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特許7423547医療機器用蛍光ポリマーコーティングフィルム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】医療機器用蛍光ポリマーコーティングフィルム
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/50 20060101AFI20240122BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 29/18 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 31/10 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 31/18 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 17/14 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 17/10 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 17/04 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
A61L27/50
A61L27/34
A61L27/16
A61L27/18
A61L29/08 100
A61L29/04 100
A61L29/06
A61L29/14
A61L29/18
A61L31/10
A61L31/04 110
A61L31/06
A61L31/14
A61L31/18
A61L17/14 100
A61L17/10
A61L17/04
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020562844
(86)(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 EP2019051990
(87)【国際公開番号】W WO2019145532
(87)【国際公開日】2019-08-01
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】18305075.6
(32)【優先日】2018-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500262120
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE STRASBOURG
(73)【特許権者】
【識別番号】509025832
【氏名又は名称】サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェ シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】515249123
【氏名又は名称】アンスティテュ・オスピタロ-ユニベルシテール・ドゥ・シルルジー・ミニ-アンバシブ・ギデ・パル・リマージュ
(73)【特許権者】
【識別番号】520276855
【氏名又は名称】アンスティテュ ドゥ ルシェルシェ コントル レ カンセール ドゥ ラパレイユ ディジェスティフ(イルカッド)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT DE RECHERCHE CONTRE LES CANCERS DE L‘APPAREIL DIGESTIF(IRCAD)
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】クリムチェンコ,アンドレイ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレイク,ボーダン
(72)【発明者】
【氏名】コン,ソンホ
(72)【発明者】
【氏名】ディアナ,ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ソアレス,レナト
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/151634(WO,A1)
【文献】特開昭59-067092(JP,A)
【文献】特開昭59-201243(JP,A)
【文献】特開2013-199477(JP,A)
【文献】特開2010-169677(JP,A)
【文献】特開平05-150395(JP,A)
【文献】nature communications,2014年,5:4089,pp.1-9,DOI:10.1038/ncomms5089
【文献】Surgery,2018年01月12日,Vol.163,pp.883-888
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00
A61L 17/00
A61L 31/00
A61L 29/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療機器をコーティングするための、近赤外線光で可視される蛍光ポリマーコーティングフィルムであって、前記コーティングフィルムが、単層または複層の疎水性ポリマーであり、蛍光色素と、対イオンと、を含む、少なくとも1種のポリマー層であり、
前記蛍光色素が、式I:
【化1】
(式I)
(式中、
およびRは、同一または異なっており、
-水素または
-(C1-C20)アルキル、シクロ(C3-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、複素環式基、シクロ(C3-C20)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ(C
1-C20)アルキル、(C1-C20)アルキルアリールもしくは(C1-C20)アルキルヘテロアリールから選択された基であって、前記基は、非置換であるか、もしくは(C1-C5)アルキル、アリールもしくは-COOR11から選択された1個もしくは2個の置換基により置換され、R11は、(C1-C20)アルキルである基または、
-式
【化2】
(式中、Eは-O-、-S-、-Se-、-NH-、-CH-から選択され、R10は、(C1-C20)アルキル、シクロ(C3-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、複素環式基、シクロ(C3-C20)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ(C1-C20)アルキル、(C1-C20)アルキルアリール、(C1-C20)アルキルヘテロアリールから選択され、R10は、非置換であるか、もしくは(C1-C5)アルキル、アリールもしくは-COOR11から選択された1個~3個の置換基により置換され、R11は、(C1-C20)アルキルである)で表される基、
からなる群から独立して選択され、

【化3】
であり、そしてA
【化4】
であるか、
またはA
【化5】
であり、そしてA
【化6】
であり、
(式中、
-RおよびRは、水素、ハロゲン、(C1-C10)アルキル、-OR、-NR、-NO、-CF、-CN、-SR、-N、-C(=O)R、-OC(=)OR、-C(=O)NR、-NRC(=O)Rからなる群から独立して選択され、式中、RおよびRが、水素、非置換(C1-C10)アルキル、非置換(C2-C10)アルケニル、非置換(C2-C10)アルキニル、シクロ(C3-C10)アルキル、複素環式基、シクロ(C3-C10)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C10)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、アリール(C1-C10)アルキル、ヘテロ(C1-C10)アルキル、(C1-C10)アルキルアリール、(C1-C10)アルキルヘテロアリールから独立して選択され、
-RおよびRは、疎水基によって置換された又は非置換の(C1-C20)アルキル、疎水基によって置換された又は非置換のシクロ(C3-C20)アルキル、疎水基によって置換された又は非置換の(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、疎水基によって置換された又は非置換の複素環式基、疎水基によって置換された又は非置換のシクロ(C3-C20)アルケニル、疎水基によって置換された又は非置換のヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、疎水基によって置換された又は非置換のアリール、疎水基によって置換された又は非置換のヘテロアリール、疎水基によって置換された又は非置換のヘテロ(C1-C20)アルキル、疎水基によって置換された又は非置換の(C1-C20)アルキルアリール、疎水基によって置換された又は非置換の(C1-C20)アルキルへテロアリールからなる群から独立して選択され、前記疎水基が、メチル、エチル、メトキシ、エチルオキシから選択される))によって表され、
前記疎水性ポリマーが、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸プロピル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸メチル-co-メタクリル酸)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、三酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリジメチルシロキサン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレンビニルアセテートコポリマー、ポリウレタン、ポリスチレンおよびポリ(エチレングリコール)を伴うそれらのコポリマーから選択される、蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項2】
最も外側のポリマー層が、生体適合性疎水性ポリマーを含む、請求項1に記載の蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項3】
前記対イオンが、
-無機対イオン、
-有機対イオンまたは
-テトラフェニルボラート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、テトラキス(4-フルオロフェニル)ボラート、テトラフェニルボラート、テトラキス[3,5-ビス-(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート、テトラキス[3,5-ビス-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ボラートおよびテトラキス[ペルフルオロ-tert-ブトキシ]アルミネートから選択される嵩高い有機対イオン、
から選択される、請求項1又は2に記載の蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項4】
前記蛍光色素が、下記式II:
【化7】
(式II)
(式中、
、A、RおよびEは、請求項1にて定義された通りであり、
12およびR13は、同一または異なっており、水素、アリール、(C1-C5)アルキルまたは-COOR11から独立して選択され、R11は、(C1-C20)アルキルである)によって表される、請求項1~3のいずれか1項に記載の蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項5】
前記蛍光色素が、下記式II(a):
【化8】
(式IIa)
(式中、
、A、RおよびEは、請求項1にて定義された通りであり、
12およびR13は、同一または異なっており、アリールから独立して選択される)によって表され、
