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特許7424164軟磁性合金、磁気コア、磁性部品および電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-22
(45)【発行日】2024-01-30
(54)【発明の名称】軟磁性合金、磁気コア、磁性部品および電子機器
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20240123BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240123BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240123BHJP
   C21D 6/00 20060101ALN20240123BHJP
【FI】
H01F1/153 133
C22C38/00 303S
H01F1/153 108
H01F1/153 158
H01F27/255 ZNM
C21D6/00 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020060503
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021158328
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
(72)【発明者】
【氏名】森 智子
(72)【発明者】
【氏名】松元 裕之
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/026949(WO,A1)
【文献】特開2016-025352(JP,A)
【文献】特開2015-167183(JP,A)
【文献】特開2011-256453(JP,A)
【文献】特許第6451878(JP,B2)
【文献】特開2007-092162(JP,A)
【文献】特開2019-183199(JP,A)
【文献】特開2021-153106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 8/00
B22F 10/00-12/90
C21D 6/00- 6/04
C22C 1/04- 1/05
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 33/02
C22C 35/00-45/10
H01F 1/12- 1/38
H01F 1/44
H01F 27/24-27/26
H01F 41/00-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式(Fe (1-( α + β )) X1αX2β) (1-(a+b+c+d)) a b c Si d (原子数比)からなる主成分を有する軟磁性合金であって、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Ga,Bi,N,O,C,Sおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1つ以上であり、
0≦a≦0.150
0≦b≦0.200
0≦c≦0.200
0≦d≦0.200
0.100≦a+b+c+d≦0.300
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
Heywood径の平均値が5.0nm以上25.0nm以下であるナノ結晶を含み、
前記ナノ結晶の平均円形度が0.50以上0.90以下である軟磁性合金。
【請求項2】
前記ナノ結晶の平均円形度が0.50以上0.80以下である請求項1に記載の軟磁性合金。
【請求項3】
前記ナノ結晶の平均円形度が0.50以上0.70以下である請求項1に記載の軟磁性合金。
【請求項4】
前記ナノ結晶の平均アスペクト比が1.2以上1.8以下である請求項1~3のいずれかに記載の軟磁性合金。
【請求項5】
前記ナノ結晶のHeywood径の平均値をR、前記ナノ結晶のHeywood径の標準偏差をσとして、R2/σ2が30以下である請求項1~4のいずれかに記載の軟磁性合金。
【請求項6】
薄帯形状を有する請求項1~のいずれかに記載の軟磁性合金。
【請求項7】
粉末形状を有する請求項1~のいずれかに記載の軟磁性合金。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載の軟磁性合金を含む磁気コア。
