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特許7423888脂質二分子膜染色用色素及びそれを用いた脂質二分子膜の染色方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】脂質二分子膜染色用色素及びそれを用いた脂質二分子膜の染色方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/78 20060101AFI20240123BHJP
   C09B 23/00 20060101ALI20240123BHJP
   C09B 23/06 20060101ALI20240123BHJP
   C09B 23/10 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
G01N21/78 C
C09B23/00 CSP
C09B23/06
C09B23/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019211329
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021080416
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】590005081
【氏名又は名称】株式会社同仁化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100139262
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 和昭
(72)【発明者】
【氏名】下村 隆
(72)【発明者】
【氏名】清野 涼
(72)【発明者】
【氏名】村井 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】北村 怜奈
(72)【発明者】
【氏名】江副 公俊
(72)【発明者】
【氏名】石山 宗孝
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-161480(JP,A)
【文献】特表2003-501540(JP,A)
【文献】特表平8-502719(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106053405(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103030989(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0230466(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0197916(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0330973(US,A1)
【文献】SATO, shin-ichi et al.,Live-cell imaging endogenous mRNAs with a small molecule,Angewandte Chemie International edition,2015年,Vol.54, No.6,,p.1855-1858
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B
G01N 21/78
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表される脂質二分子膜染色用色素。
【化1】
上記一般式(I)において、
Xは、酸素、イオウ、セレン又は式-CR11 -(R11は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。)で表される原子又は原子団であり、
nは、1又は2の自然数であり、
は、炭素数1~12のアルキレン基であり、
は、式(CHCHO)(mは、1~10の自然数である。)で表されるポリオキシエチレン基を含む原子団であり、
は、炭素数6~20のアルキル基であり、
、L及びLは、それぞれ独立して、エステル結合(-CO-O-)、アミド結合(-CO-NH-)、ウレタン結合(-NH-CO-O-)及び尿素結合(-NH-CO-NH-)からなる群より選択される結合基であり、
qは1~5の自然数である。
【請求項2】
前記脂質二分子膜が、細胞膜又は細胞膜に由来する脂質二分子膜であることを特徴とする請求項1に記載の脂質二分子膜染色用色素。
【請求項3】
前記脂質二分子膜が細胞外小胞膜又はエキソソーム膜であることを特徴とする請求項2に記載の脂質二分子膜染色用色素。
【請求項4】
上記一般式(I)中のXが、酸素又は式-C(CH-で表される原子団であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の脂質二分子膜染色用色素。
