(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20240123BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20240123BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20240123BHJP
C07F 7/18 20060101ALN20240123BHJP
C07F 7/08 20060101ALN20240123BHJP
C07C 317/14 20060101ALN20240123BHJP
C07C 309/73 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M4/525
H01M10/0567
C07F7/18 C
C07F7/08 C
C07C317/14
C07C309/73
(21)【出願番号】P 2019038553
(22)【出願日】2019-03-04
【審査請求日】2021-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】鴻野 美和
(72)【発明者】
【氏名】岡島 宇史
【審査官】多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-181831(JP,A)
【文献】特開2003-173816(JP,A)
【文献】特開2009-093839(JP,A)
【文献】国際公開第2013/141345(WO,A1)
【文献】特開2002-134167(JP,A)
【文献】特開2016-157679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解液とを含む非水電解液二次電池であって、
上記正極は、Ni元素を含む遷移金属複合酸化物を含み、
上記遷移金属複合酸化物中に含まれる遷移金属元素の合計含有量に対するNi元素の含有量が、50atm%以上であり、
上記非水電解液は、
S元素と炭素-炭素間三重結合とを分子内に含有する化合物A(ただし、分子中にN元素を含有するものを除く)を含む非水電解液二次電池。
【請求項2】
正極と、負極と、非水電解液とを含む非水電解液二次電池であって、
上記正極は、Ni元素を含む遷移金属複合酸化物を含み、
上記遷移金属複合酸化物中に含まれる遷移金属元素の合計含有量に対するNi元素の含有量が、50atm%以上であり、
上記非水電解液は、
Si元素と炭素-炭素間三重結合とを分子内に含有し、分子構造中に不飽和結合を1つのみ有する化合物A(ただし、3-メトキシプロピル-[2-[3-メトキシプロピル(ジメチル)シリル]エチニル]-ジメチルシラン及びフルオロ-[2-[フルオロ(ジメチル)シリル]エチニル]-ジメチルシランを除く)を含む非水電解液二次電池。
【請求項3】
上記化合物Aが、S元素又はSi元素と結合したO元素を分子内に含有する、請求項1
又は請求項2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
上記負極は、負極活物質を備え、
上記負極活物質は、炭素材料のみから成る、請求項1
から請求項3のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
上記正極は、正極活物質を備え、
上記正極活物質は、上記遷移金属複合酸化物のみから成る、請求項1
から請求項4のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
上記化合物Aがアリール基を有する、請求項1
から請求項5のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
4.25V以上の電圧で使用される、請求項1
から請求項6のいずれかに記載の非水電解液二次電池。
【請求項8】
Ni元素を含む遷移金属複合酸化物を含む正極と、
S元素と炭素-炭素間三重結合とを分子内に含有する化合物A(ただし、分子中にN元素を含有するものを除く)を含む非水電解液と、を準備する工程を備え、
上記遷移金属複合酸化物中に含まれる遷移金属元素の合計含有量に対するNi元素の含有量が、50atm%以上である、非水電解液二次電池の製造方法。
【請求項9】
Ni元素を含む遷移金属複合酸化物を含む正極と、
Si元素と炭素-炭素間三重結合とを分子内に含有し、分子構造中に不飽和結合を1つのみ有する化合物(ただし、3-メトキシプロピル-[2-[3-メトキシプロピル(ジメチル)シリル]エチニル]-ジメチルシラン及びフルオロ-[2-[フルオロ(ジメチル)シリル]エチニル]-ジメチルシランを除く)を含む非水電解液と、を準備する工程を備え、
上記遷移金属複合酸化物中に含まれる遷移金属元素の合計含有量に対するNi元素の含有量が、50atm%以上である、非水電解液二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、高エネルギー密度、高出力密度を有することから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。
【0003】
このような非水電解液二次電池では、高容量化のため充電電圧を高める手法が考えられている。そして、高い充電電圧での使用に適した正極活物質として、ニッケル元素の含有量が高い遷移金属複合酸化物が検討されている。しかし、このような活物質を備える非水電解液二次電池においては、45℃などの高温での寿命が短い課題があった。
【0004】
特許文献1には、電池の高温での充放電サイクル容量特性を向上できるとともに、貯蔵性能を向上できる炭素-炭素間三重結合含有リン酸エステル化合物である新規膜添加剤が開示されている。
【0005】
特許文献2には、電池の耐高温・低温性能を両立できるリチウムイオン電池用非水電解液を提供するために、炭素-炭素間三重結合含有リン酸エステル化合物を含むリチウムイオン電池用非水電解液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】CN104300174A
【文献】特開2018-513542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような炭素-炭素間三重結合含有リン酸エステル化合物を用いることで、高温での容量維持率は向上する。しかし、本発明者らが検討したところ、さらなる改善の余地があることが判明した。また、炭素-炭素間三重結合含有リン酸エステル化合物を使用すると、初期充放電後の低温での直流抵抗(DCR)が大きくなるという問題があることも明らかとなった。
【0008】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、初期充放電後の低温DCRの低減と、充放電サイクル容量特性の向上を両立できる非水電解液二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る非水電解液二次電池は、正極と、負極と、非水電解液とを含む非水電解液二次電池であって、上記正極は、Ni元素を含む遷移金属複合酸化物を含み、上記遷移金属複合酸化物中に含まれる遷移金属元素の合計含有量に対するNi元素の含有量が、50atm%以上であり、上記非水電解液は、S元素又はSi元素と、炭素-炭素間三重結合とを分子内に含有する化合物Aを含む非水電解液二次電池である。
【0010】
本発明の他の態様に係る非水電解液二次電池の製造方法は、Ni元素を含む遷移金属複合酸化物を含む正極と、S元素又はSi元素と、炭素-炭素間三重結合とを分子内に含有する化合物Aを含む非水電解液と、を準備する工程を備え、上記遷移金属複合酸化物中に含まれる遷移金属元素の合計含有量に対するNi元素の含有量が、50atm%以上である、非水電解液二次電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る非水電解液二次電池及び非水電解液二次電池の製造方法は、初期充放電後の低温DCRの低減と、充放電サイクル容量特性の向上を両立した非水電解液二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、非水電解液二次電池の一実施形態を示す外観斜視図である。
【
図2】
図2は、非水電解液二次電池を複数個集合して構成した蓄電装置の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
はじめに、本明細書によって開示される非水電解液二次電池の概要について説明する。
【0014】
本発明の一態様に係る非水電解液二次電池は、正極と、負極と、非水電解液とを含む非水電解液二次電池であって、上記正極は、Ni元素を含む遷移金属複合酸化物を含み、上記遷移金属複合酸化物中に含まれる遷移金属元素の合計含有量に対するNi元素の含有量が、50atm%以上であり、上記非水電解液は、S元素又はSi元素と、炭素-炭素間三重結合とを分子内に含有する化合物Aを含む、非水電解液二次電池である。
