(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】施工位置誘導システム
(51)【国際特許分類】
E02D 13/04 20060101AFI20240122BHJP
E02D 7/14 20060101ALI20240122BHJP
E02D 13/00 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
E02D13/04
E02D7/14
E02D13/00 Z
(21)【出願番号】P 2022172661
(22)【出願日】2022-10-27
(62)【分割の表示】P 2019071479の分割
【原出願日】2019-04-03
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 英樹
(72)【発明者】
【氏名】米山 忠臣
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-160549(JP,A)
【文献】特開2003-065759(JP,A)
【文献】特開2016-029912(JP,A)
【文献】国際公開第2016/060281(WO,A1)
【文献】特開平03-073004(JP,A)
【文献】特開2000-229786(JP,A)
【文献】特開平06-057746(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0281335(US,A1)
【文献】特開2002-070010(JP,A)
【文献】特開2018-174891(JP,A)
【文献】特開昭51-136306(JP,A)
【文献】特開2008-121219(JP,A)
【文献】特開2019-167745(JP,A)
【文献】特開2011-006880(JP,A)
【文献】実開昭62-055641(JP,U)
【文献】特開2001-310748(JP,A)
【文献】特開2016-183534(JP,A)
【文献】特開2018-101410(JP,A)
【文献】実開平06-001439(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 13/04
E02D 7/14
E02D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星測位システムに係る電波を受信する複数のアンテナ及び受信部と、
前記衛星測位システムに対応した全体座標系と、
杭打機の走行に伴って変化する前記アンテナの位置情報に基づいて、前記杭打機を施工予定位置に誘導する際の現在の車体位置を求める制御部と、
前記杭打機の車体水平状態に対する前後左右方向の車体傾斜の変化角度を検出する車体傾斜センサと、を備えた施工位置誘導システムであって、
前記杭打機は、車体に傾動可能に設けられたリーダを備え、
前記制御部は、前記全体座標系上での前記杭打機の位置及び向きを求めるとともに、前記車体傾斜の変化角度に基づいて杭芯位置を特定し、該杭芯位置を前記施工予定位置に一致させるために必要な誘導量を求め、
前記杭芯位置の特定は、掘削開始時に
前記杭打機の操作者によってリーダを傾動して鉛直状態に保持する際に生じる杭芯の位置ずれ量に基づいて補正されることを特徴とする施工位置誘導システム。
【請求項2】
前記杭打機のリーダ鉛直状態に対する前後左右方向のリーダ傾斜の変化角度を検出するリーダ傾斜センサを、更に備え、
前記制御部は、杭芯位置の特定に前記リーダ傾斜の変化角度も用いることを特徴とする請求項1記載の施工位置誘導システム。
【請求項3】
前記杭打機は、地盤改良に適用されることを特徴とする請求項1又は2記載の施工位置誘導システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記杭打機に備えられた施工管理装置に組み込まれていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の施工位置誘導システム。
【請求項5】
制御プログラムの実行結果を表示する表示部と、
