(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】三金属層状複水酸化物組成物
(51)【国際特許分類】
C25B 11/091 20210101AFI20240122BHJP
B01J 23/86 20060101ALI20240122BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240122BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240122BHJP
【FI】
C25B11/091
B01J23/86 M
C25B1/04
C25B9/00 A
(21)【出願番号】P 2021533414
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 AU2019050859
(87)【国際公開番号】W WO2020034007
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-08-15
(32)【優先日】2018-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】506093452
【氏名又は名称】ニューサウス イノベーションズ ピーティーワイ リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】521067555
【氏名又は名称】コホドー ハイドロジェン エナジー ピーティーワイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ,チュアン
(72)【発明者】
【氏名】ボー,シン
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-059000(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154134(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0218528(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0226648(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0088654(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第102553660(CN,A)
【文献】Chee Shan Lim, et al.,Layered Transition Metal Oxyhydroxides as Tri-functional Electrocatalysts,Journal of Materials Chemistry A,2015年,Vol. 22,p. 1-10,https://doi.org/10.1039/C5TA02063H
【文献】Michaela S. Burke, et al.,Cobalt-Iron (Oxy)hydroxide Oxygen Evolution Electrocatalysts: The Role of Structure and Composition on Activity, Stability, and Mechanism,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2015年,Vol. 137,p. 3638-3648,https://doi.org/10.1021/jacs.5b00281
【文献】Taotao Gao, et al.,A trimetallic V-Co-Fe oxide nanoparticle as an efficient and stable electrocatalyst for oxygen evolution reaction,Journal of Materials Chemistry A,2015年,Vol. 34,p. 17763-17770,https://doi.org/10.1039/C5TA04058B
【文献】Zhenhua Li, et al.,Fast electrosynthesis of Fe-containing layered double hydroxide arrays toward highly efficient electrocatalytic oxidation reactions,Chemical Science,2015年,Vol. 11,p. 6624-6631,https://doi.org/10.1039/C5SC02417J
【文献】Chenlong Dong, et al.,Rational design of cobalt-chromium layered double hydroxide as a highly efficient electrocatalyst for water oxidation,Journal of Material Chemistry A,2016年,Vol. 29,p. 11292-11298,https://doi.org/10.1039/C6TA04052G
【文献】Xin Bo, et al.,NiFeCr Hydroxide Holey Nanosheet as Advanced Electrocatalyst for Water Coxidation,APPLIED MATERIALS & INTERFACES,2017年,Vol. 9,p. 41239-41245,https://doi.org/10.1021/acsami.7b12629
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C25B 1/00 - 15/08
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化物層が散在したコバルト、鉄及びクロム種を含む金属複合物を含む層状複水酸化物材料
であって、金属複合物が、Co
2+
及び/又はCo
3+
を含む、層状複水酸化物材料。
【請求項2】
金属複合物が、Fe
2+及び/又はFe
3+を含む、請求項
1に記載の層状複水酸化物材料。
【請求項3】
金属複合物が、Cr
3+及び/又はCr
6+を含む、請求項1~
2のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
【請求項4】
金属複合物が、コバルト及び鉄を、重量対重量ベースで1.5~3.5:1のコバルト:鉄の比で含む、請求項1~
3のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
【請求項5】
金属複合物が、コバルト及びクロムを、重量対重量ベースで1.5~2.5:1のコバルト:クロムの比で含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
【請求項6】
金属複合物が、鉄及びクロムを、重量対重量ベースで0.7~1:1の鉄:クロムの比で含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
【請求項7】
金属複合物が、球状形態を有する、請求項1~
6のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
【請求項8】
球状形態が、複数のミクロスフェアを含む、請求項
7に記載の層状複水酸化物材料。
【請求項9】
ミクロスフェアの平均直径が、単分散である、請求項
8に記載の層状複水酸化物材料。
【請求項10】
単分散ミクロスフェアが
、100
~300nmの平均直径を有する、請求項
9に記載の層状複水酸化物材料。
【請求項11】
水酸化物層が、アモルファス水酸化物とCoベースのスピネル酸化物との混合相である、請求項1~
10のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
【請求項12】
金属複合物が、ニッケル種をさらに含む、請求項1~
11のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の
層状複水酸化物材料及び場合により基板を含む触媒材料。
【請求項14】
ナノドットの形態の請求項
13に記載の触媒材料。
【請求項15】
導電性基板、及び導電性基板の表面上にコーティングされた触媒材料を含む電極であって、触媒材料は、請求項1~
12のいずれか一項に記載の
層状複水酸化物材料を含む、電極。
【請求項16】
導電性基板が、金属フォームである、請求項
15に記載の電極。
【請求項17】
導電性基板が、ニッケルフォームである、請求項
15又は
16に記載の電極。
【請求項18】
請求項
13若しくは14に記載の触媒材料又は請求項
15~
