IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡エムシー株式会社の特許一覧

特許7423917顔料分散性、および熱安定性に優れたポリエステル樹脂
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】顔料分散性、および熱安定性に優れたポリエステル樹脂
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/181 20060101AFI20240123BHJP
   C09D 167/03 20060101ALI20240123BHJP
   C09J 167/03 20060101ALI20240123BHJP
   G03G 9/087 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C08G63/181
C09D167/03
C09J167/03
G03G9/087 331
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019114734
(22)【出願日】2019-06-20
(65)【公開番号】P2021001254
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-02-10
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三枝 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】示野 勝也
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-268085(JP,A)
【文献】国際公開第2006/095901(WO,A1)
【文献】特表2005-517050(JP,A)
【文献】特開2010-163517(JP,A)
【文献】特開2004-245854(JP,A)
【文献】特開2011-178846(JP,A)
【文献】国際公開第2018/180335(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00 - 63/91
C09D 167/03
C09J 167/03
G03G 9/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価カルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂であって、
前記多価カルボン酸成分が、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸及び無水ヘキサヒドロフタル酸からなる群より選択される少なくとも1以上のみからなり、
全多価カルボン酸成分を100モル%とした時にテレフタル酸成分、および/またはイソフタル酸成分を合計70モル%以上含み、
全グリコール成分の平均炭素数が4.3以上、8.0以下であり、
ガラス転移温度が50℃以上であり、
酸価が5mgKOH/g以上であり、
未反応の多価カルボン酸成分の合計量が2,000ppm以下であり、かつ
環状オリゴマー量が0.5質量%以下であるポリエステル樹脂。
【請求項2】
数平均分子量が25,000以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記テレフタル酸成分と前記イソフタル成分の両方を含み、
前記テレフタル酸成分と前記イソフタル成分のモル比率が、テレフタル酸成分/イソフタル酸成分で70/30~30/70である請求項1または2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を含有する塗料。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を含有するコーティング剤。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を含有するトナー。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂を含有する接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散性、および熱安定性に優れたポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
