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特許7423925口腔内常在菌の生育促進剤及び口腔用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】口腔内常在菌の生育促進剤及び口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/37 20060101AFI20240123BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20240123BHJP
   A61K 8/39 20060101ALI20240123BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20240123BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20240123BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240123BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20240123BHJP
   A23G 3/40 20060101ALN20240123BHJP
   A23G 4/06 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
A61K8/37
A61K8/34
A61K8/39
A61K8/67
A61K8/60
A61Q11/00
A23L33/12
A23G3/40
A23G4/06
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019137704
(22)【出願日】2019-07-26
(65)【公開番号】P2021020869
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-05-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006769
【氏名又は名称】ライオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 真達
(72)【発明者】
【氏名】石原 央子
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-231972(JP,A)
【文献】特開2012-144490(JP,A)
【文献】特開2009-155257(JP,A)
【文献】特開2016-014004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A23L 5/40- 5/49
A23L31/00-33/29
A23G 1/00
A61K31/00-31/327
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDReamIII)
Mintel GNPD
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/KOSMET(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)オレイン酸及びエルカ酸から選ばれる不飽和脂肪酸とグリセリン、ソルビタン、ショ糖、グリセリンの重合度が10以下のポリグリセリン、エチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリエチレングリコール及びエチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリオキシエチレンから選ばれる多価アルコールとのエステル化合物(但し、トリアシルグリセロール、オレイン酸と、エチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリエチレングリコール及びエチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリオキシエチレンから選ばれる多価アルコールとのエステル化合物を除く)を含有する口腔内常在菌の生育促進剤。
【請求項2】
(A)成分が、オレイン酸グリセリル、グリセリンの重合度が10以下のオレイン酸ポリグリセリル、オレイン酸ソルビタン、ショ糖オレイン酸エステル及びショ糖エルカ酸エステルから選ばれる1種以上である請求項1記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
【請求項3】
(A)成分が、オレイン酸グリセリル、オレイン酸ソルビタン、ショ糖オレイン酸エステル及びショ糖エルカ酸エステルから選ばれる請求項2記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
【請求項4】
口腔内の病原性細菌を選択的に抗菌し、かつ口腔内常在菌の生育を選択的に促進し、前記常在菌を増やしてその存在割合を高めることで口腔細菌叢の細菌構成比を改善する請求項1~3のいずれか1項記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
【請求項5】
口腔内常在菌が、ストレプトコッカス属細菌、ナイセリア属細菌、ロキア属細菌及びアクチノマイセス属細菌から選ばれる1種以上である請求項4記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
【請求項6】
病原性細菌が、ポルフィロモナス属細菌、プレボテラ属細菌、フゾバクテリウム属細菌、トレポネマ属細菌、タネレラ属細菌、カンピロバクター属細菌及びユウバクテリウム属細菌から選ばれる1種以上である請求項4又は5記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
【請求項7】
(A)オレイン酸、リノール酸及びエルカ酸から選ばれる不飽和脂肪酸とグリセリン、ソルビタン、ショ糖、グリセリンの重合度が10以下のポリグリセリン、エチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリエチレングリコール及びエチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリオキシエチレンから選ばれる多価アルコールとのエステル化合物(但し、トリアシルグリセロール、オレイン酸及びリノール酸から選ばれる不飽和脂肪酸と、エチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリエチレングリコール及びエチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリオキシエチレンから選ばれる多価アルコールとのエステル化合物を除く)、
(B)キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、マンニトール、マルチトール及びイソマルトから選ばれる1種以上、
並びに
(C)油溶性抗酸化物質
を含有し、(B)/(A)が質量比として4~40である口腔用組成物。
【請求項8】
(A)成分が、オレイン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、グリセリンの重合度が10以下のオレイン酸ポリグリセリル、オレイン酸ソルビタン及びショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルから選ばれる1種以上である請求項7記載の口腔用組成物。
【請求項9】
(C)油溶性抗酸化物質が、トコフェロール及びその誘導体から選ばれる1種以上である請求項7又は8記載の口腔用組成物。
【請求項10】
トコフェロール及びその誘導体が、トコフェロール、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、リノール酸トコフェノロール、オレイン酸トコフェロール及びコハク酸トコフェロールから選ばれるものである請求項9記載の口腔用組成物。
【請求項11】
