(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】セキュリティシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 11/02 20100101AFI20240123BHJP
B60R 25/24 20130101ALI20240123BHJP
E05B 49/00 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
G01S11/02
B60R25/24
E05B49/00 K
(21)【出願番号】P 2020056485
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】才木 崇史
(72)【発明者】
【氏名】三治 健一郎
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-174418(JP,A)
【文献】特開2019-083403(JP,A)
【文献】特開2019-176437(JP,A)
【文献】特開2015-040406(JP,A)
【文献】特開2017-218723(JP,A)
【文献】特開2006-118886(JP,A)
【文献】特開2019-128341(JP,A)
【文献】特開2020-046321(JP,A)
【文献】特開平11-252631(JP,A)
【文献】特開2020-101474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00 - 5/14
G01S 7/00 - 7/42
G01S 11/00 - 13/95
G01S 19/00 - 19/55
B60R 25/24
E05B 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯端末(102)と、前記携帯端末と通信する通信装置(103)と、前記携帯端末の正当性を判断する判断部(305)とを有するセキュリティシステム(100)であって、
前記携帯端末は、
距離を推定するための特定周波数の測距用電波を送信するとともに、前記特定周波数で前記通信装置から送信された測距用電波を受信する端末通信部(21,22)と、
前記端末通信部を制御する端末制御部(20)と、
前記端末通信部が前記通信装置から送信された前記測距用電波を受信すると、
前記特定周波数で前記通信装置から送信された前記測距用電波から
第1の位相データを取得する端末取得部(24)と、を含み、
前記通信装置は、
前記特定周波数で前記測距用電波を送信するとともに、前記携帯端末から前記特定周波数で送信された前記測距用電波を受信する装置通信部(31)と、
前記装置通信部を制御する装置制御部(30)と、
前記装置通信部が前記携帯端末から送信された前記測距用電波を受信すると、
前記特定周波数で前記携帯端末から送信された前記測距用電波から
第2の位相データを取得する装置取得部(304)と、を含み、
前記判断部は、前記端末取得部が取得した前記
第1の位相データと前記装置取得部が取得した前記
第2の位相データとが一致する場合には、前記携帯端末と前記通信装置との通信は正当であると判断するセキュリティシステム。
【請求項2】
前記判断部は、前記端末取得部が取得した前記位相データを用いて距離測定アルゴリズムにより決定される距離関連データと、前記装置取得部が取得した前記位相データを用いて前記距離測定アルゴリズムにより決定される距離関連データとが一致する場合には、前記端末取得部が取得した前記位相データと前記装置取得部が取得した前記位相データとが一致すると判断する請求項1に記載のセキュリティシステム。
【請求項3】
前記装置通信部は、複数の前記特定周波数の前記測距用電波を前記携帯端末に送信し、
前記端末通信部は、前記通信装置から送信された前記測距用電波を受信する毎に、受信した前記測距用電波と同じ前記特定周波数の前記測距用電波を前記通信装置に送信し、
前記判断部は、前記装置通信部が受信した前記位相データと前記装置取得部が取得した前記位相データとを前記特定周波数毎に比較し、全部の前記特定周波数において前記装置通信部が受信した前記位相データと前記装置取得部が取得した前記位相データとが一致する場合には、前記携帯端末と前記通信装置との通信は正当であると判断する請求項1または2に記載のセキュリティシステム。
【請求項4】
前記携帯端末と前記通信装置との距離を推定する距離推定部(307)をさらに備え、
前記距離推定部は、1つの前記特定周波数における前記位相データと別の前記特定周波数における前記位相データとの組み合わせを少なくとも2組用い、それぞれの組の2つの前記位相データからそれぞれ決定される位相差に基づいて、前記携帯端末と前記通信装置との距離を前記特定周波数の組み合わせ別に推定し、
前記判断部は、前記特定周波数の組み合わせ別の距離の差が所定範囲以内である場合であり、かつ少なくとも1つの前記特定周波数において前記端末取得部が取得した前記位相データと前記装置取得部が取得した前記位相データとが一致する場合には、前記携帯端末と前記通信装置との通信は正当であり、かつ推定した距離を採用する請求項3に記載のセキュリティシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、通信装置と通信する携帯端末の正当性を判断するセキュリティシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の解錠及び施錠を無線で制御するシステムとして、車両に設置された車載器とユーザにより所持される携帯機とを備えるリモートキーレスエントリーシステム(以下「RKEシステム」という)が利用されている。RKEシステムでは、車載器が定期的にリクエスト信号を無線で送信し、車両に接近したユーザの携帯機が当該リクエスト信号に応じてアンサー信号を返信し、車載器が当該アンサー信号に基づいて携帯機を認証し、認証結果に応じて車両の解錠及び施錠を制御する。
