(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】高双晶化配向多結晶ダイヤモンド膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/04 20060101AFI20240122BHJP
C30B 25/02 20060101ALI20240122BHJP
C23C 16/511 20060101ALI20240122BHJP
C23C 16/27 20060101ALI20240122BHJP
C01B 32/26 20170101ALI20240122BHJP
【FI】
C30B29/04 E
C30B29/04 C
C30B29/04 G
C30B29/04 H
C30B25/02 P
C30B25/02 Z
C23C16/511
C23C16/27
C01B32/26
(21)【出願番号】P 2021078802
(22)【出願日】2021-05-06
(62)【分割の表示】P 2019203514の分割
【原出願日】2015-10-26
【審査請求日】2021-05-07
(32)【優先日】2014-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515017142
【氏名又は名称】ツーシックス、インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】II-VI INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】ウェン-チン、シュ
(72)【発明者】
【氏名】チャオ、リウ
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ、クライシンガー、ジュニア
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ、ディー.タナー
(72)【発明者】
【氏名】イアン、カリアー
(72)【発明者】
【氏名】デイビッド、サベンズ
(72)【発明者】
【氏名】エルギン、イー.アイスラー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス、イー.アンダーソン
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-107068(JP,A)
【文献】特表2014-503035(JP,A)
【文献】Journal of Physics. Condensed Matter,2009年,Vol.21, No.36,pp.364221, 1-51
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/04
C30B 25/02
C23C 16/511
C23C 16/27
C01B 32/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱管理用途、高エネルギー粒子放射線のための検出器用途、マイクロ波用途、音響用途または電磁波用途に使用される、100ミクロン以上の膜厚を有する自立性のCVD成長多結晶ダイヤモンド膜であって、
前記結晶ダイヤモンド膜は、前記ダイヤモンド膜の成長方向である[110]ダイヤモンド格子方向に沿った配向の割合が、前記多結晶ダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド結晶子の総数の≧70%であるダイヤモンド結晶子を含み、
前記ダイヤモンド結晶子は、
前記[110]ダイヤモンド格子方向のまわりに双晶化した双晶形成形態を有し、前記ダイヤモンド結晶子の双晶形成の割合は、前記多結晶ダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド結晶子の総数の≧20%である、多結晶ダイヤモンド膜。
【請求項2】
前
記双晶形成形態が、
星形状双晶形成形態である、請求項1に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【請求項3】
前記多結晶ダイヤモンド膜が、ホウ素、窒素、及び酸素のうちの1つ以上の元素でドーピングされている、請求項1に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【請求項4】
前記自立性のCVD成長多結晶ダイヤモンド膜は、120mm以上の直径を有する、請求項1に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に援用される2014年11月6日に出願された米国特許仮出願第62/076,215号及び2015年8月4日に出願された米国特許出願第14/817,704号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、ダイヤモンド結晶子を含む多結晶ダイヤモンド膜、及びその多結晶ダイヤモンド膜の成長方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ダイヤモンドは、モース硬度10を有する最も硬い既知物質であり、このため、ダイヤモンドは、カッティング加工、機械加工、ドリル加工、切削加工などの用途に最も有用である。ダイヤモンドはまた、最大で2000から2200ワット毎メートル毎ケルビンの熱伝導率を有する最も熱伝導性の良い既知物質でもあり、このため、ダイヤモンドは、要求の厳しい条件下での熱管理の用途において非常に望ましい。ダイヤモンドはまた、極めて低い摩擦係数も有し、このため、ダイヤモンドは、ブレーキのような使用における多用途の物質である。ダイヤモンドはまた、マイクロ波、赤外、可視、及び他の紫外電磁波を伝導するための非常に優れた光学物質でもある。ダイヤモンドは、高フルエンス核放射線のための検出器として用いられる場合に、高い安定性を有する。加えて、ダイヤモンドはまた、強酸、強塩基、強酸化剤、又は強還元剤が関与する化学環境中において、高められた温度又は低温条件であっても、高い不活性を有する。さらに、ダイヤモンドは、高屈折率物質でもあり、このことにより、ダイヤモンドは、宝飾産業において、人気があり、高価値となっている。さらなる情報については、以下の参考文献、(1)"Properties, Growth and Applications of Diamond", Edited by M. H. Nazare and A. J. Neves, 2001, published by The Institute of Electrical Engineers;(2)"Diamond Films Handbook", edited by Jes Asmussen and D. K. Reinhard, 2002, published by Marcel Dekker;及び(3)"Diamond Films, Chemical Vapor Deposition for Oriented and Heteroepitaxial Growth", Edited by Koji Kobashi, 2005, published by Elsevierを参照されたい。
【0004】
ダイヤモンドは、最も多用途で、最も高価値の物質の1つであるが、天然でのその入手可能性は、非常に限られている。地中から採掘されるダイヤモンドは、典型的には、限定されたサイズの幾何学的寸法を有する単結晶であり、ほとんどの場合、大型のサイズを必要とする工業的用途にとっては小さすぎる。多くの場合、天然に形成されるダイヤモンドは、不純物及び結晶欠陥を有する。比較的結晶サイズが大きく、化学的含有物において比較的純粋であり、結晶欠陥のない比較的完全であるダイヤモンド結晶は、非常に高価であり、多くの場合、値段が付けられないほどである。
【0005】
合成ダイヤモンドは、HTHPプロセスと称される極めて高温及び極めて高圧力の条件下の化学反応器中で工業的に生産されることが知られている。そのような過酷な合成条件のために、そのプロセス、設備、及び安全性に伴う高いコストは言うまでもないが、反応器サイズは限定され、HTHPプロセスから成長されるダイヤモンドの寸法も限定される。多くの場合、HTHPプロセスにおいて、触媒不純物がダイヤモンド格子中に組み込まれることに起因して、黄色の色調を有するダイヤモンドが生産される。加えて、HTHPプロセスでは、大口径のダイヤモンドウエハを生産することはできない。
【0006】
工業的には、単結晶ダイヤモンドは、化学蒸着(CVD)と称されるプロセスによって反応器中で成長させることもでき、ここで、適切な成長条件は、マイクロ波プラズマ、タングステン熱フィラメント、直流ジェットプラズマ、レーザープラズマ、アセチレントーチなどによって得ることができる。CVD成長プロセスによって、多結晶ダイヤモンド薄膜を異なる基材上に、及び/又は自立性ダイヤモンド厚膜を良好に成長させることも可能であることが本技術分野において知られているが、低応力膜、又はクラックのない大サイズのダイヤモンドを得ることは非常に困難である。しかし、CVD成長プロセスでは、天然からの、又はHTHPプロセスを用いて成長させた単結晶ダイヤモンドの径よりも著しく大きいサイズであり得るダイヤモンド基材を生産することができる。しかしながら、CVDプロセス又はその他のいずれのダイヤモンド成長プロセスにおけるダイヤモンドの成長速度も、一般的には遅く、例えば、1ミクロン/時間未満の成長速度から数ミクロン/時間の成長速度の範囲であり、これよりも高い成長速度で単結晶の成長が可能であるとする報告もあるが、欠陥の数が増加している。
【0007】
経済的な理由から、大口径のダイヤモンド膜を高成長速度で成長させることが望ましく、それによって、ダイヤモンドの単位体積あたりの生産コストが低下される結果となる。
成長温度の上昇及びメタン濃度の上昇は、ダイヤモンド膜の成長速度を推進し得る。しかし、大口径ダイヤモンド膜を高い成長速度で成長させるには、課題が存在する。ダイヤモンド膜の成長が速いほど、フリーラジカル水素が望ましくないSp2炭素原子をダイヤモンド膜からエッチング除去する時間がないことによって、より多くの望ましくないSp2炭素原子が、望ましいSp3炭素原子と共にダイヤモンド膜に組み込まれ、この結果、ダイヤモンド膜中の応力が増加し、多くの場合、ダイヤモンド膜の品質が望ましくないものとなる。同時に、ダイヤモンドの成長が速いほど、ダイヤモンド膜上のより多くのダイヤモンド結晶子が不整列となる場合もあり、この結果、ダイヤモンド膜中の応力レベルが高まり得る。加えて、ダイヤモンドがその上に成長する基材の径が大きいほど、ダイヤモンド膜中に応力が蓄積され、この結果、ダイヤモンド膜の望ましくない早期の剥離及び破砕が発生し得る。従って、課題は、様々な用途のための望ましい特徴、性質、及び特性を有するダイヤモンド膜を速く、大きく良好に成長させることである。
【0008】
ダイヤモンドは、極めて硬い物質であるが、単結晶ダイヤモンドの硬度は、その結晶配向によって変動する。純ダイヤモンドの[111]結晶方向に対して垂直である表面が最も硬い。[111]に対して垂直である表面は、純ダイヤモンドの[100]結晶方向に対して垂直である表面よりも100倍硬い。従って、ダイヤモンド結晶の[111]方向は、最も耐久性が高く、耐摩耗性という点で機械的用途において最も望ましく、一方、[100]方向は、最も軟らかく、様々な工具形状への機械加工/製造の容易さのレベルにおいて最も望ましい。
【0009】
機械的用途のためのCVD多結晶ダイヤモンドは、数百ミクロンから数千ミクロンもの厚さ、場合によっては、3000ミクロン以上もの厚さまでの厚さを有する自立性ウエハへと成長させることができる。成長したままの状態の自立性ダイヤモンドウエハを、ラップ又は研磨処理を行うことなしに、機械的用途に用いることができる。成長したままの状態の自立性ダイヤモンドウエハの表面が、所望される表面粗度及び平面度まで、所望に応じてラップ処理されてもよく、所望に応じてさらに研磨処理されてもよい。次に、成長したままの状態の表面ラップ処理済み及び/又は表面研磨処理済み自立性ダイヤモンドウエハは、レーザーカッティングされるか、又はダイヤモンド膜に電気伝導性のためのドーピングが行われている場合は、放電切削(EDM)されて、ドレッシング加工、カッティング加工、切削加工、ドリル加工、研削加工、旋盤加工などの機械的用途のための異なる形状とされてよい。レーザーカッティング又はEDMによって作製された表面は、機械的目的のための作業面として用いられる。多くの場合、そのような作業面は、特定の角度で機械加工又は製造される必要がある。その使用前に、新たに作製されたレーザーカッティング又はEDM表面は、多くの場合、微細に研削加工されて、精密で望ましい幾何学的形状に仕上げられる。従って、作業面の必要とされる角度を機械加工又は製造する容易さのレベルを有することが非常に望ましい。一片の単結晶ダイヤモンドの場合、ダイヤモンド結晶格子の[100]方向に沿った表面上に機械加工又は製造するという選択肢がある。多結晶自立性CVDダイヤモンドの場合、すべてのダイヤモンド結晶子が特定の方向に選択的に配向されていない限り、そのような選択肢はない。従って、必要とされる角度を比較的容易に機械加工又は製造することのできる(100)配向表面を有することが望ましい。従って、[111]方向に選択的に配向された作業面を有する多結晶自立性ダイヤモンド工具を形成することも望ましく、それによって、このダイヤモンド工具は、より硬く、より良好に機能することができ、所有コストがより低く、及び工具の交換頻度が低くなり、より効率が良く、必要とされる資本設備投資が低減される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
まとめると、多結晶ダイヤモンド膜を、高成長速度で、大口径基材上に、早期の剥離を防止する穏和な応力レベルで望ましい厚さまで良好に成長させることが望ましい。また、そのような多結晶ダイヤモンド膜が、成長方向に沿って[110]方位に対して高配向され、また、成長表面から特定の角度でのダイヤモンド膜断面上に選択的配向([111]及び[100]方向)も有し、それによって、そのようなダイヤモンド膜の異なる工具形状への製造が容易であり([100]方向が好ましい)、並びに機械的、熱管理、光学素子、検出器、耐摩耗性、化学的不活性、音響、電磁波管理などであるがこれらに限定されない様々な用途のために所望される硬度レベル([111]方向が好ましい)を有することも望ましい。また、そのような多結晶ダイヤモンド膜が、望ましい機械的耐久性を達成するために(111)結晶劈開面を分断するという意味で小結晶粒度の多結晶ダイヤモンド膜のように挙動するが、同時に、所望される熱伝導性レベルを達成するためにフォノンの輸送は可能とすることも望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
ダイヤモンド膜の成長方向に沿ってダイヤモンド結晶格子の[110]配向を有するダイヤモンド結晶子を含む多結晶ダイヤモンド膜が開示される。この多結晶ダイヤモンド膜のダイヤモンド結晶子は、望ましくは、成長表面から35°の角度での好ましい[111]配向、及び成長表面から45°の角度での好ましい[100]配向を有し、その結果、耐久性にとって好ましい作業角度及び製造にとって好ましいエッジ作製角度の両方を有するという利点が得られる。高[110]配向ダイヤモンド結晶子は、ダイヤモンド結晶子間での不整列を最小限に抑え、このことは、大口径を有する多結晶ダイヤモンド膜の望ましい厚さまでの良好な高速成長を、早期の剥離を起こしてしまうことなく可能とする穏和な応力レベルをもたらす結果になるものと考えられる。
【0012】
