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  • 特許-熱可塑性樹脂組成物およびその成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20240123BHJP
   C08L 33/20 20060101ALI20240123BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L33/20
C08K7/02
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019152131
(22)【出願日】2019-08-22
(65)【公開番号】P2021031567
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】深町 雄介
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-100795(JP,A)
【文献】特開平05-287181(JP,A)
【文献】特開平05-320485(JP,A)
【文献】特開平08-034890(JP,A)
【文献】特開平06-212064(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043334(WO,A1)
【文献】特開平01-203446(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08F6-246
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)70~95質量部、芳香族ビニル単量体単位とシアン化ビニル単量体単位を構成要素として含むビニル系共重合体(B)(ただしエポキシ変性ビニル系共重合体(C)を除く)1~30質量部、およびエポキシ当量が1,000~5,000g/eqであるエポキシ変性ビニル系共重合体(C)0.1~15質量部を合計で100質量部となるように含み、
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)以外のその他の樹脂を含有する場合、該その他の樹脂の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して20質量部以下であり、
該熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して、繊維強化材(D)を1~50質量部含み、
前記ビニル系共重合体(B)100質量部中の芳香族ビニル単量体単位の含有量が50~90質量部、シアン化ビニル単量体単位の含有量が10~50質量部、これらと共重合可能なその他のビニル単量体単位の含有量が0~30質量部であ
前記エポキシ変性ビニル系共重合体(C)が、エポキシ基含有ビニル単量体単位2~15質量部と、芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位およびこれらと共重合可能な他のビニル単量体単位から選ばれる1種以上のビニル単量体単位85~98質量部を含み(ただし、エポキシ基含有ビニル単量体単位と、芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位およびこれらと共重合可能な他のビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体単位との合計で100質量部)、かつ、芳香族ビニル単量体単位の含有量が60~80質量部、シアン化ビニル単量体単位の含有量が5~38質量部で、他のビニル単量体の含有量が0~20質量部である、熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の重量平均分子量Mwが50,000~300,000である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリエステル樹脂、エポキシ変性ビニル系共重合体、およびエポキシ変性ビニル系共重合体とは異なるビニル系共重合体を含む樹脂成分に対して繊維強化材を配合してなる熱可塑性樹脂組成物であって、得られる成形品の反り抑制効果、機械強度、特にウエルド強度が良好な熱可塑性樹脂組成物と、この熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレートやポリエチレンテレフタレートに代表される熱可塑性ポリエステルは、加工性の容易さ、機械的特性、その他物理的、化学的特性に優れているため、自動車部品、電気・電子機器部品、その他精密機器部品等の分野において幅広く使用されている。
【0003】
しかし、熱可塑性ポリエステル、中でもポリブチレンテレフタレート(以下、「PBT」と記載することもある)などの結晶性樹脂は、成形の際、例えば射出成形における金型内での冷却固化の過程で、樹脂の結晶化に伴う分子配向が起こることにより、成形収縮が発生することが知られている。その収縮の度合いは成形品の部位により異なることから、結果として、成形品に反りやねじれが生じる。特に、ガラス繊維等の繊維強化材を配合したPBTは、ガラス繊維の配向の影響から反りやねじれが更に大きくなる傾向にある。
【0004】
この成形品の反りやねじれを抑制する方法としては、アクリロニトリル/スチレン共重合体やABS樹脂といった非晶性樹脂とのアロイ化が一般的である。
しかし、アクリロニトリル/スチレン共重合体やABS樹脂といった非晶性樹脂とのアロイ化により、成形品の反りやねじれは抑制できる一方で、相容性の観点から、機械強度の低下が懸念される。特に、ウエルド部を有する成形品では、ウエルド部の強度低下により、使用できる部材や用途に制限が生じる可能性がある。
【0005】
従来、ガラス繊維強化PBTと非晶性樹脂とをアロイ化した材料のウエルド強度の向上を目的に、以下の提案がなされている。
【0006】