密着性、硬化性および分散性を付与するために、ポリマー末端にカルボン酸を導入したポリエステル樹脂がトナー用のコート剤やバインダーとして使用されている。しかし、酸価を有するポリエステル樹脂は未反応の酸成分が残ってしまうことがあるため、ポリエステル樹脂の酸分解が生じてしまい保存安定性や熱安定性に問題があった。
【0003】
特許文献1には、未反応の3官能以上の芳香族ポリカルボン酸等を200~10000ppm含有するポリエステル樹脂を含有する粉砕トナー用ポリエステル樹脂が開示されている。また、特許文献2には、ポリエステル合成時に高分子量化されなかった未反応のグリコールやオリゴマー等を薄膜蒸留処理等により除去する工程を備えたラミネーション用接着剤が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたポリエステル樹脂では、テレフタル酸やイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸とエチレングリコールや2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等の脂肪族グリコールとの反応で生じる環状オリゴマーについては考慮されておらず、ポリエステル樹脂の製造過程で環状オリゴマーの熱劣化物が析出するなど、熱安定性が悪いことが問題であった。また、特許文献2に記載された製造方法では、製造工程が増えるためサイクルタイムが長くなる、設備が必要となるなどコスト面で課題であった。
【0005】
そこで、未反応の多価カルボン酸成分や環状オリゴマー量を低減したポリエステル樹脂が開発されていた(特許文献3)。
【0006】
【文献】特開2013-178504号公報
【文献】特開2002-212530号公報
【文献】国際公開2018/180335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載されたポリエステル樹脂は、未反応の多価カルボン酸成分や環状オリゴマー量が低減されており、金属密着性、硬化性および保存安定性に優れているものの、熱安定性や顔料安定性については考慮されていなかった。
【0008】
本発明は、金属密着性や硬化性、保存安定性などの特性を維持しつつ、重合時に発生するオリゴマーや未反応モノマーを低減し、かつ特定のモノマー種を所定量使用することで熱安定性、顔料分散性およびウェットインキ適性なども両立したポリエステル樹脂を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の構成からなる。
【0010】
多価カルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂であって、全多価カルボン酸成分を100モル%とした時にテレフタル酸成分、および/またはイソフタル酸成分を合計70モル%以上含み、全グリコール成分の平均炭素数が4.3以上、8.0以下であり、ガラス転移温度が50℃以上であり、酸価が5mgKOH/g以上であり、未反応の多価カルボン酸成分の合計量が2,000ppm以下であり、かつ環状オリゴマー量が0.5質量%以下であるポリエステル樹脂。
【0011】
前記ポリエステル樹脂の数平均分子量は25,000以下であることが好ましい。
【0012】
前記ポリエステル樹脂を含有する塗料、コーティング剤、トナーまたは接着剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、優れた金属密着性、硬化性、および保存安定性を有し、かつ良好な顔料分散性、熱安定性、およびウェットインキ適性も両立したポリエステル樹脂を提供することが可能となった。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明のポリエステル樹脂は酸価が5mgKOH/g以上であり、好ましくは酸価が10mgKOH/g以上である。酸価を5mgKOH/g以上とすることで金属密着性や、硬化性、顔料分散性が良好となる。また、酸価は30mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは20mgKOH/g以下である。30mgKOH/g以下とすることで酸によるポリエステル樹脂の分解が抑えられ、保存安定性や熱安定性が良好となる。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂の数平均分子量は特に限定はないが、25,000以下が好ましく、20,000以下がより好ましい。25,000以下とすることで酸価を5mgKOH/g以上にすることが容易になり、金属密着性、硬化性、および顔料分散性が良好となる。また、1,000以上であることが好ましく、より好ましくは3,000以上である。1,000以上とすることでポリエステル樹脂が脆くなることがなく、塗工時のハンドリングが良好となる。
