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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】疲労感、意欲低下または眠気の改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/48 20060101AFI20240122BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240122BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240122BHJP
   A23L 11/00 20210101ALI20240122BHJP
   A61K 131/00 20060101ALN20240122BHJP
【FI】
A61K36/48
A23L33/105
A61P43/00 111
A23L11/00 D
A61K131:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022186286
(22)【出願日】2022-11-22
(62)【分割の表示】P 2020094976の分割
【原出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2023010880
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2023-05-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591183625
【氏名又は名称】フジッコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】赤木 良太
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 俊也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利雄
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-128689(JP,A)
【文献】特開2005-261237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/48
A23L 33/105
A61P 43/00
A23L 11/00
A61K 131/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/NAPRALERT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸を含む水で抽出された黒大豆種皮抽出物を有効成分として含有する、疲労負荷前の平常時における疲労感もしくは眠気を軽減する、または意欲を向上する目的で使用される、疲労感、意欲低下または眠気の予防剤。
【請求項2】
前記疲労感、意欲低下または眠気が、健常者の疲労感、意欲低下または眠気である、請求項1に記載の予防剤。
【請求項3】
医薬品、医薬部外品または飲食物である、請求項1または2に記載の予防剤。
【請求項4】
硫酸を含む水で抽出された黒大豆種皮抽出物の疲労感、意欲低下または眠気を予防するための経口組成物の製造における使用方法であって、前記予防は、疲労負荷前の平常時における疲労感もしくは眠気を軽減することまたは意欲を向上することである、使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精神性疲労を予防または改善するために好適に使用される経口組成物に関する。また、本発明は、意欲低下または眠気を予防または改善させるために好適に使用される経口組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
疲労とは、単なる肉体的な運動性疲労に留まらず、免疫疾患や機能低下に伴う感染性疲労や精神的・環境的ストレス、睡眠・リズム障害による疲労などの精神性疲労が知られている。近年においては、人間関係の精神的な緊張などによるストレスだけでなく、デスクワークによる長時間労働、特にコンピュータのディスプレイなど表示機器を使用したVDT(Visual Display Terminal)作業を長時間続けたことにより生じる精神性疲労が増加している。この精神性疲労が慢性化すると、気力、意欲、集中力の低下や精神不安や眠気を引き起こし、日常生活にも支障をきたすだけでなく、うつ病を発症させるリスクを高めるため、精神性疲労を効果的に改善させる薬剤や飲食物に対する需要が高まっている。
