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  • 特許-土壌表面の固化方法 図1A
  • 特許-土壌表面の固化方法 図1B
  • 特許-土壌表面の固化方法 図2A
  • 特許-土壌表面の固化方法 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】土壌表面の固化方法
(51)【国際特許分類】
   B09C 1/00 20060101AFI20240123BHJP
   C09K 17/40 20060101ALI20240123BHJP
   C09K 17/32 20060101ALI20240123BHJP
   C09K 17/22 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
B09C1/00
C09K17/40 P ZAB
C09K17/32 P
C09K17/22 P
B09B5/00 S
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020055627
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021154198
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井出 一貴
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-056075(JP,A)
【文献】特開2015-199057(JP,A)
【文献】特開2000-328058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09C 1/00
C09K 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌表面に対してリグニンスルホン酸塩を含む溶液を散布する第1の処理と、
前記土壌表面に対してポリ塩化アルミニウム、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エステルのポリマー、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも一種類以上のカチオン系の材料を含む溶液を散布する第2の処理と、
を含む土壌表面の固化方法。
【請求項2】
前記第1の処理を行った後、前記第2の処理を行うことを特徴とする請求項1記載の土壌表面の固化方法。
【請求項3】
前記リグニンスルホン酸塩は、リグニンスルホン酸マグネシウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、及びリグニンスルホン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種類以上であることを特徴とする請求項1または2記載の土壌表面の固化方法。
【請求項4】
前記カチオン系の材料は、ポリ塩化アルミニウム、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、及びメタクリル酸エステルのポリマーからなる群から選択される少なくとも一種類以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の土壌表面の固化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌表面の固化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥している土壌や有害物質を含む汚染土壌を掘削する際、土壌表面を固化させたり湿潤状態にすることにより、粉塵の飛散を防止することが行われている。
【0003】
たとえば、従来から、リグニンスルホン酸塩を含む溶液を土壌表面に散布することにより、土壌表面を固化させ、粉塵の飛散を防止する手法が用いられている。或いは、特許文献1には、吸着剤を混合した水を汚染土壌に散布し、汚染土壌を湿潤状態にすることで、粉塵の飛散を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-75799公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リグニンスルホン酸塩は水に溶けやすい。よって、散布したリグニンスルホン酸塩が土壌表面を固化させる前に土壌が含む水の中に溶け出してしまうことがある。また、リグニンスルホン酸塩の溶液を散布する際、コスト面を考慮しつつ、散布に適した粘度となるまで濃度を下げた場合、土壌表面を固化する性能が低下する恐れがあるという問題があった。
【0006】
本発明は、土壌表面の固化をより確実に行うことが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施態様は、土壌表面に対してリグニンスルホン酸塩を含む溶液を散布する第1の処理と、前記土壌表面に対してカチオン系の材料を含む溶液を散布する第2の処理と、を含む土壌表面の固化方法である。
また、土壌表面の固化方法は、前記第1の処理を行った後、前記第2の処理を行うことができる。
