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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】金属空気電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/06 20060101AFI20240122BHJP
【FI】
H01M12/06 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022508310
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010043
(87)【国際公開番号】W WO2021187356
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2020049139
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野口 良典
(72)【発明者】
【氏名】木薮 敏康
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-028017(JP,A)
【文献】特開2015-072744(JP,A)
【文献】特開2012-230892(JP,A)
【文献】特開2012-084261(JP,A)
【文献】特開2008-300346(JP,A)
【文献】特開2011-253789(JP,A)
【文献】特開2014-026857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極電極、該負極電極に電気的に接続された金属体、及び正極電極を含み、電解液が流通するチャンバが前記極電極及び前記金属体間に画定された電池装置と、
空気中から酸素を分離する酸素分離装置と、
前記酸素分離装置で分離された酸素を含むガスを、前記チャンバに供給される前記電解液中にバブリングしながら供給するバブリング装置と、
前記酸素分離装置で分離された酸素を含む前記ガス又は前記酸素分離装置に供給される空気から二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去装置と
を備える金属空気電池システム。
【請求項2】
前記バブリング装置によって前記電解液中に供給される前記ガスの気泡径の平均値は100μm以下である、請求項1に記載の金属空気電池システム。
【請求項3】
前記電解液を貯留する電解液タンクを備え、
前記バブリング装置は、前記ガスを、前記電解液タンクに貯留された前記電解液中にバブリングしながら供給する、請求項1または2に記載の金属空気電池システム。
【請求項4】
前記電解液を貯留する電解液タンクと、
前記電解液タンクと前記チャンバとを連通する電解液供給経路と、
前記電解液タンクと前記チャンバとを連通する電解液戻り経路と、
前記電解液供給経路に設けられたポンプと
を備える、請求項1~3のいずれか一項に記載の金属空気電池システム。
【請求項5】
前記バブリング装置は、前記ポンプと前記チャンバとの間で前記電解液供給経路を流れる前記電解液中に前記ガスをバブリングする、請求項4に記載の金属空気電池システム。
【請求項6】
前記電解液タンクの底部と連通した回収容器を備える、請求項3~5のいずれか一項に記載の金属空気電池システム。
【請求項7】
前記電池装置は、前記正極電極を取り囲むように前記金属体が設けられた円筒形状を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属空気電池システム。
【請求項8】
負極電極、該負極電極に電気的に接続された金属体、及び正極電極を含み、電解液が流通するチャンバが前記極電極及び前記金属体間に画定された電池装置と、
空気から二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去装置と、
空気から二酸化炭素が除去されたガスを、前記チャンバに供給される前記電解液中にバブリングしながら供給するバブリング装置と
を備える金属空気電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属空気電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、正極活物質として酸素を用いるとともに負極活物質として金属を用いた金属空気電池システムが開示されている。この金属空気電池システムにおいて、正極活物質としての酸素は、タンク内の電解液に空気をバブリングすることによって電解質に溶解させたものを使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5659675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属電池システムにおいて放電電流密度を高めるためには電解液中の溶存酸素濃度を高める必要があるが、電解液に空気をバブリングするだけでは溶存酸素濃度を高めることに限界があり、所望の放電電流密度を得ることが難しいという事情がある。
