(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】ディフェンシンによる移植片対宿主病の予防と治療
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20240122BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240122BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20240122BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20240122BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240122BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240122BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240122BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240122BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240122BHJP
C07K 14/47 20060101ALN20240122BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61K47/64
A61K47/61
A61K47/62
A61K47/68
A61K47/54
A61P37/06
A61P43/00 121
A61P43/00 111
C12N15/12
C07K14/47
(21)【出願番号】P 2020528244
(86)(22)【出願日】2018-11-21
(86)【国際出願番号】 EP2018082022
(87)【国際公開番号】W WO2019101773
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-17
(32)【優先日】2017-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518260585
【氏名又は名称】ディフェンシン セラピューティクス エーピーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ノーキルド,ペーター
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-523906(JP,A)
【文献】国際公開第2017/129195(WO,A1)
【文献】Bone Marrow Transplantation,1998年,22,402-403
【文献】Allergy & Asthma Proceedings,2004年,vol.25,p297-304
【文献】Disease Models & Mechanisms,2011年,4(3),p318-333
【文献】blood,2012年,120(21),SCI-50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/17
A61P 37/06
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同種造血幹細胞移植を受けたか又は受けようとしている患者における急性移植片対宿主病(GVHD)の予防又は治療に使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物はヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンを含み、前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンは、経口、口腔、舌下、経腸、経膣、気管内、肺内、鼻腔内、又は経皮投与により投与さ
れ、前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンは、一日用量0.1~10mgのディフェンシン/kgで投与される、医薬組成物。
【請求項2】
前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンが、配列番号2、配列番号5、配列番号1、配列番号3、配列番号4、配列番号6、及び配列番号7並びに前記配列番号と5個未満、4個未満など、例えば3個未満、2個未満などのアミノ酸が異なる配列変異体から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンが、hBD2(配列番号2)、HD5(配列番号5)、HD6(配列番号6)、hBD1(配列番号1)、短縮型hBD2(配列番号7)、hBD3(配列番号3)及びhBD4(配列番号4)からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンが、hBD2、短縮型hBD2、又はHD5である、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
2種のヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンなど、3種のヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンなど、4種のヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンなど、5種のヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンなどの、1種を超えるヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンが、投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記2種のヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンが、hBD2及びHD5である、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記患者への前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンの投与が、同種造血幹細胞移植の日に開始される、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記患者への前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンの投与が、同種造血幹細胞移植後にGVHDの症状が現れたときに開始される、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンの投与が、少なくとも1週間など、例えば少なくとも2週間、少なくとも3週間など、例えば少なくとも4週間、少なくとも2ヶ月など、例えば少なくとも3ヶ月、少なくとも4ヶ月、少なくとも6ヶ月の間、前記患者に同種造血幹細胞移植によって引き起こされる症状がなくなるまで継続される、請求項7又は8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンが、細胞透過性ペプチド(CPP)、アルブミン結合部分(ABM)、検出可能部分(Z)、及び半減期延長ペプチドからなる群から選択される少なくとも1つの追加部分をさらに含み、例えば、前記追加部分が、半減期延長ペプチドであり、任意に、前記半減期延長ペプチドが、新生児Fc受容体(FcRn)、トランスフェリン、アルブミン(HAS)、XTEN(登録商標)若しくはPEGに結合できる分子、ホモアミノ酸ポリマー(HAP)、プロリンアラニンセリンポリマー(PAS)、又はエラスチン様ペプチド(ELP)、ヒアルロン酸、絨毛性ゴナドトロピン(CG)β鎖のカルボキシ末端ペプチド(CTP)などの負に帯電した高度にシアル化されたペプチド、ヒトIgG、及びCH3(CH2)nCO-(nは8~22である)からなる群から選択される、請求項1~9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンが、プレバイオティクス、プロバイオティクス、トリプトファン、短鎖脂肪酸、グルココルチコイド、シクロスポリン、抗TNF-α、インテグリン、抗生物質、免疫抑制剤、糞便移植、照射又はこれらの組み合わせと組み合わせて投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンが
、1~2mgのディフェンシン/kgなど、1.2mgのディフェンシン/kgなどの、
0.5~
5mgのディフェンシン/kgの一日用量で投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンが、少なくとも1日2回など、少なくとも1日3回など、少なくとも1日4回など、1日5回などの、少なくとも1日1回又は継続的に投与される、請求項1~12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記投与が、経口、肺内又は経皮投与であり、例えば、前記投与が経口であるか、または任意に、前記肺内、気管内又は鼻腔内投与が、吸入器、ネブライザー、又は気化器による、請求項1~13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記患者が、重度の腸及び肝臓の炎症(例えば腹痛、吐き気、嘔吐及び黄疸によって特徴付けられる)並びに粘膜防御の喪失、サイトカインストーム、体重減少、敗血症、皮膚の発疹、かゆみ、及び発赤から選択される1以上の症状を有し、任意に、前記症状の1以上が、治療後に改善される、請求項1~14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記治療が、
a)死亡率を減少させかつ長期生存を増加させる、かつ/又は
b)免疫系のバランスを再調整しかつ前記組織サイトカイン生成の正常化を通じて前記サイトカインストームを予防する又は治療する、請求項1~15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
a)腸透過性及び敗血症が、前記腸における粘膜防御又はミエロペルオキシダーゼ活性の正常化を通じて治療される、
b)呼吸器合併症、肺容量、肺炎症及び敗血症が、治療される、
c)組織学的肺炎症、気管支周囲及び血管周囲の炎症並びに気管支肺胞洗浄液への炎症細胞の移動が、低減される、
d)閉塞性細気管支炎及び強皮症などの、肺及び皮膚の炎症並びに線維症が、治療される又は予防される、
e)遺伝子の豊富さ、門の数、細菌の存在、細菌存在量及び/又は短鎖脂肪酸の生成、及び/又は酪酸生成が、増加されかつ/又は前記患者の腸若しくは肺の微生物叢からの酢酸生成が、減少される、
f)前記患者の腸若しくは肺若しくは皮膚における正常な微生物叢が、成熟され、維持され、又は安定化される、
g)前記患者の腸又は肺におけるアロバキュラム(Allobaculum)、アロプレボテラ(Alloprevotella)、アッカーマンシア(Akkermansia)、バルネシエラ(Barnesiella)、ビフィズス菌(Bifidobacteriaceae)、フェカリバクテリウム(Faecalibacterium)、ラクノスピラ(Lachnospira)、ロチア(Rothia)及びベイロネラ(Veillonella)の存在量が、増加される、かつ/又は
h)前記患者における食物摂取及び体重が、増加される、請求項1~16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
同種造血幹細胞移植を受けたか又は受けようとしている患者における急性移植片対宿主病(GVHD)の治療または予防に使用するための医薬品であって、前記医薬品はヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンを含み、前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンは、経口、口腔、舌下、経腸、経膣、気管内、肺内、鼻腔内、又は経皮投与で投与され
、前記ヒトβ-ディフェンシン及び/又はα-ディフェンシンは、一日用量0.1~10mgのディフェンシン/kgで投与される、医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、1以上の哺乳類ディフェンシンの投与により、同種造血幹細胞移植を受けたか、又は受けようとしている患者における急性及び慢性の移植片対宿主病(GVHD)及びGVHDと関連付けられる合併症の治療並びに/又は予防のための方法に関する。本方法は、腸と肺の微生物叢の正常化及びサイトカインストームのリスクを排除する低下されたサイトカイン生成による免疫系のバランスの再調整に基づいて、下痢及び敗血症などのGVHDの症状を治療できる。
【背景技術】
【0002】
背景
移植片対宿主病は依然として、同種造血幹細胞移植後の罹患率と死亡率の主要な原因である。胃腸のGVHDが死亡の主な原因である(Teshima、2016)。急性GVHDの初期段階は、主に胃腸管での組織の損傷とそれに関連する粘膜バリア機能の喪失によって誘発される。これは、悪性疾患をその後の免疫制御に適する最小限の残存レベルにし既存の免疫機能を取り除き、未治療のドナーの接種材料の生着を可能にするのに必要とされる投与計画の調節によって引き起こされる。幹細胞移植は通常、これらの二重の目的を達成するために、全身照射、免疫抑制及び化学療法を用いる。しかしながら、それらはまた、GI管粘膜及び「サイトカインストーム」に寄与する他の細胞を損傷する。サイトカインストームは、炎症性サイトカイン;古典的には、Th1サイトカイン:IFNγ、IL-2及びTNF-αならびにTh2サイトカイン:IL-4、IL-5、IL-10及びIL-13の放出によって特徴付けられる(Henden、2015)。現在主流のGVHD療法は、広範囲の免疫抑制に焦点を当てており、それは生着に影響を及ぼし、場合によっては、望ましい移植片対腫瘍活性を低下させ得る(Nalle、2015)。移植後の期間に抗菌除染を使用することによる細菌負荷の低減は、GVHDの重症度を低下させることができる。肺及び皮膚は、線維症-閉塞性細気管支炎及び強皮症として現れる慢性GVHDの主な標的臓器である(Henden、2015年)。急性GVHDは、依然として治療の失敗の主な原因であり、その結果、20%の受容者が死亡し、生存者の60~80%がある程度の慢性GVHDを経験する(Markey、2014)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者は、驚くべきことに、予防用量の経口hBD2又はHD5が死亡率を劇的に減少させ、最も一般的に使用されるGVHDの治療薬であるシクロスポリンよりも大幅に減少させることができることを、同種造血幹細胞移植から生じる急性移植片対宿主病のマウスモデルにおいて実証した。また、hBD2が骨髄細胞(CD11c+樹状細胞及びCD11b+Ly6FG-細胞)においてIL-1βの生成を減少させることができることも、このモデルで実証した。IL-1βは、腸のGVHDの主要なドライバーである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者はまた驚くべきことに、β-ディフェンシンが腸の健康の改善を通じて下痢と体重減少を軽減し、かつGVHDの予防及び/又は治療で全て日常的に使用されているプレドニゾロン/デキサメタゾン及びシクロスポリン並びに抗TNF-αなどの標準的な免疫抑制剤と同等に疾患活動指数を減少させることを、重度の腸炎症(DSS、TNBS、T細胞移植)の予防のマウスモデルと治療のマウスモデルの両方で実証した。
【0005】
驚くべきことに、β-ディフェンシンは、IFN-γ、TNF-α、IL-4、IL-5、IL-6、IL-9、IL-10及びIL-13のサイトカイン生成の正常化を通じて免疫系のバランスを再調整できることが実証された。いくつかの薬物、例えば、抗TNF-αは、1つ又はいくつかのサイトカインを正常化できるが、これらのサイトカインを全て正常化しサイトカインストームを防止できる他の薬物は確認されていない。炎症性サイトカイン放出又はサイトカインストームは、急性GVHDの発生及び重症度の主要なメディエーターとして関与している(Ball&Egeler、2008)。
【0006】
さらに、α-ディフェンシンとβ-ディフェンシンの両方が微生物叢の構成に強い影響を与えることが、予防のマウスモデルと治療のマウスモデルの両方で実証された。例えば、ディフェンシンは微生物の種類を増やす、すなわち、微生物叢を改善/正常化できるだけでなく、ディフェンシンは短鎖脂肪酸生成細菌の存在量を増やすことができる。結腸のT reg細胞の恒常性に重要な役割を果たす短鎖脂肪酸は、急性GVHDで乱される。ディフェンシンの効果はディフェンシンごとに異なり、α-ディフェンシンとβ-ディフェンシンの組み合わせはさらに、個々の効果とは異なる。