【0003】
RKEシステムを採用した車両の盗難方法として、リレーアタックが知られている。リレーアタックは、中継器によって、車両から離れたユーザの携帯機までリクエスト信号を中継することにより、携帯機にアンサー信号を送信させ、車両を不正に解錠する方法である。このリレーアタックに対する対策として、車載器と携帯機と間の距離を測定し、距離が所定の距離以上と判断したときは通信による車の制御を禁止する方法がある(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車載器と携帯機と間の距離を測定する方法として、通信時の位相差を用いる方法がある。この方法では、車載器と携帯機間で複数の周波数で通信した際に、それぞれの周波数の通信時の位相を検出し、周波数間の位相差で距離を推定している。
【0006】
このような位相差を用いる場合、車両および地面等の反射の影響、いわゆるマルチパスによる影響を考慮する必要がある。マルチパスを除去する方法として、観測した波形を到達時間毎に分解し、到達時間の最も早い電波を直接波とする方法がある。この方法の場合、測距対象よりも近くに電波発生器を置いた場合、正しく測距できないという課題がある。例えば、車載器と携帯機との間に電波発生器を設置し、携帯機よりも到達時間の早い電波を作ることで、その電波を直接波であると車載器が勘違いすると、測距値を誤って算出するおそれがある。
【0007】
そこで、開示される目的は前述の問題点を鑑みてなされたものであり、通信装置と携帯端末が通信する場合において、通信装置と携帯端末との通信の正当性を精度良く判断できるセキュリティシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は前述の目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0009】
ここに開示されたセキュリティシステムは、携帯端末(102)と、携帯端末と通信する通信装置(103)と、携帯端末の正当性を判断する判断部(305)とを有するセキュリティシステム(100)であって、携帯端末は、距離を推定するための特定周波数の測距用電波を送信するとともに、特定周波数で通信装置から送信された測距用電波を受信する端末通信部(21,22)と、端末通信部を制御する端末制御部(20)と、端末通信部が通信装置から送信された測距用電波を受信すると、特定周波数で通信装置から送信された測距用電波から第1の位相データを取得する端末取得部(24)と、を含み、通信装置は、特定周波数で測距用電波を送信するとともに、携帯端末から特定周波数で送信された測距用電波を受信する装置通信部(31)と、装置通信部を制御する装置制御部(30)と、装置通信部が携帯端末から送信された測距用電波を受信すると、特定周波数で携帯端末から送信された測距用電波から第2の位相データを取得する装置取得部(304)と、を含み、判断部は、端末取得部が取得した第1の位相データと装置取得部が取得した第2の位相データとが一致する場合には、携帯端末と通信装置との通信は正当であると判断する。
【0010】
このようなセキュリティシステムに従えば、位相データを用いて携帯端末と通信装置との通信の正当性を判断している。受信した測距用電波の位相データは、送信元との距離よって変化する。通信装置と携帯端末とを固定した状態で、通信装置と携帯端末とが相互に同じ特定周波数の測距用電波を送受信した場合、通信装置が受信した測距用電波の位相データと携帯端末が受信した測距用電波の位相データとは同じになる。位相データとは、たとえば極形式データまたはIQデータとも呼ばれ、時系列の信号を正弦波の振幅、周波数および位相の時間関数で表した極形式(極座標形式)のデータのことである。たとえば通信装置と携帯端末との間に電波発生器を設置した場合、通信装置が電波発生器から受信した測距用電波の位相データと、携帯端末が通信装置から取得した測距用電波の位相データとは、一致しない。したがって電波発生器によるリレーアタックを防ぐことができる。このように双方向の位相データを用いることで、通信装置と携帯端末の通信の正当性を精度良く判断することができる。
【0011】
なお、前述の各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】車載装置103の送信処理を示すフローチャート
【
図7】車載装置103の受信処理を示すフローチャート
【
図8】複数の特定周波数における測距用電波の送受信を説明する図
【
図9】第2実施形態の車載装置103の受信処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態を、複数の形態を用いて説明する。各実施形態で先行する実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付すか、または先行の参照符号に一文字追加し、重複する説明を略する場合がある。また各実施形態にて構成の一部を説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している実施形態と同様とする。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
【0014】
(第1実施形態)
本開示の第1実施形態に関して、
図1~
図8を用いて説明する。車載システム100は、車両105に搭載された車載装置103と、車両105のユーザによって携帯される携帯端末である携帯機102と、を備えている。携帯機102は、車載装置103と対応付けられてあって、車両105に対する固有のキーとしての機能を備えている。車載装置103と携帯機102はそれぞれ、リモートキーレスエントリーシステムを実現するための機能を有している。