【請求項9】
請求項に記載の磁気コアを含む磁性部品。
【請求項10】
請求項に記載の磁性部品を含む電子機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟磁性合金、磁気コア、磁性部品および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な電子部品に対して小型化および軽量化が求められている。それに伴い、従来よりも軟磁気特性を向上させた軟磁性合金が求められている。
【0003】
近年では、ナノ結晶を含む軟磁性合金が優れた軟磁気特性を有することが知られている。そして、軟磁気特性を向上させるために様々な軟磁性合金が開発されている。
【0004】
特許文献1には、結晶粒径が0.5nm以上60nm以下である結晶粒と、結晶粒径が100nm以上500nm以下である結晶粒とを含む軟磁性合金が開示されている。
【0005】
特許文献2には、ナノ結晶の結晶粒径と、アモルファス相の平均厚さとの両方を特定の範囲内とし、ナノ結晶の表面近傍にあるアモルファス相の平均Fe濃度がナノ結晶の平均Fe濃度よりも低く、結晶化度が高い軟磁性粉末が開示されている。
【0006】
特許文献3には、ナノサイズのFeSi結晶が柱状組織をなす領域を備えたFe基合金粒子と、当該Fe基合金粒子とは異なる金属組織からなる軟磁性材料の粒子とを含む軟磁性合金粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-73947号公報
【文献】特許第6482718号公報
【文献】国際公開第2019/208768号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、良好な軟磁気特性を有する軟磁性合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の軟磁性合金は、
Heywood径の平均値が5.0nm以上25.0nm以下であるナノ結晶を含み、
前記ナノ結晶の平均円形度が0.50以上0.90以下である。
【0010】
本発明の軟磁性合金は、上記の特徴を有することにより、良好な軟磁気特性を有する軟磁性合金となる。
【0011】
前記ナノ結晶の平均円形度が0.50以上0.80以下であってもよい。
【0012】
前記ナノ結晶の平均円形度が0.50以上0.70以下であってもよい。
【0013】
前記ナノ結晶の平均アスペクト比が1.2以上1.8以下であってもよい。
【0014】
前記ナノ結晶のHeywood径の平均値をR、前記ナノ結晶のHeywood径の標準偏差をσとして、R/σが30以下であってもよい。
【0015】
組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β(1-(a+b+c+d))Si(原子数比)からなる主成分を有する軟磁性合金であってもよく、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Ga,Bi,N,O,C,Sおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1つ以上であり、
0≦a≦0.150
0≦b≦0.200
0≦c≦0.200
0≦d≦0.200
0.100≦a+b+c+d≦0.300
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であってもよい。
【0016】
軟磁性合金が薄帯形状を有してもよい。
【0017】
軟磁性合金が粉末形状を有してもよい。
【0018】
本発明の磁気コアは上記の軟磁性合金を含む。
【0019】
本発明の磁性部品は上記の磁気コアを含む。
【0020】
本発明の電子機器は上記の磁性部品を含む。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0022】
本実施形態の軟磁性合金は、Heywood径の平均値が5.0nm以上25.0nm以下であるナノ結晶を含み、前記ナノ結晶の平均円形度が0.50以上0.90以下である。
【0023】
本実施形態の軟磁性合金は、上記の通りにナノ結晶の形状を限定することで、軟磁気特性を良好としている。すなわち、高いBsおよび低いHcを実現させている。
【0024】
