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特許7423855フォトニックインクとしての熱応答性自己組織化有機材料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】フォトニックインクとしての熱応答性自己組織化有機材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20240122BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240122BHJP
   C07F 5/02 20060101ALI20240122BHJP
【FI】
C09D11/00
C09K11/06
C07F5/02 D CSP
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2023503223
(86)(22)【出願日】2021-09-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 IN2021050860
(87)【国際公開番号】W WO2022049605
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】202011038507
(32)【優先日】2020-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
(73)【特許権者】
【識別番号】508176500
【氏名又は名称】カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アヤパンピライ・アジャヤゴシュ
(72)【発明者】
【氏名】サンディープ・チェルムキル
(72)【発明者】
【氏名】ヴィジャヤクマール・チャコト
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-249243(JP,A)
【文献】特開2020-050749(JP,A)
【文献】特開2015-218304(JP,A)
【文献】特開2021-075515(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110776525(CN,A)
【文献】特開2016-193907(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103194085(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105693588(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105968327(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0331548(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
C09K 11/06
C07F 5/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式Iの有機発色団:
【化1】
式中、
、R、及びR=アルキル[C~C18]又はアルコキシ[C~C18]炭化水素であり;
X=-CONH、又は-NH、又は-COO、又は-CO、又は-SONHであり;
n=1、又は2、又は3、である。
【請求項2】
前記有機発色団が、蛍光性、熱応答性、及び自己組織化されている、請求項1に記載の有機発色団。
【請求項3】
以下のもの:
i.10~40質量%の範囲の式Iを有する発色団:
【化2】
(式中、
、R 、及びR =アルキル[C ~C 18 ]又はアルコキシ[C ~C 18 ]炭化水素であり;
X=-CONH、又は-NH、又は-COO、又は-CO、又は-SO NHであり;
n=1、又は2、又は3、である。);
ii.10~30質量%の範囲のポリマー結合剤又はポリマー樹脂;及び
iii.50~80質量%の範囲の、分散剤として溶媒、
を含む、フォトニックインク配合物。
【請求項4】
前記配合物がゲル形態、フィルム形態、又は分散物形態である、請求項に記載のフォトニックインク配合物。
【請求項5】
使用されるポリマー樹脂が、ポリエーテルアルコール;ポリビニル樹脂;ポリアミン樹脂;ポリアクリレート樹脂アミノ樹脂、アルキル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーンレジン、フェノール樹脂、ケトン樹脂、ロジン、ロジン変性樹脂、石油樹脂、セルロース樹脂、及び天然樹脂からなる群から選択される、請求項に記載のフォトニックインク配合物。
【請求項6】
前記ポリエーテルアルコールが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールからなる群から選択され;前記ポリビニル樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、及びビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体からなる群から選択され;前記ポリアミン樹脂が、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、及びポリエチレンイミンからなる群から選択され;前記ポリアクリレート樹脂が、ポリメチルアクリレート、ポリエチレンアクリレート、ポリメチルメタクリレート、及びポリビニルメタクリレートからなる群から選択される、請求項5に記載のフォトニックインク配合物。