【0007】
さらに驚くべきことに、ヒトベータディフェンシン2(hBD2)の投薬は、経口投与であろうと又は鼻腔内投与であろうと、サイトカインストームの上昇及び喘息の発症を防ぎ、かつ肺機能を劇的に改善できることが、急性喘息のマウスモデルにおいて実証された。一般的な免疫抑制が目標である従来の喘息予防とは対照的に、hBD2による予防は免疫系のバランスを再調整する。
【0008】
さらに驚くべきことに、ヒトベータ-ディフェンシン2(hBD2)の投薬はまた、経口投与であろうと又は鼻腔内投与であろうと、喘息を治療し気道過敏性及びコンプライアンスを正常化できることが、急性喘息のマウスモデルにおいて実証された。
【0009】
結論として、本発明者は、アルファ-ディフェンシン及びベータ-ディフェンシンが、同種造血幹細胞移植から生じる合併症の安全かつ効果的な治療となるのに必要な全ての特性を有することを実証した。これらのペプチドは、内因性の生理学的なヒトペプチドであるので、安全である。ディフェンシンは、満期新生児が受け取る初乳中に存在する量を超えない量で使用できる。ディフェンシンは、経口、皮下又は肺内投与により投与できる。ディフェンシンは、免疫系を抑制することなく、免疫系のバランスを再調整できる。ディフェンシンは、急性GVHDの主な原因であるサイトカインストームを防ぐことができる。ディフェンシンは、微生物叢及びメタボロームを正常化し、結腸T reg細胞の恒常性を維持する短鎖脂肪酸の生成を促進できる。ディフェンシンは、腸、肝臓及び肺の重篤な炎症を治療できる。
【発明の効果】
【0010】
したがって、一態様では、本開示は、同種造血幹細胞移植を受けたか、又は受けようとしている患者における急性移植片対宿主病の予防又は治療のための方法であって、α-ディフェンシン及びβ-ディフェンシンからなる群からの少なくとも1種の哺乳類ディフェンシンを上記患者に投与することを含む、方法に関する。
【0011】
患者は、腸及び肝臓の重篤な炎症(例えば、腹痛、吐き気、嘔吐、及び黄疸によって特徴付けられる)並びに粘膜防御の喪失、サイトカインストーム、体重減少、又は敗血症、皮膚の発疹、かゆみ、及び発赤を有する場合がある。
【0012】
治療の効果は、免疫系のバランスの再調整、及び組織サイトカイン生成の正常化によるサイトカインストームの防止又は治療を含んでよい。
【0013】
治療の効果は、腸における粘膜防御又はミエロペルオキシダーゼ活性の正常化による腸透過性及び敗血症の治療を含んでよい。
【0014】
治療の効果は、呼吸器合併症、肺の炎症及び敗血症の治療を含んでよい。
【0015】
治療の効果は、組織学的な肺の炎症、気管支周囲の炎症、及び血管周囲の炎症、並びに気管支肺胞洗浄液への炎症性細胞の移動の低減を含んでよい。
【0016】
治療の効果は、閉塞性細気管支炎及び強皮症などの、肺と皮膚の炎症及び線維症の治療並びに/又は予防を含んでよい。
【0017】
治療の効果は、上記患者の腸若しくは肺の微生物叢からの遺伝子の豊富さの増加、門の数の増加、存在する細菌の増加、細菌の存在量の増加及び/又は短鎖脂肪酸生成、酪酸生成の増加、及び/又は酢酸生成の減少を含んでよい。
【0018】
治療の効果は、上記患者の腸若しくは肺若しくは皮膚における正常な微生物叢の成熟、維持及び/又は安定化を含んでよい。
【0019】
治療の効果は、上記患者の腸又は肺におけるアロバキュラム、アロプレボテラ、アッカーマンシア、バルネシエラ、ビフィズス菌、フェカリバクテリウム、ラクノスピラ、ロチア及びベイロネラの存在量の増加を含んでよい。
【0020】
治療の効果は、上記患者における食物摂取の増加及び体重増加を含んでよい。
【0021】
哺乳類ディフェンシンは、HD5、HD6、hBD1、hBD2、hBD3及びhBD4、好ましくはHD5又はhBD2からなる群から選択されてよい。
【0022】
ディフェンシンは、単独又は組成物で投与されてよく、上記組成物は、2種以上のディフェンシン、例えば、2種のディフェンシン、例えば、3種のディフェンシン、例えば、4種のディフェンシン、例えば、5種のディフェンシンを含む。好ましくは、2種のディフェンシンはhBD2及びHD5である。
【0023】
哺乳類ディフェンシンは、細胞透過性ペプチド(CPP)、アルブミン結合部分(ABM)、検出可能部分(Z)、及び半減期延長ペプチドからなる群から選択される少なくとも1つの追加部分をさらに含んでよい。
【0024】
哺乳類ディフェンシンは、単独で投与されるか、又はプレバイオティクス、プロバイオティクス、トリプトファン、短鎖脂肪酸、グルココルチコイド、シクロスポリン、抗TNF-α、インテグリン、抗生物質、免疫抑制剤、糞便移植、照射又はこれらの組み合わせと組み合わせて投与されてよい。
【0025】
さらなる態様では、本開示は、本開示による治療方法で使用するための哺乳類ディフェンシンポリペプチド、及び本開示で定義される障害の治療のための医薬品を調製するための哺乳類ディフェンシンポリペプチドの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】大腸炎のデキストラン硫酸ナトリウム予防モデルにおけるディフェンシンの効果を調査するための実験設定の概略図。
【
図2】大腸炎のデキストラン硫酸ナトリウム治療モデルにおけるディフェンシンの効果を調査するための実験設定の概略図。
【
図3】高脂肪食マウスモデルでの微生物叢の構成に対する哺乳類ディフェンシン(HD5、hBD2及びHD5+hBD2)の影響を調査するための実験設定の概略図。
【
図4】マウスをイエダニ(HDM)+フロイントアジュバントで免疫しHDMを負荷する、喘息予防のためのステロイド感受性マウスモデルにおける哺乳類ディフェンシンの影響を調査するための実験設定の概略図。
【
図5】マウスをイエダニ(HDM)+フロイントアジュバントで免疫しHDMを負荷する、喘息治療のためのステロイド感受性マウスモデルにおける哺乳類ディフェンシンの影響を調査するための実験設定の概略図。
【
図6a】ヒトベータディフェンシン1~4のClustal W(2.1)複数配列アライメント:Clustal Wアライメントにおいて:
*は、単一の完全に保存された残基を有する位置を示す。:は、以下の「強力な」グループの1つが完全に保存されていることを示す-S、T、A;N、E、Q、K;N、H、Q、K;N、D、E、Q;Q、H、R、K;M、I、L、V;M、I、L、F;H、Y;F、Y、W。.は、以下の「弱い」グループの1つが完全に保存されていることを示す-C、S、A;A、T、V;S、A、G;S、T、N、K;S、T、P、A;S、G、N、D;S、N、D、E、Q、K;N、D、E、Q、H、K;N、E、Q、H、R、K;V、L、I、M;H、F、Y。
【
図6b】HD5及びHD6のClustalアライメント。
【
図6c】HD5、HD6、並びにhBD1、hBD2、hBD3、及びhBD4のClustalアライメント。
【
図7】大腸炎研究のための疾患活動指数スコアリングシステムの説明。
【
図8】大腸炎研究のための組織学的スコアリングシステムの説明。
【
図9】マウス抗TNF-αを上回るHBD2(NZ39000)の統計的に有意な優位性を示す、マウスの10日間の予防的デキストラン硫酸ナトリウム誘発性結腸炎研究における遠位結腸の組織学的スコア及びHBD2の静脈内投与を上回る優位性を示す、皮下hBD2投与。説明文:A:1日1回の対照ビヒクルの静脈内投与B:抗TNFアルファ(300μg/マウスの腹腔内投与 3回)C:hBD2(1日1回の0.1mg/kg 静脈内投与)D:hBD2(1日1回の0.1mg/kg 皮下投与)E:hBD2(1日2回の0.1mg/kg 静脈内投与+皮下投与)F:hBD2(1日2回の0.1mg/kg 皮下投与+皮下投与)K:未治療動物。
【
図10】経口投与されるHBD2hBD2の全用量対1mg/kgの経口プレドニゾロンについての体重維持効果を示す、10日間のデキストラン硫酸ナトリウム誘発性大腸炎マウスの予防研究における動物の体重変化。治療グループ:A:対照ビヒクルPBSを1日2回経口投与、B:1mg/kgのプレドニゾロンを1日2回経口投与、C:0.05mg/kgのhBD2を1日2回経口投与、D:0.5mg/kgのhBD2を1日2回経口投与、E:5mg/kgのhBD2を1日2回経口投与。対照(ビヒクル)グループの値との有意差は、
**p<0,01、
***p<0,001として示される(Kruskal-Wallis検定+ノンパラメトリックデータのDunnの事後検定)。
【
図11】プレドニゾロン1mg/kgを上回るhBD2の経口投与の統計的に有意な優位性を示す、10日間のデキストラン硫酸ナトリウム誘発性大腸炎マウスの予防研究における疾患活動指数スコア。
図10に示す治療グループ及び有意性。
【
図12】プレドニゾロン1mg/kgと同等の全ての用量の経口HBD2の統計的に有意な効果を示す、10日間のデキストラン硫酸ナトリウム誘発性大腸炎マウスの予防研究における組織学的スコア。
図10に示す治療グループ及び有意性。
【
図13】プレドニゾロン10mg/kgと同等の0.03及び0.1mg/kgのhBD2(グループE及びF)の統計的に有意な効果を示す、8日間のトリニトロベンゼンスルホン酸誘発性大腸炎の予防研究の組織学的スコア。A:ビヒクル対照、1日1回皮下投与B:10mg/kgのプレドニゾロン 1日1回皮下投与、C:hBD2、皮下投与、1日1回=1mg/kgD:hBD2、皮下投与、1日1回=0.3mg/kgE:hBD2、皮下投与、1日1回=0.1mg/kgF:hBD2、皮下投与、1日1回=0.03mg/kgG:hBD2、皮下投与、1日1回=0.1mg/kg。
【
図14】シクロスポリンと同等のhBD2の統計的に有意な効果を示す、7日間のデキストラン硫酸ナトリウム誘発性大腸炎マウスの予防研究における結腸の長さ。
*DSSに対してp<0.05、マンホイットニー検定。
【
図15】投与経路に関係なくシクロスポリンと同等のhBD2の統計的に有意な効果及び1日2回投与を上回るhBD2の1日3回投与の優位性を示す、7日間のデキストラン硫酸ナトリウム誘発性大腸炎マウスの予防研究における臨床スコア(便スコア:0=正常;1=湿った/粘り気のある便;2=軟便;3=下痢;便の血液スコア:0=血液なし;1=便中又は肛門周囲の血液の証拠;2=重度の出血;マウスの外観:0=正常;1=毛皮の波状又は姿勢の変化;2=不活発)。
*DSSに対してp<0.05;二元配置分散分析及びボンフェローニ多重比較検定。
【
図16】1mg/kgのデキサメタゾンと同等でかつ300μg/マウスのマウス抗TNF-αよりも優れた0.1mg/kgのhBD2の統計的有意効果を示す、14日間のデキストラン硫酸ナトリウム誘発性大腸炎マウスの治療研究における組織学的スコア。
【
図17】100μg/マウスの抗TNF-αの週2回の皮下投与(エンブレル)及び0.3mg/kgのデキサメタゾンの1日1回腹腔内投与と同等の1mg/kgのhBD2の1日1回皮下投与の効果を示す、CD4+CD25+T細胞移植SCID大腸炎マウスモデルでの14週間の治療における臨床スコア(体重減少、便の硬さ及び直腸周囲の血液の存在)。
【
図18】100μg/マウスの抗TNF-αの週2回の皮下投与(エンブレル)及び0.3mg/kgのデキサメタゾンの1日1回腹腔内投与と同等の1mg/kgのhBD2の1日1回皮下投与の効果を示す、CD4+CD25+T細胞移植SCID大腸炎マウスモデルでの14週間の治療における結腸重量。
*p<0.05;
**t検定によるビヒクルに対するp<0.01。
【
図19】100μg/マウスの抗TNF-αの週2回皮下投与(エンブレル)及び0.3mg/kgのデキサメタゾンの1日1回腹腔内投与と同等の1mg/kgのhBD2の皮下投与の効果を示す、CD4+CD25+T細胞移植SCIDマウスモデルでの14週間の治療におけるミエロペルオキシダーゼ活性。
*p<0.05;
**t検定によるビヒクルに対するp<0.01。
【
図20】マウス高脂肪食モデルにおける経口HD5、hBD2及びHD5+hBD2による予防的処置後の微生物の存在及び存在量の、重み付けされていないunifrac分析並びに重み付けされたunifrac分析。
【
図21】マウス高脂肪食モデルにおける経口HD5及びhBD2による予防的処置後の小腸におけるアロバキュラムの存在量。
【
図22】マウス高脂肪食モデルにおける経口HD5、hBD2及びHD5+hBD2による予防的処置後の微生物存在量の属分析。
【
図23】マウス高脂肪モデルにおける経口hBD2による予防的処置後の結腸におけるラクトバシラス科の存在量。
【
図24】マウス高脂肪食モデルでの経口hBD2による予防的処置の4週(左パネル)及び10週(右パネル)後の結腸におけるバルネシエラの相対的存在量。
【
図25】マウス高脂肪食モデルにおけるHD5又はhBD2による治療的処置後の微生物の存在及び存在量の重み付けされていないunifrac分析。上のパネルは0週目のデータを示す。下のパネルは10週目のデータである。
【
図26】マウス高脂肪食モデルにおける経口HD5及びhBD2による治療的介入後の結腸におけるアロプレボテラの相対的存在量。
【
図27】マウス高脂肪食モデルにおけるHD5又はhBD2による治療的介入後の小腸及び結腸におけるビフィズス菌の相対的存在量。
図28~31の図の凡例。生理食塩水のINは、未負荷で未治療の対照である。HDM/ビヒクルは、未治療であるが、HDM負荷した動物である。HDMはイエダニで負荷した動物である。POは経口投与であり、INは鼻腔内投与である。
*のラベルが付いた列は、ビヒクル処置対照と統計的に有意に異なる。
【
図28】hBD2の予防的鼻腔内投与及び経口投与後のそれぞれのイエダニステロイド感受性喘息マウスモデルにおける気道過敏性。
【
図29】hBD2の予防的鼻腔内投与及び経口投与後のそれぞれのイエダニステロイド感受性喘息マウスモデルにおける肺コンプライアンス。
【
図30】hBD-2の予防的経口投与後のイエダニステロイド感受性喘息マウスモデルにおけるBALFの好中球細胞数。結果は平均±SEMとして示される。
【
図31a-f】hBD-2の予防的経口投与後のイエダニステロイド感受性喘息マウスモデルでの肺ホモジネート中のTNF-α(31a)、IL-4(31b)、IL-5(31c)、IL-6(31d)、IL-9(31e)及びIL-13(31f)のサイトカイン濃度。#HDM/ビヒクルPOに対してp<0.05、マンホイットニー検定。結果は平均±SEMとして示される。
【
図32a-b】hBD2の治療的鼻腔内(
図32a)及び経口(
図32b)投与後のそれぞれのイエダニステロイド感受性喘息マウスモデルにおける気道過敏性。生理食塩水は、負荷されていない対照である。HDM/ビヒクルは、ビヒクルで治療されたイエダニ負荷対照である。「hBD2のIN 1.2mpk」は、1.2mg/kgで鼻腔内投与されるhBD2である。5mpkは5mg/kgである。
【
図33】hBD2の治療的鼻腔内(
図33a)及び経口(
図33b)投与後のそれぞれのイエダニステロイド感受性喘息マウスモデルにおける肺コンプライアンス。
【
図34】hBD2の治療的鼻腔内投与後のイエダニステロイド感受性喘息マウスモデルでのBALF中の総数(34a)、好中球(34b)及びマクロファージの細胞数(34c)。
*ビヒクルに対してp<0.05;マンホイットニー検定。結果は平均±SEMとして示される。
【
図35-42】hBD-2の治療的鼻腔内投与及び経口投与後のそれぞれのイエダニステロイド感受性喘息マウスモデルにおける肺ホモジネート中のIFN-γ(
図35)、TNF-α(
図36)、IL-4(
図37)、IL-5(
図38)、IL-6(
図39)、IL-9(
図40)、IL-10(
図41)及びIL-13(
図42)のサイトカイン濃度。各図には、両方のアームが示されている図の左側に鼻腔内アーム及び右側に経口アームのデータがある。’対応するビヒクルに対するp<0.05;マンホイットニー検定。結果は平均±SEMとして示される。
【
図43】hBD2の治療的鼻腔内投与及び経口投与後のそれぞれのイエダニステロイド感受性喘息マウスモデルにおけるH&E/PAS調製物を用いた肺の組織診断。左上のパネル:未治療で未負荷の対照。右上のパネル:未治療のHDM負荷対照。左下のパネル:hBD2 POで治療したHDM負荷。右下のパネル:hBD2 INで治療したHDM負荷。50倍拡大。
【
図44】hBD2の治療的鼻腔内投与及び経口投与後のそれぞれのイエダニステロイド感受性喘息マウスモデルにおける肺炎症の重症度。
*ビヒクルに対してp<0.05、マンホイットニー検定;#ビヒクルに対してp<0.05、ウィルコックス符号順位検定。
【
図45】hBD2の治療的鼻腔内投与及び経口投与後のそれぞれのイエダニステロイド感受性喘息マウスモデルにおける血管周囲及び気管支周囲の炎症。
*好酸球の血管周囲浸潤についてのビヒクルに対してp<0.05、マンホイットニー検定;#好酸球及び単球の気管支周囲/気管支周囲浸潤についてのビヒクルに対してp<0.05、ウィルコックス符号順位検定。□単球;◆好酸球。
