(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】バケットの掴み制御方法
(51)【国際特許分類】
B66C 13/32 20060101AFI20240123BHJP
【FI】
B66C13/32 D
(21)【出願番号】P 2021034955
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504005781
【氏名又は名称】株式会社日立プラントメカニクス
(74)【代理人】
【識別番号】100102211
【氏名又は名称】森 治
(72)【発明者】
【氏名】岸本 至康
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-101394(JP,A)
【文献】特開平1-139497(JP,A)
【文献】特開平1-110496(JP,A)
【文献】特開2016-166096(JP,A)
【文献】特開2014-156340(JP,A)
【文献】実開昭55-109675(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/333232(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複索ロープ式バケット付きクレーンの掴み制御方法あって、支持モータを低トルクで巻上げ方向にトルクを発生させ支持ロープの弛みを取りながらバケットを自重で沈ませ、同時に開閉ロープを巻き上げてバケットを閉じることで掴みを行う方式の掴み制御方式において、
支持モータの低トルク特性として、
支持ロープが繰り出す方向に支持モータが回転している時は支持モータの巻取り方向への低トルクの値を大きく設定し、且つ支持ロープが繰り出す方向への支持モータの回転速度が速くなるにつれて支持モータの巻取り方向への低トルクを大きくする特性を有し、
支持ロープが巻き取られる方向に支持モータが回転している時は支持モータの巻取り方向への低トルクの値を小さく設定し、且つ支持モータが巻き取られる方向への支持モータの回転速度が速くなるにつれて支持モータの巻取り方向への低トルクを小さくする特性を有する
ことを特徴とするバケットの掴み制御方法。
【請求項2】
掴み操作をした時の支持ロープの位置から支持ロープが一定量繰り出した時、支持ロープが繰り出した量に応じて支持モータの低トルクの値を大きくするようにすることを特徴とする請求項1に記載のバケットの掴み制御方法。
【請求項3】
バケットが着床した時の支持ロープの位置から支持ロープが一定量繰り出した時、支持ロープが繰り出した量に応じて支持モータの低トルクの値を大きくするようにすることを特徴とする請求項1に記載のバケットの掴み制御方法。
【請求項4】
バケットが着床していないことをロードセルで検出した時、掴み操作を受け付けないようにすることを特徴とする請求項1に記載のバケットの掴み制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの巻上げ装置が支持装置と開閉装置の2つの独立した巻取装置で構成され、そこから吊り下げられた支持ロープと開閉ロープの2種類のロープにより動かされる複索ロープ式バケット(本明細書において、単に、「バケット」という場合がある。)を装備したクレーンにおいて、該バケットの掴み動作を行うための制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バケットの掴み動作を行う場合、多くのバラ物荷役物(ごみ、灰、粉塵、セメント、その他粉粒体等)を掴むためにバケットを自重でバラ物荷役物の中に沈み込ませながら掴みを行う方法(本明細書において、単に、「沈み掴み制御方法」という。)がある。
この沈み掴み制御方法は、支持モータにはロープの弛みを取るだけの低いトルクで巻上げ方向にトルクを発生し続けた状態を維持しつつ、開閉モータはモータトルクを出して巻上げ方向に巻き上げることにより行われる。
そして、支持ロープが弛んでいる時は、支持ロープを巻き取り、支持ロープが張るとバケットの自重による引っ張りに支持モータの低トルクが負けて支持ロープが繰り出し、バラ物荷役物の上にバケットの自重が掛かり、バケットの爪が食い込み沈み込みながら掴み動作を行う。
この沈み掴み制御方法により、より多くのバラ物荷役物をバケットの中に収納できることができ、所定の掴み量を確保することができる。
