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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】止血用ペースト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/28 20060101AFI20240122BHJP
   A61L 15/20 20060101ALI20240122BHJP
   A61L 26/00 20060101ALI20240122BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240122BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240122BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20240122BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
A61L15/28 100
A61L15/20 100
A61L26/00
A61K47/36
A61K47/10
A61K9/06
A61K9/70 401
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021525397
(86)(22)【出願日】2019-07-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 IB2019056174
(87)【国際公開番号】W WO2020016835
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】201810851056.6
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】16/055,433
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517274590
【氏名又は名称】コウシュウ・バイオシール・バイオテック・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Guangzhou Bioseal Biotech Co., Ltd.
(73)【特許権者】
【識別番号】521027054
【氏名又は名称】ジョンソン・アンド・ジョンソン・チャイナ・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】512080321
【氏名又は名称】エシコン・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Ethicon, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】フェン・デンミン
(72)【発明者】
【氏名】テン・リン
(72)【発明者】
【氏名】ツァン・ヤンフイ
(72)【発明者】
【氏名】ニ・グオジュン
(72)【発明者】
【氏名】リー・ユーフー
(72)【発明者】
【氏名】ワン・シャン
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-519152(JP,A)
【文献】特表2014-528336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-15/64
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性の止血用ペーストであって、
グリセロール含有分散剤と、
プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、及びこれらの混合物からなる群から選択される分散剤と、の実質的な無水ブレンド中に懸濁されるか又は分散されたキセロゲル架橋粉砕多糖類を含み、
前記止血用ペーストが、実質的に均質な分散液又は懸濁液であり、
前記キセロゲル架橋粉砕多糖類が、クエン酸架橋CMCを含み、
前記クエン酸架橋CMCが、100μm未満の中央粒径を有する懸濁粉末の形態であり、
前記グリセロール含有分散剤は、65℃を超える温度でグリセロール中に、水酸化ナトリウムを含有する中和アルカリ性剤を溶解することにより得られる、止血用ペースト。
【請求項2】
前記止血用ペーストが、静止状態かつ室温で中度の粘度を有する、請求項1に記載の止血用ペースト。
【請求項3】
前記止血用ペーストが、35重量%~65重量%の前記クエン酸架橋CMCを含む、請求項1又は2に記載の止血用ペースト。
【請求項4】
前記止血用ペーストが、1%未満の水を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の止血用ペースト。
【請求項5】
前記グリセロール含有分散剤が、10重量%~30重量%の濃度で前記止血用ペースト中に存在し、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、及びこれらの前記混合物からなる群から選択される前記分散剤が、10重量%~30重量%の濃度で前記止血用ペースト中に存在する、請求項1~のいずれか一項に記載の止血用ペースト。
【請求項6】
前記止血用ペーストのプロピレングリコールとグリセロールとの重量比が、約1:0.5~約1:2である、請求項1~のいずれか一項に記載の止血用ペースト。
【請求項7】
前記止血用ペーストが、
a.約49~55%の前記クエン酸架橋CMCと、
b.約18~30%のグリセロールと、
c.約15~30%のプロピレングリコールと、を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の止血用ペースト。
【請求項8】
前記クエン酸架橋CMCと前記グリセロール含有分散剤との重量比がそれぞれ約0.9~1.25である、請求項のいずれか一項に記載の止血用ペースト。
【請求項9】
前記止血用ペーストが、可撓性生体吸収性シートである基材上に支持される、請求項1~のいずれか一項に記載の止血用ペースト。
【請求項10】
前記基材が、酸化セルロース又はポリグラクチン910を含む、請求項に記載の止血用ペースト。
【請求項11】
前記止血用ペーストが、絞り出せるチューブに入れられた、請求項1~10のいずれか一項に記載の止血用ペースト。
【請求項12】
流動性止血用ペーストの製造方法であって、
a.CMCを高温でクエン酸と反応させることによって前記CMCを架橋する工程と、
架橋された前記CMCを実質的に乾燥させて、キセロゲルを形成する工程と、
c.前記キセロゲルを、100μm未満の中央粒径を有する粉末に粉砕する工程と、
d.前記キセロゲルに、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、又はこれらの混合物を含む第1の分散剤と、グリセロール含有分散剤を含む第2の分散剤と、を添加し、分散剤と前記キセロゲルとのブレンドを形成する工程と、
e.前記ブレンドを混合して、前記流動性止血用ペーストを形成する工程と、を含
前記製造方法が、前記キセロゲルへの添加の前に、65℃を超える温度でグリセロール中に、水酸化ナトリウムを含有する中和アルカリ性剤を溶解し、前記グリセロール含有分散剤とする工程を更に含む、流動性止血用ペーストの製造方法。
【請求項13】
前記止血用ペーストを可撓性生体吸収性シート基材の少なくとも1つの面に塗布する工程を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の止血用ペーストを含有する創傷ドレッシング材の製造方法。
【請求項14】
前記可撓性生体吸収性シート基材が、織布メッシュ、構造化フェルト、非構造化フェルト、フィルム、又はこれらの任意の組み合わせの形態であり、酸化セルロース、止血用ポリマーブレンド、又はこれらの混合物の1つ以上の層を含有する、請求項13に記載の創傷ドレッシング材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、止血及び組織封止を促進するための薬剤及び材料に関し、より詳細には、架橋カルボキシメチルセルロースと1つ以上の分散剤との混合物を含むペーストの形態の速膨潤性の高吸収性止血用組成物、並びにかかる止血組成物の製造方法及び使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多種多様な状況において、ヒトを含む動物は、創傷が原因で、あるいは外科的処置の間に、出血に見舞われることがある。状況によっては、出血は比較的軽いものであり、通常の血液凝固作用が、簡単な応急処置の実施に加われば、それだけで充分である。他の状況では、相当な出血が起こることがある。これらの状況では通常、専門的な設備及び物資、並びに適切な救助を施すように訓練された人員が必要となる。
【0003】
外科的処置中の出血は、多くの形態で顕在化し得る。それは、離散したものであるか、又は広い表面積から拡散したものであり得る。出血は、高容量若しくは低容量の大小の血管、動脈(高圧)又は静脈(低圧)からのものであり得る。出血は容易にアクセス可能であり得るか、又はアクセスが難しい部位に由来する場合もある。出血の制御は、失血を最小限に抑え、術後合併症を低減させ、手術室での手術の時間を短くするために、外科的処置において必須かつ重要である。出血を制御するための適切な方法又は製品の選択は、出血の重症度、出血源の解剖学的場所及び隣接する重要な構造の近接性、出血が離散した出血源からのものであるか又はより広い表面積からのものであるか、出血源の視認性及び正確な特定、並びに出血源へのアクセスが挙げられるがこれらに限定されない、多くの因子に依存する。
【0004】
止血を達成するための従来の方法には、外科的技術、縫合糸、結紮糸又はクリップ、及びエネルギーに基づく凝固又は焼灼の使用が挙げられる。これらの従来の対策が非効果的又は非実用的なとき、補助的な止血技術及び製品が典型的に利用される。
【0005】
上記の問題に対処するため、過剰な出血を制御するための又は止血に対する補助剤としての材料が開発されてきた。局所用吸収性止血材(Topical Absorbable Hemostat、TAH)は、外科用途で広く使用されている。TAHは、織布又は不織布又はスポンジに基づく形態などの様々な形態の製品を包含し、典型的には、ポリグラクチン910、酸化セルロース、酸化再生セルロース(oxidized regenerated cellulose、ORC)、ゼラチン、コラーゲン、キチン、キトサン、デンプンなどのラクチド-グリコリドベースのコポリマーを含む、天然ポリマーから合成ポリマーに及ぶ、またこれらの組み合わせである、少なくとも部分的に再吸収可能な材料から作られる。ゼラチンは、局所トロンビン溶液を含むか又は含まない、様々な形態で使用される。生物学的に活性な局所止血製品(局所トロンビン溶液、フィブリンシーラントなど)及び様々な合成局所シーラントも広く使用されている。
