(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】飼料組成物、被覆粒子、飼料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23K 40/35 20160101AFI20240123BHJP
A23K 20/158 20160101ALI20240123BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20240123BHJP
A23K 40/30 20160101ALI20240123BHJP
A23K 50/10 20160101ALI20240123BHJP
【FI】
A23K40/35
A23K20/158
A23K20/163
A23K40/30 A
A23K50/10
(21)【出願番号】P 2019208638
(22)【出願日】2019-11-19
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】日下 仁
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幹
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-203965(JP,A)
【文献】特開平04-211334(JP,A)
【文献】特開2006-141270(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0035693(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 40/35
A23K 20/158
A23K 20/163
A23K 40/30
A23K 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース粒子の表面に被覆材を被覆してなる被覆粒子
であり、反芻動物用の飼料組成物
に使用するための被覆粒子の製造方法であって、
前記グルコース粒子の平均粒径は、100~1000μmであり、
前記被覆材は、融点40℃以上90℃以下の粉末状脂質であり、
前記被覆粒子の平均粒経は、100~1000μmであ
り、
前記被覆粒子は、37℃の水を用いた溶出試験において、15分後のグルコースの溶出率が10~30質量%であり、
前記被覆粒子を得る工程は、
〔I〕平均粒径が100~1000μmである前記グルコース粒子を準備する工程、
〔II〕前記融点40℃以上90℃以下の粉末状脂質を準備する工程、
〔III〕前記グルコース粒子と、前記粉末状脂質とを、前記粉末状脂質の融点以下の温度で混合する工程を備える、被覆粒子の製造方法。
【請求項2】
前記グルコース粒子の含有量は、40~97質量%である、請求項1に記載の
被覆粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の被覆粒子の製造方法により得られた被覆粒子を含む、反芻動物用の飼料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末状脂質によって芯物質であるグルコース粒子を被覆して得られる被覆粒子、この被覆粒子を含む反芻動物用の飼料組成物、及び、反芻動物用の飼料組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
牛などの反芻動物において、単胃動物と同じく、グルコースは生体のエネルギー源として最も重要な物質であり、飼料中の炭水化物やセルロースを分解することにより得ることができる。しかし、牛などの反芻動物では、第一胃(ルーメン)中の微生物によって炭水化物やセルロースをグルコースよりさらに小さい分子量の揮発性脂肪酸や他の有機酸に分解され、微生物の栄養素として利用されてしまうため、第四胃以降の消化管からグルコースをほとんど吸収することができない。そこで、牛などの反芻動物は、肝臓において糖以外の物質からの糖新生によってグルコースが合成し、血中グルコース濃度を維持している。グルコースは、脳神経や骨格筋で用いられる他、妊娠時の胎児のエネルギー源や、母乳に含まれるラクトース合成の原料となるため、特に出産前後においてグルコースの利用が増加する。そのため、糖新生のみでは必要なグルコース量を賄いきれず、低血糖に陥り、重篤な疾病に至る場合がある。そこで、外界からグルコースを給餌し、ルーメン内で分解されずに効率的に吸収させることが求められている。
ルーメン内で微生物の発酵の影響を受けないように、グルコースを油脂で被覆し、ルーメンバイパス性能を付与した組成物が開発されている。