【0003】
精神性疲労を改善する方法として、精神安定剤、抗不安剤、睡眠薬等の化学合成薬剤などの医薬品の服用が知られているが、一般的に医薬品は抵抗感が根強く、また習慣性や副作用の危険性を排除することができないという問題がある。そこで天然由来の成分であって、特に安全性の観点から食経験のある植物等の天然素材由来であり、精神性疲労の改善効果を奏する成分を見いだすことが望まれている。精神性疲労の改善作用を有するとされる成分を含有する飲料や健康食品として、例えば、γ-アミノ酪酸(GABA)(特許文献1)やカフェイン、テアニン及びアルギニン(特許文献2)、フラボノイド及び/または糖転移フラボノイド(特許文献3)を経口摂取する方法も提案されている。
【0004】
また、精神性疲労は集中力・思考力の低下や感情の不安定化等を引き起こすだけでなく、身体的にも影響を及ぼすことが知られており、精神的な疲労が身体的な疲労と複合化した状態となっている場合には、眠気、全体倦怠感、だるさ、脱力感等の身体の活動意欲の低下として自覚することができる。このような症状に対して改善作用を有するとされる成分を含有する飲料や健康食品として、例えば、眠気を抑制し集中力を高めるためのトウガラシ抽出物及び/またはショウガ抽出物とテアニンを含有する組成物(特許文献4)や、疲労時もしくはストレス時の意欲低減を改善するためのマテエキスを含有する改善剤(特許文献5)を経口摂取する方法も提案されている。
【0005】
ところで、疲労改善効果を有する成分の多くは、抗酸化能が高いことが知られている。黒大豆種皮抽出物には、プロアントシアニジン、アントシアニンなどのポリフェノールが多量に含まれ、これらの成分は高い抗酸化能を有することから、黒大豆種皮抽出物についても疲労改善効果を有することが期待され研究が進められている。例えば、運動負荷後の疲労マーカーを低減させる黒生姜、黒胡椒、黒大豆種皮、黒ゴマおよび発酵黒タマネギを含有する肉体的疲労改善組成物(特許文献6)や、アスタキサンチン、ルテイン、黒大豆種皮エキス、ビルベリーエキスおよびDHAを含有する肩こり及び/または眼の充血改善剤(特許文献7)が提案されている。
【0006】
しかし、黒大豆種皮抽出物が、精神性疲労、意欲低下または眠気を予防または改善する効果を有することは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-273733号公報
【文献】特開2002-322063号公報
【文献】国際公開公報第2010/029913号
【文献】特開2013-180960号公報
【文献】特開2008-019190号公報
【文献】特開2015-110536号公報
【文献】特開2016-183121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、精神性疲労、意欲低下または眠気を予防または改善するために好適に使用される経口組成物を提供することを課題とする。より詳細には、VDT(Visual Display Terminal)作業負荷に起因して生じる精神性疲労、意欲低下または眠気を予防または改善することができる、経口組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、黒大豆種皮抽出物を摂取すると、精神性疲労、意欲低下または眠気を予防または改善することを見出した。さらにVDT(Visual Display Terminal)作業に伴って生じる精神性疲労、意欲低下または眠気を予防または改善することを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成したものである。このことから、黒大豆種皮抽出物を摂取することで、精神性疲労、意欲低下または眠気が予防または改善されて、健康増進を図ることができると考えられる。
【0010】
本発明はこれらの知見に基づいて完成したものであり、下記の実施形態を包含するものである。
(1)精神性疲労、意欲低下および眠気の改善剤
(1-1)黒大豆種皮抽出物を有効成分として含有する、精神性疲労、意欲低下または眠気の少なくともいずれかを予防または改善する目的で使用される改善剤。
(1-2)前記精神性疲労、意欲低下または眠気がVDT(Visual Display Terminal)作業負荷に起因するものである、1-1記載の改善剤。
(1-3)黒大豆種皮抽出物が黒大豆種皮の酸性抽出物である、1-1または1-2に記載の改善剤。
(1-4))医薬品、医薬部外品または飲食物である、1-1~1-3のいずれか一項に記載の改善剤。
【0011】
(2)黒大豆種皮抽出物の使用方法