【0015】
この非水電解液二次電池によれば、初期充放電後の低温DCRの低減と、充放電サイクル容量特性の向上を両立できる。
この作用メカニズムについてはまだ不明であるが、以下の理由が推測される。
炭素-炭素間三重結合を有する化合物は還元分解されやすい。このため、化合物Aは非水電解液二次電池の初回充電時に負極上で容易に還元分解されて、負極活物質の表面に炭素-炭素間三重結合由来の被膜を、非水電解液中にS元素又はSi元素を含む還元分解生成物を、それぞれ生成すると考えられる。そして、上記S元素又はSi元素を含む還元分解生成物は、正極側に拡散ないし泳動した後、酸化分解されて正極活物質の表面にS元素又はSi元素を含む被膜を形成すると考えられる。このような作用機構により、正極と負極とのいずれにも良好な被膜形成がなされ、初期充放電後の低温DCRの低減と、充放電サイクル容量特性の向上を両立できるものと推定される。
【0016】
ここで、上記化合物Aが、S元素又はSi元素と結合したO元素を分子内に含有してもよい。
【0017】
このような化合物Aを含むことで、初期充放電後の低温DCRの低減と、充放電サイクル容量特性の向上をさらに効果的に両立することができる。この理由も定かではないが、以下の理由が推測される。
上記のような化合物Aを含むと、正極及び負極にO元素を含む被膜が形成される。ここで、炭素-炭素間三重結合由来の被膜は電子伝導性や耐久性が低く、O元素を含む被膜は電子伝導性や耐久性が良好であることが多い。このため、上記のような化合物Aを用いることで、負極に形成される炭素-炭素間三重結合由来の被膜の電子伝導性や耐久性が改善され、初期充放電後の低温DCRの低減と、充放電サイクル容量特性の向上とを両立できると考えられる。
【0018】
特に、化合物AがSi元素を分子内に含有する場合、上記化合物Aは上記Si元素と結合したO元素を含有することが好ましい。
【0019】
このような化合物Aを含むことで、充放電サイクル容量特性をさらに向上することができる。この理由も定かではないが、以下の理由が推測される。
化合物AがSi元素と結合したO元素を含むことで、正極活物質の表面に化合物Aに由来するSi-O結合を含む被膜が形成される。ここで、SiとOとの結合は、SiとCとの結合に比べて結合エネルギーが低い。また、Siはフッ化物イオンと反応して強い結合を形成する。これらのことから、非水電解液中にフッ化物イオンが生じた場合には、上記被膜に含まれるSiとOとの結合が切断し、Siとフッ化物イオンとが反応すると推定される。このような現象により、フッ化物イオンによる正極活物質の劣化が抑制され、充放電サイクル容量特性が向上すると考えられる。
【0020】
また、上記負極は、負極活物質を備え、上記負極活物質が、炭素材料のみから成るものであってもよい。
【0021】
炭素材料のみから成る負極活物質は、Si、Sn等の金属又は半金属や、Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物等に比べ、作動電位が低い。これにより、正極電位を低くしつつ、非水電解液二次電池の充電電圧を高くすることができる。このため、充放電サイクル容量特性と、高エネルギー密度を両立することができる。
【0022】
また、上記正極は、正極活物質を備え、上記正極活物質は、上記遷移金属複合酸化物のみから成るものであってもよい。
【0023】
このようなNiの含有割合が高い正極活物質は、一般的にNiの含有割合が低い場合と比較して結晶構造の安定性が低く、充放電サイクル容量特性が低くなりやすい。このため、係る問題を解決する本発明の効果を十分に享受することができる。
【0024】
また、上記化合物Aがアリール基を有してもよい。
【0025】
このような化合物Aを含むことで、充放電サイクル容量特性をさらに向上することができる。この理由は定かではないが、以下の理由が推測される。
化合物Aに含まれるアリール基部分は、正極で酸化分解してアリール基由来の被膜を形成すると考えられる。この被膜が正極活物質を保護することで充放電サイクルの経過に伴う正極活物質の割れ等を抑制し、充放電サイクル容量特性をさらに向上できると推測される。
【0026】
特に、化合物AがS元素を分子内に含有する場合、上記化合物Aはアリール基をさらに含有すると好ましい。
【0027】
このような化合物Aを含むことで、充放電サイクル容量特性をさらに向上することができる。上記化合物AがS元素とアリール基とを分子内に含有する場合、アリール基とS元素とに由来する保護被膜が安定であり、正極の劣化の抑制作用が高まるものと推測される。
【0028】
また、上記非水電解液二次電池は4.25V以上の電圧で使用されてもよい。
【0029】
電池電圧が4.25V以上となるような状態となると、正極の電位が高くなるため、化合物Aないし化合物Aの還元分解生成物が確実に酸化分解され、上記化合物Aに由来する被膜を正極活物質の表面に確実に形成できる。また、電池電圧が4.25V以上となるような充電終止電圧で充放電を繰り返すと、上記正極活物質の劣化が進行するため、このような課題を解決する本発明の効果を十分に享受することができる。
【0030】
本発明の他の実施形態に係る非水電解液二次電池の製造方法は、Ni元素を含む遷移金属複合酸化物を含む正極と、S元素又はSi元素と、炭素-炭素間三重結合とを分子内に含有する化合物Aを含む非水電解液と、を準備する工程を備え、上記遷移金属複合酸化物中に含まれる遷移金属元素の合計含有量に対するNi元素の含有量が、50atm%以上である、非水電解液二次電池の製造方法である。
【0031】
このような非水電解液二次電池の製造方法によれば、初期充放電後の低温DCRの低減と、充放電サイクル容量特性の向上を両立できる非水電解液二次電池を提供できる。
【0032】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池(以下、単に「電池」ともいう。)の構成及び製造方法について、リチウムイオン二次電池(以下、単に「リチウム電池」ともいう。)を例に詳述する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0033】
<非水電解液二次電池>
本発明の一実施形態に係る電池は、正極と、負極と、非水電解液とを備える。
【0034】
(正極)
正極は、正極基材と、当該正極基材に直接又は中間層を介して配される正極活物質層とを有する。
【0035】
正極基材は、導電性を有する。正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ、及びコストの観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。正極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、正極基材としてはアルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好ましい。アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0036】
正極基材の平均厚さは、5μm以上50μm以下が好ましく、10μm以上40μm以下がより好ましい。正極基材の平均厚さを上記の範囲とすることで、正極基材の強度を高めつつ、非水電解液二次電池の体積あたりのエネルギー密度を高めることができる。「平均厚さ」とは、任意の十点において測定した厚さの平均値をいう。他の部材等に対して「平均厚さ」を用いる場合にも同様に定義される。
【0037】
中間層は、正極基材と正極活物質層との間に配される層である。中間層は、炭素粒子等の導電性を有する粒子を含むことで正極基材と正極活物質層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えば、樹脂バインダ及び導電性を有する粒子を含む。「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が107Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が107Ω・cm超であることを意味する。
【0038】
正極活物質層は、正極活物質を含む。正極活物質層は、必要に応じて、導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0039】
本発明の一実施形態における正極は、正極活物質として、Ni元素を含む遷移金属複合酸化物であって、該遷移金属複合酸化物を構成する遷移金属元素の合計含有量に対するNi元素の含有量が50atm%以上である遷移金属複合酸化物(以下、単に「高Ni複合酸化物」ともいう。)を備える。
【0040】
