熱器100にセットされ、加熱される。すると、ワイプ材Wに付着した化学物質とともに、含浸された吸着防止剤Dが加熱器100による熱によって気化し、加熱器100の内部から配管201に導入される。これによって、化学物質が可動側加熱部110や、固定側加熱部120や、配管201の内壁面へ吸着することを防止する。これにより配管201等の内壁面への吸着が低減されると、より多くの化学物質がイオン源204に到達する。この結果、容易な方法で危険物探知装置1の感度が向上する。
【0020】
吸着防止剤Dは、加熱によってアンモニアを発生させるアンモニア発生剤が好ましい。具体的にはアンモニウム塩が望ましい。例えばアンモニウム塩の一種である塩化アンモニウムは、分解するとアンモニアと塩酸とを発生させる。アンモニアは、前記したように薬物の配管201への吸着を防止する効果がある。また、危険物探知装置1は違法薬物だけではなく爆発物の探知にも用いられる。加熱器100によって塩化アンモニウムが加熱されることにより発生する塩酸も、アンモニアとともに配管201を介してイオン源204に導入される。塩酸はイオン源204で塩素イオン(Cl)になり、この塩素イオンが爆薬分子(M)に付加する下記の反応が起きる。これにより、爆薬分子のイオン化効率を向上することができるという副次的な効果が生じる。
【0021】
M+Cl →(M+Cl)
【0022】
すなわち、塩化アンモニウムが用いられることにより、違法薬物だけではなく、爆発物を探知する場合においても、危険物探知装置1の高感度化が可能になる。同様に、吸着防止剤Dとしてアンモニウム塩の一種である乳酸アンモニウムを用いると、加熱器100の熱によって乳酸アンモニウムが熱分解し、アンモニアと乳酸とが生じる。生じたアンモニアと乳酸も配管201を介してイオン源204に導入される。乳酸(LA)は、イオン源204においてプロトン脱離乳酸 (LA-H) を生じる。そして、プロトン脱離乳酸も爆薬分子に付加することで爆薬分子のイオン化効率が向上する。アンモニウム塩の他の候補物質としては酢酸アンモニウムも入手がしやすく使いやすい。
なお、塩化アンモニウムは、食品添加物にも用いられ、無臭で、無色の結晶または白色粉末である。水溶液は、ほとんど中性もしくは微酸性である。
【0023】
吸着防止剤Dをワイプ材Wに含浸させる手法として、吸着防止剤Dを任意の溶液(例えば水溶液)とし、この溶液をワイプ材Wに塗布して乾燥させる手法がある。その後、ユーザは吸着防止剤Dが含浸されているワイプ材Wで検査対象を拭き取る。又は、ユーザが検査対象を拭き取ったワイプ材Wを加熱器100にセットする前に、ユーザがワイプ材Wに吸着防止剤Dの溶液を塗布や噴霧し、乾燥させてもよい。このように、検査対象物の表面に吸着防止剤Dを直に塗布したり噴霧したりするのではなく、ワイプ材Wに吸着防止剤Dを塗布したり噴霧したりすることで、検査対象物の表面が吸着防止剤Dによって変質する可能性を防止することができる。
なお、吸着防止剤Dは工場出荷時にワイプ材Wに含浸されていてもよい。つまり、吸着防止剤Dがワイプ材Wに含浸されるタイミングは、ワイプ材Wが加熱器100にセットされる前であれば、どのようなタイミングでもよい。
【0024】
また、吸着防止剤Dを塗布などしたワイプ材Wの乾燥は必須ではない。ただ、ワイプ材Wで検査対象の表面を拭き取る際には、乾燥されていた方が、検査対象物の変質などの防止の観点からは好ましいといえるが、塩化アンモニウムの水溶液は前記のようにほとんど中性なので乾燥しなくとも問題はない。
【0025】
アンモニアは、イオン源204に導入され、イオン源204においてイオン化され、質量分析計207に導入される。しかし、質量分析計207での分析結果からアンモニアの影響を容易に除外することができるため、適量であればアンモニアが分析に影響を与えることはない。また、アンモニアが質量分析計207に導入されても、アンモニアによって配管201への吸着を阻止された多くの化学物質がイオン源204、質量分析計207へ導入される。このため、アンモニアが質量分析計207に導入されても、それ以上に化学物質がイオン源204、質量分析計207へ導入されるため、危険物探知装置1の感度向上を図ることができる。
【0026】
[第2実施形態]
図3は、第2実施形態に係るワイプ材Wを示す図である。
吸着防止剤Dは、必ずしもワイプ材Wに直接塗布される必要はない。図3に示すように、吸着防止剤Dがマイクロカプセル(微小球体)301に封入されているものでもよい。そして、例えば、このマイクロカプセル301がワイプ材Wに埋入や付着などによって保持さるようにする。なお、図3に示す例ではマイクロカプセル302がワイプ材Wに埋入されている。マイクロカプセル301の素材は、ワイプ材Wが加熱器100により加熱された際に溶解又は破裂(破壊)し、内部の吸着防止剤Dを放出するよう、樹脂やガラス等を用いることができる。
【0027】
マイクロカプセル301に封入する吸着防止剤Dは、アンモニウム塩に限らず、アンモニアガスが吸着防止剤Dとして封入されていてもよい。また、メチルアミン、ジメチルアミンも吸着防止効果があるので、これらのガスがマイクロカプセル301に封入されていてもよい。マイクロカプセル301の大きさ(直径)はワイプ材Wに埋入可能な程度の大きさであればよい。