従来はナノ結晶の円形度が高い方がナノ結晶の充填度が高く、かつ、軟磁性合金全体の均一性も高いため、Hcが低下しやすくなり軟磁気特性が向上しやすくなると考えられていた。しかし、本発明者らは、ナノ結晶の円形度が適度に低い方が高いBsおよび低いHcを実現できることを見出した。
【0025】
ナノ結晶の平均円形度は0.50以上0.80以下でもよく、0.50以上0.70以下でもよい。
【0026】
ナノ結晶の平均円形度が小さすぎる場合には、結晶磁気異方性が生じ、Hcが増加する。また、ナノ結晶の平均円形度が大きすぎる場合には、Hcが増加傾向にある。
【0027】
ナノ結晶の平均アスペクト比には特に制限はない。平均アスペクト比が1.2以上1.8以下であってもよい。平均アスペクト比が上記の範囲内である場合には、さらに軟磁気特性が良好になりやすい。
【0028】
ナノ結晶の平均楕円円形度には特に制限はない。平均楕円円形度が0.80以上0.92以下であってもよく、0.83以上0.92以下であってもよい。平均楕円円形度が上記の範囲内である場合には、さらに軟磁気特性が良好になりやすい。
【0029】
ナノ結晶のHeywood径の平均値をRとし、ナノ結晶のHeywood径の標準偏差をσとして、R/σが30以下であってもよく、20以下であってもよい。R/σが上記の範囲内である場合には、さらに軟磁気特性が良好になりやすい。
【0030】
以下、上記の各パラメータの測定方法について説明する。
【0031】
本実施形態では、軟磁性合金を観察し、得られた画像から各パラメータを算出する。軟磁性合金を観察する装置には特に制限はない。例えば、透過型電子顕微鏡(Transmisson Electron Microscope;TEM)が挙げられる。以下、TEMを用いる方法について説明する。
【0032】
TEMを用いる場合における評価方法には特に制限はない。例えば明視野観察法が挙げられる。
【0033】
本実施形態では、ナノ結晶の形状を正確に評価するため、TEMによる観察に用いるサンプル(以下、単にTEMサンプルと呼ぶ)の厚さを通常よりも薄くする。具体的には、通常のTEMサンプルの厚さが80~100nm程度であるのに対し、本実施形態では20nm以下とする。上記TEMサンプルを作製する方法には特に制限はないが、例えば収束イオンビーム走査電子顕微鏡(Focused Ion Beam-Scanning Electron Microscope;FIB-SEM)を用いてTEMサンプルを作製することができる。
【0034】
TEMサンプルが厚い場合には、複数のナノ結晶が厚さ方向で重なる場合がある。複数のナノ結晶が厚さ方向で重なると、TEM画像では複数のナノ結晶が単一のナノ結晶に見える場合がある。すなわち、TEM画像での見かけ上、ナノ結晶の円形度が高くなる場合がある。したがって、TEMサンプルが厚い場合には、ナノ結晶の形状が正確に評価できない場合がある。本実施形態では、TEMサンプルの厚さを薄くすることで、ナノ結晶の形状が正確に評価できる。また、TEMサンプルの厚さは、収束電子回折(Convergent-Beam Electron Diffraction;CBED)法や電子エネルギー損失分光(Electron Energy-Loss Spectroscopy;EELS)法を用いて評価してもよく、直接、TEMサンプルを観察して評価してもよい。
【0035】
TEMにより得られる画像の大きさおよび倍率には特に制限はない。画像の大きさは、ナノ結晶が10個以上、観察できる大きさであればよい。また、複数の画像の合計でナノ結晶が100個以上、観察できればよい。TEMにより得られる画像の倍率は、上記のパラメータが測定できる倍率であればよい。具体的には、100000~1000000倍程度である。
【0036】
本実施形態でのHeywood径とは、投影面積円相当径のことである。本実施形態でのナノ結晶のHeywood径は、画像におけるナノ結晶の面積をSとして、(4S/π)1/2である。観察により得られる画像に含まれるすべてのナノ結晶のHeywood径を平均することで、Heywood径の平均値が算出できる。
【0037】
本実施形態での円形度は、面積円形度とも呼ばれるパラメータである。具体的には、画像におけるナノ結晶の面積をS、ナノ結晶の周囲長をLとして、4πS/Lである。観察により得られる画像に含まれるすべてのナノ結晶の円形度を平均することで、平均円形度が算出できる。
【0038】
本実施形態でのアスペクト比は、画像におけるナノ結晶の長径の長さを短径の長さで割ることにより算出できる。観察により得られる画像に含まれるすべてのナノ結晶のアスペクト比を平均することで、平均アスペクト比が算出できる。