また、[110]軸まわりに双晶化し、星形状の結晶形態、又は先端が円の中心にほとんど集まっている自転車車輪形状の同心円(bicycle-wheel-shaped concentric pies)を形成するダイヤモンド結晶子を含む多結晶ダイヤモンド膜も開示される。そのような双晶形成は、大口径を有する多結晶ダイヤモンド膜の望ましい厚さまでの良好な高速成長を早期の剥離を起こしてしまうことなく可能とするのに充分に穏和なレベルまで、[110]配向から得られる可能性のある応力低減に加えて、存在する場合はいずれの半径方向の応力も(360°)緩和する機械的ウェッジのように挙動することができる。そのような双晶形成は、著しい量のダイヤモンド格子の不連続面を導入し、ダイヤモンドの(111)劈開面のサイズを効果的に低下させ、それによって、本明細書で述べる主要事項に従う本発明の多結晶ダイヤモンド膜は、さらなる結晶粒界を導入することなく、機械的耐久性を高めるための小結晶粒の多結晶ダイヤモンド膜のように挙動し、このことにより、フォノンが結晶粒界で著しく散乱する一方で、双晶化面を通しては、ほとんど散乱することなく輸送されることから、ダイヤモンドの固有の熱伝導性の喪失を最小限とすることができる。加えて、本明細書で述べる高双晶化[110]配向ダイヤモンド膜は、200ミクロン×350ミクロンの20×対物レンズ測定領域(20X-object-measured area)での平均表面粗度(Ra)、山対谷値(peak-to-valley value)(PV)、平面度などに関して、研磨処理ダイヤモンド表面(核形成側及び成長側)の傑出した表面仕上げを容易とすることができる。本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、機械的、光学素子、検出器、熱管理、電磁波管理、音響管理、摩耗、化学的不活性などが挙げられるがこれらに限定されない用途に用いることができる
【0013】
本発明の様々な好ましい及び限定されない実施形態又は態様を、ここで記載し、以下の番号を付けた節(Clause)に示す。
【0014】
節1:[110]ダイヤモンド格子方向に沿った配向の割合が、多結晶ダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド結晶子の総数の≧70%、又は≧80%、又は≧85%、又は≧90%であるダイヤモンド結晶子を含むCVD成長多結晶ダイヤモンド膜。
【0015】
節2:[110]ダイヤモンド格子方向に沿った配向の割合が、多結晶ダイヤモンド膜の成長側、核形成側、又は成長側及び核形成側の両方に対してである、節1に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0016】
節3:星形状、又は自転車車輪形状、又は同心円形状の双晶形成形態を有するダイヤモンド結晶子を含み;及びダイヤモンド結晶子の双晶形成の割合が、多結晶ダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド結晶子の総数の≧20%、又は≧25%、又は≧30%、又は≧35%である、節1又は2に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0017】
節4:星形状双晶形成形態が、多結晶ダイヤモンド膜の成長したままの状態の表面上に存在し;及び自転車車輪形状又は同心円形状の双晶形成形態が、多結晶ダイヤモンド膜の研磨処理された成長表面上に存在する、節1~3のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0018】
節5:ダイヤモンド結晶子が、[110]ダイヤモンド格子方向のまわりに双晶化し;及びダイヤモンド結晶子の双晶形成の割合が、多結晶ダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド結晶子の総数の≧20%、又は≧25%、又は≧30%、又は≧35%である、節1~4のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0019】
節6:双晶形成形態が、多結晶ダイヤモンド膜の成長したままの状態では星形状であり;及び双晶形成形態が、多結晶ダイヤモンド膜の研磨処理された成長表面上では、自転車車輪形状又は同心円形状である、節1~5のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0020】
節7:成長表面の面から35.3°の角度での[111]配向を有するダイヤモンド結晶子の割合が、多結晶ダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド結晶子の総数の≧40%、又は≧50%、又は≧55%、又は≧60%である、節1~6のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0021】
節8:成長表面の面から45°の角度での[100]配向を有するダイヤモンド結晶子の割合が、多結晶ダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド結晶子の総数の≧25%、又は≧30%、又は≧35%、又は≧40%である、節1~7のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0022】
節9:成長表面の面から45°の角度での混合[100][331]配向(combined [100]&[331] orientation)を有するダイヤモンド結晶子の割合が、多結晶ダイヤモンド膜を形成するダイヤモンド結晶子の総数の≧50%、又は≧60%、又は≧70%、又は≧80%である、節1~8のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0023】
節10:多結晶ダイヤモンド膜が、少なくとも1つの他の元素でドーピングされている、節1~9のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0024】
節11:少なくとも1つの他の元素が、ホウ素、窒素、及び酸素のうちの1つ以上を含む、節1~10のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0025】
節12:多結晶ダイヤモンド膜が、≧120mm、又は≧140mm、又は≧150mmの直径を有する、節1~11のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0026】
節13:多結晶ダイヤモンド膜が、≧100ミクロン、又は≧200ミクロン、又は≧300ミクロン、又は≧400ミクロンの厚さを有する、節1~12のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0027】
節14:多結晶ダイヤモンド膜が、≦500mm、又は≦400mm、又は≦300mm、又は≦200mmの総クラック長さを有する、節1~13のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0028】
節15:多結晶ダイヤモンド膜が、<9%、又は<8%、又は<6%、又は<5%の厚さにおける標準偏差を有する、節1~14のいずれか一節に記載の多結晶ダイヤモンド膜。
【0029】
節16:多結晶ダイヤモンド膜の化学蒸着(CVD)成長をCVD反応器中で行う方法であって、この方法は:(a)気体水素(H)及び気体炭化水素(GH)の気体混合物のCVD反応器中への気流の存在下、CVD反応器中に配置された導電性基材の表面上に、導電性基材の表面に多結晶ダイヤモンド膜を形成するプラズマを点火及び維持すること;並びに(b)工程(a)と同時に、ダイヤモンド膜の中央部分における温度Tを、T≧800℃、又は≧850℃、又は≧900℃、又は1100℃≦T≦1180℃となるように制御することを含む方法。
【0030】
節17:気体混合物の気流が:GHの流量(FGH)の10mL/分≦FGH≦200mL/分、及びHの流量(FH)の1000mL/分≦FH≦3500mL/分を含む、節16に記載の方法。
【0031】
節18:気体混合物が、≧1000mL/分、又は≧1200mL/分、又は≧1400mL/分、又は≧1600mL/分の流速でCVD反応器中に導入される、節16又は17に記載の方法。
【0032】
節19:混合物中における気体炭化水素の濃度(CGH)が、0.5%≦CGH≦5%である、節16~18のいずれか一節に記載の方法。
【0033】
節20:GHが、メタン(CH4)である、節16~19のいずれか一節に記載の方法。
【0034】
節21:混合物中におけるメタンの濃度(CCH4)が、1~4%である、節16~20のいずれか一節に記載の方法。
【0035】
節22:ダイヤモンド膜の成長の過程で、CVD反応器を100~350トルの圧力に維持することをさらに含む、節16~21のいずれか一節に記載の方法。
【0036】
節23:15キロワット~30キロワットの出力であるマイクロ波エネルギーをCVD反応器中に導入することによって、工程(a)においてプラズマを形成することをさらに含む、節16~22のいずれか一節に記載の方法。
【0037】
節24:マイクロ波エネルギーが、915MHzの周波数でCVD反応器中に導入される、節16~23のいずれか一節に記載の方法。
【0038】
節25:混合物が、窒素、ホウ素、酸素含有気体、及び不活性気体のうちの少なくとも1つをさらに含む、節16~24のいずれか一節に記載の方法。
【0039】
節26:多結晶ダイヤモンド膜が、マイクロ波プラズマCVD、直流アークジェットプラズマCVD、熱フィラメントCVD、及び炭化水素(例:アセチレン)トーチCVDの技術のうちの1つによって成長される、節16~25のいずれか一節に記載の方法。
【0040】
節27:節16~27のいずれか一節に記載の方法に従って成長された多結晶ダイヤモンド膜を、多結晶ダイヤモンド膜の成長表面の面から13°、又は35°、又は45°の角度でカッティングされて備える工具。
【0041】
節28:節16~26のいずれか一節に記載の方法に従って成長され、平均表面粗度(Ra)が、61オングストローム未満、又は34オングストローム未満、又は32オングストローム未満、又は20オングストローム未満である多結晶ダイヤモンド膜。
【0042】
節29:節16~27のいずれか一節に記載の方法に従って成長され、山対谷比(PV)が、13500オングストローム未満、又は13000オングストローム未満、又は12000オングストローム未満、又は11000オングストローム未満である多結晶ダイヤモンド膜。
【0043】
本特許又は出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面付きの本特許又は特許出願公開のコピーは、必要な料金の支払いと共に特許庁へ請求することによって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本明細書で述べる方法で基材上にダイヤモンド膜又はウエハを堆積させるために用いることができる代表的なマイクロ波プラズマ化学蒸着(CVD)システムの模式図である。
【
図2】本明細書で述べる原理に従って良好に成長させた160mmダイヤモンドウエハの厚さのコンタープロットである。
【
図3】
図3Aは、
図2の厚さのコンタープロットを形成するために用いたダイヤモンドウエハの光学イメージである。
図3Bは、
図3Aに示すダイヤモンドウエハの中央部分の拡大画像である。
図3Cは、
図3Aに示すダイヤモンドウエハの中間部分の拡大画像である。
図3Dは、
図3Aに示すダイヤモンドウエハの端部分の拡大画像である。
【
図4】
図3Aに示すダイヤモンドウエハの中央部分の走査型電子顕微鏡(SEM)イメージであり、結晶粒間の粒界に太線を、双晶形成交差部分に細線を含む。
【
図5】0.5ミクロンダイヤモンド粉末の参照サンプルのX線回折(XRD)パターン、及びXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図6】
図3AのダイヤモンドウエハのXRDパターン、並びに成長側の中央部分、成長側の端部分、及び核形成側の中央部分でのXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図7】ダイヤモンド成長表面に対して90°傾いた
図3Aのダイヤモンドウエハの中央部分断面の光学イメージ、XRDパターン、及びXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図8】ダイヤモンド成長表面に対して35°傾いた
図3Aのダイヤモンドウエハの中央部分断面から得た光学イメージ、XRDパターン、及びダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図9】ダイヤモンド成長表面に対して45°傾いた
図3Aのダイヤモンドウエハの中央部分断面から得たXRDパターン、及びダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図10】ダイヤモンド成長表面に対して13°、31°、55°、及び77°傾いた
図3Aのダイヤモンドウエハの中央部分断面のXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図11C】
図11Cは、
図3Aのダイヤモンドウエハの成長側のSEMイメージであり、結晶粒間の粒界が、深い/明るい線で示され、双晶形成交差部分が浅い/暗い線で示される。
【
図11D】
図11Dは、
図3Aのダイヤモンドウエハの成長側のSEMイメージであり、結晶粒界間の太線及び双晶形成交差部分間の細線を含む。
【
図12】
図12Aは、本明細書で述べる例2に従って成長させたダイヤモンドウエハの光学イメージである。
図12Bは、
図12Aに示すダイヤモンドウエハの端部分のSEMイメージである。
【
図13】ダイヤモンド成長表面に対して垂直に(左上の円)、ダイヤモンド成長面に対して90°傾いた断面で(右上の円)、ダイヤモンド成長表面に対して55°傾いた断面で(左下の円)、及びダイヤモンド成長表面に対して45°傾いた断面で(右下のXRDパターン)取った
図12Aに示すダイヤモンドウエハのXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図14】水素中2%のメタンを用いて異なる温度で成長させた4つの異なるダイヤモンドウエハ(膜)の成長側及び核形成側のXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図15】
図14に示すXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフに関連するダイヤモンドウエハに対応する4つのSEMイメージを示す。
【
図16】本明細書で述べる例4に記載のウエハ成長の場合に従って水素中3%のメタンを用いて1060℃で成長させたダイヤモンドウエハにおけるSEMイメージ、及びXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の割合を表す円グラフを示す。
【
図17】本明細書で述べる例4の別の場合に従って水素中3%のメタンを用いて1020℃で成長させたダイヤモンドウエハにおけるSEMイメージ、及びXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図18】本明細書で述べる例4の別の場合に従ってダイヤモンド粉末ラビング処理基材(diamond-powders-rubbed substrate)上に水素中3%のメタンを用いて1020℃で成長させたダイヤモンドウエハにおける成長側及び核形成側のSEMイメージ、並びにXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図19】本明細書で述べる例5に従って成長させたダイヤモンドウエハの光学イメージ及び厚さのコンタープロットである。
【
図20】
図20Aは、
図19に示すダイヤモンドウエハの成長側の中央部分におけるSEMイメージである。
図20Bは、
図19に示すダイヤモンドウエハの成長側の端部分におけるSEMイメージである。
【
図21】
図19に示すウエハの成長側のSEMイメージであり、結晶粒界間の太線及び双晶形成交差部分間の細線を含む。
【
図22C】
図22Cは、研磨及びエッチング処理した
図19に示すダイヤモンドウエハの成長側のSEMイメージであり、結晶粒界間の太線及び双晶形成交差部分間の細線を含む。
【
図23】
図19のダイヤモンドウエハの成長及び核形成側の中央部分及び端部分におけるXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図24】本明細書で述べる例6に従って成長させたダイヤモンドウエハの光学イメージ及び厚さのコンタープロットである。
【
図25】
図25Aは、
図24に示すダイヤモンドウエハの成長側の中央部分のSEMイメージである。
図25Bは、
図24に示すダイヤモンドウエハの成長側の端部分のSEMイメージである。
【
図26】
図24に示すダイヤモンドウエハの中央部分のSEMイメージであり、結晶粒界間の太線及び双晶形成交差部分間の細線を含む。
【
図27】
図24に示すダイヤモンドウエハの成長側及び研磨処理核形成側の1インチサンプルのXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフを示す。