特許文献1には、シアン化ビニル単量体、芳香族ビニル単量体およびエポキシ基含有ビニル単量体を重合して得られる共重合体を配合する提案がなされている。しかし、この技術では、ウエルド強度は向上するものの、シアン化ビニル単量体、芳香族ビニル単量体およびエポキシ基含有ビニル単量体を重合して得られる共重合体の配合量が多く、熱可塑性ポリエステル樹脂の特性を損ねる可能性もある。また、反り抑制効果についての記述はなく、不明確である。
【0007】
特許文献2には、熱可塑性ポリエステル樹脂とゴム強化スチレン系樹脂とのアロイ材料のウエルド特性向上を目的に、エポキシ基含有スチレン系ブロック共重合体を配合する提案がなされている。この技術では、ウエルド強度の向上は確認できるが、その効果は十分とは言えない。また、特許文献1と同様に成形品の反り抑制効果については記述がなく、反り抑制効果とウエルド強度の両方を満足できる方法とは考えにくい。
【0008】
特許文献3には、ガラス繊維により強化されたポリブチレンテレフタレート樹脂の反り抑制を目的にアクリロニトリル-スチレン系共重合体を配合する提案がなされている。この技術では、成形品の反り抑制効果は確認できるものの、ウエルド強度について記述がなく、反り抑制とウエルド強度の両方を満足できる方法とは考えにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平5-202252号公報
【文献】特開平9-176435号公報
【文献】特開2018-70722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、繊維強化熱可塑性ポリエステル系樹脂組成物において、機械的特性、特にウエルド強度に優れると共に、反り量が少ない成形品を得ることができる熱可塑性樹脂組成物およびその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、樹脂成分として、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)を所定の割合で配合することにより、成形品の反り抑制効果と、機械強度、特にウエルド強度の向上効果を両立させることができることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0012】
[1] 熱可塑性ポリエステル樹脂(A)70~95質量部、芳香族ビニル単量体単位とシアン化ビニル単量体単位を構成要素として含むビニル系共重合体(B)(ただしエポキシ変性ビニル系共重合体(C)を除く)1~30質量部、およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)0.1~15質量部を合計で100質量部となるように含み、該熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して、繊維強化材(D)を1~50質量部含む熱可塑性樹脂組成物。
【0013】
[2] 前記エポキシ変性ビニル系共重合体(C)が、エポキシ基含有ビニル単量体単位0.1~95質量部と、芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位およびこれらと共重合可能な他のビニル単量体単位から選ばれる1種以上のビニル単量体単位5~99.9質量部を含む(ただし、エポキシ基含有ビニル単量体単位と、芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位およびこれらと共重合可能な他のビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体単位との合計で100質量部)、[1]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[3] 前記エポキシ変性ビニル系共重合体(C)が、芳香族ビニル単量体単位4.1~99質量部とシアン化ビニル単量体単位0.9~95.8質量部とを含む、[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[4] 前記エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の重量平均分子量Mwが50,000~300,000である、[1]ないし[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
[5] 前記エポキシ変性ビニル系共重合体(C)のエポキシ当量が150~143,000g/eq.である、[1]ないし[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
[6] 前記エポキシ変性ビニル系共重合体(C)が、示差走査熱量測定(DSC)を使用して、測定条件として、昇温速度10℃/分、Air50ml/分の雰囲気下において、測定温度90℃~120℃の間に吸熱挙動、測定温度260℃~300℃の間に発熱挙動を示すことを観測することができる、[1]ないし[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0018】
[7] [1]ないし[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、機械的特性、特にウエルド強度が良好であり、かつ成形品の反り量の少ない繊維強化熱可塑性ポリエステル系樹脂組成物およびその成形品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】製造例1で製造したエポキシ変性ビニル系共重合体(C-1),(C-2)のDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
なお、本願明細書において「単位」とは、重合体又は共重合体中に含まれる、重合前の化合物(単量体、即ちモノマー)に由来する構造部分を意味し、例えば、「芳香族ビニル単量体単位」とは「芳香族ビニル単量体に由来して共重合体中に含まれる構造部分」を意味する。各共重合体の単量体単位の含有割合は、当該共重合体の製造に用いたビニル単量体混合物中の該単量体の含有割合に該当する。
