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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】車両のトラクション制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/175 20060101AFI20240123BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20240123BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20240123BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B60T8/175
B60W30/02 300
F02D29/02 311A
B60T8/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019232829
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021100834
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】廣田 篤人
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-189222(JP,A)
【文献】特開平03-227763(JP,A)
【文献】特開平03-092462(JP,A)
【文献】特開昭64-044368(JP,A)
【文献】特開昭63-162359(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/175
B60W 30/02
F02D 29/02
B60T 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と、前記動力源から出力される駆動力により駆動される左駆動輪及び右駆動輪と、前記駆動力を前記左駆動輪及び前記右駆動輪に分配するデファレンシャルと、前記左駆動輪及び前記右駆動輪に付与する制動力を調整する制動装置と、を備える車両に適用され、
前記左駆動輪及び前記右駆動輪の一方の駆動輪である第1駆動輪の加速スリップ状態量が、通常の加速スリップの発生を判定する判定値である第1スリップ判定値よりも大きい場合に、前記第1駆動輪に制動力を付与することにより、前記第1駆動輪の加速スリップを抑制する制動力付与処理を実施する制動制御部を備え、
前記制動制御部は、前記制動力付与処理の実施中において、前記左駆動輪及び前記右駆動輪の他方の駆動輪である第2駆動輪の加速スリップ状態量が、微少な加速スリップの発生を判定する判定値であって前記第1スリップ判定値よりも小さい第2スリップ判定値を超えた場合、前記第1駆動輪に付与する制動力を減少させる
車両のトラクション制御装置。
【請求項2】
前記制動制御部は、前記制動力付与処理の実施中において、前記第2駆動輪の加速スリップ状態量が前記第2スリップ判定値を超えたことに起因して前記第1駆動輪に付与する制動力を減少させる場合、当該制動力の減少量を前記第2駆動輪の加速スリップ状態量が大きいほど多くする
請求項1に記載の車両のトラクション制御装置。
【請求項3】
前記制動制御部は、
両が旋回中の場合には車両が直進中の場合よりも前記第2スリップ判定値を小さくする
請求項1又は請求項2に記載の車両のトラクション制御装置。
【請求項4】
動力源と、前記動力源から出力される駆動力により駆動される左駆動輪及び右駆動輪と、前記駆動力を前記左駆動輪及び前記右駆動輪に分配するデファレンシャルと、前記左駆動輪及び前記右駆動輪に付与する制動力を調整する制動装置と、を備える車両に適用され、
前記左駆動輪及び前記右駆動輪の一方の駆動輪である第1駆動輪に加速スリップが発生したときに、前記第1駆動輪に制動力を付与することにより、前記第1駆動輪の加速スリップを抑制する制動力付与処理を実施する制動制御部と、
前記左駆動輪及び前記右駆動輪のうちの少なくとも一方の駆動輪で加速スリップが発生したときに、前記駆動力を調整する駆動力調整処理を実施する駆動制御部と、を備え、
前記制動制御部は、前記制動力付与処理の実施中において、前記左駆動輪及び前記右駆動輪の他方の駆動輪である第2駆動輪の加速スリップ状態量が増大する場合、前記第1駆動輪に付与する制動力を減少させるようになっており、
前記駆動力調整処理は、前記駆動力を前記動力源に対する要求駆動力未満に減少させる第1駆動力調整処理と、前記第1駆動力調整処理の実施後において前記駆動力を前記要求駆動力に向けて増大させる第2駆動力調整処理と、を含み、
前記駆動制御部は、前記第2駆動力調整処理の実施中において、前記第2駆動輪の加速スリップ状態量が増大する場合、前記駆動力の増大を制限する