前記車体傾斜センサを監視するデバイス監視部とを備え、
前記デバイス監視部は、前記車体傾斜センサの出力結果が異常であると判断した場合に、前記表示部に異常状態である旨を表示させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の施工位置誘導システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、施工位置誘導システムに関し、詳しくは、杭打機の杭芯位置合わせを容易に行うことが可能な施工位置誘導システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼管杭の埋設や地盤改良などが行われる施工現場では、あらかじめ測量によって施工位置となる杭芯(杭の中心軸)位置を決定しておき、施工時に、杭打機などの建設機械がオペレータの運転操作によって杭芯位置へ移動される。この杭芯位置合わせは、一般に、左右のクローラで構成した下部走行体を駆動させて杭打機の位置及び方向を調整することによって行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、杭打機を杭芯位置へ移動させるには、オペレータは、基本的に、誘導員の指示に従って運転操作を行えばよいが、3点式杭打機のような大型のものは、その特有の形状から、特に周囲に死角ができ易く、誘導員がいる場合であっても、より広い視界を確保することが必要であった。また、杭打機の周囲に建築資材などの障害物があるような現場では、運転操作に一層集中する必要があることから、オペレータの経験やスキルも要求されていた。
【0005】
そこで本発明は、施工現場の多様な環境において、杭打機の杭芯位置合わせを容易に行うことが可能な施工位置誘導システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の施工位置誘導システムは、衛星測位システムに係る電波を受信する複数のアンテナ及び受信部と、前記衛星測位システムに対応した全体座標系と、杭打機の走行に伴って変化する前記アンテナの位置情報に基づいて、前記杭打機を施工予定位置に誘導する際の現在の車体位置を求める制御部と、前記杭打機の車体水平状態に対する前後左右方向の車体傾斜の変化角度を検出する車体傾斜センサと、を備えた施工位置誘導システムであって、前記杭打機は、車体に傾動可能に設けられたリーダを備え、前記制御部は、前記全体座標系上での前記杭打機の位置及び向きを求めるとともに、前記車体傾斜の変化角度に基づいて杭芯位置を特定し、該杭芯位置を前記施工予定位置に一致させるために必要な誘導量を求め、前記杭芯位置の特定は、掘削開始時に前記杭打機の操作者によってリーダを傾動して鉛直状態に保持する際に生じる杭芯の位置ずれ量に基づいて補正されることを特徴としている。
【0007】
また、前記杭打機のリーダ鉛直状態に対する前後左右方向のリーダ傾斜の変化角度を検出するリーダ傾斜センサを、更に備え、前記制御部は、杭芯位置の特定に前記リーダ傾斜の変化角度も用いることを特徴としている。さらに、前記杭打機は、地盤改良に適用されることを特徴としている。加えて、前記制御部は、前記杭打機に備えられた施工管理装置に組み込まれていることを特徴としている。また、制御プログラムの実行結果を表示する表示部と、前記車体傾斜センサを監視するデバイス監視部とを備え、前記デバイス監視部は、前記車体傾斜センサの出力結果が異常であると判断した場合に、前記表示部に異常状態である旨を表示させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の施工位置誘導システムによれば、制御部が、全体座標系上での杭打機の位置及び向きを求めるとともに、車体傾斜及びリーダ傾斜の各変化角度に基づいて杭芯位置を特定し、該杭芯位置を施工予定位置に一致させるために必要な誘導量を求めるので、杭打機の誘導や杭芯位置合わせを容易に行うことができる。また、施工現場の地形や杭打機の可動部の動きによって生じる車体位置情報の誤差を排除することが可能となり、杭の埋設予定位置への誘導を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の施工位置誘導システムを杭打機に適用した一形態例を示す杭打機の側面図である。