【請求項7】
前記溶媒が、有機溶媒及び水からなる群から選択され、有機溶媒が、ハロゲン系溶媒;非プロトン性極性溶媒;アルコール系溶媒;芳香族溶媒;ケトン系溶媒;及びエーテル系溶剤からなる群から選択される、請求項に記載のフォトニックインク配合物。
【請求項8】
前記ハロゲン系溶媒が、クロロホルム及びジクロロメタンからなる群から選択され;前記非プロトン性極性溶媒が、NMP[N-メチル-2-ピロリドン]及びDMF[ジメチルホルムアミド]からなる群から選択され;前記アルコール系溶媒が、メタノール、エタノール、ブタノール、及びイソプロパノールからなる群から選択され;前記芳香族溶媒が、クロロベンゼン、キシレン、ベンゼン、トルエン、ジクロロベンゼン、メシチレン、テトラリン、テトラメチルベンゼン、及びピリジンからなる群から選択され;及び前記エーテル系溶媒が、THF[テトラヒドロフラン]及びジエチルエーテルからなる群から選択される、請求項7に記載のフォトニックインク配合物。
【請求項9】
以下のステップ:
i.50~60℃の範囲の温度において加熱し、次に撹拌して溶液を得ることによって、式
【化3】
(式中、
、R 、及びR =アルキル[C ~C 18 ]又はアルコキシ[C ~C 18 ]炭化水素であり;
X=-CONH、又は-NH、又は-COO、又は-CO、又は-SO NHであり;
n=1、又は2、又は3、である。)
を有する有機発色団をポリマー樹脂中に溶かすステップ:
ii.0.1質量%の光開始剤を添加し、次にアルゴンでパージすることにより10~ 20分間脱気し、続いて70~80時間の範囲のあいだ、UV光(365nm)に曝露して架橋したゲルを形成させるステップ;
iii.ステップ(ii)で得られた架橋したゲルを溶媒に溶解し、次にガラス基板上にドロップキャストし、真空下で、25~30℃の範囲の室温において溶媒を蒸発させて、フォトニックインク配合物を得るステップ、
を含む、フォトニックインク配合物の製造方法。
【請求項10】
前記光開始剤が2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンである、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記溶媒が、有機溶媒及び水からなる群から選択され、有機溶媒が、ハロゲン系溶媒;非プロトン性極性溶媒;アルコール系溶媒;芳香族溶媒;ケトン系溶媒;及びエーテル系溶剤からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ハロゲン系溶媒が、クロロホルム及びジクロロメタンからなる群から選択され;前記非プロトン性極性溶媒が、NMP[N-メチル-2-ピロリドン]及びDMF[ジメチルホルムアミド]からなる群から選択され;前記アルコール系溶媒が、メタノール、エタノール、ブタノール、及びイソプロパノールからなる群から選択され;前記芳香族溶媒が、クロロベンゼン、キシレン、ベンゼン、トルエン、ジクロロベンゼン、メシチレン、テトラリン、テトラメチルベンゼン、及びピリジンからなる群から選択され;及び前記エーテル系溶媒が、THF[テトラヒドロフラン]及びジエチルエーテルからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
有機溶媒による希釈が20倍で行われる、請求項に記載の方法。
【請求項14】
以下のステップ:
i.式I:
【化4】
(式中、
、R 、及びR =アルキル[C ~C 18 ]又はアルコキシ[C ~C 18 ]炭化水素であり;
X=-CONH、又は-NH、又は-COO、又は-CO、又は-SO NHであり;
n=1、又は2、又は3、である。)
の有機発色団を溶媒に添加して、5mMより高い、より好ましくは10mMより高い濃度を有する溶液を得るステップ;
ii.ステップ(i)で得られた溶液をドロップキャスティングし、次に290~300℃の範囲の温度においてアニーリングすることで可視光及び紫外光の下で角度に依存する色の変化が可能になるステップ、
を含む、フォトニックインク配合物の製造方法。
【請求項15】
前記溶媒が、有機溶媒及び水からなる群から選択され、有機溶媒が、ハロゲン系溶媒;非プロトン性極性溶媒;アルコール系溶媒;芳香族溶媒;ケトン系溶媒;及びエーテル系溶剤からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ハロゲン系溶媒が、クロロホルム及びジクロロメタンからなる群から選択され;前記非プロトン性極性溶媒が、NMP[N-メチル-2-ピロリドン]及びDMF[ジメチルホルムアミド]からなる群から選択され;前記アルコール系溶媒が、メタノール、エタノール、ブタノール、及びイソプロパノールからなる群から選択され;前記芳香族溶媒が、クロロベンゼン、キシレン、ベンゼン、トルエン、ジクロロベンゼン、メシチレン、テトラリン、テトラメチルベンゼン、及びピリジンからなる群から選択され;及び前記エーテル系溶媒が、THF[テトラヒドロフラン]及びジエチルエーテルからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトニック材料の利点を組み込んだ特性を有する下記式Iの有機発光発色団の熱応答性二次元周期的層状自己組織化に関する[フォトニックインク]。