【0017】
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は50℃以上であることが必要である。好ましくは53℃以上であり、より好ましくは55℃以上であり、さらに好ましくは60℃以上である。また上限は特に限定されないが、100℃以下であることが好ましく、より好ましくは90℃以下であり、さらに好ましくは80℃以下である。前記範囲内とすることで熱安定性、保存安定性およびウェットインキ適性が良好となる。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分とグリコール成分からなるものであり、ポリエステル樹脂を構成する多価カルボン酸成分としては、全多価カルボン酸成分を100モル%とした時にテレフタル酸成分、および/またはイソフタル酸成分を合計70モル%以上含むことが必要である。これにより保存安定性が良好となる。そのため、好ましくは75%以上であり、より好ましくは80モル%以上である。また、99モル%以下であることが好ましく、より好ましくは98モル%以下である。これにより酸価を付与することができ、金属密着性や硬化性、顔料分散性が良好となる。多価カルボン酸成分としては、テレフタル酸成分とイソフタル酸成分を合計70モル%以上含んでいればよく、テレフタル酸成分単独でも、イソフタル酸成分単独でも、テレフタル酸成分とイソフタル酸成分を併用しても差し支えない。テレフタル酸成分とイソフタル成分を併用する場合の比率(モル比)は、テレフタル酸成分/イソフタル酸成分=70/30~30/70であることが好ましく、より好ましくは60/40~40/60であり、さらに好ましくは55/45~45/55である。
【0019】
テレフタル酸成分およびイソフタル酸成分以外の多価カルボン酸成分としては、特に限定されないが、以下に示す多価カルボン酸、および多価カルボン酸無水物を使用できる。具体的には、多価カルボン酸成分としては、オルソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、5-ナトリウムスルホジメチルイソフタル酸、トリメリット酸、またはピロメリット酸が挙げられる。多価カルボン酸無水物としては無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ヘキサヒドロフタル酸などが挙げられる。好ましくはオルソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水トリメリット酸または無水ピロメリット酸を挙げることができる。これらの多価カルボン酸または多価カルボン酸無水物は、全多価カルボン酸成分を100モル%としたときに、1モル%以上であることが好ましく、より好ましくは2モル%以上である。また、30モル%以下であることが好ましく、より好ましくは25モル%以下であり、さらに好ましくは20モル%以下である。その中でも多価カルボン酸無水物である無水トリメリット酸を1~5モル%含むことが好ましく、2~4モル%含むことがより好ましい。テレフタル酸成分およびイソフタル酸成分以外の多価カルボン酸成分を前記範囲内とすることで熱安定性、保存安定性、ウェットインキ適性が良好となる。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂を構成するグリコール成分としては、全グリコール成分の平均炭素数が4.3~8.0となる成分とすることが必要である。全グリコール成分の平均炭素数が4.3以上とすることで、ポリエステル樹脂の結晶性が抑えられ、溶剤溶解性が良好となり、塗料として使用する際のウェットインキ適性が良好となる。そのため好ましくは4.4以上であり、より好ましくは4.5以上であり、さらに好ましくは4.8以上であり、特に好ましくは5.0以上である。また、8.0以下とすることで、熱安定性や保存安定性が良好となる。そのため、好ましくは7.5以下であり、より好ましくは7.0以下であり、さらに好ましくは6.6以下である。
【0021】
全グリコール成分の平均炭素数は以下の計算式で求めることができる。例えば、グリコール成分をn種類使用する場合、各グリコール成分の炭素数と、該グリコール成分のポリエステル樹脂に占める含有モル%の加重平均値で求めることができる。
(全グリコール成分の平均炭素数の計算式)
全グルコール成分の平均炭素数=グリコール成分1の炭素数×グリコール成分1の含有量(モル%)+グリコール成分2の炭素数×グリコール成分2の含有量(モル%)+グリコール成分3の炭素数×グリコール成分3の含有量(モル%)+・・・+グリコール成分nの炭素数×グリコール成分nの含有量(モル%)