また、「成形品」とは、熱可塑性樹脂組成物を成形してなるものである。
また、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0023】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)70~95質量部、芳香族ビニル単量体単位とシアン化ビニル単量体単位を構成要素として含むビニル系共重合体(B)(ただしエポキシ変性ビニル系共重合体(C)を除く)1~30質量部、およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)5~15質量部を合計で100質量部となるように含み、該熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して、繊維強化材(D)を1~50質量部含むことを特徴とする。
【0024】
[熱可塑性ポリエステル樹脂(A)]
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)としては、ジカルボン酸(あるいは、そのエステル形成誘導体)とジオール(あるいは、そのエステル形成誘導体)とを主成分とする重縮合反応によって得られる重合体ないしは共重合体などが使用できる。
【0025】
上記ジカルボン酸としてテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,2’-ビフェニルジカルボン酸、3,3’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボン酸、2,5-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、4,4’-p-ターフェニレンジカルボン酸、2,5-ピリジンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸が挙げられる。これらのなかでもテレフタル酸が好ましい。
【0026】
これらのジカルボン酸成分は2種以上を混合して使用してもよい。少量であればこれらのジカルボン酸成分とともにアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸成分、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸成分の1種以上を混合して使用することができる。
【0027】
ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびそれらの混合物などが挙げられる。これらのうち、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールが好ましい。少量であれば、分子量400~6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの1種以上を混合して使用してもよい。
【0028】
これらの重合体ないし共重合体の好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4’-ジカルボキシレートなど芳香族ポリエステル樹脂やポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートなどの共重合芳香族ポリエステル樹脂が挙げられる。これらのうち、加工性の容易さや機械物性の観点からPET、PBTが好ましい。
【0029】
これらの熱可塑性ポリエステル樹脂(A)は2種以上の熱可塑性ポリエステル樹脂を混合して用いることもでき、例えば、PETとPBTの混合物であってもよい。
【0030】
[ビニル系共重合体(B)]
ビニル系共重合体(B)は、少なくとも芳香族ビニル単量体単位とシアン化ビニル単量体単位を構成要素として含むものである。
【0031】
ビニル系共重合体(B)を構成する芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、メチル-α-メチルスチレン、t-ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1-ジフェニルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノメチルスチレン、N,N-ジエチル-p-アミノエチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルピリジン、モノクロルスチレン、ジクロロスチレン等の塩素化スチレン;モノブロモスチレン、ジブロモスチレン等の臭素化スチレン;モノフルオロスチレン等が挙げられる。なかでもスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。これらの芳香族ビニル単量体は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
ビニル系共重合体(B)を構成するシアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリルなどが挙げられる。なかでもアクリロニトリルが好ましい。これらのシアン化ビニル単量体は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0033】
ビニル系共重合体(B)は、芳香族ビニル単量体単位およびシアン化ビニル単量体単位以外にこれらと共重合可能な他のビニル単量体単位を含むこともでき、他のビニル単量体としては具体的には、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等)、マレイミド系化合物(N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド等)等が挙げられる。その他のビニル単量体は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
