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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】固定子構造及び平角線モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/16 20060101AFI20240122BHJP
   H02K 1/20 20060101ALI20240122BHJP
   H02K 9/19 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
H02K1/16 Z
H02K1/20 C
H02K9/19 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022124337
(22)【出願日】2022-08-03
(65)【公開番号】P2023024370
(43)【公開日】2023-02-16
【審査請求日】2022-08-03
(31)【優先権主張番号】202110890804.3
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522084131
【氏名又は名称】精▲進▼▲電▼▲動▼科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100109036
【弁理士】
【氏名又は名称】永岡 重幸
(72)【発明者】
【氏名】徐 ▲きん▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 亮亮
(72)【発明者】
【氏名】▲韓▼ 磊
(72)【発明者】
【氏名】蔡 春霞
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-010553(JP,A)
【文献】特開2021-013213(JP,A)
【文献】特開2020-014283(JP,A)
【文献】国際公開第2011/077521(WO,A1)
【文献】特開2011-182573(JP,A)
【文献】特開2010-166708(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1111411(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0012409(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2523312(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/00- 1/16
H02K 1/18- 1/26
H02K 1/28- 1/34
H02K 9/00- 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子構造であって、固定子鉄心、固定子巻線及び退避層を含み、前記固定子鉄心は、内筒空洞を有し、且つ前記固定子鉄心の端面には、周方向に沿って間隔をおいて配置された複数の鉄心スロットが設けられており、前記鉄心スロットと前記内筒空洞との間がスロット口を介して連通され、前記固定子巻線は、前記鉄心スロットに巻かれた複数層の平角線導体を有し、前記固定子鉄心の径方向に沿って、前記退避層は、前記スロット口と最初層の前記平角線導体との間に位置し、
前記退避層は、独立した構造として2つの台形ブロックで構成される、ことを特徴とする固定子構造。
【請求項2】
前記退避層は、前記固定子鉄心と同じ材質を用いており、前記退避層は、前記鉄心スロットの内部に位置し、且つ前記スロット口と最初層の前記平角線導体との間の通路の両側に固定されている、ことを特徴とする請求項1に記載の固定子構造。
【請求項3】
前記退避層は、前記固定子鉄心の一部として、前記鉄心スロット及び前記スロット口と最初層の前記平角線導体との間の通路を構成している、ことを特徴とする請求項1に記載の固定子構造。
【請求項4】
前記退避層は、前記鉄心スロットにおいて前記スロット口と最初層の前記平角線導体との間に位置し、且つ前記退避層と前記鉄心スロット及び前記平角線導体とが絶縁接触とされる、ことを特徴とする請求項1に記載の固定子構造。
【請求項5】
前記退避層は、非透磁層、非導電層である、ことを特徴とする請求項4に記載の固定子構造。
【請求項6】
前記退避層は、熱伝導層である、ことを特徴とする請求項5に記載の固定子構造。
【請求項7】
前記退避層は、中空構造とされ、且つ、前記退避層の内部に冷媒媒体が設けられている、ことを特徴とする請求項6に記載の固定子構造。
【請求項8】