高Ni複合酸化物としては、Ni元素の含有量が上記組成を満たす材料であれば特に制限されず、従来から非水電解液二次電池の正極活物質として用いられている各種の材料を使用することができる。例えば、LixMeOy(Meは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される遷移金属複合酸化物を使用することができる。このような遷移金属複合酸化物としては、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物等が挙げられる。α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物として、例えば、Li[LixNi1-x]O2(0≦x<0.5)、Li[LixNiγCo(1-x-γ)]O2(0≦x<0.5、0.5≦γ<1)、Li[LixNiγMnβCo(1-x-γ-β]O2(0≦x<0.5、0.5≦γ、0≦β、0.5≦γ+β≦1)、LixCoαNiβAlγO2(0.97≦x≦1.07、α+β+γ=1、0<α≦0.25、0.6≦β≦0.9、0<γ≦0.1)等が挙げられる。また、上述したもののほか、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物として、LixNiγMn(2-γ)O4等が挙げられる。なお、本実施形態において、高Ni複合酸化物はこれらの材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、高Ni複合酸化物の表面を、他の正極活物質で被覆したものを用いてもよい。
【0041】
高Ni複合酸化物としては、Ni、Co及びMnを含むものが好ましい。このとき、Ni、Co及びMnの合計含有量に対するNiの含有量の下限は50atm%以上であり、60atm%以上であってもよい。一方、このNiの含有量の上限としては、例えば90atm%が好ましく、80atm%がより好ましい。Ni、Co及びMnの合計含有量に対するCoの含有量の下限としては、5atm%が好ましく、10atm%がより好ましい。一方、このCoの含有量の上限としては、40atm%が好ましく、30atm%がより好ましい。また、Ni、Co及びMnの合計含有量に対するMnの含有量の下限としては、5atm%が好ましく、10atm%がより好ましい。一方、このMnの含有量の上限としては、40atm%が好ましく、30atm%がより好ましい。このような組成の高Ni複合酸化物を正極活物質として用いることで、エネルギー密度を高めること等ができる。
【0042】
高Ni複合酸化物の好適な一例としては、LixNiaCobMncOd(0<x≦1.3、a+b+c=1、0.5≦a<1、0<b<0.5、0<c<0.5、及び1.7≦d≦2.3である。)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物)が挙げられる。
【0043】
上記LixNiaCobMncOdで表される高Ni複合酸化物において、xは、1以上が好ましく、1であってもよい。aは、0.9以下が好ましく、0.8がより好ましい。bは、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。また、bは、0.4以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。cは、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。また、cは、0.4以下が好ましく、0.3以下がより好ましい。dは、1.7≦d≦2.3で電荷中性条件を満たすように定まる値であり、実質的に2であってよい。上記LixNiaCobMncOdで表される高Ni複合酸化物には、Li、Ni、Co、Mn、Oの他に微量の他元素が含まれてもよい。
【0044】
上記LixNiaCobMncOdの化学組成で表される高Ni複合酸化物としては、例えば、LiNi3/5Co1/5Mn1/5O2、LiNi1/2Co1/5Mn3/10O2、LiNi1/2Co3/10Mn1/5O2、LiNi8/10Co1/10Mn1/10O2等を挙げることができる。なお、上記リチウム遷移金属複合酸化物を示す化学式は、最初の充電処理(すなわち、正極、負極、電解質等の電池構成要素を組み立てた後に初めて行う充電処理)が行われる前の状態の組成を示すものとする。
【0045】
高Ni複合酸化物の平均粒径は、例えば、0.05μm以上30μm以下とすることが好ましく、0.1μm以上20μm以下とすることがより好ましい。高Ni複合酸化物の平均粒径を上記下限以上とすることで、高Ni複合酸化物の製造又は取り扱いが容易になる。高Ni複合酸化物の平均粒径を上記上限以下とすることで、正極活物質層の電子伝導性が向上する。ここで、「平均粒径」とは、JIS-Z-8825(2013年)に準拠し、粒子を溶媒で希釈した希釈液に対しレーザ回折・散乱法により測定した粒径分布に基づき、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値を意味する。
【0046】
高Ni複合酸化物は、一次粒子であってもよく、一次粒子が凝集して成る二次粒子であってもよい。一次粒子の平均粒径としては、例えば、0.01μm以上2μm以下であることが好ましく、0.05μm以上1.5μm以下がより好ましい。二次粒子の平均粒径としては、例えば、1μm以上30μm以下であることが好ましく、2μm以上15μm以下であることがより好ましい。
【0047】
本発明の一実施形態に係る正極は、正極活物質として上記高Ni複合酸化物を単独で用いることが好ましい。換言すると、本実施形態の正極が備える正極活物質は、Ni元素を含む遷移金属複合酸化物であって、該遷移金属複合酸化物中に含まれる遷移金属元素の合計含有量に対するNi元素の含有量が、50atm%以上である遷移金属複合酸化物のみから成ることが好ましい。このようなNi元素の含有割合が高い遷移金属複合酸化物からなる正極活物質は、一般的にNi元素の含有割合が低い場合と比較して結晶構造の安定性が低く、充放電サイクル容量特性が低くなりやすい。このため、係る問題を解決する本発明の効果を十分に享受することができる。
【0048】
本発明の一実施形態に係る正極は、2種以上の正極活物質を混合して用いてもよい。即ち、高Ni複合酸化物に加えて、他の正極活物質を加えてもよい。この場合、高Ni複合酸化物を、使用する全正極活物質のうち50質量%以上(典型的には70~100質量%、好ましくは80~100質量%)の割合で含有することが好ましい。高Ni複合酸化物以外の正極活物質としては、公知の正極活物質の中から適宜選択できる。例えば、α-NaFeO2型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物、ポリアニオン化合物、カルコゲン化合物、硫黄等が挙げられる。リチウム遷移金属複合酸化物、スピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物としては、リチウム遷移金属酸化物に含まれる遷移金属元素の合計含有量に対するNi元素の含有量が50atm%以下のものが挙げられ、より具体的には、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiCoO2、LiMn2O4等が挙げられる。ポリアニオン化合物としては、LiFePO4,LiMnPO4,LiNiPO4,LiCoPO4,Li3V2(PO4)3,Li2MnSiO4,Li2CoPO4F等が挙げられる。カルコゲン化合物としては、二硫化チタン、二硫化モリブデン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの材料中の原子又はポリアニオンは、他の元素からなる原子又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。
【0049】
本実施形態の正極活物質層に含まれる正極活物質の含有量は特に限定されないが、50質量%以上99質量%以下であることが好ましく、80質量%以上97質量%以下であることがより好ましい。係る構成とすることで、正極のエネルギー密度を向上できる。
【0050】
(任意成分)
本実施形態の正極活物質層は導電剤を含んでもよい。導電剤は、導電性を有する材料であれば特に限定されない。このような材料としては、例えば、炭素質材料、金属、導電性セラミックス等が挙げられる。炭素質材料としては、黒鉛化炭素、非黒鉛化炭素、グラフェン系炭素等が挙げられる。非黒鉛化炭素としては、カーボンナノファイバー、ピッチ系炭素繊維、カーボンブラック等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。グラフェン系炭素としては、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。これらの中でも、電子伝導性及び塗工性の観点よりカーボンブラックが好ましく、中でもアセチレンブラックが好ましい。
【0051】
