(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法及び診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/388 20190101AFI20240122BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240122BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20240122BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240122BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
G01R31/388
H02J7/00 Q
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/42 P
(21)【出願番号】P 2021161867
(22)【出願日】2021-09-30
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513213966
【氏名又は名称】横河ソリューションサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉武 哲
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 浩司
(72)【発明者】
【氏名】数見 昌弘
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-085166(JP,A)
【文献】特開2017-129409(JP,A)
【文献】特開2020-079723(JP,A)
【文献】特開2020-106470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/388
H02J 7/00
G01R 31/392
H01M 10/48
H01M 10/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池セルの測定データから得られる電圧及び積算電流量の関係を示す測定QV曲線と、参照QV曲線との比較結果に基づいて、前記電池セルの容量に関する値を算出する算出部、
を備え、
前記算出部は、
前記測定QV曲線の傾きに、前記測定QV曲線及び前記参照QV曲線の電圧差を乗算することによって、前記電圧差に起因する容量劣化量を算出する第1算出部、
及び、
前記測定QV曲線の傾きと前記参照QV曲線の傾きとの比率に、参照最大容量を乗算することによって、前記参照QV曲線の傾きに対する前記測定QV曲線の傾きの変化に起因する容量劣化後の仮最大容量を算出する第2算出部、
の少なくとも一方を含む、
診断装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記第2算出部によって算出された前記仮最大容量から、前記第1算出部によって算出された前記容量劣化量を減算することによって、前記電池セルの最大容量を算出する最大容量算出部を含む、
請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記電圧差は、前記測定QV曲線及び前記参照QV曲線それぞれの微分曲線の特徴点どうしの電圧差である、
請求項1又は2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記特徴点は、前記微分曲線において最初に出現する極大値であり、
前記傾きは、前記特徴点の電圧以上の電圧での傾きである、
請求項3に記載の診断装置。
【請求項5】
電池セルの測定データから得られる電圧及び積算電流量の関係を示す測定QV曲線と、参照QV曲線との比較結果に基づいて、前記電池セルの容量に関する値を算出すること、
を含む診断方法であって、
前記算出することは、
前記測定QV曲線の傾きに、前記測定QV曲線及び前記参照QV曲線の電圧差を乗算することによって、前記電圧差に起因する容量劣化量を算出すること、
及び、
前記測定QV曲線の傾きと前記参照QV曲線の傾きとの比率に、参照最大容量を乗算することによって、前記参照QV曲線の傾きに対する前記測定QV曲線の傾きの変化に起因する容量劣化後の仮最大容量を算出すること、
の少なくとも一方を含む、
診断方法。
【請求項6】
コンピュータに、
電池セルの測定データから得られる電圧及び積算電流量の関係を示す測定QV曲線と、参照QV曲線との比較結果に基づいて、前記電池セルの容量に関する値を算出する、
処理を実行させる診断プログラムであって、
前記算出する処理は、
前記測定QV曲線の傾きに、前記測定QV曲線及び前記参照QV曲線の電圧差を乗算することによって、前記電圧差に起因する容量劣化量を算出する処理、
及び、
前記測定QV曲線の傾きと前記参照QV曲線の傾きとの比率に、参照最大容量を乗算することによって、前記参照QV曲線の傾きに対する前記測定QV曲線の傾きの変化に起因する容量劣化後の仮最大容量を算出する処理、
の少なくとも一方を含む、
診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断装置、診断方法及び診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電池セルの容量を診断するためのさまざまな手法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池セルの特性を示すものとして、電圧及び積算電流量の関係を示すQV曲線がある。QV曲線から電池セルの容量を診断する手法に検討の余地が残る。
【0005】
