(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】リーク検出装置、リーク検出方法、および火力発電プラント
(51)【国際特許分類】
G01M 3/26 20060101AFI20240122BHJP
F22B 37/42 20060101ALI20240122BHJP
F22B 37/38 20060101ALN20240122BHJP
【FI】
G01M3/26 L
F22B37/42 D
F22B37/38 D
(21)【出願番号】P 2021011370
(22)【出願日】2021-01-27
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100124372
【氏名又は名称】山ノ井 傑
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 経夫
(72)【発明者】
【氏名】清水 佳子
(72)【発明者】
【氏名】牧野 哲也
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-116988(JP,A)
【文献】特開昭48-001603(JP,A)
【文献】特開平11-022909(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107290665(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 3/00- 3/40
F22B 37/38
F22B 37/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
火力発電プラントで計測された情報に基づいて、前記火力発電プラント内の水蒸気系統から正常に排出される水および蒸気の量である排出量と、前記水蒸気系統に補給される水の量である補給水量とを計算する計算部と、
前記排出量の分だけ増加し、前記補給水量の分だけ減少する量である仮想貯留量を算定する仮想貯留量算定部と、
前記水蒸気系統からリークとして排出される水および蒸気の量として、前記補給水量から前記仮想貯留量を減算した量である補正補給水量を算定する補正補給水量算定部と、
前記補正補給水量に基づいて、前記リークに関する情報を出力する出力部と、
を備えるリーク検出装置。
【請求項2】
前記出力部は、前記補正補給水量がしきい値より大きい場合に、前記リークが発生していることを示す情報を出力する、請求項1に記載のリーク検出装置。
【請求項3】
前記出力部は、
前記補正補給水量を監視する監視部と、
前記補正補給水量の監視結果に基づいて、前記リークに関する情報を表示画面上に表示する表示部と、
を備える請求項1または2に記載のリーク検出装置。
【請求項4】
前記仮想貯留量算定部は、前記仮想貯留量を前記排出量だけインクリメントまたは前記補給水量だけデクリメントすることで、前記仮想貯留量を更新する、請求項1から3のいずれか1項に記載のリーク検出装置。
【請求項5】
前記仮想貯留量算定部は、
前記仮想貯留量が前記補給水量よりも大きい場合には、前記仮想貯留量を前記補給水量だけデクリメントすることで、前記仮想貯留量を更新し、
前記仮想貯留量が前記補給水量よりも小さい場合には、前記仮想貯留量をゼロへと更新する、
請求項4に記載のリーク検出装置。
【請求項6】
前記補正補給水量算定部は、
前記仮想貯留量が前記補給水量よりも大きい場合には、前記補正補給水量として、ゼロを算定し、
前記仮想貯留量が前記補給水量よりも小さい場合には、前記補正補給水量として、前記補給水量から前記仮想貯留量を減算した量を算定する、
請求項1から5のいずれか1項に記載のリーク検出装置。
【請求項7】
前記計算部は、前記水蒸気系統に補給される水の流量である補給水流量を計測し、前記補給水流量に基づいて前記補給水量を計算する補給水量計測部を備える、請求項1から6のいずれか1項に記載のリーク検出装置。
【請求項8】
前記計算部は、前記水蒸気系統から正常に排出される水および蒸気の流量である排出流量を計測し、前記排出流量に基づいて前記排出量を計算する排出量計測部を備える、請求項1から7のいずれか1項に記載のリーク検出装置。
【請求項9】
前記計算部は、前記火力発電プラントの運転状態を示す情報を計測する運転状態計測部と、前記運転状態を示す情報に基づいて前記排出量を推測する排出量推測部とを備える、請求項1から7のいずれか1項に記載のリーク検出装置。
【請求項10】
前記排出量に基づいて、前記火力発電プラントが平定状態にあるか否かを判定し、前記火力発電プラントが平定状態にある場合の前記補正補給水量に基づいて、前記しきい値を算定する平定状態算定部をさらに備える、請求項2に記載のリーク検出装置。
【請求項11】
火力発電プラントで計測された情報に基づいて、前記火力発電プラント内の水蒸気系統から正常に排出される水および蒸気の量である排出量と、前記水蒸気系統に補給される水の量である補給水量とを計算し、
前記排出量の分だけ増加し、前記補給水量の分だけ減少する量である仮想貯留量を算定し、
前記水蒸気系統からリークとして排出される水および蒸気の量として、前記補給水量から前記仮想貯留量を減算した量である補正補給水量を算定し、
前記補正補給水量に基づいて、前記リークに関する情報を出力する、
ことを含むリーク検出方法。
【請求項12】
水から蒸気を生成するボイラと、
前記ボイラにより生成された蒸気により駆動される蒸気タービンと、
前記蒸気タービンから排出された蒸気を、前記ボイラに供給される水に戻す復水器と、
前記ボイラ、前記蒸気タービン、および前記復水器を含む水蒸気系統からの水および蒸気のリークを検出するリーク検出装置と、
を備える火力発電プラントであって、
前記リーク検出装置は、
前記火力発電プラントで計測された情報に基づいて、前記水蒸気系統から正常に排出される水および蒸気の量である排出量と、前記水蒸気系統に補給される水の量である補給水量とを計算する計算部と、
前記排出量の分だけ増加し、前記補給水量の分だけ減少する量である仮想貯留量を算定する仮想貯留量算定部と、
前記リークとして排出される水および蒸気の量として、前記補給水量から前記仮想貯留量を減算した量である補正補給水量を算定する補正補給水量算定部と、
前記補正補給水量に基づいて、前記リークに関する情報を出力する出力部と、
を備える火力発電プラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、リーク検出装置、リーク検出方法、および火力発電プラントに関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントの水蒸気系統では、ボイラが蒸気を生成し、ボイラからの蒸気により蒸気タービンが駆動され、蒸気タービンに連結された発電機が発電を行う。蒸気タービンを駆動した蒸気は、復水器で凝縮され水に戻る。凝縮された水は、復水器のホットウェルと呼ばれるタンクに貯留される。この水は、復水ポンプにより送出され、脱塩装置で水質を改善され、給水加熱器で予熱され、脱気器で溶存酸素を除去され、給水ポンプにより昇圧されることで、ボイラに再び供給される。このように、火力発電プラントの水蒸気系統は、様々な機器をつなげた閉ループ構成となっているため、基本的には外部からの水補給なしに運転を継続できる。
【0003】
一般にボイラは、多数のチューブを備えており、燃焼熱を受けて高温高圧の蒸気を生成する。これらのチューブが破損すると、これらのチューブで水や蒸気のリーク(チューブリーク)が発生する。チューブリーク等の原因により、水蒸気系統内で水や蒸気のリークが発生すると、水蒸気系統内の水量が減少するので、火力発電プラントの運転を継続できなくなる可能性がある。
