(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂ロッド及び繊維強化樹脂ロッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
E04C 5/07 20060101AFI20240123BHJP
B28B 23/02 20060101ALI20240123BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
E04C5/07
B28B23/02 Z
D06M15/55
(21)【出願番号】P 2020083954
(22)【出願日】2020-05-12
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】514250078
【氏名又は名称】中日本高速技術マーケティング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000245852
【氏名又は名称】矢作建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】野島 昭二
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆
(72)【発明者】
【氏名】桐山 和也
(72)【発明者】
【氏名】長沼 明彦
(72)【発明者】
【氏名】武藤 裕久
(72)【発明者】
【氏名】野村 敬之
(72)【発明者】
【氏名】大原 康之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正勝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 仁誌
(72)【発明者】
【氏名】河上 真
(72)【発明者】
【氏名】磯村 貴之
(72)【発明者】
【氏名】高見 肇
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-001127(JP,U)
【文献】特開2012-251378(JP,A)
【文献】登録実用新案第3121424(JP,U)
【文献】韓国登録特許第10-1043809(KR,B1)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0054890(KR,A)
【文献】米国特許第5727357(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/07,5/20
B28B 23/02
D06M 15/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に延びる繊維を束ねた繊維束と当該繊維束に含浸されたマトリックス樹脂とを含んで構成された芯部と、
前記芯部の周面を被覆する被覆部と、
を備え、
前記被覆部は、前記芯部の周面全体を被覆するように前記芯部の周面上において組紐状に編まれた状態となって
おり、かつ前記芯部の周面上に前記マトリックス樹脂を浮き出たせる締め付け力を作用させる複数の補強用繊維糸で構成されており、
前記複数の補強用繊維糸は、複数本の第1補強用繊維糸と当該第1補強用繊維糸よりも太い第2補強用繊維糸と、を含んで構成されており、
前記第2補強用繊維糸により前記芯部の周面には螺旋状の凸条が形成されて
おり、
前記マトリックス樹脂は、前記芯部の周面と前記被覆部の内周面とを接着していることを特徴とする繊維強化樹脂ロッド。
【請求項2】
前記芯部の周面と前記被覆部との間には、接着機能を有する樹脂層が介在していることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂ロッド。
【請求項3】
前記被覆部の外周面には、樹脂からなる保護膜が形成されている請求項1又は請求項2に記載の繊維強化樹脂ロッド。
【請求項4】
一方向に延びる繊維の繊維束に未硬化のマトリックス樹脂を含浸させて芯部を形成する工程と、
前記繊維束に含浸された前記マトリックス樹脂が硬化する前に前記芯部の周面上に複数の補強用繊維糸を組紐状に編み込んで前記芯部の周面全体を被覆する被覆部を形成する工程と、を備え、
前記複数の補強用繊維糸は、複数本の第1補強用繊維糸と当該第1補強用繊維糸よりも太い第2補強用繊維糸と、を含んで構成され、
前記被覆部を形成する工程では、
前記複数の補強用繊維糸の締め付け力により前記芯部の周面上に前記マトリックス樹脂を浮き出させるとともに、前記第2補強用繊維糸により前記芯部の周面に螺旋状の凸条
を形成し、
前記被覆部を形成する工程の後に、前記浮き出たマトリックス樹脂を熱硬化して、前記芯部の周面と前記被覆部の内周面とを接着する工程を、