17のいずれか一項に記載の電極を調製する方法であって、導電性基板を、コバルト、鉄及びクロムイオンを含む溶液と接触させるステップ、及び溶液を通して基板及び対電極に渡って電圧を印加して、基板上にコバルト、鉄及びクロム種を含む複合材料を電着させるステップを含む、方法。
【請求項19】
請求項
13又は
14に記載の触媒材料を調製する方法であって、コバルトイオン、鉄イオン及びクロムイオンの溶液
を150℃
~220℃の温度
に8~
20時間処理するステップ、混合物を冷却するステップ及び生成物を収集するステップを含む、方法。
【請求項20】
溶液がニッケルをさらに含み、触媒材料がコバルト、鉄、クロム及びニッケル種を含む、請求項
18又は請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
水から酸素を発生させる方法であって、該方法は、アノード、カソード及び電解質溶液を含む電気化学セルを提供するステップ、水をアノード及びカソードと接触させるステップ、及びアノード及びカソードに渡って電圧を印加するステップを含み、アノードは、請求項1~
12のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料、請求項
13又は
14に記載の触媒材料、又は請求項
15~
17のいずれか一項に記載の電極を含む、方法。
【請求項22】
アノード電圧が
、200mV
~500mVの過電圧を提供する、請求項
21に記載の方法。
【請求項23】
電気化学セルが、参照電極をさらに含む、請求項
21に記載の方法。
【請求項24】
アノード、カソード及び電源を含む電解槽であって、アノードは、請求項1~
12のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料、請求項
13又は
14に記載の触媒材料、又は請求項
15~
17のいずれか一項に記載の電極を含む、電解槽。
【請求項25】
参照電極をさらに含む、請求項
22に記載の電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層状複水酸化物(LDH)材料、及び水分解プロセスにおいて酸素発生反応(OER)を触媒するためにLDH材料を使用する方法に関する。本発明はまた、LDH材料を含む組成物、触媒材料、電極及び電解槽を提供する。
【背景技術】
【0002】
水分解プロセスは、入力として、豊富な利用可能な水及び低炭素集約型エネルギー源、例えば、再生可能エネルギー源(例えば、太陽エネルギー)を利用することができるため、水素の生成及び貯蔵に対する持続可能なアプローチと見なされている。水分解は、水素発生反応(HER)によりカソードで水素を生成する電解槽で実施することができる。酸素は、酸素発生反応(OER)によりアノードで生成することができる。
【0003】
実際には、遷移金属ベースの電極のほとんどは、不安定性のために強酸条件で生き残ることができないため、水分解は、典型的には、強アルカリ電解液中で実施される。水分解触媒の性能は、OER半反応の比較的遅い反応速度論によって制限される。OERは、4電子移動プロセスを含む。したがって、理論的に定義された1.23Vの電気分解電位値に加えて、追加のエネルギー入力が、水分子の分解を可能にするために必要である。理論的電位よりも大きな電位が、電気分解反応を駆動するために必要であるため、この追加のエネルギー要求は、過電圧(η)と呼ばれる。
【0004】
IrO2及びRuO2などの貴金属ベースの材料は、許容可能な過電圧範囲内で水を酸素に効率的に酸化することができるが、水分解の産業用途は、そのような貴金属の高コストによって依然として妨げられている。
【0005】
最近の試みは、地球に豊富な金属をベースにした水分解触媒の開発に焦点を合わせている。地球に豊富な金属は、Re、Ru、Os、Rh、Ir、Pd、Pt、Ag及びAuを除外する。地球に豊富な金属をベースにした電解触媒の1つの有望なクラスは、層状複水酸化物(LDH)である。典型的には、LDHは、空間領域(複数可)に負に帯電したアニオンが散在した金属含有種の正に帯電した層からなる。LDHの一例は、対アニオンが散在したNi2+及びFe3+カチオンを含むNi-Fe LDHである。Ni-Fe LDHは、アルカリ性条件下で効率的なOER触媒であることが示されている。しかし、Ni-Fe LDHの複雑な構造は、触媒部位及び作用機序が十分に理解されていないことを意味し、電解触媒としてのそれらのさらなる開発をより困難にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、地球に豊富な元素(複数可)で作られた触媒材料をさらに開発する継続的な必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
本発明者らは、低い過電圧(η)でOERを触媒することができる水酸化物層が散在したコバルト、鉄及びクロムを含む三成分複合材料を開発した。驚くべきことに、CoFeCr複合物のOER触媒性能は、クロムを含まずコバルト及び鉄を含む複合物について達成される性能よりも優れている。
【0008】
一態様では、本発明は、水酸化物層が散在したコバルト、鉄及びクロム種を含む金属複合物を含む層状複水酸化物(LDH)材料を提供する。
【0009】
別の態様では、本発明は、本発明のLDH材料を含む触媒材料を提供する。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、導電性基板、及び導電性基板の表面上にコーティングされた触媒材料を含む電極であって、触媒材料は、本発明のLDH材料を含む、電極を提供する。
【0011】
なおさらなる態様では、本発明は、水分解から酸素を発生させる方法であって、該方法は、アノード、カソード、電解質溶液及び場合により参照電極を含む電気化学セルを提供するステップ、水をアノード及びカソードと接触させるステップ、及びアノード及びカソードに渡って電圧を印加するステップを含み、アノードは、本発明の層状複水酸化物材料を含む、方法を提供する。
【0012】
別の態様では、本発明は、アノード、カソード、電源及び場合により参照電極を含む電解槽であって、アノードは、本発明のLDH材料を含む、電解槽を提供する。
【0013】
さらなる態様では、本発明は、本発明の触媒材料又は電極を調製する方法であって、導電性基板を、コバルト、鉄及びクロムイオンを含む溶液と接触させるステップ、及び溶液を通して基板及び対電極に渡って電圧を印加して、基板上にコバルト、鉄及びクロム種を含む複合材料を電着させるステップを含む、方法を提供する。
【0014】
なお別の態様では、本発明は、触媒材料を調製する方法であって、コバルトイオン、鉄イオン及びクロムイオンの混合物を150℃~220℃の温度に8~20時間処理するステップ、混合物を冷却するステップ、及び生成物を収集するステップを含む、方法を提供する。
【0015】
本発明を詳細に記載する前に、本発明は、特に例示された実施形態、製造又は使用方法に限定されず、これは当然変化し得ることが理解されるべきである。
【0016】
本明細書に記載され及び特許請求される発明は、この概要部(全てを含んでいることは意図されない)に示され又は記載され又は参照されるものを含むがこれらに限定されない多くの特性及び実施形態を有する。本明細書に記載され及び特許請求される発明は、この概要部(限定ではなく概要の説明のみを目的として含まれる)で特定された特徴又は実施形態に限定されず、又はこれらによって限定されない。
【0017】
本明細書で引用される全ての刊行物、特許及び特許出願は、上記又は下記を問わず、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0018】
任意の先行技術の刊行物が本明細書で参照される場合、そのような参照は、その刊行物が当技術分野の一般的な知識の一部を形成することを認めるものではないことが理解されるべきである。
【0019】
図面の簡単な説明
本出願は、ほんの一例として、添付の図面を参照してさらに記載される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1a~dは、(a)ニッケルフォーム(NF)基板上のCoFeCr複合物のミクロスフェア形態の走査型電子顕微鏡法(SEM)画像(拡大画像は挿入図に示される); (b)CoFeCr複合物の透過型電子トモグラフィー(TEM)画像(格子縞は挿入図に示される)、(c)制限視野電子回折(SAED)パターン; 及び(d)CoFeCr複合物の元素分布(O[左上]、Co[右上]、Fe[左下]; Cr[右下])を示す画像を示す。
【
図2】
図2は、クロムを含まない電解液中で得られたNF上のCoFe複合物のSEM画像を示す。
【
図3】
図3は、NF上のCoFe複合物(上)及びCoFeCr複合物(下)の電着中に測定された電流対時間のチャート(J-t曲線)を示す。
【
図4】
図4a~hは、様々な堆積時間: (a)30秒(「s」); (b)60s; (c)120s; (d)300s; (e)900s; (f)1800s; (g)3600s; (h)7200sでのNF上のCoFe複合物の一連のSEM画像を示す。
