(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/12 20060101AFI20240123BHJP
H01M 10/06 20060101ALI20240123BHJP
H01M 50/463 20210101ALI20240123BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240123BHJP
H01M 4/14 20060101ALI20240123BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
H01M10/12 K
H01M10/06 Z
H01M50/463 B
H01M50/489
H01M4/14 Q
H01M4/62 B
(21)【出願番号】P 2019230775
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 亘
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-018747(JP,A)
【文献】特開2005-197145(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087678(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/06-10/18、
H01M 4/02
H01M 4/14- 4/23
H01M 4/62
H01M50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と
、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを備え、
前記負極板が、負極集電体と、負極電極材料と、を備え、
前記負極電極材料の密度が、3.5g/cm
3以下であり、
前記負極電極材料が、有機縮合物を含み、
前記セパレータは、前記正極板側の第1表面に第1リブを備え、かつ前記負極板側の第2表面に第2リブを備える、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記有機縮合物は、芳香族化合物のユニットを含み、
前記芳香族化合物は、硫黄含有基を有する、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記芳香族化合物は、ビスアレーン化合物および単環式化合物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記ビスアレーン化合物は、ビスフェノール化合物を含む、請求項3に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記単環式化合物は、ヒドロキシアレーン化合物を含む、請求項3または4に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記有機縮合物の硫黄元素含有量が2000μmol/g以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記負極電極材料中の前記有機縮合物の含有量が、0.03質量%以上、0.3質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
前記正極板および前記負極板の高さが、それぞれ160mm以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項9】
前記正極板と前記負極板との距離が、1.3mm以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項10】
前記第1リブおよび前記第2リブの高さが、それぞれ0.1mm以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項11】
前記第2リブの高さが、前記セパレータの総厚の10%~70%である、請求項1~10のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項12】
前記負極電極材料の密度が、3.1g/cm
3
以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項13】
前記負極電極材料の密度が、2.9g/cm
3
以下である、請求項1~11のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを含む。
【0003】
鉛蓄電池では、電槽の上部における電解液(以下、上部電解液ともいう。)の比重が低くなり、下部における電解液(以下、下部電解液ともいう。)の比重が高くなる成層化現象が生じる。成層化が生じると、負極板の下部でサルフェーションが進行する。一方、低比重の上部電解液では、硫酸鉛の溶解度が高くなり、電解液中の鉛イオン量が増え、負極板で還元析出する鉛がセパレータの細孔内に侵入して正極板に達する現象(すなわち浸透短絡)を生じやすくなる。
【0004】
そこで、特許文献1は、正極板と負極板とをセパレータを介して積層した極板群と、電解液と、前記極板群を収納した電槽を備えた鉛蓄電池であって、前記負極板の耳を接続する負極ストラップ直下の両端の耳の外端間の長さA、及び前記正極板の耳を接続する正極ストラップ直下の両端の耳の外端間の長さA´が、それぞれ、前記各ストラップに接続された極板のうち両端に位置する極板における上部枠骨部の積層方向外端間の長さB、B´より小さく、前記セパレータは、前記正極板の上部と向かい合う領域及び前記負極板の上部と向かい合う領域にリブを有することを特徴とする鉛蓄電池を提案している。特許文献1の実施例では、幅100mm、高さ110mmの正極板および負極板を具備する電池が作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的には、鉛蓄電池の電解液の成層化を抑制し、容量維持率を向上させる手法として、鉛蓄電池を過充電することによりガスを発生させ、ガスによって電解液を流動させることが行われている。しかし、負極電極材料における鉛の使用量を削減し、負極電極材料の密度を小さくして、鉛の利用率を大きくする場合、容量維持率を向上させることは困難である。なぜなら、負極電極材料の密度を小さくすると、充放電サイクルの繰り返しによる負極電極材料の膨張が激しくなり、負極電極材料の脱落が顕著になるとともに、正極板と負極板との間にガスが滞留する「ガス噛み」が激しくなり、電解液の成層化が進行するとともに有効極板面積が減少しやすくなるためである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、正極板と、負極板と、電解液と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを備え、前記負極板が、負極集電体と、負極電極材料と、を備え、前記負極電極材料の密度が、3.5g/cm3以下であり、前記負極電極材料が、リグニン以外の有機防縮剤を含み、前記セパレータは、前記正極板側の第1表面に第1リブを備え、かつ前記負極板側の第2表面に第2リブを備える、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、負極電極材料の密度を3.5g/cm3以下に小さくする場合でも、良好な容量維持率を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池のフタを外した状態を模式的に示す斜視図である。
【
図2B】
図2Aの鉛蓄電池のIIB-IIB線による矢示断面図である
【
図3】電池R1~R3のサイクル数と容量維持率との関係を示す図である。
【
図4】電池R1、R2、R4のサイクル数と容量維持率との関係を示す図である。
【
図5】電池R1、R2、E1のサイクル数と容量維持率との関係を示す図である。
【
図6】電池構成と自己放電速度との関係を示す図である。
【
図7】電池R2~R4およびE1の初期および300サイクル時の低温ハイレート放電性能を示す図である。
【
図8】電池R1およびR5~R7の初期および300サイクル時の低温ハイレート放電性能を示す図である。
【
図9】負極電極材料密度(電池E1~E4、R7)と、初期に対する300サイクル時の低温ハイレート放電性能の低下率の改善幅との関係を示す図である。
【
図10】負極電極材料中の有機防縮剤の含有量と、300サイクル時の容量維持率との関係を示す図である。
【
図11】負極電極材料中の有機防縮剤の含有量と、初期容量との関係を示す図である。
【
図12】極板の高さHと、200サイクル目の有効極板面積S´と、実際の極板面積S(極板の高さ×幅)との関係を示す図である。
【
図13】電池R1、R13およびR7の100サイクル目および200サイクル目の容量維持率を対比して示す図である。
【
図14】極板の高さと200サイクル目の容量維持率との関係を示す図である。
【
図15】極板の高さと容量維持率の改善幅との関係を対比して示す図である。
【
図16】極板の高さと、600サイクル後の負極板の上部、中部および下部に蓄積する硫酸鉛量との関係を示す図である。
【
図17】極板の高さが278mmである場合の極間距離とガス噛み量との関係を示す図である。
【
図18】極板の高さが115mmである場合の極間距離とガス噛み量との関係を示す図である。
【
図19】極板の高さが384mmである場合の極間距離とガス噛み量との関係を示す図である。
【
図20】極間距離と低温ハイレート放電性能との関係を示す図である。
【
図21】縮合物Aを用いた場合の極板の高さHと、有効極板面積S´と、実際の極板面積S(極板の高さ×幅)との関係を示す図である。
【
図22】縮合物Aを用いた場合の極板の高さと200サイクル目の容量維持率との関係を示す図である。
【
図23】縮合物Aを用いた場合の極板の高さと、セパレータが正極板側のみにリブを有する場合に対する両面にリブを有する場合の容量維持率の改善幅との関係を示す図である。
【
図24】縮合物Bを用いた場合の極板の高さHと、有効極板面積S´と、実際の極板面積S(極板の高さ×幅)との関係を示す図である。
【
図25】縮合物Bを用いた場合の極板の高さと200サイクル目の容量維持率との関係を示す図である。
【
図26】縮合物Bを用いた場合の極板の高さと、セパレータが正極板側のみにリブを有する場合に対する両面にリブを有する場合の容量維持率の改善幅との関係を示す図である。
【
図27】縮合物Cを用いた場合の極板の高さHと、有効極板面積S´と、実際の極板面積S(極板の高さ×幅)との関係を示す図である。
【