【
図4】同じく杭埋設位置誘導モードの実行による杭打機の動作を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1乃至
図4は、本発明を大型の杭打機に適用した一形態例を示すもので、杭打機11は、
図1に示すように、走行装置として左右一対のクローラ12を備えた下部走行体13と、該下部走行体13の上部に旋回可能に設けられた上部旋回体14とからなるベースマシン15と、該上部旋回体14の前部に複数のリーダ部材16aを互いに着脱可能に連結して起伏可能に設けられたリーダ16と、該リーダ16を上部旋回体14の後部から支持
するとともに、下端部に設けられたバックステーシリンダ17aの伸縮動作によってリーダ16を傾動させる左右一対のバックステー17と、上部旋回体14の前後左右にそれぞれ設けられたジャッキ装置18とを備えている。さらに、上部旋回体14には、運転室14aや機器室14b、ガントリ14c、カウンタウエイト14dや複数のウインチ(図示せず)などが設置されており、リーダ16の前面には、オーガスクリュー19を回転駆動するオーガ20がリーダ16に沿って昇降可能に設けられている。
【0011】
クローラ12は、
図2に示すように、クローラガイド部材として、下部走行体13のボディ両側にそれぞれ配置される走行フレーム21の前後両端部にそれぞれ設けられた駆動輪22及び従動輪23と、該駆動輪22と従動輪23との間の前記走行フレーム21の上部及び下部にそれぞれ設けられた複数の上部転輪24、上部ガイド25及び下部転輪26とを備えており、複数のクローラシュー27を連結して駆動輪22、従動輪23、上部転輪24、上部ガイド25及び下部転輪26とに無端状に掛け回されている。
【0012】
運転室14a内には、走行や旋回、ウインチ、オーガ20などの操作を行うための複数の操作レバーや操作ペダル、押しボタンスイッチやディスプレイなどの機器が、操作性を考慮して運転席の近傍に集約的に配置されており、さらに、これらの機器と電気的に接続されて、データ処理や判定などの各種演算処理を行うコントローラ(CPU)を中心に構成された制御装置が設けられている。また、機器室14b内には、制御装置によって制御されるエンジンや油圧回路が設けられている。
【0013】
制御装置41は、
図3に示すように、各種制御プログラムを記憶したFLASH ROMや処理中のデータを一時的に記憶するRAMなどで構成される記憶部42と、オペレータが、施工に関する制御プログラムの処理結果を確認したり、データ入力などを行うタッチパネル式のディスプレイ43と、メモリカードなどによるデータの取り込みや保存が可能なインターフェース(図示せず)とを備えている。
【0014】
また、制御装置41は、制御方式(モード)の一つとして、走行操作装置である操作レバー44の傾動操作によって下部走行体13の走行をオペレータが手動で制御する通常走行モードと、後述する施工計画情報と車体位置情報とに基づいて設定された移動経路を倣いながら、施工位置に、すなわち、杭の埋設予定位置に向かうように下部走行体13の走行を自動で制御する杭埋設位置誘導モードとを選択的に実行可能になっている。制御装置41による下部走行体13の自動制御は、運転室14a内に設けられた切替スイッチ45を操作することによって行われる。具体的には、走行操作装置である操作ペダル46を踏み込んでモードを切り替え可能な状態とし、切替スイッチ45を操作して自動運転を選択する。これにより、モード切替部47では通常走行モードから杭埋設位置誘導モードに切り替える処理が行われる。そして、操作ペダル46から足を離して安全装置を解除すると、杭埋設位置誘導モードが実行され、走行制御部48によって生成された制御信号を受けて、エンジンコントローラ49や、可変容量型油圧ポンプ50、制御バルブ51による油圧の制御が行われる。こうして、左右の走行用油圧モータ52,53及び減速機(図示せず)を介して駆動力が左右の駆動輪22に伝達されることにより、クローラ12が駆動される。
【0015】