【
図5】
図5a~hは、様々な堆積時間: (a)30s; (b)60s; (c)120s; (d)300s; (e)900s; (f)1800s; (g)3600s; (h)7200sでのNF上のCoFeCr複合物の一連のSEM画像を示す。
【
図6】
図6は、CoFeナノシート及びCoFeCrミクロスフェア複合物の成長を比較する概要画像を示す。
【
図7】
図7は、NF上のCoFeCr複合物(上)及びCoFe(下)複合物のラマンスペクトルを示す。
【
図8】
図8a~dは、1M KOH中のOER試験の前(上)及び後(下)のCoFeCr複合電極の(a)O1s、(b)Co2p、(c)Fe2p、(d)Cr2pのX線光電子分光法(XPS)スペクトルを示す。
【
図9】
図9は、NF上の新しいCoFe(上)及びCoFeCr(下)複合物のCo2p XPSスペクトルを示す。
【
図10】
図10は、1M KOH中のOER試験後のCoFe(上)及びCoFeCr(下)複合物上のCo2pのXPSスペクトルを示す。
【
図11】
図11a~dは、(a)Co
2+: 0mM~48mM、(b)Fe
3+: 0mM~48mM、(c)Cr
3+: 0mM~24mM及び(d)12mM Co
2+、3mM Fe
3+及び6mM Cr
3+における様々な堆積時間: 60s~7200sの様々な前駆体添加物から合成されたNF上のCoFeCr複合物の5mV・s
-1のスキャン速度での1M KOH電解液中の様々なLDH材料のOER性能を示す、線形掃引ボルタンメトリー(LSV)チャート(95%iR補正あり)を示す。
【
図12】
図12a~dは、(a)1M KOH電解液中の5.0mV・s
-1のスキャン速度での様々なOER触媒作用についてのLSV曲線(95%iR補正あり); (b)長期耐久性試験の前(黒色)及び後(赤色)の5.0mV・s
-1のスキャン速度でのCoFeCr複合物のOER性能のLSV曲線(95%iR補正あり)(挿入図は、1M KOH電解液中の24時間の100mA・cm
-2の電流密度下のクロノポテンシオメトリーのチャート(iR補正なし)を示す); (c)1M KOH電解液中の0.1mV・s
-1のスキャン速度でのCoFeCr複合物についてのLSV曲線(95%iR補正あり)(挿入図は、得られたターフェル勾配シミュレーションを示す); (d)RHEに対する1.48Vの印加電位での1M KOH電解液中のNF上のCoFeCr(灰色)及びCoFe(黒色)の電気化学インピーダンス分光器(EIS)プロット(iR補正なし)(丸: 測定されたプロット; 曲線: 計算された結果)を示す。
【
図13】
図13a~fは、様々なスキャン速度下の1M KOH電解液中のサイクリックボルタンメトリー及び電気化学的表面積の関連する計算を示す(a及びb: NF; c及びd: CoFe/NF; e及びf: CoFeCr/NF)。
【
図14】
図14は、5.0mV s
-1のスキャン速度での1M KOH電解液中の銅フォーム(CF)上のCoFe(上)及びCoFeCr(下)複合物のOER前のLSV曲線(電着後の全く初めてのスキャン)(iR補正なし)を示す。
【
図15】
図15は、1M KOH中の長期OER試験後のNF上の調製されたままのCoFeCr複合物のSEM画像を示し、挿入図は、拡大されたSEM画像を示す。
【
図16】
図16は、銅フォーム(CF)基板上の様々な触媒のOER性能を比較する一連のLSV曲線を示す。
【
図17】
図17は、0.1mV・s
-1のスキャン速度でのNF基板上のCoFe複合物のLSV曲線(95%iR補正あり)を示し、挿入図は、得られたターフェル勾配シミュレーションを示す。
【
図18】
図18は、CF基板上のCoFeCr複合LDH又はNiFeCr複合物と比較した、1M KOH中のCF基板上のNiCoFeCr複合LDHのLSV曲線(90%iR補正あり)を示す。
【
図19】
図19は、二成分CoFe複合触媒及び市販のIrC触媒と比較した、1M KOH中のNF基板上のCoFeCr複合LDHナノドットのLSV曲線(iR補正なし)を示す。
【
図20】
図20は、20nm(a)及び10nm(c)でのCoFeCr LDHナノドットのTEM画像を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
定義
本明細書で使用される場合、用語「水分解」は、出発材料としての水から元素水素又は酸素を生成する任意のプロセスに関する。本明細書に記載される水分解プロセスは、本質的に電気分解である。これらの電気分解プロセスは、典型的には、カソードでの水素発生反応(HER)及びアノードでの酸素発生反応(OER)を含む。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「酸素スカベンジャー」は、触媒中心の酸化を阻害することができる任意の材料に関する。
【0023】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」は、文脈が明らかに他のことを指示しない限り、複数の参照対象を含む。したがって、例えば、「表面(a surface)」への言及は、複数の表面を含み得るか、又は1つ以上の表面への言及等であり得る。
【0024】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似又は同等の任意の材料及び方法を使用して、本発明を実施又は試験することができることが理解される; 様々な材料及び方法の最もよく知られている実施形態が記載される。
【0025】
名詞に続く用語「(複数可)」は、単数形若しくは複数形、又は両者を企図する。
【0026】
用語「及び/又は」は、「及び」又は「又は」を意味することができる。
【0027】
文脈が他に要求しない限り、本明細書に言及される全てのパーセンテージは、材料の重量パーセンテージである。
【0028】
本発明の様々な特徴は、特定の値、又は値の範囲に関して記載される。これらの値は、様々な適切な測定技術の結果に関連することが意図されており、したがって、任意の特定の測定技術に固有の許容誤差を含むものと解釈されるべきである。本明細書に言及される値のいくつかは、この変動性を少なくとも部分的に説明するために用語「約」によって表示される。用語「約」は、値を記載するために使用される場合、その値の±25%、±10%、±5%、±1%又は±0.1%以内の量を意味し得る。
【0029】
用語「含む(comprising)」(又は「含む(comprise)」又は「含む(comprises)」などの変形)は、本明細書で使用される場合、明示的な言語又は必要な含意のために文脈が他に要求する場合を除いて、包括的意味で、すなわち、記載された特徴の存在を指定するために使用されるが、本発明の様々な実施形態におけるさらなる特徴の存在又は追加を排除するものではない。
【0030】
実施形態の説明
本発明は、コバルト、鉄及びクロム種を含む金属複合物を含む層状複水酸化物材料を提供する。
【0031】
有利なことに、本発明のLDH材料は、コバルト及び鉄の複合物を含むLDH材料と比較して、驚くほど改善されたOER触媒活性を示す。理論に拘束されることを望まないが、金属複合物中にクロムを含めることは、OERについての触媒部位として機能するコバルトイオンに対する酸化スカベンジャーとして作用すると考えられる。CoFeCr LDH材料についての結果は、クロム及び鉄種が相乗的に作用して、複合物中のコバルトを触媒活性形態で保持することを示唆する。
【0032】
LDH材料は、コバルト、鉄及びクロム種を含む金属複合物を含む。いくつかの実施形態では、金属複合物は、本質的にコバルト、鉄及びクロムからなる三成分複合材料(TCM)である。これらの三成分複合材料は、Ni、Cu又は他の遷移金属不純物などの微量の汚染金属を含んでもよい。微量は、典型的には、複合物の最大0.01wt%の量を指す。
【0033】
いくつかの実施形態では、金属複合物は、コバルト、鉄及びクロムに加えて、1つ以上のさらなる金属種を含んでもよい。さらなる金属種は、OERを触媒することができるさらなる種であってもよく、又は酸化スカベンジャーとして機能することができるさらなる金属種であってもよい。いくつかの実施形態では、1つ以上のさらなる金属種は、ニッケルである。この実施形態では、金属複合物は、コバルト、鉄、クロム及びニッケルを含む四成分複合物である。
【0034】
コバルト種は、典型的には、Co2+及び/又はCo3+などのカチオン種である。
【0035】
鉄種は、典型的には、Fe2+及び/又はFe3+などのカチオン種である。
【0036】
クロムは、典型的には、Cr3+及び/又はCr6+などのカチオン種である。
【0037】
四成分複合体中に存在する場合、ニッケルは、典型的には、Ni2+及び/又はNi3+などのカチオン種である。
【0038】