例えば特許文献1には、油脂で被覆したグルコースを屠畜前20~50時間に給餌することにより、輸送時などのストレスによる畜肉色の黒ずみに対する予防方法が開示されている。また、特許文献1には、グルコースを油脂で被覆する方法として、グルコースと大豆硬化油と米糠ワックスを、転動造粒機に投入し、50℃の温度で混練する方法が開示されている。この方法では、50℃の温度で油脂が溶融し、グルコース表面に油脂の均一層を形成すると考えられる。また、特許文献2には、少量のグルコース、アスコルビン酸、無機イオンをそれぞれ油脂で混合した混合物を屠畜前2~4週間給餌し、食肉の品質の向上を計る牛用飼料組成物が開示されている。この文献では、油脂被覆グルコースの製造方法は具体的には開示されていないが、
図1のa図においてグルコース表面に油脂の均一層が形成されていることが開示されている。また、特許文献3には、被覆材である硬化油脂の溶融物に栄養素を分散し、この栄養素を含む溶融物を冷却された空気中に噴射させて固化することを特徴とするルーメンバイパス製剤の製造方法が開示されている。これらの文献に開示されている被覆方法は、いずれも、グルコースなどの芯物質を溶融した油脂により被覆する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-95853号公報
【文献】特開2002-306085号公報
【文献】国際公開第2018/030528号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の被覆方法によりグルコースを被覆すると、グルコース表面に油脂の均一層が形成されることから、ルーメン内における微生物の影響を防ぐことができる。しかし、従来の被覆粒子では、ルーメンを通過後に油脂の消化に時間がかかり、被覆粒子中のグルコースが溶出されずに消化管を通過し、排出されてしまうという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、ルーメン中でのグルコースの分解を抑えつつ、消化管内で十分に溶出することが可能な反芻動物用の飼料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するにあたって鋭意検討した結果、グルコース粒子と粉末状脂質を粉末状脂質の融点以下の温度で混合し、グルコース粒子の表面を粉末状脂質で被覆することにより、上記の課題を解決し得ることの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0007】
[1]
グルコース粒子の表面に被覆材を被覆してなる被覆粒子を含む、反芻動物用の飼料組成物であって、
前記被覆材は、融点40℃以上90℃以下の粉末状脂質であり、
前記被覆粒子の平均粒経は、100~1000μmである、飼料組成物。
[2]
前記グルコース粒子の含有量は、40~97質量%である、[1]に記載の飼料組成物。
[3]
前記被覆粒子は、37℃の水を用いた溶出試験において、15分後のグルコースの溶出率が10~30質量%である、[1]又は[2]に記載の飼料組成物。
[4]
グルコース粒子の表面に被覆材を被覆してなる被覆粒子であり、反芻動物用の飼料組成物に使用するための被覆粒子であって、
前記被覆材は、融点40℃以上90℃以下の粉末状脂質であり、
前記被覆粒子の平均粒経は、100~1000μmである、被覆粒子。
[5]
グルコース粒子の表面に被覆材を被覆してなる被覆粒子を含む、反芻動物用の飼料組成物の製造方法であって、
前記グルコース粒子の平均粒径は、100~1000μmであり、
前記被覆材は、融点40℃以上90℃以下の粉末状脂質であり、
前記被覆粒子を得る工程は、前記グルコース粒子と、前記粉末状脂質とを、前記粉末状脂質の融点以下の温度で混合する工程を備える、飼料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の反芻動物用の飼料組成物は、ルーメン内でのグルコースの溶出率が低いため、飼料組成物中のグルコースの多くは分解されることなくルーメンを通過することができる。また、本発明の反芻動物用の飼料組成物は、第四胃以降の消化管でグルコースを放出するため、グルコースを十分に吸収させることができる。
したがって、本発明の反芻動物用の飼料組成物によれば、低血糖状態が危惧される牛に飼料として供することで、効率的に血中グルコース濃度を高め、低血糖状態を改善させる飼料組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の被覆粒子の構造を示す概略説明図である。
【
図2】従来の被覆粒子の構造を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[飼料組成物]