(A)成分を0.01~5質量%、(B)成分を5~50質量%、(C)成分を0.05~2質量%含有する請求項7~10のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項12】
(C)/(A)が質量比として0.04~4である請求項7~11のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項13】
更に、殺菌剤及び防腐剤を含有しないか、あるいは殺菌剤又は防腐剤を含有し、その含有量がそれぞれ0.1質量%以下である請求項7~12のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項14】
洗口剤、歯磨剤又は口中清涼剤である請求項7~13のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項15】
ゲル状歯磨剤である請求項14記載の口腔用組成物。
【請求項16】
口腔内常在菌の生育促進用である請求項7~15のいずれか1項記載の口腔用組成物。
【請求項17】
口腔内の病原性細菌を選択的に抗菌し、かつ口腔内常在菌の生育を選択的に促進し、前記常在菌を増やしてその存在割合を高めることで口腔細菌叢の細菌構成比を改善する、口腔内常在菌の選択的な生育促進用である請求項16記載の口腔用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔内常在菌の生育を選択的に促進し、口腔細菌叢の細菌構成比の改善に有効な口腔内常在菌の生育促進剤及びこれを含有する口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの体には、多くの細菌が共生しており、細菌叢と呼ばれる細菌集団を形成し、ヒトの健康維持に重要な機能を有している。この細菌叢には、いわゆる非病原性の常在菌と、日和見感染菌を含む病原性を示す細菌とが混在しているが、通常は細菌叢のバランスが保たれ、いわゆる健康な状態であり、病原性細菌を原因とする疾患は抑制されている。また、身体の部位ごとにその細菌構成は異なるものでもあるが、内的あるいは外的要因によってその細菌構成のバランスが乱れ恒常性が破綻することで病原性細菌が優位となり病気へと進展する。そのため、健康の維持増進のためには、細菌構成の恒常性を維持するだけでなく、病原性細菌だけを抑制し、非病原性の常在菌がより優勢となる、恒常性の破綻が生じにくい細菌叢とすることが重要となる。
【0003】
口腔内におけるう蝕、歯周病等の口腔疾患も、口腔内に共生する口腔細菌叢の恒常性が破綻して病原性細菌が優勢となることで発症する。病原性細菌は殺菌剤を用いることで減らすことができるが、常在細菌も減らすため、細菌叢のバランスは変わらない。その一方で、単に病原性細菌を殺菌するだけではなく、病原性細菌以外の非病原性である常在菌の存在割合を保持又は増やして常在菌をより優勢な状態にすることで、口腔細菌叢の恒常性を維持又は改善よりするほうが、口腔疾患の発症予防にも効果的であり、口腔疾患の発症又は進行の抑制には重要である。
更に、口腔細菌は、口腔疾患だけでなく、腸炎やアルツハイマー疾患、糖尿病等との関係が報告されるなど、ヒトの全身健康にも関与している可能性が示され始めている。そのため、オーラルケアは、口腔疾患の予防、治療だけでなく、全身健康の維持、増進のために、常在菌を維持し、口腔細菌叢の恒常性を維持又は改善することで、健康な状態に保つことが重要である。
しかし、一般的に口腔用組成物に用いられている殺菌剤は、殺菌作用によって病原性細菌が排除されることで口腔疾患に対して一定の治療、予防効果はあるものの、その作用によって病原性細菌だけでなく、それ以外の常在菌までも殺菌、除去されてしまい、また、非病原性の常在菌をも殺菌してしまうことから、菌交代症のリスクもあった。更に、口腔内の細菌は、数時間で再び増加してしまうこともあり、殺菌剤の作用効果は十分に持続するとは言えなかった。
【0004】
そこで、口腔内の病原性細菌を選択的に抑制し、常在菌主体の口腔細菌叢を維持形成する技術が望まれ、これまでに、代表的技術として抗体等が検討されてきたが、十分な効果は得られているとは言い難く、改善の余地があった。
口腔内細菌叢のバランス保持に関する技術としては、例えば、プテロスチルベンや、カンカニクジュヨウ等の植物抽出物を用いた口腔用抗菌剤(特許文献1、2:特開2017-81831号公報、特開2016-113460号公報)、ヤマブシタケ等のキノコの乾燥粉末又はその抽出物を用いた口腔内の菌叢改善剤(特許文献3:国際公開第2016/043103号)、特定のリゾホスファチジン酸やその誘導体等とホスファチジン酸やその誘導体等とを組み合わせた口腔内常在菌の生育促進剤(特許文献4:特開2019-001720号公報)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-81831号公報
【文献】特開2016-113460号公報
【文献】国際公開第2016/043103号
【文献】特開2019-001720号公報
【文献】特開2012-144490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、口腔内常在菌の生育を選択的に促進し、口腔細菌叢の細菌構成比の改善に有効な口腔内常在菌の生育促進剤及びこれを含有する口腔用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、特定の不飽和脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物が、口腔内の病原性細菌を選択的に抗菌し、また更に、口腔内常在菌の生育を選択的に促進するという、口腔内常在菌の生育促進作用を奏し、このエステル化合物を口腔内常在菌の生育促進の有効成分として口腔用組成物に配合することで、上記口腔内常在菌の生育促進の作用効果に優れ、口腔細菌叢の改善効果も高く、格別な作用効果が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0008】
本発明では、(A)炭素数18以上22以下の不飽和脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物が、口腔内の病原性細菌を選択的に抗菌し、しかも、口腔内常在菌に対しては、その生育を選択的に促進するという、今まで知られていなかった口腔内常在菌の生育促進作用を有し、選択性も高く、これにより、口腔内の病原性細菌を減らし、口腔内常在菌を選択的に増加させてその存在割合を高め、口腔細菌叢の細菌構成比のバランスを非病原性の口腔内常在菌主体へと改善することもでき、このような新たな用途に応用することができた。
また、口腔用組成物に、上記のように口腔内常在菌の生育促進の有効成分として(A)成分を配合し、更に、(B)キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、マンニトール、マルチトール及びイソマルトから選ばれる1種以上と(C)油溶性抗酸化物質とを組み合わせて配合することによって、(A)成分による優れた口腔内常在菌の生育促進効果を付与でき、かつその効果が使用後も持続し、高い口腔細菌叢の改善効果を使用後に数時間経過しても持続させることができ、また、異味が抑制され良い味を確保することもできた。
【0009】
口腔内に生育する数百種類もの細菌の中で、病原性を示す細菌は、歯周病の原因菌であるポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、う蝕の原因菌であるストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)や、口臭の原因菌であるフゾバクテリウム ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)を代表とする数種類の細菌に過ぎない。残りのほとんどは、通常、ヒトへの病原性を示さないストレプトコッカス ゴルドニアイ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)を代表とするミティス(Mitis)グループのストレプトコッカス(連鎖球菌)属細菌、ナイセリア サブフラバ(Neisseria subflaba)等のナイセリア属細菌といった通常、口腔内においては非病原性の常在菌である。特にミティスグループのストレプトコッカス属細菌は、歯周病等の原因となる病原性細菌の排除に関与することが知られている。本発明では、このような病原性細菌の選択的抗菌作用を持ち、また更に、その一方で、前記のように病原性細菌を抗菌するだけではなく、口腔内常在菌、特にミティスグループの特定のストレプトコッカス属細菌の選択的生育促進作用を持ち、両作用を備え、口腔内常在菌の生育促進効果に優れることから、口腔細菌叢の改善効果も高く、口腔内常在菌のバランスが崩れて病原性に傾くのを防止し、その恒常性を維持又は改善し、健康な状態に保つことが可能である。この場合、上記の選択的抗菌作用に加え、選択的生育促進作用があることで口腔細菌叢の改善効果が増強し、口腔内常在菌がより優勢な状態とすることができ、歯周病等の口腔疾患の発症予防又は抑制に効果的でもある。
