(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】蓄電池の残量値を算定する方法、装置、およびコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20240122BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20240122BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20240122BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240122BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20240122BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
G01R31/389
H01M10/48 P
G01R31/387
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022101471
(22)【出願日】2022-06-24
【審査請求日】2022-11-22
(32)【優先日】2021-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】アルノ アルツベルガー
(72)【発明者】
【氏名】マンフレッド バルダウフ
(72)【発明者】
【氏名】サッシャ シュルテ
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/089786(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/142550(WO,A1)
【文献】特開2017-067788(JP,A)
【文献】特開2017-083474(JP,A)
【文献】特開2022-182460(JP,A)
【文献】特許第6494840(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0341064(US,A1)
【文献】米国特許第08912761(US,B2)
【文献】特開2013-249026(JP,A)
【文献】特開2012-122787(JP,A)
【文献】特開2011-222343(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0095090(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0109526(US,A1)
【文献】米国特許第6307377(US,B1)
【文献】特開2017-099221(JP,A)
【文献】国際公開第83/02005(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014220914(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第10328721(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/310565(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 31/36-31/44、
11/00-11/66、
21/00-22/10、
35/00-35/06、
H02J 7/00-7/12、
7/34-7/36、
H01M 10/42-10/48、
B60L 1/00-3/12、
7/00-13/00、
15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済み電池(2)の残量値を算定する方法であって、
前記電池(2)が検査ステーション(1)に供給され、
前記電池(2)が前記検査ステーション(1)内で検査温度にもたらされ、前記検査温度から生じる偏差が2Kより小さくなるように検査期間中の前記検査温度が安定化され、
前記電池(2)の複数の負荷サイクル(100)が高精度クーロメトリ装置(4)により測定され、前記測定の結果に多数の電流値が含まれるようにされ、
前記測定が廃棄基準に達するまで実施され、
前記測定の結果に基づいて前記電池(2)の放電容量に対する第1と第2の値が第1と第2の計算
規則により算出され、
前記第1と第2の計算
規則に
は電流測定の補正が別々に含められ
、算定された第1と第2の放電容量の
最大の一致が達成されるように
前記電流測定の補正が算定される最適化方法が実行され、