図28】縮合物Cを用いた場合の極板の高さと200サイクル目の容量維持率との関係を示す図である。
【
図29】縮合物Cを用いた場合の極板の高さと、セパレータが正極板側のみにリブを有する場合に対する両面にリブを有する場合の容量維持率の改善幅との関係を示す図である。
【
図30】縮合物Aを用いた極板の高さが278mmである場合の極間距離とガス噛み量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[鉛蓄電池]
本発明の実施形態に係る鉛蓄電池は、正極板と、負極板と、電解液と、正極板および負極板の間に介在するセパレータと、電解液とを備える。負極電極材料の密度は、3.5g/cm3以下であり、負極電極材料は、有機縮合物を含む。また、セパレータは、正極板側の第1表面に第1リブを備え、かつ負極板側の第2表面に第2リブを備える。
【0011】
通常、負極電極材料における鉛の使用量を削減し、負極電極材料の密度を小さくして、鉛の利用率を大きくする場合、深放電サイクル中に負極電極材料の膨張による脱落が顕著になるため、容量維持率を向上させることは困難である。負極電極材料の膨張は、負極電極材料密度が3.1g/cm3以下である場合、より顕著になり、2.9g/cm3以下である場合には更に顕著になる。よって、鉛の使用量を削減しつつ、容量維持率を向上させることは非常に困難であると考えられていた。
【0012】
ここで、深放電サイクルとは、例えば、定格容量(Ah)として記載の数値の0.25倍の電流(A)で3時間放電後、定格容量(Ah)として記載の数値の0.18倍の電流(A)で5時間充電する(すなわち、放電電気量の約120%程度の電気量を充電する)充放電を低温(例えば15℃)で300サイクル程度繰り返すような充放電サイクルをいう。
【0013】
一方、負極電極材料が有機防縮剤を含み、セパレータが正極板側の第1表面に第1リブを備え、かつ負極板側の第2表面に第2リブを備える場合、負極電極材料の密度を3.5g/cm3以下に小さくする場合でも、良好な容量維持率を達成することができる。これは、負極電極材料の膨張が抑えられ、かつセパレータの両面にリブを設けることでガス噛み抑制効果が顕著に発揮されるためと考えられる。以下、そのメカニズムについて説明する。
【0014】
まず、負極電極材料は、有機防縮剤としてリグニンを含んでもよいが、有機縮合物を含むことが必要である。負極電極材料が有機縮合物を含む場合、充放電サイクル中の負極電極材料の膨張が顕著に抑制され、長期間に亘って正極板と負極板との間のガスおよび電解液の流通が阻害されにくくなる。その結果、サルフェーションの進行や硫酸鉛の結晶の粗大化が抑制され、鉛蓄電池の容量維持率、更には低温ハイレート性能を良好に維持する上で有利となる。
【0015】
ただし、一般的には、良好な容量維持率を達成するには、負極電極材料密度が3.7g/cm3程度以上であることが求められる。鉛の使用量を削減するために負極電極材料密度を3.5g/cm3以下に低減すると、活物質である鉛の利用率が大きくなるため、負極電極材料の膨張が激しくなる。その結果、深放電サイクル中に負極電極材料が脱落するとともに、負極電極材料の膨張により極間でのガス噛みが顕著になって極板の有効面積が小さくなり、成層化も促進され、容量維持率が著しく低下するものと考えられる。
【0016】
負極電極材料に有機縮合物を含ませるだけの場合、負極電極材料の膨張は抑制されるが、負極電極材料密度の低減により、ガス噛みが生じやすくなっている。負極電極材料があまり膨張していないサイクル初期においては、ガス噛みの影響により、容量維持率を改善する目立った効果は見られない。深放電サイクルが進むにつれて、負極電極材料の膨張の抑制が奏功するようになり、容量維持率の低下が抑制されるようになる。しかし、負極電極材料密度の低減によるガス噛みの影響は、負極電極材料の膨張を抑制する効果よりも大きいと考えられる。そのため、負極電極材料に有機縮合物を含ませる場合であっても、負極電極材料密度が3.7g/cm3程度の場合に比べると容量維持率は低減する。
【0017】
次に、正極板によるセパレータの酸化劣化を抑制する観点から、セパレータの正極板側の第1表面のみにリブを設けることは良く行われる。しかし、セパレータの正極板側の第1表面のみにリブを設けても、ガス噛みを解消することは困難である。また、大半のガスは負極板の表面で発生するにもかかわらず、セパレータの負極板側の第2表面のみにリブを設けても、充放電サイクルの初期にはガス噛みが改善されるものの、次第にリブに潰れが生じ、ガスが極板間にトラップされるようになり、やはりガス噛みを解消することは困難である。
【0018】
一方、両面にリブを有するセパレータを用いる場合、ガスの移動経路が十分に確保されるとともに、セパレータの機械的強度が向上する。よって、深放電サイクル初期には容量維持率が改善される。ただし、負極電極材料の膨張は相当に進行するため、両面にリブを有するセパレータを用いるだけの場合、深放電サイクルが進むにつれて、リブが潰されてしまい、セパレータの両面にリブを設けたことによるガス噛み抑制の効果は次第に低減する。最終的には両面にリブを有するセパレータを用いる場合であっても、負極電極材料密度が3.7g/cm3程度の場合に比べると容量維持率は著しく低下する。負極電極材料密度を低減する場合には、両面にリブを有するセパレータであっても、深放電サイクルが進むにつれてリブが潰されてしまうものと考えられる。
【0019】
一方、負極電極材料に有機縮合物を含ませ、かつ両面にリブを有するセパレータを用いる場合、サイクルの初期から、例えば300サイクル経過後まで、良好な容量維持率を達成することができる。しかも、負極電極材料密度が3.7g/cm3程度の場合に比べ、容量維持率が更に向上する。このような顕著な容量維持率の向上には、有機縮合物と両面にリブを有するセパレータとが相乗的に作用することで、電解液の成層化が顕著に抑制されるようになったことが関連している。より具体的には、両面にリブを有するセパレータを用いる場合、極間でのガス噛みが抑制されるとともに、セパレータの機械的強度も上昇し、リブが変形しにくくなっている。また、有機縮合物の作用で負極電極材料の膨張が抑制されることから、極間の豊富なガス移動経路が長期にわたって良好に確保される。その結果、成層化が顕著に抑制され、容量維持率が大幅に改善されるものと考えられる。
【0020】
また、負極電極材料に有機縮合物を含ませ、かつ両面にリブを有するセパレータを用いる場合、ガス噛みと成層化が顕著に抑制されることから、自己放電反応が顕著に抑制される。自己放電反応は、電解液の比重の上昇により促進される。電解液の比重は、ガス噛みにより、本来補水されるべき量の補水が行われないことで次第に高くなる。ガス噛みが低減することで、電解液の比重が上昇しにくくなり、自己放電(特に高温での自己放電)が緩和される。また、成層化が抑制されることで下部電解液の比重が上昇しにくくなり、極板の下部での自己放電も緩和される。
【0021】
正極板および負極板の高さは、高容量化の観点から、それぞれ160mm以上であってもよい。高さ160mm以上の極板を有する鉛蓄電池の場合、上記構成によれば、成層化が特に顕著に抑制されるため、極板の高さが大きいほど容量維持率の改善幅が大きくなる。高さ160mmの臨界点を境にガス噛みが顕在化する傾向があるため、容量維持率の改善幅も高さ160mm以上で顕著に増加するものと考えられる。
【0022】
ここで、正極板および負極板(以下、単に「極板」と総称することもある。)の高さとは、極板の耳を除く部分の高さであり、集電体の枠骨部の上額と下額とを含む高さに相当する。
【0023】
例えば電気車などに用いられる産業用の鉛蓄電池の電解液の成層化は、通常、鉛蓄電池を過充電することによりガスを発生させ、ガスによって電解液を流動させることで抑制可能である。しかし、正極板および負極板の高さがそれぞれ160mm以上である場合、過充電により十分量のガスを発生させた場合であっても、従来の構成では、実際には想定されるほどに電解液を攪拌することが困難である。具体的には、有機防縮剤としてリグニンを用い、片面のみにリブを備えるセパレータを用いる場合には、過充電で発生させたガスによって成層化を十分に解消することは困難である。これは、極板の高さを160mm以上とし、かつ負極電極材料密度を3.5g/cm3以下に低減する場合、発生したガスが液面に到達する前に極板間にトラップされる確率が非常に高くなり、ガス噛みが非常に顕著に進行し得るためである。
【0024】
ガスが滞留する極板間では、電極反応の進行が妨げられるため、有効極板面積が減少する。有効極板面積が減少すると、低温ハイレート(HR)放電性能が低下する傾向がある。電解液を流動させるために多くの過充電を行うほどに有効極板面積の減少は顕著となる。中でも正極板および負極板の高さがそれぞれ200mm以上になると有効極板面積の減少はより顕著になり、270mm以上では更に顕著になり、350mm以上もしくは380mm以上になると極めて顕著になる。日本産業規格(JIS)では、電気車用組電池を格納する枠サイズが規定されているため、高容量化のために鉛量を増やす場合、極板は縦方向に長くなる傾向がある。
【0025】
なお、高さ160mm以上の正極板と負極板とを有する鉛蓄電池としては、特に限定されるものではないが、例えばフォークリフト、自動搬送機(AGV)、電動台車、高所作業車などの電気車で用いられる鉛蓄電池が挙げられる。
【0026】
これに対し、両面にリブを有するセパレータを用いるとともに、有機縮合物を用いる場合、充放電サイクルを繰り返した後の低温ハイレート放電性能が顕著に改善する。また、低温ハイレート放電性能の改善幅は、負極電極材料密度が小さい場合の方が顕著である。これは、両面にリブを有するセパレータによるガス噛みの低減で、放電に寄与できる有効極板面積が大きくなることと関連している。
【0027】
中でも正極板および負極板の高さがそれぞれ200mm以上になると低温ハイレート放電性能の改善はより顕著になり、270mm以上では更に顕著になり、350mm以上もしくは380mm以上になると極めて顕著になる。
【0028】
充放電サイクルを繰り返した後の低温ハイレート放電性能を測定する場合、例えば、まず、既に述べた条件で深放電サイクル(10℃±2℃で、定格容量(Ah)として記載の数値の0.25倍の電流(A)で3時間放電後、定格容量(Ah)として記載の数値の0.195倍の電流(A)で5時間充電)を300サイクル繰り返す。なお、ガス噛み量は、200サイクル以降に安定し、その後は大きく増加せず、300サイクルまでで概ね飽和する。その後、低温ハイレート放電性能は、満充電状態の鉛蓄電池を、例えば、-15℃±2℃で、定格容量(Ah)として記載の数値の1倍の電流(A)で放電電圧が1.0V/セルに達するまで放電するときの経過時間(放電持続時間)として測定すればよい。