【0005】
上述の事情に鑑みて、本開示の少なくとも1つの実施形態は、放電電流密度を高めることのできる金属空気電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る金属空気電池システムは、負極電極、該負極電極に電気的に接続された金属体、及び正極電極を含み、電解液が流通するチャンバが前記極電極及び前記金属体間に画定された電池装置と、空気中から酸素を分離する酸素分離装置と、前記酸素分離装置で分離された酸素を含むガスを、前記チャンバに供給される前記電解液中にバブリングしながら供給するバブリング装置と、前記酸素分離装置で分離された酸素を含む前記ガス又は前記酸素分離装置に供給される空気から二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去装置とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の金属空気電池システムによれば、空気に比べて酸素濃度が高いガスをバブリングして電解液に酸素を溶解させているので、電解液に空気をバブリングした場合に比べて、電解液への酸素の溶解速度を高めることができる。その結果、放電電流密度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の実施形態1に係る金属空気電池システムの構成模式図である。
図2】本開示の実施形態2に係る金属空気電池システムの電池装置の構成模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態による金属空気電池システムについて、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
図1に示されるように、本開示の実施形態1に係る金属空気電池システム1は、電池装置2と、電解液を貯留する電解液タンク3と、空気中から酸素を分離する酸素分離装置4と、酸素分離装置4で分離された酸素を含むガスを、電解液タンク3に貯留された電解液中にバブリングしながら供給するバブリング装置5とを備えている。電池装置2は、負極電極11と、負極電極11に電気的に接続された金属体12と、正極電極13とを備え、正極電極13及び金属体12間にチャンバ14が画定されている。負極電極11及び正極電極13のそれぞれは、任意の負荷10に電気的に接続されている。チャンバ14を画定する金属体12の表面12aには、セパレータ15が設けられている。正極電極13として、親水性処理された電極に酸素還元触媒が担持されたものが使用されている。
【0011】
酸素還元触媒としては、酸性液環境下では主に白金を活性成分とする触媒(例えば、白金担持カーボン)を使用することができる。また、アルカリ液環境下では、鉄、マンガン、ニッケル、コバルトのような3d遷移金属又はその酸化物を活性成分とする触媒を使用することができる。その他には、酸性液環境下及びアルカリ液環境下のいずれにおいても、ルテニウム、銀、金、イリジウムを活性成分とする触媒も使用可能である。さらに、有機金属錯体や、炭素繊維(例えば、カーボンナノチューブ)、窒素炭化物等を活性成分とする触媒も使用可能である。
【0012】
電解液タンク3とチャンバ14とを、電解液供給経路16及び電解液戻り経路17によって連通することができる。この場合、例えば電解液供給経路16にポンプ18を設けることにより、電解液タンク3内の電解液が、電解液供給経路16を介してチャンバ14に供給され、チャンバ14を流通してチャンバ14から流出した電解液が、電解液戻り経路17を介して電解液タンク3に戻されるようにして、電解液タンク3とチャンバ14との間を電解液が循環するようになる。
【0013】
一方で、電解液タンク3とチャンバ14とを電解液供給経路16のみで連通させることもできる。この場合、電解液供給経路16を介して電解液タンク3からチャンバ14に供給された電解液は、チャンバ14を流通してチャンバ14から流出した後、図示しない流出経路を介して電解液タンク3以外の設備に送られる。この場合は、電解液タンク3とチャンバ14との間を電解液は循環しない。この場合も、電解液供給経路16にポンプ18を設けることにより、電解液タンク3内の電解液を、電解液供給経路16を介してチャンバ14に供給することもできるし、ポンプ18の代わりに水頭圧による電解液の供給も可能である。ただし、電解液タンク3とチャンバ14との間を電解液が循環する構成の方が、電解液タンク3とチャンバ14との間を電解液が循環しない構成に比べて、使用する電解液の量を低減できるので、コストを低減することができる。