【0015】
携帯機102は、ユーザによって操作される複数の端末スイッチ23を備えており、ユーザによって操作された端末スイッチ23に応じた指示信号を車載装置103に送信する。車載装置103は、携帯機102から送信された指示信号を受信すると、その受信した指示信号に応じた車両制御を実行する。例えば、車載装置103は、携帯機102から送信されてきた指示信号に基づいて、車両ドアの施錠状態を制御する。
【0016】
また、車載装置103と携帯機102はそれぞれ、互いに所定の周波数帯の電波を用いた無線通信を実施することで、スマートエントリーシステムを実現するための機能も有している。具体的には、車載装置103は、車室内および車両105の周辺の所定範囲に向けて信号を送信する機能と、携帯機102から送信される信号を受信する機能を有する。また、携帯機102は、車載装置103から送信される信号を受信する機能と、車載システム100に対して所定の信号を返送する機能を有する。
【0017】
このような構成において車載装置103は、携帯機102が照合エリアに存在する場合、携帯機102と無線通信による照合処理を実施し、照合が成立したことに基づいて、ドアの施開錠やエンジン始動等を実施するための種々の制御を実行する。照合処理とは、車載装置103が、自分自身と無線通信を実施している通信端末が、車載装置103と対応付けられている正規の携帯機102であることを認証する処理である。
【0018】
車載装置103が無線通信によって照合エリアに存在する携帯機102を認証することにより、携帯機102を携帯したユーザは、携帯機102を操作すること無く、ドアの施錠および開錠、エンジンの始動および停止などを実現することができる。
【0019】
次に、携帯機102に関して
図2を用いて説明する。携帯機102は、端末受信回路21、端末送信回路22および端末制御部20を含んで構成される。また携帯機102は、端末受信アンテナ26、端末送信アンテナ25、および端末スイッチ23を備える。
【0020】
端末受信回路21および端末送信回路22は、端末通信部として機能し、他の装置、たとえば車載装置103とデータを送受信する。端末受信回路21は、携帯機102側の端末受信アンテナ26を用いて他の装置からの信号を受信し、受信した信号を端末制御部20に送信する。端末送信回路22は、端末制御部20に制御されて、端末送信アンテナ25を用いて他の装置へ所定の信号を送信する。
【0021】
端末受信アンテナ26は、電波を受信するためのアンテナである。端末受信アンテナ26は端末受信回路21と接続されており、受信した電波を電気信号に変換して端末受信回路21に出力する。
【0022】
端末受信回路21は、端末受信アンテナ26から入力される信号に対して、アナログデジタル変換や、復調および復号などといった、所定の処理を施すことで、受信信号に含まれるデータを抽出する。端末受信回路21は、抽出したデータを端末制御部20に与える。端末受信回路21は、距離を計測するための測距用電波を受信すると受信データを端末制御部20に与える。
【0023】
端末スイッチ23は、ユーザがキーレスエントリーシステムとしての機能を利用するためのスイッチである。携帯機102は、例えば端末スイッチ23として、全ドアを施錠するためのスイッチや、全ドアを開錠するためのスイッチを備える。種々のスイッチは、ユーザによって押下された場合に、そのスイッチが押下されたことを示す制御信号を端末制御部20に出力する。
【0024】
端末スイッチ23から入力される制御信号によって、端末制御部20は、車両105に設けられている種々のドアの施錠/開錠といった施錠状態を制御するためのユーザ操作が実行されたことを検出するとともに、その指示内容を特定できる。
【0025】
端末制御部20は、CPU、RAM、ROM、I/O等を備えるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ROMには通常のマイクロコンピュータを、端末制御部20として機能させるための制御プログラムが格納されている。
【0026】
端末制御部20は、CPUがROMに格納されている制御プログラムを実行することによって、スマートエントリーシステム等を実現するための携帯機102側の処理を実行する。なお、ROMには制御プログラムの他、携帯機102の固有の識別情報である端末側IDが格納されている。端末制御部20は、たとえば端末側IDと車両側IDとを用いて照合を行う。たとえば予め所定の端末側IDと所定の車両側IDとが1対1で紐付けられており、互いに相手装置のIDを取得したときに、紐付けられているIDであるか否かで照合を行う。
【0027】
端末制御部20は、車載装置103に送信する信号を生成し、端末送信回路22に出力する。例えば端末受信回路21が、車載装置103が送信した信号、たとえば照合するためのリクエスト信号を受信した場合には、当該受信信号に対する応答として送信するべき所定の信号、たとえばレスポンス信号を生成し、端末送信回路22に出力する。
【0028】
ユーザによって所定の端末スイッチ23が押下されたことを示す制御信号が入力された場合には、その制御信号を出力した端末スイッチ23に対応する車両制御を実行するように指示する指示信号を生成する。例えば、全ドアを開錠するためのスイッチが押下された場合には、全ドアを開錠するように指示する指示信号を生成して、端末送信回路22に出力する。
【0029】
端末制御部20は、機能ブロックとして端末取得部24を備える。端末取得部24は、測距用電波を受信すると、測距用電波の受信データから位相データを取得する。測距用電波は、車載装置103と携帯機102との距離を推定するための計測データである。測距用電波は、車載装置103から送信される。端末制御部20は、取得した位相データを車載装置103に送信するように端末送信回路22を制御する。