車両のトラクション制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のトラクション制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、右駆動輪及び左駆動輪の少なくとも一方の駆動輪に加速スリップが発生した場合に、加速スリップの発生した駆動輪に制動力を付与することにより当該駆動輪の加速スリップを抑制するトラクション制御を実施する車両のトラクション制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-133054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の走行条件によっては、右駆動輪及び左駆動輪のうち、一方の駆動輪に加速スリップが発生し、他方の駆動輪に加速スリップが発生しない状況がある。この状況において、上記のようなトラクション制御が実施されると、加速スリップの発生した一方の駆動輪には制動力が付与され、加速スリップの発生していない他方の駆動輪には制動力が付与されない。そして、この場合に、他方の駆動輪に伝達される駆動力が増大すると、他方の駆動輪のスリップ量が増大し始めるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する車両のトラクション制御装置は、動力源と、前記動力源から出力される駆動力により駆動される左駆動輪及び右駆動輪と、前記駆動力を前記左駆動輪及び前記右駆動輪に分配するデファレンシャルと、前記左駆動輪及び前記右駆動輪に付与する制動力を調整する制動装置と、を備える車両に適用される。車両のトラクション制御装置は、前記左駆動輪及び前記右駆動輪の一方の駆動輪である第1駆動輪に加速スリップが発生したときに、前記第1駆動輪に制動力を付与することにより、前記第1駆動輪の加速スリップを抑制する制動力付与処理を実施する制動制御部を備える。前記制動制御部は、前記制動力付与処理の実施中において、前記左駆動輪及び前記右駆動輪の他方の駆動輪である第2駆動輪の加速スリップ状態量が増大する場合、前記第1駆動輪に付与する制動力を減少させる。
【0006】
上記車両のトラクション制御装置は、制動力付与処理において、第2駆動輪の加速スリップ状態量が増大する場合、第2駆動輪に作用する摩擦力が第2駆動輪の摩擦円を超えた可能性があるため、第1駆動輪に付与する制動力を減少させる。すると、デファレンシャルの特性により、デファレンシャルに伝達される駆動力の第1駆動輪に対する分配率が多くなり、同駆動力の第2駆動輪に対する分配率が少なくなる。これにより、第2駆動輪に作用する摩擦力が第2駆動輪の摩擦円を越えることを抑制できるため、第2駆動輪に加速スリップが発生することを抑制できる。したがって、車両のトラクション制御装置によれば、デファレンシャルを介して連結される2つの駆動輪のうち、摩擦円の大きい方の駆動輪の加速スリップの発生を、当該駆動輪に対する制動力を増大させることなく抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】一実施形態に係る車両のトラクション制御装置を備える車両の概略を示す構成図。
図2】上記トラクション制御装置が適用される制動装置の概略を示す構成図。
図3】上記トラクション制御装置がトラクション制御のために実施する処理の流れを示すフローチャート。
図4】上記トラクション制御装置がトラクション制御中に制動力及び駆動力を補正するために実施する処理の流れを示すフローチャート。
図5】(a),(b),(c)は、トラクション制御中の車輪速度、制動力及び駆動力の推移を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、一実施形態に係る車両のトラクション制御装置について図面を参照しつつ説明する。
図1には、本実施形態のトラクション制御装置100を備える車両が図示されている。図1に示すように、車両には、右前輪FR、左前輪FL、右後輪RR及び左後輪RLが設けられている。この車両は、全ての車輪FR,FL,RR,RLに駆動力DPを伝達可能に構成された、いわゆる四輪駆動車である。
【0009】
この車両では、内燃機関などの動力源11から出力された駆動力DPが、変速機12を介してトランスファ装置13に入力される。トランスファ装置13は、センタデファレンシャル14と、ロック機構15と、を有している。また、トランスファ装置13には、フロントプロペラシャフト16を介してフロントデファレンシャル17が連結されているとともに、リアプロペラシャフト18を介してリヤデファレンシャル19が連結されている。
【0010】
トランスファ装置13に入力された駆動力DPは、センタデファレンシャル14によってフロントデファレンシャル17とリヤデファレンシャル19とに分配される。そして、フロントデファレンシャル17に入力された駆動力DPは、フロントデファレンシャル17によって右前輪FRと左前輪FLとに分配される。同様に、リヤデファレンシャル19に入力された駆動力DPは、リヤデファレンシャル19によって右後輪RRと左後輪RLとに分配される。
【0011】
つまり、右前輪FR及び左後輪RLは、フロントデファレンシャル17を介して駆動力DPが分配される「右駆動輪」及び「左駆動輪」の一例に相当し、右後輪RR及び左後輪RLは、リヤデファレンシャル19を介して駆動力DPが分配される「右駆動輪」及び「左駆動輪」の一例に相当する。
【0012】