正極活物質層における導電剤の含有量としては、1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、3質量%以上9質量%以下であることがより好ましい。導電剤の含有量をこのような範囲とすることで、非水電解液二次電池の電気容量を高めることができる。
【0052】
本実施形態の正極活物質層はバインダを含んでもよい。バインダとしては、正極活物質等を固定でき、かつ使用範囲で電気化学的に安定であるものが通常用いられる。バインダとしては、水系バインダを用いてもよいし、非水系バインダを用いてもよい。
【0053】
水系バインダは、水に分散又は溶解するバインダである。中でも、20℃において、水100質量部に対して1質量部以上溶解するバインダが水系バインダとして好ましい。水系バインダとしては、例えば、ポリエチレンオキサイド(ポリエチレングリコール)、ポリプロピレンオキサイド(ポリプロピレングリコール)、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンイミン(PEI)、ニトリル―ブタジエンゴム、セルロース等が挙げられる。
【0054】
非水系バインダは、N-メチルピロドリン(NMP)等の非水溶媒に分散又は溶解するバインダである。中でも、20℃において、NMP100質量部に対して1質量部以上溶解するバインダが非水系バインダとして好ましい。非水系バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(PVDF―HFP)、エチレンとビニルアルコールとの共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリホスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、セルロースとキトサンピロリドンカルボン酸塩との架橋重合体、キチン又はキトサンの誘導体等が挙げられる。
【0055】
バインダを用いる場合、バインダが水系であれば水を分散媒とするペーストを形成し、バインダが非水系であれば非水溶媒を分散媒とするペーストを形成する。形成したペーストは、正極基材に塗布・乾燥し、正極活物質層を形成する。
【0056】
本実施形態の正極活物質層は増粘剤を含んでもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。増粘剤がリチウム等と反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させてもよい。
【0057】
本実施形態の正極活物質層はフィラーを含んでもよい。フィラーは、特に限定されない。フィラーとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、アルミナシリケイト等が挙げられる。
【0058】
正極活物質層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を正極活物質、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0059】
(負極)
負極は、負極基材と、当該負極基材に直接又は中間層を介して配される負極活物質層とを有する。中間層の構成は特に限定されず、例えば上記正極で例示した構成から選択することができる。
【0060】
負極基材は、導電性を有する。負極基材の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、アルミニウム等の金属又はこれらの合金が用いられる。これらの中でも銅又は銅合金が好ましい。負極基材としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの観点から箔が好ましい。したがって、負極基材としては銅箔又は銅合金箔が好ましい。銅箔の例としては、圧延銅箔、電解銅箔等が挙げられる。
【0061】
負極基材の平均厚さは、3μm以上30μm以下であることが好ましく、5μm以上20μm以下であることがより好ましい。負極基材の平均厚さを上記下限以上とすることで、負極基材の強度を高めることができる。負極基材の平均厚さを上記上限以下とすることで、非水電解液二次電池の体積当たりのエネルギー密度を高めることができる。
【0062】
負極活物質層は、負極活物質を含む。必要に応じて導電剤、バインダ(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等の任意成分は、上記正極で例示した材料から選択できる。
【0063】
負極活物層は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を負極活物質、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー以外の成分として含有してもよい。
【0064】
負極活物質としては、公知の負極活物質の中から適宜選択できる。非水電解液二次電池の中でも、リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、通常、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材料が用いられる。負極活物質としては、例えば、金属Li;Si、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;Li4Ti5O12、LiTiO2、TiNb2O7等のチタン含有酸化物;ポリリン酸化合物;炭化ケイ素;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。これらの材料の中でも、黒鉛及び非黒鉛質炭素が好ましい。負極活物質層においては、これら材料の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、中でも炭素材料のみを含むことが好ましい。
炭素材料のみから成る負極活物質は、Si、Sn等の金属又は半金属や、Si酸化物、Ti酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物等に比べ、作動電位が低い。これにより、正極電位を低くしつつ、非水電解液二次電池の充電電圧を高くすることができる。このため、充放電サイクル容量特性と、高エネルギー密度を両立することができる。
【0065】
「黒鉛」とは、充放電前又は放電状態において、X線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.33nm以上0.34nm未満の炭素材料をいう。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛が挙げられる。安定した物性の材料を入手できるという観点で、人造黒鉛が好ましい。
【0066】
「非黒鉛質炭素」とは、充放電前又は放電状態においてX線回折法により決定される(002)面の平均格子面間隔(d002)が0.34nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。非黒鉛質炭素の結晶子サイズLcは、通常、0.80~2.0nmである。非黒鉛質炭素としては、難黒鉛化性炭素や、易黒鉛化性炭素が挙げられる。非黒鉛質炭素としては、例えば、樹脂由来の材料、石油ピッチ由来の材料、アルコール由来の材料等が挙げられる。
【0067】
ここで、「放電状態」とは、負極活物質として炭素材料を含む負極を作用極として、金属Liを対極として用いた単極電池において、開回路電圧が0.7V以上である状態をいう。開回路状態での金属Li対極の電位は、Liの酸化還元電位とほぼ等しいため、上記単極電池における開回路電圧は、Liの酸化還元電位に対する炭素材料を含む負極の電位とほぼ同等である。つまり、上記単極電池における開回路電圧が0.7V以上であることは、負極活物質である炭素材料から、充放電に伴い吸蔵放出可能なリチウムイオンが十分に放出されていることを意味する。
【0068】
「難黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.36nm以上0.42nm以下の炭素材料をいう。難黒鉛化性炭素は、通常、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し難い性質を有する。
【0069】
「易黒鉛化性炭素」とは、上記d002が0.34nm以上0.36nm未満の炭素材料をいう。易黒鉛化性炭素は、通常、非黒鉛質炭素の中でも、3次元的な積層規則性を持つ黒鉛構造が生成し易い性質を有する。
【0070】
負極活物質の平均粒径は、例えば、1μm以上100μm以下とすることができる。負極活物質の平均粒径を上記下限以上とすることで、負極活物質の製造又は取り扱いが容易になる。負極活物質の平均粒径を上記上限以下とすることで、負極活物質層の電子伝導性が向上する。
