(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
E03D 11/02 20060101AFI20240123BHJP
E03D 11/08 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
E03D11/02 Z
E03D11/08
(21)【出願番号】P 2020034298
(22)【出願日】2020-02-28
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土谷 匠
(72)【発明者】
【氏名】陳 晶
(72)【発明者】
【氏名】中村 健一
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-096887(JP,A)
【文献】特開2001-303648(JP,A)
【文献】実開平04-009478(JP,U)
【文献】特開2013-072238(JP,A)
【文献】特開2012-127114(JP,A)
【文献】特開平06-173325(JP,A)
【文献】特開2015-067955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00 - 7/00
E03D 11/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚物を受けるボウル部と、
前記ボウル部の底部に接続され、前記汚物を排出する排水トラップと
を備え、
前記排水トラップは、
前記ボウル部の底部から後方側、および下方側に延びる下降管と、
前記汚物の流れ方向において、前記下降管よりも下流側に設けられ、後方側、および上方側に延びる上昇管と、
前記下降管と前記上昇管とを接続する屈曲管と
を備え、
前記上昇管は、
排出路を形成する上面と下面との長さが上流側よりも下流側が短い調整部
を備え
、
前記上昇管は、左右方向における前記排出路の長さが、上流側よりも下流側が長い
ことを特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
前記上面は、水平方向に対する角度が、前記下面よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の水洗大便器。
【請求項3】
前記調整部は、前記上昇管の全体に設けられる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、汚物を受けるボウル部に接続される排水トラップ管路によって汚物を排出する水洗大便器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記する水洗大便器では、排水トラップ管路の上昇管路の上面側において、汚物を含む洗浄水が淀みやすく、浮遊系の汚物が排出されにくく、汚物の排出性について改善の余地がある。
【0005】
実施形態の一態様は、汚物の排出性を向上させる水洗大便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の一態様に係る水洗大便器は、汚物を受けるボウル部と、前記ボウル部の底部に接続され、前記汚物を排出する排水トラップとを備える。前記排水トラップは、前記ボウル部の底部から後方側、および下方側に延びる下降管と、前記汚物の流れ方向において、前記下降管よりも下流側に設けられ、後方側、および上方側に延びる上昇管と、前記下降管と前記上昇管とを接続する屈曲管とを備える。前記上昇管は、排出路を形成する上面と下面との長さが上流側よりも下流側が短い調整部を備える。
【0007】
これにより、水洗大便器は、排水トラップの上昇管において上面付近に汚物を含む洗浄水の淀みが発生することを抑制し、浮遊系の汚物を上面に当接させて、上面に沿って後方に流すことができる。すなわち、水洗大便器は、上面付近に浮遊系の汚物が滞留することを抑制することができる。そのため、水洗大便器は、汚物の排出性を向上させることができる。
【0008】
また、前記上面は、水平方向に対する角度が、前記下面よりも小さい。
【0009】
これにより、水洗大便器は、浮遊系の汚物を上昇管の上面に当接させて、浮遊系の汚物を上面に沿って後方に流し、浮遊系の汚物を排出することができる。また、水洗大便器は、沈殿系の汚物を屈曲管から下面に沿って攪拌させつつ、上昇させて排出することができる。
【0010】
また、前記調整部は、前記上昇管の全体に設けられる。
【0011】
これにより、水洗大便器は、屈曲管の後端から早期に浮遊系の汚物を上面に当接させて、上面に沿って後方に流すことができ、汚物の排出性を向上させることができる。
【0012】
また、前記上昇管は、左右方向における前記排出路の長さが、上流側よりも下流側が長い。
【0013】
これにより、水洗大便器は、調整部を設けつつ、流路断面の面積が小さくなることを抑制し、汚物の排出性が低下することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
実施形態の一態様によれば、汚物の排出性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態に係る水洗大便器の左側面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る便器本体の平面図である。
【
図4】
図4は、実施形態に係る上昇管における排出路を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、
図4のV-V断面における排出路の流路断面を模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、
