(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】統合された機能性を有する光学素子のデジタル生成方法、及び、当該方法で生成された光学素子
(51)【国際特許分類】
B29C 64/188 20170101AFI20240122BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240122BHJP
B29C 64/124 20170101ALI20240122BHJP
B29C 64/112 20170101ALI20240122BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240122BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240122BHJP
【FI】
B29C64/188
B33Y70/00
B29C64/124
B29C64/112
B33Y10/00
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2022504193
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(86)【国際出願番号】 EP2020069395
(87)【国際公開番号】W WO2021013567
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】102019211001.0
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503306168
【氏名又は名称】フラウンホーファー・ゲゼルシャフト・ツール・フェルデルング・デア・アンゲヴァンテン・フォルシュング・エー・ファウ
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ドーマン,ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】スティーンフーセン,ゼンケ
(72)【発明者】
【氏名】クライン,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】レーバーガー,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ミットラハー,マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェダー,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ニップゲン,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ベッケルト,エリック
(72)【発明者】
【氏名】ケンパー,ファルク
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-530127(JP,A)
【文献】特開2004-008881(JP,A)
【文献】特表2002-513947(JP,A)
【文献】特開2015-102870(JP,A)
【文献】特開2012-002978(JP,A)
【文献】S.Suresh Nair,Additive Manufacturing of Functional(Photoluminescent) Optical Components,DGaO Proceedings,2018年07月20日,119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
統合された機能性を有する光学素子をデジタル処理で生成するための方法であって、
a)三次元の構造が、3Dプリンティングによって、無機-有機ハイブリッドポリマーを備えるプリント材料から生成され、
b)前記三次元の構造において、追加の機能性を有する少なくとも1つの領域が、当該構造
の体積内の領域を改変することによって、生成さ
れ、
前記追加の機能性は、光屈折要素であり、
前記無機-有機ハイブリッドポリマーは、前駆体としての以下の一般式(I)の少なくとも1つのアルコキシシランの加水分解およびその後の重縮合反応によって生成され、
R
x
M(OR′)
4-x
(I)
上記の一般式(I)において、
M=Si、Zr、または、Tiであり、
R=有機基であって、C1‐C8から選択され、
R′=H、C1‐C8‐アルキルである、
方法。
【請求項2】
