(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-19
(45)【発行日】2024-01-29
(54)【発明の名称】溶接工程中の電気的接触を検出する方法及び溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/12 20060101AFI20240122BHJP
【FI】
B23K9/12 331R
(21)【出願番号】P 2023533335
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(86)【国際出願番号】 EP2021083690
(87)【国際公開番号】W WO2022117608
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-05-31
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】アルテルスマイア,ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】ゼリンガー,ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルトヘア,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ビンダー,マヌエル
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-111172(JP,U)
【文献】特開平6-246450(JP,A)
【文献】特開2013-198929(JP,A)
【文献】特開平8-108277(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0014638(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00、9/06 - 9/133、10/00
B25J 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくはロボット(2)上に配置された溶接トーチ(5)を用いて、ワークピース(3)に対して溶接工程を実行する方法であって、溶接電圧(U
SQ)を供給するために、溶接電流源(18)が提供され、前記溶接工程中に、少なくとも一時的に、前記溶接トーチ(5)の外部要素(17)に、特にガスノズル(9)の外壁(9’)に、電圧(U
D)が印加され、印加された前記電圧(U
D)を使用して、前記外部要素(17)と、更なる要素(24’、24”)、特に前記ワークピース(3)又はコンタクトチューブ(16)との間に起こり得る電気的接触(13、14)が検出され、前記溶接電流源(18)が、少なくとも1つの第1の抵抗器(19)を介して、前記溶接トーチ(5)の前記外部要素(17)に電気的に接続され、前記溶接トーチ(5)の前記外部要素(17)が、少なくとも1つの第2の抵抗器(21)を介して、前記ワークピース(3)の電位に接続されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電気的接触(13、14)、特に前記外部要素(17)が前記ワークピース(3)に接触したことが検出された場合、警告信号が発せられ、前記溶接工程が中断され、溶接経路が修正され、かつ/又は前記ワークピース(3)が再配置されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記外部要素(17)と前記更なる要素(24’、24”)との起こり得る電気的接触(13、14)が、前記少なくとも1つの第1の抵抗器(19)及び/若しくは前記少なくとも1つの第2の抵抗器(21)にわたって降下する測定された電圧(U
mess)の変化、並びに/又は、前記少なくとも1つの第1の抵抗器(19)及び/又は前記少なくとも1つの第2の抵抗器(21)を通って流れる測定された電流の変化に基づいて検出されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定された電圧(U
mess)及び/又は前記測定された電流の変化に基づいて、少なくとも2つの異なるタイプの起こり得る電気的接触(13、14)、すなわち、前記外部要素(17)と第1の更なる要素(24’)、特に前記ワークピース(3)との間の少なくとも1つの電気的接触(13)、並びに、前記外部要素(17)と第2の更なる要素(24”)、特に前記溶接トーチ(5)のコンタクトチューブ(16)との間の、少なくとも1つの電気的接触(14)が識別されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの第1のコンデンサ(37)が、前記少なくとも1つの第1の抵抗器(19)と並列に配置され、少なくとも1つの第2のコンデンサ(38)が、前記少なくとも1つの第2の抵抗器(21)と並列に配置されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記外部要素(17)と前記更なる要素(24’、24”)との起こり得る電気的接触(13、14)が、前記少なくとも1つの第1のコンデンサ(37)及び/又は前記少なくとも1つの第2のコンデンサ(38)を流れる測定された電流の変化に基づいて検出されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記溶接電流源(18)の前記溶接電圧(U
SQ)の変化が、起こり得る電気的接触(13、14)の検出に使用されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
好ましくはロボット(2)上に配置された溶接トーチ(5)、及び、溶接電圧(U
SQ)を提供するための溶接電流源(18)を用いて、ワークピース(3)に対して溶接工程を実行するための溶接装置(1)、特に不活性ガス溶接装置であって、前記溶接トーチ(5)の外部要素(17)、特にガスノズル(9)の外壁(9’)に電圧(U
