(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】荷重値を増加させるための、アルミナセメントをベースとする無機モルタルシステムに於ける、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の使用
(51)【国際特許分類】
C04B 28/06 20060101AFI20240122BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20240122BHJP
C04B 22/08 20060101ALI20240122BHJP
C04B 14/30 20060101ALI20240122BHJP
C04B 14/32 20060101ALI20240122BHJP
C04B 14/36 20060101ALI20240122BHJP
C04B 14/28 20060101ALI20240122BHJP
C04B 14/06 20060101ALI20240122BHJP
C04B 22/16 20060101ALI20240122BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20240122BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20240122BHJP
C04B 24/38 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
C04B28/06
C04B22/06 Z
C04B22/08 Z
C04B14/30
C04B14/32
C04B14/36
C04B14/28
C04B14/06 Z
C04B22/16 A
C04B24/06 A
C04B24/22 D
C04B24/38 B
(21)【出願番号】P 2022543612
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2021050658
(87)【国際公開番号】W WO2021148299
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-07-17
(32)【優先日】2020-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Hilti Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Feldkircherstrasse 100,9494 Schaan,Liechtenstein
(74)【代理人】
【識別番号】100123342
【氏名又は名称】中村 承平
(72)【発明者】
【氏名】マルクス シェーンライン
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-500297(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011055883(DE,A1)
【文献】特表2018-534228(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0175589(US,A1)
【文献】国際公開第2020/002070(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
E04B 1/41
B28B 23/00-23/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミネラル基材中への固定手段の化学的留め付けのための無機モルタルシステムであって、硬化性アルミナセメント成分Aと
、硬化プロセスを開始するための開始剤成分Bとを含み、成分Aが、ホウ酸、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、それらの塩および混合物からなる群から選択される少なくとも1つのブロッキング剤をさらに含み、成分Bが、開始剤と、少なくとも1つの遅延剤と、少なくとも1つのミネラル充填剤と、水とを含む、システムにおける、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の使用
であって、
8以上のモース硬度を有する前記少なくとも1つの硬質骨材はトパーズ、キュービックジルコニア、クリソベリル、クロム、窒化ケイ素、炭化タンタル、コランダム、サファイアルビー、炭化タングステン、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化タンタル、炭化ジルコニウム、アルミナ、炭化ベリリウム、炭化チタン、ホウ化アルミニウム、炭化ホウ素、ホウ素、窒化ホウ素、二ホウ化レニウム、スティショバイト、二ホウ化チタン、ダイヤモンド、およびカルボナードからなる群から選択され、
前記ミネラル充填剤は石灰石充填剤、砂、砕石、砂利、小石、およびそれらの混合物からなる群から選択される、
使用。
【請求項2】
前記硬化性アルミナセメント成分Aが、少なくとも1つの可塑剤および水をさらに含む、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記アルミナセメント成分Aが、水相アルミン酸カルシウムセメントをベースとするアルミナセメント成分である、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
8以上のモース硬度を有する前記少なくとも1つの硬質骨材が
、トパーズ、コランダム、またはダイヤモンドで
ある、請求項1または2に記載の使用。
【請求項5】
8以上のモース硬度を有する前記少なくとも1つの硬質骨材が、前記無機モルタルシステムの前記硬化性アルミナセメント成分Aに含まれる、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記開始剤が、アルカリおよび/またはアルカリ土類金属塩の混合物を含み、前記少なくとも1つの遅延剤が、クエン酸、酒石酸、乳酸、サリチル酸、グルコン酸、リグノスルホン酸塩、セルロース誘導体、有機リン酸塩または合成ポリマー、無水マレイン酸、およびそれらの混合物からなる群から選
択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記開始剤が、ナトリウム金属塩の混合物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
成分AおよびBを混合することによって得られ
る生成物中に、8以上のモース硬度を有する前記少なくとも1つの硬質骨材が、約25重量%~50.0重量%の範囲で存在する、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記固定手段が、アンカーロッド、ねじ付きアンカーロッド、ボルト、または鉄筋である、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記ミネラル基材が、レンガ積み、コンクリート、浸透性コンクリート、または天然石で作られた構造物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記ミネラル基材が、削孔である、請求項1~10のいずれか一項に記載の使用。