本発明は、QV曲線から電池セルの容量を診断することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一側面に係る診断装置は、電池セルの測定データから得られる電圧及び積算電流量の関係を示す測定QV曲線と、参照QV曲線との比較結果に基づいて、電池セルの容量に関する値を算出する算出部、を備え、算出部は、測定QV曲線の傾きに、測定QV曲線及び参照QV曲線の電圧差を乗算することによって、電圧差に起因する容量劣化量を算出する第1算出部、及び、測定QV曲線の傾きと参照QV曲線の傾きとの比率に、参照最大容量を乗算することによって、参照QV曲線の傾きに対する測定QV曲線の傾きの変化に起因する容量劣化後の仮最大容量を算出する第2算出部、の少なくとも一方を含む。
【0007】
一側面に係る診断装置は、電池セルの電圧及び積算電流量の関係を示すQV曲線を近似する関数モデルを用いて、電池セルの容量に関する値を算出する算出部を備え、算出部は、参照QV曲線にフィッティングされた関数モデルを生成する関数モデル生成部と、関数モデル生成部によって生成された関数モデルを電池セルの測定データにフィットさせるフィッティング部と、フィッティング部によるフィッティング後の関数モデルを用いて、電池セルの最大容量を算出する最大容量算出部と、を含む。
【0008】
一側面に係る診断方法は、電池セルの測定データから得られる電圧及び積算電流量の関係を示す測定QV曲線と、参照QV曲線との比較結果に基づいて、電池セルの容量に関する値を算出すること、を含み、算出することは、測定QV曲線の傾きに、測定QV曲線及び参照QV曲線の電圧差を乗算することによって、電圧差に起因する容量劣化量を算出すること、及び、測定QV曲線の傾きと参照QV曲線の傾きとの比率に、参照最大容量を乗算することによって、参照QV曲線の傾きに対する測定QV曲線の傾きの変化に起因する容量劣化後の仮最大容量を算出すること、の少なくとも一方を含む。
【0009】
一側面に係る診断方法は、電池セルの電圧及び積算電流量の関係を示すQV曲線を近似する関数モデルを用いて、電池セルの容量に関する値を算出すること、を含み、算出することは、参照QV曲線にフィッティングされた関数モデルを生成することと、生成した関数モデルを電池セルの測定データにフィットさせることと、フィッティング後の関数モデルを用いて、電池セルの最大容量を算出することと、を含む。
【0010】
一側面に係る診断プログラムは、コンピュータに、電池セルの測定データから得られる電圧及び積算電流量の関係を示す測定QV曲線と、参照QV曲線との比較結果に基づいて、電池セルの容量に関する値を算出する、処理を実行させ、算出する処理は、測定QV曲線の傾きに、測定QV曲線及び参照QV曲線の電圧差を乗算することによって、電圧差に起因する容量劣化量を算出する処理、及び、測定QV曲線の傾きと参照QV曲線の傾きとの比率に、参照最大容量を乗算することによって、参照QV曲線の傾きに対する測定QV曲線の傾きの変化に起因する容量劣化後の仮最大容量を算出する処理、の少なくとも一方を含む。
【0011】
一側面に係る診断プログラムは、コンピュータに、電池セルの電圧及び積算電流量の関係を示すQV曲線を近似する関数モデルを用いて、電池セルの容量に関する値を算出する、処理を実行させ、算出する処理は、参照QV曲線にフィッティングされた関数モデルを生成する処理と、生成した関数モデルを電池セルの測定データにフィットさせる処理と、フィッティング後の関数モデルを用いて、電池セルの最大容量を算出する処理と、を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、QV曲線から電池セルの容量を診断することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】電池セルの電圧及び電流を模式的に示す図である。
【
図3】容量劣化とQV曲線との関係の例を示す図である。
【
図5】実施形態に係る診断装置の概略構成の例を示す図である。
【
図7】参照QV曲線及び測定QV曲線の例を示す図である。
【
図9】別の種類の電池セルの参照QV曲線及び測定QV曲線の例を示す図である。
【
図12】算出部の概略構成の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ実施形態について説明する。同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0015】
<序>
開示される技術は、リチウムイオン電池等の蓄電池、より具体的には電池セルや蓄電池システムの容量劣化の診断に関する。電池セルは、扱うことのできる蓄電池の最小単位を示す。電池セルは、単に蓄電池と呼ぶこともでき、矛盾の無い範囲において適宜読み替えられてよい。蓄電池システムは、複数の電池セルが並列や直列に接続された構成を備える。
【0016】
図1は、電池セルの電圧及び電流を模式的に示す図である。電池セルの電圧を、電池電圧Vと称し図示する。電池セルの電流を、電池電流Iと称し図示する。電池セルの特性は、例えばQV曲線によって表される(QV特性)。QV曲線は、電池電圧V及び積算電流量の関係を示す曲線である。積算電流量は、クーロンカウンティンによる容量(Q)に対応し、単位はAhである。
【0017】
図2は、QV曲線の例を示す図である。グラフの横軸は積算電流量(Ah)を示し、縦軸は電圧(V)を示す。実線グラフ線で示されるように、電池電圧Vは、充放電に応じて、すなわち積算電流量に応じて変化する。電池セルは、定められた範囲内の電池電圧Vで使用される。その範囲内の最小電圧を、下限電圧V
LLと称し図示する。最大電圧を、上限電圧V
ULと称し図示する。
【0018】
電池電圧Vが下限電圧VLLのとき、電池セルのSOC(State Of Charge)は0%(完放電状態)である。電池電圧Vが上限電圧VULのとき、SOCは100%(満充電状態)である。電池セルDUTの最大容量は、上限電圧VULから下限電圧VLLにまで電池セルを放電させたとき、又は、下限電圧VLLから上限電圧VULまで電池セルを充電させたときの積算電流量に相当する。任意の時点での電池電圧Vを、電池電圧VCと称し図示する。電池電圧VCでの残存容量は、下限電圧VLLから電池電圧VCまで電池セルを充電させたとき、又は、電池電圧VCから下限電圧VLLまで電池セルを放電させたときの積算電流量に相当する。
【0019】