なお、トランスファ装置13においてセンタデファレンシャル14がロック機構15によってロックされている場合、トランスファ装置13からフロントデファレンシャル17側に分配される駆動力DPと、トランスファ装置13からリヤデファレンシャル19側に分配される駆動力DPとの比率は、車両の諸元から定まる値で保持される。
【0013】
車両には、車輪FR,FL,RR,RLに対して個別に制動機構30a,30b,30c,30dが設けられている。これら制動機構30a~30dは、ホイールシリンダ31a,31b,31c,31d内の液圧であるWC圧Pwcが高いほど車輪FR,FL,RR,RLと一体回転する回転体32に摩擦材33を押し付ける力が大きくなるように構成されている。そして、回転体32に摩擦材33を押し付ける力が大きいほど、車輪FR,FL,RR,RLに付与する制動力BPを大きくすることができる。
【0014】
制動装置40の液圧発生装置41には、ブレーキペダルなどの制動操作部材43の操作量に応じた液圧が内部で発生するマスタシリンダ42が設けられている。マスタシリンダ42内の液圧のことを「MC圧Pmc」ともいう。
【0015】
制動装置40の制動アクチュエータ50には、第1の液圧回路511と、第2の液圧回路512と、が設けられている。第1の液圧回路511には、右前輪FR用のホイールシリンダ31aと、左後輪RL用のホイールシリンダ31dと、が接続されている。また、第2の液圧回路512には、左前輪FL用のホイールシリンダ31bと、右後輪RR用のホイールシリンダ31cと、が接続されている。
【0016】
図2に示すように、第1の液圧回路511には、マスタシリンダ42とホイールシリンダ31a,31dとの間に配置されている差圧調整弁521と、差圧調整弁521とホイールシリンダ31a,31dとの間の液路にブレーキ液を吐出するポンプ531とが設けられている。このポンプ531は、電動モータ55の駆動に基づいて作動するものであり、マスタシリンダ42内及び後述するリザーバ591内からブレーキ液を汲み上げる。そして、ポンプ531及び差圧調整弁521を作動させることにより、差圧調整弁521よりもマスタシリンダ42側と差圧調整弁521よりもホイールシリンダ31a,31d側との差圧が調整される。
【0017】
第1の液圧回路511には、複数のホイールシリンダ31a,31dに個別対応する複数のホイール側調整機構56a,56dが設けられている。ホイール側調整機構56aは右前輪FR用のホイールシリンダ31aに対応しており、ホイール側調整機構56dは左後輪RL用のホイールシリンダ31dに対応している。ホイール側調整機構56a,56dは、WC圧Pwcの増大を規制する際に閉弁される保持弁57a,57dと、WC圧Pwcを減少させる際に開弁される減圧弁58a,58dと、をそれぞれ有している。保持弁57a,57dは、差圧調整弁521とホイールシリンダ31a,31dとの間の液路にそれぞれ配置されている。差圧調整弁521と保持弁57a,57dとの間の液路には、ポンプ531からブレーキ液が吐出される。そのため、共通調整機構541の作動によって上記差圧を発生させつつ保持弁57a,57dの開度を調整することにより、ホイールシリンダ31a,31d内のWC圧Pwcを、マスタシリンダ42内のMC圧Pmcと上記差圧との和よりも小さくすることが可能である。
【0018】
また、減圧弁58a,58dは、ホイールシリンダ31a,31dとリザーバ591とを繋ぐ液路にそれぞれ配置されている。減圧弁58a,58dが開弁されると、ホイールシリンダ31a,31d内のブレーキ液がリザーバ591側に流出するため、ホイールシリンダ31a,31d内のWC圧Pwcを減少させることができる。
【0019】
なお、第2の液圧回路512の構造は、第1の液圧回路511の構造とほぼ同一である。すなわち、第2の液圧回路512には、共通調整機構542と、各ホイールシリンダ31b,31cと同数のホイール側調整機構56b,56cと、リザーバ592とが設けられている。共通調整機構542は、差圧調整弁522と、電動モータ55を動力源とするポンプ532とを有している。ホイール側調整機構56bは左前輪FL用のホイールシリンダ31bに対応しているとともに、ホイール側調整機構56cは右後輪RR用のホイールシリンダ31cに対応している。そして、ホイール側調整機構56b,56cは、保持弁57b,57cと、減圧弁58b,58cと、をそれぞれ有している。
【0020】
図1に示すように、トラクション制御装置100は、互いに各種の情報の送受信が可能な制動制御装置70及び駆動制御装置80を有している。
図1に示すように、制動制御装置70には、車輪FR,FL,RR,RLと同数の車輪速度センサ91a,91b,91c,91d及び操舵角センサ92などの各種のセンサから信号が入力される。車輪速度センサ91a~91dは、対応する車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを検出する。操舵角センサ92は、車両のステアリングホイール61の操舵角STRを検出する。そして、制動制御装置70は、各種のセンサ91a~91d,92からの入力信号及び駆動制御装置80から受信した情報などを基に、制動アクチュエータ50を制御する。
【0021】