【0029】
正極板と負極板との距離は、例えば3mm以下であってもよく、2mm以下であってもよい。正極板と負極板との距離は、一見すると広い程、ガス噛みの解消に有利であり、容量維持率の改善にも有利であると考えられる。しかし、正極板と負極板との距離が過度に大きくなると、充放電を繰り返した後の低温ハイレート放電性能に不利となる。これは、正極板と負極板との距離が大きくなると、負極電極材料の脱落が促進されるためである。負極電極材料が脱落すると、極板間に脱落した材料が滞留し、ガスの流路を塞ぐため、ガス噛みの解消の妨げにもなる。容量維持率と低温ハイレート放電性能とのバランスを考慮すると、正極板と負極板との距離は、1.3mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。なお、正極板と負極板との距離が1.3mm以下である場合、セパレータの片面のみにリブを設けるだけではガス噛みが顕著に増加するが、セパレータの両面にリブを設ける場合には、ガス噛みを顕著に抑制することが可能となる。
【0030】
セパレータの両面にリブを設ける場合、第1リブおよび第2リブの高さは、例えば、それぞれ0.1mm以上であればよい。ガス噛みを抑制する効果を奏するには各リブの高さを0.1mm以上にすれば十分である。例えばセパレータの正極板側のみに第1リブを設ける場合に比べると、両面に0.1mm以上のリブを設ける場合には、ガス噛み量は、例えば20分の1以下にまで顕著に減量される。
【0031】
第2リブの高さは、例えば、セパレータの総厚の10%~70%としてもよい。例えば、正極板と負極板との距離を1.3mm以下とし、これに合わせてセパレータの総厚を1.3mm以下とする場合には、第2リブの高さは、0.1mm~0.91mmの範囲から選択すればよい。また、セパレータの総厚を1.1mm以下とする場合には、第2リブの高さは、0.1mm~0.77mmの範囲から選択すればよい。また、セパレータの総厚を0.8mm以下とする場合には、第2リブの高さは、0.1mm~0.56mmの範囲から選択すればよい。また、セパレータの総厚を0.6mm以下とする場合には、第2リブの高さは、0.1mm~0.42mmの範囲から選択すればよい。
【0032】
鉛蓄電池の上記構成は、成層化が生じやすい液式(ベント式)の鉛蓄電池において有効である。中でも、特に成層化が生じやすい電池高さの高い鉛蓄電池(特に電気車用鉛蓄電池)において、本実施形態に係る鉛蓄電池の構成が有利となる。電気車用鉛蓄電池の極板の高さは、例えば270mm以上、350mm以上、380mm以上もしくは400mm以上であり得る。
【0033】
本明細書中、液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2006の定義によって定められる。より具体的には、鉛蓄電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態を満充電状態とする。
【0034】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0035】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0036】
(負極板)
負極板は、負極集電体と、負極電極材料とを含む。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いたものである。
【0037】
なお、負極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は負極板と一体として使用されるため、負極板に含まれるものとする。また、負極板が貼付部材を含む場合、負極電極材料は、負極集電体および貼付部材を除いたものである。ただし、セパレータにマットなどの貼付部材が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚みは、セパレータの厚みに含まれる。
【0038】
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0039】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0040】
(負極集電体)
負極集電体は、枠骨部と、枠骨部に連続する格子部とを有する。格子部は、複数の四角形の升目を有する。枠骨部は、少なくとも上額と下額とを有し、一対の側部要素を有する場合もある。一対の側部要素は、上額の両端と下額の両端とを連結する。上額には、通常、耳が設けられている。
【0041】
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として負極格子を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0042】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有するものであってもよい。
【0043】
(負極電極材料)
負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛)を含む。負極電極材料は、ポリマー化合物、防縮剤、炭素質材料および/または他の添加剤を含んでもよい。添加剤としては、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0044】
(防縮剤)
負極電極材料は、既に述べたように、有機防縮剤として有機縮合物を含む。有機防縮剤は、例えば公知の方法で合成したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。負極電極材料は、有機防縮剤を1種含んでもよく、2種以上含んでもよい。有機防縮剤は、リグニンを含んでもよいが、少なくとも、リグニン以外の有機防縮剤を含む。
【0045】
ここで、リグニンには、リグニンの他に、リグニン誘導体などが含まれる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。
【0046】
リグニン以外の有機防縮剤は、有機縮合物(以下、単に縮合物と称する。)を含む。ここで、縮合物は、合成物であり、一般に合成防縮剤とも称される。縮合物は、芳香族化合物のユニット(以下、芳香族化合物ユニットとも称する。)を含んでもよい。芳香族化合物ユニットは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットをいう。すなわち、芳香族化合物ユニットは、芳香族化合物の残基である。縮合物は、芳香族化合物ユニットを1種含んでもよく、複数種含んでもよい。
【0047】
縮合物としては、例えば、芳香族化合物のアルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。このような縮合物は、芳香族化合物とアルデヒド化合物とを反応させることで合成し得る。ここで、芳香族化合物とアルデヒド化合物との反応を亜硫酸塩の存在下で行ったり、芳香族化合物として硫黄元素を含む芳香族化合物(例えば、ビスフェノールSなど)を用いたりすることで、硫黄元素を含む縮合物を得ることができる。例えば、亜硫酸塩の量および/または硫黄元素を含む芳香族化合物の量を調節することで、縮合物中の硫黄元素含有量を調節することができる。他の原料を用いる場合も、この方法に準じてよい。縮合物を得るために縮合させる芳香族化合物は1種でもよく、2種以上でもよい。なお、アルデヒド化合物は、アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)でもよく、アルデヒドの縮合物などでもよい。
【0048】
芳香族化合物は、硫黄含有基を有してもよい。すなわち、縮合物は、分子内に複数の芳香環を含むとともに硫黄含有基として硫黄元素を含む有機高分子であってもよい。硫黄含有基は、芳香族化合物が有する芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0049】
硫黄含有基は、極性が強い親水性基である。親水性基は電解液中では、水分子や水素イオン、硫酸水素イオンと安定な結合を形成するため、縮合物の表面に親水性基が偏在する傾向がある。表面に偏在する親水性基は電荷を持つため、縮合物の会合体間で静電的な反発が起こることにより、縮合物のコロイド粒子の会合が制限され、コロイド粒子径が小さくなりやすい。その結果、負極電極材料の細孔径が小さくなると考えられる。つまり、鉛粒子同士の界面もしくは集電体と負極電極材料との界面において海綿状鉛の構造が微細になるため、界面における機械的強度が向上する。よって、負極電極材料の膨張を抑制する効果が大きい。
【0050】
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合や連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基など)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。
【0051】
芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基、アミノ基などの官能基とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基、アミノ基などの官能基は、芳香環に直接結合していてもよく、官能基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。
【0052】
芳香族化合物ユニットの元となる芳香族化合物は、ビスアレーン化合物および単環式化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。この場合、鉛蓄電池が常温よりも高い温度環境を経験した場合でも、負極電極材料中での縮合物の凝集が抑制され、負極電極材料の微細構造の粗大化が防がれ、低温ハイレート性能が損なわれにくくなる傾向がある。
【0053】
ビスアレーン化合物としては、ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)が挙げられる。中でもビスフェノール化合物が好ましい。
【0054】
ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。例えば、ビスフェノール化合物は、ビスフェノールAおよびビスフェノールSからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。中でもビスフェノールSのユニットを含む縮合物は、硫黄含有基を有し、より親水的な官能基を縮合物の表面に存在させることができるため、負極電極材料の膨張を抑制する効果が更に大きい。ビスフェノール化合物がビスフェノールAとビスフェノールSとを両方を含む場合、ビスフェノールAとビスフェノールSとのモル比は、例えば1:9から9:1の範囲であればよく、2:8から8:2の範囲が好ましい。