本発明の作用効果は、いわゆる一般的な殺菌剤、例えば病原性細菌と共に非病原性の口腔内常在菌をも殺菌してしまう非選択的な殺菌剤では劣るものであり、(A)成分による特異かつ格別な作用効果である。
なお、不飽和脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物は、口腔用組成物用の界面活性剤として用いられ、抗菌作用を有するものがあることは知られている。また、特許文献5(特開2012-144490号公報)は、炭素数18の脂肪酸を分子内に有するモノ脂肪酸ポリエチレングリコール等の化合物による、グリチルレチン酸又はその誘導体の抗炎症効果の向上である。これに対して、本発明は、(A)成分による、選択的な病原性細菌の抗菌及び口腔内常在菌の生育促進であり、前記常在菌を増やし口腔細菌叢の細菌構成比バランスを非病原性の常在菌主体に改善するものである。
【0010】
従って、本発明は、下記の口腔内常在菌の生育促進剤及び口腔用組成物を提供する。
〔1〕
(A)炭素数18以上22以下の不飽和脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物を含有する口腔内常在菌の生育促進剤。
〔2〕
炭素数18以上22以下の不飽和脂肪酸が、オレイン酸、リノール酸及びエルカ酸から選ばれる1種以上である〔1〕に記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
〔3〕
多価アルコールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビタン、ショ糖、グリセリンの重合度が10以下のポリグリセリン及びエチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリエチレングリコールから選ばれる1種以上である〔1〕又は〔2〕に記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
〔4〕
(A)成分が、オレイン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、グリセリンの重合度が10以下のオレイン酸ポリグリセリル、オレイン酸ソルビタン、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、エチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のオレイン酸ポリエチレングリコール、エチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル及びエチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリオキシエチレンオレイン酸グリセリルからから選ばれる1種以上である〔2〕又は〔3〕に記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
〔5〕
(A)成分が、オレイン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、オレイン酸ソルビタン、ショ糖オレイン酸エステル及びショ糖エルカ酸エステルから選ばれる〔4〕に記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
〔6〕
口腔内の病原性細菌を選択的に抗菌し、かつ口腔内常在菌の生育を選択的に促進し、前記常在菌を増やしてその存在割合を高めることで口腔細菌叢の細菌構成比を改善する〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
〔7〕
口腔内常在菌が、ストレプトコッカス属細菌、ナイセリア属細菌、ロキア属細菌及びアクチノマイセス属細菌から選ばれる1種以上である〔6〕に記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
〔8〕
病原性細菌が、ポルフィロモナス属細菌、プレボテラ属細菌、フゾバクテリウム属細菌、トレポネマ属細菌、タネレラ属細菌、カンピロバクター属細菌及びユウバクテリウム属細菌から選ばれる1種以上である〔6〕又は〔7〕に記載の口腔内常在菌の生育促進剤。
〔9〕
(A)炭素数18以上22以下の不飽和脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物、
(B)キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、マンニトール、マルチトール及びイソマルトから選ばれる1種以上、
並びに
(C)油溶性抗酸化物質
を含有する口腔用組成物。
〔10〕
(A)成分が、オレイン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、グリセリンの重合度が10以下のオレイン酸ポリグリセリル、オレイン酸ソルビタン、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、エチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のオレイン酸ポリエチレングリコール、エチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル及びエチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリオキシエチレンオレイン酸グリセリルからから選ばれる1種以上である〔9〕に記載の口腔用組成物。
〔11〕
(C)油溶性抗酸化物質が、トコフェロール及びその誘導体から選ばれる1種以上である〔9〕又は〔10〕に記載の口腔用組成物。
〔12〕
(A)成分を0.01~5質量%、(B)成分を5~50質量%、(C)成分を0.05~2質量%含有する〔9〕~〔11〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔13〕
(B)/(A)が質量比として2~100である〔9〕~〔12〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔14〕
(C)/(A)が質量比として0.04~4である〔9〕~〔13〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔15〕
更に、殺菌剤及び防腐剤を含有しないか、あるいは殺菌剤又は防腐剤を含有し、その含有量がそれぞれ0.1質量%以下である〔9〕~〔14〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔16〕
洗口剤、歯磨剤又は口中清涼剤である〔9〕~〔15〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔17〕
ゲル状歯磨剤である〔16〕に記載の口腔用組成物。
〔18〕
口腔内常在菌の生育促進用である〔9〕~〔17〕のいずれかに記載の口腔用組成物。
〔19〕