駆動制御装置80には、アクセルペダルなどのアクセル操作部材62の操作量を検出するアクセル開度センサ93から信号が入力される。駆動制御装置80は、運転者のアクセル操作部材62の操作量に基づいて、運転者が車両に要求する要求駆動力DPRを算出する。なお、車両が自動運転車両であれば、要求駆動力DPRは、予め設定される走行条件等に基づいて算出される。そして、駆動制御装置80は、動力源11、変速機12及びトランスファ装置13を制御する。例えば、駆動制御装置80は、動力源11から出力される駆動力DPが要求駆動力DPRとなるように動力源11を制御する。
【0022】
続いて、制動制御装置70が実施するトラクション制御の内容について説明する。
図1に示すように、制動制御装置70は、車両の走行時における加速性を確保しつつ、車輪FR,FL,RR,RLの加速スリップを抑制するための機能部として、スリップ量Slpを算出するスリップ算出部71と、制動力BPの調整によりトラクション制御を実施する制動制御部72と、を有する。
【0023】
スリップ算出部71は、車輪FR,FL,RR,RLのスリップ量Slpを算出する。スリップ量Slpは、車輪FR,FL,RR,RLの加速スリップの度合いを表す値であり、加速スリップの度合いが大きいほど大きい値となる。本実施形態において、スリップ量Slpは「加速スリップ状態量」の一例である。
【0024】
制動制御部72は、左駆動輪及び右駆動輪の一方の駆動輪に加速スリップが発生したときに、加速スリップの発生した駆動輪に制動力BPを付与することにより、当該駆動輪の加速スリップを抑制する制動力付与処理を実施する。詳しくは、制動制御部72は、駆動輪のスリップ量Slpが第1スリップ判定値SlpTh1以上となる場合に、制動力付与処理を実施する。加速スリップが発生した駆動輪に付与する制動力BP、すなわち、WC圧の目標値は、加速スリップが発生した駆動輪のスリップ量Slpが大きいほど大きくなるように算出される。そして、制動制御部72は、WC圧の目標値に従って、制動アクチュエータ50を制御する。
【0025】
ここで、デファレンシャルを介して連結される2つの駆動輪のうち、一方の駆動輪の摩擦円が他方の駆動輪の摩擦円よりも小さい場合、一方の駆動輪だけに加速スリップが発生することがある。右駆動輪及び左駆動輪の摩擦円の大きさが異なる場合としては、例えば、右駆動輪及び路面の間の摩擦係数と左駆動輪及び路面の間の摩擦係数とに差が生じている場合及び右駆動輪の路面に対する接地荷重と左駆動輪の路面に対する接地荷重とに差が生じている場合がある。
【0026】
以降の説明では、右駆動輪及び左駆動輪のうち、相対的に摩擦円が小さい駆動輪を「第1駆動輪」とし、相対的に摩擦円が大きい駆動輪を「第2駆動輪」とする。例えば、右駆動輪の摩擦円が左駆動輪の摩擦円よりも大きい場合、左駆動輪が「第1駆動輪」となり、右駆動輪が「第2駆動輪」となる。反対に、左駆動輪の摩擦円が右駆動輪の摩擦円よりも大きい場合、右駆動輪が「第1駆動輪」となり、左駆動輪が「第2駆動輪」となる。
【0027】
上述した制動力付与処理において、加速スリップが発生した第1駆動輪に制動力BPを付与すると、デファレンシャルの特性により、第1駆動輪に対する駆動力DPの分配率が小さくなるとともに、第2駆動輪に対する駆動力DPの分配率が大きくなる。また、要求駆動力DPRの増大により、動力源11からデファレンシャルに伝達される駆動力DPが増大すると、第2駆動輪に伝達される駆動力DPが増大する。こうして、第2駆動輪に伝達される駆動力DPが増大すると、第2駆動輪に作用する摩擦力が第2駆動輪の摩擦円を超える可能性がある。つまり、第1駆動輪の加速スリップを抑制する制動力付与処理の実施中に、第2駆動輪のスリップ量Slp2が増大する可能性がある。
【0028】
そこで、制動制御部72は、制動力付与処理において、第2駆動輪のスリップ量Slp2が増大する場合には、第2駆動輪で微少な加速スリップが発生していると判断できるため、第1駆動輪に付与する制動力BPを減少させる。詳しくは、制動制御部72は、制動力付与処理において、第2駆動輪のスリップ量Slp2が「スリップ判定値」の一例としての第2スリップ判定値SlpTh2以上となる場合に、第1駆動輪に付与する制動力BPを減少させる。こうして、制動制御部72は、第2駆動輪に対する駆動力DPの分配率を小さくし、第2駆動輪の加速スリップを抑制する。
【0029】
さらに、制動制御部72は、制動力付与処理の実施中において、第2駆動輪のスリップ量Slp2の増大に起因して第1駆動輪に付与する制動力BPを減少させる場合、第1駆動輪に付与する制動力BPの減少量を第2駆動輪のスリップ量Slp2が大きいほど多くする。例えば、制動力付与処理において、第1駆動輪に付与する第1駆動輪のスリップ量Slp1に応じた制動力BPを「基準制動力」とし、第2駆動輪のスリップ量Slp2と第2スリップ判定値SlpTh2との差分に補正係数Kを乗じた値を「補正制動力」とする。この場合、第1駆動輪に付与する制動力BPは、基準制動力から補正制動力を差し引いた値とすることが好ましい。つまり、制動力付与処理の実施中において、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2以上となる状況では、第2駆動輪のスリップ量Slp2の増大に伴って第1駆動輪に付与する制動力BPが減少し、第2駆動輪のスリップ量Slp2の減少に伴って第1駆動輪に付与する制動力BPが増大する。なお、補正制動力は、第2駆動輪のスリップ量Slp2に補正係数Kを乗じた値としてもよい。また、補正係数Kは、車体速度VBなどの車両の状態量に基づいて異なる値としてもよい。