なお、本発明に係るビニル系共重合体(B)は、後述のエポキシ変性ビニル系共重合体(C)とは異なるものであり、従って、その他のビニル単量体からはエポキシ変性ビニル重合体(C)となりえるビニル単量体は除外される。
【0034】
ビニル系共重合体(B)100質量部中の芳香族ビニル単量体単位の含有量は50~90質量部が好ましく、55~80質量部がより好ましく、40~70質量部がさらに好ましい。芳香族ビニル単量体の含有量が上記範囲内であれば、得られる成形品の反り特性が良好となる。
また、ビニル系共重合体(B)100質量部中のシアン化ビニル単量体単位の含有量は10~50質量部が好ましく、20~45質量部がより好ましく、30~60質量部がさらに好ましい。シアン化ビニル単量体単位の含有量が上記範囲内であれば、得られる成形品の反り特性が良好となる。
これらと共重合可能なその他のビニル単量体単位のビニル系共重合体(B)100質量部中の含有量は0~30質量部が好ましい。
【0035】
ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量Mwは、50,000~300,000、特に60,000~250,000であることが好ましい。ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量Mwが上記範囲内であれば得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性および耐衝撃性が良好となる傾向にある。
ビニル系共重合体(B)の重量平均分子量Mwは、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、ビニル系共重合体(B)は、1種のみが含まれていてもよく、ビニル単量体単位の種類や組成、物性等の異なるものの2種以上が含まれていてもよい。
【0037】
[エポキシ変性ビニル系共重合体(C)]
本発明に係るエポキシ変性ビニル系共重合体(C)は、エポキシ基含有ビニル単量体と、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体および必要に応じて用いられるこれらと共重合可能なその他のビニル単量体(以下、「その他のビニル単量体」と称す場合がある。)から選ばれる1種以上のビニル単量体とを共重合して得られるものである。
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)は、好ましくは、少なくともエポキシ基含有ビニル単量体と芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を含む単量体混合物を共重合して得られる。芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体等のビニル単量体がエポキシ基を有する場合、これらは、エポキシ基含有ビニル単量体に含まれるものとする。
【0038】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の1種のみを含むものであってもよく、含まれるビニル単量体単位の種類や組成、後述の物性等の異なるものの2種以上を含むものであってもよい。
【0039】
<ビニル単量体>
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)を構成するエポキシ基含有ビニル単量体としては、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、イタコン酸グリシジルエステル、アリルグリシジルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテル、3,4-エポキシブテン、3,4-エポキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-エポキシ-1-ペンテン、3,4-エポキシ-3-メチルペンテン、5,6-エポキシ-1-ヘキセン、ビニルシクロヘキセンモノオキシド、p-グリシジルスチレン、2-メチルアリルグリシジルエーテル、エポキシステアリルアクリレート、エポキシステアリルメタクレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチルアクリレート、2,6-キシレノール-N-メチロールアクリルアミドのグリシジルエーテル等が挙げられる。なかでもグリシジルメタクリレートが好ましい。これらのエポキシ基含有ビニル単量体は、1種を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0040】
芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体およびその他のビニル単量体としては、ビニル系共重合体(B)の説明において例示したものが挙げられ、好ましい芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体についても同様である。
【0041】
<各ビニル単量体の含有量>
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)中のエポキシ基含有ビニル単量体単位の含有量は0.1~95質量部が好ましく、より好ましくは1~30質量部であり、特に好ましくは2~15質量部である。エポキシ変性ビニル系共重合体(C)中のエポキシ基含有ビニル単量体単位の含有量が0.1質量部以上であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の機械強度、特にウエルド強度が良好となる。エポキシ基含有ビニル単量体単位の含有量が95質量部を超えると、ゲル化により得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性が損なわれることがある。