前記三次元の構造において、追加の機能性を有する少なくとも1つの追加の領域が、当該構造の前記体積内の領域を改変することによって、生成され、当該少なくとも1つの追加の領域の当該追加の機能性は、光吸収
要素、光反射
要素、光散乱要素
、及び、電気的機能性から
なるグループから選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記プリント材料は、
・酸化ジルコニウムまたは酸化チタンを有する粒子、またはレーザ吸収を増加させるためのナノ粒子
・光変
換粒子
・散乱粒子
・熱伝導率、発散、熱膨張を調整するための粒子
・標識としての粒子、または、
・それらの組合せ、
を備える、
請求項1
または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記3Dプリンティングは、インクジェットプリンティングプロセス、ステレオリソグラフィまたはデジタルライトプロセッシング(DLP)技術によって実施される、
請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
インクジェットプリンティングプロセスによって前記三次元の構造を生成する場合、以下の方法ステップが実施される:
(1)前記無機-有機ハイブリッドポリマーを備える前記プリント材料の複数の液滴を基板の方向に吐出して、当該液滴が互いに隣り合って堆積して層を形成するステップ
(2)照
射によって、前記層内の前記複数の液滴を光化学的に硬化させるステップ、
(1)および(2)のステップが、所望の前記三次元の構造が構築されるまで繰り返される、
請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記プリント材料の粘度が、反応性シンナ
ーを用いて、10~50mPasの範囲内に設定される、
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ステレオリソグラフィによって前記三次元の構造を生成する場合、以下の方法ステップが実施される:
(1)槽内で支持構造上に前記プリント材料を準備するステップ
(2)ラスター集束(UV)光源で前記槽の底を通じて前記プリント材料を層ごとに露光して、1つの層を硬化させるステップ
(3)前記プリント材料の形成された層と共にキャリア構造を動かして、前記形成された層上で前記プリント材料の次の層が露光されるようにするステップ
(2)および(3)のステップが、所望の前記三次元の構造が構築されるまで繰り返される、
請求項
4に記載の方法。
【請求項8】
デジタルライトプロセッシング(DLP)技術によって前記三次元の構造を生成する場合、以下の方法ステップが実施される:
(1)槽内で支持構造上に前記プリント材料を準備するステップ
(2)室内光変調器付きの光源で前記槽の底を通じて前記プリント材料を層ごとに露光して、1つの層を硬化させるステップ
(3)前記プリント材料の形成された層と共にキャリア構造を動かして、前記形成された層上で前記プリント材料の次の層が露光されるようにするステップ
(2)および(3)のステップが、所望の前記三次元の構造が構築されるまで繰り返される、
請求項
4に記載の方法。
【請求項9】
前記体積内における領域改変は、10ps未満のパルス持続時間を有する超短レーザパルスを用いて、改変される前記領域上で、レーザ放射を放出し集束することによって行われ、当該領域改変は、前記超短レーザパルスを通じて前記構造
の前記体積内で行われ、
前記超短レーザパルスにおいて、
i)パルスは、1~500kHzのパルス繰返し周波数及び/又は10~3000nJのパルスエネルギーを有し、及び/又は、
ii)波長は、300~2200nmの範囲内であり、及び/又は、
iii)焦点におけるビーム径は、30μm未満の範囲内である、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
超短パルスレーザによって前記無機-有機ハイブリッドポリマーの有機成分が炭化されることにより、改変される前記領域が黒化する及び/又は導電化する、
請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
領域改変は、
レーザ放射によって前記構造の前記体積内に光屈折要素を生成することによって実施される、
請求項1から請求項
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
3Dプリンティングによって無機-有機ハイブリッドポリマーから製造された三次元の構造を備える光学素子であって、追加の機能性を有する少なくとも1つの領域が、前記構造