【0055】
ビスフェノール化合物は、ビスフェノール骨格を有すればよく、ビスフェノール骨格が置換基を有してもよい。すなわち、ビスフェノールAは、ビスフェノールA骨格を有すればよく、その骨格は置換基を有してもよい。ビスフェノールSは、ビスフェノールS骨格を有すればよく、その骨格は置換基を有してもよい。
【0056】
単環式化合物としては、ヒドロキシアレーン化合物、アミノアレーン化合物などが好ましい。中でもヒドロキシアレーン化合物が好ましい。
【0057】
ヒドロキシアレーン化合物としては、ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物などが挙げられる。例えば、フェノール化合物であるフェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)を用いることが好ましい。フェノールスルホン酸化合物のユニットを含む縮合物は、フェノール性ヒドロキシ基とスルホン酸基とを有する。フェノール性ヒドロキシ基およびスルホン酸基は、いずれも酸性を呈する極性の強い親水性基であり、官能基がマイナス電荷を帯びている。よって、フェノールスルホン酸化合物のユニットを含む縮合物は、海綿状鉛の構造を微細にして負極電極材料の膨張や脱落を抑制する効果が大きい。また、フェノールスルホン酸化合物のユニットを含む縮合物は、電解液(硫酸水溶液)中への溶解度が小さく、深放電サイクルを繰り返しても負極電極材料中に留まりやすい。よって、負極電極材料の膨張や脱落を抑制する効果が更に大きい。なお、既に述べたように、フェノール性ヒドロキシ基には、フェノール性ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。
【0058】
アミノアレーン化合物としては、アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)が挙げられる。
【0059】
芳香族化合物ユニットの元となる芳香族化合物は、ビスアレーン化合物と単環式化合物とを両方を含んでもよい。この場合、上記のフェノールスルホン酸化合物のユニットに由来する効果に加え、ビスアレーン化合物に由来する効果が得られる。具体的には、ビスアレーン化合物の特性である芳香環π電子間の相互作用による分子内での結合形成を単環式化合物が阻害することで、分子の直鎖に柔軟性を付与することができる。このため、親水性の官能基をより表面に露出させやすいものと考えられる。特に低温ハイレート性能を改善する観点からは、ビスアレーン化合物と単環式化合物とを両方を含むことが望ましい。
【0060】
芳香族化合物ユニットの元となる芳香族化合物がビスアレーン化合物と単環式化合物とを両方を含む場合、ビスアレーン化合物と単環式化合物とのモル比は、例えば1:9から9:1の範囲であればよく、2:8から8:2の範囲が好ましい。
【0061】
有機縮合物の硫黄元素含有量は、例えば2000μmol/g以上であってもよく、3000μmol/g以上が好ましい。この場合、有機縮合物が有する硫黄含有基の量が多く、有機縮合物のコロイド粒子径が小さくなりやすく、負極電極材料の構造を微細に保てることから、負極電極材料の膨張を抑制する効果が更に大きい。
【0062】
有機縮合物中の硫黄元素含有量がXμmol/gであるとは、有機縮合物の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0063】
有機縮合物の硫黄元素含有量の上限は、特に制限されないが、例えば9000μmol/g以下であればよく、8000μmol/g以下でもよく、7000μmol/g以下でもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0064】
有機縮合物の硫黄元素含有量は、例えば、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)9000μmol/g以下、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)8000μmol/g以下、もしくは2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)7000μmol/g以下であってもよい。
【0065】
有機縮合物の重量平均分子量(Mw)は、例えば、7000以上であることが好ましい。有機縮合物のMwは、例えば、100,000以下であり、20,000以下であってもよい。
【0066】
なお、本明細書中、有機縮合物もしくは有機防縮剤のMwは、GPCにより求められるものである。Mwを求める際に使用する標準物質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとする。
Mwは、下記の装置を用い、下記の条件で測定される。
GPC装置:ビルドアップGPCシステムSD-8022/DP-8020/AS-8020/CO-8020/UV-8020 (東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000SWXL,G2000SWXL(7.8mmI.D.×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:UV検出器、λ=210nm
溶離液:濃度1mol/LのNaCl水溶液:アセトニトリル(体積比=7:3)の混合溶液
流速:1mL/min.
濃度:10mg/mL
注入量:10μL
標準物質:ポリスチレンスルホン酸Na(Mw=275,000、35,000、12,500、7,500、5,200、1,680)
【0067】
負極電極材料が有機縮合物に加えてリグニンを含む場合、リグニンの硫黄元素含有量は、例えば1000μmol/g以下であり、800μmol/g以下であってもよい。リグニンの硫黄元素含有量の下限は特に制限されないが、例えば、400μmol/g以上である。
【0068】
リグニンのMwは、例えば、7000未満である。リグニンのMwは、例えば、3000以上である。
【0069】
有機縮合物とリグニンとを併用する場合、これらの質量比は任意に選択できる。ただし、負極集電体と負極電極材料との結着力を顕著に改善する観点からは、有機縮合物とリグニンとの総量に占める有機縮合物の比率は、20質量%以上が好ましく、50質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。
【0070】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤(もしくは有機縮合物)の含有量が多いほど、充放電サイクルを繰り返した場合の鉛蓄電池の低温ハイレート性能の向上には有利である。ただし、負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量が過度に多いと、鉛蓄電池の初期容量が低下する傾向がある。以上より、負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.01質量%以上であり、0.03質量%以上であってもよい。また、有機防縮剤の含有量は、例えば、0.5質量%以下であり、0.3質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。
【0071】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.01質量%以上0.5質量%以下、0.03質量%以上0.5質量%以下、0.01質量%以上0.3質量%以下、または0.03質量%以上0.3質量%以下であってもよい。同様に、負極電極材料中の有機縮合物の含有量は、0.03質量%以上、0.3質量%以下であってもよい。
【0072】
(硫酸バリウム)
負極電極材料は、硫酸バリウムを含むことができる。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0073】
(炭素質材料)
負極電極材料は、炭素質材料を含むことができる。負極電極材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。炭素質材料は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせてもよい。
【0074】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上5質量%以下、0.05質量%以上3質量%以下、0.10質量%以上5質量%以下、または、0.10質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0075】
(負極電極材料の構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。分析に先立ち、化成後の鉛蓄電池を満充電してから解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。次に、負極板から負極電極材料を分離して粉砕し、試料を入手する。
【0076】
(1)有機防縮剤の分析
(1-1)負極電極材料中の有機防縮剤(もしくは有機縮合物)の定性分析
試料を1mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。次に、抽出物が複数の有機防縮剤を含む場合、抽出物から、複数の有機防縮剤を分離する。各有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて、不溶成分を濾過で取り除き、得られた溶液を脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、溶液をイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、溶液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行なう。これを乾燥することにより有機防縮剤の粉末試料が得られる。
【0077】
このようにして得た有機防縮剤の粉末試料を用いて測定した赤外分光スペクトルや、粉末試料を蒸留水等で希釈し、紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、重水等の所定の溶媒で溶解し、得られた溶液のNMRスペクトルなどから得た情報を組み合わせて用いて、有機防縮剤種を特定する。