本発明の反芻動物用の飼料組成物は、芯物質であるグルコース粒子を被覆材である粉末状脂質で被覆してなる被覆粒子を含むことを特徴とする。本発明の反芻動物用の飼料組成物によれば、特定の被覆粒子を含むことから、ルーメンにおけるグルコースの分解を抑制しつつ、消化管でのグルコースの吸収を促進することができる。
以下に、被覆粒子に含まれる各成分について記述する。
【0011】
<粉末状脂質>
粉末状脂質は、融点が40℃以上90℃以下の脂質を使用することができる。粉末状脂質の融点の下限値は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは60℃以上である。また、粉末状脂質の融点の上限値は、好ましくは80℃以下である。なお、融点は、基準油脂分析試験法「2.2.4.2融点(上昇融点)」に準じて測定する。
【0012】
粉末状脂質の材料としては、特に制限されず、例えば、コーン油、菜種油、大豆油、綿実油、サフラワー油、米油、ゴマ油、オリーブ油、ヤシ油、カカオ脂、パーム油等の植物性油脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂、米ぬかワックス、さとうきびワックス、カルナウバワックス、小麦ワックス等の植物性ワックス;蜜蝋、羊毛ろう等の動物性ワックス;高級アルコール;高級脂肪酸等がある。また、粉末状脂質は、これらの脂質の融点が40℃以上90℃以下になるよう水素添加し、粉末化することにより得ることができる。これらの脂質は1種または2種以上のものを混合して使用できる。融点が40℃未満の場合、特に夏場において溶融し易く、被覆粒子を保管したときに粉末状態を維持できない。
上記の粉末状脂質は、水素添加により構成脂肪酸中の二重結合がほぼ飽和となった極度硬化油を使用することが好ましい。極度硬化油を使用することにより、被覆材の酸化安定性が優れるという効果がある。極度硬化油の例としては、例えば、菜種極度硬化油(融点67℃)、パーム極度硬化油(融点60℃)、ハイエルシン菜種極度硬化油(融点59℃)、大豆極度硬化油(融点67℃)、牛脂極度硬化油(融点59℃)、豚脂極度硬化油(融点60℃)などが挙げられる。
【0013】
粉末状脂質の平均粒径は、芯物質となるグルコース粒子より小さいことが好ましい。被覆材である粉末状脂質の平均粒径を、芯物質のグルコース粒子の平均粒径より小さくすることにより、グルコース粒子表面への粉末状脂質の付着を促進することができる。
【0014】
また、粉末状脂質の平均粒径は、特に制限されないが、好ましくは1~100μmである。粉末状脂質の平均粒径の下限値は、より好ましくは5μm以上である。また、粉末状脂質の平均粒径の上限値は、より好ましくは50μm以下である。粉末状脂質の平均粒径を上記範囲に調整することにより、グルコースの溶出率が好適な範囲となり、ルーメン中でのグルコースの分解を抑えつつ、消化管内で十分に溶出するという本発明の効果を一層発揮することができる。
【0015】
被覆粒子に含まれる粉末状脂質の含有量は、特に制限されないが、例えば3~60質量%である。粉末状脂質の含有量の下限値は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは20質量%以上であり、特に好ましくは30質量%以上である。また、粉末状脂質の含有量の上限値は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。粉末状脂質の含有量を上記範囲に調整することにより、グルコースの溶出率が好適な範囲となり、ルーメン中でのグルコースの分解を抑えつつ、消化管内で十分に溶出するという本発明の効果を一層発揮することができる。
【0016】
<グルコース粒子>
被覆粒子の芯物質として使用されるグルコース粒子は、平均粒径が100~1000μmの粒子粉末を使用することができる。グルコース粒子の平均粒径の下限値は、好ましくは150μm以上である。また、グルコース粒子の平均粒径の上限値は、好ましくは500μm以下である。平均粒径が100μm未満の場合は、被覆材である粉末状脂質で被覆した被覆粒子の表面積が大きくなるため、グルコースが溶出しやすく、ルーメンでのグルコースの分解を十分に抑制することができない。一方、平均粒径が1000μmより大きい場合は、被覆粒子が大きくなるため、粒子の割れやグルコース表面に付着した粉末状脂質の剥離などが生じてグルコースが溶出しやすくなる。
【0017】
グルコース粒子は、常温常圧(25℃、1気圧)において白色の粉末状の結晶であり、主として、でんぷんから加水分解によって製造されるものである。本発明に使用されるグルコース粒子は、製造された結晶の一部を造粒することによって、上記の平均粒径に調整したものを使用することができる。
【0018】
