(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナーおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G03G 9/087 20060101AFI20240123BHJP
G03G 9/08 20060101ALI20240123BHJP
G03G 9/097 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
G03G9/087 325
G03G9/08 384
G03G9/097 365
(21)【出願番号】P 2019238491
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】磯部 和也
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-102328(JP,A)
【文献】特開2008-165124(JP,A)
【文献】特開昭56-072991(JP,A)
【文献】特開昭60-023861(JP,A)
【文献】特開平09-096924(JP,A)
【文献】特開2010-014947(JP,A)
【文献】特開2012-123377(JP,A)
【文献】特開2012-247530(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される構造単位
および前記化学式1で表される構造単位以外の構造単位を有する重合体
ならびに離型剤を含有し、
前記離型剤は、脂肪酸エステルワックスを含有
し、
前記離型剤の含有割合は、前記重合体と前記離型剤との合計質量を100質量%として、1~25質量%の範囲である、
静電荷像現像用トナー:
【化1】
上記化学式1中、
R
1は、ヒドロキシ基または炭素数1~4のアルコキシ基であり、
R
2
は、水素原子または炭素数1~3のアルコキシ基であり、
R
3
は、水素原子であり、
R
4およびR
5は
、水素原
子である。
【請求項2】
前記化学式1中のR
2
が水素原子である、請求項
1に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項3】
前記化学式1中のR
1がヒドロキシ基またはメトキシ基である、請求項1
または2に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項4】
前記化学式1で表される構造単位以外の構造単位は、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種の単量体由来の構造単位である、請求項
1~3のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項5】
前記単量体が、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルの少なくとも一方である、請求項
4に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項6】
前記脂肪酸エステルワックスが、炭素数18以上24以下の脂肪酸のエステルワックス
またはトリアコンタン酸メチルを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項7】
前記炭素数18以上24以下の脂肪酸のエステルがベヘン酸ベヘニルおよびペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステルの少なくとも一方である、請求項
6に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項8】
前記脂肪酸エステルワックスの含有量は、前記重合体と前記脂肪酸エステルワックスとの合計質量を100質量%として、5~25質量%である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナー。
【請求項9】
下記化学式2で表される重合性単量体
と、前記化学式2で表される重合性単量体と共重合可能な他の重合性単量体とのラジカル重合を行い、前記重合体を合成する工程と、
前記重合体と前記脂肪酸エステルワックスとを混合する工程と、
を有する、
請求項1~8のいずれか1項に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法
:
【化2】
上記化学式2中、R
1~R
5は、
前記化学式1と同義である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナーおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成を行う印刷分野においては、近年、消費電力の低減化、プリントの高速化、画像形成媒体の多様化、高画質化、環境負荷の低減などに対応可能なトナーが求められている。かようなトナーに求められる特性としては、従来よりも低い温度でトナー画像の定着を行うことができるといういわゆる低温定着性や、定着強度の向上がある。さらには従来のオフィス市場に限らず、軽印刷市場への展開に伴って、既存のオフセット印刷等で実施されてきた画像表面へのニス加工や、ラミネート等の後加工性に優れたトナーも求められている。
【0003】
トナーは通常、バインダー機能を有する結着樹脂(トナーバインダー)を含有し、この結着樹脂としては、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、グラフト化されたアクリル重合セグメントを有するポリエステル樹脂などのハイブリッド樹脂を用いることが知られている。上記のような要求に対して、これらのトナーバインダーなどを改良することで、低温定着性などを改良する技術が知られている(特許文献1、2、および3参照)。
【0004】
一般的に、スチレンアクリル樹脂は、ポリエステル樹脂に比較し、樹脂を低温で合成でき、さらに、モノマーの重合からトナー粒子の形成まで水系媒体中で製造可能であり、生産性の面で有利であるという利点を有している。しかしながら、例えば記録媒体として坪量200~350g/m2の厚紙を選択すると、折り目部分の低温定着性がポリエステル樹脂を用いたトナーより劣るなど不利な点を有しており、生産性に優れ、低温定着性に優れるトナーの製造は難しかった。
【0005】
また、多くのトナーにおいて、紙への定着時に定着ローラーとの離形性を確保するために、トナー内部に離型剤(ワックス)を含有させている。定着時の熱によって溶融し、圧力によってトナー表面へ染み出し、離型剤が有する表面エネルギーの低さ故に、トナーと定着ローラーとの間に働く付着力を下げることができ、結果として、紙が定着ローラーに巻き付くことなく、トナーが紙に定着した画像を得ることができる。一方、画像表面には離型剤が多く存在するために、オフセット印刷等で行われてきたニス加工等の後加工時において、ニスとの接着性が低く、上手く塗布できないといった問題があった。このような問題に対して、離型剤としてより高極性化したパラフィンワックスを用いることで、ニスとの接着性を改善する取り組みがなされている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-279714号公報
【文献】特開2008-287229号公報
【文献】特開2010-15159号公報
【文献】特開2012-78485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、折り目定着性および耐オフセット性を向上させ、さらには印刷物のニス塗布等の後加工性も向上させうる静電荷像現像用トナーおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意研究を積み重ねた。その結果、特定の構造単位を有する重合体および脂肪酸エステルワックスを含有する静電荷像現像用トナーにより上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記化学式1で表される構造単位を有する重合体および脂肪酸エステルワックスを含有する静電荷像現像用トナーである。
【0010】
【0011】
上記化学式1中、
R1は、ヒドロキシ基または炭素数1~4のアルコキシ基であり、