【0078】
なお、上記抽出物が複数の有機防縮剤を含む場合、それらの分離は、次のようにして行なう。
【0079】
まず、上記抽出物を、赤外分光、NMR、および/またはGC-MSで測定することにより、複数種の有機防縮剤が含まれているかどうかを判断する。次いで、上記抽出物のGPC分析により分子量分布を測定し、複数種の有機防縮剤が分子量により分離可能であれば、分子量の違いに基づいて、カラムクロマトグラフィーにより有機防縮剤を分離する。
【0080】
分子量の違いによる分離が難しい場合には、有機防縮剤が有する官能基の種類および/または官能基の量により異なる溶解度の違いを利用して、沈殿分離法により一方の有機防縮剤を分離する。例えば、2種の有機防縮剤を含む場合、上記抽出物をNaOH水溶液に溶解させた混合物に、硫酸水溶液を滴下して、混合物のpHを調節することにより、一方の有機防縮剤を凝集させ、分離する。分離物を再度NaOH水溶液に溶解させたものから上記のように不溶成分を濾過により取り除く。また、一方の有機防縮剤を分離した後の残りの溶液を、濃縮する。得られた濃縮物は、他方の有機防縮剤を含んでおり、この濃縮物から上記のように不溶成分を濾過により取り除く。
【0081】
(1-2)負極電極材料中における有機防縮剤の含有量の定量
上記(1-1)と同様に、有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて不溶成分を濾過で取り除いた後の溶液を得る。得られた各溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定する。各有機防縮剤に特徴的なピークの強度と、予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の各有機防縮剤の含有量を求める。
【0082】
なお、有機防縮剤の含有量が未知の鉛蓄電池を入手して有機防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できないことがある。この場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機高分子を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて有機防縮剤の含有量を測定するものとする。
【0083】
(1-3)有機防縮剤中の硫黄元素の含有量
上記(1-1)と同様に、有機防縮剤の粉末試料を得た後、酸素燃焼フラスコ法によって、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素を硫酸に変換する。このとき、吸着液を入れたフラスコ内で粉末試料を燃焼させることで、硫酸イオンが吸着液に溶け込んだ溶出液を得る。次に、トリン(thorin)を指示薬として、溶出液を過塩素酸バリウムで滴定することにより、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(C1)を求める。次に、C1を10倍して1g当たりの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(μmol/g)を算出する。
【0084】
(2)炭素質材料と硫酸バリウムの定量
未粉砕の試料を粉砕し、粉砕された試料10gに対し、20質量%濃度の硝酸を50ml加え、約20分加熱し、鉛成分を硝酸鉛として溶解させる。次に、硝酸鉛を含む溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0085】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルタを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルタを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料である。乾燥後の混合試料とメンブレンフィルタとの合計質量からメンブレンフィルタの質量を差し引いて、混合試料の質量(Mm)を測定する。その後、乾燥後の混合試料をメンブレンフィルタとともに坩堝に入れ、700℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(MB)を求める。質量Mmから質量MBを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
【0086】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。ペースト式正極板では、正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いたものである。正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金と、複数の芯金を連結する集電部と、芯金が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座とを具備する。クラッド式正極板では、正極電極材料は、チューブ、芯金、集電部、および連座を除いたものである。クラッド式正極板では、芯金と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0087】
正極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材)は正極板と一体として使用されるため、正極板に含まれるものとする。また、正極板がこのような部材を含む場合には、正極電極材料は、ペースト式正極板では、正極板から正極集電体および貼付部材を除いたものである。
【0088】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部のみや、耳部分のみ、枠骨部のみに形成されていてもよい。
【0089】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0090】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。
【0091】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0092】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータが配置される。セパレータとしては、不織布および/または微多孔膜などが用いられる。負極板と正極板との間に介在させるセパレータの厚さは極間距離に応じて選択すればよい。セパレータの枚数は極間数に応じて選択すればよい。
【0093】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などのポリエステル繊維など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0094】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤(ポリマー粉末および/またはオイルなど)を含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが好ましい。
【0095】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0096】
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板および負極板の一方と、負極板および正極板の他方とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板や負極板の上部には通常耳部が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0097】
セパレータは、正極板側の第1表面に第1リブを備え、かつ負極板側の第2表面に第2リブを備える。すなわち、セパレータは、ベース部と、ベース部の正極板側の第1表面から突出する第1リブと、ベース部の負極板側の第2表面から突出する第2リブとを有する。ベース部は、セパレータの要部を成す平板状の部分である。各リブの高さとは、ベース部の表面からの高さをいう。よって、ベース部の厚さと、第1リブの高さと、第2リブの高さとの合計がセパレータの総厚である。
【0098】
各リブは、ガス噛みを抑制する効果を高める観点から、例えば、鉛蓄電池の上下方向に沿って一様にライン状に設けられることが望ましい。リブは、セパレータの上端から下端まで連続して、もしくは断続的に形成されていることが望ましいが、セパレータの上端から下端までの距離の例えば80%以上に形成されていれば十分である。なお、本明細書中、鉛蓄電池の上下方向とは鉛直方向を意味する。
【0099】
リブの長さ方向に垂直な断面の形状は、長方形、正方形などの四角形でもよく、台形でもよく、円弧状でもよく、トップが丸められた四角形であってもよい。
【0100】
ベース部の厚さは、セパレータの十分な強度を確保する観点から、例えば0.2mm以上が好ましく、0.3mm以上がより好ましい。また、鉛蓄電池の内部抵抗を低減する観点からは、0.8mm以下が好ましく、0.6mm以下がより好ましい。ベース部の厚さは、ベース部の任意の10箇所において計測した数値を平均化することにより求められる。
【0101】
リブの幅は、例えば0.02mm~2.5mmであればよく、0.04mm~2.0mmもしくは0.04mm~1.5mmであってもよい。また、リブのピッチ(すなわち、互いに最近接する一対のリブにおいて、それぞれのリブの幅方向における中心間の最小距離)は、例えば0.4mm~20mmであればよく、0.6mm~15mmであってもよい。このような形態で各リブを設ける場合、ガス噛みを抑制する効果が極板の全面において一様に得られやすく、かつセパレータの機械的強度が向上するため、リブに潰れが生じにくくなるとともに、セパレータに撓みも生じにくくなる。また、セパレータの抵抗も小さく維持できる。
【0102】
各リブの高さおよび幅は、任意に選択されるリブの任意の10箇所において計測した数値を平均化することにより求められる。同様に、各リブのピッチP、任意に選択される互いに最近接する一対のリブの任意の10箇所の中心間距離を平均化することにより求められる。
【0103】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、ナトリウムイオン、リチウムイオン、マグネシウムイオン、および/またはアルミニウムイオンなどの金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、リン酸イオンなどの硫酸アニオン以外のアニオン)を含んでいてもよい。