【0030】
位相データとは、たとえば極形式データまたはIQデータとも呼ばれ、時系列の信号を正弦波の振幅、周波数および位相の時間関数で表した極形式(極座標形式)のデータのことである。たとえば次式(1)によって表される。
【0031】
A(t)・cos(2πf(t)・t+φ(t)) …(1)
ここで、A(t)は正弦波の振幅、f(t)は周波数、φ(t)は位相であり、それぞれ時間tの関数である。式(1)で表現される正弦波は、複素数(I+jQ)を用いた極形式で表すことができる。
【0032】
また端末制御部20は、位相データを送信するときに、特定周波数の測距用電波を送信するように端末送信回路22を制御する。測距用電波は、位相が予め所定値、たとえば0に設定されている。この所定値は、後述する車載装置103も同じ値である。測距用電波の特定周波数は、紐付けられた車載装置103と予め所定のタイミングで所定の特定周波数となるように設定されている。たとえば車載装置103と携帯機102は時刻同期しており、測距用電波を送信する時刻が事前に設定された時間帯に対応する特定周波数を送信する。たとえば第1時間帯t1と第1周波数f1とが対応し、第1時間帯t1が経過した後の第2時間帯t2と第2周波数f2とが対応する。このように特定周波数が時間帯により異なっていれば、複数の異なる特定周波数で測距用電波が生成されて、車載装置103に送信される。
【0033】
端末送信回路22は、端末制御部20から入力されたベースバンド信号に対して符号化、変調、デジタルアナログ変換等といった所定の処理を施すことで、ベースバンド信号を搬送波信号に変換する。端末送信回路22は、生成した搬送波信号を、端末送信アンテナ25に出力する。端末送信アンテナ25は、入力された信号を電波に変換して空間へ放射する。また端末送信回路22は、端末制御部20が生成した特定周波数の測距用電波を送信する。
【0034】
次に、車載装置103に関して
図3を用いて説明する。車載装置103は、他の装置、たとえば携帯機102と通信する通信機能を有し、通信装置としても機能する。車載装置103は、スマートエントリーシステムやキーレスエントリーシステムを実現するための種々の処理を実行する。車載装置103は、照合ECU(Electronic Control Unit)30、車両通信モジュール31、車両状態センサ32、始動スイッチ(以下、始動SW)33、施解錠スイッチ(以下、施解錠SW)34、ボデーECU35およびパワーユニットECU36を含んでいる。
【0035】
車両通信モジュール31は、車載の通信モジュールである。車両通信モジュール31は、携帯機102と通信する装置通信部として機能する。車両通信モジュール31は、ネットワークに接続することで、クラウドシステムを経由した通信も可能である。車両通信モジュール31としては、例えばDCM(Data Communication Module)を用いればよい。車両通信モジュール31は、メモリを含んでおり、例えば車両側IDをこのメモリに予め記憶している構成とすればよい。そして、車両通信モジュール31は、通信接続する場合に、例えばメモリに記憶している車両側IDを通信接続先に送信する構成とすればよい。
【0036】
車両通信モジュール31は、複数、少なくとも3つの車載側アンテナ106に接続されている。本実施形態では、車両通信モジュール31は、3つの車載側アンテナ106に接続されている。3つの車載側アンテナ106は、車両105の異なる位置、たとえば左側部、前方部、右側部にそれぞれ搭載されている。本実施形態では、3つの車載側アンテナ106が1つの車両通信モジュール31に接続されているがこのような構成に限るものではない。3つの車両通信モジュール31を有し、各車両通信モジュール31に車載側アンテナ106を有する構成でもよい。
【0037】
車載側アンテナ106は、入力された信号を電波に変換して空間へ放射する。また車載側アンテナ106は、電波を受信し、電気信号に変換する。変換した電気信号は、車両通信モジュール31に出力される。
【0038】
車載側アンテナ106は、例えば送受信アンテナとするが、送信アンテナと受信アンテナとを別に有する構成であってもよい。また、近距離無線通信としては、利便性の点から、多機能型携帯電話機で標準的に用いられているWi-Fi(登録商標)等の近距離無線通信規格に従った近距離無線通信を採用することが好ましい。また3つの車載側アンテナ106のうち、測距用電波を送受信する車載側アンテナ106は1つである。測距用電波の電波距離を送信と受信と同じにするためである。
【0039】
車両通信モジュール31は、照合ECU30から入力されたベースバンド信号に対して符号化、変調およびデジタルアナログ変換等といった所定の処理を施すことで、搬送波信号に変換する。そして車両通信モジュール31は、ベースバンド信号を元に生成した搬送波信号を車載側アンテナ106に出力し、電波として放射させる。
【0040】
また車両通信モジュール31は、車載側アンテナ106から入力される信号に対して、アナログデジタル変換や、復調および復号などといった、所定の処理を施すことで、受信信号に含まれるデータを抽出する。そして車両通信モジュール31は、抽出したデータを照合ECU30に与える。
【0041】
車両状態センサ32は、自車の走行状態、操作状態等の車両105の挙動に関する情報を検出するためのセンサ群である。車両状態センサ32としては、例えば、車速を検出する車速センサ、シフトポジションを検出するシフトポジションセンサ等がある。
【0042】
始動SW33は、自車の走行駆動源の始動を要求するためのスイッチである。始動SW33は、例えば運転席前方に設けられる。始動SW33としては、例えばメカニカルなボタンスイッチを用いることができる。
【0043】