【
図46】100μg/マウスの抗TNF-αの週2回皮下投与(エンブレル)及び0.3mg/kgのデキサメタゾンの1日1回の腹腔内投与と同等の1mg/kgのhBD2の皮下投与の効果を示す、CD4+CD25+T細胞移植SCIDマウスモデルの14週間の治療におけるミエロペルオキシダーゼ活性。
*p<0.05;
**t検定によるビヒクルに対してp<0.01。
【
図47】0日目の幹細胞移植及び0日目~10日目に1.2mg/kg/日のhBD2又はビヒクル(PBS 100μL/日)での治療後のマウス移植片対宿主病モデルにおいて生存期間が劇的に増加したことを示す、カプラン・マイヤープロット(p<0.0001)(n=15)。
【
図48】幹細胞移植の日から10日間、経口hBD-2で治療した10匹のマウスにおける小腸、結腸及び肝臓の組織学的スコアの統計的に有意な減少。
【
図49】幹細胞移植の日から10日間、経口hBD-2で治療したマウスにおけるベースラインからの割合(%)(a)及びグラム(b)での体重減少。
【
図50】幹細胞移植の日から10日間、経口hBD-2で治療した10匹のマウスにおける結腸及び小腸の固有層へのCD45+白血球細胞遊走の低下。
【
図51a-c】幹細胞移植の日から10日間、経口hBD-2で治療した10匹のマウスにおける結腸及び小腸の固有層の腸のT細胞並びに骨髄細胞の浸潤低下。
【
図52a-c】幹細胞移植の日から10日間、経口hBD-2で治療した10匹のマウスの血清中のTNF-α(a)、IL-6(b)及びIL-10(c)のサイトカイン濃度。
【
図53a-c】幹細胞移植の日から10日間、経口hBD-2で治療した10匹のマウスの骨髄細胞におけるIL-1β生成の低下。
【
図54a-f】幹細胞移植の日から10日間、経口hBD-2で治療した10匹のマウス中の好中球の割合の低下(a)及びTh 1サイトカイン生成の低下-CD4 T細胞(b)及びCD8 T細胞(c)及びCD69+CD4 T細胞(d)中のIFN-γ;CD4 T細胞(e)及びCD8 T細胞(f)中のTNF-α。
【
図55】幹細胞移植の日から10日間、経口PBSで治療した10匹のマウスの結腸における炎症、骨髄細胞と白血球の浸潤の増加及び組織修復の増加。
【
図56】シクロスポリン及びPBSでそれぞれ治療した13匹のマウスと比較した、幹細胞移植の日から10日間、経口hBD-2で治療した7匹のマウスにおける死亡率の統計的に有意な低下(p=0.03)。
【
図57】幹細胞移植の日から10日間、経口hBD-2、シクロスポリン、又はPBSで治療したマウスにおけるベースラインからの体重減少(%)。
【
図58】幹細胞移植の日から10日間、経口hBD-2、経口HD5又はPBSでそれぞれ治療した22匹のマウスにおける死亡率の有意な低下。
【
図59】低脂肪食又は西洋食のマウスと比較したマウスにおける腸内膜から細菌集団(溶解ゾーン)までの距離(μm)として測定した経口投与HD5及びhBD-2によって発揮される細菌集団制御。この実験は、マウスに経口投与したヒトHD5及びhBD-2が驚くべきことに、経口投与後に期待される主に腸の内腔でではなく、マウス自体の上皮細胞によって生成されたマウスディフェンシンであるかのように、上皮表面で微生物叢調節効果を発揮することを実証する。
【
図60】マウス高脂肪食モデルでのhBD2による予防的処置後の肝臓のヘマトキシリン/エオシン染色。低脂肪食を摂取したマウスでは肝細胞での脂肪の蓄積は認められないが、西洋高脂肪食を摂取したマウスでは広範囲の脂肪症(肝細胞での脂肪蓄積)が認められ、経口で1.2mg/kgのhBD-2の毎日の予防的投与を補足した西洋高脂肪食を摂取したマウスのグループでは最小限の肝細胞内脂肪蓄積が認められる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
詳細な説明
定義:
ディフェンシン:本明細書で使用される「ディフェンシン」という用語は、抗菌ペプチドのディフェンシンクラスに属するポリペプチドを指す。ディフェンシンは、健康な微生物叢を維持し潜在的な病原体を追い払うのに役立つ、主要な先天性宿主防御の1つを代表する(Wehkampら、2002及びSalzmanら、2007)。ディフェンシンは、グラム陽性菌及び陰性菌、真菌及び古細菌に対して抗菌作用を保有し、抗炎症活性を発揮するペプチドである。ヒトのディフェンシンは、それらの3つの分子内システインジスルフィド結合のトポロジーに基づいて、α-ディフェンシン及びβ-ディフェンシンに分けられる、小さなカチオン性ペプチドである(
図6)。哺乳類ディフェンシンには明確な構造的特徴がある:成熟ペプチドは小さく(3~6kDa、28~42アミノ酸長)、カチオン性で(正味電荷+1~+11)、両親媒性であり、3つの逆平行鎖βシートの高度に保存された3次構造を有する。ディフェンシン間の構造の保存は、アミノ酸配列の変動性を考えるといくぶん驚くべきことであり、ディフェンシンファミリー全体で6つの保存されたシステイン残基による。これらの6つのシステイン残基は3つのジスルフィド結合を形成し、それは3本鎖βシートのコア構造を安定化させる(Dorinら、Molecular Medical Microbiology(第2版)、2015の中の哺乳類の抗菌ペプチド;ディフェンシン及びカテリシジン)。α-ディフェンシンは、小腸の陰窩(HD5とHD6又はDEFA5とDEFA6)中でパネート細胞により発現されるものである。β-ディフェンシン(DEFBn)は主に、皮膚、目、中耳、口、気管、肺、消化管、泌尿生殖器系、腎臓、膣、肝臓、膵臓及び乳腺を含む様々な組織並びに臓器で上皮細胞によって生成される。ディフェンシンの例は、ヒト腸アルファディフェンシン5(HD5;配列番号5);ヒト腸アルファディフェンシン6(HD6;配列番号6);どちらもアルファディフェンシンクラスに属する;また、ヒトベータディフェンシン1(hBD1;配列番号1);ヒトβディフェンシン2(hBD2;配列番号2);ヒトβディフェンシン3(hBD3;配列番号3);ヒトβディフェンシン4(hBD4;配列番号4);短縮型ヒトβディフェンシン2(配列番号7)を含む。ディフェンシンは前駆体として発現され、シグナルペプチド及び場合によってはプロペプチドの切断によってプロセシングされた後、細胞外空間に分泌される。ヒトのディフェンシンのいくつか、例えばhBD1は、構成的に生成されるが、他のもの、例えば、hBD2、hBD3及びhBD4は、炎症性サイトカイン又は外因性微生物の生成物によって誘導される。上記の特定された配列は、予測される成熟生理活性ディフェンシンを表す。当業者なら、プロセシングは細胞ごとに異なる可能性があること、かつ生じる分泌成熟ペプチドは、C末端若しくはN末端の1個又は2個のアミノ酸が予測される配列と異なり、なお生物活性を維持し得ることを理解するであろう。
【0028】
同一性:2つのアミノ酸配列間又は2つのヌクレオチド配列間の関連性は、パラメーター「同一性」によって説明される。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、EMBOSSパッケージのNeedleプログラム(Riceら、2000、http://emboss.org)、好ましくは、バージョン3.0.0又はそれ以降で実装されるNeedleman-Wunschアルゴリズム(Needleman及びWunsch、1970、J.Mol.Biol.48:443~453)を使用して決定される。使用される任意選択のパラメーターは、ギャップオープンペナルティ10、ギャップ拡張ペナルティ0.5、及びEBLOSUM62(BLOSUM62のEMBOSSバージョン)置換マトリクスである。「最長同一性」というラベルが付けられたNeedleの出力(nobriefオプションを使用して取得される)は、同一性の割合として使用され、以下のように計算される:(同一残基×100)/(アライメントの長さ-アライメントのギャップの総数)。
【0029】
正常な微生物叢:「正常な微生物叢」という用語は、本明細書では、腸内菌共生バランス失調でない微生物叢を示すために使用される。正常な微生物叢は、遺伝子が非常に豊富であることによって特徴付けられる。正常な腸内細菌叢は、バクテロイデス属、フェカリバクテリウム属、ローズブリア属、ブラウティア属、ルミノコッカス属、コプロコッカス属、ビフィズス菌属、メタノブレビバクター属、ラクトバチルス属、コプロコッカス属、クロストリジウム属、アッカーマンシア属、ユーバクテリウム属に属する細菌を含むことによって特徴付けられる。
【0030】
正常な肺微生物叢は、シュードモナス、ストレプトコッカス、プレボテラ、フソバクテリア、ベイロネラ、ヘモフィルス、ナイセリア、及びポルフィロモナスからなるコア微生物叢と共に、バクテロイド属、ファーミキューテス属、及びプロテオバクテリア属に属する細菌を含むことによって特徴付けられる。
【0031】
治療:本明細書で使用される「治療」及び「治療する」という用語は、病態、疾患又は障害と闘うことを目的とした患者の管理及びケアを指す。この用語は、症状若しくは合併症を軽減又は緩和すること;病態、疾患若しくは障害の進行を遅らせること;病態、疾患若しくは障害を治癒又は排除すること;及び/又は病態、疾患若しくは障害を予防することの目的のための活性化合物の投与などの、患者が苦しんでいる所与の病態に対する全範囲の治療を含むことを意図し、「予防すること」又は「予防」は、症状若しくは合併症の発症を防止するか、又はそれらのリスクを低減するために、活性化合物を妨害、低減する目的のための患者の管理及びケアを指すと理解されるべきである。治療される患者は、好ましくは哺乳類、特にヒトである。
【0032】
患者:患者は、同種造血幹細胞移植で治療されたか、又は移植を受けようとしている対象である。
【0033】
哺乳類アルファディフェンシンと哺乳類ベータディフェンシン
この開示は、同種造血幹細胞移植で治療されているか、若しくは治療されようとしている対象の治療又は予防における、ヒトアルファディフェンシン及びベータディフェンシン、より好ましくはヒト科などの哺乳類アルファディフェンシン及び/又はベータディフェンシンの使用に関する。
【0034】
一実施形態では、哺乳類アルファディフェンシン及び/又はベータディフェンシンは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7のアミノ酸配列のいずれかに対して少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、及び最も好ましくは少なくとも95%の同一性の程度を有する。別の実施形態では、ディフェンシンは、配列番号1~7の1つと、10個未満、例えば、8個未満、例えば、5個未満、例えば、4個未満、例えば3個未満、例えば、2個未満のアミノ酸が異なる。
【0035】
好ましい実施形態では、ヒトアルファディフェンシンは、アルファディフェンシン5(配列番号5)及び/又はアルファディフェンシン6(配列番号6)からなる。好ましい実施形態では、哺乳類ベータディフェンシンは、ヒトベータディフェンシン1(配列番号1)、ヒトベータディフェンシン2(配列番号2)、切断型ヒトベータディフェンシン2(配列番号7)、ヒトベータディフェンシン3(配列番号3)及び/又はヒトベータディフェンシン4(配列番号4)からなる。好ましい実施形態では、ヒトアルファディフェンシンは、配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、かつ最も好ましくは少なくとも95%の同一性の程度を有する。好ましい実施形態では、ヒト哺乳類アルファディフェンシンは、アルファディフェンシン5(配列番号5)からなる。好ましい実施形態では、ヒトベータディフェンシンは、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、かつ最も好ましくは少なくとも95%の同一性の程度を有する。好ましい実施形態では、ヒトベータディフェンシンは、ヒトベータディフェンシン2(配列番号2)からなる。さらに別の実施形態では、哺乳類アルファディフェンシンは、ヒトアルファディフェンシン及び/又はマウスアルファディフェンシン、並びにそれらの機能的に同等な変異体を含む。好ましくは、哺乳類アルファディフェンシンは、ヒトアルファディフェンシン5、ヒトアルファディフェンシン6及びそれらの機能的に同等な変異体からなる。より好ましくは、哺乳類アルファディフェンシンは、ヒトアルファディフェンシン5、及びその機能的に同等な変異体又はオルソログからなる。
【0036】
さらに別の実施形態では、哺乳類ベータディフェンシンは、ヒトベータディフェンシン及び/又はマウスベータディフェンシン、及びそれらの機能的に同等な変異体からなる。好ましくは、哺乳類ベータディフェンシンは、ヒトベータディフェンシン1、ヒトベータディフェンシン2、切断型ヒトベータディフェンシン2、ヒトベータディフェンシン3、ヒトベータディフェンシン4、及びそれらの機能的に同等な変異体からなる。より好ましくは、哺乳類ベータディフェンシンは、ヒトベータディフェンシン2、及びその機能的に同等な変異体又はオルソログからなる。
【0037】
哺乳類(例えば、ヒト)アルファディフェンシン又はベータディフェンシンの「機能的に同等な変異体」は、肺又は腸又は皮膚中の微生物叢に対して、親の哺乳類(例えば、ヒト)アルファディフェンシン及び/又はベータディフェンシンとほぼ同じ作用を示す改変された哺乳類(例えば、ヒト)アルファディフェンシン又はベータディフェンシンである。哺乳類(例えば、ヒト)ディフェンシンの機能的に同等な変異体は、哺乳類(例えば、ヒト)ディフェンシンアミノ酸配列(例えば、配列番号1~6のいずれか)と比較して、1~5個のアミノ酸改変、好ましくは1~4個のアミノ酸改変、より好ましくは1~3個のアミノ酸改変、最も好ましくは1~2個のアミノ酸改変(複数可)、及び特に1個のアミノ酸改変を含んでよい。好ましくは、ベータ哺乳類ディフェンシンについては、配列番号2を有するヒトベータディフェンシン2と比較され、アルファディフェンシンについては、HD5(配列番号5)と比較される。
【0038】
「改変」という用語は、本明細書では、哺乳類(例えば、ヒト)ディフェンシンの化学的改変を意味する。改変(複数可)は、アミノ酸(複数可)の置換(複数可)、欠失(複数可)及び/又は挿入(複数可)、並びにアミノ酸側鎖(複数可)の置き換え(複数可)であるか、又はアミノ酸配列における類似の特徴を有する非天然アミノ酸の使用であり得る。特に、改変(複数可)は、C末端のアミド化などのアミド化であり得る。好ましくは、アミノ酸改変はマイナーな性質のもの、すなわち、ポリペプチドのフォールディング及び/又は活性に著しく影響を及ぼさない保存的アミノ酸置換又は挿入;単一欠失;小さなアミノ末端若しくはカルボキシル末端の伸長;又はポリヒスチジンタグ、抗原性エピトープ若しくは結合ドメインなどの、正味電荷又は別の機能を変更することによって精製を容易にする小さな伸長である。一実施形態では、ポリヒスチジンタグ、抗原性エピトープ又は結合ドメインなどの小さな伸長は、最大で約20~25残基の小さなリンカーペプチドを介して哺乳類(例えば、ヒト)アルファディフェンシン又はベータディフェンシンに結合され、上記リンカーは、制限酵素切断部位を含んでよい。
【0039】
図6のClustal Wアライメントを使用して、タンパク質の生物活性に実質的に影響を与えることなく、どのアミノ酸残基を置換できるかを予測できる。配列を、Clustal W 2.1(http://www.geno,me.jp/tools/clustalw/)及び以下の設定:ギャップオープンペナルティ:10、ギャップ延長ペナルティ:0,05、重量推移:NO、タンパク質の親水性残基:GPSNDQE、親水性ギャップ:YES、重量マトリックス:BLOSUM(タンパク質用)を使用して整列させた。以下のグループ(Clustal W、「強い」保存グループ)内の置換は、保存的置換と見なされる:-S、T、A;N、E、Q、K;N、H、Q、K;N、D、E、Q;Q、H、R、K;M、I、L、V;M、I、L、F;H、Y;F、Y、W。以下のグループ(Clustal W、「弱い」保存グループ)内の置換は、半保存的な置換と見なされる:-C、S、A;A、T、V;S、A、G;S、T、N、K;S、T、P、A;S、G、N、D;S、N、D、E、Q、K;N、D、E、Q、H、K;N、E、Q、H、R、K;V、L、I、M;H、F、Y。
【0040】
保存的置換の例は、塩基性アミノ酸(アルギニン、リジン及びヒスチジン)、酸性アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸)、極性アミノ酸(グルタミン及びアスパラギン)、疎水性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン及びバリン)、芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン)、並びに小さなアミノ酸(グリシン、アラニン、セリン、スレオニン及びメチオニン)のグループ内で行われる置換である。一般に比活性を変化させないアミノ酸置換が当技術分野で知られている。最も一般的に起こる交換は、Ala/Ser、Val/lle、Asp/Glu、Thr/Ser、Ala/Gly、Ala/Thr、Ser/Asn、Ala/Val、Ser/Gly、Tyr/Phe、Ala/Pro、Lys/Arg、Asp/Asn、Leu/lle、Leu/Val、Ala/Glu、及びAsp/Glyである。