【0003】
沈み掴み動作を行う他の方法としては、支持モータのトルクを落とさずに開閉の位置に応じて低速で巻き下げたり巻き上げたりする方法があるが、この方法は、掴み始めのロープの弛み状態や沈み量が一定の画一的条件での掴み方である必要があり、掴み始めのロープの弛み状態や、沈み量に関係せず多くの量を掴める低トルクによる沈み掴み制御方法は優位な利点がある。
しかしながら、支持モータを低トルクにする沈み掴みの方法は、バケットが宙吊り状態の時に誤って掴み操作をするとバケットが失速落下したり、斜面の所を掴もうとした時にバケットが転倒したり、弛んだ支持ロープの巻取りに時間がかかるなどの点で改善の必要性があった。
【0004】
この問題に対処するために、例えば、特許文献1においては、斜面の所を掴もうとした時のバケットの転倒を防止する方法として、支持ロープの繰り出し量が一定量を超えると支持ブレーキを閉じる方法について記載されているが、ブレーキを閉じた後の弛み取りができないので、この方法には支持ロープの弛みが残るという課題が残っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、バケットの沈み掴みの動作をさせるために、支持モータを単純に低トルクにして支持ロープの弛み取りを行う従来の制御方式では、バケットが宙吊り状態の場合に誤って掴み操作をしてしまうと、支持の巻取りトルクが弱いのでバケットを失速落下させてしまう課題や、バラ物荷役物の堆積状態が斜面になっている場所を掴もうとした場合に、支持ロープの踏ん張りが無くバケットが転倒しやすい課題があった。
【0007】
斜面になっている場所を掴もうとした場合のバケットが転倒しやすい課題については、特許文献1において、支持ロープの繰り出し量が一定量を超えると支持ブレーキを閉じる方法について記載されているが、ブレーキを閉じた後の弛み取りができないので、支持ロープの弛みが残る課題が残っていた。
【0008】
更に、従来の支持モータのトルクを単純に低トルクにする従来の方法では、バケットが沈んだ時に支持ロープの繰り出し方向に支持モータを回転させるが、この時、支持モータや支持ブレーキの回転部分に支持ロープの繰り出し方向に慣性力が発生するが、支持モータのトルクが低トルクで、慣性力に対する抗力が小さいため慣性力による回転を止めるのに時間がかかり、その間に支持ロープが余分に繰り出してしまう。
このように、余分に支持ロープが繰り出し、それを巻き取るために余分な時間がかかる課題があった。
【0009】
本発明は、複索ロープ式バケットの沈み掴み制御において、支持モータの低トルク制御を行うことによって生じていたバケットの失速落下やバケットの転倒の課題を解消するとともに、支持ロープの弛み取り時間が長くなる課題を解消する沈み掴み制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のバケットの掴み制御方法は、複索ロープ式バケット付きクレーンの掴み制御方法あって、支持モータを低トルクで巻上げ方向にトルクを発生させ支持ロープの弛みを取りながらバケットを自重で沈ませ、同時に開閉ロープを巻き上げてバケットを閉じることで掴みを行う方式の掴み制御方式において、支持モータの低トルク特性として、支持ロープが繰り出す方向に支持モータが回転している時は支持モータの巻取り方向への低トルクの値を大きく設定し、且つ支持ロープが繰り出す方向への支持モータの回転速度が速くなるにつれて支持モータの巻取り方向への低トルクを大きくする特性を有し、支持ロープが巻き取られる方向に支持モータが回転している時は支持モータの巻取り方向への低トルクの値を小さく設定し、且つ支持モータが巻き取られる方向への支持モータの回転速度が速くなるにつれて支持モータの巻取り方向への低トルクを小さくする特性を有することを特徴とする。
【0011】
これにより、支持モータのトルク発生方向に反して支持ロープが繰り出し方向に動作している時は支持モータの巻取り方向への発生トルクを大きくし、更に支持ロープの繰り出し速度が速くなるにつれて支持モータの巻取り方向への発生トルクを大きくする。これにより、バケットが失速したり転倒したりしようとする力や、モータやブレーキの回転部分が有する慣性力で回り続けようとする力に対し抗力を発揮し、バケットが失速状態や転倒状態になろうとする負荷力に対し速度の増速を抑制したり、回転部分の慣性力をつき難くし、且つ支持ロープの繰り出し方向についた慣性力を素早く減速させ支持ロープが弛みすぎないようにする。