更に備えることを特徴とする繊維強化樹脂ロッドの製造方法。
【請求項5】
前記芯部を形成する工程と前記被覆部を形成する工程との間に、前記芯部の周面上に接着機能を有する樹脂層を形成する工程を備えることを特徴とする請求項4に記載の繊維強化樹脂ロッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンクリート構造物の補強に鉄筋の代替品として用いられる繊維強化樹脂ロッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリート構造物の補強に用いられる繊維強化樹脂ロッドとして、例えば特許文献1に記載の筋金棒が知られている。この筋金棒は、無機繊維の一種であるバサルト繊維を束ねて形成した芯材にマトリックス樹脂を含浸させた後、その芯材の周面にガラス繊維、炭素繊維及びバサルト繊維の群から選択される少なくとも1つの繊維で構成した補強用繊維糸を所定の巻き付け間隔となる螺旋状に巻き付けることで形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、材料に繊維と樹脂とを含む繊維強化樹脂ロッドである筋金棒は、材料全体のうちの体積の何%が繊維なのか、ということを示す繊維体積含有率Vf(Fiber Volume)が、低過ぎず且つ高過ぎない一定の範囲内にあることが、品質的に好ましい。すなわち、繊維体積含有率Vfは、例えば40vol%よりも低いと、強化用繊維が不足して繊維強化樹脂ロッドに充分な機械的強度を付与できない一方、90vol%を超えると、樹脂と繊維との接着が悪くなって繊維強化樹脂ロッドの引っ張り強度が低下する。そして、この繊維体積含有率Vfは、低過ぎず且つ高過ぎない一定の範囲内であれば、相対的には低いよりも高い方が好ましく、さらに、筋金棒の長さ方向の全体に亘って均一であることが、筋金棒の全体的な強度を維持する上では好ましい。
【0005】
この点、特許文献1の筋金棒では、マトリックス樹脂を含浸させた芯材の周面に補強用繊維糸を、芯材の長さ方向において所定の巻き付け間隔となる螺旋状に巻き付けている。そのため、芯材の周面に補強用繊維糸を巻き付けたときに、その時点で芯材に含浸されている未硬化のマトリックス樹脂が、補強用繊維糸による巻き付け力が芯材に締め付け力として作用する螺旋状の部分において、その他の部分よりも芯材の表面側に多く浮き出る。
【0006】
すなわち、芯材の長さ方向において、補強用繊維糸が巻き付けられた螺旋状の部分と、それ以外の部分とでは、その芯材の材料をバサルト繊維と共に構成するマトリックス樹脂の含有率が異なることになり、その結果、螺旋状の部分と、それ以外の部分とでは、繊維体積含有率Vfも異なることになる。そのため、特許文献1の筋金棒では、その長さ方向で繊維体積含有率Vfが部分的に不均一となり、繊維とマトリックス樹脂とを含んで構成される繊維強化樹脂ロッドとしての全体的な強度を良好に維持できない虞があった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、繊維体積含有率が長さ方向で部分的に不均一になることを抑制して全体的な強度を良好に維持できる繊維強化樹脂ロッド及びそのような繊維強化樹脂ロッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する繊維強化樹脂ロッドは、一方向に延びる繊維を束ねた繊維束と当該繊維束に含浸されたマトリックス樹脂とを含んで構成された芯部と、前記芯部の周面を被覆する被覆部と、を備え、前記被覆部は、前記芯部の周面全体を被覆するように前記芯部の周面上において組紐状に編まれた状態となっている複数の補強用繊維糸で構成されている。
【0009】
この構成によれば、補強用繊維糸は、芯部の周面に対して所定の巻き付け間隔で螺旋状に巻き付けられるのではなく、芯部の周面全体を万遍なく被覆して芯部の長さ方向の全体に亘って均一に締め付け力を作用させる組紐状の被覆部を形成するように編み込まれる。そのため、繊維強化樹脂ロッドは、その芯部における繊維体積含有率が、芯部の長さ方向において部分的に不均一とはならず、その長さ方向の全体に亘って均一となり、全体的な強度が良好に維持される。
【0010】
上記繊維強化樹脂ロッドにおいて、前記補強用繊維糸は、複数本の第1補強用繊維糸と当該第1補強用繊維糸よりも太い第2補強用繊維糸と、を含んで構成され、前記第2補強用繊維糸により前記芯部の周面には螺旋状の凸条が形成されることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、螺旋状の凸条を形成する第2補強用繊維糸は、複数本の第1補強用繊維糸と絡み合って組紐状に編み込まれているので、只単に太い第2補強用繊維糸だけを芯部の周面に螺旋状に巻きつけた場合よりも、強固に螺旋状の凸条を形成できる。そのため、例えばコンクリート構造物の補強のために鉄筋の代わりに繊維強化樹脂ロッドをコンクリート中に埋設した場合において、螺旋状の凸条がコンクリートの打設時等に押されて芯部の周面上で位置ズレする虞を低減でき、コンクリートに対する優れた付着性能を期待できる。