【0041】
20種類の標準アミノ酸に加えて、非標準アミノ酸(4-ヒドロキシプロリン、6-N-メチルリジン、2-アミノイソ酪酸、イソバリン、及びα-メチルセリンなど)が、野生型ポリペプチドのアミノ酸残基と置換されてよい。限られた数の非保存的アミノ酸、遺伝暗号によってコードされていないアミノ酸、及び非天然アミノ酸が、アミノ酸残基と置換されてよい。「非天然アミノ酸」は、タンパク質合成後に改変されているか、かつ/又は標準アミノ酸のそれとは異なる化学構造をそれらの側鎖(複数可)に有する。非天然アミノ酸は、化学的に合成でき、好ましくは、市販されており、ピペコリン酸、チアゾリジンカルボン酸、デヒドロプロリン、3-メチルプロリン及び4-メチルプロリン、並びに3,3-ジメチルプロリンを含む。
【0042】
哺乳類アルファディフェンシン及び/又はベータディフェンシン中の必須アミノ酸は、部位特異的変異誘発又はアラニン走査変異誘発などの当技術分野で公知の手順に従って特定することができる(Cunningham及びWells、1989、Science 244:1081-1085)。後者の手法では、分子内の全ての残基で単一のアラニン変異を導入し、得られる変異分子を生物活性(すなわち、気道過敏反応又は抑制サイトカインに対する活性、例えば、TNF-α活性)について試験して、分子の活性に重要なアミノ酸残基を特定する。Hiltonら、1996、J.Biol.Chem.271:4699-4708も参照されたい。必須アミノ酸の特定は、哺乳類アルファディフェンシン及び/又はベータ-ディフェンシンに関連するポリペプチドとの同一性分析からも示唆できる(
図5のClustal Wアライメント参照)。
【0043】
単一又は複数のアミノ酸置換は、変異誘発、組換え、及び/又はシャッフリングの既知の方法を使用して実行及び試験され、その後に、Reidhaar-Olson及びSauer,1988,Science 241:53-57;Bowie及びSauer,1989,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:2152-2156;WO 95/17413;又はWO 95/22625で開示されているものなどの関連するスクリーニング手順を行うことができる。使用できる他の方法は、エラープローンPCR、ファージディスプレイ(例えば、Lowmanら、1991,Biochem.30:10832-10837;米国特許第5,223,409号;WO 92/06204)、及び領域特異的変異誘発(Derbyshireら、1986、Gene 46:145;Nerら、1988、DNA 7:127)を含む。所与の置換の結果を確実に予測できない場合、誘導体は、生物活性の有無を決定するために本明細書の上記の方法に従って容易にアッセイされ得る。
【0044】
長時間作用型ディフェンシン
哺乳類のα-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンの半減期は、α-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンを別の部分と融合又はコンジュゲートすることによって、すなわち、α-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンとして同じ方法で投与されるα-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンのインビボ血漿半減期と比較して実質的に増加されるα-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンのインビボ血漿半減期をもたらす医薬として許容される分子に結合された、長時間作用する生物活性のあるα-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンを構築することによって、延長させることができる。
【0045】
長時間作用する生物学的に活性なα-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンは、新生児Fc受容体(FcRn)、トランスフェリン、アルブミン(HAS)、XTEN(登録商標)若しくはPEGに結合する分子、ホモアミノ酸ポリマー(HAP)、プロリンアラニンセリンポリマー(PAS)、又はエラスチン様ペプチド(ELP)、ヒアルロン酸、絨毛性ゴナドトロピン(CG)β鎖のカルボキシ末端ペプチド(CTP)などの負に帯電した高度にシアル化されたペプチド、ヒトIgG、及びCH3(CH2)nCO-(nは8~22である)からなる群から選択される医薬として許容される分子に結合された哺乳類のα-ディフェンシン若しくはその類似体又は哺乳類のβ-ディフェンシン若しくはその類似体を含む。
【0046】
α-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンの類似体は、非哺乳類起源であってもよく、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質から選択されてもよい。
【0047】
α-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンのアゴニストは、限定されないが、アルブミン又はアルブミン類似体などの医薬として許容される分子への、二官能性リンカーを介する化学的カップリング、α-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンなどのディフェンシンのN末端又はC末端をカップリングすることにより遺伝子工学的に、などの、先行技術文献に記載されているような様々な方法で医薬として許容される分子に結合されてよい。特に、アルブミン又はアルブミン類似体、例えば、ヒトアルブミンのN末端は、α-ディフェンシン若しくはβ-ディフェンシンのC末端、又はα-ディフェンシン若しくはβ-ディフェンシンのN末端に結合されてよく、又は、アルブミン、例えば、ヒトアルブミンのC末端は、α-ディフェンシン若しくはβ-ディフェンシンのC末端、又はα-ディフェンシン若しくはβ-ディフェンシンのN末端に結合されてよい。リンカー配列が、アルブミンとα-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンの鎖の間に挿入されてよい。α-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンのアゴニストは、安定なリンカー又はより柔軟なリンカーを介して医薬として許容される分子に結合されてよい。二官能性PEG分子(例えば、Paigeら、Pharmaceutical Research、第12巻、第12版、1995参照)、加水分解性リンカー(Shechterら、Bioconjugate Chem.2005,16:913-920及びInternational Journal of Peptide Research and Therapeutics,第13巻,第1~2版,June 2007及びW02009095479)、PDPH及びEMCH(例えば、W02010092135を参照されたい)を含む、いくつかのリンカーが当技術分野で知られている。医薬として許容される分子へのα-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンのアゴニストの化学的コンジュゲーション(2以上の分子の結合)が、機能的なα-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンの活性を大幅に低下させる特別な場合では、機能的なα-ディフェンシン又はβ-ディフェンシンのアゴニストを放出できるより柔軟なリンカーを使用することが好ましい場合がある。
【0048】
半減期の延長は、スペーサー、例えば、γ-L-グルタミルスペーサー及びC-18脂肪二酸鎖を用いてリジンへのペプチド骨格のアシル化を通して達成されてよい。脂肪二酸部位鎖とスペーサーは、アルブミンへの強力だが可逆的な結合を媒介し、注射部位からの放出を遅らせ、腎クリアランスを低下させる。
【0049】
方法と用途
ヒトのベータディフェンシン2及びHD5を、重度の腸炎症及び腸内菌共生バランス失調(デキストラン硫酸ナトリウム、トリニトロベンゼンスルホン酸及びCD4+CD25+T細胞移植)の予防の動物モデルと治療の動物モデルの両方で試験した。α-ディフェンシン及びβ-ディフェンシンは経口投与又は皮下投与にかかわらず、腸の健康を改善することにより、これらの化学物質によって引き起こされる下痢及び体重減少を軽減する。重要なことに、ディフェンシンは、全てGVHDの治療に日常的に使用されている、プレドニゾロン/デキサメタゾン及びシクロスポリンなどの強力で標準的なGVHD免疫抑制剤並びに抗TNF-αと同等に疾患活動指数と炎症マーカーとしてのミエロペルオキシダーゼ活性を減少させる。そのため、ディフェンシンは、同種造血幹細胞移植を受けたか、若しくは受けようとしている患者の予防的及び/又は治療的処置として強力な活性を示す。
【0050】
β-ディフェンシンは、IFN-γ、TNF-α、IL-4、IL-5、IL-6、IL-9、IL-10及びIL-13の組織濃度の正常化により免疫系のバランスを再調整でき、ひいては急性GVHDをもたらすサイトカインストームを防止又は治療し、したがって同種造血幹細胞移植を受けたか若しくは受けようとしている患者の予防的及び/又は治療的処置として強力な活性を示すことが実証されている。
【0051】
α-ディフェンシンとβ-ディフェンシンの両方は、微生物叢の構成に強い影響を与え微生物の種類を増やす、すなわち、微生物叢を維持/正常化/再設置し及び重要な共生細菌の豊富さを促進することが、予防用と治療用の両方の高脂肪食マウスモデルにおいて実証されており、そのため、急性GVHDの一般的な特徴である腸内菌共生バランス失調を治療する方法を提示する。β-ディフェンシンは、ミエロペルオキシダーゼ活性の減少を通じて腸の健康、炎症及び機能を正常化できることが実証されており、そのため、同種造血幹細胞移植を受けた患者の腸の健康を改善する方法を提示する。
【0052】
ヒトβ-ディフェンシン2(hBD2)の投薬が経口投与又は鼻腔内投与にかかわらず、喘息の発症を予防できることが、急性アレルギー性喘息のマウスモデルにおいてさらに実証されており、そのため、急性及び慢性GVHDに関連する場合が多い肺の合併症並びに肺容量の減少を予防する方法を提示する。
【0053】
ヒトβ-ディフェンシン2(hBD2)の投薬が経口投与又は鼻腔内投与にかかわらず、喘息を治療できることも、急性アレルギー性喘息のマウスモデルにおいてさらに実証されており、そのため、急性及び慢性GVHDに関連する場合が多い肺の合併症並びに肺容量の低下を治療する方法を提示する。
【0054】
したがって、一態様では、重度の腸炎症及びサイトカインストームの治療方法であって、1以上の哺乳類ディフェンシンの経口投与又は皮下投与を含み対象が同種造血幹細胞移植で治療されたか若しくは治療されようとしている、方法が提供される。
【0055】
したがって一態様では、重要な共生細菌、例えばビフィズス菌科の存在及び存在量の増加を包含する腸内細菌叢の維持/正常化/再設置の方法であって、1以上の哺乳類ディフェンシンの経口投与を含み対象が同種造血幹細胞移植で治療されたか若しくは治療されようとしている、方法が提供される。
【0056】
他の態様では、閉塞性細気管支炎及び強皮症を予防する肺と腸の炎症及び線維症の治療並びに/又は予防の方法であって、少なくとも1種のディフェンシンの経口投与、皮下投与、肺内投与、皮膚投与又は経皮投与を含み、対象が同種造血幹細胞移植で治療されたか若しくは治療されようとしている、方法が提供される。
【0057】
さらに、同種造血幹細胞移植で治療されたか又は治療されようとしている対象での肺組織における組織学的肺炎症、血管周囲及び気管支血管の炎症、BALF炎症細胞数、並びに/又はIFN-γ、TNF-α、IL-4、IL-5、IL-6、IL-9、IL-10及びIL-13の炎症性サイトカイン生成を低下させる方法であって、上記対象への少なくとも1種のディフェンシンの投与を含む、方法が提供される。
【0058】
他の態様では、本開示は、本明細書に記載の方法のいずれかによる治療方法で使用するためのディフェンシン、及び同種造血幹細胞移植で治療されたか又は治療されようとしている対象の障害を治療するための医薬品を調製するためのディフェンシンの使用に関する。
【0059】
提供される方法は、同種造血幹細胞移植で治療されたか若しくは治療されようとしている対象において、転写レベルでの変化を介して細菌の表現型を変化させること並びに肺及び/若しくは腸及び/若しくは肝臓の微生物叢の構造及び構成又は肺及び/若しくは腸のメタボロームを変化させることにより、肺及び/若しくは腸の炎症並びに/又は肝臓の炎症を治療又は予防できる。
【0060】
理論に縛られることなく、経口投与を用いて観察される効果は、いわゆる腸-肺軸を介して肺に影響を与える可能性のある腸内細菌叢及び腸メタボロームの変化に起因する可能性がある。喘息、COPD及び慢性GVHDなどの慢性肺障害は全て、腸疾患の症状の一部を呈し、人体のこれら2つの粘膜部位間に必須のクロストークがあり、かつ様々な呼吸器疾患が、気道微生物叢だけでなく腸内微生物叢の腸内菌共生バランス失調に関連付けられていることを示す。
【0061】
共生微生物は、主に宿主と微生物の相互作用を媒介する小分子を生成することにより、自然免疫及び適応免疫応答を調整し、かつ病原性刺激の活性化しきい値に影響を与える(Donia及びFishback、2015)。上皮バリアは微生物の大部分が腸に閉じ込められることを保証するが、微生物代謝産物は上皮バリアに浸透でき、それらが宿主の循環系に侵入して蓄積するのを可能にし、それらはそこで免疫細胞によって感知される(Dorrestein、2014)。Trompette、2013は、食事中の発酵性繊維が腸微生物叢の構成だけでなく、肺微生物叢の構成、特にファーミキューテスとバクテロイデスの比率を変更したことをマウスで実証し、後者は、短鎖脂肪酸の局所レベル及び全身レベルの増加をもたらし、それが次に、樹状細胞の造血及び機能に影響を与え、それにより肺の免疫学的環境を形成し、アレルギー性炎症の重症度に影響を与えた。Schirmerら(2016)はさらに、サイトカイン応答の個体間変動が特定の微生物や微生物の機能に関係していることを、ヒト機能的ゲノミクスプロジェクト(Human Functional Genomics Project)で実証した。検出された関連の大部分はサイトカインと刺激の両方に特異的であり、免疫系が、高い特異性で微生物及び生成物を認識しかつそれらと相互作用すること、及びこれらの微生物因子が特定の免疫学的表現型に関連付けられることを示唆する。TNF-α及びIFN-γの生成能力は、マイクロバイオームの影響をより強く受けるようであるが、IL-1β、IL-6及びTh17由来のIL-17及びIL-22などの他のサイトカインは、より少ないが、より特異的な腸微生物叢との関連を示した。
【0062】
本明細書に記載の治療の方法は、プレバイオティクス、プロバイオティクス、トリプトファン、グルココルチコイド、シクロスポリン、抗TNF-α、インテグリン、抗生物質、免疫抑制剤、糞便移植又はこれらの組み合わせのいずれかと組み合わせた少なくとも1種の哺乳類α-ディフェンシン及び/又はβ-ディフェンシンを含む組成物の投与によって行うことができる。ディフェンシンは、個別に、又はこれらの治療法の1以上と共に投与できる。ディフェンシンはまた、同種造血幹細胞移植を受けたか、又は受けようとしている患者の治療に使用できる他の薬剤と共に投与できる。
【0063】
重要なことに、開示される方法は、抗生物質治療、微生物除染又は免疫抑制療法、あるいは肺又は腸の微生物叢に悪影響を与える別の治療を行ったことがある、及び/若しくは行っている対象の腸及び/又は肺における腸内菌共生バランス失調の微生物叢/メタボロームの治療、再設置又は正常化に使用できる。
【0064】
腸及び/又は肺の微生物叢の正常化は、酪酸又はトリプトファンを比較的多く、かつ酢酸を比較的少なく生産するものにメタボロームを変更することを伴ってもよい。
【0065】
インビトロ合成