【0042】
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)中のエポキシ基含有ビニル単量体単位を除いたビニル単量体単位は、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体およびその他のビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体単位である。エポキシ変性ビニル系共重合体(C)中のエポキシ基含有ビニル単量体単位を除いたビニル単量体単位の含有量の合計は好ましくは5~99.9質量部であり、さらに70~99質量部が好ましく、特に85~98質量部が好ましい。これらのビニル単量体単位の含有量が99.9質量部を超えると、得られる熱可塑性樹脂組成物の機械強度、特にウエルド強度が低下する傾向にある。これらのビニル単量体単位の含有量が5質量部未満の場合は得られる熱可塑性樹脂組成物の流動性が損なわれることがある。
【0043】
本発明において、エポキシ変性ビニル系共重合体(C)中の各ビニル単量体単位の含有量とは、エポキシ変性ビニル系共重合体(C)100質量部中の含有量、即ち、エポキシ基含有ビニル単量体単位と、芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位および他のビニル単量体単位から選ばれる1種以上のビニル単量体単位との合計を100質量部としたときの含有量である。エポキシ変性ビニル系共重合体(C)中のビニル単量体単位の含有量は、通常、エポキシ変性ビニル系共重合体(C)を製造する際の共重合原料であるエポキシ基含有ビニル単量体と、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体および他のビニル単量体から選ばれる1種以上のビニル単量体との混合物100質量部中の各ビニル単量体の含有量に相当する。
【0044】
本発明のエポキシ変性ビニル系共重合体(C)は、芳香族ビニル単量体単位、シアン化ビニル単量体単位および他のビニル単量体単位から選ばれる1種以上のビニル単量体単位として、少なくとも芳香族ビニル単量体単位とシアン化ビニル単量体単位を含むことが好ましい。
【0045】
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)中の芳香族ビニル単量体単位の含有量は4.1~99質量部、さらに30~95質量部、特に60~80質量部が好ましい。芳香族ビニル単量体単位の含有量が4.1質量部未満では得られる成形品の剛性、成形性に劣ることがある。芳香族ビニル単量体単位の含有量が99質量部を超える場合は得られる成形品の耐衝撃性が低下することがある。
【0046】
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)中のシアン化ビニル単量体単位の含有量は0.9~95.8質量部、さらに4.9~40質量部、特に5~38質量部が好ましい。シアン化ビニル単量体単位の含有量が0.9質量部未満では得られる成形品の靭性、耐薬品性に劣ることがある。シアン化ビニル単量体単位の含有量が95.8質量部を超える場合は得られる成形品の着色が問題となることがある。
【0047】
他のビニル単量体は、発色性や耐熱性の向上などの目的に応じて配合することができる。他のビニル単量体単位のエポキシ変性ビニル系共重合体(C)中の含有量は0~30質量部であることが好ましく、特に0~20質量部であることがより好ましい。
【0048】
<重量平均分子量Mw・分子量分布Mw/Mn>
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の重量平均分子量Mwは50,000~300,000が好ましく、70,000~280,000がより好ましい。重量平均分子量Mwがこの範囲にあることで、このエポキシ変性ビニル系共重合体(C)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の反り特性と機械強度の向上効果をより有効に発現することができる。
【0049】
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の分子量分布Mw/Mnは好ましくは1.8~2.5、より好ましくは1.9~2.3である。分子量分布Mw/Mnがこの範囲にあることで、このエポキシ変性ビニル系共重合体(C)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の流動性と耐熱性が良好となる傾向がある。
【0050】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の重量平均分子量Mwおよび分子量分布Mw/Mnは、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0051】
<エポキシ当量>
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)のエポキシ当量は150~143,000g/eq.であることが好ましく、より好ましくは500~10,000g/eq.特に好ましくは1,000~5,000g/eq.である。エポキシ当量がこの範囲にあることで、このエポキシ変性ビニル系共重合体(C)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物の反り特性と機械強度の向上効果をより有効に発現することができる。
【0052】
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)のエポキシ当量は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0053】
<還元粘度>