こうして、杭打機11は、設定された移動経路を倣いながら、杭の埋設予定位置に向かうようにして、下部走行体13の走行が制御される。具体的には、走行制御部48によって左右のクローラ12の回転方向及び回転速度を調節することで、前進又は後進の直進走行(左右のクローラを同一速度で駆動させる走行)、スラローム旋回走行(左右のクローラを同一方向に異なる速度で駆動させて走行方向を変える走行)、ピボット旋回走行(片側のクローラを停止させた状態で反対側のクローラを駆動させて旋回させる走行)及びスピン旋回走行(左右のクローラを逆方向に駆動して旋回させる走行)を行わせるように制
御される。
【0016】
ここで、前記モード切替部47は、埋設位置誘導モードを実行しているときに、操作レバー44の傾動操作や、操作ペダル46の踏み込み操作による操作信号を受けることで、杭埋設位置誘導モードから通常走行モードへの切り替えを行う。これにより、必要時に、オペレータの主観的な意志決定に基づいて杭打機11の移動経路を選択することが可能になっている。
【0017】
さらに、制御装置41には、杭打機11の動作状態を検出する各種センサから信号が入力される。センサには、例えば、上部旋回体14に設けられた車体傾斜センサ54や旋回角度センサ55、障害物センサ56、カメラ57、さらにはリーダ16に設けられたリーダ傾斜センサ58、下部走行体13に設けられた荷重センサ59などが挙げられる。各種センサは、デバイス監視部60によってセンサ本体の故障や配線不良などの状態が監視されており、例えば、配線接続がなされていない場合には、デバイス監視部60から未接続状態である信号が出力される。この出力結果に基づいて、ディスプレイ43にはセンサの接続状態が不良(エラー)であるメッセージが表示されるとともに、各種制御プログラムの実行が規制され、配線作業に起因するトラブルの防止が図られている。
【0018】
また、制御装置41は、前記通常走行モード及び杭埋設位置誘導モードの機能的価値を高める制御方式の一つとして、リーダ傾斜センサ58の検出結果に基づいて、リーダ16を鉛直状態に保持するようにバックステーシリンダ17aの伸縮動作を自動で制御するリーダ鉛直度保持モードを実行可能になっている。リーダ鉛直度保持モードは、通常走行モードが選択されているときには、切替スイッチ45の操作でオペレータの任意の選択により指定して実行され、前記杭埋設位置誘導モードが選択されているときにはオペレータの選択の有無にかかわらず実行されるようになっており、傾斜制御部61によって生成された制御信号を受けて、制御バルブ62による油圧の制御が行われる。こうして、バックステーシリンダ17aの伸縮動作を受けてバックステー17による押し引きがなされることにより、リーダ16の前後左右の振れが修正されて鉛直度が保持される。
【0019】
さらに、前記杭埋設位置誘導モードは、施工計画情報に含まれる杭打機11の形状情報から、ベースマシン15を囲う平面状の輪郭を抽出して設定された車体外形情報に基づいて実行されるようになっている。ベースマシン15の外形は、下部走行体13に対する上部旋回体14の旋回角度の変化に伴って変化することから、旋回角度センサ55の検出結果に基づいて、連続的に形状情報を更新させながら、つまりベースマシン15の外形を新たな外形として再設定する外形補正処理を行いながら実行される。これにより、上部旋回体14の向き(旋回位置)を考慮しつつ、安定した自動運転が行われるように下部走行体13の走行が制御される。
【0020】
ところで、大型の杭打機は、一般的なクローラクレーンやトラッククレーンなどに比べて重心位置が高くなるため、僅かな傾斜でも車体が不安定になり易い。そのため、制御装置41には、車体形状や重量分布に関する情報及びリーダ16の長さやオーガ20の昇降位置に関する情報と、車体傾斜センサ54やリーダ傾斜センサ58からの信号を受けて演算を行うことにより、車体に作用する転倒モーメントが安定に要する安定モーメントを超えて転倒することを防止するための安定度計算プログラムを実装している。特に、リーダ16の高さが30mを超えるような大型の杭打機は、重心が高いだけでなく、重量もあることから、地盤の異常などで移動中に傾斜が生じると、その状態で停止させても傾斜の進行が止まらず、より不安定な状態におかれる。そこで、杭打機11は、クローラ12の走行フレーム21に設けられた複数の下部転輪26を支持する支持部材(図示せず)のうち、左右の各走行フレーム21の前端部及び後端部に配置された少なくとも4箇所の支持部材にクローラシュー27から作用する荷重を検出するためのピン型の荷重センサ(ロード
