(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】被覆鋼基材、被覆鋼基材板の製造方法、鋼製品の製造方法及び鋼製品
(51)【国際特許分類】
C23C 28/02 20060101AFI20240122BHJP
C21D 7/06 20060101ALI20240122BHJP
C21D 8/00 20060101ALI20240122BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20240122BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240122BHJP
C22C 27/06 20060101ALI20240122BHJP
C22C 38/50 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
C23C28/02
C21D7/06 A
C21D8/00 A
C22C38/58
C22C38/00 302X
C22C27/06
C22C38/50
(21)【出願番号】P 2022504745
(86)(22)【出願日】2020-03-20
(86)【国際出願番号】 IB2020052577
(87)【国際公開番号】W WO2020188529
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2019/052260
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(73)【特許権者】
【識別番号】521436773
【氏名又は名称】ルクセンブルク・インスティトゥート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー(リスト)
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユリオ,トマ
(72)【発明者】
【氏名】ショケ,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】エルショフ,セルゲイ
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-302180(JP,A)
【文献】特表2003-535976(JP,A)
【文献】特開平10-251869(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105862003(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 4/00
C23C 14/00
C23C 16/00
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
40重量%を超えるクロム、並びに任意にイットリウム、ケイ素、カルシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ及びニッケルから選択される1種又は数種の元素を各元素につき10重量%未満の量で含み、残余はクロムである第1の被膜、及び2~30重量%のアルミニウム、10~40重量%のクロム、並びに任意にイットリウム、ケイ素、カルシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ及びニッケルから選択される1種又は数種の元素を各元素につき10重量%未満の量で含み、残余は鉄であり、第1の被膜上の第2の被膜で被覆された被覆鋼基材であって、鋼基材は、0重量%を超え2.0重量%以下のCrを含む被覆鋼基材。
【請求項2】
鋼基材は重量パーセントで以下の化学組成、
C≦2.0%、
Al≦2.0%、
及び純粋に任意ベースで、
Mn≦2.5%、
Si≦2.5%、
P<0.1%、
Nb≦0.5%、
B≦0.005%、
S≦0.02%、
N≦0.1%、
Mo≦0.50%、
Ni≦1.0%、
Ti≦0.5%
のような1種以上の元素、
組成の残余は鉄及び精錬から生じる不可避の不純物で構成される、
を有する、請求項1に記載の被覆鋼基材。
【請求項3】
鋼基材が0重量%を超え、1.0重量%以下のアルミニウム量を含む、請求項2に記載の被覆鋼基材。
【請求項4】
鋼基材が0重量%を超え、1.0重量%以下のクロム量を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の被覆鋼基材。
【請求項5】
第1の被膜がクロムからなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の被覆鋼基材。
【請求項6】
第1の被膜が0.5μm~1000μmの間の厚さを有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の被覆鋼基材。