得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性と成形性のバランスを確保するために、エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の還元粘度は0.2~1.2dL/gであることが好ましく、0.3~1.1dL/gであることがより好ましい。エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の還元粘度が上記下限以上であると機械強度がより高くなる。エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の還元粘度が上記上限以下であると良好な成形品外観および成形性を保つことができる。
【0054】
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の還元粘度は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0055】
<吸熱および発熱の挙動>
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)は、示差走査熱量測定(DSC)を使用して、測定条件として、昇温速度10℃/分、Air50ml/分の雰囲気下において、測定温度90℃~120℃の間に吸熱挙動、測定温度260℃~300℃の間に発熱挙動を示すことを観測することができるものであることが好ましい。さらに、測定温度100℃~120℃の間に急激な吸熱挙動、測定温度280℃~300℃の間に急激な発熱挙動を示すものがより好ましい。
これらの温度範囲で、吸熱および発熱の挙動を示すエポキシ変性ビニル系共重合体(C)を配合してなる熱可塑性樹脂組成物は、機械強度が良好で、得られる成形品の反り量がより小さいものとなる。
【0056】
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の吸熱および発熱の挙動は、後掲の実施例の項に記載される測定方法で観測する。
【0057】
<エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の製造方法>
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)を製造する際の重合方法としては、懸濁重合、塊状重合、乳化重合および溶液重合等の方法が挙げられる。これらのうち懸濁重合法が好ましい。
【0058】
[繊維強化材(D)]
繊維強化材(D)としては、例えば、タルク、水酸化アルミニウム、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラス繊維、ワラステナイト、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭素繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維、炭酸カルシウム、シリカ、カオリン、硫酸バリウムなどが挙げられる。
【0059】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、これらの繊維強化材(D)の1種のみを含有するものであってもよく、2種以上を含有するものであってもよい。
また、得られる成形品の機械強度をより向上させるために、これらの繊維強化材(D)はシラン系、エポキシ系、チタネート系などのカップリング剤で表面処理されていてもよい。
【0060】
[各成分の含有量]
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して70~95質量部であり、65~93質量部であることが好ましく、60~90質量部であることがより好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のビニル系共重合体(B)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して1~30質量部であり、2~25質量部であることが好ましく、3~20質量部であることがより好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中のエポキシ変性ビニル系共重合体(C)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して0.1~15質量部であり、0.5~10質量部であることが好ましく、1~5質量部であることがより好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物中の繊維強化材(D)の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)とビニル系共重合体(B)とエポキシ変性ビニル系共重合体(C)との合計100質量部に対して1~50質量部であり、5~47質量部であることが好ましく、10~45質量部であることがより好ましい。
【0061】
各成分の含有量が上記範囲内であると、得られる成形品の反り特性や、機械的特性、特にウエルド特性が良好となる。
【0062】
[その他の成分]
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない程度に、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)、およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)以外の他の樹脂を配合することができる。配合し得る他の樹脂としては、具体的には、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアリレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂等の1種又は2種以上が挙げられる。