【0022】
以下に全グリコール成分の平均炭素数の具体的な計算例を示す。例えば、グリコール成分として、エチレングリコール(炭素数2)を60モル%、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(炭素数5)を40モル%含有する場合、全グリコール成分の平均炭素数=(2×0.6)+(5×0.4)=3.2となる。
【0023】
グリコール成分としては、炭素数2~12の直鎖又は分岐構造をもつグリコールであることが好ましい。前記範囲内とすることで、高分子量まで重合することができ、高分子量のポリエステル樹脂を得ることができる。より好ましくは炭素数2~12の直鎖又は分岐構造をもつ脂肪族グリコールまたは炭素数2~12の直鎖又は分岐構造をもつ脂環族グリコールである。また、より好ましい炭素数は2~11であり、さらに好ましくは2~9である。炭素数が2~12の直鎖又は分岐構造をもつグリコール成分としては、例えば、エチレングリコール(炭素数2)、プロピレングリコール(炭素数3)、1,3-プロパンジオール(炭素数3)、2-メチル-1,3-プロパンジオール(炭素数4)、1,4-ブタンジオール(炭素数4)、ジエチレングリコール(炭素数4)、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(炭素数5)、1,4-ペンタンジオール(炭素数5)、1,5-ペンタンジオール(炭素数5)、1,3-ペンタンジオール(炭素数5)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール(炭素数6)、トリエチレングリコール(炭素数6)、1,6-ヘキサンジオール(炭素数6)、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール(炭素数7)、1,7-ヘプタンジオール(炭素数7)、1,8-オクタンジオール(炭素数8)、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール(炭素数8)、1,9-ノナンジオール(炭素数9)、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール(炭素数9)、1-メチル-1,8-オクタンジオール(炭素数9)、4-メチル-1,8-オクタンジオール(炭素数9)、4-プロピル-1,8-オクタンジオール(炭素数11)等の脂肪族グリコール;1,4-シクロヘキサンジメタノール(炭素数8)、1,3-シクロヘキサンジメタノール(炭素数8)、1,2-シクロヘキサンジメタノール(炭素数8)、2-ブチル-2-エチル-1.3-プロパンジオール(炭素数9)、トリシクロデカングリコール(炭素数12)等の脂環族グリコールが挙げられる。これらの中から1種、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でもガラス転移温度を高くすることができ、保存安定性が良好であることから、エチレングリコール、および2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールを用いることが好ましい。
【0024】
前記炭素数2~12の直鎖又は分岐構造をもつグリコール成分の共重合量は、全グリコール成分を100モル%としたとき、80モル%以上であることが好ましく、より好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上であり、100モル%であっても差し支えない。
【0025】
前記炭素数2~12の直鎖又は分岐構造をもつ脂肪族グリコールまたは炭素数2~12の直鎖又は分岐構造をもつ脂環族グリコール以外のグリコールとしては、芳香族グリコールを使用することができる。具体的には、カテコール(炭素数6)、レゾルシノール(炭素数6)、ヒドロキノン(炭素数6)、キシリレングリコール(炭素数8)、ビスフェノールA(炭素数15)、ビスフェノールF(炭素数13)等の芳香族グリコールが挙げられるが、ビスフェノールA(炭素数15)は公衆衛生の見地から、ビスフェノールAの使用をできるだけ減らすことが推奨されているため、実質的に使用しないことが好ましい。ここで、実質的に使用しないとは、全グリコール成分を100モル%とした時に、1モル%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5モル%以下であり、さらに好ましくは0.1モル%以下であり、特に好ましくは0モル%である。
【0026】