被覆粒子に含まれるグルコース粒子の含有量は、特に制限されないが、例えば40~97質量%である。グルコース粒子の含有量の下限値は、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上である。また、グルコース粒子の含有量の上限値は、好ましくは95質量%以下であり、より好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以下であり、特に好ましくは70質量%以下である。グルコース粒子の含有量の下限値を上記範囲に調整することにより、グルコースを多く含有する被覆粒子を得ることができる。また、グルコース粒子の含有量の上限値を上記範囲に調整することにより、好適な粉末状脂質の被膜を形成することができる。
【0019】
<被覆粒子>
本発明の被覆粒子は、芯物質であるグルコース粒子を被覆材である粉末状脂質により被覆してなる。
図1に、本発明の被覆粒子の構造の概略説明図を図示する。
図1に示すとおり、被覆粒子1は、芯物質であるグルコース粒子の表面に、粉末状脂質が付着して被膜を形成している。また、
図2に、従来の被覆粒子の構造の概略説明図を図示する。
図2(A)は、芯物質1粒子ごとに被膜材が被覆された被覆粒子を示し、
図2(B)は、複数の芯物質が被膜材中に分散した状態で被覆された被覆粒子を示す。
【0020】
従来の被覆粒子では、芯物質が被覆材で完全に被覆されているため、被覆材から溶出されずに、そのまま消化管を通過し排出されてしまう。なお、従来の被覆粒子は、溶融した被膜材を被覆するため、芯物質の表面に均一に被覆することが困難であることから、不完全に被覆された被覆粒子を含む。そのため、不完全な一部の被覆粒子では溶出するが、すべての被覆粒子中のグルコースを利用することができない。また、
図2(B)に示すように、複数の芯物質が被膜材中に分散した状態で存在する場合には、被覆粒子の表面に位置する芯物質は溶出するが、内部に位置する芯物質は溶出しない。
一方で、本発明の被覆粒子は、芯物質1粒子の表面に粉末状脂質が均一に付着するため、すべての粒子において被膜性能が一定である。そして、本発明の被覆粒子は、粉末状脂質のわずかな隙間から芯物質が徐々に溶出するため、ルーメンを通過しつつ、消化管内で十分に溶出するという効果を発揮することができる。
【0021】
本発明の被覆粒子は、37℃の水を用いた溶出試験において、15分後のグルコースの溶出率が10~30質量%であることが好ましい。また、30分後のグルコースの溶出率が15~50質量%であることが好ましい。溶出率をこの範囲とすることにより、ルーメン中でのグルコースの分解を抑えつつ、消化管内で十分に溶出するという本発明の効果を一層発揮することができる。溶出率は、グルコース粒子や粉末状脂質の平均粒径、グルコース粒子と粉末状脂質の質量比などを調整することにより設定することが可能である。なお、溶出率は、日本薬局方の溶出試験第2法(パドル法)に基づき、37℃の精製水を用いて測定する。
【0022】
[飼料組成物の製造方法]
本発明の飼料組成物の製造方法は、被覆粒子を得る工程を備え、被覆粒子を得る工程は、以下の工程を含むことを特徴とする。
〔I〕平均粒径が100~1000μmであるグルコース粒子を準備する工程。
〔II〕融点40℃以上90℃以下の粉末状脂質を準備する工程。
〔III〕グルコース粒子と粉末状脂質とを混合する工程。
【0023】
工程〔I〕は、平均粒径が100~1000μmであるグルコース粒子を準備する工程である。例えば、グルコース粒子を公知の粉砕方法により粉砕する工程、グルコース粒子を公知の造粒方法により造粒する工程により、グルコース粒子の平均粒径を100~1000μmに調整することができる。また、平均粒径が100~1000μmである市販のグルコース粒子を調達してもよい。
【0024】
工程〔II〕は、融点40℃以上90℃以下の粉末状脂質を準備する工程である。例えば、脂質に水素添加を処理を行い、脂質の融点を40℃以上90以下に調整し、次に、融点を調整した脂質を粉末化することにより、融点40℃以上90℃以下の粉末状脂質を得ることができる。また、市販の融点40℃以上90℃以下の粉末状脂質を調達してもよいし、融点40℃以上90℃以下の脂質を調達して、粉末化のみを行ってもよい。脂質の粉末化は、公知のスプレークーリング法や、公知の粉砕方法により行うことができる。
【0025】
工程〔III〕は、グルコース粒子と粉末状脂質とを混合する工程である。この工程では、グルコース粒子と粉末状脂質とを、粉末状脂質の融点以下の温度で混合することが好ましい。混合時の温度を、粉末状脂質の融点温度以下とすることにより、粉末状脂質が粉末状態としてグルコース粒子の表面に付着し、適度な孔を有する被膜を形成することができる。混合時の温度は、例えば、粉末状脂質の融点の10℃以下であり、好ましくは20℃以下であることが好ましい。なお、混合時の温度とは、グルコース粒子と粉末状脂質の混合粉末の内部の温度である。