【0014】
酸素分離装置4の構成は特に限定するものではなく、圧力変動吸着(PSA)式の装置や、温度変動吸着(TSA)式の装置や、膜分離装置等の任意の構成の酸素分離装置を使用することができる。
【0015】
電解液としては、水に電解質を溶解させた水系電解液、又は、有機溶媒等の非水溶液に電解質を溶解させた非水電解質のいずれも使用可能である。水系電解液としては例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、塩化物、リン酸塩、ホウ酸塩、硫酸塩等を電解質とした水溶液を使用することができる。すなわち、水溶液の電気伝導率を付与するための指示塩であれば、電解質として使用することができる。非水電解液としては例えば、環状又は鎖状カーボネート、環状又は鎖状エステル、環状又は鎖状エーテル、スルホン化合物、イオン液体等の液体に、アルカリ金属等からなる指示塩を溶解させたものを使用することができる。
【0016】
図1では、金属体12は板状の構成を有するように描かれているが、この形態に限定するものではなく、多孔質性の基板に金属をメッキしたものを使用することもできる。金属体12の材料としては、亜鉛、鉄、アルミニウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、銅、マグネシウム等又はこれらの合金を使用することができる。尚、電解液として水系電解液を使用する場合には、金属体12の材料として亜鉛、鉄、アルミニウム、銅等又はこれらの合金を使用することが好ましく、電解液として非水電解液を使用する場合には、金属体12の材料として、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム等又はこれらの合金を使用し、さらにセパレータ15として固体電解膜を使用することが好ましい。
【0017】
バブリング装置5によってバブリングされるガスは、酸素分離装置4で分離された酸素を含むガスであることから、空気に比べて酸素濃度が高いガスをバブリングすることにより電解液に酸素を溶解させているので、電解液に空気をバブリングした場合に比べて、電解液中の溶存酸素濃度を高めることができる。
【0018】
バブリング装置5として、酸素分離装置4で分離された酸素を含むガスをバブリングしたときに、ガスの気泡径の平均値が100μm以下にできるものを使用することが好ましい。気泡径と気泡内部の圧力とは反比例の関係があるため、気泡径を小さくすると気泡内部の圧力が大きくなる。また、液体への気体の溶解速度は圧力と比例関係がある。このため、気泡径を小さくするほど、液体への気体の溶解速度を高めることができる。ガスの気泡径の平均値を100μm以下にできるバブリング装置5を使用することで、酸素を含むガスを単にバブリングさせた場合に比べて、電解液中の酸素の溶解をさらに高めることができる。
【0019】
必須の構成ではないが、金属空気電池システム1には、電解液タンク3と酸素分離装置4との間に、酸素分離装置4で分離された酸素を含むガスから二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去装置21を設けてもよい。二酸化炭素除去装置21を酸素分離装置4よりも上流側に設けて、酸素分離装置4に供給される空気から二酸化炭素を除去するようにしてもよい。いずれの場合でも、二酸化炭素除去装置21を設けない場合に比べて、二酸化炭素濃度を低減させたガスを電解液中でバブリングすることができる。尚、二酸化炭素除去装置21の構成は特に限定するものではなく、例えば、アミン水溶液のような液体の吸収液に二酸化炭素を吸収する構成の装置や、固体吸収剤に二酸化炭素を吸着させる構成の装置を使用することができる。同様に必須の構成ではないが、金属空気電池システム1には、電解液タンク3の底部3aと連通した回収容器22を設けてもよい。
【0020】
<実施形態1に係る金属空気電池システムの動作>
次に、本開示の実施形態1に係る金属空気電池システム1の動作について説明する。酸素分離装置4が空気から酸素を分離し、分離された酸素を含むガスを、電解液タンク3に貯留された電解液中にバブリング装置5がバブリングしながら供給する。これにより、電解液タンク3に貯留された電解液中に酸素が溶解し、電解液中の溶存酸素濃度が上昇する。
【0021】
