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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】電子部品及び電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 2/24 20060101AFI20240123BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20240123BHJP
   H01C 1/04 20060101ALI20240123BHJP
   H01C 17/02 20060101ALI20240123BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20240123BHJP
   H01M 50/102 20210101ALI20240123BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240123BHJP
   B23K 26/364 20140101ALI20240123BHJP
【FI】
H01G2/24
H01G13/00 321J
H01C1/04
H01C17/02
H01F27/00 Q
H01M50/102
B23K26/00 B
B23K26/364
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019098992
(22)【出願日】2019-05-28
(65)【公開番号】P2020194858
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2022-04-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】船戸 智貴
(72)【発明者】
【氏名】仲田 光一
【審査官】木下 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-097068(JP,A)
【文献】特開2011-228470(JP,A)
【文献】特開昭60-224588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 2/24
H01G 13/00
H01C 1/04
H01C 17/02
H01F 27/00
H01M 50/10
B23K 26/364
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の外装ケースを有し、
前記外装ケースの外表面に設けられ、内表面に不規則な凹凸を有する溝部で形作られる表示と、
前記溝部の開口を塞ぐ被覆体と、
前記被覆体で開口を塞がれた前記溝部から分離した状態で、当該溝部の閉空間に閉じ込められている小塊と、
を備えること、
を特徴とする電子部品。
【請求項2】
前記外装ケースを覆う絶縁コーティング層を備え、
前記被覆体は、前記溝部の直上を覆う前記絶縁コーティング層の一部領域であること、
を特徴とする請求項1記載の電子部品。
【請求項3】
前記小塊は、前記外装ケースに対してレーザ光を照射して前記溝部を形作ることで発生するスパッタ、バリ又は両方であること、
を特徴とする請求項1記載の電子部品。
【請求項4】
コンデンサ、キャパシタ又は電池であること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電子部品。
【請求項5】
外表面が絶縁コーティング層で覆われた金属製の外装ケースを有する電子部品の製造方法であって、
前記外装ケースの外表面に、溝部で形作られる表示を形成するマーキング工程を含み、
前記マーキング工程では、前記絶縁コーティング層を透過するレーザ光を前記外装ケースの外表面に向けて照射して、前記外装ケースの外表面に溝部を形成すると共に、前記絶縁コーティング層で開口を塞がれた前記溝部の閉空間内で、前記外装ケースから小塊を飛散させて分離させた状態で、前記閉空間内に前記小塊を閉じ込めること、
を特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項6】
前記マーキング工程では、前記溝部内に前記小塊としてバリ、スパッタ又は両方を発生させること、
を特徴とする請求項5記載の電子部品の製造方法。
【請求項7】
前記電子部品は、コンデンサ、キャパシタ又は電池であること、