【0030】
制動力付与処理の実施中において、第1駆動輪に付与する制動力BPを減少させる場合には、第1駆動輪に付与する制動力BPを増大させる場合とは逆に、第1駆動輪に対する駆動力DPの分配率が大きくなる。このため、第1駆動輪に付与する制動力BPを減少させる場合には、第1駆動輪のスリップ量Slp1が増大し得る。ところが、第1駆動輪は、第2駆動輪と比較して、摩擦円が小さく、走行中の車両挙動に対して影響力の低い駆動輪である。このため、第1駆動輪のスリップ量Slp1が増大したとしても、第2駆動輪の加速スリップを抑制した方が、車両の安定性の向上に繋がる。
【0031】
したがって、制動力付与処理の実施中において、第2駆動輪のスリップ量Slp2の増大に基づき、第1駆動輪に付与する制動力BPを減少させる状況下において、第1駆動輪のスリップ量Slp1が第1スリップ判定値SlpTh1以上に増大しても、制動制御部72は、第1駆動輪に付与する制動力BPを増大させない。例えば、制動制御部72は、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2以上となってから第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2未満となるまでの期間における基準制動力を、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2以上となるときの基準制動力に維持すればよい。
【0032】
また、車両の安定性を考慮すると、制動力付与処理の実施中に、第2駆動輪に発生するスリップ量Slpは小さいことが好ましい。そこで、制動制御部72は、第2駆動輪の加速スリップの発生を判定する第2スリップ判定値SlpTh2を、第1駆動輪の加速スリップの発生を判定する第1スリップ判定値SlpTh1よりも小さくする。つまり、第1スリップ判定値SlpTh1は、通常の加速スリップの発生を判定する判定値あり、第2スリップ判定値SlpTh2は、微小な加速スリップの発生を判定する判定値であるということもできる。
【0033】
また、車両が旋回中の場合には、車両が直進中の場合よりも、第2駆動輪の加速スリップが車両の安定性に与える影響が大きくなりやすい。そこで、制動制御部72は、車両が旋回中の場合には、車両が直進中の場合よりも、第2スリップ判定値SlpTh2を小さくする。車両が旋回しているか直進しているかは、ステアリングホイール61の操舵角STRに基づいて判定すればよい。また、車両のヨーレートや横加速度を基に、車両が旋回しているか否かを判定するようにしてもよい。
【0034】
なお、本実施形態でいう第1駆動輪及び第2駆動輪は、フロントデファレンシャル17又はリヤデファレンシャル19を介して駆動力DPが分配される一対の駆動輪であるとする。例えば、右前輪FRの加速スリップに起因するトラクション制御の実施時には、右前輪FRが第1駆動輪となるとともに、左前輪FLが第2駆動輪となる。また、右前輪FR及び右後輪RRの加速スリップに起因するトラクション制御の実施時には、第1駆動輪としての右前輪FRと対となる第2駆動輪は左前輪FLとなり、第1駆動輪としての右後輪RRと対となる第2駆動輪は左後輪RLとなる。
【0035】
続いて、駆動制御装置80が実施するトラクション制御の内容について説明する。
図1に示すように、駆動制御装置80は、車両の走行時における加速性を確保しつつ、車輪FR,FL,RR,RLの加速スリップを抑制するための機能部として、駆動力DPの調整によりトラクション制御を実施する駆動制御部81を有する。
【0036】
駆動制御部81は、第1駆動輪に加速スリップが発生したときに、動力源11が出力する駆動力DPを調整する駆動力調整処理を実施する。駆動力調整処理は、駆動力DPを要求駆動力DPR未満に減少させる第1駆動力調整処理と、第1駆動力調整処理の実施後において駆動力DPを要求駆動力DPRに向けて増大させる第2駆動力調整処理と、を含む。
【0037】
第1駆動力調整処理は、例えば、第1駆動輪のスリップ量Slp1が増大している期間に実施される。第1駆動力調整処理の実施により、第1駆動輪及び第2駆動輪に伝達される駆動力DPがともに減少し、第1駆動輪の加速スリップが緩和される。
【0038】
第2駆動力調整処理は、第1駆動力調整処理及び上述した制動力付与処理の実施により、第1駆動輪のスリップ量Slp1が減少するようになると開始される。第2駆動力調整処理は、第1駆動力調整処理に続いて実施される処理であり、第1駆動力調整処理と同時に実施される処理ではない。第2駆動力調整処理が実施されることにより、第1駆動輪及び第2駆動輪に伝達される駆動力DPがともに増大し、車両が要求駆動力DPRに応じて加速する。
【0039】