ポンプ18を起動すると、電解液タンク3に貯留された電解液は、電解液供給経路16を介してチャンバ14に流入する。電解液は、チャンバ14を流通してチャンバ14から流出した後、電解液戻り経路17を介して電解液タンク3に戻されることで、電解液タンク3とチャンバ14との間を循環する。アルカリ液環境下を例にすると、このとき、下記の反応式(Mは金属原子)のように、金属体12を構成する金属元素と電解液中の水酸化物とが反応して金属の水酸化物が生成するとともに電子を負極電極11へ放出する。
正極:M+2OH→M(OH) 2e
一方、電解液に溶存する酸素は、下記の反応式のように、正極電極13から電子を受け取ることにより水酸化物イオンとなる。
負極:O+2HO+4e→4OH
全体として、下記の反応式のようにして生じた金属の水酸化物が、金属体12の表面に析出する。この反応により、負極電極11及び正極電極13間に電位差が生じ、負荷10へ電流が流れる。
全体:2M+O+2HO→2M(OH)
【0022】
金属空気電池システム1の放電電流密度を高めるためには、電解液中の溶存酸素濃度や酸素の溶解速度を高める必要がある。金属空気電池システム1では、空気に比べて酸素濃度が高いガスをバブリングして電解液に酸素を溶解させているので、電解液に空気をバブリングした場合に比べて、電解液中の溶存酸素濃度を高めることができる。その結果、放電電流密度を高めることができる。
【0023】
また、バブリング装置5として、ガスの気泡径の平均値を100μm以下にできるものを使用すれば、酸素を含むガスを単にバブリングさせた場合に比べて、放電電流密度をさらに高めることができる。
【0024】
電解液タンク3に貯留された電解液中にバブリングされるガスは、酸素分離装置4で空気から分離された酸素を含むガスであるが、空気には二酸化炭素が含まれているため、このガスにも二酸化炭素が混入している可能性がある。このようなガスを電解液中にバブリングすると、電解液中に二酸化炭素が溶解する。電解液中に二酸化炭素が溶存していると、放電中に電解液に溶出した金属イオンと二酸化炭素とが反応するので、電池性能に悪影響を及ぼしてしまう。これに対し、金属空気電池システム1に二酸化炭素除去装置21を設けると、二酸化炭素濃度を低下させたガスが電解液に供給されるため、電解液中の二酸化炭素の溶存濃度が低下し、電池性能への悪影響のおそれを低減することができる。
【0025】
金属イオンと酸素イオンとの反応物である金属の酸化物の一部や、金属イオンと二酸化炭素との反応物である金属の炭酸塩の一部、すなわち金属イオンの析出物の一部は、電解液中を浮遊して、電解液と共に電解液タンク3とチャンバ14との間を循環する。電解液タンク3内において電解液が貯留されている間に、金属イオンの析出物が下方に沈降する。電解液タンク3の底部3aと連通した回収容器22を設けておけば、金属イオンの析出物を回収容器22に回収できるので、回収した金属イオンの析出物を金属体12の材料として再利用することができる。
【0026】
実施形態1ではそれぞれ、バブリング装置5は、酸素分離装置4で分離された酸素を含むガスを、電解液タンク3に貯留された電解液中にバブリングしながら供給しているが、この形態に限定するものではない。ポンプ18とチャンバ14との間で電解液供給経路16を流れる電解液中にバブリング装置5が上記ガスをバブリングするようにしてもよい。この構成によれば、バブリングされたガスの気泡がポンプ18に吸引されるおそれを低減できるので、ポンプ18が故障するおそれを低減することができる。一方で、電解液タンク3に貯留された電解液中にバブリングする構成では、酸素が電解液に溶解する時間を十分確保できるので、確実に酸素が溶解した電解液をチャンバに供給することができる。
【0027】
(実施形態2)
次に、実施形態2に係る金属空気電池システムについて説明する。実施形態2に係る金属空気電池システムは、実施形態1に対して、電池装置2の構成を変更したものである。尚、実施形態2において、実施形態1の構成要件と同じものは同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0028】
<実施形態2に係る金属空気電池システムの構成>
図2に示されるように、本開示の実施形態2に係る金属空気電池システム1において、電池装置2は、正極電極13を取り囲むように金属体12及び負極電極11が設けられた円筒形状を有している。正極電極13と金属体12との間に、リング形状の断面を有するチャンバ14が形成されている。
【0029】
この円筒形状の軸方向の両端に、電解液分配フランジ31,32が設けられている。電解液分配フランジ31,32のそれぞれの内部には、チャンバ14に連通する内部空間31a,32aが形成されている。内部空間31a,32aはそれぞれ、電解液供給経路16及び電解液戻り経路17と連通している。その他の構成は実施形態1と同じである。尚、実施形態1における各構成要件の変形例も実施形態2に適用可能である。