図4のVI-VI断面における排出路の流路断面を模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、変形例に係る上昇管の断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する水洗大便器の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0017】
<水洗大便器の全体構成>
まず、
図1を参照して実施形態に係る水洗大便器1の全体構成について説明する。
図1は、実施形態に係る水洗大便器1の左側面図である。また、
図1では、壁面8および床面9を断面で示している。
【0018】
また、
図1には、説明をわかりやすくするために、鉛直上向きを正方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、他の図においても図示している場合がある。かかる直交座標系では、Y軸の負方向を前方、Y軸の正方向を後方、X軸の正方向を右方、X軸の負方向を左方と規定している。このため、以下の説明において、X軸方向を左右方向、Y軸方向を前後方向、Z軸方向を上下方向という場合がある。
【0019】
また、実施形態に係る水洗大便器1は、壁面8に取り付けられる、いわゆる壁掛け式の水洗大便器である。なお、水洗大便器は、床面9に設置される、いわゆる床置き式の水洗大便器であってもよい。
【0020】
水洗大便器1は、便器本体2と、局部洗浄装置3とを備える。実施形態に係る水洗大便器1は、洗浄水源から供給される洗浄水により便器本体2を洗浄して汚物を排出する洗い落とし式大便器(ウォッシュダウン式便器)である。また、便器本体2は、例えば、陶器製である。便器本体2の詳細については、後述する。
【0021】
局部洗浄装置3は、洗浄ノズル、ノズル駆動用モータ、モータ制御装置(いずれも不図示)などを備える。局部洗浄装置3は、使用者の局部洗浄用として便器本体2の上部に設けられ、洗浄ノズルから噴出させた洗浄水によって使用者の局部を洗浄する。
【0022】
水洗大便器1では、貯水タンク4に接続された給水配管4aを経て、便器本体2に洗浄水が供給される。また、水洗大便器1は、汚物を洗浄水と共に排水配管5へ排出する。なお、貯水タンク4は便器本体2の後方に載置され、貯水タンク4から便器本体2へ直接洗浄水を供給するものであってもよい。
【0023】
また、水洗大便器1は、局部洗浄装置3に局部洗浄用の洗浄水を供給する給水ホース6aと、局部洗浄装置3に電力を供給する電源ケーブル6bとを備える。
【0024】
<便器本体>
次に、実施形態に係る便器本体2について
図2~
図3を参照し説明する。
図2は、実施形態に係る便器本体2の平面図である。
図3は、
図2のIII-III断面図である。
【0025】
便器本体2は、ボウル部10と、リム部11と、排水トラップ12とを備える。
【0026】
ボウル部10は、ボウル形状に形成され、汚物を受ける。リム部11は、ボウル部10の上部に設けられる。リム部11には、吐水口14a、14bから洗浄水が吐水される。吐水口14a、14bは、給水配管4aから給水路13に供給された洗浄水を吐水する。リム部11は、洗浄水が外に飛び出さないように、オーバーハングした形状に形成される。
【0027】
排水トラップ12は、ボウル部10の底部10aに接続される。排水トラップ12には、U字状の排出路12aが形成される。排水トラップ12は、洗浄水が吐水されると、洗浄水を汚物とともに排水配管5へ排出させる。排水トラップ12には、洗浄水の一部が溜められ、封水が形成される。以下では、汚物を含む洗浄水を「排水」と称する場合がある。
【0028】
排水トラップ12は、下降管20と、上昇管21と、接続管22(屈曲管の一例)とを備える。
【0029】
下降管20は、ボウル部10の底部10aに接続される。下降管20は、ボウル部10の底部10aから後方、および下方に向けて延びるように形成される。すなわち、下降管20は、ボウル部10の底部10aから後方にかけて、下方に傾斜するように形成される。下降管20の後端には、接続管22の前端が接続される。
【0030】
上昇管21は、排水トラップ12における汚物の流れ方向において、下降管20よりも下流側に設けられる。すなわち、上昇管21は、下降管20よりも後方に設けられる。上昇管21の前端には、接続管22の後端が接続される。上昇管21は、接続管22の後端から後方、および上方に向けて延びるように形成される。すなわち、上昇管21は、接続管22の後端から後方にかけて、上方に傾斜するように形成される。接続管22は、下降管20の後端と、上昇管21の前端とを接続する。
【0031】
<上昇管における排出路>
次に、上昇管21における排出路12aについて、
図4を参照し説明する。
図4は、実施形態に係る上昇管21における排出路12aを模式的に示す図である。
図4には、
図3に対応する排出路12aが模式的に示される。
【0032】
上昇管21には、調整部25が設けられる。調整部25は、排出路12aを流れる排水の流れを調整する。調整部25は、排出路12aを形成する上昇管21の壁面である。調整部25は、例えば、排出路12aを形成する上昇管21の上面21a、および排出路12aを形成する上昇管21の下面21bである。調整部25は、排出路12aの流路断面における高さが上流側よりも下流側において短くなるように設けられる。
【0033】
「高さ」は、排出路12aの流路断面における上昇管21の上面21aと、上昇管21の下面21bとの長さである。例えば、「高さ」は、流路断面の左右方向の中央における上面21aと下面21bとの長さである。
【0034】
「流路断面」は、例えば、上面21aに直交する面における排出路12aの断面や、下面21bに直交する面における排出路12aの断面である。また、「流路断面」は、例えば、左右方向に延びる仮想線を含む面を、仮想線を中心に回転させた場合の排出路12aの断面である。仮想線は、例えば、接続管22の上方に設けられる。
【0035】