【化1】
式中、
、R、及びR=アルキル[C~C18]又はアルコキシ[C~C18]炭化水素;
X=-CONH、又は-NH、又は-COO、又は-CO、又は-SONH;
n=1、又は2、又は3、である。
【0002】
特に、本発明は、強化され且つスペクトル的に制御された/調整可能なフォトルミネッセンスを示す材料に関する。より特に、本発明は、蛍光性(フルオレッセント)の、熱応答性のフォトニックインクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
色は、美的な理由だけでなく、通信、信号、安全、及びセキュリティの用途のためにも重要である。色は通常、分子による光の吸収 (顔料色) 又は周期的に配置されたナノ構造による光の散乱 (構造色) によって作り出される。構造色は、その調整可能性 (可視スペクトル内の任意の色を作り出せる可能性)、安定性 (光及び化学薬品に対する耐性)、及び高価/有毒な金属/材料への依存度が低いことにより、しばしば顔料色よりも優れていると考えられる。海洋生物種の貝殻、蝶の羽、及び鳥の羽などの自然の創造物は、角度に応じて異なる光の反射を示し、鮮やかな色の変化をもたらす。これらはフォトニック機能材料の典型的な例である。[米国特許番号 国際公開第2018/098232A1を参照されたい。Eliason, C. M.ら, J. R. Soc. Interface, 2012, 9, 2279、Eliason, C. M., Proc Biol. Sci., 2013, 280, 20131505、及びShawkey, M. D., J. Morphol., 2015, 276, 378を参照することができる。]
【0004】
最近の多くの研究は、可視スペクトル全体で色を生成するフォトニック材料を作り出すための、進んだ自己組織化技術の使用を実証している。[米国特許番号 米国特許公開第2002/0062782A1明細書、米国特許第7,106,938B2明細書、国際公開第2006/084123A2号を参照されたい]。ナノインプリント・リソグラフィ(NIL)は、高性能かつ低コストのフォトニック材料を開発するための一般的な方法である。最近、進歩したNIL及びソフトリソグラフィー技術が、機能性フォトニック材料の大規模製造に使用されている。例えば、ロール・ツー・ロールNIL、ロール・ツー・プレートNIL、リバースNIL、ディップペンNIL技術が最近報告されている。[Zhang, C.ら, J. Mater. Chem. C, 2016, 4, 5133、及びLova, P.ら. Springer International Publishing Switzerland 2015, Organic and Hybrid Photonic Crystals, DOI 10.1007/978-3-319-16580-6_9を参照することができる。]
【0005】
また、様々な有機発色団に基づくフォトニックインク材料/配合物が近年報告されている[米国特許 国際公開第2005/068566A1号、米国特許公開第2005/0252411A1明細書を参照されたい]。興味深い光学特性をもつ、ペリレンジイミド類、ナフタレン誘導体、BODIPY類、カーボンドットなどの高い蛍光量子収率を有しする分子は、さまざまなオプトエレクトロニクス用途のために最も探索されている発色団である。その中でも、BODIPYは、幅広い用途を有する、よく研究された機能性発色団である[米国特許第9,611,281B2号明細書、米国特許第9,267,949B2号明細書、米国特許出願公開第2013/0244251A1号明細書、国際公開第2012/071012A2号、欧州特許出願公開第2384329A1号明細書を参照されたい。]しかし、これらの材料を用いたフォトニックインク配合物は全く報告されていない。
【0006】
ボトムアップの自己組織化法及びトップダウンのナノリソグラフィー法の両方が、上で論じたように広く使用されているが、フォトニック材料の産業用途向けの高コントラストのカラースイッチング、及び規模拡大可能なプロセスを達成するためには、大きな課題が残っている。さらに、構造色の最近の例は、カーボンブラック、金ナノ粒子、又はポリマーなどの吸収材料が存在しない場合、十分な彩度を欠いている[Xiao, Mingら, Sci Adv., 2017, 3, el701151、及びMeadows, M. G.ら, J. R. Soc. Interface, 2009, 6, S107-S113を参照することができる]。
【0007】
ここで、本発明は、偽造防止及びその他の用途のための高コントラストカラースイッチングを有する、式Iによって表されるBODIPY[ボロン-ジピロメテン]誘導体に基づく規模拡大可能(スケーラブル)なフォトニックインク配合物の調製を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2018/098232A1
【文献】米国特許公開第2002/0062782A1明細書
【文献】米国特許第7,106,938B2明細書
【文献】国際公開第2006/084123A2号