を特徴とする請求項5又は6記載の電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示が形成された外装ケースで覆われた電子部品及び当該電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品として、例えばコンデンサ、キャパシタ、電池、コイル、トランス等が普及している。この電子部品は、素子を収めた外装ケースを備えている。素子は、電子部品に求められる主たる機能を発現する構成要素であり、例えばコンデンサであれば、陽極箔と陰極箔と電解質とにより成り、静電容量により電荷の蓄電及び放電を行うコンデンサ素子である。外装ケースは、素子を外部環境から保護し、また外部環境を素子中の液体や素子から発生したガス等から保護する。
【0003】
外装ケースとして金属製が選択されることがある。但し、近年の回路は各種部品の密集度合いが高くなっており、金属製の外装ケースは、電子部品が実装された回路基板や他の部品に接触して回路のショートを引き起こす虞がある。また、金属製の外装ケースは、腐食や変色が生じてしまい、電子部品の見栄えが悪化する虞がある。そこで、通常、外装ケースの外表面は絶縁コーティング層で覆われている。
【0004】
このような外装ケースには、電子部品の製品情報を使用者に報知するために、電子部品の製品情報を表す表示が形成される。表示は、文字、数字、図形、模様等の記号により成り、電子部品がコンデンサであれば極性、定格電圧、静電容量、商標、製造番号などを示している。
【0005】
表示の形成方法として、不透明な絶縁コーティング層のみを記号の形状に合わせてレーザ光にて除去する方法がある(例えば特許文献1参照)。この方法では、外装ケースの地色と絶縁コーティング層の色との相違により、表示が視認可能となる。また、表示の形成方法として、絶縁コーティング層と共に外装ケースの外表面を記号の形状に合わせてレーザ光にて掘り込む方法がある(例えば特許文献2参照)。この方法では、外装ケースの外表面と彫り込み部分から反射してくる光量の相違により、表示が視認可能となる。
【0006】
【文献】特開昭55-110001号公報
【文献】特開2002-346633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
表示の形成方法として、絶縁コーティング層のみを記号の形状に合わせて除去する方法を選択しても、絶縁コーティング層と共に外装ケースの外表面を記号の形状に合わせて掘り込む方法を選択しても、表示の箇所において外装ケースの外表面が外部に露出してしまうという問題がある。
【0008】
表示の箇所において外装ケースの外表面が外部に露出してしまうと、表示が消失することはないが、露出部分が腐食したり、変色したりして見栄えが悪化する。また、露出部分が腐食したり、変色したりすると、例えばカメラとOCR処理による電子部品の製品情報の機械的な読み取りができなくなる虞がある。そうすると、見栄えが悪化するだけでなく、電子部品の検査効率も低下してしまう。
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決するため、表示の腐食や変色を抑制した電子部品及び電子部品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る電子部品は、金属製の外装ケースを有し、前記外装ケースの外表面に設けられた溝部で形作られる表示と、前記溝部の開口を塞ぐ被覆体と、を備えること、を特徴とする。
【0011】
前記外装ケースを覆う絶縁コーティング層を備え、前記被覆体は、前記溝部の直上を覆う前記絶縁コーティング層の一部領域であるようにしてもよい。
【0012】
前記被覆体で開口を塞がれた前記溝部の閉空間に小塊を備えるようにしてもよい。
【0013】
前記小塊は、前記外装ケースに対してレーザ光を照射して前記溝部を形作ることで発生するスパッタ、バリ又は両方であるようにしてもよい。
【0014】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る電子部品の製造方法は、外表面が絶縁コーティング層で覆われた金属製の外装ケースを有する電子部品の製造方法であって、前記外装ケースの外表面に、溝部で形作られる表示を形成するマーキング工程を含み、前記マーキング工程では、前記絶縁コーティング層を透過するレーザ光を前記外装ケースの外表面に向けて照射して、前記外装ケースの外表面に溝部を形成すること、を特徴とする。
【0015】
前記マーキング工程では、前記溝部内にバリ、スパッタ又は両方を発生させるようにしてもよい。
【0016】