の体積内に設けら
れ、
前記追加の機能性は、光屈折要素であり、
前記無機-有機ハイブリッドポリマーは、前駆体としての以下の一般式(I)の少なくとも1つのアルコキシシランの加水分解およびその後の重縮合によって生成されたものであり、
R
x
M(OR′)
4-x
(I)
上記の一般式(I)において、
M=Si、Zr、または、Tiであり、
R=有機基であって、C1‐C8から選択され、
R′=H、C1‐C8‐アルキルである、
光学素子。
【請求項13】
追加の機能性を有する少なくとも1つの追加の領域が、前記三次元の構造の前記体積内に設けられ、当該少なくとも1つの追加の領域の当該追加の機能性は、光吸収
要素、光反射
要素、光散乱
要素、及び、電気的機能性から
なるグループから選択される、
請求項
12に記載の光学素子。
【請求項14】
前記光学素子は、3Dプリンティングによって
製造されたものである、
請求項
12または請求項13に記載の光学素子。
【請求項15】
前記光屈折要素は、超短レーザパルスによる前記無機-有機ハイブリットポリマーの有機成分の炭化よって
製造されたものである、
請求項
12から請求項
14のいずれか1項に記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、統合された機能性(複数)を有する光学素子をデジタル処理で生成するための方法に関するものであり、三次元の構造が、3Dプリンティングによって、無機-有機ハイブリッドポリマーを備えるプリント材料から生成され、追加の機能性を有する少なくとも1つの領域が、当該構造の表面上及び/又は体積内の領域を改変(改質)することによって生成される。本発明は、また、3Dプリンティングによって、無機-有機ハイブリッドポリマーから製造された三次元の構造を備える光学素子に関するものであり、当該構造は、表面上及び/又体積内に追加の機能性を有する少なくとも1つの領域を有する。
【背景技術】
【0002】
光学系は、これまで、所定の機能を達成するために、レンズ、ミラー、絞りといった種々な光学素子から構成されてきた。結像ガラス光学器具の典型的なケースでは、これは、全素子の組立てを必要とし、その各々は正確に接合されなければならず、大きな重量および大きな体積を有する。
【0003】
従来技術から公知のカメラ対物レンズでは、様々な光学部品、特に研削され研磨された球面レンズ及び絞りが、全体配置を形成するように互いに接合される。この場合、単なる結像を実行するためだけでなく、同時に光学収差(例えば、色誤差や球面収差)を補正するためにも、レンズの複雑な系が必要となる。個々の部品は、精巧に反射防止にされなければならず、光学器具がより複雑になること及びそれに起因する光学系のコストに加えて、光処理量の低下をももたらす。屈折面と同様に、ゴースト像や不要な光反射を避けるために、開口絞り(いわゆる、バッフル)が光学系内に必要である。
【0004】
光学系の多数の部品は、オプトメカニカル部品によって互いに正確に整列されなければならず、その結果、重量及び部品体積が大きくなるだけでなく、部品、アッセンブリ及び調整に対するコストも高くなる。光学系の複雑さは、特に、研削および研磨によって安価に製造することができる球面の使用に起因している。優れた結像特性は、したがって、多大な労力を使って達成することができる。
【0005】
自由曲面の使用により、光学系の複雑さを大幅に軽減することができる。これらは、例えば、ダイヤモンド旋削または精密プレスのような機械加工プロセスを用いて製造される。しかしながら、部品点数が少ないことによるコストの利点は、自由曲面の後処理ステップや高価な工具によって損なわれてしまう。より経済的であり、従って多くの「消費者」向け光学器具に関するものは、エンボス加工や精密射出成形によって加工されてレンズにされるポリマーを使用することである。インクジェットまたはSLA(ステレオリソグラフィ)技術を用いたポリマー光学器具の3Dプリンティングは、自由曲面をそのまま生成できるので、この点では優れた解決策となっている。これは、EP2 943 331 B1にて知られており、主に有機樹脂(任意で、短波長での長期間の安定性を改善するためにシリコーン成分を有する)をプリントして、照明用途及び眼科用の屈折面を形成する。従来技術では、屈折型(および、一部で反射型)光学部品の積層造形の種々な変形例(添付文献リスト参照)が知られているが、それらは、3Dプリントされたポリマー光学器具の典型的な問題を有している:
・プリントされたボディの体積内に屈折率不均一の形態で層境界が発生し、当該ボディを通じた透過率が低下すること。
