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特許7423914皮膜付きガラスおよびその製造方法並びに改質されたガラス基材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】皮膜付きガラスおよびその製造方法並びに改質されたガラス基材
(51)【国際特許分類】
   C03C 23/00 20060101AFI20240123BHJP
   C03C 17/245 20060101ALI20240123BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C03C23/00 Z
C03C17/245 Z
A61J1/05 311
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019110916
(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公開番号】P2020203803
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】和田 正道
(72)【発明者】
【氏名】石川 篤
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-341172(JP,A)
【文献】国際公開第2016/163426(WO,A1)
【文献】特表2016-510288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-23/00,
A61J 1/00-19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基材と、該ガラス基材の少なくとも一部の表面に設けられた皮膜と、を有する皮膜付きガラスにおいて、
前記皮膜付きガラスは、前記ガラス基材の前記皮膜側の表面から深さ方向に100nmの深さまでの領域に改質層を含み、
該改質層は、少なくとも一部に微結晶構造を有し、
前記皮膜が、ケイ素非含有かつフッ素含有のダイヤモンド様炭素膜又は非結晶性フッ素樹脂膜であることを特徴とする皮膜付きガラス。
【請求項2】
ガラス基材と、該ガラス基材の少なくとも一部の表面に設けられた皮膜と、を有する皮膜付きガラスにおいて、
前記皮膜付きガラスは、前記ガラス基材の前記皮膜側の表面から深さ方向に100nmの深さまでの領域に改質層を含み、
該改質層のBの含有量は、酸化物換算の質量%で、前記改質層よりも深い領域のそれよりも少なく、かつ、前記改質層のNaOの含有量は、酸化物換算の質量%で、前記改質層よりも深い領域のそれよりも少なく、
前記改質層は、酸化物換算の質量%で、少なくとも、Bを1~8質量%、NaOを1~6質量%、及びSiOを80質量%以上含み、
前記改質層よりも深い領域は、酸化物換算の質量%で、少なくとも、Bを9~15質量%、NaOを3~9質量%、及びSiOを70質量%以上含み、
前記皮膜が、ケイ素非含有かつフッ素含有のダイヤモンド様炭素膜又は非結晶性フッ素樹脂膜であることを特徴とする皮膜付きガラス。
【請求項3】
前記微結晶構造が炭素を含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膜付きガラス。
【請求項4】
前記改質層が炭素を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の皮膜付きガラス。
【請求項5】
前記皮膜の膜厚は、1~70nmであることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の皮膜付きガラス。
【請求項6】
前記ガラス基材は、膨張係数が3.2×10-6/K以上3.3×10-6/K以下のホウケイ酸ガラスであるか、又は膨張係数が4.8×10-6/K以上5.6×10-6/K以下のホウケイ酸ガラスであることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の皮膜付きガラス。
【請求項7】
前記ガラス基材は、バイアル瓶、注射筒、針付きシリンジ、アンプル又はカートリッジタイプシリンジであることを特徴とする請求項1~のいずれか一つに記載の皮膜付きガラス。
【請求項8】
ガラス基材の少なくとも一部の表面に皮膜を形成する皮膜付きガラスの製造方法において、
前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面から深さ方向に100nmの深さまでの領域改質層を形成する改質工程と、
前記改質層を形成した前記ガラス基材の前記表面上に前記皮膜を形成する成膜工程と、を含み、
前記改質工程は、(i)前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面に酸素ガス存在下で低級炭化水素ガスを燃焼して生じる炎をバーナーから噴出させ、該バーナーから噴出される炎のうちプラズマに富む部分を当てる工程、(ii)前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面にレーザ処理を施す工程、及び(iii)前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面に高温ガス処理を施す工程、の(i)~(iii)の少なくともいずれか一つの工程を含み、