口腔内の病原性細菌を選択的に抗菌し、かつ口腔内常在菌の生育を選択的に促進し、前記常在菌を増やしてその存在割合を高めることで口腔細菌叢の細菌構成比を改善する、口腔内常在菌の選択的な生育促進用である〔18〕に記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、口腔内の病原性細菌を選択的に抗菌し、また更に、口腔内常在菌の生育を選択的に促進するという、口腔内常在菌の生育促進作用を奏し、口腔細菌叢の細菌構成比の改善に有効な口腔内常在菌の生育促進剤及びこれを含有する口腔用組成物を提供できる。本発明の口腔用組成物は、上記口腔内常在菌の生育促進効果に優れる上に、口腔細菌叢改善効果が使用後も持続し、味も良く、口腔内常在菌の生育促進用として好適であり、歯周病等の口腔疾患の発症予防又は抑制に効果的でもある。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳述する。本発明の口腔内常在菌の生育促進剤は、(A)炭素数18以上22以下の不飽和脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物が、口腔内常在菌の生育促進のための有効成分であり、上記(A)成分を有効成分として含有する。
【0013】
(A)炭素数18以上22以下の不飽和脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物は、口腔内の病原性細菌を選択的に抗菌し、また更に、口腔内常在菌の生育を選択的に促進するという、口腔内常在菌の生育促進作用を奏し、更に、これらによって口腔細菌叢改善作用も奏する。
【0014】
上記エステル化合物において、不飽和脂肪酸は、炭素数18~22の不飽和脂肪酸であり、例えばオレイン酸(C18:1)、リノール酸(C18:2)、リノレン酸(C18:3)、エルカ酸(C22:1)が挙げられるが、特にオレイン酸、リノール酸、エルカ酸が好ましい。なお、括弧内の数値は、炭素数:不飽和結合数である。
また、多価アルコールは、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビタン、ソルビトール、ショ糖、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリオキシエチレン(ポリエチレンオキシド)が挙げられるが、特にエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビタン、ショ糖、ポリエチレングリコールが好ましく、より好ましくはグリセリン、ソルビタン、ショ糖である。
ポリグリセリン等の重合物の場合、その重合度は、特に定めるものではないが、グリセリンの重合度10以下が好ましく、より好ましくは6以下である。重合度が低い方が、より優れた口腔内常在菌の生育促進効果(病原性細菌の選択的抗菌、常在菌の選択的生育促進の作用効果)が得られる。なお、非重合のグリセリンのほうが好ましい。
ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンの場合、エチレンオキシドの平均付加モル数(E.O.)は、特に定めるものではないが、それぞれ、E.O.10以下が好ましく、より好ましくは6以下である。E.O.が低いほうが、より優れた口腔内常在菌の生育促進効果が得られる。
【0015】
上記不飽和脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物の具体例としては、オレイン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、リノレン酸グリセリル、エルカ酸グリセリル、オレイン酸ポリグリセリル、リノール酸ポリグリセリル、リノレン酸ポリグリセリル、エルカ酸ポリグリセリル、オレイン酸ソルビタン、リノール酸ソルビタン、リノレン酸ソルビタン、エルカ酸ソルビタン、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖リノール酸エステル、ショ糖リノレン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、オレイン酸ポリエチレングリコール、リノール酸ポリエチレングリコール、リノレン酸ポリエチレングリコール、エルカ酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンリノール酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンリノレン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンエルカ酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸グリセリル、ポリオキシエチレンリノール酸グリセリル、ポリオキシエチレンリノレン酸グリセリル、ポリオキシエチレンエルカ酸グリセリル等が挙げられる。これらのうちで、特にオレイン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、オレイン酸ポリグリセリル、オレイン酸ソルビタン、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、オレイン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸グリセリルが好ましい。より好ましくはオレイン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、オレイン酸ポリグリセリル、オレイン酸ソルビタン、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、オレイン酸ポリエチレングリコール(モノオレイン酸ポリエチレングリコール)であり、更に好ましくはオレイン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、オレイン酸ソルビタン、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルである。
【0016】
(A)炭素数18以上22以下の不飽和脂肪酸と多価アルコールとのエステル化合物としては、特に、オレイン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、グリセリンの重合度が10以下のオレイン酸ポリグリセリル、オレイン酸ソルビタン、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、エチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のオレイン酸ポリエチレングリコール、エチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸エステル、エチレンオキシドの平均付加モル数が10以下のポリオキシエチレンオレイン酸グリセリルが好ましく、中でもオレイン酸グリセリル、リノール酸グリセリル、オレイン酸ソルビタン、ショ糖オレイン酸エステル及びショ糖エルカ酸エステルがより好ましい。
上記エステル化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用し得る。
【0017】
本発明の口腔内常在菌の生育促進剤は、上述したように有効成分である(A)成分によって、口腔内の病原性細菌を選択的に抗菌し、また更に、口腔内常在菌の生育を選択的に促進するという、口腔内常在菌の生育促進作用を奏し、これにより、口腔内常在菌の存在割合を増やして口腔細菌叢の細菌構成比を改善する口腔細菌叢改善作用をも奏し、口腔細菌叢改善剤として応用することもできる。
この場合、本発明では、口腔内に適用後に口腔細菌叢の改善度合いが、後述の実験例に示すように、口腔内での口腔細菌叢を想定して形成させたバイオフィルムにおける病原性細菌の割合の減少率が好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上である。
【0018】