【0039】
本実施形態での楕円円形度は、いわばアスペクト比で補正した円形度である。以下、ナノ結晶の楕円円形度について記載する。一般的に、ナノ結晶が真円の場合、すなわち円形度1の場合と比較して、ナノ結晶の面積が一定で周囲長が長くなる場合、または、ナノ結晶の周囲長が一定で面積が小さくなる場合にナノ結晶の円形度が減少する。
【0040】
ナノ結晶の面積が一定で周囲長が長くなる場合としては、ナノ結晶に凹凸が生じる場合が挙げられる。また、周囲長が一定で面積が小さくなる場合としては、ナノ結晶が歪み、アスペクト比が上昇する場合が挙げられる。
【0041】
ここで、ナノ結晶の周囲長が一定で面積が小さくなる場合、すなわち、ナノ結晶のアスペクト比が上昇し楕円になる場合であっても、ナノ結晶に凹凸は生じない。したがって、アスペクト比の上昇によって低下する分の円形度を、画像から算出される円形度に加えて補正することで、ナノ結晶における凹凸の多さを評価することができる。
【0042】
具体的には、ナノ結晶の楕円円形度は、長軸の長さを2a、短軸の長さを2bとして、S/(a×b×π)で算出される。楕円に凹凸がない場合は楕円円形度が1であり、楕円に凹凸があるほど楕円円形度が低下する。観察により得られる画像に含まれるすべてのナノ結晶の楕円円形度を平均することで、平均楕円円形度が算出できる。
【0043】
/σは、ナノ結晶のHeywood径の分散状態を示す指標である。R/σが小さいほど、ナノ結晶のHeywood径のバラツキが大きい。σは観察により得られる画像に含まれるすべてのナノ結晶のHeywood径から算出される。
【0044】
本実施形態におけるナノ結晶の種類には特に制限はない。結晶粒径がナノオーダーであるα-Fe結晶であってもよい。
【0045】
本実施形態に係る軟磁性合金の組成には特に制限はない。例えば、組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β(1-(a+b+c+d))Si(原子数比)からなる主成分を有する軟磁性合金であってもよく、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1つ以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Ga,Bi,N,O,C,Sおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1つ以上であり、
0≦a≦0.150
0≦b≦0.200
0≦c≦0.200
0≦d≦0.200
0.100≦a+b+c+d≦0.300
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であってもよい。
【0046】
以下、本実施形態に係る軟磁性合金の各成分について詳細に説明する。
【0047】
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,WおよびVからなる群から選択される1つ以上である。
【0048】
Mの含有量(a)は0≦a≦0.150を満たす。すなわち、Mは含有しなくてもよい。0.020≦a≦0.150を満たしてもよく、0.040≦a≦0.090を満たしてもよい。0.040≦a≦0.090を満たす場合には、ナノ結晶の円形度を所定の範囲内にしやすい。
【0049】
Bの含有量(b)は0≦b≦0.200を満たす。すなわち、Bは含有しなくてもよい。0.020≦b≦0.200を満たしてもよい。
【0050】
Pの含有量(c)は0≦c≦0.200を満たす。すなわち、Pは含有しなくてもよい。0.020≦c≦0.140を満たしてもよい。
【0051】
Siの含有量(d)は0≦d≦0.200を満たす。すなわち、Siは含有しなくてもよい。0.010≦≦0.150を満たしてもよい。
【0052】
また、本実施形態に係る軟磁性合金は、0.100≦a+b+c+d≦0.300を満たしてもよい。
【0053】
また、本実施形態の軟磁性合金においては、Feの一部をX1および/またはX2で置換してもよい。
【0054】
X1はFeおよびNiからなる群から選択される1つ以上である。X1の含有量に関してはα=0でもよい。すなわち、X1は含有しなくてもよい。また、X1の原子数は組成全体の原子数を100at%として40at%以下であってもよい。すなわち、0≦α{1-(a+b+c+d)}≦0.400を満たしてもよい。また、0≦α{1-(a+b+c+d)}≦0.100を満たしてもよい。