・デジタル化アーチファクト、つまり、プリントされたボディを所定の間隔の層に分解することによるプリントされた面上の段差の形成。
・従来製造されていた光学器具に比べ、どの場合においても、実現された表面の精度に限界があり、粗さが増大する。
・ポリマーの使用による耐久性および信頼性に限度がある。
【0006】
単一の部品(レンズなど)だけではなく、デジタル生産によって機能的な光学系を作成する強い要望があるなかでは、吸収性材料で作られた絞りや、ミラーといったさらなる機能的要素の統合が欠けている。
【0007】
絞りまたは吸収構造は、通常、オプトメカニカル部品として光学系全体に組み込まれる。絞り構造の、その後の、任意で付加的/デジタル的な、統合は、古典的な光学器具生産における技術水準に従って提供されていない。記載されているのは、しかしながら、光学ガラスまたはポリマーブロックの3D立体構造化であり、それは、レーザプロセスによって部品の体積内においてもたらされる。これは、微小クラックの形成、または標的とされた局部黒化を伴うものであり、後者は、場合によっては材料の改変によって促進される。しかしながら、典型的には、これらの改変は、光学系の応用分野では行われず、特に、3Dプリントされた光学素子では行われない。
【0008】
現状の技術によれば、デジタルプロセスを用いた光学器具の3D形状化は、いくつかの方法で可能である:
【0009】
1.選択的レーザエッチング:
ここでは、典型的には、石英ガラスが、フェムト秒レーザパルスで露光され、従って、エッチング速度は、焦点の焦点領域において、HFまたはKOHと比較して増加される。エッチングステップは、3D構造の点状の露光後に行われ、その後、所望の3D構造は、露光された領域のネガとして残る(サブストラクティブ法)。しかしながら、当該プロセスの精度と粗さは、光学部品を製造するのに十分ではない。
【0010】
2.3Dプリンティング:
粒子(例えば、シリカ含有)と有機マトリックス材料からなる複合物の3Dプリンティングおよびその後の焼結、すなわちマトリックス材料の熱分解。これにより、ガラス状の部品を追加的に製造することができる。エッチングプロセスと同様に、部品の質は、とりわけ焼結プロセスにおける収縮ゆえに、光学的用途においては十分ではない。
【0011】
3.レーザストラクチャリングと研磨:
CO2レーザ照射によるアブレーション、微細摩耗、研磨
【0012】
4.研磨レーザ処理:
透過型光学器具に対するアブレーションによるレーザ処理は、アクリレートについても記載されている(DE10 2017 002986 A1)
【発明の開示】
【0013】
その上で、本発明の目的は、統合された機能性を有する光学素子をデジタル処理で生成する方法を提供することであり、これは、従来技術における欠点を克服し、光学素子が、改良された光学特性と共に高い複雑性を有することを可能にする。
【0014】
この目的は、請求項1の特徴を有する方法と、請求項13の特徴を有する光学素子とによって達成される。さらなる従属クレームは有利な発展を示す。
【0015】
本発明によれば、統合された機能性(複数)を有する光学素子をデジタル処理で生成するための方法が提供され、その方法では、
(a)三次元の構造が、3Dプリンティングによって、無機-有機ハイブリッドポリマーを備えるプリント材料から生成され、
(b)三次元の構造において、追加の機能性を有する少なくとも1つの領域が、当該構造の表面上及び/又は体積内の領域を改変することによって生成される。
【0016】
従来技術で知られている課題は、適切な材料と組合せた添加剤およびデジタルプロセスの的を射た選択を通して、本発明により解決される。最初に、自由曲面アプローチの一部として屈折面の数を減らすために、例えばインクジェットプリンティング、ステレオリソグラフィまたはデジタルライトプロセッシング(DLP)技術によってといった、3Dプリンティングによって、光学素子が三次元の構造として作成される。原理的に、これにより、従来の光学器具では不可能であった光場分布の生成が可能になり、光学系の複雑さ、ひいては下流のアセンブリおよび調整をかなり簡素化する。
【0017】
追加の機能性(複数)は、好ましくは、光学的機能性(複数)、特に、光吸収及び/又は反射及び/又は屈折及び/又は散乱要素(複数)、若しくは、電気的機能性(複数)から選択される。
【0018】
