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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】硬化促進剤の添加率の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20240123BHJP
   G01N 1/28 20060101ALI20240123BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240123BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N1/28
C04B28/02
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020059928
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021156831
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】神代 泰道
(72)【発明者】
【氏名】酒井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 理紗
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-301531(JP,A)
【文献】特開2007-015893(JP,A)
【文献】特開平11-271301(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102026933(CN,A)
【文献】岩澤実和,外3名,亜硝酸塩系硬化促進剤を多量添加したコンクリートの変形挙動に関する研究,コンクリート工学年次論文集,日本,日本コンクリート工学会,2017年,Vol39,No.1,p115-120
【文献】覆工コンクリート脱型時積算温度強度管理システム施工計画書,日本,株式会社東宏,2009年
【文献】樋口芳朗,コンクリートの早期強度増進,コンクリート工学,日本,1976年,p1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
G01N 1/28
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化促進剤の対セメント質量の添加率が異なる複数組のセメント組成物材料を準備し、前記複数組のセメント組成物材料をそれぞれ練り混ぜて、複数の供試体を作成し、
前記複数の供試体毎に、練り混ぜ後の複数の材齢における圧縮強度を測定し、
前記複数の供試体毎に、前記複数の材齢における前記圧縮強度の測定値に基づいて、積算温度と、前記圧縮強度との第1の関係のグラフを作成し、
前記複数の供試体に係る前記硬化促進剤の添加率と、前記複数の供試体毎の前記第1の関係のグラフから求められる前記圧縮強度の所定の値に到達する前記積算温度との第2の関係のグラフを作成し、
前記第2の関係のグラフに基づいて、前記複数の供試体とは異なる供試体に係る前記硬化促進剤の添加率を推定する硬化促進剤の添加率の推定方法であって、
前記圧縮強度の前記所定の値は、プレキャストコンクリートの吊り上げ可能強度である
ことを特徴とする硬化促進剤の添加率の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化促進剤の添加率の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント組成物を生成する際、練り混ぜ水注入後の硬化初期における圧縮強度の発現を速くするために、練り混ぜ水と共に硬化促進剤が混和されることがある。このような硬化促進剤に関連して、特許文献1及び特許文献2には、早期に脱型を可能にするために、所定の添加率の硬化促進剤を混和し、硬化初期における圧縮強度の発現を速くする例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-32107号公報
【文献】特許4188941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セメント組成物の圧縮強度の発現は、セメント組成物の硬化促進剤の添加率に対して一定ではない。このため、硬化の所定の段階で所定の圧縮強度に達するための最適な硬化促進剤の添加率は、その都度実験により求める必要があり、硬化促進剤の最適な添加率を推定することは困難であった。
【0005】
本発明の幾つかの実施形態は、硬化の所定の段階で所定の圧縮強度に達するための硬化促進剤の最適な添加率を容易に推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、