前記退避層は、金属シェル及び冷媒媒体を含み、前記金属シェルは、熱伝導金属材質から構成された中空構造であり、前記冷媒媒体は、前記金属シェルの内部に位置する、ことを特徴とする請求項4に記載の固定子構造。
【請求項9】
冷却リングがさらに設けられており、前記冷却リングは、中空構造とされ、且つポートを備えており、前記固定子鉄心の軸方向に沿って、前記退避層の端部は、前記鉄心スロットから突き出して、前記冷却リングと連通されている、ことを特徴とする請求項7又は8に記載の固定子構造。
【請求項10】
前記冷却リングのリング状周方向断面積は、前記固定子鉄心の軸方向に沿った前記退避層の断面積以上である、ことを特徴とする請求項9に記載の固定子構造。
【請求項11】
前記固定子鉄心の径方向に沿って、前記退避層の寸法は、1~6mmである、ことを特徴とする請求項1に記載の固定子構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平角線モータの技術分野に属し、特に、固定子構造及び当該固定子構造を用いた平角線モータに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、平角線モータは、新エネルギー電気自動車分野で広く使用されており、平角線導体の横断面積を減らし、スロットあたりの平角線導体の層数を増加させる方法によって、モータの高速域における磁界の高周波変化による表皮効果に起因して発生する平角線の渦電流損失を低減し、モータ効率を向上させることができる。
【0003】
しかしながら、上記のモータの高速域における平角線の渦電流損失を低減する方法には、平角線導体の横断面積を減らすと、直流抵抗が増加し、平角線巻線の優位性が低下し、さらに低速低トルク域でのモータの効率及び自動車巡航動作状況でのモータの効率が低下してしまう、という問題点が存在する。
【0004】
また、平角線巻線の巻数が、固定子のスロット数、回転子の極数、スロットあたりの平角線導体の層数、及び、並列分岐路数の影響を同時に受けるため、モータの出力性能が確定されると、スロットあたりの平角線導体の層数に設計上の制限があり、調整が不便である。この場合、希望される巻数を達成するために、平角線導体の層数を増やしながら、異なるスロット数の固定子鉄心及び異なる極数の回転子鉄心を設計する必要があるかもしれず、新エネルギー自動車用モータのプラットフォーム化及び汎用化の設計に役立たない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記課題に対して、本発明には、上記問題を解消し、又は、上記問題を少なくとも部分的に解決するために、新しい形式の固定子構造及び平角線モータが開示されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明には、以下の技術案(構成)が用いられている。
【0007】
固定子構造であって、固定子鉄心、固定子巻線及び退避層を含み、前記固定子鉄心は、内筒空洞を有し、且つ前記固定子鉄心の端面には、周方向に沿って間隔をおいて配置された複数の鉄心スロットが設けられており、前記鉄心スロットと前記内筒空洞との間がスロット口を介して連通され、前記固定子巻線は、前記鉄心スロットに巻かれた複数層の平角線導体を有し、前記固定子鉄心の径方向に沿って、前記退避層は、前記スロット口と最初層の前記平角線導体との間に位置する。
【0008】
選択的に、前記退避層は、前記固定子鉄心と同じ材質を用いており、前記退避層は、前記鉄心スロットの内部に位置し、且つ前記スロット口と最初層の前記平角線導体との間の通路の両側に固定されている。
【0009】
選択的に、前記退避層は、前記固定子鉄心の一部として、前記鉄心スロット及び前記スロット口と最初層の前記平角線導体との間の通路を構成している。
【0010】
選択的に、前記退避層は、前記鉄心スロットにおいて前記スロット口と最初層の前記平角線導体との間に位置し、且つ前記退避層と前記鉄心スロット及び前記平角線導体とが絶縁接触とされる。
【0011】
選択的に、前記退避層は、非透磁層、非導電層である。
【0012】
選択的に、前記退避層は、熱伝導層である。
【0013】
選択的に、前記退避層は、中空構造とされ、且つ、前記退避層の内部に冷媒媒体が設けられている。
【0014】
選択的に、前記退避層は、金属シェル及び冷媒媒体を含み、前記金属シェルは、熱伝導金属材質から構成された中空構造であり、前記冷媒媒体は、前記金属シェルの内部に位置する。
【0015】
選択的に、当該固定子構造に冷却リングがさらに設けられており、前記冷却リングは、中空構造とされ、且つポートを備えており、前記固定子鉄心の軸方向に沿って、前記退避層の端部は、前記鉄心スロットから突き出して、前記冷却リングと連通されている。
【0016】