【0055】
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Ga,Bi,N,O,C,Sおよび希土類元素からなる群より選択される1つ以上である。X2はAl,Zn,Sn,Cu,Cr,Ga,Bi,La,Y,N,O,CおよびSからなる群より選択される1つ以上であってもよい。X2の含有量に関してはβ=0でもよい。すなわち、X2は含有しなくてもよい。また、X2の原子数は組成全体の原子数を100at%として5.0at%以下であってもよく、3.0at%以下であってもよい。すなわち、0≦β{1-(a+b+c+d)}≦0.050を満たしてもよく、0≦β{1-(a+b+c+d)}≦0.030を満たしてもよい。
【0056】
FeをX1および/またはX2に置換する置換量の範囲としては、原子数ベースでFeの半分以下としてもよい。すなわち、0≦α+β≦0.50としてもよい。
【0057】
なお、本実施形態の軟磁性合金は、上記の主成分に含まれる元素以外の元素を不可避的不純物として軟磁気特性に大きな影響を与えない範囲で含んでいてもよい。例えば、軟磁性合金100質量%に対して0.1質量%以下、含んでいてもよい。
【0058】
本実施形態の軟磁性合金は、上記の組成を有することで、後述する熱処理後にα-Fe結晶であるナノ結晶を含みやすくなる。さらに、ナノ結晶より大きな結晶(具体的には結晶粒径が0.1μm以上の結晶)を含みにくくなる。そして、軟磁気特性を向上させやすくなる。なお、ナノ結晶より大きな結晶の有無はX線回折(XRD)により確認できる。
【0059】
軟磁性合金の形状については特に制限はない。例えば薄帯形状や粉末形状が挙げられる。
【0060】
以下、本実施形態の軟磁性合金の製造方法について説明する。
【0062】
本実施形態に係る軟磁性合金の製造方法について、特に限定されないが、たとえば単ロール法により軟磁性合金の薄帯を製造する方法が挙げられる。
【0063】
単ロール法では、まず、最終的に得られる軟磁性合金に含まれる各金属元素の純金属を準備し、最終的に得られる軟磁性合金と同組成となるように秤量する。そして、各金属元素の純金属を溶解し、混合して母合金を作製する。なお、前記純金属の溶解方法には特に制限はないが、例えばチャンバー内で真空引きした後に高周波加熱にて溶解させる方法がある。なお、母合金と最終的に得られる軟磁性合金とは通常、同組成となる。
【0064】
次に、作製した母合金を加熱して溶融させ、溶融金属を得る。溶融金属の温度には特に制限はないが、例えば1200~1400℃とすることができる。

【0065】
単ロール法においては、主にロールの回転速度を調整することで得られる薄帯の厚さを調整することができるが、例えばノズルとロールとの間隔や溶融金属の温度などを調整することでも得られる薄帯の厚さを調整することができる。薄帯の厚さには特に制限はないが、例えば15~30μmとすることができる。
【0066】
ロール23の温度やチャンバー内部の蒸気圧には特に制限はない。例えば、ロールの温度を室温~50℃としてもよい。チャンバー内部の雰囲気は大気中としてもよく、不活性ガス雰囲気としてもよい。
【0067】
次に、このようにして得られた軟磁性合金の薄帯に対して、応力を印加する。具体的には、薄帯の厚み方向に垂直な面に対して応力を印加する。
【0068】
応力を印加して解放したのちに後述する熱処理を行うことで、ナノ結晶の平均円形度を低下させることができる。また、応力負荷量が大きいほどナノ結晶の平均円形度は低下する。また、ナノ結晶の平均アスペクト比が上昇し、平均楕円円形度が低下する。ナノ結晶の平均円形度および平均楕円円形度が低下する詳細な理由は不明である。しかし、軟磁性合金に応力を印可することにより軟磁性合金の内部に歪みを形成することで、この歪みがナノ結晶の形成に影響を及ぼし、ナノ結晶の平均円形度および平均楕円円形度が低下したと考えられる。
【0069】
応力を印加する装置については特に制限はない。例えばハンドプレスを用いることができる。応力負荷量については特に制限はなく、最終的にナノ結晶の平均円形度が特定の範囲内となるようにすればよい。応力負荷量が大きいほどナノ結晶の平均円形度が低下する傾向にある。また、応力を印加する時間、すなわち、応力の印加から解放までの間の時間についても特に制限はない。例えば0.5分以上1分以下としてもよい。
【0070】
