(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】複合チタン部材、および、水電解用電極、水電解装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/03 20210101AFI20240123BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240123BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240123BHJP
C25B 11/04 20210101ALI20240123BHJP
【FI】
C25B11/03
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B11/04
(21)【出願番号】P 2020046391
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】佐野 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】大森 信一
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-279479(JP,A)
【文献】米国特許第04789443(US,A)
【文献】特開2010-065271(JP,A)
【文献】特開2013-049925(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009672(WO,A1)
【文献】特開2013-241680(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146944(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/04
C25B 11/03
C25B 9/00
C25B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン又はチタン合金の粒子の焼結体からなり、3次元網目構造をなすチタン焼結部材と、このチタン焼結部材の一面に接合され、チタン板が蛇腹に折り曲げられた構造の蛇腹部材と、を備えて
おり、
前記チタン焼結部材における気孔率が52%以上95%以下の範囲内であり、
前記蛇腹部材の厚み(折り込んだ高さ)が0.3mm以上2.7mm以下の範囲内とされていることを特徴とする複合チタン部材。
【請求項2】
前記蛇腹部材は、連通孔を有し、気孔率が10%以上60%以下の範囲内とされ
ていることを特徴とする
請求項1に記載の複合チタン部材。
【請求項3】
前記蛇腹部材を構成する前記チタン板が、エキスパンドチタン又はパンチングチタンであることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の複合チタン部材。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の複合チタン部材からなることを特徴とする水電解用電極。
【請求項5】
請求項4に記載の水電解用電極を備えたことを特徴とする水電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性を有する複合チタン部材、および、この複合チタン部材からなる水電解用電極、水電解装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、脱CO2社会のために、水素社会の実現に向けた動きが加速する中で、水素需要量の増加が見込まれており、再生可能エネルギーを用いて安価で効率良く水素を製造する技術の開発が求められている。
水素製造技術の候補としては、水電解装置が着目されており、固体酸化物形水電解装置(SOEC)やアルカリ形水電解装置等いくつか種類が存在する。その中で、固体高分子形(PEM形)水電解装置は、100℃程度で動作可能であり、かつ、電解効率と生成時の水素純度が高い、という強みを持つ。
【0003】
固体高分子形水電解セルの内部構造及び部材は、例えば、カソード側から、集電板(AuめっきSUS板など)/ガス拡散層(電極):カーボン多孔質体/触媒層(Pt/C+アイオノマー)/イオン交換膜(高分子材料)/触媒層(Ir粒子+アイオノマー)/ガス拡散層(電極):チタン多孔質体/ 集電板(AuめっきSUS板など)から成る。
【0004】
上述のガス拡散層はGDL(gas diffusion layer)と呼ばれることが多いが、水電解反応の反応箇所である触媒層まで電流を伝える役割を担っているため、電極と呼ばれることもある。
アノード側のガス拡散層(電極)に求められる性質として、(1)原料の液体状の水と水電解後の酸素ガスを拡散させる必要があること、(2)電解時の過酷な腐食環境で腐食しないこと、がある。そのため、アノード側のガス拡散層(電極)には、耐腐食性に優れたチタン材が用いられている。
例えば、特許文献1には、ガス拡散層として、チタン繊維の焼結体を用いたものが提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に示すようなチタン繊維の焼結体においては、その表面に繊維の端部が露呈しており、表面に凹凸が生じ易い。ここで、上述のガス拡散層(電極)は、硬さの異なる2つの部材(柔らかい触媒層と硬い集電板)に挟まれる形で使用されるため、ガス拡散層(電極)の接触面に凹凸が生じていると、極端な応力集中が生じやすく柔らかい触媒層を傷つけるため、電極として不向きであった。