【
図28B】
図28Bは、研磨及びエッチング処理した
図24に示すダイヤモンドウエハの成長表面のSEMイメージである。
【
図28C】
図28Cは、研磨及びエッチング処理した
図24に示すダイヤモンドウエハの成長側のSEMイメージであり、結晶粒界間の太線及び双晶形成交差部分間の細線を含む。
【
図29】本明細書で述べる例7に従って成長させたダイヤモンドウエハの光学イメージ及び厚さのコンタープロットである。
【
図30】
図30Aは、
図29に示すダイヤモンドウエハの中央部分を異なる3つの倍率(低、中、及び高)で示す。
図30Bは、
図29に示すダイヤモンドウエハの中央部分を異なる3つの倍率(低、中、及び高)で示す。
図30Cは、
図29に示すダイヤモンドウエハの中央部分を異なる3つの倍率(低、中、及び高)で示す。
図30Dは、
図29に示すダイヤモンドウエハの断面である。
【
図31】
図31Aは、成長側中央部分(左上の円)、核形成側中央部分(右上の円)、成長側端部分(左下の円)、及び核形成側端部分(右下の円)における
図29に示すウエハのXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す4つの円グラフを示す。
図31Bは、ダイヤモンドウエハの中央部分及び1つの端部分で行った
図29に示すダイヤモンドウエハのラマン分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
ここで、同じ符号は同じ要素に対応している添付の図面を参照して、本発明について述べる。
【0046】
本明細書において、度Cで表される温度は、±3度Cで変動する可能性があり;時間で表される経過時間は、±1/10時間で変動する可能性があり;ミクロンで表される距離は、±10ミクロンで変動する可能性があり;及び各割合(%)は、±0.2%)で変動する可能性がある。
【0047】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、多結晶ダイヤモンド膜の成長表面に沿って[110]選択配向を示す。多結晶ダイヤモンド膜のダイヤモンド結晶子は、成長方向に沿って[110]ダイヤモンド格子方向に対して高配向されており、ここで、成長方向に沿った[110]配向の割合は、望ましくは、70%以上、より望ましくは、80%以上、さらにより望ましくは、85%以上、最も望ましくは、90%以上である。
【0048】
驚くべきことに、多結晶ダイヤモンド膜はまた、いくつかの断面選択配向(cross-section desirable orientations)も示す。1つのそのような選択配向は、成長表面からダイヤモンド格子の(110)面及び(111)面の間の固有の角度である35.3°の[111]配向角に向けられたダイヤモンド膜の断面上に位置する。そのような[111]配向は、望ましくは、40%以上、より望ましくは、50%以上、さらにより望ましくは、55%以上、最も望ましくは、60%以上である。ダイヤモンド格子の(111)面は、すべてのダイヤモンド面の中で最も硬い。従って、本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、成長面から35.3°の角度で、ドリル加工、切削加工、機械加工、カッティング加工、レーシング加工(lacing)などの摩耗が関与する用途のための耐久性を有し得る。
【0049】
別の選択配向は、成長表面からダイヤモンド格子の(110)面及び(100)面の間の固有の角度である45°の[100]配向角に向けられたダイヤモンド膜の断面上に位置する。そのような[100]配向は、望ましくは、25%以上、より望ましくは、30%以上、さらにより望ましくは、35%以上、最も望ましくは、40%以上である。ダイヤモンド格子の(100)面は、すべてのダイヤモンド面の中で最も軟らかい面である。
従って、本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、成長表面から45°の角度で、工具作製のための精密ラップ処理及び研磨処理が関与する用途のために、異なる形状に製造され得る。
【0050】
なお別の選択配向は、成長表面からダイヤモンド格子の(110)面及び(100)面の間の固有の角度である45°の混合[100][331]配向角に向けられたダイヤモンド膜の断面上に位置する。そのような混合[100][331]配向は、望ましくは、50%以上、より望ましくは、60%以上、さらにより望ましくは、70%以上、最も望ましくは、80%以上である。そのような混合[100][331]配向は、精密な形状への精密ラップ処理及び研磨処理が関与する用途のためのダイヤモンド工具の形成に有用であり得る。
【0051】
ダイヤモンド結晶子のそのような選択配向は、より小さい結晶粒界間表面積を有し得る。従って、そのような選択配向を有することは、検出器用途のためのより高いCCD(電荷-キャリア距離(charge-carrier-distance))を有し得る。さらに、そのような選択配向は、フォノンが通過して輸送されるよりも散乱される場合が多い結晶粒界の存在が少ないことにより、熱伝導性を改善し得る。この意味において、フォノン輸送は、ダイヤモンドのような誘電性結晶における熱コンダクタンスの重要な特性である。
【0052】
本明細書で述べる高[110]配向多結晶ダイヤモンド膜はまた、早期の剥離を起こすことなく望ましい厚さまで多結晶ダイヤモンド膜を高速成長させるための穏和であるより低いレベルのダイヤモンド膜応力にも寄与し得る。
【0053】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜のダイヤモンド結晶子はまた、双晶形成機構も含むか又は示し、この場合、ダイヤモンド結晶双晶が、[110]軸まわりに形成され、成長したままの状態の成長表面上で星形状双晶形成形態を示すか、又は研磨処理した成長面上で自転車車輪形状の(ほぼ)同心パイを形成する。そのような(ほぼ同心の)双晶化ダイヤモンド結晶子粒は、5片以上のパイ形状アーク又はセクションを含んでよく、その先端は、ほとんどの場合、円の中心にほぼ集まっている。同心双晶化結晶粒の直径は、サブミクロン、数ミクロン、及び/又は数十ミクロン以上のオーダーであってよい。双晶化結晶粒のこれらの多くの予め形成された片(pre-shaped slices)のアーク長さは、サブミクロン、数ミクロン、及び/又は数十ミクロン以上のオーダーであってよい。そのような同心双晶形成機構は、本明細書で述べるダイヤモンド膜の応力を実質的に低下させることができ、早期の剥離、すなわち、成長完了の前を例とする所望される前の剥離を起こすことなくダイヤモンド膜を高い成長速成で成長させることを可能とするものと考えられる。
【0054】
比較として、観察可能な同心双晶形成機構を有しないおおよそランダムに配向した、又はより低いレベルの[110]配向であるダイヤモンド結晶子の多結晶ダイヤモンド膜は、3.9ミクロン毎時以下という低い成長速度でも早期に剥離を起こす。この早期の剥離は、おおよそランダムに配向したダイヤモンド膜のダイヤモンド結晶子の不整列に起因し得るものと考えられる。
【0055】
加えて、[110]配向膜の[110]軸まわりの同心双晶形成は、ほとんどすべての方向、すなわち360°のダイヤモンド膜の応力を低減することができ、この理由から、自転車車輪形状同心円が、多結晶ダイヤモンド膜の早期の剥離を引き起こすレベルまでの応力の蓄積を回避する機械的ウェッジのようであると想定されるものと考えられる。
【0056】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜の低応力は、[110]配向及び[110]軸まわりの同心双晶形成に起因し、このことにより、≧100ミクロン、より望ましくは、≧200ミクロン、さらにより望ましくは、≧300ミクロン、最も望ましくは、≧400ミクロンが挙げられるがこれらに限定されないいずれの望ましい膜厚さまでも多結晶ダイヤモンド膜を良好に成長させることが可能となるものと考えられる。
【0057】
[110]配向及び同心双晶形成に起因する本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜の低応力はまた、Si及びSiCウエハなどであるがこれらに限定されない半導体ウエハを例とするウエハ上に、ダイヤモンド膜のクラックを最小限に抑えてダイヤモンド膜を良好に成長させることも可能とするものと考えられる。ウエハ上に成長させたそのようなダイヤモンド膜の総クラック長さは、≦500mm、より望ましくは、≦400mm、さらにより望ましくは、≦300mm、なおさらにより望ましくは、≦200mm、最も望ましくは、クラックのないウエハであり得るものと考えられる。本明細書で述べる多結晶ダイヤモンドウエハのクラックを最小限に抑えることの有益性は、高い収率で小片のダイヤモンドパーツを作製可能であること、並びに光学素子、熱管理、摩擦制御、化学的不活性における用途、及び幾何学的寸法の大きいパーツを必要とするいずれかの用途のための望ましい幾何学的寸法のパーツを作製可能であることが挙げられる。
【0058】
[110]配向及び[110]軸まわりの同心双晶形成に起因する本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜の低応力はまた、≧120mmの直径、より望ましくは、≧130mmの直径、さらにより望ましくは、≧140mmの直径、最も望ましくは、≧150mmの直径などであるがこれらに限定されない大口径の半導体ウエハを例とするウエハにダイヤモンド膜を良好に成長させることも可能とするものと考えられる。
【0059】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜の低応力は、高[110]配向に起因する、本明細書で述べる多結晶ダイヤモンドウエハの両側の望ましい表面仕上げを容易とする所望される結晶表面均一性と共に、[110]配向及び[110]軸まわりの同心双晶形成に起因するものと考えられる。多結晶ダイヤモンドウエハの核形成側では、仕上げ済み表面の平均粗度Raは、100オングストローム未満、より望ましくは、70オングストローム未満、さらにより望ましくは、50オングストローム未満、最も望ましくは、30オングストローム未満であってよい。核形成側の表面の山対谷値は、10000オングストローム未満、より望ましくは、5000オングストローム未満、さらにより望ましくは、1000オングストローム未満、最も望ましくは、500オングストローム未満であってよい。多結晶ダイヤモンドウエハの成長側では、仕上げ済み表面の平均粗度Raは、200オングストローム未満、より望ましくは、150オングストローム未満、さらにより望ましくは、125オングストローム未満、最も望ましくは、100オングストローム未満であってよい。成長側の表面の山対谷値は、50000オングストローム未満、より望ましくは、30000オングストローム未満、さらにより望ましくは、20000オングストローム未満、最も望ましくは、15000オングストローム未満であってよい。
【0060】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜の同心双晶形成又は同心双晶は、新たな結晶粒界を作り出すことなく、ダイヤモンド結晶粒のダイヤモンド格子中の異なる面の面寸法を分裂するものと考えられる。また、この結果、熱コンダクタンス及び機械的靭性における本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜のさらなる有益性も得られるものと考えられる。
熱コンダクタンスに関して、フォノン輸送が、ダイヤモンド結晶における主要な熱コンダクタンス機構である。異なるダイヤモンド結晶粒間の粒界で散乱するフォノンと比較して、同心双晶が存在する面でのフォノンの散乱は非常に少ないものと考えられる。従って、同心双晶面での熱コンダクタンスは、非双晶化ダイヤモンド結晶粒の場合に近い速度で発生するものと考えられる。従って、多結晶ダイヤモンド結晶子の同心双晶形成により、本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、結晶粒の大きい多結晶ダイヤモンドの熱伝導性に近い熱伝導性を有することが可能となり、それは、当業者であれば、小さい結晶粒から形成された多結晶ダイヤモンド膜よりも優れていると見なされる。
【0061】
加えて、ダイヤモンド結晶面は、双晶形成の存在によって分裂され、その結果、双晶化ダイヤモンド結晶粒のより小さいセクションが発生するものと考えられる。双晶化ダイヤモンド結晶粒内のそのようなダイヤモンドの小セクションは、小結晶粒多結晶ダイヤモンド膜と同様に挙動する。具体的には、双晶化ダイヤモンド結晶粒内のダイヤモンドの小セクションは、(111)面に沿った大結晶粒ダイヤモンド膜ほど容易にチッピングを起こすことがない。従って、本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜の同心双晶形成は、両方の利点、すなわち、(1)フォノン散乱が低いレベルであることに起因するより高い熱伝導性、及び(2)(111)面及び他のダイヤモンド結晶面の分裂に起因するより良好なチッピング/耐久性性能を有する。
【0062】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、限定されないが、ホウ素、窒素、酸素、及び/又はその他の元素などの他の元素でドーピングされてもよい。そのようなドーピングにより、限定されないが、温度、圧力、出力、気体流、気体組成、及び冷却に関連する異なる特性を有する多結晶ダイヤモンド膜を作製することができる。
【0063】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、限定されないが、機械的用途(限定されないが、カッティング加工、ドリル加工、切削加工、機械加工、旋盤加工など)、熱管理用途(限定されないが、レーザー、電子素子、光学素子、半導体、工業など)、高エネルギー粒子放射線のための検出器用途、マイクロ波用途、音響用途、摩擦制御用途、耐摩耗性用途、化学的不活性用途、電磁波用途などの用途のために、異なる幾何学的寸法にカッティングされてよく、所望に応じてラップ処理及び/又は研磨処理されてよい。
【0064】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、マイクロ波プラズマ化学蒸着、直流アークジェットプラズマ化学蒸着、熱フィラメント化学蒸着、アセチレン又は他の炭化水素トーチ化学蒸着などが挙げられるがこれらに限定されないいくつかの化学蒸着(CVD)法のうちのいずれか1つによって作製されてよい。
【0065】
例において、本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、水素及びメタン又はその他の炭化水素の混合物流、マイクロ波プラズマ、所望に応じて、微量の窒素、所望に応じて、限定されないが、ホウ素などの微量のその他のドーパント、所望に応じて、限定されないが、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、アルコールなどの酸素含有気体のスチーム(steam)、並びに所望に応じて、限定されないが、アルゴン、ヘリウム、ネオンなどの不活性気体のスチームを含むマイクロ波プラズマ化学蒸着によって作製することができる。各ダイヤモンド成長は、所望に応じて、ダイヤモンド粉末を有する成長基材によるか、気体濃度及び温度の制御によるか、DCバイアス印加シーディング(DC-biased enhanced seeding)によるなどのシーディングによって開始されてよい。
【0066】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、≧1.5ミクロン毎時、より望ましくは、≧2.5ミクロン毎時、さらにより望ましくは、≧3.5ミクロン毎時、最も望ましくは、≧4.5ミクロン毎時の成長速度でCVD成長されてよい。
【0067】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、≧800℃、より望ましくは、≧850℃、さらにより望ましくは、≧900℃の温度でCVD成長されてよい。最も望ましい成長温度は、1000℃から1300℃以上の高さまでの範囲であり得る。しかし、当業者であれば、本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜を、1300℃よりも高い又は800℃よりも低い温度で成長させてもよいことは想定される。
