(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】レイリー後方散乱信号を使用する過酷な環境での温度又は変形の分散測定の為の光ファイバを生産する方法
(51)【国際特許分類】
C03C 25/002 20180101AFI20240122BHJP
C03B 37/014 20060101ALI20240122BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20240122BHJP
G02B 6/44 20060101ALI20240122BHJP
G01D 5/353 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
C03C25/002
C03B37/014 Z
G02B6/02 356A
G02B6/02 A
G02B6/02 376B
G02B6/44 301B
G02B6/44 301A
G01D5/353 B
(21)【出願番号】P 2021520470
(86)(22)【出願日】2019-06-21
(86)【国際出願番号】 FR2019051516
(87)【国際公開番号】W WO2019243752
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-06-20
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(73)【特許権者】
【識別番号】518048101
【氏名又は名称】サントレ ナティオナル ド ラ ルシェルシェ シアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】520504471
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デ リール
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブリュ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ベルナード,レミー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーニ,オディール
(72)【発明者】
【氏名】ブエ,モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ラフォン,ギヨーム
(72)【発明者】
【氏名】ドウェイ マーク
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-140024(JP,A)
【文献】特開昭63-311311(JP,A)
【文献】特開平06-300944(JP,A)
【文献】特開平04-234709(JP,A)
【文献】特開昭63-292516(JP,A)
【文献】特表2006-524737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00-37/16
C03C 25/00-25/70
G01D 5/26-5/38
G02B 6/02-6/10
6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レイリー後方散乱信号を使用する光周波数領域反射率計測による温度又は変形の分散測定に使用されることが意図される光ファイバを製造する方法であって、前記光ファイバがナノ粒子が挿入されるコアを包含し、前記光ファイバが前記測定中に所定の測定温度範囲の温度にさらされる方法であり、プリフォームを引抜加工して前記光ファイバを形成させるステップ(17)の後に、1時間以上の熱処理期間にわたって前記所定の温度測定範囲の上限以上の熱処理温度に前記光ファイバがさらされる熱処理ステップ(19)を包含
し、前記所定の測定温度範囲の前記上限が400℃と1200℃の間である、方法。
【請求項2】
前記所定の測定温度範囲の前記上限が