【文献】国際公開第2005/068566A1号
【文献】米国特許公開第2005/0252411A1明細書
【文献】米国特許第9,611,281B2号明細書
【文献】米国特許第9,267,949B2号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0244251A1号明細書
【文献】国際公開第2012/071012A2号
【文献】欧州特許出願公開第2384329A1号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】Eliason, C. M.ら, J. R. Soc. Interface, 2012, 9, 2279、Eliason, C. M., Proc Biol. Sci., 2013, 280, 20131505
【文献】Shawkey, M. D., J. Morphol., 2015, 276, 378
【文献】Zhang, C.ら, J. Mater. Chem. C, 2016, 4, 5133
【文献】Lova, P.ら. Springer International Publishing Switzerland 2015, Organic and Hybrid Photonic Crystals, DOI 10.1007/978-3-319-16580-6_9
【文献】Xiao, Mingら, Sci Adv., 2017, 3, el701151
【文献】Meadows, M. G.ら, J. R. Soc. Interface, 2009, 6, S107-S113
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
<本発明の目的>
本発明の主な目的は、式Iの蛍光染料誘導体を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、偽造防止及び他の実用的な用途のための、式Iの自己組織化粉末からなる熱応答性フォトニックインク配合物を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、式Iの自己組織化粉末からなるフォトニックインク配合物を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
<本発明のまとめ>
したがって、本発明は、下記式Iの蛍光性、熱応答性の、自己組織化された、有機発色団に関する。
【化2】
式中、
、R、及びR=アルキル[C~C18]又はアルコキシ[C~C18]炭化水素であり;
X=-CONH、又は-NH、又は-COO、又は-CO、又は-SONHであり;
n=1、又は2、又は3、である。
【0014】
一実施形態において、本発明は、以下のもの:
i.10~40質量%の範囲の式Iの有機発色団;
ii.10~30質量%の範囲のポリマー結合剤(ポリマーバインダー)又は樹脂;
iii.50~80質量%の範囲の、分散剤として有機溶媒、
を含むフォトニックインク配合物を提供する。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態では、上記配合物は、ゲル形態、フィルム形態、又は分散物形態である。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態では、使用されるポリマー樹脂は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールなどのポリエーテルアルコール;ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体などのポリビニル樹脂;ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、及びポリエチレンイミンなどのポリアミン樹脂;ポリメチルアクリレート、ポリエチレンアクリレート、ポリメチルメタクリレート、及びポリビニルメタクリレートなどのポリアクリレート樹脂、及び、アミノ樹脂、アルキル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーンレジン、フェノール樹脂、ケトン樹脂、ロジン、ロジン変性樹脂、石油樹脂、セルロース樹脂、及び天然樹脂からなる群から選択される。
【0017】
本発明のさらに別の実施形態では、使用される有機溶媒は、有機溶媒、水からなる群から選択され、好ましい例には、ハロゲン系溶媒、非プロトン性極性溶媒;アルコール;芳香族溶媒;ケトン系溶媒;及びエーテル系溶媒が含まれる。
【0018】
さらに別の実施形態では、本発明は、フォトニックインク配合物の製造方法を提供し、その方法は以下のステップを含む:
i.式Iの有機発色団を、50~60℃の範囲の温度に加熱し、続いて撹拌して溶液を得ることにより、ポリマー樹脂中に溶かすステップ;
ii.0.1質量%の光開始剤を添加し、続いてアルゴンでパージすることにより10~20分間脱気し、続いて70~80時間、UV光(365nm)に曝露させて、架橋したゲルを形成するステップ;
iii.ステップ(ii)で得られた架橋したゲルを有機溶媒中に溶かし、続いてガラス基板上にドロップキャストし、真空下で、25~30℃の範囲の室温において溶媒を蒸発させて、フォトニックインク配合物を得るステップ。
【0019】