ただし、駆動制御部81は、第2駆動力調整処理の実施中に、第2駆動輪のスリップ量Slp2が増大する場合には、駆動力DPの増大を制限する。詳しくは、駆動制御部81は、制動力付与処理の実施中に、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2以上となる場合には、駆動力DPの増大を制限する。駆動力DPの増大を制限する方法としては、例えば、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2以上となった後の駆動力DPの増大速度を「0」にすることが挙げられる。また、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2以上となった後の駆動力DPの増大速度を、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2未満であるときの駆動力DPの増大速度未満とすることが挙げられる。駆動力DPの増大の制限として、駆動力DPを緩やかに増大させる制御を採用する場合、駆動制御部81は、第2駆動輪のスリップ量Slp2が大きいほど又は第2駆動輪のスリップ量Slp2の増大速度が速いほど、駆動力DPの増大速度を遅くしてもよい。第2駆動輪のスリップ量Slp2の増大の制限が解消された場合、つまり、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2未満となる場合、駆動制御部81は、駆動力DPの増大の制限を解除する。
【0040】
次に、図3を参照し、トラクション制御を行うためにトラクション制御装置100が実施する処理の流れについて説明する。本処理は、車両の走行中に所定の制御サイクルで繰り返し実行される処理である。
【0041】
図3に示すように、トラクション制御装置100は、第1駆動輪を対象としたトラクション制御の開始条件が成立しているか否かを判定する(S11)。トラクション制御の開始条件は、右駆動輪及び左駆動輪の一方の駆動輪である第1駆動輪が加速スリップした場合、詳しくは、第1駆動輪のスリップ量Slp1が第1スリップ判定値SlpTh1以上になった場合に成立する。トラクション制御の開始条件が成立していない場合(S11:NO)、トラクション制御装置100は、本処理を終了する。一方、トラクション制御の開始条件が成立している場合(S11:YES)、トラクション制御装置100は、第1駆動輪に対して制動力BPを付与するための制動力付与処理を実施する(S12)。続いて、トラクション制御装置100は、動力源11の出力する駆動力DPを調整するための駆動力調整処理を実施する(S13)。その後、トラクション制御装置100は、トラクション制御の終了条件が成立しているか否かを判定する(S14)。トラクション制御の終了条件は、例えば、動力源11が出力する駆動力DPが要求駆動力DPRとなるとともに、第1駆動輪の加速スリップが解消された場合に成立する。トラクション制御の終了条件が成立していない場合(S14:NO)、トラクション制御装置100は、ステップS12に処理を移行する。一方、トラクション制御の終了条件が成立している場合(S14:YES)、トラクション制御装置100は、本処理を終了する。
【0042】
次に、図4を参照し、トラクション制御中に制動力及び駆動力を補正するためにトラクション制御装置100が実行する処理の流れについて説明する。
図4に示すように、トラクション制御装置100は、車輪速度センサ91a~91dからの検出信号に基づいて、車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWを算出する(S21)。続いて、トラクション制御装置100は、車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWに基づいて、車体速度VBを算出する(S22)。例えば、車体速度VBは、車輪FR,FL,RR,RLの車輪速度VWのうち、最も低速の車輪速度VWに基づいて算出される。
【0043】
そして、トラクション制御装置100は、車輪FR,FL,RR,RLのスリップ量Slpを算出する(S23)。例えば、右前輪FRの車輪速度VWから車体速度VBを減じた値が右前輪FRのスリップ量Slpとして算出される。右前輪FR以外の他の車輪FL,RR,RLのスリップ量Slpは、右前輪FRのスリップ量Slpと同じ方法で算出される。
【0044】
続いて、トラクション制御装置100は、第2駆動輪のスリップ量Slp2が増大しているか否かを判定する(S24)。詳しくは、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2以上か否かを判定する。車両が直進している場合、すなわち、ステアリングホイール61の操舵角の絶対値|STR|が旋回判定値STRTh未満の場合には、直進時用の値が第2スリップ判定値SlpTh2としてセットされる。一方、車両が旋回している場合、すなわち、ステアリングホイール61の操舵角の絶対値|STR|が旋回判定値STRTh以上である場合には、旋回時用の値が第2スリップ判定値SlpTh2としてセットされる。
【0045】
第2駆動輪のスリップ量Slp2が増大していない場合(S24:NO)、すなわち、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2未満の場合、トラクション制御装置100は、本処理を終了する。この場合には、第1駆動輪に付与する制動力BPが第1駆動輪のスリップ量Slp1に基づく基準制動力となる。一方、第2駆動輪のスリップ量Slp2が増大している場合(S24:YES)、すなわち、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2以上の場合、トラクション制御装置100は、第1駆動輪に付与する制動力BPを減少させる(S25)。この場合、第1駆動輪に付与する制動力BPは、基準制動力から第2駆動輪のスリップ量Slp2に応じた補正制動力を差し引いた制動力となる。