【請求項7】
第1の被膜がクロムを含む少なくとも2層を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の被覆鋼基材。
【請求項8】
第2の被膜が15~30重量%のクロムを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の被覆鋼基材。
【請求項9】
第2の被膜が8~20重量%のアルミニウムを含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の被覆鋼基材。
【請求項10】
第2の被膜が0.5μm~1000μmの間の厚さを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の被覆鋼基材。
【請求項11】
第1の被膜の厚さが第2の被膜の厚さよりも薄い、請求項1~10のいずれか一項に記載の被覆鋼基材。
【請求項12】
第2の被膜が、2~30重量%のアルミニウム、10~40重量%のクロム、並びに任意にイットリウム、ケイ素、カルシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ及びニッケルから選択される1種又は数種の元素を各元素に対して10重量%未満の量で含み、残余が鉄である少なくとも2層を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の被覆鋼基材。
【請求項13】
鋼基材が、ビームブランク、スラブ、ビレット及びブルームからなる群から選択される半完成品である、請求項1~12のいずれか一項に記載の被覆鋼基材。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の被覆鋼基材の製造方法であって、以下の工程
A. 請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼基材を提供する工程、
B. 40重量%を超えるクロム、並びに任意にイットリウム、ケイ素、カルシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ及びニッケルから選択される1種又は数種の元素を各元素につき10重量%未満の量で含み、残余はクロムである第1の被膜を堆積させる工程、
C. 2~30重量%のアルミニウム、10~40重量%のクロム、並びに任意にイットリウム、ケイ素、カルシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ及びニッケルから選択される1種又は数種の元素を各元素につき10重量%未満の量で含み、残余は鉄である第2の被膜を第1の被膜上に堆積させる工程、及び
D. 任意に、工程B)及び/又はC)の前に実施される鋼表面での準備工程
を含む方法。
【請求項15】
第1及び第2の被膜の堆積が、物理蒸着(PVD)、コールドスプレー、化学蒸着(CVD)、溶融メッキ、及び電着からなる群から選択される堆積によって、互いに独立して行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程D)において、準備工程が、イオン、電子、金属クラスター、光、及びエネルギープラズマからなる群から選択される鋼表面の物理衝撃を用いて、又は酸洗いである化学的処理、或いはショットブラスト処理を用いて実施される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
工程B)及び/又はC)において、第1及び/又は第2の被膜が少なくとも2層を含む場合、各層について工程B)及び/又はC)が実施される、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
第1及び/又は第2の被膜が少なくとも2層を含む場合、工程D)が各層の堆積の前に実施される、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
以下の連続工程 I. 請求項1~13のいずれか一項に記載の又は請求項14~18のいずれか一項に従って得られる被覆鋼基材を提供する工程、
II. 該被覆鋼基材を、850~1400℃の間の温度で酸素を含む雰囲気を有する再加熱炉内で再加熱する工程、
III. 任意に、工程II)で得られた再加熱された被覆鋼基材のスケールを除去する工程、及び
IV. 任意に、スケールが除去された鋼製品を熱間成形する工程
を含む鋼製品の製造方法。
【請求項20】
工程II)において、再加熱を1200~1400℃の間の温度で行う、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
工程IV)において、熱間成形が、熱間圧延、熱間押出、ホットスタンピング又は熱間曲げである、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