【0068】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜の成長時の基材表面の温度分布は、均一(摂氏1~3度以内)、又は中央部分が冷/端部分が熱、又は中央部分が熱/端部分が冷、又は非中心対称温度プロファイルであってよい。CVD成長時の多結晶ダイヤモンド膜の温度は、冷却によって制御されてもよく、又は電力供給のレベルによって制御されてもよく、又はCVD反応システム内部の圧力によって制御されてもよく、又は反応気体混合物の気体流量によって制御されてもよく、又はこれらのいくつかの組み合わせによって制御されてもよい。成長温度は、成長の運転中を通して一定に保持されてもよく、より低い温度若しくはより高い温度に変化されてもよく、又は運転中を通して一定温度、上昇する温度、若しくは下降する温度の組み合わせであってもよい。
【0069】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、水素及びメタンの混合物のいかなる流速で成長させてもよく、望ましくは、≧1000mL/分、より望ましくは、≧1200mL/分、さらにより望ましくは、≧1400mL/分、最も望ましくは、≧1600mL/分である。気体流速は、反応器に依存してよく、ここで、当業者であれば、≧4000mL/分又は≦1000mL/分の流速で運転してよい。気体供給システムは、単純であってよく、又は高度であってもよく、1つ以上の入口部を含んでもよい。排出気体は、1つ以上の出口部で反応系から排気されてよい。
【0070】
ダイヤモンドの化学蒸着は、典型的には、真空下で行われ、低い方はトル以下から高い方は1気圧の圧力までの範囲である。
【0071】
本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、メタンなどであるがこれに限定されない炭素含有化合物のいかなる濃度で成長させてもよく、望ましくは、≧0.5%、より望ましくは、≧0.7%、さらにより望ましくは、≧1.0%、なおさらにより望ましくは、≧1.5%、最も望ましくは、≧2%である。当業者であれば、≧5%又は≦0.5%の炭素含有化合物濃度で運転してよいことは想定される。
【実施例】
【0072】
本明細書で開示する多結晶ダイヤモンド膜の以下の例及び比較例は、説明の目的であり、限定する目的のものではない。本明細書で開示する多結晶ダイヤモンド膜のいくつかの例及び比較例を、以下の表1にまとめる。
【0073】
【0074】
同定方法
【0075】
走査型電子顕微鏡(SEM)のイメージを、エネルギー分散分析X線(EDAX)検出器を備えたVega走査型電子顕微鏡(SEM)で収集した。Vega SEMは、米国では、Warrendale, Pennsylvania 15086のTescan ISA, Inc.から入手可能である。
【0076】
ラマンスペクトルは、米国ではHoffman Estates, Illinois 60192のRenishaw Inc.から入手可能であるinVia共焦点ラマン顕微鏡によって収集した。レーザーラマン分光分析は、単結晶ダイヤモンド又は多結晶ダイヤモンドの同定のための標準として広く用いられている。これは、炭素の異なる形態(同素体)(例:ダイヤモンド、グラファイト、バッキーボールなど)の各々の容易に区別可能であるシグネチャを提供する。フォトルミネッセンス(PL)技術と組み合わせることで、レーザーラマン分光分析は、相純度、結晶のサイズ及び配向、欠陥のレベル及び構造、不純物の種類及び濃度、並びにダイヤモンド結晶子及び膜の応力及び歪を含むダイヤモンドの様々な特性を研究するための非破壊的方法を提供する。特に、1332cm-1の一次ダイヤモンドラマンピークの幅(半値全幅、FWHM)、さらにはダイヤモンドピークとグラファイトピーク(1350cm-1のDバンド及び1600cm-1のGバンド)との間のラマン強度比は、ダイヤモンドの品質の直接の指標である。さらに、ダイヤモンド結晶粒及び膜における応力及び歪のレベルを、ダイヤモンドのラマンピークシフトから算出することができる。報告によると、等方応力下でのダイヤモンドのラマンピークシフト率(Raman peak shift rate)は、約3.2cm-1/GPaであり、引張応力下では、ピークは低波数側にシフトし、圧縮応力下では、高波数側にシフトする。本明細書で提示するラマンスペクトルは、514nm励起レーザーによるラマン分光器を用いて収集した。ダイヤモンドの同定のためにラマン分光分析を用いることに関するさらなる情報は、参考文献(1)A.M. Zaitsev, Optical Properties of Diamond, 2001, Springer及び(2)S. Prawer, R.J. Nemanich, Phil. Trans. R. Soc. Lond. A (2004) 362, 2537-2565からも入手可能である。
【0077】
研磨処理したダイヤモンド片の表面の表面粗度(Ra)及び山対谷(PV)を、米国ではMiddlefield, Connecticut 06455のZygo Corp.から入手可能である20×対物レンズを付けたNewView(商標)600干渉計を用いて測定した。測定領域は、200ミクロン×350ミクロンとした。
【0078】
X線回折XRDテクスチャ測定の方法
【0079】
XRD結晶組織(「選択配向」と称される場合もある)を、SiemensモデルD5000 2軸式(2-circle)X線回折計を用いて測定した。成長したままの状態の公称25mm径の多結晶ダイヤモンドウエハの一部を、較正された高さ位置のX線回折計のサンプルホルダーゴニオメターに配置した。サンプルホルダーゴニオメターは、測定中に連続的に回転もさせて、回折ビームを検出器へ提供できる結晶の数を増加させた。検出器は、光電子増倍管、及び各別々の角度(「角度ステップ増分幅(angular step increment)」)で検出器に到達する検出X線光子の総数を積分する付随電子素子を有する。一般的に、各サンプルのステップを、0.02度(「2シータ」)の増分幅とし、20度の2シータから144度の2シータまでスキャンした。各角度測定位置において、シータ角は、入射X線ビームとサンプル表面との間の角度を表す。2シータ角は、シータ角の2倍であり、入射X線ビームと回折(「反射」とも称される)X線ビームとの間の合計角度を表す。各角度測定(ステップ増分幅での変更)において、検出器の角度調節分をサンプルゴニオメターの2倍として、ゴニオメターの傾き角度及び検出器の角度の両方を増加させた。
【0080】
一般的に、サンプル中の1つ以上の結晶が回折条件を満たす場合は常に、強いX線ピーク強度が観察される。大きい回折強度は、一般的に、入射X線ビームと検出器位置との間の角度がブラッグの条件(nλ=2dSinθ)を満たす場合に、結晶内の低指数原子(すなわち、原子が高密度)面から観察され、ここで、nは、整数であり、λは、入射X線の波長であり、dは、観察される回折ビームを起こす平行な原子面の面間隔であり、θ又は「シータ」は、入射X線とダイヤモンドサンプルの表面との間の角度である。XRD測定は、0.154056ナノメートルの波長を有する銅K-アルファX線を用いて行ったが、他のX線波長を用いてもよい。
【0081】
一般的に、ダイヤモンド結晶格子の5つの低指数原子面が、大きい回折強度を引き起こす。ランダム配向のダイヤモンド粉末の場合の面指数、2シータ角、d間隔、及び回折ビームの予測(「ランダム」)強度を、以下の表2に示す。
【0082】
【0083】
ダイヤモンドサンプルについて収集した測定X線スペクトルを、ランダム配向ダイヤモンド粉末サンプルから観察されたスペクトルと比較する。具体的には、各観察された2シータピーク位置(43.9度、75.3度など)の曲線下面積を算出する。この値は、5つの測定可能結晶配向、すなわち、[111]、[220]、[331]、[440]、及び[331]配向について観察された強度を表す。ここで、[220]配向は、[110]配向と交換可能に用いられ、[400]配向は、[100]配向と交換可能に用いられる。
【0084】
各測定されたピーク面積を、次に、ランダム配向粉末から測定された相対回折強度で除することによって標準化する。最後に、これらの標準化値を、5つの測定可能ピーク強度の合計が100%を表すように、再度標準化する。これらの最終値(合計すると100%)を、図にグラフで表す。5つの角度のいずれについても、20%を超える値は、その角度について高(非ランダム)配向が存在することを示し、表された実際の値(パーセントとして)は、対応する配向を有するサンプル中の結晶の割合に相当する。
【0085】
多結晶ダイヤモンド膜におけるダイヤモンド結晶双晶形成を特定する方法
【0086】
多結晶ダイヤモンド膜の結晶双晶形成の度合いを特定する方法を、本明細書で開示する。本明細書で開示する多結晶ダイヤモンド膜は、高度に双晶化されていると考えられる。
以降で述べる例1では、ダイヤモンド結晶粒間の実際の粒界は、水素マイクロ波プラズマにより、双晶化ダイヤモンド結晶粒の交差部分よりも速くエッチング除去される。しかし、これは、限定する意味で解釈されるべきではない。そうではなく、本明細書で開示する方法は、本明細書で開示する多結晶ダイヤモンド膜のダイヤモンド結晶の形態及び特性の独自性を定量化するための方法である。
【0087】
結晶における双晶形成は、非常に複雑である(Professor Stephen A. Nelson at Tulane University, "Twinning, Polymorphism, Polytypism, Pseudomorphism"、2013年9月16日更新、http://www.tulane.edu/~sanelson/eens211/twinning.htm参照)。
【0088】
次に、多結晶ダイヤモンド膜におけるダイヤモンド結晶双晶形成の割合を特定するために用いることができる2つの異なる方法について述べる。方法1は、多結晶ダイヤモンド膜の成長したままの状態の表面のSEMイメージ、すなわち、3Dベースのトポグラフィイメージに基づくものであり、方法2は、多結晶ダイヤモンド膜の研磨及びエッチング処理した成長表面のSEMイメージ、すなわち、おおよそ2Dベースのトポグラフィイメージに基づくものである。方法2の方が、方法1よりも正確で一貫した結果を得ることができる。
【0089】
方法1、本明細書で述べる方法で成長させた多結晶ダイヤモンド膜の成長したままの状態の表面のSEMイメージからダイヤモンド結晶双晶形成の割合を特定する半定量的方法
【0090】
多結晶ダイヤモンド片をカッティング又は破壊して、走査型電子顕微鏡(SEM)のチャンバー内に収まる適切なサイズ(いかなる幾何学的サイズでもよい)とした。次に、多結晶ダイヤモンドの成長表面の表面トポグラフィをSEMによって調べた。得られたSEMイメージに、(マニュアルで(手で)あっても、又はAutoCADソフトウェアを例とするグラフィックであっても)、太い(又はより太い)線をダイヤモンド結晶粒間の粒界に、細い(又はより細い)線を双晶化ダイヤモンド結晶粒の双晶形成交差部分に描き、これらの線セグメントの線の長さに関する情報を得た。次に、結晶粒界の線セグメント(太線)の合計長さを集計し、それを、LGrain_Boundary_1と称し、双晶形成交差部分の線セグメント(細線)の合計長さを集計し、それを、LTwinning_Intersection_1と称する。
続いて、双晶形成の割合を、以下の式によって算出する:
双晶形成%(方法1)=
LTwinning_Intersection_1/(LGrain_Boundary_1+LTwinning_Intersection_1)×100%
【0091】
方法2、本明細書で述べる方法で成長させた多結晶ダイヤモンド膜の研磨処理及び水素プラズマエッチング処理した成長表面のSEMイメージからダイヤモンド結晶双晶形成の割合を特定する半定量的方法
【0092】
本明細書で述べる方法で成長させた多結晶ダイヤモンド片をカッティングして、適切なサイズ(いかなる幾何学的サイズでもよい)、この例1では直径1インチとした。次に、このダイヤモンド片の成長表面の表面トポグラフィを、ダイヤモンド粉末スラリーでラップ処理した。次に、ラップ処理表面を研磨処理して、平滑表面とした。続いて、この多結晶ダイヤモンド片の研磨処理表面を、水素マイクロ波プラズマによって1時間エッチング処理した。水素マイクロ波プラズマは、ダイヤモンド結晶粒間の粒界及び双晶化ダイヤモンド結晶粒の交差部分をエッチングする。次に、この多結晶ダイヤモンド片の研磨及びエッチング処理表面のトポグラフィをSEMで調べた。続いて、得られたSEMイメージをAutoCADソフトウェアにインポートして、ダイヤモンド結晶粒間の粒界を太い(又はより太い)線で、双晶形成交差部分を細い(又はより細い)線で描き、これらの線セグメントの線の長さの情報を得た。次に、結晶粒界の線セグメントの合計長さを集計し、それを、LGrain_Boundary_2と称し、双晶形成交差部分の線セグメントの合計長さを集計し、それを、LTwinning_Intersection_2と称する。続いて、双晶形成の割合を、以下の式によって算出する:
双晶形成%(方法2)=
LTwinning_Intersection_2/(LGrain_Boundary_2+LTwinning_Intersection_2)×100%
【0093】
マイクロ波プラズマによるダイヤモンドの化学蒸着法
【0094】
マイクロ波プラズマを援用するダイヤモンドの化学蒸着は、本技術分野にて公知である。
図1は、本明細書で述べる方法で多結晶ダイヤモンド4を成長させるのに用いることができる例としてのマイクロ波プラズマCVDシステム2の模式図を示す。
図1に示すCVDシステム2の使用時は、水素及びメタンを含む反応性気体混合物6を、マイクロ波プラズマCVD反応器16へ流入させ、水素及びメタンの流速は、マスフローコントローラー8によって制御した。排出気体10は、CVD反応器16から、典型的には、真空ポンプ12へ排気する。マイクロ波は、典型的には、マグネトロン14によって発生され、石英窓18を通してCVD反応器16へ誘導される。反応器内部では、マイクロ波エネルギーは、プラズマ20に変換され、これが、気体6の水素分子を水素フリーラジカルへ、さらには気体6のメタン分子をメチルフリーラジカル、メチレンフリーラジカル、メチンフリーラジカル、及び2個以上の炭素を含有する二級又は三級フリーラジカルへとラジカル化する。CVD反応器16の底部には、その上に多結晶ダイヤモンド膜4が成長する基材24を支持する基材ホルダー又は支持体が設置されている。ケイ素、チタン、ニオブ、モリブデン、タングステン、タンタル、又は適切ないずれかの炭化物形成物質の基材が、基材ホルダー上に配置される。
【0095】
プラズマ20の発生中、炭素を含有するラジカル化されたフリーラジカルが、基材24の表面に衝突し、それが、「衝突及び接着(hit and stick)」と称されるメカニズムによる炭素の固定を引き起こす。次に、水素フリーラジカルが、依然として水素原子を含有する固定された表面炭素種に衝突し、そのような固定された炭素種から水素原子を引き抜き、その結果、水素原子数が減少したC-C結合を形成するための表面炭素フリーラジカルが形成され、それはすべての水素原子が引き抜かれるまで行われる。一部の純炭素間結合は、ダイヤモンド格子にとって望ましいsp3の性質であり得る。一部の純炭素間結合は、グラファイト性の性質であることから望ましくないものであるsp2の性質であり得る。しかし、水素フリーラジカルは、ダイヤモンド格子からsp3炭素を取り除くよりも速くグラファイト系種からsp2炭素を取り除くことができる。
【0096】
プラズマ20のサイズが、基材24の表面を覆うのに充分大きいサイズに調整される場合、成長温度に加えて、気体混合物中の水素及びメタンの濃度が、ダイヤモンド成長のために決定的なパラメーターであり、マイクロ波出力及び圧力は、基材サイズに大きく依存することは本技術分野にて公知である。当業者であれば、この開示される手順及び指示に従って、高品質ダイヤモンドのシーディング、蒸着、及び成長の目的のために、自身のプラズマを、異なるサイズの基材を覆うのに充分大きい適切なサイズに調整することができるはずである。
【0097】
例1:3%メタンを用いる1107℃及び1117℃の温度で188時間の高双晶化[110]配向多結晶ダイヤモンド膜の良好な高速成長
【0098】
直径160mmの金属タングステン片を、マイクロ波プラズマCVD反応器システム2(