【0012】
上記繊維強化樹脂ロッドにおいて、前記芯部の周面と前記被覆部との間には、接着機能を有する樹脂層が介在していることが好ましい。
この構成によれば、芯部の周面上に補強用繊維糸が組紐状に編み込まれたときの締め付け力によって芯部の繊維束中から芯部の周面に浮き出た未硬化のマトリックス樹脂だけでなく、芯部の周面と被覆部との間の樹脂層を構成する樹脂も接着機能を発揮する。そのため、芯部の繊維束中から芯部の周面に浮き出たマトリックス樹脂だけによる場合よりも、芯部の周面に対して被覆部を強固に接着できる。
【0013】
上記課題を解決する繊維強化樹脂ロッドの製造方法は、一方向に延びる繊維の繊維束に未硬化のマトリックス樹脂を含浸させて芯部を形成する工程と、前記繊維束に含浸された前記マトリックス樹脂が硬化する前に前記芯部の周面上に複数の補強用繊維糸を組紐状に編み込んで前記芯部の周面全体を被覆する被覆部を形成する工程と、を備える。
【0014】
上記繊維強化樹脂ロッドの製造方法においては、前記芯部を形成する工程と前記被覆部を形成する工程との間に、前記芯部の周面上に接着機能を有する樹脂層を形成する工程を備えることが好ましい。
【0015】
上記した各繊維強化樹脂ロッドの製造方法によれば、上記の作用効果を奏する繊維強化樹脂ロッドを容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、繊維強化樹脂ロッドの繊維体積含有率が長さ方向で部分的に不均一になることを抑制して全体的な強度を良好に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一実施形態の繊維強化樹脂ロッドの長手方向の一部を模式的に示す平面図。
【
図3】繊維強化樹脂ロッドの製造システムの概略を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、繊維強化樹脂ロッドの一実施形態について図を用いて説明する。
図1及び
図2に示すように、繊維強化樹脂ロッド11は、
図1における左右方向が長手方向となる円柱状の芯部12と、芯部12の周面全体を被覆する被覆部13と、を備えている。芯部12は、複数の繊維14を含んで一方向に延びる繊維束15と、繊維束15に含浸されたマトリックス樹脂16と、を含んで構成されている。芯部12の繊維束15を構成する繊維14は、ガラス繊維、炭素繊維及びバサルト繊維等の無機繊維又はアラミド繊維、アクリル繊維及びポリエチレン繊維等の有機繊維を含んで構成され、本実施形態では、無機繊維のバサルト繊維で構成されている。一般に、無機繊維は、繊維14の長手方向において優れた引っ張り強度を示すことが知られ、その中でもバサルト繊維は、引っ張り強度において特に優れている。
【0019】
マトリックス樹脂16は、
図2において便宜的にハッチング表示した芯部12の断面中の一点鎖線で円形に囲った拡大表示部12aに模式的に示すように、一方向に引き揃えて束ねられた状態にある複数の繊維14同士の間に含浸されている。こうしたマトリックス樹脂16としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の何れも使用できるが、本実施形態では、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられている。なお、芯部12の繊維束15を構成する繊維14が耐アルカリ性に劣る場合でも、繊維強化樹脂ロッド11が埋設されるコンクリート中に含まれるアルカリ成分による侵食を効果的に抑制できるように、本実施形態では、以上の熱硬化性樹脂のうち、耐アルカリ性等の耐薬品性に優れたビニルエステル樹脂が用いられている。
【0020】
上記のように、繊維強化樹脂ロッド11の芯部12は、繊維束15を形成する繊維14と、繊維束15に含浸されたマトリックス樹脂16とを材料としている。そして、繊維束15に含浸された未硬化のマトリックス樹脂16が、繊維束15として束ねられた複数の繊維14同士の間で硬化することにより、芯部12は長いシャフト状に形成される。そのため、かかる繊維強化樹脂ロッド11の芯部12は、その繊維体積含有率Vfが芯部12の長さ方向の全体に亘って均一であることが、繊維強化樹脂ロッド11の全体的な強度を良好に維持する上で好ましい。そこで、本実施形態では、繊維強化樹脂ロッド11の芯部12の周面を被覆する被覆部13の構成に工夫を凝らすことにより、繊維体積含有率Vfが芯部12の長さ方向の全体に亘って不均一にならないようにしている。