【0006】
止血性能を改善するために、上記TAH材料をベースとするスカフォールドを、トロンビン及びフィブリノゲンなどの生物由来の凝固因子と組み合わせることができる。
【0007】
その生分解性及びその殺菌性、並びに止血特性により、酸化セルロース並びに酸化再生セルロースは、神経外科、腹部手術、心臓血管手術、胸部手術、頭部及び頸部手術、骨盤手術、並びに皮膚及び皮下組織処置などの様々な外科的処置において局所性止血用創傷包帯として長い間使用されてきた。粉末、織布、不織布、編地、及びその他の形態で作られるか否かにかかわらず、酸化セルロース材料に基づいた様々な種類の止血材を形成するための数多くの方法が知られている。現在利用される止血用創傷包帯には、セルロース繊維の均質性を増加させた酸化セルロースである酸化再生セルロース(ORC)を含む編み布地又は不織布が含まれる。
【0008】
フィブリノゲン及びトロンビンは、血管損傷後に止血の達成に関与する重要なタンパク質であり、血餅形成に必須である。フィブリノゲン及びトロンビンは、典型的な凝固反応を開始することなく粉末形態で又は非水性懸濁液中で合わせることができるので、タンパク質が可溶である水性媒体又は他の液体環境中で当該タンパク質が水和するまでフィブリン塊の形成が阻止される。粉末形態のこれらのタンパク質の混合物は、局所止血、組織修復、薬物送達などを含む様々な潜在的な生物医学的用途を有する。更に、これらタンパク質の混合物を粉末形態で担体若しくは基材、又は他の医療用具に充填して、例えば止血用具として使用することができる製品を形成することもできる。
【0009】
フィブリン糊として知られているフィブリンシーラントは、数十年間にわたって病院で使用されている。フィブリンシーラントは、2つの液体成分、すなわちフィブリノゲン含有成分及びトロンビン含有成分からなる場合が多く、これらの固有の不安定性のために冷凍保管される。時としてフィブリンシーラント製品は、2つのフリーズドライ成分からなり、これらは結合注射器又は他の二連式送達デバイスによって使用及び送達の直前に再構成を必要とする。フリーズドライ配合物は、典型的に安定しているが、フィブリノゲン成分は、再構成することが困難である。現在市場で入手可能な、又は開発中の多くの止血配合物は、多くの場合で凍結乾燥トロンビンと組み合わせて凍結乾燥フィブリノゲンを利用し、止血配合物は、乾燥粉末、半液体ペースト、液体配合物の形態で塗布されるか、又は任意に吸収性布地スカフォールド等の支持スカフォールド上に配置される。
【0010】
止血並びに組織封止及び接着特性が強化された包帯を提供するために、トロンビン、フィブリン、及びフィブリノゲンが挙げられるがこれらに限定されない治療剤が、ゼラチンベースの担体、多糖ベースの担体、グリコール酸又は乳酸ベースの担体、及びコラーゲンマトリックスを含む包帯の担体又は基材と組み合わせられている。
【0011】
発明の名称が「止血用組成物、装置、及び方法」(Hemostatic compositions, devices, and methods)である米国特許第8,858,969号は、止血装置であって、水性媒体中に分散された粘土を含む流動性止血用組成物を収容する内部エンクロージャを備えた、ボトル、バイアル、キャニスタ、チューブ、又はリザーバを含む容器であって、当該粘土の少なくとも約50%が、約1nm~10μmの粒径を有する粒子からなり、組成物が、少なくとも約12時間放置された際に認識可能な量の粘土粒子が液体から沈降しないような、視認可能な粘土粒子を実質的に含まない液体であり、組成物が滅菌されている、容器と、容器と流体連通する吐出要素と、を含み、装置は、吐出要素が、容器から、動物又はヒトの出血領域に止血用組成物を直接吐出することができるように構成されている、装置を開示している。
【0012】
発明の名称が、「創傷治療用製剤」(Formulations for Wound Therapy)である米国特許出願公開第2014/0369991号は、生体適合性、生分解性ポリマーの吸収性担体を含み、当該吸収性担体の少なくとも一部に、又は吸収性担体上に分散された医薬組成物であって、約0.1~15mg/cmの量のフィブリノゲン及び/又は約0.01~500IU/cmの量のトロンビンを含む微小粒子であって、ガラス質担体を更に含む微小粒子を含む医薬組成物を開示している。
【0013】
発明の名称が「各種の創傷又は火傷において出血、感染症を止め、治癒を加速するための組成物及び方法」(Composition and Method for Stopping Hemorrhage, Infection, and Accelerating Healing in Various Types of Wound or Burns)である米国特許公開第2016/0206773号は、イオン結合又は共有結合を介して、ヒアルロン酸及びアルギン酸の両方と架橋された少なくとも1つのポリマーを含むヒドロゲルマトリックスであって、少なくとも1つのポリマーが、キトサン、ポリL-リシン、又はこれらの組み合わせからなる群から選択される、ヒドロゲルマトリックスを含む組成物を開示している。
【0014】
「乾燥止血組成物」と題された米国特許第9,265,858号は、止血及び創傷治癒に使用するのに適した乾燥組成物を調製する方法を開示しており、この方法は、以下の順次の工程、すなわち、a)粉末形態の架橋生体適合性ポリマー、1つ以上のポリオール、及び水性媒体を提供する工程であって、1つ以上のポリオールが糖アルコール及び糖から選択される、工程と、b)生体適合性ポリマー、1つ以上のポリオール、及び水性媒体を混合してペーストを得る工程と、c)ペーストを凍結乾燥して乾燥組成物を調製する工程と、を含み、乾燥組成物は、機械的混合を行うことなく実質的に均質なペーストを形成するように再構成することができ、乾燥組成物は、10%w/w~60%w/wの1つ以上のポリオールを含む。
【0015】
発明の名称が「止血用外科用組成物及び包帯剤」(Hemostatic surgical compositions and dressings)である米国特許第2,772,999号は、血液を凝固させるための外科用組成物であって、止血量、少なくとも約2%の、少なくとも約0.5の置換度、及び0~60%の大まかな範囲であるがセルロースの遊離カルボキシル含有量がグルコース単位当たり少なくとも0.5となるような充分に低い中和度を有する遊離酸セルロースグリコール酸エーテル及び遊離酸セルロースヒドロキシプロピオン酸エーテルからなる群のセルロース誘導体を含む、外科用組成物を開示している。
【0016】
発明の名称が「アルデヒド変性多糖類を含有する止血創傷包帯」(Hemostatic wound dressing containing aldehyde-modified polysaccharide)である米国特許出願公開第2004/0101548号は、止血用創傷ドレッシング材であって、創傷に接触するための基材を含み、当該基材が、創傷接触表面と、生体適合性アルデヒド修飾多糖類と、を含み、当該創傷ドレッシング材が止血性である、止血用創傷ドレッシング材を開示している。
【0017】
発明の名称が「止血装置及びその製造方法」(Hemostatic devices and methods of making same)である欧州特許出願公開第EP1493451号は、約0.035~約4.35mmの平均指定公称粒径を有する生体適合性の酸化セルロース粒子と、生体適合性の多孔質水溶性又は水膨潤性の多糖類結合剤成分と、を含む組成物であって、当該組成物は、止血装置での使用に適している、組成物を開示している。
【0018】
発明の名称が「止血剤を含有する創傷用ドレッシング材及び創傷の治療方法」(Dressing for a wound containing a hemostatic agent and method of treating a wound)である、米国特許出願公開第3,328,259号は、ドレッシング材として開放病変を被覆するのに充分な大きさの可撓性本体を含む創傷用ドレッシング材であって、当該本体が、止血特性及びフィルム形成特性を有し、かつ創傷中の血漿と組み合わされて当該血漿と人工非水溶性痂皮を形成する特性を有する水溶性血漿可溶性セルロース誘導体を含有し、当該セルロース誘導体は、当該本体内に一体型の非個別形態で、当該本体がドレッシング剤が適用される湿性病変から滲出する血漿を凝固させるのに有効となるような割合で存在する、創傷用ドレッシング材を開示している。
【0019】
発明の名称が「生体適用可能な材料及びフィルム形成材料を含有する合成ポリペプチド」(Synthetic polypeptides containing bioapplicable material and film forming material)である、米国特許出願公開第2007/0207180号は、ポリペプチドを含有する生体適用可能な材料であって、ポリペプチドが、式:Pro-Y-Gly(式中、Yは、Pro又はHypを表す)によって表され、コラーゲン様構造を形成する合成ポリペプチドを含む、生体適用可能な材料を開示している。
【0020】
発明の名称が「止血用組成物、装置、及び方法」(Hemostatic compositions, devices, and methods)である、米国特許出願公開第2012/0070470号は、液体媒体中に分散された粘土を含む組成物を含む血液凝固剤であって、粘土が組成物の約10%未満であり、組成物が液体媒体を含み、粘土が約1000cP以下の粘度を有する、血液凝固剤を開示している。
【0021】
発明の名称が「急速血液凝固及び止血に有用な止血性ポリマー」(Hemostatic polymer useful for rapid blood coagulation and hemostasis)である米国特許公開第2002/0197302号は、出血部位での出血を止め、速やかな血液凝固及び凝塊形成を誘発するための方法であって、創傷表面と止血領域との間の界面における血液凝固及び凝塊形成を促進する止血促進量の止血剤を含有するマトリックスを含む乾燥ドレッシング材を当該出血部位に当該部位の速やかな血液凝固を誘導するのに充分な時間にわたって適用することと、当該出血部位の血液が凝固した後にドレッシング材を除去することと、を含む、方法を開示している。
【0022】