800℃と1100℃の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理期間が8時間以上、好ましくは10時間以上である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記熱処理ステップ(19)が、炉における前記光ファイバの加熱、あるいは前記光ファイバへの二酸化炭素レーザビームの印加を包含する、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記光ファイバの前記コアへの前記ナノ粒子の挿入のステップ(13)をさらに包含し、前記光ファイバの前記コアへの前記ナノ粒子の挿入ステップ(13)が、シリカガラス製の管体と、前記管体の内面に配設される非晶質シリカの多孔層とを包含するプリフォームにおいて行われ、前記ナノ粒子の挿入ステップが、前記ナノ粒子を包含する溶液による前記多孔層の含浸を包含する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子が耐火材、金、銀、及び/又はダイヤモンドを包含する、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
耐火材で被覆された金の粒子から前記ナノ粒子が形成される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記光ファイバのクラッディングに保護コーティングを塗着するステップ(18)を包含し、前記保護コーティングが、前記所定の測定温度範囲の前記上限以上の溶融温度を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記レイリー後方散乱信号を使用する光周波数領域反射率計測による温度又は変形の分散測定の為の請求項1から8のいずれか一項に記載の前記製造方法により得られる光ファイバの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酷な環境にさらされる光ファイバについての、レイリー後方散乱信号を使用する光周波数領域反射率計測による温度又は変形の分散測定の分野に存する。光ファイバは特に、400℃より高い温度及び/又はイオン化若しくは非イオン化放射にさらされうる。本発明は、測定前に光ファイバの特性を安定化させる熱処理ステップを包含する光ファイバの製造方法に関係する。本発明は、こうして処理された光ファイバの使用にも関係する。
【0002】
本発明は特に、核反応器又は水素燃料電池における温度制御に、或いはボアホールにおける温度及び変形の測定に適用される。
【背景技術】
【0003】
OFDRと呼ばれる光周波数領域反射率計測の技術は、光ファイバの光学コアで発生されるレイリー後方散乱信号を使用することにより、光ファイバの全長にわたる温度又は変形の測定が提供されることを可能にする。レイリー後方散乱信号を使用する温度の測定は、ファイバ部分にわたってこの信号を基準信号と比較することにより計算される。温度の変動中に、検討対象のファイバ部分に対応するレイリー信号の周波数がオフセットされる。ルックアップテーブル又は類似関係により、検討対象のファイバ部分で受ける温度変動に対応するようにこの周波数オフセットが行われる。レイリー散乱により後方散乱された信号を増幅し、続いて測定の精度を高める為に、非特許文献1では、光ファイバのコアを紫外線レーザ放射に露出することにより光ファイバのコアの欠陥を見つけることが提案された。非特許文献2で提案されている別の解決法は、フェムト秒レーザ放射に露出することにより光ファイバのコアにナノ格子を刻むことを含む。これらの技術は、ナノ格子を包含する光ファイバについてはおよそ40dBだけレイリー後方散乱信号の強度が大きく上昇することを可能にする。しかしながら、光ファイバのレーザ処理は比較的複雑であって、長い光ファイバに実行するには長時間かかる。また、これらの処理から生じる減衰は比較的重大であって、フェムト秒レーザにより処理される光ファイバではおよそ10dB/mである。
【0004】
発明者らは、レイリー後方散乱信号の高強度と低減衰の両方を有する、温度又は変形の分散測定に専用の光ファイバを得る為の解決法を開発しようとした。例えば、酸化ジルコニウムで被覆された金の粒子により形成されるナノ粒子がコアに添加された光ファイバの使用の実現可能性及び利益を実証した。行われる添加により、特にそのナノ粒子濃度により、重大な結果が得られた。特に、周囲温度において、3.1dB/mのファイバの減衰については40.6dBのレイリー後方散乱信号の上昇が、0.5dB/mの減衰については32dBのレイリー後方散乱信号の上昇が観察可能であった。これらの結果から、大きな長さ、特に数メートルにわたる測定を行う可能性が開かれた。しかしながら、光ファイバが長い期間にわたって高い温度に、特に数時間にわたって800℃より上に露出されると、測定値にはドリフトが見られ、これがその使用を困難にする。