【0004】
そのため、火力発電プラントは、復水器のホットウェルの水位を一定に保つよう補給水タンクから復水器に補給水を補給することで、水蒸気系統の水量の減少を抑制する機構を有していることが多い。また、火力発電プラントは、補給水の流量を監視することで、水蒸気系統からのリークを検出する機構を有していることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-249739号公報
【文献】特許第5019861号公報
【文献】特許第1497370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
火力発電プラントは、チューブリークのような異常な状態で系外に水や蒸気を排出する場合もあれば、以下のような正常な状態で系外に水や蒸気を排出する場合もある。
【0007】
例えば、石炭炊きボイラでは、炉内で石炭が燃焼することにより発生するすす(スケール)が、ボイラ伝熱部外面に付着する。そのため、定期的にスートブロア装置により高圧蒸気を噴霧してスケールを除去し、この蒸気を最終的に煙突から大気へと放出する。このような蒸気の放出は、異常な蒸気排出ではなく、正常な蒸気排出である。
【0008】
また、石炭炊きボイラでは、石炭を粉砕する石炭ミルの運転台数が、発電機の出力の増減に合わせて増減する。ある石炭ミルを停止した際には、この石炭ミル内の微粉炭の発火を抑制するためのイナートに蒸気が使用され、この蒸気も煙突から排出される。このような蒸気の放出も、異常な蒸気排出ではなく、正常な蒸気排出である。
【0009】
また、発電機の出力は、需要に応じて増減する。発電機の出力が降下した場合には、水蒸気系統で必要とされる蒸気量が減少するため、水蒸気系統で余剰となった水は、スピルオーバー水として系外に排出される。また、水蒸気系統内の蒸気の一部は、圧力を下げた補助蒸気として他のユニットに供給されたり、近年の発電事業の多角化の一環として他の事業者に蒸気を販売するために系外に排出されたりする。このような水や蒸気の排出も、異常な排出ではなく、正常な排出である。
【0010】
そのため、水蒸気系統への補給水量が増加したからといって、水蒸気系統内で水や蒸気のリークが発生したと単純に判断することはできない。
【0011】
水や蒸気のリーク量を補給水量から単純に計算できない原因の1つは、復水器のホットウェルの水位制御にある。この水位制御は、一般に2段階の制御となっている。1段階目の制御では、ホットウェルの水位が目標水位(NWL通常水位)になるように、復水器用の水位調節弁の開度をフィードバック制御により制御する。水位調節弁を流れる補給水の最大流量は、補給水タンクの水頭圧と復水器の器内圧(真空)との圧力差と、水位調節弁の開度とで決まる。
【0012】
しかし、ホットウェルの水位が、急激な水位低下によって目標水位より大きく下がった場合(例えば、NWL[mm]からNWL-X[mm]に下がった場合)には、水位調節弁による流量だけでは、ホットウェルの水位を目標水位に回復できない。そこで、補給水ポンプを起動し、かつ、水位調整弁をバイパスする補給水弁を開放することで、ホットウェルの水位が目標水位より十分高くなるまで(例えば、NWL+Y[mm]になるまで)補給を行う。これが、2段階目の制御である。このような水位制御は、補給水量とリーク量との関係を複雑にし、補給水量からリーク量を計算することを困難にする。
【0013】
また、水蒸気系統は、脱気器を備えている場合がある。脱気器は、復水器からボイラに向かう給水を、蒸気タービンから抽気された蒸気で加熱することで、給水に含まれる溶存酸素を脱気する。脱気された給水は、例えば脱気器貯水タンクに貯留される。この脱気器貯水タンクが、リーク等による流量の変化を緩和する方向に作用する。このことも、補給水量とリーク量との関係を複雑にする。
【0014】
また、水蒸気系統の配管総延長は、一般に数千メートル以上ある。よって、水蒸気系統のリーク箇所によっては、リークがホットウェルの水位に影響を及ぼすまでに長い時間がかかる。このことも、補給水量とリーク量との関係を複雑にする。
【0015】
以上のように、火力発電プラントは、水や蒸気のリークとは無関係に、系外に水や蒸気を排出する場合がある。また、系外に排出された水や蒸気の影響が、ホットウェルの水位に現れるまでには時間遅れがある。さらに、ホットウェルの水位が低下してから、補給水ポンプが起動するまでにも時間遅れがある。これらの要因により、チューブリークのような異常な排出を、補給水量の増加により検出することは困難なものとなっている。
【0016】
そこで、本発明の実施形態は、水や蒸気のリークを適切に検出することが可能なリーク検出装置、リーク検出方法、および火力発電プラントを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一の実施形態によれば、リーク検出装置は、火力発電プラントで計測された情報に基づいて、前記火力発電プラント内の水蒸気系統から正常に排出される水および蒸気の量である排出量と、前記水蒸気系統に補給される水の量である補給水量とを計算する計算部を備える。さらに、前記装置は、前記排出量の分だけ増加し、前記補給水量の分だけ減少する量である仮想貯留量を算定する仮想貯留量算定部を備える。さらに、前記装置は、前記水蒸気系統からリークとして排出される水および蒸気の量として、前記補給水量から前記仮想貯留量を減算した量である補正補給水量を算定する補正補給水量算定部を備える。さらに、前記装置は、前記補正補給水量に基づいて、前記リークに関する情報を出力する出力部を備える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1実施形態の火力発電プラント100の構成を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態のリーク検出装置200の構成を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態の比較例のリーク検出装置200の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図4】第1実施形態のリーク検出装置200の動作を説明するためのフローチャートである。
【
図5】第1実施形態のリーク検出装置200の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図6】第1実施形態のリーク検出装置200の動作を比喩により説明するためのグラフである。
【
図7】第1実施形態のリーク検出装置200の動作を説明するための別のタイミングチャートである。
【
図8】第2実施形態のリーク検出装置200の構成を示すブロック図である。
【
図9】第2実施形態の排出量推測情報テーブル222のデータ構造を説明するための図である。
【
図10】第2実施形態のリーク検出装置200の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【
図11】第3実施形態のリーク検出装置200の構成を示すブロック図である。
【
図12】第3実施形態の平定状態判定情報テーブル231のデータ構造を説明するための図である。
【
図13】第3実施形態のリーク検出装置200の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1~
