(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】結腸ドラッグデリバリー製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 47/38 20060101AFI20240122BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240122BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20240122BHJP
A61K 9/36 20060101ALI20240122BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240122BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/32
A61K9/36
A61P1/00
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2021532415
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2019083912
(87)【国際公開番号】W WO2020115257
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-08-23
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521246183
【氏名又は名称】ティロッツ、ファーマ、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】TILLOTTS PHARMA AG
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】フェリペ、バルム
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト、カルロス、ブラボ、ゴンザレス
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/138877(WO,A1)
【文献】特開2017-145267(JP,A)
【文献】特表2016-535030(JP,A)
【文献】米国特許第05422121(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の結腸に抗炎症剤を送達するための経口投与用の遅延放出製剤であって、
前記遅延放出製剤は、コア
と、仕切り層と、前記コアのための外層コーティング
とを備え、
前記コアは、抗炎症剤を含んでなり
、
前記仕切り層は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含んでなり、
前記外層コーティングは、結腸の酵素による分解を受けやすい酵素分解性
デンプンと、
約1:2の酸:エステル比および約pH
7のpH閾値を有するフィルム形成性腸溶性
ポリ(メタクリル酸/メタクリル酸メチル)コポリマーとの混合物を含んでなり、
前記外層コーティング中の、前記酵素分解性
デンプンの前記腸溶性
コポリマーに対する比率は、約
70:30~約
80:20であり、
前記腸溶性コポリマーは、前記腸溶性コポリマーの乾燥重量を基準として、約4mg/cm
2
以上約6mg/cm
2
以下の量で前記外層コーティング中に存在し、
前記外層コーティングは
、前記仕切り層
の表面と直接接触している、前記遅延放出製剤。
【請求項2】
前記外層コーティング中の、前記酵素分解性
デンプンの前記腸溶性
コポリマーに対する比率が、約75:25である、請求項
1に記載の遅延放出製剤。
【請求項3】
前記腸溶性
コポリマーが、前記腸溶性
コポリマーの乾燥重量を基準として
、約5mg/cm
2の量で前記外層コーティング中に存在する、請求項1
または2に記載の遅延放出製剤。
【請求項4】
請求項1に記載の結腸に抗炎症剤を送達するための経口投与用の遅延放出製剤を製造する方法であって、
前記方法は、以下の工程:
抗炎症剤を含んで
なるコアを形成させる工程;
溶媒中にHPMCを含んでなる仕切り層コーティング調製物により前記コアを最初にコーティングして、外層コーティング調製物によりコーティングするための、仕切り層でコーティングされたコアを形成させる工程;および
溶媒中に、結腸の酵素による分解を受けやすい酵素分解性
デンプンと
、約1:2の酸:エステル比および約pH
7のpH閾値を有するフィルム形成性腸溶性
ポリ(メタクリル酸/メタクリル酸メチル)コポリマーとを含んでなる外層コーティング調製物により前記
仕切り層でコーティングされたコアを直接コーティング
して、外層でコーティングされたコアを形成させる工程
を含んでなり、
前記腸溶性コポリマーが、前記腸溶性コポリマーの乾燥重量を基準として、約4mg/cm
2
以上約6mg/cm
2
以下の量で、前記仕切り層でコーティングされたコアにコーティングされるまで、前記仕切り層でコーティングされたコアは、前記外層コーティング調製物によりコーティングされ、
前記外層コーティング調製物中の、前記酵素分解性
デンプンの前記腸溶性
コポリマーに対する比率は、約
70:30~約
80:20である、前記方法。
【請求項5】
前記外層コーティング調製物中の、前記酵素分解性
デンプンの前記腸溶性
コポリマーに対する比率が、約75:25である、請求項
4に記載の方法。
【請求項6】
前記腸溶性
コポリマーが、前記腸溶性
コポリマーの乾燥重量を基準として
、約5mg/cm
2の量で
、前記
仕切り層でコーティングされたコアにコーティングされるまで、前記
仕切り層でコーティングされたコアが
、前記外層コーティング調製物によりコーティングされる、請求項
4または5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬物を含んでなるコアとコアのための遅延放出コーティングとを備える経口投与用の遅延放出製剤に関する。特に、それは結腸に送達するための薬物用の遅延放出製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物の腸への標的指向化はよく知られており、100年以上の間、知られている。一般的に、薬物の標的は小腸であるが、局所療法または全身治療を達成する手段として結腸を利用することができる。薬剤コーティングの必要条件は、標的部位によって異なる。結腸に到達するためには、薬物が小腸を通過する必要があるため、結腸で薬物を放出することを目的とした遅延放出コーティングが小腸で薬物を放出しないことが必要条件である。
【0003】
小腸で放出するためのコーティング製品は、一般に、pHに依存して溶解または崩壊するポリマーコーティングを使用する。胃の低pH環境において、ポリマーコーティングは不溶性である。しかしながら、小腸に到達すると、pHが5以上に上昇し、ポリマーコーティングが溶解または崩壊する。一般的に使用されるコーティングは、イオン化可能なカルボキシル基を含むコーティングである。高いpHにおいて、カルボキシル基がイオン化し、ポリマーコーティングを崩壊または溶解させる。使用されるこのタイプの一般的なポリマーには、オイドラギット(登録商標)Lおよびオイドラギット(登録商標)Sがある。
【0004】
薬物の早期放出を確実にすることによって小腸での放出を改善する様々な方法が知られている。US2008/0200482は、崩壊が起こるpHを低下させるためにカルボキシル基を部分的に中和することを開示している多くの参考文献のうちの1つである。WO2008/135090は、部分的に中和された材料の内側コーティングと、中和が減少しているまたは全くされていない外側コーティングとを備えた錠剤を開示している。これは、胃から送達されたとき、より早い時点で崩壊すると言われている。
【0005】
結腸での薬物の放出は、代替手段を必要とする。結腸は、多くの病態、例えば、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、便秘、下痢、感染症および癌腫に罹患しやすい。そのような状態において、結腸を標的とする薬物は、治療の治療効果を最大限に発揮するであろう。結腸はまた、薬物が全身循環に入るための入口(portal)として利用することができる。結腸薬物送達のために、プロドラッグおよび製剤化された剤形を含む様々な製剤が開発されているが、既に証明された概念がその他の薬物に適用できるため、後者がより一般的である。
