(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】ハンドル角制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240122BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240122BHJP
B62D 117/00 20060101ALN20240122BHJP
【FI】
B62D6/00 ZYW
B62D113:00
B62D117:00
(21)【出願番号】P 2020553967
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2019042505
(87)【国際公開番号】W WO2020090864
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2018203760
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003388
【氏名又は名称】東京計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 豊織
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏臣
(72)【発明者】
【氏名】船山 正行
(72)【発明者】
【氏名】岡村 信行
(72)【発明者】
【氏名】内田 朗忍
(72)【発明者】
【氏名】嘉屋 和樹
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-103761(JP,A)
【文献】特開2017-146819(JP,A)
【文献】特開2006-103581(JP,A)
【文献】特開平09-086223(JP,A)
【文献】特開2016-097737(JP,A)
【文献】特開2018-116611(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0118263(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04- 6/10
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に偏角を与えて該車両の操舵系に回転角度であるハンドル角を入力する入力軸を駆動するモータと、該入力軸のハンドル角を測定角度として検出する角度センサとを備える操舵駆動装置に対して、前記測定角度が目標角度に追従するように前記モータを制御するハンドル角制御装置であって、
前記角度センサより前記測定角度を取得する測定角度取得部と、
前記モータへ角速度を指示角速度として出力する角速度出力部と、
前記取得された測定角度に基づく角速度を測定角速度として算出する角速度算出部と、
前記指示角速度と前記測定角速度との差の絶対値が、予め設定された第1閾値以上であるか否かを判定する角速度判定部とを備え、
前記角速度出力部は、前記差の絶対値が前記第1閾値以上と判定された場合、前記モータの制御を停止することを特徴とするハンドル角制御装置。
【請求項2】
前記角速度判定部は、前記差の絶対値が前記第1閾値以上である状態が、予め設定された時間である第2閾値以上に維持されるか否かを判定し、
前記角速度出力部は、前記差の絶対値が前記第1閾値以上である状態が前記第2閾値以上に維持される場合、前記モータの制御を停止することを特徴とする請求項1に記載のハンドル角制御装置。
【請求項3】
前記差の絶対値が前記第1閾値以上である状態が前記第2閾値以上に維持される場合、前記車両の運転者に対して、前記モータの制御が停止される旨を提示する提示部を更に備えることを特徴とする請求項2に記載のハンドル角制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、車両のハンドル角を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、農作業の効率化を目的として、トラクタや田植機などの農作業用車両を指定した走行経路に追従させる自動操舵技術が知られている。このような自動操舵がなされる対象車両には、自動操舵に対応した機構が装備されたものと、自動操舵に対応せず手動でハンドル操作を行う機構のみが装備された手動用車両とがある。
【0003】
手動用車両は、操舵系に操舵トルクとしての回転力を入力する入力軸を回転させて手動操舵するためのステアリングハンドルが入力軸から取り外し可能となっている。そこで、入力軸とステアリングハンドルとの間に入力軸を所定のハンドル角に回転駆動させる操舵駆動装置を組み込み、この操舵駆動装置を制御することによって、手動用車両を自動操舵に対応させることが可能となる。
【0004】
このような、手動用車両を操舵駆動装置により制御する技術として、位置指示信号を受信する受信機と、位置指示信号に基づいて操舵制御信号を生成する操舵制御装置と、ステアリングシャフト及びこれを回転させるステアリングホイールと同軸である駆動軸周りにトルクを生成して、操舵制御信号に応答して操舵アセンブリを直接駆動する駆動アセンブリとを含む車両案内システム、が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の作業車両の自動操舵によれば、予め定められた走行経路に沿うように作業車両が走行されることとなるが、この走行経路上に障害物や人が存在する場合、作業車両の運転者は、障害物を認識して自動操舵機能の解除操作をした後に、障害物を避けるためにハンドルによって手動操作をする必要がある。つまり、従来の作業車両の自動操舵においては、自動操舵中に障害物や人を避けるためには、自動操舵機能を解除する操作が事前に必要となる、という問題がある。