R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルコキシ基であり、
R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である、
また、本発明は、上記化学式1で表される構造単位を有する重合体、および脂肪酸エステルワックスを含有する静電荷像現像用トナーの製造方法であって、下記化学式2で表される重合性単量体のラジカル重合を行い、前記重合体を合成する工程と、前記重合体と前記脂肪酸エステルワックスとを混合する工程と、を有する、静電荷像現像用トナーの製造方法である。
【0012】
【0013】
上記化学式2中、R1~R5は、上記化学式1と同義である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、折り目定着性および耐オフセット性を向上させ、さらには印刷物のニス塗布等の後加工性も向上させうる静電荷像現像用トナーおよびその製造方法が提供されうる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、下記化学式1で表される構造単位を有する重合体および脂肪酸エステルワックスを含有する静電荷像現像用トナーである。
【0016】
【0017】
上記化学式1中、
R1は、ヒドロキシ基または炭素数1~4のアルコキシ基であり、
R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルコキシ基であり、
R4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である。
【0018】
かような構成を有する本発明の静電荷像現像用トナーによれば、折り目定着性および耐オフセット性を向上させ、さらには印刷物のニス塗布等の後加工性も向上させることができる。
【0019】
なぜ、本発明のトナーにより上記効果が得られるのか、詳細は不明であるが、下記のようなメカニズムが考えられる。なお、下記のメカニズムは推測によるものであり、本発明は下記メカニズムに何ら制限されるものではない。以下の説明では、上記化学式1で表される構造単位を有する重合体を、単に「本発明に係る重合体」とも称する。
【0020】
従来のスチレンアクリル樹脂を含むトナーは、主成分として、比較的疎水性の高いスチレンに由来するスチレンユニット(構造単位)を含むポリマーを含有しており、スチレンユニットの疎水性のため、表面に親水基を有する転写紙との接着強度が十分に得られなかった。一方、本発明に係る重合体は、スチレンユニットのベンゼン環がヒドロキシ基またはアルコキシ基を有しており、これら置換基と転写紙表面のヒドロキシ基との間に水素結合が発生して接着強度が高まり、その結果、折り目定着性が改善すると推測される。
【0021】
また、本発明のトナーが耐オフセット性に優れる理由としては、上記の置換基を有する本発明に係る重合体と、オフセット抑制のために用いられる離型剤との相互作用が適度にあるということが考えられる。トナーに用いることができる離型剤種としては、パラフィンワックス、脂肪酸エステルワックス、脂肪酸アミドワックス等を挙げることができるが、重合体との相互作用は、パラフィンワックスではLondon分散力の寄与、脂肪酸エステルワックスでは双極子相互作用の寄与、脂肪酸アミドワックスでは水素結合の寄与がそれぞれ大きいと考えられる。トナー中に包含される離型剤は、トナー定着時に加熱され溶融し、さらには圧力にて、トナーと定着ローラーとの界面に染み出してくる。この際、London分散力による相互作用に依存したパラフィンワックスでは、染み出しはしやすいものの、重合体との濡れ性が低く、トナー表面にて不均一な存在状態となるため、露出したトナー表面よりオフセットが発生するものと推測することができる。また、水素結合の寄与の大きい脂肪酸アミドワックスでは、そもそも相互作用が強すぎて、トナーと定着ローラーとの界面に染み出すことができないためオフセットが発生すると考えられる。一方、双極子相互作用の寄与の大きな脂肪酸エステルワックスを用いた場合には、London分散力および水素結合の間程度の相互作用であり、トナーと定着ローラーとの界面に染み出すことができると共に、重合体との濡れ性も高く、トナー表面に均一に存在できることから、ホットオフセットの発生を抑制できると考えられる。
【0022】
さらには、定着後の画像表面にも均一に離型剤層が形成されているために、例えば、後加工として、ニス塗布を行った際に、ニス成分は離型剤層および重合体を含む層へ均一に拡散することができる。その結果、ニスの硬化後にニス層のトナー表面への密着性が高まり、ニス層の界面剥離等がほとんど起こらず、強靭なニス塗布画像が得られるものと推測される。
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は、室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0024】
また、本明細書において、「トナー母体粒子」とは、「トナー粒子」の母体を構成するものである。「トナー母体粒子」は、少なくとも結着樹脂および離型剤を含むものであり、その他必要に応じて、着色剤、荷電制御剤などの他の構成成分を含有してもよい。「トナー母体粒子」は、外添剤の添加によって「トナー粒子」と称される。そして、「トナー」とは、「トナー粒子」の集合体のことをいう。
【0025】
[トナーの構成]
〔結着樹脂〕
<化学式1で表される構造単位を有する重合体>
本発明のトナーは、結着樹脂を含み、該結着樹脂は上記化学式1で表される構造単位を有する重合体を含む。
【0026】
上記化学式1中のR1は、ヒドロキシ基または炭素数1~4のアルコキシ基である。炭素数1~4のアルコキシ基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、その具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基等が挙げられる。耐オフセット性をさらに向上させるという観点から、R1は、ヒドロキシ基またはメトキシ基が好ましい。
【0027】
上記化学式1中のR2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルコキシ基である。炭素数1~3のアルコキシ基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、その具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基等が挙げられる。離型剤が染み出しやすくなり耐オフセット性が向上しやすいという観点、およびトナーが低弾性化し折り目定着性がさらに改善されるという観点から、R2およびR3の少なくとも一方が水素原子であることが好ましく、R2およびR3の両方が水素原子であることがより好ましい。
【0028】
上記化学式1中のR4およびR5は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3のアルキル基である。炭素数1~3のアルキル基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、その具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。折り目定着性向上の観点から、R4およびR5の少なくとも一方が水素原子であることが好ましく、R4およびR5の両方が水素原子であることがより好ましい。
【0029】
以上から、化学式1で表される構造単位のより好ましい置換基の組み合わせを、下記表1に示す。
【0030】
【0031】
表中、「H」は水素原子を、「OH」はヒドロキシ基を、「Me」はメチル基を、「OMe」はメトキシ基を、「OEt」はエトキシ基を、「OtBu」はtert-ブトキシ基を、それぞれ表す。
【0032】
重合体中の化学式1で表される構造単位の含有量は、60~100質量%であることが好ましく、65~100質量%であることがより好ましい。
【0033】
本発明に係る重合体は、下記化学式2で表される単量体(以下、第1の重合性単量体とも称する)の重合を行うことにより合成することができる。
【0034】
【0035】