施解錠SW34は、運転席のドア、助手席のドア、トランクルームドアといった自車の車両ドアの施解錠を要求するためのスイッチである。施解錠SW34は、運転席および助手席のドアについては、例えばアウタードアハンドルに設けられる。施解錠SW34は、トランクルームドアについては、例えばリアバンパに設けられる。施解錠SW34としては、例えばタッチスイッチを用いたり、メカニカルなボタンスイッチを用いたりすることができる。
【0044】
ボデーECU35は、自車の各車両ドアの施解錠を制御するための駆動信号を各車両ドアに設けられたドアロックモータに出力することで、各車両ドアの施解錠を行う。ボデーECU35は、施錠信号をドアロックモータに出力することでドアロックの施錠を行わせる。ボデーECU35は、解錠信号をドアロックモータに出力することでドアロックの解錠を行わせる。ボデーECU35には、各車両ドアについての施解錠SW34が接続されている。ボデーECU35は、施解錠SW34の信号を取得し、施解錠SW34の操作を検出する。
【0045】
パワーユニットECU36は、自車の内燃機関又はモータジェネレータといった走行駆動源を制御する電子制御装置である。パワーユニットECU36は、照合ECU30から走行駆動源の始動許可信号を取得すると、自車の走行駆動源を始動させる。またパワーユニットECU36は、運転席に着座している乗員の運転操作を支援する処理を実行するECUとしても機能する。
【0046】
照合ECU30は、例えばプロセッサ、メモリ、I/O、これらを接続するバスを備え、メモリに記憶された制御プログラムを実行することで自車の利用を許可する認証に関する各種の処理を実行する。ここで言うところのメモリは、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。また、非遷移的実体的記憶媒体は、半導体メモリ又は磁気ディスク等によって実現される。照合ECU30は、CPUが各種のプログラムを実行することによって、スマートエントリーシステム等を実現するための車両側の処理を実行する。
【0047】
次に、
図4を用いて、照合ECU30の概略的な構成の一例について説明を行う。
図4に示すように、照合ECU30は、トリガ検出部301、送信処理部302、記憶部303、受信処理部304、照合部305、許可部306および距離推定部307を機能ブロックとして備えている。この照合ECU30が車載装置103に相当する。なお、照合ECU30が実行する機能の一部又は全部を、1つ或いは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。また、照合ECU30が備える機能ブロックの一部又は全部は、プロセッサによるソフトウェアの実行とハードウェア部材の組み合わせによって実現されてもよい。
【0048】
受信処理部304は、携帯機102から送信されてくる応答信号を、車両通信モジュール31を介して受信する。また受信処理部304は、携帯機102から送信される測距用電波から位相データ(以下、「車取得位相データ」ということがある)を取得する。受信処理部304は、取得した車取得位相データを距離推定部307および照合部305に与える。したがって受信処理部304は、測距用電波から位相データを取得する装置取得部としても機能する。
【0049】
また受信処理部304は、携帯機102から送信される応答信号に携帯機102が受信した測距用電波の位相データ(以下、「端末取得位相データ」ということがある)が含まれている場合には、端末取得位相データを照合部305に与える。したがって車載装置103が送信した測距用電波から端末取得部24が取得した端末取得位相データと、携帯機102が送信した測距用電波から受信処理部304が取得した車取得位相データの2つの位相データが照合部305に与えられる。
【0050】
距離推定部307は、車載側アンテナ106が受信した特定周波数が異なる複数の車取得位相データから携帯機102までの距離を算出する。距離推定部307は、受信処理部304から与えられた複数の車取得位相データを用いて、たとえば1つの車取得位相データと他の車取得位相データを用いて携帯機102からの距離を算出する。具体的には、距離推定部307は、1つの特定周波数における測距用電波の車取得位相データと別の特定周波数における測距用電波の車取得位相データとの組み合わせを少なくとも2組用い、それぞれの組に含まれる2つの車取得位相データの位相差に基づいて距離を推定する。距離推定部307は、たとえば取得した複数の車取得位相データを最適化して距離を推定する。距離推定部307は、距離推定アルゴリズムとしてMUSIC(MUltiple SIgnal Classification)法を用いて距離を推定する。そして距離推定部307は、特定周波数の組み合わせ別の距離の差が所定範囲以内である場合には推定した距離を採用し、所定範囲外である場合には推定した距離を採用しないように制御する。
【0051】
送信処理部302は、車両通信モジュール31を介して照合するためリクエスト信号を送信させる。また送信処理部302は、距離を計測するための測距用電波を複数の異なる特定周波数で生成し、車両通信モジュール31を介して複数の測距用電波を送信させる。特定周波数の決定方法は、前述の携帯機102の決定方法と同じである。
【0052】
記憶部303は、例えば電気的に書き換え可能な不揮発性メモリであって、たとえば車両側IDが記憶されている。また記憶部303には、スマートエントリーシステム等を実現するための各種の実行プログラムなどが格納されている。
【0053】
照合部305は、携帯機102との通信を用いて、携帯機102が予め設定されている正規の携帯機102であるか否かを判断する判断部として機能する。具体的には、照合部305は、リクエスト信号の応答としてのレスポンス信号を車両通信モジュール31を介して受信し、レスポンス信号に含まれるIDを照合することにより、携帯機102を照合する。照合は、携帯機102から受信するレスポンス信号に含まれる端末側IDと記憶部303に登録されている車両側IDとの間で行う。照合ができた場合には、位相データを用いた次の認証を行う。