【0021】
図1及び
図2に示すように、被覆部13は、芯部12の周面全体を被覆するように芯部12の周面上において組紐状に編まれた状態となっている複数の補強用繊維糸17,18で構成されている。具体的には、複数本の第1補強用繊維糸17と第1補強用繊維糸17よりも太い第2補強用繊維糸18と、を含んで構成されている。本実施形態では、一例として、15本の第1補強用繊維糸17と1本の第2補強用繊維糸18が組紐状に編まれた状態となって芯部12の周面全体を筒状に被覆する被覆部13を構成している。そして、1本の太い第2補強用繊維糸18により芯部12の周面には螺旋状の凸条19が一条形成されている。
【0022】
第1補強用繊維糸17及び第2補強用繊維糸18は、ポリビニルアルコール繊維であるビニロン繊維、ナイロン繊維、塩化ビニル繊維及びポリプロピレン繊維などの群から選択される少なくとも1つの繊維で構成される。因みに、本実施形態では、コンクリート中に含まれるアルカリ成分を考慮して、組紐状の被覆部13を構成する第1補強用繊維糸17及び第2補強用繊維糸18には、以上の繊維のうち、耐アルカリ性等の耐薬品性に優れたビニロン繊維が用いられている。
【0023】
また、
図2に示すように、円柱状をなす芯部12の外周面と筒状形態に編まれた被覆部13の内周面との間には、接着機能を有する樹脂層20が介在している。この樹脂層20は、芯部12の周面に対して被覆部13を強固に接着するために介在させられるものであり、本実施形態では、芯部12の繊維束15に含浸されたマトリックス樹脂16と同様の樹脂である耐アルカリ性等の耐薬品性に優れたビニルエステル樹脂が用いられている。そして、
図1及び
図2に示すように、繊維強化樹脂ロッド11の外周面となる被覆部13の外周面には、同じくビニルエステル樹脂等の耐薬品性に優れた樹脂の層である保護膜21が形成されている。
【0024】
次に、上記の繊維強化樹脂ロッド11の製造方法について説明する。
図3に示すように、繊維強化樹脂ロッド11は、所定の製造システム30を使用して製造される。この製造システム30は、芯部形成部31と、被覆部形成部32と、後処理部33と、を備える。芯部形成部31では、一方向に延びる繊維14の繊維束15に未硬化のマトリックス樹脂16を含浸させて芯部12を形成する工程が実行される。被覆部形成部32では、繊維束15に含浸させられたマトリックス樹脂16が硬化する前に芯部12の周面上に第1補強用繊維糸17及び第2補強用繊維糸18からなる複数の補強用繊維糸を組紐状に編み込んで芯部12の周面全体を被覆する被覆部13を形成する工程が実行される。後処理部33では、未硬化のマトリックス樹脂16を硬化させる等の工程が実行される。
【0025】
芯部形成部31は、繊維14がそれぞれ巻き回された複数のボビン34と、複数の繊維14を一つの繊維束15に束ねるローラー対35と、マトリックス樹脂16が貯留されたタンク36と、芯部12の周面に樹脂をコートする樹脂コート部37と、を備える。この芯部形成部31では、複数のボビン34から引き出された複数の繊維14がローラー対35により一方向に延びる繊維束15に束ねられた後、第1ローラー38によって進行方向をタンク36内に向かうように変更され、その繊維束15にタンク36内に貯留されている未硬化のマトリックス樹脂16が含浸される。
【0026】
その後、未硬化のマトリックス樹脂16が含浸した状態の繊維束15は、タンク36内に設けられた第2ローラー39により進行方向をタンク36外に向かうように変更され、その後、第3ローラー40により進行方向を下流側に位置する樹脂コート部37に向かうように変更される。そして、樹脂コート部37では、繊維束15にマトリックス樹脂16を含浸させてなる芯部12の周面に、接着機能を有する樹脂がコートされて樹脂層20が形成され、その後、樹脂層20が周面に形成された芯部12は、被覆部形成部32に向けて進行する。
【0027】
被覆部形成部32は、第1補強用繊維糸17が巻き回された複数の第1ボビン41と、第2補強用繊維糸18が巻き回された第2ボビン42と、芯部12の周面に組紐状の被覆部13を編み込む組紐形成部43と、被覆部13の外周面に保護膜21を形成する保護膜形成部44と、を備える。この被覆部形成部32では、複数の第1ボビン41から引き出された複数の第1補強用繊維糸17と一つの第2ボビン42から引き出された第2補強用繊維糸18とが、組紐形成部43において、接着機能を有する樹脂層20で覆われている芯部12の周面上で互いに斜めに交差する組紐状に編み込まれる。
