(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】メタルマスク、ボール配列用マスク、基材及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41N 1/24 20060101AFI20240123BHJP
B41C 1/14 20060101ALI20240123BHJP
H05K 3/34 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B41N1/24
B41C1/14 101
H05K3/34 505D
(21)【出願番号】P 2020034718
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】300071823
【氏名又は名称】株式会社ボンマーク
(74)【代理人】
【識別番号】100082175
【氏名又は名称】高田 守
(74)【代理人】
【識別番号】100106150
【氏名又は名称】高橋 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100142642
【氏名又は名称】小澤 次郎
(72)【発明者】
【氏名】伊與 信平
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-181904(JP,A)
【文献】特開2010-126807(JP,A)
【文献】特開2008-205047(JP,A)
【文献】特開2007-294885(JP,A)
【文献】特開2019-051664(JP,A)
【文献】特開2019-206088(JP,A)
【文献】特開2001-198766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 1/24
B41C 1/14
H05K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の金属材料からなり、印刷ペーストを通過させる複数の開口部が貫通形成されたメタルマスクと、
少なくとも前記メタルマスクの印刷対象となる基板に対向する側の基板対向面の全面に亘って、蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、
前記第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした
第2の金属皮膜層と、
前記第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層と、を備えたことを特徴とするメタルマスク。
【請求項2】
第1の金属皮膜層は、酸化クロム(CrO)を主体とした金属皮膜層であり、第2の金
属皮膜層は、5酸化ニオブ(Nb2O5)を主体とした金属皮膜層であることを特徴とする
請求項1記載のメタルマスク。
【請求項3】
撥水・撥油性を有するコーティング層は、フッ素含有シランカップリング剤であるこ
とを特徴とする請求項1又は請求項2記載のメタルマスク。
【請求項4】
平板状の金属材料からなり、印刷ペーストを通過させる複数の開口部が貫通形成されたメタルマスクと、少なくとも前記メタルマスクの印刷対象となる基板に対向する側の基板対向面の全面に亘って、蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、前記第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層と、前記第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えたメタルマスクを、スクリーン紗を介して支持枠に貼り付け固定するとともに、前記メタルマスクのスキージ面側又は基板面側と前記支持枠の間を繋ぐ導電性部材を貼り付けたことを特徴とするメタルマスク版。
【請求項5】
平板状の金属材料からなり、印刷ペーストを通過させる複数の開口部が貫通形成されたメタルマスクと、少なくとも前記メタルマスクの印刷対象となる基板に対向する側の基板対向面の全面に亘って、蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、前記第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層と、前記第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えたメタルマスクの製造方法であって、
ステンレス鋼材からなる平板状のメタルマスク基材を用意し、前記メタルマスク基材に複数の開口部をレーザー加工により貫通形成する工程と、
前記レーザー加工後のメタルマスク基材を蒸着装置内に設置し、少なくとも前記メタルマスク基材の表面にクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層を蒸着させる工程と、
前記メタルマスク基材の第1の金属皮膜層の表面にニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜を蒸着させる工程と、
前記メタルマスク基材の第2の金属皮膜層の表面に撥水・撥油性を有するコーティング層を蒸着させる工程と、
を備えたメタルマスクの製造方法。
【請求項6】
平板状の金属材料からなり、印刷ペーストを通過させる複数の開口部が貫通形成されたメタルマスクと、少なくとも前記メタルマスクの印刷対象となる基板に対向する側の基板対向面の全面に亘って、蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、前記第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層と、前記第2の金属皮膜層の上表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えたメタルマスクの製造方法であって、
ステンレス鋼材からなる平板状のメタルマスク基材を用意し、前記メタルマスク基材に複数の開口部をレーザー加工により貫通形成する工程と、
前記レーザー加工後のメタルマスク基材を蒸着装置内に設置し、少なくとも前記メタルマスク基材の表面にクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層を蒸着させる工程と、