ポリエステル樹脂の重合は、多価カルボン酸成分とグリコール成分とを反応させる方法(直接重合法)でも良いし、多価カルボン酸エステルとグリコール成分とを反応させる方法(エステル交換法)でも良い。直接重合法で得られたポリエステル樹脂とエステル交換法で得られたポリエステル樹脂の性能の差はない。
【0027】
本発明のポリエステル樹脂に酸価を付与する(酸付加)方法としては、重縮合後期に多価カルボン酸無水物を付加する酸付加方法(後付加)や、プレポリマー(オリゴマー)の段階でこれを高酸価とし、次いでこれを重縮合し、酸価を有するポリエステル樹脂を得る方法などがある。操作の容易さ、目標とする酸価を得易いことから前者の酸付加方法が好ましい。
【0028】
このような酸付加方法での酸付加に用いられる多価カルボン酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテートなどが挙げられる。好ましくは無水トリメリット酸である。
【0029】
本発明において未反応の多価カルボン酸成分、および環状オリゴマーの含有量は以下の方法で測定することができる。
<試料の調製>
1.ポリエステル樹脂100mgをクロロホルム2mlに溶解する。
2.その溶液にアセトニトリル18mlを加えて再沈殿を行い、遠心分離する。
3.遠心分離した上澄み2mlを乾固(溶剤を完全に留去)した後にDMF(N,N-ジメチルホルムアミド)250μlに溶解し、試料を調製する。
4.高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて下記条件により測定する。
<HPLC測定条件>
装置:ACQUITY UPLC(Waters製)
カラム:BEH-C18 2.1×150mm(Waters製)
移動相:溶離液A:0.1%ギ酸水溶液(v/v)
溶離液B:アセトニトリル
グラジエントB%:5→98→98%(0→25→35分)
流速:0.2ml/分
カラム温度:40℃
検出器:UV-258nm
<定量方法>
上記のHPLCの分析条件下で、未反応の各酸成分と各環状オリゴマーの標品(下記4種類)を測定し、溶出時間の確認、および各成分のピーク面積値を測る。次いで、上記のHPLCの分析条件下で試料を測定し、得られたクロマトグラムのピーク面積値と標品のピーク面積値の比により、未反応の酸成分、および環状オリゴマー(テレフタル酸-エチレングリコールの二量体、イソフタル酸-エチレングリコールの二量体、テレフタル酸-2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールの三量体およびイソフタル酸-2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールの三量体の合計量)の量を算出(絶対検量線法)する。
【0030】
本発明においてポリエステル樹脂に含まれる未反応の多価カルボン酸成分の合計量は2,000ppm以下であり、好ましくは1,000ppm以下である。2,000ppm以下とすることで、酸によるポリエステル樹脂の分解を抑制し、優れた保存安定性および熱安定性を発現することができる。また、顔料分散性も良好となる。未反応の多価カルボン酸成分は少ない方が好ましいため下限は特に限定されないが、工業的には300ppm以上であれば十分であり、500ppm以上でも差し支えない。
【0031】
前記未反応の多価カルボン酸成分としては、未反応のテレフタル酸および/または未反応のイソフタル酸を含む全ての多価カルボン酸成分が挙げられる。ここで、未反応とは、ポリエステル樹脂やオリゴマーにならなかった多価カルボン酸成分を指し、例えば、無水トリメリット酸が水と反応して開環しただけの多価カルボン酸も含まれる。
【0032】
未反応の多価カルボン酸成分の合計量を2,000ppm以下とするためには、カルボキシル基変性(後付加)時の条件として、反応温度を210℃以上とすることが好ましく、より好ましくは220℃以上であり、240℃以下が好ましく、より好ましくは230℃以下である。また、反応時間は1時間以上が好ましく、より好ましくは2時間以上であり、4時間以下が好ましく、より好ましくは3時間以下である。上記の条件でカルボキシル基変性(後付加)することで、未反応の多価カルボン酸成分の合計量を2,000ppm以下とすることができる。240℃より反応温度が高い、また反応時間が長いとゲル化するおそれがある。また、210℃より反応温度が低い、また反応時間が短いとルボキシル基変性の効率が下がり、未反応の多価カルボン酸成分が多く残ってしまうことがある。
【0033】