本発明者らは、電気分解堆積によるCoFeCr LDH材料の形成時に、複合物が、+3酸化状態におけるクロムを含むことを見出した。OER触媒作用後、CoFeCr LDH材料は、+3及び+6酸化状態におけるクロムを含む。Cr3+は、コバルト種を触媒活性形態で保持するのを助けるために犠牲的に酸化されると考えられる。また、Cr6+は、コバルト種を触媒活性形態で保持するのをさらに助ける酸素スカベンジャーとして機能すると考えられる。
【0039】
金属複合物中に存在する種のそれぞれの濃度は、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-OES)によって決定してもよい。
【0040】
金属複合物中のコバルト含有量は、ICP-OES試験のために電極を0.5M H2SO4中に溶解することによって測定することができる。金属複合物は、コバルトを、約0.0001~約24mmol/L、特に約0.001~約10mmol/L、例えば約0.01mmol/L~約0.06mmol/L、又は約0.015mmol/L~約0.05mmol/L又は約0.03mmol/L~約0.05mmol/Lの濃度で含んでもよい。コバルト濃度は、酸化後に実質的に変化しなくてもよい。
【0041】
金属複合物中の鉄含有量は、ICP-OES試験のために電極を0.5M H2SO4中に溶解することによって測定することができる。金属複合物は、鉄を、約0.0001mmol/L~約24mmol/L、特に約0.001~約10mmol/L、例えば約0.005mmol/L~約3mmol/L又は0.005mmol/L~約0.06mmol/L、又は約0.015mmol/L~約0.05mmol/L又は約0.03mmol/L~約0.04mmol/Lの濃度で含んでもよい。OER触媒として使用した後、鉄濃度は、金属複合物の調製直後に測定された鉄濃度よりも低下してもよい。いくつかの実施形態では、酸化後の鉄濃度は、約0.005mmol/L~約0.03mmol/Lであってもよい。
【0042】
金属複合物中のクロム含有量は、ICP-OES試験のために電極を0.5M H2SO4中に溶解することによって測定することができる。金属複合物は、クロムを、約0.0001~約24mmol/L、特に約0.001~約10mmol/L、例えば約0.005mmol/L~約0.06mmol/L、又は約0.015mmol/L~約0.05mmol/L又は約0.03mmol/L~約0.04mmol/Lの濃度で含んでもよい。OER触媒として使用した後、クロム濃度は、金属複合物の調製直後に測定されたクロム濃度よりも低下してもよい。いくつかの実施形態では、酸化後のクロム濃度は、約0.005mmol/L~約0.03mmol/Lであってもよい。
【0043】
四成分複合物中の金属含有量も、ICP-OES試験のために電極を0.5M H2SO4中に溶解することによって測定することができる。それらは、ニッケルを、約0.0001~約24mmol/L、特に約0.001~約10mmol/L、例えば約0.01mmol/L~約8mmol/L、又は約0.1mmol/L~約7mmol/L又は約0.1mmol/L~約6mmol/Lの濃度で含んでもよい。ニッケル濃度は、酸化後に実質的に変化してもよい。
【0044】
金属複合物は、コバルト及び鉄を約1:1~約10:1の比で含んでもよい。例えば、OER触媒として使用する前に、重量対重量ベースでのコバルト対鉄(Co:Fe)の比は、約1.5:1であってよく、OER触媒として使用した後に、重量対重量ベースでのコバルト対鉄(Co:Fe)の比は、約3.5:1であってもよい。
【0045】
金属複合物は、コバルト及びクロムを約1:1~約10:1の比で含んでもよい。例えば、OER触媒として使用する前に、重量対重量ベースでのコバルト対クロム(Co:Cr)の比は、約1.5:1であってよく、OER触媒として使用した後に、重量対重量ベースでのコバルト対鉄の比は、約2.5:1であってもよい。
【0046】
金属複合物は、鉄及びクロムを約0.5:1~約1:0.5の比で含んでもよい。いくつかの実施形態では、鉄対クロム(Fe:Cr)の比は、OER触媒として使用する前に約1:1であってよく、OER触媒として使用した後に、鉄対クロム(Fe:Cr)の比は、重量対重量ベースで約0.7:1であってもよい。
【0047】
金属複合物は、コバルト、鉄及びクロムを、調製後に約1.5:1:1、及びOER触媒としての使用後に約3:1:1の比で含んでもよい。
【0048】
四成分金属複合物は、コバルト、鉄、クロム及びニッケルを、調製後に約1.5:1.5:1:1の比で含んでもよい。OER酸化後に比は変化してもよい。
【0049】
複合物は、コバルト、鉄、クロム及び場合によりニッケルを、上記の濃度及び/又は比の任意の組み合わせで含んでもよい。
【0050】
本発明のLDH材料は、水酸化物層が散在した金属複合物を含む。水酸化物層は、典型的には、金属複合物と同時に形成される。典型的には、水酸化物層は、アモルファス水酸化物を含む。さらに、水酸化物層はまた、金属複合物内に含まれる金属に対応するカチオン種、例えば、水酸化及び/又は酸化コバルト、水酸化及び/又は酸化鉄、及び水酸化及び/又は酸化クロム、及び複合物が四成分金属複合体である場合は水酸化及び/又は酸化Niを含んでもよい。いくつかの実施形態では、水酸化物層は、アモルファス水酸化物とCoベースのスピネル酸化物との混合相を含んでもよい。
【0051】
LDH材料は、球状形態をとってもよい。球状形態は、表面積が増加した層を提供するため、OER触媒活性を高める助けになると考えられる。球状形態は、複数のミクロスフェアを含んでもよい。ミクロスフェアは、それらの平均サイズに関して単分散であってもよい。いくつかの実施形態では、ミクロスフェアは、約100nm~約500nm、例えば約100nm~約300nm又は約200nmの平均サイズを有する。ミクロスフェアの平均サイズは、走査型電子顕微鏡法(SEM)によって決定してもよい。
【0052】
いくつかの実施形態では、LDH材料は、熱水処理によって調製されたアモルファス酸化物/水酸化物材料をドロップキャストすることによってナノドットに形成してもよい。いくつかの実施形態では、ナノドットは、200nm未満、例えば約1nm~約200nm、特に約3nm~100nmの直径を有してもよい。いくつかの実施形態では、直径は、3~10nmであってもよい。
【0053】
また、本明細書に記載されるLDH材料を含む触媒材料が提供される。触媒材料は、場合により基板を含む。LDH材料のOER触媒活性を妨げない任意の適切な基板を使用してもよい。適切な基板としては、導電性金属基板(例えば、金属フォームなどの金属基板)及び導電性非金属基板(例えば、炭素繊維紙基板)が挙げられる。いくつかの実施形態では、触媒材料は、ナノドットの形態である。
【0054】
また、LDH材料及び導電性基板を含む電極が提供される。LDH材料のOER触媒活性を妨げない任意の導電性基板を使用してもよい。好ましくは、導電性基板は高表面積を有し、例えば金属フォームがある。適切な金属フォームとしては、ニッケルフォーム及び銅フォームが挙げられる。好ましくは、導電性基板は、ニッケルフォームである。いくつかの実施形態では、LDH材料は、ナノドットの形態で電極中に存在する。
【0055】
調製方法
本発明のLDH材料は、コバルト、鉄及びクロム種を含む金属複合物が形成されるという条件で、当技術分野で公知の任意の手段によって調製してよい。
【0056】
いくつかの実施形態では、本発明の触媒材料及び/又は電極は、容易な電着プロセスによって調製してもよい。
【0057】
したがって、基板上にコバルト、鉄及びクロム種を含む複合材料を調製する方法であって、基板と接触している、コバルト、鉄及びクロム塩を溶解状態で含む溶液を電気分解するステップを含む、方法が本明細書に記載される。適切な塩としては、硝酸塩、硫酸塩又は塩化物が挙げられる。特定の実施形態では、塩は、硝酸塩である。
【0058】
本方法は、典型的には、導電性基板を、コバルト、鉄及びクロムイオンを含む溶液と接触させるステップ、及び溶液を通して基板及び対電極に渡って電圧を印加して、基板上にコバルト、鉄及びクロム種を含む複合材料を電着させるステップを含む。
【0059】
これらの調製方法では、コバルト、鉄及びクロム塩は、硝酸塩であってもよい。溶液は、最大約100mMのコバルト塩(例えば、最大約75mM又は約50mMのコバルト塩)を含んでもよい。溶液は、最大約100mMの鉄塩(例えば、最大約75mM又は約50mMの鉄塩)を含んでもよい。溶液は、最大約50mMのクロム塩(例えば、最大約40mM又は約30mMのクロム塩)を含んでもよい。場合により、溶液は、最大約500mMのニッケル塩(例えば、最大約6mM又は最大約100mMのニッケル塩)を含んでもよい。典型的には、溶液は水溶液である。
【0060】
溶液は、1つ以上の電解質をさらに含んでもよい。適切な電解質としては、塩化カリウム(KCl)などの塩が挙げられる。電解質は、約1Mの濃度で存在してもよい。
【0061】
いくつかの実施形態では、3電極システム及び一定の電位入力を用いて、基板と参照電極との間に印加される電位は、参照に対して約-0.6V~-2.0V、特に参照に対して約-1.0Vである。