口腔内常在菌としては、ストレプトコッカス属細菌、ナイセリア属細菌、ロキア属細菌、アクチノマイセス属細菌が挙げられるが、好ましくはストレプトコッカス属細菌である。具体的には、ストレプトコッカス ゴルドニアイ(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス オラリス(Streptococcus oralis)、ストレプトコッカス ミティス(Streptococcus mitis)、ストレプトコッカス サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス パーオリス(Streptococcus peroris)、ストレプトコッカス インファンティス(Streptococcus infantis)、ストレプトコッカス サングイニス(Streptococcus sanguinis)、アクチノマイセス ビスコーサス(Actinomyces viscosus)、アクチノマイセス ナエスランディ(Actinomyces naeslundii)、ナイセリア サブフラバ(Neisseria subflaba)、ナイセリア シッカ(Neisseria sicca)、ロキア デントカリオサ(Rothia dentocariosa)、ロキア ムシラギノサ(Rothia mucilaginosa)等が挙げられ、中でも好ましい細菌は、特に歯周病を発症していない口腔内に多く生育する傾向にある、ナイセリア サブフラバ(Neisseria subflaba)、ナイセリア シッカ(Neisseria sicca)や、歯周病原菌の抗菌作用を有するストレプトコッカス属細菌、ロキア デントカリオサ(Rothia dentocariosa)、ロキア ムシラギノサ(Rothia mucilaginosa)である。本発明では、これらから選ばれる1種又は2種以上の口腔内常在菌に対する生育促進作用が優れる。
【0019】
病原性細菌としては、歯周病や口臭の原因となる病原菌、例えばポルフィロモナス属細菌、プレボテラ属細菌、フゾバクテリウム属細菌、トレポネマ属細菌、タネレラ属細菌、カンピロバクター属細菌、ユウバクテリウム属細菌が挙げられるが、好ましくはポルフィロモナス属細菌、プレボテラ属細菌、フゾバクテリウム属細菌、特にポルフィロモナス属細菌である。具体的には、ポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテラ インターメディア(Prevotella intermedia)、フゾバクテリウム ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)等が挙げられ、中でも好ましい細菌はポルフィロモナス ジンジバリスである。本発明では、これらから選ばれる1種又は2種以上の病原性細菌に対する抗菌作用が優れる。
【0020】
本発明の口腔内常在菌の生育促進剤は、有効成分として(A)成分を配合することで得ることができる。また更に、必要に応じて、その他の口腔用として公知の成分を含んでいてもよく、この場合、公知成分は本発明の効果を妨げない範囲で配合し得る。
【0021】
本発明の口腔用組成物は、有効成分として(A)成分を配合し、更に後述の(B)及び(C)成分を配合することで得ることができる。
本発明の口腔用組成物は、形状及び剤型は特に限定されず、例えば液体(溶液、乳液、懸濁液等)、固体(粉体や錠剤、顆粒、カプセル、フィルム等)、半固体(ペースト、ゲル、クリーム等)の形状で、各種剤型に調製できる。例えば、練歯磨、ゲル状歯磨、液状歯磨、液体歯磨、潤製歯磨等の歯磨剤、洗口剤、口中清涼剤、チューインガム、グミ、キャンディー、チョコレート、飲料、錠菓等が挙げられるが、中でも歯磨剤、洗口剤、口中清涼剤が、本作用効果の発現の点で好ましい。また、本作用効果の発現の点から、形状はゲル状が好ましく、ゲル状歯磨剤が特に好ましく、研磨剤無配合のゲル状歯磨剤がよい。
なお、本発明において、口腔用組成物とは、「主として口腔内で使用することを目的にするもの」であり、(i)摂取可能なものと、(ii)使用後は口腔内から排出されるものが挙げられ、どちらでもよい。なお、摂取可能なものは、例えば口腔内で舐め、必要により噛み砕いて適用できる。
【0022】
上記口腔用組成物において、(A)成分の配合量は、組成物全体の0.01~5%(質量%、以下同様)が好ましく、より好ましくは0.1~5%、更に好ましくは0.25~2.5%である。配合量が0.01%以上であると、十分な口腔内常在菌の生育促進効果が得られ、その効果が十分に持続し、口腔細菌叢改善効果も十分に得られ、特に0.1%以上であると口腔内常在菌の生育促進効果がより向上する。5%以下であると、味や使用感を十分に確保できる。
【0023】
本発明の口腔用組成物には、更に(B)キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、マンニトール、マルチトール、イソマルトから選ばれる1種以上を配合することが好ましい。(B)成分は、(A)成分による口腔内常在菌の生育促進効果を向上し、特に口腔細菌叢改善効果の持続性を高める作用を奏し、また、(A)成分による異味を改善する作用を奏する。
【0024】
(B)成分としては、特に口腔細菌叢改善効果の持続性、味の点から、キシリトール、エリスリトールが好ましい。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用し得る。
【0025】
(B)成分の配合量は、組成物全体の5~50%が好ましく、より好ましくは10~50%である。配合量が5%以上であると、十分な異味改善効果が得られる。配合量が多すぎると、(A)成分による口腔内常在菌の生育促進効果が低下する場合があり、50%以下であると、口腔内常在菌の生育促進効果、更には口腔細菌叢改善効果を十分に維持できる。
【0026】
本発明の口腔用組成物は、更に(C)油溶性抗酸化物質を配合することが好ましい。(C)成分を配合すると、口腔内常在菌の生育促進効果がより高まり、特に口腔細菌叢改善効果の持続性がより優れ、また、(B)成分による異味改善効果が増強する。
【0027】
(C)油溶性抗酸化物質は、特に限定されないが、例えば、トコフェロールや、酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、リノール酸トコフェノロール、オレイン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール等のトコフェロール誘導体、コエンザイムQ10、カテキン、アントシアニン等のポリフェノール類、ルテイン、カロテン等のカロテノイド類、レチノール、パルミチン酸レチノール、アスコルビン酸パルミチン酸エステルが挙げられる。特に口腔細菌叢改善効果の持続性、味の点から、トコフェロール又はその誘導体が好ましく、より好ましくは酢酸トコフェロールである。これらは、1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0028】
(C)油溶性抗酸化物質の配合量は、活性本体の配合量として、例えばトコフェロール又はその誘導体の場合はトコフェロール量として、組成物全体の0.04~2%が好ましく、より好ましくは0.08~1%である。配合量が0.04%以上であると、十分に口腔内常在菌の生育促進効果が高まり、口腔細菌叢改善効果及びその持続性がより改善する。2%以下であると、(C)成分由来の異味が十分に抑えられ、良い味を保つことができる。
【0029】
口腔用組成物において、(A)成分と(B)成分との配合割合を示す(B)/(A)は、質量比として2~100が好ましく、より好ましくは4~40である。(B)/(A)の質量比が上記範囲内であると、口腔内常在菌の生育促進効果がより優れ、口腔細菌叢改善効果及びその持続性もより優れ、また、良い味を保持できる。
【0030】
また、(A)成分と(C)成分との配合割合を示す(C)(活性本体量)/(A)は、質量比として0.04~4が好ましく、より好ましくは0.1~2である。(C)/(A)の質量比が上記範囲内であると、口腔内常在菌の生育促進効果がより優れ、口腔細菌叢改善効果及びその持続性もより優れ、また、良い味を保持できる。
本発明では、(B)/(A)の質量比、(C)/(A)の質量比がそれぞれ上記範囲内であると上記作用効果が更に優れ、とりわけ好ましい。
【0031】
また、本発明の口腔用組成物には、上記成分以外にも公知の成分を添加することができるが、歯周病原菌等の口腔疾患の原因菌と共に非病原性細菌をも殺菌する非選択的殺菌剤やこれら細菌の生育を阻止する防腐剤の配合は制限することが好ましい。前記非選択的殺菌剤は、従来から広く口腔用組成物に使用されている殺菌剤に多くみられ、例えば塩化セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、クロルヘキシジン又はその塩、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール、ヒノキチオール等の殺菌剤が挙げられる。防腐剤は、例えばメチルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル、安息香酸又はその塩、デヒドロ酢酸又はその塩、プロピオン酸又はその塩、ソルビン酸又はその塩、ホウ酸、ホウ砂等が挙げられる。