本発明においてポリエステル樹脂に含まれる環状オリゴマー量はポリエステル樹脂に対して0.5質量%以下であることが必要である。好ましくは0.4質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以下である。環状オリゴマー量を0.5質量%以下とすることでポリエステル樹脂製造時に熱劣化物の析出を抑制し、優れた熱安定性および顔料分散性を発現することができる。環状オリゴマーは少ない方が好ましいため下限は特に限定されないが、工業的には0.1質量%以上であれば十分である。
【0034】
本発明における環状オリゴマーは、例えば、テレフタル酸-エチレングリコールの二量体、イソフタル酸-エチレングリコールの二量体、テレフタル酸-2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールの三量体、イソフタル酸-2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオールの三量体などが挙げられる。
【0035】
環状オリゴマー量を0.5質量%以下とするためには、例えば、高真空で重縮合することで過剰のグリコールとともに環状オリゴマーを系外に排出する方法や、アルミニウム系触媒を使用することで環状オリゴマーの発生を抑制する方法が挙げられる。高真空で重縮合する場合、系内は200℃以上であることが好ましく、より好ましくは210℃以上であり、さらに好ましくは220℃以上であり、一層好ましくは230℃以上であり、特に好ましくは240℃以上である。また、圧力は絶対圧で50mmHg以下であることが好ましく、より好ましくは30mmHg以下であり、さらに好ましくは10mmHg以下である。
【0036】
ポリエステル樹脂の重合時に解重合反応は行わないことが好ましい。解重合反応とは、重合反応の逆反応であり、重合体が単量体に分解する反応をいう。解重合反応することで環状オリゴマー量が増加する可能性がある。
【0037】
本発明のポリエステル樹脂は、金属密着性、硬化性、保存安定性、顔料分散性および熱安定性に優れるため、塗料、コーティング剤、トナー、接着剤用途に好適である。
【実施例
【0038】
以下、本発明をさらに具体的に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。尚、実施例に記載される測定値は以下の方法で測定されたものである。また、実施例、比較例において、単に「部」とあるのは「質量部」を指す。
【0039】
(1)樹脂組成の測定
ポリエステル樹脂および硬化性樹脂の試料を、重クロロホルムに溶解し、VARIAN社製NMR装置400-MRを用いて、H-NMR分析を行ってその積分値比より、モル比を求めた。
【0040】
(2)数平均分子量の測定
試料(ポリエステル樹脂)を、試料濃度が0.5質量%となるようにテトラヒドロフランに溶解し、孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブランフィルターで濾過したものを測定用試料とした。テトラヒドロフランを移動相とし示差屈折計を検出器とするゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって数平均分子量を測定した。流速は1mL/分、カラム温度は30℃とした。カラムは昭和電工製KF-802、804L、806Lを用いた。分子量標準には単分散標準ポリスチレンの検量線を用いて測定した。但し、試料がテトラヒドロフランに溶解しない場合は、テトラヒドロフランに変えてN,N-ジメチルホルムアミドを用いた。数平均分子量1000未満の低分子化合物(オリゴマー等)はカウントせずに省いた。
【0041】
(4)ガラス転移温度の測定(℃)
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計(DSC220型)を用いて、測定試料(ポリエステル樹脂)5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、一度250℃で5分ホールドした後、液体窒素で急冷して、その後-150℃から250℃まで、20℃/分の昇温速度で測定した。得られた曲線の変曲点をガラス転移温度とした。
【0042】
(5)酸価の測定(mgKOH/g)
試料(ポリエステル樹脂)0.2gを20mlのクロロホルムに溶解し、指示薬としてフェノールフタレインを用い、0.1NのKOHエタノール溶液で滴定した。この滴定量から、中和に消費されたKOHのmg数をポリエステル樹脂1gあたりの量に換算して酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0043】
(6)保存安定性
ポリエステル樹脂と、ポリエステル樹脂を酢酸エチルで固形分30質量%に溶解した樹脂溶液の2種類を40℃で3か月保管(静置状態)する。ポリエステル樹脂では分子量の低下の有無、樹脂溶液ではカスミの有無について確認した。