図13において、同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の火力発電プラント100の構成を示す模式図である。
【0021】
本実施形態の火力発電プラント100は、ボイラ130、補助蒸気ヘッダ140、蒸気タービン150、発電機160、復水器170などを備えている。本実施形態の火力発電プラント100はさらに、ボイラ130、蒸気タービン150、復水器170などを含む水蒸気系統からの水および蒸気のリークを検出するリーク検出装置200を備えている。
【0022】
ボイラ130では、石炭135が石炭ミル137で微粉炭に粉砕され、通風機136によりボイラ130に送り込まれ、ボイラ130内で燃焼する。石炭135の燃焼により発生したガスは、排ガス138となって煙突139から排出される。ボイラ130は、石炭135の燃焼熱により、水から高温高圧の蒸気を生成する。
【0023】
ボイラ130により生成された蒸気は、蒸気タービン150に供給され、蒸気タービン150を回転駆動させる。発電機160は、蒸気タービン150に連結されることで蒸気タービン150により駆動され発電を行う。蒸気タービン150から排出された蒸気は、復水器170に供給される。
【0024】
本実施形態の蒸気タービン150は、高圧タービン151と、中圧タービン152と、低圧タービン153とを備えている。ボイラ130により生成された蒸気は、まず高圧タービン151内に導入され、高圧タービン151を駆動させる。高圧タービン151から排出された蒸気は、ボイラ130内の再熱器134に流入し、再熱器134内で再び加熱される。再熱器134から排出された蒸気は、中圧タービン152内に導入され、中圧タービン152を駆動させる。さらに、中圧タービン152から排出された蒸気は、低圧タービン153内に導入され、低圧タービン153を駆動させる。発電機160は、高圧タービン151、中圧タービン152、および低圧タービン153により駆動される。低圧タービン153から排出された蒸気は、復水器170に供給される。
【0025】
低圧タービン153から排出された蒸気は、復水器170で冷却されて水に戻り、この水(復水)は、復水器170のホットウェル171内に貯留される。ホットウェル171から排出された水は、復水ポンプ172により送出され、脱塩装置173で塩分等を除去され、給水加熱器174、177で予熱され、脱気器175で溶存酸素を除去され、給水ポンプ176により昇圧されることで、ボイラ130に再び供給される。なお、脱気器175は、復水器170からボイラ130に向かう水(給水)を、蒸気タービン150から抽気された抽気蒸気178で加熱することで、この水に含まれる溶存酸素を脱気する。
【0026】
本実施形態のボイラ130は、節炭器131、ボイラ火炉壁132、過熱器133、再熱器134等に含まれる多数の伝熱チューブにより構成されている。ボイラ130は、節炭器131、ボイラ火炉壁132、および過熱器133により水から蒸気を生成し、この蒸気を高圧タービン151に供給する。ボイラ130はさらに、高圧タービン151から排出された蒸気を再熱器134により再び加熱し、この蒸気を中圧タービン152に供給する。
【0027】
ホットウェル171の水位が低くなると、補給水タンク123から逆止弁124および水位調節弁125を介してホットウェル171に水(補給水)が補給される。この補給水の流量は、補給水流量計121により計測され、水位調節弁125の開度を制御することで調節される。ホットウェル171の水位が著しく下がった場合には、補給水ポンプ126が自動起動し、補給水タンク123から補給水ポンプ126および補給水弁127を介してホットウェル171に水(補給水)が補給される。この補給水の流量は、補給水流量計122により計測され、補給水弁127の開度を制御することで調節される。本実施形態では、補給水流量計121は容積式流量計であり、補給水流量計122は差圧式流量計である。
【0028】
ホットウェル171の水位が高くなると、スピルオーバー弁118が開放され、復水ポンプ172と脱塩装置173との間を流れる水が、スピルオーバー弁118を介して、水蒸気系統の系外に排出される。スピルオーバー弁118を通過する水の流量は、スピルオーバー水流量計111により計測される。スピルオーバー弁118を通過した水は、系外に排出される代わりに、補給水タンク123に回収されてもよい。
【0029】
ボイラ130により生成された蒸気の一部は、補助蒸気ヘッダ140により補助蒸気として取り出される。補助蒸気ヘッダ140は例えば、ボイラ火炉壁132から過熱器133へと流れる蒸気の一部や、高圧タービン151から再熱器134へと流れる蒸気の一部を、補助蒸気として取り出す。前者の補助蒸気の流量は、補助蒸気流量計141により計測され、後者の補助蒸気の流量は、補助蒸気流量計142により計測される。
【0030】
補助蒸気ヘッダ140により取り出された補助蒸気は、様々な目的に使用するために補助蒸気ヘッダ140から送気される。本実施形態の火力発電プラントはさらに、補助蒸気ヘッダ140から送気される蒸気の流量を計測するために、送気蒸気流量計112と、イナート蒸気流量計113と、ブロア蒸気流量計114と、販売蒸気流量計115と、駆動蒸気流量計116と、シール蒸気流量計117とを備えている。
【0031】
送気蒸気流量計112を通過した蒸気は、圧力を下げた補助蒸気として他のユニットに送気される。イナート蒸気流量計113を通過した蒸気は、石炭ミル137のイナート用に使用される。ブロア蒸気流量計114を通過した蒸気は、ボイラ130のスートブロア用に使用される。販売蒸気流量計115を通過した蒸気は、他の事業者に蒸気を販売するために使用される。駆動蒸気流量計116を通過した蒸気は、BFPT駆動用に使用される。シール蒸気流量計117を通過した蒸気は、蒸気タービン150のグランドシール用に使用される。
【0032】
本実施形態の火力発電プラントの水蒸気系統は、水および蒸気が火力発電プラント内を循環する閉ループ構成となっている。スピルオーバー水流量計111(スピルオーバー弁118)を通過した水や、送気蒸気流量計112、イナート蒸気流量計113、ブロア蒸気流量計114、または販売蒸気流量計115を通過した蒸気は、系外へと排出され、水蒸気系統内には回収されない。一方、駆動蒸気流量計116またはシール蒸気流量計117を通過した蒸気は、系外には排出されず、水蒸気系統内に回収される。
【0033】
図1はさらに、水蒸気系統から正常に排出される水および蒸気の量である排出量110と、水蒸気系統に補給される水の量である補給水量120とを示している。排出量110は、スピルオーバー水流量計111を通過した水の量や、送気蒸気流量計112、イナート蒸気流量計113、ブロア蒸気流量計114、および販売蒸気流量計115を通過した蒸気の量を含んでいる。よって、排出量110は、これらの流量計(111~115)により計測された流量(排出流量)の合計値から計算することが可能である。一方、補給水量120は、補給水流量計121および補給水流量計122を通過した水の量を含んでいる。よって、補給水量120は、これらの流量計(121および122)により計測された流量(補給水流量)の合計値から計算することが可能である。なお、スピルオーバー水流量計111を通過した水が、系外に排出される代わりに補給水タンク123に回収される場合には、排出量110は、この水の量を含まない。
【0034】