従来技術とは対照的に、光硬化、すなわち、光化学的に架橋可能な、無機-有機ハイブリッドポリマー(ORMOCER)が、純粋な有機ポリマーの代わりに、プリント材料として使用される。これは、無機成分を有し、当該無機成分は、より良い光学的特性をもたらし、温度の影響および経年劣化の他の兆候、特に黄変に対する安定性を増大させる。加えて、無機-有機ハイブリッドポリマーの材料クラスは、プリンティングパラメータおよび部品の特性に関して適合させることができ、その結果、プリントされた光学器具の特性は、概して、先行技術と比較して大幅に改善され得る。これは、例えば、光化学の採用による層境界の減少、材料固有の自己平滑化効果によるより滑らかな表面、可視スペクトル領域での透過率の増加などに関係する。
【0019】
無機-有機ハイブリッドポリマーは、以下の一般式(I)の1つ又は複数のアルコキシ‐またはヒドロキシシランの加水分解および重縮合によって生成される:
RxSi(OR′)4-x (I)
上記の一般式(I)において、
R=有機基;C1‐C8から、特にメチル、エチル、イソプロピル、tert‐ブチル、シクロヘキシル、フェニルから選択され、任意で、官能化され、特にビニル、アリル、グリシジルオキシプロピル、[2‐(3, 4‐エポキシシクロヘキシル)エチル]トリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピル、スチリル、チオレン、ノルボネンで官能化される、
R′=H、C1‐Cx‐アルキル、特にメチルまたはエチル、
シリコンは、少なくとも部分的にジルコニウム及び/又はチタンによって置き換えることができる。
【0020】
用いられる無機-有機ハイブリッドポリマーは、前駆体としてのアルコキシシランの加水分解およびその後の縮合によって生成される。これにより、Si‐O単位からなる無機物の骨格に、共有結合で有機官能基が結合している。3Dプリント可能な無機-有機ハイブリッドポリマーの場合、これらは、紫外線架橋基、特にアクリレートやメタクリレートを含む。このようなハイブリッドポリマーは、通常、フォトレジストであり、数マイクロメートルの薄い層で塗布されかつ(ミクロ)構造化される。3Dプリンティングプロセスでの層構築により、これらの材料を固形体(ソリッドボディ)に加工することができる。
【0021】
好ましい実施形態は、プリント材料が、機能性粒子を備えることを提供し、特に:
・高屈折率を、好ましくは酸化ジルコニウムまたは酸化チタンを有する粒子、またはレーザ吸収を増加させるためのナノ粒子
・光変換、特に増幅及び/又は波長変換粒子
・散乱粒子
・熱伝導率、分散、熱膨張を調整するための粒子
・標識としての粒子、又は、
・それらの組合せ、を備える、
ことを提供する。
【0022】
好ましくは、機能性粒子として、ナノ粒子、すなわち、最大粒子径が1000nmまでの粒子が用いられる。
【0023】
3Dプリンティングは、好ましくは、インクジェットプリンティングプロセス、ステレオリソグラフィまたはデジタルライトプロセッシング(DLP)技術によって行われる。
【0024】
インクジェットプリンティングプロセスによって三次元の構造を生成する場合、以下のプロセスステップが好ましくは実施される:
(1)無機-有機ハイブリッドポリマーを備えるプリント材料の複数の液滴を基材の方向に吐出させ、当該液滴を互いに隣り合わせて堆積させて層を形成するステップ
(2)照射、好ましくはUV放射または青色LED照明による前記層内の複数の液滴の光化学硬化のステップ
ステップ(1)および(2)は、所望の三次元の構造が構築されるまで繰り返される。
【0025】
あるいは、複数の液滴を吐出し、3Dボディの外側輪郭を、一層ずつ光化学的に硬化させることによって、当該外側輪郭を一層ずつ製造することも、本発明の一部である。ここで、当該構造の体積は、その後、無機-有機ハイブリッドポリマーに浸され、再度露光される。
【0026】
用いられる無機-有機ハイブリッドポリマーの選択は、一方では、上述の素子特性が実装されるように、かつ、他方では、それぞれのプリンティングプロセスと協調して行われる。一般に、全ての無機-有機ハイブリッドポリマーが3Dプリンティングによってベースボディに加工できるわけではない。インクジェットプリンティングの場合、例えば、合成プロセス(前駆体の選択)、またはその粘度に関して反応性シンナーの添加は、それが好ましくは室温で10~50mPasであるように、調整されなければならない。好適な反応性シンナー、すなわちプリンティングプロセスにおいて架橋する分子は、例えば、DDDMA(ドデカンジオールジメタクリレート)またはエチルメタクリレート(EMA)であり得る。さらに、無機-有機ハイブリッドポリマーは、光化学的に硬化可能で、かつ、(プリンティングプロセスにおける層間隔に対応する)厚い層での加工に適していなければならない。
【0027】