前記メタルマスク基材の第1の金属皮膜層の表面にニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜を蒸着させる工程と、
前記第1の金属皮膜層及び第2の金属皮膜層が蒸着された前記メタルマスク基材を前記蒸着装置から取り外し、前記第2の金属皮膜層の表面に撥水・撥油性を有するコーティング層を塗布形成する工程と、
を備えたメタルマスクの製造方法。
【請求項7】
メッキにより平板状に形成され、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部と、導電性ボールが振り込まれる側でなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面の前記ボール挿通用開口部の周辺に部分的に突出され、前記基板との間に隙間を形成するための突起を備えたボール配列用マスクと、
少なくとも前記ボール配列用マスクの基板対向面の全面に亘って、蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、
前記第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした
第2の金属皮膜層と、
前記第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層と、を備えたことを特徴とするボール配列用マスク。
【請求項8】
第1の金属皮膜層は、酸化クロム(CrO)を主体とした金属皮膜層であり、第2の金
属皮膜層は、5酸化ニオブ(Nb2O5)を主体とした金属皮膜層であることを特徴とする
請求項7記載のボール配列用マスク。
【請求項9】
撥水・撥油性を有するコーティング層は、フッ素含有シランカップリング剤であるこ
とを特徴とする請求項7又は請求項8記載のボール配列用マスク。
【請求項10】
メッキにより平板状に形成され、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部と、導電性ボールが振り込まれる側でなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面の前記ボール挿通用開口部の周辺に部分的に突出され、前記基板との間に隙間を形成するための突起を備えたボール配列用マスクと、少なくとも前記ボール配列用マスクの基板対向面の全面に亘って、蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、前記第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層と、前記第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えたボール配列用マスクを、
スクリーン紗を介して支持枠に貼り付け固定するとともに、前記ボール配列用マスクのスキージ面側又は基板面側と前記支持枠の間を繋ぐ導電性部材を貼り付けたことを特徴とするボール配列用マスク版。
【請求項11】
メッキにより平板状に形成され、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部と、導電性ボールが振り込まれる側でなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面の前記ボール挿通用開口部の周辺に部分的に突出され、前記基板との間に隙間を形成するための突起を備えたボール配列用マスクと、少なくとも前記ボール配列用マスクの基板対向面の全面に亘って、蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、前記第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層と、前記第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えたボール配列用マスクの製造方法であって、
メッキにより平板状に形成され、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部と、導電性ボールが振り込まれる側でなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面の前記ボール挿通用開口部の周辺に部分的に突出され、前記基板との間に隙間を形成するための突起を備えたボール配列用マスク基材を用意する工程と、
前記ボール配列用マスク基材を蒸着装置内に設置し、少なくとも前記ボール配列用マスク基材の表面にクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層を蒸着させる工程と、
前記ボール配列用マスク基材の第1の金属皮膜層の表面にニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜を蒸着させる工程と、
前記ボール配列用マスク基材の第2の金属皮膜層の表面に撥水・撥油性を有するコーティング層を蒸着させる工程と、
を備えたボール配列用マスクの製造方法。
【請求項12】
メッキにより平板状に形成され、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部と、導電性ボールが振り込まれる側でなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面の前記ボール挿通用開口部の周辺に部分的に突出され、前記基板との間に隙間を形成するための突起を備えたボール配列用マスクと、少なくとも前記ボール配列用マスクの基板対向面の全面に亘って、蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、前記第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層と、前記第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えたボール配列用マスクの製造方法であって、
メッキにより平板状に形成され、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部と、導電性ボールが振り込まれる側でなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面の前記ボール挿通用開口部の周辺に部分的に突出され、前記基板との間に隙間を形成するための突起を備えたボール配列用マスク基材を用意する工程と、