【0032】
これら非選択的殺菌剤及び/又は防腐剤は、本発明の効果を妨げない範囲であれば配合してもよく、配合する場合、それぞれの配合量は、組成物全体の0.1%以下、特に0.05%以下、更に0.03%以下、また更に0.01%以下、とりわけ0.005%以下が好ましい。
これら非選択的殺菌剤、防腐剤は、病原性の歯周病原菌と共に非病原性の口腔内常在菌をも殺菌してしまう非選択的な殺菌作用を奏するため、これらが配合されていると、口腔内の菌バランスが崩れて口腔細菌叢が制御できなくなり、菌交代症の可能性が生じてくる場合がある。したがって、本発明においては、上記非選択的殺菌剤及び/又は防腐剤が配合されていない(それぞれの配合量が0%)ほうが、口腔内常在菌の生育促進、口腔細菌叢改善の点で、より好適である。
なお、非選択的殺菌剤及び/又は防腐剤を配合する場合、(A)成分と非選択的殺菌剤及び/又は防腐剤との量比を示す(A)/(非選択的殺菌剤及び/又は防腐剤)が、質量比として好ましくは15超、特に20以上であると、口腔内常在菌の生育促進作用、口腔細菌叢改善作用を十分に得ることができる。
【0033】
本発明の口腔用組成物には、その使用目的、剤型等に応じて、上記成分に加えて、これら以外の公知成分を必要に応じて任意に配合することができる。
例えば、練歯磨等の歯磨剤には、研磨剤、粘稠剤、粘結剤、界面活性剤、甘味剤、着色剤、香料、有効成分等を配合できる。洗口剤には、粘稠剤、粘結剤、界面活性剤、甘味剤、着色剤、香料、pH調整剤、有効成分等を配合でき、これらと共に水を配合し、通常の方法で調製できる。
チューインガム、グミ、キャンディー、チョコレート、錠菓には、通常用いられる成分を通常量で配合できる。例えばチューインガムには、ガムベース、食用ガム質等の結合剤、甘味剤、着色剤、酸味料、保存料、光沢剤、香料、有効成分等を配合でき、グミには、グリセリン、ゼラチン等の増粘剤やゲル化剤、糖類、酸味料、甘味剤、着色剤、乳化剤、果汁、有効成分等を配合できる。
【0034】
研磨剤は、沈降性シリカ、アルミノシリケート、ジルコノシリケート等のシリカ系研磨剤、第2リン酸カルシウム・2水和物又は無水和物、第1リン酸カルシウム、第3リン酸カルシウム等のリン酸カルシウム系化合物、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、合成樹脂系研磨剤等が挙げられる。これら研磨剤の配合量は、通常、組成物全体の2~40%、特に10~30%である。
【0035】
粘稠剤は、例えばプロピレングリコール、グリセリン、平均分子量160~400(医薬部外品原料規格2006記載の平均分子量)のポリエチレングリコール等の多価アルコールが挙げられる。これら粘稠剤の配合量は、通常、組成物全体の5~50%、特に10~30%である。
【0036】
粘結剤は、有機又は無機粘結剤を配合できる。有機粘結剤は、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸誘導体、キサンタンガム等のガム類、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。無機粘結剤は、例えばゲル化性シリカ、ゲル化性アルミニウムシリカ等が挙げられる。粘結剤の配合量は、通常、組成物全体の0.1~10%である。なお、本発明では、特に有機粘結剤が好ましく、有機粘結剤の組成物全体に対する配合量は、組成物全体の0.1~5%、特に0.5~3%がよい。
【0037】
界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤を配合できる。アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、N-アシルサルコシン酸塩が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルアンモニウム塩等、両性界面活性剤としては、ベタイン系やイミダゾリン系のものが挙げられる。界面活性剤の配合量は、通常、組成物全体の0~10%、特に0.01~5%である。
【0038】
甘味剤は、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、ステビオサイド、ステビアエキス等が挙げられる。
着色剤は、青色1号、黄色4号、二酸化チタン等が挙げられる。
【0039】
香料は、ペパーミント油、スペアミント油、アニス油、ユーカリ油、ウィンターグリーン油、カシア油、クローブ油、タイム油、セージ油、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、カルダモン油、コリアンダー油、マンダリン油、ライム油、ラベンダー油、ローズマリー油、ローレル油、カモミル油、キャラウェイ油、マジョラム油、ベイ油、レモングラス油、オリガナム油、パインニードル油、ネロリ油、ローズ油、ジャスミン油、グレープフルーツ油、スウィーティー油、柚油、イリスコンクリート、アブソリュートペパーミント、アブソリュートローズ、オレンジフラワー等の天然香料や、これら天然香料の加工処理(前溜部カット、後溜部カット、分留、液液抽出、エッセンス化、粉末香料化等)した香料、及び、メントール、カルボン、アネトール、シネオール、サリチル酸メチル、シンナミックアルデヒド、オイゲノール、3-l-メントキシプロパン-1,2-ジオール、チモール、リナロール、リナリールアセテート、リモネン、メントン、メンチルアセテート、N-置換-パラメンタン-3-カルボキサミド、ピネン、オクチルアルデヒド、シトラール、プレゴン、カルビールアセテート、アニスアルデヒド、エチルアセテート、エチルブチレート、アリルシクロヘキサンプロピオネート、メチルアンスラニレート、エチルメチルフェニルグリシデート、バニリン、ウンデカラクトン、ヘキサナール、ブタノール、イソアミルアルコール、ヘキセノール、ジメチルサルファイド、シクロテン、フルフラール、トリメチルピラジン、エチルラクテート、エチルチオアセテート等の単品香料、更に、ストロベリーフレーバー、アップルフレーバー、バナナフレーバー、パイナップルフレーバー、グレープフレーバー、マンゴーフレーバー、バターフレーバー、ミルクフレーバー、フルーツミックスフレーバー、トロピカルフルーツフレーバー等の調合香料等、口腔用組成物に用いられる公知の香料素材を組み合わせて使用できるが、実施例記載の香料に限定されるものではない。また、配合量も特に限定されないが、上記の香料素材は、組成物中に0.000001~1%使用するのが好ましく、上記香料素材を使用した賦香用香料は、組成物中に0.1~2%使用するのが好ましい。
【0040】
pH調整剤は、例えばクエン酸、リンゴ酸又はこれらの塩、アルカリ金属の水酸化物、炭酸水素塩、炭酸塩等が挙げられる。
【0041】
任意の有効成分は、例えばトラネキサム酸、イプシロンアミノカプロン酸、アラントイン等の抗炎症剤、デキストラナーゼ等の酵素、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム等のフッ素含有化合物、植物抽出物、歯石防止剤、歯垢防止剤を、本発明の効果を妨げない範囲で有効量配合することができる。
【実施例
【0042】
以下、実験例、実施例及び比較例、処方例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において%は特に断らない限りいずれも質量%を示す。
【0043】
[実験例]
表1に示す物質を評価サンプルとして使用し、各評価サンプルについて、下記の(1)、(2)に示す方法で評価を行った。結果を表に併記した。
【0044】
(1)細菌の生育への影響の評価
後述の細菌(口腔内常在菌、歯周病原菌)の凍結保存菌株を用い、それぞれの細菌を、血液平板培地*1を用いて37℃で2日間培養し、生育したコロニーをトリプチックソイ培地(TS培地、Becton and Dickinson社製)4mLに播種し、37℃で1日間嫌気培養(80vol%窒素、10vol%二酸化炭素、10vol%水素)することで、各細菌の菌培養液を調製した。96穴マルチプレート(住友ベークライト(株)製)に菌培養液を2%添加した2倍濃度のTS培地100μLを加え、更に、終濃度が0.01%となるように評価サンプルを100μL添加(コントロールは無添加で、代わりに精製水100μLを添加)し、37℃で18時間嫌気培養した。