図3は、容量劣化とQV曲線との関係の例を示す図である。容量劣化の進行状態の異なる7通りのQV曲線が、グラフ線C1~グラフ線C7として例示される。グラフ線C1~グラフ線C7の順に、電池セルの容量劣化が進んでいる。理解されるように、電池セルの容量劣化は、とくに電池電圧Vが上限電圧V
ULに到達するときの積算電流量が小さくなることによって生じる。グラフ線C1及びグラフ線C7の対比で述べると、グラフ線C1に対応する最大容量が劣化前の最大容量であり、グラフ線C7に対応する最大容量が劣化後の最大容量である。
【0020】
QV曲線の微分曲線も、電池セルの特性を示す。微分曲線は、積算電流量を電池電圧Vで微分した曲線(dQ/dV)、又は、電池電圧Vを積算電流量で微分した曲線(dV/dQ)を指し示す。
【0021】
図4は、微分曲線の例を示す図である。この例では、グラフの横軸は電圧(V)を示し、縦軸は(dQ/dV)を示す。グラフ線C1~グラフ線C7は、上述の
図3のグラフ線C1~グラフ線C7の微分曲線に対応する。微分曲線には、いくつかの特徴点が存在する。特徴点の例は、極値(極大値、極小値)である。以下、とくに説明がある場合を除き、特徴点は、電池セルの使用範囲内での微分曲線において最初に出現する極大値であるものとする。
【0022】
電池セルを長期間使用すると、容量劣化が進み、最大容量の減少が顕在化するので、電池セルの容量の診断が必要になる。複数の電池セルを含む蓄電池システムについても同様である。例えば複数の電池セルが直列接続された蓄電池システムにおいては、個々の電池セルの残存容量や最大容量が一致している状態(バランス状態)であれば問題ないが、バランス状態が崩れると、蓄電池システムとして利用できる有効容量すなわち蓄電池システム全体の容量が減ってしまう。例えば、
図2に実線のグラフ線で表される電池電圧Vの電池セルと、一点鎖線のグラフ線で表される電池電圧V
Xの電池セルとが直列接続されている蓄電池システムを考える。2つの電池セルの残存容量が異なっており、バランスが崩れている。蓄電池システムは、2つの電池セルそれぞれの電圧が下限電圧V
LL~上限電圧V
ULの範囲内となるように使用される。この場合、電池電圧Vの電池セルは下限電圧V
LLまでは使用できず、また、電池電圧V
Xの電池セルは上限電圧V
ULまでは使用できない。電池セルの使用範囲が狭くなり、蓄電池システム全体の容量が減少する。
【0023】
蓄電池は、その構成材料によって、初期充放電特性や容量劣化時の特性変化に違いがある。例えば、三元系と称されるNi-Mn-Coの酸化物を正極材に使ったリチウムイオン電池は、その三元素の配合比や添加する物質によって充放電特性に違いが出る。また電池電圧Vは負極と正極特性の電位差の出力であるため、負極特性の違いでも特性は変化する。
【0024】
このように構成材料によって様々な特性を持つ電池セルに対して、各メーカの各構成材料に対応した電池セル特性を把握するアルゴリズムを開発するのは膨大な時間を要する。開示される技術によれば、リチウムイオン電池を例に挙げて説明すると、電池セルの容量劣化を、(1)充放電動作および充電状態での放置によるLiの負極内での固定化等に由来する劣化によって発生する正極電位と負極電位の初期設計値からのズレと、(2)活物質固定化等による失活要因の容量減少、の2つの要因から把握し、材料依存性の少ない電池セルの容量の診断を可能にする。フル充放電を要しない診断も可能であり、診断時間の短縮につながる。例えば、電気自動車やハイブリッド車等で使用された後の電池セルや蓄電池システムに対して性能評価を行いリユースに使うか、材料取り出しのリサイクルに回すか等の判断のもととなる診断時間の短縮が可能である。
【0025】
<実施形態>
図5は、実施形態に係る診断装置の概略構成の例を示す図である。診断装置1の診断対象となる電池セルを、電池セルDUTと称し図示する。この例では、電池セルDUTは、充放電装置8に接続される。充放電装置8は、例えば、所望の充放電レートで、電池セルDUTを充放電させる。後述の原理により、充放電は、一部の電圧範囲(積算電流量の範囲、SOCの範囲)だけで足りる。
【0026】
診断装置1は、電圧検出部2と、電流検出部3と、記憶部4と、算出部5と、出力部6とを含む。電圧検出部2は、電池セルDUTの電池電圧Vを検出する。電圧検出部2は、例えば図示しない電圧計の測定結果を取得するように構成される。電圧計は、電圧検出部2に含まれてもよい。電圧検出部2の検出結果は、記憶部4に記憶される。電流検出部3は、電池セルDUTの電池電流Iを検出する。電流検出部3は、例えば図示しない電流計の測定結果を取得するように構成される。電流計は、電流検出部3に含まれてもよい。電流検出部3の検出結果は、記憶部4に記憶される。
【0027】
記憶部4は、診断装置1において実行される処理に必要な種々の情報を記憶する。記憶される情報として、参照データ41、測定データ42及び診断プログラム43が例示される。
【0028】
参照データ41は、電池セルDUTの容量劣化の基準となる(比較対象となる)データであり、例えばQV曲線に対応するデータを含む。参照データ41は、容量劣化が進む前の電池セルDUTの実測値に基づくデータであってもよいし、電池セルDUTの設計値やシミュレーション値に基づくデータであってもよい。参照データ41は、所定の温度や充放電レートでの測定データであってよい。
【0029】
測定データ42は、電池セルDUTのQV曲線の少なくとも一部に対応するデータである。測定データ42は、上述の電圧検出部2及び電流検出部3の検出結果に基づくデータである。測定データ42は、上述の参照データ41と実質的に同じ温度や充放電レートでの測定データであってよい。なお、温度は、例えば図示しない温度センサによって検出され把握される。電池セルDUTのQV曲線における積算電流量は、電流検出部3によって検出された電池電流Iを積算することによって得られる。
【0030】