前記ボール配列用マスク基材を蒸着装置内に設置し、少なくとも前記ボール配列用マスク基材の表面にクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層を蒸着させる工程と、
前記ボール配列用マスク基材の第1の金属皮膜層の表面にニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜を蒸着させる工程と、
前記第1の金属皮膜層及び第2の金属皮膜層が蒸着された前記ボール配列用マスク基材を前記蒸着装置から取り外し、前記第2の金属皮膜層の表面に撥水・撥油性を有するコーティング層を塗布形成する工程と、
を備えたボール配列用マスクの製造方法。
【請求項13】
金属材料からなる基材と、
少なくとも前記基材の表面に蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、
前記第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした
第2の金属皮膜層と、
前記第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層と、を備えたことを特徴とする基材。
【請求項14】
基材は、金型、基板搬送治具、基板サポート治具、メタルスキージ、メタルスクリーン、スクリーン乳剤版のいずれか一つであることを特徴とする請求項13記載の基材。
【請求項15】
金属材料からなる基材と、少なくとも前記基材の表面に蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、前記第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層と、前記第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えた基材の製造方法であって、
金属材料からなる基材を用意する工程と、
前記基材を蒸着装置内に設置し、少なくとも前記基材の表面にクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層を蒸着させる工程と、
前記基材の第1の金属皮膜層の表面にニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜を蒸着させる工程と、
前記基材の第2の金属皮膜層の表面に撥水・撥油性を有するコーティング層を蒸着させる工程と、
を備えた基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、メタルマスク、ボール配列用マスク、基材及びそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、メタルマスクの表面に、撥水性を付与するためにフッ素系樹脂をスプレー又は手塗り等により塗布することが広く行われている(例えば、特許文献1~3参照)。また、その他に、印刷パターンに対応する開口部が形成された基材と、前記基材に直接又は間接にドライプロセスにより形成され、ケイ素、チタン、アルミニウム、酸化アルミニウム、又はジルコニウムから成る群より選択される少なくとも一つの物質を含むプライマー薄膜と、前記プライマー薄膜に形成された撥水性及び/又は撥水・撥油性を有するフッ素含有カップリング剤又はフッ素含有シランカップリング剤から成るコーティング層と、を備える印刷用孔版が知られている(例えば、特許文献4参照)。また、マスク基体の外周面、或いは該マスク基体に形成された貫通孔の内壁面のうち少なくとも一部分に硬質炭素被膜(Zr、Ti、W、Mo、Ge、H、Si、N、Ta、Cr、F、及びBからなるグループより選ばれる少なくとも1種の添加元素を含有している)が形成されたマスクが知られている(例えば、特許文献5参照)。更に、メタルマスク本体の表面にセラミック処理膜が形成され、その形成セラミックが窒化チタン(TiN)、窒化クロム(CrN)、窒化バナジウム(VN)、酸化けい素(SiO)及びDLC(ダイアモンド・ライク・カーボン)の群から選択されるメタルマスクが知られている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開昭57-93169号公報(実用新案登録請求の範囲、
図2)
【文献】特開2001-301353号公報(請求項2-3、
図2-3)
【文献】特許第6121326号公報(請求項2、請求項5-6)
【文献】特開平11-245371号公報(請求項1、請求項10)
【文献】特開2006-205716号公報(請求項1、請求項7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来から広く行われている撥水性を付与するためのフッ素系樹脂では、耐久性が弱く耐久性にもばらつき出るという問題があった。また、従来の印刷用孔版では、基材に直接又は間接にドライプロセスにより形成されるプライマー薄膜が、ケイ素、チタン、アルミニウム、酸化アルミニウム、又はジルコニウムから成る群より選択される少なくとも一つの物質を含むものに限られ、またコーティング層もフッ素含有カップリング剤又はフッ素含有シランカップリング剤から成るものに限られているため、使用材料に制限があった。また、従来のマスクでは、硬質炭素被膜の一例としてCrが用いられ、従来のメタルマスクでは、セラミック処理膜の一例として窒化クロム(CrN)が用いられているだけであった。
【0005】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、撥水層の密着性の向上により耐久性を改善し、高撥水によるマスク印刷性の向上、安定化、洗浄性の向上が期待でき、印刷時に発生する静電気を遮断できるメタルマスク、ボール配列用マスク、基材及びそれらの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係るメタルマスクにおいては、平板状の金属材料からなり、印刷ペーストを通過させる複数の開口部が貫通形成されたメタルマスクと、少なくともメタルマスクの印刷対象となる基板に対向する側の基板対向面の全面に亘って、蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層と、第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えたものである。