【請求項5】
上記一般式(I)中のL、L及びLがアミド結合であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の脂質二分子膜染色用色素。
【請求項6】
下記の式9、15及び20のいずれか1つで表されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の脂質二分子膜染色用色素。
【化2】
【化3】
【化4】
【請求項7】
脂質二分子膜を含む試料溶液を準備する工程と、
下記の一般式(I)で表される脂質二分子膜染色用色素及び/又はそれを含む染色用組成物を準備する工程と、
前記脂質二分子膜染色用色素又は前記染色用組成物を前記試料溶液に添加し、前記脂質二分子膜を染色する工程を含む脂質二分子膜の染色方法。
【化5】
上記一般式(I)において、
Xは、酸素、イオウ、セレン又は式-CR11 -(R11は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。)で表される原子又は原子団であり、
nは、1又は2の自然数であり、
は、炭素数1~12のアルキレン基であり、
は、式(CHCHO)(mは、1~10の自然数である。)で表されるポリオキシエチレン基を含む原子団であり、
は、炭素数6~20のアルキル基であり、
、L及びLは、それぞれ独立して、エステル結合(-CO-O-)、アミド結合(-CO-NH-)、ウレタン結合(-NH-CO-O-)及び尿素結合(-NH-CO-NH-)からなる群より選択される結合基であり、
qは1~5の自然数である。
【請求項8】
前記脂質二分子膜が、細胞膜又は細胞膜に由来する脂質二分子膜であることを特徴とする請求項7に記載の脂質二分子膜の染色方法。
【請求項9】
前記脂質二分子膜が細胞外小胞膜又はエキソソーム膜であることを特徴とする請求項8に記載の脂質二分子膜の染色方法。
【請求項10】
上記一般式(I)中のXが、酸素又は式-C(CH-で表される原子団であることを特徴とする請求項7から9のいずれか1項に記載の脂質二分子膜の染色方法。
【請求項11】
上記一般式(I)中のL、L及びLがアミド結合であることを特徴とする請求項7から10のいずれか1項に記載の脂質二分子膜の染色方法。
【請求項12】
前記脂質二分子膜染色用色素が、下記の式9、15及び20のいずれか1つで表されるものであることを特徴とする請求項7から11のいずれか1項に記載の脂質二分子膜の染色方法。
【化6】
【化7】
【化8】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な脂質二分子膜染色用色素及びそれを用いた脂質二分子膜の染色方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1983年に、脂質二分子膜からなる直径100nm程度の小胞が網状赤血球から分泌されることが発見され、エキソソーム(Exosome)と名付けられた(非特許文献1参照)。エキソソームの発見と前後して、様々な細胞が大きさ等の異なる膜小胞を分泌していることが発見され、様々な名称で呼称されているが、小胞の国際的な研究学会である国際細胞外小胞協会(International Society for Extracellular Vesicles(ISEV))は、これら細胞から分泌される小胞の総称として、細胞外小胞(extracellular vesicle)の使用を推奨している。エキソソームを始めとする細胞外小胞は、細胞間を移動しながら種々の生理活性物質を輸送していることが明らかにされつつある。多細胞生物において、細胞間の相互作用は多彩な生命活動に関与しており、その破綻は各種疾患につながることから、細胞外小胞の関与する細胞間相互作用の解明は、多彩な生命活動の背後に存在する分子機構の理解及び各種疾患の病態の理解、新たな診断法及び治療法の開発等につながることが期待されている。
【0003】
エキソソームを始めとする細胞外小胞の形成及び分泌経路の研究のためには、細胞外小胞の脂質二分子膜を染色するための色素が必要である。従来用いられているエキソソームの蛍光染色用の色素としては、例えば、下記の式で表されるものが知られている(特許文献1、2参照)。
【0004】
【化1】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第5665328号明細書
【文献】米国特許第8894976号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Johnstone, R. M., Adam, M., Hammond, J. R. et al.: Vesicle formation during reticulocyte maturation. Association of plasma membrane activities with released vesicles (exosomes). J. Biol. Chem., 262, 9412-9420 (1987)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の式で表される蛍光色素は、エキソソーム等の膜の染色に使用した場合、粒子を形成してエキソソームを肥大化させ、その性質を変化させるおそれがあるという問題が指摘されていると共に、粒子が小胞の内部に移行しバックグラウンド発光を生じさせるため、感度が低下するという問題が指摘されている。