(2-1)黒大豆種皮抽出物を経口組成物に配合して、当該経口組成物に対して精神性疲労、意欲低下または眠気の少なくともいずれかを予防または改善する作用を付与するための、黒大豆種皮抽出物の使用方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の精神性疲労、意欲低下または眠気の改善剤によれば、黒大豆種皮抽出物を有効成分として含有する本発明の改善剤を経口摂取することにおり、精神性疲労、意欲低下または眠気の少なくともいずれかを予防するかまたは改善することができる。特に、VDT(Visual Display Terminal)作業負荷に起因して生じる精神性疲労、意欲低下または眠気の少なくともいずれかを予防するかまたは改善することができる。また本発明の黒大豆種皮抽出物の使用方法によれば、経口組成物に対して精神性疲労、意欲低下または眠気の少なくともいずれかを予防または改善する作用を付与するために用いることができる。つまり、本発明の使用方法は、精神性疲労、意欲低下または眠気を予防または改善する用途の経口組成物の調製に使用することができ、斯くして、精神性疲労、意欲低下または眠気の少なくともいずれかを予防するかまたは改善する効果に優れた経口組成物(経口医薬品、経口医薬部外品、飲食品)を調製し、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は試験デザインを示す図である。
図2図2は被験者のフローチャートを示す図である。
図3図3は2-back課題の実測値を示す図である。
図4図4はATMT(ABC課題)2セットまとめたデータの摂取前検査日からの変化(次のトライアルまでの平均反応時間C解題-A課題)を示す図である。
図5図5はVAS法による「精神性疲労感」の評価結果を示す図である。
図6図6はVAS法による「眠気」の評価結果を示す図である。
図7図7はVAS法による「意欲低下」の評価結果を示す図である。
図8図8はVAS法による実測値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の精神性疲労、意欲低下または眠気の改善剤、及び、黒大豆種皮抽出物の使用方法、製造方法について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
また、本発明においては、「予防」とは、疲労やストレスの負荷が生じる前の平常時における精神性疲労、眠気を軽減する、意欲を向上する効果(予防効果)を意味し、「改善」とは、疲労やストレスの負荷が生じた後(直後)における精神性疲労、眠気を抑制する、意欲を維持または低下抑制する効果(改善効果)を意味するものとする。
【0015】
(1)精神性疲労、意欲低下または眠気の改善剤
本発明の精神性疲労、意欲低下または眠気の改善剤(以下、単に「本改善剤」とも称する)は、黒大豆種皮の抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
【0016】
本発明において用いられる黒大豆とは、マメ科ダイズ属Glycine max(L.)Merrillに属する短日性の一年生草木の黒い種子(子実)(黒大豆)である。黒大豆には、例えば中生光黒、トカチクロ、いわいくろ、玉大黒、丹波黒、信濃黒及び雁喰などの品種があるが、黒大豆であればどの品種の種子を使用しても良い。
【0017】
黒大豆を、例えば分別機等に供することで種皮と胚(子葉および胚軸)とに分別することができる。本発明では当該分別により得られる黒大豆の種皮を加工原料として使用することができる。加工処理に際して、黒大豆の種皮は、分別したそのままの状態(生または乾燥物)のものであっても、またそれを破砕若しくは粉砕した状態のもの(破砕物、粉砕物、及び粉末状物を含む)であってもよい。
【0018】
黒大豆種皮からの抽出方法としては、一般に用いられる方法を利用することができる。制限はされないが、例えば水溶性溶媒中に生または乾燥処理した黒大豆種皮(そのままの形状、若しくは粗末、細切、破砕、粉砕状)を浸漬する方法;必要に応じて攪拌しながら抽出する方法;またはパーコレーション法等を挙げることができる。抽出に使用する温度条件は、特に制限されず、低温、常温、加温条件(高温を含む)のいずれの条件でもよいが、好ましくは抽出効率が高まる加温条件(高温を含む)である。より具体的には、後述の含水低級アルコールで抽出する場合は30℃以上、好ましくは40℃~60℃の範囲であり、制限されないものの、かかる温度条件での抽出を60分以上、好ましくは90分~120分程度行なうことで目的とする黒大豆種皮成分(抽出物)を十分に抽出することができる。また、酸性水溶液で抽出する場合は、50℃以上、好ましくは50~80℃の範囲であり、制限されないものの、かかる温度条件での抽出を10分以上、好ましくは20分~120分程度行う。
