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特許7423536グリコールの生成について選択的なモリブデン共触媒を用いた糖水素化分解
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】グリコールの生成について選択的なモリブデン共触媒を用いた糖水素化分解
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/157 20060101AFI20240122BHJP
   B01J 23/652 20060101ALI20240122BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20240122BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240122BHJP
【FI】
C07C29/157
B01J23/652 Z
C07C31/20 Z
C07C31/20 A
C07B61/00 300
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020542792
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 US2019015626
(87)【国際公開番号】W WO2019156854
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】62/628,644
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507303309
【氏名又は名称】アーチャー-ダニエルズ-ミッドランド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】マ,チ チェン
(72)【発明者】
【氏名】ブラジル,ジェームス
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150270(JP,A)
【文献】特表2018-502921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/157
B01J 23/652
C07C 31/20
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルクトース、スクロース又はこれらの組み合わせから構成されるバイオマスから構成される糖供給物を、プロピレングリコール及びエチレングリコールの両方を含む混合低級ポリオール生成物に直接変換するためのプロセスであって、前記糖供給物及び水素源は、反応容器に供給され、且つMo及びRuを含み、炭素系担体材料上に担持された水素化分解触媒の存在下で反応させて、前記混合低級ポリオール生成物中においてエチレングリコールよりも高い収率及び選択性のプロピレングリコールを提供する、プロセス。
【請求項2】
前記Moは、前記糖供給物の0.5~10重量%で存在する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記Ruは、前記水素化分解触媒の3~7重量%で存在する、請求項1又は2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記Moは、前記糖供給物の9~10重量%で存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記Ruは、前記水素化分解触媒の5重量%で存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記Moは、モリブデン酸塩の形態、モリブデン酸カリウムの形態、又は前記糖供給物の3~10重量%の範囲におけるモリブデン酸カリウムの形態である、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記糖供給物は、デンプン加水分解プロセス、パルププロセス又はそれらの組み合わせからなる群から選択される別のプロセスの副産物である、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記糖供給物は、0.2時間-1~2時間-1の速度の液体毎時空間速度で前記触媒と接触される、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
180~250℃の反応温度を維持することをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
600~2500psiの水素圧力を維持することをさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記反応容器は、密閉された水素化分解反応器であり、及び前記プロセスは、1時間~10時間の範囲の期間にわたって実施される、請求項1~10のいずれか一項に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