【0008】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、脂質二分子膜に対する滞留性が高く、細胞外小胞の染色に用いる場合にも、粒子サイズ等を変化させることなく高感度での蛍光測定を可能にする脂質二分子膜染色用色素及びそれを用いた脂質二分子膜の染色方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、下記の一般式(I)で表される脂質二分子膜染色用色素を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0010】
【化2】
【0011】
上記一般式(I)において、
Xは、酸素、イオウ、セレン又は式-CR11 -(R11は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。)で表される原子又は原子団であり、
nは、1又は2の自然数であり、
は、炭素数1~12のアルキレン基であり、
は、式(CHCHO)(mは、1~10の自然数である。)で表されるポリオキシエチレン基を含む原子団であり、
は、炭素数6~20のアルキル基であり、
、L及びLは、それぞれ独立して、エステル結合(-CO-O-)、アミド結合(-CO-NH-)、ウレタン結合(-NH-CO-O-)及び尿素結合(-NH-CO-NH-)からなる群より選択される結合基であり、
qは1~5の自然数である。
【0012】
本発明の第2の態様は、脂質二分子膜を含む試料溶液を準備する工程と、上記の一般式(I)で表される脂質二分子膜染色用色素及び/又はそれを含む染色用組成物を準備する工程と、前記脂質二分子膜染色用色素又は前記染色用組成物を前記試料溶液に添加し、前記脂質二分子膜を染色する工程を含む脂質二分子膜の染色方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0013】
本発明の第1の態様に係る脂質二分子膜染色用色素及び本発明の第2の態様に係る脂質二分子膜の染色方法において、前記脂質二分子膜が、細胞膜又は細胞膜に由来する脂質二分子膜であってもよい。
【0014】
本発明の第1の態様に係る脂質二分子膜染色用色素及び本発明の第2の態様に係る脂質二分子膜の染色方法において、前記脂質二分子膜がエキソソーム膜であってもよい。
【0015】
本発明の第1の態様に係る脂質二分子膜染色用色素及び本発明の第2の態様に係る脂質二分子膜の染色方法において、上記一般式(I)中のXが、酸素又は式-C(CH-で表される原子団であってもよい。
【0016】
本発明の第1の態様に係る脂質二分子膜染色用色素及び本発明の第2の態様に係る脂質二分子膜の染色方法において、上記一般式(I)中のL、L及びLがアミド結合であってもよい。
【0017】
本発明の第1の態様に係る脂質二分子膜染色用色素及び本発明の第2の態様に係る脂質二分子膜の染色方法において、前記脂質二分子膜染色用色素が、下記の式9、15及び20のいずれか1つで表されるものであってもよい。
【0018】
【化3】
【0019】
【化4】
【0020】
【化5】
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、脂質二分子膜に対する滞留性が高く、細胞膜、エキソソーム等の細胞外小胞等の染色に好適に用いることができる脂質二分子膜染色用色素及び脂質二分子膜の染色方法が提供される。更に、本発明により提供される脂質二分子膜染色用色素は、染色条件下で粒子又は凝集体を形成しにくいため、エキソソーム等のサイズの小さな細胞外小胞の染色に用いる場合にも、粒子サイズを変化させたり、アーティファクトを生じさせたりすることなく高精度かつ高感度な蛍光測定を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】エキソソームの存在量と本発明の脂質二分子膜染色用色素による染色像との関係を示す蛍光顕微鏡写真である。
図2】エキソソームの存在下/非存在下における本発明の脂質二分子膜染色用色素による染色像との関係を示す蛍光顕微鏡写真である。
図3】エキソソームの存在下における従来の脂質二分子膜染色用色素による染色像を示す蛍光顕微鏡写真である。
図4】従来の脂質二分子膜染色用色素によりエキソソームを染色した場合におけるナノ粒子トラッキング解析の結果を示すグラフである。
図5】本発明の脂質二分子膜染色用色素によりエキソソームを染色した場合におけるナノ粒子トラッキング解析の結果を示すグラフである。