驚くべきことに、特定の設計タイプのハイブリッドポリマーを用いて素子を層状に製造することにより、他の製造プロセスでは内部材料応力によりクラックが生じ得るような巨視的なボディを構築することができる。
【0028】
本発明に係る更なる実施形態は、ステレオリソグラフィによって三次元の構造を生成する場合に、以下の方法ステップが実施されることを提供する:
(1)槽内で支持構造上にプリント材料を準備するステップ
(2)ラスター集束(UV)光源で槽の底を通じてプリント材料を層ごとに露光して1つの層を硬化させるステップ
(3)プリント材料の形成された層と共にキャリア構造を動かして、当該形成された層上でプリント材料の次の層が露光されるようにするステップ
ステップ(2)~(3)は、所望の三次元構造が構築されるまで、繰り返される。
【0029】
本発明に係る更なる実施形態は、デジタルライトプロセッシング(DLP)技術によって三次元の構造を生成する際に、以下の方法ステップが実施されることを提供する:
(1)槽内で支持構造上にプリント材料を準備するステップ
(2)室内光変調器付きの光源で槽の底を通じてプリント材料を層ごとに露光して1つの層を硬化させるステップ
(3)プリント材料の形成された層と共にキャリア構造を動かして、当該形成された層上でプリント材料の次の層が露光されるようにするステップ
ステップ(2)~(3)は、所望の三次元の構造が構築されるまで、繰り返される。
【0030】
体積内の領域改変は、10ps未満の超短レーザパルスを用いて、改変される領域上で、レーザ光を放出し集束させることによって行われることが好ましく、当該領域改変は、超短レーザパルスを通じて、当該構造の表面上及び/又は体積内で行われることが好ましい。レーザパルスは、好ましくは、1~500kHzのパルス繰返し周波数及び/又は10~3000nJのパルスエネルギーを有する。レーザ波長は、好ましくは、300~2200nmの範囲内にある。焦点におけるレーザビーム径は、好ましくは30μm未満の範囲内にある。
【0031】
超短レーザパルスによって、好ましくは、無機-有機ハイブリッドポリマーの有機成分の炭化が行われ、それによって、改変すべき領域を黒化させ、及び/又は、それに導電性を持たせる。
【0032】
プリントされた光学素子のすでに改良された特性に加えて、プリント材料として好適な無機-有機ハイブリッドポリマーの選択は、さらなる機能性(複数)の統合を可能にするので、光学系を、デジタルプロセスを介して作成することができる。特定の機能性は、プリント材料とレーザ放射との相互作用を通じたプリントされたボディの体積内における吸収性構造の製造である。この目的のために、レーザが光学系によって、プリントされたボディ内に集束される。体積内の相互作用が、超短レーザパルスの非線形吸収プロセスを経て生じて、このプロセスにより、次いで、プリント材料の微視的材料改変がもたらされる。使用される集束光学器具および使用されるレーザパラメータによって、この改変の幾何学的特性を操作することができ、単一パルスによってもたらされる改変は、材料内の焦点と試料表面との間の距離に依存する。試料表面下の一定の加工深さで個々のパルスによってもたらされる複数の改変の組合せは、結果的に、プリント材料の巨視的な材料改変を可能にする。これは、試料表面下の異なる加工深さで行うこともできるが、均質な巨視的材料改変に関しては、深さに応じたレーザ加工制御を必要とする。ゴースト像や不要な反射を避けるための吸収構造に関して、レーザ誘起材料改変は、具体的には炭化、すなわち有機ORMOCER(商標)の成分の分解であり、これは広帯域吸収(=ダーク)構造として体積内に生じる。巨視的に処理された領域を通る総吸収/透過は、プロセスパラメータを適応させること及び/又は改変を、所定の方法で、複数回、同一の箇所又は近接した領域のいずれかでもたらすことによって、設定することができる。
【0033】
固体中の吸光挙動を改変し、したがって、デジタル処理で規定された領域を黒化するためのレーザ誘起相互作用をより良く制御するために、ナノ粒子を追加することも考えられる。この材料技術アプローチは、プリント材料の屈折率を調整することをさらに可能にする。
【0034】
また、レーザ誘起炭化をもたらすことは、改変された領域が導電性を持つという利点もある。その結果、これにより、光吸収構造の統合だけでなく、例えば統合された電気光学部品、発熱体、またはセンサー等に接触するための導電体トラックのその後の統合も可能になる。
【0035】
三次元の構造の領域改変は、好ましくは、以下のステップのうちの少なくとも1つである:
・レーザ放射によって、構造の表面上及び/又は体積内に、光吸収及び/又は反射及び/又は屈折及び/又は散乱要素(複数)を生成するステップ