海洋構造物、洋上風力発電、海流発電、ボートの船体、沿岸及び港湾のインフラ、岸壁、地下構造物、レール及び停泊地の製造のため
の請求項19又は21のいずれかに従って得られる鋼製品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆鋼基材、この被覆鋼基材の製造方法、鋼製品及びこの鋼製品の製造方法に関する。本発明は、産業、土木及び建築現場に特によく適している。
【背景技術】
【0002】
産業、土木及び建築現場では、鋼製品が金属部品として、特に海洋金属構造物に多く使用されている。例えば、金属部品は、鋼製の杭、支持杭、複合壁の建設に使用される板及び梁、防波堤、洋上風力発電の部品、又は海洋構造物であることができる。これらの鋼製品の主な問題は、耐食性である。実際、鋼製品は腐食性の領域、すなわち海域で使用される。これらの腐食性の領域のため、このような鋼製品の地上での使用と比較すると、このような鋼製品の寿命は5で割ることができる。したがって、特に腐食性雰囲気中でのそれらの寿命を改善するために、より高い耐食性を有する金属基材を提供する必要がある。
【0003】
これらの鋼製品を保護するために、いくつかの保護物を使用することができる。例えば、犠牲厚さ(寿命は鋼製品の厚さに依存する)を有するこれらの鋼製品を製造することが知られている。しかし、たとえ犠牲厚さがこれらの鋼製品の寿命を改善したとしても、それらは実際には耐食性を改善するものではない。また、塗料又は溶融亜鉛メッキによる亜鉛被膜等の金属被膜を堆積させることが知られている。しかし、これらの堆積処理は非常に費用がかかり、特に長くて重い製品については産業規模で実施することは困難である。
【0004】
実際、例えば、溶融亜鉛メッキ処理では、通常、コイルは、最初に焼鈍され、次いで溶融亜鉛メッキラインの亜鉛浴中で溶融メッキされる。実際のラインでは、梁又は杭等の長い製品を覆うことは難しい。
【0005】
実際、例えば、鋼製の杭は約1250℃の熱間圧延によって製造される。「ビームブランク」と呼ばれる半製品は、ウォーキングビーム炉を通過する。次いで、再加熱中に形成されたスケールがビームブランクから除去される。ブランクは圧延機を通過する。その後、鋼製の杭の長さは約100mである。次いで、鋼製の杭を切断し、最終的に約20mの長さを得る。鋼製の杭は最終的に冷却され、海中の土壌中で実施することができる。鋼製の杭の長さ及び形状のために、鋼製の杭は連続溶融亜鉛メッキラインでは溶融メッキできない。
【0006】
また、再加熱工程中は、半完成品はスケールの形態で酸化される。スケールは通常、半完成品の表面の周囲全てに形成される。したがって、スケール除去工程中に大量のスケールが除去され、その結果、鋼製品の重量損失が生じる。
【0007】
特許出願JPH0413862号は、厚さ0.1μm以上のCr又はCr合金メッキ層及び厚さ0.1μm以上のAl又はAl合金メッキ層で被覆された被覆鋼材を開示する。この被覆鋼材は、インライン連続加熱炉で500℃超かつ650℃までの温度で短時間熱処理される。熱処理によりAlメッキ層とCrメッキ層との間に相互拡散が生じ、良好な耐熱性及び耐食性が得られる。鋼/被膜界面でのFe-Al金属間化合物の形成は阻害され、変形中の亀裂が減少する。
【0008】
しかし、加熱の温度範囲は非常に低い。これらの被膜は、高温で再加熱炉に滞留しなければならない鋼基材には使用できない。実際、650℃を超えると、Cr層とAl層との間の拡散が何よりも重要であることが、この特許出願において言及されている。そのため、それらは鋼板にも拡散し、AlはFe-Al系金属間化合物を形成し、これは加工中に亀裂を生じ、耐熱性及び耐食性の劣化を引き起こす。
【0009】
特許出願JPH02236272号は、厚さが0.1μm以上のCr又はNi又はCoを含むCrの合金、さらにAlの層又はCr、Ti、Ni、Co等を含む合金層(かかる合金層は、0.1μm以上の厚さを有する)で被覆した被覆鋼材を開示する。Cr系及びAl系からなる2層を有する鋼製品は非酸化性雰囲気において200~500℃で熱処理される。この熱処理によりCr層とAl層との間に相互拡散が生じる。鋼/被膜界面でのFe-Al金属間化合物の形成は阻害される。加工時のCr系の蒸着層の亀裂の発生は拡散層により防止され、亀裂に基づく腐食は減少する。この2層を被覆した鋼製品は、Crにより生じる耐熱性及びAlにより生じる良好な外観を有する。
【0010】
しかし、アルミニウム及びクロムの酸化を防ぐために、加熱は非酸化雰囲気で行われる。非酸化性雰囲気は、オンラインでの再熱炉での実施が困難である。実際、通常、再熱炉の雰囲気は空気を含む。また、加熱の温度範囲は非常に低い。これらの被膜は、再加熱炉内の鋼基材に使用できない。実際、この特許出願では、500℃を超えると、拡散はCrとAl層の間だけでなく、鋼板からの鉄とも生じることが言及されている。これはFe-Al系金属間化合物の形成につながり、これは加工中に亀裂を生じさせ、耐熱性及び耐食性の劣化を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平04-13862号公報