【0007】
この発明に係るボール配列用マスクにおいては、メッキにより平板状に形成され、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部と、導電性ボールが振り込まれる側でなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面のボール挿通用開口部の周辺に部分的に突出され、基板との間に隙間を形成するための突起を備えたボール配列用マスクと、少なくともボール配列用マスクの基板対向面の全面に亘って、蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層と、前記第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えたものである。
【0008】
この発明に係る基材においては、金属材料からなる基材と、少なくとも基材の表面に蒸着により形成されたクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層と、第1の金属皮膜層の表面に蒸着によって形成されたニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層と、第2の金属皮膜層の表面に形成された撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えたものである。
【0009】
また、第1の金属皮膜層は、酸化クロム(CrO)を主体とした金属皮膜層であり、第
2の金属皮膜層は、酸化ニオブ(Nb2O5)を主体とした金属皮膜層である。
【0010】
また、撥水・撥油性を有するコーティング層は、フッ素含有シランカップリング剤であ
る。
【0011】
この発明に係るメタルマスクの製造方法においては、ステンレス鋼材からなる平板状のメタルマスク基材を用意し、メタルマスク基材に複数の開口部をレーザー加工により貫通形成する工程と、レーザー加工後のメタルマスク基材を蒸着装置内に設置し、少なくともメタルマスク基材の表面にクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層を蒸着させる工程と、メタルマスク基材の第1の金属皮膜層の表面にニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜を蒸着させる工程と、メタルマスク基材の第2の金属皮膜層の表面に撥水・撥油性を有するコーティング層を蒸着させる工程とを備えたものである。
【0012】
この発明に係るボール配列用マスクの製造方法においては、メッキにより平板状に形成され、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部と、導電性ボールが振り込まれる側でなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面のボール挿通用開口部の周辺に部分的に突出され、基板との間に隙間を形成するための突起を備えたボール配列用マスク基材を用意する工程と、ボール配列用マスク基材を蒸着装置内に設置し、少なくともボール配列用マスク基材の表面にクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層を蒸着させる工程と、ボール配列用マスク基材の第1の金属皮膜層の表面にニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜を蒸着させる工程と、ボール配列用マスク基材の第2の金属皮膜層の表面に撥水・撥油性を有するコーティング層を蒸着させる工程とを備えたものである。
【0013】
この発明に係る基材の製造方法においては、金属材料からなる基材を用意する工程と、基材を蒸着装置内に設置し、少なくとも基材の表面にクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層を蒸着させる工程と、基材の第1の金属皮膜層の表面にニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜を蒸着させる工程と、基材の第2の金属皮膜層の表面に撥水・撥油性を有するコーティング層を蒸着させる工程とを備えたものである。
【0014】
この発明に係るメタルマスク版においては、メタルマスクと、第1の金属皮膜層と、第2の金属皮膜層と、撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えたメタルマスクを、スクリーン紗を介して支持枠に貼り付け固定するとともに、前記メタルマスクのスキージ面側又は基板面側と前記支持枠の間を繋ぐ導電性部材を貼り付けたものである。
【0015】
この発明に係るボール配列用マスク版においては、ボール配列用マスクと、第1の金属皮膜層と、第2の金属皮膜層と、撥水・撥油性を有するコーティング層とを備えたボール配列用マスクを、スクリーン紗を介して支持枠に貼り付け固定するとともに、前記ボール配列用マスクのスキージ面側又は基板面側と前記支持枠の間を繋ぐ導電性部材を貼り付けたものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、撥水層の密着性の向上により耐久性を改善し、高撥水によるマスク印刷性の向上、安定化、洗浄性の向上が期待でき、印刷時に発生する静電気を遮断できるメタルマスク、ボール配列用マスク、基材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この発明の実施例1におけるメタルマスクを示す断面図である。
【
図2】この発明の実施例1におけるメタルマスクの製造方法を工程毎に示す断面図である。
【
図3】この発明の実施例2におけるボール配列用マスクを示す断面図である。
【
図4】この発明の実施例2におけるボール配列用マスクの製造方法を工程毎に示す断面図である。
【
図5】この発明の実施例3におけるメタルマスク又はボール配列用マスクを支持枠に取り付けたマスク全体の構造を示すスキージ面側から見た平面図である。
【
図6】この発明の実施例3におけるメタルマスク又はボール配列用マスクを支持枠に取り付けたマスク全体の構造を示す基板面側から見た底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施例1.