次に、軟磁性合金に対して熱処理を行う。熱処理条件には特に制限はない。軟磁性合金の組成により好ましい熱処理条件は異なる。熱処理温度は450℃以上700℃以下であってもよい。また、室温から熱処理温度まで昇温する昇温速度が5℃/分以上320℃/分以下であってもよい。
【0071】
熱処理温度が高いほどナノ結晶のHeywood径の平均値が上昇する傾向にある。また、ナノ結晶の平均円形度も上昇する傾向にある。
【0072】
熱処理時間が長いほど、ナノ結晶のHeywood径の平均値が上昇する傾向にある。また、ナノ結晶の平均円形度も上昇する傾向にある。さらに、R/σも低下する傾向にある。
【0073】
昇温速度が速いほどナノ結晶のHeywood径の平均値が低下する傾向にある。また、平均円形度は昇温速度が20~80℃/分程度である場合に小さくなりやすい。そして、昇温速度が速くても遅くても平均円形度が大きくなる傾向にある。さらに、平均アスペクト比は昇温速度が速いほど小さくなる傾向にある。
【0074】
以上の方法で本実施形態に係る軟磁性合金薄帯を得ることができる。
【0075】
次に、本実施形態に係る軟磁性合金粉末を得る方法について説明する。なお、通常は一つの粉末粒子に多数のナノ結晶が含まれる。したがって、粉末粒子の粒子径とナノ結晶の結晶粒径(ナノ結晶のHeywood径)とは異なる。
【0076】
本実施形態に係る軟磁性合金粉末を得る方法としては、例えば、上記の軟磁性合金薄帯を粉砕して得る方法が挙げられる。粉砕する方法には特に制限はなく、任意の方法で粉砕することができる。なお、粉砕の前後でナノ結晶の形状は実質的に変化しない。
【0077】
また、本実施形態に係る軟磁性粉末を得る方法としては、例えば、水アトマイズ法またはガスアトマイズ法により本実施形態に係る軟磁性粉末を得る方法が挙げられる。
【0078】
例えば、ガスアトマイズ法では、上記した単ロール法と同様にして溶融合金を得る。その後、前記溶融合金をチャンバー内で噴射させ、粉体を作製する。このとき、ガス噴射温度を1200~1600℃としてもよい。チャンバー内の雰囲気は大気中としてもよく、不活性ガス雰囲気としてもよい。
【0079】
次に、このようにして得られた軟磁性合金の粉末に対して、応力を印加する。具体的には、粉末を金型に充填して応力を印加する。
【0080】
応力を印加して解放したのちに後述する熱処理を行うことで、ナノ結晶の平均円形度を低下させることができる。また、応力負荷量が大きいほどナノ結晶の平均円形度は低下する。また、ナノ結晶の平均アスペクト比が上昇し、平均楕円円形度が低下する。
【0081】
応力を印加する装置については特に制限はない。例えばハンドプレスを用いることができる。応力負荷量については特に制限はなく、最終的にナノ結晶の平均円形度が特定の範囲内となるようにすればよい。応力負荷量が大きいほどナノ結晶の平均円形度が低下する傾向にある。また、応力を印加する時間、すなわち、応力の印加から解放までの間の時間についても特に制限はない。例えば0.5分以上1分以下としてもよい。
【0082】
次に、応力を印加して解放した後の粉末について、熱処理を行う。熱処理条件には特に制限はない。軟磁性合金の組成により好ましい熱処理条件は異なる。熱処理温度は450℃以上700℃以下であってもよい。また、室温から熱処理温度まで昇温する昇温速度が5℃/分以上320℃/分以下であってもよい。
【0083】
本実施形態に係る磁気コアは上記の軟磁性合金を含む。軟磁性合金薄帯、軟磁性合金粉末またはその他の形状の軟磁性合金から磁気コアを作製する方法には特に制限はない。通常用いられる方法で作製すればよい。
【0084】
本実施形態に係る磁性部品は上記の磁気コアを含む。磁性部品の種類には特に制限はなく、優れた軟磁気特性が求められる磁性部品、例えばコイル部品、圧粉磁心が挙げられる。また、コイル部品としてはリアクトル、チョークコイル、トランスが挙げられる。さらに、本実施形態の電子機器は、上記の磁性部品を含む。電子機器の種類には特に制限はなく、例えばDC-DCコンバータ等が挙げられる。また、電子機器の用途には特に制限はなく、例えばハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)等が挙げられる。
【実施例
【0085】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
【0086】
(実験例1)
Fe0.840Nb0.0700.080Si0.010である合金組成となるように原料金属を秤量し、高周波加熱にて溶解し、母合金を作製した。
【0087】