発明の名称が「血液凝固及び止血に有用な止血性ポリマー」(Hemostatic polymer useful for Rapid blood coagulation and hemostasis)である米国特許公開第2005/0226916号は、哺乳動物の出血部位の血液凝固を促進するための方法であって、多孔質高分子球を含む組成物を当該出血部位に適用することと、当該出血部位で当該血液凝固を生じさせることと、を含む、を開示している。
【0023】
発明の名称が「ヒアルロニック酸を含む止血組成物」(Haemostatic composition comprising hyaluronic acid)である中国特許公開第CN101001649A号は、生体吸収性材料及びヒアルロン酸(HA)又はその誘導体を含む止血用組成物を開示している。
【0024】
発明の名称が「ジエステル架橋ポリグルカンヒドロゲル及びその網状スポンジ」(A Diester crosslinked polyglucan hydrogels and reticulated sponges thereof)である米国特許第4,002,173号は、ジエステル架橋ポリグルカンのヒドロゲル組成物及びその調製方法に関する。
【0025】
発明の名称が「デンシチンを含有する練り歯磨き及び調製方法」「Toothpaste containing dencichine and preparation method」である中国特許出願公開第CN102379827A号は、その成分の1つとしてCMCを有する練り歯磨きに関する。
【0026】
発明の名称が「流動性止血用組成物を作製するプロセスとそのような組成物を含有する装置」(Process of making flowable hemostatic compositions and devices containing such compositions)である米国特許出願公開第2005/0037088号は、流動性止血組成物の製造プロセスであって、一定体積の生体適合性液体を、当該液体を混合するための手段を備えた混合容器内に導入することと、当該混合するための手段が当該液体及び当該気体を互いに混合して、当該液体を含む連続液相全体に実質的に均質に分散された当該ガスを含む不連続気相を含む発泡体を形成するのに効果的な条件下で動作する間に一定体積の生体適合性ガスを当該体積の液体に導入する工程と、止血に使用するのに適当な、当該液体中に実質的に不溶性である一定量の生体適合性ポリマーの固体粒子を当該発泡体に導入することと、当該連続液相全体に実質的に均質に分散された当該不連続気相と当該粒子とを含む実質的に均質な組成物を形成するのに効果的な条件下で当該発泡体と当該固体粒子とを互いに混合することと、を含み、当該体積の液体と、当該体積の気体と、当該量の固体粒子との比が、当該実質的に均質な組成物に止血特性を与えるのに有効であり、それにより当該流動性止血組成物を形成する、プロセスを開示する。
【0027】
発明の名称が「止血用組成物及び装置」(Hemostatic compositions and devices)である米国特許出願公開第2005/0284809号は、複数の充填された粒子であって、同じ材料の複数の非充填粒子と比較して、生理学的液体又は水性媒体と接触させられる際に間隙孔中への生理学的液体又は水性媒体の吸収を改善するのに効果的な孔体積及びメジアン孔径を有する間隙孔を含み、当該粒子は、生体適合性材料を含み、止血を要する哺乳動物の身体の部位を止血する使用に適したメジアン直径を有する、複数の充填された粒子を開示している。
【0028】
発明の名称が「創傷ゲル」(Wound Gel)である米国特許出願第7,083,806号は、予め架橋されたゲル化剤と、水と、ポロキサマーと、を含むヒドロゲルであって、当該ポロキサマーの濃度がヒドロゲルの10~25重量%であり、ゲル化剤が少なくとも1つの架橋超吸収性多糖類を含み、当該ヒドロゲルが、周囲温度~35℃の温度で熱誘導性粘性化を示し、当該ヒドロゲルが、既に存在する水に加えて少なくとも50%の更なる水を吸収する能力を有し、ヒドロゲル中の水の存在を特定する、ヒドロゲルを開示している。
【0029】
発明の名称が「酸多糖類の誘導体」(Derivatives of acid polysaccharides)である、欧州特許出願公開第1942117(A1)号は、非多糖カルボン酸との部分エステルと、最初の多糖の酸基と反復単位のアルコール基との間のエステルとが同時に存在することにより特徴付けられ、多糖鎖間に架橋が形成された酸多糖類を開示している。
【0030】
発明の名称が「ヒドロゲルの製造方法」(Method for producing hydrogels)である米国特許第9,353,191号は、(a)少なくとも0.5g/cmのタップ密度と、(b)37℃で少なくとも約50の擬似胃液/水(1:8)中の媒体取り込み比と、を特徴とする、クエン酸によって架橋されたカルボキシメチルセルロースから本質的になるポリマーヒドロゲルを開示している。
【0031】
発明の名称が「ポリマーヒドロゲル及びその調製方法」(Polymer hydrogel and methods of preparation thereof)である米国特許第8,658,147(B2)号(また、欧州特許出願公開第EP2532685(A1)号)は、肥満の治療を要する対象の肥満を治療する方法であって、クエン酸によって共有結合架橋されたカルボキシメチルセルロースを含む治療有効な量のポリマーヒドロゲルを対象に経口投与する工程を含む、方法を開示している。
【0032】
発明の名称が「皮膚収縮を低減する、迅速な創傷治癒のために最適な水分環境を与える局所抗生物質組成物」(Topical antibiotic composition providing optimal moisture environment for rapid wound healing that reduces skin contraction)である米国特許第5,905,092号は、創傷の治療用の組成物を開示しており、この組成物は、乾燥する創傷中の含水量の増加を促進し、過剰な滲出液を有する創傷中の含水量の低減を促進することにより創傷の湿潤環境を与えることが可能な局所用半固体であって、その初期適用重量の少なくとも約30%まで水を含むことが可能である一方で、非吸収性の表面上に放置された場合に、それらの適用重量の少なくとも約70%を2時間保持することも可能である溶媒を含む、局所用半固体と、抗生物質製剤と、少なくとも60%重量の水と、を含み、当該局所用半固体は、約10重量%~約20重量%の多価アルコールと、約0.5重量%~約10重量%の、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、架橋アクリル酸ポリマー、PVM/MAデカジエンクロスポリマー、及びアクリル酸アンモニウム/アクリロ窒素からなる群から選択される2種以上のゲル化剤のそれぞれと、を含む。
【0033】
発明の名称が「カテリシジンポリペプチドを含む創傷ケア製品」(Wound Care Product Comprising a Cathelicidin Polypeptide)である米国特許出願公開第2013/0108682号は、創傷ケア材料と、創傷治癒特性を有するポリペプチドと、を含む創傷ケア製品であって、創傷治癒特性を有するポリペプチドが、当該カテリシジンの創傷治癒活性を少なくとも部分的に保持するカテリジン、又はそのフラグメント、変異体、若しくは融合体である創傷ケア製品を開示している。
【0034】
発明の名称が「殺生物組成物及びその使用方法」(Biocidal compositions and methods of using the same)である米国特許第8,829,053号は、少なくとも0.05重量%の量の少なくとも1種のポリマービグアニドと、0.01重量%~1重量%の濃度のキレート剤と、少なくとも1つのモノアルキルグリコール及び少なくとも1つのモノアルキルグリセロールを含むビシナルジオール成分と、を含む抗菌組成物であって、当該少なくとも1つのポリマービグアニドと当該ビシナルジオール成分との重量比が、1:0.05~1:500の範囲であり、当該抗菌組成物が抗菌組成物による処置の10分以内にバイオフィルム中の生物の少なくとも99.99%を殺滅する、抗菌性組成物を開示している。
【0035】
発明の名称が「止血用材料」(Haemostatic Material)である米国特許出願公開第2014/0105950号は、止血剤と生物接着剤とを含む止血用材料であって、止血剤が、酸化再生セルロース、カオリン、ゼラチン、カルシウムイオン、ゼオライト、コラーゲン、キトサン、及びキトサン誘導体からなるリストから選択される、止血用材料を開示している。
【0036】
Christian Demitriらによる論文「Novel Superabsorbent Cellulose-Based Hydrogels Crosslinked with Citric Acid」Journal of Applied Polymer Science,Vol.110,2453~2460(2008)は、セルロースから誘導され、したがって再生可能資源から誘導され、生分解性特性によって特徴付けられる、新たな環境に優しいヒドロゲルの調製法について開示している。カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMCNa)及びヒドロキシエチルセルロース(HEC)の2つのセルロース誘導体を超吸収性ヒドロゲルの調製に使用した。他の架橋試薬にともなう毒性及びコストを克服することができる架橋剤としてクエン酸(CA)を、熱活性化反応に選択した。示差走査熱量計(DSC)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、及び膨潤測定を反応進行中に行って、各ポリマーとのCA反応性を調べた。また、CAによって架橋されたCMCNa/HECポリマー混合物(3/1w/w)を検討し、以前の結果と比較した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
塗布のし易さ及び止血の迅速な開始を容易にする、改善された止血形態及び材料が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0038】
本発明は、架橋カルボキシメチルセルロース(CMC)と、少なくとも1つの非毒性分散剤と、を含む流動性止血用ペーストに関する。非毒性とは、本出願の目的では、1つ以上の食品及び/又は薬物関連規制機関によって「一般的に安全であると見なされる」(GRAS)(generally regarded as safe)材料であるが、現在の又は将来のかかるGRAS材料のみに限定されるものではなく、同様の安全特性及びヒトによる消費の妥当性を共有する他の材料も含むことができる。止血用ペーストは、典型的に、吸収性、膨潤性、かつ生分解性である。CMCは、いくつかの実施形態では、多官能性カルボン酸によって架橋され、酸は、いくつかの実施形態では、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0039】