図1はこの発明の実施例1におけるメタルマスクを示す断面図、
図2はこの発明の実施例1におけるメタルマスクの製造方法を工程毎に示す断面図である。
【0019】
メタルマスク1は、スクリーン紗(図示せず)を介して又は支持枠(図示せず)に直接貼り付け固定して、スクリーン版として使用されるものである。このメタルマスク1は、
図1に示すように、平板状のSUS等のステンレス鋼材から成り、印刷されるペースト、例えば、電極ペーストを通過させる複数の開口部2がレーザー加工により貫通形成されている。少なくともメタルマスク1の印刷対象となる基板に対向する側の基板対向面の全面に亘って、酸化クロム(CrO)等からなるクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3が、例えば厚さ200~300nmの範囲になるように形成されている。また、第1の金属皮膜層3の上表面には、例えば、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4が、例えば厚さ200~300nmの範囲になるように形成されている。なお、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)は、絶縁体(誘電体)であり、印刷時に発生する静電気を遮断できるので、実装部品等の静電気破壊を抑制することができる。さらに、第2の金属皮膜層4の上表面には、例えば、フッ素含有シランカップリング剤から成る撥水・撥油性を有するコーティング層5が、例えば厚さ20~50nmの範囲になるように形成されている。酸化クロム(CrO)等からなるクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3は、硬度800~1000HVであるため、マスク表面のダメージの軽減、耐久性の向上に寄与することができる。また、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4は、絶縁効果があり、基板への通電防止効果が期待できる。さらに、フッ素含有シランカップリング剤から成る撥水・撥油性を有するコーティング層5は、クロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3及びニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4との組み合わせにより、マスク印刷性の向上、安定化、洗浄性の向上も期待できる。
【0020】
次に、この発明のメタルマスクの製造方法について
図2により説明する。
先ず、SUS等のステンレス鋼材から成る薄い平板状のメタルマスク基材1aを用意する(
図2a参照)。次に、メタルマスク基材1aに、複数の開口部2をレーザー加工により貫通形成するとともに、レーザー加工により発生した開口部内面や開口部エッジのドロスやバリを電解研磨処理又は化学研磨処理を用いて除去する(
図2b参照)。図示しないが、複数の開口部2をレーザー加工により貫通形成するとともに、電解研磨処理又は化学研磨処理を行った後のメタルマスク基材1aは、真空雰囲気にて所定のガス圧・流量のスパッタガス(アルゴンガス等)が導入された電子ビーム加熱方式のPVD蒸着装置に設置される。その際、レーザー加工後の複数枚のメタルマスク基材1aを複数枚セットしても良く、複数枚のメタルマスク基材1aの金属蒸着処理工程を一度に行うことができるので効率的となる。次に、酸化クロム(CrO)等からなるクロム(Cr)を主体とした金属を蒸着することにより、メタルマスク基材1aの表面全面に亘って、クロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3が、例えば厚さ200~300nmの範囲になるように形成される(
図2c参照)。そして、電子ビーム加熱方式のPVD蒸着装置内において、例えば、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした金属を蒸着することにより、クロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3の表面全面に亘って、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4が、例えば厚さ200~300nmの範囲になるように形成される(
図2d参照)。次に、抵抗加熱方式により、フッ素含有シランカップリング剤から成る撥水・撥油性を有するコーティング層5を蒸着し、第2の金属皮膜層4の表面全面に亘って、例えば厚さ20~50nmの範囲になるように形成する(
図2e参照)。なお、第1の金属皮膜層3及び第2の金属皮膜層4が形成されたメタルマスク基材1aを取り出した後、フッ素含有シランカップリング剤から成る撥水・撥油性を有するコーティング層5を、不織布等の布、スポンジ、刷毛等の塗布用具を用いて第2の金属皮膜層4の表面全面に亘って、例えば厚さ20~50nmの範囲になるように形成しても良い(
図2e参照)。
以上のように、
図2a~
図2eに示す製造工程を経て、
図1に示すメタルマスク1が完成する。なお、
図1及び
図2では、酸化クロム(CrO)等からなるクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3と、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4と、フッ素含有シランカップリング剤から成る撥水・撥油性を有するコーティング層5とを、少なくとも基板対向面の全面に亘って形成した場合について示しているが、電極ペーストを通過させる複数の開口部2の内壁面にも形成しても良い。さらに、メタルマスク基材1aの蒸着処理範囲を基板サイズより広範囲(例えば基板サイズ+片側5mm以上)としても良いし、基板側に静電気対策として表面積を少なくする凹凸を形成しても良い。
【0021】
実施例2.