【0104】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
【0105】
鉛蓄電池は、電槽に、正極板、負極板、および電解液を収容することにより鉛蓄電池を組み立てる工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の組み立て工程において、セパレータは、通常、正極板と負極板との間に介在するように配置される。鉛蓄電池の組み立て工程は、正極板、負極板、および電解液を電槽に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および/または負極板を化成する工程を含んでもよい。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、電槽に収容される前に準備される。
【0106】
図1は、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池のフタを外した一例を模式的に示す斜視図である。
図2Aは、
図1の鉛蓄電池の正面図であり、
図2Bは、
図2AのIIB-IIB線による矢示断面図である。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽10を具備する。極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。
【0107】
複数の負極板2のそれぞれの上部には、上方に突出する集電用の耳部(図示せず)が設けられている。複数の正極板3のそれぞれの上部にも、上方に突出する集電用の耳部(図示せず)が設けられている。そして、負極板2の耳部同士は負極用ストラップ5aにより連結され一体化されている。同様に、正極板3の耳部同士も正極用ストラップ5bにより連結されて一体化されている。負極用ストラップ5aには負極柱6aが固定され、正極用ストラップ5bには正極柱6bが固定されている。
【0108】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0109】
《鉛蓄電池R1》
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、カーボンブラックと、リグニンスルホン酸ナトリウム(硫黄元素含有量:600μmol/g、Mw=5200)とを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。このとき、いずれも既述の手順で求められる負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量が1.5質量%、カーボンブラックの含有量が0.3質量%、有機防縮剤の含有量が0.1質量%となるように各成分を混合する。負極ペーストを、負極集電体であるPb-Sb合金製の鋳造格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。このとき、化成後の負極電極材料の密度(NAM密度)が3.7g/cm3となるように、負極ペーストの処方を調整する。負極板の高さは278mmとする。
【0110】
(b)正極板の作製
クラッド式正極板を下記の手順で作製する。
まず、耳部を備える集電部に長さ方向の一端部が一体化された複数の芯金をそれぞれ複数のチューブ内に収容する。耳部が露出した状態となるように、集電部とチューブの集電部側の長さ方向の一端部とを樹脂で覆うことにより樹脂製の上部連座を形成する。なお、芯金および集電部の材質は、Pb-Sb系合金である。チューブとしては、ガラス繊維製の多孔質チューブを用いる。
【0111】
鉛粉(酸化鉛80質量%および金属鉛20質量%を含む)と鉛丹と水と希硫酸とを混練することにより調製した正極スラリーを、チューブの長さ方向の他端部の開口から充填する。鉛粉と鉛丹との質量比は、9:1とする。次いで、チューブの他端部の開口を、下部連座で封止し、乾燥させる。このようにして、未化成のクラッド式正極板を作製する。正極板の高さは278mmとする。
【0112】
(c)セパレータ
ポリエチレンとシリカ粒子を含む微多孔膜をセパレータとして準備する。セパレータのベース部の厚さは0.4mmであり、正極板側の第1表面のみに、高さ0.1mmの第1リブを鉛蓄電池の上下方向に沿って設ける。セパレータの総厚は0.5mmである。第1リブの幅は0.8mm、第1リブのピッチは9.0mmである。
【0113】
(d)試験電池の作製
定格電圧2V、定格5時間率容量165Ahの液式電池を作製する。試験電池の極板群は、正極板3枚とこれを挟持する負極板4枚で構成する。正極板と負極板とを、これらの間にセパレータを介在させて積層し、極板群を形成する。極板群をポリエチレン製の電槽に電解液(硫酸水溶液)とともに収容して、蓋をして電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池R1を作製する。化成後の電解液の20℃での比重は1.28である。正極板と負極板との距離は0.6mmである。
【0114】
《鉛蓄電池R2》
負極板の作製において、化成後の負極電極材料の密度が2.9g/cm3となるように、負極ペーストの処方を調整すること以外、電池R1と同様に電池R2を作製する。
【0115】
《鉛蓄電池R3》
負極板の作製において、有機防縮剤として、リグニンスルホン酸の代わりに、以下の縮合物Aを用いること以外、電池R2と同様に電池R3を作製する。
【0116】
縮合物A:スルホン酸基を導入したビスフェノールA化合物とビスフェノールS化合物とのホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:3800μmol/g、Mw=8000)
【0117】
《鉛蓄電池R4》
セパレータとして、ベース部の厚さが0.4mmであり、正極板側の第1表面に高さ0.1mmの第1リブを有し、かつ負極板側の第2表面にも高さ0.1mmの第2リブを有するセパレータ(総厚0.6mm)を用いること以外、電池R2と同様に電池R4を作製する。第2リブの方向、幅、ピッチは第1リブと同様である。正極板と負極板との距離は0.6mmである。
【0118】
《鉛蓄電池E1》
負極板の作製において、有機防縮剤として、リグニンスルホン酸の代わりに電池R3と同じく縮合物Aを用いること以外、電池R4と同様に電池E1を作製する。
【0119】
[評価1]
上記鉛蓄電池の充放電サイクルを10℃±2℃の水槽中で、下記条件で繰り返した。
<試験条件>
放電:定格容量(Ah)として記載の数値の0.25倍の電流(A)で3時間放電する
充電:定格容量(Ah)として記載の数値の0.195倍の電流(A)で放電電気量の130%の電気量を充電する
【0120】
電池R1~R4およびE1のサイクル数と容量維持率との関係を表1に示す。
また、電池R1~R3のサイクル数と容量維持率との関係を
図3に示す。
また、電池R1、R2、R4のサイクル数と容量維持率との関係を
図4に示す。
また、電池R1、R2、E1のサイクル数と容量維持率との関係を
図5に示す。
【0121】
【0122】
表1および
図3において、電池R2の容量維持率は電池R1に比べて顕著に低下している。すなわち、電池R1よりも鉛使用量を削減して負極電極材料の密度を小さくし、活物質の利用率を大きくした電池R2は、容量維持率が著しく低下している。これは、深放電サイクル中に負極電極材料が膨張して脱落するとともに、電極材料の膨張により極間でのガス噛みが顕著になり、成層化が促進されるためと考えられる。
【0123】
また、電池R2におけるリグニンスルホン酸ナトリウムを縮合物Aに変更した電池R3では、100サイクルまでは、電池R2と同等の容量維持率である。これは、負極電極材料があまり膨張していないサイクル初期においては、電池R3でも電池R2と同程度のガス噛みが生じるためである。ただし、有機防縮剤をSAに変更した電池R3では、負極電極材料の膨張が抑制されるため、深放電サイクルが進むにつれて、容量維持率の低下の改善が目立つようになる。換言すれば、負極電極材料の膨張が小さいサイクル初期には容量維持率を改善する効果が見られない。
【0124】
また、表1および
図4において、電池R2におけるセパレータを両面にリブを有するセパレータに変更した電池R4では、極間でのガス噛みが抑制されるため、深放電サイクル初期には容量維持率が改善している。ただし、負極電極材料の膨張は相当に進行するため、深放電サイクルが進むにつれて、リブが潰されてしまい、セパレータの両面にリブを設けたことによるガス噛み抑制の効果は次第に低減する。その結果、300サイクル経過後には電池R1に対する容量維持率の優位性はほとんど得られなくなる。
【0125】
一方、表1および
図5に示すように、有機防縮剤として縮合物Aを用い、かつ両面にリブを有するセパレータを用いた電池E1では、サイクルの初期から300サイクル経過後まで、良好な容量維持率を達成することができる。これは、負極電極材料の膨張が抑えられ、かつセパレータの両面にリブを設けることでガス噛み抑制効果が顕著に発揮されるからであると考えられる。
【0126】
[評価2]
次に、電池R2~R4およびE1の300サイクル時の60℃環境下での自己放電速度(%/day)を求める。60℃環境下での自己放電速度は、下記手順で求める。
(i)放置前の満充電の電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で1.7V/セルに到達するまで放電して、放置前の放電容量C1を測定し、その後、満充電する。
(ii)60℃±2℃の環境下で電池を14日間放置する。
(iii)60℃±2℃の環境下で放置後の電池の放電容量C2を測定し、その後、満充電する。
(iv)再度、満充電の電池を、定格容量(Ah)として記載の数値の0.2倍の電流(A)で1.7V/セルに到達するまで放電して、放電容量C3を測定する。
次式から、一日あたりの自己放電量RSD(%/day)を求める。
RSD=[(C1+C3-2C2)/14(C1+C3)]×100
表2および
図6に、電池構成と自己放電速度との関係を示す。
【0127】
【0128】
表2および
図6は、顕著なガス噛みが生じる電池R2では、自己放電反応が促進されることを示している。自己放電反応は、電解液の比重の上昇により促進される。電解液の比重は、ガス噛みにより、本来補水されるべき量の補水が行われないことで次第に高くなる。このような自己放電は、リグニン以外の有機防縮剤を用いるとともに、両面にリブを有するセパレータを用いる場合(例えば電池E1の場合)にのみ、効果的に抑制される。これは、ガス噛みが低減することで、電解液の比重が上昇しにくくなるためである。