本発明の一態様によれば、例えば、グリセロールと、プロピレングリコール及び1,3-ブタンジオールからなる群から選択される少なくとも1つの更なる分散剤との実質的な無水ブレンド中に懸濁又は分散された、キセロゲル架橋多糖類、例えば、粉砕架橋多糖類を含む流動性止血用ペーストが提供される。
【0040】
「実質的な無水ブレンド」なる用語は、ブレンド中の含水量が約5重量%を超えないことを意味するものとする。
【0041】
いくつかの実施形態では、多糖類は、粉砕された多糖類を含む。
【0042】
「粉砕された」なる用語は、例えば粉末形態に磨り潰されることに関する。
【0043】
「止血」なる用語は、血液凝塊形成を促進することによって、例えば、外科的創傷又は外傷性創傷などの創傷からの血液損失を防止、低減、又は停止する能力を指す。
【0044】
いくつかの実施形態では、ペーストは、静止状態かつ室温で中度の粘度を有する。いくつかの実施形態では、ペーストは、架橋多糖類の実質的に均質な分散液を与える。
【0045】
本明細書では「静止した」なる用語は、例えば静止状態にあるような、撹拌又は流動しない状態に使用される。
【0046】
本明細書で使用するところの「室温」なる用語は、約20℃~約30℃、例えば、20~25℃の範囲の少なくとも1つの温度を意味すると理解されるべきである。
【0047】
「均質な分散液」なる用語は、均一な混合物、すなわち、肉眼で識別可能な混合物中の2つ以上の相の分離がないことを指す。
【0048】
本明細書で使用するところの「実質的に均質な分散液」なる用語は、分散液の総量の少なくとも90%、場合により少なくとも99%、少なくとも99.9%が均一な混合物であることを意味する。
【0049】
本明細書で使用するところの「中度の粘度」なる用語は、ペーストが高せん断力(例えば、約100~10001/sのせん断速度によって特徴付けられる)下で相対的に低い粘度(例えば、1~10、又は1~5Pa・s)によって特徴付けられることを意味し、その結果、ペーストを、塗布時に容易に搾り出すことができることを意味する。いくつかの実施形態では、ペーストはまた、静止状態での高い粘度(例えば、5~約35Pa・s超)によっても特徴付けられ、これにより、ペーストが組織にしっかりと接着することができる。
【0050】
したがって、いくつかの実施形態では、i.グリセロールを含有する第1の分散剤と、ii.第2の分散剤、場合により、プロピレングリコール及び1,3-ブタンジオール又はこれらの混合物からなる群から選択されるアルコール官能化分散剤の実質的に無水のブレンド中に分散されたキセロゲル架橋粉砕多糖類であって、ペーストが静止状態かつ室温で中度の粘度を有し、かつ架橋多糖類の実質的に均質な分散液を与える、キセロゲル架橋粉砕多糖類を提供する。
【0051】
いくつかの実施形態では、グリセロールを含有する分散剤は、吸湿性である。
【0052】
いくつかの実施形態では、分散剤は非毒性である。「アルコール官能化」なる用語は、少なくとも単一のヒドロキシル基を含む化合物を意味する。
【0053】
いくつかの実施形態では、止血用ペーストは、35重量%~65重量%のクエン酸架橋CMCを含み、このCMCは、ブレンド、例えば、グリセロールを含む第1の非毒性吸湿性分散剤と、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール又はこれらの混合物を含む第2の非毒性分散剤との混合物中に懸濁されるか又は分散される。いくつかの実施形態では、グリセロールは、濃い液体の形態で医薬品等級の実質的に純粋な100%グリセロールである。
【0054】
いくつかの実施形態では、架橋多糖類は、多官能性カルボン酸を介した反応によって架橋されたCMCを含み、酸は、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、若しくはアジピン酸、又はこれらの任意の混合物からなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、酸はクエン酸を含む。
【0055】
いくつかの実施形態では、架橋CMCは、100マイクロメートル未満の平均粒径又は中央粒径を有する粉末を含む。いくつかの実施形態では、ペーストは実質的に水を含まないか、又は実質的に無水である。いくつかの実施形態では、ペーストは、中和アルカリ性剤を更に含む。
【0056】
いくつかの実施形態では、ペーストは、5%未満、又は1%未満の水を含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、ペーストは、これに限定されるものではないが、水酸化ナトリウムなどのアルカリ性剤を更に含む。
【0058】
いくつかの実施形態では、アルカリ性剤は、約0.1~3重量%で存在する水酸化ナトリウムを含む。
【0059】
いくつかの実施形態では、グリセロール含有分散剤は、ペースト中に10重量%~30重量%で存在し、当該第2の分散剤は、10重量%~30重量%でペースト中に存在する。
【0060】
いくつかの実施形態では、ペーストのプロピレングリコールとグリセロールとの重量比はそれぞれ約1:0.5~約1:2である。
【0061】
いくつかの実施形態では、当該ペーストは、約49~55(w/w)%、例えば53(w/w)%のクエン酸架橋CMCと、約18~30(w/w)%のグリセロールと、約15~32%又は15~30%のプロピレングリコールと、を含む。
【0062】
いくつかの実施形態では、クエン酸架橋CMCとグリセロール含有分散剤との重量比は、それぞれ約0.9~1.25である。
【0063】
いくつかの実施形態では、ペーストは、可撓性生体吸収性シートである基材上に支持される。いくつかの実施形態では、基材は、酸化セルロース及び/又はポリグラクチン910を含む。
【0064】
シート及び/又は基材との関連での「可撓性」なる用語は、破断することなく折り曲げること又は丸めることができる材料に関連する。
【0065】
「生体吸収性」なる用語は、体内から除去されるか又は代謝される非毒性産物へと移植後に体内で分解される組織適合性材料の能力を指す。
【0066】
「酸化セルロース」(又は「OC」)なる用語は、一級アルコール基の少なくとも一部、例えば、無水グルコース単位の6位の炭素がカルボン酸に酸化され、場合により官能化されたセルロース誘導体を指す。OCは、酸化剤をセルロースに適用することによって生成することができる。酸化剤は、これらに限定されるものではないが、塩素、過酸化水素、過酢酸、二酸化塩素、二酸化窒素、過硫酸塩、過マンガン酸塩、二クロム酸塩-硫酸、次亜塩素酸、次亜ハロゲン酸、過ヨウ素酸塩、又はこれらの任意の組み合わせ、及び/又は各種の金属触媒から選択することができる。酸化セルロースは、酸化剤の性質及び反応条件に応じて、出発物質であるセルロースの元のヒドロキシル基の代わりに、又はそれに加えて、カルボン酸、アルデヒド、及び/又はケトン基を含有してもよい。いくつかの実施形態では、OCは、酸化再生セルロース(ORC)を含む。
【0067】
いくつかの実施形態では、ペーストは、絞り出せるチューブに入れられる。
【0068】
本発明の別の態様によれば、流動性止血用ペーストの製造方法であって、100マイクロメートル未満の平均粒径又は中央粒径を有する粉末の形態で架橋CMCを与える工程と、グリセロールをCMC粉末に添加し、均質な生地様材料が形成されるまでグリセロールを粉末と混合する工程と、プロピレングリコールを生地様材料に添加し、プロピレングリコールを生地様材料と充分に混合する工程と、これにより、当該粉末状止血組成物を形成する工程と、を含む方法が提供される。
【0069】
本発明の別の態様によれば、流動性止血用ペーストの製造方法であって、CMCをクエン酸と水の存在下で混合し、CMCをクエン酸と高温、例えば、約65℃などの40℃よりも高い温度で反応させることにより、CMCを架橋する工程と、架橋CMCを実質的に乾燥させる工程と、架橋CMCを、100マイクロメートル未満の平均粒径又は中央粒径を有する粉末にまで粉砕する工程と、グリセロールをCMC粉末に添加し、均質な生地様材料が形成されるまでグリセロールを粉末と混合する工程と、プロピレングリコールを生地様材料に添加し、プロピレングリコールを生地様材料と充分に混合する工程と、これにより、粉末状止血組成物を形成する工程と、を含む方法が提供される。
【0070】
いくつかの実施形態では、乾燥する工程は、CMC及び酸混合物を60℃超、又は100℃超、例えば約140℃まで加熱することによって行われる。いくつかの実施形態では、加熱する工程は、例えば、予熱したインキュベータ内で25分間にわたって行われる。いくつかの実施形態では、加熱する工程により、架橋を行うことができる。典型的には、乾燥する工程の前に混合物は生地様であり、加熱後に混合物は硬質材料になり、粉砕装置によって粉砕することができる。
【0071】
いくつかの実施形態では、本方法は、CMCキセロゲルに添加する前に、中和アルカリ性剤を65℃を超える温度でグリセロール含有分散剤に溶解する工程を更に含む。
【0072】
別の態様によると、その一実施形態による止血用ペーストを含有する創傷ドレッシング材の製造方法であって、可撓性生体吸収性シート基材の少なくとも1つの面上に当該止血用ペーストを塗布する工程を含む方法が提供される。
【0073】
別の態様によれば、その一実施形態による止血用ペーストを含有する創傷ドレッシング材の製造方法であって、可撓性生体吸収性シートが、織布メッシュ、構造化フェルト、非構造化フェルト、フィルム、粉末、又はこれらの任意の組み合わせの形態であり、酸化セルロース、止血用ポリマーブレンド、又はこれらの混合物の1つ以上の層を含む方法が提供される。
【0074】
「ポリマーブレンド」なる用語は、ホモポリマー、コポリマー(例えば、ブロック、グラフト、ランダム及び交互コポリマー)、ターポリマーなど、並びに固体又は固溶体の形態であるこれらの混合物及び変性物を含むがこれらに限定されないポリマー樹脂の混合物を意味する。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態によると、その一実施形態において止血用ペーストを使用する方法であって、オプションとして可撓性吸収性シート基材上に支持された止血用ペーストを、出血組織若しくは創傷上、又は出血組織若しくは創傷内に塗布する工程を含む、方法が提供される。
【0076】