上記化学式2中、R1~R5は、上記化学式1と同義である。この第1の重合性単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0036】
第1の重合性単量体の具体例としては、下記の例示化合物M1~M9が挙げられる。
【0037】
【0038】
第1の重合性単量体は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。合成方法の例としては、出発原料としてケイ皮酸を用いる方法が挙げられる。より具体的な合成例としては、オクタン等の疎水性溶媒中で、カフェ酸、フェルラ酸、5-ヒドロキシフェルラ酸、シナピック酸等のケイ皮酸誘導体と、有機塩基としてケイ皮酸誘導体と等モルのトリエチルアミンを用い、80~120℃の温度で脱炭酸反応させることにより、ヒドロキシスチレン誘導体等を製造する方法が挙げられる(梅滞俊明:木材研究・資料,No.26,1-37(1990)参照)。
【0039】
また、他の方法として、微生物を用いヒドロキシケイ皮酸誘導体に対する脱炭酸活性を有する微生物を用い、脱炭酸反応を行う方法も知られている(米光ら、第6回高専シンポジウム、講演要旨集、p97(2001)参照)。フェルラ酸脱炭酸活性を有する微生物であるBacillus属の菌を用いると、ヒドロキシスチレン誘導体(例えば4-ヒドロキシ-3-メトキシスチレン)を製造することができる。
【0040】
第1の重合性単量体の重合方法は、特に制限されないが、簡便に合成できるという観点から、公知の油溶性あるいは水溶性のラジカル重合開始剤を使用して単量体をラジカル重合する方法が好ましい。すなわち、本発明の好ましい一実施形態による製造方法は、上記化学式1で表される構造単位を有する重合体を含有する結着樹脂、および脂肪酸エステルワックスを含有する離型剤を含む静電荷像現像用トナーの製造方法であって、上記化学式2で表される重合性単量体のラジカル重合を行い、前記重合体を合成する工程と、前記結着樹脂と前記離型剤とを混合する工程と、を有する。
【0041】
ラジカル重合に使用される油溶性の重合開始剤としては、具体的には、以下に示すアゾ系またはジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤がある。必要に応じて例えば、n-オクチルメルカプタン、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネートなどの公知の連鎖移動剤を使用してもよい。
【0042】
アゾ系またはジアゾ系重合開始剤の例としては、2,2’-アゾビス-(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。
【0043】
過酸化物系重合開始剤の例としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t-ブチルヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2-ビス-(4,4-t-ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス-(t-ブチルパーオキシ)トリアジンなどが挙げられる。
【0044】
また、乳化重合法で本発明に係る重合体を形成する場合は、水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素などが挙げられる。
【0045】
重合温度は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、50~100℃であることが好ましく、55~90℃であることがより好ましい。また、重合時間は、用いる単量体や重合開始剤の種類によっても異なるが、例えば、1~12時間であることが好ましい。
【0046】
<他の構造単位>
本発明に係る重合体は、上記化学式1で表される構造単位を与える重合性単量体(第1の重合性単量体)のみから得られる重合体でもよいが、本発明の効果をより一層効率よく発揮させるという観点から、下記のような第1の重合性単量体と共重合可能な他の重合性単量体(第2の重合性単量体とも称する)との共重合体であることが好ましい。すなわち、本発明に係る重合体は、上記化学式1で表される構造単位以外の構造単位をさらに含むことが好ましい。
【0047】
第2の重合性単量体の例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、m-エチルスチレン、p-エチルスチレン、o-アセトキシスチレン、m-アセトキシスチレン、p-アセトキシスチレン等の第1の重合性単量体以外のスチレン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸tert-ブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類;等が挙げられる。これらの中でも、重合体のガラス転移温度の調整が容易になるという観点から、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、およびメタクリル酸メチル、からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、アクリル酸n-ブチルおよびアクリル酸2-エチルヘキシルの少なくとも一方がさらに好ましい。
【0048】
さらに、第2の重合性単量体として、イオン性解離基を有する重合性単量体を用いてもよい。イオン性解離基を有する重合性単量体は、例えばカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などの基を有するものである。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。これらのうち、好ましいのはアクリル酸またはメタクリル酸である。
【0049】
これら第2の重合性単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0050】
本発明に係る重合体において、第2の重合性単量体に由来する構造単位の含有量は、特に制限されず、構造単位の種類によって適宜調整することができる。例えば、第2の重合性単量体が上記のスチレン系単量体である場合、重合体中のスチレン系単量体由来の構造単位の含有量は、重合体の全構造単位を100質量%として、0~50質量%であることが好ましく、0~40質量%であることがより好ましい。
【0051】
第2の重合性単量体がアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルである場合、重合体中のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル由来の構造単位の含有量は、重合体の全構造単位を100質量%として、10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。
【0052】
イオン性解離基を有する重合性単量体を使用する場合、その構造単位の含有量は、重合体の全構造単位を100質量%として、3~8質量%であることが好ましい。
【0053】
第1の重合性単量体と第2の重合性単量体とを用いて本発明に係る重合体を合成する方法は、上記で説明した第1の重合性単量体の重合方法と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0054】
本発明に係る重合体は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定されたポリスチレン換算による分子量分布から得られるピーク分子量が、3,500~35,000であることが好ましく、10,000~30,000であることがより好ましい。このような範囲のピーク分子量であれば、定着時に重合体が適正な溶融粘度となり、良好な定着性と耐オフセット性とを両立させることができるため好ましい。
【0055】
なお、ピーク分子量とは、分子量分布におけるピークトップの溶出時間に相当する分子量である。分子量分布中にピークが複数存在した場合、ピーク面積比率の一番大きなピークトップの溶出時間に相当する分子量を指す。
【0056】