D)が印加され、検出ユニット(25)が設けられ、前記検出ユニット(25)は、前記溶接工程中に、前記外部要素(17)と更なる要素(24’、24”)、特に前記ワークピース(3)又は前記溶接トーチ(5)のコンタクトチューブ(16)との間に起こり得る電気的接触(13、14)を検出するように構成され、前記電圧(U
D)を印加するために、前記溶接電流源(18)が、少なくとも1つの第1の抵抗器(19)を介して、前記溶接トーチ(5)の前記外部要素(17)に接続され、前記溶接トーチ(5)の前記外部要素(17)が、少なくとも1つの第2の抵抗器(21)を介して、前記ワークピース(3)の電位に接続される、溶接装置(1)。
【請求項9】
少なくとも1つの第1のコンデンサ(37)が、前記少なくとも1つの第1の抵抗器(19)と並列に配置され、少なくとも1つの第2のコンデンサ(38)が、前記少なくとも1つの第2の抵抗器(21)と並列に配置されることを特徴とする、請求項8に記載の溶接装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好ましくはロボット上に配置された溶接トーチを用いて、ワークピース上で溶接工程を実行する方法に関し、溶接電圧を供給するために溶接電流源が提供され、溶接工程中に、少なくとも一時的に、溶接トーチの外部要素、特にガスノズルの外壁に電圧が印加され、外部要素と、更なる要素、具体的にはワークピース又はコンタクトチューブとの間に起こり得る電気的接触が、印加された電圧を用いて検出される。
【0002】
更に、本発明は、そのような方法を実行するための、溶接装置に関する。
【背景技術】
【0003】
溶接工程の実行中に、故障が起こった場合には、溶接トーチと溶接されるワークピースとの間、又は溶接トーチの部品間に、望まざる物理的又は電気的接触が発生し得る。そのような接触は、溶接工程に支障をきたすおそれがあり、したがって、溶接線の品質に悪影響を及ぼし得る。このため、ワークピースや溶接トーチの損傷を防止し、高品質な溶接を確実にできるようにするためには、故障が起こった場合に発生する接触を、溶接工程中に直ちに特定し、適切な対策を迅速に講じる必要がある。
【0004】
溶接工程中に起こり得る物理的接触の一例は、溶接トーチとワークピースとの望まざる接触である。このような接触は、例えば、自動化して実行される溶接工程において溶接経路が不適切に設計された場合、又は、ワークピースが不適切に配置された場合に起こり得る。溶接トーチとワークピースとの間に接触が起こった場合、ワークピース又は溶接トーチの損傷を招くおそれがある。重大な損傷を回避するために、ロボット支援溶接工程では、いわゆる衝突検知ボックスが使用される。これは、溶接トーチがワークピースに接触するときに生じる、溶接トーチに作用する力が特定の閾値を超えた場合、直ちに溶接工程を中断する、又は、ロボットを停止させるものである。衝突検知ボックスは、例えば、米国公開特許第2018/0029238号によって、公知のものである。しかしながら、溶接工程を停止することで、製造工程に遅延が生じる。更に、溶接工程が中断されると、溶接線は連続的に溶接されず、溶接線の品質が低下するおそれがある。更に、最初に接触が起こってから、衝突検知ボックスを作動させるために必要な閾値に到達するまでの時間に、ワークピース、又は溶接トーチ、又は溶接線への損傷が、既に引き起こされているおそれがある。
【0005】
溶接工程中に起こり得る、溶接トーチの望まざる電気的接触の一例は、部分的に電圧を伝える溶接トーチの様々な部品間に、溶接ワイヤの金属スパッタによって電気的接続が形成されることである。例えば、通常の状況下では電圧を伝えない、ガスノズルなどの溶接トーチの一部が、溶接スパッタによって、溶接電流源の溶接電圧の電位に電気的に接続され、その結果、アークがその意図された位置から偏向されるおそれがあり、又は溶接トーチが損傷するおそれがある。
【0006】
要約すると、溶接工程中に発生する予期しない物理的及び電気的接触は、溶接工程、ワークピース、及び溶接トーチに悪影響を及ぼすおそれのある故障である。したがって、そのような故障の発生時に、直ちにそれらを特定し、排除できることが望ましい。
【0007】
溶接工程の開始前に、溶接ワイヤに触れること(いわゆる「ワイヤ検知」)によって、又はレーザセンサによってワークピースの位置を検出することが、最新技術から知られている。このことは、例えば、米国公開特許第2019/0270157号に示されている。
【0008】
米国公開特許第2014/0014638号、特開平08-108277号公報、及び特開2013-198929号公報は、溶接トーチのワークピースへの衝突を検出することができる、溶接装置及び方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これらの実施形態に照らして、本発明の目的は、最新技術の欠点を軽減すること、又は、更には完全に排除することである。特に、本発明の目的は、連続溶接工程及び最適な溶接品質を達成するために、溶接トーチ又は溶接トーチの部品と、ワークピースとの間に発生する望まざる接触又は予期せぬ接触を、溶接工程中に可能な限り迅速に検出することを可能にする、冒頭で述べたタイプの方法及び溶接装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、請求項1に記載の方法及び請求項8に記載の溶接装置によって達成される。
【0011】