前記電子部品は、コンデンサ、キャパシタ又は電池であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電子部品に形成した表示の腐食及び変色を防止でき、表示の見栄えが維持できる。また腐食及び変色により表示の機械的な読み取りができなくなる事態を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態に係るコンデンサの側面図であり、一部破断させて内部構造を示している。
図2】本実施形態に係るコンデンサの外観斜視図である。
図3】外装ケースに形成された表示の断面図である。
図4】外装ケースに形成された表示に入る光の光路を示す模式図である。
図5】表示を撮影した写真である。
図6】外装ケースに形成された溝部の例を示す断面図である。
図7】外装ケースに形成された溝部の例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係るコンデンサ及び製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものでない。
【0020】
図1に示すコンデンサ1は、電子部品の一例であり、リード形及び巻回形の電解コンデンサである。コンデンサ1は素子2を備えている。素子2は、電子部品に求められる主たる機能を発揮する構成要素である。コンデンサ1の場合、素子2は、静電容量により電荷の蓄電及び放電を行う。コンデンサ1の場合、素子2は、長尺の陽極箔、陰極箔及び電解質を備えている。陽極箔と陰極箔はセパレータを介して対向して積層し、巻回されている。電解質は陽極箔と陰極箔との間に挟まれている。少なくとも陽極箔の表面は拡面化され、更に誘電体皮膜が形成されている。
【0021】
このコンデンサ1は、素子2の他、外装ケース3、リード端子4及び封口体6を備えている。外装ケース3は、一端が開口した有底筒状であり、素子2を収容している。封口体6は、例えばゴム又はゴムと硬質基板との積層体であり、素子2が外装ケース3に収納された状態で外装ケース3に嵌め込まれ、外装ケース3の開口を封止している。この封口体6は、外装ケース3の周面が加締められることで、外装ケース3の開口位置に固定されている。リード端子4は、ステッチ、コールドウェルド、超音波溶接又はレーザ溶接などによって、素子2の陽極箔及び陰極箔に接続され、封口体6から引き出される。このリード端子4は、コンデンサ1が実装される回路との接点であり、コンデンサ1の実装時には、リフロー半田付け等によって回路基板に電気的に接続される。
【0022】
図2に示すように、コンデンサ1には、外部から視認可能な表示5が形成されている。例えば、表示5は、外装ケース3の底面31に形成されている。底面31は、封口体6で塞がれて更にリード端子4が突き出た端面とは反対の端面である。この表示5は、コンデンサ1の製品情報を報知する手段であり、文字、数字、図形、模様等の記号により成り、極性、定格電圧、静電容量、商標、製造番号などを示している。
【0023】
図3は、表示5が形成された外装ケース3の外表面付近の断面図である。外装ケース3は金属製であり、例えばアルミニウム、アルミニウムやマンガンを含有するアルミニウム合金、又はステンレス製である。外装ケース3の外表面は、透明な絶縁コーティング層32で被覆されている。外装ケース3の外表面は絶縁コーティング層32を通じて視認可能である。絶縁コーティング層32は、外装ケース3が回路や回路上の他の部品の通電部分と接触してショートすることを阻止し、また外装ケース3が腐食したり変色したりしないように外部環境から保護している。この絶縁コーティング層32は、例えば樹脂製であり、ポリエチレンテレフタレート(PET)、エポキシ樹脂又はナイロン製等である。また、絶縁コーティング層32としては、後述するマーキング工程において用いられるレーザ光の各波長に対して透過率が80%以上のものが好ましい。透過率が80%未満の場合、レーザ光を絶縁コーティング層32が吸収し、発熱により絶縁コーティング層32が除去される傾向にある。
【0024】
表示5は、外装ケース3の外表面に形成される溝部51により形作られている。溝部51は、外装ケース3の外表面よりも一段掘り下げられた溝である。外装ケース3の外表面で反射して人間の網膜やカメラの撮像素子に入光する光量と、溝部51で反射して人間の網膜やカメラの撮像素子に入光する光量との相違により、外装ケース3の外表面と溝部51とに明暗が発生し、溝部51が表示5として浮かび上がる。この溝部51は、被覆体33によって開口が塞がれており、溝部51は、溝部51の内表面と被覆体33とによって囲まれて閉空間となっている。本実施形態では、溝部51の直上に存続する絶縁コーティング層32が被覆体33を兼ねている。