ただし、これらの他の樹脂を配合する場合、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)を所定の割合で含むことによる本発明の効果を確実に得る観点から、他の樹脂の含有量は、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)の合計100質量部に対して20質量部以下であることが好ましい。
【0063】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じて各種添加剤を配合してもよい。添加剤としては、ヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系および含リン有機化合物系等の酸化防止剤、フェノール系やアクリレート系等の熱安定剤、モノステアリルアシッドホスフェ-トとジステアリルアシッドホスフェ-トの混合物等のエステル交換抑制剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系およびサリシレート系等の紫外線吸収剤、有機ニッケル系やヒンダードアミン系等の光安定剤等の各種安定剤、高級脂肪酸の金属塩類、高級脂肪酸アミド類等の滑剤、フタル酸エステル類やリン酸エステル類等の可塑剤、ポリブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール-A、臭素化エポキシオリゴマーおよび臭素化ポリカーボネートオリゴマー等の含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤、カーボンブラック、酸化チタン、顔料および染料等が挙げられる。
【0064】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述の熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)、エポキシ変性ビニル系共重合体(C)、繊維強化材(D)、および必要に応じて用いられるその他の成分を混合することで得ることができる。これらの成分の混合には、例えば、押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー等の公知の混練装置を用いる。
【0065】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)、エポキシ変性ビニル系共重合体(C)、繊維強化材(D)、および必要に応じて用いられるその他の成分の混合順序、方法には何ら制限はない。溶融混練に際しては各種公知の押出機を用い、180~300℃で溶融混練することが好ましい。
【0066】
〔成形品〕
本発明の成形品は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形されたものである。その成形方法は、何等限定されるものではない。成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、インサート成形法、真空成形法、ブロー成形法などが挙げられる。
【0067】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品は、反り特性、機械特性、特にウエルド強度に優れる。
【0068】
本発明の成形品は、電気電子機器部品や自動車部品、ボトル等の包装材料、建材、日用品、家庭電化製品・事務機器部品をはじめとする多種多様な用途に好適に用いられ、特に、ジャンクションボックスやハーネス、ECUのハウジング、自動車用ランプ部品等に好適に用いられる。
【実施例
【0069】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の例中の「%」および「部」は明記しない限りは質量基準である。
グリシジルメタクリレートは「GMA」、アクリロニトリルは「AN」、スチレンは「ST」、t-ドデシルメルカプタンは「TDM」とそれぞれ略記する。
【0070】
[評価・測定方法]
以下の製造例、実施例および比較例における各種測定および評価方法は、以下の通りである。
【0071】
<エポキシ当量の測定>
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)についてJIS K 7236:2009に従ってエポキシ当量(g/eq.)を測定した。
【0072】
<重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn>
GPC(GPC:Waters社製「GPC/V2000」、カラム:昭和電工社製「Shodex AT-G+AT-806MS」)を用い、ポリスチレン換算での重量平均分子量Mw、および、分子量分布Mw/Mnを測定した。
【0073】
<還元粘度>
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の濃度が0.2dL/gとなるように調製したN,N-ジメチルホルムアミド溶液について、ウベローデ粘度計を用いて25℃での還元粘度:ηsp/C(単位:dL/g)を測定した。
【0074】
<示差走査熱量測定(DSC)>
示差走査熱量計DSC(Differential scanning calorimetry(株式会社Rigaku製「DSC8230」)を用いて、昇温速度10℃/分、Air50ml/分の雰囲気下で30℃~300℃の範囲で測定を実施し、この測定により得られた示差走査熱量測定チャートにおける、測定温度100℃~120℃の間の吸熱挙動の有無、さらに、測定温度280℃~300℃の間の発熱挙動の有無について観測した。
【0075】
<反り特性の評価>
厚さ1mmの平板(サイズ:100mm×100mm)の一角を抑え、反っている部分の高さを測定し、平板の中で最も反り量が大きい値をその成形品の反り量とした。反り量の値が小さいほど、反り特性に優れる。