【0062】
いくつかの実施形態では、定電流を2電極システムに流す、定電流電気めっき法が使用される。適切な定電流は、約1mA cm2~約3mA cm2である。
【0063】
プロセス中に、-OHイオンは、めっき浴中の水の電気分解から生成され、これらのイオンは、Co、Fe及びCrイオンと基板上に共沈し、それによって複水酸化物層を形成する。
【0064】
いくつかの実施形態では、プロセスは、基板を強酸(例えば、4M HCl)で洗浄し、超音波処理する基板前処理ステップをさらに含む。前処理ステップは、典型的には、LDH材料の電着の前に基板表面から酸化物及び他の不純物を除去する。
【0065】
いくつかの実施形態では、プロセスはまた、電気分解セル中に参照電極(これも溶液と接触している)を含めることを含む。適切な参照電極としては、Ag/AgCl、参照水素電極、Ag/Ag2SO4電極、カロメル電極、Hg/Hg2SO4電極及びHg/HgO電極が挙げられる。特定の実施形態では、参照電極は、使用される場合、Ag/AgCl電極である。
【0066】
導電性基板は、金属フォーム、例えば銅又はニッケルフォーム、好ましくはニッケルフォームであってもよい。電着の後、金属フォームは、約1mg/cm2~約5mg/cm2、例えば約2mg/cm2のLDH材料の質量負荷を有してもよい。
【0067】
別の実施形態では、三成分又は四成分金属複合LDH材料は、熱水法によって調製して、粉末へと粉砕し得る固体生成物を生成してもよい。例えば、コバルト、鉄、クロム及び場合によりニッケルの塩の混合物を、水性メタノールなどの水性アルコール中に懸濁し、オートクレーブ中で約180℃で約12時間加熱する。次いで、懸濁液を冷却し、水で洗浄し、収集し、真空下、場合により高温で乾燥させる。乾燥した生成物は、粉砕して粉末を生成してもよい。
【0068】
ナノドットは、粉末を水性エタノール又は水性メタノールなどの水性アルコールとNafion(登録商標)などの結合剤と共に混合することによって均一な懸濁液を形成することによって調製してもよい。均一な懸濁液を達成するための徹底的な混合は、超音波処理などの任意の適切な混合手順によって達成してもよい。
【0069】
均一な懸濁液は、電極又は導電性基板などの基板上にドロップキャストしてもよい。適切な基板としては、以下に限定されないが、ガラス状炭素電極又は金属フォーム、例えばニッケル又は銅フォームが挙げられる。
【0070】
本発明の別の態様では、本発明の触媒材料を調製する方法であって、コバルトイオン、鉄イオン及びクロムイオンの混合物を約150℃~約220℃、特に約150℃~約220℃の温度に、約8~約50時間、特に約8~約20時間処理するステップ、混合物を冷却するステップ、及び生成物を収集するステップを含む、方法が提供される。
【0071】
特定の実施形態では、温度は、約170℃~約190℃、特に約180℃である。特定の実施形態では、加熱時間は、約10~約15時間、特に約12時間である。
【0072】
いくつかの実施形態では、混合物は、他の金属イオン、例えば、ニッケルイオンをさらに含んでもよい。
【0073】
いくつかの実施形態では、生成物は、ドロップキャスティングに適した粉末へと粉砕される。
【0074】
使用方法
本発明は、水分解から酸素を発生させる方法を提供する。この方法は、アノード、カソード、電解質溶液及び場合により参照電極を含む電気化学セル中で実施される。この方法は、水を電気化学セルのアノード及びカソードと接触させるステップ、及びアノード及びカソードに渡って電圧を印加するステップを含む。OER半反応は、典型的にはアノードで起こるため、アノードは、例えば電極の形態で、本発明のLDH材料を含む。いくつかの実施形態では、電解質溶液は、電解質水溶液である。電解質水溶液はまた、水の供給源であってもよい。典型的には、水は、アルカリ性pH、例えば少なくとも8、9又は10又はそれを超えるpHを有する。いくつかの実施形態では、水は、強塩基、例えば水酸化物塩基、例えばNaOH又はKOHを、例えば0.1Mから最大約10M又はそれを超える濃度で含む。
【0075】
典型的には、これらの方法で使用されるカソードは、水素発生反応(HER)触媒、例えばPt/C又はニッケルを含む。
【0076】
これらの方法で使用される場合、本発明のLDH材料は、現在の主要なOER触媒に匹敵する触媒活性を提供する。驚くべきことに、LDH材料は、地球に豊富な金属を使用しながら、同様の触媒作用を提供することができる。また驚くべきことに、LDH材料は、改善された触媒活性を提供することができ、対応するCoFe LDH(すなわち、同様の経路によって調製されたがクロムを欠くLDH材料)を含む、他の公知の地球に豊富な金属をベースにしたOER触媒に対してより低い過電圧を必要とする。
【0077】
いくつかの実施形態では、酸素を発生させる方法は、最大40mV dec-1、例えば最大39mV dec-1、38mV dec-1、37mV dec-1、36mV dec-1、35mV dec-1又は32mV dec-1のターフェル勾配で進行する。
【0078】
アノードに渡って印加される電圧は、OERを駆動するために、LDH材料についての過電圧と一致するか又はそれを超えるように選択されるべきである。
【0079】
本発明のLDH材料は、OERを駆動するためにアノードでの比較的低い過電圧を必要とする。いくつかの実施形態では、LDH材料は、約270mVの過電圧でOERを触媒して、約100mA cm-2の電荷密度を提供する。OERについての開始電位は、参照としての可逆水素電極(RHE)に対してわずか約1.43Vであり、これは、OERについてのRHEに対する1.23Vの理論上最小開始電位に優る。したがって、いくつかの実施形態では、溶液に印加される電圧は、RHEに対して少なくとも1.43V、例えばRHEに対して1.43V~RHEに対して約10V、RHEに対して約1.5V~RHEに対して約10V、RHEに対して約1.43V~RHEに対して約5V、RHEに対して約1.43V~RHEに対して約3V、又はRHEに対して約1.5V~RHEに対して約3Vである。
【0080】
いくつかの実施形態では、LDH材料は、ナノドットの形態で電極上に存在する。
【0081】
また、アノード及びカソード、電源及び場合により参照電極を含む電解槽が提供される。典型的には、アノードは、本発明のLDH材料を含む。いくつかの実施形態では、電源は、低炭素集約型電源から生成された電力を提供する。電源は、再生可能な電源、例えば1つ以上のソーラーパネル又は風力タービン、又は再生不可能な電源、例えば原子炉であってもよい。
【実施例】
【0082】
本発明を、非限定的な例としてさらに記載する。本発明の技術分野の当業者には、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく多くの改変を行うことができることが理解される。
【0083】
実施例1
実験
材料合成。全ての化学物質は、供給業者から購入し、さらに精製することなく使用した。基板としてのニッケルフォーム(NF、厚さ1.5mm、110ppm)又は銅フォーム(CF、厚さ1.5mm、110ppm)を洗浄し、4.0M塩酸(HCl、32.0%RCI LABSCAN Ltd)中で10分間超音波処理して、表面上の酸化物を除去した。次いで、基板をMill-Q水(18.2MΩ・cm-1)で3回すすぎ、N2流下で乾燥させた。基板材料を特定のサイズに切断し、1×1cm2の露出した幾何学的表面積で、テフロンテープで密封した。その後、基板は、グラファイトプレート及びAg/AgCl(1.0M KCl)がそれぞれ対電極及び参照電極である標準的な3電極システムにおいて作用電極として使用した。堆積浴は、0~48mM硝酸コバルト(Co(NO3)2・6H2O、Chem-Supply)、0~48mM硝酸鉄(Fe(NO3)3・9H2O、Chem-Supply)及び0~24mM硝酸クロム(Cr(NO3)3・9H2O、Jax Chemicals)を含有する。電着は、CHI760Dポテンシオスタットを0~7200秒間使用することによって、Ag/AgCl(1.0M KCl)に対する-1.0Vの印加電位下で実施した。調製されたままの電極を、電解液からゆっくりと取り出し、Milli-Q(登録商標)水によってすすぎ、N2流中で乾燥させた。対照サンプルとして市販の触媒電極を調製するために、20mg Ir/C触媒(Vulcan XC-72上20%Ir、Premetek Co.)を、480μL H2O、480μL無水エタノール(C2H5OH、Chem-Supply)及び40μL Nafion(登録商標)(5%、Aldrich)と混合した溶媒に分散させた。懸濁液を20分間超音波処理して、均一なインクを得た後、NF又はCF基板上にドロップキャストし、乾燥させ、そこでは質量負荷は2.0mg・cm-2であった。
【0084】