図1)中の基材24として用いた。2500mL/分の水素及び75mL/分のメタンの気体混合物6を、マイクロ波プラズマCVD反応器16に流入させた。プラズマ20の点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。1時間12分のダイヤモンドの化学蒸着後、水素流量を2400mL/分に低下させ、メタン流量を72mL/分に低下させた。基材中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって制御した。コントロールパイロメータ(control pyrometer)26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材24の中央部分で成長するダイヤモンドの温度をモニタリングした。基材24の中央部分におけるダイヤモンド成長温度は、別個の測定パイロメータを介して、67.6時間で1117℃及び171時間で1107.7℃と測定された。187.6時間のダイヤモンド成長の後、反応を停止し、成長したダイヤモンド4及び基材24を、マイクロ波プラズマCVD反応器16から取り出し、成長したダイヤモンド4を金属タングステン基材24から分離し、こうして、自立性多結晶ダイヤモンドウエハ4、すなわち、ウエハ02A152を作製した。
【0099】
図2に示されるように、ウエハ02A152の中央部分は、最も厚く、すなわち、1773ミクロンであり、このウエハの端部分は、最も薄く、すなわち、1258ミクロンである。厚さは、半径方向に沿って中央部分から端部分へ均一に変化している。187.6時間の成長時間に基づいて、ウエハ02A152の厚さは、平均ダイヤモンド成長速度を8.29μm/時間とする6.69μm/時間の最小ダイヤモンド成長速度から9.43μm/時間の最大ダイヤモンド成長速度の範囲のダイヤモンド成長速度に言い換えることができる。
【0100】
多結晶ダイヤモンドウエハ02A152の外観は、
図3A~Dの光学イメージに示されるように、ウエハ全体にわたって均一であると観察された。
図3Aは、ダイヤモンド-基材分離プロセスの過程で3つの破片に割れた多結晶ダイヤモンドウエハ02A152を示す。
図3B~3DのSEMイメージは、ウエハ02A152が、中央部分から中間部分(ウエハの半径の半分)、及び端部分まで、その結晶形態に関して、半径方向にウエハ全体を通して均一であることを示している。
図3B~3Dの成長したままの状態の成長表面から分かるように、ウエハ02A152のダイヤモンド結晶子は、高度に双晶化された典型的な星形状結晶粒であると思われる。
【0101】
図4を参照して、次に、ウエハ02A152における双晶形成のレベルを、方法1(上述)により、ウエハ02A152の中央部分のSEMイメージ中のダイヤモンド結晶粒間の粒界(太線)の合計長さ及びダイヤモンド母結晶粒内部の双晶形成交差部分(細線)の合計長さを測定することによって特定した。ダイヤモンド母結晶粒内部の双晶形成交差部分(細線)の合計長さは、2700mmであることが分かり、ダイヤモンド母結晶粒間の粒界(太線)の合計長さは、1290mmと測定された。従って、ウエハ02A152における双晶形成の割合(方法1)は、2700と1290との和で2700を除することにより、67.7%であると算出された。
【0102】
図5を参照して、ウエハ02A152におけるダイヤモンド結晶配向を定量するために、平均公称粒子サイズ0.5ミクロンであるダイヤモンド粉末のレファレンスサンプルに対して実験的X線回折(XRD)を行った。
図5に示すこのレファレンスサンプルから得られたXRDパターンは、粒子サイズ0.5ミクロンのダイヤモンド粉末が、[111]方向に沿って23%、[331]方向に沿って14%、[110]方向に沿って22%、[100]方向に沿って22%、及び[311]方向に沿って19%とランダムに配向していることを示している。この実験から、本明細書で開示する多結晶ダイヤモンド膜又はウエハのダイヤモンド結晶子の結晶配向の特定に用いたXRD装置が、この目的のために適切に設定されていたことが確認される。
【0103】
図6を参照すると、ウエハ02A152のXRDパターンから、ウエハ02A152中央部分の成長側のダイヤモンド結晶子は、ダイヤモンド格子の[110]方向に99%配向されていることが特定された。端部分の成長側のダイヤモンド結晶子は、ダイヤモンド格子の[110]方向に98%配向されている。驚くべきことに、このウエハの中央部分の核形成側のダイヤモンド結晶子は、ダイヤモンド格子の[110]方向に98%配向されており、これは、多くの場合ランダムに配向されている先行技術のCVD成長ダイヤモンドウエハの核形成側のダイヤモンド結晶子と対照的である。
図6のXRD結果は、
図3のSEM結果と共に、多結晶ダイヤモンドウエハ02A152が、独特であり、ダイヤモンド格子の[110]方向に高配向されており、星形状結晶粒に高度に双晶化されていることを示している(成長表面に対して法線方向から見た場合)。
【0104】
図7を参照すると、ウエハ02A152の中央部分での断面からのダイヤモンド結晶子のXRDパターンは、
図7のXRDパターンから得たダイヤモンド結晶子の配向の割合を表す円グラフによって示されるように、ランダムに配向されていると特定された。成長及び核形成表面の面から90°の角度で(すなわち、
図7の写真に示される断面)、ダイヤモンド結晶子の32%が[111]方向に沿って、11%が[331]方向に沿って、14%が[110]方向に沿って、13%が[311]方向に沿って、及び30%が[100]方向に沿って配向されていると特定された。
【0105】
単結晶ダイヤモンド格子では、異なる屈折面間の固有の角度が存在する。そのような固有の角度を以下の表3に示す。
【0106】
【0107】
(110)面と(111)面との間の角度は、35.3°である。(110)面と(311)面との間の角度は、31.4°であり、(110)面と(111)面との間の角度35.3°に非常に近い。(110)面と(100)面との間の角度は、45°である。
最後に、(110)面と(331)面との間の角度は、13.3°である。
【0108】
図8を参照すると、ダイヤモンド成長表面に対して35°の角度(
(110
)面と
(111
)面との間の固有の角度)に向けられたウエハ02A152の断面のXRDパターンから、ダイヤモンド結晶子の77%が、ダイヤモンド結晶格子の[111]方向に配向され、[331]方向及び[110]方向に配向されたダイヤモンド結晶子はいずれも、各々3%を占め、[311]方向及び[100]方向に配向されたダイヤモンド結晶子は、それぞれ、さらに9%及び8%を占めていることが特定された。
【0109】
上記で考察したように、ダイヤモンド結晶の(111)表面が最も硬いため、(111)面が、機械的用途のための作業面として最も耐摩耗性の高い面である。従って、例1で述べる多結晶ダイヤモンド膜により、作業面として、ダイヤモンド成長表面から35°である断面の表面、すなわち、多結晶ダイヤモンド膜の最も硬い表面が用いられるように工具を設計することが可能となる。従って、この例1で述べる多結晶ダイヤモンド膜により、摩耗性能という点で、耐久性の高い工具の作製が可能となる。加えて、多結晶ダイヤモンドの最も硬い表面を利用することは、工具の交換頻度を下げることに繋がることが期待される。多結晶ダイヤモンドの最も硬い表面を利用することはまた、工具による作業をより正確に行うことも可能とする。最後に、例1の多結晶ダイヤモンド膜の硬い表面を利用することにより、従来のランダム配向多結晶ダイヤモンド片では行うことが困難であり得るいくつかの作業を工具で行うことが可能となる。
【0110】
図9は、成長表面の面から45°で、すなわち、
(110
)面と
(100
)面との間の固有の角度で傾いたウエハ02A152の中央部分断面のXRDパターンを示す。図から分かるように、ダイヤモンド結晶子の53%が、
(100
)面に配向され、ダイヤモンド結晶子のさらなる46%が、
(331
)面又は
[331]方向に沿って配向されている。
残りの方向のダイヤモンド結晶子は、1%を占める。
【0111】
上記で考察したように、ダイヤモンド格子の最も軟らかい面は、(100)面である。
多くの場合、ダイヤモンド片の作業エッジ面は、多結晶ダイヤモンドウエハからダイヤモンド片をレーザーカッティングし、続いて、そのダイヤモンド片をラップ処理して所望される幾何学的表面とし、所望に応じて、所望される表面粗度、所望されるエッジシャープネスなどにまで研磨処理することによって作製される。(100)が支配的である表面のラップ処理及び研磨処理が最も容易である。従って、この例1で述べる多結晶ダイヤモンド膜は、耐久性にとって好ましい作業角度(上記で考察したように、ダイヤモンド成長表面から約35°)を有するというだけでなく、製造にとって好ましいエッジ作製角度(成長表面から45°)も有するという利点を有する。
【0112】
図10を参照すると、
図10に示す様々な傾き角度でのウエハ02A152の中央セクションのXRDパターンは、ダイヤモンド成長表面から13°の傾き角度(
(110
)面と
(331
)面との間の固有の角度)でのダイヤモンド結晶子が(
図10の左上の円グラフ)、20%の[331]配向しか有さず、ダイヤモンド結晶子の55%が、[100]配向であることを示している。成長表面([110]配向)から45°及び13°の固有の角度において、
(100
)及び
(331
)面が共存していると考えられる。
(100
)面と
(331
)面との間の固有の角度が46.5°であることは理解されたい。[110]方向に高配向されたダイヤモンド結晶子は、双晶化している可能性があり、この場合、
(100
)面及び
(331
)面の一部は、46.5°回転していると考えられる。そうであるならば、45°又は13°の固有の角度で、
(100
)面及び
(331
)面が同時に観察されることも可能であり得る。しかしながら、既に考察したように、ダイヤモンド成長方面から13°の角度も、その場合に55%のダイヤモンド結晶子が[100]方向又は
(100)面に配向されていることが示されていることから、製造にとって好ましいシャープエッジ作製角度として用いることができる。
【0113】
ダイヤモンド成長表面から31°の傾き角度(
図10の右上の円グラフ)は、
(110
)面と
(311
)面との間の固有の角度である。しかし、この固有の角度(31°)では、ダイヤモンド結晶子の15%が、[311]方向又は
(311)面に配向され、ダイヤモンド結晶子の57%が、[111]方向又は
(111)面に配向され、一方、[331]、[110]、及び[100]配向ダイヤモンド結晶子は、それぞれ、3%、4%、及び21%を占める。これらの結果は、本明細書で述べる多結晶ダイヤモンド膜を、ダイヤモンド成長表面から約35°の耐久性にとって好ましい作業角度と共に形成することができることをさらに確認するものである。
【0114】
ダイヤモンド成長表面から55°のランダムな角度(
図10の左下の円グラフ)では、本明細書で述べる多結晶ダイヤモンドは、その結晶の74%が[110]方向又は
(110)面に配向し、一方[111]、[331]、[311]、及び[100]配向ダイヤモンド結晶子は、26%を占めるに過ぎない。
【0115】
ダイヤモンド成長表面から77°の別のランダムな角度(
図10の右下の円グラフ)では、本明細書で述べる多結晶ダイヤモンドは、ほぼランダムなダイヤモンド結晶配向を有し、すなわち、[111]配向が16%、[331]配向が25%、[110]配向が12%、[311]配向が21%、及び[100]配向が26%である。
【0116】
図11Aを参照すると、ウエハ02A152からレーザーカッティングした1インチ(25.4mm)のダイヤモンド片の成長表面をラップ処理及び研磨処理した。この研磨処理片のSEMによる表面形態を
図11Aに示す。
図11Aから分かるように、ダイヤモンド結晶双晶が、[110]軸のまわりに形成されており、その結果、図に示した自転車車輪形状又は同心の形態となっている。そのような同心双晶形成により、
図11Aに示すパイ形状又はウェッジ形状の結晶セクションが作り出される。
【0117】
図11Bを参照し、引き続き
図11Aも参照すると、ウエハ02A152における双晶化ダイヤモンド結晶粒を確認するために、
図11Aに示す研磨処理した成長表面を、さらに水素マイクロ波プラズマで1時間エッチング処理した。水素マイクロ波プラズマ中の水素フリーラジカルが、多結晶ダイヤモンド表面から炭素原子をエッチング除去することは理解されたい。また、水素マイクロ波プラズマの水素フリーラジカルは、ダイヤモンド結晶の粒界及びダイヤモンド母結晶粒内の双晶形成交差部分の炭素原子を、規則的なダイヤモンド表面の面(この例では、主として
(110
)面)の炭素原子よりも速くエッチング除去することも理解されたい。
図11Bに示す研磨処理及びエッチング処理された表面のSEMイメージから、ダイヤモンド結晶粒内に、ほぼ交互のパターンで異なるSEM明度を有する16~20片ものウェッジ形状又はパイ形状の双晶化セクションが存在する可能性があり、各セクションは数ミクロンから大きいものは150ミクロン以上までの範囲の半径を有していることが明らかに示される。これらのウェッジ又はパイの先端は、研磨処理表面の「自転車車輪」(
図11A)又は研磨及びエッチング処理表面の多角形(
図11B)の中央部分に集まる傾向にある。このようなウェッジの多角形の辺長さは、数ミクロンから数十ミクロン以上であり得る。そのようなほぼ同心の双晶形成は、独特であり、その結果として、このような「自転車車輪」又は多角形の半径方向(360°)に沿った成長の過程で、多結晶ダイヤモンド膜の応力の実質的な低減をもたらしている可能性がある。以降で考察される比較例3及び4で考察するように、そのような同心双晶形成及び/又は[110]選択配向なしでは、所望に応じて大口径であってもよい多結晶ダイヤモンド膜の望ましい厚さまでの早期剥離を起こさない良好な成長を達成することはできなかった。
【0118】
図11Cを参照し、引き続き
図11A及び11Bも参照すると、結晶粒間の粒界と双晶形成交差部分との相違をさらに説明するために、ウエハ02A152の1インチ片の研磨処理成長表面に(
図11B)、水素マイクロ波プラズマでの2回目のエッチング処理を施した。ダイヤモンド結晶粒間の粒界及び双晶形成交差部分はいずれも、
図11Cに示すように、この2回目の水素マイクロ波プラズマエッチングによって強調された。図から分かるように、母ダイヤモンド結晶粒間の粒界は、双晶形成交差部分よりも激しく(深く)エッチングされており、このことは、暗く浅く見える双晶形成交差部分よりも、ダイヤモンド結晶粒間の粒界の方が明るく深く見えることによって裏付けられる。
【0119】
双晶形成の度合いを定量するために、
図11BのSEMイメージをAutoCADソフトウェアにインポートし、そこで、ダイヤモンド結晶粒間の粒界を太線セグメントで描き、ダイヤモンド結晶粒内部の双晶形成交差部分間の粒界を細線で描いた。この描画の結果を
図11Dに示す。結晶粒界に対する線セグメントの合計長さ(太線)及び双晶形成交差部分に対する線セグメントの長さ(細線)を集計した。16個のダイヤモンド母結晶粒が含まれ、L
Twinning_Intersection_2=506.5mm、及びL
Grain_Boundary_2=154.4mmであることが分かった。従って、ウエハ2A152における双晶形成の割合(方法2)は、506.5と154.4との和で506.5を除することにより、76.6%であることが分かった。
【0120】
同心双晶形成はまた、結晶面の実質的な不連続性も導入し、それによって、これらの結晶面のサイズが大きく低下される。従って、多重双晶化結晶粒は、実際には、小ダイヤモンド結晶粒からの面と同様に挙動するより小さい面を有し、それによって、ダイヤモンドの(111)面劈開の広がり及び進行を局所的領域へ軽減して、耐久性を改善する。双晶形成はまた、母結晶粒を有効に大きく維持し、それによって、フォノンは、非双晶化結晶粒の場合に近い速度で結晶格子中を効率的に輸送され得る(と思われる)。ダイヤモンド格子中を輸送されるフォノンが、本質的に、結晶粒界を通してフォノンが輸送される速度よりも非常に速いことは理解されたい。
【0121】