【0026】
混合方法は、粉末状脂質がグルコース粒子を十分に混合され、グルコース粒子の表面に粉末状脂質が被覆できる方法であれば、どのような方法でもかまわない。混合装置として、ボールミル、電気乳鉢、高能率粉体混合機などの装置を用いて製造される。
【0027】
本発明の飼料組成物に含まれる被覆粒子では、芯物質となるグルコース粒子の全周囲表面を被覆するのは、粉末状脂質が層状に集合して形成した被覆層であり、従来の溶融した油脂を被覆した被覆層とは構造的に相違している。また、溶融した油脂を使用する場合では、グルコース表面に油脂の均一層が形成されているため、ルーメン内で微生物の影響を防ぐことができるが、ルーメンを通過後に油脂の消化に時間がかかり、粒子中のグルコースが溶出されずに消化管を通過し、排出されてしまうことになる。一方で、本発明では粉末状脂質を粉末状態のままグルコース粒子の表面に被覆するので、わずかな孔を有しており、適度な溶出率を得ることができる。よって、本発明の飼料組成物によれば、ルーメン中でのグルコースの分解を抑えつつ、消化管内で十分に溶出するという本発明の効果を一層発揮することができると考えられる。
【0028】
以上のようにして製造される本発明の飼料組成物は、被覆粒子のみ、または他の飼料成分と混ぜて畜産用飼料として用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
表1に示す組成で飼料組成物を次の方法により調製した。平均粒径234μmのグルコース粒子(塩水港製糖(株)、商品名:グル・ファイナル)80質量部と融点67℃の粉末状の菜種極度硬化油20質量部(平均粒径:38μm)を高速流動混合機((株)カワタ製、商品名:SMV-5)に仕込み、攪拌羽回転数1000rpmにて30分間処理をし、平均粒径235μmの被覆粒子を得た。なお、混合時の粉末の温度は、10~30℃であった。得られた被覆粒子を、実施例1の飼料組成物とした。
【0031】
(実施例2)
表1に示す組成で飼料組成物を次の方法により調製した。平均粒径232μmのグルコース粒子(塩水港製糖(株)、商品名:グル・ファイナル)60質量部と融点67℃の粉末状の菜種極度硬化油40質量部(平均粒径:30μm)を、実施例1と同様の条件で混合し、平均粒径239μmの被覆粒子を得た。この被覆粒子を実施例2の飼料組成物とした。
【0032】
(実施例3)
表1に示す組成で飼料組成物を次の方法により調製した。転動流動造粒コーティング装置FD-MP-01((株)パウレック製)に、含水結晶ブドウ糖(サンエイ糖化(株)製、平均粒径95μm)を700g仕込み、含水結晶ブドウ糖の5質量%溶液を500g噴霧しながら乾燥させた。運転条件は、給気温度:80℃、給気風量:1m3/min、ローター回転数:300rpm、噴霧液速度:15g/minで行い、平均粒径が172μmのグルコース造粒物を得た。得られたグルコース造粒物60質量部と、融点60℃の粉末状のパーム極度硬化油40質部(平均粒径:25μm)を、実施例1と同様の条件で混合し、平均粒径174μmの被覆粒子を調製した。この被覆粒子を実施例3の飼料用組成物とした。
【0033】
(比較例1)
グルコース粒子を粉末状脂質で被覆していない飼料組成物を調製した。平均粒径232μmのグルコース粒子(塩水港製糖(株)、商品名:グル・ファイナル)をそのままで評価した。
【0034】
(比較例2)
グルコース粒子の平均粒径を本発明の範囲外の35μmとし、他は実施例1と同様の条件で処理して飼料組成物を調製した。
【0035】
(比較例3)
グルコース粒子の粒径を本発明の範囲外の1517μmとし、他は実施例1と同様の条件で処理して飼料組成物を調製した。
【0036】
(比較例4)
被覆材である粉末状脂質の融点が本発明の範囲外の35℃とし、他は実施例1と同様の条件で処理して飼料組成物を調製した。
【0037】
[測定方法及び評価方法]
実施例1~3の試料及び比較例1~4の試料について、以下の方法で測定した。
(平均粒径)
グルコース粒子、粉末状脂質及び被覆粒子の平均粒径は、レーザー乾式粒度分布測定機(商品名:SALD-2100、(株)島津製作所製)を用いて評価した。内蔵するプログラム(Wing-1)で処理したデータを用いた。
【0038】
(耐溶出性試験)
日本薬局方の溶出試験第2法(パドル法)に基づき、飼料用組成物を約100mg精秤し、900mLの精製水を満たした容器に入れ、37℃で経時的に溶液中のグルコース濃度を測定した。溶液中のグルコース濃度の測定方法は、グルコース分析キット(富士フィルム和光純薬(株)製、商品名:グルコースCIIテストワコー)を用いて溶液中のグルコース濃度を測定した。被覆効率の指標として試験を開始して15分後と30分後の溶液中のグルコース濃度を溶出率として求めた。