図1はさらに、水蒸気系統からの水または蒸気のリーク180を示している。本実施形態のボイラ130は、節炭器131、ボイラ火炉壁132、過熱器133、再熱器134等に含まれる多数の伝熱チューブにより構成されている。これらの伝熱チューブが破損すると、これらの伝熱チューブで水や蒸気のリーク180が生じる。このようなリーク180は、チューブリークと呼ばれる。チューブリーク等の原因により、水蒸気系統内で水や蒸気のリーク180が発生すると、水蒸気系統内の水量が減少するので、本実施形態の火力発電プラントの運転を継続できなくなる可能性がある。
【0035】
本実施形態の火力発電プラントは、リーク180のように異常な状態で系外に水や蒸気を排出する場合もあれば、排出量110のように正常な状態で系外に水や蒸気を排出する場合もある。そのため、水蒸気系統への補給水量120が増加したからといって、水蒸気系統内でリーク180が発生したと単純に判断することはできない。そこで、本実施形態のリーク検出装置200は、後述するような手法により、水蒸気系統からの水および蒸気のリーク180を検出する。
【0036】
図2は、第1実施形態のリーク検出装置200の構成を示すブロック図である。
【0037】
本実施形態のリーク検出装置200は、
図2に示すように、排出量計測部201と、補給水量計測部202と、仮想貯留算定部203と、監視部204と、表示部205と、計測値保存部206と、仮想貯留部207と、データベース210とを備えている。排出量計測部201および補給水量計測部202は、計算部の例である。仮想貯留算定部203は、仮想貯留量算定部の例であり、かつ、補正補給水量算定部の例である。監視部204および表示部205は、出力部の例である。
図2はさらに、データベース210内に格納されたデータである補給水量211、排出量212、仮想貯留量213、および補正補給水量214を示している。
【0038】
リーク検出装置200は例えば、PC(Personal Computer)であり、プロセッサ、メモリ、およびストレージなどの演算部と、マウス、キーボード、およびディスプレイなどのユーザIF(Interface)部と、通信デバイスなどの通信IF部と、メモリポートなどのメモリIF部とを備えている。
図2に示す各機能ブロックは例えば、ストレージ内のコンピュータプログラムをプロセッサにより実行することで実現される。リーク検出装置200は、火力発電プラント100内の種々の機器との間でネットワークを介して情報を授受することができ、例えば、
図1に示す種々の流量計(111~117、121~122、141~142)により計測された流量を受信することができる。
【0039】
排出量計測部201は、水蒸気系統から正常に排出される水および蒸気の量である排出量110を計測する。本実施形態の排出量計測部201は、スピルオーバー水流量計111を通過した水の流量や、送気蒸気流量計112、イナート蒸気流量計113、ブロア蒸気流量計114、および販売蒸気流量計115を通過した蒸気の流量を、これらの流量計により計測された流量を取り込むことで計測する。そして、本実施形態の排出量計測部201は、この取り込んだ流量に基づいて排出量110を計算する。本実施形態の排出量110は例えば、所定の時間あたりに水蒸気系統から正常に排出される水および蒸気の量である。
図2はさらに、流量計A、B、C・・・から取り込まれた流量からそれぞれ排出量A、B、C・・・を計算し、排出量A、B、C・・・を合計することで排出量110を計算する例を示している。
【0040】
排出量計測部201により計測された排出量110は、計測値保存部206によりデータベース210内に保存される。この排出量110は、
図2に「排出量212」として示されている。
【0041】
補給水量計測部202は、水蒸気系統に補給される水の量である補給水量120を計測する。本実施形態の補給水量計測部202は、補給水流量計121および補給水流量計122を通過した水の流量を、これらの流量計により計測された流量を取り込むことで計測する。そして、本実施形態の補給水量計測部202は、この取り込んだ流量に基づいて補給水量202を計算する。本実施形態の補給水量120は例えば、所定の時間あたりに水蒸気系統に補給される水の量である。
図2はさらに、流量計X、Y・・・から取り込まれた流量からそれぞれ補給水量X、Y・・・を計算し、補給水量X、Y・・・を合計することで補給水量120を計算する例を示している。
【0042】
補給水量計測部202により計測された補給水量120は、計測値保存部206によりデータベース210内に保存される。この補給水量120は、
図2に「補給水量211」として示されている。
【0043】
仮想貯留算定部203は、排出量計測部201により計測された排出量110と、補給水量計測部202により計測された補給水量120とに基づいて、仮想貯留量および補正補給水量を算定する。
【0044】
仮想貯留量は、仮想的に存在する貯留部である仮想貯留部207内に貯留される水および蒸気の量である。仮想貯留部207は、水蒸気系統から排出される水および蒸気を仮想的に貯留し、水蒸気系統に補給される水を仮想的に排出する。そのため、仮想貯留量は一般に、排出量110の分だけ増加し、補給水量120の分だけ減少する。仮想貯留算定部203により算定された仮想貯留量は、データベース210内に「仮想貯留量213」として保存される。この仮想貯留量213の挙動は、仮想貯留部207により保持され管理される。仮想貯留量のさらなる詳細については、後述する。
【0045】
補正補給水量は、仮想貯留量より大きい補給水量120が計測された場合に、補給水量120から仮想貯留量を減算した量として与えられる。補給水量120が仮想貯留量より大きい場合には、仮想貯留部207から水蒸気系統に補給される水の量が、「補給水量120-仮想貯留量」の分だけ足りなくなる、すなわち、「補正補給水量」の分だけ足りなくなる。このような状況は、補正補給水量の分だけの水および蒸気が、水蒸気系統からリーク180として排出された場合に生じる。よって、補正補給水量は、水蒸気系統からリーク180として排出される水および蒸気の量に相当する。仮想貯留算定部203により算定された補正補給水量は、データベース210内に「補正補給水量214」として保存される。補正補給水量のさらなる詳細については、後述する。
【0046】
監視部204は、データベース210内の補正補給水量214を監視する。本実施形態の監視部204は、補正補給水量214と所定のしきい値とを比較し、この比較結果に基づいて、水蒸気系統内でリーク180が発生しているか否かを判断する。例えば、補正補給水量214がしきい値より小さい場合には、監視部204は、リーク180が発生していないと判断する。一方、補正補給水量214がしきい値より大きい場合には、監視部204は、リーク180が発生していると判断する。この場合、監視部204は、リーク180の発生を通知する信号を表示部205に送信する。
【0047】
表示部205は、監視部204による補正補給水量214の監視結果に基づいて、リーク180に関する情報をリーク検出装置200の表示画面上に表示する。例えば、リーク180の発生を通知する信号が監視部204から表示部205に送信された場合には、表示部205は、リーク180が発生していることを示す情報を、リーク検出装置200の表示画面上に表示する。これにより、リーク検出装置200のオペレータは、火力発電プラント100の水蒸気系統内でリーク180が発生していることを知ることができ、リーク180に対する対策を講じることができる。
【0048】