本発明のいくつかの実施形態によると、創傷又は出血組織を治療するための方法におけるその一実施形態の止血用ペーストの使用であって、オプションとして可撓性吸収性シート基材上に支持されたその一実施形態の止血用ペーストを、創傷又は出血組織に塗布することを含む。
【0077】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び/又は科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般的に理解されている意味と同一の意味を有する。本明細書に記載されているものと同様又は同等の方法及び材料を、本発明の実施形態の実行又は試験に使用することが可能であるが、代表的な方法及び/又は材料を以下に記載する。矛盾のある場合、定義を含め本特許明細書が適用される。なお、材料、方法、及び実施例は、単に例示的なものであり、必ずしも限定を意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】架橋カルボキシメチルセルロース(CMC)の合成(140℃で25分間実施)の模式的な経路を示す。
図2】止血用ペーストがチューブから基材上に押し出される際の止血用ペーストを示す写真図である。
図3】血漿、生理食塩水、及び水中での浸漬後1分及び2.5分におけるCMC-CAキセロゲルの膨潤を示す(「CMC-CA」は、クエン酸により架橋されたCMCを示す)。
図4】浸漬後1分及び2.5分で水に曝露された際に異なるカルボン酸によって架橋されたCMCベースのキセロゲルの膨潤を示す。
図5】クエン酸による異なる多糖類の架橋によって調製されたキセロゲルの膨潤を、脱イオン(DI)水、生理食塩水又はブタ血漿中での膨潤について比較図に示す。
図6】10%(中間パネル)及び20%の水(右パネル)を含有するペーストに対して吸湿性の又は水を含まないペースト(左パネル)を示す写真図を示す。
図7】切り開かれた吐出チューブ内の5%(左パネル、チューブから搾り出すことが困難であった)及び10%(右パネル、数日後にゴム状物質に変化した)の水を含有するヒドロゲルペーストを示す写真図を示す。
図8】せん断速度の関数として、本止血用ペーストの異なる配合物の粘度を示すチャートを示す。
図9】穿刺創傷を含む動物モデル出血部位上のCMC-CA粉末を示す写真図を示す。
図10】創傷部位に正確に送達された止血用ペーストを示す写真図を示す。
図11】穿刺モデルに塗布されたCMC-CA粉末を示す写真図を示す。
図12】CMC-CA粉末形成ヒドロゲルの走査型電子顕微鏡(SEM)顕微鏡写真図を示す。バーは100μmである。
図13】肝臓穿刺モデル上に塗布された本発明の止血用ペーストを示す写真図を示す。
図14】粒径100μm~300μmを含有する、押し出された止血用ペーストを示す写真図を示す。
図15】粒径100μm未満のCMC-CAキセロゲル粉末の顕微鏡写真図である。バーは100μmである。
図16】非架橋CMCを含有する止血用ペーストの試験結果を示す写真図を示す(比較例:左パネル:1分、右パネル:30分)。
図17】CMC-CAを含有する止血用ペーストの試験結果を示す写真図を示す(比較例:左パネル:1分、右パネル:30分)。
図18】CA架橋カルボキシメチルデンプンを含有する止血用ペーストの試験結果を示す写真図を示す(比較例:左パネル:1分、中央パネル:30分;右パネル:ペーストをピンセットで取り出した後)。
図19】組織に対する接着性の試験を提示する写真図を示す(左パネル:マトリックス上にペーストを広げたもの;右パネル:肝組織上の接着性の試験)。
図20】肝臓パンチモデルへの塗布前(上パネル)、塗布中(中央パネル)、及び塗布後(下パネル)の本発明のCMC-CAベースの止血用ペーストを示す写真を示す。
図21】市販の酸化再生セルロース(ORC)ベースの不織布パッドに塗布された、本発明のCMC-CAベースの止血用ペーストを示す写真図を示す。
図22】市販のORCベースの不織布パッドに塗布されたCMCベースの止血用ペースト、並びに得られた複合体の、肝組織片への接着についての試験前(左パネル)及び肝組織片と接触させた後(右パネル)の写真図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0079】
本発明は、概して、止血及び組織封止を促進するための薬剤及び材料に関し、より詳細には、架橋カルボキシメチルセルロースと1つ以上の分散剤との混合物を含むペーストの形態の速膨潤性の高吸収性止血用組成物、並びにかかる止血組成物の製造方法及び使用方法に関する。
【0080】
本発明の実施形態は、速膨張性、超吸収性、生分解性の止血用ペーストに関する。いくつかの実施形態では、止血用ペーストは、少なくとも3つの成分を含む。第1の成分は、クエン酸などの多官能性カルボン酸(あるいは、これらに限定されるものではないが、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、又はアジピン酸)を使用してカルボキシメチルセルロース(CMC)を架橋することによって合成されるキセロゲル粉末を含む。ゲルの液相が蒸発によって除去される際にキセロゲルが得られる。キセロゲル粉末は、典型的には、90%を超える(>)収縮率を示す。
【0081】
架橋CMCは、体液と接触して配置される際にヒドロゲルを形成することができる。ヒドロゲルは、親水性であるポリマー鎖の網状組織であり、水が分散媒であるコロイドゲルとして見出されることがある。止血用ペースト中の架橋CMCの濃度は、約35w/w%~65w/w%の範囲である。第2の成分は、約10w/w%~30w/w%のグリセロール含有分散剤を含む。第3の成分は、プロピレングリコール又は1,3-ブタンジオールなどの10w/w%~約30w/w%のアルコール官能化分散剤を含む。止血用ペーストは、軽度又は中度の出血を治療するために生体適合性となっている。
【0082】
一実施形態によれば、速膨潤性、超吸収性の生分解性止血用ペーストは、第1の非毒性グリセロール含有吸湿性分散剤と、いくつかの実施形態においてプロピレングリコール又は1,3-ブタンジオールを含む、第2の非毒性の場合によりアルコール官能化された分散剤との混合物中に実施例のセクションに示されるように微粉末として懸濁又は分散された35%~65%のクエン酸(又は同様の多官能性カルボン酸、例えば、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、又はアジピン酸)により架橋されたカルボキシメチルセルロースを含む。ペーストとは、本出願の目的では、平坦で拘束されていない平坦な表面上に置かれた場合に室温で連続的な単一形態を維持するのに充分な粘度及び凝集力を有する流動性材料を意味する。まとまった量の砂又は同様の粒子の集合は、個々の粒子が互いに対する充分な凝集力を欠くため、ペーストではない。本発明の製剤は、水又は無水物を実質的に含まない。いくつかの実施形態では、分散剤はどちらも親水性である。
【0083】
乾燥架橋CMCキセロゲルは、大量の水、生理食塩水又は生理学的液体形成ヒドロゲルを吸収することができる三次元の架橋ポリマーの網目構造を有する。強力な浸透圧作用は接触時に血液を脱水してゲル化し、乾燥キセロゲル体積の20倍超まで膨潤させて創傷を充填し、密閉された創傷空間内に「背圧」を生じさせ、タンポナーデ効果と同様の効果を与えて自然の凝固プロセスを促進する。本発明のペーストの流動性及び可撓性はまた、狭い空間へのアクセス、及び平らでない表面へのその塗布を確実とするため、術中の出血又は滲出に対処するのに有用な材料となっている。本ペーストは、組織の割れ目又は洞内の出血など、アクセスが困難な創傷に特に適している。
【0084】
代替的な実施形態では、本発明のペーストは、創傷表面を被覆するための機械的強度を与えるための裏材、パッド、スカフォールド、又はマトリックスとともに使用することもできる。この場合、本ペーストは、塗布又はタンポナーデを容易にするためにパッド上に支持される。
【0085】
別の実施形態では、本止血用ペーストは、例えば薬物送達ビヒクルとして活性剤を時限放出又は遅延放出させるために使用することができる。組成物は、増殖因子、抗生物質、局所麻酔剤、並びに創傷治癒を改善し、感染を予防し、又は痛みを緩和するうえで有用な任意の薬剤を含むことができる。トロンビン、フィブリノゲンなどを含む、凝固活性化剤、血小板活性化剤、又は血管収縮剤、フィブリン溶解機能阻害剤などを添加することにより、ペーストの止血効果を更に改善することができる。
【0086】
本発明の実施形態によると、本止血用ペーストは、無水かつ吸湿性である。止血用ペーストは、水、血液などの液体を吸収することができ、上記で述べたように膨張、又は膨潤して(下記実施例2も参照)、5、20、30、50、120秒、又は300秒以内、例えば5~30秒以内など、秒単位でヒドロゲルを形成することができる。
【0087】
いくつかの実施形態では、キセロゲル粉末粒子は、止血用ペーストの分散剤成分中に懸濁される。得られるペーストは流動性であり、平らでない表面又は狭い空間内に/上に堆積され得る。
【0088】
キセロゲルを形成するペーストの主成分は、クエン酸により架橋されたカルボキシメチルセルロースであり、機械的安定性を向上させる。いくつかの多糖類は、未変性状態では高い吸収能力を示すが、これらの多糖類は、膨潤が温水中のみで生じ、溶解が生じ得るという欠点を有する。かかる未変性/未架橋多糖類は、機械的安定性が低く、分解、及び/又は老化、及び/又はシネレシス(液体の分離を伴うゲルの収縮)を生じ得る。
【0089】
本発明者らは、有利に架橋されたCMC粒子は、粒子がまだ、血液、血漿、水、体液を速やかに吸収できる一方で、無水であるが親水性のグリセロール及びプロピレングリコールである分散剤を、グリセロール及びプロピレングリコールは親水性であるにもかかわらず、吸収しないことを観察した。
【0090】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、非水性溶媒/担体/分散剤は、架橋された網目構造粒子の外側にあり、液体を吸収する能力に影響を及ぼさないはずである。吸収は、予備膨張又は予備負荷をなくすことによって最大化されるようである。粒子は、膨潤せず、又は選択された溶媒/担体/分散剤を吸収しないが、血漿が与えられると速やかに膨潤して、血漿成分の最大%を吸収することができる。架橋反応溶液中のソルビトールなどの化合物が存在すると、ソルビトールが架橋された網目構造内に閉じ込められる可能性がある。閉じ込められたソルビトールは、その後、網目構造が連結するための空間を占有することによって過剰な架橋を防止する働きをし、架橋された粒子中に水を引き寄せることによって、粒子全体の親水性を変化させることもできる。したがって、いくつかの実施形態では、本システムは、ソルビトール又は類似の化学部分及び/又は賦形剤を含まない。選択される溶媒/担体/分散剤は、架橋された網状粒子を、吸収しようとする血漿成分から遮蔽してはならない。