前記蛍光色素のための前記対イオンが、無機対イオンである、請求項4に記載の蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項6】
疎水性ポリマー、特には生体適合性疎水性ポリマーと、蛍光色素と、対イオンと、によって形成され、
前記蛍光色素が、式I:
【化9】
(式I)
(式中、
およびRは、同一または異なっており、水素、非置換(C1-C20)アルキル、非置換シクロ(C3-C20)アルキル、非置換(C2-C20)アルケニル、非置換(C2-C20)アルキニル、非置換複素環式基、非置換シクロ(C3-C20)アルケニル、非置換ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、非置換ヘテロ(C1-C20)アルキル、非置換(C1-C20)アルキルアリール、非置換(C1-C20)アルキルヘテロアリールからなる群から独立して選択され、

【化10】
であり、そしてA
【化11】
であり、
またはA
【化12】
であり、そしてA
【化13】
であり、
(式中、
およびRは、水素、ハロゲン、(C1-C10)アルキル、-OR、-NR、-NO、-CF、-CN、-SR、-N、-C(=O)R、-OC(=)OR、-C(=O)NR、-NRC(=O)Rからなる群から独立して選択され、式中、RおよびRが、水素、非置換(C1-C10)アルキル、非置換(C2-C10)アルケニル、非置換(C2-C10)アルキニル、シクロ(C3-C10)
アルキル、複素環式基、シクロ(C3-C10)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C10)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、アリール(C1-C10)アルキル、ヘテロ(C1-C10)アルキル、(C1-C10)アルキルアリール、(C1-C10)アルキルヘテロアリールから独立して選択され、
およびRは、疎水基によって置換された又は非置換の(C1-C20)アルキル、疎水基によって置換された又は非置換のシクロ(C3-C20)アルキル、疎水基によって置換された又は非置換の(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、疎水基によって置換された又は非置換の複素環式基、疎水基によって置換された又は非置換のシクロ(C3-C20)アルケニル、疎水基によって置換された又は非置換のヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、疎水基によって置換された又は非置換のアリール、疎水基によって置換された又は非置換のヘテロアリール、疎水基によって置換された又は非置換のヘテロ(C1-C20)アルキル、疎水基によって置換された又は非置換の(C1-C20)アルキルアリール、疎水基によって置換された又は非置換の(C1-C20)アルキルへテロアリールからなる群から独立して選択され、前記疎水基が、メチル、エチル、メトキシ、エチルオキシから選択される))によって表され、
前記対イオンは、無機対イオンであるか、有機対イオンであるか、またはテトラフェニルボラート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、テトラキス(4-フルオロフェニル)ボラート、テトラフェニルボラート、テトラキス[3,5-ビス-(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート、テトラキス[3,5-ビス-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ボラートおよびテトラキス[ペルフルオロ-tert-ブトキシ]アルミネートから選択される嵩高い有機対イオンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項7】
は、
【化14】
であり、 は、
【化15】
であり、
およびRが請求項1にて定義された通りである、請求項1~6のいずれか1項に記載の蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項8】
およびRが、非置換(C1-C20)アルキル、非置換シクロ(C3-C20)アルキル、非置換(C2-C20)アルケニル、非置換(C2-C20)アルキニル、非置換複素環式基、非置換シクロ(C3-C20)アルケニル、非置換ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、非置換ヘテロ(C1-C20)アルキル、非置換(C1-C20)アルキルアリール、非置換(C1-C20)
アルキルヘテロアリールからなる群から独立して選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項9】
およびRが、非置換(C8-C20)アルキルの群、特には非置換(C12-C18)アルキルの群から独立して選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載の蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項10】
前記蛍光色素が、式Ia
【化16】
(式Ia)
であるか、
または式Ib
【化17】
(式Ib)
であるか、または
【化18】
(式IIb)
であり、
およびRが、請求項8にて定義された通りである、請求項1~9のいずれか1項に記載の蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項11】
前記蛍光色素が、
【化19】
または、
【化20】

【化21】

【化22】

【化23】
である、請求項1~10に記載の蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項12】
ポリマー層中の蛍光色素の重量が、前記ポリマー層中の前記疎水性ポリマーの、0.1
~50重量%であり、特には0.5~10重量%、更により特には1重量%である、請求項1~11のいずれか1項に記載の蛍光ポリマーコーティングフィルム。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載近赤外線光で可視される蛍光ポリマーコーティングフィルムにより医療機器をコーティングするための方法であって、前記方法が、
(i)前記医療機器を、1種以上の溶媒、疎水性ポリマー、蛍光色素および対イオンを含む溶液と接触させる工程であって、
前記疎水性ポリマーが、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸プロピル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸メチル-co-メタクリル酸)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、三酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリジメチルシロキサン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレンビニルアセテートコポリマー、ポリウレタン、ポリスチレンおよびポリ(エチレングリコール)を伴うそれらのコポリマーから選択され、
前記蛍光色素が、式I:
【化24】
(式I)
(式中、
およびRは、同一または異なっており、
-水素または
-(C1-C20)アルキル、シクロ(C3-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、複素環式基、シクロ(C3-C20)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ(C1-C20)アルキル、(C1-C20)アルキルアリールもしくは(C1-C20)アルキルヘテロアリールから選択され、前記基は、非置換であるか、もしくは(C1-C5)アルキル、アリールもしくは-COOR11から選択された1個もしくは2個の置換基により置換され、R11は、(C1-C20)アルキルである基または、
-式
【化25】
(式中、Eは-O-、-S-、-Se-、-NH-、-CH-から選択され、R10は、(C1-C20)アルキル、シクロ(C3-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、複素環式基、シクロ(C3-C20)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ(C1-C20)アルキル、(C1-C20)アルキルアリール、(C1-C20)アルキルヘテロアリールから選択され、R10は、非置換であるか、もしくは(C1-C5)アルキル、アリールもしくは-COOR11から選択された1個もしくは2個の置換基により置換され、R11は、(C1-C20)アルキルである)で表される基、
からなる群から独立して選択され、

【化26】
であり、そしてA
【化27】
であるか、
またはA
【化28】
であり、そしてA
【化29】
であり、
(式中、
およびRは、水素、ハロゲン、(C1-C10)アルキル、-OR、-NR、-NO、-CF、-CN、-SR、-N、-C(=O)R、-OC(=)OR、-C(=O)NR、-NRC(=O)Rからなる群から独立して選択され、式中、RおよびRが、水素、非置換(C1-C10)アルキル、非置換(C2-C10)アルケニル、非置換(C2-C10)アルキニル、シクロ(C3-C10)アルキル、複素環式基、シクロ(C3-C10)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C10)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、アリール(C1-C10)アルキル、ヘテロ(C1-C10)アルキル、(C1-C10)アルキルアリール、(C1-C10)アルキルヘテロアリールから独立して選択され、
およびRは、疎水基によって置換された又は非置換の(C1-C20)アルキル、疎水基によって置換された又は非置換のシクロ(C3-C20)アルキル、疎水基によって置換された又は非置換の(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、疎水基によって置換された又は非置換の複素環式基、疎水基によって置換された又は非置換のシクロ(C3-C20)アルケニル、疎水基によって置換された又は非置換のヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、疎水基によって置換された又は非置換のアリール、疎水基によって置換された又は非置換のヘテロアリール、疎水基によって置換された又は非置換のヘテロ(C1-C20)アルキル、疎水基によって置換された又は非置換の(C1-C20)アルキルアリール、疎水基によって置換された又は非置換の(C1-C20)アルキルへテロアリールからなる群から独立して選択され、前記疎水基が、メチル、エチル、メトキシ、エチルオキシから選択される))によって表され、
前記対イオンは、無機対イオン、または有機対イオン、またはテトラフェニルボラート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、テトラキス(4-フルオロフェニル)ボラート、テトラフェニルボラート、テトラキス[3,5-ビス-(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート、テトラキス[3,5-ビス-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ボラートおよびテトラキス[ペルフルオロ-tert-ブトキシ]アルミネートから選択される嵩高い有機対イオンである、工程と、
(ii)前記溶液中の前記溶媒を蒸発させ、前記医療機器上に蛍光色素と対イオンを含む、1種のポリマー層を形成する工程と、を含む、方法。
【請求項14】
前記コーティングフィルムが複層である場合、前記方法が、工程(ii)の後に下記の工程(iii)および工程(iv)を含む、請求項13に記載の方法:
(iii)工程(ii)で得られた、コーティングされた医療機器と、1種以上の溶媒および疎水性ポリマーを含み、最終的に任意の蛍光色素を欠如している溶液とを、接触させる工程と、
(iv)前記溶液中の前記溶媒を蒸発させ、前記医療機器上にポリマー層を作製する工程。
【請求項15】
前記溶液が、有機溶媒を含有し、特には、アセトニトリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、石油エーテル、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンから選択される有機溶媒を含有する、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記疎水性ポリマーが、1~100mg/ml、好ましくは30mg/mlの溶液であり、ポリマー層中の蛍光色素の重量が、前記ポリマー層中の前記疎水性ポリマーの、0.1~50重量%、特には0.5~10重量%、更により特には1%である、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記医療機器が、手術用パッキング、フィデューシャルマーカ、外科用タップ、針、外科手術用開創器、クリップ、外科用糸、ステープル、ナイフ、安全ピン、はさみ、クランプ、メス、止血鉗子、ピンセット、鉗子、吸引チップ、ガーゼ、コットノイド、スポンジ、カテーテル、ステンレス鋼ワイヤ、外科用位置マーカ、ステント、ペースメーカ、神経刺激装置、ドラッグデリバリーシステム、ポート・ア・カス(Port-a-Cath)、磁気自動吻合器、血管内塞栓デバイス、機械式リニアステープラ、機械式環状ステープラ、ドラッグデリバリーインプラント、圧電性インプラント、診断用ビデオカプセル、磁気追跡カプセルから選択される、請求項13~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記工程(i)および(ii)が、1~50回、好ましくは1~20回繰り返される、請求項13~17のうちいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記工程(iii)および(iv)が、1~20回繰り返される、請求項13~18のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器用蛍光ポリマーコーティングフィルムおよび当該蛍光ポリマーフィルムにより医療機器をコーティングするための方法に関する。
【0002】
外科手術中、重要な解剖学上構造または病変の位置を突き止めることは大方の場合難しい。これは、他の構造の裏側に隠れているか、器官の外に暴露されていないからである。腹腔鏡手術においては、外科用器具の位置を正確に捉えることも必要となる。組織への深い浸透性と高い信号対雑音比を有するため、近赤外線蛍光は外科手術にて広く使用され、隠れた器官または組織を可視化する。近赤外線蛍光(NIR)を使用する画像誘導手術により、器官の損傷が減少し、手術の正確性が向上し、アクセスが難しい領域の外科手術が実施可能となる。
【0003】
したがって、NIRを使用した画像誘導手術中、手術用蛍光イメージングシステムにより可視状態とするために、フィデューシャルなどの特別な医療用工具が蛍光色素により標識される必要がある。
【0004】
しかしながら、インドシアニングリーン(ICG)のような大半の蛍光色素は、外科手術で直接使用されることができない。体全体に容易に色素が拡散することで、腹腔内空隙への局所的な色素拡散および色素漏出の制御が難しくなるためである。更には、ICGは他の分子に容易に結合することができない。
【0005】
過去10年間、ポリマーの近赤外線蛍光材料は外科的器具および医療器具をコーティングするために開発されてきた。現在、コーティングはほぼ全てがインドシアニングリーン(ICG)を基にしている。これは、FDAにより人間への使用が承認されている、最も頻繁に使用されている近赤外線蛍光色素である。
【0006】
例えば国際公開第2017/151634号明細書は、医療機器をコーティングするための、ポリマーマトリックスおよびローダミン、インドシアニングリーンまたは塩化ダンシルといった蛍光体色素を含む組成物を記載している。
【0007】
ただし、ICGをベースとするポリマーコーティングは、滑らかな表面上で均一にコーティングを生成することができず、安定性にも限界があることがわかっている。これは、イメージングのコントラストが不十分であり、体内へと挿入した後に迅速に失われることを意味している。
【0008】
事実、フィデューシャルをコーティングするための現存する技術は、次の欠点に見舞われている。すなわち、
1)組織に色素漏出をもたらす、コーティングの低い安定性
2)低輝度
3)急速な化学的および光化学的分解(漂白)である。
【0009】
ICGをベースとするコーティング材料と比較すると、医療機器および外科用機器をコーティングするのに適切であり、輝度および生体内での安定性が向上した新規NIR蛍光材料を提供することが必要である。
【0010】
大きな困難にも関わらず、本発明の発明者たちは、適切な対イオンに促進された近赤外線蛍光色素の特定のファミリーは、非常に薄いポリマー層中で安定しかつ均一に固定化され得ることを観測した。当該ポリマーフィルムは、滑らかな表面に対して高い接着特性を示し、医療機器上でコーティングフィルムとして機能するのに適している。ICGをベースとするコーティングフィルムと比較すると、本発明の新規コーティングフィルムは、向上したNIR蛍光輝度および生体内でのより良好な安定性を示す。
【0011】
更には、本発明者たちは、生体内でのコーティングフィルムの安定性を更に向上させることができるコーティング医療機器向けの、単純かつ迅速な実施方法を開発した。
【0012】
本発明の第1の態様は、疎水性ポリマー、詳細には生体適合性疎水性ポリマーを基にしたコーティングフィルムに関する。このポリマーは、対イオンおよび長鎖シアニン7.5誘導体およびその類似物のファミリーに属する近赤外線色素を含む。
【0013】
より詳細には、本発明のこの態様は、医療機器をコーティングするため、近赤外線光で可視される蛍光ポリマーのコーティングフィルムを提供する。当該コーティングフィルムは、疎水性ポリマーの単層または複層であり、イオン性蛍光色素およびその対イオンを含む少なくとも1種のポリマー層である。
【0014】
当該蛍光色素は、式Iによって表されており、
【化1】
(式I)
式中、
-RおよびRは、同一または異なっており、
-水素または
-(C1-C20)アルキル、シクロ(C3-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、複素環式基、シクロ(C3-C20)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ(C1-C20)アルキル、(C1-C20)アルキルアリールもしくは(C1-C20)アルキルヘテロアリールから選択された基であって、当該基は、非置換であるか、もしくは(C1-C5)アルキル、アリールもしくは-COOR11から選択された1個もしくは2個の置換基により置換されたものであり、R11が(C1-C20)アルキルである基または、
-式
【化2】
の基であって、式中、Eは-O-、-S-、-Se-、-NH-、-CH-から選択され、R10は、(C1-C20)アルキル、シクロ(C3-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、複素環式基、シクロ(C3-C20)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ(C1-C20)アルキル、(C1-C20)アルキルアリール、(C1-C20)アルキルヘテロアリールから選択され、R10は、非置換であるか、もしくは(C1-C5)アルキル、アリールもしくは-COOR11から選択された1個~3個の置換基により置換され、R11が(C1-C20)アルキルである基からなる群から独立して選択され、
-A
【化3】
であり、A
【化4】
であるか、
-またはA
【化5】
であり、A
【化6】
であり、
式中、
-RおよびRは、水素、ハロゲン、(C1-C10)アルキル、-OR、-NR、-NO、-CF、-CN、-SR、-N、-C(=O)R、-OC(=)OR、-C(=O)NR、-NRC(=O)Rからなる群から独立して選択され、RおよびRは、水素、非置換(C1-C10)アルキル、非置換(C2-C10)アルケニル、非置換(C2-C10)アルキニル、シクロ(C3-C10)アルキル、複素環式基、シクロ(C3-C10)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C10)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、アリール(C1-C10)アルキル、ヘテロ(C1-C10)アルキル、(C1-C10)アルキルアリール、(C1-C10)アルキルヘテロアリールから独立して選択され、
-RおよびRは、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換されたシクロ(C3-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換された(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、疎水基によって最終的に置換された複素環式基、疎水基によって最終的に置換されたシクロ(C3-C20)アルケニル、疎水基によって最終的に置換されたヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、疎水基によって最終的に置換されたアリール、疎水基によって最終的に置換されたヘテロアリール、疎水基によって最終的に置換されたヘテロ(C1-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキルアリール、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキルヘテロアリールからなる群から独立して選択され、当該疎水基が、メチル、エチル、メトキシ、エチルオキシから選択される。
【0015】
特定の実施形態によれば、当該疎水性ポリマーは、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸プロピル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸メチル-co-メタクリル酸)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、三酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリジメチルシロキサン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレンビニルアセテートコポリマー、ポリウレタン、ポリスチレンおよびポリ(エチレングリコール)を伴うそれらのコポリマーから選択される。
【0016】
ICGをベースとするポリマーコーティングフィルムと比較すると、本発明のコーティングフィルムは、向上したNIR蛍光輝度を示す。更には、当該コーティングフィルムは更に均一で安定しており、滑らかな表面上で著しく良好な接着性を有する。
【0017】
本明細書にて使用する場合、用語「コーティングフィルム」は、これまでに定義されている式Iの蛍光色素およびこの後言及された対イオンを含むポリマー溶液を加えた後に成形されている、単層または複層の乾燥した1つまたは複数の薄層を指す。
【0018】
理論に縛られるものではないが、こうした利点は、上にて定義されている式Iの疎水性シアニン7.5誘導体および対イオンを使用することによるものであり得る。
【0019】
実際、上記式Iの蛍光色素はICGよりも疎水性が高く、ICGをベースとするポリマーコーティングフィルムにより発生する溶解度の課題を回避する一助となり得る。