表示部205は、リーク180が発生していることを示す情報を、どのような形で表示画面上に表示してもよい。例えば、リーク180が発生していることを示す警告が、表示画面上に表示されてもよい。また、監視部204は、リーク180が発生しているとの文面を含む電子メールを送信してもよい。この場合、オペレータが電子メールを開くと、表示部205は、この文面を表示画面上に表示する。これにより、オペレータは、リーク180が発生していることを知ることができる。
【0049】
リーク検出装置200は、リーク180に関する情報を別の形で出力してもよい。例えば、リーク検出装置200は、リーク180が発生していると判断した場合には、リーク180が発生していることを示す情報を、リーク検出装置200以外の装置の表示画面上に表示してもよい。また、リーク検出装置200は、リーク180が発生していると判断した場合には、リーク180が発生していることを示す警告音を、リーク検出装置200またはその他の装置から発生させてもよい。また、リーク検出装置200は、リーク180が発生していると判断した場合には、リーク180が発生していることを示す警告ランプを点灯させてもよい。
【0050】
リーク検出装置200は例えば、火力発電プラント100の一部として、火力発電プラント100の事業者の敷地内に設置されている。一方、リーク検出装置200は、火力発電プラント100の事業者と異なる者の敷地内に設置されていてもよく、例えば、リーク検出装置200の開発者の敷地内に設置されていてもよい。この場合、火力発電プラント100の事業者は、リーク検出装置200の開発者からのサービスとして、リーク検出装置200によるリーク180の検出結果を受け取ることができる。
【0051】
また、リーク検出装置200によるリーク180の検出結果は、火力発電プラント100の運転状態の改善に実際に活用されてもよいし、単に火力発電プラント100の運転状態を解析するために利用されてもよい。後者の場合、リーク検出装置200は、火力発電プラント100で計測された情報を何らかの形で取得できれば、火力発電プラント100内の機器とネットワークで接続されていなくてもよい。この場合、リーク検出装置200内で使用される排出量110や補給水量120は、この情報に基づいて計算される。
【0052】
図3は、第1実施形態の比較例のリーク検出装置200の動作を説明するためのタイミングチャートである。
図3の説明では、説明を分かりやすくするために、
図1および
図2に示す符号を使用する。
【0053】
図3(a)は、水蒸気系統から正常に排出される水および蒸気の流量である排出流量の時間変化を示している。
図3(b)は、復水器170のホットウェル171の水位である復水器レベルの時間変化を示している。
図3(c)は、水蒸気系統に補給される水の流量である補給水流量の時間変化を示している。
【0054】
図3(a)に示すような水および蒸気の系外排出が行われると、その影響が
図3(b)の復水器レベルや
図3(c)の補給水流量に現れる。ただし、
図3(a)の排出流量の影響が復水器レベルに現れるまでには、T1の時間遅れがあり、
図3(b)の復水器レベルの影響が補給水流量に大きく現れるまでには、T2の時間遅れがある。
図3(b)において、符号A1は、復水器レベルの下限(補給開始点)を表し、符号A2は、復水器レベルの上限(補給終了点)を表している。
図3(c)において、符号B1は、補給水流量計121や水位調節弁125を通過した補給水の流量を表し、符号B2は、補給水流量計122や補給水弁127を通過した補給水の流量を表している。
【0055】
水位調節弁125は、復水器レベルが下がり始めると開放されるが(B1)、補給水弁127は、復水器レベルが補給開始点まで下がると開放される(B2)。そのため、復水器レベルの影響が補給水弁127に現れるまでには、T2の時間遅れがある。具体的には、復水器レベルが補給開始点まで下がると、補給水ポンプ126が起動され、補給水タンク123から補給水ポンプ126および補給水弁127を介してホットウェル171に補給水が補給され始める。補給水弁127を介した補給水の補給は、復水器レベルが補給終了点に達するまで継続される。
【0056】
図3(d)は、排出流量の時間変化をマイナス側に点線で示し、B2の補給水流量の時間変化をプラス側に点線で示している。これら排出流量と補給水流量の時間変化の間には、T1+T2の時間遅れがある。よって、単純に排出量110と補給水量120との差からリーク180の流量を計算しようとすると、リーク180の流量を正しく計算できない可能性がある。例えば、リーク180が存在せず、排出量110のような正常な系外排出しか存在しない場合でも、リーク180が存在すると判定されてしまう場合がある。この場合、
図3(d)に実線で示すようなリーク検出用流量が誤って検出され、水蒸気系統でハンチングが生じる可能性がある。
【0057】
図4は、第1実施形態のリーク検出装置200の動作を説明するためのフローチャートである。
【0058】
まず、排出量110を計算する(ステップS1)。排出量110は例えば、スピルオーバー水流量計111、送気蒸気流量計112、イナート蒸気流量計113、ブロア蒸気流量計114、および販売蒸気流量計115により計測された流量(排出流量)に基づいて計算される。これらの排出流量から計算される排出量をそれぞれ、Fout1、Fout2、・・・、FoutNで表す場合(Nは1以上の整数)、排出量110は、これらの排出量の合計Foutで与えられる。
【0059】
Fout=Fout1+Fout2+・・・+FoutN (1)
式(1)のNは、排出量110の計算に使用される流量計の台数を表す。よって、流量計111~115が使用される場合のNの値は、5である。本実施形態のNは、5以外の値でもよい。
【0060】
ステップS1で計算された排出量110は、データベース210内に「排出量212」として保存される。本実施形態の排出量212は、データベース210内に時系列データとして保存される。
【0061】
次に、排出量110に基づいて仮想貯留量を更新する(ステップS2)。仮想貯留量は例えば、仮想貯留量(ST)を排出量110(Fout)だけインクリメントすることで更新される。
【0062】
ST=ST+Fout (2)
式(2)の右辺のSTは、更新前の仮想貯留量を表し、式(2)の左辺のSTは、更新後の仮想貯留量を表す。別言すると、ある時間t1の仮想貯留量に排出量110を加算することで、次の時間t2の仮想貯留量が算定される(t1<t2)。
【0063】
ステップS2で算定された更新後の仮想貯留量は、データベース210内に「仮想貯留量213」として保存される。本実施形態の仮想貯留量213は、データベース210内に時系列データとして保存される。なお、ステップS2で使用される更新前の仮想貯留量は、データベース210内の仮想貯留量213のうちの最新の仮想貯留量である。
【0064】
次に、補給水量120を計算する(ステップS3)。補給水量120は例えば、補給水流量計121および補給水流量計122により計測された流量(補給水流量)に基づいて計算される。これらの補給水流量から計算される補給水量をそれぞれ、Fin1、Fin2、・・・、FinMで表す場合(Mは1以上の整数)、補給水量120は、これらの補給水量の合計Finで与えられる。
【0065】
Fin=Fin1+Fin2+・・・+FinM (3)
式(3)のMは、補給水量120の計算に使用される流量計の台数を表す。よって、流量計121~122が使用される場合のMの値は、2である。本実施形態のMは、2以外の値でもよい。
【0066】