材料の特性評価。走査型電子顕微鏡法(SEM、JSM7001F)及び高分解能透過型電子顕微鏡法(HRTEM、Philips CM200)を使用して、調製されたままの材料の微細形態を観察した。TEM上に取り付けられたX線エネルギー分散型分光法(EDS)を適用して、元素分布を調査した。ラマンスペクトルは、λ=532nmのレーザーを使用することによって、レニショー分光計で記録した。化学環境及び組成は、X線光電子分光法(XPS、Thermo ESCALAB250i)によって分析した。長期OER試験前後の電極の表面元素の原子量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-OES、7300 PerkinElmer)によって測定した。得られた電極(0.5×0.5cm2)を、15mLの0.5M H2SO4水溶液に浸し、20分間超音波処理した。次いで、溶液を収集し、ICP-OESシステムで試験した。
【0085】
電気化学的測定。電極を、標準的な3電極システムにおいて1.0M水酸化カリウム溶液(KOH、Chem-Supply)中に配置した。対電極及び参照は、それぞれグラファイトプレート及びAg/AgCl(1.0M KCl)である。調製されたままの電極を、最初にサイクリックボルタンメトリー(CV、参照に対して-0.2~0.6V、10mV・s-1)で20サイクルを超えてスキャンして、安定した性能を達成した。次いで、100mA・cm-2の電流密度下で長期耐久性を実証するために、性能を、線形掃引ボルタンメトリー(LSV、5.0mV・s-1、95%iR補正)及びクロノポテンシオメトリーから評価した。記録された電位値は、次の式に従って可逆水素電極(RHE)に対して調整した:
【0086】
ERHE=Evs.ref.+0.222+0.059・pH (1)
【0087】
ターフェル勾配を、0.1mV s-1のスキャン速度でほぼ静的なLSVから記録し、導出した(95%iR補正あり)。注目すべきことに、この作業におけるLSV試験のみをiR修正した。一方、電気化学的に活性な表面積(ECSA)は、非ファラデープロセス中の二重層静電容量における充電/放電プロセスに基づいて計算した。充電/放電電流(IC)は、スキャン速度(ν)及び電気化学的二重層静電容量(Cdl)に関連しており、式(2)によって記載し得る:
【0088】
IC=ν・Cdl (2)
【0089】
したがって、ECSAは、様々なスキャン速度でCVを測定することによって計算することができる。電気化学インピーダンス分光法は、Autolabポテンシオスタット(Metrohm)を使用することによって、1M KOH溶液中で上記のように標準的な3電極システムにおいて収集した。入力正弦信号の周波数は、特に印加された電位の下で100KHz~0.01KHzの範囲であり、振幅は10mVであった。測定されたプロットを、Zimpwinソフトウェアによってさらにシミュレートした。二重層キャパシタ(Cdl)は、式(3)に従って、シミュレートされた定位相要素(Q)値から計算することができる:
【0090】
Cdli=[Qi/(Rs-1+Ri-1)(1-ni)]1/ni (3)
(式中、Rs及びRiは、それぞれ、シミュレートされた回路における溶液抵抗及び電荷移動抵抗であり、nは、位相角の値を表す。)
【0091】
ターンオーバー周波数(TOF)は、式(4)によって計算される:
【0092】
TOF=j・A/(4 F・m) (4)
(式中、j、A、F及びmは、それぞれ、特定の過電圧での電流密度、電極の面積、ファラデー定数(96,485C/mol)及び電着前後の重量差によって決定することができる基板上の活性物質のモル数である。)
【0093】
結果及び考察
CoFeCr LDH電極は、硝酸塩ベースの電解液中でAg/AgCl(1M KCl)参照に対して-1.0Vの印加電位で電着させることによって調製した。この条件で、H
2Oの電気分解から生成されるOH
-イオンは、溶液中の局所的Co
2+、Fe
3+及びCr
3+イオンと共に、ニッケルフォーム(NF)基板上に共沈する(CoFeCr/NFと表示される)。堆積後、NF上の茶色の膜が観察され、これは、対照としての緑色のCoFe複合物(CoFe/NFと表示される)とは異なる。サンプルの形態は、SEMによって特徴付けられる。
図1aに示すように、得られたCoFeCr複合物は、直径が約200nmのサイズを有する単分散ミクロスフェアの層を示し(
図1aにおける挿入図を参照)、これは、
図2におけるNF上に成長したCoFe複合物のナノシートアレイ構造とは明確に異なる。CoFeについてのナノシートからCoFeCrについてのミクロスフェアへの形態変換を理解するために、結晶の核形成及び成長の詳細をさらに調査する。
図3は、NF上のCoFe及びCoFeCrについての動的結晶成長プロセス(時間に対する電着電流)を示す。CoFeについて、-1.0V(Ag/AgClに対して)の負電位を印加した後、電流密度は、最初の20秒で約5.0mA・cm
-2から3.5mA・cm
-2まで急激に減少し、速い核形成及び結晶成長プロセスを示した。時間依存的SEM(
図4a)に示すように、大量のナノシート核が形成され、CoFeは事前に形成されたナノシート核上で連続的に成長し、元のナノシート構造を維持した(
図4b~h)。しかし、Crが含まれる場合、堆積i-t曲線は、異なる核形成経路を経る(
図3): 電着曲線は、初期の30秒で8mA・cm
-2から6mA・cm
-2への電流密度の同様の急激な減少を示し、基板上の核の形成を示す。興味深いことに、電流の別のゆっくりとした低下が、次に続く30~150秒間観察され、Crの「調節効果」により生じるすぐ2番目の核形成を明らかにする。CoFeCrの時間依存的な形態進化を
図5に示す。最初に、ナノスフェア構造をほとんど伴わないナノシート核の薄層が、基板上に形成される(
図5a)。堆積が長引くと、ますます多くのナノスフェアが出現し始め、優位を占める特徴となり(
図5b~c)、最終的にはNF電極上に覆われた均一なCoFeCrミクロスフェアの形成をもたらす(
図5d~h及び
図6)。
【0094】
CoFeCr複合ミクロスフェアからの凝集ナノシートの結晶構造は、
図1bにおける高分解能TEM(HRTEM)によってさらに特徴付けられた。HRTEM画像に示すように、2つの格子縞は、約0.25nm及び約0.15nmと測定され、それぞれCoCr
2O
4(PDF#22-1084)及びCoFe
2O
4(PDF#22-1086)スピネル相の(311)及び(440)ファセットに対応する。
図1cにおける制限視野電子回折(SAED)パターンは、2つのリングの周りのハローを示し、アモルファスCoFeCr水酸化物複合物と結晶化スピネル相との混合物を確かめる。さらに、TEM上のエネルギー分散型分光法(EDS)によって得られる元素マッピングを
図1dに示し、O、Co、Fe、及びCrの均一な元素分布を実証する。
図7におけるラマンスペクトルはまた、スピネル相の存在、並びにそれぞれ八面体(OH)及び四面体(Td)M-O伸縮にそれぞれ割り当てられる約554cm
-1及び約688cm
-1付近に生じる2つの強いピークを示す。CoFe複合物にクロムを導入すると、LDHに割り当てられるOHピークが広くなり、より多くの欠陥が形成されたことを示す。Tdピークは、CoFe複合物のものよりも強く、CoFeCr複合物におけるパラ-スピネル相の形成を確かめる。
【0095】
OER前後の調製されたCoFeCr/NF電極の化学成分及び電子構造をXPSによって調べた。
図8a、コアレベルO1s XPSに示すように、3つのフィットしたピークが、約533.1eV、約531.5eV及び約529.8eVで観察され、それぞれ液体水中のO結合、M-OH及びM-O結合に割り当てられる。特に、M-OH及びM-Oの存在は、水酸化物又は(オキシ)水酸化物に関連している[28]。OER試験後、液体水中のOの強度が減少し、M-O結合に対応するピークがより強くなった。OER前後の強度変化は、残留中間MOOH相に起因する可能性がある。
図8bにおけるFe2p XPSスペクトルについて、サテライトピーク(約716.9eV)及びFe
3+ピーク(約712.0eV)から明らかなように、それはOER試験前後で一定のFe
3+酸化状態のままである。
図8cにおけるコアレベルCr2p XPSスペクトルは、OER前に約577.0eVに強い幅広ピークを示し、これはCr-OH及びCr-OにおけるCr
3+に割り当てられる[19]。しかし、この幅広ピークは、OER試験後に2つのピークに分裂し、約579.7eVに新しく出現したピークは、Cr
6+のより高いクロム酸化に割り当てられる。
図8dは、CoFeCr複合物におけるCo2pの高分解能XPS XPSを示し、約803.2eV及び約787.1eVにおける2つのピークは、それぞれCo2p
1/2及びCo2p
3/2サテライト特徴に割り当てられる。Co2p
1/2(約796.8eV)及びCo2p
3/2(約781.2eV)のフィットしたピークは、複合物中のコバルトが、主にCo
2+酸化原子価におけるものであることを示す[32、33]。また、新たに調製されたサンプルのCo酸化状態は、
図9に示すようにCo