図6】従来の脂質二分子膜染色用色素と本発明の脂質二分子膜染色用色素によるHeLa細胞の染色試験の結果を示す微分干渉顕微鏡写真及び蛍光顕微鏡写真である。
図7】従来の脂質二分子膜染色用色素と本発明の脂質二分子膜染色用色素によるHeLa細胞の染色試験の結果を示す微分干渉顕微鏡写真及び蛍光顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0024】
本発明の第1の実施の形態に係る脂質二分子膜染色用色素(以下、「脂質二分子膜染色用色素」と略称する場合がある)は、下記の一般式(I)で表される。
【0025】
【化6】
【0026】
上記一般式(I)において、Xは、酸素、イオウ、セレン又は式-CR11 -(R11は、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。)で表される原子又は原子団であり、好ましくは酸素又は式-C(CH-で表される原子団である。
【0027】
上記一般式(I)において、nは、1又は2の自然数である。
【0028】
上記一般式(I)において、Rは、炭素数1~12、好ましくは炭素数2~8、より好ましくは炭素数4~6のアルキレン基である。
【0029】
上記一般式(I)において、Rは、式(CHCHO)(mは、1~10、好ましくは2~8、より好ましくは3~5の自然数である。)で表されるポリオキシエチレン基を含む原子団である。ポリオキシエチレン基の存在により、脂質二分子膜染色用色素に水溶性が付与され、染色溶液の調製に有機溶媒が不要になると共に、親水性環境下での凝集体や粒子の形成を抑制できる。
【0030】
上記一般式(I)において、Rは、炭素数6~20、好ましくは炭素数8~18、より好ましくは炭素数10~16のアルキル基、好ましくは直鎖アルキル基である。
【0031】
上記一般式(I)において、L、L及びLは、それぞれ独立して、エステル結合(-CO-O-)、アミド結合(-CO-NH-)、ウレタン結合(-NH-CO-O-)及び尿素結合(-NH-CO-NH-)からなる群より選択される結合基であり、好ましくはアミド結合である。
【0032】
脂質二分子膜染色用色素は、側鎖にカルボン酸基を有することで、脂質二分子膜の透過性が抑制され、染色対象となる細胞や細胞外小胞の内部に脂質二分子膜染色用色素が移行することを抑制できる。上記一般式(I)において、qは1~5、好ましくは1又は2の自然数である。
【0033】
上記の一般式(I)で表される脂質二分子膜染色用色素は、1価の正電荷を有しているため、対陰イオンと塩を形成している。対陰イオンは、蛍光発光を阻害せず、細胞毒性等を有しない限りにおいて、任意の陰イオンであってよい。対陰イオンの具体例としては、塩化物イオン、臭化物イオン、過塩素酸塩イオン、硝酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン等が挙げられる。
【0034】
脂質二分子膜染色用色素の好ましい具体例としては、下記の式9、15及び20で表されるものが挙げられる。
【0035】
【化7】
【0036】
【化8】
【0037】
【化9】
【0038】
上記の式9、15及び20で表される脂質二分子膜染色用色素は、任意の公知の方法を用いて合成することができ、その合成経路の具体例としては、それぞれ、後述する実施例に示すものが挙げられる。
【0039】
本発明の第2の実施の形態に係る脂質二分子膜の染色方法(以下、「脂質二分子膜の染色方法」と略称される場合がある。)は、脂質二分子膜を含む試料溶液を準備する工程と、本発明の第1の実施の形態に係る脂質二分子膜染色用色素及び/又はそれを含む染色用組成物を準備する工程と、脂質二分子膜染色用色素又は染色用組成物を試料溶液に添加し、脂質二分子膜を染色する工程を有している。
【0040】
染色対象となる脂質二分子膜は、リン脂質、糖脂質、ステロール等の両親媒性の脂質を含み、脂質二分子膜染色用色素で染色できる限りにおいて任意のものであってよく、脂質以外にタンパク質等を含んでいてもよい。染色対象となる脂質二分子膜の例としては、動物細胞の細胞膜、それに由来する脂質二分子膜を有するエキソソーム等の細胞外小胞等が挙げられる。
【0041】
上記のもの等の染色対象を含む試料溶液は、染色対象を適当な溶液中に分散させることにより調製される。染色対象が細胞の場合、溶液は、緩衝剤、培地等を含むものであってもよい。エキソソーム等の細胞外小胞の場合、更に超遠心による単離等の処理を更に行ってもよい。
【0042】
本発明の第1の実施の形態に係る脂質二分子膜染色用色素は水溶性を有しているため、直接試料溶液に添加することにより染色を行うこともできるが、例えば、脂質二分子膜染色用色素を適当な溶媒に溶解させることにより脂質二分子膜染色用色素を含む染色用組成物を調製してもよい。上記のとおり、本発明の第1の実施の形態に係る脂質二分子膜染色用色素は水溶性を有しているため、溶媒は有機溶媒を含んでいる必要はない。