診断プログラム43は、診断装置1の処理、例えば後述の算出部5や出力部6による処理(算出処理、出力処理等)をコンピュータに実行させるプログラムである。診断装置1の少なくとも一部の機能は、例えば、汎用のコンピュータを診断プログラム43に従って動作させることによって実現される。コンピュータは、例えば、バス等で相互に接続される通信装置、表示装置、記憶装置、メモリ及びプロセッサ等を含んで構成される。プロセッサが、診断プログラム43を記憶装置等から読み出してメモリに展開することで、コンピュータを、診断装置1として機能させる。なお、診断プログラム43は、インターネットなどのネットワークを介して配布されてもよい。診断プログラム43は、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。なお、当然ながら、汎用のコンピュータではなく、診断プログラム43に従って動作する専用のハードウェアが用いられてもよい。
【0031】
算出部5は、電池セルDUTの容量に関する値を算出する。一実施形態において、算出部5は、測定データ42から得られるQV曲線と、参照データ41から得られるQV曲線との比較結果に基づいて、電池セルDUTの容量に関する値を算出する。測定データ42から得られるQV曲線を、「測定QV曲線」とも称する。測定QV曲線は、容量劣化後のQV曲線ともいえる。参照データ41から得られるQV曲線を、「参照QV曲線」とも称する。参照QV曲線は、容量劣化前のQV曲線ともいえる。
【0032】
図6は、算出部の概略構成の例を示す図である。算出部5は、機能ブロックとして、第1算出部51と、第2算出部52と、最大容量算出部53とを含む。具体的な算出手法について、
図7及び
図8を参照して説明する。
【0033】
図7は、参照QV曲線及び測定QV曲線の例を示す図である。グラフ線C
refは、参照QV曲線を示す。グラフ線C
DUTは、測定QV曲線を示す。下限電圧V
LLは例えば約2.8Vであり、上限電圧V
ULは例えば約4.2Vである。グラフ線C
refとグラフ線C
DUTとを比較すると、電池セルDUTの容量劣化の要因は、2つに分けて説明することができる。
【0034】
第1の要因は、電池電圧Vの大きさの変化(縦軸方向における電池電圧Vのシフト)である。電池電圧Vが大きくなることで、上限電圧VULへの到達が早まり、最大容量が減少する。例えばリチウムイオン電池であれば、電池セルの充放電動作及び充電状態での放置によるLiの負極内での固定化等に由来する劣化によって発生する正極電位と負極電位の初期設計値からのズレが、電池電圧Vのシフトとして現れる。
【0035】
第2の要因は、電池電圧Vの傾きの変化である。傾きが大きくなることで、上限電圧V
ULへの到達が早まり、最大容量が減少する。活物質固定化等による失活要因の容量減少が、電池電圧Vの傾き変化として現れる。
図7にも表れるように、三元系等複数の容量保持電位をもった材料を複合的に使った電池セルの場合は、積算電流量の増加に伴い電池電圧Vは比較的単調に増加する。このような特性の電池セルが失活や電極構造の部分的破壊による容量劣化した際、積算電流量に対する電池電圧Vの増加の程度すなわち傾きが大きくなる。少しの積算電流量でも電池電圧Vが大きく変化するようになる
【0036】
第1算出部51は、上述の第1の要因(正負極電位ズレ)、すなわち測定QV曲線(グラフ線CDUT)及び参照QV曲線(グラフ線Cref)の電圧差に起因する容量の劣化量を算出する。この容量の劣化量を、「容量劣化量ΔQ」と称する。電圧差を、「電圧差ΔV」と称する。例えば、第1算出部51は、測定QV曲線及び参照QV曲線それぞれの微分曲線の特徴点の電圧どうしの差を、電圧差ΔVとして算出する。
【0037】
図8は、微分曲線の例を示す図である。グラフ線C
ref及びグラフ線C
DUTは、
図7のグラフ線C
ref及びグラフ線C
DUTの微分曲線に対応する。この例では、2つの微分曲線において最初に出現する極大値の電圧どうしの差が、電圧差ΔVとして算出される。なお、極大値は、最大値を含む意味に解されてよい。
【0038】
第1算出部51は、QV曲線の傾き、より具体的には電池電圧Vに対する積算電流量の傾き(dQ/dV)に、電圧差ΔVを乗算することによって、電圧差ΔVに起因する容量劣化量ΔQを算出する。例えば下記の式(1)が用いられる。ここでの乗算に用いられる傾き(dQ/dV)は、電池電圧Vが特徴点の電圧以上の電圧での傾きであってよい。上限電圧V
UL付近の領域での傾きが用いられてよく、例えば上限電圧V
ULが4.2V、電圧差ΔVが0.05Vであれば、4.15V~4.2Vの間の平均の傾きが用いられてよい。
【数1】
【0039】
第2算出部52は、上述の第2の要因(失活)、すなわち参照QV曲線の傾きに対する測定QV曲線の傾きの変化に起因する容量劣化後の最大容量を算出する。ここでの最大容量は、第2の要因のみを考慮した仮の最大容量であるので、「仮最大容量QDUT」と称する。
【0040】
具体的に、再び
図7を参照すると、第2算出部52は、参照QV曲線(グラフ線C
ref)及び測定QV曲線(グラフ線C
DUT)それぞれについて、積算電流量に対する電池電圧Vの傾き(dV/dQ)を算出する。ここで算出される傾きは、電池電圧Vが特徴点の電圧以上の電圧での傾きであってよい。SOCが比較的高い電圧範囲(例えば約3.8V~約4.0V)での傾き(dV/dQ)が算出されてよい。これは、例えば負極がグラファイトの場合、高SOC側に負極の容量保持能力に優れた領域(ステージ1、ステージ2等とも呼ばれる領域)が寄与し、高SOC側の劣化では正極活物質の失活が見えやすくなると考えられるからである。
【0041】
図7において、算出された参照QV曲線(グラフ線C
ref)の傾きを有する直線が、(dV/dQ)
refとして破線で示される。算出された測定QV曲線(グラフ線C
DUT)の傾きにを有する直線が、(dV/dQ)
DUTとして破線で示される。
【0042】
第2算出部52は、算出した測定QV曲線の傾きと参照QV曲線の傾きとの比率に、参照最大容量Q
refを乗算することによって、仮最大容量Q
DUTを算出する。例えば下記の式(2)が用いられる。参照最大容量Q
refは、参照QV曲線から得られる最大容量であり、劣化前の電池セルDUTの最大容量に相当する。
【数2】
【0043】
最大容量算出部53は、第2算出部52によって算出された仮最大容量Q