【0020】
式Iの蛍光色素は、650nm~1400nm、詳細には700nm~1000nmの波長を有する光により可視できる。
【0021】
当該コーティングフィルムが複数のポリマー層を含む場合、一部ポリマー層は蛍光色素およびその対イオンを欠如し得る。本発明のコーティングフィルム中、こうしたポリマー層は保護または機械的支持機能を提供することができる。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、最も外側の層は、生体適合性疎水性ポリマーを基にしている。
【0023】
上にて言及されている疎水性ポリマーは、生体適合性ポリマーのいずれかであり、例えばポリ(エチレングリコール)と組み合わせるといったような従来の方法により生体適合するように作製され得る。
【0024】
本明細書にて使用する場合、用語「生体適合性疎水性ポリマー」は生体の動物またはヒト組織または系に使用されるのに適切な疎水性ポリマーを意味する。これは、手術といった医療手術に必要な時間の間、動物またはヒトの体の中で危害、炎症、免疫反応および/または発ガン性を引き起こすことがなく、無毒性であり、炎症性がなく、アレルギーもなく、ガン性がないものである。
【0025】
生体適合性ポリマーを採用することで、医療機器または外科用機器をコーティングすることなどを目的として、本発明のコーティングフィルムが生体内で適用されるのに適合させることができる。
【0026】
本発明の特定の実施形態では、蛍光色素は式IIによって表されており、
【化7】
(式II)
式中、
-A、A、RおよびEは、これまでに定義されている通りであり、
-R12およびR13は、同一または異なっており、水素、アリール、(C1-C5)アルキルまたは-COOR11から独立して選択され、R11は(C1-C20)アルキルである。
【0027】
本発明の更に特定の実施形態では、蛍光色素は式II(a)によって表されており、
【化8】
(式IIa)
式中、
-A、A、RおよびEは、これまでに定義されている通りであり、
-R12およびR13は、同一または異なっており、アリールから独立して選択され、
対イオンは無機対イオンである。
【0028】
本発明の別の特定の実施形態では、医療機器をコーティングするための、近赤外線光で可視される蛍光ポリマーコーティングフィルムを提供することである。当該コーティングフィルムは疎水性ポリマーにより形成されており、詳細には生体適合性疎水性ポリマー、蛍光色素および対イオンにより形成されている。
当該蛍光色素は、式Iによって表されており、
【化9】
(式I)
式中、
-RおよびRは、同一または異なっており、水素、非置換(C1-C20)アルキル、非置換シクロ(C3-C20)アルキル、非置換(C2-C20)アルケニル、非置換(C2-C20)アルキニル、非置換複素環式基、非置換シクロ(C3-C20)アルケニル、非置換ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、非置換ヘテロ(C1-C20)アルキル、非置換(C1-C20)アルキルアリール、非置換(C1-C20)アルキルヘテロアリールからなる群から独立して選択され、
-A
【化10】
であり、A
【化11】
であり、
-またはA
【化12】
であり、A
【化13】
であり、
式中、
-RおよびRは、水素、ハロゲン、(C1-C10)アルキル、-OR、-NR、-NO、-CF、-CN、-SR、-N、-C(=O)R、-OC(=)OR、-C(=O)NR、-NRC(=O)Rからなる群から独立して選択され、式中、RおよびRは、水素、非置換(C1-C10)アルキル、非置換(C2-C10)アルケニル、非置換(C2-C10)アルキニル、非置換シクロ(C3-C10)アルキル、非置換複素環式基、非置換シクロ(C3-C10)アルケニル、非置換ヘテロシクロ(C2-C10)アルケニル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、非置換アリール(C1-C10)アルキル、非置換ヘテロ(C1-C10)アルキル、非置換(C1-C10)アルキルアリール、非置換(C1-C10)アルキルヘテロアリールから独立して選択され、
-RおよびRは、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換されたシクロ(C3-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換された(C2-C20)アルケニル、疎水基によって最終的に置換された(C2-C20)アルキニル、疎水基によって最終的に置換された複素環式基、疎水基によって最終的に置換されたシクロ(C3-C20)アルケニル、疎水基によって最終的に置換されたヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、疎水基によって最終的に置換されたアリール、疎水基によって最終的に置換されたヘテロアリール、疎水基によって最終的に置換されたヘテロ(C1-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキルアリール、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキルヘテロアリールからなる群から独立して選択され、当該疎水基は、メチル、エチル、メトキシ、エチルオキシから選択され、
-当該対イオンは、無機対イオンまたは嵩高い有機対イオンである。
【0029】
対イオンの存在は、本発明のコーティングフィルム中で、蛍光色素の凝集および自己消失の減少に寄与することがある。
【0030】
本発明に関して、対イオンは、
-無機対イオン、
-有機対イオンまたは
-テトラフェニルボラート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、テトラキス(4-フルオロフェニル)ボラート、テトラフェニルボラート、テトラキス[3,5-ビス-(トリフルオロメチル)フェニル]ボラート、テトラキス[3,5-ビス-(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ボラートおよびテトラキス[ペルフルオロ-tert-ブトキシ]アルミネートから選択される、嵩高い有機対イオンから選択される。
【0031】
本明細書にて使用する場合、用語「嵩高い有機対イオン」は、芳香族および/または脂肪族残基を有している大きな有機アニオンを意味する。
【0032】
無機対イオンの例としては、クロリド、ペルクロレート、スルホネート、ナイトレート、テトラフルオロボラート、ヘキサフルオロホスファートが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0033】
有機対イオンの例としては、アセテート、ホルメート、プロピオネート、脂肪酸アニオン、ベンゾエート、トシレートが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0034】
適切な対イオンの使用に加え、蛍光色素の凝集および自己消失を避けるため、ポリマー層中のポリマーと比較すると、適切な蛍光色素の重量範囲内で制御することもまた必要となる。好ましくは、ポリマー層中の蛍光色素の重量は、当該ポリマー層中の疎水性ポリマーの0.1~50重量%であり、詳細には0.5~10重量%、更により詳細には1%重量である。
【0035】
本明細書では、用語「アルキル」は、単独または組み合わせで、指示数の炭素原子を有する分枝または非分枝の飽和炭化水素基を指す。本明細書にて使用する場合、式中、xおよびyがそれぞれ異なる正の整数である用語「(Cx-Cy)アルキル」は、x~yの数の炭素原子を有するアルキル基を意味する。例えば、本明細書にて使用する場合、用語「(C1-C20)アルキル」、「(C1-C10)アルキル」、「(C8-C20)アルキル」、「(C12-C18)アルキル」はそれぞれ、1~20個の炭素原子を有するアルキル基、1~10個の炭素原子を有するアルキル基、8~20個の炭素原子を有するアルキル基または12~18個の炭素原子を有するアルキル基を指す。
【0036】
アルキルの例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソ-プロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソ-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシル、3-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、2,3-ジメチルペンチル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデセニル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-イコシルを挙げることができるが、これに限定されない。
【0037】
用語「ヘテロ(C1-C10)アルキル」、「ヘテロ(C1-C20)アルキル」および「ヘテロ(C8-C20)アルキル」はそれぞれ、これまでに定義されている(C1-C10)アルキル基、(C1-C20)アルキル基または(C8-C20)アルキル基を指す。これらは、酸素、窒素、リンまたは硫黄によって1個以上の炭素原子が置き換えられている。ヘテロアルキルの例としては、アルキルオキシ(メトキシ、エトキシなど)、アルキルメルカプト(メチルメルカプト、エチルメルカプトなど)またはアルキルオキシエチル(メトキシエチルなど)などであり得る。
【0038】
用語「シクロアルキル」は、少なくとも3個の炭素原子から構成されている、環式飽和炭素をベースとする環を指す。用語「シクロ(3-20)アルキル」、「シクロ(3-10)アルキル」または「シクロ(8-20)アルキル」はそれぞれ、3~20個の炭素原子、3~10個の炭素原子または8~20個の炭素原子から構成されているシクロアルキルを指す。
【0039】
シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロテトラデシル、シクロヘキサデシル、シクロヘプタデシル、シクロオクタデシル、シクロノナデシル、シクロイコシルが挙げられるが、これに限定されない。
【0040】
本明細書にて使用する場合、用語「アルケニル」は、単独または組み合わせで、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する、指示数の炭素原子の分枝または非分枝の炭化水素基を指す。用語「(C2-C20)アルケニル」、「(C2-C10)アルケニル」または「(C8-C20)アルケニル」は、それぞれ2~20個の原子のアルケニル基、2~10個の炭素原子のアルケニル基または8~20個の炭素原子のアルケニル基を表している。
【0041】
アルケニル基の例は、エテニル、1-プロぺニル、2-プロぺニル、イソプロぺニル、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、イソブテニル、1-ペンテニル、1-ヘキセニル、1-へプテニル、1-オクテニル、1-ノネニル、2-ノネニル、1-デセニル、1-ウンデセニル、1-ドデセニル、1-トリデセニル、1-テトラデセニル、1-ペンタデセニル、1-ヘキサデセニル、1-ヘプタデセニル、1-オクタデセニル、1-ノナデセニル、1-エイコセニル、1,3-ブタジエニル、1,4-ペンタジエニルである。
【0042】
用語「シクロアルケニル」は、少なくとも3個の炭素原子から構成され、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含有する、環式不飽和炭素をベースとする環を指す。用語「シクロ(3-20)アルケニル」、「シクロ(3-10)アルケニル」および「シクロ(8-20)アルケニル」はそれぞれ、3~20個の炭素原子を有するシクロアルケニル、3~10個の炭素原子を有するシクロアルケニルまたは8~20個の炭素原子を有するシクロアルケニルを表している。
【0043】