2+でほとんど変化しないままである。コバルトが関与する水の酸化電気分解について、OER電位を印加した後、部分的なCo
2+が、活性部位と見なされるCoOOH中間相でより高い酸化原子価に変換されることが知られている。しかし、CoOOH中間体にはβ-CoOOH相及びγ-CoOOH相があり、その酸化状態は3+と4+との間である。また、DFT計算によると、β-CoOOH状態における比較的より低い酸化状態でのCoは、γ-CoOOHにおけるより高い原子価のCoよりむしろ、最も活性な部位である。(同様に、NiOOH活性相におけるNiのこの比較的より低い状態は、水の酸化についてβ-NiOOHにも見られる。)さらに、活性β-MOOHは、過電流によって活性の低いγ-MOOH(より高い酸化原子価)に分解される可能性がある[36]。したがって、β-CoOOH中のCoの比較的より低い酸化状態を維持することは、OER性能を改善するための鍵である。そのため、正の印加電位の下で広く観察される酸化状態変化と同様に、CoFeCrにおけるコバルトはまた、少なくとも表面上で、より高い原子価に酸化されて、O
2バブル生成のために水を触媒する。しかし、OER後のCoFeCrについての
図10におけるCo2p XPSは、長期酸化後のCoFeについての残留Co
3+状態(Co
2+/Co
3+=1.1)よりも少ない残留Co
3+状態(Co
2+/Co
3+=1.8)を示す。CoFeCr複合物におけるCo
2+は、OER中により高い酸化状態を有するCoOOH活性中間相に変換される可能性があるが、水の酸化後により少ないCo
3+酸化原子価が観察されるため、平均Co酸化状態は、CoFeにおけるよりも比較的低くなることをこの現象は明らかにする。このユニークな観察の理由は、水の酸化中に、複合物中のクロムが高原子価のCr
6+へと部分的に酸化され、この酸化反応によって生成された電子がコバルト部位に移されて、コバルトを比較的より低い酸化原子価状態(Co
2+とCo
3+との間)に維持することができるということであり得る。この相乗効果は、過電流によるβ-CoOOH脱活性化を効率的に停止し、向上したOER性能をもたらすことができる。さらに、CoFeCr複合物の化学成分は、ICP-OES測定によって調べられる。表1に示すように、Co、Fe及びCrの原子比は、約3:2:2である。
【0096】
【0097】
調製されたままのCoFeCr複合物、及び他の対照サンプル、例えばCoFe、CoCr、FeCr複合物(それぞれCoFe/NF、CoCr/NF及びFeCr/NFと表示される)及び市販のIr/CのOER性能を、1M KOH電解液中で評価した。OER電極を最適化するために、本発明者らはまず、イオン前駆体添加及び堆積時間の調整を含む調製条件を変更し(
図11)、最適化されたCoFeCr/NFを12mM Co
2+、3mM Fe
3+及び6mM Cr
3+を含有する電解液中で約900秒間電着させた。
図12aにおけるCoFeCr/NF電極についての線形掃引ボルタンメトリー(LSV)は、最も活性な能力を示す: 開始電位値は、CoFe/NFからの約1.47Vではなく、RHEに対してわずか約1.43Vである[
図12c及び
図13におけるターフェル勾配(破線)及びy軸(x=0)の交点から定量化することができる]。詳細には、10mA・cm
-2及び100mA・cm
-2の電流密度を達成するために、フィードバック電位は、それぞれRHEに対してわずか約1.46V及び約1.50Vである。得られた三成分CoFeCr複合物のOER性能は、CoFe、CoCr又はFeCr二成分複合物の組み合わせのOER性能よりも優れている。CoFeCr/NF電極のOER性能はさらには、NF上の市販のIr/C触媒、及びベンチマークであるNiFe LDH(NiFe/NFと表示される)電極よりも優れている。NF上の電着後の重量差の測定によって、約1.22mgの複合物が基板上で達成された。ICPからの上記の元素比を参照すると、化学量論はCo
3Fe
2Cr
2(OH)
18と決定することができ、したがって、250mVの過電圧でのCoFeCr複合物についてのTOF値は、0.046s
-1と計算される。比較すると、250mVでのCoFe複合物のTOFはわずか0.008s
-1であり、クロムの導入によるOER反応におけるより速い反応を示す。注目すべきことに、RHEに対して1.33~1.36V付近の
図4aにおける小さなピークは、ニッケル基板の酸化に起因する。また、
図14におけるニッケル基板からの影響を取り除くための銅フォーム上の複合物の全く初めてのLSVスキャンによると、CoFe複合物及びCoFeCr複合物の両方におけるRHEに対する1.15V付近のアノードピークは、中間CoOOH相の形成を表す。CoFeCr複合物からのより弱いピークはまた、存在するCrの保護下で、より少ないCo
2+が、より高い原子価状態に酸化されていることを示す。
【0098】
長期安定性は、実際の適用にとって別の重要な問題である。電極の長期安定性は、100mA・cm
-2の比較的高い電流密度でクロノポテンシオメトリーによって測定される。
図12bに挿入された画像に示すように、フィードバック電位は、24時間を超えて低下することなく、RHEに対して約1.58Vで十分に維持する。クロノポテンシオメトリー後のCoFeCr電極の堅牢性はまた、初期LSVと比較してそのLSV曲線を再試験することにより、変わらないOER性能を反映する(
図12b)。さらに、CoFeCr/NFの構造形態(
図15)は、24時間を超えるOER試験後にミクロスフェア構造のままであり、アルカリ性媒体中での複合物の構造安定性を示す。後の電極(post-electrode)の組成を定量化するために、CoFeCr/NF電極のICP-OESデータをまた、長期酸化後に測定した。表1に示すように、Co、Fe及びCrの原子比は、約3:1:1であり、電極の持続時間を犠牲にすることなく、酸化中に過剰なFe及びCrが溶解することを示唆する。この容易な合成アプローチはまた、ニッケル基板からの強力な相乗効果を取り除くために、銅フォーム(CF)などの他の導電性基板上に高活性材料を堆積させるために適用できることに留意すべきである。
図16に示すように、CF上のCoFeCr複合物は、依然として最高のOER性能を示すが、FeCr/CFの性能は、FeCr/NFの性能よりもはるかに悪くなる(
図12a)。
【0099】
向上したOER性能のメカニズムを理解するために、NF、CoFe/NF及びCoFeCr/NF電極のECSA値を、CV静電容量法によって測定し(
図13)、ECSA値は、NF、CoFe/NF及びCoFeCr/NFについてそれぞれ37.58cm
2、64.28cm
2及び51.86cm
2とシミュレートされる。上のデータからわかるように、CoFeCr/NFのECSAは、CoFe/NF電極のECSAよりも小さい。CoFeCr複合物のECSAの低減は、CoFe/NF複合物のナノシート構造と比較して凝集したミクロスフェアの形成によるものである。一方では、OER性能の改善がECSAに起因しない可能性があり、他方では、異なる反応速度論又は電子移動速度などの他の要因がCoFeCr電極の改善されたOER性能に寄与する可能性があることを、上の結果は意味する。本発明者らの仮説を確かめるために、別のLSV(
図12c)を、0.1mV・s
-1のはるかにより遅いスキャン速度で測定し、電極上でほぼ平衡の反応状態を取得した。次いで、律速段階(RDS)に関連するターフェル勾配(
図8cにおける挿入図)をこの分極曲線から得て、32mV・dec
-1のターフェル勾配をこのほぼ平衡のLSVから得る。ターフェル勾配(破線)及びy軸(x=0)の交点は、RHEに対して約1.43Vの開始電位値を表す。理論的には、40mV・dec
-1のターフェル勾配値は、RDSとしてM-O+OH
-→M-OOH+e
-の第3の電荷移動RDSに対応する。本明細書では、32mV・dec
-1のより小さいターフェル勾配は、
図17におけるCoFe複合物からの40mV・dec
-1のターフェル勾配値と比較して、RDSプロセスが加速されていることを示す。
【0100】
OERプロセスのメカニズムをさらに確かめるために、電気化学インピーダンス分光器(EIS)を、
図12dにおいてRHEに対する約1.48Vの印加電位の下で試験した。高周波領域における小さな半円(
図12dにおける挿入図)及び低周波領域における大きな半円が示される。また、R
s(Q
1R
1)(R
2Q
2)のモデルを、OERプロセスについての等価回路をシミュレートするために導入する。R
s値は、作用電極から参照電極までの溶液の抵抗を表し、R
1及びR
2値は、電荷移動の抵抗である。注目すべきことに、二重層キャパシタは、定位相要素(Q
1、Q
2)からシミュレートされ、これはNF基板の粗い表面上でより正確である。本明細書では、CoFe複合物及びCoFeCr複合物についてのR
s値を表す高周波領域におけるx軸上の交点は、それぞれ2.59Ω及び2.48Ωであり、作用電極と参照電極との間の溶液抵抗を示す。高周波領域における小さな半円(シミュレートされたモデルにおけるQ