【0043】
染色は、脂質二分子膜染色用色素又はそれを含む染色用組成物を試料溶液に添加することにより行われる。必要に応じて、所定時間インキュベートを行う等の処理を適宜行うこともできる。染色像の観察は、蛍光顕微鏡等の任意の公知の方法を用いて行うことができる。エキソソーム等の粒子数及び粒子サイズの解析には、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)等の方法を用いることができる。
【実施例
【0044】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。なお、以下の記載において、「式nで表される中間体」、「式nで表される脂質二分子膜染色用色素」を、それぞれ、「中間体n」、「脂質二分子膜染色用色素n」と略称する場合がある。
実施例1:脂質二分子膜染色用色素の合成
中間体1の合成
【0045】
【化10】
【0046】
ナスフラスコに、4,7,10-トリオキサ-1,13-トリデカンジアミンを加えた。クロロホルムを加えて溶解し、BocO/クロロホルム溶液を滴下した。室温で撹拌後、飽和重曹水溶液/クロロホルムで分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄後、減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール)で精製し、中間体1を得た。
【0047】
中間体2の合成
【0048】
【化11】
【0049】
ナスフラスコにパルミチン酸と塩化チオニルを加え、塩化カルシウム管を接続し撹拌した。DMFを一滴加え、40℃で1時間撹拌した。減圧濃縮後、無水トルエンを加え再度減圧濃縮し、塩化パルミトイルを得た。ナスフラスコにL-グルタミン酸-γ-t-ブチルエステル、THF、水、ジイソプロピルエチルアミンを加え、撹拌した。塩化パルミトイルをTHFに溶解し、ナスフラスコに添加した。クロロホルム/5%クエン酸水溶液で分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄後、減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール)で精製し、中間体2を得た。
【0050】
中間体3の合成
【0051】
【化12】
【0052】
ナスフラスコにクロロホルムと中間体2、ジイソプロピルエチルアミンを加え、塩化カルシウム管を接続し撹拌した。DSC(炭酸ジ(N-スクシンイミジル))/クロロホルム溶液を添加した。室温で撹拌後、クロロホルム/水で分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム(ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、中間体3を得た。
【0053】
中間体4の合成
【0054】
【化13】
【0055】
ナスフラスコに2,3,3-トリメチルインドレニンとアセトニトリルを加え、撹拌した。ブロモヘキサン酸を加え、還流管を接続し、終夜加熱還流した。室温に冷却し、4M HCl/THFとエーテルを加えろ取した。粗生成物をエーテルに懸濁し、再度ろ取することで中間体4を得た。
【0056】
中間体5の合成
【0057】
【化14】
【0058】
ナスフラスコに中間体4とピリジンを加え、還流管を接続し撹拌した。オルトギ酸トリメチルを加え、終夜加熱還流した。減圧濃縮し、クロロホルム/1M塩酸で分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄し減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール)で精製し、中間体5を得た。
【0059】
中間体6の合成
【0060】
【化15】
【0061】
ナスフラスコに中間体5と、DMF、HATUを加え、塩化カルシウム管を接続し撹拌した。中間体1、ジイソプロピルエチルアミンを含むDMF溶液を添加し、終夜撹拌した。減圧濃縮し、クロロホルム/5%クエン酸水溶液で分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール)で精製した。
【0062】
中間体7、8の合成
【0063】
【化16】
【0064】
ナスフラスコに中間体6とクロロホルムを加え、溶解した。TFA(トリフルオロ酢酸)を加え、40℃で1時間撹拌した。減圧濃縮し中間体7を得た。ナスフラスコに中間体7とDMF,ジイソプロピルエチルアミンを加え、撹拌した。塩化カルシウム管を接続し、中間体3のDMF溶液を添加し、室温で終夜撹拌した。減圧濃縮後、クロロホルム/水で分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール)で精製し、中間体8を得た。
【0065】
脂質二分子膜染色用色素9の合成
【0066】
【化17】
【0067】