【請求項12】
レンガ積み、コンクリート、浸透性コンクリート、または天然石で作られた構造
物のミネラル基材中の固定手
段の化学的留め付けのための方法における、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記無機モルタルシステムが、2成分無機カプセル留め付けシステムである、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記2成分無機カプセル留め付けシステムが、フィルムバッグの形態またはガラスカプセルの形態である、請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミネラル基材中への固定(アンカー)手段の化学的留め付けのための無機モルタルシステムであって、硬化性アルミナセメント成分Aと、硬化プロセスを開始するための開始剤成分Bとを含み、成分Aが、ホウ酸、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、それらの塩および混合物からなる群から選択される少なくとも1つのブロッキング剤をさらに含み、成分Bが、開始剤と、少なくとも1つの遅延剤と、少なくとも1つのミネラル充填剤と、水とを含む、システムに於ける、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の使用に関する。特に、本発明は、荷重値を増加させるために、ミネラル基材中への固定手段の化学的留め付けのための無機モルタルシステムに於ける8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の使用に関する。さらに、本発明は、レンガ積み、コンクリート、浸透性コンクリート、または天然石で作られた構造物などのミネラル基材中の固定手段、好ましくは金属要素の化学的留め付けのための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミネラル基材中への固定手段の良好な化学的留め付けを提供する多くのモルタルシステムが存在する。例えば、速硬性が望まれる場合、フリーラジカル重合性樹脂をベースとする有機システムが、使用される。しかしながら、そのようなシステムは、一般に、汚染性で、高価で、潜在的に危険で、および/または環境にとって、およびそれらを取り扱う人にとって有毒であることが知られており、それらは、多くの場合、特別にラベル付けされる必要がある。さらに、有機システムは、強い日光、またはさもなければ火などの高温に熱的にさらされると安定性の大幅な低下を示すことが多く、それにより、固定手段の化学的留め付けに関して、機械的性能を低下させる。
【0003】
これらの欠点を克服するために、アルミナセメントをベースとする主にミネラルのシステムが開発されてきた。アルミナセメントは、その主成分としてアルミン酸一カルシウムを有し、最終製品が長期間にわたって高レベルの機械的性能を示すため、建築および建設業界で広く使用されている。また、アルミナセメントは、酸に対してより耐性があり、ポルトランドセメントよりも迅速に最大強度を達成し、硫酸塩の溶液に耐え得る。したがって、アルミナセメントシステムは、化学的留め付け(接着系アンカー)の分野で好ましく使用される。
【0004】
ミネラル基材中への固定手段の化学的留め付けに関しては、既知のシステムのほとんどが、得られた組成物のほとんどが実際の用途のための十分な流動性を欠いている。多くの場合、そのような先行技術の組成物はまた、比較的短時間でひび割れる傾向を示すか、または特に高温の影響下、ダイヤモンドドリル削孔内、もしくは湿った削孔内、ならびに長期間にわたってなどの特定の条件下で、必要な機械的性能を呈さない。さらに、既知のシステムは、削孔に適用されたときに大幅な収縮を呈する傾向があり、それにより、固定手段の留め付けが不十分となる。
【0005】
したがって、従来技術のシステムよりも優れている無機モルタルシステム、好ましくは2成分無機モルタルシステムが、求められている。具体的には、特にダイヤモンドドリル削孔に、湿った削孔に、および長期間にわたって適用される場合に、化学的留め付けシステムの取り扱い、特性、および機械的性能に悪影響を与えることなく、ミネラル基材中への固定手段の化学的留め付けのために使用され得るシステムを提供することは、重要である。特に、既知のシステムと比較して、増大した荷重値を提供するシステムが求められている。さらに、アンカーロッド、ねじ付きアンカーロッド、ボルト、または鉄筋などの固定手段の留め付けを確実にすると同時に、削孔内のモルタルの収縮を補償する必要性が、長い間感じられてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の観点から、本発明の目的は、特に、ダイヤモンドドリル削孔内、湿った削孔内、および長期間にわたってなどの特定の条件下で優れた機械的性能を有すると同時に、既知のシステムと比較して、増大した荷重値を有する無機モルタルシステム、好ましくは多成分モルタルシステム、特に2成分無機モルタルシステムを提供することである。さらに、無機モルタルシステムは、確実な留め付けを保証するために、低い収縮を呈するべきである。
【0007】
さらに、本発明の目的は、レンガ積み、コンクリート、浸透性コンクリート、または天然石で作られた構造物などのミネラル基材中への固定手段、好ましくは金属要素の化学的留め付けのための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の説明から明らかになるであろう、これらおよび他の目的は、独立請求項に記載されている本発明によって解決される。従属請求項は、好ましい実施形態に関する。
【0009】
本発明の一態様では、本発明は、荷重値を増加させるために、ミネラル基材中の固定手段の化学的留め付けのための無機モルタルシステムであって、硬化性アルミナセメント成分Aと、硬化プロセスを開始するための開始剤成分Bとを含み、成分Aが、ホウ酸、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、それらの塩および混合物からなる群から選択される少なくとも1つのブロッキング剤をさらに含み、成分Bが、開始剤と、少なくとも1つの遅延剤と、少なくとも1つのミネラル充填剤と、水とを含む、システムにおける、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の使用に関する。
【0010】
別の態様では、本発明は、レンガ積み、コンクリート、浸透性コンクリート、または天然石で作られた構造物などのミネラル基材中の固定手段、好ましくは金属要素の化学的留め付けのための方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下の用語および定義が、本発明の文脈で使用される。