セル)59が設けられ、制御装置41には、荷重センサ59で検出した荷重があらかじめ設定された基準値を下回ったときに、荷重低下警報を発生させる警報発生部63を備えている。
【0021】
各荷重センサ59で検出した各下部転輪26に作用している荷重は、制御装置41に取り込まれ、あらかじめ設定されている基準値と比較される。基準値には、リーダ16の長さやオーガスクリュー19の長さ、カウンタウエイト14dの質量などから求められた機械総質量から算出した基準値や、平坦面に杭打機を設置したときの各荷重センサ59の荷重データに基づいて算出した基準値が用いられている。これにより、走行中に車体が不安定な状態におかれたとしても、警報発生部63によって、いち早く警報作動がなされ、あるいは、各種制御プログラムの実行が規制され、杭打機11が使用される現場の環境などに起因するトラブルの防止が図られている。
【0022】
また、前記安定度計算プログラムは、リーダ鉛直度保持モードの機能とは独立して機能するようになっている。リーダ鉛直度保持モードを実行しているときに、車体傾斜センサ54及びリーダ傾斜センサ58のそれぞれの検出結果に基づいて、車体に作用する転倒モーメントと安定に要する安定モーメントとを比較して求めた安定度の結果から、車体が不安定な状態であると判断すると、非常停止部64からリーダ鉛直度保持モードの実行を停止させる信号が出力される。こうして、非常停止部64によって生成された制御信号を受けて制御バルブ62あるいは安全弁などによる油圧の制御が行われ、バックステーシリンダ17aの伸縮動作が規制される。ここで、車体が不安定な状態とは、センサ類の断線や故障などといった、電気的な要因でリーダ鉛直度保持モードの実行が正常に行えない状態や、制御バルブ62の切り替え不良に起因して作動遅れ(追従性の低下)が生じたりするなどの機械的な要因で不具合が生じることにより、安定度が低下するおそれのある状態を意味するものである。これにより、杭打機11の動作に不測の事態が生じたとしても、迅速かつ確実に停止させ、安全が確保されるようになっている。
【0023】
さらに、制御装置41は、通信部65との接続によって制御プログラムや、前記施工計画情報である施工計画データなどのダウンロードが可能に構成されている。施工計画データは、施工現場の位置や土質などを調べて作成された施工計画書に基づいて、あらかじめ、事務所内のコンピュータに入力されるもので、杭番号の他、該杭番号に紐付けられた深度やフィード速度、回転数、セメントミルク流量などの各種の施工目標値が含まれる。施工計画データの入力作業は、施工図面と対比して杭位置データを入力することによって行われ、具体的には、杭の埋設予定位置を、座標上の原点からの相対的位置(距離)として二次元座標で指定することになる。また、各杭番号には、杭の埋設順序を考慮して、埋設位置に杭打機11が近づく際の進入角度が関連付けられている。そして、作成された施工計画データは、施工現場の住所の位置情報や施工する杭打機11の号機情報、車体外形情報などが付加されて、ネットワーク66上のデータサーバ67にアップロードされる。また、施工計画データに基づいて実施される工法、例えば、既製杭工法、場所打ち杭工法又は地盤改良工法のための施工管理プログラムや、該施工管理プログラムの設定パラメータのデータも作成され、同様にして、データサーバ67へアップロードされる。
【0024】
前記車体位置情報は、周知のGNSS(Global Navigation Satellite System)技術を用いて取得され、例えば、杭打機11の上部旋回体14の前後端部に互いに離して設けられた第1受信部68及び第2受信部69を備え、GNSS衛星からの電波を受信しながら、杭打機11の走行や旋回などに伴って変化するアンテナの位置情報を取得する。制御装置41では、2本のアンテナの位置関係から、演算によって上部旋回体14の位置及び向きを求め、さらには車体傾斜センサ54及びリーダ傾斜センサ58のそれぞれで取得した傾斜情報(姿勢)を加味して、地面におけるオーガスクリュー19の中心軸の位置、すなわち、杭芯位置Cの特定を行う(