【0091】
本発明全体を通じて使用される「約」なる用語は、±10%を意味する。
【0092】
「~を含む(comprises)」、「~を含んだ(comprising)」、「~を含む(includes)」、「~を含んだ(including)」、「~を有する(having)」なる用語及びそれらの同根語は、「~を含むが、それらに限定されない(including but not limited to)」ことを意味する。用語「~からなる(consisting of)」は、「包含し、限定される(including and limited to)」ことを意味する。用語「~から本質的になる(consisting essentially of)」とは、組成物、方法又は構成が、追加の成分、工程及び/又は部分を含み得ることを意味するが、追加の成分、工程及び/又は部分が、特許請求される組成物、方法又は構成の基本的かつ新規の特性を実質的に変えない場合に限る。
【0093】
単語「代表的な」とは、本明細書では、「実例、事例又は例証としての役割を果たす」ことを意味する。「代表的な」として記載される任意の実施形態は、その他の実施形態よりも好ましい又は有利であると必ずしも解釈される必要はない、及び/又はその他の実施形態からの特徴の組み込みを必ずしも排除する必要はない。
【0094】
本明細書では、単語「所望により(optionally)」は、いくつかの実施形態では提供され、その他の実施形態では提供されないことを意味する。本発明の任意の特定の実施形態は、このような特徴が矛盾しない限り、複数の「任意の」特徴を含んでもよい。
【0095】
本発明で使用する場合、その内容に別段の明確な指示がない限り、単数形「a」、「an」及び「the」は複数の指示物を含むものとする。例えば、用語「化合物(compound)」又は「少なくとも1つの化合物(at least one compound)」は、これらの混合物を含む複数の化合物を含んでよい。
【0096】
本出願全体を通して、本発明の種々の実施形態が範囲形式にて提示されてもよい。範囲形式の説明は単に便宜上及び簡潔さのためのものであり、本発明の範囲上の確固とした制限として解釈されるべきではない、と理解すべきである。したがって、範囲の説明は、全ての可能な部分範囲、並びにその範囲内の個々の数値を具体的に開示していると見なされるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの具体的に開示される部分範囲、並びにその範囲内の個々の数、例えば、1、2、3、4、5、及び6を有すると見なされるべきである。これは、範囲の広さにかかわらず適用される。
【0097】
数値範囲が本明細書に示される場合はいつでも、示された範囲内の任意の引用された数字(分数又は整数)を含むことを意味する。用語、第1の表示番号と第2の表示番号との「間の範囲(ranging)/範囲(ranges)」、及び第1の表示番号「から」第2の表示番号「までの範囲(ranging)/範囲(ranges)」が本明細書で互換的に使用されるが、これは、第1及び第2の表示番号並びにこれらの間の全ての分数及び整数を含むことを意味する。
【0098】
本発明で使用する場合、用語「方法」とは、所与のタスクを達成するための方法、手段、技術及び手順を意味し、化学的、薬理学的、生物学的、生化学的及び医学的分野の施術者による周知の方法、手段、技術及び手順として知られるか、又は容易に開発されるか、のいずれかの方法、手段、技術及び手順のようなものを含むが、これらに限定されない。
【0099】
本発明で使用する場合、用語「治療する(treating)」は、病状の進行を抑制すること、実質的に阻害すること、緩徐化すること、若しくは逆行させること、状態の臨床症状若しくは審美的症状を実質的に改善すること、又は状態の臨床症状若しくは審美的症状の外観を実質的に予防することを含む。
【0100】
「A、B、及びCなどのうちの少なくとも1つ」に類する表記が用いられる場合、一般に、このような構文は、当業者がその表記を理解するであろう意味で意図されている(例えば、「A、B、及びCのうちの少なくとも1つを有するシステム」は、限定するものではないが、Aのみ、Bのみ、Cのみ、AとBの両方、AとCの両方、BとCの両方及び/又はAとBとCの全てなどを有するシステムを含む)。更に、実質上、2つ若しくはそれ以上の選択的な用語を表すあらゆる選言的な語及び/又は句は、明細書内であろうと、請求の範囲内であろうと、あるいは図面内であろうと、それら用語のうちの1つ、それらの用語のうちのいずれか、又はそれらの用語の両方を含む可能性を意図すると理解されるべきであることが、当業者には理解されよう。例えば、語句「A又はB」は、「A」若しくは「B」又は「A及びB」の可能性を含むものと理解されよう。
【0101】
本発明の特定の特徴は、明確性のために別個の実施形態の文脈において記載されているが、これはまた、単一の実施形態において組み合わせて提示されてもよいことが理解されている。逆に、本発明の様々な特徴は、簡潔さのために、単一の実施形態の文脈において記載されているが、これはまた、別個に、若しくは任意の好適な部分的組み合わせで、又は本発明の任意のその他の記載される実施形態において好適にもたらされてもよい。種々の実施形態の文脈において記載される特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしには動作不可能である場合を除き、それらの実施形態の必須特徴であるとして考慮されるべきではない。
【0102】
本明細書の上記で詳述され、以下の特許請求の範囲において特許請求されるような、本発明の種々の実施形態及び態様は、以下の実施例における実験的な支持を見出す。
【0103】
ここで、本発明を以下の非限定的実施例により実証する。
【実施例
【0104】
実施例1 止血用ペースト及びペースト組成物の製造
図1を参照すると、架橋カルボキシメチルセルロース(CMC)の合成のための1つの模式的経路が示されており、初期試薬はCMCナトリウム塩(CMC-Na)及びクエン酸(CA)であり、反応は、あくまで一例として、140℃で25分間行い、架橋CMC(CMC-Na-CA)を得る。次いで、キセロゲル又は乾燥圧縮ヒドロゲルと呼ばれる、乾燥された架橋CMCを、本発明の高吸収性(超吸収性)止血用ペーストを形成するための成分として使用する。
【0105】
一実施形態では、CMCは、以下のようにクエン酸によって架橋した。CMCのナトリウム塩(供給元:Shanghai Aladdin biochemical Technologies Co.Ltd,中国)をヒドロゲルの合成に使用した。0.025の架橋剤比Fzを使用した。Fzは、架橋剤の量を無水グルコース単位の量で割ったものとして定義される。まず、架橋剤を蒸留水に溶解した後、CMCで完全に均質化し、均質な生地様製品を得た。次いで、生地様製品を小さな塊に刻んだ。生成物を、予熱したオーブン内で140℃で25分間加熱して架橋を行った。得られた生成物を70℃で一晩乾燥させてから、100μm未満の平均粒径又は中央粒径にまで粉砕した。
【0106】
次いで、得られた架橋CMC粉末を、以下のように分散剤と混合した。グリセロール(いくつかの実施形態では、1%のNaOHを含有する)を粉末に添加し、全ての粉末粒子がグリセロールでコーティングされるまで混合/撹拌し、生地様ペーストを形成した。次いで、プロピレングリコールを上記ペーストに添加し、混合/撹拌して、最終的な流動性の止血用ペーストを形成した。
【0107】
水酸化ナトリウムをグリセロールに添加して遊離酸を中和する。水酸化ナトリウム成分は、未反応のクエン酸及びカルボキシメチルセルロースのポリカルボン酸基を中和することによって、製剤を化学的に安定化させると考えられる。望ましくないことに、クエン酸及び架橋CMC中のカルボン酸基は、プロピレングリコール中のヒドロキシル基と反応してエステル化反応をもたらし、時間の経過とともにペーストの硬化を引き起こす。水酸化ナトリウムは、架橋CMCの吸水性及び膨潤性を改善することが更に期待される。
【0108】
一実施形態によれば、グリセロールは、pHを調整するために約1%の水酸化ナトリウムを溶解して使用した。NaOHを、例えば約65℃などの高温でグリセロールに加えると急速に溶解し、20~25℃の周囲温度まで冷却しても沈殿を生じない。NaOHを加えたグリセロールのpHは5.7として測定され、pHを加える前のpHは5.18であった。
【0109】
いかなる理論にも束縛されるものではないが、水酸化ナトリウムの添加は、最終的な止血用ペーストの性能及び安定性を改善することができる。CMC-CA中の-COOH基は、プロピレングリコールの-OH基と反応し、ペーストの安定性を制限する傾向がある。したがって、NaOHの使用により、-COOH基が少なくとも部分的に中和された製剤が与えられる。しかしながら、NaOHをCMC-CAペーストに単純に添加するだけでは、このような少量のNaOH粉末では、CMC-CA粉末のマトリックス全体に均一かつ均質にNaOHを分散することは事実上不可能である。これに対して、NaOHを水に溶解してから水溶液として添加することも、ペースト配合物が無水でなければならないためにうまくいかない。少量の水であってもCMC-CA粉末と接触して存在すると、粉末を膨潤させ、創傷に塗布される際に血液を速やかに吸収する能力を損なう恐れがある。
【0110】
本発明の止血用ペーストの場合、分散剤は無水であることが有利である。本発明の実施形態によれば、分散剤の選択において重要な要件は、無毒性で、無水であり、NaOHを溶解し、及び生体適合性であることである。NaOHは室温ではグリセロール中に非常に難溶性である(すなわち、室温でNaOHを溶解させることは極めて困難である)ことが分かっているが、本発明者らは、約65℃でNaOHをグリセロールに容易に溶解することができ、その後、冷却すると沈殿しないことを発見した。表1は、グリセロール中のNaOHの溶解度を温度の関数として示す。完全溶解は、少なくとも65℃で観察された。
【0111】
【表1】
【0112】
本発明者らは、グリセロール中に1%のNaOHを溶解した後、この溶液を使用して製剤を部分的に中和し、安定性及び膨張性を改善した。上記のように、pHを5.18~5.71に調整した。
【0113】
表2を参照すると、止血用ペーストの組成が示されている。成分は全て生体適合性である。
【0114】
【表2】
【0115】