哺乳類アルファディフェンシン及び哺乳類ベータディフェンシンを含む哺乳類抗菌ペプチドは、当技術分野で知られている従来の方法を使用して、インビトロ合成によって調製されてよい。様々な市販の合成装置、例えば、Applied Biosystems社、Beckmanなどの自動合成装置が利用可能である。合成装置を使用することにより、天然アミノ酸を非天然アミノ酸、特にD異性体(又はD型)、例えば、D-アラニン及びD-イソロイシン、ジアステレオ異性体、及び異なる長さ又は機能性を有する側鎖などで置換してよい。特定の順序及び調製の方法は、利便性、経済性、及び必要な純度などによって決定される。化学的結合は、アミド又は置換アミン形成のためのアミノ基、例えば還元的アミノ化、チオエーテル又はジスルフィド形成のためのチオール基、及びアミド形成のためのカルボキシル基などの、結合に便利な機能を含む様々なペプチド又はタンパク質に提供されてよい。必要に応じて、様々な基を、合成中又は発現中にペプチドに導入してよく、それは他の分子又は表面への結合を可能にする。そのため、システインはチオエーテルを作製するために使用でき、ヒスチジンは金属イオン錯体に結合するため、カルボキシル基はアミド又はエステルを形成するため、及びアミノ基はアミドを形成するために使用できる、などである。
【0066】
哺乳類アルファディフェンシン、哺乳類ベータディフェンシン又はそれらの機能的同等物を含む哺乳類抗菌ペプチドはまた、組換え合成の従来の方法に従って単離及び精製されてよい。組換え合成は、適切な発現ベクター及び真核生物又は原核生物の発現系を使用して行われてよい。溶液が、発現宿主及び培地から調製され、存在するディフェンシンが、HPLC、排除クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、アフィニティークロマトグラフィー、又は他の精製技術を使用して精製されてよい。大腸菌におけるヒトβディフェンシン-2の組換え発現の方法は、WO 2010/007166(NoVozymes)に開示されている。
【0067】
哺乳類アルファディフェンシン及びベータディフェンシンはまた、対応するmRNAの投与によって誘導されてもよい。
【0068】
投薬量
ヒトのアルファディフェンシン又はヒトのベータディフェンシンなどの哺乳類アルファディフェンシン又は哺乳類ベータディフェンシンは、好ましくは患者に対して許容可能な毒性を伴い同種造血幹細胞移植を受けた患者の移植片対宿主病を予防又は治療するのに有効な量にて医薬組成物中で好ましく使用される。ヒトアルファディフェンシン及びヒトベータディフェンシンなどの哺乳類アルファディフェンシン及び哺乳類ベータディフェンシンはまた、好ましくは治療を必要とする患者に対して許容できる毒性を伴い、肺及び/若しくは腸で正常な微生物叢構成を維持するか、又は肺及び/若しくは腸での腸内菌共生バランス失調の微生物叢を治療又は正常化するのに有効な量にて医薬組成物中で好ましくは使用される。
【0069】
そのような治療では、もちろん、適切な投薬量は、例えば、使用される化合物の化学的性質及び薬物動態データ、個々の宿主、投与様式並びに治療される病態の性質及び重症度に応じて変化する。
【0070】
しかしながら、一般に、哺乳類、例えばヒトにおける満足のいく結果のために、ヒトアルファディフェンシンの示される日用量は、例えば、1日あたり最大で1回、2回又は3回の分割用量で投与される、好ましくは約0.1mgのHD5/体重kg~約10mgのHD5/体重kg、より好ましくは約0.5mgのHD5/体重kg~約10mgのHD5/体重kg;例えば、1mgのHD5/体重kg~10mgのHD5/体重kg、より好ましくは約1.2mgのHD5/体重kg~約10mgのHD5/体重kg、好ましくは約1.2mgのHD5/体重kg~約5mgのHD5/体重kg、さらにより好ましくは、1.2mgのHD5/体重kgである。
【0071】
一実施形態では、ヒトベータディフェンシンの示される日用量は、例えば、1日あたり最大で1回、2回又は3回の分割用量で投与される、好ましくは約0.1mgのhBD2/体重kg~約10mgのhBD2/体重kg、より好ましくは約0.5mgのhBD2/体重kg~約10mgのhBD2/体重kg;例えば、1mgのhBD2/体重kg~10mgのhBD2/体重kg、より好ましくは約1.2mgのhBD2/体重kg~約10mgのhBD2/体重kg、好ましくは約1.2mgのhBD2/体重kg~約5mgのhBD2/体重kg、さらにより好ましくは1.2mgのhBD2/体重kgである。
【0072】
2種の異なるディフェンシンが1回の投薬量で投与される場合、投薬量は、重量ベース又はモルベースで決定される2種のディフェンシンの等しい又はほぼ等しい量を含んでよい。比率はまた、アルファディフェンシン対ベータディフェンシンの比率が重量ベース又はモルベースで決定される10:1~1:10、例えば、5:1~1:5、例えば、2:1~1:2に変化するように異なる場合もある。
【0073】
好ましい実施形態の化合物は、従来使用されているものと同様の投薬量にて同様の投与様式により、哺乳類、例えばヒトに投与できる。
【0074】
一実施形態では、日用量が1日あたり0.1~10mgのディフェンシン/kg、例えば、0.5~5mgのディフェンシン/kg、例えば、1~2mgのディフェンシン/kg、例えば、1.2mgのディフェンシン/kgである、本明細書に記載の方法が提供される。
【0075】
特定の実施形態では、好ましい実施形態の医薬組成物は、ヒトアルファディフェンシン及び/又はヒトベータディフェンシンなどの哺乳類アルファディフェンシン及び/又は哺乳類ベータディフェンシンを、単位剤形当たり約0.1mg以下~約1500mg以上、好ましくは約0.1、0.2、0.3、0.4、又は0.5mg~約150、200、250、300、350、400、450、500、600、700、800、900、又は1000mg、より好ましくは約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、又は25mg~約30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、又は100mgの量で含んでよい。しかしながら、特定の実施形態では、上記のものよりも低い又は高い投薬量が好ましい場合がある。適切な濃度及び投薬量は、当業者が容易に決定できる。特定の実施形態では、好ましい実施形態の医薬組成物は、ヒトアルファディフェンシンなどの哺乳類アルファディフェンシンを含む。他の実施形態では、好ましい実施形態の医薬組成物は、ヒトベータディフェンシンなどの哺乳類ベータディフェンシンを含む。さらなる実施形態では、好ましい実施形態の医薬組成物は、ヒトアルファディフェンシン及びヒトベータディフェンシンなどの哺乳類アルファディフェンシン及び哺乳類ベータディフェンシンを含み、アルファディフェンシン及びベータディフェンシンがモルベース又はmg/mLベースの等しい量で存在する。
【0076】
一実施形態では、哺乳類アルファディフェンシン及び/又は哺乳類ベータディフェンシンは、少なくとも1日1回、例えば、少なくとも1日2回、例えば、少なくとも1日3回又は連続的に投与される。
【0077】
投与
一実施形態では、哺乳類ディフェンシンは、患者が同種造血幹細胞移植を受ける前のある期間、患者に投与される。この場合、ディフェンシンの投与は、移植の間継続されてよく、移植が完了した後にさらに投与されてよい。一実施形態では、本開示による哺乳類ディフェンシンは、同種造血幹細胞移植を受けるときに患者に投与される。例えば、ディフェンシンは移植と同じ日に投与されてよい。ディフェンシン投与を移植後に継続してよい。
【0078】
一実施形態では、哺乳類ディフェンシンは、同種造血幹細胞移植後に投与される。この実施形態では、同種造血幹細胞移植が完了したら、ディフェンシンの投与を継続してよい。例えば、ディフェンシンは、移植と同じ日に投与され、移植に続く以降の各日に1回以上投与されてよい。一実施形態では、移植後、治療は毎日、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごと、6日ごと又は7日ごとなどの間隔での投与により続く。実施例13に例示されるように、治療は、移植の日に開始して、移植後何日間か、例えば、移植後1日以上、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20日間継続されてよい。治療はまた、移植前に開始され、移植後何日間か、例えば、移植後1日以上、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20日間継続されてよい。
【0079】
経口又は非経口投与のための製剤
哺乳類アルファディフェンシン及びベータディフェンシンは、任意の従来の経路による投与のために製剤化された組成物中で治療的に使用できる。
【0080】
一実施形態では、投与は、経口、口腔内、舌下、経腸、経膣、気管内、肺内、鼻腔内、頭蓋内、皮下、静脈内、皮膚又は経皮投与である。好ましくは、投与は経口投与である。
【0081】
一実施形態では、開示される方法による少なくとも1種の哺乳類α-ディフェンシン及び/又は少なくとも1種の哺乳類β-ディフェンシンの投与は、経口投与である。
【0082】
一実施形態では、開示される方法による少なくとも1種の哺乳類β-ディフェンシンの投与は一般に、鼻腔内又は肺内投与である。鼻腔内及び肺内投与は、肺への薬物送達にとって標準である。
【0083】
一実施形態では、開示される方法による少なくとも1種の哺乳類α-ディフェンシン及び/又は少なくとも1種の哺乳類β-ディフェンシンの投与は、皮下又は静脈内投与である。
【0084】
いくつかの実施形態では、好ましい実施形態の組成物は、凍結乾燥物としての安定性を提供する適切な賦形剤を利用して、凍結乾燥物として製剤化され、その後再水和されてよい。ヒトアルファディフェンシン及び/又はヒトベータディフェンシンなどの哺乳類アルファディフェンシン及び/又は哺乳類ベータディフェンシンを含有する医薬組成物は、従来の方法に従って、例えば、混合、造粒、コーティング、溶解又は凍結乾燥プロセスによって製造できる。好ましい実施形態では、哺乳類アルファディフェンシン及び/又は哺乳類ベータディフェンシンを含有する医薬組成物は、無菌の等張溶液として製剤化される。
【0085】
医薬として許容される担体及び/又は希釈剤は、当業者によく知られている。溶液として製剤化される組成物の場合、許容される担体及び/又は希釈剤は生理食塩水を含み、滅菌水が含まれるべきであり、組成物は、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤、及び他の一般的な添加剤を含んでよい。
【0086】
開示される化合物は、経口投与のための多種多様な製剤で製剤化されてよい。固形調製物は、粉末、錠剤、ドロップ、カプセル、カシェ剤、ロゼンジ、及び分散性顆粒を含んでよい。経口投与に適する他の形態は、エマルジョン、シロップ、エリキシル、水溶液、水性懸濁液を含む液体形態の調製物、練り歯磨き、ゲル歯磨剤、チューインガム、又は使用直前に溶液、懸濁液、及びエマルジョンなどの液体形態の調製物に変換されることが意図される固形調製物を含んでよい。
【0087】
開示される組成物は、口腔、舌下、経口、直腸、膣、皮膚、経皮、頭蓋内、皮下又は静脈内投与のための多種多様な製剤で製剤化されてよい。製剤は、(哺乳類アルファディフェンシン及び/又は哺乳類ベータディフェンシン及び他の任意の活性成分に加えて)担体、充填剤、崩壊剤、流動調整剤、砂糖及び甘味料、香料、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、可溶化剤、浸透圧を調節するための塩、緩衝液、希釈剤、分散剤及び界面活性剤、結合剤、潤滑剤、及び/又は当技術分野で知られている他の医薬賦形剤を含有できる。当業者はさらに、適切な方法で、かつレミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences,Gennaro(1990))に記載のものなどの容認された慣行に従って、哺乳類アルファディフェンシン、哺乳類ベータディフェンシンを製剤化してよい。
【0088】
ヒトアルファディフェンシン又はヒトベータディフェンシンなどの哺乳類アルファディフェンシン又は哺乳類ベータディフェンシンは、単独で、又は1つ、2つ、又はそれ以上の他の医薬化合物又は薬物、例えば、プレバイオティクス、プロバイオティクス、グルココルチコイド、シクロスポリン、抗TNF-α、インテグリン、抗生物質、免疫抑制剤又はこれらの組み合わせ及び/又は1以上の医薬として許容される賦形剤(複数可)との併用療法で使用できる。
【0089】
気道投与
本発明の組成物を投与するために気道投与を使用してもよい。肺内投与とは、肺への局所投与を意味する。本明細書で使用される場合、「気管内、気管支内又は肺胞内投与」という用語は、安定剤又は他の賦形剤の添加の有無にかかわらず、ディフェンシンの溶液の点滴による、粉末形態でディフェンシンを適用することによる、又はエアロゾル化若しくは噴霧化された溶液若しくは懸濁液又は吸入される粉末若しくはゲルとしてのディフェンシンの吸入による気道の関連部分にディフェンシンを到達させることによるかにかかわらず、ディフェンシンが気管、気管支又は肺胞にそれぞれ適用されるような投与の全ての形態を含む。
【0090】
気管支内/肺胞投与の方法は、洗浄液として、ディフェンシンが溶解している生理学的に許容される組成物を用いるか、又は実際に、賦形剤の有無にかかわらず、乾燥形態のディフェンシンを含有する吸入粉末の使用、又は気管支鏡検査中の溶液又は懸濁液又は粉末形態でのディフェンシンの直接適用を含む気管支内投与の任意の他の有効な形態による、当業者に周知の方法に従う気管支肺胞洗浄(BAL)を含むが、これに限定されない。気管内投与の方法は、溶解したディフェンシンの同様の溶液又はディフェンシン懸濁液、又は溶解したディフェンシンを含有する噴霧液滴の吸入又はこの目的に適する任意の噴霧装置の使用によって得られるディフェンシン懸濁液によるブラインド気管洗浄(blind tracheal washing)を含むが、これらに限定されない。
【0091】
別の実施形態では、気管内、気管支内又は肺胞内投与は、生成物の吸入を含まないが、ディフェンシンの溶液又はディフェンシンを含有する粉末若しくはゲルを気管や下気道へ点滴又は適用することを含む。
【0092】
他の好ましい投与方法は、以下のデバイスの使用を含んでよい:
1.圧縮空気/酸素混合物を使用する加圧ネブライザー
2.超音波ネブライザー
3.電子マイクロポンプネブライザー
4.定量吸入器(MDI)
5.乾燥粉末吸入器システム(DPI)。
【0093】
エアロゾルは、a)フェイスマスクを介して、又はb)機械的換気中に挿管された患者の気管内チューブを介して送達されてよい(装置1、2及び3)。装置4及び5もまた、患者がエアロゾル装置を自己活性化できるという条件で、援助なしで患者が使用できる。
【0094】
ディフェンシン及び/又はディフェンシンの機能的ホモログ若しくは変異体を含む溶液の好ましい濃度は、約0.1μg~1000μg/溶液mLの範囲、例えば、約0.1μg~250μg/溶液mLの範囲である。
【0095】
肺内投与用の医薬組成物
本開示で使用するための医薬組成物又は製剤は、医薬として許容される担体、好ましくは水性担体若しくは希釈剤と組み合わされた、好ましくはそれらに溶解されたディフェンシン、又はペグ化調製物として、又は吸入によるエアロゾルとして投与されるリポソーム若しくはナノ粒子調製物として、又は気管支肺胞洗浄液として若しくはブラインド気管内洗液又は洗浄液として気管支鏡を介して投与される洗浄液体として下気道に運ばれるディフェンシンを含む。0.9%生理食塩水、緩衝生理食塩水、及び生理学的に適合性のある緩衝液などを含むがこれらに限定されない様々な水性担体を使用してよい。組成物は、当業者によく知られている従来の技術によって滅菌されてよい。得られた水溶液は、使用のために包装されるか、又は無菌条件下で濾過され凍結乾燥されてよく、この凍結乾燥調製物は、投与前に滅菌水溶液に溶解される。
【0096】
一実施形態では、凍結乾燥ディフェンシン調製物は、例えば、単回用量単位で事前包装されてよい。さらにより好ましい実施形態では、単回用量単位は患者に合わせて調整される。
【0097】
組成物は、限定されないが、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなどのpH調整剤及び緩衝剤及び/又は張度調整剤を含む、医薬として許容される補助物質又はアジュバントを含んでよい。
【0098】