[01] 本発明は、概して、触媒に関し、より具体的には、糖と水素との反応からグリコールを生成する強化された能力を有する共触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
[02] バイオベースのグリコールを製造する従来の方法は、水素化及び水素化分解触媒材料上で純粋な水素を糖(フルクトース及びグルコース)並びに糖アルコールと反応させることを伴う。水素化分解は、炭素-炭素又は炭素-ヘテロ原子の単結合が水素によって切断され、溶解(分解)する化学反応である。水素化は、結合を切断することなく水素が分子に付加される反応である。
【0003】
[03] 米国特許第4,496,780号は、担体上にルテニウムなどの第VIII族金属を複合化した不均一系触媒とアルカリ土類金属酸化物とを使用する炭水化物ポリオールの水素化分解を開示している。このプロセスには、150~250℃の温度及び500~5,000psigの圧力が必要である。
【0004】
[04] 米国特許第4,476,331号は、150~300℃の温度及び500~5,000psigの炭化水素圧力において、担持された硫化RuCl触媒及び塩基を使用する水素化糖の低級多価アルコールへの水素化分解を開示している。
【0005】
[05] 米国特許第4,401,823号は、例えば、アルコール、酸、ケトン及びエーテルを175~250℃及び10~2,000psiで製造するための、クロム、モリブデン、タングステン、レニウム、マンガン、銅、カドミウムなどの遷移金属及び鉄、コバルト、ニッケルをはじめとする周期表の第VIII族金属並びに白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム及びオスミウムなどの貴金属などの金属で含浸された触媒の存在下における、糖及びアルコールなどのポリヒドロキシル化化合物の水素化分解を記載している。
【0006】
[06] 例えば、糖類(sugars)、糖アルコール、糖類(saccharides)などのバイオマス由来の酸素化炭化水素からポリオール及び他の化合物を製造するための、触媒を用いた様々な他のアプローチが開示されている。
【0007】
[07] 例えば、米国特許第8,710,281号は、糖、糖アルコール、糖類などのバイオマス由来の酸素化炭化水素から、白金、ルテニウム及びスズを含有する触媒を使用してポリオール、ケトン、カルボン酸、アルデヒド及びアルコールを製造する方法を記載している。開示された方法は、APR触媒を使用する水相改質(APR)、それに続く水素化脱酸素を伴う。APR触媒は、担体と、とりわけRuなどの少なくとも1つの第VIIIB族金属とを含むと記載されている。この特許は、APR触媒が、第VIIIB族、第VIIB族、第VIB族、第VB族、第IVB族、第IIB族、第IB族、第IVA族、第VAの金属と、とりわけMoなどのランタノイドとからの少なくとも1つの追加材料とをさらに含み得ることを記載している。同様に、米国特許第7,767,867号は、バイオマスから生じた水素を使用してバイオマスからプロピレングリコール、エチレングリコール及び他の化合物を製造するためのAPR及び水素化脱酸素法を記載している。
【0008】
[08] 米国特許第9,440,897号は、i)スクロースを加水分解して、グルコース及びフルクトースを含む反応生成物流を形成するステップと;ii)グルコース及びフルクトースを含む反応生成物流を、フルクトース又はフルクトース誘導体に富む流れと、グルコースに富む流れとに分離するステップと;iii)グルコースに富む流れを、溶媒及び触媒水素化能力を有する触媒系の存在下で反応器内において水素と接触させ、低いモノプロピレングリコール共生成により、モノエチレングリコールを含む生成物流を生成するステップとを含む、スクロースからモノエチレングリコールを調製するプロセスを記載している。
【0009】
[09] 国際公開第2017/055285号は、糖類含有供給原料、溶媒、水素、逆アルドール触媒組成物及び触媒前駆体を反応容器に入れるステップと、反応容器を一定温度及び圧力に維持するステップとを含む、グリコールを製造するためのプロセスであって、触媒前駆体は、周期表の第8、9、10及び11族から選択される1つ又は複数の陽イオンを含み、触媒前駆体は、反応容器内の水素の存在下において、担持されていない水素化触媒に還元される、プロセスを記載している。
【0010】
[10] 国際公開第2017/055289号は、(a)糖類含有供給原料、溶媒、逆アルドール触媒能力を有する触媒成分並びに周期表の第8、9及び10族から選択される元素を含む第1の水素化触媒を含む反応容器内で反応混合物を調製するステップと;(b)水素ガスを反応容器内の反応混合物に供給するステップと;(c)第1の水素化触媒の活性をモニターするステップと;(d)クロム並びに周期表の第8、9、10及び11族から選択される1つ又は複数の元素を含む触媒前駆体とヒドラジンとを反応器内で接触させて、触媒前駆体を第2の水素化触媒に転換することにより、第2の水素化触媒を調製するステップと;(e)水素化活性が低下した場合、反応容器内で低下した水素化活性を補うために第2の水素化触媒を反応容器内に供給するステップとを含む、糖類含有供給原料からグリコールを調製するためのプロセスを記載している。