図3はこの発明の実施例1におけるボール配列用マスクを示す断面図、
図4はこの発明の実施例1におけるボール配列用マスクの製造方法を工程毎に示す断面図である。
【0022】
ボール配列用マスク6は、スクリーン紗(図示せず)を介して又は支持枠(図示せず)に直接貼り付け固定して、導電性ボールの配列用マスク版として使用されるものである。このボール配列用マスク6は、
図3に示すように、ニッケル等のメッキにより平板状に形成されており、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部7と、導電性ボールが振り込まれる側ではなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面のボール挿通用開口部7の周辺に部分的に突出され、基板との間に隙間を形成するための突起8を備えている。なお、この突起8は、互いに分離独立して多数点在する円柱状突起や周縁エッジ部が丸味を持ったR形状の突起等であっても良い。少なくとも配列用マスク6の基板に対向する側の基板対向面の全面に亘って、酸化クロム(CrO)等からなるクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3が、例えば厚さ200~300nmの範囲になるように形成されている。また、第1の金属皮膜層3の上表面には、例えば、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4が、例えば厚さ200~300nmの範囲になるように形成されている。なお、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)は、絶縁体(誘電体)であり、印刷時に発生する静電気を遮断できるので、実装部品等の静電気破壊を抑制することができる。さらに、第2の金属皮膜層4の上表面には、例えば、フッ素含有シランカップリング剤から成る撥水・撥油性を有するコーティング層5が、例えば厚さ20~50nmの範囲になるように形成されている。酸化クロム(CrO)等からなるクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3は、硬度800~1000HVであるため、マスク表面のダメージの軽減、耐久性の向上に寄与することができる。また、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4は、絶縁効果があり、基板への通電防止効果が期待できる。さらに、フッ素含有シランカップリング剤から成る撥水・撥油性を有するコーティング層5は、クロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3及びニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4との組み合わせにより、マスク印刷性の向上、安定化、洗浄性の向上も期待できる。
【0023】
次に、この発明のボール配列用マスクの製造方法について
図4により説明する。
先ず、ニッケル等のメッキにより平板状のボール配列用マスク基材6aを薄くなるように形成する。このボール配列用マスク基材6aは、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部7と、導電性ボールが振り込まれる側ではなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面のボール挿通用開口部7の周辺に部分的に突出され、基板との間に隙間を形成するための突起8を備えている(
図4a参照)。なお、この突起8は、互いに分離独立して多数点在する円柱状突起や周縁エッジ部が丸味を持ったR形状の突起等であっても良い。図示しないが、複数のボール挿通用開口部7と、導電性ボールが振り込まれる側ではなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面のボール挿通用開口部7の周辺に部分的に突出され、基板との間に隙間を形成するための突起8を備えたボール配列用マスク基材6aは、真空雰囲気にて所定のガス圧・流量のスパッタガス(アルゴンガス等)が導入された電子ビーム加熱方式のPVD蒸着装置に設置される。その際、複数枚のボール配列用マスク基材6aを複数枚セットしても良く、複数枚のボール配列用マスク基材6aの金属蒸着処理工程を一度に行うことができるので効率的となる。次に、酸化クロム(CrO)等からなるクロム(Cr)を主体とした金属を蒸着することにより、ボール配列用マスク基材6aの表面全面に亘って、クロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3が、例えば厚さ200~300nmの範囲になるように形成される(
図4b参照)。そして、電子ビーム加熱方式のPVD蒸着装置内において、例えば、5酸化ニオブ(Nb2O5)を主体とした金属を蒸着することにより、クロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3の表面全面に亘って、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4が、例えば厚さ200~300nmの範囲になるように形成される(
図4c参照)。次に、抵抗加熱方式により、フッ素含有シランカップリング剤から成る撥水・撥油性を有するコーティング層5を蒸着し、第2の金属皮膜層4の表面全面に亘って、例えば厚さ20~50nmの範囲になるように形成する(
図4d参照)。なお、第1の金属皮膜層3及び第2の金属皮膜層4が形成されたボール配列用マスク基材6aを取り出した後、フッ素含有シランカップリング剤から成る撥水・撥油性を有するコーティング層5を、不織布等の布、スポンジ、刷毛等の塗布用具を用いて第2の金属皮膜層4の表面全面に亘って、例えば厚さ20~50nmの範囲になるように形成しても良い(
図4d参照)。
以上のように、
図4a~
図4dに示す製造工程を経て、
図3に示すボール配列用マスク6が完成する。なお、
図3及び
図4では、酸化クロム(CrO)等からなるクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3と、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4と、フッ素含有シランカップリング剤から成る撥水・撥油性を有するコーティング層5とを、少なくとも基板対向面の全面に亘って形成した場合について示しているが、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部7の内壁面にも形成しても良い。さらに、ボール配列用マスク基材6aの蒸着処理範囲を基板サイズより広範囲(例えば基板サイズ+片側5mm以上)としても良いし、基板側に静電気対策として表面積を少なくする凹凸を形成しても良い。
【0024】
実施例3.