【0019】
抽出に使用する水溶性溶媒としては、特に制限されないが、水、低級アルコール、またはこれらの混合物を挙げることができる。低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール及びイソプロピルアルコール、ブタノール等の炭素数1~4の低級アルコールを例示することができる。低級アルコールとして好ましくはエタノールを挙げることができる。水溶性溶媒として好ましくは、水、または含水低級アルコール(特に含水エタノール)であり、より好ましくは抽出時または精製時の作業容易性が高い水である。尚、含水低級アルコールを溶媒として使用する場合、それに含まれる低級アルコール量は80容量%以下であることが好ましい。
【0020】
抽出に使用する水溶性溶媒は黒大豆種皮成分(抽出物)の安定性等を高める目的で酸性に調整されていることが好ましい。特に制限されないが、水溶性溶媒のpH範囲は、好ましくはpH1~4程度の範囲であり、特にpH1~2の範囲であることが好ましい。水溶性溶媒のpHを、かかる範囲になるように調整するため、通常、有機酸や無機酸などの適当な酸性物質を用いることができる。
【0021】
酸性物質として、具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの無機酸;並びにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、フルオロスルホン酸(以上、スルホン酸)、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸(以上、カルボン酸)などの有機酸を挙げることができる。好ましくはスルホ基を有する酸であり、具体的には硫酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、及びフルオロスルホン酸を挙げることができる。中でも好ましくは硫酸である。なお、水溶性溶媒における酸の規定度は、水溶性溶媒が上記pH範囲になるような範囲であれば特に制限されないものの、好ましくは0.01~0.5Nの範囲、より好ましくは0.03~0.5Nの範囲である。
【0022】
得られた抽出液は、そのままでも本改善剤として使用することができるが、必要に応じて、さらにろ過、共沈または遠心分離による固形物の除去、活性炭処理、吸着処理等の精製処理を行ってもよい。
【0023】
斯くして調製される黒大豆種皮抽出物は、そのままでも本改善剤として使用することができるが、服用の観点や飲食物製造の観点から、濃縮処理または/及び乾燥処理してもよい。さらに必要に応じて、該抽出液の細菌数の低減や保存性を高める目的で、本発明の効果を損なわない範囲において、前記加工処理の前または後にUHT殺菌、レトルト殺菌処理といった公知の方法による殺菌処理を行ってもよい。なお、本発明における黒大豆種皮抽出物とは、抽出液、該抽出液の希釈液もしくは濃縮液、または該抽出物を乾燥して得られる乾燥物のいずれかを意味するものとする。
【0024】
本改善剤は、経口投与形態であれば、その形態を特に問わない。また経口投与(経口摂取)形態を有するものである限り、その用途の別(医薬品、医薬部外品、飲食物[特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能性食品などの保健機能性食品やサプリメントを含む])は、特に制限されるものではない。また、本改善剤は、ヒト以外の動物(家畜や家禽、ペットを含む)を対象とした飼料やペットフードに適用されるものであってもよい。さらに本改善剤は、医薬品、医薬部外品、飲食物、飼料またはペットフードに対して添加される添加剤であってもよい。
【0025】
経口投与形態として、具体的には、上記抽出方法により調製される抽出液を液剤(エキス形態やシロップを含む)またはゼリー剤の形態に調製したもの;抽出液を常法により粉末状または顆粒状に製剤化した散剤、細粒剤、または顆粒剤;液剤や散剤または顆粒剤をカプセルに充填したカプセル剤(硬質カプセル剤、軟質カプセル剤);または粉末または顆粒をさらに打錠して錠剤形態としたものなどを挙げることができる(固形製剤)。
【0026】
本改善剤は、上記黒大豆種皮抽出物と薬学的に、または食品や飼料として許容される従来公知の可食性の担体、賦形剤等を組み合わせて各種剤型(経口投与形態)に調製することもできる。
【0027】