本発明のさらに別の実施形態では、使用される光開始剤は、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンである。
【0020】
本発明のさらに別の実施形態では、有機溶媒での上記希釈は、20倍で行われる。
【0021】
さらに別の実施形態では、本発明は、フォトニックインク配合物を現像する方法を提供し、その方法は以下のステップを含む:
i.式Iの有機発色団を溶媒に添加して、5mMより高い、より好ましくは10mMより高い濃度を有する溶液を得るステップ;
ii.ステップ(9)で得られた溶液をドロップキャスティングし、続いて290~300℃の範囲の温度においてアニーリングすることによって、可視光及び紫外(UV)光の下で、角度に依存する色の変化を可能にするステップ。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態では、使用される溶媒はトルエンである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、一般式Iのアニーリングしたフォトニック材料のポリスチレンゲルを (クロロホルムに) 再溶解することによって得られた2次元の層状フォトニック自己組織化の周期的配置を示しており、SEM[走査型電子顕微鏡]で観察されたものである (拡大画像を嵌め込みで示している)。
図2図2は、それぞれ、可視光(2a)及びUV光(2b)の下で、室温(左)にて、及び290℃においてアニーリングしたとき(右)の一般式Iの粉末の色を示す写真を示している。
図3図3は、それぞれ、可視光 (3a)及びUV光(3b)の下で、室温(左)において及び290℃においてアニーリングしたとき(右)の一般式Iのフィルムの色を示す写真を示している。
図4図4は、日光下での一般式Iのアニーリングしたフィルムの角度依存色を示している。
図5図5は、室温(実線)及び290℃(点線)でアニーリングしたときの一般式Iのフィルムの吸収(左)及び発光(右;λex[ラムダ励起]=475nm)スペクトルを示している。
図6図6は、室温(実線)及び290℃でアニーリングしたとき(点線)の一般式Iの膜の反射スペクトルを示している。
図7図7は、図3のように、緑(実線)及び赤(点線)の色に対応する一般式Iの290℃でアニーリングされたフィルムの角度依存反射スペクトルを示している。
図8図8は、一般式Iのアニーリングされた粉末から配合されたインクの可逆サーモクロミック蛍光応答を示している。
図9図9は、一般式Iのアニーリングされたフォトニック材料のポリスチレンゲルをクロロホルムに再溶解することによって得られたフィルムの、日光下での角度依存色を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<発明の詳細な説明>
本発明は、隣接しているものどうしの間に空隙を有する、相互連結し、結晶学的に配向した、単分散した構成物の二次元周期的微孔性(ミクロポーラス)構造マトリックスから構成されるフォトニック材料を提供する。
【0025】
本発明は、一般式Iの自己組織化材料からフォトニック構造を作る方法を提供し、この構造は角度依存性の色の変化及びフォトルミネッセンスを示した。
【0026】
さらに、本発明は、偽造防止及び他の実用的な用途のためのインク調合物の形態での式Iの蛍光性熱応答性フォトニックアニール粉末(annealed powder)の調製方法を提供する。
【0027】
本発明はまた、式Iからなるフォトニックインク配合物を作る方法を提供する。本発明はまた、温度刺激応答性インクとして、そのフォトニック材料の蛍光特性を使用することも提供する。本発明はまた、ガラス基板上にドロップキャストされたゲルの傾斜角度において且つ直角に見た場合に、ポリスチレンゲルマトリックス中で昼光下で2つの色を示すことができるアニーリングされた式Iのフォトニック材料の使用も提供する。
【0028】
【化3】
【0029】
式中、
=R=R=アルキル又はアルコキシ炭化水素であり;
X=-CONH、又は-NH、又は-COO、又は-CO、又は-SONHであり;
n=1、又は2、又は3、である。
【0030】
からRは、それぞれ存在するごとに、同一又は異なり、アルキル又はアルコキシ炭化水素を表す。
【0031】
アルキル基は、直鎖又は分枝鎖、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、イソオクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、2-エチルブチル、2,2-ジメチルブチル、n-ヘプチル、2-メチルヘキシル、3-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、2,3-ジメチルペンチル、2,4-ジメチルペンチル、3-エチルペンチル、2,2,3-トリメチルブチル、n-オクチル基であることができる。
【0032】
アルコキシ鎖は、直鎖又は分枝鎖、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、アミルオキシ、イソアミルオキシ、又は、tert-アミルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ペントキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、イソオクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシ、テトラデシルオキシ、ペンタデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、ヘプタデシルオキシ、及びオクタデシルオキシ基であることができる。