後掲の表2,3には、比較例1の反り量に対する割合({(比較例1の反り量-当該例の反り量)/比較例1の反り量}×100)を算出し、反り改良率とした。
【0076】
<引張強度の測定>
ASTM D638に準拠し、23℃、引張速度5.0mm/minの条件で引張強度(MPa)を測定した。数値は高いほど優れる。
引張強度は非ウエルド部の引張強度とウエルド部の引張強度とを測定し、非ウエルド部の引張強度に対するウエルド部の引張強度の割合((ウエルド部の引張強度/非ウエルド部の引張強度)×100)を引張強度保持率として算出した。
【0077】
[製造例1:ビニル系共重合体(B)の製造]
蒸留水120部、リン酸三カルシウム0.4部、デモールP(花王社製マレイン酸塩高分子量界面活性剤)0.03部、スチレン25部、アクリロニトリル75部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.3部、t-ドデシルメルカプタン0.25部を反応釜に仕込み、撹拌して懸濁状態にした。その後、昇温し、内温が77℃になった時点で重合を開始した。重合発熱ピークを温度計にて確認した後、内温95℃の状態で120分保持した。その後、冷却し、得られたスラリー状の生成物を濾過した後、水洗、乾燥させてビーズ状のビニル系共重合体(B)を得た。このビニル系共重合体(B)の重量平均分子量Mwは110,000であった。
【0078】
[製造例2:エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の製造]
<エポキシ変性ビニル系共重合体(C-1)の製造>
蒸留水150部に高分子分散剤0.045部、硫酸ナトリウム0.5部を反応釜に仕込み攪拌した。これにグリシジルメタクリレート8.5部、アクリロニトリル22.9部、スチレン68.6部、t-ドデシルメルカプタン0.25部、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.18部の混合物を加え懸濁液状にした後、昇温し、内温が77℃になった時点で重合を開始した。重合発熱ピークを温度計にて確認した後、内温95℃の状態で120分保持した。その後、冷却し、得られたスラリー状の生成物を濾過した後、水洗、乾燥させてビーズ状のエポキシ変性ビニル系共重合体(C-1)を得た。
【0079】
<エポキシ変性ビニル系共重合体(C-2)の製造>
t-ドデシルメルカプタンの部数を0.80部に変えたこと以外はエポキシ基含有ビニル単量体(C-1)の製造と同様の方法でビーズ状のエポキシ変性ビニル系共重合体(C-2)を得た。
【0080】
表1にエポキシ変性ビニル系共重合体(C-1)、(C-2)の重量平均分子量Mw、分子量分布Mw/Mn、還元粘度、エポキシ当量の測定値を示す。
また、示差走査熱量測定(DSC)にて、エポキシ変性ビニル系共重合体(C-1)、(C-2)が測定温度90℃~120℃の間に吸熱挙動、測定温度260℃~300℃の間に発熱挙動を示すことを確認した。エポキシ変性ビニル系共重合体(C-1),(C-2)のDSCチャートを図1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
[その他の使用材料]
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、その他の樹脂および繊維強化材(D)としては、以下のものを用いた。
【0083】
<熱可塑性ポリエステル樹脂(A)>
ポリプラスチック社製 ポリブチレンテレフタレート「ジュラネックス2000」
【0084】
<エポキシ樹脂(X)>
三菱ケミカル社製 エポキシ樹脂「JER1004AF」
(エポキシ樹脂(X)はビニル単量体単位を含まず、エポキシ変性ビニル系共重合体(C)とは異なる。)
【0085】
<繊維強化材(D)>
日本電気硝子社製 ガラス繊維「ESC 03T-187」
【0086】
[実施例1~9、比較例1~4]
<溶融混練>
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)、エポキシ変性ビニル系共重合体(C-1)、(C-2)(比較例4ではエポキシ樹脂(X))を表2、3に示す配合で添加、混合し、二軸押出機(装置:KTX30、シリンダ温度:250℃、スクリュー回転数:250rpm)で溶融混練を行い、得られたストランドをペレタイズし、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0087】
<射出成形1>
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形機(東芝機械社製「IS55FP-1.5A」)によってシリンダ温度220~250℃、金型温度60℃の条件で、長さ方向の両端にゲートを設けて中心にウエルドを生じさせた引張試験片を作成した。
【0088】
<射出成形2>
得られた熱可塑性樹脂組成物のペレットを射出成形機(日本製鋼所製「JSW」)によってシリンダ温度280℃、金型温度70℃の条件にて、厚さ1mmで100mm×100mmサイズの成形品を作成し、反り量測定用平板とした。
【0089】
評価結果を表2,3に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
【表3】
【0092】
表2,3より、熱可塑性ポリエステル樹脂(A)、ビニル系共重合体(B)およびエポキシ変性ビニル系共重合体(C)を所定の割合で配合した樹脂成分に繊維強化材(D)を配合した本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、引張強度、特にウエルド部の引張強度が高く、反り量の少ない成形品を得ることができることが分かる。
これに対して、ビニル系共重合体(B)および/又はエポキシ変性ビニル系共重合体(C)を配合していない比較例1~3ではウエルド部の引張強度保持と反り抑制の両立を図ることはできない。
エポキシ変性ビニル系共重合体(C)の代りにエポキシ樹脂(X)を用いた比較例4では、反り抑制効果が十分ではない。
図1