各細菌について、生育した細菌量を、波長550nmの濁度で測定した。なお、濁度測定前には、プレートを振とうして菌培養液を撹拌した。
細菌の生育度は、コントロールの菌培養液の濁度増加量(Tc)に対する評価サンプル添加の菌培養液の濁度増加量(Ts)の相対値Tr(=Ts/Tc)を求め、このTr値を指標とした。Tr値が1.0より大きいと生育が促進され、1.0より小さいと生育が抑制された(抗菌効果有)ことになる。
上記Tr値から、下記に示す評価基準に基づき細菌の生育への影響(口腔内常在菌の生育への影響(生育促進効果)、歯周病原菌の生育への影響(抗菌効果))を評価した。
【0045】
細菌の生育への影響についての評価基準
口腔内常在菌の生育への影響(生育促進効果)
Tr(=Ts/Tc)
A:1.5以上
B:1.1以上1.5未満
C:1.0を超え1.1未満
D:1.0以下
歯周病原菌の生育への影響(抗菌効果)
Tr(=Ts/Tc)
A:0.05未満
B:0.05以上0.2未満
C:0.2以上0.5未満
D:0.5以上1.0未満
【0046】
*1:血液平板培地の組成:
トッドへーウィットブロース(Becton and Dickinson社製):
30g/L
寒天(Becton and Dickinson社製): 15g/L
ヘミン(シグマ アルドリッチ社製): 5mg/L
ビタミンK(富士フイルム和光純薬(株)製): 1mg/L
蒸留水: 残部
(全量が1Lになるようにメスアップし、121℃で20分間オートクレーブした。)
綿羊脱繊血(日本バイオテスト研究所製): 100mL
【0047】
評価に用いた細菌は、American Type Culture Collection(以下、ATCCと略記。)より購入した、下記の菌種を用いた。
口腔内常在菌:
ストレプトコッカス ゴルドニアイ(S.gordonii) ATCC10558
歯周病原菌:
ポルフィロモナス ジンジバリス(P.gingivalis) ATCC33277
【0048】
(2)口腔細菌叢改善効果の評価
口腔内の細菌叢を想定して複数細菌を使用し、下記方法で口腔細菌叢改善効果を評価した。
24穴マルチプレート(住友ベークライト(株)製)に、0.1%濃度の評価サンプル水溶液又は蒸留水(コントロール)を0.1mL添加した。続いて、口腔内常在菌として、(i)ストレプトコッカス ゴルドニアイ(S.gordonii) ATCC10558、(ii)アクチノマイセス ビスコーサス(A.viscosus) ATCC43146、歯周病原菌として、(iii)フゾバクテリウム ヌクレアタム(F.nucleatum) ATCC23726、(iv)プラボテラ インターメディア(P.intermedia) ATCC49046、(v)ポルフィロモナス ジンジバリス(P.gingivalis) ATCC33277を混合して調製した混合菌液*2を0.9mL添加し、37℃で24時間嫌気培養することでプレート底部にバイオフィルムを形成させた。バイオフィルムは、1mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で4回洗浄した後、再び1mLのPBSを添加し、チップの先端で掻き取り回収した。超音波処理(20kHz、5秒間)によって回収したバイオフィルムを分散し、トリプチックソイブロス(Tryptic Soy Broth、Becton and Dickinson社製)を用いて10倍希釈系列を作製した。10-3、10-4、10-5希釈液を50μL、下記に示す選択培地に塗抹して培養した。培養後、生えてくる細菌コロニー数を計測することにより、生菌数及び菌構成比を算出した。すなわち、血液平板培地*1で、37℃、2日間好気培養することで生えてくる(i)S.gordonii ATCC10558と(ii)A.viscosus ATCC43146を、CVE寒天培地*3で37℃、7日間嫌気培養することで生えてくる(iii)F.nucleatum ATCC23726を、200μg/mLのカナマイシンを添加した血液平板培地で、37℃、7日間嫌気培養することで生えてくる(iv)P.intermedia ATCC49046、(v)P.gingivalis ATCC33277を、それぞれコロニー形態で判別した。
なお、細菌は、全てAmerican Type Culture Collection(ATCCと略記)より購入した菌株を用いた。
【0049】
評価サンプルを処置したバイオフィルム中における歯周病原菌((iii)、(iv)、(v))合計の割合をa(%)、評価サンプルを処置していないコントロールのバイオフィルム中における歯周病原菌合計の割合をb(%)とし、下記に示す計算式にてバイオフィルム中の病原性細菌の割合の減少率(%)を算出した。この減少率から、下記に示す評価基準に基づき口腔細菌叢改善効果を評価した。
病原性細菌の割合の減少率(%)=100-(a/b)×100
口腔細菌叢改善効果の評価基準
A:病原性細菌の割合の減少率(%)が70%以上
B:病原性細菌の割合の減少率(%)が50%以上70%未満
C:病原性細菌の割合の減少率(%)が20%以上50%未満
D:病原性細菌の割合の減少率(%)が20%未満
なお、コントロールの(i)+(ii)=40%、(iii)+(iv)+(v)=60%(=b%)であった。
【0050】
*2:混合菌液の調製
上記(1)と同様にTS培地で培養した細菌を、菌数が各々2×108cfu/mLになるように下記組成の培地に懸濁し、混合菌液を調製した。
培地組成:
プロテオースペプトン(Becton and Dickinson社製):
10.0g/L
トリプトン(Becton and Dickinson社製): 5.0g/L
イーストエキス(Becton and Dickinson社製): 5.0g/L
ムチン(シグマ アルドリッチ社製): 12.5g/L
ヘミン(シグマ アルドリッチ社製): 1.0mg/L
ビタミンK(富士フイルム和光純薬(株)製): 0.2mg/L
KCl(富士フイルム和光純薬(株)製): 2.5g/L
システイン(富士フイルム和光純薬(株)製): 0.5g/L
グルコース: 1.0g/L
蒸留水: 残部
(全量が1Lになるようにメスアップし、121℃で20分間オートクレーブした。)
【0051】
*3:CVE寒天培地
トリプティケース ペプトン(日本ベクトンディッキンソン(株)製) 10g/L
酵母エキス(日本ベクトンディッキンソン(株)製) 5g/L
塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬(株)製) 5g/L
グルコース(富士フイルム和光純薬(株)製) 2g/L
L-トリプトファン(富士フイルム和光純薬(株)製) 0.2g/L
寒天(富士フイルム和光純薬(株)製) 15g/L
蒸留水 残部
(全量が1Lになるようにメスアップし、121℃で20分間オートクレーブした。)
綿羊脱繊血(日本バイオテスト研究所製) 100mL
エリスロマイシン(シグマ アルドリッチ社製、4mg/mL) 1mL
クリスタルバイオレット(富士フイルム和光純薬(株)製、5mg/mL)1mL
【0052】
なお、使用原料の詳細は下記の通りである。なお、グリセリルの後の( )内の数字はグリセリンの重合度である。
オレイン酸グリセリル:NIKKOL MGO(日光ケミカルズ(株)製)
リノール酸グリセリル:モノリノール酸グリセリル(富士フイルム和光純薬(株)製)
オレイン酸ポリグリセリル(4):NIKKOL Tetraglyn 1-OV(日光ケミカルズ(株)製)
オレイン酸ポリグリセリル(10):NIKKOL Decaglyn 1-OV(日光ケミカルズ(株)製)
オレイン酸ソルビタン:span80(富士フイルム和光純薬(株)製)
ショ糖オレイン酸エステル:リョートーシュガーエステルO-1570(三菱ケミカルフーズ(株)製)
ショ糖エルカ酸エステル:リョートーシュガーエステルER-190(三菱ケミカルフーズ(株)製)
モノオレイン酸ポリエチレングリコール(6):NIKKOL MYO-6V(日光ケミカルズ(株)製)