測定誤差は、(一定温度の)測定温度の連続的変異又は数百度の変動とで構成されうる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】S.ロレンジャーその他(S. Loranger et al.)による「光ファイバの単純UV露出による分散型温度及び歪み検知におけるレイリー散乱ベースの規模程度増大(Rayleigh scatter based order of magnitude increase in distributed temperature and strain sensing by simple UV exposure of optical fibre)」サイエンティフィック・リポーツ5(Scientific Report 5)(2015年)
【文献】A.ヤンその他(A. Yan et al.)による「固体酸化物燃料電池動作のリアルタイム監視の為の超高速レーザ増強レイリー後方散乱プロファイルを含む分散型光ファイバセンサ(Distributed Optical Fiber Sensors with Ultrafast Laser Enhanced Rayleigh Backscattering Profiles for Real-Time Monitoring of Solid Oxide Fuel Cell Operations)」サイエンティフィック・リポーツ7(Scientific Reports 7)(2017年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記を考慮すると、本発明の目標は、広い温度範囲にわたって、特に800℃以上の温度で安定的な測定を提供できる温度又は変形の分散測定の為の光ファイバを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的の為に、本発明は、ナノ粒子が添加された光ファイバの使用と、ファイバの測定環境の温度より高い温度での光ファイバへの熱処理の適用とに基づく。ナノ粒子の存在は、レイリー散乱、ゆえにレイリー後方散乱信号の振幅を増大させる作用を有する。発明者らは、熱の作用を受けた光ファイバのレイリーシグネチャの持続的変異により測定誤差が生じることを確認できた。より正確に記すと、高い温度に露出されることにより、光ファイバは、安定状態に到達する前に物理化学特性の変異を受ける。物理化学特性の変異は、特に、プリフォームの引抜加工ステップの後における光ファイバの内側での応力の緩和、光ファイバにおいて可能なドーパントの化学的移動、ナノ粒子の物理化学的変異に関係する。これらの変異は、光ファイバのコアにおけるレイリー後方散乱に寄与する密度の局所的な変動に影響する。熱処理は、光ファイバの反応、ゆえに温度及び変形の測定を安定化させるという作用を有する。
【0008】
より正確に記すと、本発明の目的は、レイリー後方散乱信号を使用する光周波数領域反射率計測による温度又は変形の分散測定に使用されることが意図される光ファイバを製造する為の方法であり、光ファイバは、ナノ粒子が挿入されるコアを包含し、光ファイバは、測定中に、所定の測定温度範囲の温度にさらされ、この方法は、1時間以上の熱処理の期間にわたって所定の測定温度範囲の上限以上の熱処理温度に光ファイバがさらされる熱処理のステップを包含する。
【0009】
本発明によれば、光ファイバに対して、つまりプリフォームを引抜加工して光ファイバが形成されるステップの後に、熱処理が行われる。結果的に、熱処理はナノ粒子の挿入の後にも行われうる。
【0010】
光ファイバは好ましくは単一モードのファイバである。光ファイバは例えば、4μm(マイクロメートル)と10μmの間のコア直径と、100μmと125μmの間のクラッディング直径とを有する。
【0011】
本発明の意味において、ナノ粒子は粒子であり、その最大直径は100nm(ナノメートル)以下である。ナノ粒子は例えば、三次元の各々において、数ナノメートルまたは数十ナノメートルの寸法を有する。ナノ粒子は必ずしも、球形又は実質的に球形の形状を有する必要はない。ナノ粒子の代わりに、又はナノ粒子に加えて、光ファイバのコアはクラスタつまり原子の集合を含むことが可能で、その最大寸法は分子の寸法とナノ粒子の寸法の間である。
【0012】
光ファイバのコアは、好ましくは10%以下、より好ましくは5%未満の分子百分率のナノ粒子を含む。クラスタの存在下では、クラスタ、又は場合に応じてクラスタとナノ粒子の分子百分率は、好ましくは10%以下、より好ましくは5%未満である。
【0013】