図2)。そして、設定された移動経路を倣いながら、杭の埋設予定位置に向かうとともに、杭芯位置合わせを行うように、つまり杭芯位置Cを杭の埋設予定位置に一致させるように下部走行体13の走行が制御される。
【0025】
ここで、杭埋設位置誘導モードによる杭打機11の自動運転について、
図4を参照しながら説明する。まず、大型の杭打機では、輸送時に重量制限があるため、構成部品であるリーダ16やオーガ20、カウンタウエイト14dなどを上部旋回体14から分離して別々に輸送し、現場でこれらを組み立てて使用している。施工現場71に杭打機11が搬入されると、例えば、リーダ16は、複数のリーダ部材16a同士が連結されて、上部旋回体14の前部に起伏可能に装着される。ここで、リーダ傾斜センサ58がリーダ16の下部に取り付けられるとともに、リーダ傾斜センサ58及び制御装置41間の配線接続がなされる。
【0026】
杭打機11の組み立てが完了し、エンジンをかけて、制御装置41の電源が投入されると、基本プログラムの起動実行後に、デバイス監視部60によって各種センサの状態が監視される。このとき、例えば、リーダ傾斜センサ58の配線接続がなされていない場合には、デバイス監視部60からリーダ傾斜センサ58の未接続状態である信号が出力される。この出力結果に基づいて、ディスプレイ43にはリーダ傾斜センサ58の接続状態が不良(エラー)であるメッセージが表示される。ここで、制御装置41の起動直後は、通常走行モードに設定されているが、配線接続に不良が生じている状態では、デバイス監視部60から規制信号が出力されることにより、杭埋設位置誘導モードへの切り替えが規制される。
【0027】
各種センサの監視が正常に行われると、第1受信部68及び第2受信部69で杭打機11の現在の車体位置情報が取得されるとともに、演算によって杭芯位置Cの特定がなされる。また、杭打機11が存在する施工現場に対応して、施工計画データのダウンロードが自動的に行われて、各杭番号の位置情報や車体外形情報などの各種情報が取得される。ここで、操作ペダル46を踏み込んでモードを切り替え可能な状態とし、切替スイッチ45を操作して自動運転を選択すると、通常走行モードから杭埋設位置誘導モードに切り替えられ、上部旋回体14の旋回角度に基づいて、ベースマシン15の外形を新たな外形として再設定する外形補正処理が実行される。そして、操作ペダル46から足を離して安全装置を解除することにより、杭埋設位置誘導モードが実行される。
【0028】
自動運転が開始されると、
図4の矢印X1で示すように、最初の杭番号の杭位置データと車体位置データとに基づいて、杭の埋設予定位置72に向かう最短移動経路が設定され、この最短移動経路を倣うようにして左右のクローラ12が駆動される。すなわち、制御装置41は、杭打機11の移動に伴って変化する車体位置情報を更新させながら、設定された最短移動経路で、杭の埋設予定位置72に向かうように下部走行体13の走行を制御する。
【0029】
ところで、施工現場71は、一般に、盛土75によって地形や土質が変化していたり、地盤改良材を製造するプラントや各種資材などの置き場76が設けられていたり、さらには、作業員77や他の建設機械といった移動する障害物も数多く存在する。そこで、障害物センサ56によって車体周囲に存在する障害物の位置を、例えば、作業員77の位置を検出し、その検出結果に基づいて、杭埋設位置誘導モードは、
図4の矢印X2で示すように、最短移動経路を作業員77を回避するための新たな迂回移動経路として再設定する経路補正処理がなされて実行される。これにより、杭打機11は、緩やかなスラローム旋回走行によって走行速度を一定に保ちながら杭の埋設予定位置72に向かう。
【0030】
また、杭埋設位置誘導モードの実行中は、基本的には、オペレータによる操作を必要としないが、ディスプレイ43に表示されたカメラ57の画像情報(車体周囲の状況)に基