シクロアルケニル基の例には、シクロプロぺニル、シクロブテニル、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル、シクロへプテニル、シクロオクテニルなどが挙げられるが、これに限定されない。
【0044】
本明細書にて使用する場合、用語「ヘテロシクロアルケニル」は、少なくとも2個の炭素原子および酸素、窒素、リンまたは硫黄から選択される、少なくとも1種のヘテロ原子を含む、複素環式不飽和炭素をベースとする環を指す。用語「ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル」、「ヘテロシクロ(C2-C10)アルケニル」および「ヘテロシクロ(C8-C20)アルケニル」はそれぞれ、2~20個の炭素原子を有するヘテロシクロアルケニル、2~10個の炭素原子を有するヘテロシクロアルケニルまたは8~20個の炭素原子を有するヘテロシクロアルケニルを指す。
【0045】
本明細書にて使用する場合、用語「アルキニル」は、単独または組み合わせで、2個の炭素原子間の三重結合を少なくとも1つ含む指示数の原子である、分枝または非分枝炭化水素基を意味する。用語「(C2-C20)アルキニル」、「(C2-C10)アルキニル」または「(C8-C20)アルキニル」はそれぞれ、2~20個の炭素原子、2~10個の炭素原子または8~20個の炭素原子を有するアルキニル基を表している。アルキニル基の例としては、エチニル、プロピニル、ブチニル、オクチニルなどが挙げられる。
【0046】
本明細書にて単独で使用されるか、または別の基の一部としての用語「アリール」は、環部分中に6~10個の炭素を含有する、単環式および二環式の芳香族基を指す。アリールの例としては、フェニルおよびナフチルが挙げられる。
【0047】
用語「(C1-C20)アルキルアリール」および「(C1-C10)アルキルアリール」はそれぞれ、(C1-C20)アルキル基または(C1-C10)アルキル基によって置換されている、定義されるようなアリール基を指す。
【0048】
用語「ヘテロアリール」は、1個以上の炭素原子が酸素、窒素、リンまたは硫黄によって置き換えられているアリール基、例えば4-ピリジル基、2-イミダゾリル基、3-ピラゾリル基およびイソキノリニル基を指す。
【0049】
用語「アリール(C1-C10)アルキル」は、アリールによって置換されている、これまでに定義されているような(C1-C10)アルキルを指す。
【0050】
用語「(C1-C20)アルキルヘテロアリール」および「(C1-C10)アルキルヘテロアリール」はそれぞれ、(C1-C20)アルキル基または(C1-C10)アルキル基によって置換されている、これまでに定義されているようなヘテロアリール基を意味する。
【0051】
用語「複素環式基」は、1個以上の炭素原子が酸素、窒素、リンまたは硫黄原子によって置き換えられている炭素環式基を指す。複素環式基は、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルケニルなどであり得る。複素環式基の例としては、フリル、ピロリル、イミダゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、ピロリジニル、ピリジル、キノリル、ピリミジニルが挙げられる。
【0052】
用語「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を意味する。
【0053】
本明細書にて使用する場合、用語「機器」および「工具」は、互換可能である。
【0054】
好ましい実施形態では、上で記載された式I、式IIまたは式IIaのRおよび/またはRは、-OR、-NR、-SR、-C(=O)R、-OC(=)OR、-C(=O)NR、-NRC(=O)Rから選択され、式中、RおよびRは、非置換(C1-C10)アルキル、非置換(C2-C10)アルケニル、非置換(C2-C10)アルキニル、非置換シクロ(C3-C10)アルキル、非置換シクロ(C3-C10)アルケニル、非置換アリール、非置換アリール(C1-C10)アルキル、非置換(C1-C10)アルキルアリールから独立して選択される。
【0055】
本発明の蛍光ポリマーコーティングフィルムに関連している特定の実施形態では、これまでに定義されている式Iの置換基Aは、
【化14】
であり、
式Iの置換基Aは、
【化15】
であり、
およびRはこれまでに定義された通りである。
【0056】
本発明の一実施形態によれば、これまでに定義されている式I、式IIまたは式IIaのRおよびRは、非置換(C1-C20)アルキル、非置換シクロ(C3-C20)アルキル、非置換(C2-C20)アルケニル、非置換(C2-C20)アルキニル、非置換複素環式基、非置換シクロ(C3-C20)アルケニル、非置換ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、非置換ヘテロ(C1-C20)アルキル、非置換(C1-C20)アルキルアリール、非置換(C1-C20)アルキルヘテロアリールからなる群から独立して選択される。
【0057】
本発明の別の実施形態によれば、上で記載された式I、式IIまたは式IIaのRおよびRのそれぞれは、疎水基によって置換されている前述の置換基から独立して選択され得る。
【0058】
当該疎水基は、メチル、エチル、メトキシ、エチルオキシから選択され得る。
【0059】
本発明の更に特定の実施形態によれば、これまでに定義されているような式I、式IIまたは式IIaのRおよびRは、非置換(C8-C20)アルキル、非置換シクロ(C8-C20)アルキル、非置換(C8-C20)アルケニル、非置換(C8-C20)アルキニル、非置換シクロ(C8-C20)アルケニル、非置換ヘテロシクロ(C8-C20)アルケニルおよびヘテロ(C8-C20)アルキルの群から独立して選択される。
【0060】
本発明の好ましい実施形態では、上で記載されているような式I、式IIまたは式IIaのRおよびRは、非置換(C8-C20)アルキル、詳細には非置換(C12-C18)アルキルの群から独立して選択される。
【0061】
本発明の別の好ましい実施形態では、上で記載されているような式I、式IIまたは式IIaのRおよびRは、非置換(C12-C19)アルキル、(C12-C17)アルキル、または(C12-C16)アルキル、または(C12-C15)アルキル、または(C11-C19)アルキル、(C11-C18)アルキル、または(C11-C17)アルキル、または(C11-C16)アルキル、または(C11-C15)アルキル、または(C11-C14)アルキル、または(C13-C19)アルキル、または(C13-C18)アルキル、または(C13-C17)アルキル、または(C13-C16)アルキル、または(C14-C19)アルキル、または(C14-C18)アルキル、または(C14-C17)アルキル、または(C15-C19)アルキル、または(C15-C18)アルキルの群から独立して選択される。
【0062】
より好ましくは、上で記載されているような式I、式IIまたは式IIaのRおよびRは、n-ドデセニル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシルまたはn-イコシルから独立して選択される。
【0063】
本発明の特定の実施形態は、蛍光ポリマーコーティングフィルムに関し、蛍光色素は、式Iaの蛍光色素、
【化16】
(式Ia)
であるか、または
式Ibの蛍光色素、
【化17】
(式Ib)
、もしくは
【化18】
(式IIb)
である。
およびRは、非置換(C8-C20)アルキルの群から独立して選択され、詳細には非置換(C12-C18)アルキルの群から独立して選択される。
【0064】
本発明のより詳細な実施形態は、蛍光コーティングフィルムに関しており、蛍光色素は、
【化19】
、または
【化20】

【化21】

【化22】

【化23】
である。
【0065】
本発明のコーティングフィルム中に含有されているポリマーはまた、好ましくは生分解性ではなく、組織内での蛍光色素の拡散を防止する。
【0066】
本明細書にて使用する場合、用語「生分解性」は、動物またはヒト体内での代謝中、加水分解反応または酵素反応といった分解プロセスを通じ、低分子量の物質へと分解可能であるようなポリマーの適当さを指す。
【0067】
本発明の好ましい実施形態では、当該ポリマーは、ポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)、ポリ(メタクリル酸メチル)およびポリカプロラクトンから選択される。
【0068】
本発明のより好ましい実施形態では、当該ポリマーはポリ(メタクリル酸メチル)およびポリカプロラクトンから選択される。
【0069】
本発明のコーティングフィルムの生体適合性のために、例えば手術用パッキング、フィデューシャルマーカ、外科用タップ、針、外科手術用開創器、クリップ、外科用糸、ステープル、ナイフ、安全ピン、はさみ、クランプ、メス、止血鉗子、ピンセット、鉗子、吸引チップ、ガーゼ、コットノイド(cottonoid)、スポンジ、カテーテル、ステンレス鋼ワイヤ、外科用位置マーカ、ステント、ペースメーカ、神経刺激装置、ドラッグデリバリーシステム、Port-a-Cath、磁気自動吻合器、血管内塞栓デバイス、機械式リニアステープラ、機械式環状ステープラ、ドラッグデリバリーインプラント、圧電性インプラント、診断用ビデオカプセル、磁気追跡カプセルといった医療機器または外科用機器へと適用されることが特に適している。
【0070】
例えば、本発明のコーティングフィルムによってコーティングされた外科用マーカまたはカテーテルは、腫瘍または脆弱な解剖学上構造の識別に特に有用である。
【0071】
本発明のコーティングフィルムによってコーティングされた腔内機器またはインプラントは、従来の手術用蛍光イメージングシステムによって、または近赤外線分光法によって可視化され得る。これにより、組織または器官の背後に隠れている場合であっても画像誘導手術中に当該機器またはインプラントの識別を容易にする。
【0072】
本発明の蛍光ポリマーフィルムは、650nm~1400nm、詳細には700nm~1000nmの波長を有する近赤外線光にて可視される。
【0073】
本発明の蛍光ポリマーフィルムは、1つ以上のポリマー層中において、コーティングフィルムの機械的特性または生体適合性を向上させる機能を有する、ポリマー分子または小さな有機分子であり得る1つ以上の添加剤を更に含み得る。
【0074】
近赤外線光にて可視される蛍光ポリマーコーティングフィルムはまた、手術中、生物学的組織、特に器官といったヒトまたは動物組織の蛍光マーカとして使用され得る。
【0075】
当該コーティングフィルムは、疎水性ポリマーの単層または複層であり、上で記載されているような式I、式I(a)、式I(b)、式II、式II(a)または式II(b)の蛍光色素および上で記載されているようなイオン性対イオンを含む、少なくとも1種のポリマー層である。
【0076】
好ましくは、コーティングフィルムの少なくとも最も外側のポリマー層は、生体適合性疎水性ポリマーに基づいている。
【0077】
本発明の第2の態様は、これまでに記載されているような蛍光ポリマーコーティングフィルムによって医療機器をコーティングするための方法に関する。
【0078】
当該方法は、前述の式Iのイオン性蛍光色素、対イオンおよび有機揮発性溶媒を含む疎水性ポリマー溶液を使用することで実施される。
【0079】
当該方法は、次の工程を含む。すなわち、
(i)当該医療機器を、1種以上の溶媒、疎水性ポリマー、蛍光色素および対イオンを含む溶液と接触させることであって、
当該疎水性ポリマーが、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸プロピル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸メチル-co-メタクリル酸)、ポリ(ラクチド-co-グリコリド)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、三酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリジメチルシロキサン、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリエチレン、エチレンビニルアセテートコポリマー、ポリウレタン、ポリスチレンおよびポリ(エチレングリコール)を伴うそれらのコポリマーから選択され、