【文献】特開平02-236272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これにより、本発明の目的は、圧延前の再加熱工程中の半製品の酸化による重量損失が低減された被覆鋼基材を提供することである。また、その目的は、特に腐食性環境において、耐食性を向上させ、このためより長い寿命時間を有する鋼製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、請求項1~14のいずれか一項に記載の被覆鋼基材を提供することによって達成される。
【0014】
別の目的は、請求項15~19のいずれか一項に記載の被覆鋼基材の製造方法を提供することによって達成される。
【0015】
別の目的は、請求項20~22に記載の鋼製品の製造方法を提供することによって達成される。
【0016】
この目的は、請求項23~28のいずれか一項に記載の鋼製品を提供することによって達成される。
【0017】
最後に、請求項29に記載の鋼製品の使用を提供することによって、前記目的が達成される。
【0018】
本発明を示すために、非限定的な例の様々な実施形態及び試験例を、特に以下の図を参照しながら記述する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図3】本発明による再加熱後の鋼製品の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになる。
【0021】
以下の用語を定義する。
-「重量%」は重量パーセントを意味する。
【0022】
図1に示すように、本発明は、40重量%を超えるクロムを含む第1の被膜及び2~30重量%のアルミニウム、10~40重量%のクロムを含み、残余は鉄である第2の被膜で被覆された鋼基材であって、鋼基材は2.0重量%以下のCrを含む鋼基材に関する。
【0023】
いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、鋼基材が、クロムからなる第1の被膜及び2~30重量%のアルミニウム、10~40重量%のクロムを含み、残余は鉄である第2の被膜で被覆される場合、第1の被膜及び第2の被膜は共に作用して酸化を著しく制限し、このため被覆鋼基材の再加熱中のスケール形成を減少させるので、再加熱中に鋼基材が良好に保護されるようである。また、それらはクロムが鋼中に拡散することを可能にし、鋼の耐食性を増加させ、このため鋼基材の寿命を延ばす。
【0024】
好ましくは、鋼基材は重量パーセントで以下の化学組成を有する。
C≦2.0%、
Al≦2.0%、
及び純粋に任意ベースで、
Mn≦2.5%、
Si≦2.5%、
P<0.1%、
Nb≦0.5%、
B≦0.005%、
S≦0.02%、
N≦0.1%、
Mo≦0.50%、
Ni≦1.0%、
Ti≦0.5%
のような1種以上の元素、
組成の残余は鉄及び精錬から生じる不可避の不純物で構成される。
【0025】
実際、いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、鋼中のAl及びCrの量が2.0重量%を超えると、鋼中のCrの拡散を低減する危険性があるため、好ましい鋼中のAl及びCrの量は2.0重量%未満であると考えられている。
【0026】
好ましくは、鋼基材は、1.0重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下のアルミニウム量を含む。実際、いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、鋼基材中のアルミニウムの濃縮は主に第2の被膜で提供できると考えられる。アルミニウムの濃縮は耐酸化性の改善を可能にすると考えられる。
【0027】
好ましくは、鋼基材は1.0重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下のクロム量を含む。実際、いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、鋼基材中のクロムの濃縮は主に第1の被膜で提供されると考えられる。クロムの濃縮は耐食性の改善を可能にすると考えられる。
【0028】
有利なことに、第1の被膜はクロムからなり、これはクロムの量が99重量%以上であることを意味する。
【0029】
好ましくは、第1の被膜は、0.5μm~1000μmの間、より好ましくは0.5μm~500μmの間、有利には1.0μm~200μmの間の厚さを有する。実際、いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、第1の被膜の厚さが1000μmを超えると、鋼へのクロムの拡散が何よりも重要であり、鋼の機械的特性の変更につながる危険性があると考えられる。