前記成膜工程は、少なくとも炭化水素系ガスを含む原料ガスをプラズマ化して、前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面に前記皮膜として少なくとも炭素を含む非晶質皮膜を形成する工程であり、
前記原料ガスが、6フッ化エタン、C 10 (CF 、C 、CF (四フッ化メタン)及びC (八フッ化プロパン)の群から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする皮膜付きガラスの製造方法。
【請求項9】
前記改質工程では、前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面とは反対側の表面の温度を非接触型の温度計によって測定し、その測定される温度が特定の温度範囲内とすることを含むことを特徴とする請求項に記載の皮膜付きガラスの製造方法。
【請求項10】
ガラス基材の少なくとも一部の表面に改質層を有する改質されたガラス基材であって、
前記改質層は、前記ガラス基材の前記表面から深さ方向に100nmの深さまでの領域にあり、かつ、炭素を含み、かつ、少なくとも一部に微結晶構造を有することを特徴とする改質されたガラス基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜付きガラスおよびその製造方法並びに改質されたガラス基材に関し、特に化学的、熱力学的および物理的に安定な皮膜が形成された皮膜付きガラスおよびその製造方法に関する。皮膜付きガラスのガラス基材には、例えば板状または管状のガラス、ガラス容器、ガラス製の医療器具などが含まれる。
【背景技術】
【0002】
ガラス容器の成形工程において、ガラス管が加工されて、底部と口部とを有する容器形状とされる。この加工において、ガラス管が加熱されて底部と口部とに変形される。ガラス管が加熱されると、ガラス中に含まれるアルカリ成分などが揮発し、ガラス容器が冷却される過程において揮発したアルカリ成分などがガラス容器の内壁に凝縮して付着する。
【0003】
これらのガラスより滲出または揮発したアルカリ含有物がガラス容器の内壁に多数の小滴となって凝縮固着することで、底部に近い内壁に加工劣化領域がベルト状に生じることが知られている。特に液体の保存に用いられるガラス容器においては、加工劣化領域から溶出するアルカリ等によって、液性が塩基性となることが知られている。このことは、特に医療用のガラス容器においては、収容される薬剤の安定性を損ねることにつながるため深刻である。
【0004】
また、加工劣化領域においては、内容物に含まれる水分子の接触によりガラスの加水分解が進行することで、ガラス自体が脆弱となり、ガラスのシリカ成分の剥離(デラミネーション)が生じ、内容物へのガラス由来の成分(ケイ素、ホウ素、ナトリウム、カリウム、アルミニウム)の溶出することも広く知られている。
【0005】
そこで、従来から内容物と接触するガラス表面からアルカリ化合物量の溶出を低減させるための試みがなされてきた。これは、ガラス容器の成形後の処理によって行われることが通常であり、例としてガラス容器の内壁に存在するアルカリ成分と硫酸塩等とを反応させて硫酸ソーダ(NaSO)とし、その硫酸ソーダを水洗により除去するサルファー処理法や、ガラス容器の内壁からアルカリ成分の溶出を抑制する方法として、ガラス管から形成されたガラス容器を回転させながら、その内壁をポイントバーナーの酸素‐ガス炎でファイアブラスト処理して加工劣化領域を除去することが知られている(例えば、特許文献1を参照。)。また、ガラス容器の内壁の加水分解性を抑制する方法として、ガラス管から形成されたガラス容器を回転させながら、その内壁をCOレーザなどによる処理して加工劣化領域を除去することが知られている(例えば、特許文献2又は特許文献3を参照。)。
【0006】
また他方では、ガラス表面に低反応性の皮膜を形成する方法(例えば、特許文献4を参照。)などアルカリ成分の絶対量を低減することなく、シリコンなどの無機または有機素材のガラス表面の皮膜によって、ガラス表面を内容物から隔絶する方法も知られている。この方法では、皮膜の組成を適宜選択することで、処理後のガラス容器にさらなる付加価値を持たせることができる。例えば、疎水性の皮膜を形成することで、極性内容物の内壁への付着性を低減させることができるため、容器への残留性を低下させることが可能となる。これは、特に近年需要が高まっている、タンパク質製剤などの希少で高価な薬剤を収容する際に優れた利点となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2006/123621号公報
【文献】DE 10 2014 214 083 B4公報
【文献】特開2019-55896号公報