【0129】
[評価3]
下記条件で低温ハイレート放電性能を評価する。
(i)初期の満充電状態の鉛蓄電池を-15℃±2℃で定格容量(Ah)として記載の数値の1倍の電流(A)で放電電圧が1.0V/セルに達するまで放電するときの放電持続時間を測定する。
(ii)10℃±2℃で、定格容量(Ah)として記載の数値の0.25倍の電流(A)で3時間放電後、定格容量(Ah)として記載の数値の0.195倍の電流(A)で5時間充電する深放電サイクルを300サイクル繰り返す。
(iii)300サイクル後の満充電状態の鉛蓄電池を-15℃±2℃で定格容量(Ah)として記載の数値の1倍の電流(A)で放電電圧が1.0V/セルに達するまで放電するときの放電持続時間を測定する。
【0130】
電池R2~R4およびE1の初期および300サイクル時の低温ハイレート(HR)放電性能をR1の初期低温HR放電性能を100としたときの相対値で、表3および
図7に示す。
【0131】
【0132】
《鉛蓄電池R5》
負極板の作製において、有機防縮剤として、リグニンスルホン酸の代わりに縮合物Aを用いること以外、電池R1と同様に電池R5を作製する。
【0133】
《鉛蓄電池R6》
セパレータとして、電池R4と同じく両面にリブを有するセパレータ(総厚0.6mm)を用いること以外、電池R1と同様に電池R6を作製する。
【0134】
《鉛蓄電池R7》
負極板の作製において、有機防縮剤として、リグニンスルホン酸の代わりに縮合物Aを用いること以外、電池R6と同様に電池R7を作製する。
【0135】
評価3の手順で、電池R1およびR5~R7の初期および300サイクル時の低温ハイレート放電性能を測定する。結果を表4および
図8に示す。
【0136】
【0137】
表3、4および
図7、8より、300サイクル時の低温ハイレート(HR)放電性能の改善の程度は、負極電極材料密度を小さくした場合に顕著になることが理解できる。具体的には、表3に示すように、負極電極材料密度が2.9g/cm
3の場合、電池R2に対する電池E1の初期に対する300サイクル時の低下率の改善幅は22%(38%-16%)である。一方、表4に示すように、負極電極材料密度が3.7g/cm
3の場合、電池R1に対する電池R7の低下率の改善幅は15%(30%-15%)である。このような相違は、両面にリブを有するセパレータによるガス噛みの低減で、放電に寄与できる有効極板面積が大きくなることと関連するものと考えられる。なお、ガス噛み量は300サイクル時には飽和する。
【0138】
《鉛蓄電池E2~E4》
負極板の作製において、化成後の負極電極材料(NAM)の密度が表5に示す値となるように、負極ペーストの処方を調整すること以外、電池E1と同様に電池E2~E4を作製する。また、評価2の手順で、電池E2~E4の初期および300サイクル時の低温ハイレート放電性能を測定し、初期に対する300サイクル時の低温ハイレート放電性能の低下率の改善幅(リグニンを用い、片面のみにリブを有するセパレータを用いた場合に対する改善幅)を、電池R2に対する電池E1の改善幅と同様に求める。結果を表5および
図9に示す。
【0139】
【0140】
表5および
図9から理解されるように、初期に対する300サイクル時の低温ハイレート放電性能の低下率の改善幅は、負極電極材料密度が3.5g/cm
3以下の場合に大きくなる。一方、負極電極材料密度を削減しない場合、すなわち標準密度(3.7g/cm
3)の場合には、縮合物Aと両面にリブを有するセパレータとを組み合わせた場合でも、低下率の改善幅は不十分である。
【0141】
《鉛蓄電池E11~E17》
負極電極材料中の縮合物Aの含有量が表6Aに示す値となるように各成分を混合すること以外、電池E1と同様に、電池E11~E17を作製し、評価1の手順で、300サイクル時の容量維持率を測定する。結果を表6Aおよび
図10に示す
【0142】
《鉛蓄電池E21~E28》
負極電極材料中の有機防縮剤として、縮合物Aの代わりに下記の縮合物Bを用い、その含有量が表6Bに示す値となるように各成分を混合すること以外、電池E1、E11~E17と同様に、電池E21~E28を作製し、評価1の手順で、300サイクル時の容量維持率を測定する。結果を表6Bおよび
図10に示す。
【0143】
縮合物B:ビスフェノールS化合物とフェノールスルホン酸とのホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:4000μmol/g、Mw=8000)
【0144】
《鉛蓄電池E31~E38》
負極電極材料中の有機防縮剤として、縮合物Aの代わりに下記の縮合物Cを用い、その含有量が表6Cに示す値となるように各成分を混合すること以外、電池E1、E11~E17と同様に、電池E31~E38を作製し、評価1の手順で、300サイクル時の容量維持率を測定する。結果を表6Cおよび
図10に示す。
【0145】
縮合物C:スルホン酸基を導入したビスフェノールA化合物とフェノールスルホン酸とのホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:3970μmol/g、Mw=8000)
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
次に、電池E1、E11~E17の初期容量を表7および
図11に示す。初期容量は電池E12を100%とした場合の相対値である。
【表7】
【0150】
表6Aおよび
図10に示すように、有機防縮剤による容量維持率の改善効果は、有機防縮剤の含有量が多いほど大きくなる傾向がある。一方、表7および
図11に示すように、より高い初期容量を確保する観点からは、負極電極材料中の有機防縮剤の含有量を0.03~0.3質量%とすることが望ましいといえる。
【0151】
《鉛蓄電池R8~R12》
正極板および負極板の高さを表8に示すように変更し、極板の高さに合わせて設計変更を行ったこと以外、電池R1と同様に電池R8~R12を作製する。電池R1、R8~R12の有効極板面積を以下の要領で決定する。
【0152】
[評価4]
(有効極板面積)
上記鉛蓄電池の充放電サイクルを10℃±2℃の温度下で、下記条件で200サイクル繰り返す。ガス噛み量は200サイクル程度で安定し、それ以上は大きく増加することはない。
放電:定格容量(Ah)として記載の数値の0.25倍の電流(A)で3時間(DOD75%まで)放電する
充電:定格容量(Ah)として記載の数値の0.195倍の電流(A)で放電電気量の130%の電気量を充電する
200サイクルの充放電の経過後に、電池を放電状態で解体する。ガスが滞留していた部分は未反応のまま残るため、負極板の有効部分とは異なり金属光沢が見られる。この金属光沢のある部分の面積を求め、実際の負極板の面積(極板の高さ×幅)から引くことで、有効極板面積を算出する。
【0153】
表8および
図12に、極板の高さHと、200サイクル目の有効極板面積S´と、実際の極板面積S(極板の高さ×幅)との関係を示す。
【0154】
【0155】
表8および
図12より、極板の高さが高くなるほどガス噛み量が増加し、有効極板面積S´と、実際の極板面積Sとの間に大きな差が生じることが理解できる。また、極板の高さが115mm(つまり160mm以下)の電池R1では、極板の高さが低いため、ガス噛み量が少なく、放置によりガス抜けするため、有効極板面積S´と実際の極板面積との差は極僅かである。
【0156】
《鉛蓄電池R13》
ベース部の厚さが0.4mmであり、負極板側の第2表面のみに、高さ0.1mmの第1リブを設けること以外、電池R1と同様に電池R13を作製する。
【0157】
表9および
図13に、電池R1、R7およびR13の100サイクル目および200サイクル目の容量維持率を対比して示す。
【0158】
【0159】
表9および
図13より、セパレータが正極板側のみに第1リブを有する電池R1の場合、サイクルの経過に伴いガス噛みが顕著になり、有効極板面積S´が減少し、容量維持率が顕著に低下することが理解できる。また、セパレータが負極板側のみに第2リブを有する電池R13の場合、100サイクル目まではガス噛みが改善されて容量維持率が改善されるが、200サイクル目には容量維持率が顕著に低下することが理解できる。これは、負極の膨張によりリブ潰れることでガス噛みが生じてしまうためである。一方、セパレータが両面にリブを有する電池R7の場合、200サイクル経過後もガス噛みが改善され、優れた容量維持率が達成されている。これは、両面にリブが存在することで、セパレータの強度が高くなり、リブが潰れにくくなるためと考えられる。
【0160】
《鉛蓄電池R14~R18》
ベース部の厚さが0.4mmであり、第1表面および第2表面の両方にそれぞれ高さ0.1mmの第1リブおよび第2リブを設け、正極板と負極板との距離を0.6mmとすること以外、電池R1、R9~R12と同様に電池R14~R18を作製し、評価1の手順で、200サイクル目の容量維持率を測定する。
【0161】
表10に、電池14~R18の200サイクル目の容量維持率を対比して示す。
図14に、極板の高さと200サイクル目の容量維持率との関係を示す。
【0162】
【0163】
《鉛蓄電池R19~R21》
ベース部の厚さが0.4mmであり、第1表面および第2表面の両方にそれぞれ高さ0.1mmの第1リブおよび第2リブを設けること以外、電池R8(片面リブ)と同様に電池R19(両面リブ)を作製する。また、極板の高さを140mmにすること以外、電池R8(片面リブ)と同様に電池R20を、R19と同様に電池R21(両面リブ)を作製する。電池R19~R21の200サイクル目の容量維持率を、表1の手順で測定し、セパレータが正極板側のみに第1リブを有する場合に対する両面に第1リブおよび第2リブを有する場合の容量維持率の改善幅を求める。
表11および
図15に、極板の高さと容量維持率の改善幅との関係を対比して示す。
【0164】
【0165】
表11および
図15より、セパレータの両面に第1リブおよび第2リブを設けた電池は、正極板側のみに第1リブを設けた電池に比べて200サイクル目の容量維持率が顕著に改善され、その改善幅は極板の高さが高いほど顕著になることが理解できる。
【0166】
[評価5]
表12および
図16に、負極板の上部、中部および下部に蓄積する硫酸鉛量と極板の高さとの関係を対比して示す。
【0167】
硫酸鉛量は、評価1の上面で充放電サイクルを600サイクル繰り返した後、セルを分解し、負極板を取り出して上下方向に3等分し、各部の中央部から20g程度を採取して混合し、負極電極材料の試料とする。水洗乾燥した試料を粉砕し、高温で燃焼させる。負極電極材料に含まれる硫黄はガス化されて二酸化硫黄を生成する。赤外線検出器を用いて二酸化硫黄のガス濃度を測定し、試料に含まれる硫黄量を求める。試料に含まれる鉛原子の全量に対する硫酸鉛を形成している鉛原子量の割合を求める。