本発明によれば、上述したタイプの方法において、溶接電流源を、少なくとも1つの第1の抵抗器を介して溶接トーチの外部要素に電気的に接続し、溶接トーチの外部要素を、少なくとも1つの第2の抵抗器を介してワークピースの電位に接続することが提供される。溶接工程中に、溶接トーチの外部要素に電圧を印加することにより、印加された電圧及び/又は設定電流の変化によって、外部要素と更なる要素との間に生じる接触を、その発生時に既に有利に検出することができる。続いて、以下でより詳細に説明するように、適切な対策を迅速に講じることができる。したがって、溶接工程中の溶接トーチ又はワークピースの損傷を、有利に回避することができる。衝突検知ボックスの場合に必要となるような、ワークピースと溶接トーチが接触したときに作り出される力が閾値を超えることは、本発明による方法ではもはや必要ではない。起こり得る接触を、溶接工程中に検出できることが有利な点である。言い換えれば、ワークピース上の溶接線の生成中に発生する接触を、迅速に、又はリアルタイムで検出することができる。溶接トーチの外部要素に電圧を印加することによって、外部要素と更なる要素、例えばワークピースとの間に、物理的接触が発生した場合に検出できる電気的接触も生成され、それによって電流の流れが作り出される。このように、電圧を印加することによって、溶接トーチの物理的接触は電気的接触を伴い、したがって、本発明による方法で検出することができる。好都合には、接触が発生していることを検出するために、外部要素に印加される電圧、それを表す電気的大きさ、及び/又は電気的接触が発生した場合に作り出される電流を、電圧測定装置及び/又は電流測定装置を用いて、測定及び評価することができる。外部要素と更なる要素との間に発生して検出される電気的接触は、例えば、外部要素と好ましくは接地されたワークピースとの間のトーチを介した電気的接触、又は、外部要素とコンタクトチューブといった溶接トーチの別の構成要素との間の、溶接スパッタを介して発生する電気的接触であり得る。更なる要素とは、例えば、ワークピース、又は例えばコンタクトチューブなどの溶接トーチの一部であり得る。更なる要素は、溶接装置の電極、特にそれがワークピースである場合には、例えば主要部分に接続することができる。印加電圧は、溶接工程の全期間にわたって外部要素に印加することができるが、必ずしもそうである必要はない。電気的アース又はグランドと、外部要素に印加される電圧との間の電位差は、好ましくは5V~350V、特に15V~300Vの範囲である。印加される電圧は、溶接電流源の溶接電圧、又はそれに比例する電圧、特にダウンコンバートされた溶接電圧であってもよい。溶接電圧は、例えば、分圧器によってダウンコンバートすることができる。溶接電圧は、直接的に、又は好ましくは抵抗素子又はコンデンサを介して間接的に、外部要素に印加することができる。外部要素と更なる要素との間の電気的接触を検出した後、溶接トーチを溶接スパッタから洗浄する、溶接トーチを再調整する、又はワークピースを再調整するなど、接触を排除するために適切な対策を講じることができる。本発明による方法で可能となる、冒頭で述べたタイプの電気的接触及び物理的接触の早期識別の結果として、溶接工程中に引き続き対策を講じることができる。例えば、ロボット支援溶接法では、外部要素とワークピースとの間の電気的接触を検出した後、溶接工程中に引き続き経路の補正を実行することができる。好ましくは、電圧が印加される外部要素は、溶接トーチのガスノズル、又はガスノズルの外壁である。しかしながら、外部要素がリング、ワイヤ、又は同様の要素によって形成されることも考えられる。溶接トーチのガスノズルは、電流及び電圧を搬送するためのコンタクトチューブを取り囲み、溶接トーチの最外部を形成することができることが好ましい。溶接工程中に、ガスノズル内には不活性ガス、例えばアルゴン又はヘリウムが流れ、それがガスノズルの下端で開口部を通って環境内に発生し、生成されたアーク及び溶接線を、周囲空気の酸素から保護する。溶接ワイヤはまた、ガスノズルの内部で溶接点まで導かれることが好ましい。コンタクトチューブは、溶接ワイヤに所望の溶接電流を供給するように構成される。ロボット支援溶接法の場合、機械的衝突検知ボックスを更に設けることもできる。しかしながら、本発明による方法では、溶接トーチとワークピースとの接触をより迅速に識別することができるため、本発明による方法が使用され、電気的接触が検出されたときに対策が適用される場合には、衝突検知ボックスはもはや作動されないか、又は例外的な場合にのみ作動される。特に、衝突検知ボックスを用いて溶接工程を中断するために、特定の閾値を超える力が溶接トーチに作用することは、上述したように、本発明による方法では不要となる。
【0012】
本発明の更なる発展形態では、電気的接触、特にワークピースと外部要素との接触が検出された場合、警告信号を発し、溶接工程を中断し、好ましくは溶接工程を中断することなく溶接経路を修正し、かつ/又はワークピースを再調整することがもたらされる。例えば、溶接スパッタのために外部要素とコンタクトチューブとの間の電気的接触が検出された場合、溶接工程を中断し、警告信号を出力することができる。一方、外部要素とワークピースとの間の電気的接触が検出された場合、溶接工程を中断することなく溶接工程中に経路補正を実行することができるため、ガスノズルはもうワークピースに接触しない。
【0013】
溶接トーチの外部要素に電圧を印加するために、溶接トーチの外部要素を、溶接電圧を提供するための溶接電流源に、電気的に接続することが実現される。外部要素は、例えばオーム抵抗素子又はコンデンサを介して、溶接電流源に直接的又は間接的に接続することができる。通常状態、すなわち接触が発生していない状態では、アースと外部要素との間の電位差は、好ましくは5V~350V、特に15V~300Vである。溶接電圧は、溶接工程中に動的に変化し得る。外部要素の電圧は、溶接電流源の代わりに補助電圧源によって提供されるようにしてもよい。このことは、溶接工程の前又は後に、溶接電圧を用いずに電気的接触を検出するために有利であり得る。
【0014】