【文献】特開2007-076940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3の方法はアルカリ化合物量の溶出を低減させるのに有効であるが、加工処理後のガラス容器に内容物の付着性低減などの付加価値を持たせることが求められてきた。そこで、特許文献4のようにガラス表面に皮膜を形成する方法を適用することが考えられる。しかしながら、特許文献4のようにガラス表面に皮膜を形成する方法では、次の問題がある。通常のガラス表面は無機相であるため、多くの場合有機相である皮膜との接着性が低く、皮膜が形成されにくいという問題が一般的に知られている。特に低摩擦性あるいは疎水性を有する皮膜のガラス表面上での形成は困難である。
【0009】
そこで、安定した皮膜の形成を得るために、一般的にはガラス表面上にガラス層と皮膜の双方に親和性を持つシランカップリング剤などのプライマーを塗布した上で皮膜を形成する方法が行われている。しかし、処理工数が増加するだけでなく、シランカップリング剤の熱安定性の低さ故に、乾熱滅菌、蒸気滅菌などの高温条件に曝される医療用容器への応用には適さないという欠点がある。
【0010】
また、ガラス表面上に皮膜が形成された場合でも、皮膜としての安定性が低いと、皮膜に小さな孔(ピンホール)が生じやすいという問題がある。皮膜にピンホールが生じると、その部分から皮膜が徐々に剥離し皮膜が失われるだけでなく、容器内容物への異物混入の原因となる。
【0011】
そこで本開示の目的は、水系内容物との接触角が大きく、透明性が高く、潤滑性(摺動性)が優れ、ガラスのシリカ成分の剥離(デラミネーション)が生じにくく、内容物へのガラス由来の成分(ケイ素、ホウ素、ナトリウム、カリウム、アルミニウム)の溶出が少なく、医療用のガラス容器に適応する場合、医薬品の有効成分であるタンパク質の凝集(吸着)が生じにくく、耐熱性があり、かつ、皮膜の剥離が抑制されることを実現した皮膜付きガラス及びその製造方法並びに改質されたガラス基材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らはこれらの課題を鑑みて鋭意検討したところ、あらかじめガラス基材のガラス表面を改質することで上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明に係る皮膜付きガラスは、ガラス基材と、該ガラス基材の少なくとも一部の表面に設けられた皮膜と、を有する皮膜付きガラスにおいて、前記皮膜付きガラスは、前記ガラス基材の前記皮膜側の表面から深さ方向に100nmの深さまでの領域に改質層を含み、該改質層は、少なくとも一部に微結晶構造を有し、前記皮膜が、ケイ素非含有かつフッ素含有のダイヤモンド様炭素膜又は非結晶性フッ素樹脂膜であることを特徴とする。これらの皮膜とすることで、潤滑性(摺動性)が優れ、水系内容物との接触角が大きく、医薬品の有効成分であるタンパク質等の凝集(吸着)の抑制が向上する。また、酸化ケイ素系膜とすることで、透明性により優れた皮膜とすることができる。
【0013】
本発明に係る皮膜付きガラスは、ガラス基材と、該ガラス基材の少なくとも一部の表面に設けられた皮膜と、を有する皮膜付きガラスにおいて、前記皮膜付きガラスは、前記ガラス基材の前記皮膜側の表面から深さ方向に100nmの深さまでの領域に改質層を含み、該改質層のBの含有量は、酸化物換算の質量%で、前記改質層よりも深い領域のそれよりも少なく、かつ、前記改質層のNaOの含有量は、酸化物換算の質量%で、前記改質層よりも深い領域のそれよりも少なく、前記改質層は、酸化物換算の質量%で、少なくとも、Bを1~8質量%、NaOを1~6質量%、及びSiOを80質量%以上含み、前記改質層よりも深い領域は、酸化物換算の質量%で、少なくとも、Bを9~15質量%、NaOを3~9質量%、及びSiOを70質量%以上含み、前記皮膜が、ケイ素非含有かつフッ素含有のダイヤモンド様炭素膜又は非結晶性フッ素樹脂膜であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る皮膜付きガラスでは、前記微結晶構造が炭素を含むことが好ましい。皮膜、特に炭素元素を組成中に含む皮膜との密着性をより向上させることができる。
【0015】
本発明に係る皮膜付きガラスでは、前記改質層が炭素を含むことが好ましい。皮膜、特に炭素元素を組成中に含む皮膜との密着性をより向上させることができる。
【0017】
本発明に係る皮膜付きガラスでは、前記皮膜の膜厚は、1~70nmである形態を包含する。
【0018】
本発明に係る皮膜付きガラスでは、前記ガラス基材は、膨張係数が3.2×10-6/K以上3.3×10-6/K以下のホウケイ酸ガラスであるか、又は膨張係数が4.8×10-6/K以上5.6×10-6/K以下のホウケイ酸ガラスである形態を包含する。
【0019】
本発明に係る皮膜付きガラスでは、前記ガラス基材は、バイアル瓶、注射筒、針付きシリンジ、アンプル又はカートリッジタイプシリンジ(単にカートリッジともいう)である形態を包含する。
【0020】
