(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】硬化性組成物及びその硬化膜
(51)【国際特許分類】
C08L 71/02 20060101AFI20240122BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240122BHJP
C08K 5/5419 20060101ALI20240122BHJP
C09D 171/02 20060101ALI20240122BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240122BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20240122BHJP
G02B 1/14 20150101ALI20240122BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20240122BHJP
【FI】
C08L71/02
B32B27/00 101
C08K5/5419
C09D171/02
C09K3/00 R
C09K3/18 104
G02B1/14
G02B1/18
(21)【出願番号】P 2022532157
(86)(22)【出願日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2022000712
(87)【国際公開番号】W WO2022181086
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2022-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2021029029
(32)【優先日】2021-02-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100105821
【氏名又は名称】藤井 淳
(72)【発明者】
【氏名】市原 豊
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-501804(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0129672(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0282578(US,A1)
【文献】国際公開第2021/125059(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/125062(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/125061(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/125060(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109988504(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C09D 1/00-201/10
C09K 3/00
C09K 3/18
B32B 1/00- 43/00
G02B 1/00- 1/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)パーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン
を含み、
(2)トリアルコキシシリル基を2個以上含有するアルコキシシラン(但し、前記(1)のアルコキシシランを除く。)として1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサンを含み、
前記パーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン100質量部に対して、前記(2)のアルコキシシラン
150~200質量部を含み、
(3)トリアルコキシシリル基を1個含有するアルコキシシラン(但し、前記(1)のアルコキシシランを除く。)として
3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシランを含み、
前記パーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン100質量部に対して、前記
3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン200~300質量部を含む、
ことを特徴とする熱硬化性組成物。
【請求項2】
前記(1)のアルコキシシランの数平均分子量が3000以上である、請求項1に記載の熱硬化性組成物。
【請求項3】
さらに(4)テトラアルコキシシラン加水分解縮合物を含む、
請求項1又は2に記載の熱硬化性組成物。
【請求項4】
さらに有機溶剤を含み、液状である、
請求項1~3のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
【請求項5】
砂埃又は粉塵にさらされる基材の保護層を形成するために用いられる、
請求項1~4のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の熱硬化性組成物が硬化してなる硬化膜。
【請求項7】
請求項6に記載の硬化膜が基材上に積層されてなる積層体。
【請求項8】
請求項6に記載の硬化膜が基材上に積層されてなる物品。
【請求項9】
請求項6に記載の硬化膜が基材上に積層されてなる光学製品。
【請求項10】
屋外用として用いられる、
請求項9に記載の光学製品。
【請求項11】
前記基材が、屋外で使用される照明、レンズ又はこれらのカバーである、
請求項10に記載の光学製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な硬化性組成物及びその硬化膜に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の照明、レンズ、ディスプレイ、インジケーター等の光学製品又はこれらのカバー等の付属部品には、その光学特性を長期にわたって維持できるように、防汚性、撥水性、耐摩耗性等を付与する表面処理が施されている。
【0003】