重合体のピーク分子量は、以下のような方法で測定できる。具体的には、装置「HLC-8220」(東ソー株式会社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM-M3連」(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料を室温(25℃)において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させる。次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μlを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布から、測定される。
【0057】
本発明に係る重合体の含有割合は、折り目定着性、耐オフセット性、およびニス密着性のバランスの観点から、本発明に係る重合体と離型剤との合計質量を100質量%として、65~99質量%の範囲であることが好ましく、70~97質量%の範囲であることがより好ましく、75~95質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0058】
上記結着樹脂は、本発明に係る重合体以外の他の樹脂を含んでいてもよく、一般にトナーを構成する結着樹脂として用いられている樹脂を制限なく用いることができる。具体的には、例えば、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、およびエポキシ樹脂などが挙げられる。これら他の樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0059】
以下では、結着樹脂として用いられうるポリエステル樹脂について説明する。
【0060】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸成分)と、2価以上のアルコール(多価アルコール成分)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂である。なお、ポリエステル樹脂は、非晶性であってもよいし結晶性であってもよい。
【0061】
多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の価数としては、好ましくはそれぞれ2~3であり、特に好ましくはそれぞれ2であるため、特に好ましい形態として価数がそれぞれ2である場合(すなわち、ジカルボン酸成分、ジオール成分)について説明する。
【0062】
ジカルボン酸成分としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジカルボン酸;メチレンコハク酸、フマル酸、マレイン酸、3-ヘキセンジオイック酸、3-オクテンジオイック酸、ドデセニルコハク酸などの不飽和脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、t-ブチルイソフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p-フェニレン二酢酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などの不飽和芳香族ジカルボン酸;などが挙げられ、また、これらの低級アルキルエステルや酸無水物を用いることもできる。ジカルボン酸成分は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0063】
その他、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸、および上記のカルボン酸化合物の無水物、あるいは炭素数1~3のアルキルエステルなども用いることができる。
【0064】
ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,11-ウンデカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,13-トリデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,18-オクタデカンジオール、1,20-エイコサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの飽和脂肪族ジオール;2-ブテン-1,4-ジオール、3-ブテン-1,4-ジオール、2-ブチン-1,4-ジオール、3-ブチン-1,4-ジオール、9-オクタデセン-7,12-ジオールなどの不飽和脂肪族ジオール;ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール類、およびこれらのエチレンオキサイド付加物、プロピレンオキサイド付加物などのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物などの芳香族ジオールが挙げられ、また、これらの誘導体を用いることもできる。ジオール成分は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0065】
ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を重縮合する(エステル化する)ことにより製造することができる。
【0066】
ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウムなどのアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウムなどの第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウムなどの金属の化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;およびアミン化合物などが挙げられる。具体的には、スズ化合物としては、酸化ジブチルスズ(ジブチル錫オキサイド)、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩などを挙げることができる。チタン化合物としては、テトラノルマルブチルチタネート(Ti(O-n-Bu)4)、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド;ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどのチタンキレートなどを挙げることができる。ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウムなどを挙げることができる。さらにアルミニウム化合物としては、ポリ水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシド、トリブチルアルミネートなどを挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
重合温度は特に限定されるものではないが、70~250℃であることが好ましい。また、重合時間も特に限定されるものではないが、0.5~10時間であることが好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
【0068】
上記ポリエステル樹脂は、ポリエステル重合セグメントとスチレンアクリル重合セグメントグラフトとのグラフト共重合体構造を有するハイブリッドポリエステル樹脂であってもよい。
【0069】
結着樹脂中の本発明に係る重合体の含有量は、結着樹脂の全質量を100質量%として、50質量%を超え100質量%以下が好ましく、70~100質量%がより好ましい。
【0070】
〔離型剤〕
本発明のトナーは、離型剤を含有し、該離型剤は脂肪酸エステルワックスを含む。
【0071】