【0030】
図2に示されるように、有利には、第1の被膜は、クロムを含む少なくとも2つの層21、22を含む。この場合、クロムの多くの層が堆積されて、クロムからなる第1の被膜を形成する。
【0031】
好ましくは、第2の被膜は、2~30重量%のアルミニウム、10~40重量%のクロムを含み、残余が鉄である少なくとも2層を含む。
図2は、第2の層が、2~30重量%のアルミニウム、10~40重量%のクロムを含み、残余が鉄である3層31、32及び33を含む例を示す。
【0032】
第1の被膜及び/又は第2の被膜の少なくとも2層が堆積される場合、それらは曲がりくねった経路の形態であると考えられる。このように、被膜を通る酸素拡散は非常に制限されており、スケール形成の重大な減少及び鋼基材の著しい重量増加を可能にすると思われる。
【0033】
好ましくは、第2の被膜は15~30重量%のクロムを含む。
【0034】
有利には、第2の被膜は8~20重量%のアルミニウムを含む。
【0035】
好ましくは、第2の被膜は、0.5μm~1000μmの間、より好ましくは0.5μm~500μmの間、有利には1.0μm~200μmの間の厚さを有する。実際、いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、第2の被膜の厚さが1000μmを超える場合、被膜の障壁効果を減少させ、このため再加熱炉中の酸素吸収を増加させる危険性があると考えられる。
【0036】
好ましくは、第1の被膜の厚さは第2の被膜の厚さよりも薄い。
【0037】
好ましくは、第1及び/又は第2の被膜はさらに、イットリウム、ケイ素、カルシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ及びニッケルの中から選択される少なくとも1種の追加元素を含む。これらの元素は、再加熱中の被膜表面に形成された酸化物の接着性をさらに改善すると思われる。好ましくは、少なくとも1種の元素の量は10重量%未満、より好ましくは8重量%、有利には4重量%、例えば、2重量%未満又は1重量%未満である。したがって、有利には、少なくとも1種の元素の量は0.1重量%を超える。鋼は酸素、したがって酸化から十分に保護されると考えられる。
【0038】
有利には、基材は、ビームブランク、スラブ、ビレット又はブルーム等の半完成品である。
【0039】
本発明の別の目的は、以下の工程を含む本発明による被覆鋼基材の製造方法に関する。
A. 本発明による鋼基材を提供する工程、
B. 本発明による第1の被膜を堆積させる工程、
C. 本発明による第2の被膜を堆積させる工程、
D. 任意に、工程B)及び/又はC)の前に実施される鋼表面での準備工程。
【0040】
好ましくは、第1及び第2の被膜の互いに独立した堆積は、物理蒸着(PVD)、コールドスプレー、化学蒸着(CVD)、溶融メッキ又は電着によって行われる。
【0041】
任意に、準備工程が工程Dで実施される。この工程は、鋼基材上及び/又は第1の被膜上に不連続な微細組織を提供して、鋼基材への酸素の拡散を遅らせると考えられる。
【0042】
好ましくは、工程D)において、準備工程は、イオン、電子、金属クラスター、光、エネルギープラズマをはじめとする鋼表面の物理衝撃を用いてるか、又は酸洗いのような化学的処理を用いて行う。それはグリットブラスト又はサンドブラストのようなショットブラストによって行うこともできる。
【0043】
好ましくは、工程B)及び/又はC)において、第1及び/又は第2の被膜(複数可)が少なくとも2層を含む場合、工程B)及び/又はC)は各層について実施される。
【0044】
好ましくは、第1及び/又は第2の被膜が少なくとも2層を含む場合、工程D)は、各層の堆積の前に行う。
【0045】
本発明の別の目的は、以下の連続工程を含む鋼製品の製造方法に関する。
I. 本発明の被覆鋼基材を提供する工程、
II. 被覆鋼基材を、温度850~1400℃で酸素を含む雰囲気を有する再加熱炉内で再加熱する工程、
III. 任意に、工程II)で得られた再加熱被覆鋼のスケールを除去する工程、及び
IV. 任意に、スケールが除去された鋼製品を熱間成形する工程。
【0046】
再加熱工程II)は、850~1400℃の間、好ましくは1200~1400℃の間の温度で実施される。
図3に示されるように、加熱後、鋼基材31は、アルミニウム、クロム、並びに任意にイットリウム、ケイ素、カルシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ及びニッケルから選択される1種又は数種の元素を含み、残余は鉄であり、少なくとも酸化アルミニウムを含む酸化物層33によって直接覆われた合金被覆層32で被覆され、合金被覆層及び鋼は拡散によって合金化されると考えられる。この酸化物層は酸素に対する障壁のように働き、スケールの形成を減少させる。酸化物層はさらに、クロム酸化物及び/又は鉄酸化物を含むことができる。有利には、酸化物層は、Al