表面処理は、各種の化学的・物理的手段が採用されているが、その簡便性等の観点からコーティング剤を基材(被塗布物)に塗布する方法が汎用されている。最近では、特にパーフルオロポリエーテル基含有材料を用いたコーティング剤が種々提案されている。例えば、特定の化学式で表わされるパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を含有する表面処理剤が知られている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-90652号公報
【文献】特開2018-172655号公報
【文献】国際公開WO2018/79743
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来の表面処理剤は、撥水性、防汚性、耐摩擦性等については良好な特性を示すものの、さらなる改善が必要である。すなわち、パーフルオロポリエーテル基含有材料は、主としてスマートフォン、タブレット端末等のタッチパネルの保護を目的として設計されているものであり、そのような使用条件下で十分な特性が得られるものであり、それ以外の使用条件(特に砂埃、粉塵等にさらされる屋外)において撥水性、防汚性、耐摩擦性等が得られる保証はない。
【0006】
例えば、屋外の防犯カメラ、気象観測カメラ、河川監視カメラ、車両・船舶の搭載カメラ、屋外の照明(街灯、駐車場、競技場等)、あるいはこれらのカバー等においては、長期にわたって砂埃、粉塵等にさらされることになるため、これらに耐えられることが必要となる。このような用途に対し、従来のパーフルオロポリエーテル基含有シラン化合物を含む表面処理剤を適用して保護層を形成したとしても、砂埃、粉塵等の粒子(砂粒等)との衝突が繰り返されることで保護層が摩滅する結果、照明、レンズ等の本来の光学特性が劣化するおそれが生じる。このため、このような環境下でも有効に保護できる保護層の開発が求められている。
【0007】
従って、本発明の主な目的は、特に屋外使用でも優れた耐摩耗性を発揮する保護層を形成できる熱硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成からなる組成物を採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記の熱硬化性組成物及びその硬化膜に係る。
1. 下記成分:
(1)パーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン、及び
(2)トリアルコキシシリル基を2個以上含有するアルコキシシラン(但し、前記(1)のアルコキシシランを除く。)
を含むことを特徴とする熱硬化性組成物。
2. 前記(1)のアルコキシシランの数平均分子量が3000以上である、前記項1に記載の熱硬化性組成物。
3. 前記(2)のアルコキシシランにおけるトリアルコキシシリル基が、互いに同一又は異なって、一般式-Si(OCnH2n+1)3(但し、nは1~3の整数を示す。)で示される、前記項1又は2に記載の熱硬化性組成物。
4. 前記(2)のアルコキシシランにおいて、2個以上のトリアルコキシシリル基が、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていても良いアルキレン基を含む有機基を介して互いに結合している、前記項1~3のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
5. 前記有機基がイソシアヌル環骨格を有する、請求項4に記載の熱硬化性組成物。
6. パーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン100質量部に対して、前記(2)のアルコキシシラン50~300質量部を含む、前記項1~5のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
7. さらに(3)トリアルコキシシリル基を1個含有するアルコキシシラン(但し、前記(1)のアルコキシシランを除く。)を含む、前記項1~6のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
8. さらに(4)テトラアルコキシシラン加水分解縮合物を含む、前記項1~7のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
9. さらに有機溶剤を含み、液状である、前記項1~8のいずれかに記載の熱硬化性組成物。
10. 前記項1~9のいずれかに記載の熱硬化性組成物が硬化してなる硬化膜。
11. 前記項10に記載の硬化膜が基材上に積層されてなる積層体。
12. 前記項10に記載の硬化膜が基材上に積層されてなる物品。
13. 前記項10に記載の硬化膜が基材上に積層されてなる光学製品。
14. 屋外用として用いられる、前記項13に記載の光学製品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特に屋外使用でも耐えられる保護層を形成できる熱硬化性組成物を提供することができる。本発明の熱硬化性組成物は、2種類又は3種類のアルコキシシランの組み合わせによって、砂埃、粉塵等を構成する粒子(砂粒等)との衝突に伴う摩耗に対しても高い抵抗力を示すため、長期間にわたる耐摩耗性、ひいては硬化膜の撥水性、透明性等を持続させることが可能となる。
【0011】
従来の硬化膜では、主として硬度を高めることを念頭に置いて設計されているが、硬度が高いとそれだけ脆さが増幅されることになるので、一定の耐摩耗性を有していても砂埃、粉塵等の粒子との衝突には耐えられなくなる。とりわけ、アルコキシシラン化合物により形成された硬化膜はケイ素原子を構成要素とするところ、一般に砂埃、粉塵等もケイ素原子を主成分とするため、硬化膜を硬く、また厚くしても、衝撃により硬化膜が破壊されやすい。
【0012】
これに対し、本発明の硬化膜では、一定のやわらかさ、しなやかさを併せ有していると考えられることから、砂埃、粉塵等の粒子との衝突に対して一定の耐久性があるものと推察される。特に、アルキル基又はアルキレン基を導入した場合には、より高い耐摩耗性を発揮することができる。その作用機序は、定かではないが、C-C結合により可撓性等が増強されることによって、脆さがより低減される結果、粉塵、砂粒等による衝撃を吸収することが可能となり、より高い耐摩耗性(耐衝突性)を発揮するものと考えられる。
【0013】