所定の温度範囲の上限は、使用に従って決定されうる。それは例えば、400℃と1200℃の間である。好ましくは800℃と1100℃の間である。また、光ファイバの劣化を回避する為に、熱処理温度は好ましくは結晶形態でのシリカのガラス転移温度以下である。ゆえに、熱処理温度は、400℃と1200℃の間、好ましくは800℃と1100℃の間の熱処理範囲に包含されうる。
【0014】
熱処理の期間は、光ファイバ、特にその寸法及び組成とナノ粒子の組成とに従って決定されうる。熱処理の期間は特に8時間以上、好ましくは10時間以上でありうる。発明者らは、1時間の熱処理の適用から始めるとレイリー後方散乱特性がより安定することに気付いた。少なくとも8時間の熱処理の期間にわたる明白な安定化改善も観察した。また熱処理の期間は48時間未満、好ましくは24時間未満でありうる。
【0015】
熱処理のステップは、所定の測定温度範囲の上限より高い熱処理温度に光ファイバをさらすことが可能な何らかの手段により行われうる。第一の代替的実施形態によれば、熱処理のステップは炉における光ファイバの加熱を包含する。第二の代替的実施形態によれば、熱処理のステップは光ファイバへの二酸化炭素レーザビームの印可を包含する。好ましくは、少なくとも温度又は変形の分散測定に使用される光ファイバの区分に熱処理が適用される。
【0016】
製造方法はさらに、光ファイバのコアへのナノ粒子の挿入のステップを含みうる。
【0017】
第一の代替的実施形態によれば、光ファイバのコアへのナノ粒子の挿入のステップは、シリカガラス製の管体と、管体の内面に配設される非晶質シリカの多孔層とを包含するプリフォームにおいて行われる。ゆえにナノ粒子挿入ステップは、ナノ粒子を包含する溶液への多孔層の含浸を包含する。好ましくは、含浸中にプリフォームがその長手軸線を中心に回転される。
【0018】
特定の実施形態によれば、溶液は、ナノ粒子に加えて、エタノール又は水など少なくとも一つの溶媒を包含する。溶液は、酸化ジルコニウムのゾル及び/又はシリカのゾルも含みうる。酸化ジルコニウムのゾルとシリカのゾルとは、非晶質の酸化ジルコニウム又は非晶質形態の酸化ケイ素の層で粒子を被覆してナノ粒子の保護層を形成する作用を有する。このように被覆されるナノ粒子は、好ましくはナノメートル寸法を維持する、つまり最大寸法は100nm以下である。酸化ジルコニウム又は酸化ケイ素で作られたこれらの保護層は、プリフォームの熱処理中に、ナノメートル寸法を維持しながら結晶化する。
【0019】
製造方法は、多孔層の含浸の前に、この多孔層を非晶質シリカから形成するステップを含みうる。屈折率を上昇させるように多孔層に添加が行われうる。添加は例えばゲルマニウム及び/又はリンにより行われうる。ナノ粒子が酸化ジルコニウムの層を包含するケースでは特に、このような添加は不可欠ではなく、プリフォーム及び光ファイバにおいて行われる様々な熱処理の間にガラスへのジルコニウムの拡散が可能であることに注意すべきである。これは、光ファイバのコアの屈折率の上昇という結果を生じる。一実施形態では、MCVD方法とも呼ばれる修正化学蒸着方法により多孔層が塗着される。特に、四塩化ケイ素(SiCl4)、四塩化ゲルマニウム(GeCl4)、三塩化ホスホリル(POCl3)、二酸素(O2)、そしてヘリウム(He)を包含するガスの混合物が、シリカガス製の管体へ注入され、外側から管体を加熱するトーチを使用して、一般的には1300℃と1500℃の間の高い温度に達する。シリカガラス製の管体は、加熱中にその長手軸線を中心に回転される。このステップの後に、ゲルマニウム及びリンが添加された非晶質シリカの多孔層が管体の内面に形成される。多孔層は光ファイバのコアを形成することが意図され、管体はクラッディングを形成することが意図される。
【0020】
この製造方法は、多孔層の含浸の後に、下記も含みうる。
・余剰溶液の除去とプリフォームの乾燥のステップ。乾燥は、例えば周囲温度で、つまり15℃と30℃の間の温度で行われる。
・1700℃と2000℃の間の多孔層の稠密化及び熱ガラス化のステップ。
・1900℃と2200℃の間の加熱による管体の熱密閉のステップ。管体は好ましくはその長手軸線を中心に回転される。
【0021】
第二の代替的実施形態によれば、光ファイバのコアへナノ粒子を挿入するステップは、ゾルゲルプロセスにより形成されてプリフォームのコアとして使用されるシリカの多孔質モノリスの、ナノ粒子を含有する溶液への含浸により行われる。そしてこのモノリスが、例えば開放空気中において周囲温度で乾燥されてから、1200℃と1400℃の間で熱稠密化される。そして光学クラッディングとして使用されるシリカガラス製の管体へ稠密化モノリスが挿入され、それからアセンブリが加熱されて最終的な光ファイバのプリフォームが得られる。