【0006】
そこで、例えば特許文献2には、チタン製のパンチングメタルの表面に貴金属層を形成し、表面粗さ(Ra)を0.5μm以下としたものが提案されている。
また、特許文献3には、チタン多孔質電極にチタン繊維焼結体を用いて、20~150kgf/cm2の応力下でも0.3~0.7mmの厚さを維持することが可能な機械的強度と柔軟性を備えたものが提案されている。
さらに、特許文献4には、カソード側の電極の後方に、皿ばねやコイルばねを用いて、イオン交換膜と電極を密着させたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-259457号公報
【文献】特開2019-137891号公報
【文献】特開2018-156798号公報
【文献】特開2006-070322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献2においては、チタン製のパンチングメタルを用いており、3次元網目構造となっていないため、原料の液体状の水と水電解後の酸素ガスを十分に拡散することができないおそれがあった。また、貴金属層を形成しているので、コストが非常に増加してしまうといった問題があった。
また、特許文献3においては、チタン繊維の焼結体で構成されており、チタン繊維が離接するイオン交換膜を傷つけるおそれがあった。
【0009】
さらに、特許文献4においては、皿ばねやコイルばねを用いているので、カソード側に配置することは可能であるが、酸素ガスが発生するアノード側に配置することはできなかった。
なお、アノード側では、上述のように酸素ガスが発生するために、体積変動によってガス拡散層(電極)と触媒層等のその他部材が離間しやすいことから、アノード側において、ガス拡散層(電極)とその他部材との密着性を向上させることが求められている。
【0010】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、隣接する他の部材と十分に接触させることができ、かつ、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能な複合チタン部材、及び、この複合チタン部材からなる水電解用電極、水電解装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の複合チタン部材は、チタン又はチタン合金の粒子の焼結体からなり、3次元網目構造をなすチタン焼結部材と、このチタン焼結部材の一面に接合され、チタン板が蛇腹に折り曲げられた構造の蛇腹部材と、を備えており、前記チタン焼結部材における気孔率が52%以上95%以下の範囲内であり、前記蛇腹部材の厚み(折り込んだ高さ)が0.3mm以上2.7mm以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0012】
この構成の複合チタン部材によれば、3次元網目構造をなすチタン焼結部材を備えているので、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能となる。
そして、このチタン焼結部材の一面に接合され、チタン板が蛇腹に折り曲げられた構造(山折りと谷折りの繰り返し構造)の蛇腹部材を備えているので、この蛇腹部材によってチタン焼結部材を隣接する他の部材に向けて押圧することができ、隣接する他の部材との密着性を向上させることが可能となる。
【0013】
また、本発明の複合チタン部材においては、前記チタン焼結部材における気孔率が52%以上95%以下の範囲内とされているので、液体やガス等の流体をさらに良好に流通させて拡散することが可能となる。
さらに、前記蛇腹部材の厚み(折り込んだ高さ)が0.3mm以上2.7mm以下の範囲内とされているので、その弾性力によって、チタン焼結部材を隣接する部材に向けて十分に押圧することができる。
【0014】
また、本発明の複合チタン部材においては、前記蛇腹部材は、連通孔を有し、気孔率が10%以上60%以下の範囲内とされていることが好ましい。
この場合、気孔率が10%以上60%以下の範囲内とされているので、この蛇腹部材においても、液体やガス等の流体をさらに良好に流通させて拡散することが可能となる。
【0015】
また、本発明の複合チタン部材においては、前記蛇腹部材を構成する前記チタン板が、エキスパンドチタン又はパンチングチタンであることが好ましい。
この場合、前記蛇腹部材を構成する前記チタン板がエキスパンドチタン又はパンチングチタンとされているので、この蛇腹部材においても、液体やガス等の流体をさらに良好に流通させて拡散することが可能となる。また、前記蛇腹部材の弾性力によって、チタン焼結部材を隣接する部材に向けて十分に押圧することができる。
【0016】
本発明の水電解用電極は、上述の複合チタン部材からなることを特徴としている。
この構成の水電解用電極によれば、上述の複合チタン部材で構成されているので、液体やガスの流通性に優れ、かつ、他の部材との接触性に優れており、隣接する他の部材(イオン交換膜及び触媒層、 集電板)との接触抵抗を小さくすることができ、水の電解を、効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【0017】