このような特徴をもつ本発明の熱硬化性組成物又はその硬化膜は、屋内(室内)で使用される光学製品等の保護膜として使用できるだけでなく、砂埃、粉塵等の粒子との衝突が起こり得る屋外で使用される光学製品等の保護膜として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.熱硬化性組成物
本発明の硬化性組成物(本発明組成物)は、下記成分:
(1)パーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン(第1成分)、及び
(2)トリアルコキシシリル基を2個以上含有するアルコキシシラン(但し、前記(1)のアルコキシシランを除く。)(第2成分)
を含むことを特徴とする。
【0015】
A.本発明組成物の構成成分
第1成分
第1成分であるパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシランは、主として良好な撥水性・撥油性、水の滑落性、耐摩耗性等を硬化膜に与える機能を果たす。
【0016】
本発明では、パーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシランの種類は、特に限定されないが、例えば一般式A-PFPE-B(但し、PFPEはパーフルオロポリエーテル基を示し、A及びBの一方又は両方が、末端にアルコキシシリル基を有する有機基であり、末端が当該有機基でない場合は水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていても良いアルキル基である。)で示される化合物を好適に用いることができる。特に、本発明では、造膜性等の観点より、上記A及びBが、互いに同一又は異なって、末端にアルコキシシリル基を有する有機基であることが望ましい。
【0017】
アルコキシシリル基を有する有機基としては、アルコキシシリル基単独の場合のほか、アルコキシシリル基と他の有機基を含む場合であっても良い。上記アルコキシシリル基としては、特に限定されないが、通常は一般式-Si(OCnH2n+1)3(但し、nは1~3の整数を示す。)で示されるトリアルコキシシリル基が好ましい。例えば、トリメトキシシラン基、トリエトキシシラン基等を挙げることができる。
【0018】
上記A又はBがアルコキシシリル基単独の場合である場合は、アルコキシシリル基がPFPEに直結されている構造になる。
【0019】
上記A又はBがアルコキシシリル基と他の有機基を含む場合は、当該他の有機基を介してアルコキシシリル基がPFPEに結合されている構造になる。アルコキシシリル基と他の有機基を含む場合、アルコキシシリル基を有する有機基として、特に一般式-R1-(OCONH)m-R2-R3(但し、R1及びR2は、互いに同一又は異なって、水素原子の一部又は全部がフッ素で置換されていても良い炭素数1~10の2価の炭化水素基を示し、例えば、-(CH2)n-(但し、nは1~10の整数)、-(CF2)n-(但し、nは1~10の整数)、-CH2CF2-、-CF2CH2-、-CH2CF(CF3)-、-CF(CF3)CH2-などが挙げられる。R3はアルコキシシリル基を示す。mは0又は1を示す。)で示される有機基(特定有機基)を好適に採用することができる。
【0020】
ここで、R1及びR2の炭素数は、互いに同一又は異なって、1~10程度の範囲内とすることが好ましく、特に1~6とすることが好ましい。
【0021】
上記mは、0又は1である。すなわち、上記特定有機基は、ウレタン結合-OCONH-を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。
【0022】
上記アルコキシシリル基R3としては、特に限定されないが、通常は一般式-Si(OCnH2n+1)3(但し、nは1~3の整数を示す。)で示されるトリアルコキシシリル基が好ましい。例えば、トリメトキシシラン基、トリエトキシシラン基等を挙げることができる。
【0023】
前記のA-PFPE-Bにおいて、A又はBが、末端にアルコキシシリル基を有する有機基でない場合は、炭素数10以下で水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていても良いアルキル基であることが好ましい。例えばCF3-、CF3CF2-、CF3CH2-、CH3-、CF3CF2CF2-等の有機基が挙げられる。
【0024】
パーフルオロポリエーテル基(PFPE)は、-(CxF2xO)m-(x,mは0以外の整数である。)を基本単位(ユニット)とし、これらが複数個連結された構造を有する。mが2以上の場合、各(CxF2xO)は、互いに同じであっても良いし、互いに異なっていても良い。すなわち、PFPEは、1種のユニット単独の繰り返しからなる構造でも良いし、互いに異なる2種以上のユニットの組み合わせからなる構造であっても良い。また、(CxF2xO)は、炭素鎖が直鎖状又は分岐状のいずれであっても良い。
【0025】
ユニットとなる-(CxF2xO)-としては、例えばCF2O、CF2CF2O、CF2CF2CF2O、CF2CF2CF2CF2CF2O、CF(CF3)CF2O等が挙げられるが、これらに限定されない。特に、本発明では、PFPEとして、-(CF2CF2O)m-(CF2O)n-(但し、m,nは0以外の整数である。)等を好適に採用することができる。この場合、前記m,nは、例えば10≦m≦40程度,10≦n≦40程度の範囲内とすることもできるが、上記分子量の範囲内である限りは、上記m,nの範囲に限定されない。
【0026】
第1成分であるパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシランの数平均分子量は、特に限定されないが、通常は3000以上であることが好ましく、特に3000~8000であることがより好ましく、その中でも3500~7000であることが最も好ましい。このような分子量を有することで撥水撥油性、水の滑落性、耐摩耗性等においてより優れた効果を得ることができる。
【0027】
なお、本発明における数平均分子量の測定方法については、特に限定されず、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いたポリメチルメタクリレート換算による測定、あるいは核磁気共鳴法を用いた構造解析による測定等により実施することができる。
【0028】
このような第1成分としては、公知又は市販のものを使用することができるほか、公知の製造方法によって合成された化合物を用いることもできる。市販品としては、例えば製品名「オプツールDSX」(ダイキン工業株式会社社製)等を用いることができる。
【0029】