【0025】
製造過程において、絶縁コーティング層32は、表示5を形成するマーキング工程前から外装ケース3を被覆している。従って、マーキング工程では、絶縁コーティング層32を破ることなく、溝部51を形成し、溝部51の直上に絶縁コーティング層32を存続させておく。例えば、この溝部51は、マーキング工程において、絶縁コーティング層32を透過して外装ケース3の外表面に届くレーザ光を用いて加工される。
【0026】
レーザ光は、絶縁コーティング層32を破壊せず、外装ケース3の外表面を熱により、溶融及び昇華させて溝部51を形成するものであり、絶縁コーティング層32を透過し、外装ケース3の外表面で吸収される波長を有する。即ち、絶縁コーティング層32を破壊せずにレーザ光を透過させ、外装ケース3に溝部51を形成するため、例えばファイバーレーザ、YVOレーザ、UVレーザ、YAGレーザ等を選択し、また出力、パルス幅、スキャンスピード、パルス周波数、スポットサイズ等のビームプロファイルを調整しておく。
【0027】
マーキング工程では、スパッタ52、バリ53又はその両方を発生させ、被覆体33で閉じられた溝部51の閉空間にスパッタ52、バリ53又はその両方を閉じ込めておく。スパッタ52及びバリ53は、レーザ照射により外装ケース3から飛散した小塊であり、表面に凹凸を有する。スパッタ52やバリ53の存在によって、外装ケース3の表面と溝部51の反射面の表面粗さの差を大きくできる。表面粗さの差を大きくすることで、明暗が明確に生じる。
【0028】
レーザ光の照射時、外装ケース3の外表面がレーザ光のエネルギーを受けて溶融し、また蒸気ガスが発生する。この蒸気ガスによって溶融金属が外装ケース3から分離して吹き飛ばされる。吹き飛ばされた溶融金属は、溝部51の開口が絶縁コーティング層32によって閉じられていることから、溝部51の閉空間で冷え固まり、スパッタ52として溝部51の閉空間に残存する。また、溶融金属が外装ケース3から離れずに延びて冷え固まり、バリ53として溝部51の閉空間に残存する。バリ53は経時的に溝部51の内表面から分離することもある。
【0029】
レーザ光の照射時には、絶縁コーティング層32の上にレーザ光が透過する硬質な平板を載置してもよい。平板としては例えばガラス板が挙げられる。レーザ光の照射により外装ケース3の外表面に蒸気ガスが発生すると、溝部51の閉空間の圧力が上昇し、絶縁コーティング層32が膨出する。絶縁コーティング層32の膨出部分は、コンデンサ1の実装時等に外部構造物に引っ掛かり易く、絶縁コーティング層32が破れてしまう虞がある。平板を絶縁コーティング層32の上に載置しておくことで、溝部51の閉空間の温度が下がり、それに伴い溝部51の閉空間の圧力が低下するまで、絶縁コーティング層32を平坦に留まらせておくことができる。
【0030】
また、レーザ光の照射時には、絶縁コーティング層32に対してガスを吹き付けておくようにしてもよい。絶縁コーティング層32に吹き付けられたガスは、絶縁コーティング層32を押さえ込み、溝部51の閉空間の温度が下がり、それに伴い溝部51の閉空間の圧力が低下するまで、絶縁コーティング層32を平坦に留まらせておくことができる。ガス110としては、レーザ光照射によって達する溝部51の閉空間の温度よりも低温度が望ましい。溝部51の閉空間の温度を早く下げ、溝部51の閉空間の圧力を早く低下させることができる。従って、ガスは、絶縁コーティング層32を劣化させない程度に冷却されていることがより好ましい。
【0031】
このようなコンデンサ1では、絶縁コーティング層32が被覆体33として溝部51を被覆しているので、外装ケース3の外表面に形成された表示5が露出せず、表示5の腐食及び変色が抑制される。従って、コンデンサ1は見栄えが維持されており、また表示5の視認性及び識別性が悪化せずに維持されている。
【0032】
また、絶縁コーティング層32が被覆体33として溝部51を被覆しているので、溝部51の形成にレーザ加工を選択した場合に生じるスパッタ52やバリ53が溝部51の閉空間に閉じ込められる。コンデンサ1の実装後、スパッタ52やバリ53が溝部51から基板へ向けて脱落すると、回路をショートさせる虞がある。しかしながら、スパッタ52やバリ53は溝部51の閉空間に閉じ込められているので、実装後にコンデンサ1から脱落することはなく、ショートを防止できる。
【0033】