本発明によれば、溶接電流源は、少なくとも1つの第1の抵抗器を介して、溶接トーチの外部要素に電気的に接続される。第1の抵抗器は、オーム抵抗素子として設計することができる。少なくとも1つの第1の抵抗器の値は、少なくとも10kΩであることが好ましい。好ましくは、溶接電流源と外部要素との間には、直列接続された複数の第1の抵抗器が配置される。その場合、個々の抵抗器の抵抗値は、より小さくてもよい。やはり、複数の第1の抵抗器の直列抵抗は、少なくとも10kΩであることが好ましい。ただし、溶接電流源と外部要素との間に、並列接続された複数の第1の抵抗器を配置することもできる。その場合、個々の抵抗器の抵抗値を、より大きくすることができる。やはり、複数の第1の抵抗器の並列抵抗は、少なくとも10kΩであることが好ましい。少なくとも1つの第1の抵抗器は、電気的接触が発生した場合に、所定電流を制限する。加えて、電気的接触が発生していることを検出するために、少なくとも1つの第1の抵抗器における電圧、又は、少なくとも1つの第1の抵抗器を通る電流を測定することができる。複数の第1の抵抗器が設けられる場合、すべての第1の抵抗器で、複数の第1の抵抗器で、又は、単一の第1の抵抗器で、電圧を測定することができる。一実施形態によれば、少なくとも1つの第1の抵抗器と並列に、コンデンサを設けることができる。
【0015】
本発明によれば、溶接トーチの外部要素が、少なくとも1つの第2の抵抗器を介して、好ましくは接地されているワークピースの電位に接続されることが、更に提供される。この第2の抵抗器も、オーム抵抗素子として設計することができる。少なくとも1つの第2の抵抗器の値は、少なくとも10kΩであることが好ましい。好ましくは、直列接続された複数の第2の抵抗器が、外部要素とワークピースとの間に配置される。その場合、個々の抵抗器の抵抗値は、より小さくてもよい。やはり、複数の第2の抵抗器の直列抵抗は、少なくとも10kΩであることが好ましい。ただし、外部要素とワークピースとの間に、並列接続された複数の第2の抵抗器を配置することもできる。その場合、個々の抵抗器の抵抗値を、より大きくすることができる。やはり、複数の第2の抵抗器の並列抵抗は、少なくとも10kΩであることが好ましい。電気的接触が発生していることを検出するために、少なくとも1つの第2の抵抗器における電圧、又は、少なくとも1つの第2の抵抗器を通る電流を測定することができる。複数の第2の抵抗器が設けられる場合、すべての第2の抵抗器で、複数の第2の抵抗器で、又は、単一の第2の抵抗器で、電圧を測定することができる。一実施形態によれば、少なくとも1つの第2の抵抗器と並列に、コンデンサを設けることができる。少なくとも1つの第1の抵抗器と少なくとも1つの第2の抵抗器の、両方が設けられる場合には、ワークピースの電位と溶接電流源の電位との間に、分圧器が存在する。分圧器の上部ブランチは、少なくとも1つの第1の抵抗器によって形成され、分圧器の下部ブランチは、少なくとも1つの第2の抵抗器によって形成される。溶接トーチの外部要素は、分圧器の上部ブランチと下部ブランチとの間のタップ点に、電気的に接続される。分圧器、例えば上部ブランチ及び/又は下部ブランチにおける電圧及び/又は電流の測定を通じて、分圧器内の電圧の変化(「電圧シフト」)、又は電流の流れの変化を検出することができるため、複数のタイプの電気的接触を容易に検出し、互いに識別することができる。すなわち、本実施形態では、起こり得る接触が、分圧器における電気的な大きさの変化に基づいて検出される。電気的な大きさの変化に基づいて、接触のタイプを推測することもできる。電圧測定においては、分圧器のブランチ全体の電圧を測定する必要はなく、ブランチの一部の電圧のみを測定することができる。例えば、第1の抵抗器又は第2の抵抗器の、両端の電圧のみを測定してもよい。抵抗器からなる分圧器を有する変形例では、コンタクトチューブと外部要素、特にガスノズルとの間の電気的接触、並びに、コンタクトチューブとワークピースとの間の接触を、確実に識別することができるという利点がある。
【0016】
好ましい実施形態では、外部要素と更なる要素との起こり得る電気的接触は、少なくとも1つの第1の抵抗器及び/若しくは少なくとも1つの第2の抵抗器の両端で降下する測定された電圧の変化、並びに/又は、少なくとも1つの第1の抵抗器及び/若しくは少なくとも1つの第2の抵抗器を通って流れる測定された電流の変化に基づいて検出される。例えば、外部要素がワークピースに接触し、したがってワークピースと外部要素との間に電気的接触が発生した場合、少なくとも1つの第2の抵抗器は短絡され、溶接電流源又は補助電圧源によって供給される電圧の実質的に全体が、少なくとも1つの第1の抵抗器の両端で降下する。コンタクトチューブが溶接トーチの外部要素と電気的に接触した場合、少なくとも1つの第1の抵抗器は短絡され、溶接電流源又は補助電圧源によって供給される電圧の実質的に全体が、少なくとも1つの第2の抵抗器の両端で降下する。電圧及び/又は電流を測定値することによって、これらの変化を検出することができる。続いて、発生している故障又は接触の性質を推測することができる。
【0017】
好ましくは、測定された電圧及び/又は測定された電流の変化に基づいて、少なくとも2つの異なるタイプの起こり得る電気的接触、すなわち、外部要素と第1の更なる要素、特にワークピースとの間の少なくとも1つの電気的接触、及び、外部要素と第2の更なる要素、特に溶接トーチのコンタクトチューブとの間の、少なくとも1つの電気的接触が識別される。このことは、例えば、上述した分圧器内の電圧シフト、又は電流の流れの変化に基づいて行うことができる。
【0018】
一実施形態では、少なくとも1つの第1の抵抗器と並列に、少なくとも1つの第1のコンデンサが配置され、かつ、少なくとも1つの第2の抵抗器と並列に、少なくとも1つの第2のコンデンサが配置される。本発明のこの変形形態では、第1のコンデンサを通る電流、及び/又は第2のコンデンサを通る電流を測定することができる。この電流は、例えば、交流又はリップル電流とすることができる。少なくとも1つの第1のコンデンサと、少なくとも1つの第2のコンデンサとの間の接続点は、上記でより詳細に説明した、分圧器のタップ点に接続することができる。
【0019】