【0012】
本発明の文脈で使用される場合、「a」および「an」の単数形は、文脈が明確に別段の指示をしない限り、それぞれの複数形も含む。したがって、「a」または「an」という用語は、別段の記載がない限り、「1つまたは複数」もしくは「少なくとも1つ」を意味することを意図している。
【0013】
本発明の文脈における「アルミナセメント」という用語は、主に水和活性アルミン酸カルシウムからなるアルミン酸カルシウムセメントを指す。別名は、「高アルミナセメント」またはフランス語で「Ciment fondu」である。アルミン酸カルシウムセメントの主な有効成分は、アルミン酸一カルシウム(CaAl2O4、CaO・Al2O3、またはセメント化学表記のCA)である。
【0014】
本発明の文脈における「開始剤」という用語は、特定の化学反応を開始するように化学環境を変更する化合物または組成物を指す。本発明において、開始剤は、モルタル懸濁液のpH値を変更し、それにより、最終混合物中の水硬性結合剤を非ブロック化する。
【0015】
本発明の文脈における「遅延剤」という用語は、特定の化学反応を遅延させるように化学環境を変更する化合物または組成物を指す。本発明において、遅延剤は、モルタル懸濁液のアルミン酸カルシウムセメントの水和能力を変更し、それにより、最終混合物における水硬性結合剤の作用を遅らせる。
【0016】
「8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材」という用語は、ミネラル硬度のモーススケールを再び参照して、ある天然サンプルのミネラルが、別のミネラルを目に見えて引っ掻く能力に基づいており、トパーズ、キュービックジルコニア、クリソベリル、クロム、窒化ケイ素、炭化タンタル、コランダム、サファイアルビー、炭化タングステン、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化タンタル、炭化ジルコニウム、アルミナ、炭化ベリリウム、炭化チタン、ホウ化アルミニウム、炭化ホウ素、ホウ素、窒化ホウ素、二ホウ化レニウム、スティショバイト、二ホウ化チタン、ダイヤモンド、およびカルボナードなどの8以上のモース硬度を有するすべての骨材を含む。
【0017】
驚くべきことに、ミネラル基材中への固定手段の化学的留め付けのための無機モルタルシステムであって、好ましくはアルミン酸カルシウムセメントをベースとする硬化性アルミナセメント成分を含む、システムに於ける、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の添加が、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材を含まないシステムと比較して、荷重値の著しい増大をもたらすことが、本発明者らによって見出された。8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の添加は、特にダイヤモンドドリル削孔に、湿った削孔に、および長期間にわたって適用された場合、化学的留め付けシステムの取り扱い、特性、および機械的性能に悪影響を及ぼさないことも見出された。
【0018】
したがって、本発明は、ミネラル基材中への固定手段の化学的留め付けのための無機モルタルシステムであって、硬化性アルミナセメント成分Aと、硬化プロセスを開始するための開始剤成分Bとを含む、システムに於ける、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の使用に関する。特に、成分Aは、ホウ酸、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、それらの塩および混合物からなる群から選択される少なくとも1つのブロッキング剤をさらに含み、成分Bは、開始剤と、少なくとも1つの遅延剤と、少なくとも1つのミネラル充填剤と、水とを含む。さらに、成分Aは、少なくとも1つの可塑剤および水を含む。
【0019】
本発明で使用される成分Aは、アルミナセメント(CA)またはスルホアルミン酸カルシウムセメント(CSA)をベースとする。本発明で使用され得るアルミナセメント成分は、好ましくは、水相アルミン酸カルシウムセメント(CAC)をベースとするアルミナセメント成分である。本発明で使用されるアルミナセメントは、急速硬化(rapid set)および急速硬化(rapid hardening)、急速乾燥、腐食および収縮に対する優れた耐性によって特徴付けられる。本発明に於ける使用に好適なそのようなアルミン酸カルシウムセメントは、例えば、Ternal(登録商標)White(Kerneos、フランス)である。
【0020】
成分Aが、アルミン酸カルシウムセメント(CAC)と、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材との混合物を含む場合、荷重値の増大が達成され得ることが見出された。
【0021】
本発明による、ミネラル基材中への固定手段の化学的留め付けのための無機モルタルシステムで使用される、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材は、好ましくは、トパーズ、キュービックジルコニア、クリソベリル、クロム、窒化ケイ素、炭化タンタル、コランダム、サファイアルビー、炭化タングステン、窒化チタン、炭化ケイ素、炭化タングステン、炭化タンタル、炭化ジルコニウム、アルミナ、炭化ベリリウム、炭化チタン、ホウ化アルミニウム、炭化ホウ素、ホウ素、窒化ホウ素、二ホウ化レニウム、スティショバイト、二ホウ化チタン、ダイヤモンド、およびカルボナードからなる群から選択されるミネラル凝集体である。本発明の好ましい実施形態では、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材は、コランダム、トパーズ、またはダイヤモンドである。本発明の最も好ましい実施形態では、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材は、コランダムである。
【0022】
本発明で使用される、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材は、好ましくは、無機モルタルシステムの硬化性アルミナセメント成分Aに含まれる。本発明の好ましい実施形態では、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材は、無機モルタルシステムの水相アルミン酸カルシウムセメントをベースとする硬化性アルミナセメント成分に含まれる。
【0023】
特に、硬化性アルミナセメント成分Aに含まれる、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材は、70/30~30/70、好ましくは60/40~40/60の範囲の、水相でブロック化されたアルミン酸カルシウムセメント成分に対する、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の重量比で、最も好ましくは50/50の重量比で、存在する。本発明の特定の好ましい実施形態では、コランダムは、70/30~30/70、好ましくは60/40~40/60の範囲の、水相でブロック化されたアルミン酸カルシウムセメント成分に対するコランダムの重量比で、最も好ましくは50/50の比率で、水相アルミン酸カルシウムセメントをベースとする硬化性アルミナセメント成分中に存在する。