ステップS3で計算された補給水量120は、データベース210内に「補給水量211」として保存される。本実施形態の補給水量211は、データベース210内に時系列データとして保存される。
【0067】
次に、仮想貯留量が補給水量120以上である場合には(ステップS4 YES)、ステップS5~S6を実行する。ステップS5では、補給水量120に基づいて仮想貯留量を更新する。仮想貯留量は例えば、仮想貯留量(ST)を補給水量120(Fin)だけデクリメントすることで更新される。
【0068】
ST=ST-Fin (4)
式(4)の右辺のSTは、更新前の仮想貯留量を表し、式(4)の左辺のSTは、更新後の仮想貯留量を表す。別言すると、ある時間t3の仮想貯留量から補給水量120を減算することで、次の時間t4の仮想貯留量が算定される(t3<t4)。続くステップS6では、補正補給水量(Hout)をゼロに設定する。
【0069】
Hout=0 (5)
Houtがゼロであることは、水蒸気系統内でリーク180が発生していないことに対応している。
【0070】
一方、仮想貯留量が補給水量120未満である場合には(ステップS4 NO)、ステップS7~S8を実行する。ステップS7では、仮想貯留量および補給水量120に基づいて補正補給水量を算定する。補正補給水量(Hout)は例えば、補給水量120(Fin)から仮想貯留量(ST)を減算した量として与えられる。
【0071】
Hout=Fin-ST (6)
ステップS7は、ST<Finである場合に実行されるため、式(6)のHoutは、ゼロより大きい値となる。Houtがゼロより大きいことは、水蒸気系統内でリーク180が発生していることに対応している。続くステップS8では、仮想貯留量(ST)をゼロへと更新する。
【0072】
ST=0 (7)
式(6)の右辺のSTは、更新前の仮想貯留量を表し、式(7)の左辺のSTは、更新後の仮想貯留量を表す。ステップS8では、ある時間t5の仮想貯留量が、次の時間t6の仮想貯留量(ゼロ)に変化する(t5<t6)。
【0073】
ステップS5、S8で算定された更新後の仮想貯留量は、データベース210内に「仮想貯留量213」として保存される。本実施形態の仮想貯留量213は、上述のように、データベース210内に時系列データとして保存される。なお、ステップS4、S5、S7で使用される更新前の仮想貯留量は、データベース210内の仮想貯留量213のうちの最新の仮想貯留量である。
【0074】
また、ステップS6、S7で算定された補正補給水量は、データベース210内に「補正補給水量214」として保存される。本実施形態の補正補給水量214は、データベース210内に時系列データとして保存される。
【0075】
図5は、第1実施形態のリーク検出装置200の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【0076】
図5(a)は、上述の排出量110(Fout)に対応する排出流量の時間変化を示している。
図5(b)は、仮想貯留量(ST)の時間変化を示している。
図5(c)は、上述の補給水量(Fin)に対応する補給水流量の時間変化を示している。
図5(d)は、上述の補正補給水量(Hout)を流量に換算した補正補給水流量の時間変化を示している。
【0077】
図5(a)に示すように排出量110が発生すると、仮想貯留部207が、排出量110の分だけ水および蒸気を貯留するため、仮想貯留量が増加する(
図5(b))。一方、
図5(c)に示すように補給水量120が発生すると、仮想貯留部207が、補給水量120の分だけ水を排出するため、仮想貯留量が減少する(
図5(b))。この際、仮想貯留量が補給水量120より小さい場合には、補正補給水流量は「補給水量120-仮想貯留量」となり、仮想貯留量はゼロまで減少する(
図5(b)および(d))。ここでは、仮想貯留量が補給水量120と等しいため、補正補給水流量はゼロのまま維持され、仮想貯留量はちょうどゼロまで減少している(
図5(b)および(d))。
【0078】
図6は、第1実施形態のリーク検出装置200の動作を比喩により説明するためのグラフである。
【0079】
図6(a)は、補正補給水量がゼロの場合を表している。
図6(b)は、補正補給水量がゼロより大きい場合を表している。これらのグラフの説明では、仮想貯留部207を貯金箱に例えており、仮想貯留量を貯金箱内の貯金に例えている。この説明ではさらに、排出量110をお小遣いに例えており、補給水量120を欲しいものに例えており、補正補給水量を欲しいものの残りに例えている。よって、仮想貯留量が排出量110だけ増加することは、貯金箱にお小遣いを貯金することに対応している。また、仮想貯留量が補給水量120だけ減少することは、貯金箱から貯金を下ろして欲しいものを購入することに対応している。
【0080】
図6(a)では、欲しいものに比べて十分な金額の貯金が存在している。よって、欲しいものの全部が貯金により購入でき、欲しいものの残りはなくなる。一方、
図6(b)では、欲しいものに比べて十分な金額の貯金が存在していない。よって、欲しいものの一部しか貯金により購入できず、欲しいものの残りが生じてしまう。この欲しいものの残りが、補正補給水量に対応している。
図6(a)のように欲しいものの残りがなければ、リーク180が発生しておらず、
図6(b)のように欲しいものの残りがあれば、リーク180が発生している。
【0081】
図7は、第1実施形態のリーク検出装置200の動作を説明するための別のタイミングチャートである。
【0082】
図7(a)~(d)はそれぞれ、
図5(a)~(d)に対応している。ただし、
図7(a)は、説明を分かりやすくするために、正当な系外排出である排出量110を実線で示し、異常な系外排出であるリーク180を点線で示している。
【0083】
図7(c)は、排出量110に応じて生じた補給水量120と、リーク180に応じて生じた補給水量120とを示している。前者の補給水量120と後者の補給水量120は、補給水量120の変化に着目するのみでは判別することができない。しかしながら、前者の補給水量120は、補正補給水量の変化を引き起こさないのに対して、後者の補給水量120は、補正補給水量の変化を引き起こす(
図7(d))。よって、本実施形態によれば、補正補給水量の変化に着目することで、リーク180の発生を正しく検出することが可能となる。
【0084】
以上のように、本実施形態のリーク検出装置200は、排出量110および補給水量120に基づいて仮想貯留量を算定し、仮想貯留量および補給水量120に基づいて補正補給水量を算定する。よって、本実施形態によれば、補正補給水量を用いることで、火力発電プラント100の水蒸気系統内のリーク180を適切に検出することが可能となる。なお、本実施形態のリーク検出装置200は、火力発電プラント100のその他の配管系統内の流体(例えば油系統内の油)のリークを検出することにも使用されてもよい。
【0085】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態のリーク検出装置200の構成を示すブロック図である。
【0086】
本実施形態のリーク検出装置200は、第1実施形態のリーク検出装置200の構成要素に加えて、運転状態計測部220と、排出量推測部221と、排出量推測情報テーブル222とを備えている。運転状態計測部220および排出量推測部221は、計算部の例である。また、本実施形態のデータベース210は、第1実施形態のデータベース210内に格納されているデータに加えて、火力発電プラント100の運転状態215に関するデータを格納している。
【0087】