硬化促進剤の対セメント質量の添加率が異なる複数組のセメント組成物材料を準備し、前記複数組のセメント組成物材料をそれぞれ練り混ぜて、複数の供試体を作成し、
前記複数の供試体毎に、練り混ぜ後の複数の材齢における圧縮強度を測定し、
前記複数の供試体毎に、前記複数の材齢における前記圧縮強度の測定値に基づいて、積算温度と、前記圧縮強度との第1の関係のグラフを作成し、
前記複数の供試体に係る前記硬化促進剤の添加率と、前記複数の供試体毎の前記第1の関係のグラフから求められる前記圧縮強度の所定の値に到達する前記積算温度との第2の関係のグラフを作成し、
前記第2の関係のグラフに基づいて、前記複数の供試体とは異なる供試体に係る前記硬化促進剤の添加率を推定する硬化促進剤の添加率の推定方法であって、
前記圧縮強度の前記所定の値は、プレキャストコンクリートの吊り上げ可能強度である
ことを特徴とする硬化促進剤の添加率の推定方法である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【0007】
本発明の他の特徴については、後述する明細書及び図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の幾つかの実施形態によれば、硬化の所定の段階で所定の圧縮強度に達するための硬化促進剤の最適な添加率を容易に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態の硬化促進剤の添加率の推定方法を示すフロー図である。
図2図2Aは、本実施形態の実験で使用するセメント組成物の材料を説明する図である。図2Bは、本実施形態の実験で使用するセメント組成物の調合を説明する図である。図2Cは、第1実施例の各種混和剤の添加率を示す図である。
図3図3Aは、第1実施例における材齢8時間までの各供試体の初期強度発現性状を示す図である。図3Bは、第1実施例における材齢24時間までの各供試体の初期強度発現性状を示す図である。
図4図4は、第1実施例における加熱養生時の材齢8時間までの各供試体の初期強度発現性状を示す図である。
図5図5A図5Cは、第1実施例における硬化促進剤の添加率毎の圧縮強度と積算温度との関係を示す図である。
図6図6A図6Cは、第1実施例における硬化促進剤の添加率毎の圧縮強度と積算温度との関係から求めた強度予測式を示す図である。
図7図7は、第1実施例における所定の圧縮強度に到達する積算温度と硬化促進剤の添加率との関係を示す図である。
図8図8は、第2実施例の各種混和剤の添加率を示す図である。
図9図9A及び図9Bは、第2実施例における硬化促進剤の添加率毎の圧縮強度と積算温度との関係を示す図である。
図10図10A及び図10Bは、第2実施例における硬化促進剤の添加率毎の圧縮強度と積算温度との関係から求めた強度予測式を示す図である。
図11図11は、第2実施例における所定の圧縮強度に到達する積算温度と硬化促進剤の添加率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
後述する明細書及び図面の記載から、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
硬化促進剤の対セメント質量の添加率が異なる複数組のセメント組成物材料を準備し、前記複数組のセメント組成物材料をそれぞれ練り混ぜて、複数の供試体を作成すること、前記複数の供試体毎に、練り混ぜ後の複数の材齢における圧縮強度を測定すること、前記複数の供試体毎に、前記複数の材齢における前記圧縮強度の測定値に基づいて、積算温度と、前記圧縮強度との第1の関係のグラフを作成すること、前記複数の供試体に係る前記硬化促進剤の添加率と、前記複数の供試体毎の前記第1の関係のグラフから求められる前記圧縮強度の所定の値に到達する前記積算温度との第2の関係のグラフを作成すること、前記第2の関係のグラフに基づいて、前記複数の供試体に係る前記硬化促進剤の添加率以外の添加率を推定することを特徴とする硬化促進剤の添加率の推定方法が明らかとなる。このような硬化促進剤の添加率の推定方法によれば、硬化の所定の段階で所定の圧縮強度に達するための硬化促進剤の最適な添加率を容易に推定することができる。
【0012】
前記圧縮強度の前記所定の値は、プレキャストコンクリートの吊り上げ可能強度であることが望ましい。これにより、プレキャストコンクリートの製造に関して硬化の所定の段階で所定の圧縮強度に達するための硬化促進剤の最適な添加率を容易に推定することができる。
【0013】
===本実施形態===
【0014】
<セメント組成物材料>