第1成分を合成する場合は、例えばパーフルオロポリエーテル基の両端又は一端にトリアルコキシシリル基を結合させる方法を採用することができる。より具体的には、主鎖としてパーフルオロポリエーテル基を有し、かつ、両末端基又は一方の末端基としてOH基を有する化合物(出発化合物)にイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物を反応させることによって、第1成分を好適に調製することができる。上記の出発化合物として、より具体的には、一般式X-PFPE-Y(但し、PFPEはパーフルオロポリエーテル基を示し、X及びYのうち一方又は両方が水酸基であり、X又はYが水酸基でない場合は炭素数10以下で水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていても良いアルキル基を示す。)で示される化合物を好適に用いることができる。
【0030】
前記の出発化合物としては、公知又は市販のものを使用することができる。すなわち、パーフルオロポリエーテル基の両末端基が水酸基である化合物、パーフルオロポリエーテル基の片方の末端基のみが水酸基である化合物等のいずれも公知又は市販のものを使用することができる。
【0031】
パーフルオロポリエーテル基の両末端が水酸基である化合物の市販品としては、例えば製品名「FLUOROLINK D-4000」、「FLUOROLINK D-6000」(いずれもソルベイ株式会社製)等を用いることができる。上記「FLUOROLINK D-4000」、上記「FLUOROLINK D-6000」は、下記の一般式(1)で示される基本構造を有する。
【化1】
【0032】
パーフルオロポリエーテル基の片方の末端基のみが水酸基である化合物の市販品としては、例えば製品名「DOL-3000」、「DOL-4000」(いずれもシノケム社製)、「PFPE KFE240AL」(ケマーズ株式会社製)等を用いることができる。
【0033】
上記の出発化合物において、片方の末端基が水酸基である場合、他端の末端基としては、炭素数10以下で水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていても良いアルキル基であれば良い。例えば、CF3-、CH3-、CF3CH2-、CF3CF2-、CF3CF2CF2-等が挙げられる。
【0034】
前記のイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物は、イソシアネート基とアルコキシシリル基を有する化合物であれば良く、公知又は市販のものを使用することもできる。市販品としては、例えば「KBE-9007N」(3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン)(信越シリコーン社製)等を好適に用いることができる。
【0035】
製造条件は、特に限定されないが、例えば出発化合物及びイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物を溶媒中で20~70℃の温度下で反応させる工程(反応工程)及び反応生成液から第1成分(目的物)を回収する工程(回収工程)を含む方法によって実施することができる。
【0036】
反応工程において、出発化合物とイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物との仕込み比率は、特に限定されないが、例えばモル比で1:1~1:4程度の範囲内で適宜設定することができる。
【0037】
また、反応工程においては、溶媒を用いた液相反応を実施すれば良いが、その溶媒としてはフッ素系溶媒を用いることが好ましい。フッ素系溶媒としては、例えばハイドロフルオロエーテル系溶剤を好適に用いることができる。このような溶剤としては、公知又は市販のものを使用することもできる。例えば、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等を用いることができる。また、市販品としては、例えば製品名「ノベックHFE-7200」、「ノベックHFE-7300」(いずれも3M社製品)等を好適に用いることができる。
【0038】
反応工程では、必要に応じて触媒の存在下で実施することもできる。触媒としては、アルカリ性触媒を好適に用いることができ、その中でも特にトリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン及び1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンの少なくとも1種の有機系のアルカリ性触媒が好ましい。
【0039】
回収工程では、目的物となる第1成分を回収(単離)できる限り、その方法は特に制限されない。例えば、反応生成液にアルコール類(メタノール、エタノール等)を添加し、分層させた後、上澄み液(反応生成液の上層部)を除去する方法を採用することができる。すなわち、一般的には第1成分は反応生成液中で沈降するので、上澄み液を取り除くことで精製・分離することが可能となる。アルコール類の添加及び上澄み液の除去という一連の工程を複数回繰り返すことにより、より高い収率で第1成分を得ることができる。この場合、必要に応じて、減圧、乾燥等を実施することで第1成分を固形分として回収することもできる。
【0040】
本発明組成物における第1成分の固形分含有量は、限定的ではないが、通常は10~60質量%とし、10~50質量%とすることが好ましく、特に15~30質量%とすることがより好ましい。これにより、優れた耐擦傷性等をより確実に形成することができる。
【0041】
第2成分
第2成分であるトリアルコキシシリル基を2個以上含有するアルコキシシランは、主として硬化膜の脆さを低減し、砂埃、粉塵等の粒子(砂粒等)との衝突時の衝撃を吸収することによって高い耐摩耗性を付与するために用いられる。
【0042】
トリアルコキシシリル基の個数は、2個以上であれば良く、例えば2個、3個、4個等であっても良い。また、第2成分を複数種用いる場合、その個数は互いに同じでも良いし、互いに異なっていても良い。例えば、トリアルコキシシリル基を2個有する第2成分と、トリアルコキシシリル基を3個有する第2成分とを併用することもできる。
【0043】
第2成分における上記トリアルコキシシリル基は、限定的ではないが、通常は一般式-Si(OCnH2n+1)3(但し、nは1~3の整数を示す。)で示されるトリアルコキシシリル基を好適に用いることができる。例えば、トリメトキシシラン基、トリエトキシシラン基等を挙げることができる。