本発明に係る皮膜付きガラスの製造方法は、ガラス基材の少なくとも一部の表面に皮膜を形成する皮膜付きガラスの製造方法において、前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面から深さ方向に100nmの深さまでの領域改質層を形成する改質工程と、前記改質層を形成した前記ガラス基材の前記表面上に前記皮膜を形成する成膜工程と、を含み、前記改質工程は、(i)前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面に酸素ガス存在下で低級炭化水素ガスを燃焼して生じる炎をバーナーから噴出させ、該バーナーから噴出される炎のうちプラズマに富む部分を当てる工程、(ii)前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面にレーザ処理を施す工程、及び(iii)前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面に高温ガス処理を施す工程、の(i)~(iii)の少なくともいずれか一つの工程を含み、前記成膜工程は、少なくとも炭化水素系ガスを含む原料ガスをプラズマ化して、前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面に前記皮膜として少なくとも炭素を含む非晶質皮膜を形成する工程であり、前記原料ガスが、6フッ化エタン、C 10 (CF 、C 、CF (四フッ化メタン)及びC (八フッ化プロパン)の群から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする。皮膜が炭素元素を組成中に含むことで、潤滑性(摺動性)が優れ、水系内容物との接触角が大きく、医薬品の有効成分であるタンパク質等の凝集(吸着)の抑制が向上する。
【0022】
本発明に係る皮膜付きガラスの製造方法では、前記改質工程では、前記ガラス基材の前記皮膜が設けられる側の表面とは反対側の表面の温度を非接触型の温度計によって測定し、その測定される温度が特定の温度範囲内とすることを含むことが好ましい。温度管理をより確実にすることができ、改質をより確実に行うことができる。
【0023】
本発明に係る改質されたガラス基材は、ガラス基材の少なくとも一部の表面に改質層を有する改質されたガラス基材であって、前記改質層は、前記ガラス基材の前記表面から深さ方向に100nmの深さまでの領域にあり、かつ、炭素を含み、かつ、少なくとも一部に微結晶構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、水系内容物との接触角が大きく、透明性が高く、潤滑性(摺動性)が優れ、ガラスのシリカ成分の剥離(デラミネーション)が生じにくく、内容物へのガラス由来の成分(ケイ素、ホウ素、ナトリウム、カリウム、アルミニウム)の溶出が少なく、医療用のガラス容器に適応する場合、医薬品の有効成分であるタンパク質の凝集(吸着)が生じにくく、耐熱性があり、かつ、皮膜の剥離が抑制されることを実現した皮膜付きガラス及びその製造方法並びに改質されたガラス基材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態に係る皮膜付きガラスの概略断面図である。
図2】本実施形態に係る改質されたガラス基材の概略断面図である。
図3】バイアル瓶用の高周波式内面成膜装置の概略図である。
図4】(a)は、実施例1の改質工程後成膜工程前の改質されたガラス基材の断面のTEM画像であり、(b)は(a)を部分拡大した画像である。
図5】実施例1の成膜工程後の皮膜付きガラスの断面のTEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以降、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0027】
図1は、本実施形態に係る皮膜付きガラスの概略断面図である。本実施形態に係る皮膜付きガラス1は、ガラス基材2と、ガラス基材2の少なくとも一部の表面2aに設けられた皮膜3と、を有する皮膜付きガラスにおいて、ガラス基材2の皮膜3側の表面2aから所定の深さd1までの領域は改質層4であり、改質層4は、少なくとも一部に微結晶構造を有する。
【0028】
また、本実施形態に係る皮膜付きガラス1は、ガラス基材2と、ガラス基材2の少なくとも一部の表面2aに設けられた皮膜3と、を有する皮膜付きガラスにおいて、ガラス基材2の皮膜3側の表面2aから所定の深さd1までの領域は改質層4であり、改質層4のBの含有量は、酸化物換算の質量%で、改質層4よりも深い領域5のそれよりも少なく、かつ、改質層4のNaOの含有量は、酸化物換算の質量%で、改質層4よりも深い領域5のそれよりも少なく、改質層4は、酸化物換算の質量%で、少なくとも、Bを1~8質量%、NaOを1~6質量%、及びSiOを80質量%以上含み、改質層4よりも深い領域5は、酸化物換算の質量%で、少なくとも、Bを9~15質量%、NaOを3~9質量%、及びSiOを70質量%以上含む。改質層4は、少なくとも一部に微結晶構造を有する場合を含むことが好ましい。
【0029】
(ガラス基材)