また、支持ロープが巻取方向に回転している時には支持モータのトルクを小さくし、支持ロープの弛みのみを巻き取り、バケットを持ち上げる力を発生しないようにする。更に巻取り速度が速くなるにつれてトルクを小さくすることで、支持モータの巻取り方向の回転が速くなりすぎるのを抑え、支持ロープが張った時にモータやブレーキの回転部分の慣性力でバケットを持ち上げる力が生じないようにする。
【0012】
更に、掴み操作をした時点の支持ロープの位置を記憶し、その時の位置から支持ロープが繰り出した量に応じて支持モータの低トルクの値を大きくするようにすることで、失速状態になることを防止する。この時、掴み操作を行った高さ位置から一定量下がったところで、支持モータがバケットを持ち上げようとするトルクが、バケットが落下しようとす
る負荷と均衡しバケットの落下を停止させることができる。
また、バケットが着床したと検出した時点の支持ロープ位置を記憶し、その時の位置から支持ロープが一定量繰り出した地点より支持ロープが繰り出し量に応じて支持モータのトルクを大きくすることで、斜面で掴みの動作を行ってもバケットが斜めに傾きながら掴みの動作をし、掴み終わりにバケットの傾きも修正動作され、且つ支持ロープに発生した弛みを取ってから掴みを完了することができる。
【0013】
そして、これらの支持モータのトルク制御方法に加え、ロードセル式の荷重計で着床を検出する方式の場合、ロードセルが着床を検出していない時には、支持モータを動かさず支持ブレーキを閉じた停止状態にし、開閉のみを動作させることで、バケットを掴み動作ではなく閉じ動作とし、失速を防止する安全装置として機能させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のバケットの掴み制御方法によれば、より多くの量を掴める支持モータの低トルクによる沈み掴み制御の性能を維持しつつ、バケットの失速や転倒の課題を解決し、更に支持ロープの弛み取りを迅速に行い、掴みの動作時間を短くすることを実現し、より安全で安定した使いやすい複索ロープ式バケット付きクレーンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】複索ロープ式バケットを制御するクレーンの巻取装置の平面図である。
【
図3】複索ロープ式バケットの開閉ロープの説明図である。
【
図4】支持モータの低トルク制御による沈み掴み制御の説明図である。
【
図5】傾斜面に着床した時の転倒状況の説明図である。
【
図7】支持モータのトルク特性を発生させる速度制御系の制御ブロック図である。
【
図8】支持ロープの繰り出し量に対する支持モータのトルク発生量を変化させるための特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のバケットの掴み制御方法について、図面に基づいて説明する。
【0017】
図1に複索ロープ式バケットを動作させるクレーンの巻取装置の平面図を示す。
速度検出器PG付きの支持モータHMは、ブレーキBR及び減速機GRを介して支持ドラムHDに接続され支持ドラムHDには支持ロープHWが巻きつけられている。
そして、支持ロープHWに掛かる荷重を捉える部分(例えば、支持ドラムHDの軸受部。)にはロードセルLCが取り付けられ、支持ドラムの軸には支持位置検出器HPが取り付けられている。
開閉装置も支持装置と同じ構成で夫々が独立して配置されており、速度検出器PG付きの開閉モータGMからブレーキBR及び減速機GRを介して開閉ドラムGDに接続され開閉ドラムGDには開閉ロープGWが巻きつけられている。そしてロードセルLCや開閉位置検出器GPが取り付けられている。
【0018】
図2に複索ロープ式バケットの構造を、
図3に複索ロープ式バケットの開閉ロープ部分を示す。
支持ロープHWは上シーブボックスHBに固定され、バケット全体を支えている。上シーブボックスには、ピンでのリンク構造の取り合いで連結ロッドが接続され、シェルCLに接続されている。シェル同士は下シーブボックスBBでリンク接続されている。そして、シェルの先端には爪TAが取り付けられている。
ここで、開閉ロープGWは下シーブボックスBB内の下シーブピンBSに取り付けられ
たシーブSHと上シーブボックス内の上シーブピンHSに取り付けられたシーブSHを介して複数回(