【0022】
第一及び第二の代替的実施形態によれば、製造方法は、ナノ粒子を挿入するステップの後に下記を含みうる。
・コア直径とクラッディング直径との間に所望の比が得られるようにプリフォームを別のシリカ管体で包被する任意のステップ。
・プリフォームを光ファイバの形態に引抜加工するステップ。
【0023】
ナノ粒子は特に、耐火材、金、銀、及び/又はダイヤモンドを包含しうる。本発明の意味において、耐火材は、ISO規格836:2001により金属又は合金以外の材料として規定され、その耐火度は少なくとも1500℃に等しい。このような材料は、軟化することなく、またその自重により圧壊することなく、1500℃の最低温度に対する耐性を持たなければならない。耐火材は例えば、アルミナとも呼ばれる酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、又は酸化トリウムなどの耐火性酸化物である。金及び銀は、それぞれ1064.18℃と961.78℃の溶融温度を有する。これらの温度は概して、所定の測定温度範囲の上限より高い。他の金属は、その溶融温度がこの上限より高い限りは使用されうる。また、ナノ粒子は、ある種のホウ化物、炭化カルシウム、窒化物、ケイ化物、及び/又は硫化物を包含しうる。
【0024】
特定の実施形態において、ナノ粒子は、耐火材で被覆された金の粒子から形成される。特に、ナノ粒子は、酸化ジルコニウムで被覆された金の粒子から形成されうる。これらのナノ粒子は、四水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)による塩化金酸(HAuCl4)の化学的還元とジルコンのゾルゲルマトリックスの形成という同時方法により合成されうる。
【0025】
ナノ粒子がジルコンで構成されるかジルコンを包含する時には、正方相ではなくジルコンの単斜相を優先するように、熱処理温度は好ましくは1150℃以下に選択される。
【0026】
製造方法は、光ファイバのクラッディングに保護コーティングを塗着するステップも含みうる。保護コーティングは光ファイバを機械的及び/又は化学的に保護できる。保護コーティングは例えば、所定の測定温度範囲の上限以上の溶融温度を有する。保護コーティングは例えば、酸化アルミニウム又は酸化ジルコニウムなどの耐火材を包含する。アルミニウム、銅、金、銀、又はニッケルなどの金属も包含しうる。耐火材、例えば酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、シリカ、又は窒化ホウ素の粒子が任意で充填されたポリマー又はシリコーンも包含しうる。
【0027】
保護コーティングは、測定感度を向上させるようにして決定されてもよい。特に、保護コーティングは、光ファイバのクラッディングの膨張係数より高い膨張係数を有する材料を含みうる。光ファイバが温度の上昇にさらされると、伸長を増大させる傾向がある引張応力と、ゆえにレイリー後方散乱信号の特性の変異とを受ける。
【0028】
本発明の目的は、レイリー後方散乱信号を使用する光周波数領域反射率計測による温度又は変形の分散測定の為の上記の製造方法により得られる光ファイバの使用でもある。光ファイバは特に、核反応器の室の温度測定に使用されうる。ゆえに高い温度と照射環境とにさらされる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明の他の特徴、詳細、利点は、例としてのみ挙げられて添付図面を参照する以下の記載を読むことで明白になるだろう。
【
図1】本発明による光ファイバ製造方法の一例を示す。
【
図2】本発明による熱処理の前後にジルコンで被覆された金のナノ粒子が添加された光ファイバの屈折率のプロファイルをグラフで示す。
【
図3】光周波数領域反射率計測による温度又は変形の分散測定に使用されることが意図される光ファイバを検査及び校正する為のシステムを概略的に示す。
【
図4】熱処理段階と周期的検査段階において非添加光ファイバと添加光ファイバについて
図3のシステムを使用して得られるスペクトルオフセットの結果をグラフで示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、本発明により光ファイバを製造する為の方法の一例を示す。光ファイバはクラッディングに囲繞されるコアを含み、光周波数領域反射率計測(OFDR)による温度又は変形の分散測定に使用されることが意図される。この目的の為に、光ファイバはコアへ挿入されるナノ粒子を含み、各ナノ粒子は、光ファイバを通過する光信号を弾性的に散乱させる作用を有する。この現象はレイリー散乱と呼ばれる。測定中に、光ファイバは、800℃又は1000℃にも到達しうる高い温度にさらされうる。概して、測定中に光ファイバがさらされる温度範囲は、「測定温度範囲」と呼ばれる。