【0024】
8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材は、好ましくは、0.1~2mm、より好ましくは1~2mm、最も好ましくは1.2~1.8mmの範囲の平均粒径を有する。
【0025】
本発明の最も好ましい実施形態では、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材は、0.1~2mm、より好ましくは1~2mm、最も好ましくは1.2~1.8mmの範囲の粒径を有するコランダムであり、70/30~30/70、好ましくは60/40~40/60の範囲の、水相でブロック化されたアルミン酸カルシウムセメント成分に対するコランダムの重量比で、最も好ましくは50/50の重量比で、存在する。
【0026】
本発明で使用される成分Aは、成分Aの総重量に基づいて、少なくとも約40重量%、好ましくは少なくとも約50重量%、より好ましくは少なくとも約60重量%、最も好ましくは少なくとも約65重量%、約40重量%~約95重量%、好ましくは約50重量%~約90重量%、より好ましくは約60重量%~約85重量%、最も好ましくは約65重量%から約80重量%のアルミナセメント、好ましくはアルミン酸カルシウムセメントを含む。
【0027】
本発明の代替の実施形態によれば、成分Aは、成分Aの総重量に基づいて、少なくとも約20重量%、好ましくは少なくとも約30重量%、より好ましくは少なくとも約40重量%、最も好ましくは少なくとも約50重量%、約20重量%~約80重量%、好ましくは約30重量%~約70重量%、より好ましくは約35重量%~約60重量%、最も好ましくは約40重量%~約55重量%のアルミナセメントと、成分Aの総重量に基づいて、少なくとも約0.1重量%、好ましくは少なくとも約1重量%、より好ましくは少なくとも約1.5重量%、最も好ましくは少なくとも約2重量%、約0.1重量%~約50重量%、好ましくは約0.5重量%~約40重量%、より好ましくは約1重量%~約30重量%、最も好ましくは約15重量%~約25重量%の硫酸カルシウム、好ましくは硫酸カルシウム半水和物と、を含む。本発明の2成分モルタルシステムの好ましい代替の実施形態では、成分AのCaSO4/CACの比は、5:95以下であるべきである。
【0028】
本発明で使用される成分Aに含まれるブロッキング剤は、ホウ酸、リン酸、メタリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、それらの塩および混合物からなる群から選択され、好ましくはリン酸またはメタリン酸であり、最も好ましくはリン酸、特に、リン酸の85%水溶液である。成分Aは、成分Aの総重量に基づいて、少なくとも約0.1重量%、好ましくは少なくとも約0.3重量%、より好ましくは少なくとも約0.4重量%、最も好ましくは少なくとも約0.5重量%、約0.1重量%~約20重量%、好ましくは約0.1重量%~約15重量%、より好ましくは約0.1重量%~約10重量%、最も好ましくは約0.3重量%~約10重量%の当該ブロッキング剤を含む。好ましい実施形態では、成分Aは、成分Aの総重量に基づいて、約0.3重量%~約10重量%のリン酸の85%水溶液を含む。好ましくは、水硬性結合材の総重量に対する重量でのアルミナセメントおよび/またはスルホアルミン酸カルシウムセメントの量は、以下の値、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%のいずれかよりも高いか、または100%である。
【0029】
さらに、可塑剤が、成分A内に存在してもよい。本発明で使用される成分Aに含まれる可塑剤は、低分子量(LMW)ポリアクリル酸ポリマー、重縮合体のファミリからの流動化剤、ポリホスホネートポリオックスならびにポリカーボネートポリオックスのファミリからの流動化剤、およびポリカルボキシレートエーテル群からの流動化剤、ならびにそれらの混合物からなる群から選択され、例えば、Ethacryl(商標)G(Coatex、Arkema Group、フランス),Acumer(商標)1051(Rohm and Haas、英国)、またはSika(登録商標)ViscoCrete(登録商標)-20 HE(Sika、ドイツ)である。好適な可塑剤は、市販の製品である。成分Aは、成分Aの総重量に基づいて、少なくとも約0.01重量%、好ましくは少なくとも約0.1重量%、より好ましくは少なくとも約0.2重量%、最も好ましくは少なくとも約0.3重量%、約0.01重量%~約20重量%、好ましくは約0.1重量%~約15重量%、より好ましくは約0.2重量%~約10重量%、最も好ましくは約0.3重量%~約5重量%の当該可塑剤を含む。
【0030】
有利な実施形態では、成分Aは、以下の特性を単独でまたは組み合わせで、さらに含む。
【0031】
成分Aは、増粘剤をさらに含んでもよい。本発明で使用され得る増粘剤は、キサンタンガム、ウェランガムまたはDIUTAN(登録商標)ガム(CPKelko、米国)、デンプン由来エーテル、グアー由来エーテル、セルロースエーテル、ポリアクリルアミド、カラギーナン、寒天、および粘土などのミネラル製品、ならびにそれらの混合物などの有機製品からなる群から選択され得る。好適な増粘剤は、市販の製品である。成分Aは、成分Aの総重量に基づいて、少なくとも約0.01重量%、好ましくは少なくとも約0.1重量%、より好ましくは少なくとも約0.15重量%、最も好ましくは少なくとも約0.2重量%、約0.01重量%~約10重量%、好ましくは約0.1重量%~約5重量%、より好ましくは約0.2重量%~約1重量%、最も好ましくは約0.25重量%~約0.7重量%の当該増粘剤を含む。
【0032】
成分Aは、抗菌剤または殺生剤をさらに含んでもよい。本発明で使用され得る抗菌剤または殺生剤は、メチルイソチアゾリノン(MIT)、オクチルイソチアゾリノン(OIT)、およびベンゾイソチアゾリノン(BIT)などのイソチアゾリノンファミリの化合物、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。好適な抗菌剤または殺生剤は、市販の製品である。例示的に言及されるのは、Ecocide K35R(Progiven、フランス)およびNuosept OB 03(Ashland、オランダ)である。成分Aは、成分Aの総重量に基づいて、少なくとも約0.001重量%、好ましくは少なくとも約0.002重量%、より好ましくは少なくとも約0.005重量%、最も好ましくは少なくとも約0.01重量%、約0.001重量%~約1.5重量%、好ましくは約0.002重量%~約0.1重量%、より好ましくは約0.005重量%~約0.075重量%、最も好ましくは約0.01重量%~約0.03重量%の当該抗菌剤または殺生剤を含む。好ましい実施形態では、成分Aは、成分Aの総重量に基づいて、約0.01重量%~約0.03重量%のNuosept OB 03を含む。