本実施形態の硬化促進剤の添加率の推定方法を説明する前に、まず、本実施形態で使用するセメント組成物について説明する。本実施形態で使用するセメント組成物は、コンクリート、モルタル、セメントペーストなどの、セメントを含む部材である。なお、以下では、セメント組成物としてコンクリートの例に沿って説明する。
【0015】
セメント組成物は、セメントと、水(練り混ぜ水)と、骨材と、混和剤とを有する。以下では、セメント、水、骨材及び混和剤を合わせて「セメント組成物材料」と呼ぶことがある。但し、セメント組成物材料は、セメント、水、骨材及び混和剤以外の材料が含まれていても良い。
【0016】
セメントは、水と反応して強度(圧縮強度)を発現する結合材である。本実施形態では、セメントとして例えばポルトランドセメント(普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントなど)が使用可能である。但し、セメントとしてポルトランドセメント以外のセメントが使用されても良い。なお、セメントには、シリカ、フライアッシュなどの混合材が含まれていても良い。
水(練り混ぜ水)は、セメントとの水和反応を起こすために注入される材料である。
骨材は、細骨材(砂など)や粗骨材(砂利など)などで構成されるセメント組成物の材料である。
混和剤は、セメント組成物の各種性能を改善するために使用される薬剤である。
【0017】
セメント組成物は、これらのセメント組成物材料を練り混ぜることにより生成される。具体的には、セメント、骨材及び混和剤に水が注入され、練り混ぜられ、静置されることにより、セメントと水とが水和反応を起こして硬化する。但し、混和剤は、練り混ぜ時に添加されるのではなく、現場でのセメント組成物の打設時に添加されても良い。練り混ぜ後のセメント組成物が硬化するのに伴い、セメント組成物の強度(圧縮強度)が増していく。なお、本実施形態では、水注入後の硬化初期における圧縮強度を「初期強度」と呼ぶことがある。具体的には、初期強度は、水を注入してから数時間程度静置されたときのセメント組成物の圧縮強度である。なお、本実施形態では、セメント組成物の「強度」とは、「圧縮強度」を意味しており、以下、圧縮強度のことを単に「強度」と呼ぶことがある。
【0018】
なお、セメント組成物材料のセメントには、エーライトが含まれている。エーライトとは、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO2)を指す。セメントと水との水和反応においては、特にエーライトによる水和反応がセメント組成物の初期強度の発現に寄与する。
【0019】
本実施形態のセメント組成物は、特にプレキャストコンクリートの例を説明する。プレキャストコンクリートを使用することにより、支保工の存置や現場における養生に要する期間を短縮できる。プレキャストコンクリートの部材製造工程では型枠の転用が重視されるため、製造ラインの効率化のため早期に脱型できるコンクリートが望まれている。例えば、6~8時間で吊り上げ可能強度に到達すれば1日当たり2回の打込みが可能となる。
【0020】
<混和剤>
本実施形態では、混和剤として、減水剤と、硬化促進剤とが混和される。但し、これら以外の混和剤が混和されても良い。
【0021】
減水剤は、セメントの粒子を分散させる作用(セメント分散作用)により、練り混ぜ後のセメント組成物の流動性を増大させる混和剤である。但し、減水剤は混和されなくても良い。なお、減水剤の代わりに、セメント分散作用に加えて空気連行作用をさらに有するAE減水剤が混和されても良い。また、減水剤やAE減水剤の代わりに、高い減水性能と優れたスランプ保持性能とを有する高性能AE減水剤が使用されても良い。高性能AE減水剤を使用することにより、練り混ぜ水の使用量を大幅に削減することができる。また、高性能AE減水剤を使用することにより、急激な施工性の低下を抑制することができる。
【0022】
硬化促進剤は、セメント組成物の初期強度の発現を速くする液体状の混和剤である。硬化促進剤は、セメント質量に対する割合(以下、「添加率」と呼ぶことがある。)を数パーセントとして添加することで、初期強度の発現を速くすることができる。但し、硬化促進剤は、添加率によって初期強度の発現の度合いが異なることがある。
【0023】
<積算温度>
セメント組成物材料が練り混ぜられ、静置される際、乾燥や凍結から保護するために養生がなされる。これにより、セメントと水との水和反応が適切に進行し、セメント組成物を適切に硬化させることができる。ここで、セメント組成物の水和反応の進行の程度を、養生温度と養生期間から推定することができる。すなわち、セメント組成物の硬化の程度を、養生温度と養生期間から推定することができる。このように養生温度及び養生期間の両方を評価する指標を積算温度と呼ぶことがある。積算温度は、養生温度に10℃を足したものと、養生期間(時間)とを掛け合わせて計算される。