離型剤に含まれる脂肪酸エステルワックスの例としては、例えば、ベヘニルベヘネート(ベヘン酸ベヘニル)、ステアリルステアレート(ステアリン酸ステアリル)、ベヘニルステアレート、ステアリルベヘネート、ブチルステアレート、プロピルオレエート、ヘキサデシルパルミテート(パルミチン酸ヘキサデシル)、メチルリグノセレート(リグノセリン酸メチル)、グリセリンモノステアレート(ステアリン酸グリセリル)、ジグリセリルジステアレート(ジステアリン酸ジグリセリル)、ペンタエリスリトールテトラベヘネート(ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル)、ジエチレングリコールモノステアレート、ジプロピレングリコールジステアレート、ソルビタンモノステアレート、コレステリルステアレート、トリメチロールプロパントリベヘネート、ペンタエリスリトールジアセテートジベヘネート、グリセリントリベヘネート、トリステアリルトリメリテート(トリメリット酸トリステアリル)、ジステアリルマレエート、メチルトリアコンタネート(トリアコンタン酸メチル)等が挙げられる。これら脂肪酸エステルワックスは、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。また、これら脂肪酸エステルワックスは、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0072】
本発明に係る重合体との相互作用および離型剤粘度のバランスの観点から、脂肪酸エステルワックスは、炭素数18以上24以下の脂肪酸のエステルワックスを含むことが好ましい。このような脂肪酸としては、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。
【0073】
より好ましい離型剤は、ベヘニルベヘネート(ベヘン酸ベヘニル)およびペンタエリスリトールテトラベヘネート(ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル)の少なくとも一方である。
【0074】
該離型剤は、脂肪酸エステルワックスを含んでいれば、脂肪酸エステルワックス以外の他のワックスを含んでいてもよい。このような他のワックスの例としては、例えば、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン等のポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の分枝鎖状炭化水素ワックス、パラフィンワックス、サゾールワックス等の長鎖炭化水素系ワックス、ジステアリルケトン等のジアルキルケトン系ワックス、エチレンジアミンベヘニルアミド、トリメリット酸トリステアリルアミド等の脂肪酸アミドワックス等が挙げられる。
【0075】
離型剤の含有割合は、折り目定着性、耐オフセット性、およびニス密着性のバランスの観点から、本発明に係る重合体と離型剤との合計質量を100質量%として、1~35質量%の範囲であることが好ましく、5~25質量%の範囲であることがより好ましい。
【0076】
本発明で用いられるトナー母体粒子は、必要に応じて着色剤、荷電制御剤を含んでいてもよい。
【0077】
〔着色剤〕
本発明のトナーは着色剤を含んでもよい。着色剤としては、一般に知られている染料および顔料を用いることができる。
【0078】
黒色のトナーを得るための着色剤としては、カーボンブラック、磁性体、鉄・チタン複合酸化物ブラック等が挙げられ、カーボンブラックとしてはチャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラック等が挙げられる。また、磁性体としてはフェライト、マグネタイト等が挙げられる。
【0079】
イエローのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントイエロー19、同44、同77、同79、同81、同82、同93、同98、同103、同104、同112、同162などの染料;C.I.ピグメントイエロー14、同17、同74、同93、同94、同138、同155、同180、同185等の顔料が挙げられる。
【0080】
マゼンタのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントレッド1、同49、同52、同58、同63、同111、同122等の染料;C.I.ピグメントレッド5、同48:1、同53:1、同57:1、同122、同139、同144、同149、同166、同177、同178、同222等の顔料が挙げられる。
【0081】
シアンのトナーを得るための着色剤としては、C.I.ソルベントブルー25、同36、同60、同70、同93、同95等の染料;C.I.ピグメントブルー1、同7、同15、同60、同62、同66、同76等の顔料が挙げられる。
【0082】
各色のトナーを得るための着色剤は、各色について、1種または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0083】
着色剤の含有割合は、トナーの全質量を100質量%として、0.5~20質量%であることが好ましく、2~10質量%であることがより好ましい。
【0084】
〔荷電制御剤〕
本発明に係るトナーは、荷電制御剤を含有してもよい。使用される荷電制御剤は、摩擦帯電により正または負の帯電を与えることのできる物質であり、かつ無色のものであれば特に限定されず、公知の種々の正帯電性の荷電制御剤および負帯電性の荷電制御剤を用いることができる。
【0085】
具体的には、正帯電性の荷電制御剤としては、例えば「ニグロシンベースEX」(オリエント化学工業株式会社製)などのニグロシン系染料、「第4級アンモニウム塩P-51」(オリエント化学工業株式会社製)、「コピーチャージPX VP435」(ヘキストジャパン社製)などの第4級アンモニウム塩、アルコキシ化アミン、アルキルアミド、モリブデン酸キレート顔料、および「PLZ1001」(四国化成工業株式会社製)などのイミダゾール化合物などが挙げられる。
【0086】
また、負帯電性の荷電制御剤としては、例えば、「ボントロン(登録商標)S-22」、「ボントロン(登録商標)S-34」、「ボントロン(登録商標)E-81」、「ボントロン(登録商標)E-84」(以上、オリエント化学工業株式会社製)、「スピロンブラックTRH」(保土谷化学工業株式会杜製)などの金属錯体、チオインジゴ系顔料、「コピーチャージNX VP434」(ヘキストジャパン社製)などの第4級アンモニウム塩、「ボントロン(登録商標)E-89」(オリエント化学工業株式会社製)などのカリックスアレーン化合物、「LR147」(日本カーリット株式会社製)などのホウ素化合物、フッ化マグネシウム、フッ化カーボンなどのフッ素化合物などが挙げられる。
【0087】
負帯電性の荷電制御剤として用いられる金属錯体としては、上記に示したもの以外にも、オキシカルボン酸金属錯体、ジカルボン酸金属錯体、アミノ酸金属錯体、ジケトン金属錯体、ジアミン金属錯体、アゾ基含有ベンゼン-ベンゼン誘導体骨格金属錯体、アゾ基含有ベンゼン-ナフタレン誘導体骨格金属錯体などの各種の構造を有したものなどを使用することができる。
【0088】
このようにトナー粒子が荷電制御剤を含有するものとして構成されることにより、トナーの帯電性が向上される。
【0089】
荷電制御剤の含有割合は、トナー中0.01~30質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましい。
【0090】
本発明に係るトナー母体粒子の形態は特に制限されず、例えば、いわゆる単層構造(コア-シェル型ではない均質な構造)、コア-シェル構造、3層以上の多層構造、ドメイン-マトリックス構造等の形態をとることができる。
【0091】
〔外添剤〕
トナーの流動性、帯電性、クリーニング性等を改良するために、当該トナー粒子に、いわゆる後処理剤である流動化剤、クリーニング助剤等の外添剤を添加して本発明のトナーを構成してもよい。
【0092】
外添剤としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子などの無機酸化物粒子、ステアリン酸アルミニウム粒子、ステアリン酸亜鉛粒子などの無機ステアリン酸化合物粒子、チタン酸ストロンチウム粒子、チタン酸亜鉛粒子などの無機チタン酸化合物粒子などの無機粒子が挙げられる。これらは単独でもまたは2種以上を組み合わせても用いることができる。
【0093】
これら無機粒子は、シランカップリング剤やチタンカップリング剤、高級脂肪酸、シリコーンオイルなどによって、耐熱保管性や環境安定性の向上のために、表面処理が行われていてもよい。
【0094】
これら外添剤の添加量は、トナー母体粒子100質量部に対して0.05~5質量部であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0095】
<トナーの平均粒径>