また、前記リグニンスルホン酸塩は、リグニンスルホン酸マグネシウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、及びリグニンスルホン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種類以上である。
また、前記カチオン系の材料は、ポリ塩化アルミニウム、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、及びメタクリル酸エステルのポリマーからなる群から選択される少なくとも一種類以上である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、土壌表面の固化をより確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】実施例1-3、及び比較例1の支持強度を示すグラフである。
図1B】実施例4-6、及び比較例2の支持強度を示すグラフである。
図2A】実施例1及び実施例7の支持強度を示すグラフである。
図2B】実施例4及び実施例8の支持強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0011】
==土壌==
本実施形態に係る固化方法が実施される土壌は、乾燥している土壌や有害物質を含む汚染土壌である。有害物質は、たとえば土壌汚染対策法に規定されている第1種特定有害物質(すなわち、揮発性有機化合物)や第2種特定有害物質(すなわち、重金属)、或いはダイオキシン類である。
【0012】
本実施形態に係る固化方法は、掘削等の作業により粉塵が飛散しやすい状態にある土壌表面に対して行われることが好ましい。
【0013】
==リグニンスルホン酸塩==
リグニンスルホン酸塩は、土壌表面を固化させる材料として用いられる。
【0014】
リグニンスルホン酸塩は、リグニンの基本構造であるフェニルプロパン構造の側鎖α位を開裂させ、スルホン基を導入したものである。リグニンスルホン酸塩は、分子量数百から数百万の高分子である。また、リグニンスルホン酸塩は、水中で乖離する高分子電解質である。リグニンスルホン酸塩は、たとえば、リグニンスルホン酸マグネシウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、及びリグニンスルホン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも一種以上である。
【0015】
本実施形態に係る固化方法においては、リグニンスルホン酸塩を水で希釈した溶液を用いる。希釈倍率は、土壌表面を固化させることができれば特に限定されるものではない。なお、リグニンスルホン酸塩のコスト面、及び土壌表面を固化する性能を考慮すると、希釈倍率は16倍~32倍であることが好ましい。
【0016】
==カチオン系の材料==
カチオン系の材料は、リグニンスルホン酸塩が土壌表面を固化する性能を保つために用いられる。具体的には、リグニンスルホン酸塩がカチオン系の材料と反応してゲル化することにより、リグニンスルホン酸塩が土壌中に流出することを抑制し、土壌表面を確実に固化することができる。
【0017】
カチオン系の材料は、たとえば、ポリ塩化アルミニウム、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)のポリマー(すなわちアクリル樹脂)、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、及び硫酸アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種である。特に、短時間でのゲル化を行うためには、カチオン系の材料は、ポリ塩化アルミニウム、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、及びメタクリル酸エステルのポリマーからなる群から選択される少なくとも一種類以上であることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係る固化方法においては、カチオン系の材料を水で希釈した溶液を用いる。溶液の濃度は、リグニンスルホン酸塩をゲル化することができれば特に限定されるものではないが、少なくとも1重量%であることが好ましい。一方、リグニンスルホン酸塩の添加量に対してカチオン系の材料の添加量が多すぎる場合、ゲル化が妨げられる可能性がありうる。よって、溶液の濃度は、最大で10重量%程度とすることが好ましい。
【0019】
==土壌表面の固化方法==
本実施形態に係る固化方法は、第1の処理及び第2の処理を含む。第1の処理は、土壌表面に対してリグニンスルホン酸塩を含む溶液を散布する。第2の処理は、土壌表面に対してカチオン系の材料を含む溶液を散布する。
【0020】
第1の処理及び第2の処理を行う順番は特に限定されない。但し、土壌表面の固化をより確実に行うためには、第1の処理を行った後、第2の処理を行うことが好ましい。
【0021】