【0011】
[11] 国際公開第2017/055281号は、クロム並びに周期表の第8、第9、第10及び第11族からなる群から選択される1つ又は複数の陽イオンを含む触媒前駆体とヒドラジンとを反応器中で接触させて、触媒前駆体を非担持水素化触媒に変換する、非担持水素化触媒を調製するためのプロセスを記載している。
【0012】
[12] 従来、糖又はバイオマスをプロピレングリコール(1,2-プロパンジオール又はPG)及びエチレングリコール(「EG」)に変換するために、(1)バイオマスを酸で加水分解するステップと、(2)触媒によって糖を水素化し、糖アルコールを製造するステップと、(3)触媒によって糖アルコールを水素化分解し、PG及びEGを製造するステップとを含む多段階プロセスが含まれる。
【0013】
[13] プロピレングリコールは、糖アルコールの触媒的水素化分解によって製造され得る。商業的に、プロピレングリコールは、グリセロールから製造される。水素化分解反応は、米国特許出願公開第2009/0088317号に記載されるものなどの触媒によって実施される。プロピレングリコールの製造に用いられる水素化分解反応は、エチレングリコール、2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ペンタンジオール及び2,4-ペンタンジオールなどの副産物をもたらす。しかし、これらのジオール及びエチレングリコールは、プロピレングリコールから分離することが困難であり、2,3-ペンタンジオールの1つの異性体は、蒸留によってプロピレングリコールから経済的に分離され得ない。水素化分解反応を変化させることにより、このようなジオールの生産量を低減することが可能であるものの、このような変化は、プロピレングリコールプロセスの全体的な生産性を低下させ得る。
【0014】
[14] これらのジオール及び/又はエチレングリコールからプロピレングリコールを単離又は精製する方法が開発されている。Archer-Daniels-Midland Companyに譲渡された米国特許第8,143,458号は、プロピレングリコールを製造し、プロピレングリコールから不要なジオールを分離するプロセスを開示している。このようなプロセスは、ジオールをプロピレングリコールから効果的に分離できるが、このようなプロセスは、時間がかかり、高価である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
[15] その様々な実施形態のそれぞれにおいて、本発明は、特にプロピレングリコールをはじめとするグリコールをより効率的に糖類から製造する必要性を満たす。一態様では、高フルクトース供給原料、高スクロース供給原料又はこれらの組み合わせから構成される糖供給物を、プロピレングリコール及びエチレングリコールの両方を含む混合低級ポリオール生成物に直接変換するためのプロセスが開示される。一態様では、プロセスは、混合低級ポリオール生成物中においてエチレングリコールよりも大きい程度でプロピレングリコールが存在するように、エチレングリコール選択性よりも大きいプロピレングリコール選択性を提供する。一態様では、糖供給物及び水素源は、反応容器に供給され、且つプロピレングリコールが形成するように、モリブデン(Mo)及びルテニウム(Ru)を含む水素化分解触媒の存在下で反応される。
【0016】
[16] 一態様では、糖と水素との間の一段階反応で使用され得る共触媒が開示され、共触媒は、高級ポリオールの生成を減少させながら、より高い変換率でプロピレングリコール及びエチレングリコールに対する強化された選択性を提供する。一態様では、本発明は、得られた生成物混合物中でプロピレングリコール及びエチレングリコールのより高い生産性をもたらし、生成物混合物からプロピレングリコール及びエチレングリコールを分離するコストを削減する。
【0017】
[17] 一態様では、糖と水素との間の一段階反応で使用され得る共触媒が開示され、共触媒は、エチレングリコール及び高級ポリオールの生成を減少させながら、より高い変換率でプロピレングリコールに対する強化された選択性を提供する。一態様では、本発明は、得られた生成物混合物中でプロピレングリコールのより高い生産性をもたらし、生成物混合物から純粋なプロピレングリコールを分離するコストを削減する。
【0018】
[18] 一態様では、一段階反応のための共触媒は、モリブデン(Mo)及びルテニウム(Ru)を含む二金属又は多金属触媒を含む。
【0019】
[19] 一態様では、プロピレングリコールを製造するためのプロセスは、プロピレングリコール及びエチレングリコールの高い選択性が達成されるように、糖供給原料を、Mo及びRuを含む共触媒と接触させることを含む。