当該蛍光色素が、式I
【化24】
(式I)
によって表されており、
式中、
-RおよびRは、同一または異なっており、
-水素または
-(C1-C20)アルキル、シクロ(C3-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、複素環式基、シクロ(C3-C20)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ(C1-C20)アルキル、(C1-C20)アルキルアリールもしくは(C1-C20)アルキルヘテロアリールから選択された基であって、当該基は、非置換であるか、もしくは(C1-C5)アルキル、アリールもしくは-COOR11から選択された1個もしくは2個の置換基により置換され、R11が(C1-C20)アルキルである基または、
-式
【化25】
の基であって、式中、Eは-O-、-S-、-Se-、-NH-、-CH-から選択され、R10は、(C1-C20)アルキル、シクロ(C3-C20)アルキル、(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、複素環式基、シクロ(C3-C20)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロ(C1-C20)アルキル、(C1-C20)アルキルアリール、(C1-C20)アルキルヘテロアリールから選択され、R10は、非置換であるか、もしくは(C1-C5)アルキル、アリールもしくは-COOR11から選択された1個もしくは2個の置換基により置換され、R11が(C1-C20)アルキルである基からなる群から独立して選択され、
-A
【化26】
であり、A
【化27】
であるか、
-またはA
【化28】
であり、A
【化29】
であり、
式中、
-RおよびRは、水素、ハロゲン、(C1-C10)アルキル、-OR、-NR、-NO、-CF、-CN、-SR、-N、-C(=O)R、-OC(=)OR、-C(=O)NR、-NRC(=O)Rからなる群から独立して選択され、式中、RおよびRが、水素、非置換(C1-C10)アルキル、非置換(C2-C10)アルケニル、非置換(C2-C10)アルキニル、シクロ(C3-C10)アルキル、複素環式基、シクロ(C3-C10)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C10)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、アリール(C1-C10)アルキル、ヘテロ(C1-C10)アルキル、(C1-C10)アルキルアリール、(C1-C10)アルキルヘテロアリールから独立して選択され、
-RおよびRは、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換されたシクロ(C3-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換された(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、疎水基によって最終的に置換された複素環式基、疎水基によって最終的に置換されたシクロ(C3-C20)アルケニル、疎水基によって最終的に置換されたヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、疎水基によって最終的に置換されたアリール、疎水基によって最終的に置換されたヘテロアリール、疎水基によって最終的に置換されたヘテロ(C1-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキルアリール、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキルへテロアリールからなる群から独立して選択され、当該疎水基が、メチル、エチル、メトキシ、エチルオキシから選択され、
-当該対イオンは、無機対イオン、または有機対イオンまたは嵩高い有機対イオンである、工程と、
(ii)当該溶液中の溶媒を蒸発させ、当該医療機器上に蛍光色素と対イオンを含む1種のポリマー層を形成する工程と、を含む。
【0080】
本発明のコーティングの方法の特定の実施形態によれば、蛍光色素は式Iによって表されており、
【化30】
(式I)
式中、
-RおよびRは、同一または異なっており、水素、非置換(C1-C20)アルキル、非置換シクロ(C3-C20)アルキル、非置換(C2-C20)アルケニル、非置換(C2-C20)アルキニル、非置換複素環式基、非置換シクロ(C3-C20)アルケニル、非置換ヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、非置換アリール、非置換ヘテロアリール、非置換ヘテロ(C1-C20)アルキル、非置換(C1-C20)アルキルアリール、非置換(C1-C20)アルキルヘテロアリールからなる群から独立して選択され、
-A
【化31】
であり、A
【化32】
であり、
-またはA
【化33】
であり、A
【化34】
であり、
式中、
-RおよびRは、水素、ハロゲン、(C1-C10)アルキル、-OR、-NR、-NO、-CF、-CN、-SR、-N、-C(=O)R、-OC(=)OR、-C(=O)NR、-NRC(=O)Rからなる群から独立して選択され、式中、RおよびRが、水素、非置換(C1-C10)アルキル、非置換(C2-C10)アルケニル、非置換(C2-C10)アルキニル、シクロ(C3-C10)アルキル、複素環式基、シクロ(C3-C10)アルケニル、ヘテロシクロ(C2-C10)アルケニル、アリール、ヘテロアリール、アリール(C1-C10)アルキル、ヘテロ(C1-C10)アルキル、(C1-C10)アルキルアリール、(C1-C10)アルキルヘテロアリールから独立して選択され、
-RおよびRは、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換されたシクロ(C3-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換された(C2-C20)アルケニル、(C2-C20)アルキニル、疎水基によって最終的に置換された複素環式基、疎水基によって最終的に置換されたシクロ(C3-C20)アルケニル、疎水基によって最終的に置換されたヘテロシクロ(C2-C20)アルケニル、疎水基によって最終的に置換されたアリール、疎水基によって最終的に置換されたヘテロアリール、疎水基によって最終的に置換されたヘテロ(C1-C20)アルキル、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキルアリール、疎水基によって最終的に置換された(C1-C20)アルキルへテロアリールからなる群から独立して選択され、当該疎水基が、メチル、エチル、メトキシ、エチルオキシから選択され、
-当該対イオンは、無機対イオンであるか、またはテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート、テトラキス(4-フルオロフェニル)ボラート、テトラフェニルボラートから選択された嵩高い有機対イオンである。
【0081】
工程(i)の溶液に使用されている溶媒は、有機溶媒であり得、詳細には、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジオキサン、ジクロロメタン、クロロホルム、石油エーテル、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレンから選択される。
【0082】
詳細には、上記溶液中の疎水性ポリマーの濃度は、1~100mg/mlであり、好ましくは30mg/mlの溶液であり、ポリマー層中の蛍光色素の重量は、当該ポリマー層中の疎水性ポリマーの、0.1~50重量%であり、詳細には0.5~10重量%、更により詳細には1重量%である。
【0083】
上記方法の工程(i)は、溶液内部でコーティングされる工具を単純浸漬することにより行うことができる。上記方法の工程(ii)は、空気中で乾燥させる工程であり得る。溶媒を蒸発させるため乾燥させる時間は、例えば30分間であり得る。この工程は好ましくは、暗所で実施される。
【0084】
有利な実施形態によれば、当該コーティングフィルムが複層である場合、当該方法は、工程(ii)の後に、工程(iii)および工程(iv)を更に含む。すなわち、
(iii)工程(ii)で得られた、コーティングされた医療機器と、1種以上の溶媒および疎水性ポリマーを含み、最終的には任意の蛍光色素を欠如している溶液とを、接触させる工程と、
(iv)当該溶液中の溶媒を蒸発させ、当該医療機器上にポリマー層を生じさせる工程である。
【0085】
工程(iii)および(iv)を適用することにより、蛍光色素を含有するコーティングフィルムの外表面に保護フィルムが生じ、更に、動物またはヒト体内に蛍光色素が拡散するというリスクを減少させることができる。工程(iv)は、24時間にわたって暗所で実施され得る。
【0086】
浸漬工程および乾燥工程は、工具の性能を向上させるために、複数回交互に繰り返してもよい。毎回、溶媒を完全に蒸発させ、形成するコーティングフィルムを完全に乾燥させる時には常に、工程(i)が繰り返される。
【0087】
本発明の一実施形態によれば、これまでに記載されているような工程(i)および(ii)は、1~50回、好ましくは1~20回繰り返される。
【0088】
本発明の別の実施形態によれば、これまでに記載されているような工程(iii)と(iv)は、1~20回繰り返される。
【0089】
本発明の方法の好ましい実施形態では、工程(i)と(ii)の繰り返しを最初に実施し、これまでに記載されているコーティングフィルムにより医療機器をコーティングし、当該コーティングフィルムを完全に乾燥させた後、次いで工程(iii)と工程(iv)の繰り返しを用いて保護外装フィルムを得る。
【0090】
前述の方法は手術用パッキング、フィデューシャルマーカ、外科用タップ、針、外科手術用開創器、クリップ、外科用糸、ステープル、ナイフ、安全ピン、はさみ、クランプ、メス、止血鉗子、ピンセット、鉗子、吸引チップ、ガーゼ、コットノイド(cottonoid)、スポンジ、カテーテル、ステンレス鋼ワイヤ、外科用位置マーカ、ステント、ペースメーカ、神経刺激装置、ドラッグデリバリーシステム、Port-a-Cath、磁気自動吻合器、血管内塞栓デバイス、機械式リニアステープラ、機械式環状ステープラ、ドラッグデリバリーインプラント、圧電性インプラント、診断用ビデオカプセル、磁気追跡カプセルから選択された医療機器をコーティングするのに適している。
【0091】
特定の実施形態によれば、本発明の方法は、式Iの蛍光色素を使用する。式中、
-A1は
【化35】
であり、A2は
【化36】
であり、
およびRはこれまでに定義された通りである。
【0092】
好ましい実施形態では、本発明の方法は式Iの蛍光色素を用い、式中、RおよびRは、非置換(C8-C20)アルキルの群から独立して選択され、詳細には非置換(C12-C18)アルキルの群から独立して選択される。
【0093】
より好ましくは、本発明の方法で使用された蛍光色素は、
【化37】
であるか、
【化38】
であり、
該方法にて使用された対イオンは、テトラフェニルボラートである。
【0094】
本発明の別の態様は、画像誘導手術中、医療機器を可視化するための方法を提供し、当該方法は、
-前述のコーティングフィルムによって当該医療機器をコーティングすることと、
-近赤外線蛍光を検出する蛍光画像システムによって当該医療機器を可視化することと、を含む。
【0095】
本発明は、この後、図および実施例によってより詳細に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0096】