また、「流路断面」は、例えば、中心連続線に直交する面における排出路12aの断面である。中心連続線は、左右方向において上昇管21の中央を通る面と上下方向に延びる面との交線と、上面21a、および下面21bの交点とを結ぶ線分の中点が連続することによって形成される線である。
【0036】
上昇管21の上面21aは、上昇管21の下面21bよりも水平方向に対する角度S1が小さい。すなわち、上昇管21においては、上面21aと下面21bとは平行ではなく、水平方向に対して、上面21aの角度S1は、下面21bの角度S2よりも小さい。
図4においては、水平方向に沿った線を一点鎖線で示し、下面21bに平行な線を破線で示す。上面21a、および下面21bの角度は、左右方向に直交する面と、上面21a、および下面21bとの交線における角度である。
【0037】
例えば、調整部25は、上面21aと下面21bとが平行に設けられた比較例に対して、水平方向に対する上面21aの角度S1が小さくなるように設けられる。例えば、上面21aと下面21bとが平行に設けられた比較例に対し、実施形態に係る水洗大便器1は、上面21aの角度S1を小さくする。そのため、水洗大便器1は、排水トラップ12の前後方向の長さが長くなることを抑制しつつ、調整部25を設けることができる。
【0038】
図5、および
図6に示すように、上昇管21では、下流側の流路断面における上面21aと下面21bとの高さH2が、上流側の流路断面における上面21aと下面21bとの高さH1よりも短くなる。
図5は、
図4のV-V断面における排出路12aの流路断面を模式的に示す図である。
図6は、
図4のVI-VI断面における排出路12aの流路断面を模式的に示す図である。
【0039】
調整部25は、上面21a付近を流れる排水をより後方側へ導くように設けられる。具体的には、調整部25は、浮遊系の汚物を上面21aに沿って後方側へ導くように設けられる。調整部25は、下面21bに沿って流れる排水が有するベクトルに対し、上面21aに沿って流れる排水が有するベクトルを変更し、上面21aに沿って流れる排水が有するベクトルを後方側に向けて大きくする。
【0040】
これにより、上昇管21の上面21a付近に排水の淀みが発生することが抑制され、浮遊系の汚物は、上昇管21の上面21aに当接し、上面21aに沿って排水トラップ12から排出される。また、沈殿系の汚物は、接続管22から上昇管21の下面21bに沿って流れる際に、攪拌されて排水トラップ12から排出される。
【0041】
また、上昇管21は、下流側の流路断面における排出路12aの幅W2が、上流側の流路断面における排出路12aの幅W1よりも長くなるように形成される。
【0042】
「幅」は、上昇管21の流路断面における左右方向の最大長さである。これにより、上昇管21は、下流側の排出路12aが狭くなることを抑制することができる。
【0043】
<効果>
水洗大便器1は、ボウル部10と、排水トラップ12とを備える。ボウル部10は、汚物を受ける。排水トラップ12は、ボウル部10の底部10aに接続され、汚物を排出する。排水トラップ12は、下降管20と、上昇管21と、接続管22とを備える。下降管20は、ボウル部10の底部10aから後方側、および下方側に延びる。上昇管21は、汚物の流れ方向において、下降管20よりも下流側に設けられ、後方側、および上方側に延びる。接続管22は、下降管20と上昇管21とを接続する。上昇管21は、排出路12aを形成する上面21aと下面21bとの長さが上流側よりも下流側が短い調整部25を備える。
【0044】
これにより、水洗大便器1は、排水トラップ12の上昇管21において上面21a付近に排水の淀みが発生することを抑制し、浮遊系の汚物を上面21aに当接させて、上面21aに沿って後方に流すことができる。すなわち、水洗大便器1は、上面21a付近に浮遊系の汚物が滞留することを抑制することができる。そのため、水洗大便器1は、汚物の排出性を向上させることができる。
【0045】
また、上昇管21の上面21aは、水平方向に対する角度S1が、上昇管21の下面21bよりも小さい。
【0046】
これにより、水洗大便器1は、浮遊系の汚物を上昇管21の上面21aに当接させて、浮遊系の汚物を上面21aに沿って後方に流し、浮遊系の汚物を排出することができる。また、水洗大便器1は、沈殿系の汚物を屈曲管から下面21bに沿って攪拌させつつ、上昇させて排出することができる。
【0047】
また、調整部25は、上昇管21の全体に設けられる。
【0048】
これにより、水洗大便器1は、接続管22の後端から早期に浮遊系の汚物を上面21aに当接させて、上面21aに沿って後方に流すことができ、汚物の排出性を向上させることができる。
【0049】
また、上昇管21は、左右方向における流路断面の幅が、上流側よりも下流側が長い。
【0050】
これにより、水洗大便器1は、調整部25を設けつつ、流路断面の面積が小さくなることを抑制し、汚物の排出性が低下することを抑制することができる。
【0051】
<変形例>
変形例に係る水洗大便器1は、上昇管21の一部に調整部25を設けてもよい。変形例に係る水洗大便器1は、
図7に示すように、上昇管21の後方側に調整部25を設けてもよい。
図7は、変形例に係る上昇管21の断面を模式的に示す図である。変形例に係る水洗大便器1では、例えば、上昇管21の前方側において上面21aと下面21bとは平行に形成され、上昇管21の後方側において調整部25が設けられることによって上面21aと下面21bとの高さが短くなる。
【0052】
変形例に係る水洗大便器1は、上昇管21の上流側において流路断面の面積を確保しつつ、浮遊系の汚物を調整部25によって後方に流すことができる。
【0053】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 水洗大便器
2 便器本体
10 ボウル部
10a 底部
11 リム部
12 排水トラップ
12a 排出路
20 下降管
21 上昇管
21a 上面
21b 下面
22 接続管(屈曲管)
25 調整部