【0020】
[20] 一態様では、糖供給原料を水素で処理してプロピレングリコール及びエチレングリコールを製造するための共触媒は、担体材料と、Mo及びRuを含む触媒金属成分とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態の詳細な説明
[21] 「含む」という用語は、本明細書及び特許請求の範囲における用法では、「少なくとも部分的にそれからなる」ことを意味する。「含む」という用語を含む、本明細書の記述及び請求項を解釈する際、各記述又は請求項において、この用語が前置される特徴に追加的な他の特徴も存在し得ることが理解されるべきである。「含む」及び「構成される」などの関連する用語も同様に解釈されるべきである。
【0022】
[22] さらに、特許請求の範囲を含めた本出願において、動作例を除いて又は別段の記載がある場合を除いて、量又は特性を表す全ての数値は、全ての事例において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。別段の指示がある場合を除いて、以下の説明に記載される任意の数値パラメータは、本開示に従って組成物及び方法における所望の特性に応じて変動し得る。最低限でも且つ均等論の適用を請求項の範囲に限定しようとする試みではなく、本明細書に記載される各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効桁数に照らして通常の丸め技術を適用して解釈されるべきである。
【0023】
[23] 参照により本明細書に援用されると言われる任意の特許、刊行物又は他の開示の全体又は一部は、援用される資料が、本開示に記載される既存の定義、記述又は他の開示と矛盾しない範囲でのみ本明細書に援用される。したがって、本明細書に記載される開示は、参照により本明細書に援用されるいかなる矛盾する資料にも優先する。
【0024】
[24] 一実施形態では、本発明は、一段階水素化分解プロセスでフルクトース、デキストロース及び/又はスクロースなどの糖を変換し、プロピレングリコール及びエチレングリコールを製造するための共触媒を開示する。
【0025】
[25] 別の実施形態では、本発明は、高級ポリオールの形成を低減させながら、プロピレングリコール及びエチレングリコールに対する改善された選択性を有する、糖の変換のためのプロセスを開示する。
【0026】
[26] 一実施形態では、本発明は、一段階水素化分解プロセスでフルクトース、デキストロース及び/又はスクロースなどの糖を変換し、増強された量のプロピレングリコールを製造するための共触媒を開示する。
【0027】
[27] 別の実施形態では、本発明は、高級ポリオールの形成を低減させながら、エチレングリコールに対する選択性よりもプロピレングリコールに対する選択性が改善された、糖の変換のためのプロセスを開示する。
【0028】
[28] 一実施形態では、本発明は、他のポリオールの形成を最小限に抑えながら、プロピレングリコール及びエチレングリコールの形成に対する反応の選択性を最大化する、糖類の反応のための共触媒及びその使用を提供する。さらなる実施形態では、共触媒は、ルテニウム(Ru)及びモリブデン(Mo)を含む触媒成分を含む。一実施形態では、Ruは、水素化分解触媒の3~7重量%で存在する。より好ましい実施形態では、Ruは、水素化分解触媒の約5重量%で存在する。一実施形態では、Moは、糖供給物の0.5~10重量%で存在する。好ましくは、Moは、糖供給物の3~10重量%で存在する。一実施形態では、Moは、糖供給物の約9~10重量%で存在する。
【0029】
[29] 一実施形態では、金属触媒成分は、塩形態で担体材料上に含浸され得る。他の実施形態では、金属触媒成分は、酸化物又は元素形態で担体材料上に含浸され得る。
【0030】
[30] 別の実施形態では、糖供給原料が一段階でプロピレングリコールに変換されるような反応条件が提供される。一実施形態では、プロピレングリコールの選択的形成のために、糖反応の反応条件を変化させて、本発明の共触媒の性能が最適化され得る。このような最適化された条件は、例えば、4以上の炭素数のポリオールに対して約2%未満の選択性、好ましくはこのような高級ポリオールに対して約1%未満の選択性、より好ましくはこれらの高級ポリオールに対して約0.5%未満の選択性で、蒸留によるプロピレングリコールからの分離が困難である他のポリオールをほとんど形成しないか又は無視できる程度に形成しながらプロピレングリコールを製造できる。
【0031】
[31] さらなる実施形態では、糖供給原料を0.2時間-1~2時間-1の液体時空間速度で水素及び本発明の共触媒と接触させ、固定床反応器内における高級ポリオールの形成を最小化することを含む、糖供給原料のプロピレングリコールへの水素化分解のためのプロセスが提供される。
【0032】
[32] なおもさらなる実施形態では、糖供給原料のプロピレングリコールへの水素化分解のためのプロセスは、高級ポリオールの形成を最小化するために180℃~250℃の反応温度で実施され得る。なおもさらなる実施形態では、反応温度は、200℃~220℃であり得る。