また、溝部51の形成時にスパッタ52やバリ53を抑制せずにレーザ加工し、スパッタ52やバリ53を溝部51の閉空間に閉じ込めている。即ち、このコンデンサ1は、溝部51の閉空間にスパッタ52やバリ53を備え、また溝部51の開口を閉じる被覆体33を備えるものとなる。図4は、表示5に入る光の光路を示す模式図である。図4に示すように、本実施形態に係るコンデンサ1では、絶縁コーティング層32を透過して溝部51に入った光は、スパッタ52及びバリ53により乱反射する。
【0034】
スパッタ52及びバリ53による乱反射が発生することにより、溝部51では、光の吸収、散乱及び減衰が外装ケース3の外表面で発生する場合と比べて大きくなる。そのため、人間の網膜やカメラの撮像素子へ届く光量は、溝部51を経由する場合と外装ケース3の外表面を経由する場合とで異なるものとなる。これにより、外装ケース3の外表面と表示5の明暗が大きく相違し、表示5の視認性及び識別性が向上する。
【0035】
図5は、表示5を形成したコンデンサ1の写真であり、(a)のコンデンサ1ではビームプロファイルを調整して、(b)のコンデンサ1よりも多くのスパッタ52やバリ53を発生させて溝部51と被覆体33によって形成される閉空間内に閉じ込めてある。具体的には、(a)及び(b)のコンデンサ1の両方とも、外装ケース3はアルミ番手がA1100のアルミニウム製である。絶縁コーティング層32は、ポリエチレンテレフタレートであり、樹脂厚が8μmである。レーザ光を照射する装置は、1064nmの波長のファイバーレーザ装置を用いた。ピークパワーは6.0kW、スキャンスピードは200mm/sec、パルス周波数は20kHz、スポット径の理論値は60μm、照射回数は1回である。
【0036】
(a)及び(b)のコンデンサ1に対するレーザ照射条件の違いは、(a)のコンデンサ1に対してパルス幅が100nsであるのに対し、(b)のコンデンサ1に対してパルス幅が30nsである点である。このパルス幅の相違により、スパッタ52及びバリ53の発生量が異なり、(a)のコンデンサ1のほうが(b)のコンデンサ1よりもスパッタ52及びバリ53の発生量が多くなる。
【0037】
ここで、コンデンサ1の写真は、例えばリング照明などによって光源とカメラの位置を概略一致させ、即ち正反射方向にカメラを置いて撮影された。そのため、(a)のコンデンサ1では、スパッタ52及びバリ53による乱反射がより複雑に発生し、溝部51を経由して正反射方向のカメラへ届く光量は、外装ケース3の外表面を経由して正反射方向のカメラへ届く光量よりも小さくなる。従って、(a)のコンデンサ1においては、外装ケース3の外表面と表示5の明暗が大きく相違し、表示5の視認性及び識別性が向上していることがわかる。
【0038】
このように、コンデンサ1は、金属製の外装ケース3を有し、外装ケース3の外表面に設けられた溝部51で形作られる表示5と、溝部51の開口を塞ぐ絶縁コーティング層32とを備えるようにした。これにより、表示5が露出せず、表示5の腐食や変色が抑制され、良好な見栄えを維持できる。また、表示5が露出せず、表示5の腐食や変色が抑制され、機械的な読み取りが容易となり、コンデンサ1の検査効率が向上する。
【0039】
溝部51の開口を塞ぐ被覆体33として絶縁コーティング層32を例に挙げて説明したが、溝部51の開口を塞ぐことができれば、これに限らない。例えば、絶縁コーティング層32を破って溝部51を形成した後、この溝部51の開口を塞ぐように、絶縁コーティング層32と同種又は異種の材質により成る層をコーティングするようにしてもよい。この溝部51の形成後におけるコーティング工程においては、溝部51に内部空間を確保しなくとも、溝部51に、絶縁コーティング層32と同種又は異種の材料を充填するようにしてもよい。
【0040】
また、コンデンサ1は、被覆体33で開口を塞がれた溝部51に、スパッタ52、バリ53又は両方を収容するようにした。これにより、表示5から反射する光量は、外装ケース3の外表面よりも少なくなり、外装ケース3の外表面と表示5との明暗がはっきりと表われ、表示5の視認性及び識別性が向上する。しかも、被覆体33で溝部51の開口が塞がれているので、スパッタ52、バリ53又は両方が溝部51から飛び出して回路基板に向けて脱落することはないから、回路のショートを防止することもできる。
【0041】
尚、溝部51の内部空間で光を乱反射させる小塊として、スパッタ52及びバリ53を挙げたが、光を乱反射させるように表面が粗い微粒子であれば、スパッタ52及びバリ53に限られない。スパッタ52及びバリ53以外の小塊は、例えば、絶縁コーティング層32を破って溝部51を形成してから、溝部51に入れ込み、被覆体33を溝部51の直上に形成するようにして、溝部51の内部空間に閉じ込めるようにすればよい。
【0042】