製剤は、ミクロスフェア、リポソーム、マイクロカプセル、又はナノ粒子などを含む、医薬として許容される担体及び賦形剤を含んでよい。従来のリポソームは典型的には、リン脂質(中性又は負に帯電)及び/又はコレステロールで構成される。リポソームは、水性コンパートメントを取り囲む脂質2重層に基づく小胞構造である。それらは、サイズ、脂質組成、表面電荷並びにリン脂質2重層の数及び流動性などの生理化学的特性が異なり得る。リポソーム形成に最も頻繁に使用される脂質は、1,2-ジラウロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DLPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DMPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DMPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-リン酸(モノナトリウム塩)(DMPA)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-リン酸(モノナトリウム塩)(DPPA)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-リン酸(モノナトリウム塩)(DOPA)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](ナトリウム塩)(DMPG)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](ナトリウム塩)(DPPG)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-rac-(1-グリセロール)](ナトリウム塩)(DOPG)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-L-セリン](ナトリウム塩)(DMPS)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-L-セリン)(ナトリウム塩)(DPPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-[ホスホ-L-セリン](ナトリウム塩)(DOPS)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-(グルタリル)(ナトリウム塩)及び1,1’,2,2’-テトラミリストイルカルジオリピン(アンモニウム塩)である。他の脂質又はリポソームの改変因子と組み合わせたDPPCで構成される製剤は、例えば、コレステロール及び/又はホスファチジルコリンと組み合わせることが好ましい。
【0099】
長期循環リポソームは、血管壁の透過性が増加する身体部位で血管外漏出する能力によって特徴付けられる。長期循環リポソームを生成する最も一般的な方法は、親水性ポリマーポリエチレングリコール(PEG)をリポソームの外表面に共有結合させることである。好ましい脂質のいくつかは、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](アンモニウム塩)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000](アンモニウム塩)、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウム-プロパン(塩化物塩)(DOTAP)である。
【0100】
リポソームに適用できる脂質は、AVanti,Polar Lipids社,Alabaster,ALによって供給され、リポソーム懸濁液は、貯蔵時のフリーラジカル及び脂質過酸化損傷から脂質を保護する脂質保護剤を含んでよい。α-トコフェロールなどの親油性フリーラジカルクエンチャー及びフェリオキシアニンなどの水溶性鉄特異的キレート剤が好ましい。
【0101】
例えば、全てが参照により本明細書に組み込まれるSzokaら,Ann.ReV.Biophys.Bioeng.9:467(1980)、米国特許第4,235,871号、同第4,501,728号及び同第4,837,028号に記載されるような、リポソームを調製するための様々な方法が利用可能である。別の方法は、サイズが不均一な多層小胞を生成する。この方法では、小胞形成脂質を適切な有機溶媒又は溶媒系に溶解し、真空又は不活性ガス下で乾燥させて、薄い脂質膜を形成する。必要に応じて、フィルムを第3級ブタノールなどの適切な溶媒に再溶解し、次に凍結乾燥して、より容易に水和する粉末状の形態であるより均質な脂質混合物を形成させてもよい。このフィルムは、標的とされる薬物及び標的化成分の水溶液で覆われ、典型的には撹拌しながら15~60分かけて水和される。得られる多層小胞のサイズ分布は、より激しい撹拌条件下で液体を水和させることにより、又はデオキシコール酸などの可溶化界面活性剤を添加することによってより小さいサイズにシフトさせることができる。
【0102】
ミセルは、水溶液中の界面活性剤(疎水性部分と1以上のイオン性基又はその他の強い親水性基を含有する分子)によって形成される。
【0103】
当業者に周知の一般的な界面活性剤を、本発明のミセルで使用できる。適切な界面活性剤は、ラウリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、オクタオキシエチレングリコールモノドデシルエーテル、オクトキシノール9及びPLURONIC F-127(Wyandotte Chemical社)を含む。好ましい界面活性剤は、TWEEN-80、PLURONIC F-68、及びn-オクチル-ベータ-D-グルコピラノシドなどのIV注射に適合する非イオン性ポリオキシエチレン及びポリオキシプロピレン洗剤である。加えて、リポソームの生成での使用について記載されているものなどのリン脂質も、ミセル形成に使用されてよい。
【0104】
実施例
実施例1
10日間の経口デキストラン硫酸ナトリウム誘発性大腸炎マウスの予防モデルにおける腹腔内マウス抗TNF-αに対するhBD2の皮下投与と静脈内投与の抗炎症効果
治療の投薬計画:
図1は、研究計画を示す。
1ケージあたり5匹のグループで飼育された70匹の雄のC57BL/6マウスを、7つの異なる治療グループに割り当てた。全ての動物にDSS 2%を補充した飲料水を7日間与えて大腸炎を誘発し結腸組織に顕著な炎症と損傷をもたらした。これらの動物にhBD2を尾静脈に静脈内投与するか又は背側皮膚に皮下投与し、マウス抗TNF-α又はビヒクルとしてPBSを10日間腹腔内投与した。
【0105】
試験:
疾患活動指数(DAI)スコアリングシステムを臨床評価に適用した(
図7)。10日目に動物を屠殺し、結腸を、組織学的スコアリングシステムを使用する組織学的評価のために摘出した(
図8)。
【0106】
結果:
最も重要な効果は、hBD2が1日1回又は2回のいずれかで皮下経路により投与されたときに得られたが、hBD2の静脈内投与もDAIの大幅な減少をもたらした。抗TNFαとhBD2の両方が、DAIに対して同様の統計的に有意な効果を示した。hBD2は、特に1日2回皮下投与した場合、組織学的スコアに対し非常に統計的に有意な効果を与えたが、抗TNF-αはこのスコアに対し有意な影響を示さなかった(
図9)。
【0107】
急性GVHDは、陰窩細胞壊死によって特徴付けられ、重症例では腸全体の上皮の完全な喪失によって特徴付けられる。上皮の喪失を引き起こす、化学的に誘発されたマウスDSSモデルは従って、GVHDにおける化合物の予防効果を試験するのに適切であると思われる。実施例1の結果は、特にhBD2の皮下投与が抗TNF-α治療と同じくらい効果的であることを実証している。いくつかの出版物は、GVHDにおける抗TNF-αの正の効果を報告している。
【0108】
実施例2
10日間の経口デキストラン硫酸ナトリウム誘発性大腸炎マウスの予防モデルにおける経口プレドニゾロンに対するhBD2の経口投与の抗炎症効果
治療の投与計画:
ケージあたり5匹のグループで飼育された50匹の雄のC57BL/6マウスを、5つの異なる治療グループに割り当てた。全ての動物にDSS 2%を補充した飲料水を7日間与えて大腸炎を誘発し結腸組織に顕著な炎症と損傷をもたらした。これらの動物に、3つの異なる用量レベルでhBD2を1日2回経口投与するか、又はプレドニゾロンを1mg/kgで1日2回投与するか、又はビヒクルとしてPBSを10日間投与した。
【0109】
試験:
疾患活動指数(DAI)スコアリングシステムを臨床評価に適用した(
図7)。10日目に動物を屠殺し、結腸を、組織学的スコアリングシステムを使用する組織学的評価のために摘出した(
図8)。
【0110】
結果:
これらの動物がより多く摂食し、より良い健康状態を経験したことを示す体重減少の大幅な低下が、3つのhBD2用量レベル全てで見られたが、5mg/kgで1日2回投与した高用量グループで最も顕著であった(
図10)。hBD2の2つの低用量レベルは、プレドニゾロンと同等にDAIに対し統計的に有意な影響を及ぼしたが、高用量hBD2(5mg/kgの1日2回)は、これらよりもDAIに対し有意に優れた影響を及ぼした(
図11)。プレドニゾロンとhBD2の両方が組織学的スコアに対し統計的に有意な効果を示したが、全3つのhBD2用量グループの効果はプレドニゾロンよりも有意に優れていた(
図12)。
【0111】
急性GVHDは陰窩細胞壊死によって特徴付けられ、重症例では腸全体の上皮の完全な喪失によって特徴付けられる。上皮の喪失を引き起こす、化学的に誘発されたマウスDSSモデルは従って、GVHDにおける化合物の予防効果を試験するのに適切であると思われる。実施例2の結果は、経口hBD2投与が経口プレドニゾロンによる標準的なGVHD予防的処置と同じくらい効果的であることを実証する。
【0112】
実施例3
8日間のトリニトロベンゼンスルホン酸誘発性大腸炎マウスの予防モデルにおけるプレドニゾロンの皮下投与に対するhBD2の皮下投与の抗炎症効果
治療の投与計画:
ケージあたり5匹のグループで飼育された105匹の雄のBALB/cByJマウスを、7つの異なる治療グループに割り当てた。軽い麻酔下で0日目にトリニトロベンゼンスルホン酸の結腸内投与によって大腸炎を誘発し、結腸組織の顕著な炎症と損傷をもたらした。これらの動物に、1日1回の4つの異なる投与レベル(1mg/kg、0.3mg/kg、0.1mg/kg、及び0.03mg/kg)のhBD2又は1日1回のプレドニゾロン10mg/kg又はビヒクルとしてのPBSを背側皮膚下に7日間皮下投与した。
【0113】
試験:
疾患活動指数(DAI)スコアリングシステムを臨床評価に適用した(
図7)。10日目に動物を屠殺し、結腸を、組織学的スコアリングシステムを使用する組織学的評価のために摘出した(
図8)。
【0114】
結果:
これらの動物がより多く摂食し、より良好な健康状態を経験したことを示す、非常に統計的に有意な体重の増加が、2つの最低(0.03及び0.1mg/kg 1日1回)hBD2用量レベルについて観察された。プレドニゾロンとhBD2(0.1、0.3及び1mg/kg)の両方が、組織学的スコアに対し非常に統計的に有意な臨床効果を示した(
図13)。
【0115】
急性GVHDは、陰窩細胞壊死によって特徴付けられ、重症例では腸全体の上皮の完全な喪失によって特徴付けられる。上皮の深刻な喪失を引き起こす、化学的に誘発されたマウスTNBSモデルは従って、GVHDにおける化合物の予防効果を試験するのに適切であると思われる。実施例3からの結果は、hBD2の皮下投与がプレドニゾロンによる標準的な予防的処置と同じくらい効果的であることを実証する。
【0116】
実施例4
7日間のデキストラン硫酸ナトリウム誘発性大腸炎マウスの予防モデルにおける経口シクロスポリンに対するhBD2の経口投与と皮下投与の抗炎症効果
治療の投与計画:
ケージあたり5匹のグループで飼育された80匹の雄のC57BL/6マウスを、7つの異なる治療グループに割り当てた。全ての動物に、DSS 3%を補充した飲料水を7日間与えて、上皮の損傷、陰窩構造の破壊によって特徴付けられる大腸炎、並びに粘膜と粘膜下組織における単核及び好中球の蓄積によって特徴付けられる中程度の炎症を誘発した。これらの動物に、0.6mg/kgで1日2回又は0.4mg/kgで1日3回の用量でhBD2を経口投与し;0.15mg/kgで1日2回又は0.1mg/kgで1日3回の用量でhBD2を皮下投与するか、又は50mg/kgで1日1回のシクロスポリン又は水を7日間与えた。
【0117】
試験:
スコアリングシステム(0=便に血液がない、1=便に血液が存在する証拠及び2=重度の出血)に従って臨床評価を実施した。7日目に動物を屠殺し、結腸を組織学的評価のために摘出した。
【0118】
結果:
結腸の長さの維持(
図14)と臨床スコア(
図15)における非常に統計的に有意な改善が、4つのhBD2投与グループ全てとシクロスポリンについて観察された。hBD2の1日3回投与は、両方の投与経路での1日2回投与よりも効果的であり、皮下投与は経口投与よりも効果的であるように思われた(
図15)。
【0119】
急性GVHDは、陰窩細胞壊死によって特徴付けられ、重症例では腸全体の上皮の完全な喪失によって特徴付けられる。上皮の深刻な喪失を引き起こす、化学的に誘発されたマウスDSSモデルは従って、GVHDにおける化合物の予防効果を試験するのに適切であると思われる。実施例4からの結果は、hBD2の皮下投与と経口投与の両方が、特に臨床評価においてシクロスポリンを用いた標準的なGVDHの予防的処置と同じくらい有効であることを実証する。
【0120】
実施例5
14日間のデキストラン硫酸ナトリウム誘発性大腸炎マウスの治療モデルにおける腹腔内投与の抗TNF-αと腹腔内投与のデキサメタゾンに対するhBD2の皮下投与の抗炎症効果
治療の投与計画:
1ケージあたり5匹のグループで飼育された70匹の雄のC57BL/6マウスを、7つの異なる治療グループに割り当てた。全ての動物に、DSS 2%を補充した飲料水を14日間与えて、大腸炎を誘発し、結腸組織の顕著な炎症と損傷をもたらした。これらの動物に、hBD2を0.1mg/kgで1日2回皮下投与し;8日目~14日目まで0.1mg/kgで1日1回皮下投与するか、又は1.2mg/kgで1日1回静脈内投与するか、又は8、10及び13日目にマウス抗TNFαを250μg/マウスで腹腔内投与するか、又はデキサメタゾン1mg/kgで1日1回腹腔内投与するか、又はビヒクルとしてPBSを皮下投与した。
【0121】
試験:
疾患活動指数(DAI)スコアリングシステムを臨床評価に適用した(
図7)。14日目に動物を屠殺し、結腸を、組織学的スコアリングシステムを使用する組織学的評価のために摘出した(
図8)。
【0122】
結果:
DAIに対する統計的に有意な効果が、hBD2の0.1mgで1日1回皮下投与及びデキサメタゾンの1mg/kgで1日1回腹腔内投与について観察された。同様に、組織学的スコアに対する統計的に有意な効果(
図16)が、hBD2の0.1mg/kgで1日1回皮下投与とデキサメタゾンの両方で観察された。
【0123】
急性GVHDは、陰窩細胞壊死によって特徴付けられ、重症例では腸全体の上皮の完全な喪失によって特徴付けられる。上皮の深刻な喪失を引き起こす、化学的に誘発されたマウスDSSモデルは従って、GVHDにおける化合物の治療効果を試験するのに適切であると思われる。実施例5からの結果は、hBD2の皮下投与がデキサメタゾンによるGVHDの標準治療と同じくらい効果的であることを実証する。
【0124】
実施例6
CD4+CD25+T細胞移植誘発性大腸炎マウスモデルの14週間の治療での抗TNF-α(エンブレル)の皮下投与及びデキサメタゾンの腹腔内投与に対するhBD2の皮下投与の有効性
治療の投与計画:
1ケージあたり5匹のグループで飼育された70匹の雌のBALB/cマウスを、7つの異なる治療グループに割り当てた。BALB/cマウスからのCD4+CD25+T細胞の移植によってSCIDマウスで大腸炎を誘発した。脾臓から単離したリンパ球及びBALB/cマウスからのリンパ節を、CD4+T細胞のネガティブ選択に供した。その後、CD4+CD25+細胞をCD4+T細胞懸濁液からビーズへの結合によりポジティブに単離し、CD4+CD25-を上清から収集した。動物に、7日目から86日連続でhBD2を0.1mg/kgで1日1回皮下投与するか、1mg/kgで1日1回皮下投与するか、又は3mg/kgで1日1回皮下投与するか、又はマウス抗TNFαを100μg/マウスで週2回皮下投与するか、又はデキサメタゾンを0.3mg/kgで1日1回腹腔内投与するか、又はビヒクルとしてPBSを皮下投与した。
【0125】
試験:
臨床評価は、体重減少、便の硬さ及び直腸周囲の血液の存在に基づいた。95日目に動物を屠殺し、結腸を、体重及びミエロペルオキシダーゼ活性を評価するために摘出した。
【0126】
結果:
臨床スコアに対する統計的に有意で類似した効果が、hBD2の1mg/kgで1日1回皮下投与、デキサメタゾンの0.3mg/kgで1日1回腹腔内投与及びエンブレルについて観察された(
図17)。同様に、これらの3つの投与計画は、結腸重量(
図18)とミエロペルオキシダーゼ活性(
図19)に対して統計的に有意で類似した効果を示した。
【0127】
急性GVHDは、陰窩細胞壊死によって特徴付けられ、重症の場合には、腸全体の上皮の完全な喪失によって特徴付けられるT細胞性症候群(T-cell mediated syndrome)であると考えられており、特にCD4+CD25+T reg細胞は、急性GVHDの病因の一部として多くの注目を集めている(Ball&Egeler、2008)。上皮の重篤な喪失を引き起こす、CD4+CD25+T細胞移植マウスモデルは従って、重篤で持続的なGVHDにおける化合物の治療効果を試験するのに適切であると思われる。
【0128】