【0033】
代替の実施形態では、成分Aは、少なくとも1つの充填剤、特に、有機またはミネラル充填剤をさらに含み得る。本発明で使用され得る充填剤は、石英粉末、好ましくは約16μmの平均粒径(d50%)を有する石英粉末、ケイ砂、粘土、フライアッシュ、ヒュームドシリカ、炭酸塩化合物、顔料、酸化チタン、軽質充填剤、およびそれらの混合物からなる群から選択され得る。好適なミネラル充填剤は、市販の製品である。例示的に言及されるのは、石英粉末Millisil W12またはW6(Quarzwerke GmbH、ドイツ)である。成分Aは、成分Aの総重量に基づいて、少なくとも約1重量%、好ましくは少なくとも約2重量%、より好ましくは少なくとも約5重量%、最も好ましくは少なくとも約8重量%、約1重量%~約50重量%、好ましくは約2重量%~約40重量%、より好ましくは約5重量%~約30重量%、最も好ましくは約8重量%~約20重量%の当該少なくとも1つの充填剤を含む。
【0034】
成分Aに含まれる含水量は、成分Aの総重量に基づいて、少なくとも約0.1重量%、好ましくは少なくとも約1重量%、より好ましくは少なくとも約5重量%、最も好ましくは少なくとも約10重量%、約1重量%~約50重量%、好ましくは約5重量%~約40重量%、より好ましくは約7.5重量%~約30重量%、最も好ましくは、約10重量%~約25重量%である。
【0035】
可塑剤、増粘剤、充填剤、ならびに抗菌剤または殺生剤の存在は、セメント質成分Aの全体的な無機性を変化させない。
【0036】
アルミナセメントまたはスルホアルミン酸カルシウムセメントを含む成分Aは、水相で、好ましくはスラリまたはペーストの形態で存在する。
【0037】
本発明で使用される成分Bは、開始剤と、少なくとも1つの遅延剤と、少なくとも1つのミネラル充填剤と、水とを含む。十分な処理時間を確保し、それによって初期硬化時間が少なくとも5分以上であるように、モルタル組成物の早期硬化を防止する少なくとも1つの遅延剤が、開始剤成分に加えて、別個の濃度で使用される。
【0038】
成分B内に存在する開始剤は、アルカリおよび/またはアルカリ土類金属塩の混合物を含む活性剤成分および促進剤成分から構成される。
【0039】
特に、活性剤成分は、水酸化物、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのアルカリおよび/またはアルカリ土類金属塩から構成され、好ましくは、活性剤成分は、アルカリまたはアルカリ土類金属塩であり、より好ましくは、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、またはリン酸カルシウムなどのカルシウム金属塩、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、またはリン酸ナトリウムなどのナトリウム金属塩、もしくは水酸化リチウム、硫酸リチウム、炭酸リチウム、またはリン酸リチウムなどのリチウム金属塩であり、最も好ましくは水酸化リチウムである。好ましい一実施形態では、成分B内で使用される水酸化ナトリウムは、水酸化ナトリウムの18%水溶液である。
【0040】
成分Bは、成分Bの総重量に基づいて、当該活性剤の少なくとも約0.01重量%、好ましくは少なくとも約0.02重量%、より好ましくは少なくとも約0.05重量%、最も好ましくは少なくとも約1重量%、約0.01重量%~約40重量%、好ましくは約0.02重量%~約35重量%、より好ましくは約0.05重量%~約30重量%、最も好ましくは約1重量%~約25重量%を構成する。特に好ましい実施形態では、活性剤は、水および水酸化リチウムまたは水酸化ナトリウムから構成される。成分Bに含まれる含水量は、成分Bの総重量に基づいて、少なくとも約1重量%、好ましくは少なくとも約5重量%、より好ましくは少なくとも約10重量%、最も好ましくは少なくとも約15重量%、約1重量%~約60重量%、好ましくは約5重量%~約50重量%、より好ましくは約10重量%~約40重量%、最も好ましくは約15重量%~約30重量%である。成分Bに含まれる水酸化リチウムまたは水酸化ナトリウム含有量は、成分Bの総重量に基づいて、少なくとも約0.1重量%、好ましくは少なくとも約0.5重量%、より好ましくは少なくとも約1.0重量%、最も好ましくは少なくとも約1.5重量%、約0.1重量%~約10重量%、好ましくは約0.5重量%~約7.5重量%、より好ましくは約2重量%~約7重量%、最も好ましくは約3重量%~約5重量%である。
【0041】
代替の実施形態では、活性剤はまた、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム、それらの改質物または混合物、例えば、メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、またはピロケイ酸ナトリウム、より好ましくはケイ酸ナトリウムまたはケイ酸カリウムであり得る。好ましい一実施形態にでは、ケイ酸カリウムは、改質ケイ酸カリウムまたはナトリウムの水溶液であり得る。
【0042】
促進剤成分は、水酸化物、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、一水素リン酸塩、二水素リン酸塩、硝酸塩、炭酸塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つのアルカリおよび/またはアルカリ土類金属塩から構成され、好ましくは、促進剤成分は、アルカリまたはアルカリ土類金属塩であり、さらに好ましくは水溶性アルカリまたはアルカリ土類金属塩であり、より好ましくは、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、ギ酸カルシウム、またはリン酸カルシウムなどのカルシウム金属塩、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ギ酸ナトリウム、またはリン酸ナトリウムなどのナトリウム金属塩、もしくは水酸化リチウム、硫酸リチウム、硫酸リチウム一水和物、炭酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム、ギ酸リチウム、またはリン酸リチウムなどのリチウム金属塩であり、最も好ましくは硫酸リチウムまたは硫酸リチウム一水和物である。成分Bは、成分Bの総重量に基づいて、当該促進剤の少なくとも約0.01重量%、好ましくは少なくとも約0.05重量%、より好ましくは少なくとも約0.1重量%、最も好ましくは少なくとも約0.2重量%、約0.01重量%~約25重量%、好ましくは約0.05重量%~約20重量%、より好ましくは約0.1重量%~約15重量%、最も好ましくは約0.2重量%~約10重量%を構成する。
【0043】