【0054】
具体的には、照合部305は、レスポンス信号が正規の携帯機102から送信されたか否かを判断するため位相データを用いる。照合部305は、同じ特定周波数における車取得位相データと端末取得位相データとが一致するか否かを判断し、一致する場合には、正規のユーザの携帯機102である判断する。これによって認証が成立する。
【0055】
トリガ検出部301は、自車の利用に関するトリガを検出する。自車の利用のシチュエーションとしては、ユーザの乗車のための車両ドアの開放、自車の始動、トランクルームドアの開放等が挙げられる。
【0056】
ユーザの乗車のための車両ドアの開放に関するトリガ(以下、乗車トリガ)は、以下のようにして検出すればよい。トリガ検出部301は、車両状態センサ32での検出結果から自車の駐車を判定し、且つ、運転席若しくは助手席のドアについての施解錠SW34が操作されたことを検出した場合に、乗車トリガを検出すればよい。自車の駐車は、例えばシフトポジションセンサで検出するシフトポジションが駐車位置であることから判定すればよい。また、車速センサで検出する車速が停車を示す値であることから判定してもよい。施解錠SW34が操作されたことは、施解錠SW34の信号から検出すればよい。
【0057】
自車の始動に関するトリガ(以下、始動トリガ)は、以下のようにして検出すればよい。トリガ検出部301は、始動SW33が操作されたことを検出した場合に、始動トリガを検出すればよい。始動SW33が操作されたことは、始動SW33の信号から検出すればよい。
【0058】
トランクルームドアの開放に関するトリガ(以下、トランク開放トリガ)は、以下のようにして検出すればよい。トリガ検出部301は、車両状態センサ32での検出結果から自車の駐車を判定し、且つ、トランクルームドアについての施解錠SW34が操作されたことを検出した場合に、トランク開放トリガを検出すればよい。
【0059】
許可部306は、照合部305の認証結果に基づいて、正規の携帯機102の場合には車両105の利用の許可し、正規の携帯機102でない場合には車両105の利用を禁止する装置制御部として機能する。許可部306は、トリガ検出部301で乗車トリガを検出した場合であって、且つ、照合部305で認証が成立した場合に、解錠信号を全車両ドアのドアロックモータに出力し、全車両ドアの解錠を行う。
【0060】
許可部306は、トリガ検出部301で始動トリガを検出した場合であって、且つ、照合部305で照合が成立した場合に、走行駆動源の始動許可信号をパワーユニットECU36に出力し、走行駆動源の始動を行う。許可部306は、トリガ検出部301でトランク開放トリガを検出した場合であって、且つ、照合部305で照合が成立した場合に、解錠信号をトランクルームドアのドアロックモータに出力し、トランクルームドアの解錠を行う。この場合、トランクルームドア以外は解錠しない構成とすればよい。
【0061】
また許可部306は、照合部305の認証結果に基づいて、正規の携帯機102からの信号でない場合には、通常は車両105に対する機能の利用を禁止している。車両105の不正使用を防ぐためである。
【0062】
次に、
図5~
図8を用いて、携帯機102を照合する照合処理に関して説明する。
図5のフローは、車載装置103の照合ECU30によって短時間に繰り返し実行される。ステップS1では、測距用電波の送信指令の有無を判断し、送信指令があればステップS2に移り、送信指令がない場合には本フローを終了する。送信指令は、たとえば他の装置から与えられる指令、および定期的に与えられる指令である。
【0063】
ステップS2では、送信する測距用電波の周波数を決定し、ステップS3に移る。周波数fは、たとえば予め複数、たとえばk個設定されており、予め携帯機102と決定している決定規則によってf(1)からf(k)の間で決定する。ステップS3では、ステップS2で設定した周波数の測距用電波を送信し、本フローを終了する。
【0064】
次に、携帯機102の処理に関して説明する。
図6のフローは、携帯機102の端末制御部20によって短時間に繰り返し実行される。ステップS11では、測距用電波を受信したか否かを判断し、受信した場合はステップS12に移り、受信していない場合は本フローを終了する。
【0065】
ステップS12では、測距用電波を受信したので、測距用電波から位相データを端末取得位相データとして取得し、ステップS13に移る。ステップS13では、端末取得位相データを車載装置103に送信し、ステップS14に移る。
【0066】
ステップS14では、送信する測距用電波の周波数を決定し、ステップS15に移る。周波数fは、前述のように決定規則によってf(1)からf(k)の間で決定する。したがって受信した測距用電波の同じ特定周波数の測距用電波となる。ステップS15では、ステップS2で設定した周波数の測距用電波を送信し、本フローを終了する。
【0067】
このように携帯機102は、測距用電波を受信すると位相データを取得し、取得した位相データと共に特定周波数の測距用電波を送信する。
【0068】
次に、車載装置103の処理に関して説明する。
図7のフローは、車載装置103の照合ECU30によって短時間に繰り返し実行される。ステップS21では、測距用電波を受信したか否かを判断し、受信した場合はステップS22に移り、受信していない場合は本フローを終了する。
【0069】
ステップS22では、測距用電波を受信したので、測距用電波から位相データを車取得位相データとして取得し、ステップS23に移る。ステップS23では、携帯機102からの端末取得位相データを受信したか否かを判断し、受信した場合はステップS24に移り、受信していない場合は、ステップS25に移る。ステップS25では、タイムアウト時間以内であるか否かを判断し、タイムアウト時間以内である場合にはステップS23に戻り、タイムアウト時間を経過したら本フローを終了する。タイムアウト時間を経過すると、送信した測距用電波に対する応答が携帯機102から無かったと判断する。