【0071】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、60質量%以上99質量%以下であることが好ましく、80質量%以上98質量%以下であることがより好ましい。負極活物質の含有量を上記下限以上とすることで、非水電解液二次電池のエネルギー密度を高めることができる。負極活物質の含有量を上記上限以下とすることで、負極の製造が容易になる。
【0072】
(セパレータ)
セパレータは、公知のセパレータの中から適宜選択できる。セパレータとして、例えば、基材層のみからなるセパレータ、基材層の一方の面又は双方の面に耐熱粒子とバインダとを含む耐熱層が形成されたセパレータ等を使用することができる。セパレータの基材層の材質としては、例えば、織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が挙げられる。これらの材質の中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解液の保液性の観点から不織布が好ましい。セパレータの基材層の材料としては、シャットダウン機能の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。セパレータの基材層として、これらの樹脂を複合した材料を用いてもよい。
【0073】
耐熱層に含まれる耐熱粒子は、大気下で500℃にて質量減少が5%以下であるものが好ましく、大気下で800℃にて質量減少が5%以下であるものがさらに好ましい。質量減少が所定以下である材料として無機化合物が挙げられる。無機化合物として、例えば、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム?酸化ケイ素複合酸化物等の酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;フッ化カルシウム、フッ化バリウム、硫酸バリウム等の難溶性のイオン結晶;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶;タルク、モンモリロナイト、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、ムライト、スピネル、オリビン、セリサイト、ベントナイト、マイカ等の鉱物資源由来物質又はこれらの人造物等が挙げられる。無機化合物として、これらの物質の単体又は複合体を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。これらの無機化合物の中でも、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、又は酸化アルミニウム?酸化ケイ素複合酸化物が好ましい。
【0074】
セパレータの空孔率は、強度の観点から80体積%以下が好ましく、放電性能の観点から20体積%以上が好ましい。ここで、「空孔率」とは、体積基準の値であり、水銀ポロシメータでの測定値を意味する。
【0075】
セパレータとして、ポリマーと非水電解液とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。ポリマーとして、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリメチルメタアクリレート、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等が挙げられる。ポリマーゲルを用いると、漏液を抑制する効果がある。セパレータとして、上述したような多孔質樹脂フィルム又は不織布等とポリマーゲルを併用してもよい。
【0076】
(非水電解液)
本発明の一実施形態における非水電解液は、Si元素又はS元素と、炭素-炭素間三重結合とを有する化合物Aを含む。
【0077】
本発明の一実施形態における非水電解液は、通常、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩とをさらに含む。上記化合物Aは、通常、非水溶媒に溶解した状態で存在する。
【0078】
(化合物A)
上記化合物Aは、S元素又はSi元素と、炭素-炭素間三重結合とを有する化合物である限り特に限定されないが、例えば、化合物AがSi元素を含む場合、以下の一般式(1)で表すことができ、化合物AがS元素を含む場合、以下の一般式(2)から(4)で表すことができる。以下、Si元素を含む化合物Aを「三重結合含有ケイ素化合物」、S元素を含む化合物Aを「三重結合含有硫黄化合物」として、本発明の一実施形態について説明する。
【0079】
【0080】
上記一般式(1)で表される三重結合含有ケイ素化合物において、R1はハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数2~8のアルキニル基、炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基を示し、R2~R4はそれぞれ独立にハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数2~8のアルケニル基、炭素原子数2~8のアルキニル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基、炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基、炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基、アルキル基又はハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数6~20のアリール基を示す。
【0081】
化合物Aは、Si元素と結合したO元素を含むことが好ましい。即ち、化合物Aは、上記一般式(1)におけるR1がハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基であるか、R1はハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数2~8のアルキニル基であり、かつ、R2~R4の少なくとも一つがハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数1~8のアルコキシ基、炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基、炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基のいずれかであることが好ましい。このような構造を有する化合物Aを含むことで、本実施形態における非水電解液二次電池の初期充放電後の低温DCRの低減と、充放電サイクル容量特性の向上をさらに効果的に両立することができる。
ここに開示される技術を実施するにあたり、かかる効果が得られる理由を明らかにする必要はないが、例えば以下のことが考えられる。
上記のような化合物Aを含むと、負極にO元素を含む被膜が形成される。ここで、炭素-炭素間三重結合由来の被膜は電子伝導性や耐久性が低く、O元素を含む被膜は電子伝導性や耐久性が良好であることが多い。このため、上記のような化合物Aを用いることで、負極に形成される炭素-炭素間三重結合由来の被膜の電子伝導性や耐久性が改善され、初期充放電後の低温DCRの低減と、充放電サイクル容量特性の向上をさらに効果的に両立すると考えられる。
また、化合物AがSi元素と結合したO元素を含むことで、正極活物質の表面に化合物Aに由来するSi-O結合を含む被膜が形成される。ここで、Si元素とO元素との結合は、Si元素とC元素との結合に比べて結合エネルギーが低い。また、Si元素はフッ化物イオンと反応して強い結合を形成する。これらのことから、非水電解液中にフッ化物イオンが生じた場合には、上記被膜に含まれるSi元素とO元素との結合が切断し、Si元素とフッ化物イオンとが反応すると推定される。このような現象により、フッ化物イオンによる正極活物質の劣化が抑制され、充放電サイクル容量特性が向上すると考えられる。
【0082】
化合物Aは、アリール基を有することが好ましい。即ち、化合物Aは、上記一般式(1)におけるR2~R4の少なくとも一つが、アルキル基又はハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数6~20のアリール基であることが好ましい。アリール基としては、トリル基、フェニル基が好ましい。このような構成を有する化合物Aを含むことで、本実施形態における非水電解液二次電池の充放電サイクル容量特性をさらに向上することができる。
ここに開示される技術を実施するにあたり、かかる効果が得られる理由を明らかにする必要はないが、例えば以下のことが考えられる。
化合物Aに含まれるアリール基部分は、正極上で酸化分解してアリール基由来の被膜を形成すると考えられる。この被膜が正極活物質を保護することで充放電サイクルの経過に伴う正極活物質の割れを抑制し、充放電サイクル容量特性をさらに向上できると推測される。
【0083】