トナーの平均粒径は、体積基準のメジアン径(D50)で4~10μmであることが好ましく、5~9μmであることがより好ましい。体積基準のメジアン径(D50)が上記の範囲にあることにより、転写効率が高くなりハーフトーンの画質が向上し、細線やドット等の画質が向上する。
【0096】
本発明において、トナーの体積基準のメジアン径(D50)は、「コールターカウンター3」(ベックマン・コールター株式会社製)に、データ処理用ソフト「Software V3.51」を搭載したコンピューターシステム(ベックマン・コールター株式会社製)を接続した測定装置を用いて測定・算出されるものである。
【0097】
具体的には、測定試料(トナー)0.02gを、界面活性剤溶液20mL(トナー粒子の分散を目的として、例えば、界面活性剤成分を含む中性洗剤を純水で10倍希釈した界面活性剤溶液)に添加して馴染ませた後、超音波分散を1分間行い、トナー分散液を調製し、このトナー分散液を、サンプルスタンド内の「ISOTONII」(ベックマン・コールター株式会社製)の入ったビーカーに、測定装置の表示濃度が8%になるまでピペットにて注入する。
【0098】
ここで、この濃度範囲にすることにより、再現性のある測定値を得ることができる。そして、測定装置において、測定粒子カウント数を25000個、アパーチャー径を50μmにし、測定範囲である1~30μmの範囲を256分割しての頻度値を算出し、体積積算分率の大きい方から50%の粒子径が体積基準のメジアン径(D50)とされる。
【0099】
[トナーの製造方法]
本発明のトナーの製造方法は特に制限されない。例えば本発明に係る重合体、離型剤(脂肪酸エステルワックス)および必要に応じて着色剤等を溶融混練し、その後粉砕、分級等を行ってトナーを得ることができる。
【0100】
また、重合性単量体を水系媒体中で乳化重合、ミニエマルション重合等により重合体粒子を調製し、当該重合体粒子、離型剤粒子、必要に応じて着色剤粒子等の分散粒子を凝集、融着する乳化凝集法により、トナーを得ることができる。乳化凝集法としては、特開平5-265252号公報、特開平6-329947号公報、特開平9-15904号公報等に記載の方法を採用することができることができる。
【0101】
さらに、特開2010-191043号公報に記載の懸濁重合法を用いた製造方法であってもよい。
【0102】
中でも、粒子径および形状の制御が容易であり、生産時のエネルギーコストが削減できるという観点から、乳化凝集法を利用した製造方法であることが好ましい。
【0103】
かような乳化凝集法を利用した製造方法は、
(1A)結着樹脂粒子の分散液を調製する結着樹脂粒子分散液調製工程
(1B)着色剤粒子の分散液を調製する着色剤粒子分散液調製工程
(1C)離型剤粒子の分散液を調製する離型剤粒子分散液調製工程
(2)結着樹脂粒子、着色剤粒子および離型剤粒子が存在している水系媒体中に、凝集剤を添加し、塩析を進行させると同時に凝集・融着を行い、会合粒子を形成する会合工程
(3)会合粒子の形状制御をすることによりトナー粒子を形成する熟成工程
(4)水系媒体からトナー粒子を濾別し、当該トナー粒子から界面活性剤等を除去する濾過、洗浄工程
(5)洗浄処理されたトナー粒子を乾燥する乾燥工程
(6)乾燥処理されたトナー粒子に外添剤を添加する外添剤添加工程
の各工程を含むことが好ましい。以下、(1A)~(1C)の工程について説明する。
【0104】
(1A)結着樹脂粒子分散液調製工程
本工程では、従来公知の乳化重合などにより樹脂粒子を形成し、この樹脂粒子を凝集、融着させて結着樹脂粒子を形成する。一例として、結着樹脂を構成する重合性単量体を水系媒体中へ投入、分散させ、重合開始剤によりこれら重合性単量体を重合させることにより、結着樹脂粒子の分散液を作製する。
【0105】
また、結着樹脂粒子分散液を得る方法として、上記の水性媒体中で重合開始剤により重合性単量体を重合させる方法の他に、例えば、溶媒を用いることなく、水系媒体中において分散処理を行う方法、あるいは重合体を酢酸エチルなどの有機溶媒に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水系媒体中に乳化分散させた後、脱溶媒処理を行う方法などが挙げられる。
【0106】
この際、必要に応じ、結着樹脂には離型剤を予め含有させておいてもよい。また、分散のために、適宜公知の界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤)の存在下で重合させることも好ましい。
【0107】
分散液中の結着樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、50~300nmが好ましい。分散液中の結着樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、「マイクロトラックUPA-150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定することができる。
【0108】
(1B)着色剤粒子分散液調製工程
この着色剤粒子分散液調製工程は、着色剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて着色剤粒子の分散液を調製する工程である。
【0109】
着色剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。分散液中の着色剤粒子の体積基準のメジアン径は、10~300nmであることが好ましく、50~200nmであることがより好ましい。
【0110】
分散液中の着色剤粒子の体積基準のメジアン径は、上記と同様に「マイクロトラックUPA-150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定することができる。
【0111】
(1C)離型剤粒子分散液調製工程
この離型剤粒子分散液調製工程は、離型剤を水系媒体中に微粒子状に分散させて離型剤粒子の分散液を調製する工程である。
【0112】
離型剤の分散は、機械的エネルギーを利用して行うことができる。分散液中の離型剤粒子の体積基準のメジアン径は、100~1000nmであることが好ましく、200~700nmであることがより好ましい。
【0113】
分散液中の離型剤粒子の体積基準のメジアン径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定器LA-750(株式会社堀場製作所製)によって測定することができる。
【0114】
<水系媒体>
(1A)~(1C)の工程で用いられる水系媒体は、水、または水を主成分(50質量%以上)として、アルコール類、グリコール類などの水溶性溶媒や、界面活性剤、分散剤などの任意成分が配合されている水系媒体等が挙げられる。水系媒体は、好ましくは水と界面活性剤とを混合したものが用いられる。
【0115】
上記の水溶性溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらのうち、重合体を溶解しない有機溶媒であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール類が好ましい。
【0116】
界面活性剤としては、例えば、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルアンモニウムクロライド、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ドデシルピリジニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイドなどが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸ナトリウム、ドデカン酸ナトリウムなどの脂肪酸石けん、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。また、ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンヘキサデシルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアートエーテル、モノデカノイルショ糖などが挙げられる。
【0117】