運転状態計測部220は、火力発電プラント100の運転状態190を示す情報を計測する。本実施形態の運転状態計測部220は例えば、発電機160の運転状態190を示す発電機出力や、石炭ミル137の運転状態190を示す石炭ミルON/OFF情報や、ボイラ130の運転状態190を示すスートブロアON/OFF情報を計測する。本実施形態の火力発電プラント100は、発電機出力、石炭ミルON/OFF情報、およびスートブロアON/OFF情報を計測して、その計測結果を運転状態計測部220に出力する装置(例えば、センサや検出器)を備えている。本実施形態の運転状態計測部220は、この装置から出力された計測結果を取り込むことで、発電機出力、石炭ミルON/OFF情報、およびスートブロアON/OFF情報を計測することができる。運転状態計測部220により計測された情報は、計測値保存部206によりデータベース210内に「運転状態215」として保存される。
【0088】
排出量推測部221は、運転状態計測部220により計測された運転状態190を示す情報に基づいて、排出量110を推測する。排出量推測部221は例えば、発電機出力が降下している間には、スピルオーバー弁118を通過する水の流量(排出流量)は50t/hであると推測する。排出量推測部221はさらに、その他の排出流量も推測し、これらの排出流量に基づいて排出量110を計算する。なお、これらの排出流量を推測する際には、排出量推測情報テーブル222が利用される。排出量推測部221により推測された排出量110は、計測値保存部206によりデータベース210内に「排出量212」として保存される。
【0089】
第1実施形態の排出量110は、スピルオーバー水流量計111、送気蒸気流量計112、イナート蒸気流量計113、ブロア蒸気流量計114、および販売蒸気流量計115により計測された流量(排出流量)に基づいて計算される。よって、火力発電プラント100内にこれらの流量計が設置されていない場合には、排出量110を計算することができない。そこで、本実施形態の排出量110は、火力発電プラント100の運転状態190を示す情報に基づいて推測される。これにより、火力発電プラント100内にこれらの流量計が設置されていない場合でも、排出量110を取得することができる。なお、排出量110を用いて仮想貯留量や補正補給水量を算定する処理は、第1実施形態でも本実施形態でも同様に実施可能である。
【0090】
なお、火力発電プラント100は、スピルオーバー水流量計111、送気蒸気流量計112、イナート蒸気流量計113、ブロア蒸気流量計114、および販売蒸気流量計115のうちの一部のみを備えている場合がある。この場合、本実施形態のリーク検出装置200は、流量計による計測結果が存在する排出流量については、計測された排出流量に基づいて排出量を計算し、流量計による計測結果が存在しない排出流量については、推測された排出流量に基づいて排出量を計算し、これらの排出量を合計することで排出量110を計算してもよい。この計算は、排出量計測部201と排出量推測部221とが協働して実行する。
【0091】
図9は、第2実施形態の排出量推測情報テーブル222のデータ構造を説明するための図である。
【0092】
排出量推測情報テーブル222は、推測タイプ301と、運転状態情報302と、推測排出量情報303とを含んでいる。推測タイプ301は、推測を行うやり方を示す情報である。運転状態情報302は、推測に使用する運転状態190を示す情報である。推測排出量情報303は、推測により得られる排出量を示す情報である。
【0093】
例えば、推測タイプAでは、発電機出力が出力下降している間は、スピルオーバー水流量計111の位置を通過する水の流量は50t/hであると推測される。また、推測タイプBでは、スートブロア運転中という接点入力がONしている間は、ブロア蒸気流量計114の位置を通過する蒸気の流量は20t/hであると推測される。また、推測タイプCでは、石炭ミル運転中という接点入力がONからOFFに変化した際(すなわち、石炭ミル137が停止した際)、イナート蒸気流量計113の位置を通過する蒸気の量は40tであると推測される。なお、これらの推測タイプA~Cが使用される場合、火力発電プラント100は、これらの位置にスピルオーバー水流量計111、ブロア蒸気流量計114、およびイナート蒸気流量計113は備えていなくてもよい。
【0094】
図10は、第2実施形態のリーク検出装置200の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【0095】
図10(a)および(b)はそれぞれ、発電機出力の時間変化と、スートブロアON/OFF情報の時間変化とを示している。スピルオーバー水流量計111の位置を通過する水の流量は、発電機出力に基づいて
図10(c)のように推測される。一方、ブロア蒸気流量計114の位置を通過する蒸気の流量は、スートブロアON/OFF情報に基づいて
図10(d)のように推測される。
【0096】
以上のように、本実施形態によれば、流量計による計測結果が存在しない流量がある場合にも、排出量110を取得することが可能となる。
【0097】
(第3実施形態)
図11は、第3実施形態のリーク検出装置200の構成を示すブロック図である。
【0098】
本実施形態のリーク検出装置200は、第1実施形態のリーク検出装置200の構成要素に加え、平定状態算定部230と、平定状態判定情報テーブル231とを備えている。また、本実施形態のデータベース210は、第1実施形態のデータベース210内に格納されているデータに加え、平定しきい値216を格納している。なお、本実施形態のリーク検出装置200はさらに、第2実施形態のリーク検出装置200の構成要素やデータを備えていてもよい。
【0099】
平定状態算定部230は、排出量110に基づいて、火力発電プラント100が平定状態にあるか否かを判定し、火力発電プラント100が平定状態にある場合の補正補給水量に基づいて、監視部204用のしきい値を算定する。平定状態算定部230により算定されたしきい値は、データベース210内に「平定しきい値216」として保存される。本実施形態の監視部204は、補正補給水量214と平定しきい値216とを比較し、この比較結果に基づいて、水蒸気系統内でリーク180が発生しているか否かを判断する。
【0100】
平定状態は、正常な系外排出の変化や、正常な系外排出の変化を引き起こす運転状態の変化がない安定した状態である。よって、火力発電プラント100が平定状態にある場合には、排出量110に関連する水や蒸気の流量(例えば流量計111~115により計測される流量)が変化せず、第2実施形態にて説明した火力発電プラント100の運転状態190も変化しない。
【0101】
このような平定状態においては、補正補給水量はゼロになるのが理想であるが、実際は種々の理由によりゼロにはならないことが多い。例えば、サイクル損失と呼ばれる微小なリーク180の存在や、運転状態190から排出量を推測できない未計測排出の存在や、運転状態190から推測された排出量の誤差の存在などにより、補正補給水量がゼロにならない場合がある。そのため、平定状態でどれくらいの補正補給水量が発生しているかを把握することで、火力発電プラント100の異常によるリーク180の増加を正しく検出できるしきい値を算定することが望ましい。
【0102】