【0030】
<実施形態2に係る金属空気電池システムの動作>
電解液タンク3に貯留されている電解液がポンプ18によって電解液供給経路16を介して内部空間31aに流入すると、内部空間31aからチャンバ14に流入し、チャンバ14を流通した後、内部空間31bに流入する。電解液は、内部空間31bから流出すると、電解液戻り経路17を介して電解液タンク3内に戻される。このようにして、電解液は、電解液タンク3とチャンバ14との間を循環する。
【0031】
電解液への酸素の溶解動作や電池装置2での放電原理、二酸化炭素除去装置21及び回収容器22が設けられている場合の動作については、実施形態1と同じである。したがって、実施形態2に係る金属空気電池システム1においても、実施形態1と同じ作用効果を得ることができる。
【0032】
実施形態1では、負極電極11及び正極電極13がそれぞれ平板形状を有するとともに金属体12と正極電極13とに間に1つのチャンバ14が形成されるように図1に描かれているが、負極電極11と金属体12と正極電極13とチャンバ14とのそれぞれの配置は、実際は非常に複雑となり、電解液のチャンバ14内の流れも複雑になる。これに対し、実施形態2に係る金属空気電池システム1では、実施形態1と異なり、電池装置2は、正極電極13を取り囲むように金属体12及び負極電極11が設けられた円筒形状を有している。このような構成により、電池装置2内の電解液の流路、すなわちチャンバ14が円筒形状の軸方向に延びるような簡素な構成になるので、電解液の圧力損失を低下でき、さらに、電解液に溶存する酸素等のガスが放散された場合に電池装置2内にガス溜まりが形成されるおそれを低減することができる。また、電池装置2の円筒形状の両端をシールすれば電池装置2をシールすることができるので、シール性に優れ、電解液がリークするおそれを低減することもできる。
【0033】
実施形態1及び2のそれぞれにおいて、金属空気電池システム1の稼働時間が長くなると、上述した電気化学反応が起こらなくなる。このようになったら、負荷10の代わりに電源に負極電極11及び正極電極13を接続し、これらの間に電圧を印加することで、電池装置2を充電することができる。一方で、このような充電操作の代わりに、金属体12を新品のものに交換することにより、電池装置2を再び放電可能にすることができる。この場合、金属体12は負極電極11に対して交換可能に取付けられている必要がある。電池装置2は、前者のような二次電池として使用することもできるし、後者のような一次電池として使用することもできる。
【0034】
<本開示の金属空気電池システムの変形例>
実施形態1及び2のそれぞれから、酸素分離装置4を取り除いた形態も可能である。チャンバ14内で使用されるガスの成分は酸素のみであるが、空気中にはその他に、窒素と二酸化炭素とアルゴンとが含まれる。二酸化炭素は、電池性能に悪影響を与えるので除去することが好ましいが、窒素及びアルゴンは不活性ガスであるので、ガス中の酸素濃度が低くなるという不利な点はあるものの、ガス中に窒素及びアルゴンが含まれていても、電池性能に悪影響を与えない。このため、実施形態1及び2のそれぞれに係る金属空気電池システム1において、酸素分離装置4を取り除き、二酸化炭素除去装置21を設けた構成を採用することもできる。
【0035】
実施形態2では、正極電極13を取り囲むように金属体12及び負極電極11が設けられているが、金属体12及び負極電極11を取り囲むように正極電極13が設けられた構成であってもよい。
【0036】
本開示の金属空気電池システムの運用環境を考慮すると、電解液に供給する気泡をさらに小径化して高性能化する必要がある。例えば、金属空気電池システムの限界電流密度を500mA/cmとした場合、電解液へのガス溶解速度として6.5×10-3mol/sec程度が必要である。これを1%以上の気泡含有率で考えると、供給するガスの気泡径は5μm以下とすることが好ましい。
【0037】
金属空気電池システムにおいて限界電流密度を大きくとる必要がある場合、必要なガス(酸素ガス)の溶解速度から気泡径を小さくする必要がある。したがって、電解液に供給する気泡の条件は、金属空気電池システムの限界電流密度により規定される。限界電流密度と気泡の条件との関係を下記表1に例示する。
【0038】
【表1】
【0039】
上記表1によれば、例えば、限界電流密度が500mA/cmの場合、10μmの気泡径(平均気泡径)を電解液に供給すると、6.4vol%以上の気泡含有率が必要となり、5μmの気泡径を電解液に供給すると、0.8vol%以上の気泡含有率が必要となる。すなわち、気泡径が小さいほど、少ない気泡含有率で高い限界電流密度の運用が可能となる。微小な気泡の一般的な気泡含有率は10vol%未満とされていることから、運用電流密度や限界電流密度に応じて、気泡含有率が10vol%未満となる気泡径での運用が望ましい。