づいて、必要時に、手動操作による走行が可能になっている。この場合、操作レバー44の傾動操作や、操作ペダル46の踏み込み操作が行われることで、杭埋設位置誘導モードから通常走行モードに切り替えられる。これにより、オペレータの任意の操作がなされることで、通常の走行が行えるようになる。
【0031】
自動運転によって、杭打機11が杭の埋設予定位置72の近傍領域に、例えば、杭の埋設予定位置72を中心として、あらかじめ設定された円形領域に近づくと、徐々に走行速度を低下させ、円形領域の境界線Sに到達することで、一旦停止が行われる。そして、上部旋回体14の旋回動作を行って下部走行体の向きに対応させた後、スピン旋回走行によって車体の前後方向を境界線Sの円弧に一致させるように向きが変更されるとともに、
図4の矢印X3で示すように、スラローム旋回走行によって境界線Sを倣いながら低速で設定進入角度の進入開始地点Pまで移動される。すなわち、杭打機11は、ベースマシン15の外形補正処理が実行された後、境界線Sを外さないように低速で旋回走行が行われ、さらには周辺の障害物と衝突しないように空間認知をしながら進入開始地点Pまで移動される。
【0032】
進入開始地点Pにおいて、一旦停止が行われた杭打機11は、スピン旋回走行によって車体の前後方向を、杭の埋設予定位置72に向かう方向に、つまり進行方向を90度変えて、リーダ鉛直度保持モードの実行によってリーダ16の鉛直性が保たれた状態で、
図4の矢印X4で示すように、車体を円形領域内に進入させる。円形領域内では、杭の埋設予定位置72に向かうように低速で直進走行が行われる。さらに、杭芯位置合わせの段階に入ると、制御バルブ51の開度を調節してクローラ12を微速駆動させながら、杭芯位置Cを杭の埋設予定位置72に一致させる。このとき、走行の停止が行われるとともに、杭埋設位置誘導モードが解除されることによって自動運転が終了する。ここで、杭打機11は、停止位置において、車体傾斜センサ54及びリーダ傾斜センサ58のそれぞれで取得した傾斜情報(姿勢)を加味して杭芯位置Cが特定されていることから、掘削開始時にリーダ16の傾斜を微調整する操作がなされたとしても、これに伴って杭芯位置Cと、杭の埋設予定位置72とが互いに一致する方向に調整されるので、杭芯ずれが生じることはない。
【0033】
最初の杭番号についての施工は、施工管理プログラムの実行によって、施工データを取得しながら自動で行われている。そして、施工が完了すると、オペレータは所定の切替操作を行って再び自動運転を開始させる。ここで、杭打機11は、最初の杭番号に対応する円形領域内から直進走行によって退避する方向に移動し、境界線Sに到達することで、一旦停止が行われる。そして、制御装置41では、次の杭番号の杭位置データと車体位置データとに基づいて、次の杭の埋設予定位置73に向かう最短移動経路が設定される。これにより、次の杭の埋設予定位置73に向かって走行が行われるとともに、次の杭の埋設予定位置73に対応した円形領域の境界線Tに到達することで、一旦停止が行われる。そして、境界線Tを倣って走行させながら車体の進入角度を調整し、上述したように円形領域内での走行制御と同様の手順で、次の杭の杭芯位置合わせが行われ、以降の杭の埋設予定位置、例えば、埋設予定位置74に対しても同様にして杭芯位置合わせが行われる。こうして、計画された杭の埋設順序に従って杭芯位置合わせと施工とが繰り返し行われる。
【0034】
ところで、杭の埋設予定位置72,73,74の近傍領域内では、多くの作業員が存在し、持ち込まれる関連装置などが周辺に置かれて込み入った環境となっている。そこで、モードを通常の走行(通常走行モード)に選択すると作業工程において便利である場合がある。このような通常の走行が行われる場合、杭打機11を敷鉄板上で前進させているときに、万一、オペレータの不注意や地震や大雨などの影響で発生した軟弱地盤にクローラ12の一部分、例えば、左前部側が進入すると、この部分に対応するクローラシュー27が、敷鉄板上に位置する他のクローラシュー27に比べて沈み込む状態になるため、クロ