【0044】
第2成分においては、2個以上のトリアルコキシシリル基が、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていても良いアルキレン基を含む有機基を介して互いに結合していることが好ましい。
【0045】
上記アルキレン基としては、炭素数1~10程度のものが挙げられる。例えば、―CH2―,―CH2CH2―,CF2CH2-,-CH2CH2CH2-,-CH2CH2CH2CH2CH2CH2-,-CH2CH2CH2CH2CH2-,-CH2CH2CH2CH2-,-CF2CF2CF2-等が挙げられる。アルキレン基の炭素原子がトリアルコキシシリル基のケイ素原子と直結されていることが好ましい。
【0046】
有機基としては、上記アルキレン基のみから構成される有機基のほか、上記アルキレン基が環状骨格に結合してなる有機基である場合が例示される。環状基としては、例えばイソシアヌル環骨格、シクロヘキシル環骨格、ベンゼン環骨格等が挙げられる。
【0047】
第2成分の具体例としては、1,6ビス-(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビス(トリメトキシシリル)エチレン、トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等が例示される。
【0048】
上記ビストリメトキシシリルエチレンは、下記の一般式(2)で示される。上記1,6ビス(トリメトキシシリル)ヘキサンは、下記の一般式(3)で示される。上記トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートは、下記の一般式(4)で示される。なお、下式中の各Meはメチル基を示す。
【化2】
【化3】
【化4】
【0049】
これらの化合物は、公知又は市販のものを使用することができる。市販品としては、例えば製品名「KBM-3066」、「KBM-9659」(いずれも信越シリコーン社製)等を用いることができる。
【0050】
本発明組成物における第2成分の固形分含有量は、特に限定されないが、上記のような第2成分の機能をより確実に発揮させるため、通常は10~50質量%程度とし、特に20~40質量%とすることが好ましい。
【0051】
なお、第2成分は、第1成分であるパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシランは、除かれる。すなわち、第2成分は、パーフルオロポリエーテル基を含有しない化合物により構成される。
【0052】
第3成分
本発明では、必要に応じて、第3成分としてトリアルコキシシリル基を1個含有するアルコキシシランを含んでいても良い。第3成分であるトリアルコキシシリル基を1個含有するアルコキシシランは、主として良好な造膜性、硬化性等を付与する機能を有する。
【0053】
前記アルコキシシランは、トリアルコキシシリル基を1個有するものであれば特に限定されないが、特にR4-Si(OR5)3(但し、R4は、炭素数1~10であり、水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されていても良いアルキル基を示す。R5は、炭素数1~3のアルキル基を示す。)で示される化合物を好適に用いることができる。より具体的には、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0054】
これらは、公知又は市販のものを用いることもできる。市販品としては、例えば製品名「KBE-3083」、「KBE-13」、「KBM-3033」、「KBE-3033」、「KBE-3083」、「KBM-7103」(いずれも信越シリコーン社製)等を挙げることができる。
【0055】
本発明組成物における第3成分の固形分含有量は、特に限定されないが、通常は0~60質量%程度とし、25~60質量%とすることが好ましく、30~60質量%とすることがより好ましく、特に40~50質量%とすることが最も好ましい。これにより、優れた耐擦傷性等をより確実に得ることができる。
【0056】
なお、第3成分は、第1成分であるパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシランは、除かれる。すなわち、第3成分は、パーフルオロポリエーテル基を含有しない化合物により構成される。
【0057】
また、第1成分~第3成分の比率は、限定的ではないが、特に第1成分100質量部に対して、第2成分50~300質量部及び第3成分0~300質量部とすることが好ましく、第2成分50~300質量部及び第3成分100~300質量部であることがより好ましく、特に第1成分100質量部に対して第2成分100~200質量部及び第3成分200~250質量部であることが最も好ましい。
【0058】
第4成分
本発明では、必要に応じて、第4成分としてテトラアルコキシシラン加水分解縮合物(シリケートオリゴマー)を含有させることもできる。テトラアルコキシシラン加水分解縮合物を配合することによって、造膜性、硬化性、硬度等を高めることができる。
【0059】
テトラアルコキシシラン加水分解縮合物としては、特に限定されず、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランの2分子以上が、加水分解及び重縮合反応により生成した化合物を挙げることができる。重縮合する分子数に応じて、例えば2量体、3量体、4量体等があるが、本発明では2~10量体(平均値)を好適に用いることができる。
【0060】
このような化合物は、公知又は市販のものを使用できるほか、公知の製造方法によって合成することもできる。市販品としては、例えば製品名「メチルシリケート51」、「メチルシリケート53A」(いずれもコルコート株式会社製)等を挙げることができる。
【0061】
本発明組成物における第4成分の固形分含有量は、特に限定されないが、上記のような第4成分の機能をより確実に発揮させるため、通常は0~20質量%程度とし、特に1~15質量%とすることが好ましい。
【0062】
その他の成分
本発明組成物中には、第1成分~第4成分のほかにも、本発明の効果を妨げない範囲内において、必要に応じて他の成分を適宜配合することができる。例えば、後記に示す溶剤のほか、無機微粒子(シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の酸化物微粒子)、着色剤等が挙げられる。
【0063】
B.本発明組成物の性状等