更なる発展形態では、外部要素と更なる要素との起こり得る電気的接触が、少なくとも1つの第1のコンデンサ及び/又は少なくとも1つの第2のコンデンサを流れる、測定された電流の変化に基づいて検出される。この場合も、少なくとも2つの異なるタイプの起こり得る電気的接触、すなわち、外部要素と第1の更なる要素、特にワークピースとの間の少なくとも1つの電気的接触、及び、外部要素と第2の更なる要素、特に溶接トーチのコンタクトチューブとの間の、少なくとも1つの電気的接触が識別される。
【0020】
いくつかのタイプの電気的接触を、より容易に識別できるようにするために、溶接電流源の溶接電圧の変化が、起こり得る電気的接触の検出に使用されれば好都合である。この目的のために、電圧測定装置を用いて、溶接電流源の溶接電圧を測定することができる。
【0021】
一実施形態では、溶接電流源の溶接電圧、又は補助電圧源の上述した補助電圧の変化に基づいて、溶接トーチのコンタクトチューブ又は溶接ワイヤと、ワークピースとの間の起こり得る電気的接触が、溶接工程の前又は後に検出される。このような電気的接触は、通常、溶接電圧又は補助電圧の降下に関連するものである。溶接工程の前又は後に、このようにしてワークピースの位置を検出することができる。この目的のために、溶接工程中に必要となる溶接電圧のレベルと比較して、溶接電圧のレベルを低下させることができる。電気的接触が発生した場合に、発生する電流を制限することもできる。
【0022】
ワークピースの位置を確認又は検出する目的については、溶接工程の前又は後に、ワークピースの位置を検出するために、溶接トーチの外部要素をワークピースに接触させることができる。したがって、そのような場合、外部要素を意図的にワークピースに接触させる。このことは、例えば、ロボットを使用して溶接トーチを位置決めすることによって、行うことができる。外部要素における印加電圧によって電気的接触が検出されると、直ちに溶接トーチを停止する、又は反対方向に再び移動させることができる。ワークピースに接触する位置、したがってワークの位置は、例えばロボットの位置から特定することができる。好ましくは、この実施形態では、外部要素に印加する電圧は、補助電圧源によって供給される。
【0023】
上述した目的は、溶接装置、特に請求項8に記載の、不活性ガス溶接装置によっても達成される。この溶接装置は、溶接トーチを用いてワークピースの溶接処理を実行するように構成される。自動化された方法で溶接工程を進行できるように、ロボット上に溶接トーチを配置することが好ましい。結果として、ロボットを溶接装置の一部と見做すことができる。溶接装置は、溶接電圧を供給するための溶接電流源を有する。溶接トーチの外部要素、特にガスノズルの外壁に電圧が印加され、かつ、検出ユニットが設けられ、溶接工程中に印加された電圧によって、外部要素と更なる要素、特にワークピース又は溶接トーチのコンタクトチューブとの間に起こり得る電気的接触を検出するように構成される。したがって、この溶接装置は、上述の方法を実行することができる。したがって、溶接装置の更なる特徴及び利点に関して、本発明による方法についての上記の実施形態が参照される。
【0024】
溶接装置では、電圧を印加する目的で、溶接電圧を供給するために、溶接トーチの外部要素に溶接電流源が接続される。
【0025】
電気的接触中に発生する電流の流れを制限するために、本発明によれば、上記でより詳細に説明したように、少なくとも1つの第1の抵抗器を介して、溶接トーチの外部要素に溶接電流源が接続される。第1の抵抗器は、オーム抵抗素子として設計することができる。少なくとも1つの第1の抵抗器の値は、少なくとも10kΩであることが好ましい。一実施形態では、直列接続された複数の第1の抵抗器を、溶接電流源と外部素子との間に配置することができる。外部要素と更なる要素との間の電気的接触を検出するために、電流測定センサ及び/又は電圧測定センサを用いて、少なくとも1つの第1の抵抗器における電圧、又は、少なくとも1つの第1の抵抗器を通る電流を測定することができる。複数の第1の抵抗器が設けられる場合、すべての第1の抵抗器で、複数の第1の抵抗器で、又は、単一の第1の抵抗器で、電圧を測定することができる。
【0026】
更に、本発明では、少なくとも1つの第2の抵抗器を介して、ワークピースの電位に溶接トーチの外部要素が接続される。この第2の抵抗器も、オーム抵抗素子として設計することができる。少なくとも1つの第2の抵抗器の値は、少なくとも10kΩであることが好ましい。好ましくは、直列接続された複数の第2の抵抗器が、外部要素とワークピースとの間に配置される。少なくとも1つの第1の抵抗器及び少なくとも1つの第2の抵抗器の、両方が設けられる場合、ワークピースの電位と、溶接電流源又は補助電圧源の電位との間に分圧器が存在し、溶接トーチの外部要素が、そのタップ点に電気的に接続される。分圧器における電圧及び/又は電流の測定を通じて、分圧器内の電圧変化(「電圧シフト」)を検出することができ、その結果、複数のタイプの電気的接触を容易に特定し、互いに識別することができる。
【0027】
一実施形態では、検出ユニットは、少なくとも1つの第1の抵抗器及び/又は少なくとも1つの第2の抵抗器における、又はそれを通る、電圧及び/又は電流を測定するように構成される。
【0028】
更なる実施形態では、少なくとも1つの第1の抵抗器と並列に、第1のコンデンサが配置され、少なくとも1つの第2の抵抗器と並列に、第2のコンデンサが配置される。検出ユニットは、少なくとも1つの第1のコンデンサを通る電流、及び/又は、少なくとも1つの第2のコンデンサを通る電流を測定するように、構成することができる。少なくとも1つの第1のコンデンサと、少なくとも1つの第2のコンデンサとの間の接続点は、上記でより詳細に説明した、分圧器のタップ点に接続することができる。
【0029】
図面を参照して、以下により詳細に本発明の説明を行うが、これらの図面に限定することを意図するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】溶接ロボットを備えた溶接装置の概略図である。