上記一般式(1)で表される三重結合含有ケイ素化合物において、R1~R4で表される炭素原子数2~8のアルキニル基としては、特に限定はなく、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル等が挙げられる。
【0084】
上記一般式(1)で表される三重結合含有ケイ素化合物において、R1~R4で表される炭素数3~8のアルキニルオキシ基としては、特に限定はなく、アセチレニルオキシ、1-プロピニルオキシ、2-プロピニルオキシ(プロパルギルオキシ)、1-ブチニルオキシ等が挙げられる。
【0085】
上記一般式(1)で表される三重結合含有ケイ素化合物において、R2~R4で表される炭素原子数1~8のアルキル基としては、特に限定はなく、メチル、エチル、プロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2-エチル-ヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、トリフルオロメチル、ペンタフルオロエチル、ヘプタフルオロプロピル等が挙げられる。
【0086】
上記一般式(1)で表される三重結合含有ケイ素化合物において、R2~R4で表される炭素原子数2~8のアルケニル基としては、特に限定はなく、ビニル、アリル、1-プロペニル、イソプロペニル、2-ブテニル、1,3-ブタジエニル、2-ペンテニル、2-オクテニル等が挙げられる。
【0087】
上記一般式(1)で表される三重結合含有ケイ素化合物において、R2~R4で表される炭素原子数1~8のアルコキシ基としては、特に限定はなく、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、第二ブトキシ、第三ブトキシ、ペントキシ、ヘキシロキシ、ヘプトキシ、オクチロキシ、2-エチル-ヘキシロキシ、2,2,2-トリフルオロエトキシ等が挙げられる。
【0088】
上記一般式(1)で表される三重結合含有ケイ素化合物において、R2~R4で表される炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基としては、特に限定はなく、ビニロキシ、アリロキシ、1-プロペロキシ、イソプロペロキシ等が挙げられる。
【0089】
上記一般式(1)で表される三重結合含有ケイ素化合物において、R2~R4で表される炭素原子数6~20のアリール基としては、特に限定はなく、フェニル基、ベンジル基、トリル基、キシリル基、メチシル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0090】
上記一般式(1)で表される三重結合含有ケイ素化合物としては、エチルトリメチルシラン、3-トリメチルシロキシ-1-プロピン、3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、[(1、1-ジメチル-2-プロピニル)オキシ]トリメチルシラン、tert-ブチルジメチル(2-プロピニルオキシ)シラン等が挙げられる。
【0091】
(三重結合含有硫黄化合物)
【化2】
(2)
【化3】
(3)
【化4】
(4)
【0092】
上記一般式(2)~(4)で表される三重結合含有硫黄化合物において、R1はハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数2~8のアルキニル基、炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基を示し、R2はハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数2~8のアルケニル基、炭素原子数2~8のアルキニル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基、炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基、炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基、アルキル基又はハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数6~20のアリール基を示す。
【0093】
化合物Aは、S元素と結合したO元素を含むことが好ましい。即ち、化合物Aは、上記一般式(2)におけるR1がハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基であるか、R1はハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数2~8のアルキニル基であり、かつ、R2がハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数1~8のアルコキシ基、炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基、炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基のいずれかであるか、上記一般式(3)又は(4)で表されることが好ましい。このような構造を有する化合物Aを含むことで、本実施形態における非水電解液二次電池の初期充放電後の低温DCRの低減と、充放電サイクル容量特性の向上をさらに効果的に両立させることができる。
かかる効果が得られる理由は不明であるが、上述した三重結合含有ケイ素化合物と同様のことが考えられる。
【0094】
化合物Aは、アリール基を有することが好ましい。即ち、化合物Aは、上記一般式(2)~(4)におけるR2がアルキル基又はハロゲン原子で置換してもよい炭素原子数6~20のアリール基であると好ましい。アリール基としては、トリル基、フェニル基が好ましい。このような構成を有する化合物Aを含むことで、本実施形態における非水電解液二次電池の充放電サイクル容量特性をさらに向上することができる。
かかる効果が得られる理由は不明であるが、上述した三重結合含有ケイ素化合物と同様のことが考えられる。また、上記化合物AがS元素とアリール基とを分子内に含有する場合、アリール基とS元素とに由来する保護被膜が安定であり、正極の劣化が抑制され、充放電サイクル容量特性が向上するものと推測される。
【0095】
上記一般式(2)~(4)で表される三重結合含有硫黄化合物において、R1又はR2で表される炭素原子数2~8のアルキニル基、及び炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基としては、上記一般式(1)のR1~R4の説明で例示した炭素数1~8のアルキニル基等が挙げられる。
【0096】
上記一般式(2)~(4)で表される三重結合含有硫黄化合物において、R2で表される炭素原子数1~8のアルキル基、炭素原子数2~8のアルケニル基、炭素原子数2~8のアルキニル基、炭素原子数1~8のアルコキシ基、炭素原子数2~8のアルケニルオキシ基、炭素原子数3~8のアルキニルオキシ基、炭素原子数6~20のアリール基としては、上記一般式(1)のR2~R4の説明で例示した炭素数1~8のアルキル基等が挙げられる。
【0097】
上記一般式(1)で表される三重結合含有硫黄化合物としては、メタンスルホン酸1-メチル-2-プロピニル、メタンスルホン酸1、1-ジメチル-2-プロピニル、メタンスルホン酸2-プロピニル、メタンスルホン酸2ブチニル、2-プロピニルベンゼンスルホネート、2-プロピニル-4-メチルベンゼンスルホネート、1-メチル-2-プロピニル-4-メチルベンゼンスルホネート、2-ブチニル-4-メチルベンゼンスルホネート、フェニルスルホン酸1-メチル-2-プロピニル等が挙げられる。
【0098】
本発明の一実施形態における非水電解液に含まれる上記化合物Aの含有量は、あまりに少ない場合にはその効果が認められ難く、またあまりに多い場合には、却って非水電解液二次電池の特性に悪影響を与える場合がある。このような事情から、非水電解液に含まれる上記化合物Aの含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.001~10質量%が好ましく、0.05~5質量%がより好ましく、0.01~2質量%がさらに好ましい。なお、本実施形態においては、化合物Aとして1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。2種を混合して用いる場合、非水電解液に含まれるすべての化合物Aの含有量を合計した値が、上述した範囲を満たすことが好ましい。
【0099】
(非水溶媒)
非水溶媒としては、一般的な非水電解液二次電池用非水電解液の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、カルボン酸エステル、リン酸エステル、スルホン酸エステル、エーテル、アミド、ニトリル等が挙げられる。非水溶媒として、これらの化合物に含まれる水素原子の一部がハロゲンに置換されたものを用いてもよい。