図2を参照すると、本発明の止血用ペーストの外観が、ペーストがチューブから基材上に押し出されている様子として示されている。ペーストは、無水、流動性であり、そのまま使用できる。ペーストは、出血部位に直接塗布することによって使用する、あるいは吸収性であるか又は吸収性ではない止血ガーゼ若しくは基材とともに使用することができる。
【0116】
1つのみの分散剤を含む止血用ペーストと、本発明の止血用ペーストとの比較を以下に示す。第2の分散剤(プロピレングリコール又は1,3-ブタンジオールなど)を含まずに、グリセロールのみと配合された止血用ペーストは極めて高い粘度を有し、また、グリセロールのみを含む組成物は、吸収特性が低い。第1の分散剤(グリセロール)を含まず、第2の分散剤としてのプロピレングリコール又は1,3-ブタンジオールと配合された止血用ペーストは、架橋CMCの分散効果が低い。沈殿が短時間で観察された。しかしながら、プロピレングリコールは、水混和性の共溶媒として、架橋されたCMCが速やかに液体を吸収することを妨げない。グリセロール及びプロピレングリコールの両方が特定の範囲であれば、沈殿が観察されない一方でペーストの粘度を押し出し及び保管に都合のよい範囲に調整することができ、同時に、速やかに液体を吸収する架橋CMCの特性が維持された。したがって、記載される2つの分散剤の存在は、止血用ペーストの取り扱い、保管、及び性能にとって重要であることが示された。
【0117】
有利な点として、本止血用ペースト組成物は無水であり、水が含まれないことが性能にとって重要である。
【0118】
実施例2 架橋CMC及び他の多糖類の膨潤特性
膨潤試験を行うため、1グラムのキセロゲルを、過剰量のDI水、生理食塩水又はブタ血漿中に室温で膨潤平衡に達するまで一定時間浸漬した。1、2.5分の時間間隔で、100メッシュのスクリーンに通して濾過することにより、吸収されていないDI水、食塩水又は血漿から膨潤した試料を分離した。各時点における膨潤率(%)を以下の式を使用して計算した:SP=100(Mt-Md)/Md(式中、SPは膨潤率(%)であり、Mt及びMdは、それぞれ、時間tにおける膨潤ヒドロゲル粒子及び乾燥キセロゲル粒子の重量である。)
【0119】
図3を参照すると、血漿、生理食塩水、及び水中での浸漬後1分及び2.5分におけるCMC-CAキセロゲルの膨潤が示され、1分で1900~2700%程度、2.5分で2500~3600%程度の顕著な膨潤が実験的に観察された。
【0120】
図4を参照すると、異なるカルボン酸によって架橋されたCMCベースのキセロゲルの膨潤を、水に曝露し、浸漬後1分及び2.5分で比較している。このデータは、クエン酸でCMCを架橋することによって調製されたキセロゲル(CMC-CA)は、実験的に観察された1分で2900%程度、2.5分で4200%程度の顕著な膨潤を示す最も強い膨潤能力を有したのに対して、コハク酸、リンゴ酸又はグルタル酸(CA:クエン酸、MA:リンゴ酸、SA:コハク酸、GA:グルタル酸)による架橋によって調製されたキセロゲルでは幾分低い膨潤を有したことを示している。
【0121】
図5を参照すると、クエン酸による異なる多糖類の架橋によって調製されたキセロゲルの膨潤が、脱イオン(DI)水、生理食塩水又はブタ血漿中での膨潤について比較図に示されている。示されるデータから分かるように、水中では、カルボキシメチルキトサンから調製されたキセロゲルが最も高い膨潤特性を示した。しかしながら、生理食塩水及び血漿中では、カルボキシメチルセルロースから調製されたキセロゲルが最も高い膨潤特性を示した。
【0122】
実施例3 水を含まないことの重要性
水を含まないことの重要性を、本止血用ペーストに水を加えて試験することによって更に評価した。5%以上の濃度の水では、止血用ペーストの特性が低下していることが示された。図6を参照すると、吸湿性又は水を含まないペーストが流動性の半液体の材料として示されているのに対して、10%、20%の水を含有するペーストは、凝集した、脆い材料として示されている。
【0123】
図7を参照すると、ヒドロゲルペーストの流動性は、水を含有する場合にヒドロゲル粒子の体積膨張に起因して、特に時間の経過とともに低下する。5%の水を含有するペーストが、切り開かれた吐出チューブ内に示されており、吐出しにくい特性を示している。10%の水を含有するペーストは、チューブから押し出すことができないゴム状の固化した材料として示されている。
【0124】
したがって、含水量は本止血用ペーストの流動性を低下させ、含水量はペーストの流動性に反比例する。したがって、ペーストは、実質的に水を含まないか、又は0、0.5、1、2、3、5%のように0~5%の含水量を有することが好ましい。
【0125】
実施例4 最適濃度範囲及び最適比の評価
止血用ペーストの異なる配合の範囲を更に評価した。ここで表3を参照すると、止血用ペーストのいくつかの製剤が示されており、いずれも53重量%のCMC-CAと、異なる量のグリセロール、プロピレングリコール(PG)分散剤と、を有する。
【0126】
【表3】
【0127】
図8を参照すると、本止血用ペーストの異なる配合物の粘度がせん断速度の関数として示されている。データは、平板型定常せん断試験を使用して、Discovery HR-3ハイブリッドレオメーター(TA instruments)によって測定した。良好な性能を有する止血用ペーストでは、せん断力の増加にともなって粘度が急速に低下しなければならず、これは、塗布時に保管容器からペーストを押し出しやすくなることに対応している。ペーストはまた、静止状態で高い粘度も有するべきであり、これにより、ペーストは流動(液だれ)する代わりに塗布された場所に留まる。8種類の異なる配合物を試験して、各分散剤の適切な範囲を評価した。粘度データ及び動物組織上のペーストの性能によると、PG:グリセロール=1:0.5~PG:グリセロール=1:2の範囲が、最良の性能範囲である。試験した8種類の異なる配合物を示した表3を参照すると、100gのペーストでは、CMC粉末は総重量の53(w/w)%を占め、グリセロールの重量は16(w/w)%~31(w/w)%である。
【0128】
グリセロールとプロピレングリコールとの異なる比を有する広範な組成物を更に評価し、最適化した。表4を参照すると、得られた止血用ペーストの特性が、組成物の機能として示されている。
【0129】
【表4】
【0130】
上記の「濃い」、「薄い」、「中度」なる用語は、流動性及び外観に基づく。「濃い」試料はほぼ非流動性であり、創傷部位の不規則な形状にうまく一致しない。「薄い」試料は過度に液体っぽく、液だれしやすく、定位置に留まらない。「中度」の組成物は、容易に成形することができ、創傷部位の形状によく一致し、液だれが生じないという点で許容されることが判明した。
【0131】
約49~55%のCMC-CAを含有する組成物が好ましい。
【0132】
約18~30%のグリセロールを含有する組成物が好ましい。
【0133】
約15~30%のプロピレングリコールを含有する組成物が好ましい。
【0134】
グリセロールとプロピレングリコールとの比(重量比)が約1~1.5であることを特徴とする組成物が好ましい。
【0135】
CMC-CAとグリセロールとの比が0.9~1.25であることを特徴とする組成物が好ましい。
【0136】
実施例5 分散剤の比較
いくつかの実施形態において、表5に示すように、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブタンジオールの3種類の異なる分散剤を比較した。同じ比で、ジプロピレングリコールペーストはより粘稠であり、他の2つよりも使用性が低い。ジプロピレングリコールペーストの流動性は、プロピレングリコール及び1,3-ブタンジオールとともに配合されたペーストほどには良好ではなかった。
【0137】
【表5】
【0138】
実施例6 ペースト-粉末の比較
CMC-CA粉末の性能を本発明のペーストと更に比較したところ、性能上の利点は、流動性の粘稠ペースト形態が粉末としての同じ材料と比較して利点を有することが示された。動物試験の結果によると、CMC-CA粉末は、穿刺モデルにおいて出血を止めるのにも有効であったが、粉末は、以下に述べるように、ペーストと比較して2つの短所を示した。
【0139】
粉末は正確に送達されず、噴霧された場合に被覆範囲は幾分幅広であり、限定された創傷空間にはあまり適していなかった。穿刺創傷を含む動物モデル出血部位上のCMC-CA粉末を示す図9を参照すると、CMC-CA粉末は、穿刺創傷を包囲する広い表面積を被覆して広い被覆率をもたらすが、正確に送達されていない。本止血用ペーストの送達を示す図10を参照すると、ペーストは、創傷部位に正確に送達されている様子が示されており、視覚を遮らない。図11を参照すると、穿刺モデル上に塗布されたCMC-CA粉末は、粒子間の低い凝集性を示し、血液が粉末粒子間の隙間から染み出し得る。
【0140】
図12を参照すると、CMC-CA粉末(<100μm)のSEM顕微鏡写真が示されている。粉末によって形成されたヒドロゲルは、依然、隙間が存在することを示し、ヒドロゲルマトリックス内に、血液が滲出又は漏出し得る割れ目があることを示している。
【0141】
図13を参照すると、本発明の止血用ペーストが、肝臓穿刺モデル上に塗布され、止血している様子が示されている。ペースト形態は、粉末と比較して粒子間の高い凝集性を有する。ペーストを通した血液の染み出しは観察されなかった。
【0142】
実施例7 CMC-CAキセロゲルの粒子特性
100μm~300μmの粒径を有するCMC-CA粉末は、保存中にペースト中の固体粉末が沈殿し始めることが観察された。止血用ペーストを収容したチューブがペーストを吐出するために絞られると、分散剤が最初に出てしまい、粉末がチューブの底に沈降して吐出することが困難となり、ペーストの一部が乾燥し、非流動性となった。しかしながら、粉末粒子が100μm未満である場合にはそのような有害な性能は観察されず、ペーストは保管期間全体を通じて均質に保たれ、沈殿はまったく又はほとんど観察されなかった。図14を参照すると、100μm~300μmの粒径が見られ、沈殿によってペーストの一部が乾燥し、非流動性となっている。
【0143】
CMC-CA粉末は、ブレンダーを使用して粉末を粉砕したために粒子の形状が不規則であることによって更に特徴付けられた。図15を参照すると、CMC-CAキセロゲル粉末の顕微鏡写真が100μm未満の粒径について示されている。
【0144】
実施例8 ヘパリン化動物モデルにおける止血用ペースト特性:架橋CMC及び非架橋CMCの止血データ
実施例1に記載されるように配合された止血用ペーストを、ヘパリン化肝臓穿孔モデル(ブタ)において更に評価し、クエン酸架橋CMC(CMC-CA)及び非架橋CMCとともに配合したペーストを比較した。試験は、ヘパリン化動物において以下のように行った。動物(ブタ)にヘパリンを注入して血液凝固系を阻害した。8mmのパンチ孔創傷を肝臓に作製した。次いで、評価した止血用ペーストを、パンチ孔創傷に塗布し、ガーゼで1分間押さえた。ガーゼを除去して、止血が得られるかどうかを観察した。観察時間を30分まで延ばして、止血用ペーストの有効性を評価した。