【0168】
【0169】
表12および
図16より、セパレータの両面に第1リブおよび第2リブを設けた電池は、正極板側のみに第1リブを設けた電池に比べて、負極板における硫酸鉛の蓄積が抑制されていることが理解できる。これは、ガス噛みの改善によりガス発生時に電解液が循環しやすくなり、充放電反応が均一化され、成層化が起こりにくくなるためと理解できる。
【0170】
《鉛蓄電池R22~R29》
正極板と負極板との距離(極間距離)を表13に示すように変化させたこと以外、極板の高さが278mmである電池R1と同様に、電池R22~R29を作製し、評価4の手順で、ガス噛み量を測定する。
【0171】
極間距離が0.6mmの場合(電池R1)を100%としてガス噛み量を相対値で表13に示す。また、
図17に、極間距離とガス噛み量との関係を示す。
【0172】
【0173】
《鉛蓄電池R30~R37》
極間距離を表14に示すように変化させたこと以外、極板の高さが115mmである電池R8と同様に、電池R30~R37を作製し、評価4の手順で、ガス噛み量を測定する。
【0174】
電池R1を100%としてガス噛み量を相対値で表14に示す。また、
図18に、極間距離とガス噛み量との関係を示す。
【0175】
【0176】
《鉛蓄電池R38~R45》
極間距離を表15に示すように変化させたこと以外、極板の高さが384mmである電池R12と同様に、電池R38~R45を作製し、評価1の手順で、ガス噛み量を測定する。
【0177】
電池R1を100%としてガス噛み量を相対値で表15に示す。また、
図19に、極間距離とガス噛み量との関係を示す。
【0178】
【0179】
表13~15および
図17~19より、極間距離が1.3mmより小さくなると、極板の高さが160mm以上である場合には、ガスが急激に噛みやすくなることが理解できる。この傾向は極板の高さが大きいほど顕著である。これに対し、両面にリブを有するセパレータを用いる場合には、極板の高さが160mm以上である場合でもガス噛みが顕著に改善する。
【0180】
電池R1およびR16について、ガス噛み量を対比した結果を表16に示す。電池R1の場合を100%としてガス噛み量を相対値で表16に示す。
【0181】
【0182】
表16より、セパレータの両面にリブを設ける場合、ガス噛みを抑制する観点からは、リブの高さは0.1mm以上であれば十分であることが理解できる。
【0183】
《鉛蓄電池R46~R48》
正極板と負極板との距離(極間距離)を表17に示すように変化させたこと以外、極板の高さが278mmである電池R16と同様に、電池E46~R48を作製する。また、評価3の手順で、低温ハイレート放電性能を求める。
【0184】
極間距離と、低温ハイレート放電性能との関係を表17に示す。また、
図20に、極間距離と低温ハイレート放電性能との関係を示す。
【0185】
【0186】
表17および
図20より、極間距離が1.3mmを超えると、低温ハイレート放電性能が低下することが理解できる。これは、極間距離を1.3mm以上に広げることでガス噛みは改善されるものの、300サイクルを経過すると、極間距離が大きいことにより、正極電極材料の脱落が促進されるためであると考えられる。
【0187】
《鉛蓄電池R49~R51》
負極板の作製において、有機防縮剤としてリグニンスルホン酸ナトリウムの代わりに縮合物Aを用いるとともに、化成後の負極電極材料の密度を2.9g/cm3に変更すること以外、電池R9、R1およびR12と同様に電池R49、R50、R51を作製する。
【0188】
縮合物A:スルホン酸基を導入したビスフェノールA化合物とビスフェノールS化合物とのホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:3800μmol/g、Mw=8000)
【0189】
表18および
図21に、縮合物Aを用いた極板の高さHと、200サイクル目の有効極板面積S´と、実際の極板面積S(極板の高さ×幅)との関係を示す。
【0190】
【0191】
表18および
図21より、極板の高さが高くなるほどガス噛み量が増加し、有効極板面積S´と、実際の極板面積Sとの間に大きな差が生じることが理解できる。
【0192】
《鉛蓄電池E39~E41》
負極板の作製において、有機防縮剤としてリグニンスルホン酸ナトリウムの代わりに縮合物Aを用いるとともに、化成後の負極電極材料の密度を2.9g/cm3に変更すること以外、電池R14、R16およびR18と同様に電池E39、E40、E41を作製する。
【0193】
表19に、電池R49、50、51および電池E39、E40、E41の200サイクル目の容量維持率を対比して示す。
【0194】
【0195】
図22に、縮合物Aを用いた極板の高さと200サイクル目の容量維持率との関係を示す。
図23に、縮合物Aを用いた極板の高さと両面リブによる容量維持率の改善幅との関係を対比して示す。
図22、23より、セパレータの両面に第1リブおよび第2リブを設けた電池は、正極板側のみに第1リブを設けた電池に比べて200サイクル目の容量維持率が顕著に改善され、その改善幅は極板の高さが高いほど顕著になることが理解できる。
【0196】
《鉛蓄電池R52~R54》
負極板の作製において、有機防縮剤としてリグニンスルホン酸ナトリウムの代わりに縮合物Bを用いるとともに、化成後の負極電極材料の密度を2.9g/cm3に変更すること以外、電池R9、R1およびR12と同様に電池R52、R53、R54を作製する。
【0197】
縮合物B:ビスフェノールS化合物とフェノールスルホン酸とのホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:4000μmol/g、Mw=8000)
【0198】
表20および
図24に、縮合物Bを用いた極板の高さHと、200サイクル目の有効極板面積S´と、実際の極板面積S(極板の高さ×幅)との関係を示す。
【0199】
【0200】
表20および
図24より、極板の高さが高くなるほどガス噛み量が増加し、有効極板面積S´と、実際の極板面積Sとの間に大きな差が生じることが理解できる。
【0201】
《鉛蓄電池E42~E44》
負極板の作製において、有機防縮剤としてリグニンスルホン酸ナトリウムの代わりに縮合物Bを用いるとともに、化成後の負極電極材料の密度を2.9g/cm3に変更すること以外、電池R14、R16およびR18と同様に電池E42、E43、E44を作製する。
【0202】
表21に、電池R52、53、54および電池E42、E43、E44の200サイクル目の容量維持率を対比して示す。
【0203】
【0204】
図25に、縮合物Bを用いた極板の高さと200サイクル目の容量維持率との関係を示す。
図26に、縮合物Bを用いた極板の高さと両面リブによる容量維持率の改善幅との関係を対比して示す。
図25、26より、セパレータの両面に第1リブおよび第2リブを設けた電池は、正極板側のみに第1リブを設けた電池に比べて200サイクル目の容量維持率が顕著に改善され、その改善幅は極板の高さが高いほど顕著になることが理解できる。
【0205】
《鉛蓄電池R55~R57》
負極板の作製において、有機防縮剤としてリグニンスルホン酸ナトリウムの代わりに縮合物Cを用いるとともに、化成後の負極電極材料の密度を2.9g/cm3に変更すること以外、電池R9、R1およびR12と同様に電池R55、R56、R57を作製する。
【0206】
縮合物C:スルホン酸基を導入したビスフェノールA化合物とフェノールスルホン酸とのホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量:3970μmol/g、Mw=8000)
【0207】
表22および
図27に、縮合物Cを用いた極板の高さHと、200サイクル目の有効極板面積S´と、実際の極板面積S(極板の高さ×幅)との関係を示す。
【0208】
【0209】
表22および
図27より、極板の高さが高くなるほどガス噛み量が増加し、有効極板面積S´と、実際の極板面積Sとの間に大きな差が生じることが理解できる。
【0210】
《鉛蓄電池E45~E47》
負極板の作製において、有機防縮剤としてリグニンスルホン酸ナトリウムの代わりに縮合物Cを用いるとともに、化成後の負極電極材料の密度を2.9g/cm3に変更すること以外、電池R14、R16およびR18と同様に電池E45、E46、E47を作製する。
【0211】
表23に、電池R55、56、57および電池E45、E46、E47の200サイクル目の容量維持率を対比して示す。
【0212】
【0213】
図28に、縮合物Cを用いた極板の高さと200サイクル目の容量維持率との関係を示す。
図29に、縮合物Cを用いた極板の高さと両面リブによる容量維持率の改善幅との関係を対比して示す。
図28、29より、セパレータの両面に第1リブおよび第2リブを設けた電池は、正極板側のみに第1リブを設けた電池に比べて200サイクル目の容量維持率が顕著に改善され、その改善幅は極板の高さが高いほど顕著になることが理解できる。
【0214】
《鉛蓄電池R58~R61》
極間距離を表24に示すように変化させ、負極板の作製において有機防縮剤としてリグニンスルホン酸ナトリウムの代わりに縮合物Aを用いるとともに、化成後の負極電極材料の密度を2.9g/cm3に変更すること以外、極板の高さが278mmである電池R1と同様に、電池R58~R61を作製し、評価1の手順で、ガス噛み量を測定する。
【0215】
極間距離が0.6mmの電池R1を100%としてガス噛み量を相対値で表24に示す。また、
図30に、縮合物Aを用いた極板の高さが278mmである場合の極間距離とガス噛み量との関係を■プロットで示す。図中、○プロットは、表13のR1、R22~R29のプロットである。
【0216】
【0217】
表24および
図30より、極間距離が1.3mmより小さくなると、縮合物を用いた場合でもガス噛みが顕著になることが理解できる。つまり、有機防縮剤として縮合物を用いるだけではガス噛みを解消できず、両面にリブを有するセパレータを用いる必要があることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0218】
本発明に係る鉛蓄電池は、主に液式の鉛蓄電池に適し、自動車、バイクなどの始動用電源や、フォークリフトなどの電気車もしくは電動車両などの産業用蓄電装置などの電源として好適である。
【符号の説明】
【0219】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5a:負極用ストラップ
5b:正極用ストラップ
6a:負極柱
6b:正極柱
10:電槽
11:極板群