前記測定の結果に基づき前記電池(2)の少なくとも1つの残量値基準が決定され、
前記残量値基準に基づいて前記使用済み電池(2)が定置エネルギー蓄積器で使用できるか否かが決定される、方法。
【請求項2】
前記検査温度から生じる偏差が、0.5K未満となるように前記検査期間中の前記検査温度を安定化する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検査温度を前記検査期間中に前記電池(2)の冷却システムを用いて安定化する、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記電池(2)の容量および/または前記電池(2)の電池管理システムに記憶されたデータを追加の残量値基準として使用する、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記残量値基準として、クーロン効率、エネルギー効率、有効セル内部抵抗および/または前記電池(2)のサイクル当たりの容量損失を算定する、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記残量値基準が前記電池(2)の識別子と共にデータベースに記憶される、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
この方法を用いて検査された前記電池(2)の実際の劣化データを定置蓄電池で使用中に受信し、前記電池が定置エネルギー蓄積器での使用に利用できるか否かを前記実際の劣化データと記憶された前記残量値基準を用いて決定する
、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記負荷サイクル(100)が40%未満の放電を含み、かつ、0.5から1.5の間のC係数で作動する、請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
前記電池(2)が最も適している定置エネルギー蓄積器のカテゴリーが、前記残量値基準から算定される、請求項
1に記載の方法。
【請求項10】
負荷サイクル(100)が、
第1の充電状態(21)から第2の充電状態(22)までの第1の電荷量を測定する第1の放電と、
それに続く前記第2の充電状態(22)から第3の充電状態(23)までの第2の電荷量を測定する第2の充電と、
前記第3の充電状態(23)から第4の充電状態(24)までの第3の電荷量を測定する第2の放電と、を含み、
前記電池(2)の下位電圧と上位電圧の間で前記負荷サイクル(100)の充放電が行われる、請求項
1に記載の方法。
【請求項11】
第1の電荷シフトが前記第4の充電状態(24)と前記第2の充電状態(22)との差を用いて算定されるとともに、第2の電荷シフトが前記第3の充電状態(23)と前記第1の充電状態(21)との差を用いて決定され、
前記第1の電荷シフトと前記第2の電荷シフトとの差からの容量損失が算定され、
平均容量損失が、異なる負荷サイクル(100)の少なくとも2つの前記容量損失に基づいて算出される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記廃棄基準として、2つ以上の連続する前記負荷サイクル(100)における前記容量損失の相対的変化を使用する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記廃棄基準が、現在の測定の結果から得られる分類の関数として選択される、請求項
1に記載の方法。
【請求項14】
高精度クーロメトリ装置(4)と、
電池の一連の測定の結果を記録するためのメモリを備えた計算ユニット(10)であって、前記最適化方法を実行するように構成されている、計算ユニット(10)と、
を有する
、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法を実施するための装置(1)。
【請求項15】
プログラム可能な計算ユニット(10)のメモリに直接ロード可能なコンピュータプログラムであって、
前記計算ユニット(10)で実行されるときに、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法を実施するためのプログラムコード手段を備える、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リチウムイオンアキュムレータは、その高電力およびエネルギー密度のため、多くの移動および定置用途でエネルギー蓄積器として使用されている。最近著しく増えている利用分野は、電気自動車や建物内の給電のための定置式一時蓄積器である。以下このようなアキュムレータは、これらの技術応用分野において日常語として使用されているように電池または蓄電池と呼ぶことにする。