【0006】
結腸内の高密度の細菌集団はまた、消化可能な担体材料として、天然に存在する多糖類であって、常在結腸細菌により産生される多数の酵素の基質を構成する多糖類の利用を通じて、結腸薬物送達用の剤形を開発する際に利用されてきた。これらの材料は、上部消化管領域を完全なままで通過することができるが、結腸に入ると消化される。例としては、デンプン、アミロース、アミロペクチン、ペクチン、キトサン、ガラクトマンナンおよびグアーガムが挙げられる。
【0007】
結腸薬物送達へのこの細菌酵素アプローチにおいて多糖類を使用することの主要な魅力の1つは、使用される材料が少なくとも食品グレードであり、したがって、ヒトでの使用に安全であることである。それらは通常、コーティングとして適用されて、またはマトリックス担体としてコア材料に組み込まれて、結腸へ入る際の結腸の細菌酵素による消化により、充填薬物の放出をもたらす。アミロースコーティングを使用するそのような製剤の例は、EP0343993A(BTG International Limited)に開示されている。
【0008】
しかしながら、これら天然に存在する材料に関する主な制限は、それらが水性媒体中で過度に膨潤し、上部消化管領域での充填薬物の浸出につながることである。この問題を回避するために、天然に存在する材料が様々な水溶性材料との混合物において使用されてきた。
【0009】
EP0502032A(British Technology Group Ltd)は、フィルム形成性セルロース材料またはフィルム形成性アクリレートポリマー材料と、アモルファスアミロースとを含んでなる外層コーティングの、有効化合物を含んでなる錠剤のための使用を教示している。使用されるポリマー材料は、pHに依存しない放出ポリマー材料である。
【0010】
Journal of Controlled Releaseの論文(Milojevic et al;38;(1996);75-84)は、アミロースの膨潤を制御するためにアミロースコーティングに様々な不溶性ポリマーを組み込むことに関する調査結果を報告している。様々なセルロース系およびアクリレート系コポリマーが評価され、市販のエチルセルロース(エトセル(登録商標))が膨潤を最も効果的に制御することが見出されている。pH依存性可溶性コーティングであるオイドラギット(登録商標)L100が使用されるが、アミロースの内層コーティングおよびオイドラギット(登録商標)L100の外層コーティングによる生物活性コーティングを備える多層システムにおいてのみ使用される。
【0011】
さらなるアミロース系のコーティング組成物は、WO99/21536A(BTG International Limited)に開示されている。コーティング組成物は、アミロースと、水不溶性のセルロースまたはアクリレートポリマー材料から形成される水不溶性pH非依存性フィルム形成ポリマーとの混合物を含んでなる。
【0012】
WO99/25325A(BTG International Limited)はまた、アミロースおよび(好ましくは)エチルセルロース、あるいは不溶性のアクリレートポリマーを含んでなる遅延放出コーティングを開示している。コーティング組成物はまた、可塑剤を含み、この方法は、組成物は60℃よりも低い温度で形成されるため、60℃を超える温度において不安定である有効物質を含んでなる剤形の調製において特別な用途を見出す。
【0013】
WO03/068196A(Alizyme Therapeutics Ltd)は、ガラス状アミロース、エチルセルロースおよびジブチルセバケートを含んでなる生物活性プレドニゾロンメタスルホ安息香酸ナトリウム用の特定の遅延放出コーティングを開示している。
【0014】
遅延放出コーティングにおけるアモルファスアミロース以外の多糖類の使用は、GB2367002(British Sugar PLC)に開示されている。例としては、グアーガム、カラヤゴム、トラガカントガムおよびキサンタンガムが挙げられる。これらの多糖類の微粒子は、例えば、セルロース誘導体、アクリルポリマーまたはリグニンから形成された水不溶性のフィルム形成ポリマーマトリックス中に分散されている。
【0015】
WO01/76562A(Tampereen Patenttitoimisto Oy)は、薬物とその放出を制御するためのキトサン(キチンから得られる多糖類)とを含む経口製剤を開示している。薬物およびキトサンは、均一な機械的粉末混合物に混合され、造粒され、次いで、場合により錠剤化される。造粒は、腸溶性ポリマー(例えば、メタクリル酸のコポリマー)により実施してもよいし、あるいは、顆粒は多孔性の腸溶性コーティングにより提供されてもよい。
【0016】
WO2004/052339A(Salvona LLC)は、pH感受性ミクロスフェアのカプセルに包まれた薬物を含んでなる固体疎水性ナノスフェアの自由流動性の粉末である、pH依存性薬物放出システムを開示している。ナノスフェアは、ワックス材料と組み合わせて薬物から形成され、pH感受性ミクロスフェアは水感受性材料(例えば、多糖類)と組み合わせてpH感受性ポリマー(例えば、オイドラギット(登録商標)ポリマー)から形成される。
【0017】
European Journal of Pharmaceutical Sciencesの論文(Akhgari et al;28;March 2006;307-314)は、とりわけイヌリンの膨潤を制御するための特定のポリメタクリレートポリマーの使用に関する検討結果を報告している。試験したポリメタクリレートポリマーは、オイドラギット(登録商標)RS;オイドラギット(登録商標)RL;オイドラギット(登録商標)RSおよびオイドラギット(登録商標)RLの1:1混合物;オイドラギット(登録商標)FS;ならびにオイドラギット(登録商標)RSおよびオイドラギット(登録商標)Sの1:1混合物であった。
【0018】
US5422121(Rohm GmbH)は、フィルム形成性ポリマーと混合して結腸内で分解する多糖類を含んでなるシェル材料内に封入された少なくとも1種の有効成分を含むコアを有する経口剤形を開示している。フィルム形成性ポリマーに対する多糖類の重量比は、1:2~5:1、好ましくは1:1~4:1である。コアからの有効成分の早期拡散は、胃抵抗性の仕切り層を使用して抑制可能である。この参考文献は、とりわけオイドラギット(登録商標)L30Dの内側仕切り層を有し、オイドラギット(登録商標)L30Dおよびグアーガムを含んでなる外層を備える錠剤(実施例2)およびオイドラギット(登録商標)S100およびグアーガムのコーティングを有する錠剤(実施例5)を例示する。
【0019】
WO96/36321Aは、ビサコジルを含むコアと、コア用の腸溶性ポリマーコーティングとを備える経口剤形であって、コーティングは、少なくとも1つの内層コーティングと外層コーティングとを備える、経口剤形を開示している。その1つまたはそれぞれの内層コーティングは、約5~約6.3のpHにおいて水性媒体に溶解し始める腸溶性ポリマーであり、外層コーティングは、約6.8~約7.2のpHにおいて水性媒体に溶解し始める腸溶性ポリマーである。内層の腸溶性ポリマーコーティング材料は、酢酸フタル酸セルロース、トリメリト酸酢酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、ポリ(メタクリル酸、メタクリル酸メチル)1:1、ポリ(メタクリル酸、アクリル酸エチル)1:1およびそれらの適合性のある混合物からなる群から選択される。
【0020】
WO2007/122374Aは、pH依存性のフィルム形成性ポリマー材料と多糖類(例えば、デンプン)との混合物が使用される結腸薬物送達製剤を開示している。この製剤は、薬物の放出遅延に続く比較的急速な放出を示すことが知られているが、薬物の放出が結腸においてさらにより速ければ望ましいであろう。
【0021】
WO2013/164315Aは、pH依存性フィルム形成性ポリマー材料と多糖類(例えば、デンプン)との混合物が外層として使用される結腸薬物送達製剤を開示している。腸液または胃腸液に可溶性である内層が使用される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、0.1M HClに2時間曝露し、次いで、クレブス緩衝液(pH7.4)に8時間曝露した場合の、実施例1、実施例2、実施例3および比較例1によるコーティングされた5-ASA錠剤からの薬物放出を時間の関数として比較するグラフである。
【
図2】