【0024】
積算温度は、下記の数式1に示すように計算される。数式1において、Mはセメント組成物の積算温度(℃・h)、θはセメント組成物の供試体温度(℃)、hは注水後の経過時間(h)である。
【0025】
[数1]
M=Σ(θ+10)×h
【0026】
例えば、25℃で6時間養生したときのセメント組成物の積算温度は(25+10)×6=210(℃・h)である。また、20℃で7時間養生したときのセメント組成物の積算温度は(20+10)×7=210(℃・h)である。したがって、25℃で6時間養生したセメント組成物と、20℃で7時間養生したセメント組成物とでは、積算温度が同じ(210(℃・h))であるから、同じ水和反応の進行程度であると推定される。すなわち、25℃で6時間養生したセメント組成物と、20℃で7時間養生したセメント組成物とでは、硬化の程度が同じであると推定される。
【0027】
したがって、あるセメント組成物の積算温度が同じであるならば、そのセメント組成物の圧縮強度も同じであると考えられる。このことから、ある材料、調合のセメント組成物について積算温度と圧縮強度との関係をあらかじめ求めておくことにより、材齢や温度履歴の異なるセメント組成物の圧縮強度の概略値を計算することができる。同様に、ある材料、調合のセメント組成物について積算温度と圧縮強度との関係をあらかじめ求めておくことにより、圧縮強度の所定の値に到達する積算温度の概略値も計算することができる。
【0028】
<硬化促進剤の添加率の推定方法>
しかし、セメント組成物における硬化促進剤の添加率が異なる場合、セメント組成物の圧縮強度の変化の度合いが同じであるとは限らない。すなわち、セメント組成物における硬化促進剤の添加率が異なる場合、積算温度と圧縮強度との関係が一定であるとは限らない。このため、硬化の所定の段階で所定の圧縮強度に達するための最適な硬化促進剤の添加率は、その都度実験により求める必要があり、硬化促進剤の最適な添加率を推定することは困難であった。
【0029】
発明者らは、硬化促進剤の添加率と圧縮強度の所定の値に到達する積算温度との関係をあらかじめ求めておくことにより、硬化促進剤の最適な添加率を推定することができることの知見を得た。そこで、本実施形態の硬化促進剤の添加率の推定方法を以下に示す図1のフロー図に沿って説明する。
【0030】
図1は、本実施形態の硬化促進剤の添加率の推定方法を示すフロー図である。本実施形態の硬化促進剤の添加率の推定方法では、図1のS001~S004に示すステップにおいて硬化促進剤の添加率と圧縮強度の所定の値に到達する積算温度とのグラフ(後述する第2の関係のグラフ)を実験によりあらかじめ作成しておくことで、図1のS005に示すステップにおいて複数の供試体に係る添加率以外の添加率を追加の実験をしなくても推定することができる。すなわち、硬化の所定の段階で所定の圧縮強度に達するための硬化促進剤の最適な添加率を容易に推定することができる。
【0031】
<第1実施例>
・複数の供試体の作成
まず、硬化促進剤の対セメント質量の添加率が異なる複数組のセメント組成物材料を準備し、複数組のセメント組成物材料をそれぞれ練り混ぜて、複数の供試体を作成する(S001)。
【0032】
図2Aは、本実施形態の実験で使用するセメント組成物の材料を示す図である。図2Bは、本実施形態の実験で使用するセメント組成物の調合を示す図である。図2Cは、第1実施例の各種混和剤の添加率を示す図である。
【0033】
図2A及び図2Bに示すように、本実施形態の実験では、セメントとして早強ポルトランドセメントが使用される。早強ポルトランドセメントには前述したエーライトが普通ポルトランドセメントよりも多く含まれている。セメントとして早強ポルトランドセメントを使用することにより、セメント組成物の初期強度の発現をより速くすることができる。具体的には、材齢1日で24N/mm2程度の圧縮強度の発現が可能となる。なお、セメントの密度は3.14g/cmであるが、その他の密度であっても良い。
【0034】
また、図2Aに示すように、本実施形態の実験では、減水剤として、ポリカルボン酸系化合物を主成分とする高性能AE減水剤が使用される。なお、この高性能AE減水剤は、JIS A 6204に適合している。本実施形態の実験では、目標スランプは場内運搬によるスランプの低下を1cm見込んで22cm、目標空気量は4.5%とし、高性能AE減水剤はこれらを満足する添加量を定めている。
【0035】
また、図2Aに示すように、本実施形態の実験では、硬化促進剤として、硝酸塩系硬化促進剤が使用される。硝酸塩系硬化促進剤は、液体のコンクリート用硬化促進剤であり、硝酸塩がセメントの水和反応を促進することでコンクリートの初期強度の発現を速くする。