DUTから、第1算出部51によって算出された容量劣化量ΔQを減算することによって、電池セルDUTの最大容量Q
DUTMAXを算出する。例えば下記の式(3)が用いられる。こうして算出された最大容量Q
DUTMAXは、上述の第1の要因(正負極電位ズレ)及び第2の要因(失活)の両方の要因が考慮された最大容量である。
【数3】
【0044】
第1算出部51、第2算出部52及び最大容量算出部53による算出に必要な測定データ42は、電池セルDUTのQV曲線の一部のデータで足りる。上記の例では、特徴点付近の電圧範囲(例えば3.4V~3.6V等)、及び、上限電圧VUL付近の電圧範囲(例えば4.15V~4.2V等)の測定データがあれば、容量劣化量ΔQ、仮最大容量QDUT及び最大容量QDUTMAXが算出可能である。それらの範囲以外の測定を行わないことで、診断時間を短くすることができる。
【0045】
図5に戻り、出力部6は、算出部5の算出結果を、電池セルDUTの容量の診断結果として出力する。出力の例は、ユーザへの提示(表示等)、図示しない外部サーバ装置へのデータ送信等である。例えば、出力部6は、最大容量算出部53によって算出された電池セルDUTの最大容量Q
DUTMAXを出力する。参照最大容量Q
refからの減少量(Qref-Q
DUTMAX)が出力されてもよい。診断終了時の電池セルDUTの電池電圧Vから算出される残存容量が出力されてもよい。
【0046】
また、出力部6は、第1算出部51によって算出された容量劣化量ΔQや、第2算出部52によって算出された仮最大容量QDUTを出力してもよい。容量劣化量ΔQは、第1の要因(正負極電位ずれ)に起因する容量劣化量である旨とともに表示等されてよい。仮最大容量QDUTは、第2の要因(失活)に起因する容量劣化だけを考慮した仮の容量劣化量である旨とともに表示されてよい。劣化要因の把握に資することができる。
【0047】
例えば以上のようにして、電池セルDUTの容量を診断することができる。なお、電池セルには、充電末期に電池電圧Vが大きく上昇するような電池セルも存在する。そのような種類の電池セルでも、上述の算出手法は適用可能である。これについて、
図9及び
図10を参照して説明する。
【0048】
図9は、別の種類の電池セルの参照QV曲線及び測定QV曲線の例を示す図である。
図10は、微分曲線の例を示す図である。上限電圧V
UL付近すなわち充電末期で電池電圧Vが大きく上昇する。この場合でも、これまで説明した手法と同様に、電池電圧Vに対する積算電流量の傾き(dQ/dV)に電圧差ΔVを乗算することによって容量劣化量ΔQを算出することができる。測定QV曲線の傾き(dV/dQ)
DUTと参照QV曲線の傾き(dV/dQ)
refとの比率に、参照最大容量Q
refを乗算することによって、仮最大容量Q
DUTを算出することができる。最大容量Q
DUTMAXを算出することもできる。
【0049】
なお、上記では、微分曲線が、積算電流量を電池電圧Vで微分した曲線(dQ/dV)である例について説明した。ただし、先にも述べたように、微分曲線は、電池電圧Vを積算電流量で微分した曲線(dV/dQ)であってもよい。
【0050】
図11は、微分曲線の別の例を示す図である。例示される微分曲線は、電池電圧Vを積算電流量で微分した曲線(dV/dQ)である。容量劣化の進行状態の異なる5通りの微分曲線が、グラフ線C11~グラフ線C15として例示される。グラフ線C11~グラフ線C15の順に、電池セルの容量劣化が進んでいる。このような微分曲線にも特徴点(例えば最初に出現する極大値)が存在する。従って、電圧差ΔVを算出することができる。
【0051】
上記の算出部5による算出手法とは別の算出手法について、
図12及び
図13を参照して説明する。
図12は、算出部の概略構成の別の例を示す図である。例示される算出部5Aは、電池セルDUTのQV曲線を近似する関数モデルを用いて、電池セルDUTの容量に関する値を算出する。そのための機能ブロックとして、算出部5Aは、関数モデル生成部54と、フィッティング部55と、最大容量算出部56とを含む。
【0052】
図13は、別の算出手法を説明するための図である。
図13の(A)に示されるように、関数モデル生成部54は、参照QV曲線にフィッティングされた関数モデルV
refを生成する。関数モデルV
refは、参照QV曲線の一部を近似する関数モデルあってよい。この例では、関数モデルV
refは、参照QV曲線のうち、矢印AR1で示される線形領域及び矢印AR2で示される非線形領域に対応する部分を近似する。なお、近似範囲外の領域のグラフ線は一点鎖線で示される。線形領域は、電池電圧Vが積算電流量に対して概ね線形に変化する領域であり、特徴点の電圧以上の電圧の領域であってよい。非線形領域は、電池電圧Vが積算電流量に対して非線形に変化する領域であり、線形領域よりも高電圧側(高SOC側)の領域である。線形領域と非線形領域の境界の電池電圧Vを、閾値電圧V
ref_thと称し図示する。関数モデルV
refは、特徴点の電圧(閾値電圧V
ref_th)以上の電圧での関数モデルともいえる。
【0053】
例示される関数モデルV
refは、線形領域ではV
ref=f
ref(I
ref)となり、非線形領域ではV
ref=f
ref(I
ref)+g
ref(I
ref)となるように定められる。I
refは、
図13の(A)のグラフにおける積算電流量である。関数f
ref(I
ref)は、例えば、積算電流量I
refを変数とする1次関数である。関数g
ref(I
ref)は、例えば、積算電流量I
refを変数とする指数関数や多次関数である。関数f
ref(I
ref)及び関数g
ref(I
ref)のパラメータ(係数等)は、参照QV曲線(グラフ線C
ref)の対応する部分を近似するように調整される。近似調整には、最小二乗法等の一般的な手法が用いられてよい。
【0054】
フィッティング部55は、関数モデル生成部54によって生成された関数モデルV
refを、測定データ42にフィットさせる。関数モデルV
refのパラメータが、測定データ42を近似するように調整される。