【0033】
[33] 一実施形態では、本発明で使用される糖供給原料は、バイオマスであるか又はバイオマス資源に由来し得る。一実施形態では、糖供給原料は、別のプロセスの副産物又は廃液流であり得る。例えば、糖供給原料は、デンプン加水分解プロセス若しくはパルププロセス又はそれらの組み合わせの副産物又は廃液流であり得る。
【0034】
[34] さらなる実施形態では、本明細書で開示される共触媒を使用して製造される生成物は、グリセロールなどの少量の他の化合物と共に、プロピレングリコールとエチレングリコールとの混合物を含み得る。一実施形態では、本明細書で開示される共触媒を使用するプロセスは、典型的なガスクロマトグラフィーによって測定可能な程度に有意な量のブタンジオール(BDO)を生成しない。
【0035】
[35] 様々な実施形態において、プロピレングリコールを含む本発明の生成物は、融氷剤、凍結防止剤、樹脂、洗濯洗剤、石鹸、パーソナルケア製品、化粧品、医薬品をはじめとするが、これに限定されるものではない組成物で使用され得るか、又は食品若しくは飲料製品の食品成分として使用され得る。
【0036】
[36] 別の実施形態では、バイオマス又は糖供給原料は、水又は非水性溶媒などの希釈剤を含む。使用され得る非水性溶媒としては、メタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、n-プロパノール及びイソ-プロパノールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
[37] さらなる実施形態では、本明細書で開示されるプロセスのための共触媒は、固体又は不均一系触媒であり得る。共触媒は、担体材料上に担持され得る。好ましい担体材料は、炭素系担体材料、活性炭、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化スズ、酸化ランタン、酸化タングステン、炭化ケイ素、オキシ炭化ケイ素、炭化チタン、オキシ炭化チタン、ジルコニウムオキシ炭化、炭化タングステン、オキシ炭化タングステン及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択され得る。
【0038】
[38] 共触媒は、好ましくは、反応条件下での劣化を防止するために、表面積の大きい担体材料を備える。一実施形態では、表面積は、1グラム当たり100~1200mのブルナウアー・エメット・テラー(BET)表面積であり得る。これらの担体材料は、炭素、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ又はそれらの組み合わせを含み得るが、これらに限定されない。これらの担体材料は、共触媒材料であるMo及びRuとの混合物などの混合物又は層状材料にも調製され得る。一実施形態では、タングステン(W)も共触媒として含まれ得る。
【0039】
[39] 反応で使用される温度は、180℃~250℃の範囲であり得、圧力は、600psi~2500psiの範囲であり得る。反応の反応時間は、毎時の触媒単位重量当たりの反応物質重量である「重量時空間速度」(WHSV)という用語によって定義される。代わりに、「液体時空間速度」(LHSV)という用語が使用され得、これは、毎時の触媒単位体積当たりの反応物質体積を参照する。一実施形態では、LHSVの値は、0.2時間-1~2時間-1の速度であり、これは、当技術分野で周知の技術を用いて、反応器設計仕様に適合するように適切に修正され得る。
【0040】
[40] 本明細書に記載されるように、バイオマス又は糖供給原料の水素化分解は、プロピレングリコール生成物をもたらす。特定の実施形態によれば、プロピレングリコール生成物は、プロピレングリコールと、より少量のエチレングリコール、グリセロール及びソルビトールなどの他の副産物との混合物を含み得る。
【0041】
[41] 本明細書に記載される実施形態によって製造されたプロピレングリコールは、「バイオベース」プロピレングリコールと称され得る。このようにして製造されたプロピレングリコールには、多くの用途がある。これらのいくつかとしては、香料濃縮産業の芳香族化合物用溶媒としての使用;天然ゴム用湿潤剤;柑橘類及び他の乳化された香料の調合における成分;エリキシル剤及び医薬品の溶媒;日焼け止めローション、シャンプー、シェービングクリーム及び他の類似品の調合における溶媒及びカップリング剤;化粧品及び医薬品クリーム中の乳化剤;醸造用、乳製品用並びに冷蔵食品陳列ケースなどの間接的な食品接触を伴う低温伝熱流体の成分;半湿潤ペットフード、ベーカリー製品、食品香料及びサラダドレッシング中の保湿剤、保存料及び安定剤;粉塵抑制剤としての使用;近代的高速印刷機で使用される染料、樹脂、インクのための溶媒及び相溶化剤;金属部品製造における表面潤滑剤;ジプロピレングリコールフタレートの原料として;ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂のための可塑剤;天然ガス加工産業での使用;並びに様々なワックス製品に凍結解凍保護を提供して凍結に起因する損傷を防止することが挙げられるが、これらに限定されない。プロピレングリコールは、ソルビトール及び/又は脂肪酸とのプロピレングリコールエステルの合成のための出発物質として使用され得る。このような使用は、限定的でなく又は全てを包含するものでもなく、当業者によって容易に開発され得る。