より小さい結晶粒を有する多結晶ダイヤモンド膜は、典型的には、靭性又は脆性という点で、より大きい結晶粒を有するダイヤモンド膜よりも機械的用途において優れた性能を示すことは理解されたい。しかし、より小さい結晶粒を有する多結晶ダイヤモンド膜は、結晶粒間粒界の面積がより大きく、これは、フォノン輸送の速度を下げてダイヤモンド膜の熱伝導性を低下し、このことは、より小さい結晶粒を有するダイヤモンド膜から形成されたダイヤモンド工具の作業片及びこのダイヤモンド工具で作業を行う対象物の望ましくない温度上昇に繋がり得る。上昇された温度では、ナノメートルサイズのダイヤモンド結晶粒を有するダイヤモンド膜などのより小さい結晶粒のダイヤモンド膜は、空気中、又は保護環境中であっても、劣化する。上昇された温度において、ナノメートルサイズのダイヤモンド結晶粒を有するダイヤモンド膜は、空気中では、グラファイト化及び酸化の両方に起因して、グラファイト化に起因する不活性雰囲気中での劣化よりも速く劣化する。酸化は、エネルギーも放出し、それによって、さらにダイヤモンド工具が加熱されることは理解されたい。従って、本明細書で述べる高[110]配向及び双晶化多結晶ダイヤモンドは、機械的用途、熱管理、及びその他の用途に有用である。
【0122】
ウエハ02A152の研磨処理した成長側(
図11A)の平均表面粗度(Ra)及び山対谷(PV)を、干渉計(20×対物レンズ)で測定したところ、それぞれ、31.9オングストローム及び13297オングストロームであった。さらに、ウエハ02A152の研磨処理した核形成側の平均表面粗度(Ra)及び山対谷(PV)を、干渉計(20×対物レンズ)で測定したところ、それぞれ、18.1オングストローム及び292.5オングストロームであった。多結晶ダイヤモンドにおいて、研磨処理した両表面においてそのような低い平均表面粗度及び山対谷値が得られることは驚くべきことであり、それは、本明細書で述べる高[110]配向双晶化多結晶ダイヤモンドウエハ中のダイヤモンド結晶子の均一性に起因し得る。
【0123】
比較例2:高[100]配向多結晶ダイヤモンド膜の低速度成長
【0124】
直径176mmの金属タングステン片を、マイクロ波プラズマ化学蒸着(CVD)反応器16(
図1)中の基材24として用いた。2900mL/分の水素及び17.4mL/分のメタンの混合物を、CVD反応器16に流入させた。基材上でのダイヤモンド膜の成長を促進するために、微量の窒素も反応器中に導入した。プラズマ20の点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマ20のサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。1時間25分のダイヤモンドの化学蒸着後、水素流量を3000mL/分に増加させ、メタン流量を18mL/分に増加させた。蒸着又はダイヤモンド成長を19時間行った時点で、水素流量を3000mL/分から2900mL/分に変更し、同時にメタン流量を、18mL/分から17.4mL/分に変更した。基材中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって840℃に維持した。コントロールパイロメータ26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材24の中央部分で成長するダイヤモンドの温度をモニタリングした。蒸着を63時間行った時点で、水素及びメタンの流量を、それぞれ、3000mL/分及び18mL/分に戻した。135.6時間のダイヤモンド蒸着又は成長の後、反応を停止し、ダイヤモンド膜4を金属タングステン基材24から分離し、それによって、自立性多結晶ダイヤモンドウエハ、すなわち、ウエハ02A159を作製した。ウエハ02A159の成長速度は、0.96ミクロン毎時から1.98ミクロン毎時の範囲であり、平均1.67ミクロン毎時であると観察された。
【0125】
図12A、12B、及び13を参照すると、ウエハ02A159は、
図12Aのウエハ02A159の光学イメージで示されるように、その周辺部に暗色の端部分を示した。
図13のX線回折パターンで示されるように、成長方向のウエハ02A159ダイヤモンド結晶形態(
図13の左上円グラフ)は、99%超が[100]配向である。
図12BのSEMイメージに示されるそのような[100]配向結晶のダイヤモンド結晶形態は、正方錐又はシャープな先端を有しない正方錐である。
【0126】
上記表3に一般的に示されるように、54.7°の角度は、ウエハ02A159のダイヤモンド結晶格子中の
(100
)面と
(111
)面との間の固有の角度である。
図13の左下円グラフに示されるように、ウエハ02A152の[100]配向膜の断面を、成長面又は表面から55°の角度に傾け、X線回折(XRD)データを収集した。ウエハ02A159のこの55°の傾きにおいて示されるように、ダイヤモンド結晶子の39%が、
(111
)面又は
[111]方向に配向されている。55°に傾いたウエハ02A159の残りのダイヤモンド結晶子の配向分布は、[331]配向が38%、[110]配向が21%、[311]及び[100]配向が合計で2%であると特定された。
【0127】
成長表面から45°の角度に傾けられた場合(
図13の右下の円グラフ)(
(100
)面と
(110
)面との間の固有の角度)、XRDを介して特定されたウエハ02A159のダイヤモンド結晶子の配向分布は、[111]配向が19%、[331]配向が44%、[110]配向が35%、[311]配向及び[100]配向を合わせた合計が2%であった。
【0128】
加えて、成長表面から90°の断面のXRD(
図13の右上の円グラフ)は、[100]配向が60%、[110]配向が34%、[311]面が3%、[331]配向が3%、そして[111]配向はほとんど存在しないという配向分布を示している。
【0129】
この例2は、[100]配向面と[111]配向面との間の固有の角度において、(111)面又は[111]方向に配向されたダイヤモンド結晶子が支配的な量ではないことを示している。上記で考察したように、ダイヤモンド格子の[111]方向は、最も硬く、摩耗用途において最も耐久性を有する。従って、この比較例2の[100]配向ダイヤモンドウエハ02A159は、例1の[110]配向ダイヤモンドウエハ02A159よりも硬度において劣っている。さらに、この例2のウエハ02A159は(端部分で[100]配向が支配的)、例1のウエハ02A152([110]配向及び高双晶化)よりも成長が遅く、すなわち、ウエハ02A152(例1)の場合の8.28ミクロン毎時に対して、ウエハ02A159(例2)の場合は、1.67ミクロン毎時であった。
【0130】
比較例3:820℃から1020℃の温度で水素及び2%メタンの混合物を用いた早期剥離を起こしたランダム配向多結晶ダイヤモンド膜の成長
【0131】
直径160mmの金属タングステン片を、マイクロ波プラズマ化学蒸着(CVD)反応器16(
図1)中の基材24として用いた。例3におけるダイヤモンド成長の第一の場合では、2600mL/分の水素及び52mL/分のメタンの混合物を、マイクロ波プラズマCVD反応器16に流入させ、メタン濃度は、例1の3%に代わり、2%であった。基材24上でのダイヤモンド膜4の成長を促進するために、微量の窒素もCVD反応器16中に導入した。プラズマの点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマ20のサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。基材24中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって820℃に維持した。コントロールパイロメータ26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材24の中央部分で成長するダイヤモンド4の温度をモニタリングした。94時間のダイヤモンド成長後、タングステン基材24上のダイヤモンド膜4は、予想外に剥離を起こし、その結果、多大な温度上昇と共にダイヤモンド膜4が破砕した。この剥離に対応して、基材24上でのダイヤモンド膜4のマイクロ波プラズマCVD成長を停止した。この剥離及び破砕したダイヤモンド膜4は、ウエハ01A164-2として識別し、厚さは380ミクロンであった。ウエハ01A164-2の中央部分のダイヤモンド成長速度は、3.9ミクロン毎時であると特定された。
【0132】
例3におけるダイヤモンド成長の第二の場合では、直径160mmの金属タングステン片を、マイクロ波プラズマ化学蒸着(CVD)反応器16(
図1)中の基材24として用いた。水素及びメタンの混合物を、例1の3%に代わって2%のメタン濃度でマイクロ波プラズマCVD反応器16に流入させた。基材24上でのダイヤモンド膜4の成長を促進するために、微量の窒素もCVD反応器16中に導入した。プラズマの点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマ20のサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。基材24中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって870℃に制御した。コントロールパイロメータ26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材26の中央部分で成長するダイヤモンド4の温度をモニタリングした。36時間のダイヤモンド成長後、タングステン基材24上のダイヤモンド膜4は、予想外に剥離を起こし、その結果、多大な温度上昇と共にダイヤモンド膜4が破砕した。この剥離に対応して、基材24上でのダイヤモンド膜4のマイクロ波プラズマCVD成長を停止した。この剥離及び破砕したダイヤモンド膜4は、ウエハ01A164-3として識別し、中央部分での厚さは145ミクロンであった。ウエハ01A164-3の中央部分のダイヤモンド成長速度は、4.0ミクロン毎時であると特定された。
【0133】
例3におけるダイヤモンド成長の第三の場合では、直径160mmの金属タングステン片を、マイクロ波プラズマCVD反応器16(
図1)中の基材24として用いた。水素及びメタンの混合物を、例1の3%に代わって2%のメタン濃度でマイクロ波プラズマCVD反応器16に流入させた。基材24上でのダイヤモンド膜4の成長を促進するために、微量の窒素も混合物に添加した。プラズマの点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマ20のサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。基材24中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって920℃に制御した。コントロールパイロメータ26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材24の中央部分で成長するダイヤモンド4の温度をモニタリングした。18時間のダイヤモンド成長後、タングステン基材24上のダイヤモンド膜4は、予想外に剥離を起こし、その結果、多大な温度上昇と共にダイヤモンド膜が破砕した。ダイヤモンド膜の基材からの剥離に対応して、基材上でのダイヤモンド膜のマイクロ波プラズマCVD成長を停止した。この剥離及び破砕したダイヤモンド膜は、ウエハ01A164-4として識別し、中央部分での厚さは84ミクロンであった。ダイヤモンド01A164-4の中央部分でのダイヤモンド成長速度は、4.8ミクロン毎時であると特定された。
【0134】
例3におけるダイヤモンド成長のこの第三の場合を、再度繰り返したが、同じ結果が得られ、すなわち、ダイヤモンド膜4は、予想外に剥離し、破砕した。この3つ目の剥離及び破砕したダイヤモンド膜4は、ウエハ01A166-1として識別し、予想外の早期剥離時(19時間)における中央部分の厚さは72ミクロンであり、これを平均成長速度に言い換えると、3.9ミクロン毎時である。ウエハ01A164-4とウエハ01A166-1との間の成長速度の相違は、破砕したダイヤモンド膜の異なる領域での厚さ測定に由来し得ると考えられる。
【0135】
例3におけるダイヤモンド成長の第四の場合では、直径160mmの金属タングステン片を、マイクロ波CVD反応器16(
図1)中の基材24として用いた。水素及びメタンの混合物を、例1の3%に代わって2%のメタン濃度でマイクロ波プラズマCVD反応器16に流入させた。基材24上でのダイヤモンド膜4の成長を促進するために、微量の窒素も混合物に添加した。プラズマの点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマ20のサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。基材24中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって1020℃に制御した。コントロールパイロメータ26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材24の中央部分で成長するダイヤモンド4の温度をモニタリングした。15時間のダイヤモンド成長後、タングステン基材24上のダイヤモンド膜4は、予想外に剥離を起こし、その結果、多大な温度上昇と共にダイヤモンド膜4が破砕した。この剥離に対応して、基材24上でのダイヤモンド膜4のマイクロ波プラズマCVD成長を停止した。この剥離及び破砕したダイヤモンド膜は、ウエハ01A166-2として識別し、中央部分での厚さは67ミクロンであった。ウエハ01A166-2の中央部分でのダイヤモンド成長速度は、4.5ミクロン毎時であると特定された。
【0136】
例3をまとめると、成長速度は、成長温度と共に上昇する。しかし、同時に、成長温度が上昇するに従って、ダイヤモンド膜が早期剥離を起こす時間が短くなり、このことは、820℃、870℃、920℃、920℃、又は1020℃の温度で成長させたダイヤモンド膜が、それぞれ、94時間、36時間、19時間、18時間、及び15時間でのタングステン基材24からの剥離に対応していることで裏付けられる。早期剥離は、得られるダイヤモンド膜の厚さを制御することができないために望ましくなく、ダイヤモンド膜は、多くの場合、薄過ぎて実用的な用途に用いることができず(それぞれ、370、145、84、72、及び67ミクロンの厚さ)、これらの膜は、典型的には、多くの小片への破砕又は割れを起こす。早期剥離は、上昇された成長温度で、より速い成長速度で成長するダイヤモンド膜内部の応力に起因するものと考えられる。この目的のために、早期剥離を起こすことなく、望ましく有用な厚さまでダイヤモンド膜を成長させることが望ましい。
【0137】
ウエハ01A164-2、01A164-3、01A164-4、及び01A166-2において、それぞれ、820℃、870℃、920℃、920℃、及び1020℃の成長温度で早期剥離を起こしたダイヤモンド膜のダイヤモンド結晶子が、
図14に示されるように、基材側又は核形成側で、及び中央部分又は端部分で、おおよそランダムに配向されていることが観察された。この例3とは対照的に、例1で述べた[110]配向双晶化ダイヤモンド膜は、早期剥離を起こすことなく、いずれの望ましい厚さまでにも成長する。従って、例1で述べたダイヤモンド膜の[110]配向は、いずれの望ましい厚さまでにもダイヤモンド膜を良好に成長させることに対する少なくとも1つの鍵であると考えられる。
【0138】
ウエハ01A164-2、01A164-3、01A164-4、及び01A166-2において、それぞれ、820℃、870℃、920℃、920℃、及び1020℃の成長温度で成長したランダム配向ダイヤモンド膜のダイヤモンド結晶子が、
図15に示されるように、星形状双晶形成又は同心双晶形成(例1で述べるように)を示さないことも観察された。従って、本開示で提供される説明に束縛されるものではないが、本明細書で述べる同心双晶化ダイヤモンド結晶子のダイヤモンド膜(例1)は、ダイヤモンド膜中の応力が最小限のレベルであり、このことにより、そのようなダイヤモンド膜が、早期剥離を起こしてしまうことなく、いずれの望ましい厚さまでにも成長することが可能となるものと考えられる。
【0139】
比較例4:1020℃及び1060℃の温度で水素及び3%メタンの混合物を用いたウエハ中で早期剥離を起こしたランダム配向多結晶ダイヤモンド膜の成長
【0140】
直径160mmの金属タングステン片を、マイクロ波プラズマCVD反応器16(