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、自動操舵機能の解除操作をすることなく、手動操作に切り替えることができるハンドル角制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するため、本実施形態のハンドル角制御装置は、車両の車輪に偏角を与えて該車両の操舵系に回転角度であるハンドル角を入力する入力軸を駆動するモータと、該入力軸のハンドル角を測定角度として検出する角度センサとを備える操舵駆動装置に対して、前記測定角度が目標角度に追従するように前記モータを制御するハンドル角制御装置であって、前記角度センサより前記測定角度を取得する測定角度取得部と、前記モータへ角速度を指示角速度として出力する角速度出力部と、前記取得された測定角度に基づく角速度を測定角速度として算出する角速度算出部と、前記指示角速度と前記測定角速度との差の絶対値が、予め設定された第1閾値以上であるか否かを判定する角速度判定部とを備え、前記角速度出力部は、前記差の絶対値が前記第1閾値以上と判定された場合、前記モータの制御を停止することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自動操舵機能の解除操作をすることなく、手動操作に切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る農用トラクタの構成を示す概略側面図である。
【
図2】実施形態に係る自動操舵システムのハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】ハンドル角制御装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図4】ハンドル角制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図5】ハンドル角判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0012】
(対象車両及び自動操舵システムの構成)
まず、本実施形態に係る自動操舵システムとこの自動操舵システムにより自動操舵される対象車両について説明する。
図1は、実施形態に係る農業用トラクタの構成を示す概略側面図である。
図2は、実施形態に係る自動操舵システムのハードウェア構成を示すブロック図である。
【0013】
本実施形態に係る自動操舵システムの操舵対象としての車両は、作業車であり、具体的には、
図1に示すような農業用のトラクタ1とする。このトラクタ1は、車体10と、2つの前輪11と2つの後輪12とを備える四輪車両とするが、操舵可能な車両であればどのような車両であっても良い。また、トラクタ1は、運転者が座るための座席13、図示しない作業機を連結接続するリンク機構14、ステアリングコラム15、ステアリングハンドル16、操舵駆動装置17、アクセル、ブレーキ等を含むペダル類18、屋根部19を備える。
【0014】
ステアリングコラム15内には前輪11に操舵角としての偏角を与えてトラクタ1を操舵する操舵系が備えられ、ステアリングハンドル16または操舵駆動装置17によるハンドル角を操舵系に入力するための入力軸151が内蔵され、この入力軸151の回転に基づく操舵角が前輪11に与えられる。操舵駆動装置17は、自動操舵制御をするための構成が備えられていない、手動操舵を前提としたトラクタ1を自動操舵するために後付けされる装置であり、上方においては、ステアリングハンドル16が取り付けられるとともに、下方において、操舵系の入力軸151の上端部が嵌合される。屋根部19は、車体10において前後左右に異なる位置に設けられた4つの支持フレーム上に載置される全体として略平板上の部材である。
【0015】
屋根部19の上面には、少なくともGNSS(Global Navigation Satellite System)とジャイロセンサとを含むセンサ類21が設けられる。このセンサ類21は、少なくとも車両の位置と走行面上の車両の方位とを検出するものであれば、いかなるセンサを含むものであっても良い。また、屋根部19を支持する支持フレームのうち、前方に位置する1つの支持フレームには、トラクタ1の自動操舵を制御する自動操舵制御装置22が設けられる。
【0016】
自動操舵システムは、
図2に示すように、操舵系における入力軸151を駆動する操舵駆動装置17と、センサ類21と、自動操舵制御装置22と、
図1に図示されないハンドル角制御装置23とにより構成される。
【0017】
操舵駆動装置17は、入力軸151に駆動力を伝達する伝達軸171、伝達軸171を駆動するステッピングモータであるモータ172、伝達軸171の回転角度をハンドル角として検知するロータリエンコーダである角度センサ173を備える。なお、モータ172は、入力軸151を回転させるのに十分なトルクを出力可能であるモータであれば、どのような種類のモータであっても良い。
【0018】
自動操舵制御装置22は、センサ類21による検出値に基づいて操舵角を出力し、ハンドル角制御装置23は、自動操舵制御装置22により指示された操舵角に基づいて操舵駆動装置17をフィードバック制御する。ここで、操舵駆動装置17は、角度センサ173により検知された回転位置が所望の回転位置となるハンドル角を目標角度としたモータ172の制御により伝達軸171を駆動させる。また、本実施形態において、自動操舵制御装置22は、自動操舵に係る情報を運転者に提示するとともに、運転者からの操作を取得するための入出力装置として、ディスプレイを備えるものとする。
【0019】
このように、トラクタ1に対して、操舵駆動装置17、センサ類21、自動操舵制御装置22及びハンドル角制御装置23を後付けで設置することによって、手動操舵されるように構成されたトラクタ1において自動操舵を実現することが可能となる。
【0020】
(ハンドル角制御装置の構成)
ハンドル角制御装置のハードウェア構成及び機能構成について説明する。
図3、
図4は、それぞれ、ハンドル角制御装置のハードウェア構成、機能構成を示すブロック図である。
【0021】
ハンドル角制御装置23は、ハードウェアとして、