本発明で使用される成分Bに含まれる少なくとも1つの遅延剤は、クエン酸、酒石酸、乳酸、サリチル酸、グルコン酸、リグノスルホン酸塩、セルロース誘導体、有機リン酸塩または合成ポリマー、無水マレイン酸、およびそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、クエン酸と酒石酸との混合物である。成分Bは、成分Bの総重量に基づいて、当該遅延剤の少なくとも約0.1重量%、好ましくは少なくとも約0.2重量%、より好ましくは少なくとも約0.5重量%、最も好ましくは少なくとも約1.0重量%、約0.1重量%~約25重量%、好ましくは約0.2重量%~約15重量%、より好ましくは約0.5重量%~約15重量%、最も好ましくは約1.0重量%~約10重量%を構成する。
【0044】
本発明で使用される成分Bの特に好ましい実施形態では、クエン酸/酒石酸の比は、1.6/1である。
【0045】
本発明で使用される成分Bに含まれる少なくとも1つのミネラル充填剤は、石灰石充填剤、砂、砕石、砂利、小石、コランダム、およびそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは、様々な炭酸カルシウムなどの石灰石充填剤である。少なくとも1つのミネラル充填剤は、好ましくは、石灰石充填剤または石英粉末Millisil W12もしくはW6(Quarzwerke GmbH、ドイツ)およびケイ砂などの石英充填剤からなる群から選択される。成分Bの少なくとも1つのミネラル充填剤は、最も好ましくは、炭酸カルシウムまたは炭酸カルシウムの混合物である。成分Bは、成分Bの総重量に基づいて、少なくとも1つのミネラル充填剤の少なくとも約30重量%、好ましくは少なくとも約40重量%、より好ましくは少なくとも約50重量%、さらにより好ましくは少なくとも約60重量%、最も好ましくは少なくとも約70重量%、約30重量%~約95重量%、好ましくは約35重量%~約90重量%、より好ましくは約40重量%~約85重量%、さらにより好ましくは約45重量%~約80重量%、最も好ましくは約50重量%~約75重量%を構成する。少なくとも1つのミネラル充填剤は、アルミナセメントの粒径と相補的な粒径を得るように選択される。
【0046】
少なくとも1つのミネラル充填剤は、500μm以下、より好ましくは400μm以下、最も好ましくは350μm以下の平均粒径を有することが好ましい。
【0047】
特に好ましい実施形態では、成分Bに含まれる少なくとも1つのミネラル充填剤は、3つの異なる炭酸カルシウム、すなわち、異なるOmyacarb(登録商標)タイプ(Omya International AG、ドイツ)などの炭酸カルシウム微粉の混合物である。または、異なるコランダム充填剤の炭酸カルシウムとの混合物。
【0048】
特に好ましい代替の実施形態では、成分Bに含まれる少なくとも1つのミネラル充填剤は、3つの異なる石英充填剤の混合物である。最も好ましくは、第1の石英充填剤は、約240μmの平均粒径(d50%)を有するケイ砂である。第2の石英充填剤は、約40μmの平均粒径(d50%)を有する石英粉末である。第3の石英充填剤は、約15μmの平均粒径(d50%)を有する石英粉末である。本発明で使用される成分Bの特に好ましい実施形態では、第1の石英充填剤/第2の石英充填剤/第3の石英充填剤の比は、3/2/1である。
【0049】
有利な実施形態では、成分Bは、単独でまたは組み合わせで、以下の特性をさらに備える。
【0050】
成分Bは、増粘剤を追加的に含み得る。本発明で使用される増粘剤は、ベントナイト、二酸化ケイ素、石英、アルカリ可溶性またはアルカリ膨潤性エマルジョンなどのアクリレートをベースとする増粘剤、ヒュームドシリカ、粘土、およびチタン酸塩キレート剤からなる群から選択され得る。例示的に言及されるのは、ポリビニルアルコール(PVA)、疎水的に変性されたアルカリ可溶性エマルジョン(HASE)、HEURとして当技術分野で知られている疎水的に変性されたエチレンオキシドウレタンポリマー、およびセルロース系増粘剤、例えば、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、疎水的に変性されたヒドロキシエチルセルロース(HMHEC)、ナトリウムカルボキシメチルセルロース(SCMC)、ナトリウムカルボキシメチル2-ヒドロキシエチルセルロース、2-ヒドロキシプロピルメチルセルロース、2-ヒドロキシエチルメチルセルロース、2-ヒドロキシブチルメチルセルロース、2-ヒドロキシエチルエチルセルロース、2-ヒドロキシプロピルセルロース、アタパルジャイト粘土、およびそれらの混合物である。好適な増粘剤は、Optigel WX(BYK-Chemie GmbH、ドイツ)、Rheolate 1(Elementis GmbH、ドイツ)、Acrysol ASE-60(The Dow Chemical Company)などの市販製品である。成分Bは、成分Bの総重量に基づいて、当該増粘剤の少なくとも約0.01重量%、好ましくは少なくとも約0.05重量%、より好ましくは少なくとも約0.1重量%、最も好ましくは少なくとも約0.3重量%、約0.01重量%~約15重量%、好ましくは約0.05重量%~約10重量%、より好ましくは約0.1重量%~約5重量%、最も好ましくは約0.3重量%~約1重量%を構成する。
【0051】
遅延剤および増粘剤の存在は、セメント質成分Bの全体的な無機性を変化させない。
【0052】
開始剤および遅延剤を含む成分Bは、水相で、好ましくはスラリまたはペーストの形態で存在する。
【0053】
成分BのpH値は、10超、より好ましくは11超、最も好ましくは12超、特に、10~14の範囲、好ましくは11~13の範囲であることが好ましい。
【0054】
2つの成分、すなわち成分Aおよび成分B中の水の比率は、成分AとBとを混合することによって得られる生成物における水対アルミナセメント比(W/CAC)または水対スルホアルミン酸カルシウムセメント(W/CSA)が、1.5未満、好ましくは0.3~1.2、最も好ましくは0.3~0.7であるように選択されることが、特に好ましい。好ましい実施形態では、成分AおよびBを混合することによって得られる生成物中の硫酸カルシウムを含むアルミン酸カルシウムセメントに対する水の比率(W/(CAC+CaSO4))は、0.4未満である。
【0055】
成分AおよびBを混合することによって得られる生成物中に、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材が、約1重量%~50重量%、好ましくは約5重量%~40重量%、より好ましくは約15重量%~40重量%、最も好ましくは約20重量%~38.5重量%の範囲で存在することが、特に好ましい。
【0056】
さらに、成分AおよびBを混合することによって得られる生成物において、クエン酸/酒石酸対アルミナセメント比およびクエン酸/酒石酸対スルホアルミン酸カルシウムセメントが、0.5未満、好ましくは0.01~0.4、最も好ましくは0.1~0.3であるように、成分B中の遅延剤の比率が選択されることが、特に好ましい。
【0057】
最も好ましい実施形態では、成分Aは、以下の成分を含むか、またはそれらからなる。
35~40重量%のアルミナセメント、