【0033】
一般式Iの付加されたアルキル又はアルコキシ鎖/分枝鎖、及び官能基は、非共有結合相互作用によって分子が自己組織化するのを助ける。一般式Iによって表される分子の蛍光特性は、その末端における染料の組み込みによって導入される。一方、その1,2-ジフェニルエチン単位は、制御された凝集を容易にする。
【0034】
「X」は、二級アミド(-CONH-)、アミン(-NH)、カルボキシル(-COO)、カルボニル(-CO)、及びスルホンアミド(-NHSO-)などの官能基であることができる。
【0035】
「n」は、好ましくは、整数1又は2又は3である。これは基本的な定義を表す。
【0036】
この蛍光物質は、式Iで表される色素の二次元的に周期的な層状自己組織化物である。
【0037】
蛍光熱応答フォトニック材料は、式Iの10~40質量パーセントの粉末、10~30質量パーセントのポリマー結合剤(ポリマーバインダー)、それらとともに分散剤としての50~80質量パーセントの有機溶媒からなる溶液からドロップキャストされ、その溶媒は、前記の成分を十分に溶解又は分散させることができる任意の溶媒であることができる。
【0038】
一般式Iによる熱応答性フォトニック材料中の溶媒の量は、式Iのフォトニック材料の総量に対して、好ましくは50~80質量%、より好ましくは60~80質量%、さらに好ましくは65~70質量%である。
【0039】
蛍光熱応答フォトニックインク配合物は、10~40質量パーセントの一般式Iの粉末、10~20質量パーセントのポリマー結合剤、それらとともに50~80質量パーセントの、分散剤としての有機溶媒を含む。
【0040】
上記の分散剤は、混合物中の成分を十分に溶解又は分散し、あるいは混合物中の成分を十分に混和することができる。溶媒は、有機極性溶媒及びそれらの混合溶媒であり得る。 使用される分散剤は、有機溶媒、水から好ましく選択され、好ましい例には、ハロゲン系溶媒;非プロトン性極性溶媒;アルコール;芳香族溶媒;ケトン系溶媒;及び、エーテル系溶媒が含まれる。使用される分散剤は、極性プロトン性溶媒、例えば、水、ほとんどのアルコール、アルコールの好ましい例は、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノールなど;芳香族溶媒、例えば、クロロベンゼン、キシレン、ベンゼン、トルエン、ジクロロベンゼン、メシチレン、テトラリン、テトラメチルベンゼン、及びピリジン;ハロゲン系溶媒、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン;非プロトン性極性溶媒、例えば、NMP[N-メチル-2-ピロリドン]及びDMF[ジメチルホルムアミド]; 及びエーテル系溶媒、例えば、THF、ジエチルエーテル、であることができる。フォトニックインクの調製における溶媒の量は、一般式Iの複合材料の総量に対して、たかだか50~80質量パーセント、より好ましくは60~80質量%、さらに好ましくは65~70質量%の溶媒を含んでいてよい。
【0041】
インク中の結合剤(バインダー)は、染料分子を基材又は印刷面に付着させることを可能にするか、又は配合されたインク中に染料を均一に分散させることを可能にする任意の物質である。本発明のインク組成物に使用される結合剤は、一般式Iによる染料を集合体へと結合させるために使用されるだけでなく、インク組成物を熱ルミネセンス応答性にするためにも使用される成分である。ここで、結合剤は、上述した溶媒中に良好に溶解し、それによってインク組成物の粘度をおおよそ調節できるポリマー樹脂であることができる。好ましい結合剤(バインダー)樹脂の具体例には、以下に挙げる樹脂が含まれる:ポリエーテルアルコール、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール;ポリビニル樹脂、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体;ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、及びポリエチレンイミンなどのポリアミン樹脂;ポリメチルアクリレート、ポリエチレンアクリレート、ポリメチルメタクリレート、及びポリビニルメタクリレートなどのポリアクリレート樹脂、及び、アミノ樹脂、アルキル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーンレジン、フェノール樹脂、ケトン樹脂、ロジン、ロジン変性樹脂、石油樹脂、セルロース樹脂、並びに天然樹脂。結合剤はまた、シリコーンレジン、フェノール樹脂、ケトン樹脂、ロジン、ロジン変性樹脂(フェノール、マレイン酸、フマル酸樹脂等)、石油樹脂、セルロース樹脂(例えば、エチルセルロース、及びニトロセルロース)、及び天然樹脂であることができる。特に好ましい結合剤(バインダー)樹脂には、ポリビニル樹脂、ポリエチレンアルコール、ポリアクリレート樹脂、ポリアミン樹脂等が含まれ、これらは通常、フォトニックインクに用いられる。好ましくは、使用されるポリマー樹脂は、ポリスチレン、好ましくは分子量>90000、より好ましくは>100000のポリスチレンである。