【0031】
方法10は、シリカガラス製の管体を製造又は用意する第1ステップ11を包含する。管体は例えば、19mmの内径と25mmの外径とを有する。好ましくは、シリカガラスは、管体が光ファイバのクラッディングを形成できるように、99%以上、より好ましくは99.8%以上の純度を有する。第2ステップ12において、MCVD方法とも呼ばれる修正化学蒸着方法により非晶質シリカの多孔層が塗着される。管体の内面に1層ずつ塗着される為に、四塩化ケイ素(SiCl4)、四塩化ゲルマニウム(GeCl4)、三塩化ホスホリル(POCl3)、二酸素(O2)、そしてヘリウム(He)を包含するガスの混合物が管体へ注入され、一般的には1300℃と1500℃の間の高い温度に達する。均質性の理由から、この蒸着ステップ12の間に、管体が好ましくはその長手軸線を中心として回転される。四塩化ゲルマニウム及び三塩化ホスホリルの存在により、ゲルマニウム及びリンが添加された非晶質シリカの多孔層が得られ、これは、光ファイバのコアを形成するようにこの多孔層の屈折率を上昇させることにつながる。管体及び多孔層は、「プリフォーム」と呼ばれるアセンブリを形成する。第3ステップ13では、非晶質シリカの多孔層が、エタノール又は水など少なくとも一つの溶媒とナノ粒子とを包含する溶液に含浸される。溶液はさらに、酸化ジルコニウム(ジルコン)のゾル及び/又はシリカのゾルを含みうる。例えば、エタノール、水、金の粒子、そしてジルコンのゾルを包含する溶液が考えられる。溶液は、52.2%モル(分子百分率)のジルコニウムnプロポキシド、45.3%モルのアセチルアセトン、1.1%モルの水和塩化金酸、1.4%モルの四水素化ホウ素ナトリウムを溶媒に包含する。こうしてジルコンは金の粒子を被覆して保護層を形成する。含浸ステップ13の後で、この方法は、プリフォームを乾燥させるステップ14を包含する。このステップに先行するのは、余剰溶液、すなわちシリカの多孔層の孔に浸透しなかった溶液を除去するステップである。プリフォームの乾燥は、例えば15℃と30℃の間の温度で行われる。そしてこの方法は、多孔層の稠密化、そしてガラス化のステップ15を包含する。ガラス転移温度より高い、又は溶融温度よりも高い温度にプリフォームをさらしてから、ガラス転移温度より低い温度まで急速に冷却することにより、稠密化及びガラス化が行われる。稠密化及びガラス化は、例えば1700℃と2000℃の間の温度で行われる。稠密化により多孔層の孔が密閉される。第6ステップ16では、1900℃と2200℃の間の温度にさらすことによりプリフォームが密閉される。そしてこの方法は、所望の直径を有する光ファイバを得るようにプリフォームを引抜加工する第7ステップ17を含む。引抜加工ステップ17の前に、この方法は、所望のコア/クラッディング直径比を有するプリフォームを得る為にシリカガラス製の第2管体へプリフォームが挿入される不図示のプリフォーム包被ステップを任意で含みうる。それから光ファイバが得られるようにアセンブリが引抜加工されうる。製造方法がこの包被ステップを含む時には、第1管体から、そして第2管体からクラッディングが得られる。第2管体の内径及び外径は、コアの直径とクラッディングの直径との間に所望の比が得られるように決定される。任意であるが、この方法は、プリフォームの引抜加工ステップ17の後に、光ファイバのクラッディングに保護コーティングを塗着するステップ18を含む。保護コーティングは高温に対する耐性を備える材料で構成されるか、耐火材の粒子、例えばジルコン又はアルミナの粒子が装填されたポリマー材料を含みうる。保護コーティング中の耐火材の粒子は必ずしもナノメートル寸法を有する粒子でなくてもよく、マイクロメートル寸法を有してもよいことに注意すべきである。保護コーティングは例えば、測定温度範囲の上限以上の溶融温度を有する。
【0032】