本発明の水電解装置は、上述の水電解用電極を備えたことを特徴としている。
この構成の水電解用電極によれば、上述の複合チタン部材で構成された水電解用電極を備えているので、液体やガスの流通性に優れ、かつ、他の部材との接触性に優れており、隣接する他の部材(イオン交換膜及び触媒層、 集電板)との接触抵抗を小さくすることができ、水の電解を、効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、隣接する他の部材と十分に接触させることができ、かつ、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能な複合チタン部材、及び、この複合チタン部材からなる水電解用電極、水電解装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態である複合チタン部材の一例を示す説明図である。
【
図2】
図1に示す複合チタン部材を構成するチタン焼結部材の説明図である。
【
図3】本発明の実施形態である複合チタン部材の製造方法を示すフロー図である。
【
図4】本発明の実施形態である水電解装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態である複合チタン部材、及び、水電解用電極、水電解装置について、添付した図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態である複合チタン部材1は、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)のカソード電極、水電解装置のアノード電極、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタ向け電極材等の通電部材として使用されるものである。
本実施形態においては、後述するように、
図4に示す水電解装置(水電解装置)のガス拡散層(GDL)を構成する電極として用いられるものである。
【0022】
本実施形態である複合チタン部材1は、
図1に示すように、チタン又はチタン合金の粒子の焼結体からなり、3次元網目構造をなすチタン焼結部材10と、このチタン焼結部材10の一面に接合され、チタン板が蛇腹に折り曲げられた構造の蛇腹部材20と、を備えている。
【0023】
チタン焼結部材10は、
図2に示すように、多孔質体とされており、3次元網目構造とされた骨格部12と、この骨格部12に囲まれた気孔部13と、を備えている。
また、骨格部12に囲まれた気孔部13は、互いに連通するとともに、チタン焼結部材10の外部に向けて開口した連通気孔を有している。
このチタン焼結部材10は、例えば、チタンを含むチタン焼結原料粉を焼結させて構成されている。
【0024】
また、本実施形態では、チタン焼結部材10の気孔率Pが50%以上95%以下の範囲内とされていることが好ましい。なお、チタン焼結部材10の気孔率Pは、以下の式で算出される。
P(%)=(1-(W/(V×DT)))×100
W:チタン焼結部材10の質量(g)
V:チタン焼結部材10の体積(cm3)
DT:チタン焼結部材10を構成するチタンまたはチタン合金の真密度(g/cm3)
【0025】
ここで、本実施形態において、チタン焼結部材10の気孔率Pが50%以上であると、ガスや液体の流通が阻害されず、これらを十分に拡散させることが可能となる。一方、チタン焼結部材10の気孔率Pが95%以下であると、強度が確保され、取り扱い時や使用時に破損することを抑制できる。
なお、ガスや液体の流通をさらに促進するためには、チタン焼結部材10の気孔率Pの下限を70%以上とすることが好ましく、80%以上とすることがより好ましい。一方、チタン焼結部材10の強度をさらに確保するためには、チタン焼結部材10の気孔率Pの上限を93%以下とすることが好ましく、90%以下とすることがより好ましい。
【0026】
さらに、本実施形態では、チタン焼結部材10の平均気孔径Rが50μm以上600μm以下の範囲内とされていることが好ましい。なお、チタン焼結部材10の平均気孔径Rは、断面観察を行い、その観察像から気孔部13の断面積から求められる円相当径(直径)とした。
【0027】
ここで、本実施形態において、チタン焼結部材10の平均気孔径Rが50μm以上の場合には、ガスや液体の流通が阻害されず、これらを十分に拡散させることが可能となる。一方、チタン焼結部材10の平均気孔径Rが600μm以下の場合には、他の部材との接触点が確保され、接触抵抗を十分に低下させることができる。
なお、ガスや液体の流通をさらに促進するためには、チタン焼結部材10の平均気孔径Rの下限を100μm以上とすることが好ましく150μm以上とすることがより好ましい。一方、他の部材との接触点をさらに確保するためには、チタン焼結部材10の平均気孔径Rの上限を550μm以下とすることが好ましく、500μm以下とすることがより好ましい。
【0028】
蛇腹部材20は、チタン板が蛇腹に折り曲げられた構造とされており、その弾性力によって、チタン焼結部材10を押圧することが可能となる。なお、チタン板としては、エキスパンドチタン、パンチングチタン等を用いることができる。また、チタン板に孔を形成したものであってもよい。
【0029】
ここで、本実施形態においては、蛇腹部材20は、
図1に示すように、その厚みD(折り込んだ高さ)が0.3mm以上2.7mm以下の範囲内とされていることが好ましい。