【背景技術】
【0002】
2025年ごろからは、10,000台以上の個数を超える大量の第1世代のトラクションバッテリの自動車での使用が、約5~8年後には残容量が少なくなり過ぎたり、自動車が他の理由で廃棄されたりするため、その役目を終えることになろう。理想的には、これらの電池はなお数年にわたりネット関連の目的のための定置蓄電器として使用することができよう。その本来の寿命ではなく他の理由から自動車にはもはや使用できなくなった電池も、ここで問題とする。
【0003】
しかし「セカンドライフ」と呼ばれるこのような用途は素材リサイクルと競合しており、これにより使用済み電池の最低限の品質と残りの寿命、したがってこれを下回るとセカンドライフでの使用価値がなくなる最小限の残量値が定められる。
【0004】
使用済み電池の電池管理システムにはそのための用途がある。しかしながら、これは極めて不明確であり、セカンドライフ電池や使用済み電池から成る定置蓄電器用ビジネスモデルは予備品としての使用が不可能である。
【0005】
使用済み電池のセカンドライフへの使用可能性に対する適合性を決定するために、残留容量の測定が1 回または数回のフルサイクルで、内部抵抗の測定が充電状態ポイントで行われる。場合によって残留容量は、信頼性が高く十分に正確な健全値(SOH)が記録されていれば、電池管理システムを読み出すことによっても検出することができる。この状態情報に基づいて、使用済み電池はできるだけ均一なグループに分けることができ、これらのグループはそれらの特性のできるだけ狭い分布曲線によって特徴付けられる。1つのグループの電池は、1つの蓄電器またはバッテリラックに組み込まれ、相互接続される。これにより、1つのラックまたは蓄電器内の個々の電池が実質上同様の動作を示し、したがってすべて均等に負荷を受けることが保証される。後者の点によりエネルギー蓄積器内で使用されることによって個々の電池が、その実際の状態に関連して過負荷になった同じラックまたは蓄積器内の他のセルまたはモジュールよりも著しく老化することが回避される。
【0006】
しかしながら上述の従来のアプローチの欠点は、上述の残留容量および内部抵抗の値が現在の状態のみを反映し、時間の経過に伴う傾向を反映しないことである。つまり次の動作フェーズでの電池の健全状態の経時的な予想される経過は不明である。すなわちたとえば、2つの電池の残留容量がそれぞれ80%であるとする。一方の電池はその前の使用例で慎重に操作され、容量損失が緩慢にほぼ直線的な経過で続く状態であった。これに対し他方の電池は凍結運転モードのために、将来の充放電サイクルにおいてすでに容量の急激な損失を受ける可能性があり、したがって定置エネルギー蓄積器での以降の動作では、劣化曲線の急激な曲線形状が予期される。これはいわゆるニーポイントと呼ばれ、劣化曲線の緩慢なしばしば直線的な進行から、非常に急峻なしばしば凸状の(つまり加速的な)曲線経過を示す。この2つの電池は以後の動作中にその特性が急に別様になり、その結果として短時間の動作後に不均質に構成された蓄積器システムが形成されるおそれがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、使用済み電池の残量値の算定を改善することが可能な方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの課題は、請求項1の特徴を有する方法と、請求項14の特徴を有する装置とによって解決される。
【0009】
電池の残量値を算出するための本発明による方法では、電池は検査ステーションに供給され、検査ステーション内で検査温度にもたらされる。この場合検査温度は検査期間中安定化され、検査温度からの発生偏差が2K未満になるようにされる。
【0010】
さらに高精度クーロメトリ装置を用いて電池の複数の負荷サイクルが測定され、その測定結果が複数の電流値を含むようにされる。この場合、負荷サイクルに対してはできるだけ有効であると同時にセーブした特に50%未満の充電状態の作動点が選択されることが好ましい。
【0011】
この測定は廃棄基準が満たされるまで行われ、測定結果に基づいて電池の放電容量に対する第1および第2の値が第1および第2の計算規則を用いて算出し、その際電流測定の補正が第1および第2の計算規則に別々に加わるようにされ、算出された第1および第2の放電容量の最大の一致が達成される電流測定の補正が求められる最適化プロセスが実行される。
【0012】
最後に、測定の結果に基づいて電池の少なくとも1つの残量値基準が求められ、この残量値基準に基づいて電池が定置エネルギー蓄積器で使用できるか否かが決定される。