45~55重量%8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材、
0.1~1.0重量%のリン酸、
0.1~1.0重量%の可塑剤、
0.001~0.0.2重量%の抗菌剤または殺生剤、
任意選択で、5~20重量%のミネラル充填剤、および
7.5~10重量%の水。
【0058】
最も好ましい実施形態では、成分Bは、以下の成分を含むか、またはそれからなる。
0.1重量%~6重量%の水酸化リチウムまたは水酸化ナトリウム、
0.1重量%~5重量%の硫酸リチウムまたは硫酸リチウム一水和物、
0.05重量%~5重量%のクエン酸、
0.05重量%~4重量%の酒石酸、
30重量%~40重量%の第1のミネラル充填剤、
15重量%~25重量%の第2のミネラル充填剤、
10重量%~20重量%の第3のミネラル充填剤、
5重量%~15重量%の第4のミネラル充填剤
0.01重量%~0.5重量%の増粘剤、および
15重量%~25重量%の水。
【0059】
本発明で使用される成分Aは、以下のように調製され得る、すなわち、リン含有ブロッキング剤が、得られた混合物のpH値が約2であるように、水と混合される。可塑剤が添加され、混合物が、均質化される。得られた混合物のpH値が約4であるように、アルミナセメント、および任意選択でミネラル充填剤が、予備混合され、撹拌速度を上げながら混合物に段階的に添加される。次に、増粘剤および抗菌剤/殺生剤が、添加され、混合物が完全に均質化するまで、混合される。最後に、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材が、混合物に添加され、均質化される。
【0060】
本発明で使用される成分Bは、以下のように調製され得る、すなわち、促進剤が、活性剤の水溶液に溶解され、次いで、遅延剤が添加され、混合物が均質化される。混合物が均質化するまで、撹拌速度を上げながら、充填剤が、段階的に添加される。最後に、混合物が完全に均質化するまで、増粘剤が、添加される。
【0061】
成分AおよびBは、水相で、好ましくはスラリまたはペーストの形態で存在する。特に、成分AおよびBは、それらのそれぞれの組成に従って、ペースト状ないし流体状の様相を有する。好ましい一実施形態では、成分Aおよび成分Bは、ペーストの形態であり、それにより、2つの成分を混合する際のたるみを防止する。
【0062】
成分Aと成分Bとの間の重量比(A/B)は、優先的には7/1~1/3の間に含まれ、好ましくは6/1である。好ましくは、混合物の組成は、85重量%の成分Aと、15重量%の成分Bとを含む。代替の実施形態では、混合物の組成は、75重量%の成分Aと、25重量%の成分Bとを含む。
【0063】
無機モルタルシステム、好ましくは2成分無機モルタルシステムは、追加の増粘剤または他の薬剤の存在によって影響を受けないミネラルの性質のものである。
【0064】
2つの成分AおよびBの混合後、無機モルタルシステムが、少なくとも5分の、好ましくは少なくとも10分の、より好ましくは少なくとも15分の、最も好ましくは少なくとも20分の、特に、約5~25分の範囲の、好ましくは約10~20分の範囲の初期硬化時間を有することが好ましい。
【0065】
多成分無機モルタルシステム、特に2成分無機モルタルシステムにおいて、開始剤成分Bに対するセメント質成分Aの体積比は、1:1~7:1であり、好ましくは3:1である。代替の実施形態では、開始剤成分Bに対するセメント質成分Aの体積比は、1:3~1:2である。
【0066】
別々に製造された後、成分Aおよび成分Bは、別々の容器に導入され得、そこから、それらが、機械的装置によって排出され、混合装置を通して導かれる。無機モルタルシステムは、好ましくは、すぐに使えるシステムであり、それにより、成分AおよびBは、マルチチャンバカートリッジおよび/またはマルチチャンバシリンダなどのマルチチャンバデバイス内に、または2成分カプセル内、好ましくは2チャンバカートリッジ内または2成分カプセル内に、互いに分離して配置される。マルチチャンバシステムは、好ましくは、硬化性成分Aと開始剤成分Bとを分離するための2つ以上のフォイルバッグを含む。混合装置によって、好ましくはスタティックミキサを介して一緒に混合されるチャンバまたはバッグの内容物が、削孔内に注入され得る。複数のチャンバカートリッジまたはペールもしくはバケットのセット内の組み付けも、可能である。
【0067】
スタティックミキサから存在する硬化性アルミナセメント組成物が、固定手段を留め付けるために必要とされる削孔に直接挿入され、固定手段の化学的留め付け中に最初にミネラル基材中に導入され、その後、留め付けされるべき建設要素、例えばアンカーロッドが、挿入および調整され、その後、モルタル組成物が、固まり硬化する。特に、無機モルタルシステムは、金属要素を留め付けるための接着系アンカーと見なされるべきである。
【0068】
特に好ましい実施形態では、固定手段の化学的留め付けのための無機モルタルシステムは、硬化性成分Aと、開始剤成分Bとを分離するための2つのフォイルバッグを含む。2成分無機モルタルシステムは、代替的に、ガラスまたは紙でできていてもよい。固定手段を化学的に留め付けるための無機モルタルシステムは、カプセルインカプセル、フォイルインフォイル、またはガラスインガラスとも称され得る。カプセルの内容物は、無機モルタルシステムを削孔に挿入し、固定手段を導入して、それによりカプセルを破壊し、固化および固定手段を化学的に留め付ける準備ができている削孔内で成分AおよびBを直接混合することによって、一緒に混合される。
【0069】
理論に束縛されるものではないが、成分A内に存在するブロッキング剤が、アルミン酸カルシウムの水への可溶化を阻害し、それによって、混合物の硬化につながるセメント水和を停止する。開始剤成分Bを添加すると、pH値が変化し、セメント質成分Aが、非ブロック化され、アルミン酸カルシウムの水和反応が、解除される。この水和反応は、アルカリ金属塩、特に、リチウム塩の存在によって触媒および加速されるため、無機モルタルシステムは、5分未満の初期硬化時間を有する。高速硬化時間(初期硬化時間)を遅らせるために、本発明で使用される成分Bに含まれる少なくとも1つの遅延剤は、少なくとも5分の初期硬化時間を得るように選択されることが好ましい。
【0070】
特に成分B内のミネラル充填剤の役割は、機械的強度および性能、ならびに長期耐久性に関する最終的な性能を調整することである。充填剤を最適化することにより、水/アルミナセメント比を最適化することが可能であり、それにより、アルミナセメントの効率的かつ迅速な水和が可能になる。
【0071】
8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材を含む無機モルタルシステムは、レンガ積み、コンクリート、浸透性コンクリート、または天然石で作られた構造物などのミネラル基材内への固定手段、好ましくはアンカーロッド、特にねじ付きロッド、ボルト、鉄筋などの金属要素の化学的留め付けに使用され得る。特に、無機モルタルシステムは、削孔内の金属要素などの固定手段の化学的留め付けに使用され得る。そのような無機モルタルシステムに於ける、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の使用は、荷重値、したがって、特に湿った削孔内、ならびにダイヤモンドドリル削孔内に於ける耐荷重を著しく増大させることが見出された。