図3の図示は4本掛け)掛けられて、開閉ロープGWの末端はコッターシーブCSで上シーブピンHSに固定されている。
【0019】
バケットGBの動作は、開、閉、掴み、巻上げ及び巻下げの5つの動作を、支持ロープと開閉ロープの動きで動作させる。
開動作は、支持ロープHWを停止した状態で、開閉ロープGWを巻き下げると開動作になる。
閉動作は、支持ロープHWを停止した状態で、開閉ロープGWを巻き上げると閉動作になる。この支持ロープHWを停止して開閉ロープを巻き上げる閉じ動作では、支持が踏ん張っているのでバケットGBが掴むことができないので閉じ動作とは別に掴み(沈み掴み)動作が必要となる。
掴み動作は、支持モータHMの発生トルクを支持ロープHWを巻き取るだけの弱いトルク(本明細書において、「低トルク」という。)で巻上げ方向にトルクを発生させ続けている状態を維持し、開閉ロープは巻上げを行う。この時、支持モータHMはバケットGBの自重による引っ張り力に負けて巻下げ方向に動き、バケットGBの自重でバケットGBが沈み込みながら閉じを行う沈み掴み動作になる。
巻上げ動作は、支持ロープHWと開閉ロープGWを同時に等速で巻き上げると巻上げ動作となる。
巻下動作は、支持ロープHWと開閉ロープGWを同時に等速で巻下げると巻下動作となる。
【0020】
図3に示す開閉ロープの構造において、バケットGBが開端の状態から閉端の状態になる間に下シーブボックスBBが動くストロークが1.25mの場合で、シーブSH間の掛け数が4本掛けであった場合には、バケットGBが開端状態から閉端状態になる間にバケット内から出てくる開閉ロープGWの長さは5m(1.25m×4本)の長さになる。
バケットGBは、閉端状態でシェル同士が拘束すると、閉じ方向の開閉動作がロック状態になり、開閉ロープGWがバケットの重量を支えることが可能な状態になるが、閉端状態でない場合には、開閉ロープが巻上げ方向に力を発生しようとしてもバケットGBが閉方向に動くことで開閉ロープの力が抜けてしまい、5mのバケット内の開閉ロープGWが出尽くすまでは、開閉ロープGWにバケットGBを支えて踏ん張る力が出ない。
この複索ロープ式バケットの構造において、開閉ロープに踏ん張り力が出ないバケットGBが開いた状態で、且つ支持モータHMが低トルクになる掴み動作は、バケットGBを吊る全てのロープに踏ん張り力が無く、バケットを宙吊りの状態で掴み操作を行うと失速落下し、斜面で掴もうとした場合は転倒する問題があり、本発明ではそれの解消を行っている。
【0021】
支持モータの低トルク制御による沈み掴み制御について、通常の掴み動作について
図4に沿って説明する。
支持ロープHWと開閉ロープGWを巻下げDWの方向に動作し、バラ物荷役物HOの上にバケットGBの自重で爪TAを食い込ませてバケットGBを着床停止する。この時、手動運転の場合は、運転士が支持ロープHW及び開閉ロープGWの弛みが出たことを目視で確認して巻下げ制御器を切るので、通常は
図4の(1)に示すように、支持ロープHW及び開閉ロープGWが大きく弛んだ状態で着床停止する。
続いて沈み掴みの操作を行うと、
図4の(2)に示すように、開閉ロープGWは高速で巻上げを行い、支持ロープHWは低トルク巻取りLUの状態でゆっくりと着床停止時に生じた弛みの巻取りを行う。
開閉ロープGWを更に巻き上げると開閉ロープGWの弛みが取れた時点から、
図4の(3)に示すとおり、バケットが閉じていく。そして、バケットが閉じるにつれてバケット全体が自重で下がっていく。
更に掴み動作の時間が経過すると
図4の(4)に示すとおり、支持の低トルク巻上げで支持の弛みが取れ、バケットが自重で沈み込んだ分だけ、支持ロープHWがバケットの自重に引っ張られて支持ロープHWが低トルク繰り出しLDの状態になる。この時も、支持モータHMは、低トルクの巻上げ状態を継続している。
続いて
図4の(5)を経て(6)の状態の閉端の状態になるが、閉端になり機械的に閉動作が拘束状態になると開閉ロープGWにバケットGBを持ち上げる力を発生し、開閉ロープGWがバケットGBを持ち上げる。それに相反して支持ロープHWに弛みが生じ、この弛みを支持モータHMの低トルクが巻取りを行い掴みを完了する。
この
図4の(1)から(6)までの一連の複雑な動きを、支持モータHMには低トルクで巻上げ指令を、開閉モータで巻上げ指令を出し続けるだけで良く、この単純な指令で沈み掴み動作ができるのが支持低トルクによる沈み掴み制御の利点である。