【
図2A】本発明の第1の実施形態による、溶接トーチの概略断面図である。
【
図2B】本発明の第2の実施形態による、溶接トーチの概略断面図である。
【
図2C】補助電圧源を有する、溶接トーチの概略図である。
【
図3A】分圧器における電圧降下を説明するための簡略図である。
【
図3B】分圧器における電圧降下を説明するための簡略図である。
【
図3C】分圧器における電圧降下を説明するための簡略図である。
【
図4】本発明による溶接装置の、様々な概略信号推移を示す図である。
【
図5A】溶接電圧の推移、溶接装置のコンデンサの電流推移、検出信号の推移を示す図である。
【
図5B】溶接電圧の推移、溶接装置のコンデンサの電流推移、検出信号の推移を示す図である。
【
図7A】溶接電圧の推移、測定電圧の推移、及び検出信号の推移を示す図である。
【
図7B】溶接電圧の推移、測定電圧の推移、及び検出信号の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、ワークピース3に対して不活性ガス溶接工程を実行するように設計された、溶接ロボット2を有する、溶接装置1を示す。溶接トーチ5は、溶接ロボット2のフランジ4に締結され、ホースパッケージ6を介して溶接電流源18及びガス供給源7に接続される。ガス供給源7は、溶接トーチ5に不活性ガス、例えばヘリウム、アルゴン、CO
2、又はそれらの混合物を供給し、これは溶接トーチ5のガスノズル9の下部開口部8で発生し(
図2A及び
図2B参照)、ワークピース3上のアーク12及び溶接線10を、周囲空気の酸素及び化学反応から保護する。溶接ワイヤ11(
図2A及び
図2B参照)もガスノズル9を通過し、それを溶融するために、溶接ワイヤ11の端部とワークピース3との間にアーク12が発生する。溶接ロボット2は、所定の軌道に沿って移動し、溶接トーチ5は溶接工程を実行する。
【0032】
溶接工程中、
図2A及び
図2Bに示すように、溶接トーチ5とワークピース3との間に、望まざる接触13が発生するおそれがある。溶接ワイヤ11の金属スパッタ(図示せず)が、ガスノズル9とガスノズル9の内側に配置された電圧搬送コンタクトチューブ16との間に、電気的接触14を生成することも起こり得る。溶接トーチ5とワークピース3との間で接触が起こることによって、溶接トーチ5若しくはワークピース3の損傷が発生するおそれがあり、又は、コンタクトチューブ16とガスノズル9との間で電気的短絡が起こった場合に、アーク12が偏向されるおそれがある。そのため、説明した接触13及び接触14は、溶接工程に不利な影響を及ぼし得る。言及した金属スパッタは、不活性ガスの放出口に悪影響を及ぼすおそれもあり、そのため、溶接線10及びアーク12のガス保護に劣化が生じるおそれがある。複数の接触13、14が同時に発生する場合、接触13、14の個々の欠点が強化されるおそれもある。例えば、接触13及び接触14が同時に発生すると、ガスノズル9とワークピース3との間にアークが発生するおそれがある。したがって、接触13、14を迅速に識別し、適切な対策を講じるべきである。2つの接触13及び14に加えて、コンタクトチューブ16とワークピース3との間に接触15が生じるおそれもあり、これは溶接工程中に監視される。接触15は、溶接工程、特に短絡溶接工程中に意図的に発生し得るものであり、したがって、これを故障ということはできない。
【0033】
本発明によれば、接触13及び14を識別するために、電圧U
Dが溶接トーチ5の外部要素17、好ましくは溶接トーチ5のガスノズル9、特にガスノズル9の外壁9’に印加され、この印加された電圧U
Dを用いて、又は、電圧U
Dの変化、若しくはそれに関連する電気的な大きさの変化に基づいて、溶接工程中に起こり得る接触13及び14が検出される。このことは、本発明の2つの例示的な実施形態を用いて、
図2A及び
図2Bに示されている。
【0034】
図2Aは、溶接トーチ5の概略断面図を示す。溶接トーチ5はコンタクトチューブ16を有し、これは、溶接電流源18によって供給される溶接電圧U
SQを用いて、溶接ワイヤ11に作用する。コンタクトチューブ16は、ガスノズル9に取り囲まれている。ガスノズル9は、溶接トーチ5の外部要素17を形成し、少なくとも1つの第1の抵抗器19を介して溶接電流源18と電気的に接続され、そのため、ガスノズル9に電圧U
Dが印加される。したがって、電圧U
Dは電圧U
SQの一部である。複数の第1の抵抗器19を設けることもでき、具体的には、これらを直列又は並列に接続することができる。しかしながら、より良く概要を示すために、単一の第1の抵抗器19のみを以下に示す。
【0035】
ガスノズル9は、第2の抵抗器21を介して、ワークピース3の電位にも接続され、これは通常、溶接装置1の負極(アース34)に接続される。したがって、第2の抵抗器21は、一方ではガスノズルの電位に、他方では電気的アース34に接続される。複数の第2の抵抗器21を設けることもでき、具体的には、これらを直列又は並列に接続することができる。しかしながら、明瞭にするために、単一の第2の抵抗器21のみを以下に示す。分圧器22は、抵抗器19、21で形成され、タップ点23を有し、そこにガスノズル9が電気的に接続される。したがって、タップ点23の電位はガスノズル9に存在し、そのため、電圧UDはガスノズル9に存在する。
【0036】
ガスノズル9と、更なる要素24’、24”、例えばワークピース3又はコンタクトチューブ16との、起こり得る電気的接触13、14を検出するために、検出ユニット25が設けられる。検出ユニット25は、少なくとも1つの第1の抵抗器19及び/又は少なくとも1つの第2の抵抗器21における、電圧U
messを測定又は監視することによって、発生しているおそれのある電気的接触13、14を検出するように構成される。あるいは、接触13、14を検出するための検出ユニット25は、電圧の代わりに、少なくとも1つの第1の抵抗器19、又は少なくとも1つの第2の抵抗器21を通る、電流を測定することもできる。