図2は、0.1N HClに2時間曝露し、次いで、ソレンセンの緩衝液(pH6.8)に(a)α-アミラーゼありおよび(b)α-アミラーゼなしで曝露した場合の、実施例2によるコーティングされた5-ASA錠剤からの薬物放出を時間の関数として比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1の態様によれば、対象の結腸に薬物を送達するための経口投与用の遅延放出製剤であって、
前記遅延放出製剤は、コアおよび前記コアのための外層コーティングを備え、
前記コアは、薬物を含んでなり、場合により仕切り層(isolation layer)を備え、
前記外層コーティングは、結腸の酵素による分解を受けやすい酵素分解性多糖類であって、デンプン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、カードランおよびレバンからなる群から選択される前記酵素分解性多糖類と、約pH6以上のpH閾値を有するフィルム形成性腸溶性ポリマーとの混合物を含んでなり、
前記酵素分解性多糖類および前記腸溶性ポリマーは、60:40を超える比率で前記外層コーティング中に存在し、
前記外層コーティングは、コーティングされていない前記コアの表面と直接接触しているか、または、前記仕切り層が存在する場合には前記仕切り層と直接接触している、前記遅延放出製剤が提供される。
【0024】
WO2013/164315Aに開示されているような遅延放出製剤は、pH依存性材料に対する多糖類の広範囲の比率にわたって、模擬化された空腹条件下においてクレブス緩衝液(pH7.4)中で高速放出プロファイルを有することが確認されている。しかしながら、オプションの仕切り層、内層および混合材料の外層を備えた製剤の形成は、潜在的に複雑であり、時間がかかる。
【0025】
驚くことに、内層を必要としない外層コーティング中の多糖類含有量が高い組成物に対して、本発明の遅延放出製剤は、遠位小腸の電解質組成を模擬化するするクレブス緩衝液(pH7.4)において、高速放出プロファイルを有利に示すことが見出された。これは、追加の層を有する比較の製剤と比較して、製造時間および製造コストの両方を削減するために有利である。
【0026】
酵素分解性多糖類
多糖類は、対象の結腸に見られる1種または2種以上の酵素によって酵素的に分解可能である。このような酵素は結腸の細菌によって産生され、アミラーゼ、例えば、α-アミラーゼ、β-アミラーゼおよびイソ-アミラーゼ;アミロプルルナーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、マルトジェニック-アミラーゼ、グリコシルトランスフェラーゼおよびアミロマルターゼを含む。
【0027】
当業者は、共通の一般知識の一部を包含する技術を使用して、特定の多糖類が酵素的に分解可能である(すなわち、結腸の細菌による分解を受けやすい)か否かを決定することができる。例えば、所定の量の所与の多糖類を、結腸に見られる細菌からの酵素を含むアッセイにさらすことができ、経時的な材料の重量変化を測定することができる。
【0028】
酵素分解性多糖類は、デンプン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、カードラン、レバンおよびヘミセルロース(例えば、キシラン、グルクロンオキシラン、アラビノキシラン、グルコマンナン、キシログルカン)からなる群から選択される。これらのうち、デンプン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリンおよびカラギーナンが好ましい。特に好ましい多糖類はデンプンである。
【0029】
デンプンは通常、2種の異なる多糖類、すなわちアミロースおよびアミロペクチンの混合物である。異なるデンプンは、これら2種の多糖類を異なる比率で有しているといえる。ほとんどの天然(未修飾)トウモロコシデンプンは、約20重量%以上約30重量%以下のアミロースを有し、残りは少なくとも実質的にアミロペクチンで構成されている。
【0030】
好適なデンプンには、「高アミロース」および「低アミロース」デンプンがある。高アミロースデンプンが特に好ましい。
【0031】
「高アミロース」デンプンは、少なくとも50重量%のアミロースを有するデンプンである。特に好適なデンプンは、約50重量%以上約75重量%以下、好ましくは約50重量%以上約70重量%以下、より好ましくは約50重量%以上約65重量%以下、最も好ましくは約50重量%以上約60重量%以下、例えば約55重量%のアミロースを有する。
【0032】
「低アミロース」デンプンは、50重量%未満のアミロースおよび少なくとも50重量%のアミロペクチン、例えば、最大75重量%のアミロペクチン、さらには最大99重量%のアミロペクチンを有するデンプンである。
【0033】
本発明における使用に好適なデンプンは通常は、少なくとも0.1重量%、例えば、少なくとも10重量%または15重量%、好ましくは少なくとも35重量%のアミロースを有する。そのようなデンプンは、99.9重量%以下、例えば、90重量%または85重量%以下、好ましくは65重量%以下のアミロペクチンを有する。そのようなデンプンは、最大約99重量%のアミロースおよび1重量%以上のアミロペクチンを有し得る。
【0034】
本発明における使用に好適なデンプンは、最大100%のアミロペクチン、より一般的には約0.1重量%以上約99.9重量%以下のアミロペクチンを有し得る。デンプンは、例えば、未修飾のワキシーコーンデンプンであり得る。これは通常、約100%のアミロペクチンを含んでなる。
【0035】
好ましいデンプンは、50重量%以下のアミロペクチンを有する。特に好適なデンプンは、約25重量%以上約35重量%以下のアミロペクチン、例えば約30重量%のアミロペクチンを有する。
【0036】
当業者は、任意の所与のデンプン中のアミロースおよびアミロペクチンの相対的比率を決定することができる。例えば、近赤外(NIR)分光法を使用して、実験室で生成されたこれら2種の成分の既知量の混合物を使用したNIRによって得られた検量線を使用して、デンプンのアミロースおよびアミロペクチンの含有量を決定することができる。さらに、デンプンは、アミログルコシダーゼを使用してグルコースに加水分解することができる。酵素によって触媒される一連のリン酸化および酸化反応により、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)が形成される。形成されるNADPHの量は、元のグルコース含有量の定比である。この手順に好適なテストキットが利用可能である(例えば、R-Biopharm GmbH、ドイツ)。使用可能な別の方法は、コーティングを細菌酵素、例えばα-アミラーゼによる消化に供して、キャピラリーカラムを使用した気液クロマトグラフィーによって定量することができる短鎖脂肪酸(SCFA)を生成することを含む。
【0037】
好ましいデンプンは、そのガラス状の形態のアミロースを有するが、そのアモルファス形態のアミロースもまた、本発明と併せて使用され得る。
【0038】
好ましいデンプンは、「市販の」デンプン、すなわち、本発明の文脈において使用する前に処理を必要としないデンプンである。特に好適な「高アミロース」デンプンの例としては、Eurylon(登録商標)6(またはVI)およびAmyloN-400デンプン(Roquette、Lestrem、フランス)またはアミロジェル03003(Cargill、Minneapolis、米国)が挙げられ、これらすべては約50重量%以上約75重量%以下のアミロースを有するトウモロコシデンプンである。
【0039】
フィルム形成性腸溶性ポリマー
フィルム形成性腸溶性ポリマーは、pH感受性であり、約pH6以上のpH閾値を有する。「pH閾値」は、そのpH未満では水性媒体に不溶性であり、そのpH以上では水性媒体に可溶性であるpHである。したがって、周囲媒体のpHが腸溶性ポリマーの溶解を引き起こし、pH閾値未満において溶解する腸溶性ポリマーはない(または実質的にない)。周囲媒体のpHがpH閾値に達する(または超える)と、腸溶性ポリマーは可溶性になる。
【0040】
「不溶性」は、ポリマー材料1gが所与のpHにおいて溶解するために10,000mLより多い溶媒または「周囲媒体」を必要とすることを意味する。
【0041】
「可溶性」は、ポリマー材料1gが所与のpHにおいて溶解するために10,000mL未満、好ましくは5000mL未満、より好ましくは1000mL未満、さらにより好ましくは100mL未満または10mL未満の溶媒または周囲媒体を必要とすることを意味する。
【0042】