本実施形態において、蛇腹部材20の厚みDが0.3mm以上であると、十分な弾性力が確保され、チタン焼結部材10を隣接する他の部材に向けて十分に押圧することが可能となる。一方、蛇腹部材20の厚みDが2.7mm以下であると、複合チタン部材1の厚さが必要以上に厚くなることを抑制できる。
なお、弾性力をさらに確保するためには、蛇腹部材20の厚みDの下限を0.5mm以上とすることが好ましく、0.7mm以上とすることがより好ましい。一方、複合チタン部材1の厚さをさらに薄くするためには、蛇腹部材20の厚みDの上限を2.5mm以下とすることが好ましく、2.3mm以下とすることがより好ましい。
【0030】
また、本実施形態においては、蛇腹部材20は、連通孔を有しており、気孔率が10%以上60%以下の範囲内とされていることが好ましい。
本実施形態において、蛇腹部材20の気孔率が10%以上であると、ガスや液体の流通が阻害されず、これらを十分に拡散させることが可能となる。一方、蛇腹部材20の気孔率が60%以下であると、強度が確保され、十分な弾性力を得ることができ、チタン焼結部材10を隣接する他の部材に向けて十分に押圧することが可能となる。
なお、ガスや液体の流通をさらに促進するためには、蛇腹部材20の気孔率の下限を15%以上とすることが好ましく、20%以上とすることがより好ましい。一方、さらに十分な弾性力を得るためには、蛇腹部材20の気孔率の上限を55%以下とすることが好ましく、50%以下とすることがより好ましい。
【0031】
次に、本実施形態である複合チタン部材1の製造方法について、
図3のフロー図を参照して説明する。
【0032】
本実施形態である複合チタン部材1の製造方法においては、チタン焼結部材成形工程S01と、蛇腹部材成形工程S02と、接合工程S03とを備えている。
ここで、チタン焼結部材成形工程S01においては、
図3に示すように、チタン含有スラリー形成工程S11、成形体形成工程S12、発泡工程S13、脱脂工程S14、焼結工程S15、を備えている。
【0033】
(チタン含有スラリー形成工程S11)
まず、原料粉として、チタン又はチタン合金からなるチタン粉を準備する。本実施形態では、水素化チタン粉又は水素化チタン粉を脱水素することにより作製した純チタン粉を準備した。
この原料粉に、水溶性樹脂結合剤、有機溶剤、可塑剤、溶媒としての水、場合によっては界面活性剤を混合してチタン含有スラリーを作製する。
【0034】
(成形工程S12)
次に、上述のチタン含有スラリーをドクターブレード法等によってシート状に成形し、成形体を形成する。
【0035】
(発泡工程S13)
次に、上述の成形体を発泡させてスポンジ状グリーン成形体を作製する。
【0036】
(脱脂工程S14)
次に、上述のスポンジ状グリーン成形体をジルコニア製板の上に載せ、真空雰囲気中で加熱することにより、脱脂処理して脱脂処理体を得る。
【0037】
(焼結工程S15)
次に、上述の脱脂処理体を真空雰囲気中で50℃以下にまで冷却したのち又は冷却せずに真空雰囲気中で焼結し、チタン焼結部材を作製する。
【0038】
(蛇腹部材成形工程S02)
一方、エキスパンドチタン等の孔が形成されたチタン板を準備し、このチタン板を曲げ加工することにより、蛇腹部材20を得る。
【0039】
(接合工程S03)
上述のようにして得られたチタン焼結部材10と蛇腹部材20とを接合する。接合方法に特に制限はなく、溶接等の既存の方法を適用することができる。また、チタン焼結部材10と蛇腹部材20とを焼結によって一体化してもよい。
【0040】
以上のようにして、本実施形態である複合チタン部材1が製造されることになる。
【0041】
次に、本実施形態である水電解用電極及び水電解装置の概略図を
図4に示す。なお、本実施形態の水電解装置は、電解効率及び生成時の水素純度が高い、固体高分子形水分解装置とされている。
【0042】
本実施形態の水電解装置30は、
図4示すように、対向配置されたアノード極32及びカソード極33と、これらアノード極32とカソード極33との間に配置されたイオン透過膜34と、を備えた水電解セル31を備えている。なお、イオン透過膜34の両面(アノード極32との接触面及びカソード極33との接触面)には、それぞれ触媒層35,36が形成されている。
ここで、カソード極33、イオン透過膜34、触媒層35,36については、従来の一般的な固体高分子形水電解装置で使用されているものを適用することができる。
【0043】
そして、上述のアノード極32が、本実施形態である水電解用電極とされている。このアノード極32(水電解用電極)は、上述した本実施形態である複合チタン部材1で構成されている。
【0044】
上述の水電解装置30(水電解セル31)においては、
図4に示すように、アノード極32側から水(H
2O)が供給されるとともに、アノード極32及びカソード極33に通電される。すると、水の電解によって生じた酸素(O
2)がアノード極32から排出され、水素(H
2)がカソード極33から排出されることになる。
ここで、アノード極32においては、上述のように、水(液体)と酸素(気体)が流通することになるので、これら液体及び気体を安定して流通させるために、高い気孔率を有することが好ましい。また、アノード極32は酸素に晒されるため、優れた耐食性が求められる。このため、本実施形態である複合チタン部材1からなる水電解用電極が、アノード極32として特に適している。
【0045】