【0013】
本発明による装置は、本発明による方法を実行するように設計され、高精度クーロメトリ装置と、電池の一連の測定結果を記録するためのメモリとを備えた計算ユニットとを備え、この計算ユニットは、最適化方法と、電池が定置蓄電池システムで使用できるか否かの決定を実行するように構成されている。
【0014】
残量値の算定は、必ずしも純瞬時的な残量値の推定を意味するものではなく、定置エネルギー蓄積器での使用が有意義であるか否かについての技術的かつ経済的な決定と解釈される。少なくとも部分的には、残りの耐用年数(RUL)を算定する問題である。
【0015】
本発明により有利には、電池の残量値の極めて正確な評価を得る可能性が生じる。この評価により、使用済み電池を使用する定置エネルギー蓄積器は、その後のメンテナンス費用、故障、または早すぎる電池劣化のリスクを大幅に軽減することができる。それゆえ自動車での使用がもはや意義がなく望ましくないと思われたリチウムイオンアキュムレータの使用可能性が著しく改善される。これは、将来の原材料のリサイクルに先立って再使用が行われるため、環境の観点からも利点がある。
【0016】
この場合特に、実際の残留容量だけでなく、劣化速度を求めることもできるので有利である。このように、将来の容量損失速度が提供されるので、同じ劣化動作を有する電池グループへの電池の大幅に改善された割り当てが可能になる。これにより、定置エネルギー蓄積器の電池は作動中にも、長期間にわたって同様の特性を保持し、ばらばらに作動しないことが保証される。まだあきらかにニーポイントより前にいるのか、すでにニーポイントにいるのか、場合によってはそれを既に通過し、劣化の急峻カーブ上にあるのかを決定することができる。
【0017】
別の利点は、本発明による測定において、現在の劣化率を特徴付けるための部分サイクルを既に使用できることであり、その結果時間の節約に加えて、本方法の別の利点は、全サイクルにわたって付加的な劣化が生じないことである。
【0018】
本発明の有利な実施形態は請求項1の従属クレームから明らかである。請求項1または請求項14に係る実施形態は、一つの従属項の特徴と組み合わせることができ、好ましくはいくつかの従属項の特徴と組み合わせることもできる。したがって、以下の特徴を提供することもできる。
【0019】
検査温度は、検査温度からの発生偏差が0.5K未満、特に0.05K未満になるように、検査期間中は安定化することができる。このようにHPC測定中に正確に設定された温度により、特に有効な測定結果が得られる。使用済み電池を備えた定置エネルギー蓄積器を成功させるには、設置された使用済み電池バッテリの動作が、できるだけ長くできるだけ正確に予測された動作に対応していることが非常に重要である。この動作は瞬時的測定から算出されるため、この測定ができるだけ正確であることが重要である。
【0020】
検査温度は、電池の冷却システムを使用して、検査期間中安定化させることができる。これにより測定中に電池の温度調整に必要な構造上の経費が削減される。
【0021】
電池の電池管理システムに保存されたデータは、付加的な残量値基準として使用できる。電池管理システムに格納されたデータを使用すると、残量値をできるだけ正確に算定するためにさらにデータを提供できるという利点が生じる。この追加データは高精度クーロメトリ測定の一部として取得されるものではなく、そのため精度が低下するが、電池の実際の作動中、すなわちその以前の使用条件下で取得されたデータが提供される。そのためこれらの条件は、HPC測定で使用されていない動作ポイントでの電池の挙動に関する洞察を提供する場合がある。電池管理システムからのデータは、事前選択の可能性も提供する。たとえば電池管理システムのデータに基づいて、セカンドライフでの使用が期待できない電池はもはや測定されなくなる。あるいは廃棄基準も測定に適合させることができ、これにより貴重な測定時間を節約することができる。
【0022】
残量値基準として、クーロン効率、エネルギー効率、有効内部セル抵抗および/または電池のサイクル当たりの容量損失を算定することができる。
【0023】
残量値基準はしたがってすべてHPC測定から取得する必要はなく、他のソースから取得することもできる。このようなソースは、まさに使用済み電池において良好に利用可能である。別の残量値基準の一つは容量である。これは、電池管理システムから取得することも、特別の適格性確認測定で求めることもできる。
【0024】
上述の値が2つ以上使用される場合電池の残量値に関する算定は、有利には個々の測定で算定された複数の独立したKPI(キー・パフォーマンス・インジケータ=重要業績評価指数)に基づいて行われる。これにより選択プロセスの堅牢性が高まり、信憑性が高まり、生産された電池の実践報告からのデータ還流の統合の新たな可能性が開かれる。