本実施形態に係る皮膜付きガラス1では、ガラス基材2は、膨張係数が3.2×10-6/K以上5.6×10-6/K以下のホウケイ酸ガラスであることが好ましい。本実施形態に係る皮膜付きガラス1では、ガラス基材2は、膨張係数が3.2×10-6/K以上3.3×10-6/K以下のホウケイ酸ガラスであるか、又は膨張係数が4.8×10-6/K以上5.6×10-6/K以下のホウケイ酸ガラスである形態を包含する。このようなガラス基材は、膨張係数が小さく、アルカリ溶出性が低いため好ましい。具体的には、NSV51(ニプロファーマパッケージングアメリカスCorp.社製)、W33(ニプロファーマパッケージングアメリカスCorp.社製)、BS(日本電気硝子株式会社製)、フィオラックス(登録商標)(ショットAG社製)、デュラン(登録商標)(ショットAG社製)などである。それぞれのガラスの組成(質量%)のカタログ値を表1に示す。表1において、NSV51についてNaO,KOの含有量は、NaO及びKOの合計含有量が示されている。W33又はデュランについても同様である。また、表1において「-」は当該組成物を含有しないことを示す。
【0030】
【表1】
【0031】
ガラス基材2は、膨張係数3.2×10-6/K以上3.3×10-6/K以下のホウケイ酸ガラスであり、皮膜3との界面であるガラス基材2の表面2aが、少なくともBを1~6質量%、NaOを1~6質量%、Alを1~2質量%を含み、さらにSiOを80質量%以上含むことが好ましい。
【0032】
また、ガラス基材は、膨張係数4.8×10-6/K以上5.5×10-6/K以下のホウケイ酸ガラスであり、皮膜3との界面であるガラス基材2の表面2aが、少なくともBを1~6質量%、NaOを1~6質量%、Alを5~6.5質量%含み、さらにSiOを80質量%以上含むことが好ましい。
【0033】
ガラス基材2は、透明色またはアンバー色であり、透光性を有することが好ましく、具体的には、波長590~610nmまたは290~450nmにおける透過率が45%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。透明性試験の評価方法は、「日本薬局方(第17改訂)7.容器・包装材料試験法 7.01注射剤用ガラス容器試験法(5)着色容器の遮光性試験」に準ずる。
【0034】
ガラス基材2は、例えば板状または管状のガラス、ガラス容器、ガラス製の医療器具などが含まれる。本実施形態に係る皮膜付きガラス1では、ガラス基材2は、バイアル瓶、注射筒(シリンジ)、針付きシリンジ、アンプル又はカートリッジタイプシリンジ(単にカートリッジともいう)である形態を包含する。
【0035】
ガラス基材2が管状のガラス、ガラス容器又はガラス製の医療器具であるとき、皮膜3が形成される面であるガラス基材2の少なくとも一部の表面(ガラス基材2の皮膜3側の表面)2aは、管状のガラスの内壁、ガラス容器の内壁又はガラス製医療器具の内表面であることが好ましい。これによって、極性内容物の内壁への付着性を低減させることができるため、容器への残留性を低下させることが可能となる。
【0036】
(バイアル)
バイアルは、底が封止された概ね円筒形状の外形の容器であり、底部、側面部、首部、口部、内壁および外壁を有する。バイアルは、内部空間を有し、口部の一端において開口する。底部は、平らな円盤状の形状であり、底部の縁において側面部と連続する。側面部は、円筒形状である。側面部は、軸線方向において、外径及び内径が一定に成形されている。首部は、側面部に連続し、側面部からテーパー状に狭まる。首部の内径及び外径は、側面部より狭く成形されている。口部は、首部に連続し、縁部で区画される開口を有する。口部の内径及び外径は、側面部より狭く成形されている。口部の外径は、首部の外径において最も狭く形成された箇所より広く成形されている。内壁は、底部、側面部、首部及び口部における内部空間側のガラス表面であり、一方、外壁は、内部空間側のガラス表面に対向する外表面である。
【0037】
(バイアルの製造方法)
一例として、一般的な縦型成型機を用いて、垂直に保持されて回転するガラス管を加熱することによりバイアルが成形される。ガラス管は、バーナーの炎で加熱されることにより軟化する。ガラス管の一部が軟化変形することにより、バイアルの底部及び口部がガラス管から成形される。底部が成形される際に、ガラス管の原料であるホウケイ酸ガラスからアルカリホウ酸塩等が揮発する。揮発したアルカリホウ酸塩等のアルカリ成分は、バイアルの内壁における底部近傍に付着して加工劣化領域を生じさせる。
【0038】
(改質されたガラス基材)
本実施形態に係る改質されたガラス基材2は、ガラス基材2の少なくとも一部の表面に改質層4を有する改質されたガラス基材であって、改質層4は、ガラス基材2の表面2aから所定の深さd1までの領域にあり、かつ、少なくとも一部に微結晶構造を有する。
【0039】
(改質層)