図1】蛍光画像システムにより撮影された、コーティングされたステンレス鋼ワイヤの写真に関する。これらのワイヤは、本発明のコーティングフィルム(新規、Cy7.5-C18-TPBをベースとするコーティング)によってまたは3種の異なるICGをベースとするコーティングフィルム(ICG、テトラフェニルホスホニウム対イオン(ICG-P)を有するICG塩、テトラブチルアンモニウム対イオン(ICG-N)を有するICG塩)を用いて、それぞれ1回、2回、3回または5回、コーティングされている。
図2】コーティング処置(最初、乾燥前)の直後、乾燥の30秒後、60秒後または90秒後に撮影された、コーティングされたシリコン片の蛍光画像システムによる写真を示す。これらの部分はそれぞれ、本発明のコーティングフィルム(新規、Cy7.5-C18-TPBをベースとするコーティング)により1回コーティングされ、または3種の異なるICGをベースとするコーティングフィルム(ICG、ICG-P、ICG-N)により5回コーティングされた。
図3】コーティング処置(基本)直後またはコーティングされた1週間後に蛍光画像システムにより撮影された、コーティングされた外科用糸の写真を示す。これらの外科用糸はそれぞれ、本発明のコーティングフィルム(新規、Cy7.5-C18-TPBをベースとするコーティング)またはICGをベースとするコーティングフィルム(ICG、ICG-P、ICG-N)によりコーティングされた。
図4】画像誘導手術中の輸尿管(2本の矢印により示されている)を、挿入されたカテーテルにより識別することを示す。これは、Cy7.5-C18-TPBをベースとするコーティングフィルムによりコーティングされており、蛍光イメージングシステムを介して可視される。
図5】Cy7.5-C18-TPBをベースとするコーティングフィルムによりコーティングされた経鼻胃チューブの先端部が、外科手術中に可視化され得ること(2本の矢印により示されている)を示す。
図6】腹腔の病理学的病変の4カ所の角が、Cy7.5-C18-TPBをベースとするコーティングフィルム(4本の矢印により示されている)によりコーティングされたマーカを挿入することで標識されていることを示す。
図7】Cy7.5-C18-TPBをベースとするコーティングフィルムによりコーティングされ、外科手術中に血液を吸収したガーゼ片が、蛍光イメージングシステムを介してNIRで識別されていることを示す。
図8】式IのCY7.5色素とその誘導体用の合成プロトコルを示している。
図9】ガラス表面上に積層した、本発明の別個の色素を含有するコーティングフィルムの蛍光画像を示す。
図10(A)】蛍光色素であるCY7.5-C18-TPB、HA-06-I、HA-60-TPBおよび別個の疎水性ポリマーであるPMMA、PLGAまたはPLCをベースとする本発明のコーティングフィルムの蛍光画像を示す。ICGをベースとするコーティングフィルムは、対照として調製されている。
図10(B)】異なる種類の蛍光色素とポリマーを含有する薄層の画像から得られた、発光強度値を示す。
図11】PMMA中、別個の色素(1%の使用量)にてコーティングされた鋼フィデューシャルを伴う組織画像を示す。すなわち、(a)通常光下のニワトリ組織、(b)組織の蛍光画像、(c)ニワトリ組織へと挿入されたコーティングされたフィデューシャルの蛍光画像(1はHA-06-I、2はHA-60-TPB、3はCy7.5-C18-TPB)である。
【実施例
【0097】
1.材料および方法
1.1 Cy7.5-C18-TPBの合成
これまでの構造の蛍光色素であるCy7.5-C18-TPB
【化39】
は、以下のプロトコルに従って合成され、図8のスキーム1(a)にてその概要がまとめられている。
【0098】
1,1,2-トリメチル-3-オクタデシル-1H-ベンゾ[e]インドール-3-イウムヨウ化物。
磁気撹拌棒を備えた250mLの丸底フラスコに、1,1,2-トリメチルベンゾ[e]インドール(1当量、6.88g、32.9mmol)と1-ヨードオクタデカン(2当量、25g、65.7mmol)を充填し、100mLの2-ブタノンをその後加えた。反応混合物を24時間還流し、次いで室温に冷却した。反応混合物を室温に冷却し、ジエチルエーテルを加え、形成した固体部分を濾過して取り除き、100mLのジエチルエーテルで洗浄した。得られた粗生成物の結晶をDCM中に再び溶解し、同時にジエチルエーテルを加えることで再び沈殿させ、その後濾過してジエチルエーテルで洗浄した。生成物を、わずかに緑色の結晶として76%の収率で(14.73g)得た。
【0099】
H NMR(400MHz,CDCl)δ 8.10(d,J=8.7Hz,1H),8.08(dd,J=8.0,1.1Hz,1H),8.04(dd,J=8.2,1.3Hz,1H),7.76(d,J=8.9Hz,1H),7.72(ddd,J=8.3,6.9,1.4Hz,1H),7.65(ddd,J=8.1,6.9,1.2Hz,1H),4.78(t,J=7.7Hz,2H),3.19(s,3H),1.97(p,J=7.8Hz,2H),1.87(s,6H),1.52-1.41(m,2H),1.40-1.30(m,2H),1.28-1.19(m,26H),0.85(t,J=7.0Hz,3H)。
【0100】
13C NMR(100MHz,CDCl)δ195.25,138.34,137.29,133.82,131.56,130.17,128.77,127.97,127.74,122.96,112.59,56.04,50.56,32.00,29.77,29.76,29.73,29.70,29.65,29.55,29.43,29.41,29.24,28.26,26.92,22.85,22.76,17.03,14.18)。
【0101】
HRMS(m/z):[M]calculated for C3352N 462.40943、found 462.40854。
【0102】
ジオクタデシルシアニン7.5塩化物:
1,1,2-トリメチル-3-オクタデシル-1H-ベンゾ[e]インドール-3-イウムヨウ化物(1)(2.2当量、1029mg、1.75mmol)とグルタコンアルデヒドジアニル塩酸塩(1当量、226mg、0.794mmol)とを10mlのピリジン中に混合し、その後AcO(13.4当量、1087mg、1mL、10.6mmol)を加えた。反応混合物を撹拌しながら60℃に加熱し、3時間置いた。反応終了後、溶媒を真空状態で蒸発させ、粗生成物をDCM中に溶解し、0.1N HCl(3回)、ブラインおよび水で洗浄した。DCM層をNaSOで乾燥させ、溶媒を蒸発させて生成物をシリカ上でのカラムクロマトグラフィー(グラジエント DCM/MeOH 99/1~95/5)によって精製した。生成物を緑色の固体として得た(926mg、0.906mmol、52%)。
【0103】
H NMR(400MHz,CDCl):δ 8.16(d,J=8Hz,2H),8.06(t,J=12Hz,2H),7.97(bs,1H),7.92(d,J=8Hz,4H),7.61(t,J=7Hz,2H),7.46(t,J=7Hz,2H),7.35(d,J=9Hz,2H),6.67(t,J=12Hz,2H),6.25(d,J=12Hz,2H),4.14(bs,4H),2.04(s,12H),1.87(m,J=7Hz,4H),1.49(m,J=7Hz,4H),1.39(m,J=7Hz,4H),1.26(bs,52H),0.88(t,J=7Hz,6H)。
【0104】
13C NMR(100MHz,CDCl):δ 173.07,157.04,151.02,139.74,133.98,131.83,130.59,130.09,128.41,127.87,126.27,125.06,122.47,110.56,103.39,51.155,44.76,32.06,29.842,29.807,29.76,29.72,29.60,29.53,29.50,27.86,27.14,22.82,14.26。
【0105】
HRMS(m/z):[M]calculated.for C71105 985.8272;found 985.8290。
【0106】
ジオクタデシルシアニン7.5テトラフェニルボラート(Cy7.5-C18-TPB):
ジオクタデシルシアニン7.5塩化物(1当量、200mg、0.18mmol)を5mLのDCM中に溶解し、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(3当量、184mg、0.539mmol)を加え、分散液を5分間超音波処理した。TLCコントロールは完全に変換したことを示した。その後、混合物をシリカカラム上で、溶離液 DCM/MeOH 95/5(生成物はほぼフロントに達する)で精製した。ジオクタデシルシアニン7.5テトラフェニルボラート(218mg、0.167mmol、93%)を、緑色の粘性のある油として得て、更なる特性決定を行うことなく使用した。
【0107】
CY7.5-C8-Iの合成:
【化40】
CY7.5C8を、次に挙げる本発明者らの従前の方法により合成した。1,1,2-トリメチル-3-オクチル-1H-ベンゾ[e]インドール-3-イウムヨウ化物(2当量)、グルタコンアルデヒドジアニル塩酸塩(1当量)をピリジン中で混合した。無水酢酸(13.4当量)を加え、60℃で3時間撹拌させた。反応をTLCにより観察した。
【0108】
完了時、溶媒を真空下にて蒸発させ、DCM中に溶解し、0.1N HClで3回洗浄した。有機物質を更に水とブラインで洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、DCMおよびメタノールを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した。収率60%。H NMR(CDOD,500MHz)δ 0.85-0.89(t,6H),1.26-1.27(m,12H),1.37*1.49(m,6H),1.70-1.74(m,1H),1.79-1.85(m,2H),1.96(s,7H),1.99(s,2H),2.11(s,6H),2.16(s,2H),3.81-3.85(m,1H),4.15-4.19(m,2H),6.29-6.32(d,1H,J=13.68Hz),6.56-6.63(t,1H,J=12.55Hz),7.05-7.08(t,2H,J=7.40Hz),7.26-7.30(t,5H,J=8.53),7.43-7.47(t,1H,J=7.91Hz),7.52-7.54(d,5H,J=9.79Hz),7.59-7.63(t,1H,J=6.90Hz),7.81-7.86(m,1H),7.95-8.04(m,2H),8.19-8.21(d,1H,J=8.53Hz)。BRMS(ES+),m/z[M+H]705.5210。
【0109】
他のシアニン7.5誘導体向け合成ルート。
シアニン7.5色素の置換された環式類似物(図8のスキーム1b)を、5段階で合成した。C8またはC18アルキル鎖を有するインドリニウム塩を、アルキルヨウ化物を有するトリメチルベンゾインドールの縮合により合成した。シクロヘキサノンのホルミル化に続き、HClの存在下にてアニリンを縮合することで環式の分子内塩(b)を生じた。分子内塩(b)とインドリニウム塩を酢酸ナトリウムの存在下にて縮合させることで、重要な中間環式クロロ-シアニンを生じた。別のフェノール誘導体を-クロロで置換することに続き、テトラフェニルボラートで対イオンの交換を行うことで、系列のシアニン誘導体を生じた。
【0110】
中央環式環(HA-04-I)上にメチル基を有する環式シアニン色素を、次の別ルート(図8のスキーム1c)によって調製した。分子内塩を、N-メチル-N-フェニルホルムアミドとPOClの存在下にて1-メチルシクロヘキサンから調製した。ピリジンの存在下にてインドリニウム塩で分子内塩を縮合することで、最終化合物を生じた。
【0111】
分子内塩(b)の合成:
【化41】
(b)
この化合物を次の文献の方法(Bioconjugate Chem.1997,8,751-756;Chem.Commun.,2014,50,15439-15442)によって調製した。収率57%H NMR(DMSO d,400MHz)δ 1.84(s,2H),2.74(s,4H),7.20-7.26(m,2H),7.41-7.46(m,6H),7.55-7.57(d,4H,J=7.91Hz),7.70-7.72(d,1H,J=7.71Hz),8.68(s,2H)。