図1)中の基材24として用いた。例4におけるダイヤモンド成長の第一の場合では、2400mL/分の水素及び72mL/分のメタンの混合物を、マイクロ波プラズマCVD反応器16に流入させ、メタン濃度は、例1と同じ3%であった。プラズマの点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマ20のサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。基材24中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって1060℃に制御した。コントロールパイロメータ26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材24の中央部分で成長するダイヤモンド4の温度をモニタリングした。16時間のダイヤモンド成長後、タングステン基材24上のダイヤモンド膜4は、予想外に剥離を起こし、その結果、多大な温度上昇と共にダイヤモンド膜4が破砕した。
この剥離に対応して、基材24上でのダイヤモンド膜4のマイクロ波プラズマCVD成長を停止した。この剥離及び破砕したダイヤモンド膜は、ウエハ01A231Aとして識別し、厚さは110ミクロンであった。ウエハ01A231Aの中央部分のダイヤモンド成長速度は、6.88ミクロン毎時であると特定された。
【0141】
ウエハ01A231Aが、成長の16時間目に早期剥離及び破砕を起こしたことから、ダイヤモンド膜4中のダイヤモンド結晶子が、ダイヤモンド膜4の剥離及び破砕を引き起こすのに充分に高いレベルの応力を受けていたことが示唆される。そのような破滅的なレベルの応力は、
図16のSEMイメージに示されるランダムに配向されたダイヤモンド結晶配向によって示唆されるダイヤモンド結晶子の不整列、及び膜応力軽減のための結晶双晶形成の欠如に起因するものと考えられる。XRDの結果(
図16の円グラフに示されるダイヤモンド結晶子の配向分布の割合によって表される)は、ウエハ01A231Aが、42%の[111]方向に沿った配向、12%の[331]方向に沿った配向、43%の[110]方向に沿った配向、2%の[311]方向に沿った配向、及び1%の[100]方向に沿った配向を有することを示している。
図16のウエハ01A231AのSEMイメージは、本明細書で述べる高品質ダイヤモンド膜(例:例1)に典型的である星形状結晶子結晶粒を示していない。この例4から、例1の高双晶化[110]配向ダイヤモンド膜が、上記の例1で述べたように、並びに以下の例5、6、及び7でさらに述べるように、ダイヤモンド膜を所望される厚さまで成長させることを可能とするより低いレベルの応力を有することが確認される。
【0142】
例4におけるダイヤモンド成長の第二の場合では、直径160mmの金属タングステン片を、例1で用いたものに類似の別のマイクロ波プラズマCVD反応器16中の基材24として用いた。2400mL/分の水素及び72mL/分のメタンの混合物を、マイクロ波プラズマCVD反応器16に流入させ、メタン濃度は、例1と同じ3%であった。プラズマの点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマ20のサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。基材24中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって1020℃に制御した。コントロールパイロメータ26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材24の中央部分で成長するダイヤモンド4の温度をモニタリングした。9時間のダイヤモンド成長後、タングステン基材26上のダイヤモンド膜4は、予想外に剥離を起こし、その結果、多大な温度上昇と共にダイヤモンド膜4が破砕した。この剥離に対応して、基材24上でのダイヤモンド膜4のマイクロ波プラズマCVD成長を停止した。この剥離及び破砕したダイヤモンド膜は、ウエハ01A231Bとして識別し、厚さは60ミクロンであった。ウエハ01A231Bの中央部分のダイヤモンド成長速度は、6.67ミクロン毎時であると特定された。
【0143】
ウエハ01A231Bが、成長の9時間目に早期剥離及び破砕を起こしたことから、膜中のダイヤモンド結晶子が、膜の剥離及び破砕を引き起こすのに充分に高いレベルの応力を受けていたことが示唆される。そのような破滅的なレベルの応力は、
図17のSEMイメージに示されるように、ランダムなダイヤモンド結晶の配向によって示唆されるダイヤモンド結晶子の不整列、さらには膜応力軽減のための結晶双晶形成の欠如に起因するものと考えられる。XRDの結果(
図17の円グラフに示されるダイヤモンド結晶子の配向分布の割合によって表される)は、ウエハ01A231Bの多結晶ダイヤモンドが、70%の[111]方向に沿った配向、8%の[331]方向に沿った配向、19%の[110]方向に沿った配向、2%の[311]方向に沿った配向、及び1%の[100]方向に沿った配向を有することを示している。
図17のウエハ01A231BのSEMイメージは、本明細書で述べる高品質ダイヤモンド膜(例:例1)に典型的である星形状結晶子結晶粒を示していない。この例4から、例1の高双晶化[110]配向ダイヤモンド膜が、例1、5、6、及び7で述べるように、ダイヤモンド膜を所望される膜厚まで成長させることを可能とするより低いレベルの応力を有することがさらに確認される。
【0144】
本明細書で考察するように、基材の表面は、より高いレベルの接着性を得るために、所望に応じてダイヤモンドラビングによって処理されてもよい。ウエハ01A231A及び01A231Bが早期剥離を起こしたことにより、例4におけるダイヤモンド成長の第三の場合では、例4におけるダイヤモンド成長の第二の場合で用いた同じ基材24を、基材へのダイヤモンド膜のより良好な接着のためのより良好なシーディングを得る目的で、ダイヤモンド粉末を用いてラビング処理した。そのようなダイヤモンド粉末ラビング処理金属タングステン基材24(直径160mm)を、例1で用いたものに類似の別のマイクロ波プラズマCVD反応器16中に置いた。例4におけるダイヤモンド成長のこの第三の場合では、2400mL/分の水素及び72mL/分のメタンの混合物を、マイクロ波プラズマCVD反応器16に流入させ、メタン濃度は、例1と同じ3%であった。プラズマの点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマ20のサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。基材24中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって1020℃に制御した。コントロールパイロメータ26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材24の中央部分で成長するダイヤモンド4の温度をモニタリングした。101時間のダイヤモンド成長後、ダイヤモンド膜4のCVD成長を停止し、ダイヤモンド膜4を基材24から分離した。こうして分離したダイヤモンド膜4は、ウエハ01A231として識別し、中央部分での厚さは665ミクロンであった。
ウエハ01A231の中央部分のダイヤモンド成長速度は、6.58ミクロン毎時であると特定された。
【0145】
例4におけるダイヤモンド成長のこの第三の場合では、基材をダイヤモンド粉末でラビング処理することにより、ダイヤモンド膜4の早期剥離が防止された。しかし、そのような接着性向上は、
図18の右側のSEMイメージに示されるように、ウエハ01A231がウエハの核形成側全体にわたってマイクロクラックを起こしたことから、ダイヤモンド膜4の応力制御の手助けとはならなかった。ダイヤモンドウエハのマイクロクラックは、非常に望ましくないものである。
【0146】
図18の左側のSEMイメージから分かるように、核形成側でマイクロクラックを起こしたウエハ01A231は、例1、5、6、及び7において本明細書で述べるダイヤモンド膜に典型的である双晶形成の特徴を成長側に有しない。ウエハ01A231はまた、例1、5、6、及び7において本明細書で述べるダイヤモンド膜に存在するレベルの[110]配向も有しない。XRDの結果(
図18の円グラフに示されるダイヤモンド結晶子の配向分布の割合によって表される)は、ウエハ01A231が、2%の[111]方向に沿った配向、18%の[331]方向に沿った配向、75%の[110]方向に沿った配向、4%の[311]方向に沿った配向、及び1%の[100]方向に沿った配向を有することを示している。これらの配向は、例1、5、6、及び7において本明細書で述べるダイヤモンド膜が、その[110]配向、並びにその双晶形成の特徴、すなわち、成長表面上に星形状形態を、又は成長表面の表面研磨処理後には自転車車輪形状の同心
円を形成するダイヤモンド格子の[110]軸まわりの双晶化において独特であることをさらに支持している。例1、5、6、及び7において本明細書で述べるダイヤモンド膜の独特さは、その成長が速く、[110]配向及び星形状/同心結晶双晶形成の両方を有することであり、それによって、マイクロクラックを起こすことなく望ましい膜厚までダイヤモンド膜を良好に成長させることを可能とする最小限の応力を有する多結晶ダイヤモンド膜が得られる。
【0147】
例5:3%メタンを用いる1120℃で162時間の別のCVD反応器中での高双晶化[110]配向多結晶ダイヤモンド膜の良好な成長
【0148】
直径160mmの金属タングステン片を、例1で用いたものに類似の別のマイクロ波プラズマCVD反応器16中の基材24として用いた。2400mL/分の水素及び72mL/分のメタンの混合物を、マイクロ波プラズマCVD反応器16に流入させ、メタン濃度は、やはり例1と同じ3%であった。プラズマの点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマ20のサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。基材24中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって1120℃に制御した。コントロールパイロメータ26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材24の中央部分で成長するダイヤモンド4の温度をモニタリングした。162時間のダイヤモンド成長後、反応を停止し、成長したダイヤモンド4を金属タングステン基材から分離し、こうして、
図19の光学イメージに示され、ウエハ01A226として識別される自立性多結晶ダイヤモンドウエハ4を作製した。ウエハ01A226は、直径160mmであり、
図19の光学イメージに示されるように、クラックを含んでいなかった。
【0149】
ウエハ01A226の場合の平均成長速度は、7.56ミクロン毎時と特定された。以下の表4及び
図19の厚さのコンタープロットに示されるように、ウエハ01A226の厚さは、均一で、1060から1310ミクロンの範囲であり、標準偏差は5.29%であった。
【0150】
【0151】
図20A及び20Bに示されるように、ウエハ01A226の中央部分及び端部分におけるダイヤモンド結晶子の形態は、双晶化されており、均一な星形状(成長表面から観察)として示される。
【0152】
ウエハ01A226における双晶形成のレベルを、上記方法1により、すなわち、
図21に示されるように、ウエハ01A226の中央部分のSEMイメージ中のダイヤモンド結晶粒間の粒界(太線)の合計長さ及びダイヤモンド母結晶粒内部の双晶形成交差部分(細線)の合計長さを測定することによって特定した。
図21のウエハ01A226の母結晶粒中の双晶形成交差部分(細線)の合計長さは、4420mmであると測定され、ダイヤモンド母結晶粒間の粒界(太線)の合計長さは、1185mmと測定された。従って、ウエハ01A226における双晶形成の割合(方法1)は、4420と1185との和で4420を除することにより、78.8%であると特定された。
【0153】
ウエハ01A226からレーザーカッティングしたダイヤモンドの1インチ(25.4mm)径片の成長表面を、ラップ処理及び研磨処理した。
図22のSEMイメージから、このダイヤモンド片が、[110]軸のまわりにダイヤモンド結晶双晶を有しており、その結果、自転車車輪形状又は同心の形態となっていることが示される。そのような同心双晶形成は、
図22Aにおいて、パイ形状又はウェッジ形状結晶セクションとして観察される。
【0154】
双晶化ダイヤモンド結晶粒をより良好に確認するために、ウエハ01A226の研磨処理した成長表面を、水素マイクロ波プラズマで1時間エッチング処理した。水素マイクロ波プラズマ中の水素フリーラジカルが、多結晶ダイヤモンド表面から炭素原子をエッチング除去する。さらに、水素マイクロ波プラズマの水素フリーラジカルは、ダイヤモンド結晶粒間の粒界及び双晶化ダイヤモンド結晶粒内の双晶形成交差部分の炭素原子を、水素マイクロ波プラズマが規則的なダイヤモンド表面の面、すなわち、この特定の場合では主として
(110
)面の炭素原子をエッチング除去するよりも速くエッチング除去する。
図22Bは、ウエハ01A226の水素マイクロ波プラズマエッチング処理表面のSEMイメージである。
図22Bから分かるように、ダイヤモンド結晶粒内には、ほぼ交互のパターンで異なるSEM明度を有するいくつかの、例えば、限定されないが、16~20のウェッジ形状又はパイ形状の双晶化結晶セクションが存在し得る。これらのウェッジ形状又はパイ形状の双晶化結晶セクションの半径は、数ミクロンから大きいものは100ミクロン以上までの範囲である。これらのウェッジ形状又はパイ形状双晶化結晶セクションの先端は、
図22Aの研磨処理表面及び
図22Bの研磨及びエッチング処理表面から分かるように、「自転車車輪」の中央部分に集まる傾向にある。これらのウェッジの多角形の辺長さは、数ミクロンから数十ミクロン以上の範囲である。そのようなほぼ同心の双晶形成は、独特であり、その結果として、このような「自転車車輪」又は多角形の半径方向(360°)に沿った成長の過程で、多結晶ダイヤモンド膜の応力の実質的な低減をもたらしていると考えられる。例えば、例3及び4を参照すると、そのような同心双晶形成及び/又は[110]選択配向なしでは、多結晶ダイヤモンド膜の望ましい厚さまでの早期剥離を起こさない良好な成長を達成することはできなかった。
【0155】
双晶形成の度合いを定量するために、
図22BのSEMイメージをAutoCAD(登録商標)ソフトウェアにインポートした。AutoCAD(登録商標)は、Sausalito、California、USAのAutodisk、Inc.の米国登録商標である。
図22Cに示されるように、ダイヤモンド結晶粒間の粒界を太線セグメントで描き、一方各ダイヤモンド結晶粒内部の双晶形成交差部分間を細線セグメントで描いた。結晶粒界に対する線セグメントの合計長さ(L
Grain_Boundary_2)及び双晶形成交差部分に対する線セグメントの合計長さ(L
Twinning_Intersection_2)を、太線及び細線セグメントから特定した。17個のダイヤモンド母結晶粒が含まれ、L
Twinning_Intersection_2=457.9mm、及びL
Grain_Boundary_2=177.6mmであることが分かった。従って、ダイヤモンド01A226における双晶形成の割合(方法2)は、457.9と177.6との和で457.9を除することにより、72.1%であると特定された。
【0156】
同心双晶形成はまた、結晶面に不連続性も導入し、それによって、結晶面のサイズが、同心双晶形成を示さないダイヤモンドウエハと比較して低下されることが観察された。従って、多重双晶化ダイヤモンド結晶粒は、実際は、小ダイヤモンド結晶粒と同様に挙動するより小さい面を有し、同時に双晶形成は、母結晶粒を有効に大きく維持し、それによって、フォノンは、非双晶化結晶粒の場合に近い速度でダイヤモンド結晶格子中を効率的に輸送され得る。この目的のために、ダイヤモンド格子中を輸送されるフォノンは、本質的に、結晶粒界を通してフォノンが輸送される速度よりも速い。
【0157】
さらに、より小さい結晶粒の多結晶ダイヤモンドは、典型的には、靭性又は脆性という点で、より大きい結晶粒のダイヤモンド膜よりも機械的用途において優れた性能を示す。
しかし、より小さい結晶粒の多結晶ダイヤモンドは、結晶粒間粒界の面積がより大きく、これは、フォノン輸送の速度を下げてダイヤモンドの熱伝導性を低下し、このことは、ダイヤモンド工具の作業片及びこのダイヤモンド工具で作業を行う対象物の温度上昇に繋がり得る。上昇された温度では、結晶粒界間の表面積が大きいナノサイズダイヤモンドなどのより小さい結晶粒のダイヤモンドは、空気中、又は保護環境中であっても、劣化する。