「周囲媒体」は、好ましくは、胃腸管内の媒体、例えば、胃液または腸液を意味する。あるいは、周囲媒体は、胃腸管内の媒体のin vitro同等物であってもよい。
【0043】
胃液の正常なpHは、通常、pH1~3の範囲である。腸溶性ポリマーは、pH6未満において不溶性であり、約pH6以上において可溶性であるため、通常、胃液には不溶性である。
【0044】
腸液のpHは人によって異なる場合があるが、健康な人では一般に十二指腸において約pH5~6、空腸において約pH6~8、回腸において約pH7~8および結腸において約pH6~8である。腸溶性ポリマーは、好ましくは、約6.5のpH閾値を有し(すなわち、pH6.5未満で不溶性であり、約pH6.5以上で可溶性である)、より好ましくは、約7以上のpH閾値を有する(すなわち、pH7未満で不溶性であり、約pH7以上で可溶性である)。腸溶性ポリマーは、典型的には、約pH8以下、例えば、約pH7.5以下、好ましくは約pH7.2以下のpH閾値を有する。好ましくは、腸溶性ポリマーは、結腸に見られるpH範囲内のpH閾値を有する。
【0045】
ポリマーが可溶性になるpH閾値は、当業者に共通の一般知識の一部である単純な滴定技術によって決定可能である。
【0046】
好適な腸溶性ポリマーは、水性媒体中でイオン化してアニオンを形成することができる基を含む。そのようなポリマーは、当技術分野において「アニオン性」ポリマーとして知られている。好適なアニオン性ポリマーには、ポリカルボン酸ポリマー、すなわち、水性媒体、例えば、腸液においてイオン化してカルボン酸アニオンを形成する複数のカルボン酸官能基を含むポリマーまたはコポリマーが含まれる。周囲媒体のpHが上昇すると、カルボン酸アニオンになるカルボン酸基の割合が増加し、それによってポリマーの溶解度が増加する。
【0047】
フィルム形成性腸溶性ポリマーは、典型的には、ポリメタクリレートポリマー、セルロースポリマーまたはポリビニル系ポリマーである。好適なセルロースポリマーの例には、酢酸フタル酸セルロース(CAP)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース酢酸コハク酸塩(HPMC-AS)が含まれる。
【0048】
特に好適な腸溶性ポリマーには、(メタ)アクリル酸および(メタ)アクリル酸C1-4アルキルエステルのコポリマー、例えば、メタクリル酸およびメタクリル酸メチルエステルのコポリマーが含まれる。このようなポリマーは、ポリ(メタクリル酸/メタクリル酸メチル)コポリマーとして知られている。これらのコポリマー中のメチルエステル基に対するカルボン酸基の比(「酸:エステル比」)によって、コポリマーが可溶性であるpHが決定される。酸:エステル比は、約2:1~約1:3、例えば約1:1、または好ましくは約1:2であり得る。好ましいアニオン性コポリマーの分子量(MW)は、通常、約120,000g/mol以上約150,000g/mol以下、好ましくは約125,000g/molまたは約135,000g/molである。
【0049】
好ましいアニオン性ポリ(メタクリル酸/メタクリル酸メチル)コポリマーは、約125,000g/molの分子量を有する。そのようなポリマーの適切な例は、約1:1の酸:エステル比および約pH6のpH閾値を有するか、あるいは約1:2の酸:エステル比および約pH7のpH閾値を有する。
【0050】
約125,000g/molの分子量、約1:1の酸:エステル比および約pH6のpH閾値を有する好適なアニオン性ポリ(メタクリル酸/メタクリル酸メチル)コポリマーの具体的な例は、商標オイドラギット(登録商標)Lとして販売されている。このポリマーは、粉末(オイドラギット(登録商標)L100)の形態で、または有機溶液(12.5%)(オイドラギット(登録商標)L12.5)として入手可能である。
【0051】
好適なアニオン性ポリ(メタクリル酸/メタクリル酸メチル)コポリマーの別の具体的な例は、水性分散液(30%)の形態で入手可能であり、商標オイドラギット(登録商標)FS30Dとして販売されている。
【0052】
オイドラギット(登録商標)コポリマーは、Evonik GmbH(Darmstadt、ドイツ)によって製造および/または販売されている。
【0053】
フィルム形成性腸溶性ポリマーの混合物を必要に応じて使用することができる。例えば、腸溶性ポリマーは、実際には、約pH6以上のpH閾値を有する少なくとも2種の異なるポリマーのブレンドであり得る。好ましくは、ブレンド中のポリマーは、異なるポリメタクリレートポリマーである。腸溶性ポリマーが約pH6以上のpH閾値を有する2種の異なるポリマーのブレンドである実施形態において、ポリマーは、約1:99~約99:1、例えば、約10:90~約90:10、または25:75~約75:25、または約40:60~約60:40、例えば、約50:50のポリマー重量比でブレンド中に存在し得る。
【0054】
好適な混合物の例には、オイドラギット(登録商標)Lおよびオイドラギット(登録商標)Sの混合物、例えば1:1混合物が含まれる。さらなる例には、オイドラギット(登録商標)Sおよびオイドラギット(登録商標)FSのブレンド、例えば50:50ブレンドが含まれる。
【0055】
誤解を避けるために、腸溶性ポリマーを形成するポリマーの混合物またはブレンドの文脈における「混合物」および「ブレンド」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。
【0056】
しかしながら、特定のフィルム形成ポリマー材料、例えば、ポリ(メタクリル酸/メタクリル酸メチル)コポリマー単独の使用が好ましい。
【0057】
第2のポリマー材料としてオイドラギット(登録商標)S単独の使用が特に好ましい。
【0058】
外層コーティング
好ましい実施形態において2種の好適なポリマーの適切な比率の混合物は、フィルムコーティングとしてコアに適用され、胃および小腸における薬物放出を少なくとも最小限に抑え、実質的に排除できることが見出された。次いで、結腸における薬物放出は、組み合わされた能動的な生理学的トリガーによって、すなわち、第2の材料、特にオイドラギット(登録商標)Sの溶解と、第1の材料、例えばデンプンまたはアミロースの消化とによって起こると考えられている。
【0059】
フィルム形成性腸溶性ポリマーに対する酵素分解性多糖類の比率は、少なくとも60:40である。典型的には、比率は99:1未満である。比率は、好ましくは約65:25~約90:10、より好ましくは約70:30~約80:20、最も好ましく75:25である。
【0060】
場合により、従来の賦形剤、例えば、フィルム形成用の可塑剤(例えば、クエン酸トリエチル)、粘着防止剤(例えば、モノステアリン酸グリセリル(GMS)またはタルク)および界面活性剤(例えば、ポリソルベート80)から選択される賦形剤が、外層コーティング調製物の最終組成物の30重量%以下の量で含まれ得る。
【0061】
コアの外層コーティングの厚みは通常、約10μm以上約300μm以下である。しかしながら、具体的なコーティングの厚みは、コーティングの組成およびコアのサイズに依存する。例えば、コーティングの厚みは、コーティング中の多糖類の量に正比例する。
【0062】
外層コーティングが約75:25の比率において高アミロースデンプンおよびオイドラギット(登録商標)Sを含んでなる実施形態において、コーティングの厚みは、約70μm以上約300μm以下、好ましくは約150μm以上約250μm以下であり得る。所与のコーティング組成物の厚み(μm)は、コアサイズに依存する。
【0063】
外層コーティングは通常、腸溶性ポリマーの乾燥重量を基準として、約2mg/cm2以上約10mg/cm2以下、例えば約2mg/cm2以上約8mg/cm2以下、または約3mg/cm2以上約7mg/cm2以下、または約4mg/cm2以上約6mg/cm2以下、または約5mg/cm2以上約8mg/cm2以下、または約6mg/cm2以上約8mg/cm2以下、または約7mg/cm2以上約8mg/cm2以下、例えば約7.5mg/cm2の腸溶性ポリマーのコーティング量を有する。典型的なコアの直径は約5×10-4m以上約25mm以下である。
【0064】
外層コーティングが多糖類および腸溶性ポリマーの混合物を含んでなると述べることにより、活性コアが最初にアミロースの内層コーティング、次いでオイドラギット(登録商標)L100の外層コーティングによりコーティングされている既知の多層剤形(例えば、上記のMilojevicらに開示されている)を除外することを意図している。本発明の文脈において、そのような多層剤形は、デンプンおよびオイドラギット(登録商標)L100の混合物を含まない。