【0100】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等が挙げられる。これらの中でもECが好ましい。
【0101】
鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート、トリフルオロエチルメチルカーボネート、ビス(トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの中でもEMCが好ましい。
【0102】
非水溶媒として、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。環状カーボネートを用いることで、電解質塩の解離を促進して非水電解液のイオン伝導度を向上させることができる。鎖状カーボネートを用いることで、非水電解液の粘度を低く抑えることができる。環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比率(環状カーボネート:鎖状カーボネート)としては、例えば、5:95から50:50の範囲とすることが好ましい。
【0103】
電解質塩としては、公知の電解質塩から適宜選択できる。電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等が挙げられる。これらの中でもリチウム塩が好ましい。
【0104】
リチウム塩としては、LiPF6、LiPO2F2、LiBF4、LiClO4、LiN(SO2F)2等の無機リチウム塩、LiSO3CF3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)、LiC(SO2CF3)3、LiC(SO2C2F5)3等のハロゲン化炭化水素基を有するリチウム塩等が挙げられる。これらの中でも、無機リチウム塩が好ましく、LiPF6がより好ましい。
【0105】
非水電解液における電解質塩の含有量の下限としては、0.1Mが好ましく、0.3Mがより好ましく、0.5Mがさらに好ましく、0.7Mが特に好ましい。電解質塩の含有量の上限としては、例えば、2.5Mが好ましく、2Mがより好ましく、1.5Mがさらに好ましい。
【0106】
非水電解液は、化合物Aとは異なる成分として添加剤を含んでもよい。添加剤としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)等のハロゲン化炭酸エステル;リチウムビス(オキサレート)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロオキサレートボレート(LiFOB)、リチウムビス(オキサレート)ジフルオロホスフェート(LiFOP)等のシュウ酸エステル;リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のイミド塩;ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分ハロゲン化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソール、2,6-ジフルオロアニソール、3,5-ジフルオロアニソール等のハロゲン化アニソール化合物;ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物;亜硫酸エチレン、亜硫酸プロピレン、亜硫酸ジメチル、プロパンスルトン、プロペンスルトン、ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、トルエンスルホン酸メチル、硫酸ジメチル、硫酸エチレン、スルホラン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、テトラメチレンスルホキシド、ジフェニルスルフィド、4,4’-ビス(2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、4-メチルスルホニルオキシメチル-2,2-ジオキソ-1,3,2-ジオキサチオラン、チオアニソール、ジフェニルジスルフィド、ジピリジニウムジスルフィド、パーフルオロオクタン、ホウ酸トリストリメチルシリル、リン酸トリストリメチルシリル、チタン酸テトラキストリメチルシリル、モノフルオロリン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム等が挙げられる。これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0107】
非水電解液に含まれるこれらの添加剤の含有量は、非水電解液全体の質量に対して0.01質量%以上10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上7質量%がより好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。添加剤の含有量を上記範囲とすることで、サイクル性能を向上させたり、安全性をより向上させたりすることができる。
【0108】
本発明の一実施形態では、非水電解液と固体電解質とを併用してもよい。固体電解質としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム等のイオン伝導性を有し、常温(例えば15~25℃)において固体である任意の材料から選択できる。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、酸窒化物固体電解質、ポリマー固体電解質等が挙げられる。
【0109】
本実施形態に係る非水電解液二次電池は、高い充電電圧で用いることができる。例えば、当該非水電解液二次電池は通常使用時において、4.25V以上4.95V以下の電圧となる条件で使用することができ、4.3V以上4.8V以下の電圧となる条件で使用することもできる。
なお、「4.25V以上の電圧となる条件で使用する」とは、充電終止電圧が4.25V以上となるように充電器で充電する場合に加え、車載用等の用途において、非水電解液二次電池の電圧が4.25V以上である際にも回生エネルギーを許容するように制御する場合も含む。また、「通常使用時」とは、当該非水電解液二次電池について推奨され、又は指定される充電条件を採用して当該非水電解液二次電池を使用する場合を意味する。例えば、黒鉛を負極活物質とする非水電解液二次電池では、設計にもよるが、充電終止電圧が4.2Vのとき、正極電位は約4.3V(vs.Li/Li+)である。
このような充電終止電圧で使用することで、充放電サイクル容量特性を向上させる本発明の効果を享受しつつ、非水電解液二次電池のエネルギー密度を向上することができる。
【0110】
<非水電解液二次電池の製造方法>
本実施形態の非水電解液二次電池は、以下の方法により製造することが好ましい。すなわち、本発明の一実施形態に係る非水電解液二次電池の製造方法は、
高Ni複合酸化物を含む正極を準備すること(正極準備工程)、及び
化合物Aを含む非水電解液を準備すること(非水電解液準備工程)
を備える。
【0111】
(正極準備工程)
上記正極準備工程においては、高Ni複合酸化物を含む正極合剤ペーストを用いて正極を作製する。上記正極合剤ペーストは、通常、正極活物質以外に、バインダ及び分散媒を含み、必要に応じさらにその他の成分を含む。上記分散媒としては、水系バインダを用いる場合には水が、非水系バインダを用いる場合には非水溶媒が用いられる。この非水溶媒としては、例えばNMPが好ましく用いられる。正極合剤ペーストは、上記の各成分を混合することにより得ることができる。この正極合剤ペーストを正極基材表面に塗布し、乾燥させることにより、正極が得られる。
【0112】
上記正極合剤ペーストの塗布方法としては特に限定されず、ローラーコーティング、スクリーンコーティング、スピンコーティング等の公知の方法により行うことができる。
【0113】
(非水電解液準備工程)
上記非水電解液準備工程は、非水電解液の各成分を混合することにより行うことができる。即ち、例えば非水溶媒に、化合物A及び電解質塩等の成分を添加し、これらの成分を溶解させることにより、非水電解液が得られる。
【0114】
当該製造方法は、上記正極準備工程及び非水電解液準備工程の他、以下の工程等を有していてもよい。すなわち、当該製造方法は、例えば、負極を作製する工程、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を容器(ケース)に収容する工程、並びに非水電解液を容器に注入する工程等を備えることができる。通常、電極体を容器に収容した後、非水電解液を容器に注入するが、この順番は逆であってもよい。これらの工程の後、注入口を封止することにより非水電解液二次電池を得ることができる。
【0115】
<その他の実施形態>