【0022】
しかしながら、支持低トルクによる沈み掴み制御を行う際、単純に支持モータのトルクを下げる従来の低トルクでは、バケットが宙吊り状態の場合は失速落下し、斜面に着床行った場合は
図5に示すようにバケットGBが転倒してしまう。これは、支持ロープHWは低トルクで踏ん張りが無く、開閉ロープGWもバケットGB内に入っている開閉ロープGWが(本実施例では5m)繰り出してきて、踏ん張りが無いためである。
【0023】
そこで、支持低トルクによる沈み掴み制御の利点を生かしつつ、バケットGBの失速落下や転倒の問題を解決する支持モータHMのトルク特性図が
図6に示す特性である。
図6の特性図は横軸が支持モータHMの回転速度で、定格回転数に対するパーセンテージで示し、ゼロの地点を境にプラス側が支持モータHMがトルクTを発している方向と同じ方向に支持ロープHWの低トルク巻取りLUを行っている側で、マイナス側が支持モータHMがトルクTを発している方向と逆方向にモータトルクがバケットの自重に負けて低トルク繰り出しLD側に動作していることを示す。
縦軸は、支持モータHMの発生トルクの定格トルクに対するパーセンテージを示し、プラス側が、巻取り方向に発生しているトルクの大きさを示し、マイナス側は巻下げ側に発生しているトルクの大きさを示す。
【0024】
図6の実線で描いたH<1.2mのカーブが掴み操作を行った時の支持モータのトルクの最初の特性である。Hは掴みを開始した地点からの支持ロープが繰り出した量(バケットGBが沈んだ量)であり、支持ロープが繰り出した量Hの値が1.2m以上になるとリニアに点線のカーブの方向にトルクを増大させる。
この時、支持ロープが繰り出した量Hは、ロードセルLCが着床を検出した瞬間又は、制御器等で掴み操作をした瞬間の何れかの支持位置検出器HPの読み取り値の高い位置の方を記憶し、この記憶値から支持位置検出器HPの現在検出値を減算した値を支持ロープが繰り出した量Hの値とする。
【0025】
ここで、支持モータHMのトルクTを増大させる位置を、支持ロープが繰り出した量Hが1.2m以上となった点としているのは、通常の沈み掴みを行った際のバケットGBの沈み量は1.2m以下であるので1.2mの設定になっている。つまり、1.2mを超える場合は、宙吊り状態で沈み掴み操作を行った場合か、斜面で沈み掴みを行ってバケットGBが転倒しようとしている場合の何れかの異常な状態であるので、支持ロープが繰り出した量Hに応じて支持モータHMの低トルクを増大させて失速落下や転倒の動きを止める効果を発揮させている。
【0026】
ここで、支持ロープが繰り出した量Hの1.2mとの値は、バケットの大きさや掴み対象物の種類によって設定値を変更する必要がある。例えば、バケットの大きさが大きい場合は、1.2mの値より大きく、バケットが小さい場合には1.2mの値より小さく、掴む対象物のバラ物荷役物HOが疎であるもの(木片チップや汚泥や可燃ごみなど)で沈み
込みが大きいものは1.2mの値より大きく、掴む対象物のバラ物荷役物HOが密であるもの(粘土や鉱石など)で沈み込みが小さいものは1.2mの値より小さく設定する。
【0027】
図6の実線のカーブは、速度ωがマイナス側(低トルク繰り出し側)になった時は、トルクTの発生量が大きくなり、更に速度ωがマイナス側(低トルク繰り出し側)に早くなるにつれてトルクTの発生量が大きくなるように設定している。
これにより、バケット失速状態やバケット転倒状態になろうとした時に、その速度を低く抑える効果があり、操作を誤ってバケットが宙吊り状態の時に沈み掴みを入れた時も、斜面でバケットが転倒しだした時も、制御器を元の停止位置に戻しても十分に間に合う時間が確保できる。
【0028】
沈み掴み中の支持モータが低トルク状態の時に、バケットが大きく一気に沈み込んだ時、バケットに支持ロープHWが引っ張られて繰り出し方向に高速で動かされると、支持モータやブレーキなどの回転部分に大きな慣性力が発生する。この時、支持モータHMの低トルクが従来の単純な小さいトルクだと、一旦回転部についた慣性力を止める力も弱く、回転を減速させるのに時間がかかり、その間に支持ロープHWが余分に繰り出し続けてしまい、その弛みを巻き取るのに余分な時間がかかっていた。本発明では、
図6に示すとおり、速度ωがマイナス側(低トルク繰り出し側)のトルクを大きくする特性としているので、支持ロープHWが余分に出てしまう現象を抑制し、弛み取り時間を短縮している。