・プラズマエッチングによる構造の表面の反射防止コーティングのステップ
・インクジェットプリンティングプロセスと、その後の熱的後処理及び/又は光的後処理(例えばフラッシュランプ照明またはレーザ後処理)とにより反射要素を生成するステップ、プリンティングプロセスは金属(ナノ)粒子、特に好ましくは銀(ナノ)粒子を用いて実施されることが好ましい
・インクジェットプリンティングプロセスによって色消し要素を生成するステップであって、インクジェットプロセスプロセス中、第1プリント材料は、当該第1プリント材料とは異なる屈折率を有する別のプリント材料によって少なくとも一時的に置き換えられるステップ
・それらの組合せ。
【0036】
本発明によれば、光学素子も提供され、それは、3Dプリンティングによって、無機-有機ハイブリッドポリマーから製造された三次元の構造を備え、当該構造は、少なくとも1つの領域を有し、当該領域は、追加の機能性を表面上及び/又は体積内に有する。
【0037】
追加の機能性(複数)は、光学的機能性(複数)、特に光吸収及び/又は反射及び/又は屈折及び/又は散乱構造(複数)、若しくは、電気的機能性(複数)、特に電気伝導性から選択されることが好ましい。
【0038】
三次元の構造の追加の機能性(複数)は、以下から選択されることが好ましい:
・当該構造の反射面、特に金属(ナノ)粒子、好ましくは銀(ナノ)粒子から形成される反射面
・プラズマエッチングによる光学素子の表面上の反射防止コーディング
・当該構造の表面上及び/又は体積内の光屈折要素
・当該構造の表面上及び/又は体積内の光散乱要素
・当該構造の表面上及び/又は体積内の光吸入要素、特に、開口絞り
・当該構造の表面上及び/又は体積内の色消し要素、および、
・それらの組合せ。
【0039】
無機-有機ハイブリッドポリマーから光学系を3Dプリンティングによって他のデジタルプロセスと組合せて製造する基本的なアプローチは、更に複雑な機能性(複数)の統合を可能にする。プリント材料が、追加の機能材料およびプロセスに適合しており、これが化学によって達成できる場合、追加の機能性(複数)は、個々の層プリンティング間のプリンティングプロセスまたはプリントされたボディの完成後のいずれかで実装され得る。
【0040】
全体として、このアプローチの利点は、一方では、具体的には、三次元でプリントされた部品の利点に由来する。他方、さらなる顕著な利点は、プリント材料およびプロセス管理(3Dプリンティング、レーザプロセス)の選択から生じる機能の統合から生じる。
これらの利点は:
・軽量化および小型化
・低コスト
・純粋なポリマーベースのプリント材料と比較して材料特性の大幅な改善(温度安定性、黄変、、、)。
・信頼性の向上
・屈折面及び統合された吸収体構造/バッフルに関する設計が完全に自由
・ゴースト像及び/又は不要な反射がないこと
・機能密度の大幅な向上、および、従来は光学系への組込みが非常に困難または不可能だった機能(例えばミラー、吸収体構造など)の追加
・光学特性の向上:層境界での(屈折/散乱)低減、低表面粗さ、層の追加塗布なしでのAR層
・ツール調整なしでバッチサイズ1まで設計
【0041】
本発明に係る主題は、ここに示される特定の実施形態に限定することを望まずに、以下の図および実施例を用いて、より詳細に説明されることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図2】本発明に係る光学素子の透過スペクトルを石英ガラス及びPMMAと比較して示す。
【
図3】統合された機能領域(吸収構造)を有する本発明に係る光学素子の写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1は、無機-有機ハイブリッドポリマー(ORMOCER)からなる本発明に係る光学素子の写真である。画像からわかる通り、光学素子は、高い透明度を有し、しかも材料は黄変していない。さらに、上部の表面は自由曲面である。
【0044】
図2は、本発明に係る光学素子の透過スペクトルを示す。測定を、厚さ3mmの3Dプリント平面平行プレート(材料1:市販のORMOCER;材料2:DDDMA含有の改変されたORMOCER)で行った。参考として、スペクトルは、厚さ1mm(材質3)及び5mm(材質4)のPMMAプレートの透過率を示し、純粋な無機材料の参照として、石英ガラスの透過率を示す。データは、400~1100nmの波長領域における3Dプリントされたボディの透過率が古典的に処理された材料のそれと同程度であることを実証している。これは、3Dプリンティングプロセス(ここでは、インクジェット)で適切なORMOCERを用いた場合に、透過(散乱/屈折層境界の回避)に関して高い光学品質を示している。