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。例えば、上記正極又は負極において、中間層を設けなくてもよい。また、当該非水電解液二次電池の正極において、正極合剤や負極合剤は明確な層を形成していなくてもよい。例えば上記正極は、メッシュ状の正極基材に正極合剤が担持された構造などであってもよい。
【0116】
また、上記実施の形態においては、非水電解液二次電池がリチウムイオン二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解液二次電池であってもよい。その他の非水電解液二次電池としては、ナトリウムイオン二次電池等が挙げられる。
【0117】
図1に、本発明に係る非水電解液二次電池の一実施形態である矩形状の非水電解液二次電池1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。
図1に示す非水電解液二次電池1は、電極体2が容器3に収納されている。電極体2は、正極合剤を備える正極と、負極合剤を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。また、容器3には、非水電解液が注入されている。
【0118】
本発明に係る非水電解液二次電池の構成については特に限定されるものではなく、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。本発明は、上記の非水電解液二次電池を複数備える蓄電装置としても実現することができる。この場合、蓄電装置に含まれる少なくとも一つの非水電解液二次電池に対して、本発明の技術が適用されていればよい。蓄電装置の一実施形態を
図2に示す。
図2において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解液二次電池1を備えている。蓄電装置30は、二以上の蓄電素子1を電気的に接続するバスバ(図示せず)、二以上の蓄電ユニット20を電気的に接続するバスバ(図示せず)を備えていてもよい。蓄電ユニット20又は蓄電装置30は、一以上の蓄電素子の状態を監視する状態監視装置(図示せず)を備えていてもよい。上記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例】
【0119】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0120】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質粒子としてLiNi1/2Co1/5Mn3/10O2、導電剤としてアセチレンブラック、及びバインダとしてポリフッ化ビニリデンを用いた。正極活物質粒子、導電剤、及びバインダの比率をそれぞれ93質量%、4質量%及び3質量%とした混合物に、N-メチル-ピロリドン(NMP)を適量加えて粘度を調整し、正極合剤ペーストを作製した。この正極合剤ペーストを、厚さ15μmのアルミニウム箔の両面に、未塗布部(正極合剤層非形成領域)を残して塗布し、乾燥することにより正極活物質層を作製した。その後、ロールプレスを行い、正極を作製した。正極の厚さは40μmであった。
【0121】
(負極の作製)
負極活物質として黒鉛、バインダとしてスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、及び増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。負極活物質、バインダ及び増粘剤をそれぞれ98質量%、1.0質量%及び1.0質量%とした混合物に水を適量加えて粘度を調整し、負極合剤ペーストを作製した。この負極合剤ペーストを、厚さ10μmの銅箔の両面に、未塗布部(負極合剤層非形成領域)を残して塗布し、乾燥することにより負極活物質層を作製した。その後、ロールプレスを行い、負極を作製した。負極の厚さは50μmであった。
【0122】
(セパレータの準備)
セパレータとして厚さが20μmのポリエチレン製微多孔膜を用いた。ポリエチレン製微多孔膜の透気度は、210秒/100ccであった。
【0123】
(非水電解液の準備)
エチレンカーボネート(EC)及びエチルメチルカーボネート(EMC)をそれぞれ25体積%及び75体積%となるように混合した溶媒に、塩濃度が1.0MとなるようにLiPF6を溶解させた。さらに、ビニレンカーボネートを含有量が非水電解液全体の質量に対して0.5質量%となるように、及び化合物Aとして下記式(5)で表される化合物を含有量が非水電解液全体の質量に対して0.5質量%となるようにそれぞれ添加することにより非水電解液を調製した。なお、式(5)中の「Me」はメチル基を表す。
【0124】
(非水電解液二次電池の作製)
上記手順にて得られた正極と、負極と、セパレータとを積層して巻回した。その後、正極の正極活物質層非形成領域及び負極の負極活物質層非形成領域を正極リード及び負極リードにそれぞれ溶接して容器に封入し、容器と蓋板とを溶接後、上記にて得られた非水電解液を注入して封口した。この様にして、実施例1の非水電解液二次電池を作製した。
【0125】
[実施例2~4、比較例1~4]
用いた化合物Aの種類を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4及び比較例1~4の各非水電解液二次電池を得た。なお、表の欄中の「-」は相当する化合物を用いていないこと、又は相当する試験を実施していないことを示す。
【0126】
【化5】
(5)
【化6】
(6)
【化7】
(7)
【化8】
(8)
【化9】
(9)
【化10】
(10)
【化11】
(11)
【0127】
[評価]
得られた非水電解液二次電池について、以下の方法で評価を行った。
【0128】
(初期充放電後の直流抵抗(DCR)の測定)
各非水電解液二次電池について、25℃の恒温槽中で、充電電流900mAにて4.25Vまで充電し、さらに4.25Vの定電圧で合計3時間充電した後、放電電流900mAにて2.75Vまで定電流放電を行うことにより初期放電容量を測定した。さらに、初期放電容量の測定後の各非水電解液二次電池について、充電電流900mAにて3.68Vまで充電し、さらに3.65Vの定電圧で合計3時間充電することにより電池の充電深度(SOC)を50%に設定し、-10℃の環境下で5時間放置した後に、放電電流90mAで定電流放電した際の放電開始10秒後の電圧(E1)、180mAで放電した際の放電開始10秒後の電圧(E2)、270mAで放電した際の放電開始10秒後の電圧(E3)をそれぞれ測定した。これらの測定値(E1、E2、E3)を用いて、直流抵抗を算出した。具体的には、横軸を電流、縦軸を電圧とするグラフ上に、上記測定値E1、E2、E3をプロットし、それら3点を最小二乗法による回帰直線(近似直線)により近似し、その直線の傾きを-10℃でのSOCが50%における直流抵抗(DCR)とした。これを初期充放電後の低温DCRとした。そして、化合物Aを加えていない比較例1を基準として、比較例1に対する各非水電解液二次電池の低温DCR比率を算出した。
【0129】
(充放電サイクル容量試験)
各非水電解液二次電池について、45℃の恒温槽中で、充電電流900mAにて4.25Vまで充電し、さらに4.25Vの定電圧で合計3時間充電した後、放電電流900mAにて2.75Vまで定電流放電する充放電サイクル容量試験を300サイクル行った。25℃に冷却後、初期放電容量を測定した条件と同様の方法で充放電サイクル容量試験後の放電容量を確認した。そして、化合物Aを加えていない比較例1を基準として、比較例1に対する各非水電解液二次電池の放電容量比率を算出した。
【0130】
測定された初期充放電後の低温DCR比率、並びに充放電サイクル容量試験後の放電容量比率を表1に示す。
【0131】
【0132】
表1から明らかなように、S元素又はSi元素と、炭素-炭素間三重結合とを分子内に含有する化合物Aを含む実施例1~4に係る非水電解液二次電池は、初期充放電後の低温DCRが低く、充放電サイクル容量試験後の放電容量比率が良好であり、充放電サイクル容量特性に優れることが確認された。
【0133】
比較例2に係る非水電解液二次電池は、初期充放電後の低温DCRが高く、充放電サイクル容量試験後の放電容量比率も実施例1~4に比べて低いことが確認された。また、比較例3及び4に係る非水電解液二次電池は、充放電サイクル容量試験後の放電容量比率が、却って悪化することが確認された。
高Ni複合酸化物を含む正極を備えた非水電解液二次電池において、初期充放電後の低温DCR低減と、充放電サイクル容量特性を両立させることは、S元素又はSi元素と、炭素-炭素間三重結合とを分子内に含有する化合物Aを用いたときに初めて生じる効果であると言える。
【0134】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0135】
1 蓄電素子
2 電極体
3 ケース
4 正極端子
41 正極リード
5 負極端子
51 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置