図13の(B)及び(C)において、フィッティング後の関数モデルV
refが、関数モデルV
DUTとして示される。関数モデルV
DUTは、電池セル
DUTのQV曲線を近似する関数モデルである。なお、近似範囲外の領域のグラフ線は一点鎖線で示される。
図13の(B)のグラフは、
図13の(A)のグラフとの横軸の関係を把握しやすい位置に描かれている。
図13の(C)のグラフは、
図13の(A)のグラフとの縦軸の関係を把握し易い位置に描かれている。関数モデルV
DUTにおける線形領域と非線形領域の境界の電池電圧Vを、閾値電圧V
DUT_thと称し図示する。関数モデルV
DUTは、閾値電圧V
DUT_th以上の電圧での関数モデルともいえる。
【0055】
この例では、関数モデルV
DUTは、関数f
DUT(I
DUT)及び関数g
DUT(I
DUT)を用いて表される。I
DUTは、
図13の(B)及び(C)のグラフにおける積算電流量である。関数f
DUT(I
DUT)は、上述の関数f
ref(I
ref)のパラメータを調整した関数である。関数g
DUT(I
DUT)は、上述の関数g
ref(I
ref)のパラメータを調整した関数である。
【0056】
フィッティング部55によるフィッティングに必要な測定データ42は、電池セルDUTのQV曲線の一部のデータで足りる。
図13の(B)には、必要な測定データ42の範囲として、範囲R1及び範囲R2が例示される。範囲R1は、特徴点及びその周辺を含む範囲である。範囲R2は、線形領域と非線形領域との境界及びその周辺を含む範囲である。これら範囲R1及び範囲R2の測定データがあれば、線形領域及び非線形領域に対応する関数f
DUT(I
C)及び関数g
DUT(I
C)をフィッティングさせることが可能である。
【0057】
最大容量算出部56は、フィッティング部55によるフィッティング後の関数モデルV
refすなわち関数モデルV
DUTを用いて、電池セルDUTの最大容量Q
DUTMAXを算出する。関数モデルV
DUTに示される電池電圧Vが上限電圧V
ULとなる積算電流量I
Cが、求めたい最大容量となり得る。ただし、
図13の(A)及び(C)から理解されるように、関数モデルV
refの横軸と、関数モデルV
DUTの横軸とが一致していない。この横軸のずれを補正することで(横軸を揃えることで)、最大容量Q
DUTMAXを算出することができる。
【0058】
ここで、低SOC領域の特徴点での残存容量(Ah)は、充電時は電池エネルギー吸収に伴う最初に起こる反応であるため、容量劣化が進む前の電池セルと進んだ後の電池セルとで同量であると近似(仮定)する。この場合、関数モデルVDUTの微分曲線の特徴点の位置を、関数モデルVrefの微分曲線の特徴点の位置に揃えればよい。
【0059】
関数モデルVrefの特徴点での積算電流量を、積算電流量I1と称し図示する。積算電流量I1は、例えば参照データ41のうちの範囲R1の測定データから算出された微分曲線(dQ/dV)の特徴点の電圧に対応する積算電流量として算出される。関数モデルVDUTの特徴点での積算電流量を、積算電流量I2と称し図示する。積算電流量I2は、例えば測定データ42のうちの範囲R1の測定データから算出された微分曲線(dQ/dV)の特徴点の電圧に対応する積算電流量として算出される。関数モデルVrefの横軸と関数モデルVDUTの横軸の差をΔIとすると、ΔI=I2-I1となる。関数モデルVDUTにおける積算電流量IDUTからΔIを減算することにより、横軸を補正することができる。
【0060】
最大容量算出部56による算出は、関数モデルVref及び関数モデルVDUTそれぞれの微分曲線の特徴点の位置が揃うように補正することを含む。具体的に、最大容量算出部56は、非線形領域での関数モデルVDUTすなわちfDUT(IDUT)+gDUT(IDUT)が上限電圧VULと等しくなる積算電流量IDUTを算出し、さらに、ΔIで補正した値(IDUT-ΔI)を、最大容量QDUTMAXとして算出する。これにより、横軸のずれを考慮した適切な最大容量が算出される。
【0061】
最大容量算出部56は、最大容量Q
DUTMAX限らず、関数モデルV
DUTやこれの微分曲線を用いて、容量に関するさまざまな値を算出してよい。例えば、
図13の(C)に示されるように電圧差ΔVを算出できるので、第1の要因(正負極の電位ズレ)に起因する容量劣化量ΔQが算出できる。第2の要因(失活)に起因する容量劣化後の仮最大容量Q
DUTも算出できる。算出部5Aの算出結果も、先に説明した算出部5の算出結果と同様に、出力部6によって出力されてよい。
【0062】
これまでは、充放電装置8に接続された電池セルDUTの容量が診断される例について説明した。この場合、診断対象の電池セルDUTの使用の中断等が必要になる。より実用的な観点から、蓄電池システムに組み入れられて使用されている(オペレーション中の)電池セルDUTの容量の診断を行えるようにすることが望ましい。
【0063】
一般的な蓄電池システムにおいて最大容量を実測することは、さまざまな理由から困難である。例えば、実際の蓄電池システムは、余裕を持たせたり寿命を長くしたりするために、SOCが0~100%の範囲で使用してはいない。系統安定化など常時使用する蓄電池システムでは、フル充放電する期間を設けることが困難である。フル充放電するには1Cの充放電レートであれば2時間、0.2Cの充放電レートであれば10時間と時間がかかる。複数の電池セルが直列に接続された蓄電池システムでは、電池セルのバランスが崩れていると各電池セルをフル充放電することができないため、個々の電池セルの最大容量を実測することができない。
【0064】
以上のようなことから、実際の蓄電池システムでは、最大容量は以下の手法により表示されているが、それぞれ課題がある。例えば、稼働時間や充放電サイクル数などの条件に応じて統計処理的に減衰させる手法があるが、想定外の電池セルがあった場合に実際と一致しない。あらかじめマージンをもって最大容量を設定しておく手法があるが、電池セルが有効に使用されない。定期的にフル充放電を行い最大容量を実測して反映する手法が用いられることがあるが、蓄電池システムが利用できない場合がある。個々の電池セルのばらつきによる実行容量減少の要因は加味できない。