ガラス基材2は、改質層4と改質層4よりも深い領域5とを包含する。改質層4は、ガラス基材2の最表面(図1の皮膜側の表面2a)上に加えて、最表面から所定の深さd1までの領域である。最外面から所定の深さd1は、ガラス基材2の表面2aから深さ方向Dに100nmの深さであることが好ましく、ガラス基材2の表面2aから深さ方向Dに50nmの深さであることがより好ましく、ガラス基材2の表面2aから深さ方向Dに20nmの深さであることがさらに好ましく、ガラス基材2の表面2aから深さ方向Dに10nmの深さであることがよりさらに好ましい。ここで、深さ方向Dとは、ガラス基材2の皮膜側の表面2aから皮膜側とは反対側の表面(不図示)へ向かう方向である。例えば、ガラス基材2がバイアル瓶である場合、深さ方向Dは、内壁面から外壁面へ向かう方向である。改質層4は、酸化物換算の質量%で、少なくとも、Bを1~8質量%、NaOを1~6質量%を含み、さらにSiOを80質量%以上含む範囲であることが好ましい。改質層4は、酸化物換算の質量%で、少なくとも、Bを2~6質量%、NaOを2~4質量%を含み、さらにSiOを90質量%以上含む範囲であることがより好ましい。改質層4の組成は、例えば、XPS(X線光電子分光法)によって分析され、その分析される表面組成(原子組成百分率)の各原子酸化物に換算した質量%である。
【0040】
本実施形態に係る皮膜つきガラス1では、改質層4が炭素を含むことが好ましい。皮膜3、特に炭素元素を組成中に含む皮膜との密着性をより向上させることができる。改質層4の炭素含有量は、1~15原子%(atomic%)であることが好ましく、1~11原子%であることがより好ましく、2~10原子%であることが更に好ましく、3~8原子%であることがより更に好ましく、4~8原子%であることが特に好ましい。
【0041】
(微結晶構造)
微結晶構造は、例えば、ガラス基材の断面をTEM(transmission electron microscope)で観察される。微結晶構造は、サブナノメートルサイズの均等な間隔の配列構造である。
【0042】
微結晶構造を有する部分は、当該部分の周囲の部分と比較して粒径のより小さな結晶粒が配列した部分である。微結晶構造では、少なくともガラス成分が結晶化しているものと推測され、具体的にはNaを主体とK,C,B等を成分として含むNaBCO,KBCO,(Na,K)AlBCO、(Na,K)CO,NaCO,NaO等が結晶化しているものと推測される。微結晶構造における結晶粒の平均粒径は、1~10nmであることが好ましく、1~5nmであることがより好ましい。平均粒径は、TEMの観察によって求めたが、XRD(X線回折、X‐ray diffraction)、SAXS(X線小角散乱、small angle X-ray scattering)によって求めてもよい。
【0043】
本実施形態に係る皮膜付きガラス1では、微結晶構造が炭素を含むことが好ましい。皮膜、特に炭素元素を組成中に含む皮膜との密着性をより向上させることができる。
【0044】
(改質層4よりも深い領域5)
改質層4よりも深い領域5は、深さ方向Dにおいて改質層4に連続する領域である。改質層4よりも深い領域5は、ガラス基材2の皮膜3側とは反対側の表面(不図示)を含んでいてもよい。改質層4と改質層4よりも深い領域5との間には境界がなくてもよく、例えばガラスの組成が改質層4と改質層4よりの深い領域5との間で傾斜組成をなしていてもよい。
【0045】
(皮膜)
【0046】
皮膜3は、炭素元素を組成中に含む形態を包含する。一例として、皮膜3は、ケイ素非含有のダイヤモンド様炭素膜である。ここで、ダイヤモンド様炭素とは、ダイヤモンドライクカーボン膜、DLC膜、非晶質炭素膜とも称され、炭素原子と水素原子とを少なくとも含む水素化非晶質炭素膜である。
【0047】
皮膜は、その膜厚が1~70nmであることが好ましく、2~60nmであることがより好ましい。膜厚が1nm未満であると皮膜を欠陥なく均一に成膜することが困難となるおそれがあり、70nmを超えると剥離を生じたり、着色が許容範囲を超えたりするおそれがある。
【0048】
ここでケイ素非含有のダイヤモンド様炭素膜である皮膜は、ケイ素非含有かつフッ素含有のダイヤモンド様炭素膜(以降、「F‐DLC膜」と表記する場合がある。)であるか、または、ケイ素非含有かつフッ素非含有のダイヤモンド様炭素膜(以降、単に「DLC膜」と表記する場合がある。)である形態を包含する。なお、フッ素含有のダイヤモンド様炭素膜はフッ素化非晶質炭素膜ともいう。
【0049】
一例として、皮膜3は、ケイ素含有ダイヤモンド様炭素膜であってもよい。
【0050】
一例として、皮膜3は、有機シランまたはシロキサンを原料とする酸化ケイ素系膜であってもよい。有機シラン、シロキサンは、特に限定されないが、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサメチルシラザン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、およびテトラメチルシランを包含する。
【0051】
一例として、皮膜3は、非結晶性フッ素樹脂膜であってもよい。フッ素樹脂は、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカンを包含する。より好ましくは、当該フッ素樹脂は、紫外、可視、近赤外の幅広い波長範囲において透明性を有する非結晶性のフッ素樹脂が好ましい。具体的には、非結晶性のフッ素樹脂は、ペルフルオロ(4-ビニルオキシ-1-ブテン)を環化重合させたサイトップ(登録商標)である。
【0052】