図2Aでは、少なくとも1つの第1の抵抗器19の電圧U
messのみが測定される。検出ユニット25は、電圧を測定するために、少なくとも1つの電圧測定器26を有する。電気的接触13、14を検出及び識別する方法について、以下でより詳細な説明を行う。まず、本発明の更なる実施形態について、説明を行う。
【0037】
図2Bは、本発明の別の実施形態を示す。
図2Bでは、少なくとも1つの第1のコンデンサ37が、少なくとも1つの第1の抵抗器19と並列に接続されている。更に、少なくとも1つの第2のコンデンサ38が、少なくとも1つの第2の抵抗器21と並列に接続されている。図示の実施形態では、検出ユニット25は、第1のコンデンサ37及び第2のコンデンサ38を通る電流を、別々に、又は独立して測定する、2つの電流測定器、又は電流測定センサ39を有する。ブランチは電流測定センサ39、及びコンデンサ37、38からなり、一方の電流測定センサ39と一方のコンデンサ37、38がそれぞれ直列に接続されている。このブランチは、更なる分圧器を形成し、そのタップ点23’は分圧器22のタップ点23に接続される。コンデンサ38を流れる電流、又はそれらの変化をそれぞれ監視することにより、以下でより詳細に説明するように、起こり得る電気的接触13、14を検出し、互いに識別することができる。
【0038】
電気的接触13、14を検出及び識別できるようにするために、
図2Aによる実施形態では、電圧U
D、又は抵抗器19、21の一方における電圧が測定又は監視され、目標値と比較される。当然のこと、第1の抵抗器19及び/又は第2の抵抗器21を通る電流(のみ)を測定又は監視し、目標値と比較することもできる。
図2Bによる実施形態では、第1のコンデンサ37、及び第2のコンデンサ38を通る電流が検出され、目標値と比較される。故障のない正常状態では、電気的接触13、14は存在せず、溶接電圧U
SQは抵抗器19、21の抵抗値に従って分割される。図示の実施形態では、U
SQよりも低い電圧U
Dがガスノズル9に印加される。抵抗器19、21が実質的に等しい抵抗値を有する場合、実質的に、U
Dは溶接電圧U
SQの50%である。電気的接触13、14が発生すると、分圧器22内で電圧シフトが発生する。検出ユニット25を用いて、これらの電圧シフト又は関連する電流の変化を検出することができ、それにより、溶接工程中に電気的接触13、14を推測することができる。
【0039】
図2Cは、補助電圧源20を有する溶接トーチを示す。補助電圧源20は、溶接電流源18よりも高い電圧を供給できることが好ましい。補助電圧源20は、溶接電流源18から絶縁、特に、ガルバニック絶縁されることが好ましい。溶接電流源18の絶縁は、デカップリング回路36を介して行うことができる。この目的のために、デカップリング回路36には、少なくとも1つの電気スイッチ、特にリレーを含めることができる。ただし、絶縁は必須のものではない。補助電圧源20は、好ましくは、溶接工程の前又は後に、溶接電圧U
SQを用いずに電気的接触13、14、15を検出するために使用される。接触15は、コンタクトチューブ16とワークピース3との間で発生する。
図2Cでは、溶接電流源18及び補助電圧源20は、デカップリング回路36を介して、高インピーダンス(10kΩより大きい値)で互いに電気的に接続されている。デカップリング回路36は、補助電圧源20に対して電流を制限する役割も果たす。
【0040】
電気的接触13、14、15間の影響及び違いについて、
図3A~
図3Cを参照して、以下により詳細な説明を行う。
図3A~
図3Cはそれぞれ、検出ユニット25の電圧測定器26を伴う、分圧器22を示す。電気的接触接13、14、15はそれぞれ、接続部27と共に示されている。
【0041】
第1の電気的接触接13は、ガスノズル9が第1の更なる要素24’、例えばワークピース3と接触することによって発生し得る。ガスノズル9がワークピース3に接触した結果、第2の抵抗器21が短絡し、第1の抵抗器19で溶接電圧U
SQ全体が降下する(
図3A)。このことは、
図2Bによる実施形態に関しては、短絡に起因して、第2の抵抗器21に並列な第2のコンデンサ38には電流が流れないか、又はわずかな電流しか流れないことを意味する。一方、第1の抵抗器19と並列な第1のコンデンサ37によって、電流の流れを検出することができる。この事例を、
図5Aにより詳細に示す。そのような場合、ワークピース3又は溶接トーチ5の損傷を回避するために、溶接工程中であっても溶接経路を変更することができる。必ずしも、溶接工程を中断する必要はない。
【0042】
第2の電気的接触14は、溶接ワイヤ11の金属性の溶接スパッタに起因して、ガスノズル9と第2の更なる要素24”、例えばコンタクトチューブ16との間で発生し得る。コンタクトチューブ16とガスノズル9との間の電気的接触14を通じて、第1の抵抗器19が短絡し、第2の抵抗器21において溶接電圧U
SQ全体が低下する(
図3B)。このことは、
図2Bによる実施形態に関しては、短絡に起因して、第1の抵抗器に並列な第1のコンデンサ37に電流が流れないか、又はわずかな電流しか流れないことを意味する。一方、第2の抵抗器21と並列な第2のコンデンサ38によって、電流の流れを検出することができる。この事例を、
図5Bにより詳細に示す。このタイプの接触が起きた場合、ガスノズル9が破壊されるおそれがある。電気的接触14が発生した場合、溶接トーチ5を交換又は洗浄するために、洗浄を推奨することができ、又は溶接工程を中断することができる。
【0043】
しかしながら、溶接工程中の故障とはいえない第3の電気的接触15は、コンタクトチューブ16又は溶接ワイヤ11と、ワークピース3との間の接触によって発生する。コンタクトチューブ16又は溶接ワイヤ11と、ワークピース3と間の電気的接触14によって、抵抗器19及び21の短絡が引き起こされる。そのような場合には、溶接電圧U
SQ又は補助電圧U
Hも割り込むため、特に、溶接工程の前又は後に、溶接電圧U