【0025】
容量からは現在可能なエネルギー装填量の評価を有利なことに得ることができる。電池の電気的内部抵抗からは、有利なことに必要な冷却能力の評価が得られる。
【0026】
残量値基準の検出が多ければ多いほど、システムにグループ化された電池ができるだけ同一の電気的、熱的劣化特性を有するように、コスト効率の良い定置電池システムを良好に設計することができる。
【0027】
残量値基準は、電池の識別子と共にデータベースに格納することができる。このような記憶は、たとえば使用済み電池のそれぞれ異なる前歴に関する相違を認識するために、このようにして収集されたデータの後からの評価を可能にする。さらにこのような記憶は、電池を後に定置エネルギー蓄積器に使用するときに得られる劣化データとの比較を可能にする。たとえば電池の定置蓄積器での使用における実際の劣化データを受信し、実際の劣化データと記憶されている残量値基準を使用して、現在検討中の電池が定置エネルギー蓄積器で使用可能か否かを決定するときに、特に利点がある。
【0028】
負荷サイクルには、40%未満、特に25%未満の放電を含めることができる。さらに負荷サイクルは、0.5と1.5の間、特に0.8と1.2の間のC係数で作動することができる。これにより充電と共に電池を測定するための有利な作動点が作られ、電流コストを低減するのに、放電(DOD)と共に充電状態(SOC)が高すぎず、一方、放電は、有意義な測定のために十分である。このような有利な作動点は、30%SOC、20%DOD、1Cである。
【0029】
負荷サイクルの少なくとも一部については、すでに言及されている作動点とは異なる1つ以上の追加の作動点を使用することができる。これにより電池の実際の作動で発生するさまざまな作業状況に関して、測定がより信憑性を有することになる。たとえば、50%SOC、10%DOD、0.5Cの第2の作動点、特に75%SOC、20%DOD、0.2Cの第3の作動点を測定することができる。
【0030】
残量値基準から電池の最適な定置エネルギー蓄積器のカテゴリーを求めることができる。たとえば、種々の作動点を使用して、電池が、制御電力、ピークシェービング用のエネルギー蓄積器、または再生可能なエネルギーの中間蓄積器としての使用に最も適しているか否かを決定することができる。このように使用形態が異なると、使用される電池に対する要求が異なるため、劣化が異なることになる。
【0031】
これにより使用済み電池を、その劣化特性に関してより均質なグループに分類することを可能にするだけでなく、それらの新しい応用シナリオに対して特定の推薦を与えることもできるので有利である。
【0032】
この場合負荷サイクルは、好ましくは、第1の充電状態から第2の充電状態までの第1の電荷量が測定される第1の放電と、これに続く第2の充電状態から第3の充電状態までの第2の電荷量が測定される第1の充電と、第3の充電状態から第4の充電状態までの第3の電荷量が測定される第2の放電とを含み、この場合負荷サイクルの充放電は蓄電池の下位の電圧と上位の電圧との間で行われる。
【0033】
この場合第1の電荷シフトは、第4の充電状態と第2の充電状態との間の差を用いて算定することができ、第2の電荷シフトは、第3の充電状態と第1の充電状態との間の差を用いて算定することができる。さらに容量損失は、第1の電荷シフトと第2の電荷シフトとの差から求めることができ、平均容量損失は、異なる負荷サイクルの少なくとも2つの容量損失に基づいて算出することができる。
【0034】
このようにして算定された容量損失は廃棄基準として使用できる。特にこの場合、2つ以上の連続負荷サイクルにおける容量損失の相対的変化を考慮することができる。これが十分に低い場合、電池はすでに止まっていると見なすことができ、測定を中止することができる。
【0035】
このようにして算定された容量損失は、電池の残量値基準としても使用できる。したがって、すでに言及した残量値基準に加えて、測定の信憑性を改善する別の基準が提供される。
【0036】
廃棄基準を上述の測定結果後に生じる電池の仕分けの関数として選択することが可能である。たとえば電池がスクラップと見なされなければならないことが明らかになった場合、すなわち定置エネルギー蓄積器での使用に適さないことが明らかになった場合には、測定を中止することができる。
【0037】
使用された廃棄基準は、相互に組み合わせることができる。たとえば、これまでに測定された負荷サイクルの最小数を超え、容量損失の偏倚がしきい値を下回わる場合には、測定の中止を行うことができる。
【0038】