【0065】
図14は、診断装置の概略構成の例を示す図である。例示される診断装置1Aは、蓄電池システム9に含まれる複数の電池セルDUTの容量を診断することによって、蓄電池システム9の容量を診断する。この例では、蓄電池システム9は、直列に接続された複数の電池セルDUTを含む。蓄電池システム9は、組電池やESS(エネルギーストレージシステム)等とも称される。蓄電池システム9には、電圧検出部2A及び電流検出部3も含まれ得る。
【0066】
診断装置1Aは、電圧検出部2Aと、電流検出部3と、記憶部4Aと、算出部5と、出力部6Aと、補完部7とを含む。電圧検出部2A及び電流検出部3が蓄電池システム9の構成要素であり診断装置1Aがそれらを利用する場合には、診断装置1A自体が電圧検出部2A及び電流検出部3を備える必要は無い。なお、算出部5は、算出部5Aであってもよい。
【0067】
電圧検出部2Aは複数の電池セルDUTそれぞれの電池電圧Vを検出する。電流検出部3は、電池電流Iを検出する。各電池セルDUTが直列に接続されているので、電池電流Iは各電池セルDUTに共通の電流である。電圧検出部2A及び電流検出部3によって検出される電池電圧V及び電池電流Iは、オペレーション中の電池電圧V及び電池電流Iである。
【0068】
記憶部4Aは、診断装置1Aにおいて実行される処理に必要な種々の情報を記憶する。記憶される情報として、参照データ41、測定データ42A及び診断プログラム43Aが例示される。参照データ41については先に説明したとおりであるので説明は繰り返さない。測定データ42Aは、複数の電池セルDUTそれぞれのQV特性に関するデータ、例えばQV曲線の少なくとも一部に対応するデータである。診断プログラム43Aは、診断装置1Aの処理をコンピュータに実行させるプログラムである。
【0069】
先に補完部7について説明する。補完部7は、必要に応じて、測定データ42Aを補完する。測定データ42Aがオペレーション中の電池電圧V及び電池電流Iの検出結果に限られるので、算出部5による算出に必要な測定データが不足する場合がある。そのような場合に、補完部7による補完が行われる。補完の手法はとくに限定されないが、例えば直線補間、多次式による補完等が用いられてよい。なお、補完部7によって補完された後の測定データ42Aも、引き続き測定データ42Aと称する。
【0070】
算出部5は、記憶部4Aに記憶された参照データ41及び測定データ42Aを用いて、複数の電池セルDUTそれぞれの容量に関する値を算出する。算出部5Aの場合も同様である。詳細な先に説明したとおりであるので、説明は繰り返さない。
【0071】
出力部6Aは、算出部5(又は算出部5A)の算出結果を、蓄電池システム9の容量の診断結果として出力(表示等)する。例えば、出力部6Aは、複数の電池セルDUT全体の最大容量すなわち蓄電池システム9の容量を出力したり、蓄電池システム9における各電池セルDUTのバランス状態を出力したりする。先に説明した出力部6(
図5)と同様に、各電池セルDUTの最大容量Q
DUTMAX、容量の減少量(Q
ref-Q
DUTMAX)、残存容量、容量劣化量ΔQ等を出力することも可能である。
【0072】
以上、開示される技術のいくつかの実施形態について説明した。開示される技術は、上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態では、算出部5(
図5及び
図6)が、第1算出部51、第2算出部52及び最大容量算出部53の3つの機能ブロックを含む例について説明した。ただし、これらの機能ブロックのすべてが算出部5に含まれる必要はない。例えば、算出部5は、第1算出部51及び第2算出部52の少なくとも一方を含むだけでもよい。第1算出部51によって容量劣化量ΔQを算出するだけでも、電池セルの容量を診断につながる。第2算出部52によって仮最大容量Q
DUTを算出するだけでも、電池セルの容量を診断につながる。
【0073】
上記では、主に、診断装置1等の装置の形態、また、診断プログラム43等のプログラムの側面から実施形態を説明した。ただし、装置やプログラムによって実現される各種の処理すなわち診断方法も、実施形態の1つである。
【0074】
以上で説明した技術は、例えば次のように特定される。開示される技術の1つは、診断装置である。
図5~
図11等を参照して説明したように、診断装置1は、電池セルDUTの測定データ42から得られる電圧(電池電圧V)及び積算電流量の関係を示す測定QV曲線と、参照QV曲線との比較結果に基づいて、電池セルDUTの容量に関する値を算出する。算出部5は、第1算出部51及び第2算出部52の少なくとも一方を含む。第1算出部51は、測定QV曲線の傾き(dQ/dV)に、測定QV曲線及び参照QV曲線の電圧差ΔVを乗算することによって、電圧差ΔVに起因する容量劣化量ΔQを算出する。第2算出部52は、測定QV曲線の傾き(dV/dQ)
DUTと前記参照QV曲線の傾き(dV/dQ)
refとの比率に、参照最大容量Q
refを乗算することによって、参照QV曲線の傾きに対する測定QV曲線の傾きの変化に起因する容量劣化後の仮最大容量Q
DUTを算出する。
【0075】
上記の診断装置1によれば、QV曲線から電池セルDUTの容量を診断することができる。例えば、容量劣化量ΔQの算出により、正負極の電位ずれ(第1の要因)に起因する容量劣化を診断することができる。仮最大容量QDUTの算出により、失活(第2の要因)に起因する容量劣化を診断することができる。このような算出手法は、構成材料によって初期充放電特性や容量劣化時の特性変化に違いのある電池セルにおいて、その材料の種類毎に特化したアルゴリズムではなく、汎用的に適用できるアルゴリズムである。各電池メーカの各構成材料に対応した電池セル特性を把握するアルゴリズムを短期間に開発でき、そのための開発予算も削減できる。
【0076】
加えて、先に
図7及び