本改善剤を液状製剤の形態とする場合、担体として当該分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えば液剤及びシロップ剤の製造に適切な添加物は、例えば、水、エタノール、ショ糖、転化糖、ブドウ糖、マルトース、還元水あめ等を使用できる。
【0028】
本改善剤を固形剤の形態とする場合、例えば、錠剤の場合であれば、担体として当該分野で従来公知のものを広く使用することができる。このような担体としては、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、アルギン酸ナトリウム等の結合剤;乾燥デンプン、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、クロスポビドン、ポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ステアリン、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;第4級アンモニウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用できる。さらに錠剤は、必要に応じ通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶被錠、フィルムコーティング錠あるいは二重錠、多層錠とすることができる。また、前記有効成分を含有する組成物を、ゼラチン、プルラン、デンプン、アラビアガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等を原料とする従来公知のカプセルに充填して、カプセル剤とすることができる。
【0029】
また、丸剤の形態とする場合、担体として当該分野で従来公知のものを広く使用できる。その例としては、例えばブドウ糖、乳糖、デンプン、カカオ脂、硬化植物油、カオリン、タルク等の賦形剤、アラビアゴム末、トラガント末、ゼラチン、エタノール等の結合剤、ラミナラン、カンテン等の崩壊剤等を使用できる。
【0030】
上記以外に、添加剤として、例えば、界面活性剤、吸収促進剤、吸着剤、充填剤、防腐剤、安定剤、乳化剤、可溶化剤など、製剤の形態に応じて適宜選択し使用することができる。
【0031】
これらの形態はいずれも当該分野における通常の方法を用いて調製でき、例えば、錠剤は、上記有効成分とその他錠剤を得るために必要な賦形剤等を適宜添加し、よく混合分散させたのち打錠して得ることができる。また、散剤は、上記有効成分とその他散剤を得る為に必要な賦形剤等を適宜添加し、好適な方法にて混合、粉体化して得ることができる。
【0032】
本改善剤は、前述する製剤形態のほか、通常の飲食物の形態を有するものであってもよい。当該飲食物は、前述する黒大豆種皮抽出物または後述する黒大豆種皮抽出物を含有する添加剤を種々の飲食物に添加することにより製造することができる。飲食物は、溶液、懸濁液、乳濁液、ゼリー(ゲル)、ゾル、粉末、固体成形物など、経口摂取可能な形態であればよく、特に限定されない。具体的には、例えば、即席麺、レトルト食品、缶詰、電子レンジ食品、即席スープ・みそ汁類、フリーズドライ食品などの即席食品類;清涼飲料、果汁飲料、野菜飲料、豆乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、栄養飲料、アルコール飲料などの飲料類;パン、パスタ、麺、ケーキミックス、唐揚げ粉、パン粉などの小麦粉製品;飴、キャラメル、チューイングガム、チョコレート、クッキー、ビスケット、ケーキ、パイ、スナック、クラッカー、和菓子、デザート菓子などの菓子類;ソース、トマト加工調味料、風味調味料、調理ミックス、たれ類、ドレッシング類、つゆ類、カレー・シチューの素類などの調味料;加工油脂、バター、マーガリン、マヨネーズなどの油脂類;乳飲料、ヨーグルト類、チーズ、発酵乳、乳酸菌飲料、アイスクリーム類、クリーム類などの乳製品;プリンやマヨネーズなどの卵加工品;魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品などの水産加工品;畜肉ハム・ソーセージなどの畜産加工品;農産缶詰、ジャム・マーマレード類、漬け物、煮豆、シリアルなどの農産加工品;冷凍食品、栄養食品などを挙げることができる。制限されないものの、黒大豆種皮抽出物由来のポリフェノールは酸性側で安定性が高いことから沈殿や色味の低下を抑制するという点からは、好ましくは酸性の食品とすることが好ましい。
【0033】
また本改善剤は、通常の飼料やペットフードの形態を有するものであってもよい。これらの当該飼料やペットフードも、前述する黒大豆種皮抽出物を種々の飼料やペットフードに添加することにより製造することができる。
【0034】