前記の例示した皮膜3を設けることで、潤滑性(摺動性)が優れ、水系内容物との接触角が大きく、医薬品の有効成分であるタンパク質等の凝集(吸着)の抑制が向上する。
【0053】
(皮膜付きガラスの製造方法)
本実施形態に係る皮膜付きガラス1の製造方法は、図1に示すようにガラス基材2の少なくとも一部の表面2aに皮膜3を形成する皮膜付きガラスの製造方法において、ガラス基材2の皮膜3が設けられる側の表面2aから所定の深さd1までの領域を改質層4とする改質工程と、改質層4を形成したガラス基材2の表面2a上に皮膜3を形成する成膜工程と、を含み、改質工程は、(i)ガラス基材2の皮膜3が設けられる側の表面2aに酸素ガス存在下で低級炭化水素ガスを燃焼して生じる炎をバーナーから噴出させ、バーナーから噴出される炎のうちプラズマに富む部分を当てる工程、(ii)ガラス基材2の皮膜3が設けられる側の表面2aにレーザ処理を施す工程、及び(iii)ガラス基材2の皮膜3が設けられる側の表面2aに高温ガス処理を施す工程、の(i)~(iii)の少なくともいずれか一つの工程を含む。
【0054】
(改質工程)
改質工程における表面処理は、プラズマ処理または加熱処理が包含される。さらに当該プラズマ処理は、(i)ガラス基材2の皮膜3が設けられる側の表面2aに酸素ガス存在下で低級炭化水素ガスを燃焼して生じる炎をバーナーから噴出させ、バーナーから噴出される炎のうちプラズマに富む部分を当てる処理(以降、(i)の改質工程ということもある。が包含され、当該加熱処理は、(ii)ガラス基材2の皮膜3が設けられる側の表面2aに施すレーザ処理(以降、(ii)の改質工程ということもある。)と(iii)ガラス基材2の皮膜3が設けられる側の表面2aに施す高温ガス処理(以降、(iii)の改質工程ということもある。)が包含される。
【0055】
一例として、(i)の改質工程は、酸素ガス存在下で低級炭化水素ガスを燃焼して生じる炎をバーナーから噴出し、炎をガラス基材のガラス表面に当てる工程である。低級炭化水素ガスは、例えば都市ガス、プロパン、ブタン、天然ガスである。また、ガラス基材2の表面2aに当てる炎のうちプラズマに富む部分は、燃焼の結果生じる、ハイドロニウムイオンに富む燃焼火炎であることが好ましい。
【0056】
(i)の改質工程は、ガラス基材がガラス容器のバイアルである場合には、当該炎をバイアルの内壁に当て、好ましくは、炎をバイアルの内壁における底部近傍(加工劣化領域が存在する箇所)に当てることが好ましい。
【0057】
本実施形態に係る皮膜付きガラス1の製造方法では、改質工程では、ガラス基材2の皮膜3が設けられる側の表面2aとは反対側の表面の温度を非接触型の温度計によって測定し、その測定される温度が特定の温度範囲内とすることを含むことが好ましい。温度管理をより確実にすることができ、改質をより確実に行うことができる。非接触型の温度計は、サーモグラフィー型の温度計であることが好ましい。また、ガラス基材がバイアル瓶である場合、当該反対側の表面は、バイアル瓶の外表面である特定の温度範囲は、例えば650℃~800℃の範囲であることが好ましく、670~780℃の範囲であることがより好ましい。
【0058】
さらに一例として、当該(ii)の改質工程において、レーザ処理は、CO(炭酸ガス)レーザ、YAG(Yttrium Aluminium Gernet)レーザ又はUF(Ultra Fast)レーザのレーザ光がガラス基材のガラス表面に当てられる。
【0059】
さらに一例として、当該(iii)の改質工程において、高温ガス処理は、過熱蒸気生成装置の過熱蒸気がガラス基材表面に当てられる。
【0060】
本実施形態では、改質工程は(i)の改質工程、(ii)の改質工程及び(iii)の改質工程のうちいずれか一種だけを行ってもよいし、二種以上を行ってもよい。二種以上の組合せは、例えば(i)と(ii)との組合せ、(i)と(iii)との組合せ、(ii)と(iii)との組合せ、又は(i)と(ii)と(iii)との組合せである。
【0061】
(成膜工程)
本実施形態に係る皮膜付きガラス1の製造方法では、成膜工程は、少なくとも炭化水素系ガスを含む原料ガスをプラズマ化して、ガラス基材2の皮膜3が設けられる側の表面2aに皮膜3として少なくとも炭素を含む非晶質皮膜を形成する工程であることが好ましい。皮膜が炭素元素を組成中に含むことで、潤滑性(摺動性)が優れ、水系内容物との接触角が大きく、医薬品の有効成分であるタンパク質等の凝集(吸着)の抑制が向上する。
【0062】
成膜工程では、例えば、高周波式成膜装置を用いて炭素を含む非晶質皮膜を形成することが好ましい。炭素を含む非晶質皮膜は、例えば、前記したケイ素非含有ダイヤモンド様炭素膜又はケイ素含有ダイヤモンド様炭素膜である。皮膜3がケイ素非含有ダイヤモンド様炭素膜であるとき、原料ガスは、例えば、アセチレン、メタン、エチレン、プロパン、ベンゼン、6フッ化エタン、C10(CF、C、CF(四フッ化メタン)、C(八フッ化プロパン)である。また、皮膜3がケイ素含有ダイヤモンド様炭素膜であるとき、原料ガスは、例えば、C10Si(トリメチルシラン)又はC12Si(テトラメチルシラン)などの有機ケイ素ガスである。原料ガスは、一種だけを単独で使用するか、又は二種以上を併用してもよい。