【実施例
【0040】
次に、電解液中に供給されるガスの気泡径の違いが放電電流密度に与える影響を検討した。電解液として1mol/LのKOH水溶液を、5つの密閉式のバッチセルのそれぞれに2ccずつ投入した。下記表2に示すように、バッチセル1~3のそれぞれには、表2に記載した平均気泡径及び気泡含有率(23℃(バッチセル3のみ22℃))の条件でKOH水溶液に空気(酸素濃度21%)を供給した。バッチセル1及び2それぞれの条件を達成するために、マイクロバブル発生装置を用いて空気を供給した。バッチセル3の条件を達成するために、散気管を用いて空気を供給した。バッチセル4及び5のKOH水溶液には空気を供給しなかったが、バッチセル5のKOH水溶液には、アルゴンガスを1時間以上供給して抜気した。
【0041】
【表2】
【0042】
バッチセル1~5それぞれのKOH水溶液に対し、溶存酸素濃度の測定と、酸素還元電流密度の測定とを行った。前者の測定については、東亜DKK製の低濃度ポータブル溶存酸素計(DO-32A)を用いて、バブルを発生させた溶液から100ml/minで計測器へ送液しながら溶存酸素を計測した。その際の溶液の温度は23℃であった(ただし、バッチセル3のみ、溶液の温度は22℃であった)。後者の測定は、径3mmの白金を作用極、白金線を対極、Hg/HgO(1M KOH)を参照電極とした三電極式セルにてリニアスイープボルタンメトリ法により、電位掃引速度を10mV/sec及び20mV/secのそれぞれの条件で測定した。これらの測定結果も表2に示している。
【0043】
溶存酸素濃度についてバッチセル1及び2とバッチセル3とを対比すると、供給されるガスの気泡径の違いによる影響はほとんどなかった。これは、大気中に開放された電解液であるため、溶存酸素濃度が溶液の温度に対して決まる飽和濃度となっていたためと考えられる。これに対し、酸素還元電流密度についてバッチセル1及び2とバッチセル3とを対比すると、前者の方が後者に比べて有意に高くなっている。酸素還元により液中の溶存酸素が消失し、溶存酸素濃度が低下するものの、気泡供給系では、酸素の消費とともに気泡からの酸素の溶解が生じることで、酸素還元電流密度が高くなったことが考えられる。この結果から、電解液に供給するガスの気泡径の平均値を100μm以下にすれば、ガスを単にバブリングさせた場合に比べて、放電電流密度をさらに高められることが実証できた。
【0044】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0045】
[1]一の態様に係る金属空気電池システムは、
負極電極(11)、該負極電極(11)に電気的に接続された金属体(12)、及び正極電極(13)を含み、電解液が流通するチャンバ(14)が前記正極電極(13)及び前記金属体(12)間に画定された電池装置(2)と、
空気中から酸素を分離する酸素分離装置(4)と、
前記酸素分離装置(4)で分離された酸素を含むガスを、前記チャンバ(14)に供給される前記電解液中にバブリングしながら供給するバブリング装置(5)と
を備える。
【0046】
本開示の金属空気電池システムによれば、空気に比べて酸素濃度が高いガスをバブリングして電解液に酸素を溶解させているので、電解液に空気をバブリングした場合に比べて、電解液への酸素の溶解速度を高めることができる。その結果、放電電流密度を高めることができる。
【0047】
[2]別の態様に係る金属空気電池システムは、[1]の金属空気電池システムであって、
前記バブリング装置(5)によって前記電解液中に供給される前記ガスの気泡径の平均値は100μm以下である。
【0048】
気泡径と気泡内部の圧力とは反比例の関係があるため、気泡径を小さくすると気泡内部の圧力が大きくなる。液体への気体の溶解速度は圧力と比例関係がある。このため、気泡径を小さくするほど、液体に溶存した気体の濃度を高めることができる。上記[2]のような構成によれば、酸素を含むガスを単にバブリングさせた場合に比べて、電解液への酸素の溶解速度を高めることができる。その結果、放電電流密度を高めることができる。
【0049】
[3]さらに別の態様に係る金属空気電池システムは、[2]の金属空気電池システムであって、
前記ガスの気泡含有率は10vol%未満である。
【0050】
このような構成によれば、酸素を含むガスを単にバブリングさせた場合に比べて、電解液への酸素の溶解速度を高めることができる。その結果、放電電流密度を高めることができる。
【0051】
[4]さらに別の態様に係る金属空気電池システムは、[1]~[3]のいずれかの金属空気電池システムであって、