【0070】
ステップS24では、取得した車取得位相データと受信した端末取得位相データとが一致するか否かを判断し、一致する場合にはステップS26に移り、一致しない場合にはステップS27に移る。またステップS24では、1つの特定周波数における位相データの一致か否かを判断しているが、全ての特定周波数について位相データの一致か否かを判断してもよい。したがってこの場合には、車取得位相データと端末取得位相データとを特定周波数毎に比較し、全部の特定周波数において車取得位相データと端末取得位相データとが一致する場合には、ステップS26に移り、一致しない場合にはステップS27に移る。
【0071】
ステップS26では、2つの位相データが一致したので、通信元が正規の携帯機102であると判断し、本フローを終了する。すなわち照合が成立したと判断する。ステップS27では、2つの位相データが一致していないので、通信元が正規の携帯機102でないと判断し、本フローを終了する。すなわち照合が不成立であると判断する。
【0072】
ステップS26の処理は、具体的には、
図8に示すように、複数の特定周波数について位相データを取得し判断することが好ましい。たとえば第1周波数f1の測距用電波を車載装置103から携帯機102に送信すると、携帯機102では受信した測距用電波から位相a1を含む位相データを取得する。そしてその応答として同じ第1周波数f1の測距用電波を携帯機102から車載装置103に送信すると、車載装置103では受信した測距用電波から位相b1を含む位相データを取得する。車載装置103と携帯機102がともに動いていない場合は、距離が変わらない。そして同じ第1周波数f1であり初期位相も同じであるので、端末取得位相データの位相a1と車取得位相データの位相b1と同じである。したがって位相データを比較することで、2つの装置間で、送受信された測距用電波の距離が同じことがわかるので、位相データが一致したら正規の携帯機102であると判断することができる。これは第1周波数だけでなく、他の各第2周波数f2~第k周波数fkにおいても、それぞれ2つの位相データを比較する。ここでkは、自然数であり、たとえば最大値が80である。
【0073】
以上説明したように本実施形態の車載システム100は、携帯機102を認証して、正当性を判断するセキュリティシステムとして機能する。そして測距用電波から取得した位相データを用いて携帯機102と車載装置103との通信の正当性を判断している。受信した測距用電波の位相データは、送信元との距離よって変化する。車載装置103と携帯機102とを固定した状態で、車載装置103と携帯機102とが相互に同じ特定周波数の測距用電波を送受信した場合、車取得位相データと端末取得位相データとは同じになる。たとえば車載装置103と携帯機102との間に電波発生器を設置した場合、車載装置103が電波発生器から受信した測距用電波の位相データと、携帯機102が通信装置から取得した測距用電波の位相データとは、一致しない。したがって電波発生器によるリレーアタックを防ぐことができる。このように双方向の位相データを用いることで、車載装置103と携帯機102の通信の正当性を精度良く判断することができる。
【0074】
また本実施形態では、複数の特定周波数の測距用電波を用いて、全ての特定周波数における車取得位相データと端末取得位相データとが一致する場合には、照合成立と判断している。したがって複数の特定周波数を用いるので、より正当性を精度良く判断することができる。
【0075】
(第2実施形態)
次に、本開示の第2実施形態に関して、
図9を用いて説明する。本実施形態では、距離も推定して、携帯機102の正当性を判断している点に特徴を有する。
図9のフローは、
図7のフローに類似しており、車載装置103の照合ECU30によって短時間に繰り返し実行される。ステップS31では、測距用電波を受信したか否かを判断し、受信した場合はステップS32に移り、受信していない場合は本フローを終了する。
【0076】
ステップS32では、測距用電波を受信したので、測距用電波から位相データを車取得位相データとして取得し、ステップS33に移る。ステップS33では、携帯機102からの端末取得位相データを受信したか否かを判断し、受信した場合はステップS34に移り、受信していない場合は、ステップS35に移る。ステップS35では、タイムアウト時間以内であるか否かを判断し、タイムアウト時間以内である場合にはステップS33に戻り、タイムアウト時間を経過したら本フローを終了する。タイムアウト時間を経過すると、送信した測距用電波に対する応答が携帯機102から無かったと判断する。
【0077】
ステップS34では、取得した車取得位相データと受信した端末取得位相データとが一致するか否かを判断し、一致する場合にはステップS36に移り、一致しない場合にはステップS39に移る。ここでステップS34では、比較するデータは位相データそのものではなく、位相データから演算した距離関連データである。具体的には、端末取得位相データを用いて距離測定アルゴリズムにより決定される距離関連データと、車取得位相データを用いて距離測定アルゴリズムにより決定される距離関連データとが一致するか否かを判断する。距離測定アルゴリズムは、たとえば位相データを周波数と振幅との関係で示す周波数スペクトルで生成アルゴリズムである。距離関連データは、周波数スペクトルである。
【0078】
ステップS36では、2つの位相データが一致したので、車取得位相データを用いて距離を推定し、ステップS37に移る。距離の推定は、受信した位相データに含まれる位相を用いて行われる。具体的には、