2O
3、Cr
2O
3、FeAl
2O
4及びFeCr
2O
4から選択される少なくとも1種の酸化物を含む。また、この酸化物層はクロム34が鋼基材中に拡散することを可能にし、このため鋼の耐食性を増加させるようである。
【0047】
任意に、工程III)の間に、圧力下の水を用いてスケール除去を行うか、又はスケール除去を機械的に行う。好ましくは、水圧は100~150barの間である。スケール除去を行う場合、合金化被膜及び酸化物層は除去されると考えられる。
【0048】
好ましくは、工程IV)において、熱間成形は、熱間圧延、熱間押出、ホットスタンピング又は熱間曲げである。
【0049】
好ましくは、工程II)において、雰囲気は空気雰囲気である。
【0050】
本発明の方法により、鋼製品が得られ、該鋼製品はその鋼製品の表面から始まる、減少するクロムの勾配を含む。前記鋼製品は、アルミニウム、クロム、並びに任意にイットリウム、ケイ素、カルシウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ及びニッケルから選択される1種又は数種の元素を含み、残余は鉄であり、少なくとも酸化アルミニウムを含む酸化物層で直接覆われた合金化被覆層で被覆され、合金化被覆層及び鋼は拡散により合金化される。
【0051】
より正確には、減少するクロムの勾配は以下のように説明できる。
- 鋼製品表面から始まり、10~40重量%のクロムを含み、好ましくは鋼製品表面から30~60μm下に延びる第1の領域、
- 第1の領域から始まり、10重量%未満のクロムを含み、好ましくは第1の領域から鋼へ20~50μm下に延びる第2の領域。
【0052】
好ましくは、鋼製品は、鋼表面から延びる第1の領域において15重量%未満のクロムを含む。
【0053】
好ましくは、鋼製品は熱間成形される。例えば、鋼製品は、熱間圧延、熱間押出、ホットスタンピング又は熱間曲げ加工される。
【0054】
好ましくは、鋼製品は、杭、ワイヤ、棒、板、管、レール、コーナー、プロファイル及び梁から選択される。
【0055】
好ましくは、鋼製品は、杭、ワイヤ、板、管及び梁から選択される。
【0056】
最後に、本発明の目的は、海洋構造物、洋上風力発電、海流発電、ボートの船体、沿岸及び港湾のインフラ、岸壁、地下構造物、レール及び停泊地の製造のための、本発明による鋼製品の使用に関する。
【実施例】
【0057】
全ての試料について、鋼基材は重量パーセント(重量%)で以下の組成を有する。
【0058】
【0059】
全ての試料を最初にビームブランクの形態で鋳造した。
【0060】
試験例2については、マグネトロンスパッタリングにより鋼基材をFeAl(12重量%)Cr(24重量%)の1層で被覆した。
【0061】
試験例3~9、11及び12では、鋼基材を、厚さ2μmのクロムからなる第1の被膜及びAl(12重量%)、Cr(24重量%)及び任意にイットリウム(0.3重量%)を含み、残余は鉄であり、厚さは8μmである第2の被膜で被覆した。試験例13では、鋼基材を厚さ2μmのクロムからなる第1の被膜及びAl(12重量%)、Cr(24重量%)及びNi(3重量%)を含む第2の被膜で被覆した。第2の被膜については、2μmの4層をマグネトロンスパッタリングにより堆積させた。いくつかの試験例では、層の各堆積前にイオン衝撃工程を実施した。
【0062】
次いで、非被覆鋼(試験例1及び10)及び被覆鋼(試験例2~9、11~13)を、1000~1250℃の間の温度で再加熱した。動的加熱を行った場合、加熱温度は350~1250℃に変化し、1時間30分の間、温度は1000℃を超えた。再加熱後、試験例の酸化を視覚的側面により決定した。すなわち、3は試験例全体にミルスケールが存在したことを意味し、2はミルスケールが主に試験例上に存在することを意味し、1はミルスケールが試験例の少しの部分に存在することを意味し、0はミルスケールが試験例に全く存在しないことを意味する。試験例全体にミルスケールが存在する場合、ミルスケールの厚さを走査型電子顕微鏡法(SEM)で測定した。結果を次の表1に示す。
【0063】
【0064】
本発明による試験例は、比較例と比較して優れた結果を示した。
【0065】
<表2-腐食試験>
腐食試験は、人工海水(ASTM D1141)へのクーポン浸漬のEab自由腐食電位及び分極抵抗の定時監視からなる電気化学的研究により実施した。
【0066】
全ての電気化学的測定は、ポテンシオスタット、Ag/AgCl 3M参照電極及びチタン対電極で行った。分極抵抗測定RpはEab付近の電位振幅±15mV、走査速度dE/dt0.2mV/秒で行った。水温は周囲温度(制御なし、15℃~20℃付近)である。
【0067】
【0068】
これらの腐食の結果は、参考試験例10と比較して、本発明による試験例の挙動の改善を明確に示す。