表示5の腐食や変色を抑制する観点では、溝部51が被覆体33で塞がれていればよい。即ち、スパッタ52、バリ53又は両方等の小塊の存在及び不存在、また量の多い少ないは問わず、他の方法で視認性及び識別性を向上させてもよい。例えば、図6及び図7に示すように、溝部51の内表面形状によって表示5の発色性を高めるようにしてもよい。
【0043】
図6に示すコンデンサ1では、溝部51の内表面に、外装ケース3の外表面よりも不規則で綿密な凹凸をレーザ加工により形成している。このコンデンサ1では、溝部51の内表面で光の乱反射が多く起こり、外装ケース3の外表面と溝部51とで明暗が生じる。例えば、正反射方向に向かう光量は外装ケース3の外表面を経由する場合よりも溝部51の内表面を経由するほうが少なくなる。結果として、正反射方向に沿って表示5を観察した場合、表示5は外装ケース3の外表面よりも黒発色して、表示5が明瞭に浮かび上がる。また、図7に示すコンデンサ1では、溝部51の内表面に対して、外装ケース3の外表面よりも均一で平滑になるようにレーザ加工している。このコンデンサ1では、外装ケース3の外表面よりも溝部51の内表面で鏡面反射が多く起こり、外装ケース3の外表面と溝部51とで明暗が生じる。例えば、正反射方向に向かう光量は外装ケース3の外表面を経由する場合よりも溝部51の内表面を経由するほうが多くなる。結果として、正反射方向に沿って表示5を観察した場合、表示5は外装ケース3の外表面よりも白発色して、表示5が明瞭に浮かび上がる。
【0044】
また、表示5の視認性及び識別性は、例えば溝部51を深くすることでも達成できる。但し、溝部51の閉空間にスパッタ52、バリ53又は両方等の小塊を閉じ込める場合、溝部51を深くするような高いレーザ出力は必要ない。従って、レーザ出力の抑制効果が得られ、絶縁コーティング層32を破壊しないためのレーザ出力等のレーザ印字を実現させるための条件の設定が容易となる。或いは、絶縁コーティング層32の破壊を容易に抑制することができる。
【0045】
以上のように、電子部品の例としてコンデンサ1を説明したが、これに限られない。金属製の外装ケース3を有し、外装ケース3の外表面に設けられた溝部51で形作られる表示5を備える電子部品であれば、溝部51の開口を塞ぐ絶縁コーティング層32を備えることにより、表示5が露出せず、表示5の腐食や変色が抑制される。電子部品は、金属製の外装ケース3を有するものであれば、何れでも適用でき、コンデンサ1の他、キャパシタ、電池、コイル、トランス等が挙げられる。
【0046】
そして、これら電子部品であっても、外装ケース3の外表面に溝部51で形作られる表示5を形成するマーキング工程を含み、マーキング工程では、絶縁コーティング層32を透過するレーザ光を外装ケース3の外表面に向けて照射すればよい。このような電子部品の製造方法では、溝部51の開口を閉じる工程を経ることなく、絶縁コーティング層32を被覆体33として活用し、溝部51の開口を閉じることができる。
【0047】
従って、絶縁コーティング層32を透過するレーザ光を照射するというマーキング工程を経るだけで、第1に、表示5の腐食や変色を抑制できる。第2に、スパッタ52やバリ53の回路基板への脱落を防止できる。第3に、スパッタ52やバリ53の外部への流出を抑制し、コンタミネーションを防止できる。第4に、スパッタ52やバリ53といった光を乱反射させる小塊を溝部51に閉じ込めて表示5の視認性及び識別性を向上させることができる。第5に、スパッタ52やバリ53を活用するので、表示5の視認性及び識別性の向上のために溝部51を深く掘ったりする必要はなく、レーザ光の出力を下げることができ、絶縁コーティング層32の破壊も抑制できる。
【0048】
また、マーキング工程では、溝部51を形成する領域と対面する絶縁コーティング層32を、外装ケース3に沿って平坦になるように押さえ付けておくようにした。即ち、溝部51を形成する領域と対面する絶縁コーティング層32に、レーザ光が透過する平板を載置するようにし、または溝部51を形成する領域と対面する絶縁コーティング層32にガスを吹き付けるようにした。これにより、被覆体33は外装ケース3に沿って平坦となり、膨出が少なく、外部構造物等に引っ掛けて、溝部51を開口させてしまう虞を低下させることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 コンデンサ
2 素子
3 外装ケース
31 端面
32 絶縁コーティング層
33 被覆体
4 リード端子
5 表示
51 溝部
52 スパッタ
53 バリ
6 封口体
100 平板
110 ガス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7