本発明組成物の形態は、限定的ではないが、通常は液状とすれば良い。液状とするためは、溶剤を配合すれば良いが、溶液又は分散液のいずれであっても良い。
【0064】
溶剤としては、第1成分等の種類に応じて適宜設定することができる。例えば、フッ素系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種を用いることができる。
【0065】
フッ素系溶剤としては、例えばトリフルオロトルエン、パーフルオロブチルメチルエーテル、パーフルオロブチルエチルエーテル、メタキシレンヘキサフルオライド等が挙げられる。
【0066】
ケトン系溶剤としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0067】
エステル系溶剤としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート等が挙げられる。
【0068】
アルコール系溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1-メトキシ-2-プロパノール)等が挙げられる。
【0069】
有機溶剤の使用量は、例えば本発明組成物の固形分含有量が0.1~10重量%程度(好ましくは0.1~5重量%程度)の範囲内となるように、例えば用いる成分等の種類、所望の粘度等に応じて適宜調整することができるが、これに限定されない。
【0070】
C.本発明組成物の製造
本発明組成物は、前記のような各成分を均一に混合することによって調製することができる。混合する際の混合順序等は特に限定されず、任意の順序を採用することができる。特に、液状組成物を調製する場合は、第1成分等とともに溶剤を混合すれば良い。混合は、例えばミキサー、ニーダー等の公知又は市販の装置を用いて実施することができる。また、混合する雰囲気は、通常は常温・常圧下で各成分を混合すれば良いが、これに限定されない。
【0071】
D.本発明組成物の使用
本発明組成物の塗膜を硬化させることによって所望の硬化膜を形成することができる。すなわち、本発明組成物から、屋外でも傷等がつきにくい保護層をより確実に得ることができる。
【0072】
硬化膜は、透明、半透明又は不透明のいずれであっても良い。特に、照明、レンズ又はこれらのカバーの保護層として用いる場合等は、硬化膜が透明又は半透明であることが望ましい。この場合の透明度は、限定的ではないが、通常はヘイズ値として0.1~5%程度であることが望ましい。
【0073】
また、硬化膜の厚みは、用途、使用部位等に応じて適宜設定することができるが、通常は0.05~2μm程度とし、特に0.1~0.5μmとすることが好ましい。
【0074】
硬化層の形成方法は、特に限定されず、例えばa)基材上に本発明組成物の塗膜を形成する工程及びb)前記塗膜を硬化させる工程を含む方法によって好適に実施することができる。
【0075】
硬化層の下地(下層)となる基材は、特に限定されず、例えば合成樹脂、ゴム、セラミックス、ガラス、金属等のいずれであっても良い。特に、ガラス、合成樹脂(ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂等)等の透明性基材を好適に用いることができる。また、基材は、例えば原材料、半製品、製品等のいずれであっても良い。
【0076】
本発明組成物の塗膜を形成する方法は、例えば例えばドクターブレード法、バーコート法、ディッピング法、エアスプレー法、ローラーブラシ法、ローラーコーター法、蒸着法等の公知のコーティング方法により適宜行うことができる。
【0077】
塗膜の形成量は、例えば所望の硬化膜の厚みとなるような量とすれば良く、通常は得られる硬化膜の厚みが2μm程度以下の範囲内(好ましくは0.1~0.5μmの範囲内)で適宜設定することができる。
【0078】
また、得られた塗膜は、硬化に先立って、必要に応じて乾燥工程を実施しても良い。乾燥方法は、自然乾燥のほか、60~120℃程度の温度で加熱する方法であっても良い。
【0079】
次いで、塗膜の硬化を行う。本発明において、塗膜を硬化させる方法は、加熱による硬化(熱硬化)を行う。熱硬化の条件は、第1成分等の種類等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は大気中にて50~200℃程度(特に120~180℃)とすることが好ましい。加熱時間は、塗膜が硬化するのに十分な時間とすれば良く、例えば0.1~2時間の範囲内で設定することが可能であるが、これに限定されない。
【0080】
さらに、本発明では、基材上に本発明組成物の塗膜を形成する工程及び前記塗膜を硬化させる工程を含む方法によって、硬化膜が基材に積層された積層体を得ることができる。このような積層体は、例えば各種の製品の材料等としても用いることができる。
【0081】
2.物品(光学製品)
本発明は、本発明の硬化膜が基材上に積層されてなる物品(特に光学製品)を包含する。特に、本発明の硬化膜は、単なる物質どうしの擦れだけでなく、例えば砂埃、粉塵等の粒子(飛び散った砂粒等)との衝突を伴う摩耗に対する耐久性も有するため、基材(製品)の保護層として適用することができる。とりわけ、砂埃、粉塵等にさらされる基材(製品)の保護層としても好適に用いることができる。
【0082】
このため、屋内で使用される照明、レンズ又はこれらのカバーのほか、屋外で使用される照明、レンズ又はこれらのカバーに対する保護層(最表面層)として本発明の硬化膜を適用することができる。例えば、a)屋外に取り付けられる防犯カメラ、気象観測カメラ、河川監視カメラ、車両・船舶の搭載カメラ、屋外の照明(街灯、駐車場、競技場等)、あるいはb)これらに用いられるレンズ(照明用レンズ又はカメラ用レンズ)、c)照明又はレンズのカバー等の表面保護に適当である。その他にも、スマートフォンの画面、タブレット画面等の保護層としても利用できる。
【0083】
本発明の硬化膜をこれら物品(特に光学製品)に適用する方法は、例えば前記のように保護対象となる基材の表面に本発明組成物による塗膜を形成した後、硬化させる工程を含む方法にて所定の硬化膜(保護層)を形成する方法等が挙げられるが、これに限定されない。
【実施例】
【0084】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0085】
参考例1