【0028】
このようなマイクロカプセル301に吸着防止剤Dが封入されることにより、液状の吸着防止剤Dが使用できるとともに、ガス状の吸着防止剤Dも使用することができる。
【0029】
[第3実施形態]
図4は、第3実施形態に係る危険物探知システムZの構成を示す図である。なお、図4では、危険物探知システムZの一部を図示している。
図4における危険物探知システム(分析装置)Zでは、ワイプ材Wに吸着防止剤Dを自動で添加するための吸着防止剤添加部(含浸部)410が設けられている。
吸着防止剤添加部410は、リザーバ(貯留部)411及びノズル(ノズル部)412を有する。
ローラ421及びベルト422から構成されるローダ(搬送部)420に、検査対象の表面を拭き取ったワイプ材Wがセットされる。具体的には、ユーザが検査対象の表面を拭き取ったワイプ材Wをベルト422に載置する。
【0030】
セットされたワイプ材Wは吸着防止剤添加部410に搬送される。吸着防止剤添加部410には、吸着防止剤Dが貯留されているリザーバ411と、リザーバ411に接続されているノズル412が設けられている。リザーバ411に接続されているノズル412からワイプ材Wに向けて吸着防止剤Dが噴霧(噴射)、又は、滴下される。これにより、ワイプ材Wに吸着防止剤Dが付着する。その後、ワイプ材Wは加熱器100に搬送され、加熱器100によって加熱される。吸着防止剤Dは、ワイプ材Wに付着していた化学物質と共に気化し、イオン源204に送られる。これにより、第1実施形態と同様の理由で、化学物質が加熱器100や、配管201の内壁面に吸着することが防止される。
【0031】
光電センサ431a,431bは、ノズル412による吸着防止剤Dを噴射のオン・オフを制御するための信号を制御装置500に送るものである。また、光電センサ431cは、可動側加熱部110(駆動部111)の駆動制御のための信号を制御装置500に送るものである。この光電センサ431a~431cは、投光部から投光された光がカバンBによって遮られることや反射されることで受光部に到達する光量が変化することによって、物体の通過を検知する。
【0032】
制御装置500は、光電センサ431a,431bから送られる信号に基づいてノズル412による吸着防止剤Dの噴射のオン・オフを制御する。また、制御装置500は、光電センサ431cから送られる信号に基づいての可動側加熱部110(駆動部111)の駆動制御を行う。駆動制御は、可動側加熱部110を上方(紙面上方向;図4のZ方向)へ押し上げたり、下方(紙面下方向;図4の-Z方向)へ下げたりすることである。
制御装置500は、図1に示すデータ処理装置209と別の装置であってもよいし、一体の装置であってもよい。
【0033】
図4に示したような吸着防止剤添加部410が用いられることにより、自動でワイプ材Wに吸着防止剤Dを添加できる。これにより、ユーザが吸着防止剤Dをワイプ材Wに含浸する手間を省略することができ、利便性を向上させることができる。
【0034】
なお、図4に示す危険物探知装置1はユーザがワイプ材Wによって検査対象物の表面を拭き取った後、ベルト422にワイプ材Wを載置することで、ワイプ材Wに吸着防止剤Dが含浸されている。しかし、これに限らず、ノズル412から噴射される吸着防止剤Dがワイプ材Wに含浸された後、ユーザがベルト422からワイプ材Wをとりあげて、ワイプ材Wで検査対象物の表面を拭き取ってもよい。この場合、ユーザは、検査対象物の表面を拭き取ったワイプ材Wを再度、ベルト422に載置してもよい。この際、ユーザは、吸着防止剤添加部410と、加熱器100との間のベルト422にワイプ材Wを載置するとよい。
【0035】
(制御装置500)
図5は、制御装置500のハードウェア構成を示す機能ブロック図である。
図5に示すように、制御装置500は、メモリ510、CPU(Central Processing Unit)501、HD(Hard Disk)等の記憶装置502、通信装置503を有する。
記憶装置502に格納されているプログラムがメモリ510にロードされる。ロードされたプログラムがCPU501によって実行されることにより、ノズル制御部511及び加熱制御部512が具現化する。
【0036】
ノズル制御部511は光電センサ431aによってワイプ材Wの到達が検知されると、ノズル412による吸着防止剤Dの噴射を開始する。また、ノズル制御部511は光電センサ431bによってワイプ材Wの通過が検知されると、ノズル412による吸着防止剤Dの噴射を停止する。光電センサ431bにおいて、受光部によって投光部から投光された光が遮られたことを検出した後、再度、受光部によって投光部から投光された光が検出されることで、ワイプ材Wの通過が検出される。
【0037】
加熱制御部512は光電センサ431cによってワイプ材Wの到達が検知されてから、第1の所定時間後、可動側加熱部110(駆動部111)を上方(図4の紙面上方向;図4のZ方向)へ押し上げる。第1の所定時間は、光電センサ431cでワイプ材Wが検出されてから、ワイプ材Wが可動側加熱部110の上に到達するまでの時間である。