本発明によれば、この方法はそれから、光ファイバの熱処理のステップ19を包含する。「アニーリング」とも呼ばれるこの熱処理は、高い温度にさらされた時に光ファイバのレイリー散乱に関連する特性を安定化することを目標とする。これらの散乱特性は、安定化状態に到達する前に高温で変異可能な光ファイバの物理化学特性に依存する。ゆえに熱処理のステップ19は、測定温度範囲の上限以上の熱処理温度への光ファイバの露出を含む。光ファイバは、1時間以上にわたる処理の為にこの熱処理温度に露出される。第一の代替的実施形態によれば、処理期間中に一定に保たれる熱処理温度に光ファイバがさらされる。熱処理温度は例えば800℃、900℃、1000℃、1200℃、又は1500℃に等しい。第二の代替的実施形態によれば、光ファイバは、別々の熱処理温度で様々なプラトーを包含する温度サイクルにさらされる。特に、熱処理温度は第1プラトーで最高であって、続く各プラトーでは減少する。処理期間は少なくとも1時間に等しい。それにもかかわらず発明者らは、光ファイバの大部分について、レイリー散乱特性の安定化を得る為には8時間以上、又は10時間以上もの処理期間が望ましいことを観察により認めた。
【0033】
熱処理による安定化の現象を説明する幾つかの仮説が発明者により提案される。第一の仮説は、ナノ粒子の結晶相の変化と関連する容積の変化に基づく。例えば、ジルコンはその温度に従って三つの結晶相を連続的かつ可逆的に取りうる。1150℃より低い温度では単斜相が観察され、1150℃と2370℃の間の温度では正方相が観察され、2370℃と2680℃の間の温度では立方相が観察される。最初に、ジルコンは、シリカの多孔層の含浸により供給される時に、非晶質形態である。稠密化・ガラス化と密閉のステップの間に、ジルコンは2200℃に到達しうる温度にさらされ、ファイバ内に存在するジルコンの一部又は全体は結果的に正方相を取る。冷却後に、ジルコンは単斜相を有するはずである。しかしながら、冷却中には、シリカガラスが1150℃で既に充分な粘性を備えて正方相から単斜相への移行を防止することが可能である。800℃と1150℃の間の熱処理温度での1時間から数時間の熱処理は、これらの温度で正方相が準安定性であってシリカガラスがそのガラス転移温度に近い限りは単斜相へのこの移行を可能にし、ゆえにジルコン粒子の周りでのシリカガラスの局所的配置を可能にする。こうして熱処理により、ナノ粒子の結晶相、続いて光ファイバのレイリー散乱特性が安定しうる。ジルコンが正方相より大きいおよそ4.5%の容積を単斜相で有することにも注意すべきである。こうして、ナノ粒子のこのサイズ変化により、熱処理の後でレイリー散乱の強度が増大されうる。最初にファイバに存在するジルコンの部分は、ファイバの熱処理の前にはまだ非晶質であること(そして残りが既に正方相で結晶化されていること)も可能である。400℃より上でファイバを熱処理することにより、非晶質であるジルコンは正方相又は単斜相で結晶化する(後者も熱処理中に相を変化させうる)。これらの変異は、光ファイバのレイリー散乱特性の変化も引き起こしうる。
【0034】
レイリー散乱特性の安定化現象を説明できる別の仮説は、光ファイバに存在する応力の開放に基づく。実際に、大きな機械的応力と温度の変動を伴うプロセスの結果として光ファイバが得られる。これは特に、光ファイバが急速な冷却を受ける引抜加工ステップ中のケースである。光ファイバが熱処理にさらされると、応力の開放と、ゆえにレイリー散乱特性の安定化とを引き起こす。
【0035】
第三の仮説は、光ファイバのコアの屈折率の変化に基づく。
図2は、熱処理の前後に、ジルコンで被覆された金のナノ粒子が添加された光ファイバの屈折率のプロファイルをグラフで示す。熱処理は、8時間の期間にわたって900℃の温度まで光ファイバを加熱することを包含していた。グラフにおいて、横座標軸は、位置0として規定されたコアの中心を通る光ファイバの横軸上の位置に対応し、縦座標軸は基準屈折率に関する指数の変動に対応する。同図において、この基準屈折率は光学クラッディングの指数に対応する。第1曲線21は、熱処理前の光ファイバの屈折率の変動を表し、第2曲線22は熱処理後の屈折率の変動を表す。曲線21は、中空管体から光ファイバが製作されることにより引き起こされる光ファイバの中心での「指数空洞」の存在を示す。また、コアとクラッディングの間の接合部での「指数空洞」の存在と、第1及び第2管体の間の接合部に対応する-22μm及び+22μmの位置の近くの指数跳躍も示し、第2管体は包被ステップ中に追加されたものである。比較すると、曲線22は、ファイバの中心と、コアとクラッディングの間の接合部での「指数空洞」の明白な減少とともに、包被により生じる指数跳躍の減少を示す。ゆえに熱処理は、光ファイバのコアの平均屈折率の上昇と、ゆえに光ファイバの開口数の増加の作用を有する。この結果、レイリー散乱が光ファイバのコアに限定されるとともに、レイリー後方散乱信号の強度が高くなる。