選択的に、前記冷却リングのリング状周方向断面積は、前記固定子鉄心の軸方向に沿った前記退避層の断面積以上である。
【0017】
選択的に、前記固定子鉄心の径方向に沿って、前記退避層の寸法は、1~6mmである。
【0018】
平角線モータであって、上記いずれか一項に記載の固定子構造を含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の利点及び有益な効果は、下記の通りになる。
【0020】
本発明の固定子構造において、スロット口と最初層の平角線導体との間に退避層を設けることにより、退避層によって最初層の平角線導体とスロット口との間の距離が増加される。このように、モータの運転中に、磁界の高周波変化に起因して発生する表皮効果を退避層に作用させることで、最初層の平角線導体で発生する表皮効果が低減され、スロット口の漏れ磁束による最初層の平角線導体への影響が弱められ、さらに最初層の平角線導体の渦電流損失が低減され、モータ全体の渦電流損失が低減され、モータ効率を向上させるという技術的効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
以下の好ましい実施形態の詳細な説明を読むことにより、様々な他の利点及びメリットが当業者にとって明らかになる。図面は、好ましい実施形態を例示するためのものだけであり、本発明を限定するものとして解釈されるべきではない。また、図面全体において、同じ部品には同じ参照符号が付されている。
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態1における固定子構造の外形構造模式図である。
図2図2は、本発明の実施形態1における固定子巻線の端部が取り除かれた後の固定子構造の端面構造模式図である。
図3図3は、本発明の実施形態1における固定子構造の部分拡大構造模式図である。
図4図4は、本発明の実施形態2における固定子構造の部分拡大構造模式図である。
図5図5は、本発明の実施形態3における固定子構造の外形構造模式図である。
図6図6は、本発明の実施形態3における固定子巻線の端部が取り除かれた後の固定子構造の端面構造模式図である。
図7図7は、本発明の実施形態3における固定子構造の部分拡大構造模式図である。
図8図8は、基本グループのモータ効率マップ図である。
図9図9は、比較グループ1と基本グループとの間の効率差グラフである。
図10図10は、比較グループ2と基本グループとの間の効率差グラフである。
図11図11は、比較グループ3と基本グループとの間の効率差グラフである。
図12図12は、本発明の実施形態3におけるダミー導体と冷却リングとが接続された外形構造模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の目的、技術案(課題解決手段)及び利点が更に明白になるように、以下、本発明の具体的な実施形態及び対応する図面と併せて、本発明の技術案を明確且つ完全に説明する。明らかなことに、記載された実施形態は、本発明の一部の実施形態に過ぎず、すべての実施形態ではない。本発明の実施形態に基づいて創造的な努力をすることなく当業者によって得られる他のすべての実施形態は、本発明の保護範囲内に含まれる。
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の各実施形態による技術案を詳しく説明する。
【0025】
実施形態1
本実施形態には、固定子構造が開示されており、当該固定子構造は、平角線モータの固定子構造として、スロット口付近の平角線導体の渦電流損失を低減し、モータ全体の効率を向上させることができる。
【0026】
図1から図3に示すように、本実施形態による固定子構造は、固定子鉄心11、固定子巻線12及び退避層13を含む。固定子鉄心11は、回転子が取り付けられる内筒空洞111を有する円柱体とされ、固定子鉄心11の軸方向端面には、周方向に沿って間隔をおいて配置された48個の鉄心スロット112が設けられており、且つ、鉄心スロット112が固定子鉄心11の軸方向に沿って固定子鉄心11全体を貫通し、各々の鉄心スロット112がそれぞれ、1つの対応するスロット口113を介して内筒空洞111と連通されている。固定子巻線12は、鉄心スロット112に巻かれた平角線導体121を有し、各々の鉄心スロット112の内部には、4層の平角線導体121が平行に挿設されており、且つ、平角線導体121と鉄心スロット112の内壁との間に絶縁紙が敷設されている。固定子鉄心11の径方向に沿って、退避層13は、各々のスロット口113と、対応する鉄心スロット112内の最初層の平角線導体121との間に固定されている。
【0027】