ーラシュー27から下部転輪26に作用する荷重が減少する。この荷重の減少の程度が基準値を下回ると、警報発生部63によって荷重低下警報が発生され、杭打機11が軟弱地盤に進入してしまったことを、例えば、音声によってオペレータに知らせる。
【0035】
このように、本発明の施工位置誘導システムによれば、制御部(コントローラ)が、全体座標系上での杭打機11の位置及び向きを求めるとともに、車体傾斜及びリーダ傾斜の各変化角度に基づいて杭芯位置Cを特定し、該杭芯位置Cを施工予定位置72,73,74に一致させるために必要な誘導量を求めるので、杭打機11の誘導や杭芯位置合わせを容易に行うことができる。また、施工現場の地形や杭打機11の可動部の動きによって生じる車体位置情報の誤差を排除することが可能となり、杭の埋設予定位置72,73,74への誘導を正確に行うことができる。
【0036】
なお、本発明は、前記形態例に限定されるものでなく、杭の埋設と同様の作業を行う地盤改良にも適用することが可能であり、杭打機の形式や構造も任意である。また、通常走行モードは、杭埋設位置誘導モードに対応して表現上便宜的に設定されるモードであって、従来からこの種の操作装置として用いられる操作弁の切替操作によって実行される。通常走行モードによる走行操作は電気信号による切替方式や油圧パイロットによる切替方式などが採用できる。したがって、例えば、今まで使用していた杭打機の施工管理装置に、本制御装置をアドオンすれば、杭埋設位置誘導モードを選択して実行可能になる。さらに、通常走行モードを選択しているのであれば、リーダ鉛直度保持モードの実行は必須ではなく、現場の状況に応じて、適宜に指定して実行されてもよい。
【0037】
また、各種モードの切り替え手順は任意で設定することができ、走行操作装置には2本レバーや1本レバー(ジョイスティック)が含まれることは勿論、ブレーキペダルやアクセルペダルなど、踏み込んで操作するものも含まれる。加えて、傾斜センサや、障害物センサ、カメラなどは一般的な検出手段として用いられている各種機器を利用することができ、設置数も任意である。また、旋回角度センサは複数のリミットスイッチを設置して構成してもよいが、給電用スリップリングや油圧スイベルジョイントと同軸上にポテンショメータ(回転型センサ)を備えて構成すればコンパクトに設置することができる。
【0038】
また、下部走行体による走行は、直進性を確保することを目的として、例えば、左右の走行用油圧モータの駆動力を均等化するなど、種々の油圧制御方式を採用することができる。さらに、荷重センサで検出した荷重が基準値を下回ったときに、荷重低下警報を発生させるとともに、リーダ鉛直度保持モードを即座に実行可能な状態に、例えば、あらかじめ作動油を加圧して応答性を高める制御を行うことができる。加えて、非常時にリーダ鉛直度保持モードの実行を停止する場合には、油圧弁を切り替える制御の他、駆動源を停止させるなど種々の制御を行って安全措置を図ることができる。
【符号の説明】
【0039】
11…杭打機、12…クローラ、13…下部走行体、14…上部旋回体、14a…運転室、14b…機器室、14c…ガントリ、14d…カウンタウエイト、14e…ウインチ、15…ベースマシン、16…リーダ、16a…リーダ部材、17…バックステー、17a…バックステーシリンダ、18…ジャッキ装置、19…オーガスクリュー、20…オーガ、21…走行フレーム、22…駆動輪、23…従動輪、24…上部転輪、25…上部ガイド、26…下部転輪、27…クローラシュー、41…制御装置、42…記憶部、43…ディスプレイ、44…操作レバー、45…切替スイッチ、46…操作ペダル、47…モード切替部、48…走行制御部、49…エンジンコントローラ、50…可変容量型油圧ポンプ、51…制御バルブ、52,53…走行用油圧モータ、54…車体傾斜センサ、55…旋回角度センサ、56…障害物センサ、57…カメラ、58…リーダ傾斜センサ、59…荷重センサ、60…デバイス監視部、61…傾斜制御部、62…制御バルブ、63…警報発生部、64…非常停止部、65…通信部、66…ネットワーク、67…データサーバ、68…第1受信部、69…第2受信部、71…施工現場、72,73,74…埋設予定位置、75…盛土、76…置き場、77…作業員