(評価基準)
○:ポリエステル樹脂の分子量に変化がなく、かつ樹脂溶液にカスミの発生がない。
△:「ポリエステル樹脂の分子量に変化はないが、樹脂溶液にカスミの発生がある。」または「ポリエステル樹脂の分子量は低下するが、樹脂溶液にカスミの発生はない。」
×:ポリエステル樹脂の分子量が低下し、かつ樹脂溶液にカスミの発生がある。
【0044】
(7)熱安定性
ポリエステル樹脂250gに対し、直径200μm以上の熱劣化物が何個含まれるかについて電子顕微鏡を用いてカウントし、評価した。熱劣化物が楕円形または長方形の場合は最も長い径が200μm以上のものとした。
(評価基準)
○:5(個/250g)以下。
△:6(個/250g)以上、20(個/250g)以下。
×:21(個/250g)以上。
【0045】
(8)塗膜用サンプルの作製
ポリエステル樹脂を酢酸エチルで固形分が50質量%となるように溶解し、ポリエステル樹脂溶液を得た。次いで、ポリエステル樹脂溶液にメチル化メラミン樹脂(サイメル(登録商標)303(日本サイテック社製))をポリエステル樹脂100質量部に対して5質量部添加し、よくかき混ぜて塗膜用サンプルを得た。
【0046】
(9)金属密着性(碁盤目テープ剥離試験)
前記塗膜用サンプルをアルミニウム金属板(#5052、70mm×150mm×0.3mm)にバーコーターで乾燥後の膜厚が4~8μmになるように塗装した。次いで、硬化焼き付けを行い、金属密着性試験用サンプルを作製した。焼付条件としては250℃(PMT(最高到達温度))×1分間とした。前記金属密着性試験用サンプルの塗装面にカッターナイフにて1mm間隔で100個の碁盤目を作り、その上にセロハン粘着テープを密着させて60°の角度で引き剥がした。剥離が生じなかった割合で金属密着性を評価した。全く剥離が生じなかった場合は100%、全て剥がれた場合は0%である。
【0047】
(10)ウェットインキ適性
ポリエステル樹脂をソルベッソ100/ブチルセロソルブ(50/50(質量比))の混合溶剤に溶解し、固形分濃度が40質量%になるように調節した。その得られた樹脂溶液に、ベンゾグアナミンをポリエステル樹脂/ベンゾグアナミンが80/20(固形分比)となるように配合し、更に硬化触媒としてp-トルエンスルホン酸をポリエステル樹脂とベンゾグアナミンの合計量(固形分)に対して0.1質量%となるように配合してクリア塗料を得た。次いで、厚さ0.5mmのブリキ板にポリエステル系のホワイトコーティング剤を塗布し、180℃で10分間乾燥させ、この上に乾性油アルキッド樹脂をビヒクルの主成分とするインキを塗布した(膜厚2μm)。未乾燥、未硬化の状態で、さらに前記インキの上に上記のクリア塗料を塗布し(膜厚5μm)、150℃で10分間乾燥を行い、ウェットインキ適性評価用サンプルを作製した。得られた試験片に対して、インキブリード現象、エンボス現象の程度を以下の基準により、目視で判定した。
(評価基準)
○:インキブリード現象、エンボス現象とも生じなかった。
△:インキブリード現象、またはエンボス現象が生じた。
×:インキブリード現象、およびエンボス現象がともに生じた。
【0048】
(11)硬化性(ゲル分率)
前記塗膜用サンプルをポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)上に乾燥後の厚みで、20μmになるように塗布し、120℃1時間熱風乾燥して、硬化性試験用サンプルを作製した。その後、MEK(メチルエチルケトン)/トルエン=1/1質量部の溶液中に、硬化性試験用サンプルが全て漬かるように室温で1時間浸漬した後、溶解しなかった残存量から以下の式で求めた。
ゲル分率(%)=(浸漬後の硬化性試験用サンプルの質量-PETフィルムの質量)/(浸漬前の硬化性試験用サンプルの質量-PETフィルムの質量)×100
(評価基準)
○:90%以上
△:70%以上90%未満
×:70%未満
【0049】
(12)顔料分散性評価用サンプルの作製
ポリエステル樹脂をトルエンに固形分が30質量%となるように溶解し、ポリエステル樹脂溶液を得た。次いで、ポリエステル樹脂溶液にメチル化メラミン樹脂(サイメル(登録商標)303(日本サイテック社製))をポリエステル樹脂100質量部に対して5質量部、顔料分散剤(ビッグケミー・ジャパン社製、商品名「DISPERBYK-182」、酸価:0mgKOH/g、アミン価:13mgKOH/g、不揮発分1.3g、以下byk182と表す)5質量部、顔料(石原産業社製、商品名「酸化チタンTTO―51」、以下TTO―51と表す)10質量部をそれぞれ添加し、よくかき混ぜて顔料分散性評価用サンプルを得た。
【0050】