【0036】
図2Cに示すように、本実施形態の実験では、硬化促進剤の対セメント質量が0、4、8%となる複数組のセメント組成物の供試体を作成する(X-0、X-4、X-8)。なお、固形分の補正はせず、練り混ぜ水の一部として計量している。
【0037】
本実施形態の実験では、練り混ぜは二軸強制練りミキサ(最大容量60L)を使用している。まず、細骨材とセメントとを10秒間空練りし、注水後10秒間、粗骨材投入後60秒間練り混ぜている。そして、作成したセメント組成物を5分間静置後、30秒間練り混ぜて排出する。
【0038】
次に、複数の供試体毎に、練り混ぜ後の複数の材齢における圧縮強度を測定する(S002)。圧縮強度を測定では、分割式の鋼製型枠の内側に縁切り材(ビニールフィルム)を設置してからセメント組成物を流し込み、封かん状態とする。そして、練り混ぜから2、4、6、8、24時間の材齢で試験できるように脱型する。載荷面には事前に石こうを用いてキャッピングを行い、圧縮強度を測定する。
【0039】
・雰囲気温度が通常温度(20℃)での養生について
図3Aは、第1実施例における材齢8時間までの各供試体の初期強度発現性状を示す図である。図3Bは、第1実施例における材齢24時間までの各供試体の初期強度発現性状を示す図である。
【0040】
図3Aに示すように、材齢8時間までは、X-0~X-8のいずれの供試体も、硬化促進剤の添加率の増加に伴い強度発現が速くなっている。但し、図3Bに示すように、材齢24時間では、X-0~X-8のいずれの供試体も、ほぼ30N/mm以上となり,強度差は小さくなっている。
【0041】
・雰囲気温度が加熱温度(40℃)での養生について
図4は、第1実施例における加熱養生時の材齢8時間までの各供試体の初期強度発現性状を示す図である。
【0042】
硬化促進剤の硬化促進効果に養生温度が影響するかを確認するため、セメント組成物の加熱養生を模擬した40℃環境下における初期強度発現性状を確認し、温度依存性を検討する。図4に示すように、加熱養生によって強度発現は大きく促進され,X-4-40は材齢約5時間、X-8-40は材齢約3.2時間で12N/mmに到達した。材齢8時間ではX-0-40とX-4-40の強度差は小さくなる傾向にある。以上より、硬化促進剤の添加と加熱養生の併用によって、セメント組成物の早期脱型に寄与できるものと考えられる。
【0043】
次に、図1に示すように、複数の供試体毎に、複数の材齢における圧縮強度の測定値に基づいて積算温度と圧縮強度との関係(以下、「第1の関係のグラフ」と呼ぶことがある)を求める(S003)。
【0044】
・強度予測式の算定
図5A図5Cは、S002で計測した圧縮強度の測定値に基づいて求めた、第1実施例における硬化促進剤の添加率毎の圧縮強度と積算温度との関係を示す図である。図6A図6Cは、第1実施例における硬化促進剤の添加率毎の圧縮強度と積算温度との関係から求めた強度予測式を示す図である。
【0045】
図5A図5Cは、養生温度、材齢、強度の関係を、積算温度と、強度の関係に整理したものである。図6A図6Cは、図5A図5Cのグラフを両対数グラフで示したものである。
【0046】
図6A図6Cに示すように、硬化促進剤の添加率が同じであれば、養生温度にかかわらず強度と積算温度との関係を1本のグラフで表すことができる。つまり、図6A図6Cに示すように、雰囲気温度が通常温度(20℃)での養生時であっても、雰囲気温度が通常温度(40℃)での養生時であっても、強度と積算温度との関係を1本のグラフで表すことができる。そこで、以下のように、硬化促進剤の添加率毎に強度予測式を作成する。本実施形態では、硬化促進剤の添加率毎に作成する強度予測式が第1の関係のグラフとなる。
【0047】
・硬化促進剤を添加しない場合の強度予測式
硬化促進剤を添加しない場合の強度予測式は、下記の数式2に示すようなグラフとなる。また、決定係数は、下記の数式3に示す通りである。なお、下記では、数式の「E」は、指数表記であり、例えば、2E-03とは、2×10-3の意味である。
【0048】
[数2]
y=1E-09x3.7578
【0049】
[数3]
R2=0.9327
【0050】
・硬化促進剤を対セメント質量の4%添加した場合の強度予測式
硬化促進剤を対セメント質量の4%添加した場合の強度予測式は、下記の数式4に示すようなグラフとなる。また、決定係数は、下記の数式5に示す通りである。
【0051】
[数4]
y=5E-08x3.5022
【0052】
[数5]
R2=0.9478
【0053】
・硬化促進剤を対セメント質量の8%添加した場合の強度予測式
硬化促進剤を対セメント質量の8%添加した場合の強度予測式は、下記の数式6に示すようなグラフとなる。また、決定係数は、下記の数式7に示す通りである。
【0054】