【0042】
[42] 本開示の様々な実施形態は、バイオベースのプロピレングリコール及びエチレングリコールに関する。バイオマス又は糖類供給原料の水素化分解によって製造される、本発明のプロセスによって製造される生成物は、例えば、ASTM国際放射性同位体標準法D 6866を用いて炭素同位体比によって石油由来生成物と区別され得る。バイオマス又は糖供給原料由来の水素化分解生成物の生成物混合物から製造される生成物は、50%~100%の範囲のバイオベース炭素同位体比を有し得る。本明細書の用法では、「バイオベース炭素同位体比」という用語は、例えば、その開示全体が参照により本明細書に援用されるASTM国際放射性同位体標準法D 6866によって判定される炭素同位体比を有する組成物又は組成物成分を含み、この放射性同位体は、全体又は顕著な部分が生物学的製品又は再生可能な農業材料(植物、動物及び海洋材料を含めて)又は林業材料(ASTM 6866法)を含む組成物の指標である。
【0043】
[43] 以下の例示的且つ非限定的な実施例は、本明細書に提示される実施形態をさらに説明するために提供される。当業者は、これらの実施例の変形形態が本発明の範囲内で可能であることを理解するであろう。プロセス及び共触媒の態様は、以下の実施例に関連して説明される。化合物の下付き文字は、下付きでない文字と同義的に使用される。例えば、モリブデン酸カリウムは、KMoOとして同定される。
【実施例
【0044】
実施例1
[45] 高スループットスクリーニングバッチ反応器内において、水中に20重量%のフルクトースを含む供給物を反応させた。密封された水素化分解反応器内において、220℃、水素圧力8.3MPa(1200psi)で2時間の保持時間にわたって触媒反応条件を実行した。反応生成物をガスクロマトグラフィー(「GC」)で分析したところ、炭素粉末上の5重量%のRu(以下では単に「5% Ru CP」とする)を有するタングステン酸ナトリウム(NaWO)と比較して、また5% Ru CPを有するメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)と比較して、5% Ru CPを有するモリブデン酸カリウム(KMoO)の形態でMoを含む共触媒を使用して、プロピレングリコールに対する強化された選択性が示された。様々な反応器共触媒を使用した結果が以下の表1~3に示される。表1に示されるように、5% Ru CPを含むタングステン酸ナトリウム(NaWO)と比較して(表2)、また5% Ru CPを含むメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)と比較して(表3)、5% Ru CPを有するモリブデン酸カリウム(KMoO)を含む共触媒は、より高いプロピレングリコール収率及びより高いプロピレングリコール選択性を提供する。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
[49] 表3の参照は、洗浄されたNorit ROX上の5% Ni/1% Reである。
【0049】
実施例2
[51] 高スループットスクリーニングバッチ反応器内において、水中に20重量%のスクロースを含む供給物を反応させた。密封された水素化分解反応器内において、220℃、水素圧力8.3MPa(1200psi)で2時間の保持時間にわたって触媒反応条件を実行した。反応生成物をガスクロマトグラフィー(「GC」)で分析したところ、5% Ru CPを有するタングステン酸ナトリウム(NaWO)と比較して、また5% Ru CPを有するメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)と比較して、5% Ru CPを有するモリブデン酸カリウム(KMoO)の形態でMoを含む共触媒を使用して、プロピレングリコールに対する強化された選択性が示された。様々な反応器共触媒を使用した結果が以下の表4~6に示される。表4に示されるように、5% Ru CPを有するタングステン酸ナトリウム(NaWO)と比較して(表5)、また5% Ru CPを有するメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)と比較して(表6)、5重量%のRu CPを有するモリブデン酸カリウム(KMoO)を含む共触媒は、より高いプロピレングリコール収率及びより高いプロピレングリコール選択性を提供し、表4~6に示される実行では、ソルビトールは、検出されなかった。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