【0065】
外層コーティングは、好ましくは、多糖類および腸溶性ポリマーの混合物である。
【0066】
オプションの追加の層
本発明の外層コーティングはコアの表面と直接接触している。すなわち、外層コーティングは、薬物自体、またはコーティングされていないコアを形成する薬物と、1種もしくは2種以上の賦形剤との混合物または仕切られているコア(すなわち仕切り層によりコーティングされたコア)の表面と直接接触している。したがって、本発明の製剤は、コアの一部として、すなわち、活性コアの表面と外層コーティングとの間に、追加の仕切り層を有し得る。
【0067】
コアの組成が外層コーティングと適合しない本発明による製剤があり得る。そのような場合、コアを外層コーティングから仕切るために仕切り層を含めることが望ましい場合がある。例えば、本発明は、コアが外層コーティングにおけるアニオン性ポリマーの官能性を変化させ得る酸性基を有する薬物を含む実施形態を包含する。酸性基を有する薬物の例は、5-ASAである。このような場合、通常、仕切り層を有することが適切である。
【0068】
当業者に知られている任意の好適な仕切り層を使用することができる。好ましい一実施形態において、仕切り層はフィルム形成性非イオン性ポリマーを含んでなる。好適な非イオン性ポリマーには、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCまたはヒプロメロース)、ポリ(エチレンオキシド)-グラフト-ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリビニルアルコール(PVA)が含まれる。非イオン性セルロース系ポリマー(例えば、HPMC)が、PVAと同様に好ましい。非イオン性ポリマーの混合物を使用することもできる。特に好ましい混合物は、HPMCおよびPEGである。仕切り層はさらに、可塑剤を含むことができる。好適な可塑剤には、ポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、トリアセチンおよびクエン酸アセチルトリエチルが含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
当技術分野で知られているように、最終研磨層を外層コーティングに形成可能である。
【0070】
コア
「コア」は、その上に外層コーティングが施される固体である。コアは、任意の好適な剤形、例えば、錠剤、ペレット、顆粒、微粒子、硬質もしくは軟質カプセル、またはマイクロカプセルであり得る。好ましい実施形において、コアは錠剤またはカプセルである。
【0071】
コアは薬物を含んでなる。薬物は、コアの本体内(例えば、錠剤もしくはペレットのマトリックス内)またはカプセル内に包まれた内容物内に含まれ得る。あるいは、例えば、コアが食用材料、例えば、砂糖のビーズである場合、例えば、コアがノンパレイユビーズまたは糖衣錠の形態である場合、薬物は、コアに施されたコーティングの中に存在し得る。
【0072】
コアは、薬物のみからなっていてもよく、またはより一般的には、薬物および少なくとも1種の薬理学的に許容可能な賦形剤からなっていてもよい。これに関連して、コアは通常、錠剤またはペレットである。コアは通常、薬物と、充填または希釈材料、例えば、ラクトースまたはセルロース材料(例えば、微結晶セルロース);結合剤、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)またはヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC);崩壊剤、例えばクロスカルメロースナトリウム(例えば、Ac-Di-Sol(登録商標))およびデンプングリコール酸ナトリウム(例えば、エキスプロタブ(登録商標));かつ/あるいは、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウムおよびタルク)とからなる。コアは、これらの材料の少なくともいくつかを含んでなるか、または同じ機能を有するその他のものを含んでなる圧縮された顆粒であり得る。
【0073】
コアはコーティングされていなくてもよく、あるいは、上記のように、コアは、それ自体、その上に外層コーティングが施される仕切り層のようなコーティングを備え得る。
【0074】
各コアの最小直径は、一般的に少なくとも約10-4m、通常は少なくとも約5×10-4m、好ましくは少なくとも約10-3mである。最大直径は通常、30mm以下、典型的には25mm以下、好ましくは20mm以下である。好ましい実施形態において、コアの直径は、約0.2mm以上約25mm以下、好ましくは約0.2mm以上約4mm以下(例えば、ペレットまたはミニ錠剤の場合)または約15mm以上約25mm以下(例えば、ある種の錠剤またはカプセルの場合)である。「直径」という用語は、中心を通る最大の直線寸法を指す。
【0075】
特にコアが「小さい」、例えば直径が5mm未満である実施形態において、薬物の単回投与を提供するために、製剤は、複数個のコーティングされたコアを含み得る。直径が3mm未満のコーティングされたコアを含んでなるマルチユニット剤形が好ましい場合がある。
【0076】
本発明は、同じ剤形、例えばカプセル中に、少なくとも2種の複数個のコーティングされたコア、例えばコーティングされたペレットを含んでなる多相薬物放出製剤において適用され、ここで、1種の複数個のコーティングされたコアは、もう一方の複数個のコーティングされたコア、またはそれぞれのその他の複数個のコーティングされたコアからコーティングによって区別される。コーティングは、コーティングの厚みまたは組成、例えば、成分の比率および/または種類(identity)に関して、1種の複数個の粒子ごとに異なる場合がある。多相薬物放出製剤は、腸に沿った様々な領域を侵すクローン病の患者に特に適している。
【0077】
本発明による製剤からの放出は、典型的には、少なくとも遠位回腸、好ましくは結腸まで遅延される。特定の製剤からの放出は持続してもよい。しかしながら、好ましい製剤において、放出はパルス放出である。
【0078】
薬物放出に適した条件への最初の曝露から薬物放出の開始までの時間は「遅延時間」として知られている。遅延時間は、様々な要因、例えば、コーティングの厚みおよび組成に依存し、患者ごとに異なりうる。本発明による製剤は、通常、結腸条件において少なくとも10分の遅延時間を示す。ほとんどの実施形態において、遅延時間は、約10分~約4時間であり、好ましくは約60分~約250分である。
【0079】
製剤は通常、2時間後に酸性媒体における薬物放出が10重量%未満である場合に、胃抵抗性と定義される。本発明による製剤は、通常は、酸性媒体において10重量%よりきわめて少ない薬物放出を示し、胃抵抗性であると見なされ得る。製剤は通常、酸性媒体において1重量%未満の薬物放出を示し、通常、酸性媒体において実質的に薬物放出を示さない。デンプンをアクリレートフィルム形成材料と組み合わせてコアのコーティングの外層を形成させる場合、胃および小腸の模擬条件において、通常、5時間で5%未満の薬物放出が起こる。
【0080】
一例として、錠剤コアが、高アミロースデンプンおよびオイドラギット(登録商標)S(75:25)を含んでなるコーティングによりコーティングされ、腸溶性ポリマーの乾燥重量を基準として、5.0mgポリマー/cm2の腸溶性ポリマーのコーティング量でコーティングされる実施形態において、クレブス緩衝液中での放出の開始から放出の完了までの間の時間は、約4時間未満、好ましくは約3時間未満であり得る。
【0081】
好ましい実施形態において、コアは、約1mmの直径を有するペレットである。別の好ましい実施形態において、コアは、約8mmの直径を有する錠剤である。両方の場合において、コーティングは、好ましくは、高アミロースデンプン(例えば、Eurylon(登録商標)6(Amylo N-400))およびアクリルポリマー(例えば、オイドラギット(登録商標)S)の75:25混合物である。両方の好ましい実施形態において、コアは、腸溶性ポリマーの乾燥重量を基準として、約5.0mgポリマー/cm2の腸溶性ポリマーのコーティング量に達するようにコーティングされる。
【0082】