そこで、平定状態算定部230は、データベース210内に保存されている様々な時点での補正補給水量214の中から、火力発電プラント100が平定状態にあると判定される時点での補正補給水量214を抽出する。平定状態算定部230は例えば、火力発電プラント100がある時点で平定状態にあるか否かを、データベース210内に保存されているその時点の排出量212などの値に基づいて判定する。平定状態算定部230はさらに、抽出された補正補給水量214について統計処理などを行うことで、平定しきい値を算定し、データベース210内に「平定しきい値216」として保存する。
【0103】
図12は、第3実施形態の平定状態判定情報テーブル231のデータ構造を説明するための図である。
【0104】
平定状態算定部230は、平定状態の判定を、平定状態判定情報テーブル231に記載された内容に従って行う。
図12に示す平定状態判定情報テーブル231は、平定タイプ401と、プラント情報402とを含んでいる。平定タイプ401は、平定状態の判定方法を示している。プラント情報402は、火力発電プラント100の運転状態を示す情報のうち、平定状態の判定に使用される情報を示している。
【0105】
例えば、平定タイプAでは、送気蒸気流量計112の位置を通過する蒸気の流量が0.1t/h以下の状態が30分以上続いている場合に、火力発電プラント100は平定状態にあると判定される。また、平定タイプBでは、過去1時間の発電機出力の変化が10MW以内である場合に、火力発電プラント100は平定状態にあると判定される。なお、平定タイプが複数存在する場合には、すべての平定タイプの条件が満たされる場合に、火力発電プラント100は平定状態にあると判定するようにしてもよい。例えば、送気蒸気流量計112の位置を通過する蒸気の流量が0.1t/h以下の状態が30分以上続いており、かつ、過去1時間の発電機出力の変化が10MW以内である場合に、火力発電プラント100は平定状態にあると判定するようにしてもよい。平定状態算定部230は、火力発電プラント100が平定状態にある期間内の補正補給水流量214をすべて抽出し、これらの補正補給水流量214の平均値および標準偏差を統計処理により算定することで、平定しきい値を算出してもよい。
【0106】
図13は、第3実施形態のリーク検出装置200の動作を説明するためのタイミングチャートであり、平定状態を判定してしきい値を算定する様子を時系列的に示している。
【0107】
図13(a)に示す排出流量Aは、正常な系外排出(排出量110)に対応する流量のうち、流量計により計測された流量を示している。一方、
図13(b)に示す排出流量Bは、正常な系外排出(排出量110)に対応する流量のうち、流量計により計測されず、推測により得られた流量を示している。
【0108】
図13(c)は、補給水量120に対応する補給水流量を示している。本タイミングチャートでは、排出流量Aがパルス的に2回発生しているため、補給水流量も、時間遅れの後に、排出流量Aの変化に応じて2回大きくパルス的に増加している。このような補給水流量の変化は、
図3(c)に示す符号B2の変化と同じメカニズムで発生している。一方、
図13(d)は、補正補給水量に対応する補正補給水流量を示している。
【0109】
符号Taは、平定に必要な時間(平定時間)を示している。符号Tbは、時間Taの後に生じる平定状態期間を示している。上述したように、補給水流量は2回大きくパルス的に増加しているが(
図13(c))、これは平定時間Ta内に発生している。本実施形態の平定状態算定部230は、平定状態期間Tb内の補正補給水流量に基づいて、平定しきい値を算定する。平定状態期間Tbの判定は、平定状態判定情報テーブル231に基づいて行われる。
【0110】
図13(d)は、補正補給水流量が平定状態期間Tb内に常時ゼロにはならず、パルス的に発生している様子を示している。補正補給水流量が平定状態期間Tb内にゼロにならない理由は、上述の通りである。本実施形態では、平定状態期間Tb内の補正補給水流量のこのような変化を、火力発電プラント100の異常によるリーク180の増加と区別できるように、平定しきい値が設定される。
【0111】
平定しきい値の算定に用いるデータの収集期間は、オペレータが手動で設定してもよいし、リーク検出装置200が自動で設定してもよい。例えば、上記収集期間は、オペレータが表示画面上で収集期間を指定することで設定されてもよい。また、しきい値を算定するごとに、しきい値算定の60日前から30日前までのデータをしきい値算定に使用することを、リーク検出装置200が自動で決定してもよい。この場合の上記収集期間は、しきい値算定の60日前から30日前までである。
【0112】
ただし、しきい値算定に至近のデータ、例えば3時間前から1時間前までのデータを使用すると、火力発電プラント100の動作に不具合が発生してリーク180が発生した場合に好ましくない。具体的には、このリーク180が発生している間のデータがしきい値算定に使用されてしまい、しきい値の正確性が欠けるおそれがある。よって、しきい値算定からある程度前の時点のデータを、しきい値算定に使用することが好ましい。これは、上記収集期間を手動で設定する場合も自動で設定する場合も同様である。
【0113】
以上のように、本実施形態によれば、監視部204により使用されるしきい値を火力発電プラント100が算定することで、平定状態を考慮に入れたしきい値を使用することが可能となる。
【0114】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置、方法、およびプラントは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置、方法、およびプラントの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。添付の特許請求の範囲およびこれに均等な範囲は、発明の範囲や要旨に含まれるこのような形態や変形例を含むように意図されている。
【符号の説明】
【0115】
100:火力発電プラント、110:排出量、111:スピルオーバー水流量計、
112:送気蒸気流量計、113:イナート蒸気流量計、114:ブロア蒸気流量計、
115:販売蒸気流量計、116:駆動蒸気流量計、117:シール蒸気流量計、
118:スピルオーバー弁、120:補給水量、121:補給水流量計、
122:補給水流量計、123:補給水タンク、124:逆止弁、
125:水位調節弁、126:補給水ポンプ、127:補給水弁、
130:ボイラ、131:節炭器、132:ボイラ火炉壁、133:過熱器、
134:再熱器、135:石炭、136:通風機、137:石炭ミル、
138:排ガス、139:煙突、140:補助蒸気ヘッダ、
141:補助蒸気流量計、142:補助蒸気流量計、150:蒸気タービン、
151:高圧タービン、152:中圧タービン、153:低圧タービン、
160:発電機、170:復水器、171:ホットウェル、172:復水ポンプ、
173:脱塩装置、174:給水加熱器、175:脱気器、176:給水ポンプ、
177:給水加熱器、178:抽気蒸気、180:リーク、190:運転状態、
200:リーク検出装置、201:排出量計測部、202:補給水量計測部、
203:仮想貯留算定部、204:監視部、205:表示部、
206:計測値保存部、207:仮想貯留部、210:データベース、
211:補給水量、212:排出量、213:仮想貯留量、
214:補正補給水量、215:運転状態、216:平定しきい値、
220:運転状態計測部、221:排出量推測部、222:排出量推測情報テーブル、
230:平定状態算定部、231:平定状態判定情報テーブル、
301:推測タイプ、302:運転状態情報、303:推測排出量情報、
401:平定タイプ、402:プラント情報