[55] 表6の参照は、添加剤を含まない5% Ru/Cである。
【0054】
実施例3
[57] 高スループットスクリーニングバッチ反応器内において、水中に20重量%のデキストロースを含む供給物を反応させた。密封された水素化分解反応器内において、220℃、水素圧力8.3MPa(1200psi)で2時間の保持時間にわたって触媒反応条件を実行した。反応生成物をガスクロマトグラフィー(「GC」)で分析したところ、5% Ru CPを有するタングステン酸ナトリウム(NaWO)と比較して、5% Ru CPを有するモリブデン酸カリウム(KMoO)の形態のMoを含む共触媒を使用して、より低いエチレングリコール選択性及びより高いプロピレングリコール選択性が示された(PG選択性に関する5KMoO対5NaWO及び10KMoO対10NaWOを除く)。
【0055】
[58] GCの結果は、5% Ru CPを有するメタバナジン酸アンモニウム(NHVO)と比較して、5% Ru CPを有するモリブデン酸カリウム(KMoO)の形態のMoを含む共触媒を使用してより低いエチレングリコール選択性及びより高いプロピレングリコール選択性も示す。
【0056】
[59] 様々な反応器共触媒を使用した結果が下記表7~9に示され、デキストロース変換は、100%であり、表7~9に示される実行では、グリセロールは、検出されなかった。
【0057】
【表7】
【0058】
[61] 表7の参照は、洗浄されたNorit ROX上の5% Ni/1% Reである。
【0059】
【表8】
【0060】
【表9】
【0061】
[64] 表7は、Ru-Mo共触媒を使用した、高デキストロース供給原料からのエチレングリコールに対するプロピレングリコールのより高い選択性を示す。しかし、表7に示される高デキストロース供給原料からのプロピレングリコールの選択性は、糖供給物の重量に対して、対応する触媒の%でRu-Mo共触媒を使用した、高フルクトース供給原料(表1に示される)又は高スクロース供給原料(表4に示される)からのプロピレングリコールの選択性ほど高くない。例えば、フルクトース変換の共触媒として10%のKMoOを使用したPG選択率28.37%(表1)及びスクロース変換の共触媒として10%のKMoOを使用したPG選択率28.11%(表4)を、デキストロース変換の共触媒として10%のKMoOを使用したPG選択率18.291%(表7)と比較されたい。
【0062】
実施例4
[66] 高スループットスクリーニングバッチ反応器内において、水中に20重量%のデキストロースを含む供給物を反応させた。密封された水素化分解反応器内において、220℃、水素圧力1200psiで2時間の保持時間にわたって触媒反応条件を実行した。反応生成物は、ガスクロマトグラフィー(「GC」)によって分析した。
【0063】
[67] ラネーニッケル及びタングステン酸ナトリウム(NaWO)と組み合わされたラネーニッケルを3~6の範囲のpHで試験した。結果は、表10に示される。表10と表7との比較は、Ru-Mo共触媒が、表10に示される触媒よりもプロピレングリコールの選択性が高いこと、またpHを変更しても、表10に示される触媒のプロピレングリコールの選択性が有意に変化しないことを示す。
【0064】
【表10】
【0065】
[69] 表10の参照は、Johnson Matthey A3B00 Sponge Copperバッチ3B0000004である。
【0066】
実施例5
[71] 高スループットスクリーニングバッチ反応器内において、Ru/C及びRu-S/Cを試験した。高スループットスクリーニングバッチ反応器内において、水中に20重量%のデキストロースを含む供給物を反応させた。密封された水素化分解反応器内において、220℃、水素圧力8.3MPa(1200psi)で2時間の保持時間にわたって触媒反応条件を実行した。反応生成物は、ガスクロマトグラフィー(「GC」)によって分析した。結果は、表11に示される(触媒及びpH効果)。表11と表7との比較は、Ru-Mo共触媒が、表11に示される触媒よりもプロピレングリコールの選択性が高いこと、またpHを変更しても、表11に示される触媒のプロピレングリコールの選択性が有意に変化しないことを示す。
【0067】
【表11】
【0068】
[73] 表11の参照は、Johnson Matthey A3B00 Sponge Copperバッチ3B0000004である。
【0069】
[74] 本開示の共触媒及び共触媒を使用するプロセスは、バイオマス又は糖供給原料の変換を提供し、一段階プロセスで高いプロピレングリコール収率及び高いプロピレン選択性を提供する。共触媒及び共触媒を使用するプロセスは、副産物形成の抑制を可能にし、従来のプロセスで発生する下流コストを削減する。
【0070】
[75] 本明細書に記載される態様は、本開示の態様を実行する様々な様式を含めて、特定の実施例に関して論じられているものの、当業者は、本発明の趣旨及び範囲内にある上述のシステム及び技術の多数の変形形態及び並べ替え形態があることを理解するであろう。