【0063】
次に、ガラス基材2がバイアル瓶である例において、成膜工程で使用可能な成膜装置の一例について説明する。図3にバイアル瓶用の高周波式内面成膜装置の概略図を示した。図3に示したバイアル瓶用の高周波式内面成膜装置100は、原料ガス入力系統31,32,33を有する。それぞれの原料ガス入力系統は、ストップバルブ34及びガスフローメーター35を有し、一つの混合ガス用の配管36につながれている。図3では原料ガス入力系統が3つある形態を示したが、さらに多く設けてもよい。配管36は、真空チャンバ38の中に配置されている内部電極とガス導入管を兼ねた導電性パイプ43aにつなげられている。真空チャンバ38は、接地されており、真空ゲージ37が接続されている。また、真空チャンバ38内には、バイアル瓶(ガラス基材)2と、バイアル瓶2の側面と底面を囲むように配置された外部電極45と、外部電極45を取り囲むように配置された誘電体部材46と、誘電体部材46を取り囲み、かつ原料ガスのプラズマ化を安定化させるための導電材からなる外部ケース48が配置されている。真空チャンバ38は、排気用配管49と接続されている。また、外部電極45は、真空チャンバ38と導通しないようにオートマッチング装置40と接続されている。オートマッチング装置40は、高周波電源41に接続されている。高周波の周波数は、例えば、1~100MHzであり、13.56MHzが好ましい。導電性パイプ43aから吹き出された原料ガスは、バイアル瓶2の内部を流れたのち、その先端口から排出され、外部ケース48内の上側に設けられた空間48a内を通過したのち、真空チャンバ38の内部空間内に到達する。その後、排気用配管49によって排気される。
【実施例
【0064】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0065】
(バイアルの作成)
外径15mm、肉厚1.5mmのホウケイ酸ガラス管BS日本電気硝子株式会社製)から、縦型成型機により底部を成形することで、外径15mm、高さ33mm、口内径7.0mmであって、容量が2.0mLのバイアルX1およびY1を作成した。
外径15mm、肉厚1.5mmのホウケイ酸ガラス管W33(ニプロファーマパッケージングアメリカスCorp.製)から、縦型成型機により底部を成形することで、外径15mm、高さ33mm、口内径7.0mmであって、容量が2.0mLのバイアルX2およびY2を作成した。
【0066】
(改質工程)
上記作成したバイアルX1およびX2の内壁に対して、(i)の改質工程を用いたプラズマ処理を施した。
【0067】
((i)の改質工程の条件)
バイアルX1およびX2を保持して回転させながらバイアルの内部空間へポイントバーナーの炎を噴出させて、炎におけるプラズマに富む部分をバイアル内壁に当てながら、炎をバイアルの内壁に走査させ、処理を施した。この処理には、タウンガス(メタン)と酸素の完全燃焼比で構成される混合ガス炎(長さ約10cm)を吹き出す口内径1.4mmのポイントバーナーを用いた。
【0068】
(ガラス表面の組成分析)
プラズマ処理前および処理後のバイアルの内壁のガラス表面(底部から3~5mm付近)の組成をXPS(AXIS‐NOVA、KRATOS社製)によって分析した。プラズマ処理前後における、バイアル表面上の化合物組成の分析結果を表2に表す。
【0069】
【表2】
【0070】
(成膜工程)
バイアル(X1、X2、Y1、Y2)の内表面に成膜を行ったときの条件は、次の通りである。
装置:図3に示す低圧プラズマCVD装置
高周波出力:100W、13.56MHz
初期減圧:0.02torr
成膜時圧力:2torr
成膜時間:表3のとおり
混合ガス:表3のとおり。ただし、比率は体積流量混合比率を示す。
前処理:なし
【0071】
【表3】
【0072】
[蒸気滅菌処理]
満容量の90%の水を各バイアルへ充填して、121℃、1hで処理した高圧蒸気滅菌処理を行った。実施例1および2は、最外層のF―DLCの剥離は確認できなかったが、比較例1および2は、最外層のF―DLCの剥離が確認された。
【0073】
[微結晶構造]
図4(a)は、実施例1の改質工程後成膜工程前の改質されたガラス基材の断面のTEM画像であり、(b)は(a)を部分拡大した画像である。図4(a)(b)において、改質層の上の部分は、TEM分析のために施した保護膜である。図4(a)(b)に示すように、改質層が、少なくとも一部に微結晶構造を有することが確認できた。図4(b)において、改質層と改質層よりも深い領域との境界と思われる部分に点線を付す加工を施した。
【0074】
図5は、実施例1の成膜工程後の皮膜付きガラスの断面のTEM画像である。図5に示すように、皮膜付きガラスは、ガラス基材の皮膜側の表面から所定の深さまでの領域に改質層を有することが確認できた。改質層の厚さは、およそ20nmであった。
【0075】
実施例1の成膜工程後の皮膜付きガラスの断面のEDX分析を行い、Si分布像、O分布像、C分布像、F分布像、Na分布像、K分布の確認を行った結果、改質層に少なくともNaおよびKを確認することができた。
図1
図2
図3
図4
図5