【0029】
図6に示すとおり、速度ωがマイナス側に高速の時は、バケットGBを支える程の大きなトルクTが発生するが、速度ωのマイナス側速度がゼロ速度付近になるとトルクTが小さくなるので、バケットGBの自重がバラ物荷役物HOの上に掛かり、バケットGBが低速で沈み込みながら確りと爪TAが食い込むので掴み量が確保できる。更に速度ωがプラス側(巻取り側)になると更にトルクTが小さくなるので、この時のトルクTには支持ロープを巻き取る程度のトルクしか無いので、バケットGBを持ち上げてしまうことは無い。
【0030】
速度ωがプラス側(巻取り側)に速度を増すと、低い速度のところでトルクTがゼロになり更にその先はマイナストルクとなるように設定している。これにより巻取り側の速度ωは、低速しか出ないようになっている。
もし、巻取りの速度が速くなりすぎると、支持モータHMやブレーキBR等の回転部分の慣性力が大きくなり、支持ロープHWの弛みが取れて張った時に、この巻取方向の慣性力でバケットGBを持ち上げてしまい掴み量が減ってしまう。これを防止するために支持ロープHWの弛み取り時に速度が出ないように
図6の特性としている。
【0031】
バケット開状態で宙吊り状態にある時、制御器を誤って掴み操作をした時の失速防止として、制御器を掴み操作に入れた瞬間の支持位置検出器HPの位置を記憶し、その記憶値からHPの現在検出値を逐次減算した値を支持ロープが繰り出した量Hとして逐次更新する。バケット宙吊り状態で掴み操作をされているので、支持ロープHW及び開閉ロープGW共に踏ん張りが無いので、失速落下状態になりかけるが、先ず
図6の実線の特性で支持モータHMの低トルク特性が支持ロープHWを繰り出し方向に増速するとともに、支持モータHMのトルクTが増大するのでバケットGBの落下速度の増速が抑制され速度が安定する。そして支持ロープHWが1.2m繰り出したところで支持モータHMのトルクが増大しだすとともにし、落下速度が減速しだし、約2m落下したところで支持モータHMのトルクとバケットが重力で引っ張られる力が均衡しバケットの落下が停止する。
【0032】
斜面にバケットを巻下げて着床した時は、ロードセルLCから着床信号が入りその瞬間の支持位置検出器HPの位置を記憶しておく。そして巻下げ停止操作が行われ支持ロープHWと開閉ロープGWが弛みながら
図5のバケット着床時GBBの状態で減速停止する。
従来の低トルク特性であれば、
図5のバケット着床時GBBの状態で掴み操作を始めるとバケットGBのシェルCLが閉じていくにつれてバケット形状の安定感が無くなり、支持ロープHW及び開閉ロープGWに踏ん張り力が無いのでバケットGBが転倒してしまっていた。
【0033】
本発明ではこの状態で掴みを開始した時に、
図6の実線の特性で支持ロープHWの増速を抑制されながらゆっくりとバケットGBが転倒していく。そして前記の着床時に記憶した支持位置検出器HPの位置から支持位置検出器HPを減算した値を支持ロープが繰り出した量Hとし、支持ロープが繰り出した量Hの値が1.2m以上になったところから
図6の点線の特性カーブに移行し支持モータHMのトルクが増大していくことで、バケットGBの転倒により支持ロープが繰り出した量Hが増大することで増えた支持モータの発生トルクとバケットGBが転倒しようとする転倒力とが均衡したところで傾斜が止まり、
図5のバケットずり落ち後GBAの状態でバケットGBが踏ん張り斜めになりながら掴むことができる。
ここで、支持位置検出器HPの読み取り値で、着床した位置の方が掴み操作を開始した位置より高い位置にあるので、掴み操作を開始した位置は無視され、着床した位置からの支持ロープが繰り出した量Hの値で
図6の特性が演算される。
【0034】
このように、斜面でバケット転倒を踏ん張りながら掴みを置かない、閉端付近でバケットGBのシェルCL同士が拘束し、開閉ロープGWに踏ん張り力が出るので、開閉ロープがバケットの転倒を起こしていく。それに相反して支持ロープに弛みが発生する。この時同時に支持ロープが繰り出していた量Hの値も小さくなっていくので、支持モータHMの発生トルクも支持ロープHWを巻き取るだけの小さなトルクに戻っていくので、支持ロープHWの弛みを取るだけの弱いトルクで弛み取りを行うことができる。