図8を参照して説明したように、算出に必要な測定データ42は、電池セルDUTのQV曲線の一部のデータで足りるので、診断時間を短くすることができる。例えば、電気自動車やハイブリッド車等で使用された後の電池セルや蓄電池システムに対して性能評価を行いリユースに使うか、材料取り出しのリサイクルに回すか等の判断のもととなる診断時間の短縮が可能である。
【0077】
算出部5は、第2算出部52によって算出された仮最大容量QDUTから、第1算出部51によって算出された容量劣化量ΔQを減算することによって、電池セルDUTの最大容量QDUTMAXを算出する最大容量算出部53を含んでよい。このようにして、正負極の電位ずれ及び失活の2つの要因が考慮された適切な最大容量QDUTMAXを算出、すなわち電池セルDUTの最大容量を適切に診断することができる。
【0078】
電圧差ΔVは、測定QV曲線及び参照QV曲線それぞれの微分曲線の特徴点どうしの電圧差であってよい。例えばこのようにして電圧差ΔVを算出することができる。
【0079】
特徴点は、微分曲線において最初に出現する極大値であり、上述の傾きは、特徴点の電圧以上の電圧での傾きであってよい。例えばこのような特徴点及び傾きに基づいて、容量劣化量ΔQや仮最大容量QDUT、さらには最大容量QDUTMAXを算出することができる。
【0080】
図12及び
図13等を参照して説明したように、別の算出手法では、算出部5Aは、QV曲線を近似する関数モデルV
DUTを用いて、電池セルDUTの容量に関する値を算出する。算出部5Aは、関数モデル生成部54と、フィッティング部55と、最大容量算出部56とを含む。関数モデル生成部54は、参照QV曲線にフィッティングされた関数モデルV
refを生成する。フィッティング部55は、関数モデル生成部54によって生成された関数モデルV
refを電池セルDUTの測定データ42にフィットさせる。最大容量算出部56は、フィッティング部55によるフィッティング後の関数モデルV
DUTを用いて、電池セルDUTの最大容量Q
DUTMAXを算出する。算出部5Aによっても、上述の算出部5による効果と同様の効果が奏される。
【0081】
最大容量算出部56による算出は、フィッティング部55によるフィッティング前後の関数モデルVref及び関数モデルVDUTそれぞれの微分曲線の特徴点の位置を揃えることを含んでよい。関数モデルVref及び関数モデルVDUTの軸を一致させたうえで、適切な最大容量QDUTMAXを算出することができる。
【0082】
特徴点は、微分曲線において最初に出現する極大値であり、関数モデルVref及び関数モデルVDUTは、特徴点の電圧以上の電圧での関数モデルであってよい。例えばこのような特徴点及び関数モデルに基づいて、最大容量QDUTMAXを算出することができる。
【0083】
診断装置1による電池セルや蓄電池システムの診断方法も、開示される技術の1つである。診断方法は、電池セルDUTの測定データ42から得られる電圧(電池電圧V)及び積算電流量の関係を示す測定QV曲線と、参照QV曲線との比較結果に基づいて、電池セルDUTの容量に関する値を算出すること、を含む。算出することは、測定QV曲線の傾き(dQ/dV)に、測定QV曲線及び前記参照QV曲線の電圧差ΔVを乗算することによって、電圧差ΔVに起因する容量劣化量ΔQを算出すること、及び、測定QV曲線の傾き(dV/dQ)DUTと参照QV曲線の傾き(dV/dQ)refとの比率に、参照最大容量Qrefを乗算することによって、参照QV曲線の傾きに対する測定QV曲線の傾きの変化に起因する容量劣化後の仮最大容量QDUTを算出すること、の少なくとも一方を含む。上述の診断装置1による効果と同様の効果が奏される。
【0084】
診断装置1Aによる電池や蓄電池システムの診断方法も、開示される技術の1つである。診断方法は、電池セルDUTの電圧(電池電圧V)及び積算電流量の関係を示すQV曲線を近似する関数モデルVDUTを用いて、電池セルDUTの容量に関する値を算出する、事を含む。算出することは、参照QV曲線にフィッティングされた関数モデルVrefを生成することと、生成した関数モデルVrefを電池セルDUTの測定データ42にフィットさせることと、フィッティング後の関数モデルVDUTを用いて、電池セルDUTの最大容量QDUTMAXを算出することと、を含む。上述の診断装置1Aによる効果と同様の効果が奏される。
【0085】
図5等を参照して説明した診断プログラム43も、開示される技術の1つである。診断プログラム43は、コンピュータに、電池セルDUTの測定データ42から得られる電圧(電池電圧V)及び積算電流量の関係を示す測定QV曲線と、参照QV曲線との比較結果に基づいて、電池セルDUTの容量に関する値を算出する、処理を実行させる。算出する処理は、測定QV曲線の傾き(dQ/dV)に、測定QV曲線及び参照QV曲線の電圧差ΔVを乗算することによって、電圧差ΔVに起因する容量劣化量ΔQを算出する処理、及び、測定QV曲線の傾き(dV/dQ)
DUTと参照QV曲線(dV/dQ)
refの傾きとの比率に、参照最大容量Qrefを乗算することによって、参照QV曲線の傾きに対する測定QV曲線の傾きの変化に起因する容量劣化後の仮最大容量Q
DUTを算出する処理、の少なくとも一方を含む。或いは、診断プログラム43は、コンピュータに、電池セルDUTの電圧(電池電圧V)及び積算電流量の関係を示すQV曲線を近似する関数モデルV
DUTを用いて、電池セルDUTの容量に関する値を算出する、処理を実行させる。算出する処理は、参照QV曲線にフィッティングされた関数モデルV
refを生成する処理と、生成した関数モデルV
refを電池セルDUTの測定データ42にフィットさせる処理と、フィッティング後の関数モデルV
DUTを用いて、電池セルDUTの最大容量Q
DUTMAXを算出する処理と、を含む。上述の診断装置1による効果或いは診断装置1Aによる効果と同様の効果が奏される。
【符号の説明】
【0086】
1 診断装置
2 電圧検出部
3 電流検出部
4 記憶部
5 算出部
6 出力部
7 補完部
8 充放電装置
9 蓄電池システム
41 参照データ
42 測定データ
43 診断プログラム
51 第1算出部
52 第2算出部
53 最大容量算出部
54 関数モデル生成部
55 フィッティング部
56 最大容量算出部