本発明に対しては、プログラム可能な計算ユニットのメモリに直接載置可能なコンピュータプログラム製品を提示することができる。これには、コンピュータプログラム製品が計算ユニット内で実行されるときに、本発明による方法を実施するためのプログラムコード手段が含まれる。
【0039】
本発明の特徴、特性及び利点は添付の図面による以下の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図2】この装置による電池の残量値を算出する方法のフローチャートを示す。
【
図3】負荷サイクルの電圧‐時間ダイアグラムを示す。
【
図4】負荷サイクルの電圧‐充電ダイアグラムを示す。
【
図5】負荷サイクルの経過時における容量損失ダイアグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、使用済み電池2の残量値算定装置1を示す。装置1は高精度クーロメトリ装置4と調温室3とを備える。使用済み電池2は、調温室3内に配置され、電流ケーブル11によって高精度クーロメトリ装置4に接続される。さらに、電池2の冷却システムは
図1には示されていないが、電池2の温度を安定化させるために共用できるように調温室3に接続されている。この場合安定化は、測定中に極めて一定の温度が維持されるように行われる。温度は、たとえば25℃にすることができ、測定期間中の偏倚はこの実施例では0.1K未満である。
【0042】
高精度クーロメトリ装置4は一方ではデータケーブル12を介して計算ユニット10に接続される。高精度クーロメトリ装置4は、非常に高い精度で電池2の充電‐時間ダイアグラムを記録する。この場合電池2は周期的な負荷サイクル100で作動する。
【0043】
計算ユニット10は、高精度クーロメトリ装置4によって送信されたデータを処理するコンピュータプログラム13を含む。コンピュータプログラムは、少なくとも一時的に値を記憶する。
【0044】
図2は
図1に示す装置1で行われる電池2の残量値を算定する方法のフローチャートである。この方法の計算ステップは計算ユニット10のコンピュータプログラム13により実行される。
【0045】
第1のステップ201では、使用済み電池2が調温室3に入れられ、調温が行われる。このようにして、その後に測定される負荷サイクル100の間に一定の温度が達成される。第1のステップ201は、多くの実施形態では電池2の調温室3への導入方法によっては省略することができ、他の実施形態ではこのステップ201を数時間継続することもできる。
【0046】
第1のステップ201に続いて、高精度クーロメトリ装置4を用いて電池2を測定する第2のステップ202が続く。この場合、すでに述べた負荷サイクル100が実行され、少なくとも電流測定が実行され、これにより電荷量の算定が行われる。
【0047】
第2のステップ202はまた第3のステップ203を含み、このステップでは算出されたデータを用いて電流補正が実行される。さらに第2のステップ202はまた第4のステップ204を含み、このステップでは廃棄基準が存在するか否かについての決定がなされる。廃棄基準がない場合には、電池2の測定は、次の負荷サイクル100で継続される。
【0048】
第3および第4のステップ203、204は、各負荷サイクル後にまたは規定可能な数の負荷サイクル後に常に実行することができる。第3および第4のステップ203、204は原則として互いに独立しているが、同時に実行することも可能である。この例では、第3および第4のステップ203、204はそれぞれ10の負荷サイクル100後に実行される。
【0049】
この実施例では、廃棄基準として種々の要因の組み合わせが使用される。第1の要因は、負荷サイクル100の最小数(この場合は100)である。経験上電池の挙動のばらつきは、負荷サイクル100のこの数の前には生じないことが示されている。次の要因としては、連続する負荷サイクル100間の容量損失の偏倚が使用される。これについては、以下でさらに説明する。この偏倚が5%を下回ると、電池2がばらつき状態であると見なすことができる。
【0050】
さらに負荷サイクル100の最小数後に以前のデータが考慮される場合に電池2 に対してどのような結果が生じるかも廃棄基準に取入れられる。その結果が既に、電池がもはや定置エネルギー蓄積器での使用に適さなくなっている場合は、それ以降の測定は中止される。これに対し電池2が劣化に関して高品質が期待されれば、測定は継続される。
【0051】