前記酸素分離装置(4)で分離された酸素を含む前記ガス又は前記酸素分離装置(4)に供給される空気から二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去装置(21)を備える。
【0052】
空気中には二酸化炭素が含まれているため、酸素分離装置で分離された酸素を含むガスに二酸化炭素が混入している可能性がある。電解液中に二酸化炭素が溶存していると、放電中に電解液に溶出した金属イオンと二酸化炭素とが反応するので、電池性能に悪影響を及ぼしてしまう。これに対し、上記[4]のような構成によれば、二酸化炭素濃度を低下させたガスが電解液に供給されるため、電解液中の二酸化炭素の溶存濃度が低下し、電池性能への悪影響のおそれを低減することができる。
【0053】
[5]さらに別の態様に係る金属空気電池システムは、[1]~[4]のいずれかの金属空気電池システムであって、
前記電解液を貯留する電解液タンク(3)を備え、
前記バブリング装置(5)は、前記ガスを、前記電解液タンク(3)に貯留された前記電解液中にバブリングしながら供給する。
【0054】
このような構成によれば、酸素が電解液に溶解する時間を十分確保できるので、確実に酸素が溶解した電解液をチャンバに供給することができる。
【0055】
[6]さらに別の態様に係る金属空気電池システムは、[1]~[4]のいずれかの金属空気電池システムであって、
前記電解液を貯留する電解液タンク(3)を備え、
前記電解液タンク(3)と前記チャンバ(14)とを連通する電解液供給経路(16)と、
前記電解液タンク(3)と前記チャンバ(14)とを連通する電解液戻り経路(17)と、
前記電解液供給経路(16)に設けられたポンプ(18)と
を備える。
【0056】
このような構成によれば、電解液が電解液タンクとチャンバとの間を循環するので、チャンバを流通した電解液を廃棄する場合に比べて、使用する電解液の量を低減でき、コストを低減することができる。
【0057】
[7]さらに別の態様に係る金属空気電池システムは、[6]の金属空気電池システムであって、
前記バブリング装置(5)は、前記ポンプ(18)と前記チャンバ(14)との間で前記電解液供給経路(16)を流れる前記電解液中に前記ガスをバブリングする。
【0058】
このような構成によれば、バブリングされたガスの気泡がポンプに吸引されるおそれを低減できるので、ポンプが故障するおそれを低減することができる。
【0059】
[8]さらに別の態様に係る金属空気電池システムは、[5]~[7]のいずれかの金属空気電池システムであって、
前記電解液タンク(3)の底部(3a)と連通した回収容器(22)を備える。
【0060】
このような構成によれば、金属体から溶出した金属イオンの析出物を回収容器に回収し、金属体として再利用することができる。
【0061】
[9]さらに別の態様に係る金属空気電池システムは、[1]~[8]のいずれかの金属空気電池システムであって、
前記電池装置(2)は、前記正極電極(13)を取り囲むように前記金属体(12)が設けられた円筒形状を有する。
【0062】
このような構成によれば、電池装置内の電解液の流路が簡素になるので、電解液の圧力損失を低下でき、さらに、電解液に溶存する酸素等のガスが放散された場合に電池装置内にガス溜まりが形成されるおそれを低減することができる。また、電池装置の円筒形状の両端をシールすれば電池装置をシールすることができるので、シール性に優れ、電解液がリークするおそれを低減することもできる。
【0063】
[10]一の態様に係る金属空気電池システムは、
負極電極(11)、該負極電極(11)に電気的に接続された金属体(12)、及び正極電極(13)を含み、電解液が流通するチャンバ(14)が前記正極電極(13)及び前記金属体(12)間に画定された電池装置(2)と、
空気から二酸化炭素を除去する二酸化炭素除去装置(21)と、
空気から二酸化炭素が除去されたガスを、前記チャンバ(14)に供給される前記電解液中にバブリングしながら供給するバブリング装置(5)と
を備える。
【0064】
本開示の金属空気電池システムによれば、空気に比べて二酸化炭素濃度を低下させたガスが電解液に供給されるため、電解液中の二酸化炭素の溶存濃度が低下し、電池性能への悪影響のおそれを低減することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 金属空気電池システム
2 電池装置
3 電解液タンク
3a (電解液タンクの)底部
4 酸素分離装置
5 バブリング装置
11 負極電極
12 金属体
13 正極電極
14 チャンバ
16 電解液供給経路
17 電解液戻り経路
18 ポンプ
21 二酸化炭素除去装置
22 回収容器
図1
図2