その後、作製した母合金を加熱して溶融させて1500℃の溶融状態の金属とした後に、大気中において単ロール法により前記金属をロールに噴射させ、薄帯を作成した。
【0088】
得られた各薄帯に対してX線回折測定を行い、ナノ結晶より大きな結晶がないことを確認した。
【0089】
その後、各実施例および比較例の薄帯に対して応力を印加した。具体的には、まず、単ロール法で作製した薄帯をΦ8mmのディスク状に加工した。次に、加工した薄帯を5枚、厚み方向に積層した。積層した薄帯をΦ8mmの金型へ入れ、厚み方向に垂直な面に対して、表1に示す応力負荷量で0.5分間、応力を印加したのちに応力を解放した。応力の印加にはハンドプレスを用いた。なお、試料No.1では応力を印加しなかった。
【0090】
その後、室温から熱処理温度までの昇温速度を40℃/min、熱処理時間1.0時間、熱処理温度600℃で熱処理を行った。なお、熱処理時間とは、熱処理温度を維持した時間を指す。
【0091】
得られた熱処理後の薄帯の組成と母合金の組成とが変化していないことをICP分析にて確認した。
【0092】
X線回折装置(XRD)により、熱処理後の各薄帯がα-Feであるナノ結晶を含むことを確認した。さらに、透過電子顕微鏡(TEM)を用いた観察を行った。TEMを用いた観察では、厚さが20nmになるようにFIBを用いてTEMサンプルを作製した。TEMサンプルの厚みの確認は電子エネルギー損失分光法(EELS)により行った。TEMを用いた観察により、少なくとも100個のナノ結晶について、Heywood径、円形度、楕円円形度、アスペクト比を測定した。そして、各薄帯に含まれるナノ結晶のHeywood径の平均値R、平均円形度、平均楕円円形度、平均アスペクト比、Heywood径の標準偏差σを算出した。結果を表1に示す。
【0093】
さらに、各実施例および比較例の飽和磁束密度Bsおよび保磁力Hcを測定した。Bsは振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁場1000kA/mで測定した。Hcは直流BHトレーサーを用いて磁場5kA/mで測定した。結果を表1に示す。なお、Bsに関しては1.30T以上である場合を良好とした。Hcに関しては応力を印加しなかった試料No.1の比較例より十分に低い場合を良好とした。表1においてはHcに関しては0.100Oe以下である場合を良好とした。
【0094】
【表1】
【0095】
表1より、熱処理前に応力を印加することでナノ結晶のHeywood径の平均値Rが5.0nm以上25.0nm以下であり、ナノ結晶の平均円形度が0.50以上0.90以下であった試料No.2~5は、熱処理前に応力を印加せずナノ結晶の平均円形度が0.90よりも高かった試料No.1と比較してBsが同等程度に良好であり、Hcが著しく低下した。なお、応力負荷量が大きすぎる試料No.6はナノ結晶が粒成長しすぎた。そして、Heywood径の平均値Rが大きくなり、Hcが増大した。
【0096】
(実験例2)
実験例2では、応力負荷量が0である場合(応力を印加しなかった場合)(試料No.1)と、応力負荷量が400MPaである場合(試料No.4)とで、それぞれの熱処理条件を変化させた点以外は実験例1と同様にして薄帯を作製し、評価した。結果を表2A~表2Cに示す。なお、BsおよびHcの評価基準は実験例1と同様とした。
【0097】
【表2A】
【0098】
【表2B】
【0099】
【表2C】
【0100】
表2A~表2Cより、熱処理条件を変化させてもナノ結晶のHeywood径の平均値Rが5.0nm以上25.0nm以下であり、ナノ結晶の平均円形度が0.50以上0.90以下であった各実施例は、応力を印加しなかった点以外、同条件で実施した比較例と比較して、Bsが同等程度に良好であり、Hcが著しく低下した。
【0101】
なお、表2Aの試料No.7(応力の印加無し)と試料No.14(応力の印加有り)とを比較すると、ナノ結晶の平均円形度は試料No.14のほうが低かったが、試料No.14は十分にHcが低下しなかった。試料No.14はナノ結晶のHeywood径の平均値Rが小さすぎたためであると考えられる。また、表2Aの試料No.12、13(応力の印加無し)と試料No.19、20(応力の印加有り)とを比較しても同様の結果となった。試料No.19、20はHeywood径の平均値Rが大きすぎたためであると考えられる。
【0102】
(実験例3)