【0042】
配合する結合剤(バインダー)樹脂の合計量は、調製されるインクの全量に基づいて、10~30質量%、好ましくは10~20質量%であることができる。その量が10質量%未満である場合は、BODIPY化合物を所望の基板上に固定することができない。一方、その量が30質量%を超える場合、インク組成物の注入安定性が低下するおそれがある。さらに、バインダー層が結果的に発光化合物の周囲を厚く覆い、その結果、その発光化合物の発光が低下するおそれがある。
【0043】
画像又は文字は、紙/アルミナ基板上にフォトニックインクで書かれ、UVランプの下で最初に2つの異なる発光色、すなわち、文字の端の緑がかった青色、及び文字の中心に赤色発光を示した。ただし、ホットプレートの上で60~90℃、より好ましくは80℃の温度まで徐々に加熱すると、その発光色は黄緑色にシフトする。その基板を溶媒蒸気、好ましくは極性プロトン性溶媒、さらに好ましくは、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノールに再び曝すと、一般式Iのフォトニックインク材料の最初の赤色発光が再び現れた。この発光のスイッチングは、結合剤(バインダー)の不存在下では不可能である。
【0044】
このフォトニック材料は350℃まで安定であり、かつ、250~350℃の範囲で、好ましくは270~300℃の範囲で温度勾配に応答して色の違いを生じさせることができる。一般式Iに由来するフォトニック材料はまた、0°~60°、好ましくは30°~60°の範囲の角度変化に対して色の変化を示す。
【実施例
【0045】
以下の実施例は、説明のために与えられたものであり、したがって、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0046】
(例1)
<3,4,5-トリス(アルコキシ)安息香酸メチル(1)の調製>
3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸メチル(5g,27.2ミリモル)及び炭酸カリウム(18.73g,135.8ミリモル)を、80mlの無水DMFを入れた250mlの丸底フラスコ中で撹拌した。その反応混合物を室温[25℃]下で20分間撹拌し、1-ブロモアルカン(13.02g,95.03ミリモル)を滴下により添加した。その混合物を次に24時間、90℃に加熱した。室温まで冷却後、反応混合物を水に注ぎ、有機部分をクロロホルムで繰り返し抽出した。有機層を十分な水及びブライン溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。減圧下で溶媒を除去し、次に、カラムクロマトグラフィー (シリカゲル,1%酢酸エチル/n-ヘキサン) によって精製して、3,4,5-トリス (アルコキシ) 安息香酸メチルを白色固体として得た。
【0047】
(例2)
<メチル3,4,5-トリス(アルコキシ)安息香酸(2)の調製>
3,4,5-トリス(アルコキシ)安息香酸メチル(6g,17.03ミリモル)を、250mlの丸底フラスコ中、KOH(3.1g,56.2ミリモル)を含むエタノール(60ml)中で12時間還流させた。 冷却して常温に戻し、反応混合物を希塩酸で酸性化し、再び氷冷水中で冷却し、沈殿物を濾過し、水で洗浄し、減圧下で乾燥させて、純粋な生成物であるメチル3,4,5-トリス(アルコキシ)安息香酸を得た。
【0048】
(例3)
<3,4,5-トリス(アルコキシ)-N-(4-ヨードフェニル)ベンズアミド(3)の調製>
上記の酸2(3g,8.87ミリモル)を無水ジクロロエタン(20ml)に溶かし、アルゴン雰囲気下で250mlの丸底フラスコに入れた。塩化チオニル(1.93ml,26.61ミリモル)を反応チャンバーに滴下により添加し、5時間撹拌し続けた。過剰の溶媒及び塩化チオニルをアルゴンガスでパージして除去し、真空中で完全に乾燥させた。それを次に20mlの無水トルエン中に再溶解し、トルエン(20ml)中に溶かした4-ヨードアニリン(2.33g,10.64mmol)及び2mlの無水トリエチルアミンを入れた別の反応チャンバーに添加し、アルゴン雰囲気下でさらに12時間、撹拌を続けた。反応が完了した後、溶媒のトルエンを蒸発させ、残留物をクロロホルムを用いて抽出した。その有機層を水及びブライン溶液で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。シリカカラムクロマトグラフィーによって精製し、その化合物を1%酢酸エチル/n-ヘキサン溶媒系で溶出して、純粋な生成物3を白色粉末として得た。
【0049】
(例4)
<化合物4の調製>
化合物3(1g,1.9ミリモル)、二塩化ビス (トリフェニルホスフィン) パラジウム(II)(10モル%)、及びヨウ化銅 (I)(10モル%)を、磁気撹拌棒を備えた、オーブンで乾燥させた二口丸底フラスコに入れた。その丸底フラスコを次にゴム隔壁(ゴムセプタム)で密閉し、3回、排気しかつアルゴンで充填した。脱気したトリエチルアミン(10ml)を添加し、次に脱気したTHF(20ml)を添加した。室温において5分間撹拌した後、トリメチルシリルアセチレン(0.4ml,2.8ミリモル)をその反応混合物中に滴下により添加し、12時間撹拌を続けた。その反応混合物をクロロホルムで抽出し、希塩酸で洗浄した。有機層を、ブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、次いで減圧下で蒸発させた。そうして得られた残留物を、2%酢酸エチル-n-ヘキサンを溶離液として用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製した。