そのうち、本実施形態において、退避層13は、固定子鉄心11と同じ材質、例えばケイ素鋼材質で作製されており、且つ、退避層13は、独立した構造として鉄心スロット112の内部に位置するものであり、固定子巻線12の一部ではなく、平角線導体121との巻線接続も形成しない。退避層13は、2つの台形ブロックで構成され、且つ、2つの台形ブロックが、スロット口113と最初層の平角線導体121との間の径方向通路の両側の固定子鉄心11に固定されており、それに、退避層13によって、スロット口113と最初層の平角線導体121との間の径方向通路の一部が構成されており、退避層13における上底と傾斜脚との間の角度は、そのままスロット肩の傾斜角とされており、角度範囲が設計に応じて0°~90°とされる。
【0028】
このとき、スロット口と最初層の平角線導体との間に退避層が設けられ、且つ退避層には、固定子鉄心と同じ材質が用いられている場合、退避層を鉄心スロット内部においてスロット口と最初層の平角線導体との間の径方向通路の両側の位置に固定することにより、スロット口オーバーハング変位設計を形成し、即ち、従来の固定子構造と比較すると、本実施形態による固定子構造において、固定子鉄心の径方向に沿って、最初層の平角線導体とスロット口との間の距離を増加している。このように、モータの高速運転中に、磁界の高周波変化に起因して発生する表皮効果を退避層に作用させて、最初層の平角線導体で発生する表皮効果を低減することで、スロット口の漏れ磁束による最初層の平角線導体への影響が弱められ、最初層の平角線導体の渦電流損失が低減され、さらに、モータ全体の渦電流損失が低減され、モータ効率を向上させるという技術的効果が奏される。
【0029】
新エネルギー電気自動車に現在適用されている多数の平角線モータについて、即ち、外径寸法が500mm以内で、固定子鉄心の径方向に沿ったスロット口の寸法が0.5~1.5mmである固定子鉄心について、固定子鉄心の径方向に沿った退避層の寸法を1~6mmに設計することが好ましい。このように、最初層の平角線導体で発生する表皮効果が効果的に低減され、スロット口の漏れ磁束の影響が弱められる場合、固定子構造全体の寸法を制御できるため、当該固定子構造を用いた平角線モータの新エネルギー電気自動車への適用要件が満たされる。無論、他の動作状況環境に適用されるより大型の平角線モータについては、最初層の平角線導体とスロット口との間の距離が効果的に増加されてスロット口の漏れ磁束の影響が弱められるという目的を達成するために、固定子鉄心の径方向に沿った退避層の寸法、即ち、スロット口オーバーハング変位寸法を、具体的な状況に応じて調整可能である。
【0030】
実施形態2
図4に示すように、本実施形態には、固定子構造が開示されている。実施形態1と比べると、本実施形態による固定子構造において、退避層23がそのまま固定子鉄心21におけるスロット肩の一部とされる。従来の固定子鉄心と比べると、本実施形態では、固定子鉄心21の径方向に沿った退避層23の寸法を、固定子鉄心21の径方向に沿った固定子鉄心21における歯部の寸法に移すことにより、スロット口213と最初層の平角線導体221との間の距離が増加され、スロット口オーバーハング変位設計が形成される。
【0031】
このとき、固定子鉄心の作製中に、退避層の径方向寸法に応じて、固定子鉄心における歯部の径方向寸法を適合に増加させるように調整し、退避層をそのまま固定子鉄心の一部とすることにより、退避層の個別の作製、及びその後の退避層の再取付が省かされ、さらに、スロット口オーバーハング変位設計の作製プロセスの最適化が実現される。
【0032】
実施形態3
図5から図7に示すように、本実施形態には、同様に平角線モータに適用可能な固定子構造が開示されており、当該固定子構造は、固定子鉄心31、固定子巻線32及び退避層33を含む。実施形態1の固定子構造と比べると、本実施形態の固定子構造では、退避層33は、非透磁性、非導電性層であり、非透磁性、非導電性材質から作製されており、且つ鉄心スロット312におけるスロット口313と最初層の平角線導体321との間に位置するため、ダミー導体として鉄心スロット312の内部に位置する。同時に、退避層33と鉄心スロット312及び平角線導体321との間は、絶縁接触が形成される。
【0033】
このとき、本実施形態において、ダミー導体設計を用いて、退避層を非透磁性、非導電性のダミー導体として、鉄心スロットにおける最もスロット口に近い位置に固定することにより、従来の固定子構造における最初層の平角線導体の鉄心スロット内での位置が、ダミー導体によって置き換えられ、最初層の平角線導体が鉄心スロットの径方向に沿って外方へ変位され、最初層の平角線導体とスロット口との間の距離が増加される。このように、モータの高速運転中に、磁界の高周波変化に起因して発生する表皮効果がダミー導体に集中されるため、スロット口の漏れ磁束による最初層の平角線導体への影響が弱められ、最初層の平角線導体の渦電流損失が低減され、さらにモータ全体の渦電流損失を低減され、モータ効率を向上させるという技術的効果が奏される。