【0028】
その結果、芯部12の周面上には、第1補強用繊維糸17と第2補強用繊維糸18とが組紐状に編み込まれてなる筒状形態の被覆部13が形成され、その後、その被覆部13の外周面上に保護膜形成部44において樹脂がコートされて保護膜21が形成される。そして、被覆部13の外周面上に保護膜21が形成された繊維強化樹脂ロッド11は、後処理部33に向けて進行する。
【0029】
後処理部33は、ヒーター部45と、引き出し部46と、切断部47と、を備える。すなわち、この後処理部33では、繊維強化樹脂ロッド11における芯部12の繊維束15に含浸された未硬化のマトリックス樹脂16、芯部12の周面に樹脂層20を形成するべくコートされた未硬化の樹脂及び被覆部13の外周面に保護膜21を形成するべくコートされた未硬化の樹脂が、ヒーター部45で加熱されて熱硬化する。そして、このヒーター部45での加熱によりマトリックス樹脂16等が硬化した繊維強化樹脂ロッド11は、その繊維強化樹脂ロッド11を進行方向と交差する方向の両側から挟んで回転するローラー等を有する引き出し部46により、進行方向の下流側に引き出される。そして、引き出し部46によって一方向へ直線的に連続して延びるように引き出された繊維強化樹脂ロッド11は、切断部47において所定の長さに切断される。
【0030】
次に、本実施形態の作用について説明する。
さて、繊維強化樹脂ロッド11は、芯部12の周面上に第1補強用繊維糸17及び第2補強用繊維糸18によって被覆部13が組紐状に編み込まれるとき、それらの編み込み力が繊維束15に対して芯部12の周面から締め付け力として作用する。すると、その時点で芯部12の繊維束15に含浸している未硬化のマトリックス樹脂16のうち、ある程度の量のマトリックス樹脂16が、締め付け力を受けて繊維束15中から芯部12の周面上に浮き出る。そして、このときに芯部12の周面上に浮き出たマトリックス樹脂16は、その後、ヒーター部45での加熱により熱硬化することで、芯部12の周面と被覆部13の内周面とを強固に接着する機能を果たす。
【0031】
ここで、被覆部13の第1補強用繊維糸17と第2補強用繊維糸18との締め付け力を受けて繊維束15中から芯部12の周面上に浮き出るマトリックス樹脂16の量が僅少であった場合は、芯部12の周面と被覆部13の内周面とを強固に接着できない虞がある。この点、本実施形態では、芯部12を形成する工程と被覆部13を形成する工程との間において芯部12の周面上に接着機能を有する樹脂からなる樹脂層20が形成される。そのため、芯部12の繊維束15中から芯部12の周面に浮き出たマトリックス樹脂16の量が僅少であっても、芯部12の周面上の樹脂層20を構成する樹脂も接着機能を果たすので、芯部12の周面と被覆部13の内周面とが強固に接着されない虞は低減される。
【0032】
また、繊維強化樹脂ロッド11は、被覆部13を形成する補強用繊維糸17,18が、芯部12の周面に対して所定の巻き付け間隔で螺旋状に巻き付けられる構成の場合には、芯部12の長さ方向で補強用繊維糸17,18が巻き付けられた螺旋状の部分には締め付け力が作用するが、それ以外の部分には締め付け力が作用しないことになる。そのため、このような場合には、芯部12の長さ方向で、螺旋状の部分と、それ以外の部分とでは、繊維束15中から芯部12の周面に浮き出るマトリックス樹脂16の量が不均一となり、繊維体積含有率Vfも異なることになる。さらに、芯部12の周面の補強用繊維糸17,18が螺旋状に巻き付けられた部分では、繊維束15を構成する多数の繊維14のうちで特に芯部12の表面近くに位置する繊維14が内側に屈曲させられる。そのため、繊維強化樹脂ロッド11の引っ張り強度が芯部12の繊維束15を構成する繊維14の束ね量で想定される引っ張り強度よりも低下する虞がある。
【0033】
この点、本実施形態では、繊維束15中に未硬化のマトリックス樹脂16を含浸させた状態にある芯部12の周面に形成される被覆部13は、第1補強用繊維糸17と第2補強用繊維糸18とが組紐状に編み込まれることで芯部12の周面全体を筒状形態で被覆するように形成される。そのため、繊維強化樹脂ロッド11は、その芯部12の周面に組紐状の被覆部13が形成されるときに、繊維束15中から芯部12の周面に浮き出るマトリックス樹脂16の量及び繊維体積含有率が、芯部12の長さ方向において部分的に不均一となることが抑制される。また、芯部12の繊維束15を構成する多数の繊維14の配向が直線状に保たれるため、繊維強化樹脂ロッド11の引っ張り強度が低下する虞も低減される。
【0034】