ミエロペルオキシダーゼは、炎症の開始と進行に重要な役割を果たすヒトの酵素であり、酸化ストレスと炎症のバイオマーカーであり、最近、GVHDの潜在的なバイオマーカーとして報告されている(Ge及びYe、2013)。実施例6からの結果は、hBD2投与がデキサメタゾンによるGVHDの標準的な抗炎症治療と同じくらい効果的であるが、抗TNF-αでの治療ほど確立されていないことも実証する。
【0129】
実施例7
ディフェンシンによる予防的処置による腸内細菌叢の保護と維持
マウス:マウスをグループごとに3匹ずつ、4つのケージで飼育した。餌の摂取量を、午後6時に照明が消される直前に毎日記録した。個々のマウスを、グループとケージの両方の順序を変更して実験手順に供した。マウスを、SPF標準条件で12時間の明/暗サイクル下で、室温で維持した。
【0130】
食事療法:投薬のために、平均体重をマウスあたり25グラムと推定した。マウスは、マウスあたり1日約3グラムの飼料を食べる。
【0131】
治療の投与計画:マウスに、高脂肪食(HFD)又は低脂肪(LF)対照食のいずれかを与えた。HFDは4つのサブグループ;1つのhBD2、1つのHD5、1つのhBD2/HD5及び1つの標準HFD(ディフェンシンの補充なし)を含んだ(
図3)。ディフェンシン濃度は、1日あたりマウス1kgあたり1.2mgのhBD2であった。HD5を、hBD2と等モル濃度で与えた。組み合わせグループには、50%hBD2+50%HD5を与えたため、ディフェンシンの総量は残りの試験グループと同等であった。
【0132】
試験:
微生物分析を行って腸の微生物叢を研究した。長期的な16S特性評価を、60匹のマウスからの4つのペアの試料、合計で240の試料に対して行った。各マウスを、食事変更の前、食事変更の1週間後、食事変更の4週間後及び終了時にサンプリングし、従ってディフェンシン治療の結果としての糞便微生物叢の完全な特性評価を保証した。
【0133】
結果
体重変化
食物摂取量は3つの実験の食事グループ全てで同様であったが、両方の高脂肪食(HFD)グループは、10週間の研究期間にわたって低脂肪食(LFD)参照グループよりも有意に多く体重が増加した(*p<0.0001、二元配置分散分析、テューキー事後検定)。しかしながら、HFDプラスhBD2グループは、HFD参照グループよりも有意に少なく体重が増加した(*p=0.0028)。
【0134】
微生物叢
hBD2は、主に微生物の存在に影響を与えたが、HD5及びhBD2+HD5は主に微生物の存在量に影響を与えた(
図20)。アロバキュラム(Allobaculum)の存在量の統計的に有意な増加が、HD5による予防後に小腸で観察された(p<0.02;
図21)。アロバキュラムは、短鎖脂肪酸生成種である。短鎖脂肪酸は、GPCR43を介する結腸Treg細胞の恒常性の調節に重要な役割を果たす。T細胞の低形成とT細胞の恒常性の混乱は、急性GVHDと慢性GVHDの両方の中心的な部分である。
図22は、異なる治療グループの種の相対的な存在量を示しhBD2とHD5の腸内細菌叢に対する効果を示す、属分析である。結腸におけるバルネシエラの存在量の統計的に有意な増加が、hBD2による予防的処置後に観察された(p<0.03;
図24)。バルネシエラは、入院患者で観察され得る抗生物質耐性病原菌の腸内優勢を排除し、防ぐことができる細菌である。バルネシエラの存在量は、いくつかの免疫調節細胞の量に対応している。結腸でのバルネシエラのレベルが高いほど、脾臓と肝臓でより多くの辺縁帯B細胞とインバリアントナチュラルキラーT細胞が数えられた。IL-10-/-マウスでの大腸炎の発症において、バルネシエラファイロタイプのより高いレベルは、疾患のより低い活動レベルと相関した。乳酸桿菌の存在量が減少する傾向が、hBD2による予防的処置後に結腸で観察された(p=0.1;
図23)。マウスのHFDグループは広範囲の脂肪症(肝内脂肪蓄積)を発症したが、hBD-2で予防的に治療したHFDグループのマウスは、最小限の脂肪症を発症した(
図60)。
【0135】
微生物叢は、特に幹細胞移植直後に行われる劇的な細菌除染後のGVHDの発症において重要な役割を果たすようである。特に、微生物叢は、特に幹細胞移植の直前に行われる劇的な細菌除染後のGVHDの発症において重要な役割を果たすようである。この実施例7は、ディフェンシンが、存在する種の数及び細菌の総数に関して微生物叢の構成に大きな影響を及ぼし、従って健康な微生物叢を保護及び維持するようであることを実証する。より具体的にディフェンシンは、結腸のTreg細胞の恒常性において重要な役割を果たす短鎖脂肪酸(SCFA)を生成する細菌を促進するようである。加えて、ディフェンシンは、肝臓の炎症及び脂肪症を防ぐようである。
【0136】
実施例8.ディフェンシンによる介入治療による腸内菌共生バランス失調の治療
マウスと食事療法
この実験は、食餌誘発性肥満マウスの微生物叢に対するhBD2とHD5の効果を明らかにする。介入の前に、13週間の慣らし期間として、マウスに非常に高いHFD(脂肪からのエネルギーが60%)を与えた。慣らし期間中に最低12グラムの体重増加(初期体重の約50%)の基準を満たすマウスのみを最終分析に含めた。これらの基準を満たさなかったマウスは、階層「保持者」としてそれぞれのケージにとどめた。それらを、全ての実験的試験に供したが、分析から除外した。
【0137】
治療の投与計画
介入前に、全てのマウスをMRスキャンした。マウスのケージを、脂肪量に基づいて実験グループに割り当てた。その後の全ての測定は、介入前の同じマウスからのデータとペアにした。LFD(低脂肪食)の参照グループの実験を並行して行った。介入の対照として、2つの追加グループを含めた:1つの非常に高いHFDと1つのLFD。実験マウスを、介入の間非常に高いHFDにとどめた(
図3)。マウスは、10週間、実験食であった。それらを、実験を通して、ケージあたり4匹のマウス、グループあたり3つのケージで共飼育した。全ての試験を3日間にわたり、1日1グループあたり1ケージで行った。
【0138】
試験
微生物分析を行って腸の微生物叢を研究した。長期的な16S特性評価を、60匹のマウスからの4つのペアの試料、合計で240の試料に対して行った。各マウスを、食事変更の前、食事変更の1週間後、食事変更の4週間後及び終了時にサンプリングし、従ってディフェンシン治療の結果としての糞便微生物叢の完全な特性評価を保証した。
【0139】
結果
体重変化-hBD2
標準の高脂肪食(HFD)を摂取したグループは、全研究期間を通じて等しい食物摂取量を有し、最初の13週間は脂肪と除脂肪量が等しく同じ体重増加を示したため、食事介入前の開始点は同じであった。体重増加は、低脂肪食(LFD)を摂取したグループよりも有意に大きかった(*p<0.05、二元配置分散分析)。食事療法の介入後に、HFDグループの体重は増加し続けたが、HFDプラスhBD2グループは食事介入後の最初の4週間により少なく体重が増加する傾向があったが、有意ではなかった(*p=0.07、二元配置分散分析)。4週目~研究期間の終わりにHFDプラスhBD2グループは、標準のHFDグループと同様の体重を獲得した(*p=0.82、二元配置分散分析)。
【0140】
体重の変化-HD5
全てのHFD摂取グループは、研究期間中は同じ食物摂取量であり、13週間の慣らし期間中の体重増加は等しかった。食事介入後にHFDプラスHD5を摂取したグループは、HFD対照よりも有意に少なく体重が増加した(*p<0.05、二元配置分散分析)。加えて、HFDプラスHD5グループで脂肪率が減少する傾向が観察され、HFDプラスHD5においてHFD対照と比較して有意に低い脂肪率が、食事の変更後4週目に測定された(*p=0.009、二元配置分散分析)。
【0141】
微生物叢
両方のディフェンシンは、細菌の存在と細菌の不在に大きな影響を与えることが示された(
図25)。HD5は、結腸においてアロプレボテラの存在量を統計的に有意に増加させたが(p<0.02)(
図26)、hBD2はアロプレボテラの存在量に影響を与えなかった。hBD2は、小腸と結腸の両方でビフィズス菌の相対的存在量を劇的かつ統計的に有意に増加させた(それぞれp<0.0001及びp<0.04;
図27)。HD5が小腸でビフィズス菌の存在量を増やす傾向があった(
図27)。微生物叢は、特に幹細胞移植直後に行われる劇的な細菌除染後のGVHDにおいて重要な役割を果たすようである。糞便移植による実験的治療は現在、世界中のいくつかのセンターで進行中であり、例えば、ドイツのレーゲンスブルクのホラー教授は、細菌の除染後に通常の微生物叢を再設置しようとしている。この実施例8は、ディフェンシンが、存在する種の数と細菌の総数の点で微生物叢の構成に対し大きな影響を及ぼし、従って腸内菌共生バランス失調の状態を整え、例えば、結腸T reg細胞の恒常性を維持するのに重要である、正常微生物叢を再設置できるようであることを実証する。
【0142】
実施例9
イエダニによって促進されるアレルギー性喘息のマウスモデルにおける経口ディフェンシンに対する鼻腔内(IN)ディフェンシンによる予防的処置の有効性を決定及び評価すること
材料及び方法
治療の投与計画:7~10週齢の雌のBALB/cマウスを、研究開始の1日前に5つの研究グループに無作為に割り当て、イエダニ(200μLの生理食塩水中100μgのHDMプラス0.9%生理食塩水中のフロイント完全アジュバント)を皮下(SC)に感作させた。マウスを、hBD2の経口投与及び鼻腔内投与をそれぞれ1.2mg/kg/日(0.4mg/kg 1日3回)の用量で12日目の午前に開始し、約6時間間隔で1日3回を継続した。最後の用量を、14日目に、負荷の1時間前に投与した。総投与数は8回又は合計2mg/kgのhBD2であった。次に、マウスを、14日目にHDMで鼻腔内(IN)負荷した(50μLの生理食塩水中25μgのHDM)(
図4)。
【0143】
試験:
気道炎症:負荷の48時間後に、気管支肺胞洗浄を、冷PBSの3つの容量(0.4;0.3及び0.3mL、合計1mL)で肺を洗浄して行った。白血球数の合計と差を、自動血液分析装置Sysmex XT-2000iVで決定した。
【0144】
肺機能:HDM負荷後48時間から始めて、肺抵抗及び肺コンプライアンスの測定をメタコリン(3.125 MCH1;6.25 MCH2;12.5 MCH3及び25mg/mLのMCH4)負荷後に、マウスを麻酔し、DSIのBuxco Finepoint RC systemを用いてカニューレを挿入することによって行った。データを、10mg/kgのメタコリンでの気道抵抗及び用量反応曲線として表す。
【0145】
サイトカイン分析のための肺のサンプリング:全てのBALの完了後に、肺を胸部から摘出し、液体窒素で瞬間凍結し、肺ホモジネート中のTNF-α、IL-4、IL-5、IL-6、IL-9、IL-13及びIL-33のサイトカイン濃度をELISAにより分析するまで摂氏-80度で凍結保存した。
【0146】
結果
生理食塩水負荷(非喘息)マウスと比較して、HDM負荷ビヒクル処置動物において、肺抵抗値の増加及び肺コンプライアンスの値の減少が観察された。両方のビヒクル処置(経口及び鼻腔内)マウスグループで炎症反応を、HDMによる感作の14日後に単回HDM負荷によって誘発した。それは、生理食塩水負荷対照と比較した場合、BALF中の総細胞数、好酸球、好中球、マクロファージ及びリンパ球数の統計的に有意な増加によって特徴付けられた(p<0.05)。また、肺組織ホモジネート中の7種のサイトカインTNF-α、IL-4、IL-5、IL-6、IL-9、IL-13及びIL-33の濃度の分析は、生理食塩水負荷対照と比較してHDM負荷動物での有意により高いレベルを明らかにした。
【0147】
hBD2は、12日目~14日目に投与される1日3回の経口と鼻腔内の両方の投与後に(8投与で合計2.0mg/kg)、HDM負荷ビヒクル処置動物と比較して気道抵抗の増加(
図28)及び肺コンプライアンスの減少(
図29)を効果的に抑制した。BALFでの細胞流入に対する効果が経口投与後に観察され、それは好中球数を有意に阻害した(
図30)。肺組織ホモジネート中のサイトカイン濃度の完全な正常化を伴う免疫系のバランスの再調整が、経口投与後にTNF-α(
図31a)、IL-4(31b)、L-5(31c)、IL-6(31d)、IL-9(31e)及びIL-13(31f)サイトカインレベルで観察された。hBD2の鼻腔内投与後に、TNF-α、IL-4、IL-5、IL-6、IL-9及びIL-13が低下する傾向があったが、これは対照と統計的に有意差はなかった。得られた全ての結果は、イエダニによって促進されるアレルギー性喘息のマウスモデルにおけるhBD2の明確な予防効果と抗炎症効果を示す。
【0148】
肺は、腸、肝臓及び皮膚に続いて、GVHDに関与する4番目の臓器である。この実施例は、ディフェンシンが無傷の免疫系を維持できるだけでなく、急性GVHDの特徴である、全ての重要なGVHDサイトカインであるTNF-α、IL-4、IL-5、IL-6、IL-9及びIL-13のサイトカインストームの発生を決定的に防止できることを実証する。炎症性サイトカインの放出又はサイトカインストームは、急性GVHDの発生と重症度の主要なメディエーターとして関与している(Ball&Egeler、2008)。
【0149】
実施例10
イエダニによるアレルギー性喘息のマウスモデルにおけるディフェンシンによる経口に対するINの治療的介入の有効性を決定及び評価すること
材料及び方法
治療の投与計画:7~10週齢の雌のBALB/cマウスを、研究開始の1日前に7つの研究グループに無作為に割り当て、イエダニ(200μLの生理食塩水中100μgのHDMプラス0.9%の生理食塩水中フロイント完全アジュバント)を皮下(SC)に感作させた。次いで、14日目に、マウスを、HDMで鼻腔内(IN)負荷した(50μLの生理食塩水中25μgのHDM)。デキサメタゾンを、14日目に経口投与した(1mg/kgで1日2回;50μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS))。hBD2を、14日目にIN又は経口投与した(1.7mg/kgで1日3回のIN;0.4mg/kgで1日3回のIN;0.4mg/kgで1日3回の経口投与、50μLのリン酸緩衝生理食塩水)。最初の用量を、負荷の60分前に投与し、その後の用量を約6時間間隔で投与した(
図5)。
【0150】
試験:
気道炎症:負荷後48時間に、気管支肺胞洗浄を、冷PBSの3つの容量(0.4;0.3及び0.3mL、合計1mL)で肺を洗浄して行った。白血球数の合計と差を、自動血液分析装置Sysmex XT-2000iVで決定した。
【0151】
肺機能:HDM負荷後48時間から始めて、肺抵抗及び肺コンプライアンスの測定をメタコリン(3.125 MCH1;6.25 MCH2;12.5 MCH3及び25mg/mLのMCH4)負荷後に、マウスを麻酔し、DSIのBuxco Finepoint RC systemを用いてカニューレを挿入することによって行った。データを、10mg/kgのメタコリンでの気道抵抗及び用量反応曲線として表す。サイトカイン分析のための肺のサンプリング:全てのBALの完了後に、肺を胸部から摘出し、液体窒素で瞬間凍結し、IL-1β、TNF-α、IL-6、IL-10及びIFNγのサイトカイン濃度をELISAにより分析するまで摂氏-80度で凍結保存した。
【0152】
結果
生理食塩水負荷(非喘息)マウスと比較して、HDM負荷ビヒクル処置動物において、肺抵抗値の増加及び肺コンプライアンスの値の減少が観察された。両方のビヒクル処置(経口及び鼻腔内)マウスグループで炎症反応を、HDM及びアジュバントによる感作の14日後に単回HDM負荷によって誘発した。それは、生理食塩水負荷対照と比較した場合、BALF中の総細胞数、好酸球、好中球、マクロファージ及びリンパ球数の統計的に有意な増加によって特徴付けられた(p<0.05)。また、肺組織ホモジネート中の5種のサイトカインIL-1β、TNF-α、IL-6、IL-10及びIFN-γの濃度の分析は、生理食塩水負荷対照と比較してHDM負荷動物での有意により高いレベルを明らかにした。
【0153】
デキサメタゾン治療は、BALFでの総細胞数と好酸球数を有意に抑制したが、好中球、マクロファージ及びリンパ球数は抑制しなかった。細胞データと一致して、デキサメタゾンは、HDM/ビヒクル対照と比較して、肺組織ホモジネート中のIL-1β、TNF-α、IL-6、IL-10及びIFN-γのレベルに影響を与えなかった。しかしながら、それは好酸球数に関連するAHR測定値に影響を与えた。得られた結果は、このモデルがある程度ステロイド耐性であることを示す。
【0154】
hBD2は、1日3回の経口と鼻腔内の両方の投与後に、HDM負荷したビヒクル処置動物と比較して、14日目に気道抵抗の増加(
図32a及び32b)及び肺コンプライアンスの減少(
図33a及び33b)を効果的に抑制した。より顕著な効果がBALF中の細胞流入などの鼻腔内投与後のいくつかの測定パラメーターに対して観察され、両方のIN用量(0.4mg/kg/日で1日3回及び1.7mg/kg/日で1日3回)が好中球及びマクロファージ細胞の総数(
図34a、b及びc)並びに好酸球の低下傾向を有意に抑制した一方で、ステロイド標準デキサメタゾンはそれらを抑制できなかった。同様に有意な効果が、両方の投与経路で肺組織ホモジネート中のIFN-γ(