(耐溶出性の評価)
上記試験の結果から、耐溶出性を以下のように評価した。
○;15分後の溶出率が30%以下、かつ、30分後の溶出率が40%以下
△;15分後の溶出率が30%超50%以下、かつ、30分後の溶出率が40%超60%以下
×;15分後の溶出率が50%超、かつ、30分後の溶出率が60%超
【0039】
【0040】
実施例1~3で得られた飼料組成物の耐溶出性は良好な結果であった。具体的には、15分後の溶出率が10~30質量%であり、かつ30分後の溶出率が40質量%以下であった。このことから、本発明において、適度なグルコースの耐溶出性のある飼料組成物を調製できたことがわかる。
【0041】
一方で、グルコース粒子を粉末状の硬化油で被覆していない比較例1においては、15分後には100質量%のグルコースが溶出されており、粉末状脂質で被覆しなければ、全く耐溶出性を示さなかった。
グルコース粒子の粒径が本発明の範囲外のサイズ(100μm未満)の比較例2においては、15分後と30分後に高い溶出率を示しており、脂質被覆の効果が十分とはならなかった。
グルコース粒子の粒径が本発明の範囲外のサイズ(1000μm以上)の比較例3においては、15分後と30分後に高い溶出率を示しており、脂質被覆の効果が十分とはならなかった。
被覆する硬化油の融点が本発明の範囲外の温度(35℃)の比較例4の場合、15分後と30分後に高い溶出率を示しており、脂質被覆の効果が十分とはならなかった。
【0042】
実施例1、2で製造された飼料組成物、及び比較例1の飼料組成物について、実際の牛のルーメン液中での挙動を検証するため、下記のルーメンバイパス試験を実施した。結果を表2に示す。
【0043】
(in vivo ルーメンバイパス試験)
給餌前の泌乳牛から経口的に採取したルーメン内容液を、20分以内に4重ガーゼと漏斗で濾過し、Russell and Martinの方法に準じて、緩衝液を1:1(質量比)の割合で混合した。さらに、L-システイン・塩酸を緩衝液1リットルあたり600mg加え、これを培養液とした。緩衝液は、MilliQ水1.5リットルにつき、K2HPO4(438mg)、KH2PO4(360mg)、(NH4)2SO4(720mg)、NaCl(720mg)、CaCl2・2H2O(96mg)、MgSO4・7H2O(150mg)、Na2CO3(6000mg)を溶解させたものをpH6.9に調整して使用した。基質として粗飼料(スーダングラス)および濃厚飼料(乳牛用配合飼料)を粉砕したものを100mgずつ、培養液30ミリリットルと混合し、50ミリリットルのバイアル瓶に充填した。この培養液に、各飼料組成物をグルコースとして80mgになるように添加した。その後、培養液をCO2ガスで曝気することによりバイアル瓶内を嫌気性条件にして密栓し、39℃のウォータバスで0時間、2時間及び6時間嫌気的に振とう培養した。培養後の培養液を超音波破砕器を用いて1分間破砕し、その後70℃で15分間処理した。その後、15000rpmで10分間遠心分離して得た上清について、グルコース分析キット(富士フィルム和光純薬(株)製、商品名:グルコースCIIテストワコー)を用いてグルコース濃度を測定し、ルーメン培養液中でのグルコースの残存率を測定した。
【0044】
(ルーメンバイパス性の評価)
上記試験の結果から、ルーメンバイパス性を以下のように評価した。
○;2時間後の残存率が60%以上、かつ、6時間後の残存率が30%以上
△;2時間後の残存率が30%以上60%未満、かつ、6時間後の残存率が10%以上30%未満
×;2時間後の残存率が30%未満、かつ、6時間後の残存率が10%未満
【0045】
【0046】
実施例1と2での飼料組成物はグルコースの分解が抑制されており良好な結果であった。具体的には、培養を開始して2時間後と6時間後の溶液中に一定量以上のグルコースの残存が認められた。これらのことから、ルーメンバイパス性のある飼料組成物を調製できたことが示された。
一方、比較例1の飼料組成物はルーメンバイパス性を示さなかった。具体的には、培養を開始して2時間後にはグルコースは検出限界以下であり、グルコースは分解されていた。なお、本試験におけるグルコースの検出限界は3.8mg/100ミリリットルである。
【0047】
以上の結果から、本発明の飼料組成物は、反芻動物のルーメン中でのグルコースの分解を適度に抑えることができることがわかった。
【符号の説明】
【0048】
1,10,11 被覆粒子、2 グルコース粒子、3 粉末状脂質、20 芯物質、30 油脂被膜