また、芯部12の周面上に螺旋状の凸条19を形成している第2補強用繊維糸18は、複数本の第1補強用繊維糸17と互いに斜めに交差するように編み込まれることにより、芯部12の周面を被覆する組紐状の被覆部13を形成している。そのため、只単に1本の太い第2補強用繊維糸18を芯部12の周面に対して所定の巻き付け間隔で螺旋状に巻き付けた場合よりも、第1補強用繊維糸17と組紐状に編み込まれて螺旋状の凸条19を形成する第2補強用繊維糸18は、芯部12の長さ方向に位置ずれする虞が低減される。
【0035】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)第1補強用繊維糸17と第2補強用繊維糸18は、芯部12の周面に対して芯部12の周面全体を万遍なく被覆して芯部12の長さ方向の全体に亘って均一に締め付け力を作用させる組紐状の被覆部13を形成するように編み込まれる。そのため、繊維強化樹脂ロッド11は、その芯部12における繊維体積含有率Vfが、芯部12の長さ方向において部分的に不均一とはならず、その長さ方向の全体に亘って均一となり、全体的な強度を良好に維持できる。
【0036】
(2)螺旋状の凸条19を形成する第2補強用繊維糸18は、複数本の第1補強用繊維糸17と絡み合って組紐状に編み込まれているので、只単に太い第2補強用繊維糸18だけを芯部12の周面に螺旋状に巻きつけた場合よりも、強固に螺旋状の凸条19を形成できる。そのため、例えばコンクリート構造物の補強のために鉄筋の代わりに繊維強化樹脂ロッド11をコンクリート中に埋設した場合において、螺旋状の凸条19を形成する第2補強用繊維糸18がコンクリートの打設時等に押されて芯部12の周面上で位置ズレする虞を低減でき、コンクリートに対する優れた付着性能を期待できる。
【0037】
(3)芯部12の周面上に補強用繊維糸17,18が組紐状に編み込まれたときの締め付け力によって芯部12の繊維束15中から芯部12の周面に浮き出た未硬化のマトリックス樹脂16だけでなく、芯部12の周面と被覆部13との間の樹脂層20を構成する樹脂も接着機能を発揮する。そのため、芯部12の繊維束15中から芯部12の周面に浮き出たマトリックス樹脂16だけによる場合よりも、芯部12の周面に対して被覆部13を強固に接着できる。
【0038】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・繊維強化樹脂ロッド11は、芯部12の周面と被覆部13との間に樹脂層20が介在していない構成であってもよい。
【0039】
・マトリックス樹脂16、芯部12の周面と被覆部13との間に介在する樹脂層20の樹脂、及び、被覆部13の外周面に形成される保護膜21の樹脂は、ビニルエステル樹脂以外の他の熱硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂であってもよい。すなわち、これらの樹脂は、必ずしも耐アルカリ性を有する樹脂でなくてもよい。
【0040】
・繊維強化樹脂ロッド11の製造システム30は、保護膜形成部44がヒーター部45と引き出し部46との間に位置する構成であってもよい。すなわち、繊維強化樹脂ロッド11は、芯部12の繊維束15に含浸させた未硬化のマトリックス樹脂16及び芯部12の周面と被覆部13との間の樹脂層20の樹脂が熱硬化した後に、被覆部13の外周面に保護膜21となる樹脂を塗布する構成でもよい。この構成によれば、ヒーター部45でのマトリックス樹脂16等の熱硬化時に芯部12の内部から発生する揮発分や空気等により保護膜21の成膜が妨げられることを抑制できる。
【0041】
・繊維強化樹脂ロッド11は、組紐状に編み込まれて被覆部13を形成する第1補強用繊維糸17及び第2補強用繊維糸18が、ビニロン繊維以外の他の繊維であってもよい。すなわち、補強用繊維糸17,18は、必ずしも耐アルカリ性を有する繊維糸でなくてもよい。
【0042】
・芯部12の繊維束15を構成する繊維14は、バサルト繊維以外の他の無機繊維であってもよいし、アラミド繊維等の有機繊維であってもよく、又は、それら複数種類の繊維14を含んで構成されていてもよい。
【0043】
・繊維強化樹脂ロッド11は、複数本の第1補強用繊維糸17と組紐状に編み込まれて被覆部13を構成する第2補強用繊維糸18が例えば2本であって、芯部12の周面上にそれら2本の太い第2補強用繊維糸18により螺旋状の凸条19が二条形成される構成であってもよい。
【0044】
・繊維強化樹脂ロッド11は、芯部12の断面形状が真円となる構成に限らず、楕円状となる構成や多角形状となる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
11…繊維強化樹脂ロッド、12…芯部、13…被覆部、14…繊維、15…繊維束、16…マトリックス樹脂、17…第1補強用繊維糸、18…第2補強用繊維糸、19…凸条、20…樹脂層。