SQ又は補助電圧U
Hを追加的に測定することによって、この事例を検出して、他の事例と識別することができる。このことは、
図2Bによる実施形態に関しては、短絡に起因して第1の抵抗器19及び第2の抵抗器21に並列な、コンデンサ37、38を通って、電流が流れないことを意味する。
【0044】
図4では、第1の抵抗器19を介した測定電圧U
mess(ボルト単位)の推移、及び溶接電圧U
SQの推移が定性的に示されており、より良好に全体像を示すために溶接工程は実行されず、そのため、溶接電圧U
SQは(t
5とt
6との間の期間を除き)基本的に一定のままである。異なる電気的接触13、14、15は、経時的に発生する。
【0045】
時点t1と時点t2との間の期間では、ガスノズル9とコンタクトチューブ16との間に、2回の電気的接触14が生じている。溶接電圧USQは一定のままであるが、電圧Umessは、実質的に0Vに降下することが分かる。
【0046】
時点t2と時点t3との間の期間では、電気的接触13、14、15は発生していない。Umessは、目標値に相当するものである。
【0047】
時点t3と時点t4との間の期間では、ガスノズル9とワークピース3との間に、2回の電気的接触13が生じている。溶接電圧USQは一定のままであるが、少なくとも1つの第2の抵抗器21が短絡しているため、電圧Umessが増加していることが分かる。
【0048】
時点t4と時点t5との間の期間では、電気的接触13、14、15は発生していない。Umessは、目標値に相当するものである。
【0049】
時点t5と時点t6との間の期間では、コンタクトチューブ16とワークピース3との間に、2回の電気的接触15が生じている。溶接電圧USQ及び電圧Umessの両方が、実質的に0Vに降下していることが分かる。接触15は、溶接工程中の故障とはいえない。
【0050】
図5Aは、溶接工程中の、溶接電圧U
SQ、並びに、第1のコンデンサ37及び第2のコンデンサ38(
図2B参照)を通る、電流I
mess-37、I
mess-38の時間的推移を示す。これらの電流は、溶接電流源18の同期された電力部によって生成された、交流電流又はリップル電流である。時点t
1では接触13が発生し、第2の抵抗器21と第2のコンデンサ38とが短絡する。したがって、第2のコンデンサ38を介して電流を検出することができない、又は、わずかな電流しか検出することができない。一方、第1のコンデンサ37を流れる電流は増加する。コンデンサ37、38を通る電流の増加又は減少を目標値と比較した場合に、接触13を識別することが可能となる。その発生時には、検出信号Sが出力される。
【0051】
図5Bはまた、溶接工程中の、溶接電圧U
SQ、並びに、第1のコンデンサ37及び第2のコンデンサ38を通る、電流I
mess-37、I
mess-38の時間的推移を示す。しかしながら、時点t
1では接触14が発生し、第1の抵抗器19と第1のコンデンサ37が短絡している。したがって、第1のコンデンサ37を介して電流を検出することができない、又は、わずかな電流しか検出することができない。一方、第2のコンデンサ38を流れる電流は増加する。コンデンサ37、38を通る電流の増加又は減少を目標値と比較した場合に、接触14を識別することが可能となる。その発生時には、検出信号Sが出力される。
【0052】
図6は、溶接装置1の例示的な実施態様を、ブロック図で概略的に示している。最も重要な構成要素のみが、示されている。この場合、一方では、溶接電流源18の溶接電圧U
SQが別の電圧測定器28によって測定され、他方では、電圧U
messが抵抗器19、21(図示せず)のうちの一方で測定される。抵抗器19、21は、回路29内で電圧測定器26と共に実装される。
【0053】
溶接電流源18の溶接電圧USQは一定である必要はなく、溶接工程中に変化し得る。具体的には、溶接工程の個々の段階、例えばアーク段階、基本電流段階、及びパルス段階で、溶接電圧USQは異なり得る。したがって、測定電圧Umessの目標値もまた、溶接工程の個々の段階において変化し、電気的接触13、14を評価及び検出することが、より困難となる。これを抑制するために、配線、特に分圧器22及び使用される測定回路から生じるスケーリング係数Pを、決定することができる。スケーリング係数P及び現在の溶接電圧USQに基づいて、測定電圧Umessの目標値をいつでも決定することができ、その結果、印加された溶接電圧USQのレベルとは無関係に、電気的接触13、14を特定することができる。この目標値は、接触13、14がない場合に存在すべき電圧に相当する。当然のこと、使用するこの方法では、電圧測定の代わりに電流測定を行うこともできる。
【0054】
図7A及び
図7Bには、溶接電圧U
SQの推移、並びに、第1の抵抗器19を介した、測定電圧U
messの推移が示されている。
図7Aでは、時点t
1で接触13が発生している。
図7Bでは、時点t
1で接触14が発生している。破線は、測定電圧U
messに対するスケーリング係数Pによって決定された、目標値U
mess-sollの推移を表す。接触13、14が発生する前には、測定された電圧U
messは、実質的に目標値U
mess-sollに相当する。時点t
1において接触13、14が発生した後では、測定電圧U
messは、目標値U
mess-sollの推移から逸脱する。目標値U
mess-sollからの測定電圧U
messの偏差のタイプ、U
diffに基づいて、接触13、14のタイプを決定することができる。その発生時には、検出信号Sが出力される。この評価は、溶接工程のアーク段階で行われることが好ましい。目標値U
mess-sollの推移は、定性的には溶接電圧U
SQの推移と同等であることが分かる。これは、U
mess-sollは、スケーリング係数Pを用いて溶接電圧U
SQから連続的に決定される、という事実によるものである。スケーリングを行うことにより、接触13、14を検出することが、溶接電圧U
SQのレベルに依存しないことが可能となる。