本改善剤における黒大豆種皮抽出物の含有量は、100質量%を上限として、前述する形態の種類や用途の種類(医薬品、食品、飼料・ペットフード等)等に応じて適宜設定することができる。本改善剤の投与量(摂取量)は、ヒトや動物の種類、被験者の性別や年齢、被験者の状態や症状の程度によって適宜変更され得る。制限されないものの、例えば、ヒト成人一人(体重50kg)に対する1日あたりの投与量(摂取量)は、本改善剤に含まれる黒大豆種皮抽出物(乾燥量)の量に換算して通常10~500mg程度を挙げることができる。通常、一日1回または2~3回に分けて経口投与(摂取)の形態で用いられる。服用時刻は、特に限定されず、例えば朝、昼、晩の食事時のいずれか1以上の時間帯を例示することができる。また制限されないが、食事と一緒、または食前若しくは食後の30分以内であってもよい。
【0035】
本改善剤の対象者は、疲労やストレスの自覚症状を有する者であるか、そうした疲労やストレスの予防を要望する者であればよく、この限りにおいて特に制限されない。これらの者には、VDT(Visual Display Terminal)作業またはこれと類似するデスクワーク作業に従事する者や、認知機能低下、慢性疲労症候群、鬱、慢性疲労、おっくう感、意欲低下、集中力低下、記憶力低下、判断力低下などの脳機能低下の自覚症状を有する者や、これらの予防効果を享受する必要またはそれを要望する者も含まれる。
【0036】
本改善剤を経口的に服用(投与、摂取)することにより、精神性疲労、意欲低下または眠気を予防または改善することができる。本改善剤の服用(投与、摂取)により、精神性疲労、意欲低下または眠気を予防または改善する効果は、VAS(Visual Analogue Scale)検査によって評価、確認することができる。
【0037】
(2)黒大豆種皮抽出物の使用方法
本発明はまた、黒大豆種皮抽出物の使用方法を提供する。
その使用方法の1つは、経口組成物に対して、精神性疲労、意欲低下または眠気を予防または改善する作用を付与するための黒大豆種皮抽出物の使用方法である。
【0038】
当該方法は、黒大豆種皮抽出物が有する精神性疲労、意欲低下または眠気を予防または改善する作用に基づいて、対象とする経口組成物を製造するための、前記抽出物の使用方法を用いることができる。なお、黒大豆種皮抽出物に代えて、黒大豆種皮抽出物を有効成分とする前述する本改善剤を用いることもできる。
【0039】
対象とする経口組成物には、人に対して経口的に投与する組成物または人が摂取する組成物、具体的には経口医薬品、経口医薬部外品、及び飲食物が含まれる。好ましくは飲食物である。また非ヒト動物を対象とする場合、経口組成物として、飼料やペットフードを用いることができる。
【0040】
本発明の方法で用いる黒大豆種皮抽出物の原料として使用する黒大豆の種類、黒大豆種皮の取得方法、黒大豆種皮抽出物、特に抽出物の好適な一態様である黒大豆種皮酸性抽出物の調製方法は、上記(1)で説明した通りであり、本欄において援用することができる。経口組成物に対する黒大豆種皮抽出物の配合量は、経口組成物に、疲労を改善する作用が付与できる量であればよく、その限りにおいて特に制限されない。その評価は、被験者に黒大豆種皮抽出物を配合した経口組成物(対象組成物)を継続的に摂取させた場合と、被験者に黒大豆種皮抽出物を配合しない経口組成物(比較組成物)を継続的に摂取させた場合とで、VAS(Visual Analogue Scale)検査によって評価、確認することができる。
【実施例
【0041】
以下に実験例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0042】
〔実施例1〕黒大豆種皮抽出物の精神性疲労、意欲低下、眠気の改善効果
最初に黒大豆種皮抽出物および試験食の調製方法、次いで精神性疲労、意欲低下、眠気の改善に関する試験方法とその結果について説明する。
【0043】
〔黒大豆種皮抽出物〕
黒大豆種皮抽出物(酸性熱水抽出物)は下記の方法により調製した。
(1)黒大豆種皮(生)1kgを抽出溶媒として希硫酸(0.3%w/v)30Lに浸漬し、55~60℃に加熱しながら20分間撹拌抽出する。
(2)抽出後、黒大豆種皮と液とを固液分離し、液を回収する。
(3)回収した液を遠心分離を行ない、固液分離では取り除けない浮遊固形物を除去する。
(4)得られた抽出液を合成吸着樹脂(セパビーズSP700:三菱化学(株)製)を入れたカラムに投入し、樹脂に吸着させる。
(5)カラム内に残存する硫酸を洗い流すため、カラムに水を通液して樹脂を洗浄する。
(6)カラムに59容量%濃度のアルコ-ル水溶液を通液して、樹脂に吸着されたポリフェノールを溶出させる。