[数6]
y=2E-07x3.4581
【0055】
[数7]
R2=0.9809
【0056】
次に、図1に示すように、複数の供試体に係る硬化促進剤の添加率と、複数の供試体毎の第1の関係のグラフから求められる圧縮強度の所定の値に到達する積算温度との関係(以下、「第2の関係のグラフ」と呼ぶことがある)を求める(S004)。ここで、圧縮強度の所定の値は、プレキャストコンクリートの吊り上げ可能強度である12N/mmとする。
【0057】
図7は、第1実施例における所定の圧縮強度に到達する積算温度と硬化促進剤の添加率との関係を示す図である。
【0058】
図7では、硬化促進剤の添加率毎(第1実施例では、C×0%、C×4%、C×8%)に、所定の圧縮強度に到達する積算温度(IX-0、IX-4、IX-8)をプロットしている。本実施形態では、図7に示すグラフが第2の関係のグラフである。なお、前述の図6A図6Cに示すように、IX-0、IX-4、IX-8は、硬化促進剤の添加率毎の第1の関係のグラフにおいて、それぞれの強度予測式に沿って求めた12N/mmに到達する積算温度である。
【0059】
次に、第2の関係のグラフに基づいて、複数の供試体に係る硬化促進剤の添加率以外の添加率を推定する(S005)。これにより、硬化促進剤の任意の積算温度における硬化促進剤の最適な添加率を知るために追加の実験をすることが不要となる。したがって、容易に硬化促進剤の最適な添加率を推定することができる。
【0060】
<第2実施例>
図8は、第2実施例の各種混和剤の添加率を示す図である。第2実施例では、第1実施例に対して各種混和剤の添加率を異ならせている(Y-0、Y-1、Y-2、Y-4)。
【0061】
図9A及び図9Bは、第2実施例における硬化促進剤の添加率毎の圧縮強度と積算温度との関係を示す図である。図10A及び図10Bは、第2実施例における硬化促進剤の添加率毎の圧縮強度と積算温度との関係から求めた強度予測式を示す図である。
【0062】
第2実施例においても、硬化促進剤の添加率が同じであれば、養生温度にかかわらず強度と積算温度との関係を1本のグラフで表すことができる。そこで、以下のように、第2実施例においても硬化促進剤の添加率毎に強度予測式を作成する。第2実施例においても第1実施例と同様に硬化促進剤の添加率毎に作成する強度予測式が第1の関係のグラフとなる。
【0063】
・硬化促進剤を添加しない場合の強度予測式
硬化促進剤を添加しない場合の強度予測式は、下記の数式8に示すようなグラフとなる。また、決定係数は、下記の数式9に示す通りである。
【0064】
[数8]
y=5E-08x3.0638
【0065】
[数9]
R2=0.9944
【0066】
・硬化促進剤を対セメント質量の1%添加した場合の強度予測式
硬化促進剤を対セメント質量の1%添加した場合の強度予測式は、下記の数式10に示すようなグラフとなる。また、決定係数は、下記の数式11に示す通りである。
【0067】
[数10]
y=7E-08x3.2165
【0068】
[数11]
R2=0.9588
【0069】
・硬化促進剤を対セメント質量の2%添加した場合の強度予測式
硬化促進剤を対セメント質量の2%添加した場合の強度予測式は、下記の数式12に示すようなグラフとなる。また、決定係数は、下記の数式13に示す通りである。
【0070】
[数12]
y=3E-07x3.1067
【0071】
[数13]
R2=0.9465
【0072】
・硬化促進剤を対セメント質量の4%添加した場合の強度予測式
硬化促進剤を対セメント質量の4%添加した場合の強度予測式は、下記の数式14に示すようなグラフとなる。また、決定係数は、下記の数式15に示す通りである。
【0073】
[数14]
y=3E-07x3.2484
【0074】
[数15]
R2=0.9831
【0075】
図11は、第2実施例における所定の圧縮強度に到達する積算温度と硬化促進剤の添加率との関係を示す図である。
【0076】
なお、図11においては、第1実施例における第2の関係のグラフも併せて表示している。第2実施例においても、第2の関係のグラフに基づいて、複数の供試体に係る硬化促進剤の添加率以外の添加率を推定する(S005)。これにより、硬化促進剤の任意の積算温度における硬化促進剤の最適な添加率を知るために追加の実験をすることが不要となる。したがって、容易に硬化促進剤の最適な添加率を推定することができる。
【0077】
===その他===
前述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更・改良され得ると共に、本発明には、その等価物が含まれることは言うまでもない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11