各溶液の散布は、散布する土壌の広さや土壌表面の状態等に応じて様々な方法で行うことができる。たとえば、バックホー等の重機に、各溶液を入れたタンク及び噴霧器を設置する。そして、溶液を散布する土壌近辺まで重機を移動させた後、噴霧器からタンク内の溶液を土壌表面に散布することができる。噴霧器の構成やタンクの容量等は、散布する土壌の広さや溶液の状態(たとえば溶液の粘度)に応じて適当なものを用いることができる。また、各溶液の散布量も土壌表面の状態等に応じて適宜設定することができる。
【0022】
本実施形態に係る固化方法によれば、散布したリグニンスルホン酸塩がカチオン系の材料によりゲル化する。よって、リグニンスルホン酸塩が土壌表面を固化させる前に土壌が含む水の中に溶け出す可能性が低いため、土壌表面の固化をより確実に行うことができる。その結果、土壌の掘削に伴う粉塵の飛散を防止することができる。
【0023】
==実施例==
[土壌を固化する性能について]
リグニンスルホン酸塩の土壌を固化する性能について実験を行った。
【0024】
(土壌)
土壌は、珪砂7号(瑞浪産)約4000gを容器に敷き詰めたものを用いた。容器のサイズは、312mm×237mm×d49mm(表面積は0.074m)である。
【0025】
(リグニンスルホン酸塩)
リグニンスルホン酸塩は、リグニンスルホン酸マグネシウム(P321粉体 日本製紙株式会社製)を用いた。散布用の溶液としては、リグニンスルホン酸マグネシウムを水で希釈したものを用いた。希釈倍率は16倍または32倍である。
【0026】
(カチオン系の材料)
カチオン系の材料は、実施例1及び実施例4ではPAC(ポリ塩化アルミニウム 大明化学株式会社製)を用い、実施例2及び実施例5ではPolyDADMAC(ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド 大明化学株式会社製)を用い、実施例3及び実施例6ではメタクリル酸メチルのポリマー(メタクリル樹脂。MTアクアポリマー株式会社製)を用いた。散布用の溶液としては、これらの材料を水で希釈したものを用いた。各溶液の濃度はいずれも1重量%である。
【0027】
(実験方法)
容器に敷き詰めた土壌の表面全体に対して均一になるよう、溶液の散布を行った。溶液の散布は、土壌に対して高さ10cm程度の位置から霧吹きを用いて行った。実施例1-6の場合、リグニンスルホン酸マグネシウムの溶液の散布を先に行い、その後、カチオン系の材料の溶液の散布を行った。各溶液の散布量は、2L/mである。なお、比較例1及び比較例2の場合、リグニンスルホン酸マグネシウムの溶液のみを散布した。
【0028】
各溶液を散布した土壌を室温(22℃)で1週間養生した。その後、当該土壌に対してコーン貫入試験を行った。コーン貫入試験は、プッシュコーン(大起理化工業株式会社製)を用いて貫入抵抗量を測定した。求めた貫入抵抗量を支持強度に換算した値により固化の性能を判定した。一般に、土壌の固化が進んでいる場合、支持強度は高い値を示す。
【0029】
【表1】
【0030】
(実験結果)
表1、図1A及び図1Bに示したように、実施例1-実施例6の場合、比較例1及び比較例2の場合と比べて、支持強度が高い値を示した。すなわち、リグニンスルホン酸マグネシウムの溶液及びカチオン系の材料の溶液を散布することにより、リグニンスルホン酸マグネシウムの溶液のみを散布する場合よりも、土壌の固化を確実に行うことができた。また、カチオン系の材料のうち、PolyDADMACを用いた場合(実施例2及び実施例5)が比較的高い支持強度を示した。これは、PolyDADMACがイオン性の強い材料であるため、ゲル化した際の強度が強くなったことに起因すると考えられる。また、実施例4-実施例6の結果から明らかなように、リグニンスルホン酸マグネシウムの溶液の希釈率を高くした場合であっても、リグニンスルホン酸マグネシウムの溶液のみを散布する場合より、土壌の固化を確実に行うことができた。
【0031】
[溶液を散布する順番について]
リグニンスルホン酸塩の溶液及びカチオン系の材料の溶液を散布する順番について実験を行った。
【0032】
(土壌、リグニンスルホン酸塩、カチオン系の材料)
土壌及びリグニンスルホン酸塩は、実施例1等で用いたものと同様である。実施例7及び実施例8において、カチオン系の材料は、PAC(ポリ塩化アルミニウム 大明化学株式会社製)を用いた。散布用の溶液としては、PACを水で希釈したものを用いた。溶液の濃度は1重量%である。
【0033】
(実験方法)
実施例7及び実施例8は、実施例1等と同様の方法により行った。但し、実施例7及び実施例8においては、PACの溶液の散布を先に行い、その後、リグニンスルホン酸マグネシウムの溶液の散布を行った。各溶液の散布量は2L/mである。
【0034】
【表2】
【0035】
(実験結果)
表2、図2A及び図2Bに示したように、リグニンスルホン酸マグネシウムの溶液及びカチオン系の材料の溶液を散布することにより、溶液の散布の順番によらず高い支持強度を得ることができた。一方、リグニンスルホン酸マグネシウムの溶液を先に散布した場合、カチオン系の材料の溶液を先に散布した場合よりも高い支持強度を得ることができた。これは、水に溶け易いリグニンスルホン酸マグネシウムが先に土壌中に浸透した結果、ゲル化される領域が広くなったためであると考えられる。逆に、カチオン系の材料は土壌に浸透し難いため、カチオン系の材料の溶液を先に散布した場合には、土壌表面でのみゲル化が進行したものと考えられる。
図1A
図1B
図2A
図2B