図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)31、RAM(Random Access Memory)32、記憶装置33、外部I/F(Interface)34を備える。
【0022】
CPU31及びRAM32は協働して後述する各種機能を実行し、記憶装置33は各種機能により実行される処理に用いられる各種データを記憶する。外部I/F34は、外部装置としての自動操舵制御装置22、モータ172、角度センサ173とのデータの入出力を行う。
【0023】
また、ハンドル角制御装置23は、機能として、
図4に示すように、目標角度算出部231、測定角度取得部232、角速度出力部233、角速度算出部234、平滑化処理部235、角速度判定部236、提示部237を備える。
【0024】
目標角度算出部231は、自動操舵制御装置22により出力された目標舵角に基づいて、目標角度としてのハンドル角を算出する。測定角度取得部232は、角度センサ173により測定されたハンドル角を測定角度として取得する。角速度出力部233は、目標角度と測定角度との偏差角度が低減するような角速度を指示角速度としてモータ172へ出力する。なお、測定角度取得部232により取得された測定角度、及び角速度出力部233により出力された指示角速度は、記憶装置33に時系列に記憶されるものとする。
【0025】
角速度算出部234は、測定角度取得部232により取得された測定角度に基づく角速度を測定角速度として算出する。この測定角速度についても、測定角度、指示角速度と同様に、記憶装置33に時系列に記憶されるものとする。
【0026】
平滑化処理部235は、角速度算出部234により算出された角速度を平滑化する。角速度判定部236は、角速度出力部233により出力される角速度と、平滑化処理部235により平滑化された角速度とに基づいて、伝達軸171、延いては入力軸151の回転角度が正常に制御されているか否かを判定する。
【0027】
提示部237は、角速度判定部236により伝達軸171の回転角度が正常に制御されていないと判断された場合、自動操舵制御装置22に対して、ハンドル角制御、延いては自動操舵が停止されたことを示す停止情報を自動操舵制御装置22へ通知することによって、自動操舵が停止されたことを運転者に提示する。この提示は、本実施形態においては、自動操舵制御装置22に備えられるディスプレイによりなされるものとするが、如何なる手段を用いても良い。
【0028】
(ハンドル角制御装置の動作)
ハンドル角制御装置におけるハンドル角判定処理について説明する。
図5は、ハンドル角判定処理を示すフローチャートである。なお、ハンドル角制御装置において、ハンドル角の制御は所定の周期毎になされるものとし、
図5に示すハンドル角判定処理は、ハンドル角の制御に係る周期よりも大きい周期毎に実行されるものとする。
【0029】
図5に示すように、まず、角速度算出部234は、測定角度取得部232により取得された測定角度に基づいて、伝達軸171延いては入力軸151の角速度を測定角速度として算出する(S101)。ここで、角速度算出部234は、記憶装置33に記憶された測定角度のうち、直近の測定角度を含む複数の測定角度を微分することにより現行の測定角速度を算出する。また、算出された測定角速度は記憶装置33に時系列に記憶される。
【0030】
次に、平滑化処理部235は、測定角速度の平滑化を行う(S102)。ここで、平滑化処理部235は、現行の測定角速度を含む複数の測定角速度の移動平均を算出することによって測定角速度を平滑化して現行の平滑化された測定角速度を算出する、これによって、測定角速度における飛びやノイズが除去される。
【0031】
平滑化後、角速度判定部236は、現行の指示角速度と現行の平滑化された測定角速度との差の絶対値が予め設定された値である第1閾値以上であるか否かを判定する(S103)。
【0032】
差の絶対値が第1閾値以上である場合(S103,YES)、角速度判定部236は、連続して差の絶対値が第1閾値以上であると判定されている時間である超過時間が、予め設定された時間である第2閾値以上であるか否かを判定する(S104)。
【0033】
超過時間が第2閾値以上である場合(S104,YES)、角速度出力部233がモータ172への角速度の出力を停止してモータ172の制御を停止し(S105)、提示部237が自動操舵制御装置22へ停止情報を通知することによって、ハンドル角制御、延いては自動操舵制御の停止を運転者へ提示する(S106)。
【0034】
一方、超過時間が第2閾値以上ではない場合(S104,NO)、ハンドル角判定処理の現周期の動作が終了される。
【0035】
また、ステップS103において、差の絶対値が第1閾値以上ではない場合(S103,NO)、ハンドル角判定処理の現周期の動作が終了される。
【0036】
以上に説明したように、本実施形態に係るハンドル角制御装置23によれば、モータ172へ出力される指示角速度と、角度センサ173から取得される測定角度に基づく測定角速度との差による判定に基づいてハンドル角制御、延いては自動操舵制御が停止させる。これによって、自動操舵制御中に運転者がトラクタ1の進路を遮る障害物を避けるためにステアリングハンドル16を操作した場合、自動操舵制御が停止されて、手動操舵に切り替わるため、事前の自動操舵制御の解除操作が不要となる。
【0037】
また、指示角速度と測定角速度との剥離は、操舵駆動装置17内部の機構やモータ172の故障によっても生じ得るため、ステアリングハンドル16が操作されない状態においては、操舵駆動装置17の故障によりハンドル角制御、自動操舵制御が停止され、また、その旨が運転者に提示されるため、より安全にトラクタ1を運用することが可能となる。
【0038】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
23 ハンドル角制御装置
232 測定角度取得部
233 角速度出力部
234 角速度算出部
235 平滑化処理部
236 角速度判定部
237 提示部