ナスフラスコに中間体8とクロロホルムを加え、溶解した。TFA(トリフルオロ酢酸)を加え、40℃で1時間撹拌した。減圧濃縮した。粗生成物を逆相HPLC(0.1% TFAを含む水/アセトニトリル)で精製し、赤色発光する脂質二分子膜染色用色素9を得た。
【0068】
中間体10の合成
【0069】
【化18】
【0070】
ナスフラスコに2-メチルベンゾオキサゾールとブロモヘキサン酸を加え、還流管を接続し、終夜加熱還流した。室温に冷却し、ろ取した。粗生成物をエーテルに懸濁し、再度ろ取することで中間体10を得た。
【0071】
中間体11の合成
【0072】
【化19】
【0073】
ナスフラスコに中間体10とピリジンを加え、還流管を接続し撹拌した。オルトギ酸トリメチルを加え、終夜加熱還流した。減圧濃縮し、クロロホルム/1M塩酸で分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄し減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール)で精製し、中間体11を得た。
【0074】
中間体12の合成
【0075】
【化20】
【0076】
ナスフラスコに中間体11とDMF、HATUを加え、塩化カルシウム管を接続し撹拌した。中間体1、ジイソプロピルエチルアミンを含むDMF溶液を添加し、終夜撹拌した。減圧濃縮し、クロロホルム/5%クエン酸水溶液で分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール)で精製し、中間体12を得た。
【0077】
中間体13、14の合成
【0078】
【化21】
【0079】
ナスフラスコに中間体12とクロロホルムを加え、溶解した。TFA(トリフルオロ酢酸)を加え、40℃で1時間撹拌した。減圧濃縮し中間体13を得た。ナスフラスコに中間体13とDMF,ジイソプロピルエチルアミンを加え、撹拌した。塩化カルシウム管を接続し、中間体3のDMF溶液を添加し、室温で終夜撹拌した。減圧濃縮後、クロロホルム/水で分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール)で精製し、中間体14を得た。
【0080】
脂質二分子膜染色用色素15の合成
【0081】
【化22】
【0082】
ナスフラスコに中間体14とクロロホルムを加え、溶解した。TFA(トリフルオロ酢酸)を加え、40℃で1時間撹拌した。減圧濃縮した。粗生成物を逆相HPLC(0.1%TFAを含む水/アセトニトリル)で精製し、緑色発光する脂質二分子膜染色用色素15を得た。
【0083】
中間体16の合成
【0084】
【化23】
【0085】
ナスフラスコに中間体4とピリジンを加え、還流管を接続し撹拌した。マロンアルデヒドジアニリド塩酸塩を加え、終夜加熱還流した。減圧濃縮し、クロロホルム/1M塩酸で分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄し減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール)で精製し、中間体16を得た。
【0086】
中間体17の合成
【0087】
【化24】
【0088】
ナスフラスコに中間体16とDMF,HATUを加え、塩化カルシウム管を接続し撹拌した。中間体1、ジイソプロピルエチルアミンを含むDMF溶液を添加し、終夜撹拌した。減圧濃縮し、クロロホルム/5%クエン酸水溶液で分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、減圧濃縮した。粗生成物をシリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール)で精製し、中間体17を得た。
【0089】
中間体18、19の合成
【0090】
【化25】
【0091】
ナスフラスコに中間体17とクロロホルムを加え、溶解した。TFA(トリフルオロ酢酸)を加え、40℃で1時間撹拌した。減圧濃縮し中間体18を得た。ナスフラスコに中間体18とDMF,ジイソプロピルエチルアミンを加え、撹拌した。塩化カルシウム管を接続し、中間体3のDMF溶液を添加し、室温で終夜撹拌した。減圧濃縮後、クロロホルム/水で分液し、有機相を飽和食塩水で洗浄し、減圧濃縮した。シリカゲルカラム(クロロホルム/メタノール)で精製し、中間体19を得た。
【0092】
脂質二分子膜染色用色素20の合成
【0093】
【化26】
【0094】
ナスフラスコに中間体19とクロロホルムを加え、溶解した。TFA(トリフルオロ酢酸)を加え、40℃で1時間撹拌した。減圧濃縮した。粗生成物を逆相HPLC(0.1%TFAを含む水/アセトニトリル)で精製し、紫色に発光する脂質二分子膜染色用色素20を得た。
【0095】
実施例2:エキソソーム染色試験