廃棄基準を満たした場合、電池2の測定は終了する。次いで第5のステップ205で最終的な残量値基準の算定が行われる。この例では第5のステップ205において、クーロン効率およびエネルギー効率が算定される。これらの残量値基準は、たとえば、定義可能なしきい値と個別に比較されることによって評価される。この評価は少なくとも一部では経済性の評価であり、定置エネルギー蓄積器における電池2の使用が、その予期される劣化特性を考慮に入れても、利益を得る可能性が高いか否かを明らかにするものである。これは別の部分では、電池の使用が正当であるか否か、すなわちたとえば火災の危険性をもたらさないか否かを明確にする安全上の考慮事項である。ここでは、新しい電池からエネルギーを貯蔵する場合と同様に経済性の評価が行われ、測定データを電池の製造業者データに置き換えることが行われる。
【0052】
この評価で定置エネルギー蓄積器、すなわち電池2のセカンドライフの使用に価値がないことがわかった場合は、電池はたとえば原材料のリサイクルに用いられる。取得したデータと残量値基準は破棄することができる。
【0053】
しかしながら残量値基準の評価が、電池2が定置エネルギー蓄積器での使用に適していることを示す場合、第6のステップ206で、得られた残量値基準が記憶される。算出値の記憶は、識別子、例えば電池2のシリアルナンバーのような識別番号と共にデータベースで行われる。さらにそこには、電池2の電池管理システムから取得された識別値も保存される。このために、計算ユニット10はまた、データ交換をできるように電池管理システムに接続されている。この電池管理システムからは典型的には、推定残容量のデータやエラーメモリに記憶された情報などを取得することができる。推定残容量のデータは、電池2または別のテストプロトコルのデータシートに基づく独自の容量測定によって補完できる。
【0054】
第5のステップ205で求められた残量値基準は識別子と共に記憶されるので、第7のステップ207では、このようにして求められた予測値と電池2の実際の劣化データとの調整を行うことができる。このために、このような電池2の実際の劣化データは、定置エネルギー蓄積器でのセカンドライフ利用の過程で記録される。このデータは、現在の測定値に対応する保存された残量値基準、および以前のライフデータに対応する電池管理システムから取得されたデータと比較される。この場合予期された残量値、すなわち、1つまたは複数の残量値基準と相関する定置エネルギー蓄積器での運転特性にシステム上の偏倚がある場合、第5のステップ205で実行された評価の修正、たとえば閾値の変更が行われる。これらの変更された閾値は、将来検査される使用済み電池2の残量値の算定の改善につながる。
【0055】
電池2の本来の測定は高精度クーロメトリ装置4を使用して行われる。
図3は、電池2の周期的な負荷サイクル100の間に記録された高精度クーロメトリ装置4の電圧-時間ダイアグラムを示す。負荷サイクル100は、第1の充電状態21から第2の充電状態22への放電を含み、その際第1の充電状態21は上位の電圧25にあり、第2の充電状態22は下位の電圧26にある。次に蓄電池2は負荷サイクル100内で、第2の充電状態22から第3の充電状態23に充電される。次のステップとして、負荷サイクル100内で第3の充電状態23は第4の充電状態24に放電される。個々の充電/放電ステップでは、上位電圧25と下位電圧26が電圧限界として維持される。充電には充電期間t
Cがかかる。放電は放電期間t
Dをとる。
【0056】
図3に示す測定に基づき、
図4に示すように、どの累積電荷量が個々の充電・放電ステップで流れたかを検出することができる。
図4は、蓄電池の電圧と累積電荷量Qの関係を示すダイアグラムである。負荷サイクル100は、ここでも第1の充電状態21で開始される。蓄電池2は、第2の充電状態22までは第1の放電31で放電される。この場合、第1の電荷量Q1が蓄電池2から取得される。第1の電荷量Q1は次式1を使用して計算することができ、ここでIは電流を示し、t
Dは放電期間を示す。
【0057】
【0058】
負荷サイクル100内で蓄電池2は、次いで第1の充電32によって第2の充電状態22から第3の充電状態23に充電される。第2の電荷量Q2が蓄電池2に充電される。Q2は次式2を使用して計算できる。
【0059】
【0060】
負荷サイクル100内で、蓄電池2は、次に第2の放電33によって、第3の充電状態23から第4の充電状態24へ放電される。次に除去された電荷量Q3は、式1と同様に放電期間および関連する電流から計算することができる。
【0061】
これにより、第1の充電状態21と第3の充電状態23との間の第1の電荷シフトd1を算出することができる。さらに第2の充電状態22と第4の充電状態24との間の第2の電荷シフトd2を算出することができる。第1の電荷シフトd1と第2の電荷シフトd2との差から負荷サイクル100の容量損失dKapが次式3を使用して算出される。