【0038】
通信装置503は、光電センサ431a~431bによって送信される信号を受信したり、ノズル制御信号をノズル412へ送信したり、駆動部111への駆動制御信号を駆動部111へ送信したりする。
【0039】
(フローチャート)
図6は、第3実施形態に係る危険物探知システムZによる危険物探知処理の手順を示すフローチャートである。
まず、ユーザが、検査対象物をワイプ材Wで拭き取る(S101)。
ユーザは、検査対象物を拭き取ったワイプ材Wをベルト422に載置する(S102)。
ワイプ材Wがベルト422によって搬送され、ノズル412の下を通過する際に、ノズル412から噴射される吸着防止剤Dがワイプ材Wに含浸される(S103)。前記した手法によって、制御装置500のノズル制御部511はノズル412による吸着防止剤Dの噴射の開始・停止を制御する。
【0040】
そして、ワイプ材Wが加熱器100の場所に到達すると、可動側加熱部110が図示しないモータによって紙面上方へ押し上げられる。これにより、ワイプ材Wが可動側加熱部110及び固定側加熱部120によって挟み込まれ、ワイプ材Wが加熱される(S104)。制御装置500の加熱制御部512は、前記した手法によって可動側加熱部110の駆動を制御する。なお、ワイプ材Wが加熱されている間、ローラ421が停止されるようにするとよい。
【0041】
加熱によって気化した吸着防止剤D及び化学物質は、配管201を介してイオン源204に導入される。イオン源204によってイオン化した化学物質は、イオン源204及び質量分析計207へ導入される(S105)。そして、質量分析計207による化学物質の分析が行われる(S106)。
【0042】
第3実施形態によれば、ノズル412によってワイプ材Wに吸着防止剤Dが含浸されるため、ユーザがワイプ材Wに吸着防止剤Dを含浸させる手間を省略することができる。これにより、ユーザの手間を軽減することができる。また、ユーザの手に吸着防止剤Dが付着することを防止することができる。
【0043】
なお、図6では、ノズル412による吸着防止剤Dの噴射が光電センサ412a,412bによって制御されている。しかし、これに限らない。例えば、ユーザが、図示しない噴射スイッチを押下することによって、ノズル412による吸着防止剤Dの噴射が制御されてもよい。
【0044】
また、本実施形態において可動側加熱部110はモータ(不図示)によって駆動するものとしているが、これに限らない。ユーザによる手動で可動側加熱部110が押し上げられる等されてもよい。
そして、本実施形態では検査対象物を拭き取り、加熱器100で加熱されるものとして、ワイプ材Wが用いられているが、これに限らず、例えば、綿棒や、脱脂綿等でもよい。
【0045】
また、第3実施形態において、ノズル412から吸着防止剤Dがワイプ材Wに噴射されることによって、ワイプ材Wに吸着防止剤Dが含浸される構成としているが、これに限らない。例えば、液体の吸着防止剤Dが貯留されている容器にワイプ材Wを浸すことで、ワイプ材Wに吸着防止剤Dが含浸されるようにしてもよい。以下、ノズル412が吸着防止剤Dを噴霧(噴射)、又は、滴下する手法をノズル方式と称する。また、吸着防止剤Dが貯留されている容器にワイプ材Wを浸す手法を浸漬方式と称する。ノズル方式が行われることにより、浸漬方式より、単位時間あたりにおいて、多くのワイプ材Wに吸着防止剤Dを含浸させることができる。また、ノズル方式が行われることにより、浸漬方式より、吸着防止剤Dが含浸されたワイプ材Wの乾燥を速めることができる。
【0046】
さらに、加熱器100の構成は図2に示す構成に限らない。例えば、加熱されている筒状の加熱部にワイプ材Wが挿入される形式でもよい。
【0047】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0048】
また、前記した各構成、機能、ノズル制御部511、加熱制御部512、記憶装置502等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、図6に示すように、前記した各構成、機能等は、CPU501等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HD(Hard Disk)に格納すること以外に、メモリ510や、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0049】
1 危険物探知装置(分析装置)
100 加熱器(加熱部)
204 イオン源(イオン源部)
207 質量分析計(分析部)
301 マイクロカプセル(微小球体)
410 吸着防止剤添加部(含浸部)
411 リザーバ(貯留部)
412 ノズル(ノズル部)
420 ローダ(搬送部)
421 ローラ
422 ベルト
D 吸着防止剤(防止剤)
W ワイプ材(掃拭材)
Z 危険物探知システム(分析装置)
S103 含浸(含浸ステップ)
S104 加熱(加熱ステップ)
S105 導入(導入ステップ)
S106 分析(分析ステップ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7