【0072】
したがって、本発明による、無機モルタルシステムに於ける8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の使用は、特に、荷重値を増加させるためである。さらに、硬質骨材は、削孔内での収縮を低減するために使用される。
【0073】
無機モルタルに含まれる8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材は、特に、レンガ積み、コンクリート、浸透性コンクリート、または天然石で作られた構造物などのミネラル基材中の固定手段、好ましくは金属要素の化学的留め付けのための方法に適用される。
【0074】
さらに、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材を含む無機モルタルシステムは、特に建築構造物、例えば、壁または天井もしくは床の補強のための繊維、スクリム、布、または複合体、特に高弾性繊維、好ましくは炭素繊維の取り付けために、またはさらには、例えば、石、ガラス、もしくはプラスチックなどのプレートまたはブロックなどの構成要素を建物または構造要素に取り付けるために、使用され得る。しかしながら、特に、無機モルタルシステムは、固定手段、好ましくはアンカーロッド、特にねじ付きロッド、ボルト、鉄筋などの金属要素の、レンガ積み、コンクリート、浸透性コンクリート、または天然石で作られた構造物などのミネラル基材中の削孔などの凹部内への留め付けのために使用され、それによって、2成分無機モルタルシステムの成分が、例えば、スタティックミキサによって、またはカートリッジもしくはプラスチックバッグを破壊することによって、またはマルチチャンバペールもしくはバケツのセットの成分を混合することによって、予備混合される。
【0075】
以下の実施例は、本発明を説明するが、それによって本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0076】
1.成分Aおよび成分Bの調整
本発明の実施例A1~A9の液体スラリ(セメント質化合物Aおよび開始剤化合物B)が、以下の手順に従って製造された。
【0077】
1.1 成分A
19.86gの脱イオン水、0.75gの85%リン酸(ブロッキング剤)、0.5gのキサンタンガム(増粘剤)、0.6gのEthacryl G(登録商標)(流動化剤)、および0.015gのNuosept(登録商標)(殺生剤)が、室温で均質化され、溶解機で撹拌しながら、アルミン酸カルシウムセメント(純粋なTernal White(登録商標))が、少量ずつ添加されて、最終的に水中でブロック化されたセメントの滑らかな液体ペースト状スラリが得られ、そのpH値は7未満であった。
【0078】
次に、液体スラリが、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材(Alodur RBT9、Imerys Fused Minerals、またはNormal-corundum NKF030、Wester Mineralien GmbH)と、または8未満のモース硬度を有する比較骨材、例えば、石英(ケイ砂P1.2~1.75、Busch Quarz GmbH)と混和された。Alodur RBT9は、1~2mmの粒子範囲で構成され、約1.4mmの平均粒径を有する。Normalkorund F030は、約0.5~1mmの粒径を有する一方、Quarzsand P1.2~1.75は、1.2~1.75mmの範囲の粒子で構成される。コランダム充填剤のモース硬度は9である一方、石英充填剤は、7の硬度しか有さない。
【0079】
異なるA成分A1~A9の組成は、骨材の量およびタイプのみが異なる。
【表1】
【0080】
1.2.成分B
18.2gの脱イオン水に、1.93gのクエン酸、1.2gの酒石酸(遅延剤)、0.65gのEcodis(登録商標)P50(流動化剤)、および0.4gのOptigel(登録商標)WX(増粘剤)、0.43gのLi2SO4(促進剤)、ならびに4.0gのNaOH(活性剤)が、溶解された。溶解機で撹拌しながら、72.94gの以下の炭酸カルシウム充填剤の混合物が次の割合で添加され、すなわち、34.84gのOmyacarb(登録商標)130AL、17.25gのOmyacarb(登録商標)15H AL、9.0gのOmyacarb(登録商標)2AL、および11.85gのOmyabrite 1300 X-OM、最終的に水中の方解石の滑らかな液体ペースト状スラリを得、そのpHは、12超であった。
【0081】
2.2 成分無機モルタルシステムの調整
調製後、液体開始剤成分Bが、内側フォイルバッグに充填され、セメント質ペースト状成分Aが、密封された(溶接された)内側フォイルバッグを備える外側フォイルバッグに充填された。骨材の添加のない状態での液体A成分に対する液体B成分の比は、すべてのサンプルで1:3に保持された。成分Aを外側フォイルバッグに充填した後、フォイルバッグが、溶接された。各配合の5つのフォイルバッグが、準備された。内側および外側フォイルバッグ内の異なる成分の量が、表2に示されている。
【表2-1】
【表2-2】
【0082】
3.機械的性能の決定
準備されたフォイルバッグが、120mmの深さおよび14mmの直径を呈する削孔に挿入された。削孔は、せん孔直後に圧縮空気洗浄により洗浄された。次に、カプセルアンカーに好適なねじ付きロッドが、120mmの設定深さに達するまで、フォイルバッグを備える削孔内に打ち込まれた。荷重値は、24時間の硬化後に測定された。各チャージから引き出された5つのサンプルの平均値(表2)である引き抜き試験の結果が、表3に示されている。
【表3】
【0083】
表3から分かるように、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材、この場合コランダム、を含むすべての本発明のシステムは、骨材として7のモース硬度を有する石英を有する比較システムと比較して、24時間の硬化後にかなりより高い荷重値を示す。特に、1~2mmの粒子径を有し、粒子の大部分(70%超)が1.4mmより大きいコランダムAlodur RBT9は、非常に高い値および低い散乱を示す。最も好ましいのは、成分Aに50%~60%のコランダムAlodur RBT9を混合したものである。
【0084】
表4から分かるように、ほとんどすべての本発明のシステムは、8以上のモース硬度を有する硬質骨材を全く含まない比較システムと比較して、24時間の硬化後にかなりの結合強度、ならびに増大した荷重値、したがって、固定手段の化学的留め付けに関して向上した機械的強度を示す。
【0085】
上述のように、8以上のモース硬度を有する少なくとも1つの硬質骨材の使用は、8以上のモース硬度を有する硬質骨材を全く含まないシステムと比較して、荷重値したがって機械的強度の増大を提供する。