図35)、IL-4(
図37)、IL-5(
図38)、IL-6(
図39)、IL-9(
図40)、及びIL-10(
図41)サイトカインレベルに対して観察された。経口投与されたhBD2はTNF-αを有意に低下させ(
図36)、一方で鼻腔内投与されたhBD2は対照と異なったが有意ではなかった。得られた全ての結果は、イエダニ/フロイント完全アジュバントに促進されるアレルギー性喘息のマウスモデルにおけるhBD2の明確な抗炎症効果を示す。肺は、腸、肝臓及び皮膚に続いてGVHDに関与する4番目の臓器である。この実施例10は、ディフェンシンが、免疫系のバランスを再調整するだけでなく、急性GVHDの特徴である主要なGVHDサイトカインIFN-γ、TNF-α及びIL-6のサイトカインストームを決定的に治療又は予防できることを示す。実際に、炎症性サイトカインの放出又はサイトカインストームは、急性GVHDの発生と重症度の主要なメディエーターとして関与している(Ball&Egeler、2008)。
【0155】
実施例11
イエダニによるアレルギー性喘息のマウスモデルにおけるディフェンシン投与による経口に対するINの治療的介入の有効性を決定及び評価すること
材料及び方法
治療の投与計画:7~10週齢の雌のBALB/cマウスを、研究開始の1日前に4つの研究グループに無作為に割り当て、イエダニ(200μLの生理食塩水中100μgのHDMプラス0.9%生理食塩水中のフロイント完全アジュバント)を皮下(SC)に感作させた。マウスを、14日目にHDMで鼻腔内(IN)負荷した(50μLの生理食塩水中の25μgのHDM)。hBD2を、14日目にIN投与又は経口投与した(0.4mg/kgで1日3回のIN;0.4mg/kgで1日3回の経口、50μLのリン酸緩衝生理食塩水)。最初の用量を、負荷の60分前に投与し、その後の用量は約6時間間隔で投与した。
【0156】
試験:
肺組織のサンプリング:肺を胸部から摘出し、液体窒素で急速冷凍し、肺ホモジネート中のIL-4、IL-5、IL-8(KC)、IL-9及びIL-13のサイトカイン濃度のELISAによる分析まで-80℃で冷凍保存した。肺を10%緩衝化ホルマリンでその場で膨らませ、胸部から摘出し、10%緩衝化ホルマリンに個別に入れ、全体としてパラフィン包埋し、切片化し、H&E/PAS染色した。
【0157】
採血:全ての末期血液試料を、頸静脈出血を介して採取した。血液をLi-ヘパリンチューブに採取し、氷上に置き、すぐに4℃で遠心分離した。血漿を分離し、将来のSCFA分析まで-80℃で保存した。
【0158】
肺組織のサンプリング:肺を露出させ、胸部を静かに開き、胸骨と肋骨のいずれかの側を切り取り、トリミングすることによって切除した。グループごとに最初の6匹の動物からの肺を胸部から摘出し、液体窒素で急速冷凍し、ELISAによるサイトカイン濃度の分析まで、-80℃で冷凍保存した。
【0159】
グループごとに他の8匹の動物からの肺を10%緩衝化ホルマリンでその場で膨らませ、胸部から摘出し、10%緩衝化ホルマリンに個別に入れ、全体としてパラフィン包埋し、切片化し、H&E/PAS染色した。パラフィンブロックを、IHC分析のために保持した。
【0160】
読み出し
・組織病理診断(H&E;PAS)(N=8/グループ;合計N=32)
・肺組織ホモジネート中のサイトカイン(IL-4、IL-5、IL-8(KC)、IL-9及びIL-13)(N=6/グループ、合計N=24)
組織病理診断
細胞流入(単核、好酸球、好中球)を、以下のように、気管支/細気管支の周囲及び血管周囲の空間について、H&E染色スライドで別々に半定量的に評価した:
0 なし
1 少数の点在する炎症性細胞
2 大きな凝集体
3 細胞の顕著な蓄積
炎症の全体的なスコアを、全ての個々のスコアの合計として計算した。
【0161】
杯細胞異形成を、大気道と遠位気道のレベルで別々に、以下のようにPAS染色スライドで評価した:
0 基底膜に沿った粘液含有細胞なし
1 75%未満の細胞質が染色された基底膜に沿った少数の陽性細胞
2 75%超の細胞質が染色された基底膜に沿った少数の陽性細胞
3 75%未満の細胞質が染色された基底膜に沿った多数の陽性細胞
4 75%超の細胞質が染色された基底膜に沿った多数の陽性細胞
【0162】
統計的評価
データをMS Excelを使用して処理した。統計分析を、GraphPad Prismソフトウェア(バージョン5.04)を用いて行った。グループ間の差は、p<0.05のときに統計的に有意であると見なされる。
【0163】
選択した組織学的スコア値データの統計分析を、中央値及びノンパラメトリックのマンホイットニー検定を用いて行った。
【0164】
結果
両方のビヒクル処置マウスグループ(経口及び鼻腔内)で炎症反応を、HDM及びアジュバントによる感作後14日目の単回HDM負荷によって誘発した。それは、生理食塩水負荷対照と比較して、肺組織ホモジネート中の5種のサイトカインIL-4、IL-5、IL-8、IL-9及びIL-13の濃度の統計的に有意な増加と、HDM負荷動物における肺組織の重度の組織学的炎症性変化によって特徴付けられた。
【0165】
hBD2は、1日3回の経口と鼻腔内の両方の投与後に、HDM負荷ビヒクル処置動物と比較して、14日目に、肺組織の組織学的炎症の増加を効果的に抑制した(
図43、44、45)。有意な効果が、経口投与後の肺組織ホモジネート中のIL-4、IL-5、IL-9及びIL-13サイトカインレベル、並びにIN投与後のIL-9及びIL-13に対し観察された。全ての得られた結果は、イエダニ/フロイント完全アジュバントに促進されるアレルギー性喘息のマウスモデルでのhBD2の明確な抗炎症効果を示す。
【0166】
肺は、腸、肝臓及び皮膚に続いてGVHDに関与する4番目の臓器である。この実施例は、ディフェンシンが、免疫系のバランスを再調整するだけでなく、急性GVHDの特徴である主要なGVHDサイトカインのIL-4、IL-5、IL-8、IL-9及びIL-13のサイトカインストームを決定的に治療又は予防できることを示す。実際に、炎症性サイトカインの放出又はサイトカインストームは、急性GVHDの発生と重症度の主要なメディエーターとして関与している(Ball&Egeler、2008)。
【0167】
【0168】
実施例13
幹細胞移植後の急性移植片対宿主病のマウスモデルにおける経口hBD-2による予防的処置の有効性を決定及び評価すること
材料及び方法
治療の投与計画:12匹のメスのBALB/cマウスに、0日目に少なくとも4時間の間隔で4.5Gy(2×498秒)を照射した。骨髄を採取した:後肢を2匹のメスのWT C57BL/6マウスから無菌的に採取した。骨格筋を摘出し、骨端を切除した。骨の内腔をPBSで洗い流し、細胞をペレット化して、取った。T細胞の採取:2匹のメスのWT C57BL/6マウスからの脾臓を、100μMのセルストレーナーを介してPBSで満たされた皿にふるい分けした。細胞をPBSに取り、50mLのファルコンチューブに移し、スピンダウンした。細胞を1mLのPBSに取り、脾臓あたり20μLのCD4マイクロビーズ+20μLのCD8マイクロビーズを加えて、4℃で20分間インキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、CD4+細胞及びCD8+細胞をポジティブに選択するために、MACS分離に適用した。陽性選択されたT細胞を数え、取った。移植:第2回の照射の直後に、全てのWT BALB/cレシピエントマウスに、イソフルラン麻酔下で眼窩後静脈叢に5×1.000.000BM細胞(50μL)を静注した。15匹のBALB/cマウスを、0~10日目に、強制経口投与により1日あたり100μLのPBS中1.2mgのhBD2/体重1kg/日で治療した。
【0169】
15匹のBALB/cマウスに、0~10日目に、強制経口投与により1日当たりビヒクルの100μLのPBSを与えた。
【0170】
試験:
マウスの体重を最初の7日間毎日測定し、生存を100日間監視した。
【0171】
結果
ビヒクルグループ中の15匹のマウス全てが35日までに死亡したのに対し、hBD2治療マウスのわずか4匹又は30%未満が35日までに死亡し、8匹のマウスは100日目まで生存していた(p<0.0001)(
図47)。小腸、結腸及び肝臓の組織学的スコアは、PBSと比較して、hBD-2治療グループでは全て統計的に非常に低かった(
図48)。hBD2治療マウスは、骨髄移植後の最初の7日間、統計的に有意に体重減少が少なく、腸の健康と腸の完全性が改善されたことを示唆する(
図49)。hBD2での治療は、CD45+白血球の浸潤(
図50のFACS分析);結腸の固有層における腸T細胞及び骨髄細胞の浸潤(
図51a~c)を低下させた。hBD2による予防的処置もまた、TNF-αとIL-6の濃度の低下及びIL-10の濃度の増加を示した(
図52a~c)。hBD-2治療は、骨髄細胞からのIL-1βの低下をさらに示した(
図53a~cの脾臓のFACS分析)。脾臓のFACS分析もまた、好中球の数の低下(
図54a);特にTNF-α及びIFN-γのTh1サイトカイン生成の低下(
図54b~f)を示した。結腸試料のマイクロアレイ分析は、hBD-2治療グループ対PBSで炎症、白血球と骨髄細胞の遊走及び組織リモデリングの減少を示した(
図55)。
【0172】
結論
この実施例13は、幹細胞移植の日から10日間のhBD-2による予防的処置が死亡率を低下させ、長期生存を劇的に増加させることを実証する。
【0173】
実施例14
幹細胞移植後の急性移植片対宿主病のマウスモデルにおけるシクロスポリンに対する経口hBD-2による予防的処置の有効性を決定及び評価すること
材料及び方法
治療の投与計画:20匹のメスのBALB/cマウスに、0日目に少なくとも4時間の間隔で4.5Gy(2×498秒)を照射した。骨髄を採取した:後肢を2匹のメスのWT C57BL/6マウスから無菌的に採取した。骨格筋を摘出し、骨端を切除した。骨の内腔をPBSで洗い流し、細胞をペレット化して、取った。T細胞の採取:2匹のメスのWT C57BL/6マウスからの脾臓を、100μMのセルストレーナーを介してPBSで満たされた皿にふるい分けした。細胞をPBSに取り、50mLのファルコンチューブに移し、スピンダウンした。細胞を1mLのPBSに取り、脾臓あたり20μLのCD4マイクロビーズ+20μLのCD8マイクロビーズを加えて、4℃で20分間インキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、CD4+細胞及びCD8+細胞をポジティブに選択するために、MACS分離に適用した。陽性選択されたT細胞を数え、取った。移植:第2回の照射の直後に、全てのWT BALB/cレシピエントマウスに、イソフルラン麻酔下で眼窩後静脈叢に5×1.000.000BM細胞(50μL)を静注した。20匹のBALB/cマウスを、0~10日目に1.2mgのhBD2/体重1kg/日(n=7);0、3、6及び9日目に強制経口投与により50mgのシクロスポリン/体重1kg(n=7)又は1日あたり100μLのPBSで治療した。
【0174】
試験:
研究の間、マウスの体重を定期的に測定し、生存を90日間監視した。
【0175】
結果
PBS処置マウスの1匹を除く全てが90日目までに死亡したが、hBD-2治療動物の1匹だけが90日目までに死亡し(p=0.03、
図56)、シクロスポリン治療動物の3匹が死亡した(p=0.16、
図56)。hBD2及びシクロスポリン治療マウスは、PBS処置マウスと比較して、骨髄移植後に統計的に有意に体重減少が少なく、腸の健康と腸の完全性が改善されたことを示唆する(
図57)。
【0176】
結論
この実施例14は、幹細胞移植の日から10日間のhBD-2による予防的処置が、シクロスポリンによる標準的な抗GVHD治療と少なくとも同等に死亡率を低下させることを実証するのに役立つ。
【0177】
実施例15
幹細胞移植後の急性移植片対宿主病のマウスモデルにおける経口HD5による予防的処置の有効性を決定及び評価すること
材料及び方法
治療の投与計画:22匹のメスのBALB/cマウスに、0日目に少なくとも4時間の間隔で4.5Gy(2×498秒)を照射した。骨髄を採取した:後肢を2匹のメスのWT C57BL/6マウスから無菌的に採取した。骨格筋を摘出し、骨端を切除した。骨の内腔をPBSで洗い流し、細胞をペレット化して、取った。T細胞の採取:2匹のメスのWT C57BL/6マウスからの脾臓を、100μMのセルストレーナーを介してPBSで満たされた皿にふるい分けした。細胞をPBSに取り、50mLのファルコンチューブに移し、スピンダウンした。細胞を1mLのPBSに取り、脾臓あたり20μLのCD4マイクロビーズ+20μLのCD8マイクロビーズを加えて、4℃で20分間インキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、CD4+細胞及びCD8+細胞をポジティブに選択するために、MACS分離に適用した。陽性選択されたT細胞を数え、取った。移植:第2回の照射の直後に、全てのWT BALB/cレシピエントマウスに、イソフルラン麻酔下で眼窩後静脈叢に5×1.000.000BM細胞(50μL)を静注した。22匹のBALB/cマウスを、0~10日目に強制経口投与により1.2mgのHD5/体重1kg/日;1.2mgのhBD-2/体重1kg/日又は1日あたり100μLのPBSで治療した。
【0178】
試験:
生存を60日間監視した。
【0179】
結果
PBS処置マウスの8匹中6匹は60日までに死亡したが、HD5で治療した動物の8匹のうち2匹は死亡し(p=0.06、
図58)、hBD-2で治療した動物はどれも60日までに死亡しなかった(p=0.008、
図58)。
【0180】
結論
この実施例15は、幹細胞移植の日から10日間のHD5又はhBD-2のいずれかによる予防的処置が死亡率を劇的に低下させることを実証するのに役立つ。
【0181】
実施例16
経口投与されたディフェンシンの抗菌効果(HD5及びhBD-2)
方法:
FISHによるムチンの免疫染色と細菌の局在
粘液免疫染色を、腸粘膜の表面での細菌の局在を分析するために以前に記載されているように、蛍光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)とペアにした。簡単に説明すると、糞便物質を含まない結腸組織(近位結腸、盲腸から2cm)を、メタノール-カルノワ固定液(60%メタノール、30%クロロホルム、10%氷酢酸)中に室温で最低3時間置いた。組織を次いで、メタノールで2×30分、エタノールで2×15分、エタノール/キシレン(1:1)、15分、及びキシレンで2×15分洗浄した後、垂直方向にパラフィンに包埋した。5μmの切片を作成し、60℃で10分間予熱した後、キシレン60℃で10分間、キシレンで10分間、99.5%エタノールで10分間脱脂した。ハイブリダイゼーション工程を、ハイブリダイゼーション緩衝液(20mMのTris-HCl、pH7.4、0.9MのNaCl、0.1%のSDS、20%のホルムアミド)中10μg/mLの最終濃度に希釈したEUB338プローブ(アレクサ647を使用して5’標識した5’-GCTGCCTCCCGTAGGAGT-3’)により50℃で行った。洗浄緩衝液(20mMのTris-HCl、pH7.4、0.9MのNaCl)で10分間、PBSで3×10分間洗浄した後、PAPペン(Sigma-Aldrich)を使用して切片の周りに印をつけ、ブロッキング溶液(PBS中の5%ウシ胎児血清)を4℃で30分間加えた。ムチン-2一次抗体(ウサギH-300、Santa Cruz Biotechnology,Dallas,TX,USA)をブロッキング溶液で1:1500に希釈し、4℃で一晩適用した。PBSで3×10分間洗浄した後、1:1500に希釈した抗ウサギアレクサ488二次抗体を含むブロッキング溶液、1μg/mLのファロイジン-テトラメチルローダミンBイソチオシアネート(Sigma-Aldrich)及び10μg/mLのヘキスト33258(Sigma-Aldrich)を切片に2時間適用した。PBSで3×10分間洗浄した後、Prolong退色防止マウンティングメディア(Life Technologies,Carlsbad,CA,USA)を使用してスライドをマウントした。観察を、ソフトウェアZen 2011バージョン7.1を備えたZeiss LSM 700共焦点顕微鏡を用いて行った。このソフトウェアを使用して、細菌と上皮細胞単層の間の距離、及び粘液の厚さを決定した。
【0182】
結果:
腸壁と細菌集団の間の溶解ゾーンに非常に統計的に有意な差が観察された。距離は、低脂肪と西洋食の両方を摂取したマウスについて小さかったのに対し、HD5、特にhBD-2は距離に大きな影響を及ぼした(
図59)。
【0183】
結論
この実験は、マウスに経口投与したヒトHD5及びhBD-2が、経口投与後に期待される主に腸の内腔でではなく、マウス自体の上皮細胞によって生成されたかのように、マウスの上皮表面で微生物叢調節効果を発揮することを実証する。
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