表1に示すように、200mLビーカーにパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン(製造例1)0.20g、トリアルコキシシリル基を1個含有するアルコキシシラン(製品名「KBM-7103」信越化学工業社製)0.5g、ビストリメトキシシリルエチレン0.2g、テトラメトキシシラン加水分解縮合物(製品名「メチルシリケート51」コルコート社製、平均4量体)0.1g、フッ素系溶剤(製品名「ノベックHFE-7200」(3M社製)99.0g秤量し、1時間室温で撹拌することによって液状組成物を得た。洗浄したガラスプレートに対して前記液状組成物を塗布し、170℃のオーブンで30分間加熱硬化し、硬化膜を作製した。このときの膜厚は約0.2μmであった。
【0086】
実施例及び参考例の2~12、比較例1~4
表1に示す組成に変更したほかは、参考例1と同様にして液状組成物を調製した。参考例1と同様にして、前記の液状組成物を用いて硬化膜を作製した。
【0087】
【0088】
なお、表1中の略称の意味は、以下の通りである。
(1)第1成分:パーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン
・「製造例1」:下記の<製造例1>で合成したパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン1
<製造例1>
スターラーを入れた30mLナスフラスコに水酸基含有パーフルオロポリエーテル系化合物(製品名「FLUOROLINK D-6000」(ソルベイ株式会社製、平均分子量6000)18.0g(3.0mmoL)と、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(関東化学株式会社製)1.48g(7.2mmoL)と、トリエチルアミン(関東化学株式会社製)0.015g(0.15mmoL)と、メタキシレンヘキサフルオライド18.0gを秤量した。反応液を50℃で6時間攪拌した。反応後の反応液にメタノールを入れ反応液を分層させた。下層が目的物であるので、上層の溶媒を除去した。メタノールを用いて洗浄工程を3回繰り返した。生成物をナスフラスコに入れ、減圧下で乾燥することで溶媒を除去し、目的物であるパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン1(収率90%、17.3g)を合成した。
・「製造例2」:下記の<製造例2>で合成したパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン2
<製造例2>
スターラーを入れた30mLナスフラスコに水酸基含有パーフルオロポリエーテル系化合物(製品名「FLUOROLINK D-4000」(ソルベイ株式会社製、平均分子量4000)12.0g(3.0mmoL)と、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(関東化学株式会社製)1.48g(7.2mmoL)と、トリエチルアミン(関東化学株式会社製)0.015g(0.15mmoL)と、メタキシレンヘキサフルオライド12.0gを秤量した。反応液を50℃で6時間攪拌した。反応後の反応液にメタノールを入れ反応液を分層させた。下層が目的物であるので、上層の溶媒を除去した。メタノールを用いて洗浄工程を3回繰り返した。生成物をナスフラスコに入れ、減圧下で乾燥することで溶媒を除去し、目的物であるパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン2(収率87%、10.2g)を合成した。
・「製造例3」:下記の<製造例3>で合成したパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン3
<製造例3>
スターラーを入れた30mLナスフラスコに水酸基含有パーフルオロポリエーテル系化合物(製品名「DOL-3000」シノケム社製、平均分子量3000)(4.0mmol,12g)、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(4.8mmol,0.99g)、トリエチルアミン(0.20mmol,0.020g)、メタキシレンヘキサフルオライド12.0gを秤量した。反応液を50℃で6時間撹拌した。反応後の反応液にメタノールを入れ反応を分層させた。下層が目的物であるので、上層の溶媒を除去した。メタノールを用いての洗浄工程を3回繰り返した。生成物をナスフラスコに入れ、減圧化乾燥することで溶媒を除去し、目的物であるパーフルオロポリエーテル含有アルコキシシラン3(収率90%、11.5g)を合成した。
(2)第2成分:トリアルコキシシリル基を2個以上含有するアルコキシシラン
・「原料A」:ビス(トリメトキシシリル)エチレン
・「原料B」:1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン
・「原料C」:信越シリコーン社製「KBM-9659」(トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート)
(3)第3成分:トリアルコキシシリル基を1個含有するアルコキシシラン
・「KBM-7103」:信越シリコーン製「KBM-7103」(3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン)
・n-Pro-Si(OMe)3:CH3CH2CH2-Si(OMe)3(Meはメチル基)
・C6F13Si:CF3CF2CF2CF2CF2CF2-Si(OMe)3(Meはメチル基)
(4)第4成分:テトラアルコキシシラン加水分解縮合物
・「MS-51」:コルコート社製「メチルシリケート51」(テトラメトキシシラン加水分解縮合物(平均4量体))
(5)溶剤
・「ノベックHFE-7200」(3M社製)(フッ素系溶剤)
【0089】
試験例1
実施例及び比較例で作製された硬化膜の撥水性を調べた。より具体的には、硬化膜の水に対する接触角(初期)を25℃で測定した。水接触角の測定は、接触角測定装置(製品名「DropMaster700」協和界面化学製)を用いた(以下の各試験においても同様)。その結果を表2に示す。
【0090】
試験例2
実施例及び比較例で作製された硬化膜について、所定の摩耗試験を実施した後の水に対する撥水性を測定した。