通常の細胞より10倍程度エキソソーム分泌量の多いHEK293Sを培養し、超遠心分離によりエキソソームを分離した。100μLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)にエキソソームを分散し、タンパク質含量5μg及び10μgのエキソソーム含有試料溶液を調製した。これに脂質二分子膜染色用色素9、15、20を、終濃度が10μmol/Lとなるように添加し、37℃で30分間インキュベートした。限外ろ過膜で溶液中に残存した脂質二分子膜染色用色素を除去後、ろ過膜上のエキソソームを回収し、蛍光顕微鏡観察を行った。
【0096】
結果を図1に示す。いずれの脂質二分子膜染色用色素においても、エキソソームの量に比例して染色像が観察されることが確認された。
【0097】
実施例3:凝集体又は粒子形成の有無の確認
実施例2と同様の方法を用いて調製したタンパク質含量10μgのエキソソーム含有試料液に、脂質二分子膜染色用色素9、15、20を、終濃度が10μmol/Lとなるように添加し、或いは比較のために市販の脂質二分子膜染色用色素(PKH67、PKH26(シグマアルドリッチ社製))を、終濃度が10μmol/Lとなるように添加し、37℃で24時間インキュベートした。限外ろ過膜で溶液中に残存した脂質二分子膜染色用色素を除去後、ろ過膜上のエキソソームを回収し、蛍光顕微鏡観察を行った。併せて、エキソソーム非存在下で同様の操作を行った。
【0098】
結果を図2及び図3に示す。図2に示すように、脂質二分子膜染色用色素9、15、20では、エキソソーム存在下(Exo+)では染色像が観察され、エキソソーム非存在下(Exo-)では観察されなかった。一方、図3に示すように、エキソソーム存在下(Exo+)でPKH67及びPKH26を用いて染色を行った場合、エキソソームのサイズよりも大きく不規則な輝点が観察された。これらの結果は、PKH67及びPKH26においては、エキソソームの染色像以外に色素の凝集体又は粒子が形成され、それに由来する輝点が観察されているのに対し、脂質二分子膜染色用色素9、15、20では、凝集体又は粒子に由来する輝点が観察されなかった。
【0099】
図4及び図5に、ナノ粒子トラッキング解析(NTA)により、各試料の粒子数及び粒子径を測定した結果を示す。図4及び図5において、「Exo」は染色を行っていないエキソソーム含有試料溶液の測定結果を示す。図4より、PKH67及びPKH26を用いて染色を行った場合には、粒子数の減少及び粒子径の増大が観測された。この結果は、PKH67及びPKH26がエキソソームの性質を変化させることを示している。
【0100】
一方、図5の結果より、脂質二分子膜染色用色素9、15、20は、粒子数及び粒子径を変化させないことを示しており、これらの脂質二分子膜染色用色素は、いずれもエキソソームの性質を変化させないことを示している。
【0101】
実施例5:HeLa細胞染色試験
HeLa細胞をマイクロウェルスライドに播種(0.75×10cells/ウェル)した。培地として、MEM培地(10%FBS(ウシ胎児血清)含有)を用い、37℃、COインキュベータ内で終夜培養後、MEM培地(FBS含有又は不含有)で細胞を洗浄した。市販の脂質二分子膜染色用色素であるDil(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製:長鎖アルキル基を有するカルボシアニン系色素)、PKH26又は脂質二分子膜染色用色素9のMEM(0又は10%FBS)溶液(1μmol/L)を調製し、細胞に添加した。室温で5分静置後、対応するFBS含量のMEM培地で洗浄した。蛍光顕微鏡(倍率×63)で観察した。
【0102】
結果を図6(洗浄及び染色液としてFBS不含有MEM培地を用いた場合)及び図7(洗浄及び染色液としてFBS含有MEM培地を用いた場合)に示す。図6及び図7において、「FLU」は蛍光染色像、「merged with DIC」は蛍光染色像を微分干渉像と重ね合わせた画像を示す。図6のFBS非存在下では脂質二分子膜染色用色素9およびPKH26は細胞膜を選択的に明瞭に染色することが確認された。PKH26の場合、若干の細胞質内への移行と輝点が認められた。一方、Dilを用いた場合、細胞の染色は観察されず、凝集体又は粒子の形成に起因すると思われる輝点の存在が併せて観察された。図7のFBS存在下では脂質二分子膜染色用色素9のみで細胞膜が明瞭に染色された染色像が観察された。DilはFBS非存在下と同様に凝集体又は粒子の形成に起因すると思われる輝点が観察され、PKH26もFBS存在下では同様の輝点が観察された。Dilは水溶性が低く、水溶液中では凝集して懸濁状態になっているため、細胞を染色することができないと考えられる。PKH26は、FBS非存在下では細胞膜の染色が可能だが、FBS中の脂溶性成分に色素が吸着するため、FBS存在下では細胞膜の染色像が観察されなかったと考えられる。それに対し、脂質二分子膜染色用色素9は水溶性が高く、細胞膜への滞留性及び局在性が高いため、FBSの有無にかかわらず細胞膜を選択的に染色していることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7