本発明の製剤は、任意のサイズのコアを含んでなることができる。いくつかの実施形態において、薬物は、約50mg以上約1650mg以下、または約100mg以上約1550mg以下、または約150mg以上約1500mg以下、または約200mg以上約1450mg以下、または約250mg以上約1400mg以下、または約300mg以上約1350mg以下、または約350mg以上約1300mg以下、または約400mg以上約1250mg以下、または約450mg以上約1200mg以下、または約500mg以上約1150mg以下、または約550mg以上約1100mg以下、または約600mg以上約1050mg以下、または約650mg以上約1000mg以下、または約700mg以上約950mg以下、または約800mg以上約1600mg以下、または約850mg以上約1600mg以下、または約900mg以上約1500mg以下、または約950mg以上約1400mg以下、または約1000以上約1300mg以下、または約1150以上約1200mg以下の量で製剤のコア中に存在する。好ましくは、薬物は、約400mg、約800mg、約1200mg、約1500mgまたは約1600mgから選択される量でコア中に存在する。
【0083】
様々な態様
本発明の第2の態様によれば、療法によるヒトまたは動物の身体の医学的治療の方法において使用するための第1の態様による製剤が提供される。
【0084】
コアは少なくとも1種の薬剤を含んでなる。本発明の製剤は通常、唯一の治療有効成分として単剤を投与するために使用される。しかしながら、2種以上の薬物を単剤において投与することができる。
【0085】
本発明の製剤は、広範囲の薬物を投与するように設計されている。好適な薬物として、既知の遅延放出経口製剤を使用する腸内投与用に知られている薬物がある。本発明は、局所的または全身的効果を有する薬物を投与するために使用され得る。
【0086】
本発明の製剤は、少なくとも1つの酸性基(例えば、カルボン酸基)を含む薬物の腸内投与において特に適用される。そのような薬物は、酸性薬物または双性イオン性薬物であり得る。そのような薬物の例は、5-アミノサリチル酸(5-ASA、別名メサラミンまたはメサラジン)である。
【0087】
製剤中の薬物の種類は、治療される状態に明確に依存する。これに関連して、この製剤は、IBD(クローン病および潰瘍性大腸炎を含む)、IBS、便秘、下痢、感染症および癌腫(特に結腸癌または結腸直腸癌)の治療に特に適用される。
【0088】
IBDの治療または予防のために、製剤は、抗炎症剤(例えば、5-ASA、4-ASA、スルファサラジンおよびバルサラジド)、非ステロイド性抗炎症薬(例えば、イブプロフェンおよびジクロフェナク)、ステロイド(例えば、プレドニゾロン、ブデソニドまたはフルチカゾン)、免疫抑制剤(例えば、アザチオプリン、シクロスポリン、およびメトトレキサート)、抗生物質ならびに生物製剤(例えば、ペプチド、タンパク質、抗体および抗体フラグメント)からなる群から選択される少なくとも1種の薬物を含んでなり得る。生物製剤の好適な例には、アルカリホスファターゼおよび抗TNF抗体(例えば、インフリキシマブ、アダリムマブ、セルトリズマブペゴル、ゴリムマブおよびウステキヌマブ)が含まれる。
【0089】
癌の治療または予防のために、製剤は少なくとも1種の抗腫瘍剤を含んでなり得る。好適な抗腫瘍剤には、フルオロウラシル、メトトレキサート、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、エトポシド、タキソール、ビンクリスチン、ドキソルビシン、シスプラチン、ダウノルビシン、VP-16、ラルチトレキセド、オキサリプラチンならびにその薬理学的に許容可能な誘導体および塩が含まれる。結腸癌または結腸直腸癌、主に大腸炎を患っている患者における結腸癌または結腸直腸癌の予防のために、製剤は、抗炎症剤である5-ASAを含んでなり得る。
【0090】
IBS、便秘、下痢または感染症の治療または予防のために、製剤はこれらの状態の治療または予防に適した少なくとも1種の有効薬剤を含んでなり得る。
【0091】
薬物の薬理学的に許容可能な誘導体および/または塩もまた、製剤に使用され得る。プレドニゾロンの好適な塩の例は、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウムである。さらなる例は、プロピオン酸フルチカゾンである。
【0092】
本発明は、IBD(特に潰瘍性大腸炎)の治療または結腸癌もしくは結腸直腸癌(主に大腸炎患者)の予防において特に適用され、両方に5-ASAを使用する。また、結腸を介した全身循環への薬物の入る入口としても適用される。これは、上部消化管で不安定なペプチドおよびタンパク質の薬物にとって特に有利である。本発明はまた、時間療法(chronotherapy)の目的のために利用され得る。
【0093】
本発明の第3の態様において、上記で定義された製剤を患者に投与することを含んでなる、薬物を結腸に標的化する方法が提供される。
【0094】
本発明の第4の態様において、IBD(特に潰瘍性大腸炎)、IBS、便秘、下痢、感染症および癌の治療または予防のための薬剤の製造における、上記で定義された製剤の使用が提供される。
【0095】
IBDの治療に使用するための上記で定義された製剤を含んでなる医薬の製造における、抗炎症剤およびステロイドから選択される少なくとも1種の薬剤の使用も提供される。さらに、癌腫の治療に使用するための上記で定義された製剤を含んでなる医薬の製造における少なくとも1種の抗腫瘍剤の使用も提供される。さらに、結腸癌または結腸直腸癌の予防における使用のための上記で定義された製剤を含んでなる医薬の製造における5-ASAの使用も提供される。
【0096】
本発明の第5の態様によれば、上記で定義された治療量の製剤を患者に投与することを含んでなる、IBDまたは癌腫の医学的治療または予防の方法が提供される。
【0097】
製剤は、通常は、製剤の総重量を基準として、約0.01重量%以上約99重量%以下の治療有効量のその薬物または各薬物を含んでなる。実際の投与量は、当業者が一般的な知識を使用して決定する。しかしながら、例として、「低」用量製剤は、通常は約20重量%以下の薬物を含んでなり、好ましくは、約1重量%以上約10重量%以下、例えば、約5重量%の薬物を含んでなる。「高」用量製剤は、通常は少なくとも40重量%、好ましくは約45重量%以上約85重量%以下、例えば約50重量%または約80重量%の薬物を含んでなる。
【0098】
方法
発明の第6の態様によれば、第1の態様による遅延放出製剤を製造する方法が提供される。
【0099】
この方法は、以下の工程:
薬物を含んでなり、場合により仕切り層を備えるコアを形成させる工程;および
溶媒中に、結腸の酵素による分解を受けやすい酵素分解性多糖類であって、デンプン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、カードランおよびレバンからなる群から選択される前記酵素分解性多糖類と、約pH6以上のpH閾値を有するフィルム形成性腸溶性ポリマーとの混合物を含んでなる外層コーティング調製物により前記コアを直接コーティングして、外層でコーティングされたコアを形成させる工程
を含んでなり、
前記酵素分解性多糖類および前記腸溶性ポリマーは、60:40を超える比率で前記外層中に存在する。
【0100】
好ましい多糖類および腸溶性ポリマーは、上記のとおりである。コアは、好ましくは、上記外層コーティング調製物により噴霧コーティングされる。
【0101】
好ましい実施形態において、本方法は、溶媒中の非イオン性セルロース系フィルム形成性ポリマーを通常含んでなる仕切り層コーティング調製物によりコアを最初にコーティングして、外層コーティング調製物によりコーティングするための仕切り層でコーティングされたコアを形成させることを含んでなる。
【0102】
圧縮された顆粒からコアを形成する実施形態において、この方法は、好ましくは、以下の工程:
薬物を少なくとも1種の賦形剤と乾式混合して、乾燥混合物を形成させる工程;
上記乾燥混合物の少なくとも一部を造粒して、顆粒を形成させる工程;
上記顆粒の少なくとも一部を圧縮して、上記コアを形成させる工程;および
上記コアを上記外層コーティング調製物により噴霧コーティングして、上記遅延放出製剤を形成させる工程
を含んでなる、方法。
【0103】
造粒工程は、湿式造粒または乾式造粒プロセスのいずれかを使用して実施可能である。好ましくは、造粒は、湿式造粒プロセスを使用して実施される。
【0104】
別の実施形態において、直接圧縮プロセスまたは重層プロセスによって、コアを形成させることができる。
【0105】
流動層噴霧コーティング機または穿孔パンコーターを使用して、コアを外層コーティング調製物によりコーティングして、製剤粒子を形成させることができる。
【0106】
好ましい実施形態において、この方法は、以下の工程:
上記多糖類を含んでなる水性分散液または水溶液を形成させる工程;
上記腸溶性ポリマーを含んでなるアルコール溶液または水溶液を形成させる工程;および
上記多糖類の水性分散液の少なくとも一部を、前記腸溶性ポリマーのアルコール溶液または水溶液の少なくとも一部に添加、好ましくは滴状に添加して、上記外層コーティング調製物を形成させる工程
を含んでなる。
【0107】
多糖類がデンプンである実施形態において、デンプンを少なくとも1種のアルコール、好ましくはC1~C6アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、プロパン-2-オール、ブタン-1-オール、ブタン-2-オールおよびそれらの混合物、特にブタン-1-オール単独に分散させ、次いで、通常、よく撹拌しながら水を添加することが好ましい。得られた水性分散液は通常、加熱還流され(すなわち「加熱処理され(cooked)」)、次いで、一晩撹拌しながら冷却される。アルコールの目的は、デンプンを溶媒和して、水性分散液をすぐに形成させることである。あるいは、多糖類を水に直接分散させることができる。
【0108】
さらに、デンプンが多糖類として使用される場合、アルコールは加熱処理プロセス中に浸出されたアミロースを安定化するのを補助する。具体的には、アミロースはブタン-1-オールとV-複合体を形成し、これが冷却時の結晶化速度を低下させると考えられている。アミロースの二重らせんへの再結合は老化として知られており、デンプンの消化性を低下させると考えられている。
【0109】
腸溶性ポリマーは、通常、少なくとも1種の溶媒、例えば水または有機溶媒に溶解される。有機溶媒は、アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパン-2-オール、メチルグリコール、ブチルグリコール、アセトン、酢酸メチルグリコールおよびそれらの混合物(例えば、アセトンおよびイソプロピルアルコールの混合物、例えば、約4:6の比率の混合物)であり得る。腸溶性ポリマーは、好ましくは、高速撹拌下でエタノール(好ましくは85~98%のエタノール)に溶解される。
【0110】
好ましくは、高速撹拌下において適切な量の水性分散液をアルコール溶液に滴状に添加することによって、外層コーティング調製物を形成させる。さらなる賦形剤、例えば、可塑剤(例えば、クエン酸トリエチル)および/または滑沢剤(例えば、モノステアリン酸グリセリル)が、通常、撹拌しながら調製物に添加される。
【実施例】
【0111】
以下、本発明のいくつかの好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。
【0112】
図1は、0.1M HClに2時間曝露し、次いで、クレブス緩衝液(pH7.4)に8時間曝露した場合の、実施例1、実施例2、実施例3および比較例1によるコーティングされた5-ASA錠剤からの薬物放出を時間の関数として比較するグラフである。
【0113】
図2は、0.1N HClに2時間曝露し、次いで、ソレンセンの緩衝液(pH6.8)に(a)α-アミラーゼありおよび(b)α-アミラーゼなしで曝露した場合の、実施例2によるコーティングされた5-ASA錠剤からの薬物放出を時間の関数として比較するグラフである。
【0114】
材料
オイドラギット(登録商標)S100は、Evonik GmbH(Darmstadt、ドイツ)から購入した。トウモロコシデンプン(Eurylon(登録商標)6)はRoquette(Lestrem、フランス)から購入した。ポリソルベート80(Tween(登録商標)80)、ブタン-1-オール、クエン酸トリエチル(TEC)、エタノール95%、リン酸二水素カリウム(KH2PO4)、リン酸水素ナトリウム・二塩基二水和物(Na2HPO4・2H2O)および水酸化ナトリウムはすべて、Sigma-Aldrich(Buchs、スイス)から購入した。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、ファーマコート(登録商標)603)は、信越から購入した。ポリエチレングリコール(PEG6000)はFlukaから購入した。モノステアリン酸グリセリン(GMS)はCognisから購入した。赤色酸化鉄および黄色酸化鉄(Sicovit)はBASFから購入した。
【0115】
錠剤コア
5-ASAを含む錠剤コアを準備した。実施例1では、800mgのコアを使用した。実施例2では、1200mgのコアを使用した。実施例3および比較例1では、1600mgのコアを使用した。
【0116】
実施例1~3および比較例1の錠剤コアは、HPMCおよびポリエチレングリコール6000(PEG6000)を含んでなる仕切り層によりコーティングされた。
【0117】
コーティングされた錠剤コアの調製
実施例1、2および3(HPMC仕切り層/オイドラギット(登録商標)S100と高アミロースデンプンの25:75混合物の外層コーティング)
仕切り層
仕切り層は、HPMCおよび20%PEG 6000(乾燥ポリマーの重量を基準とする)の水性混合物から以下の量で形成された。
【0118】
【0119】
HPMCを磁気撹拌下において水に溶解させ、次いで、PEG6000を添加して仕切り層コーティング調製物を形成させた。HPMCのコーティング量が3mgポリマー/cm2になるまで、穿孔パンコーターを使用して、仕切り層コーティング調整物を5-ASAのコア上に噴霧し、仕切り層でコーティングされたコアを形成させた。噴霧コーティングのパラメータは以下のとおりである。
【0120】
【0121】
外層コーティング
25%オイドラギット(登録商標)S100および75%高アミロースデンプンから形成された外層コーティングにより、仕切り層によりコーティングされた錠剤コアをコーティングした。
【0122】
外層コーティングは、デンプン水性分散液およびオイドラギット(登録商標)S100エタノール溶液の混合物から以下の量(オイドラギット(登録商標)S100乾燥ポリマー重量を基準とする)で形成された。
【表3】
【0123】
磁気撹拌下において高アミローストウモロコシデンプン(Eurylon(登録商標)6、別名Amylo N-400)をブタン-1-オールに分散させ、次いで、水に分散させて、デンプン水性分散液を調製した。得られた分散液を沸騰するまで加熱し、次いで、一晩撹拌しながら冷却した。
【0124】
高速撹拌下においてオイドラギット(登録商標)S100を96%エタノールに分散させて、オイドラギット(登録商標)S100溶液を調製した。
【0125】
撹拌下においてデンプン水性分散液をオイドラギット(登録商標)S100溶液に滴状に添加して、オイドラギット(登録商標)S100:デンプンの比率が25:75になるようにした。混合物を1時間撹拌し、クエン酸トリエチルおよびGMSエマルジョン(事前にポリソルベート80により調製した)を添加し、さらに30分間混合した。赤色酸化鉄および黄色酸化鉄の懸濁液を添加し、混合物をさらに10分間撹拌した。
【0126】
GMSエマルジョンを5%w/wの濃度で調製した。ポリソルベート80(Tween(登録商標)、GMS重量を基準として40%)を蒸留水に溶解させ、次いで、GMSを分散させた。強力な磁気撹拌下において分散液を75℃に15分間加熱して、エマルジョンを形成させた。エマルジョンを撹拌しながら室温に冷却した。
【0127】
ホモジナイズ下において(under homogenization)赤色酸化鉄顔料および黄色酸化鉄顔料を96%エタノールに10分間懸濁することによって、顔料懸濁液を形成させた。
【0128】
オイドラギット(登録商標)S100のコーティング量が5mgポリマー/cm2に達するまで、穿孔パンコーターを使用して、最終的な外層コーティング調製物を仕切り層でコーティングされたコアに噴霧した。噴霧コーティングのパラメータは以下のとおりである。
【0129】
【0130】
比較例1(HPMC仕切り層/部分的に中和されたオイドラギット(登録商標)S100の内層/オイドラギット(登録商標)S100および高アミロースデンプンの25:75混合物の外層コーティング)
仕切り層
仕切り層は、実施例1、2および3に従って調製および形成された。
【0131】
内層
内層は、メタクリル酸-メタクリル酸メチルコポリマー(比率1:2;オイドラギット(登録商標)S100)の水性調製物(pHはpH8に調整された)から形成された。内層の組成はまた、70%のクエン酸トリエチル(乾燥ポリマーの重量を基準とする)、10%のGMS(乾燥ポリマーの重量を基準とする)、40%のポリソルベート80(GMSの重量を基準とする)および1%のKH2PO4緩衝剤(乾燥ポリマー重量を基準とする)も含んでいた。