(7)回収した溶出液(アルコール溶液)を減圧下で加熱することにより蒸発させ、濃縮する。
(8)得られた濃縮液に、賦形剤としてデキストリンを添加する。
(9)加熱殺菌する。
(10)加熱殺菌後の濃縮液を噴霧乾燥して黒大豆種皮抽出物(85g、ポリフェノール含量61.1%)を得た。
【0044】
〔試験食〕
試験食は、黒大豆種皮抽出物含有食(被検食)、及び対照食(プラセボ)を用いた。試験食の配合を以下に示す。
(被検食) 黒大豆種皮抽出物100mg(ポリフェノール含量61.1%)とデキストリン110mgを含有するカプセル剤(合計210mg)
(プラセボ) デキストリン250mgを含有するカプセル剤
なお、プラセボは、熱量等において、被験食と大きな差がないように作製された。表1に各試験食の栄養成分表を示した。
【0045】
【表1】
【0046】
〔試験方法〕
(被験者)
被験者は、年齢が20歳以上65歳未満の健常者である男女の計21名とし、また、本試験参加に際し、事前に当該試験の説明を受け、その内容が理解でき、趣旨に賛同できる者であり、被験者本人による文書同意が得られる者とした。ただし、大豆アレルギーの者、薬を常用している者、妊娠中の者など本試験を実施するのに不適当と認めたものは除外した。
(試験食の摂取)
試験食は、1日1粒を夕食後に4週間継続して摂取させた。なお、試験期間中、抗酸化物質を多く含む健康食品など抗疲労作用を有する可能性がある飲食物については摂取を禁止した。
(試験方法)
試験デザインは、ランダム化二重盲検並行群間比較試験とした。図1に試験デザインを示した。
試験方法は、摂取開始時検査日、摂取2週間後および4週間後検査日に精神作業負荷を設定した。なお、検査日と前日はアルコール、コーヒーの摂取を禁止した。
(精神作業負荷)
精神作業負荷は、VDT(Visual Display Terminal)作業による疲労負荷として、2-back課題30分間、およびATMT(Advanced Trail Making Test,ABC課題)30分間の計1時間を1セットとし、2セット(2時間)実施した。
(1)2-back課題
3秒毎にランダムにアルファベットがパソコンの画面上に表示され、現在表示されているアルファベットと2つ前に表示されたアルファベットが同じであれば右クリック、異なっていれば左クリックする短期記憶課題とした。
(2)ATMT (ABC課題)
パソコンの画面上にランダムに表示された1から25までの25 個の数字を1から25まで順にすばやくクリックしていく視覚探索課題。A、B、C の3 種類の課題を順に実施した。A課題は1から25までの数字の配置が変わらない課題、B 課題は1から25の配置は変わらないが、クリックした数字が消えて26以降の新たな数字が追加される課題、C 課題はB 課題に加えてさらに25までの数字の配置が変わる課題とした。
【0047】
(検査項目)
本試験では日本疲労学会の定める抗疲労臨床評価ガイドラインをもとに、主要評価項目をVAS(Visual Analogue Scale)検査における疲労感スコア、副次評価項目を作業能率評価(ATMT(Advanced Trail Making Test,ABC課題)とした。
(1)VAS(Visual Analogue Scale)検査
摂取開始時検査日、摂取2週間後検査日、及び摂取4週間後検査日の負荷前、負荷後にVAS検査を実施した。質問項目は、疲労感、意欲、眠気とした。
VASについては疲労感の評価方法として日本疲労学会で推奨されている。VASの自己評価スコアは、長さ10.0cmの水平な直線を提示し、両端をそれぞれの左端を最も否定的(感じない)、右端をもっとも肯定的(感じる)とし、各質問項目に対する被験者自身の感覚がどの程度のレベルに位置するか、その線分上に印を記入させた。評価結果の測定は、各被験者が印した点の位置を左端からの距離として測定し、数値化した。最も否定的な端(左端)を0点、最も肯定的な端(右端)を10.0点とした。
(2)作業能率評価(ATMT(Advanced Trail Making Test,ABC課題)
検査日のVDT(Visual Display Terminal)作業2時間におけるATMT(ABC課題)の平均反応時間、試行数、エラー数により作業能率評価を行い、課題間の意向時間により意欲の客観評価を行った。
(3)生活記録日誌
試験期間中毎日、睡眠時間、就業時間、ライフイベント、試験食摂取状況について記入させた。
(4)統計学的処理