このような界面活性剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。界面活性剤の中では、好ましくはアニオン性界面活性剤、より好ましくはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムが使用される。
【0118】
界面活性剤の添加量は、水系媒体100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上10質量部以下、より好ましくは0.04質量部以上2質量部以下である。
【0119】
(2)会合工程から(6)外添剤添加工程までの工程については、従来公知の種々の方法に従って行うことができる。
【0120】
なお、(2)会合工程において使用される凝集剤は、特に限定されるものではないが、金属塩から選択されるものが好適に使用される。金属塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩等の一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、ポリ塩化アルミニウムなどを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価または三価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0121】
[現像剤]
本発明のトナーは、例えば磁性体を含有させて一成分磁性トナーとして使用する場合、いわゆるキャリアと混合して二成分現像剤として使用する場合、非磁性トナーを単独で使用する場合などが考えられ、いずれも好適に使用することができる。
【0122】
上記磁性体としては、例えば、マグネタイト、γ-ヘマタイト、または各種フェライトなどを使用することができる。
【0123】
二成分現像剤を構成するキャリアとしては、鉄、鋼、ニッケル、コバルト、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができる。
【0124】
キャリアとしては、磁性粒子の表面を樹脂等の被覆剤で被覆したコートキャリアや、バインダー樹脂中に磁性体粉末を分散してなるいわゆる樹脂分散型キャリアを用いることが好ましい。被覆用の樹脂としては、特に限定はないが、例えば、オレフィン樹脂、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、またはフッ素樹脂などが用いられる。また、樹脂分散型キャリアを構成するための樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂などを使用することができる。
【0125】
キャリアの体積基準のメジアン径は、20~100μmであることが好ましく、25~60μmであることがより好ましい。キャリアの体積基準のメジアン径は、代表的には湿式分散機を備えたレーザー回折式粒度分布測定装置「ヘロス(HELOS)」(シンパテック(SYMPATEC)社製)により測定することができる。
【0126】
トナーのキャリアに対する混合量は、トナーとキャリアとの合計質量を100質量%として、2~10質量%であることが好ましい。
【0127】
[画像形成方法]
本発明のトナーは、圧力を付与すると共に加熱することができる熱圧力定着方式による定着工程を含む画像形成方法に好適に用いることができる。特に、定着工程における定着温度が、定着ニップ部における加熱部材の表面温度において80~110℃、好ましくは80~95℃となる温度とされる比較的低温の定着温度において定着する画像形成方法に好適に使用することができる。
【0128】
さらに、定着線速が200~600mm/secである高速定着の画像形成方法にも好適に使用することができる。
【0129】
この画像形成方法においては、具体的には、上記のような本発明のトナーを使用して、例えば感光体上に形成された静電荷像を現像してトナー像を得て、このトナー像を画像支持体に転写する。その後、画像支持体上に転写されたトナー像を熱圧力定着方式の定着処理によって画像支持体に定着させることにより、可視画像が形成された印画物が得られる。
【0130】
また、本発明のトナーは、モノクロの画像形成方法やフルカラーの画像形成方法に用いることができる。フルカラーの画像形成方法では、イエロー、マゼンタ、シアン、およびブラックの各々に係る4種類のカラー現像装置と、1つの感光体とにより構成される4サイクル方式の画像形成方法や、各色に係るカラー現像装置および感光体を有する画像形成ユニットを、それぞれ色別に搭載するタンデム方式の画像形成方法など、いずれの画像形成方法にも適用することができる。
【実施例】
【0131】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。下記の実施例において、「%」「部」の表記を用いるが、特に断りがない限り「質量%」「質量部」を表す。
【0132】
結着樹脂に含まれる重合体のピーク分子量は、以下のようにして測定した。
【0133】
装置「HLC-8220」(東ソー株式会社製)およびカラム「TSKguardcolumn+TSKgelSuperHZM-M3連」(東ソー株式会社製)を用い、カラム温度を40℃に保持しながら、キャリア溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を流速0.2ml/minで流し、測定試料を室温(25℃)において超音波分散機を用いて5分間処理を行う溶解条件で濃度1mg/mlになるようにテトラヒドロフランに溶解させた。次いで、ポアサイズ0.2μmのメンブランフィルターで処理して試料溶液を得、この試料溶液10μlを上記のキャリア溶媒と共に装置内に注入し、屈折率検出器(RI検出器)を用いて検出し、測定試料の有する分子量分布から求めた。
【0134】
[実施例1]
(トナー1の作製)
(結着樹脂粒子分散液1の調製)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、および窒素導入装置を取り付けた5Lのステンレス釜(SUS釜)に、ドデシル硫酸ナトリウム8gをイオン交換水3Lに溶解させた界面活性剤溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの攪拌速度で攪拌しながら、液温80℃に昇温した。
【0135】
この界面活性剤溶液に、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させた開始剤溶液を添加し、温度を80℃とした後、下記単量体混合液を100分間かけて滴下し、この系を80℃にて2時間にわたり加熱、攪拌することにより重合を行い、結着樹脂粒子分散液1を調製した:
-単量体混合液-
例示化合物 M1(上記化学式参照) 568g
アクリル酸n-ブチル(BA) 145g
アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA) 40g
メタクリル酸(MAA) 52g
n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート 5.5g。
【0136】
得られた結着樹脂粒子分散液1中の結着樹脂粒子の体積基準のメジアン径を、「マイクロトラックUPA-150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定したところ、120nmであった。
【0137】
(着色剤分散液1の調製)
着色剤:カーボンブラック(Mogul(登録商標)L キャボット社製)
10部
アニオン性界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム20%水溶液)
1.5部
イオン交換水 90部
上記成分を混合しSCミルにて分散させ、着色剤分散液1を得た。分散液中の着色剤粒子の体積基準のメジアン径を「マイクロトラックUPA-150」(日機装株式会社製)を用いて動的光散乱法によって測定したところ、153nmであった。
【0138】
(離型剤分散液1の調製)
ベヘン酸ベヘニル 100部
ドデシル硫酸ナトリウム 5部
イオン交換水 240部
上記成分を、丸型ステンレス鋼製フラスコ中でホモジナイザー「ウルトラタラックス(登録商標)T50」(IKA株式会社製)を用いて10分間分散させた後、圧力吐出型ホモジナイザーで分散処理し、離型剤分散液1を得た。分散液中の離型剤粒子の体積基準のメジアン径を、レーザー回折式粒度分布測定器LA-750(株式会社堀場製作所製)によって測定したところ、550nmであった。