図8に示すように、複数の周波数について位相を取得し、たとえば基準となる第1周波数f1と、他の各第2周波数f2~第k周波数fkとの位相差を用いて車載装置103と携帯機102との距離を算出する。ここでkは、自然数であり、たとえば最大値が80である。距離推定部307は、第1周波数f1における測距用電波の位相と別の周波数、たとえば第2周波数f2などにおける測距用電波の位相との組み合わせを少なくとも2組用いて距離を推定する。したがってたとえば第1周波数f1と第2周波数f2、第1周波数f1と第3周波数f3などのそれぞれの組に含まれる2つの位相データからそれぞれ決定される位相差に基づいての距離を推定する。たとえば
図8では、第1周波数f1の位相a1と、第2周波数f2の補正後の位相a2との位相差を用いて、距離を算出する。
【0079】
ステップS37は、距離の差が所定範囲内であるか否かを判断し、所定範囲内である場合にはステップS8に移り、所定範囲内にない場合にはステップS9に移る。ステップS8にて、距離は、第1周波数と他の周波数とによっても算出されるので、周波数の組み合わせ別に距離が算出される。算出された79個の距離が所定の範囲内にある場合は、距離が正しく算出されたと判断する。しかし算出された距離が所定の範囲内にない場合には、距離が正しく算出されてないと判断する。
【0080】
ステップS38では、2つの位相データが一致し、距離が所定範囲内にあるので、通信元が正規の携帯機102であると判断し、本フローを終了する。すなわち照合が成立したと判断する。ステップS39では、2つの位相データが一致していない、または距離が所定範囲内にないので、通信元が正規の携帯機102でないと判断し、本フローを終了する。すなわち照合が不成立であると判断する。したがってこのときは、携帯機102による車両105に対する操作を拒否するように制御することが好ましい。
【0081】
このように本実施形態では、距離推定部307は、1つの特定周波数における位相データと別の特定周波数における位相データとの組み合わせを少なくとも2組用い、それぞれの組の2つの位相データからそれぞれ決定される位相差に基づいて、携帯機102と車載装置103との距離を特定周波数の組み合わせ別に推定する。そして照合部305は、特定周波数の組み合わせ別の距離の差が所定範囲以内である場合であり、かつ少なくとも1つの特定周波数において端末取得位相データと車取得位相データとが一致する場合には、携帯機102と車載装置103との通信は正当であり、かつ推定した距離を採用する。したがって複数の特定周波数の位相を用いて距離を推定するので、誤推定を抑制するとともに、推定精度を向上することができる。
【0082】
また本実施形態では、位相データの一致を、距離関連データを用いて判断している。したがって位相データそのものの一致ではなく、距離関連データを用いているので、たとえば距離を算出するための途中データが一致している場合には、位相データを一致と判断してもよい。したがって既存の位相差を用いた距離算出プログラムに容易に位相データの一致判断を組み込むことができる。
【0083】
(その他の実施形態)
以上、本開示の好ましい実施形態について説明したが、本開示は前述した実施形態に何ら制限されることなく、本開示の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0084】
前述の実施形態の構造は、あくまで例示であって、本開示の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本開示の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0085】
前述の第1実施形態では、照合部305は、位相データが一致しているか否かを判断しているが、位相データが一致するか否かは位相データそのものを比較する場合に限るものではなく、位相データを用いた特定のアルゴリズムにより決定される関連データが一致する否かを判断してもよい。換言すると、位相データを出発として演算に用いられる途中のデータが一致する否かで判断してもよく、演算結果のデータが一致するか否かで判断してもよい。
【0086】
前述の第1実施形態において、照合ECU30および端末制御部20によって実現されていた機能は、前述のものとは異なるハードウェアおよびソフトウェア、またはこれらの組み合わせによって実現してもよい。照合ECU30および端末制御部20は、たとえば他の制御装置と通信し、他の制御装置が処理の一部または全部を実行してもよい。照合ECU30および端末制御部20が電子回路によって実現される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、またはアナログ回路によって実現することができる。
【0087】
前述の第1実施形態では、セキュリティシステムは、車載装置103と携帯機102とによって実現しているが、このような構成に限るものではない。セキュリティシステムは、通信装置が携帯端末の正当性を判断するシステムであればよく、通信装置は車載装置103でなく通信機能を有する他の装置であってもよい。また携帯端末は、車載装置103の鍵として機能する携帯機102に限るものではなく、携帯電話、スマートフォン、モバイル端末など他の装置であってもよい。
【符号の説明】
【0088】
20…端末制御部 21…端末受信回路(端末通信部)
22…端末送信回路(端末通信部) 24…端末取得部 25…端末送信アンテナ
26…端末受信アンテナ 27…位相決定部 30…照合ECU(装置制御部)
31…車両通信モジュール(装置通信部)
100…車載システム(セキュリティシステム) 102…携帯機(携帯端末)
103…車載装置(通信装置) 302…送信処理部(データ生成部)
304…受信処理部(装置取得部) 305…照合部(判断部)
307…距離推定部