【0036】
図3は、光周波数領域反射率計測による温度又は変形の分散測定に使用されることが意図される光ファイバを検査及び校正する為のシステムを概略的に示す。検査システム30は、周波数反射率計31と、単一モード光ファイバ32と、炉33と、炉を貫通する鋼製の毛細管34と、熱電対35とを含む。検査対象の光ファイバ36は鋼製の毛細管34へ挿入されて、例えば溶接により単一モード光ファイバ32に光結合される。炉33は、温度が均質である中央ゾーン331を有する。熱電対35はこの中央ゾーン331に設置されて基準温度を提供する。ここで周波数反射率計31はLUNA社のOBR4600であり、OBRは、「光学後方散乱反射率計」を意味するLUNA社の登録商標である。これは、光ファイバ32において周波数変調光学測定信号を送信し、このファイバから戻る帰還光学信号を受信し、基準光ファイバからの基準光学信号とこの帰還光学信号を結合して複合信号を形成することが可能である。周波数反射率計31はさらに、測定信号の周波数及び分極状態に従ってこの複合信号の干渉縞を、強度に関して、そして位相に関して測定し、結果信号にフーリエ変換を適用して、経時的な反射と、ゆえに光ファイバ36上の位置とのマップを生成するように配置される。温度又は変形の変動を測定する為に、この反射マップは、周波数領域の相互相関により、調査される各区分について、既知の温度での同じ光ファイバ36について、また既知の変形について得られる反射マップと比較されなければならない。相関信号は、周波数において位置を特徴とするピークを、調査対象の各区分について有する。ピークの周波数は、温度の差と、既知の温度及び変形に関して光ファイバが受ける変形の差とに依存する。前もって校正を行うことにより光ファイバの一区分での絶対温度を測定することも可能である。ファイバは、熱電対35により制御される様々な温度まで加熱され、各温度に関連するスペクトル移動が記録される。相関関係がこうして確立され、光ファイバを使用する分散測定に使用されうる。
【0037】
図4は、熱処理段階40Aの間とその後の周期的検査段階40Bの間に二つの別々の光ファイバについて
図3の検査システムを使用して得られたスペクトルオフセットの結果をグラフで示す。グラフにおいて、横座標軸は時間を分で表し、第1縦座標軸はスペクトルオフセットをギガヘルツ(GHz)で表し、第2縦座標軸は、熱電対35により測定される温度をセルシウス度(℃)で表す。第1曲線41はCorning社による単一モード光ファイバSMF‐28についてのスペクトルオフセットを表し、第2曲線42は、ジルコンで被覆された金粒子により形成されるナノ粒子が添加されたコアを含む単一モード光ファイバについてのスペクトルオフセットを表す。1573nmを中心とする86nmのスペクトル窓を有する光学測定信号により、各ファイバが検査される。熱電対35により測定される温度が139℃である時に熱処理段階と周期的検査段階の間にこの同じ区分について得られた反射マップとの比較による、炉の中央ゾーンに設置されたファイバ区分についてのスペクトルオフセットが示されている。第3曲線43は、熱電対35により炉33の中央ゾーン331で測定された温度を表す。熱処理は、5℃/分の上昇による800℃までの温度上昇と、800℃の温度での8時間のプラトーと、時間とともに低下する速度での89.6℃までの温度低下とを包含する。周期的検査は、400℃での二つのプラトーにより分離される800℃での三つの連続プラトーを包含し、各プラトーは1時間の期間を有する。温度の上昇及び低下は毎分5℃の変動で行われる。
図4は、熱処理段階の間と周期的検査段階の間の両方で、光ファイバSMF‐28がスペクトルオフセットの非常に高い変動を有し、これが400℃より高い温度での温度又は変形の測定を不安定にすることを示している。スペクトルオフセットの安定化が熱処理後には観察されないことに注意すべきである。ナノ粒子が添加された光ファイバについては、熱処理段階の間に偏差が観察されうる。しかしながら、周期的検査の間には、800℃の温度で6.6%の最大誤差が観察される。ゆえにスペクトルオフセットは比較的安定的であり、光ファイバの温度又は変形をこれから推測するのに使用されうる。
【符号の説明】
【0038】
10 方法
21 第1曲線
22 第2曲線
30 検査システム
31 周波数反射率計
32 単一モード光ファイバ
33 炉
34 毛細管
35 熱電対
36 光ファイバ
40A 熱処理段階
40B 周期的検査段階
41 第1曲線
42 第2曲線
43 第3曲線
331 中央ゾーン