【0046】
続いて、トラクション制御装置100は、第2駆動力調整処理の実施中か否かを判定する(S26)。第2駆動力調整処理の実施中でない場合(S26:NO)、すなわち、第1駆動力調整処理の実施中である場合、トラクション制御装置100は、本処理を終了する。一方、第2駆動力調整処理の実施中である場合(S26:YES)、トラクション制御装置100は、動力源11の出力する駆動力DPの増大を制限する。その後、トラクション制御装置100は、本処理を終了する。
【0047】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
詳しくは、図5に示すタイミングチャートを参照して、車両がスプリットμ路を走行中にトラクション制御が開始される場合の車輪速度VW1,VW2、制動力BP1,BP2及び駆動力DPの推移について説明する。車両がスプリットμ路を走行する場合、低μ路に接地する車輪が第1駆動輪となり、高μ路に接地する車輪が第2駆動輪となる。
【0048】
図5(a),(b),(c)に示すように、第1のタイミングt11までの期間では、要求駆動力DPRの増大に伴い、第1駆動輪の車輪速度VW1及び第2駆動輪の車輪速度VW2が増大する。つまり、要求駆動力DPRの増大に伴い、車両が加速する。第1のタイミングt11になると、第1駆動輪に第1駆動輪の摩擦円を超える摩擦力が作用し始める。つまり、第1駆動輪に加速スリップが発生し始める。ただし、第1のタイミングt11の次の第2のタイミングt12までの期間では、第1駆動輪のスリップ量Slp1が第1スリップ判定値SlpTh1未満であるため、トラクション制御が開始されない。
【0049】
第2のタイミングt12において、第1駆動輪のスリップ量Slp1が第1スリップ判定値SlpTh1以上となると、トラクション制御が開始される。つまり、第2のタイミングt12以降では、第1駆動輪に制動力BP1が付与されるのに加え、動力源11の出力する駆動力DPが制限される。詳しくは、第2のタイミングt12から次の第3のタイミングt13までの期間では、第1駆動輪のスリップ量Slp1の増大に伴い、第1駆動輪に付与する制動力BP1が増大し、動力源11の出力する駆動力DPが時間経過とともに減少する。こうした点で、第2のタイミングt12以降の期間は、制動力付与処理が実施される期間となり、第2のタイミングt12から第3のタイミングt13までの期間は、第1駆動力調整処理が実施される期間となる。
【0050】
第3のタイミングt13では、第1駆動輪のスリップ量Slp1が増大傾向から減少傾向に変化する。このため、第3のタイミングt13以降では、第1駆動輪に付与する制動力BP1が減少し始め、動力源11の駆動力DPが要求駆動力DPRに向けて増大し始める。この点で、第3のタイミングt13以降の期間は、第2駆動力調整処理が実施される期間となる。
【0051】
第4のタイミングt14では、第2駆動輪に伝達される駆動力DPの増大に伴い、第2駆動輪の摩擦円を超える摩擦力が第2駆動輪に作用し始める。つまり、第2駆動輪に微小な加速スリップが発生し始める。
【0052】
第5のタイミングt15において、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2以上となると、第2駆動輪のスリップ量Slp2に応じて第1駆動輪に付与する制動力BP1が減少される。すると、デファレンシャルの特性によって、第5のタイミングt15以降において、第2駆動輪に対する駆動力DPの分配率が小さくなり、第1駆動輪に対する駆動力DPの分配率が大きくなる。その結果、第2駆動輪に過剰な駆動力DPが伝達されなくなり、第2駆動輪の微小な加速スリップを解消できる。つまり、第2駆動輪に制動力BP2を付与することなく、第2駆動輪の微小な加速スリップを解消できる。これにより、車両挙動の安定性を維持できる。
【0053】
また、第5のタイミングt15において、第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2以上となると、動力源11が出力する駆動力DPの増大が制限される。詳しくは、第5のタイミングt15において、駆動力DPの増大速度が「0」となり、動力源11の出力する駆動力DPが第5のタイミングt15における駆動力DPから変化しなくなる。その結果、第1駆動輪に分配しても第2駆動輪に分配しても、第1駆動輪及び第2駆動輪の少なくとも一方の駆動輪に加速スリップを発生させ得る過剰な駆動力DPがデファレンシャルに伝達されなくなる。つまり、第1駆動輪に対する駆動力DPの分配率の増大に伴い、第1駆動輪のスリップ量Slp1が一時的に増大しても、第1駆動輪のスリップ量Slp1を次第に減少させることができる。
【0054】