【0034】
具体的に、新エネルギー電気自動車に現在適用されている多数の平角線モータについて、即ち、外径寸法が500mm以内で、固定子鉄心の径方向に沿ったスロット口の寸法が0.5~1.5mmである固定子鉄心について、本実施形態では、固定子鉄心の径方向に沿ったスロット口の寸法を変化させないままで、固定子鉄心の径方向に沿った寸法が1~6mmに好ましく設計されるダミー導体を、鉄心スロットにおけるスロット口に近い位置に挿設してから、平角線導体を順次に鉄心スロット内に挿設することにより、最初層の平角線導体とスロット口との間の距離を増加させるという効果が達成される。
【0035】
そのうち、本実施形態では、退避層について、非透磁性、非導電性の高分子樹脂類材質を用いてダミー導体を作製する。このように、コストが低い、加工が容易であり、質量が軽いという樹脂類材質の利点によって、固定子構造全体の重量及びコストを低減でき、さらに、モータの軽量化及び低コストを実現できる。
【0036】
また、本発明において、退避層は、固定子巻線の一部ではなく、平角線導体との巻線接続も形成しないため、退避層が実施形態1及び実施形態3に記載の構造形式を用いた場合、モータの正常な運転が保証されるように、接着又はスロット口のポッティング等の方式で位置を固定してもよい。
【0037】
次に、従来の固定子構造、スロット口オーバーハング変位固定子構造、及び、ダミー導体固定子構造との3つの異なる形式の固定子構造に対して対照分析を行う。そのうち、従来の固定子構造におけるスロット口の高さを1mmとするとともに、固定子構造における歯幅、ヨーク高さ及び平角線導体の層数を変化させないままで、スロット口オーバーハング変位固定子構造におけるスロット口の高さを4mm、ダミー導体固定子構造におけるダミー導体寸法を3mmに設計することにより、スロット口オーバーハング変位固定子構造及びダミー導体固定子構造における最初層の平角線導体とスロット口との間の距離をともに3mm増加させるとともに、スロット口オーバーハング変位固定子構造及びダミー導体固定子構造では、同じ寸法の平角線導体が用いられる。
【0038】
6000rpmの回転速度の下で、いずれも8層の平角線導体を用いた3つの異なる形式の固定子構造に対してシミュレーション分析を行った結果、表1に示すように、3つの異なる形式の固定子構造において各層の平角線導体の交流損失の占める割合データが得られる。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示すように、従来の固定子構造における最初層の平角線導体の交流損失の占める割合が43.7%であったのに対して、スロット口オーバーハング変位固定子構造における最初層の平角線導体の交流損失の占める割合及びダミー導体固定子構造における最初層の平角線導体の交流損失の占める割合は、それぞれ、29.3%及び22.8%に低減されるため、最初層の平角線導体の渦電流損失の占める割合が大きく低減される。それに、従来の固定子構造における最初層の平角線導体と最終層の平角線導体との間の交流損失の占める割合の差が10.6倍であったのに対して、スロット口オーバーハング変位固定子構造における最初層の平角線導体と最終層の平角線導体との間の交流損失の占める割合の差が4.1倍に低減され、ダミー導体固定子構造における最初層の平角線導体と最終層の平角線導体との間の交流損失の占める割合の差がさらに3倍に低減される。
【0041】
そのため、従来の固定子構造と比べると、スロット口オーバーハング変位固定子構造及びダミー導体固定子構造では、最初層の平角線導体の交流損失の占める割合が低減されるだけでなく、各層の平角線導体の交流損失の占める割合の分布が均一にされる傾向にあり、渦電流スロット口の凝集効果が大幅に弱められる。このように、単層の平角線導体への熱集中を回避できるため、固定子構造全体の作動寿命が延ばされ、モータの作動安定性が向上される。
【0042】
さらに、3つの異なる形式の固定子構造を用いたモータに対してモータ効率の対照分析を行う。巻数が24であるとともに8層の平角線導体を用いた従来の固定子構造のモータは、基本グループとされ、固定子構造において鉄心スロットの寸法及び巻数を変化させないままで、6層の平角線導体を用いた従来の固定子構造のモータは、比較グループ1とされ、6層の平角線導体を用いたスロット口オーバーハング変位固定子構造のモータは、比較グループ2とされ、6層の平角線導体を用いたダミー導体固定子構造のモータは、比較グループ3とされる。そのうち、4つのグループにおける平角線導体の寸法と銅重量との関係を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