【0132】
内層は、以下の量(オイドラギット(登録商標)S100乾燥ポリマー重量を基準とする)で噴霧コーティングによって形成された。
【0133】
【0134】
KH2PO4を蒸留水に溶解し、次いで、オイドラギット(登録商標)S100を分散させた。次いで、クエン酸トリエチルおよびGMSエマルジョン(事前にポリソルベート80で調製された)を添加し、さらに30分間混合した。次いで、pH8になるまで、1M NaOHを使用してpHを調整した。
【0135】
最終的な内層コーティング調製物は、オイドラギット(登録商標)S100の量が5mgポリマー/cm2に達するまで、穿孔パンコーターを使用して仕切り層でコーティングされたコアに噴霧された。噴霧コーティングのパラメータは以下のとおりであった。
【0136】
【0137】
外層コーティング
外層コーティングは、デンプン水性分散液およびオイドラギット(登録商標)S100水溶液の混合物から形成された。外層コーティング調製物は、実施例1、2および3のように形成され、オイドラギット(登録商標)S100の量が5mgポリマー/cm2に達するまで、内層でコーティングされたコアに噴霧した。噴霧コーティングの条件は、実施例1、2および3において使用されたとおりであった。
【0138】
薬物放出試験#1:空腹状態を模擬化し、次いで、pH7.4のクレブス緩衝液に溶解
in vitro溶解試験は、50rpmのパドル速度および37℃±0.5℃の媒体温度を使用してUSPタイプII装置により実施された。「空腹」状態を模擬化するために、錠剤を最初に0.1M HCl中で2時間試験し、次いで、クレブス緩衝液(pH7.4)中で8時間試験した。
【0139】
薬物放出試験#2:空腹状態を模擬化し、次いで、pH6.8のソレンセンの緩衝液に溶解(α-アミラーゼなし)
in vitro溶解試験は、50rpmのパドル速度および37℃±0.5℃の媒体温度を使用してUSPタイプII装置により実施された。コーティングされた錠剤を、pH6.8のソレンセンの緩衝液(35.4mM KH2PO4+35.6mM NaH2PO4)中で試験した。
【0140】
「空腹」状態を模擬化するために、錠剤を最初に0.1M HCl中で2時間試験し、次いで、pH6.8のソレンセンの緩衝液中で10時間試験した。
【0141】
薬物放出試験#3:空腹状態を模擬化し、次いで、pH6.8のソレンセンの緩衝液に溶解(α-アミラーゼの影響)
in vitro溶解試験は、50rpmのパドル速度および37℃±0.5℃の媒体温度を使用してUSPタイプII装置により実施された。コーティングされた錠剤は、B.licheniformis由来のα-アミラーゼ(50U(ユニット)/mL)を含むpH6.8のソレンセンの緩衝液(35.4mM KH2PO4+35.6mM NaH2PO4)中で試験した。
【0142】
「空腹」状態を模擬化するために、錠剤を最初に0.1M HCl中で2時間試験し、次いで、pH6.8のソレンセンの緩衝液中で10時間試験した。
【0143】
結果
図1に表される結果は、実施例1、2および3による製剤が、各実施例において使用されるコアサイズに関係なく、比較例1によるものと同様の溶解特性を示したことを示している。具体的には、pH7.4への曝露時に、試験されたすべての錠剤は、130~160分の範囲の遅延時間であり、同様の薬物放出プロファイルを示した(薬物放出試験#1、
図1)。これは、実施例1、2および3において、アルカリ性の内層が存在しなくても、錠剤の放出特性に悪影響を及ぼさないことを示している。
【0144】
内層は、腸溶性ポリマーのpH閾値を超えて薬物放出加速を提供するために開発されたため、外層コーティングが大量の多糖類を有する場合には、実施例1、2および3における内層の不在が、薬物放出プロファイルに影響を及ぼさないことは驚くことである。これは、腸溶性ポリマーに対する多糖類の比率が低い場合に見られる。
【0145】
酵素消化
pH6.8の水溶液において、実施例2および3の錠剤について酵素誘発性放出が見られる(薬物放出試験#2および#3)。具体的には、α-アミラーゼがpH6.8の緩衝液に存在する場合、5-ASAのより早期の放出開始が見られる。興味深いことに、実施例2および3の単層でコーティングされた錠剤からの薬物放出は、α-アミラーゼの有無の両方において、pH6.8における比較例1の二重層でコーティングされた錠剤よりも著しく速い(表7、
図2)。
【0146】
【0147】
本発明は、好ましい実施形態に関する上記の詳細に限定されず、以下の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、多数の変更および変形を行うことができることが理解されよう。
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]対象の結腸に薬物を送達するための経口投与用の遅延放出製剤であって、
前記遅延放出製剤は、コアおよび前記コアのための外層コーティングを備え、
前記コアは、薬物を含んでなり、場合により仕切り層を備え、
前記外層コーティングは、結腸の酵素による分解を受けやすい酵素分解性多糖類であって、デンプン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、カードランおよびレバンからなる群から選択される前記酵素分解性多糖類と、約pH6以上のpH閾値を有するフィルム形成性腸溶性ポリマーとの混合物を含んでなり、
前記酵素分解性多糖類および前記腸溶性ポリマーは、60:40を超える比率で前記外層コーティング中に存在し、
前記外層コーティングは、コーティングされていない前記コアの表面と直接接触しているか、または、前記仕切り層が存在する場合には前記仕切り層と直接接触している、前記遅延放出製剤。
[2]前記酵素分解性多糖類および前記腸溶性ポリマーが、約65:35~約90:10、より好ましくは約70:30~約80:20、最も好ましくは約75:25の比率で前記外層コーティング中に存在する、[1]に記載の遅延放出製剤。
[3]前記腸溶性ポリマーが、前記腸溶性ポリマーの乾燥重量を基準として、約4mg/cm
2
以上約6mg/cm
2
以下、好ましくは約5mg/cm
2
の量で前記外層コーティング中に存在する、[1]または[2]に記載の遅延放出製剤。
[4]前記コアが前記仕切り層を備える、[1]~[3]のいずれかに記載の遅延放出製剤。
[5]前記仕切り層がフィルム形成性非イオン性ポリマーを含んでなる、[1]~[4]のいずれかに記載の遅延放出製剤。
[6]前記非イオン性ポリマーが非イオン性セルロース系ポリマーである[5]に記載の遅延放出製剤。
[7][1]に記載の結腸に薬物を送達するための経口投与用の遅延放出製剤を製造する方法であって、
前記方法は、以下の工程:
薬物を含んでなり、場合により仕切り層を備えるコアを形成させる工程;および
結腸の酵素による分解を受けやすい酵素分解性多糖類であって、デンプン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、カードランおよびレバンからなる群から選択される前記酵素分解性多糖類と、溶媒中で約pH6以上のpH閾値を有するフィルム形成性腸溶性ポリマーとの混合物を含んでなる外層コーティング調製物により前記コアを直接コーティングする工程
を含んでなり、
前記酵素分解性多糖類および前記腸溶性ポリマーは、60:40を超える比率で前記外層中に存在する、前記方法。
[8]溶媒中にフィルム形成性非イオン性ポリマーを含んでなる仕切り層コーティング調製物により前記コアを最初にコーティングして、外層コーティング調製物によりコーティングするための仕切り層でコーティングされたコアを形成させることを含んでなる、[7]に記載の方法。
[9]前記非イオン性ポリマーが、非イオン性セルロース系ポリマーである、[8]に記載の方法。
[10]前記酵素分解性多糖類および前記腸溶性ポリマーが、約65:35~約90:10、好ましくは約70:30~約80:20、より好ましくは約75:25の比率で前記外層コーティング調製物中に存在する、[7]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]前記腸溶性ポリマーが、前記腸溶性ポリマーの乾燥重量を基準として、約4mg/cm
2
以上約6mg/cm
2
以下、好ましくは約5mg/cm
2
の量で前記コアにコーティングされるまで、前記コアが前記外層コーティング調製物によりコーティングされる、[7]~[10]のいずれかに記載の方法。