【0112】
図8のスキーム1bに示されているように、クロロ-シアニン(10mg、0.0084mmol、1当量)を25℃で乾燥DMF(2ml)中に溶解した。別の丸底フラスコ中に、2,6-ジフェニルフェノール(10.34mg、0.0420mmol、5当量)を乾燥DMF(2ml)中に溶解し、乾燥KCO(2.32mg、0.0168mmol、2当量)をそれに加え、溶液を10~15分間撹拌させた。この溶液を注意深く濾過し、未反応のKCOを除去し、濾液をクロロ-シアニン溶液にゆっくりと加えた。反応物を25℃で30分間撹拌させた。該反応を、約820nm(クロロ-シアニンに対応)にて吸光帯が消失することおよびより短い波長領域にて新規吸光帯を形成することにより特性づけられたUV-Vis分光法で観察した。完了時、反応を固体COで停止させ、真空下にて濃縮させ、DMFを除去した。反応物をジクロロメタン中に溶解し、これをジクロロメタン/メタノールを溶離液としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0113】
置換シアニン7.5色素の特性決定
本発明の式(I)による6種類のシアニン7.5色素の誘導体であるHA-06、HA-04,HA-05、HA-60、HA-63、HA-69であって、ヨウ化物またはテトラフェニルボラート(TB)塩であるような誘導体を、上に記載されているようなプロトコルに従って合成した。
【0114】
HA-06-I:
【化42】
一般的なプロトコルS1に従って、表題化合物(68%、緑色の固体)を2,6-ジフェニルフェノールから調製した。H NMR(CDOD,400MHz)δ 0.84-0.87(t,6H),1.24(s,59H),1.39-1.47(m,9H),1.71(s,10H),1.84-1.88(t,3H),2.03(s,2H),2.15-2.18(t,4H),4.16-4.20(t,4H),4.60(s,1H),5.96-5.99(d,2H J=14.05Hz),7.30-7.34(t,1H,J=7.40Hz),7.37-7.47(m,9H),7.49-7.64(m,8H),7.95-7.99(t,4H,J=8.53Hz),8.08(s,1H),8.12-8.15(t,3H,J=3H)。BRMS(ES+),m/z[M+H]1270.9522。
【0115】
HA-04-I:
【化43】
HA-04
H NMR(CDOD,400MHz)δ 0.85-0.88(t,6H),1.26(s,51H),1.44-1.47(m,4H),1.50-1.53(m,3H),1.89-1.93(m,4H),1.96-1.98(m,2H),2.04(s,12H),2.56(s,3H),2.64-2.67(t,4H),4.25-4.28(t,4H),4.61(s,1H),6.28-6.30(2H,d,J=13.73),7.47-7.50(t,2H,J=7.17Hz)7.58-7.60(2H,J=8.85Hz),7.63-7.66(2H,J=7.17Hz),7.99-8.03(q,4H),8.25-8.27(d,2H,J=8.54Hz),8.29-8.31(d,2H,J=13.29Hz)。BRMS(ES+),m/z[M+H]1039.8734。
【0116】
HA-05-I:
【化44】
表題化合物(65%)を、一般的なプロトコルS1に従って3,5-ジメチルフェノールから調製した。H NMR(CDOD,400MHz)δ 0.84-0.88(t,6H),1.25(s,55H),1.44(br,12H),1.84-1.87(t,6H),2.03(s,3H),2.09-2.12(t,2H),2.17(s,3H),2.67(s,2H),2.79(br,4H),4.20-4.24(t,4H),4.60(s,1H),6.18-6.21(d,2H,J=14.43Hz),6.55(s,1H),6.80-6.82(d,1H,J=7.65Hz),7.43-7.47(t,2H,J=7.15Hz),7.53-7.55(d,2H,J=8.78Hz),7.57-7.66(m,3H),7.94-7.96(2H,d,J=17.57Hz),7.98-8.04(m,3H),8.08-8.10(2H,J=8.53Hz)。BRMS(ES+),m/z[M+H]1145.9127。
【0117】
HA-60-I:
【化45】
収率(68%)。この化合物を、一般的なプロトコルS1に従ってメチル-4-ヒドロキシベンゾエートおよびクロロ-シアニンC8から調製した。BRMS(ES+),m/z[M+H]895.5898。
【0118】
HA-63-I:
【化46】
収率(50%)。この化合物を、一般的なプロトコルS1に従ってメチル-4-ヒドロキシベンゾエートおよびクロロ-シアニンC18から調製した。BRMS(ES+),m/z[M+H]1175.8981。
【0119】
HA-69-I:
【化47】
表題化合物(63%、緑色の固体)を、一般的なプロトコルS1に従って3,5-ジメチルフェノールおよびクロロ-シアニンC8から調製した。H NMR(CDCl,400MHz)δ 0.87(s,6H),1.16-1.42(m,26H),1.68(s,7H),1.86(s,4H),2.00(s,4H),2.16(s,3H),2.76-2.86(d,2H),4.17-4.29(d,4H),5.49(s,3H),5.94-5.98(d,1H,J=13.68Hz),6.30-6.33(1H,d,J=14.18Hz),7.30-7.62(m,15H),7.94-8.14(m,7H),8.24-826(1H,d,J=8.51Hz),8.51-8.55(1H,d,J=14.10Hz)。BRMS(ES+),m/z[M+H]989.6366。
【0120】
Cy7.5誘導体のテトラフェニルボラート塩を、Cy7.5-C18-TPB用として同様のプロトコルにより調製した。
【0121】
1.2 コーティング溶液の化学組成物
市販のポリ(メタクリル酸メチル)、これまでに合成されたCy7.5-C18-TPB、テトラフェニルボラートおよびアセトニトリルを、試験済コーティング溶液を調製するために使用する。
【0122】
ポリメタクリル酸メチルを、30mg/mlでアセトニトリル中に溶解した。テトラフェニルボラート対イオンを有するCy7.5-C18-TPB色素を、ポリマーに対して1重量%で加えた。
【0123】
比較用コーティング溶液を同様のプロトコルに従って調製した。ICG誘導体(ICG、ICG-NまたはICG-P)をCy7.5-C18-TPBの代わりに蛍光色素として使用することを除き、比較用コーティング溶液は試験済コーティング溶液と同様である。
【0124】
ICG-Nは、対イオンとしてテトラブチルアンモニウムを有するICG塩である。ICG-Pは、対イオンとしてテトラフェニルホスホニウムを有するICG塩である。
【0125】
これら2種類の参照色素は、ICGと組み合わせた対イオンが、特別に設計された疎水性色素と対イオンと同様の性能を生じることができないことを示すために使用される。
【0126】
1.3 コーティングのプロトコル
1.2節で調製されたコーティング溶液を、エッペンドルフ(eppendorf)管に入れた。コーティングされることになる医療機器をこの溶液中に浸漬させ、次いでピンセットで速やかに取り出した。医療機器をアルミニウムホイル上に置き、暗所にて15~20分間乾燥させた。次いでポリマー層の厚みを増大させ、それによりフィデューシャルの輝度を向上させるため、この手順を5~10回繰り返すことができる。コーティング後、残存するアセトニトリルを完全に乾燥させるため、フィデューシャルを暗所にて24時間置いた。この工程にて、フィデューシャルは使用する準備ができた。
【0127】
このプロトコルに従って、ステンレス鋼ワイヤ、シリコン片、外科用糸、カテーテル、経鼻胃チューブ、外科用マーカおよび医療用ガーゼを試験済コーティング溶液によってコーティングする。
【0128】
更に、ステンレス鋼ワイヤ、シリコン片、外科用糸は、比較用コーティング溶液によってコーティングされる。
【0129】
2.結果
輝度
ICGをベースとするポリマーコーティングフィルムと比較すると、本発明のコーティングフィルムは、ステンレス鋼ワイヤなどの滑らかな表面に接着する。
【0130】
実際、ICGをベースとするコーティングフィルムは、5回のコーティング処置(図1)の後であってもワイヤの蛍光標識をわずかばかり生成することができた一方で、ステンレス鋼ワイヤにおけるCy7.5-C18-TPBをベースとするコーィングフィルムのNIR蛍光は、最初のコーティング後に可視状態となり、複数回のコーティングにより向上する。
【0131】
安定性
本発明のコーティングフィルムは、ICGをベースとするコーティングフィルムよりも更に安定性が増している。
【0132】
図2は、ICGをベースとするコーティングフィルムで観察された蛍光は均一ではなく迅速に消失してしまう一方で、本発明のコーティングフィルムで観察された蛍光は、より均一で、コーティング処置後90秒間安定状態を維持することができたことを示す。
【0133】
図3は、ICGをベースとするコーティングフィルムの輝度が1週間の間に著しい低下を認めた一方、外科用糸における本発明のコーティングフィルムで観察された蛍光輝度は、コーティング処置後1週間は保持されたことを示す。
【0134】
ICG誘導体色素中(ICG-PまたはICG-N)に、対イオンが存在することは、ICGをベースとするポリマーコーティングフィルムにおける輝度および安定性に対して、著しい効果を有さないことに注目すると興味深い。
【0135】
コーティングされた外科用機器の生体内適用
図4は、下腹部の手術中、損傷に脆弱な解剖学上構造である輸尿管は、蛍光イメージングシステムを通じたCy7.5-C18-TPBをベースとするコーティングフィルムによってコーティングされたカテーテルの挿入により容易に識別可能であることを示す。
【0136】
図5は、外科手術中、識別が時として難しい経鼻胃チューブの先端部は、Cy7.5TPBをベースとするコーティングフィルムによってコーティングされた後に容易な配置が可能であることを示す。
【0137】
図6は、Cy7.5-C18-TPBをベースとするコーティングフィルムによってコーティングされた外科用マーカが腸内器官外部から可視化され得ることで、外科医が腫瘍位置を発見する一助となり得、デジタル拡張現実技術の表示に有用となり得ることを示す。
【0138】
図7は、本発明のコーティングフィルムはまた、織布のコーティングに使用され得ることを示す。
【0139】
本発明のフィルムによるガラス表面のコーティング
PMMAおよび蛍光色素としてそれぞれCY7.5-C18-TPB、CY7.5-C8-TPB、HA-60-TPBまたはHA-06-Iおよび対イオンを含有する本発明のコーティングフィルム、ならびにICGを有するPMMAまたはPMMAのみを含有する比較用コーティングフィルムを、25mmのガラス基材上に別個の色素(1%の使用量)を有するPMMA(30mg/ml)の混合物をスピンコーティングすることにより調製した。自家製のNIR画像化設定を用いて画像を撮影した。
【0140】
図9に示した結果は、本発明のコーティングフィルムがICGを含有するコーティングフィルムより高い輝度であることを示している。
【0141】
別個のポリマーから作製されたコーティングフィルムもまた試験した。研究されたポリマー全てに対し、蛍光色素であるCy7.5-C18-TPBおよび誘導体であるHA-06-I、HA-60-TPBをベースとするコーティングフィルムは、ICGをベースとするコーティングフィルム(図10A図10B)よりも良好な輝度を体系的に示す。
【0142】
更には、筋肉組織に挿入され、HA-06-IまたはHA-60-TPBをベースとするPMMAフィルムでコーティングされた鋼フィデューシャルから検出されたNIR蛍光は、CY7.5-C18-TPBをベースとするコーティングPMMAフィルム(図11)から検出されたNIR蛍光と同等である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10(A)】
図10(B)】
図11