摩耗試験は、次のように超音波洗浄機を用いて次のように実施した。関東ローム(JIS試験用粉体1の8種)10質量%が水に分散した分散液を用い、ステンレス鋼製容器(SUS容器)に分散液を入れた。次いで、SUS容器内に試験片(硬化膜付きガラスプレート)を入れた。SUS容器を市販の超音波洗浄機に入れ、超音波洗浄機を作動させ、分散液に超音波を照射して試験片を処理した。このように試験片を処理することにより、超音波により分散液に生じた真空の気泡が破裂することで生じた衝撃波によって関東ロームが激しく揺動し、その関東ロームが試験片に衝突することで試験片にダメージを与えることができる。超音波の条件は、周波数28kHz、出力600Wとした。照射8時間経過後に試験片を回収し、純水で洗浄し、自然乾燥させた。このようにして得られた試験後の硬化膜に対する水の接触角を測定した。その結果を表2に示す。
【0091】
試験例3
各試験片について耐スチールウール試験を実施した。試験片の硬化膜面をスチールウール(#0000)で300回往復(荷重1000g)擦った後の水接触角を測定した。その結果を表2に示す。
【0092】
【0093】
表2における参考例1と比較例1の対比から、第1成分~第2成分を含まない場合は、摩耗試験による撥液性の低下が大きくなることがわかる。特に、参考例1~3及び実施例4~5と比較例2~4との対比から、第2成分を含まない場合、耐摩耗試験での撥液性の低下が大きくなることもわかる。
【0094】
このように、本発明では、少なくとも0.2μm程度の膜厚があり、アルキル鎖を有する多置換アルコキシシランを一定量含むことで、Si-O-Siの結合に加え、特にC-C結合を導入することで、硬化膜の脆さが低減され、粒子との衝撃を伴う摩耗に対しても耐久性を高めることが可能となる。
【0095】
参考例13
表3に示すように、200mLビーカーにパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン(製造例4)0.60g、ビストリメトキシシリルエチレン0.3g、テトラメトキシシラン加水分解縮合物(製品名「メチルシリケート51」コルコート社製、平均4量体)0.1g、フッ素系溶剤(製品名「ノベックHFE-7200」(3M社製)99.0g秤量し、1時間室温で撹拌することによって液状組成物を得た。洗浄したガラスプレートに対して前記液状組成物を塗布し、170℃のオーブンで30分間加熱硬化し、硬化膜を作製した。このときの膜厚は約0.2μmであった。
【0096】
参考例14~16及び比較例5
表3に示す組成に変更したほかは、参考例13と同様にして液状組成物を調製した。参考例1と同様にして、前記液状組成物を用いて硬化膜を作製した。
【0097】
【0098】
なお、表3中の略称の意味は、以下の通りである。
(1)第1成分:パーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン
・「製造例4」:下記の<製造例4>で合成したパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン4
<製造例4>
スターラーを入れた30mLナスフラスコに水酸基含有パーフルオロポリエーテル系化合物(製品名「DOL-3000」シノケム社製、平均分子量3000(6.0mmol,18.0g)、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(7.2mmol,1.48g)、トリエチルアミン(0.30mmol,0.030g)、メタキシレンヘキサフルオライド18.0gを秤量した。反応液を50℃で6時間撹拌した。反応後の反応液にメタノールを入れ反応を分層させた。下層が目的物であるので、上層の溶媒を除去した。メタノールを用いての洗浄工程を3回繰り返した。生成物をナスフラスコに入れ、減圧化乾燥することで溶媒を除去し、目的物であるパーフルオロポリエーテル含有アルコキシシラン4(収率90%、17.3g)を合成した。
・「製造例5」:下記の<製造例5>で合成したパーフルオロポリエーテル基含有アルコキシシラン5
<製造例5>
スターラーを入れた30mLナスフラスコに水酸基含有パーフルオロポリエーテル系化合物(製品名「DOL-4000」シノケム社製、平均分子量4000(3.0mmol,12.0g)、3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン(3.6mmol,0.74g)、トリエチルアミン(0.15mmol,0.015g)、メタキシレンヘキサフルオライド12.0gを秤量した。反応液を50℃で6時間撹拌した。反応後の反応液にメタノールを入れ反応を分層させた。下層が目的物であるので、上層の溶媒を除去した。メタノールを用いての洗浄工程を3回繰り返した。生成物をナスフラスコに入れ、減圧化乾燥することで溶媒を除去し、目的物であるパーフルオロポリエーテル含有アルコキシシラン5(収率87%、10.2g)を合成した。
(2)第2成分:トリアルコキシシリル基を2個以上含有するアルコキシシラン
・「原料A」:ビス(トリメトキシシリル)エチレン
・「原料B」:1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン
・「原料C」:信越シリコーン社製「KBM-9659」(トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート)
(3)第3成分:トリアルコキシシリル基を1個含有するアルコキシシラン
・「KBM-7103」:信越シリコーン製「KBM-7103」(3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン)
(4)第4成分:テトラアルコキシシラン加水分解縮合物
・「MS-51」:コルコート社製「メチルシリケート51」(テトラメトキシシラン加水分解縮合物(平均4量体))
(5)溶剤
・「ノベックHFE-7200」(3M社製)(フッ素系溶剤)
【0099】
試験例4
試験例1と同様にして、各実施例及び比較例で作製された硬化膜の撥水性を調べた。その結果を表4に示す。
【0100】
試験例5
試験例2と同様にして、実施例及び比較例で作製された硬化膜について、所定の摩耗試験を実施した後の水に対する撥水性を測定した。その結果を表4に示す。
【0101】
試験例6
試験例3と同様にして、各試験片について耐スチールウール試験を実施した。その結果を表4に示す。
【0102】
【0103】
参考例16と比較例5との対比から、多置換アルキル鎖含有アルコキシシランを含有しない場合は超音波摩耗性が低下していることがわかる。
また、膜厚としては0.2μm程度の膜厚があり、アルキル鎖を有する多置換アルコキシシランを一定量含むことで、Si-O-Siの結合の他にアルキル鎖の結合を導入することで、硬化膜の脆さが低減され、関東ロームでの耐摩耗性が改善されることがわかる。