この時、開閉ロープGWが停止している状態で支持ロープHWがバケットGBを持ち上げてしまうと、支持ロープHWと開閉ロープGWの相関関係で、バケットが開く方向に動作して、掴んだバラ物荷役物HOを溢すことになるので、掴み終わりで支持モータHMのトルクが支持ロープHWを巻き取るだけの小さいトルクに戻っているのは重要なポイントになる。
【0035】
図6の特性を実現するための速度制御系の制御ブロック図を
図7に示す。この制御ブロック図において、速度目標値ω
*は、
図6のトルクTがゼロの時のωの値が出力される。そして速度検出器PGで検出された実際に出力されている速度ωの値を速度目標値ω
*から減算し、自動速度設定器ASRで
図6のグラフの傾きの比例特性PCの傾きで演算され、リミッターLMを経てトルク目標値T
*が生成される。
【0036】
支持ロープが繰り出した量Hの値に対するトルクTの変化は、支持ロープが繰り出した量Hの値に対する速度目標値ω
*を
図8に示すように変化させることで、
図6に示すような支持ロープが繰り出した量Hが1.2m以上になったところからトルクTが増大し点線のカーブの方向にリニアに変化させることができる。
【0037】
これまで、支持ロープが繰り出した量Hを検出する方法として、支持位置検出器HPを用いた方法で記載をしたが、速度検出器PGにはパルスエンコーダーが用いられている場合が多く、支持モータHMに取り付けられている速度検出器PGのパルスカウントで支持ロープが繰り出した量Hを算出することも可能で、支持位置検出器HPを省略することもできる。
【0038】
また、着床を検出する方法として、ロードセルLCの荷重検出値でバケットGBの荷重が無くなることで検出する方法で記載したが、支持モータHMの制御装置でバケット巻下げ時にマイナストルクを大きく出力する状態(回生トルク状態)から支持モータHMトル
クがゼロ付近に変化する地点を捉えて着床と認識する方法や、支持モータの電力を見て回生電力状態からゼロ付近に変化する地点を捉えて着床と認識する方法などがあり、ロードセルLCの装備を省略することもできる。
【0039】
ここで、ロードセルLCの荷重検出値でバケットGBの荷重が検出された場合は、バケットは宙吊り状態であるので、沈み掴み操作を受け付けず支持モータHMを停止状態とし、支持のブレーキBRを開放しないようにインターロックを取ることで、開閉モータのみを動かす方法を取り、バケットGBの失速落下は防ぎ宙吊り状態でのバケット閉じ操作とすることができる。
しかしながら、モータトルクや電力で着床を検出する方法の場合や、ロードセルLCの校正不備や故障を生じていた場合には、確実な沈み掴みに対するインターロックが取れないので、支持モータHMが繰り出し方向の場合に支持モータのトルクを大きくする方法や、沈み掴み操作をした位置から支持ロープが繰り出した量Hで支持モータHMのトルクTを回復させる方法が有効に働く。
【0040】
以上、本発明のバケットの掴み制御方法について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のバケットの掴み制御方法は、多くのバラ物荷役物をバケット内に収納し多くの掴み量を確保できる支持モータの低トルクによる沈み掴み制御の利点を生かしつつ、支持モータを低トルクにすることによって発生していた、バケットの失速落下や、バケットの転倒や、支持ロープが必要以上に繰り出し、弛み取りに時間がかかる問題を解決し、安全で運転しやすい複索ロープ式バケット付きクレーンで好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
CR クレーン
HD 支持ドラム
GD 開閉ドラム
HM 支持モータ
GM 開閉モータ
BR ブレーキ
GR 減速機
LC ロードセル
HP 支持位置検出器
GP 開閉位置検出器
PG 速度検出器
HW 支持ロープ
GW 開閉ロープ
GB バケット
HB 上シーブボックス
LL 連結ロッド
CL シェル
TA 爪
BB 下シーブボックス
HS 上シーブピン
BS 下シーブピン
SH 開閉シーブ
CS コッターシーブ
HO バラ物荷役物
DW 巻下げ(繰り出し)
UP 巻上げ(巻取り)
LU 低トルク巻取り
LD 低トルク繰り出し
PT ピット
GBB バケット着床時
GBA バケットずり落ち後
H 支持ロープが繰り出した量
ω 速度
ω* 速度目標値
T トルク
T* トルク目標値
ASR 自動速度設定器
PC 比例特性
LM リミッター