以上のような構成とされた本実施形態である複合チタン部材1によれば、3次元網目構造をなすチタン焼結部材10を備えているので、液体やガス等の流体を良好に流通させて拡散することが可能となる。
そして、このチタン焼結部材10の一面に接合され、チタン板が蛇腹に折り曲げられた構造の蛇腹部材20を備えているので、この蛇腹部材20によってチタン焼結部材10を隣接する部材に向けて押圧することができ、隣接する他の部材との密着性を向上させることが可能となる。
【0046】
ここで、本実施形態において、チタン焼結部材10における気孔率Pが50%以上95%以下の範囲内とされている場合には、液体やガス等の流体をさらに良好に流通させて拡散することが可能となるとともに、チタン焼結部材10自体の強度を確保することができ、取り扱い性を向上させることができる。
【0047】
また、本実施形態において、蛇腹部材20の厚みD(折り込み高さ)が0.3mm以上2.7mm以下の範囲内とされている場合には、その弾性力によって、チタン焼結部材10を隣接する部材に向けて十分に押圧することができるとともに、複合チタン部材1(水電解用電極)が必要以上に厚くなることを抑制できる。
さらに、本実施形態において、蛇腹部材20の気孔率が10%以上60%以下の範囲内とされている場合には、この蛇腹部材20においても、液体やガス等の流体をさらに良好に流通させて拡散することが可能となるとともに、強度が確保され、チタン焼結部材10を隣接する部材に向けて十分に押圧することができる。
【0048】
また、本実施形態において、蛇腹部材20を構成するチタン板が、エキスパンドチタンとされている場合には、蛇腹部材20においても、液体やガス等の流体をさらに良好に流通させて拡散することが可能となる。また、蛇腹部材20の弾性力によって、チタン焼結部材10を隣接する部材に向けて十分に押圧することができる。
【0049】
さらに、本実施形態である水電解用電極は、上述の複合チタン部材1で構成され、アノード極32として使用されているので、液体やガスの流通性に優れ、かつ、他の部材との接触性に優れており、隣接するイオン透過膜34及び触媒層35との接触抵抗を小さくすることができ、水電解を、効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【0050】
本実施形態である水電解装置30においては、上述した複合チタン部材1で構成された水電解用電極をアノード極32に用いているので、液体やガスの流通性に優れ、かつ、他の部材との接触性に優れており、隣接するイオン透過膜34及び触媒層35との接触抵抗を小さくすることができ、水電解を、効率良くかつ安定して行うことが可能となる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、
図4に示す構造の水電解装置(水電解セル)を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、本実施形態である複合チタン部材からなる水電解用電極を備えていれば、その他の構造の水電解装置(水電解セル)であってもよい。
また、本発明の複合チタン部材を、水電解装置以外の他の用途に使用してもよい。
【実施例】
【0052】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
まず、本発明例1-5においては、本実施形態で説明したチタン含有スラリー形成工程S11、成形工程S12、発泡工程S13、脱脂工程S14、焼結工程S15により、チタン焼結部材(幅35mm×長さ15mm×厚さは表1に記載)を得た。
なお、比較例1,2においては、チタン焼結部材の代わりに、表1に示す厚さのチタン板(幅35mm×長さ15mm)を準備した。
【0053】
また、蛇腹部材として、表1に示す気孔率、気孔径、気孔形状を有するチタン板を曲げ成形し、表1に示す厚さ(折り込み高さ)のものを準備した。
そして、本発明例1-5では、上述のチタン焼結部材の一面に蛇腹部材を接合し、複合チタン部材とした。
比較例1では、チタン板のみで構成した。
比較例2では、チタン板に表1に示す蛇腹部材を接合した。
【0054】
本発明例1-5及び比較例1,2の複合チタン部材について、接触抵抗を、以下のようにして評価した。
本発明例1-5及び比較例1,2の複合チタン部材を、カーボンペーパーと接触させ、これらを2枚の銅板で挟みこんだ。銅板に対して積層方向に0.2MPaの荷重を加えた状態で、カーボンペーパーと複合チタン部材の間に1Aの直流電流を流し、接触抵抗を測定した。評価結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
チタン板のみで構成された比較例1においては、接触抵抗が190mΩ・cm2と大きくなった。
チタン板に蛇腹部材を接合した構成の比較例2においては、接触抵抗が240mΩ・cm2と大きくなった。
【0057】
これに対して、3次元網目構造をなすチタン焼結部材に蛇腹部材をした構造の本発明例1-5においては、接触抵抗が130mΩ・cm2以下となり、カーボンペーパーと複合チタン部材とを十分に密着させることができた。
【0058】
以上のことから、本発明例によれば、他の部材と十分に接触することができる複合チタン部材を提供可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0059】
1 複合チタン部材
10 チタン焼結部材
20 蛇腹部材
30 水電解装置
32 アノード極(水電解用電極)