試験データを集計し、項目ごとに統計解析を行った。統計処理ソフトはSPSS Ver.22.0(日本アイ・ビー・エム(株))を使用し、試験条件間の比較においては、対応のないt検定を実施した。ただし、データが正規分布から逸脱していると考えられる場合はMann-WhitneyのU検定を実施した。有意水準は両側検定で5%とし、10%を傾向ありとした。また、対応のないデータの平均を t 検定で検定する際は、G*Power3.1.9.6を用いてα=0.05および1-β=0.8とした場合における統計学的有意差を得るためのサンプルサイズの推定を実施した。
【0048】
〔結果〕
(被験者)
被験者21名をランダムに2グループ(被検食群10名、プラセボ群11名)に割り付けた。2-back課題の正答率が2/3(0.666)以下またはATMT(ABC課題)の課題の移行時間5秒以上の負荷が適切にかかっていない被験者を有効性評価の対象から除外とした。その結果、有効性評価における解析対象者は13名(被検食群7名、プラセボ群6名)であった。図2に被験者のフローチャートを示した。
【0049】
(1)2-back課題
被験食群、プラセボ群ともに、摂取前検査日、摂取2週間検査日および摂取4週間後検査日のすべての検査において、2-back課題の正答率が平均値で0.882と高い正答率であった。ことから本検査において適切な負荷がかかっていることが確認された。図3に結果を示した。
【0050】
(2)作業能率評価[ATMT(ABC課題)]
2セットまとめたデータの摂取前検査日からの変化について、被検食群はプラセボ群と比較して、A課題誤数字押し型エラー数が摂取4週間後検査日で減少傾向、B課題誤数字押し型エラー数が摂取4週間後検査日で減少傾向、次のトライアルまでの平均反応時間トータルが摂取2週間後検査日で短縮傾向がみられた。特に、次のトライアルまでの平均反応時間C課題-A課題が摂取2週間後検査日で有意に短縮がみられた(図4)。課題間の移行時間は意欲の客観指標として認知されていることから、黒大豆種皮抽出物の意欲向上効果が確認された。表2、図4に結果を示す(数値は平均値とその標準誤差である。)。
【0051】
【表2】
【0052】
(3)VAS(Visual Analogue Scale)検査
実測値について、被検食群はプラセボ群と比較して、精神性疲労感、眠気が摂取4週間後検査日負荷後で低値傾向(図5図6)、意欲低下が摂取2週間後検査日負荷前で低値傾向がみられた(図7)。この結果から黒大豆種皮抽出物の精神性疲労感抑制(改善)効果、意欲向上(予防)効果、眠気抑制(改善)効果が確認された。図8にVAS実測値の結果を示す(数値は平均値とその標準誤差である。)。
【0053】
この結果から、被験食(黒大豆種皮抽出物)を経口摂取することで、精神性疲労、意欲低下、眠気を予防または改善することがわかる。用量の範囲としては、少なくとも今回検討した黒大豆種皮抽出物(酸性熱水抽出物)によれば、乾燥重量として100mg以上の範囲において、本発明の所望の効果が得られることがわかる。
【0054】
黒大豆種皮抽出物の処方例を以下に示す。
処方例1 ソフトカプセル
下記の原料を用いて、定法に従ってソフトカプセルを調製した。なお、黒大豆種皮抽出物として、実験例1の方法に従って調製した黒大豆種皮抽出物を用いた。
植物油脂:158.6mg
ゼラチン:135.2mg
黒大豆種皮抽出物:100mg
グリセリン:30.2mg
レシチン:30mg
ミツロウ:26mg
ビタミンE:20mg。
【0055】
処方例2 錠剤
下記の原料を用いて、定法に従って錠剤を調製した。なお、黒大豆種皮抽出物として、実施例1方法に従って調製した黒大豆種皮抽出物を用いた。
デキストリン:179.69mg
黒大豆種皮抽出物:100mg
還元水あめ:28.56mg
結晶セルロース:26.51mg
ステアリン酸カルシウム:5.25mg
微粒二酸化ケイ素:5.25mg
ヒドロキシプロピルセルロース:4.77mg。
【0056】
処方例3 個包装スティックゼリー
下記の原料を用いて、定法に従って個包装スティックゼリーを調製した。なお、黒大豆種皮抽出物として、実施例1の方法に従って調製した黒大豆種皮抽出物を用いた。
希少糖含有シロップ:1000mg
黒大豆種皮抽出物:100mg
ゲル化剤(増粘多糖類):100mg
甘味料(キシリトール、スクラロース、ソーマチン、アセスルファムカリウム):70mg
香料:20mg
水:8710mg
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の黒大豆種皮抽出物を有効成分として含有する改善剤は、精神性疲労、意欲低下、または眠気を予防または改善することができる。したがって、本発明の精神性疲労、意欲低下または眠気の改善剤は、医薬品、医薬部外品、機能性表示食品、サプリメントなど広い適用範囲で利用できるため有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8