【0145】
図16を参照すると、非架橋CMCを使用した以外は、実施例1に記載されるように配合した止血用ペーストの試験結果が示されている(比較例)。非架橋CMC止血用ペーストをパンチ創傷に塗布し、図に示されるように1分間止血を行った。しかしながら、図に示されるように、約30分で再出血が観察された。血液又は血漿中の非架橋CMCの部分的溶解に潜在的に起因して、ペーストはその機械的強度を徐々に失った。ペーストと組織との界面が解離して、潜在的に再出血をもたらすことが観察される。したがって、非架橋CMC止血用ペーストは、より長期の止血評価では不合格であった。
【0146】
図17を参照すると、CMC-CAを使用して、実施例1に記載されるようにして配合した止血用ペーストの試験結果が示されている(本発明例)。本発明の止血用ペーストは、ヘパリン化肝臓パンチモデルにおいて、図に示されるように、1分以内に止血を達成した。30分後、再出血は観察されなかった。したがって、本発明の架橋CMC-CAベースのペーストは、純粋な非架橋CMCと比較して、より良好な機械的及び溶解強度を有する3Dポリマー網目構造により、優れた止血特性を示した。
【0147】
実施例9 動物モデルにおける止血用ペースト特性:架橋デンプンと架橋CMCベースのペーストの止血データ
実施例1に記載されるように配合された止血用ペーストを、肝臓穿孔モデル(ブタ)において更に評価し、クエン酸架橋CMC(CMC-CA)とともに配合した本発明のペーストと、CMC-CAキセロゲルを架橋デンプンで置換したペーストと、を比較した。
【0148】
図18を参照すると、CA架橋カルボキシメチルデンプンを使用した以外は、実施例1に記載されるように配合した止血用ペーストの試験結果が示されている(比較例)。クエン酸架橋カルボキシメチルデンプンペーストを、肝臓パンチモデル上に塗布した。比較用ペーストは1分で止血を達成したが、30分間の観察を続けると、比較用ペーストは乾燥し、肝組織から解離し始めたことが示された。更に、ピンセットを用いて、パンチ穴からペースト成形体を比較的容易に除去することができることが示された。逆に、本発明のCMC-CAベースのペーストは、図17に示されるように、30分後でもこのような組織からの解離現象を示さない。この評価に基づいて、本発明の架橋CMC-CAベースのペーストは、不充分な組織接着性を示した架橋デンプンベースのペーストと比較して優れた止血特性を示した。
【0149】
実施例10 組織への止血用ペースト接着:比較試験
ここで図19を参照し、組織に対する接着性の試験を以下のように更に評価した。本発明のCMC-CAベースの止血用ペースト及び比較用止血用ペーストを、図に示されるように、市販の酸化再生セルロース(ORC)ベースの不織布パッド及び合成ポリマーポリグラクチン910(90%グリコリドと10%L-ラクチドとから調製されたコポリマー、PG910)ベースの不織布パッドを含む裏材上に塗布した。次いで、パッチをブタ肝組織に貼付した。手で1分間タンポナーデした後、ピンセットでパッチを肝組織から剥離した。各ヒドロゲルの接着力を表す剥離力を評価し、1~5でランク付けした。表6を参照すると、本発明のCMC-CAベースのペーストについて、また、アルファ化デンプンヒドロゲルベースの、及びCMC-CA/アルファ化デンプンの1:1混合物ベースの比較用ペーストについて、接着性評価が示されており、5は最も接着性が高く、1は接着性がない。
【0150】
【表6】
【0151】
この評価に基づいて、本発明の架橋CMC-CAベースのペーストは、アルファ化デンプンヒドロゲルベースのペースト及びCMC-CA/アルファ化デンプン1:1ベースのペーストと比較した場合に、組織接着の優れた止血特性を示した。
【0152】
実施例11 動物モデルにおける止血用ペースト特性
実施例1に記載されるようにして配合された止血用ペーストを、肝臓パンチモデル(ブタ)において更に評価した。図20を参照すると、本発明のCMC-CA系止血用ペーストを狭い創傷内に押し込むことによる肝臓パンチモデルへの塗布前、塗布中、及び塗布後の様子が示され、止血は1分以内に達成された。
【0153】
実施例12 基材上の止血用ペースト-動物モデルにおける特性
本発明のCMC-CAベースの止血用ペーストを、表面出血又は滲出に対処するための組織の広範な領域に塗布するためのパッド又はガーゼを含む裏材上に塗布した。ここで図21を参照すると、市販の酸化再生セルロース(ORC)ベースの不織布パッドに塗布された本発明のCMC-CAベースの止血用ペーストが示されている。ここで図22を参照すると、得られた複合体が、肝組織片への接着について試験される前、及び肝組織片との接触後の状態で示されている。
【0154】
本開示の様々な形態について図示し説明したが、本明細書で説明した方法及びシステムの更なる適応が、当業者による適切な変更により、本発明の範囲を逸脱することなく達成され得る。このような可能な改変のうちのいくつかについて述べたが、他の改変も当業者には明らかとなるであろう。例えば、上述の実施例、変形形態、幾何形状、材料、寸法、比率、工程などは例示的なものであって、必須ではない。
【0155】
したがって、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲の観点から考慮されるべきものであり、本明細書及び図面において図示され、説明された構造及び動作の細部に限定されないものとして、理解されたい。
【0156】
〔実施の態様〕
(1) 流動性の止血用ペーストであって、
グリセロール含有分散剤と、
プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、及びこれらの混合物からなる群から選択される分散剤と、の実質的な無水ブレンド中に懸濁されるか又は分散されたキセロゲル架橋粉砕多糖類を含み、
前記ペーストが、実質的に均質な分散液又は懸濁液である、止血用ペースト。
(2) 前記ペーストが、静止状態かつ室温で中度の粘度を有する、実施態様1に記載の止血用ペースト。
(3) 前記架橋多糖類が、多官能性カルボン酸を介した反応によって架橋されたカルボキシメチルセルロース(CMC)を含み、前記酸が、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、及びこれらの任意の混合物からなる群から選択される、実施態様1又は2に記載の止血用ペースト。
(4) 前記酸が、クエン酸を含む、実施態様3に記載の止血用ペースト。
(5) 前記ペーストが、前記ブレンド中に粉末形態で懸濁又は分散された、35重量%~65重量%のクエン酸架橋CMCを含む、実施態様1~4のいずれかに記載の止血用ペースト。
【0157】
(6) 前記架橋CMCが、100μm未満の中央粒径を有する懸濁粉末の形態である、実施態様5に記載の止血用ペースト。
(7) 前記ペーストが、1%未満の水を含む、実施態様1~6のいずれかに記載の止血用ペースト。
(8) 前記ペーストが、アルカリ性剤を更に含む、実施態様5又は6に記載の止血用ペースト。
(9) 前記アルカリ性剤が、約0.1~3重量%の濃度で存在する水酸化ナトリウムを含む、実施態様8に記載の止血用ペースト。
(10) 前記グリセロール含有分散剤が、10重量%~30重量%の濃度で前記ペースト中に存在し、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、及びこれらの混合物からなる群から選択される前記分散剤が、10重量%~30重量%の濃度で前記ペースト中に存在する、実施態様1~9のいずれかに記載の止血用ペースト。
【0158】
(11) 前記ペーストのプロピレングリコールとグリセロールとの重量比が、約1:0.5~約1:2である、実施態様1~10のいずれかに記載の止血用ペースト。
(12) 前記ペーストが、
a.約49~55%のクエン酸架橋CMCと、
b.約18~30%のグリセロールと、
c.約15~30%のプロピレングリコールと、を含む、実施態様1~11のいずれかに記載の止血用ペースト。
(13) 前記クエン酸架橋CMCと前記グリセロール含有分散剤との重量比がそれぞれ約0.9~1.25である、実施態様3~12のいずれかに記載の止血用ペースト。
(14) 前記ペーストが、可撓性生体吸収性シートである基材上に支持される、実施態様1~13のいずれかに記載の止血用ペースト。
(15) 前記基材が、酸化セルロース又はポリグラクチン910を含む、実施態様14に記載の止血用ペースト。
【0159】
(16) 前記ペーストが、絞り出せるチューブに入れられた、実施態様1~15のいずれかに記載の止血用ペースト。
(17) 流動性止血用ペーストの製造方法であって、
a.CMCを高温で酸と反応させることによってCMCを架橋する工程と、
b.前記架橋CMCを実質的に乾燥させて、キセロゲルを形成する工程と、
c.前記架橋CMCキセロゲルを、100μm未満の中央粒径を有する粉末に粉砕する工程と、
d.前記CMCキセロゲルに、少なくとも1つのアルコール官能化分散剤をオプションとして含む第1の分散剤と、グリセロール含有分散剤を含む第2の分散剤と、を添加し、分散剤とキセロゲルとのブレンドを形成する工程と、
e.前記ブレンドを混合して、前記流動性止血用ペーストを形成する工程と、を含む、流動性止血用ペーストの製造方法。
(18) 前記方法が、前記CMCキセロゲルへの添加の前に、65℃を超える温度で前記グリセロール含有分散剤中に中和アルカリ性剤を溶解する工程を更に含む、実施態様17に記載の流動性止血用ペーストの製造方法。
(19) 前記止血用ペーストを可撓性生体吸収性シート基材の少なくとも1つの面に塗布する工程を含む、実施態様1~16のいずれかに記載の止血用ペーストを含有する創傷ドレッシング材の製造方法。
(20) 前記可撓性生体吸収性シートが、織布メッシュ、構造化フェルト、非構造化フェルト、フィルム、又はこれらの任意の組み合わせの形態であり、酸化セルロース、止血用ポリマーブレンド、又はこれらの混合物の1つ以上の層を含有する、実施態様19に記載の創傷ドレッシング材の製造方法。
【0160】
(21) 創傷又は出血組織を治療するための方法における、実施態様1~16のいずれかに記載の止血用ペーストの使用であって、前記方法が、オプションとして可撓性吸収性シート基材上に支持された前記止血用ペーストを、創傷又は出血組織に塗布することを含む、使用。
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