モノオレイン酸ポリエチレングリコール(10):NIKKOL MYO-10V(日光ケミカルズ(株)製)
ステアリン酸グリセリル: モノステアリン(富士フイルム和光純薬(株)製)
オレイン酸エチル:ethyl oreate(富士フイルム和光純薬(株)製)
モノオレイルグリセリルエーテル:NIKKOL セラキルアルコール(日光ケミカルズ(株)製)
ポリオキシエチレン(2)オレイルエーテル:NIKKOL BO-2V(日光ケミカルズ(株)製)、E.O.2
モノデセン酸グリセリル:モノデセノイン(ニューチェックプレップ社製)
モノパルミトレイン酸グリセリル:モノパルミトレイン(ニューチェックプレップ社製)
【0053】
【表1】
【0054】
No.1、3~6の物質は、歯周病原菌の抗菌効果が高いが、口腔内常在菌の生育も妨げられ、その生育促進効果が低く、No.2の物質は前記抗菌効果及び生育促進効果が共に低く、また、これらは、口腔細菌叢における歯周病原菌の割合の減少率が小さく、口腔細菌叢改善効果が低かった(比較品)。これに対して、No.7~15の物質は、歯周病原菌の抗菌効果が高く、しかも、その一方で口腔内常在菌には抗菌効果ではなくその生育を促進し、その生育促進作用が高く、口腔内常在菌の選択的な生育促進効果に優れ、口腔細菌叢改善効果も優れていた(本発明品)。
【0055】
[実施例、比較例]
表2~4に示す組成の口腔用組成物(ゲル状歯磨剤)を常法によって調製し、これらを蒸留水で3倍希釈した液を評価サンプルとし、上記実験例における(1)、(2)に示す評価を同様の方法で行った。また、下記(3)に示す評価を行った。更に、(4)に示す評価も行った。結果を表に併記した。
【0056】
(3)口腔細菌叢改善効果の持続性の評価
被験者8名による試験を行った。口腔清掃を市販の練歯磨剤を用いて通常通りの方法によって行い、口腔内の細菌を除去した後、表に示す評価サンプル約1gを歯ブラシにとり、歯と歯茎をブラッシングした。ブラッシング後のすすぎは1回と規定した。サンプルを使用して5時間経過後の口腔内細菌を洗口吐出唾液として回収して口腔細菌叢改善効果を下記方法で評価した。コントロールとして、サンプルを使用せずにブラッシングし、5時間経過後の口腔内細菌を洗口吐出唾液として回収して、口腔細菌叢改善効果を同様に評価した。なお、洗口吐出唾液は、蒸留水10mLを口に含み、約30秒間洗口した後、吐き出した液(唾液を含む)であり、これを口腔内細菌の回収に用いた。
口腔細菌叢改善効果の評価は、洗口吐出唾液中の口腔内常在菌(ミティスグループを含む連鎖球菌(ストレプトコッカス属細菌)等)と、病原性細菌(歯周病原菌のポルフィロモナス属細菌等を含む黒色色素産生菌)のそれぞれの生菌数を測定し、口腔内常在菌及び病原性細菌の合計数に対する病原性細菌の菌構成割合(%)を求め、下記計算式にて口腔細菌叢改善効果X(%)を算出し、下記の評価基準に基づき口腔細菌叢改善効果を評価した。
サンプル使用後の病原性細菌の菌構成割合(%):p
コントロール(サンプル未使用時)の病原性細菌の菌構成割合(%):q
口腔細菌叢改善効果(%):X={(q-p)/q}×100
なお、口腔内常在菌の測定には、ミティス・サリバリウス平板培地(Becton and Dickinson社製)を用い、病原性細菌の測定には、200μg/mLのカナマイシンを添加した血液平板培地を用い、ミティス・サリバリウス平板培地は2日間、200μg/mLのカナマイシンを添加した血液平板培地は7日間、それぞれ嫌気培養(80vol%窒素、10vol%二酸化炭素、10vol%水素)し、生育したコロニー数をカウントすることで算出した。
口腔細菌叢改善効果の持続性の評価基準
A:Xが25%以上
B:Xが10%以上25%未満
C:Xが0%以上10%未満
D:Xが0%未満(病原性細菌比率が増加)
【0057】
(4)異味の改善効果の評価
被験者8名による試験を行った。上記と同様にして、口腔清掃を行って口腔内の細菌を除去した後、評価サンプルを使用した。使用直後の口腔内で感じる異味について、下記に示す評価基準に基づき官能評価した。8名の平均値を算出し、下記に示す判定基準に基づき異味のなさを判定した。判定結果がA及びBのものを合格とした。
評価基準
4:異味を感じず、使用に問題ない
3:異味をほとんど感じず、使用可能である
2:異味がほとんど抑制されておらず、使用が困難である
1:異味が抑制されておらず、使用できない
判定基準
A:平均値が3.5点以上4点以下
B:平均値が3点以上3.5点未満
C:平均値が2点以上3点未満
D:平均値が1点以上2点未満
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
表2~4に示す実施例の口腔用組成物(ゲル状歯磨剤)は、歯周病原菌の抗菌効果及び口腔内常在菌の生育促進効果が高く、口腔内常在菌の生育促進効果に優れ、口腔細菌叢改善効果及びその持続性にも優れていた。また、異味が抑制され味も良かった。
【0062】
以下に口腔用組成物の処方例を示す。
【0063】
[処方例1]ゲル状歯磨剤
(A)オレイン酸グリセリル 0.5
(B)キシリトール 20.0
(C)酢酸トコフェロール 0.3
(トコフェロール量 0.273)
ポリオキシエチレン(40)硬化ヒマシ油 0.3
無水ケイ酸 15.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.5
サッカリンナトリウム 0.1
ポリエチレングリコール 3.0
グリセリン 15.0
香料 1.0
水 残部
合計 100.0%
(B)/(A)の質量比 40
(C)(トコフェロール量)/(A)の質量比 0.546
【0064】
[処方例2]洗口剤
(A)オレイン酸グリセリル 0.2
(A)オレイン酸ポリグリセリル(10) 0.3
(B)キシリトール 10.0
(C)酢酸トコフェロール 0.3
(トコフェロール量 0.273)
ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 0.2
プロピレングリコール 3.0
サッカリンナトリウム 0.2
クエン酸ナトリウム 0.3
クエン酸 0.1
香料 0.5
水 残部
合計 100.0%
(B)/(A)の質量比 20
(C)(トコフェロール量)/(A)の質量比 0.546
【0065】
[処方例3]口中清涼剤
(A)オレイン酸ソルビタン 0.3
(B)キシリトール 20.0
(C)酢酸トコフェロール 0.3
(トコフェロール量 0.273)
エタノール 10.0
グリセンリン 5.0
香料 1.0
水 残部
合計 100.0%
(B)/(A)の質量比 66.7
(C)(トコフェロール量)/(A)の質量比 0.910
【0066】
[処方例4]チューインガム
(A)ショ糖オレイン酸エステル 2.0
(B)キシリトール 48.0
(B)マルチトール 20.0
(C)酢酸トコフェロール 0.1
(トコフェロール量 0.0910)
ガムベース 20.0
アラビアガム 9.0
香料 0.9
合計 100.0%
(B)/(A)の質量比 34
(C)(トコフェロール量)/(A)の質量比 0.0455
【0067】
[処方例5]グミ
(A)ショ糖オレイン酸エステル 0.5
(A)モノオレイン酸ポリエチレングリコール(6) 0.5
(B)キシリトール 10.0
(C)酢酸トコフェロール 0.2
(トコフェロール量 0.182)
還元水飴 30.0
ゼラチン 10.0
香料 0.2
水 残部
合計 100.0%
(B)/(A)の質量比 10
(C)(トコフェロール量)/(A)の質量比 0.182
【0068】
[処方例6]キャンディー
(A)オレイン酸ポリグリセリル(10) 0.5
(B)キシリトール 10.0
(C)酢酸トコフェロール 0.1
(トコフェロール量 0.0910)
還元水飴 40.0
クエン酸 0.5
アスコルビン酸ナトリウム 2.0
香料 0.2
水 残部
合計 100.0%
(B)/(A)の質量比 20
(C)(トコフェロール量)/(A)の質量比 0.182
【0069】
[処方例7]チョコレート
(A)オレイン酸グリセリル 2.0
(B)キシリトール 20.0
(C)酢酸トコフェロール 0.1
(トコフェロール量 0.0910)
カカオマス 18.5
ココアバター 12.0
粉乳 20.0
砂糖 18.4
植物油脂 8.5
香料 0.5
合計 100.0%
(B)/(A)の質量比 10
(C)(トコフェロール量)/(A)の質量比 0.0455