図5はこの発明の実施例3におけるメタルマスク又はボール配列用マスクを支持枠に取り付けたマスク全体の構造を示すスキージ面側から見た平面図、
図6は同じく基板面側から見た底面図である。
【0025】
この発明の実施例3においては、
図1に示す構造と同一構造のメタルマスク1又は
図3に示す構造と同一のボール配列用マスク6を、スクリーン紗9を介して支持枠10に貼り付け固定して、メタルマスク全体又はボール配列用マスク全体として使用されるものである。このメタルマスク1は、
図1に示す構造と同一構造であり、平板状のSUS等のステンレス鋼材から成り、印刷されるペースト、例えば、電極ペーストを通過させる複数の開口部2がレーザー加工により貫通形成された開口パターン領域11が形成されている。また、ボール配列用マスク6は、
図3に示す構造と同一構造であり、ニッケル等のメッキにより平板状に形成されており、導電性ボールが挿通する複数のボール挿通用開口部7が貫通形成された開口パターン領域11と、導電性ボールが振り込まれる側ではなく基板の電極と対向する側となるマスク裏面のボール挿通用開口部7の周辺に部分的に突出され、基板との間に隙間を形成するための突起8を備えている。そして、この実施例3では、静電気を遮断できる5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4をコーティングするだけではなく、メタルマスク1又はボール配列用マスク6のスキージ面側及び基板面側と、支持枠10との間を繋ぐ導電性テープ等からなる導電性部材12をそれぞれ貼り付けたものである。また、
図6に示すように、導電性テープ等からなる導電性部材12の一端部は、メタルマスク1又はボール配列用マスク6の基板面側に形成されたコーティング層5の一部と重なるようになっている。これにより、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4だけの場合に比べて、絶縁効果が増大し、基板への通電防止効果がさらに期待できる。なお、メタルマスク1又はボール配列用マスク6の外周縁部から内側20μm位は、撥水・撥油性を有するコーティング層5を形成していない。
【0026】
実施例4.
上記実施例1はメタルマスクに適用した場合、実施例2はボール配列用マスクに適用した場合について説明したが、この発明は、メタルマスク及びボール配列用マスクに限らず、他の基材にも適用することが可能である。すなわち、基材の表面に酸化クロム(CrO)等からなるクロム(Cr)を主体とした第1の金属皮膜層3を形成し、第1の金属皮膜層3の上表面には、例えば、5酸化ニオブ(Nb2O5)等からなるニオブ(Nb)を主体とした第2の金属皮膜層4を形成し、さらに、第2の金属皮膜層4の上表面には、例えば、フッ素含有シランカップリング剤から成る撥水・撥油性を有するコーティング層5を形成する。
【0027】
なお、上記基材としては、例えば、金型、基板搬送治具、基板サポート治具、メタルスキージ、メタルメッシュ、メタルスクリーン版、スクリーン乳剤版等が挙げられる。
【符号の説明】
【0028】
1 メタルマスク
1a メタルマスク基材
2 複数の開口部
3 第1の金属皮膜層
4 第2の金属皮膜層
5 コーティング層
6 ボール配列用マスク
6a ボール配列用マスク基材
7 複数のボール挿通用開口部
8 突起
9 スクリーン紗
10 支持枠
11 開口パターン領域
12 導電性部材