第2駆動輪のスリップ量Slp2が第2スリップ判定値SlpTh2未満となる第6のタイミングt16になると、第2駆動輪の加速スリップが解消されたとして、第1駆動輪に付与する制動力BP1が第1駆動輪のスリップ量Slp1に応じた基準制動力となる。また、第6のタイミングt16以降では、動力源11の出力する駆動力DPの増大の制限が解除される。詳しくは、動力源11の出力する駆動力DPの増大速度が第3のタイミングt13から第5のタイミングt15までの期間における増大速度となる。こうして、第2駆動輪の加速スリップが解消した後は、駆動力DPをすぐに増大させるため、車両の加速性が良好となる。
【0055】
第6のタイミングt16以降でも、第2駆動輪に伝達される駆動力DPの増大に対して、第2駆動輪に加速スリップが発生する場合には、再度、第1駆動輪に付与する制動力BP1が減少され、駆動力DPの増大が制限される。こうして、第2駆動輪の摩擦円の限界付近まで第2駆動輪に摩擦力が作用するように、第2駆動輪に駆動力DPが分配される。
【0056】
以上説明したように、トラクション制御では、第1駆動輪のスリップ量Slp1を第1スリップ判定値SlpTh1未満とするとともに第2駆動輪のスリップ量Slp2を第2スリップ判定値SlpTh2未満とする点で、車両の安定性を高めることができる。また、第2駆動輪の摩擦円の限界付近まで第2駆動輪に摩擦力を作用させる点で、車両の加速性を高めることができる。
【0057】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・トラクション制御装置100は、第2駆動力調整処理の実施中において、第2駆動輪のスリップ量Slp2が増大する場合、駆動力DPの増大を制限しなくてもよい。この場合、トラクション制御装置100は、第2駆動力調整処理の実施中における第2駆動輪のスリップ量Slp2の増大を、第1駆動輪に付与する制動力BPの減少のみで解消することになる。
【0058】
・トラクション制御装置100は、第2駆動輪のスリップ量Slp2に関わらず、補正制動力を一定値としてもよい。この場合であっても、第2駆動力調整処理の実施中において、第1駆動輪に付与する制動力BPが減少されるため、第2駆動輪のスリップ量Slp2を減少できる。
【0059】
・車両が旋回中である場合の第2スリップ判定値SlpTh2を、駆動輪に発生する横力が大きいと予測できる場合には、横力が小さいと予測できる場合よりも小さくしてもよい。すなわち、操舵角の絶対値|STR|、車両のヨーレートの絶対値及び横加速度の絶対値が大きいほど、第2スリップ判定値SlpTh2を小さくしてもよい。
【0060】
・トラクション制御装置100は、車両が直進中の場合と車両が旋回中の場合とで、第2スリップ判定値SlpTh2を等しい値としてもよい。
・トラクション制御装置100は、第2駆動力調整処理の実施中において、第2駆動輪のスリップ量Slp2が増大する場合、第1駆動輪に付与する制動力BPの減少を開始するタイミングと、動力源11から出力される駆動力DPの増大の制限を開始するタイミングと、をずらしてもよい。
【0061】
・トラクション制御装置100は、加速スリップの度合いを示す「加速スリップ状態量」として、スリップ量Slp以外の状態量を使用してもよい。例えば、トラクション制御装置100は、「加速スリップ状態量」として、スリップ量の微分値(変化率)を使用したり、スリップ量の積分値(加算値)を使用したりしてもよい。この場合、トラクション制御装置100は、スリップ量の微分値又はスリップ量の積分値の増大に応じて、制動力付与処理の実施中に第1駆動輪に付与する制動力BPを減少させたり、第2駆動力調整処理の実施中に駆動力DPの増大を制限したりすることになる。
【0062】
・制動アクチュエータ50は、第1の液圧回路511に右前輪FR用のホイールシリンダ31a及び左前輪FL用のホイールシリンダ31bが接続されるとともに、第2の液圧回路512に左後輪RL用のホイールシリンダ31d及び右後輪RR用のホイールシリンダ31cが接続される構成であってもよい。
【0063】
・制動装置は、各車輪FL,FR,RL,RRに付与する制動力を個別に調整できるのであれば、上記実施形態で説明した制動装置40とは異なる構成のものであってもよい。
・トラクション制御装置100は、コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する専用のハードウェア(特定用途向け集積回路:ASIC)等の1つ以上の専用のハードウェア回路又はこれらの組み合わせを含む回路として構成し得る。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROM等のメモリを含み、メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、すなわち記憶媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【符号の説明】
【0064】
11…動力源
17…フロントデファレンシャル
19…リヤデファレンシャル
40…制動装置
72…制動制御部
81…駆動制御部
BP,BP1,BP2…制動力
DP…駆動力
DPR…要求駆動力
FR…右前輪(右駆動輪の一例)
FL…左前輪(左駆動輪の一例)
RR…右後輪(右駆動輪の一例)
RL…左後輪(左駆動輪の一例)
Slp,Slp1,Slp2…スリップ量
SlpTh1…第1スリップ判定値
SlpTh2…第2スリップ判定値(スリップ判定値の一例)
図1
図2
図3
図4
図5