上昇された温度において、ナノサイズダイヤモンドは、空気中では、グラファイト化及び酸化の両方に起因して、グラファイト化に起因する不活性雰囲気中での劣化よりも速く劣化する。さらに、酸化は、エネルギーを放出し、それは、ダイヤモンド工具をさらにより高い温度まで加熱する。従って、本明細書で述べる多結晶高[110]配向及び双晶化ダイヤモンドは、機械的用途、熱管理、及びその他の用途において優れている。
【0158】
加えて、
図23に示されるように、多結晶ダイヤモンドウエハ01A226中のダイヤモンド結晶子は、高[110]配向されている。この目的のために、XRDの結果(
図23の円グラフに示されるダイヤモンド結晶子の配向分布の割合によって表される)では、中央部分の場合、ウエハ01A226の成長側(
図23の左上の円グラフ)は、96%の
(110
)面又は
[110]方向に沿った配向を有している。端部分の場合、ウエハ01A226の成長側(
図23の右上の円グラフ)は、95%の[110]方向に沿った配向を有している。核形成側の中央部分(
図23の左下の円グラフ)は、96%の[110]面又は方向に沿った配向を有している。最後に、ウエハ01A226の1インチにレーザーカッティングした部分の研磨処理した核形成側(
図23の右下側)は、97%の
(110
)面又は
[110]方向に沿った配向を有している。これらのXRDの結果は、ウエハ01A226が、均一に高[110]配向されていることを実証するものである。
【0159】
ウエハ01A226の研磨処理した成長側表面(
図22A)の平均表面粗度(Ra)及び山対谷(PV)を干渉計で測定したところ、それぞれ60.7オングストローム及び12895オングストロームであった。さらに、ウエハ01A226の研磨処理した核形成側の平均表面粗度(Ra)及び山対谷(PV)を干渉計で測定したところ、それぞれ12.4オングストローム及び332.5オングストロームであった。多結晶ダイヤモンドにおいて、ウエハ01A226の両側の研磨処理した表面で、特に核形成側でそのような低い表面粗度及び山対谷値が観察されたことは驚くべきことであり、これは、高[110]配向及び双晶化多結晶ウエハ01A226中のダイヤモンド結晶子の均一性に起因し得るものと考えられる。
【0160】
この例は、高双晶化[110]配向多結晶ダイヤモンド膜の成長を、別のマイクロ波プラズマCVD反応器16で、類似の結果を伴って良好に反復可能であることを実証するものである。
【0161】
例6:3%メタンを用いる1120℃で90時間の別のCVD反応器中での高双晶化[110]配向多結晶ダイヤモンド膜の良好な成長
【0162】
直径160mmの金属タングステン片を、例1で用いたものに類似の別のマイクロ波プラズマCVD反応器16中の基材24として用いた。2400mL/分の水素及び72mL/分のメタンの混合物を、マイクロ波プラズマCVD反応器16に流入させ、メタン濃度は、やはり例1と同じ3%であった。プラズマの点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマ20のサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。基材24中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって1120℃に制御した。コントロールパイロメータ26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材の中央部分で成長するダイヤモンド4の温度をモニタリングした。90時間のダイヤモンド成長後、反応を停止し、成長したダイヤモンド4を金属タングステン基材24から分離し、こうして、
図24の光学イメージに示され、ウエハ01A227として識別される自立性多結晶ダイヤモンドウエハ4を作製した。
図24から分かるように、多結晶ダイヤモンドウエハ01A227は、均一であり、クラックを含んでいない。
【0163】
ウエハ01A227の場合の平均成長速度は、7.37ミクロン毎時と特定された。表4(上記)及び
図24の厚さのコンタープロットに示されるように、ウエハ01A227の厚さは、均一で、580から700ミクロンの範囲であり、標準偏差は4.55%であると観察された。
図25A及び25Bに示されるように、成長表面の中央部分及び端部分におけるダイヤモンド結晶子の形態は、双晶化されており、均一な星形状として示される。
【0164】
図26を参照して、ウエハ01A227における双晶形成のレベルを、方法1により、すなわち、ウエハ01A227の中央部分のSEMイメージ中のダイヤモンド結晶粒間の粒界(太線)の合計長さ及びダイヤモンド母結晶粒内部の双晶形成交差部分(細線)の合計長さを測定することによって特定した。ダイヤモンド母結晶粒中の双晶形成交差部分の合計長さは、2530mmであることが分かり、ダイヤモンド母結晶粒間の粒界の合計長さは、2780mmと測定された。従って、ウエハ01A227における双晶形成の割合(方法1)は、2530と2780との和で2530を除することにより、47.6%であると特定された。
【0165】
図27に示されるように、多結晶ダイヤモンド01A227のダイヤモンド結晶子は、高[110]配向されている。XRDパターンにより(
図27の円グラフに示されるダイヤモンド結晶子の配向分布の割合によって表される)、中央部分において、ウエハ01A226の成長側(
図27の左側の円グラフ)は、93%の[110]配向を有しており、ウエハ01A226の核形成側(研磨処理後)(
図27の右側の円グラフ)は、91%の[110]配向を有していることが特定された。
【0166】
ウエハ01A227からレーザーカッティングしたダイヤモンドの1インチ(25.4mm)片の成長表面を、ラップ処理及び研磨処理した(
図28A)。28Aを参照すると、このウエハ01A227の1インチ片が、[110]軸のまわりにダイヤモンド結晶双晶を有しており、その結果、自転車車輪形状又は同心の形態となっていることが観察された。そのような同心双晶形成は、
図28Aに示されるパイ形状又はウェッジ形状結晶セクションを作り出している。
【0167】
ウエハ01A227中の独特な双晶化ダイヤモンド結晶粒を確認するために、ウエハ01A227の研磨処理した成長表面を、水素マイクロ波プラズマで1時間エッチング処理した。水素マイクロ波プラズマ中の水素フリーラジカルが、多結晶ダイヤモンド表面から炭素をエッチング除去する。さらに、水素マイクロ波プラズマの水素フリーラジカルはまた、ダイヤモンド結晶粒間の粒界及び双晶化ダイヤモンド結晶粒内の双晶形成交差部分の炭素原子を、水素マイクロ波プラズマが規則的なダイヤモンド表面の面、この特定の場合では主として
(110
)面の炭素原子をエッチング除去するよりも速くエッチング除去する。
図22Bは、水素マイクロ波プラズマエッチング処理表面のSEMイメージである。
図28Bから分かるように、ダイヤモンド結晶粒内には、ほぼ交互のパターンで異なるSEM明度を有するいくつかの、例えば、限定されないが、16~20のウェッジ形状又はパイ形状の双晶化結晶セクションが存在し得る。これらのウェッジ形状又はパイ形状の双晶化結晶セクションの半径は、数ミクロンから大きいものは150ミクロン以上までの範囲である。ウェッジ形状又はパイ形状双晶化結晶セクションの先端は、
図28Aの研磨処理表面及び
図28Bの研磨及びエッチング処理表面のウェッジ形状又はパイ形状の双晶化結晶セクションから分かるように、「自転車車輪」の中央部分に集まる傾向にある。これらのウェッジの多角形の辺長さは、数ミクロンから数十ミクロン以上の範囲である。そのようなほぼ同心の双晶形成は、独特であり、その結果として、このような「自転車車輪」又は多角形の半径方向(360°)に沿った成長の過程で、多結晶ダイヤモンド膜の応力の実質的な低減をもたらしていると考えられる。例えば、例3及び4を参照すると、そのような同心双晶形成及び/又は[110]配向なしでは、多結晶ダイヤモンド膜の望ましい厚さまでの早期剥離を起こさない良好な成長を達成することはできなかった。
【0168】
双晶形成の度合いを定量するために、
図28BのSEMイメージをAutoCAD(登録商標)ソフトウェアにインポートした。
図28Cに示されるように、ダイヤモンド結晶粒間の粒界を太線セグメントで描き、一方各ダイヤモンド結晶粒内部の双晶形成交差部分間を細線セグメントで描いた。結晶粒界に対する線セグメントの合計長さ(L
Grain_Boundary_2)及び双晶形成交差部分に対する線セグメントの合計長さ(L
Twinning_Intersection_2)を集計した。15個のダイヤモンド母結晶粒が含まれ、L
Twinning_Intersection_2=408.9mm、及びL
Grain_Boundary_2=154.6mmであることが分かった。従って、ウエハ01A227における双晶形成の割合(方法2)は、408.9と154.6との和で408.9を除することにより、72.6%であると特定された。
【0169】
同心双晶形成はまた、結晶面に不連続性も導入し、それによって、結晶面のサイズが、同心双晶形成を示さないダイヤモンドウエハと比較して低下されることが観察された。従って、多重双晶化ダイヤモンド結晶粒は、実際は、小ダイヤモンド結晶粒と同様に挙動するより小さい面を有する。このことは、ダイヤモンドの[111]劈開の広がり及び進行を局所的結晶粒で軽減して耐久性を改善するという点で有益であり、一方、双晶形成は、母結晶粒を有効に大きく維持し、それによって、フォノンは、非双晶化結晶粒の場合に近い速度でダイヤモンド結晶格子中を効率的に輸送され得る。この目的のために、ダイヤモンド格子中を輸送されるフォノンは、本質的に、結晶粒界を通してフォノンが輸送される速度よりも非常に速い。
【0170】
さらに、より小さい結晶粒の多結晶ダイヤモンドは、典型的には、靭性又は脆性という点で、より大きい結晶粒のダイヤモンド膜よりも機械的用途において優れた性能を示す。
しかし、より小さい結晶粒の多結晶ダイヤモンドは、結晶粒間粒界の面積がより大きく、これは、フォノン輸送の速度を下げてダイヤモンドの熱伝導性を低下し、このことは、ダイヤモンド工具の作業片及びこのダイヤモンド工具で作業を行う対象物の温度上昇に繋がり得る。上昇された温度では、結晶粒界間の表面積が大きいナノサイズダイヤモンドなどのより小さい結晶粒のダイヤモンドは、空気中、又は保護環境中であっても、劣化する。
さらに、上昇された温度では、ナノサイズダイヤモンドは、空気中では、グラファイト化及び酸化の両方に起因して、グラファイト化に起因する不活性雰囲気中での劣化よりも速く劣化する。さらに、酸化は、エネルギーを放出し、それは、ダイヤモンド工具をさらにより高い温度まで加熱する。従って、本明細書で述べる多結晶高[110]配向及び双晶化ダイヤモンドは、機械的用途、熱管理、及びその他の用途において優れている。
【0171】
ウエハ01A227の研磨処理した成長側の平均表面粗度(Ra)及び山対谷(PV)を干渉計で測定したところ、それぞれ33.6オングストローム及び10754オングストロームであった。さらに、ウエハ01A227の研磨処理した核形成側の平均表面粗度(Ra)及び山対谷(PV)を干渉計で測定したところ、それぞれ19.5オングストローム及び11972オングストロームであった(相対的に高いPV値は、この表面上にある程度のダスト粒子が存在していたことに起因し得る)。多結晶ダイヤモンドにおいて、両側の研磨処理した表面で、特に核形成側でそのような低い表面粗度が観察されたことは驚くべきことであり、これは、高[110]配向及び双晶化多結晶ウエハ01A227中のダイヤモンド結晶子の均一性に起因し得るものと考えられる。
【0172】
この例は、例1、5、及び7(以降で述べる)と共に、厚さの異なる高双晶化[110]配向多結晶ダイヤモンドウエハを、機械的、熱的、光学的、検出器、マイクロ波、電磁波管理、音波管理、化学的不活性、摩耗、摩擦制御などであるがこれらに限定されない多くのダイヤモンド用途に有益である類似の特性を伴って、異なるマイクロ波プラズマCVD反応器で良好に作製することができることを実証するものである。
【0173】
例7:3%メタンを用いる1180℃で90時間の別のCVD反応器中での高双晶化[110]配向多結晶ダイヤモンド膜の良好な成長
【0174】
直径160mmの金属タングステン片を、例1で用いたものに類似の別のマイクロ波プラズマCVD反応器16中の基材24として用いた。2400mL/分の水素及び72mL/分のメタンの混合物を、マイクロ波プラズマCVD反応器16に流入させ、メタン濃度は、やはり例1と同じ3%であった。プラズマの点火後、マイクロ波出力及び反応器圧力を、プラズマ20のサイズが金属タングステン基材24の表面全体を覆うように調整した。基材24中央部分のダイヤモンド成長温度は、例えば、基材24と接触させた熱電冷却器を介して、又は基材24を冷却する流体により、基材24を冷却することによって1180℃に制御した。コントロールパイロメータ26を用いて、ダイヤモンド蒸着中の基材の中央部分で成長するダイヤモンド4の温度をモニタリングした。120時間のダイヤモンド成長後、反応を停止し、成長したダイヤモンド4を金属タングステン基材24から分離し、こうして、自立性多結晶ダイヤモンドウエハ、すなわち、
図29の光学イメージに示されるウエハ01A235を作製した。この光学イメージから、ウエハ01A235は、クラックを含んでいなかったことが分かる。
【0175】
ウエハ01A235の平均成長速度は、8.45ミクロン毎時と特定され、最小成長速度は7.28ミクロン毎時、及び最大成長速度は9.56ミクロン毎時であった。上記表4及び
図29のコンタープロットに示されるように、ウエハ01A235の厚さは、均一で、874から1147ミクロンの範囲であり、標準偏差は7.83%であると観察された。
図30A~30Cに示されるように、ウエハ01A234の中央部分におけるダイヤモンド結晶子の形態は、双晶化されており、3つの異なる倍率で、すなわち、最も低い倍率の
図30A、中間倍率の
図30B(
図30A及び
図30Cの倍率の間)、最も高い倍率の
図30Cで、均一な星形状(成長表面から観察)として示される。
図30Dは、柱状のダイヤモンド成長(columnized diamond growth)を有するウエハ01A235の断面の拡大イメージを示す。
【0176】
加えて、
図31A及び31Bに示されるように、多結晶ダイヤモンド01A235中のダイヤモンド結晶子は、高[110]配向されている。ウエハ01A235の成長側の中央部分及び端部分の両方のXRDパターン(
図31Aの円グラフに示されるダイヤモンド結晶子の配向分布の割合によって表される)(
図31Aの左上及び左下の円グラフ)は、95%の[110]配向を示している。同時に、ウエハ01A235の核形成側の中央部分及び端部分の両方(
図31Aの右上及び右下の円グラフ)は、87%及び89%の[110]配向を示している。
【0177】
ウエハ01A235のダイヤモンドの品質を調べるために、ラマン分光分析(
図31B)も用い、ここで、ウエハ01A235の成長側の中央部分は、1332cm
-1のラマンシフトで、4.82cm
-1のFWHMであるシャープなSp
3ダイヤモンドシグネチャピークを示す。ウエハ01A235の成長側の端部分も、同じSp
3ダイヤモンドシグネチャピークを5.09cm
-1のFWHMで示す。天然の単結晶ダイヤモンドも、同じ位置のラマンシフトのピークを、4.04cm
-1のFWHMで示す。
【0178】
例1、5、6、及び7から分かるように、厚さの異なる高双晶化[110]配向多結晶ダイヤモンドウエハを、機械的、熱的、光学的、検出器、マイクロ波、電磁波管理、音波管理、化学的不活性、摩耗、摩擦制御などであるがこれらに限定されない多くのダイヤモンド用途に非常に有益である特性を伴って、異なるCVD反応器中において異なる成長温度で良好に作製することができる。
【0179】
実施形態を、様々な例を参照して記載してきた。上述の例を読み、理解することで、改変及び変更が思い付かれるであろう。例えば、ダイヤモンドウエハの成長方法の例としてマイクロ波プラズマCVDについて記載してきたが、熱フィラメントCVD及びプラズマCVDなどであるがこれらに限定されないその他の適切な及び/又は望ましいいかなるCVD成長法が、ダイヤモンドウエハの成長に用いられてもよいことは想定される。従って、上述の例は、本開示を限定するものとして解釈されてはならない。