【0139】
(トナー母体粒子分散液1の調製)
結着樹脂粒子分散液1 237部
着色剤分散液1 42部
離型剤分散液1 18部
ポリ塩化アルミニウム 1.8部
イオン交換水 600部
上記成分を、丸型ステンレス鋼鉄フラスコ中でホモジナイザー「ウルトラタラックス(登録商標)T50」(IKA社製)を用いて混合し、分散した後、加熱用オイルバス中でフラスコ内を攪拌しながら55℃まで加熱した。55℃で30分間保持した後、溶液中に体積基準におけるメジアン径(D50)が4.8μmの凝集粒子が生成していることを確認した。
【0140】
さらに加熱用オイルバスの温度を上げて56℃で2時間保持すると、体積基準におけるメジアン径(D50)は5.9μmとなった。
【0141】
その後、系内に1mol/Lの水酸化ナトリウムを追加して系のpHを5.0に調整した後、ステンレス製フラスコを、磁気シールを用いて密閉し、攪拌を継続しながら98℃まで加熱した。6時間攪拌を継続することにより結着樹脂粒子間の融着(融合)を完了させ、トナー母体粒子分散液1を調製した。分散液中のトナー母体粒子の体積基準におけるメジアン径(D50)は、6.0μmであった。
【0142】
(洗浄・乾燥工程)
トナー母体粒子分散液1をバスケット型遠心分離機「MARKIII 型式番号60×40」(松本機械販売株式会社製)で固液分離し、トナー母体粒子のウェットケーキを形成した。
【0143】
該ウェットケーキを、上記のバスケット型遠心分離機で濾液の電気伝導度が5μS/cmになるまで45℃のイオン交換水で洗浄し、その後「フラッシュジェットドライヤー」(株式会社セイシン企業製)に移し、水分量が0.5質量%となるまで乾燥し、トナー母体粒子を得た。
【0144】
(トナー母体粒子の外添剤処理)
上記で得られたトナー母体粒子100質量部に対して、疎水性シリカ(数平均一次粒子径=12nm)を1質量部、および疎水性チタニア(数平均一次粒子径=20nm)を0.3質量部添加し、ヘンシェルミキサー(登録商標)により混合して外添剤処理を行い、トナー1を製造した。
【0145】
[実施例2~18、比較例1~3]
(トナー2~トナー21の製造)
下記表2の単量体の組合せおよび添加量で結着樹脂粒子分散液を作製したこと、下記表2に記載の離型剤を用いて離型剤分散液を作製したこと、および下記表2に記載の含有量となるように結着樹脂粒子分散液および離型剤分散液を使用してトナー母体粒子を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、トナー2~トナー21を製造した。
【0146】
なお、下記表2の単量体の組合せおよび添加量で作製した各結着樹脂粒子分散液中の結着樹脂粒子の体積基準のメジアン径は、いずれも120nmであった。
【0147】
さらに、下記表2に記載の離型剤を用いて作製した各離型剤分散液中の離型剤粒子の体積基準のメジアン径は、以下の通りであった:
・ペンタエリスリトールテトラベヘネート:480nm
・ステアリン酸ステアリル:450nm
・リグノセリン酸メチル:420nm
・パルミチン酸ヘキサデシル:430nm
・トリアコンタン酸メチル:440nm
・パラフィン(パラフィンワックス、HNP-51、日本精蝋株式会社製):600nm
・オレイン酸モノアミド(脂肪酸アミドワックス、アルフロー(登録商標)E10、日油株式会社製):400nm。
【0148】
各トナーの構成を下記表2に示す。なお、下記表2中のMMAは、メタクリル酸メチルを表す。
【0149】
さらに、表2中の「重合体の含有量(質量%)」は、重合体と離型剤との合計質量に対する重合体の含有割合である。表2中の「離型剤の含有量(質量%)」は、重合体と離型剤との合計質量に対する離型剤の含有割合である。
【0150】
【0151】
(二成分現像剤の調製)
フェライト粒子(体積基準のメジアン径:50μm(パウダーテック株式会社製))100質量部と、メチルメタクリレート-シクロヘキシルメタクリレート共重合体樹脂(一次粒子の体積基準のメジアン径:85nm)4質量部とを、水平攪拌羽根式高速攪拌装置に入れ、攪拌羽根の周速:8m/s、温度:30℃の条件で15分間混合した後、120℃まで昇温して攪拌を4時間継続した。その後、冷却し、200メッシュの篩を用いてメチルメタクリレート-シクロヘキシルメタクリレート共重合体樹脂の破片を除去することにより、樹脂被覆キャリアを作製した。
【0152】
この樹脂被覆キャリアを、上記のトナー1~21の各々に、トナーとキャリアとの合計質量にたいしてトナーの濃度が7質量%になるよう混合し、二成分現像剤1~21を調製した。
【0153】
[評価]
二成分現像剤1~21を用いて下記(1)~(3)の評価項目について評価した。
【0154】
(1)折り目定着性
画像形成装置として、市販の複合機「bizhub PRO(登録商標)C6500」(コニカミノルタ株式会社製)を用い、この装置に現像剤として、上記二成分現像剤を搭載した。熱ロール定着方式の定着手段における定着加熱部材の表面温度を150℃とし、常温常湿(温度20℃、相対湿度50%RH)の環境下において、画像支持体として秤量350g/m2の厚紙を用いて画像形成を行い、5g/m3のトナーが定着したベタ画像を可視画像として得た。その後、定着ベタ画像を、折り機を用いて折り、これに0.35MPaの空気を吹きつけ、折り目の状態を、限度見本を参照し5段階に評価した。ランク3以上であれば合格である:
ランク5:折り目に剥離無し
ランク4:折り目に従い軽微な剥離有り
ランク3:折り目に従い部分的に剥離有り
ランク2:折り目に従い細い線状の剥離有り
ランク1:折り目に従い太い線状の剥離有り。
【0155】
(2)耐オフセット性
折り目定着性評価におけるベタ画像形成後、画像を形成していない無地の秤量350g/m2の厚紙を再度定着器に通すことで、ローラーにオフセットしたトナー量を目視で判別した。ランク3以上であれば合格である:
ランク5:全くオフセット無し
ランク4:軽微なオフセットが部分的に発生
ランク3:軽微なオフセットが発生
ランク2:明確なオフセットが部分的に発生
ランク1:全面に明確なオフセットが発生。
【0156】
(3)ニス密着性
画像形成装置として、市販の複合機「bizhub PRO(登録商標)C6500」(コニカミノルタ株式会社製)を用い、この装置に現像剤として、上記二成分現像剤を搭載した。熱ロール定着方式の定着手段における定着加熱部材の表面温度を150℃とし、常温常湿(温度20℃、相対湿度50%RH)の環境下において、画像支持体として秤量350g/m2の厚紙を用いて画像形成を行い、5g/m3のトナーが定着したベタ画像を可視画像として得た。その後、この画像が定着された可視画像上に、ニスとして光ラジカル重合性の「UVVECTAコートニスPC-3KW2」(株式会社T&K TOKA製)を、ワイヤーバーを用いて、厚さ3μmに塗布した。高圧水銀ランプを光源とするUV照射装置により画像面の積算光量が80~100mJ/cm2になるよう紫外線を照射し、ニスを硬化してニス層を形成し、密着性についての評価を行った。密着性評価は、ニス層を形成した面に、カッターで一部に傷をつけ、傷をつけた部分および傷をつけない部分に、それぞれテープを貼り、剥がした際のニス層の剥離状況を判別した。ランク4であれば合格である:
ランク4:傷をつけた部分にも傷をつけない部分にもニス層の剥離が観察されない
ランク3:傷をつけた部分のみニス層の剥離が観察される
ランク2:傷をつけない部分にも軽微なニス層の剥離が観察される
ランク1:傷をつけない部分にもニス層の剥離が明確に観察される。
【0157】
上記(1)~(3)の評価結果を下記表3に示す。
【0158】
【0159】
上記表3から明らかなように、上記化学式1によって表される構造単位を有する重合体を含有すると共に、離型剤として脂肪酸エステルワックスを用いた本発明のトナー1~18は、折り目定着性、耐オフセット性、およびニス密着性について、優れた性能を示すことが分かった。一方、スチレン由来の構造単位を有するポリマーを含有するトナー19や、脂肪酸エステル以外の離型剤として、パラフィンワックスや脂肪酸アミドワックスを用いたトナー20~21は、折り目定着性、耐オフセット性、およびニス密着性の少なくとも2つが劣ることが分かった。