実験例3では、実験例1と同様に母合金を作製した。その後、作製した母合金を加熱して溶融させ、1500℃の溶融状態の金属としたのちガスアトマイズ法により前記金属を噴射させ、粉末を作成した。ガス噴射温度を25℃とした。
【0103】
得られた粉末に対してX線回折測定を行い、ナノ結晶より大きな結晶がないことを確認した。
【0104】
その後、得られた粉末を2g、秤量した。次に、Φ8mmの金型に秤量した粉末を流し込んだ。次に、ハンドプレス機により金型に流し込んだ粉末を表3に示す応力負荷量で0.5分、応力を印加した。次に、金型から加圧した粉末を取り出した。なお、試料No.45の粉末には応力を印加しなかった。
【0105】
その後、それぞれの粉末に対し、室温から熱処理温度までの昇温速度を40℃/min、熱処理時間1.0時間、熱処理温度600℃で熱処理を行った。なお、熱処理時間とは、熱処理温度を維持した時間を指す。
【0106】
得られた熱処理後の粉末の組成と母合金の組成とが変化していないことをICP分析にて確認した。
【0107】
X線回折装置(XRD)により、熱処理後の各粉末がα-Feであるナノ結晶を含むことを確認した。さらに、透過電子顕微鏡(TEM)を用いた観察を行った。熱処理後の各粉末における結晶構造について、透過電子顕微鏡(TEM)を用いた観察で確認した。TEMを用いた観察はTEMサンプルの厚さを20nmとして電子エネルギー損失分光法(EELS)により行った。TEMを用いた観察により、少なくとも100個のナノ結晶について、Heywood径、円形度、楕円円形度、アスペクト比を測定した。そして、各粉末に含まれるナノ結晶のHeywood径の平均値R、平均円形度、平均楕円円形度、平均アスペクト比、Heywood径の標準偏差σを算出した。結果を表3に示す。
【0108】
さらに、熱処理後の各粉末について飽和磁束密度Bsおよび保磁力Hcを測定した。Bsは振動試料型磁力計(VSM)を用いて磁場1000kA/mで測定した。Hcは直流BHトレーサーを用いて磁場5kA/mで測定した。結果を表3に示す。なお、Bsは1.30T以上を良好とした。Hcは1.00Oe以下を良好とした。
【0109】
【表3】
【0110】
表3より、熱処理前に応力を印加することでナノ結晶のHeywood径の平均値Rが5.0nm以上25.0nm以下であり、ナノ結晶の平均円形度が0.50以上0.90以下であった試料No.46~49は、熱処理前に応力を印加せずナノ結晶の平均円形度が0.90よりも高かった試料No.45と比較してBsが同等程度に良好であり、Hcが著しく低下した。なお、応力負荷量が大きすぎる試料No.50はナノ結晶が粒成長しすぎた。そして、Heywood径の平均値Rが大きくなり、Hcが増大した。つまり、粉末の実験例である実験例3は薄帯の実験例である実験例1と同様な結果が得られた。
【0111】
(実験例4)
粉末の作製条件は組成以外、実験例3と同様とした。表4では、試料No.45と同様に応力を印加せず、M元素の種類をNbから変化させた比較例、および、試料No.48と同様に応力負荷量を400MPaとし、M元素の種類をNbから変化させた実施例を記載した。表5~表8では、応力負荷量を試料No.48と同様の400MPaとし、a~dの数値を適宜変化させた実施例を記載した。表9では、応力負荷量を試料No.48と同様の400MPaとし、試料No.48におけるFeの一部をX1および/またはX2に置換した実施例を記載した。
【0112】
表4~表9に記載した試料No.51~119では、各試料の熱処理温度を実験例3から適宜、変化させた。具体的には、熱処理時間1.0h、昇温速度40℃/minとし、熱処理温度450~650℃の間において50℃刻みで熱処理を行った。熱処理後の保磁力が最も低くなった温度を当該試料の組成における最適な熱処理温度とした。最適な熱処理温度で熱処理を行い作製した粉末に含まれるナノ結晶のHeywood径の平均値R、平均円形度、平均楕円円形度、平均アスペクト比、Heywood径の標準偏差σを算出した。結果を表5~表9に示す。
【0113】
【表4】
【0114】
【表5】
【0115】
【表6】
【0116】
【表7】
【0117】
【表8】
【0118】
【表9】
【0119】
表4~表9より、軟磁性合金の組成を変化させても、応力を印加した実施例については、ナノ結晶の形状が表3の試料No.48におけるナノ結晶の形状と同様な傾向を示した。そして、ナノ結晶のHeywood径の平均値Rが5.0nm以上25.0nm以下であり、ナノ結晶の平均円形度が0.50以上0.90以下であった。そして、表4~表9の各実施例はBsおよびHcが良好であった。