シミュレーション解析により、図8に示す基本グループのモータ効率マップ図、図9に示す比較グループ1と基本グループとの間の効率差グラフ、図10に示す比較グループ2と基本グループとの間の効率差グラフ、図11に示す比較グループ3と基本グループとの間の効率差グラフがそれぞれ得られる。
【0045】
図8及び図9に示すように、8層の平角線導体を用いた従来の固定子構造のモータと比べると、固定子構造を変化させないままで、単一の平角線導体の寸法を大きくすることで各々の鉄心スロット内の平角線導体の層数を6層に減少させた場合、単一の平角線導体の断面積が大きくなり、直流損失が減少するため、0~900rpmの低速域では、モータ効率は最大で0.2%増加している一方で、交流損失は回転速度の増加に伴って急速に増大し、回転速度が8000rpmに上昇した時、モータ効率は、1.5%低下している。従って、従来の固定子構造を用いた場合、各々の鉄心スロット内の平角線導体の層数を増加させることで、中高速動作状況でのモータの効率を向上させることができる。
【0046】
図8及び図10に示すように、8層の平角線導体を用いた従来の固定子構造のモータと比べると、スロット口オーバーハング変位固定子構造を用いた場合、単一の平角線導体の寸法を大きくすることで各々の鉄心スロット内の平角線導体の層数を6層に減少させた場合、回転速度の増加に伴って、スロット口オーバーハング変位固定子構造を用いたモータの効率は徐々に上昇し、回転速度が8000rpmに上昇した時、モータ効率は、約0.5%向上している。さらに、表2を参照して、スロット口オーバーハング変位固定子構造を用いるとともに平角線導体の層数を6層に減少させた場合の銅重量は、従来の固定子構造を用いた場合の8層の平角線導体に使用される銅重量よりも低い。従って、従来の固定子構造と比べると、スロット口オーバーハング変位固定子構造を用いることで、銅重量を減らし、銅損を削減できるだけでなく、モータの高速効率を向上させることもできる。
【0047】
図8及び図11に示すように、8層の平角線導体を用いた従来の固定子構造のモータと比べると、ダミー導体固定子構造を用いた場合、鉄心スロット内にダミー導体を設けるとともに、単一の平角線導体の寸法を大きくすることで各鉄心スロット内の平角線導体の層数を6層に減少させた場合、モータの1000~4000rpmという一般的な動作状況でのモータ効率が基本的に変化しないことを保証できるだけでなく、モータ効率の変動を0.1%以内に安定させることもでき、それに、表2を参照して、銅重量が減らされ、銅損も削減される。
【0048】
以上をまとめて、固定子構造においてスロット口と最初層の平角線導体との間に退避層を設けることにより、銅損を効果的に削減できるだけでなく、モータ効率を安定化させひいて向上させた上で、層数の多い平角線導体を層数の少ない平角線導体で置き換えることを実現できるため、巻数選択の柔軟性及び鉄心打抜板の汎用性が向上され、即ち、巻線の巻数が同じである場合、平角線導体の層数を減らすことにより、モータ効率が確保されながら銅の使用量及びプロセスにおける巻線難易度が低減される一方で、巻線の巻数選択が限られている場合、層数を柔軟に減らすことが可能であるため、新たな巻線巻数が実現され、鉄心打抜板及び金型の再開発が不要となり、さらに、設計製造のコストが削減される。
【0049】
図5図7及び図12に示すように、実施形態3の固定子構造では、ダミー導体を用いた退避層33は、非透磁性、非導電性であるとともに熱伝導性を有する材質から作製された中空構造であり、且つ退避層33の内部には、冷媒媒体、例えばトランスミッションオイルが設けられていることで、退避層33によって熱伝導層が形成されるため、ダミー導体内での冷媒媒体の流動を利用して熱の交換及び伝達が行われ、さらに、固定子構造に対する冷却降温処理が達成される。
【0050】
このように、ダミー導体を用いた退避層により、銅損を低減して巻数選択の柔軟性及び鉄心打抜板の汎用性を向上させる場合、固定子構造に対して冷却降温処理を行ってもよく、これにより、当該固定子構造を用いた平角線モータの新エネルギー電気自動車における使用効果がさらに向上される。
【0051】
さらに、実施形態3の固定子構造では、2つの冷却リング34がさらに設けられている。そのうち、冷却リング34は、中空構造とされ、且つ、1つのポート341を備えており、固定子鉄心31の軸方向に沿って、2つの冷却リング34は、固定子鉄心31の両端にそれぞれ位置し、退避層33としてのすべてのダミー導体の端面と連通されることにより、すべてのダミー導体が一体に構成されるとともに、2つの冷却リング34におけるポート341がそれぞれ冷媒媒体の入口及び出口とされ、冷媒媒体の循環流動が実現され、固定子構造に対する冷却効果が向上される。