【0062】
【0063】
図5は、250負荷サイクルに対する負荷サイクル当たりの容量損失を示す。X軸は負荷サイクルZの数、すなわち、各負荷サイクル100の進行数を示し、Y軸は、負荷サイクル100当たりの容量損失dKapを示す。
図5は、最初は、過渡フェーズP1が、連続する負荷サイクル100の間に発生することを明らかにする。過渡フェーズP1の長さは、作動点と電池2の前歴によって異なる。
【0064】
この方法の測定値としての平均容量損失dKapの算定は、容量損失dKapmittelの値にわたるスライディング線形フィットと、この方法で生成された直線式における最小傾きを算定することによって実行される。容量損失dKapのすべての値、すなわち値1~値250にわたるフィットに基づいて、データセットは連続的に短縮され、新しい直線が生成(フィット)される(2~250、3~250など)。フィットは、データセットの一定の最小残差長、たとえば10%まで実行される。続いて直線式がその勾配の値に従って昇順にソートされる。少なくとも2つの勾配の値が、容量損失dKapの最後の10%の平均値の10%未満である場合、測定は有効であると見なすことができる。たとえば最後の20の容量損失の平均値が、特に少なくとも200の容量損失を測定する場合、5mAh/負荷サイクルであれば、2つのベストフィットされた接線(「フィット」)の勾配は0.5mAh/負荷サイクル未満である必要がある。
【0065】
それ以外の場合は、システムが十分な定常状態に達していないため、特に基準点の数が多い場合は、測定を繰り返す必要がある。例えば、データセットの全長の3%を切り捨てた一定の数、あるいは2つの測定値の最小数がソートから選択され、フィットされた直線の対応する開始指標が算出される。このようにして算出された各セクションに、平均値の容量損失は、含まれる容量損失dKapの算術的平均値として示される。平均容量損失値dKapMittelは、平均化された個々の容量損失の平均値として算定される。
【0066】
十分に定常的な、すなわちほぼ一定の容量損失にまだ到達しないと、負荷サイクルの測定が繰り返される。ソートから再び一定数、たとえばデータセットの全長の約3%、または2の最小数が選択され、フィットされた直線の対応する開始インデックスが算出される。このようにして算出されたセクションごとに平均容量損失dKapMittelが、推定容量損失の算術的平均値として示される。ただし平均容量損失dKapMittelの値は、算術的に平均化された容量損失の平均値として求めることもできる。
【0067】
また
図5は、過渡フェーズP1の後に算出フェーズP2が続くことを明らかにする。これらのフェーズは、容量損失dKapの評価中にシフトする可能性がある。
【0068】
容量損失に加えて、クーロン効率も残量値基準として用いられる。これは以下のように計算される。
【0069】
【0070】
第3のステップで実行される電流補正には、放電状態すなわちたとえば第2の充電状態に割り当てることができる放電容量Q0を2つの異なる方法で計算することができることを利用することが可能であり、この場合高精度クーロメトリ装置4の電流の較正は別々に2つの計算を行うことが含まれる。たとえば、Q0は第1の規定により次式になる。
【0071】
【0072】
さらにQ0は、先行する負荷サイクル100に割り当てられた初期の放電容量Q0Aと、先行する負荷サイクル100と現在の負荷サイクルとの間の容量損失とから計算することができる。
【0073】
【0074】
理想的、すなわち誤りのない電流測定の場合、2つの値は次式8に示すように同じである。
【0075】
【0076】
この2つの値は、しかし実際には電流測定における電流補正が完全には正確でないために異なる。値の差が大きいほど、電流補正は誤差がある。
【0077】
式8は、関数値fを最小化する最適化の基礎として、f=Q0-Q0mの形で使用される。最適化のために変更される変数値は、電流の較正を生成する。電流の較正は、測定された電流値から修正された測定値へのマッピングである。最適化によって値間の大幅な一致が達成されると、修正された測定値は実際の電流に非常に正確に対応する。最適化は、計算ユニット10のコンピュータプログラム13によって実行される。
【符号の説明】
【0078】
1 検査ステーション
2 電池
3 調温室
4 高精度クーロメトリ装置
10 計算ユニット
11 電流ケーブル
12 データケーブル
13 コンピュータプログラム製品
21 第1の充電状態
22 第2の充電状態
23 第3の充電状態
24 第4の充電状態
25 上位電圧
26 下位電圧
100 負荷サイクル
tC 充電期間
tD 放電期間
201~207 第1ステップ~第7ステップ