1R
1)は、活性なCoOOH中間相の形成を示し、低周波領域における大きな半円(Q
2R
2)は、OER中の律速段階プロセスの電荷移動に対応する。シミュレートされたパラメーターを表2に詳細に列挙する。具体的には、CoFeCr複合物中の中間体についての電荷移動プロセスの抵抗(R
1)は、CoFe複合物のものよりも大きく、250mVの過電流電位下でのより高い酸化状態へのCo
2+の変換がより少ないことを実証する。その後、それは、CoFe/NFのものよりもCoFeCr/NFにおいてOERについてのより少ないβ-CoOOH低下及びより速い電荷移動プロセス(より小さいR
2値)をもたらし、RDSプロセスがCoFeCr/NF電極で加速されることを示す。
【0101】
【0102】
この実施例は、容易な電着法によって調製された、ニッケルフォーム基板上の三成分コバルト-鉄-クロム水酸化物複合物を記載する。調製されたままの電極は、アルカリ性媒体中で優れたOER性能及び電気化学的持続時間を示す。クロムをコバルト-鉄複合物に導入することにより、ナノシートは徐々に凝集して、アモルファス水酸化物とCoベースのスピネル酸化物との混合相を有するミクロスフェアになる。固有の電解触媒作用の改善が詳細に研究される: 複合物中のクロムは部分的に6+へと酸化され、これはコバルト活性部位を保護して、β-CoOOHにおける比較的より低い酸化原子価状態を維持することができる。またその後、それは、ターフェル勾配値及びEISプロットシミュレーションからの証拠によりM-O+OH-→M-OOH+e-のRDSを加速する。
【0103】
実施例2
NiCoFeCr複合材料
活性なNiCoFeCr LDH電極を、電着によって製造した。電着浴は、水溶液中に6mM硝酸ニッケル、6mM硝酸コバルト、3mM硝酸鉄及び6mM硝酸クロムを含有した。
【0104】
定電位(potentiostatic)電着について、作用電極、対電極及び参照電極がそれぞれ銅フォーム、グラファイトプレート及びAg/AgClである3電極システムを使用した。印加電位は、Ag/AgCl参照に対して-1.0Vであった。
【0105】
定電流(amperostatic)電着について、作用電極及び対電極がそれぞれ銅フォーム(又はニッケルフォーム)及びグラファイトプレートである2電極システムを使用した。-2~3mA/cm2の電流密度を有する定電流を300秒間適用した。
【0106】
電極を電解液からゆっくりと取り出し、Milli-Q(登録商標)水ですすぎ、N
2流中で乾燥させた。次いで、電極を、水分解反応において、グラファイトプレート対電極及びAg/AgCl参照電極を有する3電極システムで評価した。OERの性能を、CoFeCr/CF電極及びNiFeCr/CF電極と比較した。結果を
図18に示す。四成分NiCoFeCr電極は、銅フォーム基板上の三成分CoFeCr電極及びNiFeCr電極と比較して向上した性能を示した。
【0107】
実施例3
CoFeCr LDHナノドット
CoFeCr複合LDHナノドットは、熱水法によって合成した。前駆体溶液は、1mmol硝酸コバルト、1mmol硝酸鉄、1mmol硝酸クロム、60mLのメタノール及び12mLの水を含有した。次いで、溶液を、180℃で12時間の熱水反応下でオートクレーブ中の密封されたTeflon(登録商標)チャンバーに移した。自然に室温まで冷却した後、懸濁液を遠心分離し、水で3回すすいだ。生成物を収集し、60℃で一晩真空乾燥させた。調製されたままの材料を、めのう乳鉢で粉末へと粉砕した。
【0108】
10mgの触媒粉末を、480μLの水、480μLの無水エタノール(C2H5OH Chem-Supply)及び40μLのNafion(登録商標)(5%Sigma)結合剤を含有する溶液に分散させることによって、ナノドットをドロップキャストし、懸濁液を氷水浴中で1時間超音波処理した。
【0109】
均一な懸濁液(2μL)をニッケルフォーム(NF)基板上にドロップキャストし、換気フード中で一晩乾燥させた。質量負荷は2mg/cm2であった。
【0110】
ナノドット電極を、1M KOH溶液中でOERにおいて使用した。結果を
図19に示す。三成分複合ナノドットは、市販のIrC触媒よりも優れた性能を示し、CoFe二成分触媒よりも優れた性能を示した。
【0111】
CoFeCr複合LDHから形成されたナノドットを
図20に示す。
(付記)
(付記1)
水酸化物層が散在したコバルト、鉄及びクロム種を含む金属複合物を含む層状複水酸化物材料。
(付記2)
金属複合物が、Co
2+及び/又はCo
3+を含む、付記1に記載の層状複水酸化物材料。
(付記3)
金属複合物が、Fe
2+及び/又はFe
3+を含む、付記1又は2に記載の層状複水酸化物材料。
(付記4)
金属複合物が、Cr
3+及び/又はCr
6+を含む、付記1~3のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
(付記5)
金属複合物が、コバルト及び鉄を、重量対重量ベースで1.5~3.5:1のコバルト:鉄の比で含む、付記1~4のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
(付記6)
金属複合物が、コバルト及びクロムを、重量対重量ベースで1.5~2.5:1のコバルト:クロムの比で含む、付記1~5のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
(付記7)
金属複合物が、鉄及びクロムを、重量対重量ベースで0.7~1:1の鉄:クロムの比で含む、付記1~6のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
(付記8)
金属複合物が、球状形態を有する、付記1~7のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
(付記9)
球状形態が、複数のミクロスフェアを含む、付記8に記載の層状複水酸化物材料。
(付記10)
ミクロスフェアの平均直径が、単分散である、付記9に記載の層状複水酸化物材料。
(付記11)
単分散ミクロスフェアが、約100~約300nmの平均直径を有する、付記10に記載の層状複水酸化物材料。
(付記12)
水酸化物層が、アモルファス水酸化物とCoベースのスピネル酸化物との混合相である、付記1~11のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
(付記13)
金属複合物が、ニッケル種をさらに含む、付記1~12のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料。
(付記14)
付記1~13のいずれか一項に記載のLDH材料及び場合により基板を含む触媒材料。
(付記15)
ナノドットの形態の付記14に記載の触媒材料。
(付記16)
導電性基板、及び導電性基板の表面上にコーティングされた触媒材料を含む電極であって、触媒材料は、付記1~13のいずれか一項に記載のLDH材料を含む、電極。
(付記17)
導電性基板が、金属フォームである、付記16に記載の電極。
(付記18)
導電性基板が、ニッケルフォームである、付記16又は17に記載の電極。
(付記19)
付記14に記載の触媒材料又は付記16~18のいずれか一項に記載の電極を調製する方法であって、導電性基板を、コバルト、鉄及びクロムイオンを含む溶液と接触させるステップ、及び溶液を通して基板及び対電極に渡って電圧を印加して、基板上にコバルト、鉄及びクロム種を含む複合材料を電着させるステップを含む、方法。
(付記20)
付記14又は15に記載の触媒材料を調製する方法であって、コバルトイオン、鉄イオン及びクロムイオンの溶液を約150℃~約220℃の温度に約8~約20時間処理するステップ、混合物を冷却するステップ及び生成物を収集するステップを含む、方法。
(付記21)
溶液がニッケルをさらに含み、触媒材料がコバルト、鉄、クロム及びニッケル種を含む、付記19又は付記20に記載の方法。
(付記22)
水から酸素を発生させる方法であって、該方法は、アノード、カソード及び電解質溶液を含む電気化学セルを提供するステップ、水をアノード及びカソードと接触させるステップ、及びアノード及びカソードに渡って電圧を印加するステップを含み、アノードは、付記1~13のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料、付記14又は15に記載の触媒材料、又は付記16~18のいずれか一項に記載の電極を含む、方法。
(付記23)
アノード電圧が、約200mV~約500mVの過電圧を提供する、付記22に記載の方法。
(付記24)
電気化学セルが、参照電極をさらに含む、付記22に記載の方法。
(付記25)
アノード、カソード及び電源を含む電解槽であって、アノードは、付記1~13のいずれか一項に記載の層状複水酸化物材料、付記14又は15に記載の触媒材料、又は付記15~18のいずれか一項に記載の電極を含む、電解槽。
(付記26)
参照電極をさらに含む、付記23に記載の電解槽。