【0045】
図3は、統合された機能領域を有する本発明に係る光学素子の写真である。縦型吸収体構造は光学素子の左側に統合され、横型吸収体構造は光学素子の右側に統合され、この吸収体構造は灰色領域として見ることができる。
【0046】
実施例
3-(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート、ジフェニルジメトキシシラン、メトキシトリメチルシランを、モル比1:1:1.75で、HClの助けを借りて酸性加水分解/縮合反応させる。作業終了後、得られた樹脂をドデカンジオールジメタクリレートで40mPasの粘度に調整し、適切な光開始剤を添加する。
【0047】
次いで、この材料組成物を、インクジェットプロセスによってプリントして、三次元のベースボディを形成する。これは、10μmの層厚で一層ずつ行われ、それぞれのプリント層を、実際のプリンティングプロセスの後2秒間、UVLED(波長:405nm)によって露光し、すなわち硬化し、次いで、ハイブリッドポリマーを有するプリントヘッドを、層間距離分、キャリアから出す。三次元の構造は、プリンティング(ベースボディのコンピューターモデルによる現在位置に従ったプリンティング)、露光、キャリアの除去を複数回繰り返すことで、作成される。これは、典型的には、全厚さ1mmに対して、可視スペクトル範囲で90%より大きい透明度を有する。
【0048】
次いで、それを、構造の体積内における改変をレーザ誘起で生じさせるためにレーザ書込みシステムに導入される。そこでは、焦点直径1.6μm、0.35~1.5psの間のパルス持続時間、1~500kHzの間のパルス繰返し周波数で、超短パルスレーザ(波長1030nm)を、開口数0.4で、体積内に集束する。次いで、レーザ焦点を、生じることとなる体積改変を示すデジタルデータに従って、10~3000nJの間のパルスエネルギーで、3Dプリントされたボディを通る様々な軌道(XY方向又はYZ方向又はXZ方向)に沿って案内する。ゴースト像および不必要な反射を避けるための吸収構造に関して、レーザ誘起による材料改変は、具体的には、炭化、すなわち、有機ハイブリッドポリマー成分の分解でよく、広域吸収構造として体積内に現れる。炭化しきい値以下の材料の僅かな改変は、光屈折または散乱構造を導入するために使用される。
【0049】
このようにして製造された成形ボディは、さらなる機能を含んでよい。この成形ボディ上で、異なるアッベ数を有する異なるハイブリッドポリマーを用いた追加の3Dプリンティングプロセスが可能である。製造は、基本的には、照射波長、持続時間および層間隔に関して、比較可能な実験条件下で行われる。アッベ数が異なる2つの材料の組合せは、光学において知られており、色補正された光学機器の製造を可能にする。
【0050】
さらに、銀ナノ粒子を有するインクを1つ又は複数の層内にプリントするために、ハイブリッドポリマーを用いたプリンティングプロセスが中断されてよい。プリントされたナノ粒子は、反射層を形成するために焼結されなければならず、最も単純な場合、温度200℃、持続時間30分で、オーブン内にて行われる。
【0051】
あるいは、焼結はレーザ放射によって行われる。レーザ放射が、プリントされた層に適用され、放射は粒子に吸収されて熱に変換される。これは粒子の焼結につながる。連続照射のまたは1nsより大きいパルス長のパルスレーザのシステムが、200~3,500nmの間や9,000~11,000nmの間のレーザ波長で用いられる。基板が静止したレーザビーの下方で動かされるか、基板またはレーザビームを動かすことなくプリントされた面が完全に処理されるか、及び/又は、レーザビームが静止した基板の上方で動かされるかのいずれかである。例えば、基板を動かすこととレーザビームを動かすこととの組合せが可能である。具体例において、レーザ焼結は、ファイバレーザ(発光波長1070nm、連続波、出力32.7W)によって行われ、ここで、集束レーザビーム(集束光学機器の焦点距離254mm、焦点におけるスポット直径860μm)は、ナノ粒子の層を蛇行状に走査する(走査速度4000mm/s、トラックピッチ50μm)。
【0052】
プラズマエッチングが、プリントされた光学素子から形成された形成屈折面を反射防止するために使用され得る。Ar/O2プラズマが、500sの間、素子の表面に作用し、その結果、10~150nmの孔径および50~200nmの深さを有する多孔質構造が作られる。このモスアイ(moth eyes)と呼ばれるものは、表面の反射を広帯域で4%減少させることにつながる。