【0050】
(例5)
<化合物5の調製>
10mlのジクロロメタン中の化合物4(1g,1.96ミリモル)の溶液に、50mlのメタノール中のKF(2.23g,39.2ミリモル)を添加し、室温において12時間撹拌した。反応が完了した後、反応混合物を、クロロホルムを用いて抽出し、水、ブラインで洗浄し、次に無水硫酸ナトリウム上で乾燥させた。その溶媒を減圧下で蒸発させた。そうして得られた残留物を、5%酢酸エチル/n-ヘキサンを溶離液として用いるシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製して、化合物5を白色固体として得た。
【0051】
(例6)
<式Iの化合物の調製>
化合物BODIPY誘導体 (0.32g,0.71ミリモル)、二塩化ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(10モル%)、及びヨウ化銅(I)(10モル%)を、磁気撹拌棒を備え、オーブンで乾燥させた二口丸底フラスコに入れた。次いで、丸底フラスコをゴム隔壁(ゴムセプタム)で密閉し、3回、排気しかつアルゴンを充填して戻した。脱気したトリエチルアミン(30ml)を添加し、次に脱気したTHF(50ml)を添加した。室温において5分間撹拌した後、脱気したトリエチルアミン及びTHFの10mlの混合物(1:1)に溶かした化合物5(0.37g,0.85ミリモル)を添加し、その反応混合物を60℃において24時間撹拌した。その反応混合物を、クロロホルムを用いて抽出し、希塩酸で洗浄した。有機層をブラインで洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、次に減圧下で蒸発させた。その粗生成物を、次に、吸着剤としてシリカゲルを使用するカラムクロマトグラフィーによって精製した。式Iの純粋な化合物を、40%ジクロロメタン-n-ヘキサン溶媒混合物で溶離させた。
【0052】
(例7)
<SEMサンプルの調製>
アニーリングされた式Iの材料-スチレンのゲルを、過剰のクロロホルムで希釈し、超音波処理し、シリコンウェーハ上にドロップキャストし、それを次にSEM分析に供した。
【0053】
(例8)
<フィルム形態のフォトニックインク配合物の調製>
トルエン中の式Iの自己組織化材料(5×10-2M)をガラス基板上にコーティングし、続いてグローブボックス内で290~300℃のホットプレート上でアニーリングした。
【0054】
(例9)
<分散物形態のフォトニックインク配合物の調製>
式Iのアニーリングされた粉末(5mg)を、質量比80:20の分散剤及び結合剤からなる溶液20ml中に分散させた。
【0055】
(例10)
<基材上への基材材料のコーティング>
上述した懸濁液を用い、ブラシを使用して、アルミナ又はろ紙基材上に文字を書く。その文字は最初は赤色蛍光体として現れ、ホットプレート上でゆっくりと80℃に加熱すると、ゆっくりと黄色に変わる。基板が溶媒蒸気 (エタノール) に曝されると、その蛍光は元に戻る。
【0056】
(実施例11:ゲル形態のフォトニックインク配合物の調製)
2mgの式Iの化合物を、50~60℃で加熱し、次に撹拌することによって、1mLのスチレンモノマー中に溶かした。その後、0.1質量%の光開始剤(2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン)を添加し、アルゴンでパージすることによって10~ 20分間脱気し、続いてそれが架橋したゲルを形成するまで70~80時間、UV光(365nm)に曝露した。そのゲルの平均分子量は、ポリスチレンを標準とし、THFを溶離液として使用するGPC[ゲル浸透クロマトグラフィー]によって、100,000g/molであることがわかった。フォトニックゲルのフィルムは、ゲルをクロロホルム中に溶かし、ガラス基板上にドロップキャストし、室温(25~30℃)において真空下で溶媒を蒸発させることによって得られた。
【0057】
<本発明の利点>
・式Iの自己組織化有機発色団からフォトニック構造を作る簡単な方法であって、そのフォトニック構造は角度依存性の色の変化及びフォトルミネッセンスを示した。本発明のフォトルミネッセンスフォトニック材料は、350℃まで安定であり、現実の用途に適している。
・本発明のフォトニック材料は、温度刺激に応答して高コントラストのカラースイッチングを示すことができる。
・本発明のフォトニック材料は、ポリスチレンゲルマトリックスに埋め込まれた場合、日光の下で2色を示す。
・これらの特徴は、この材料及びインク配合物を、偽造防止及びその他の重要な用途に適したものにしている。最後に、このフォトニック材料用に開発されたプロセスは大規模に実施可能なプロセスであり、工業規模の生産に適している。
図1
図2
図3
図4
図5
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図9