(13)顔料分散性
上記顔料分散性評価サンプル200mlを密閉したサンプル瓶に入れ、それを40℃の恒温槽で1週間放置し、大塚電子株式会社製の粒径測定装置(FPAR-1000)を使用して粒径変化率を求め、○、△、×の3段階評価を行った。
(評価基準)
○:粒径変化率が10%未満
△:粒径変化率が10%以上50%未満
×:粒径変化率が50%以上
【0051】
本発明のポリエステル樹脂(a)の合成
<実施例1> ポリエステル樹脂(a)
ジメチルテレフタル酸250部、ジメチルイソフタル酸250部、エチレングリコール130部、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール350部、チタンテトラブトキシド0.3部を3Lフラスコに仕込み、4時間かけて240℃まで徐々に昇温しエステル交換反応を行なった。ついで、30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行なうとともに温度を250℃まで昇温し、さらにこのまま、1mmHg以下で90分間後期重合を行った。その後、減圧を止めて、窒素気流下で220℃まで冷却し、無水トリメリット酸20部を添加し、220℃で3時間撹拌しカルボキシル基変性(後付加)を行った後、樹脂を取り出し、本発明のポリエステル樹脂(a)を得た。結果を表1に示す。
【0052】
<実施例2> ポリエステル樹脂(b)
テレフタル酸280部、イソフタル酸280部、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール310部、1,4-ブタンジオール120部、チタンテトラブトキシド0.3部を10Lオートクレーブに仕込み、3.5Kg/cm・Gの窒素加圧下で3時間かけて235℃まで徐々に昇温し、エステル化反応を行った。次いで、1時間かけて10mmHgまで減圧重合を行うと共に温度を250℃まで昇温し、さらにこのまま1mmHg以下で90分間後期重合を行ない、ポリエステル樹脂(b)を得た。その後、減圧を止めて、窒素気流下で220℃まで冷却し、無水トリメリット酸20部を添加し、220℃で3時間撹拌しカルボキシル基変性(後付加)を行った後、樹脂を取り出し、本発明のポリエステル樹脂(b)を得た。結果を表1に示す。
【0053】
<実施例3~7> ポリエステル樹脂(c)~(g)
表1に記載の原料を用い、ポリエステル樹脂(b)と同様にエステル化反応を行った。次いで、220℃で3時間撹拌しカルボキシル基変性(後付加)を行い、本発明のポリエステル樹脂(c)~(g)を得た。結果を表1に示す。なお、エステル化反応では、多価カルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、無水トリメリット酸または無水ピロメリット酸を使用した。
【0054】
<実施例8~10> ポリエステル樹脂(h)~(j)
表1に記載の原料を用い、ポリエステル樹脂(a)と同様にエステル交換反応を行った。次いで、210℃で4時間撹拌しカルボキシル基変性(後付加)を行い、本発明のポリエステル樹脂(h)~(j)を得た。結果を表1に示す。なお、エステル交換反応では、多価カルボン酸成分として、ジメチルテレフタル酸、ジメチルイソフタル酸、ジメチルオルソフタル酸、ジメチルアジピン酸、ジメチルセバシン酸、無水トリメリット酸または無水ピロメリット酸を使用した。
【0055】
<実施例11、12> ポリエステル樹脂(k)、(l)
表1に記載の原料を用い、ポリエステル樹脂(b)と同様にエステル化反応を行った。次いで、230℃で2時間撹拌しカルボキシル基変性(後付加)を行い、本発明のポリエステル樹脂(k)、(l)を得た。結果を表1に示す。
【0056】
<比較例1、2> 比較ポリエステル樹脂(m)、(n)
表2に記載の原料を用い、ポリエステル樹脂(a)と同様にエステル交換反応を行い、比較ポリエステル樹脂(m)、(n)を合成した。結果を表2に示す。
【0057】
<比較例3~8> 比較ポリエステル樹脂(o)~(t)の合成
表2に記載の原料を用い、ポリエステル樹脂(a)と同様にエステル交換反応を行った。次いで、200℃で3時間撹拌しカルボキシル基変性(後付加)を行い、比較ポリエステル樹脂(o)~(t)を合成した。結果を表2に示す。
【0058】
<比較例9~11> 比較ポリエステル樹脂(u)~(x)の合成
表2に記載の原料を用い、ポリエステル樹脂(b)と同様にエステル化反応を行った。次いで、200℃で3時間撹拌しカルボキシル基変性(後付加)を行い、比較ポリエステル樹脂(u)~(x)を合成した。結果を表2に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】