【0052】
さらに、冷却リングのリング状周方向断面積を、固定子鉄心の軸方向に沿ったダミー導体の断面積以上になるように設計する。このように、冷却媒体をダミー導体から適時にすばやく流出させて冷却リングに進入させ、固定子構造に対する冷却効果を保証することができる。
【0053】
なお、他の実施形態では、冷却リングの寸法及び冷却処理への異なる要求に応じて、冷却リングにおけるポートの開設数及び位置を調整してもよい。これにより、冷却媒体に対して異なる循環流動効果が形成され、異なる冷却要求が満たされる。
【0054】
勿論、他の実施形態では、異なる設計及び使用環境に応じて、冷却水を冷媒媒体として用いて固定子構造を冷却降温してもよい。なお、本実施形態では、ダミー導体は、非透磁性、非導電性であるとともに熱伝導性を有する材質から作製された中空構造と冷媒媒体との連携により、固定子構造に対する冷却を実現したが、他の実施形態において、高熱伝導材を用いてダミー導体を作製する場合、ダミー導体をそのまま中実構造として設計してもよく、このように、冷媒媒体の使用が省かれ、材質自体の高い熱伝導性能によって固定子構造内部の熱がすばやく引き出され、固定子構造に対する冷却放熱効果が達成される。
【0055】
実施形態4
本実施形態には、同様に平角線モータに適用可能な固定子構造が開示されている。当該固定子構造は、実施形態3における固定子構造に類似して、ダミー導体設計が用いられているが、その相違点として、本実施形態におけるダミー導体は、管状の金属シェルと冷媒媒体とで構成されており、金属シェルは、アルミニウム材料で作成された中空構造設計であり、冷却媒体は、冷却油とされるとともに金属シェルの内部にある。それに、当該ダミー導体は、絶縁紙を介して鉄心スロット及び平角線導体との絶縁接触が形成される。
【0056】
このとき、スロット口と最初層の平角線導体との間で、絶縁接触の形で、金属シェルと冷媒媒体とで構成されたダミー導体を取り付けることにより、最初層の平角線導体とスロット口との間の距離を増加させ、磁界の高周波変化に起因して発生する表皮効果を、鉄心スロット及び平角線導体と絶縁接触する退避層に作用させ、最初層の平角線導体の渦電流損失を低減するだけでなく、高い熱伝導性能を有する金属シェル及びその内部に位置する冷媒媒体により、固定子構造に対する冷却効果を大幅に向上させ、モータ全体の作動効率を向上させることもできる。
【0057】
さらに、本実施形態による固定子構造では、同様に冷却リングを設けてもよく、このように、冷却リングによってすべてのダミー導体が連通され、冷媒媒体の循環流動が実現され、固定子構造に対する冷却効果が向上される。金属シェルは、同様に高い熱伝導性能を有するステンレス鋼材質で作製されてもよく、冷媒媒体としては、水とエチレングリコールとの混合物が選択されてもよい。
【0058】
また、他の実施形態において、退避層は他の形式のダミー導体を用いてもよく、例えば、ダミー導体としては、非透磁性、非導電性の流体が選択されてもよい。このとき、鉄心スロット内における最初層の平角線導体の取付位置を調整することにより、スロット口と最初層の平角線導体との間に空洞領域を残して、非透磁性、非導電性の流体、例えば乾燥空気又は冷却油で充填させる。そのうち、冷却油を使用する場合、スロット口のポッティング及び鉄心スロット端面のブロッキングの方式によって退避層を形成するとともに、非透磁性、非導電性の流体を進出させるための対応する開口を鉄心スロットの端面に設けてもよい。このように、鉄心スロット内に非透磁性、非導電性の退避層を形成し、最初層の平角線導体とスロット口との間の距離を増加させることができるため、最初層の平角線導体の渦電流損失が低減され、モータ効率が向上される。
【0059】
上述したのは、あくまでも本発明の具体的な実施形態であり、本発明の上記教示の下で、当業者は、上記実施形態に基づいて他の改良又は変形を行うことができる。当業者であれば、上記具体的な記載は本発明の目的をより良く解釈するためのものであり、本発明の保護範囲が特許請求の範囲の保護範囲に基づくものであることが理解されるべきである。
【符号の説明】
【0060】
11 固定子鉄心、12 固定子巻線、13 退避層、111 内筒空洞、112 鉄心スロット、113 スロット口、121 平角線導体、21 固定子鉄心、23 退避層、213 スロット口、221 平角線導体、31 固定子鉄心、32 固定子巻線、33 退避層、34 冷却リング、312 鉄心スロット、313 スロット口、321 平角線導体、341 ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12